JP4473402B2 - デキストランの製造法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、澱粉部分加水分解物を原料とし、デキストリンデキストラナーゼを用いるデキストランの製造方法に関する。さらに詳細には、本発明は、α−グルコシダーゼを併用することにより、デキストランをより効率よく製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
デキストラン(α-1,6-グルカン)はロイコノストック属やストレプトコッカス属などに属する細菌を、蔗糖を炭素源として培養することにより、これらの細菌がデキストランスクラーゼを生産し、この酵素の作用により蔗糖より合成される。デキストランの分子構造はD-グルコースのみから成る高分子多糖類で、α−1,6−グルコシド結合を主体として、さらにα−1,2−,α−1,3−,α−1,4−グルコシド結合の分岐を有しているが、これら分岐の含有比はデキストランの起源により異なる。デキストランは、血液増量剤や代用血漿として用いられる他、優れたゲル濾過剤として医薬・生化学分野で広く利用されている。しかし、このデキストランスクラーゼを用いた蔗糖からのデキストランの合成は、蔗糖の構成糖のうちグルコースのみしか利用されないために、対糖収率が最高50%を超えることはない。
【0003】
これに対してグルコノバクター属に属する細菌は、澱粉部分分解物を炭素源として培養することにより、デキストリンデキストラナーゼを生成し、この酵素の作用により澱粉部分分解物を基質としてデキストランを合成することが報告されている(E.J.Hehre and D.M.Hamilton:Proc. Soc. Exp. Biol. and Med., 71, 336-339 (1949))。この酵素の作用によれば、マルトースからのデキストランの合成はないものの、マルトトリオース以上のマルトオリゴ糖およびマルトデキストリンからデキストランを合成することができる。この反応は、理論的には基質として用いたマルトオリゴ糖および/またはマルトデキストリンがマルトースになるまで進行するものと考えられる。すなわち、マルトテトラオースを用いれば、対糖収率で50%となると計算される。しかし、実際には特開平4−293493号にも示されているように、マルトテトラオースを用いた際のデキストランの対糖収率は、13.4%ほどであり、理論上の数値とはかけ離れたものとなっていた。これは、マルトテトラオース以上の重合度を有するマルトオリゴ糖およびマルトデキストリンについても同様である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上記のように、デキストリンデキストラナーゼを用いたデキストランの合成は、理論的には高収率でマルトオリゴ糖および/またはマルトデキストリンからデキストランへの変換が行なわれると考えられる。しかし、現状では理論値とは全くかけ離れた低い対糖収率でしかデキストランの合成は認められていない。
また、これまでのデキストランの合成反応では、基質濃度として5%程度までしか試験されておらず、工業的にデキストランを合成しようとした場合には、基質濃度を高めることが必須条件となっている。しかし、基質濃度が上昇するとデキストランの対糖収率は、さらに低下するものと予想される。このような背景から、デキストリンデキストラナーゼを用いたデキストランの合成は実際には利用されていないのが現状である。
【0005】
デキストランの安全性は広く認められており、様々な食品用途にその利用が期待されている。しかし、非常に高価なためにほとんど利用されていない。デキストランを安価に製造し、その用途を広げるためには、高収率なデキストランの製造方法の確立が望まれている。
【0006】
そこで本発明の目的は、デキストリンデキストラナーゼを用いて、高収率でデキストランを製造できる方法を提供することにある。
特に本発明は、基質濃度が高くなった場合であっても、デキストリンデキストラナーゼを用いて、高い収率でデキストランを製造できる方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
そこで発明者は、デキストリンデキストラナーゼの酵素化学的特性を精査し、デキストリンデキストラナーゼがマルトオリゴ糖および/またはマルトデキストリンよりデキストランを合成する際に、マルトースにより阻害を受けることおよびマルトトリオースからデキストランは合成されるもののその反応は遅いことを発見し、この発見に基づいて、デキストリンデキストラナーゼにα−グルコシダーゼを共存させることにより、デキストランを効率よく合成させることに成功し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
本発明は、澱粉部分加水分解物にデキストリンデキストラナーゼを作用させデキストランを製造する方法であって、前記デキストリンデキストラナーゼの作用を、マルトースおよび/またはマルトトリオースを分解可能な活性を有するα−グルコシダーゼの共存下で行うことを特徴とするデキストランの製造方法に関する。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下に本発明について詳細に説明する。
デキストリンデキストラナーゼは、デキストランデキストラナーゼを生産する菌株を常法で培養を行ない、その培養液および/または菌体より得ることができる。デキストランデキストラナーゼを生産する細菌としては、グルコノバクターオキシダンスATCC11894株(Gluconobacter oxydans American Type Culture Collection Strain No.11894)またはグルコノバクターオキシダンスATCC11895株(Gluconobacter oxydans American Type Culture Collection Strain No.11895)などがある。これらの菌株は酢酸菌に属し、糸引きビールの原因菌であるが、酢酸菌に病原性などは知られていないことから、これらの酢酸菌の培養物は安全である。(E.J.Hehre and D.M.Hamilton:J. Biol. Chem., 55, 161-174 (1951)、特開平4−234983号)
【0010】
本発明の製造方法においては基質として、澱粉部分加水分解物の1種又は2種以上を用いる。澱粉部分加水分解物は主にマルトデキストリンであり、澱粉を常法により、酸または酵素により加水分解し、必要により分離精製することで得られる。澱粉の分解の程度は特に限度はない。また、澱粉部分加水分解物の一部であるマルトオリゴ糖等を澱粉部分加水分解物として用いることもできる。マルトオリゴ糖としては、例えば、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトヘプタオースなどを挙げることができる。また、澱粉部分加水分解物としては、短鎖長アミロースを例示することもできる。マルトオリゴ糖は高純度の試薬レベルのものであっても、マルトオリゴ糖シラップのように純度の低いものであってもよい。
反応液中の基質濃度(澱粉部分加水分解物濃度)は、特に制限はないが、例えば、0.1〜40%(w/w)の範囲であることができる。但し、より高濃度のデキストランを得るという観点からは、基質濃度も高い方が好ましい。
【0011】
α−グルコシダーゼは、Bacillus属などの細菌、Aspergillus属、Mucor属、Penicillium属などの糸状菌、Candida属、Saccharomyces属、Schizosaccharomyces属などの酵母、イネ、ソバ、トウモロコシ、テンサイなどの植物や動物などに幅広く存在している。本発明に用いるα−グルコシダーゼとしては、これらの起源などは特に限定されるものではない。しかしながら、大量かつ安価で均質なα−グルコシダーゼを得るには、細菌、糸状菌や酵母などの微生物起源のα−グルコシダーゼを用いることが有利である。また、本発明においては、マルトテトラオース以上の重合度を有するマルトオリゴ糖およびマルトデキストリンは、デキストラン合成の基質として有効に利用されるために、α−グルコシダーゼは、これらの糖質に作用せず、マルトースおよび/またはマルトトリオースに主として作用するα−グルコシダーゼであることが望ましい。
【0012】
α−グルコシダーゼは、反応系にデキストリンデキストラナーゼの反応の当初から共存させても、反応の途中から共存させてもよい。反応系に存在し、デキストリンデキストラナーゼの反応を阻害するマルトースを効率よく分解し、グルコースとすることができるタイミング、あるいは反応効率の悪いマルトトリオースを分解できるタイミングであれば制限はない。尚、デキストリンデキストラナーゼは、グルコースでは阻害されない。
【0013】
反応系におけるデキストリンデキストラナーゼおよびα−グルコシダーゼの量は、基質である澱粉部分加水分解物の種類(分解の程度等)や濃度、さらには反応時間等を考慮して適宜決定することができる。また、デキストリンデキストラナーゼとα−グルコシダーゼの使用比率も、基質である澱粉部分加水分解物の種類や各酵素の起源(性能)に応じて適宜決定できる。但し、デキストラン合成量を考慮すると、α−グルコシダーゼの酵素活性量は、デキストリンデキストラナーゼの酵素活性量の50%以内であることが適当である。
【0014】
また、反応温度には特に制限はなく、使用するデキストリンデキストラナーゼおよびα−グルコシダーゼが安定に作用する温度域であればよい。但し、デキストランの合成効率という観点からは、デキストリンデキストラナーゼがより効率よく作用することが好ましい。尚、デキストリンデキストラナーゼはpH2.5〜6.5の範囲であれば、60℃以下の温度で活性を有することが知られている。反応時間は、反応温度や基質の濃度、使用する酵素の活性等を考慮して適宜決定できる。
【0015】
本発明の反応により、デキストランを含む水溶液が得られる。この水溶液から、エタノールなどを用いた有機溶媒による沈殿法、クロマト分画法や限外濾過膜による処理などを用いることによりデキストランを精製することができる。これらの方法は、単独またはいくつかの操作を組み合わせることにより、より効率的にデキストランを得ることができる。
【0016】
【実施例】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
参考例1
マルトトリオースからマルトヘプタオース(日本食品化工(株)製)までの一連のマルトオリゴ糖(マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトヘプタオース)および短鎖長アミロース(林原生物科学研究所(株)製)を基質として用い、それぞれを40mM溶液とし、この基質溶液100μl、50mM酢酸緩衝液(pH 5.2)100μlと酵素溶液(11.5単位)100μlを混合し、37℃にて反応を行なった。尚、酵素溶液は50mM酢酸緩衝液(pH 5.2)に酵素を添加したものである(以下の実施例でも同様)。この反応液から経時的に15μlずつサンプリングし、沸騰水中に10分間放置し、反応を停止させた。この反応液中のデキストラン合成量は、Aminex HPX-42A(バイオラッドラボラトリーズ製)を装着したHPLCにて分析を行ない、重合度12以上のピーク面積と、反応液中の全糖量をフェノール硫酸法にて定量し、全糖量にHPLC分析で得られた重合度12以上のピーク面積の割合を乗じて算出した。結果を図1〜6に示す。
【0017】
参考例2
参考例1の50mM酢酸緩衝液(pH 5.2)100μlを、2%マルトースを含有する50mM酢酸緩衝液(pH 5.2)100μlに置き換えて同様に反応させた。この際のデキストラン合成量を参考例1と比較して、図1から6に示した。図1から6中の○は参考例1の結果を、□は参考例2の結果を示している。参考例1の結果との比較により、デキストラン合成に対し、マルトースが阻害していることが明らかとなった。
【0018】
実施例1
参考例1と同様に、マルトトリオースからマルトヘプタオース(日本食品化工(株)製)までの一連のマルトオリゴ糖および短鎖長アミロース(林原生物科学研究所(株)製)を基質として用い、それぞれを40mM溶液とし、この基質溶液100μl、酵母起源のα−グルコシダーゼ(オリエンタル酵母(株)製)0.08単位を溶解した50mM酢酸緩衝液(pH 5.2)100μlと酵素溶液(11.5単位)100μlを混合し、37℃にて反応を行った。その際のデキストラン合成量を参考例1と比較して、図7から12に示した。図7から12中の○は参考例1の結果を、●は実施例1の結果を示している。参考例1に比較して、明らかにデキストラン合成量の上昇が認められた。
【0019】
実施例2
短鎖長アミロース(林原生物科学研究所(株)製)を基質として用い、それぞれを40mM溶液とし、この基質溶液100μl、カビ起源のα−グルコシダーゼ(アマノ製薬(株)製)0.01単位を溶解した50mM酢酸緩衝液(pH 5.2)100μlと酵素溶液(11.5単位)100μlを混合し、37℃にて反応を行った。その際のデキストラン合成量を図13に示した。図13中の○は参考例1の結果を、▲は実施例2の結果を示している。参考例1に比較して、明らかにデキストラン合成量の上昇が認められた。
【0020】
【発明の効果】
デキストランは、原料として用いる糖類からデキストランへの変換率、すなわち対糖収率が低いことや、デキストランの合成反応に時間がかかることにより、高価なものとなっている。そのため、これまでデキストランは、医薬・生化学用途の極く限られた分野でしか利用されていなかった。本発明により、デキストランの合成を従来に比較して効率よく行うことが可能となり、食品用途など、様々な分野でその利用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 基質としてマルトトリオースを用いた場合のデキストランの合成に対するマルトースの影響(参考例1と2の対比)を示す。
【図2】 基質としてマルトテトラオースを用いた場合のデキストランの合成に対するマルトースの影響(参考例1と2の対比)を示す。
【図3】 基質としてマルトペンタオースを用いた場合のデキストランの合成に対するマルトースの影響(参考例1と2の対比)を示す。
【図4】 基質としてマルトヘキサオースを用いた場合のデキストランの合成に対するマルトースの影響(参考例1と2の対比)を示す。
【図5】 基質としてマルトヘプタオースを用いた場合のデキストランの合成に対するマルトースの影響(参考例1と2の対比)を示す。
【図6】 基質として短鎖長アミロースを用いた場合のデキストランの合成に対するマルトースの影響(参考例1と2の対比)を示す。
【図7】 基質としてマルトトリオースを用いた場合のデキストランの合成に対する酵母起源のα−グルコシダーゼの影響(参考例1と実施例1の対比)を示す。
【図8】 基質としてマルトテトラオースを用いた場合のデキストランの合成に対する酵母起源のα−グルコシダーゼの影響(参考例1と実施例1の対比)を示す。
【図9】 基質としてマルトペンタオースを用いた場合のデキストランの合成に対する酵母起源のα−グルコシダーゼの影響(参考例1と実施例1の対比)を示す。
【図10】 基質としてマルトヘキサオースを用いた場合のデキストランの合成に対する酵母起源のα−グルコシダーゼの影響(参考例1と実施例1の対比)を示す。
【図11】 基質としてマルトヘプタオースを用いた場合のデキストランの合成に対する酵母起源のα−グルコシダーゼの影響(参考例1と実施例1の対比)を示す。
【図12】 基質として短鎖長アミロースを用いた場合のデキストランの合成に対する酵母起源のα−グルコシダーゼの影響(参考例1と実施例1の対比)を示す。
【図13】 基質として短鎖長アミロースを用いた場合のデキストランの合成に対するカビ起源のα−グルコシダーゼの影響(参考例1と実施例2の対比)を示す。
Claims (3)
- 澱粉部分加水分解物の1種または2種以上にデキストリンデキストラナーゼを作用させ、デキストランを製造する方法であって、前記デキストリンデキストラナーゼの作用を、マルトースおよび/またはマルトトリオースを分解可能な活性を有するα−グルコシダーゼの共存下で行うことを特徴とするデキストランの製造方法。
- α−グルコシダーゼは、デキストラン製造の当初または途中から共存させる請求項1に記載の製造方法。
- 澱粉部分加水分解物が1種若しくは2種以上のマルトオリゴ糖または1種若しくは2種以上のマルトオリゴ糖を含有するシラップである請求項1または2に記載の製造方法。
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