JP4347934B2 - 成形性および塗膜密着性に優れた缶蓋用アルミニウム合金塗装板材およびその製造方法 - Google Patents
成形性および塗膜密着性に優れた缶蓋用アルミニウム合金塗装板材およびその製造方法 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、水性型又は溶剤型塗料を用いた、成形性および塗膜密着性に優れた缶蓋用アルミニウム合金塗装板材とその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
従来、缶蓋用アルミニウム合金素材としては、5052合金、5082合金、5182合金など、Al−Mg系の合金が使用されている。
アルミニウム合金の缶蓋用板材の製造においては、まず、アルミニウム合金鋳塊を均質化処理した後、熱間圧延により3〜5mmの厚さとし、(1)冷間圧延したのち中間焼純(450〜540℃)して最終冷延するか、または(2)熱間圧延で2mm程度の板厚とし、その板厚で中間焼鈍するか、もしくは熱間圧延のまま最終冷間圧延を行い、0.4mm以下の硬質板とする。その後、化成処理等の前処理をした後、コイルコーティングにより塗装・焼付処理を施し、成形のための潤滑剤としてパラフィンワックス等を塗布する。有機潤滑剤を塗料中に分散させた塗料を用いた場合は、塗装後のワックス塗布工程を省略することができる。
【0003】
近年、缶蓋成形が高速化しており、また、薄肉化の要求による形状の変更(コンベンショナル型からフルフォーム型)により、成形、加工条件も厳しくなってきていることから、有機潤滑剤を含有する塗料を塗装した缶蓋用アルミニウム合金塗装板材において塗膜が剥離する問題が生じている。塗膜が剥離すると、内容物が接する缶の内面側では耐食性が低下し、外面側では高速製蓋時の型かじり、摩耗粉付着による外観不良や巻締時の割れ等の問題が発生する。缶蓋用塗装板の場合、成形加工性の良好な塗膜を有することに加えて、特に缶蓋としたとき内容物と接する内側となる面において、耐食性と密着性の高い塗膜が形成されていることが必要となる。
有機潤滑剤を分散させた塗料を塗装したアルミニウム合金板としては、特開平9−131568号、同7−166125号、同4−268038号、同6−305074号、特開平5−51762号などに記載のものが提案されているが、いずれも自動車用や家電用であり、缶蓋用材料ではない。
したがって本発明は、ワックス塗布工程を省略できる有機潤滑剤含有塗料を用い、塗料の塗布、焼付処理のみで、塗膜の密着性が高く、高度の成形加工においても塗膜が剥離することなく良好に成形できる缶蓋用アルミニウム合金塗装板材の製造方法を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
発明者らは上記の課題を解決するため鋭意検討した結果、塗膜に含まれる有機潤滑剤の分布状態が缶蓋成形時の塗膜剥離と密接に関係していることを見出し、この知見に基づき本発明をなすに至った。
すなわち本発明は、
(1)アルミニウム合金板の少なくとも一方の面に有機潤滑剤を含有する水性型塗料を塗布したのち熱風吹き付けによる乾燥・焼付処理を行う缶蓋用アルミニウム合金塗装板材の製造方法であって、
水性型塗料を塗布し、板温度が80〜180℃のときの熱風の風速を1〜10m/秒として最高到達温度まで加熱することによって形成した塗膜表面に粒径10μm以下の有機潤滑剤粒子が50個/mm2以上存在し、塗膜の膜厚が2〜15μmであることを特徴とする成形性および塗膜密着性に優れた缶蓋用アルミニウム合金塗装板材の製造方法、
(2)アルミニウム合金板の少なくとも一方の面に有機潤滑剤を含有する水性型塗料を塗布したのち熱風吹き付けによる乾燥・焼付処理を行う缶蓋用アルミニウム合金塗装板材の製造方法であって、
水性型塗料を塗布し、板温度が80〜180℃のときの熱風の風速を1〜10m/秒として最高到達温度まで加熱することによって形成した塗膜表面に粒径10μm以下の有機潤滑剤粒子が面積率で0.25%以上存在し、塗膜の膜厚が2〜15μmであることを特徴とする成形性および塗膜密着性に優れた缶蓋用アルミニウム合金塗装板材の製造方法、及び
(3)前記水性型塗料の塗膜が、有機潤滑剤を0.1〜10重量%含有することを特徴とする(1)又は(2)に記載の成形性および塗膜密着性に優れた缶蓋用アルミニウム合金塗装板材の製造方法
を提供するものである。
なお、本発明における水性型塗料とは溶剤の主成分が水である塗料をいう。
【0006】
【発明の実施の形態】
本発明の缶蓋用アルミニウム合金塗装板材は、アルミニウム合金板、好ましくはアルミニウム合金帯板に、水性型塗料により塗膜を形成してなる。本発明において使用するアルミニウム合金板は、塗装後の耐力が圧延方向に対し0°方向(平行方向)で250〜330N/mm2 のものが好ましい。耐力が低すぎると耐圧値が劣り、缶蓋に要求される特性を満足できないことがある。また、高すぎると、耐圧値は良好となるが、エンドが反転した際、亀裂が発生しやすくなることがある。さらに、張り出し成形性、耐圧強度、開缶強度等、缶蓋に要求される諸特性が満たされるアルミニウム合金板を用途に応じて適宜選択でき、成分、組成などは特に制限はない。本発明の缶蓋用アルミニウム合金塗装板材の形状も特に制限はなく、用途に応じて適宜定められる。
【0007】
本発明においてアルミニウム合金板材表面に形成する塗膜は、表面に有機潤滑剤を含有する。有機潤滑剤の種類は特に制限はないが、具体的には例えば、ラノリン、カルナバワックス、ポリオレフィンワックス、マイクロクリスタルワックス等があげられ、これらを単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
有機潤滑剤の塗膜中の含有量は、水性型塗料の場合は塗料中の固形分量に対して、0.1〜10重量%が好ましく、1〜5重量%がさらに好ましい。塗膜中の有機潤滑剤が少なすぎると成形加工性の向上効果が十分に発現せず、多すぎると塗膜密着性の低下や、ワックスのブリード等によるワックス汚れを生ずる場合がある。
【0008】
本発明の缶蓋用アルミニウム合金塗装板材における有機潤滑剤の粒径は10μm以下、好ましくは1〜5μmとする。粒径が大きすぎると板材の単位表面積あたりの有機潤滑剤粒子の個数が減り、成形性が低下する。
また、本発明においてこの有機潤滑剤粒子は塗膜表面に、水性型塗料を用いる場合は50個/mm2 以上、好ましくは500個/mm2 以上、さらに好ましくは800〜1300個/mm2 存在する。
本発明において有機潤滑剤粒子の塗膜表面における割合を面積率で規定すると、水性型塗料を用いた場合は、通常0.25%以上、好ましくは2.5%以上、さらに好ましくは5%以上である。
なお、本発明における「面積率」とは、塗膜を上から平面として見たとき、有機潤滑剤粒子が占める面積の割合をいう。
【0009】
なお、有機潤滑剤粒子の個数又は面積率の計測は、例えば、有機潤滑剤粒子を超音波洗浄などにより全て脱落させた板材の表面を電子顕微鏡で観察し、粒子が抜けてできた穴の個数、または穴が占める面積の割合を計測するなどして求めることができる。個数については好ましくは10か所以上で計測して全てが所定個数となっているようにする。面積率については5か所以上で計測するのが好ましい。有機潤滑剤粒子の個数又は面積率の計測は、通常、電子顕微鏡で1mm2 以上の単位面積を観察して行われる。
塗膜表面の有機潤滑剤粒子が少なすぎると、潤滑効果が得られないため塗膜が痛みやすくなり、缶蓋としたときに、内容物が接する内面側では耐食性の低下、外面側では高速製蓋時の型かじり、摩耗粉付着による外観不良や巻締時の割れ等の問題を生ずる。
【0010】
本発明で用いる水性型塗料は、溶剤の主成分が水であり、水の他にアルコール等の極性溶剤を含有してもよい。近年、環境ホルモン等の問題から缶蓋材の塗料を溶剤型から水性型に移行する傾向があるが、一般に水性型塗料を用いると溶剤型塗料の場合に比べ塗膜表面に有機潤滑剤が析出しやすいという問題があった。本発明においては、水性型塗料を用いてもこのような問題のない、良好な塗膜が形成できる。本発明で用いる水性型塗料の樹脂成分としては、いわゆる水溶性樹脂、水分散型樹脂を用いることができ、例えばエポキシアクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシウレア系樹脂、フッ素系樹脂、アクリル系樹脂などが挙げられる。
【0012】
上記の水性型塗料を用いて形成する塗膜の膜厚は、2〜15μm、好ましくは2〜10μmである。塗膜が薄すぎると成形加工性や耐食性が悪くなる。一方、厚すぎると塗膜密着性の低下により成形加工性が低下し、さらに、コスト高になるので経済的ではない。また、水性型塗料を用いた場合に塗膜が厚すぎると、加工時に粉状物質が剥離堆積するパウダリング現象と呼ばれる外観不良が生ずることがある。
【0013】
本発明の缶蓋用アルミニウム合金塗装板材においては、上記のような塗膜を形成する前に、耐食性をさらに向上させる、あるいは塗膜との密着性をさらに向上させるため、アルミニウム合金板に反応型、塗布型あるいは電解型の化成処理を施すことができる。本発明においては好ましくは、Cr、ZrおよびTiから選ばれる少なくとも1種の金属を含む水溶液で処理し、その金属付着量が5〜50mg/m2 になるように処理を行う。
本発明における塗膜の形成は、アルミニウム合金板に塗料を連続的に塗布・焼付するいわゆるコイルコーティングにより行うことができる。焼付時間は塗料の種類にもよるが、通常60秒以内であり、アルミニウム合金板の焼付時の最高到達温度は通常200〜300℃である。
【0014】
この塗膜の焼付条件は、塗装板材の塗膜内部における有機潤滑剤粒子の分布状態に大きな影響を及ぼす。最適の条件はオーブン炉の仕様や塗料の樹脂の種類などにより異なるが、塗料が硬化し始める板温度80〜180℃における加熱条件が有機潤滑剤粒子の塗膜内の分布状態を大きく左右する。このため、本発明方法においてはこの温度範囲内での加熱条件を、熱風の板表面の風速(アルミニウム合金塗装板材に対する高温空気の吹き付け速度)を特定の範囲に制御し、所定の個数又は面積率で有機潤滑剤粒子が存在する塗膜を形成する。
本発明において水性型塗料を用いた場合には、上記の風速を1〜10m/秒とする。水性型塗料を用いた場合は、溶剤型塗料の場合と逆に、風速が低いほうが表面に有機潤滑剤の析出が多くなる。好ましくは1〜5m/秒となるようにする。水性型塗料を用いた場合、上記の風速が高すぎると、塗料表面からの水分蒸発が急激すぎて表面に皮張りが生じ、塗料中の有機温滑剤が表面へ析出する前に塗料が固化してしまい、塗膜表面の有機潤滑剤粒子の析出量が不足して十分な成形性が得られない。また、風速が10m/秒を越えると塗膜表面が荒れる。
【0015】
【実施例】
以下に、本発明を実施例、参考例及び比較例に基づきさらに詳細に説明する。
実施例1〜6、参考例7〜12、比較例1〜17
板厚0.26mmのアルミニウム合金帯板(JIS A5182−H19)に、Cr量が20mg/m2 になるように反応型のリン酸クロメート処理を施した後、表1又は表2に示す樹脂と有機潤滑剤(平均粒径2μmの粉体)を含有する水性型塗料(溶剤として水とアルコールを使用)又は溶剤型塗料(溶剤としてシンナーを使用)を塗布し、ガスオーブン加熱方式の乾燥炉を用いて焼付乾燥を行って、表1又は表2に示す膜厚の塗膜を有する缶蓋用アルミニウム合金塗装板材を得た。焼付は、板温度80〜180℃での熱風の風速を表1又は表2に示す通りとし、最高到達温度を260℃として行った。
得られた板材について、以下のようにして粒径10μm以下の有機潤滑剤粒子の単位面積あたりの個数及び面積率、成形加工性、耐食性を調べた。結果を表1、表2に示した。
【0016】
(1)塗膜表面に存在する粒径10μm以下の有機潤滑剤粒子の個数及び面積率塗装板材を四塩化炭素で超音波洗浄したのち金を蒸着し、SEM(走査電子顕微鏡)を用いて1mm2 の塗膜表面の100倍写真を10枚撮影し、有機潤滑剤粒子が欠落した穴を画像解析して、10μm以下の粒径のものについて1mm2 あたりの個数(10枚の写真の平均)を求めた。また、5枚の写真を画像処理装置にかけて、有機潤滑剤粒子の脱落によって形成された穴の面積率(5枚の写真の平均)を求めた。
(2)成形加工性
アルミニウム塗装材を外径2×6/16インチ径(206径)のフルフォームエンドシェルに成形し、次いで成形品の中央部にリベット部を成形して図1(a)に示す形状の缶蓋を成形した。図1(a)は成形品の形状を寸法とともに示した断面図であり、図中、1は缶蓋の成形品、2はリベットを示す。図1(b)にリベット2を拡大して示した。リベット成形は3段階張り出し加工により行った。
▲1▼リベット成形
1000個の成形で割れの発生がなかったものを○、割れは発生しなかったがリベット表面にくびれが生じたものを△、1つでも割れが発生したものを×とした。
▲2▼塗膜剥離
図1(a)に示した缶蓋のブランキング部を実体顕微鏡で観察し、全周に対する塗膜剥離部の割合(塗膜剥離率(%))を調べ、以下の基準で評価した。
◎:塗膜剥離率1%未満
○: 〃 1%以上10%未満
△: 〃 10%以上30%未満
×: 〃 30%以上
(3)耐食性
JIS Z2371に基づく塩水噴霧試験200時間後の白錆発生面積を測定し、以下の基準で評価した。
○:白錆発生面積の割合が1%未満
△: 〃 1%以上5%未満
×: 〃 5%以上
【0017】
【表1】
【0018】
【表2】
【0019】
表1及び表2から明らかなように、実施例1〜6、参考例7〜12の缶蓋用アルミニウム合金塗装材は、いずれも成形加工性、耐食性に優れ、リベットを成形しても割れが発生せず、塗膜剥離率が全て10%未満であった。
これに対し有機潤滑剤粒子の個数と面積率が少なすぎる比較例1、3〜5、7、9、11、12、14、16では、リベット成形で割れが発生し、塗膜剥離率も高かった。溶剤型塗料の比較例9、11、12、14、16ではさらに耐食性も低かった。また、比較例2、6、8、10、13、15、17は、塗膜の膜厚が薄すぎるため耐食性に問題があり、いずれも缶蓋として問題があった。
【0020】
【発明の効果】
本発明の製造方法により得られる缶蓋用アルミニウム合金塗装板材は、塗膜密着性に優れ、高度の成形加工においても塗膜の剥離や割れが発生しない。また耐食性が高く、缶蓋としたときに内容物の触れる缶の内側においても塗膜剥離や腐食を起こさない。
本発明においては水性型塗料を用いてこのような密着性に優れた塗膜が得られるため、内容物との関係や環境ホルモンの問題などで溶剤型塗料を用いることができない缶の缶蓋用板材としても好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1(a)は実施例の成形加工性の試験において成形した缶蓋の形状及び寸法を示す断面の端面図であり、図1(b)は図1(a)のリベット部を拡大して形状及び寸法を示す断面の端面図である。
Claims (3)
- アルミニウム合金板の少なくとも一方の面に有機潤滑剤を含有する水性型塗料を塗布したのち熱風吹き付けによる乾燥・焼付処理を行う缶蓋用アルミニウム合金塗装板材の製造方法であって、
水性型塗料を塗布し、板温度が80〜180℃のときの熱風の風速を1〜10m/秒として最高到達温度まで加熱することによって形成した塗膜表面に粒径10μm以下の有機潤滑剤粒子が50個/mm2以上存在し、塗膜の膜厚が2〜15μmであることを特徴とする成形性および塗膜密着性に優れた缶蓋用アルミニウム合金塗装板材の製造方法。 - アルミニウム合金板の少なくとも一方の面に有機潤滑剤を含有する水性型塗料を塗布したのち熱風吹き付けによる乾燥・焼付処理を行う缶蓋用アルミニウム合金塗装板材の製造方法であって、
水性型塗料を塗布し、板温度が80〜180℃のときの熱風の風速を1〜10m/秒として最高到達温度まで加熱することによって形成した塗膜表面に粒径10μm以下の有機潤滑剤粒子が面積率で0.25%以上存在し、塗膜の膜厚が2〜15μmであることを特徴とする成形性および塗膜密着性に優れた缶蓋用アルミニウム合金塗装板材の製造方法。 - 前記水性型塗料の塗膜が、有機潤滑剤を0.1〜10重量%含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の成形性および塗膜密着性に優れた缶蓋用アルミニウム合金塗装板材の製造方法。
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