JP4142333B2 - コークス炉炭化室の診断方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はコークス炉炭化室の診断方法に関するものであり、より詳細には、炭化室の炉壁への炭化物(カーボン)付着や炉壁の欠損、炉壁の変形・移動などによる広狭化などの炉壁状態や、コークスの製造回数の増加にともなう炭化室炉壁の劣化・老朽化等の状態を診断する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
コークス炉には、石炭を高温乾留するための炭化室と、前記炭化室を加熱するための燃焼室とが交互に配置され、コークスの製造は、原料となる石炭を前記炭化室内に充填し、約1,000℃の高温で20時間程度乾留した後、プッシャービームで生成コークスを前記炭化室から押出すサイクルを繰り返すことにより行なわれる。前記炭化室は、室内に充填された石炭への熱伝導効率を高めるために、一般に幅約400〜約500mm、長さ約15,000〜約20,000mm、高さ約4,000〜約7,000mmという狭幅の細長い空間であり、前記炭化室の炉壁は耐火煉瓦で構成されている。耐火煉瓦からなる炉壁であっても、上記過酷な条件の間欠的な連続操業によって、欠損箇所が生じたり、カーボンの付着が生じたりする。特に、原料となる石炭の充填や生成コークスの押出し時には、炉壁方向にも負荷(圧力)がかかるので、炭化室炉壁は、欠損、変形、移動を起こす。日本国内でのコークス炉の平均寿命は、約30年といわれているが、コークス炉を新たに設備投資するコストは近年極めて高額になっているので、新たな設備投資は、コークス製造コストを著しく押し上げることになるので好ましくない。そのため、現状のコークス炉を保守・点検することにより、その寿命をいかに延長できるかということが、コークス製造業界の重要な課題となっている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
コークス炉炭化室の炉壁の劣化状態としては、例えば、炉壁自体が移動や変形して炉幅に広狭が生じている場合、炉壁の煉瓦に欠損が生じて炉幅が広がっている場合、炉壁にカーボンが付着して炉幅が狭くなっている場合など様々である。従来の保守・点検方法は、生成コークスを押出す時のプッシャービームの負荷電力値や目視観察の結果に基づいて行なわれているが、炭化室の劣化状態には、上述した様な様々な状態が認められるが、目視では炭化室内部の詳細を観察できない。また、電力値によっても、炭化室炉壁の状態を特定することはできない。そのため、従来の保守・点検方法は、炭化室炉壁の状態を正確、かつ定量的に把握できるものではなかった。また、従来の保守・点検方法では、炭化室炉壁の状態を的確に把握できないので、不必要な補修によるコークス生産性の低下や不適切な補修方法による保守・点検コストの増大などの問題が懸念されていた。本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、従来の保守・点検方法より正確、かつ、定量的なコークス炉炭化室の診断方法を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決することのできた請求項1に記載の本発明とは、炉壁間距離測定手段を用いて、コークス炉炭化室の任意の高さにおける長さ方向複数位置の炉壁間距離を測定し、得られる実測炉壁間距離変位線に基づいて、実測炉壁間距離の平準化変位線を求めて、前記実測炉壁間距離変位線と前記平準化変位線とを比較し、および/または、炭化室長さ方向の設計炉壁間距離変位線と前記平準化変位線とを比較することにより、前記炭化室の炉壁状態を診断することを特徴とする。前記平準化変位線は、前記炉壁間距離の測定とともに、前記炉壁間距離測定手段に備えられた炉壁面観察デバイスを用いて、前記複数位置における炉壁面の表面変位を観察し、前記実測炉壁間距離変位線を均すことによって求めることが好ましい。前記実測炉壁間距離変位線と前記平準化変位線とを比較することにより炉壁のカーボン付着や欠損などの炉壁表面の変化による変位が分かり、前記炭化室長さ方向の設計炉壁間距離変位線と前記平準化変位線とを比較することにより、炉壁自体が移動・変形することによる炉幅の広狭化による変位がわかる。本発明によれば、炉壁間距離の全体の変位をこれらの2種類の変位に分離することによって、炭化室の炉壁状態を定量的に診断することができる。
【0005】
請求項3に記載の本発明は、炉壁間距離測定手段を用いて、コークス炉炭化室の任意の高さにおける長さ方向複数位置の炉壁間距離を測定し、得られる実測炉壁間距離変位線に基づいて、実測炉壁間距離の平準化変位線を求め、さらに、前記平準化変位線と前記実測炉壁間距離変位線とによって囲まれた面積の総和、および/または、炭化室長さ方向の設計炉壁間距離変位線と前記平準化変位線とによって囲まれた面積の総和を求めて、前記面積の総和に基づいて前記炭化室の炉壁状態を診断することを特徴とする。また、前記平準化変位線は、前記炉壁間距離の測定とともに、前記炉壁間距離測定手段に備えられた炉壁面観察デバイスを用いて、前記複数位置における炉壁面の表面変位を観察し、前記実測炉壁間距離変位線を均すことによって求めることが好ましい。前記面積の総和は、任意の高さにおける炭化室炉壁の全体の状態を指標するものであり、前記面積の総和を判断基準とすることにより、コークス炉に複数設置されている炭化室や、コークス製造回数の異なる炭化室の劣化状態について定量的な相対評価ができる。
【0006】
請求項5に記載の本発明は、炉壁間距離測定手段を用いて、コークス炉炭化室の任意の高さにおける長さ方向複数位置の炉壁間距離をコークス製造毎に測定し、得られる実測炉壁間距離変位線のコークス製造回数の増加に伴う変化に基づいて、炉壁状態の変遷を診断することを特徴とする。実測炉壁間距離変位線の経時変化を検討することにより、炉壁状態の変遷や老朽化などの診断を一層正確にできる。
【0007】
また、請求項6に記載の本発明は、炉壁間距離測定手段を用いて、コークス炉炭化室の任意の高さにおける長さ方向複数位置の炉壁間距離をコークス製造毎に測定し、得られる実測炉壁間距離変位線に基づいて、実測炉壁間距離の平準化変位線を求め、さらに、前記平準化変位線と前記実測炉壁間距離変位線とによって囲まれた面積の総和を求めて、コークス製造回数の増加に伴う前記面積の総和の変化に基づいて前記炭化室炉壁状態の変遷を診断することを特徴とする。また、前記平準化変位線は、前記炉壁間距離の測定とともに、前記炉壁間距離測定手段に備えられた炉壁面観察デバイスを用いて、前記複数位置における炉壁面の表面変位を観察し、前記実測炉壁間距離変位線を均すことによって求めることが好ましい。前記面積の総和は、炭化室の任意高さにおける炉壁全体の表面状態の変位を指標するものであり、経時変化を検討することにより、炉壁の表面状態の変遷を定量的かつ適切に把握することができる。また、前記炉壁間距離測定手段とともに炉壁面観察デバイスを用いて、前記複数位置における炉壁表面状態の変位を観察して、前記実測炉壁間距離変位線から前記実測炉壁間距離変位線の平準化変位線を求めることが好ましい。
【0008】
さらに前記診断の結果に基づいて、炉壁の補修必要箇所、補修方法、または補修時期について判定することも本発明の好ましい実施態様である。また、本発明において、炉壁間距離測定手段としては、プッシャービームに設置され、炉壁に向かってレーザー光線を照射し、炉壁からの反射レーザー光線を採取して、その反射時間差を前記炉間距離に変換する手段を用いることが望ましい。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明のコークス炉炭化室の診断方法は、炉壁間距離測定手段を用いて、コークス炉炭化室の任意の高さにおける長さ方向複数位置の炉壁間距離を測定し、得られる実測炉壁間距離変位線(以下、「実測距離変位線」)に基づいて、実測炉壁間距離の平準化変位線を求めて、前記実測距離変位線と前記平準化変位線とを比較し、および/または、炭化室長さ方向の設計炉壁間距離変位線(以下、「設計距離変位線」)と前記平準化変位線とを比較することにより、前記炭化室の炉壁状態を診断することを特徴とする。ここで、実測距離変位線とは、炉壁間距離測定手段によって実際に測定された炉壁間距離について、炭化室の長さ方向にわたる前記距離の変位を示す線であり、平準化変位線とは、カーボンの付着や炉壁の欠損などによる炉壁表面の変位を均すことによって、前記実測距離変位線を平準化(スムーズ化)した変位線であり、炭化室長さ方向の設計距離変位線は、コークス炉設計時における炭化室炉壁間距離の炭化室長さ方向にわたる変位を示す線である。
【0011】
まず、炉壁間距離測定手段を用いて、コークス炉炭化室の任意の高さにおける長さ方向複数位置の炉壁間距離を測定する方法について説明する。前記炉壁間距離測定手段としては、炉壁間距離を測定できるものであれば、特に限定されず、例えば、マイクロ波またはミリ波帯域などの電磁波、あるいは、レーザー光線などを炭化室炉壁へ照射してから、反射してくる電磁波、レーザー光線などを採取するまでの時間を計測し、前記時間を距離に換算することにより炉壁間距離を測定する非接触式測定手段を挙げることができる。
【0012】
本発明では、前記炉壁測定手段として、耐熱性に優れるという点から、実用新案第3032354号公報に開示の測定装置を用いることが特に望ましい。前記測定装置は、耐熱ケーシング内に、電気で作動する炉壁間距離測定デバイス、炉壁面観察デバイスと、給電部と、測定値メモリーとを備えている。前記耐熱ケーシングは、好ましくはガイドフレーム及び断熱層(熱絶縁層)から構成され、前記断熱層は、さらにセラミックス繊維プレート層、僅かな熱伝導性を持つ微孔質の遮断プレート層、及び耐火領域からの高い使用温度を持つセラミックス繊維からなる層で構成されていることが好ましい。また、前記耐熱ケーシングは、断熱層を機械的な損傷から保護する目的で、最外部に耐熱性の多孔体層を有していてもよい。前記炉壁間距離測定デバイスとしては、レーザー三点センサが使用され、前記炉壁面観察デバイスとしては、ビデオカメラ、CCDカメラ、ファイバースコープなどを用いることが好ましい。また、前記測定装置は、冷却配管、出力ケーブルなどが不要であり、プッシャービームの任意の位置に設置することができる。前記測定装置は、例えば、炭化室内での任意高さにおいて炉長にわたって移動ができるように、プッシャービームに設置されて使用される(図1)。このように設置すれば、プッシャービームが生成コークスを押出すのと同時に、前記炉壁間距離測定手段が炭化室の任意高さにおける炭化室長さ方向の炉壁間距離を測定することができる。
【0013】
図2には、前記測定装置を用いた炉壁間距離の測定原理を概念的に示した。前記測定装置1は、プッシャービーム2に設置され、左右の炉壁3に向かってレーザー光線4を照射し、炉壁3からの反射レーザー光線5を採取して、その反射時間差を炉間距離に変換することにより、炉壁間距離を測定することを特徴とする。
【0014】
本発明では前記炉壁間距離測定手段を用いて、炭化室の任意高さにおける炭化室長さ方向における複数位置の炉壁間距離を測定する。一般にコークス炉炭化室の高さは約4,000〜約7,000mmであり、長さは約15,000〜約20,000mmである。炉壁間距離の測定は、コークス炉炭化室の高さに応じて、任意の高さにおいて測定すればよい。例えば、1点のみの高さを測定する場合には、炭化室高さの約1/2の高さにおける炉壁間距離を、また、複数の高さにおける炉壁間距離を測定する場合には、測定する高さの間が略均等になるように測定することが好ましい。図3は、複数の炉壁間距離測定手段の設置例である。前記炉壁間距離測定手段は、生成コークスの押出しとともに炉壁間距離を測定する場合には、プッシャービームの後ろ側に設置すればよいが、空窯の状態で炉壁間距離を測定する場合には、プッシャービーム前面に設置することもできる。また、前記炉壁間距離測定手段を異なる高さの位置に設置しておけば、炭化室内の高さの異なる炉壁間距離を同時に測定できる。
【0015】
前記炉壁間距離の測定は、炭化室長さ方向にわたって複数位置で行なわれ、少なくとも2点以上の位置で測定すればよい。また、前記複数位置における測定を無限的に行なうことにより、炉壁間距離を炭化室長さ方向にわたって連続的に測定することも本発明の好ましい態様である。
【0016】
次に、炉壁の状態を診断する方法について説明する。本発明では、前記測定により得られる実測距離変位線に基づいて、実測炉壁間距離の平準化変位線を求めて、前記実測距離変位線と平準化変位線とを比較し、および/または平準化変位線と設計距離変位線とを比較することにより、炭化室の炉壁状態を診断する。
【0017】
前記平準化変位線は、前記炉壁間距離の測定とともに、前記炉壁間距離測定手段に備えられた炉壁面観察デバイスを用いて、前記複数位置における炉壁面の表面変位を観察し、前記実測距離変位線における前記表面変位に相当する変位部分を均すことによって求めることが好ましい。ここで、前記炉壁の表面変位とは、例えば、炉壁のカーボンの付着や欠損などによる炉壁表面の変位である。
【0018】
図4には、高さ6,500mm、幅420〜480mm、長さ15,890mmの炭化室における高さ3,500mmの炉壁間距離を測定した結果を示した。実線(細)は実測距離変位線を、実線(太)は平準化変位線を、破線は設計距離変位線をそれぞれ示し、横軸は、炭化室長さ方向の距離(約16m、プッシャービーム側から測定し、測定開始点を0mとする)を示している。尚、前記炭化室の炉幅は、生成コークスの押出しが容易になる様に、プッシャービーム側(冷間設計値:420mm)より、コークス取出し側(冷間設計値:480mm)が広くなるように設計されている。前記実測距離変位線と平準化変位線との比較は、より具体的には、炭化室長さ方向同一位置における前記平準化変位線の距離と実測距離変位線の距離とを比較することによって行ない、前記平準化変位線の距離から実測距離変位線の距離を差し引いた値がプラス(正)の位置では、炉壁間距離が短く、当該位置の炉壁にはカーボンが付着しているものと診断することができる。また、前記平準化変位線の距離から実測距離変位線の距離を差し引いた値がマイナス(負)の位置では、炉壁間距離が長く、当該位置の炉壁は欠損しているものと診断することができる。さらに、前記設計距離変位線から前記平準化変位線の距離を差し引いた値が、プラス(正)の位置では、炉壁自体の変形や移動によって炉幅が狭くなっていると診断することができ、差し引いた値がマイナス(負)の位置では炉壁自体の移動や変形により炉幅が広くなっていると診断することができる。
【0019】
すなわち本発明によれば、前記平準化変位線と前記実測距離変位線とを比較し、および/または前記設計距離変位線と前記平準化変位線とを比較することにより、炉壁全体の変位を、カーボン付着や欠損などの炉壁表面の変化による変位と炉壁自体の移動や変形による変位とに分離することにより、炉壁の状態を定量的に診断することができる。
【0020】
図5は、コークス炉炭化室の任意高さにおける断面の概念図である。斜線部分7は、炭化室の炉壁が変形した後の炭化室内部の空間を断面図により概念的に表わしたものであり、破線8は設計時の炉壁の位置を示す。実測炉壁間距離9は、炭化室長さ方向の測定位置に応じて変動するので、各変位線の比較に基づく炉壁状態の診断は、炭化室炉壁の特定箇所(任意の高さ、炭化室長さ方向特定の距離)における炉壁状態についてなされるものである。しかし、任意高さにおける炭化室の水平方向の断面積を診断の基準として用いれば、任意の高さにおける炉壁全体の状態を診断することができる。
【0021】
そこで、本発明によれば、炭化室の水平方向断面積の変位量として、前記平準化変位線と前記実測距離変位線とによって囲まれた面積の総和、および/または、設計距離変位線と前記平準化変位線とによって囲まれた面積の総和を求めて、前記面積の総和に基づいて炭化室の炉壁の状態について診断することができる。前記平準化変位線と前記実測距離変位線とによって囲まれた面積の総和は、炉壁のカーボン付着や欠損などの炉壁表面の変化による変位を示す指標であり、前記設計距離変位線と前記平準化変位線とによって囲まれた面積の総和は、炉壁自体が移動・変形して炉幅が広狭化することによる変位を示す指標である。前記面積の総和は、任意の高さにおける炉壁全体の状態を正確かつ定量的に評価する基準として用いることができるので、この指標を用いれば、例えば、コークス炉に複数設置されている炭化室や、コークス製造回数の異なる炭化室の劣化・老朽化などの状態の相対評価が容易になる。
【0022】
図6には、前記平準化変位線10と前記実測距離変位線11とによって囲まれた面積(12、13)を、炭化室の任意の高さにおける水平方向断面図を用いて概念的に示した。前記面積の総和は、当該部分の面積すべての和で表わされ、前記面積の総和は、それぞれの部分の面積を、前記平準化変位線10の距離から前記実測距離変位線11の距離を差し引いた値がプラス(正)である場合には、当該面積13にプラス(正)の符号を付け、前記差し引いた値がマイナス(負)である場合には、当該面積12にマイナス(負)の符号を付けて、総和を求めればよい。そして、前記面積の総和がプラス(正)の場合には、任意高さにおける炉壁全体は、カーボン付着による影響が大きいものと診断することができ、前記面積の総和がマイナス(負)の場合には、炉壁の欠損による影響が大きいものと診断することができる。
【0023】
図7には、前記設計距離変位線14と前記平準化変位線10とによって囲まれた面積(15、16)を、炭化室の任意の高さにおける水平方向断面図を用いて概念的に示した。前記面積の総和は、当該部分の面積すべての和で表わされ、それぞれの部分の面積を、前記設計距離変位線の距離から前記平準化変位線の距離を差し引いた値がプラス(正)である場合には、当該面積15にプラスの符号を付け、前記差し引いた値がマイナス(負)である場合には、当該面積16にマイナス(負)の符号を付けて、総和を求めれば良い。そして、前記面積の総和がプラス(正)の場合には、炉壁自体の移動・変形により炉幅が狭くなっていると診断することができ、前記面積総和がマイナス(負)の場合には、炉壁自体の移動・変形により炉幅が広くなっていると診断することができる。
【0024】
表1には、コークスを57回製造した5つの炭化室A〜Eの(高さ3,500mmにおける)炉壁間距離を測定して、前記平準化変位線10と前記実測距離変位線11とによって囲まれた面積を求めた結果をまとめた。
【0025】
【表1】
Figure 0004142333
【0026】
炭化室Aでは、炉壁欠損による炉幅の面積の変位は、−12960mm2であり、カーボン付着による炉幅面積の変位は、9120mm2であり、面積の総和は、−3840mm2となり、炉幅全体としての評価は、炉壁の欠損による影響が大きいと診断できる。一方、炭化室Eでは、炉壁欠損による炉幅面積の変位は、−5520mm2であり、カーボン付着による炉幅面積の変位は、18720mm2であり、面積の総和は、13200mm2となり、炉幅全体としての評価は、カーボン付着による影響が大きいと診断することができる。
【0027】
表2には、コークス炉に設置されている複数の炭化室の中から、3つの炭化室F〜Gを選択し、炉壁間距離を測定した後、前記設計距離変位線14と前記平準化変位線10とによって囲まれた面積を求めた結果を示した。
【0028】
【表2】
Figure 0004142333
【0029】
炭化室Fでは、炉幅の狭帯化による面積の変位が26400mm2であり、炉幅の広帯化による面積の変位は−6240mm2であり、面積の総和は20160mm2となり、炉幅全体としては、狭帯化による影響が大きいと診断できる。一方、炭化室Hでは、炉幅の狭帯化による面積の変位が7680mm2であり、炉幅の広帯化による面積の変位は−22560mm2であり、面積の総和は−14880mm2となり、炉幅全体としては、広帯化していると診断できる。すなわち、コークス炉全体として炉幅はほぼ一定なので、複数設置されている炭化室のうち炉幅が広帯化しているものがあれば、その分狭帯化している炭化室が存在していることが明らかになった。本発明では、上記のようにして炭化室ごとの炉壁の状態を定量的に評価することができるので、コークス炉に複数設置されている炭化室や、コークス製造回数の異なる炭化室の相対評価を定量的に行なうことができる。
【0030】
また本発明は、炉壁間距離測定手段を用いて、コークス炉炭化室の任意の高さにおける長さ方向複数位置の炉壁間距離をコークス製造毎に測定し、得られる実測炉壁間距離変位線のコークス製造回数の増加に伴う変化に基づいて、炉壁状態の変遷を診断することを特徴とする。炉壁状態の変遷とは、コークス製造回数に伴う炉壁状態の経時変化であり、実測距離変位線を経時的に比較することにより診断することができる。前記炉壁間距離の測定は、コークス製造毎に行なわれ、コークス製造毎回毎に測定することが好ましいが、炉壁状態の変遷を診断できる程度に、例えば、コークス製造2〜数回に1回の割合で測定しても良い。また、測定は上述したように、生成コークス押出し(排出)時に行なわれることが好ましいが、コークス製造前後に炉壁間距離の測定のみを別途行なってもよい。
【0031】
図8には、炉壁に付着したカーボンを一旦焼却除去した状態(以下、「初期状態」という)の炭化室でコークスを0〜25回製造した時の平均実測距離変位線(破線)とコークスを226〜250回製造した時の平均実測距離変位線(実線)とを示した。0〜25回コークスを製造した平均実測距離変位線から、炭化室に石炭を充填する装入孔付近、特に2番から4番装入孔付近で、炉壁の欠損が激しいことがわかる。また、装入孔同士の間の炉壁においては、炉幅がやや広くなっているものの炉壁の表面には、カーボンの付着や炉壁の欠損などは認められないことが分かる。226〜250回コークスを製造した平均実測距離変位線からは、1番装入孔〜4番装入孔付近においてカーボンの付着が著しいことが分かる。これらの変位線の比較することより、炉壁状態の変遷を、例えば、以下のように診断することができる。
【0032】
1番装入孔付近の炉壁状態の変遷は、初期状態において欠損は存在しないが、コークス製造回数の増加に伴ってカーボンが付着したものと診断することができ、2番から4番装入孔付近の炉壁状態の変遷は、初期状態において著しい欠損が存在し、コークス製造回数の増加に伴って、該欠損箇所にカーボンが付着したものと診断することができる。5番装入孔付近では、初期状態において欠損が存在するが、カーボンの付着が少ないと診断できる。また、装入孔間の炉壁においては、カーボン付着が少ないと診断できる。
【0033】
さらに本発明によれば、炉壁間距離測定手段を用いて、コークス炉炭化室の任意の高さにおける炭化室長さ方向複数位置の炉壁間距離をコークス製造毎に測定し、得られる実測炉壁間距離変位線に基づいて、実測炉壁間距離の平準化変位線を求め、さらに、前記平準化変位線と前記実測距離変位線とによって囲まれた面積の総和を求めて、コークス製造回数の増加に伴う前記面積の総和の変化に基づいて、前記炭化室炉壁状態の変遷を診断することができる。前記面積の総和を経時的に比較することにより、炭化室炉壁状態の変遷の診断が容易になる。前記炉壁間距離の測定は、上述した様にコークス製造毎に行なわれ、コークス製造毎回毎に測定することが好ましいが、炉壁状態の変遷を診断できる程度に、例えば、コークス製造2〜数回に1回の割合で測定しても良い。また、測定は、生成コークス押出し(排出)時に行なわれることが好ましいが、コークス製造前後に炉壁間の測定のみを別途行なってもよい。
【0034】
表3には、コークス製造回数に対する前記平準化変位線と前記実測距離変位線とによって囲まれた面積の総和を示した。また、図9には、そのグラフを示した。
【0035】
【表3】
Figure 0004142333
【0036】
表3及び図9から、初期状態からコークス製造回数約50回までは、面積の総和である負の値が少しずつ大きくなっていることから、初期状態では、炉壁に欠損が存在し、コークス製造回数の増加に伴って、カーボンが徐々に付着したものと診断できる。コークス製造回数が約50回を超えると、炉壁のカーボン付着量はさらに増加する傾向がみられ、コークス製造回数が約100回以後は、ほぼ恒常的に炉壁にカーボンが付着していると診断できる。
【0037】
また、本発明法による診断結果に基づいて、炉壁の補修必要箇所、補修方法、または補修時期について判定することも、本発明の好ましい実施態様である。前記炭化室の補修方法としては、例えば、炉壁の欠損部を埋める溶射補修法、カーボンなどの付着物を焼却除去する方法などがあり、炉壁の状態に応じて、補修方法を選択すればよい。
【0038】
例えば、図4に示した実測距離変位線、または図8に示したような0〜25回製造時、226〜250回製造時の実測距離変位線からは、補修必要箇所が明らかになる。すなわち、実測距離変位線の変位量が大きいところは、炭化室炉壁へカーボンが付着しているか、または炉壁に欠損が生じている場合であり、炭化室の高さおよび炭化室一端からの距離を特定することができる。
【0039】
さらに、図8の0〜25回製造時と226〜250回製造時の平均実測距離変位線を比較すると、補修必要箇所は、1番から4番装入孔付近であることが分かり、5番装入孔では、補修の必要性が低いことが分かる。また、その補修方法は、1番装入孔では、カーボン付着が認められるものの、炉壁の欠損はないので、付着したカーボンを除去するだけでよい。しかし、2番装入孔から4番装入孔では、付着したカーボンを焼却除去するとともに、炉壁の欠損箇所を溶射補修する必要があることが分かる。また、226〜250回製造時の平均測定距離変位の変位量より、カーボン付着量が多くなっていると診断された場合には、補修の時期を迎えていると判定できる。
【0040】
さらに補修の時期は、図9に示した平準化変位線と実測距離変位線とによって囲まれた面積の総和の変化からも判定することができる。すなわち前記面積の総和がマイナス(負)側からプラス(正)に変化して、ほぼ一定になる期間が長くなると、炉壁にはカーボンが恒常的に付着していると診断することができるので、炭化室が補修の時期を迎えていると判定することができる。
【0041】
以上のように、本発明のコークス炉の診断方法によれば、従来の診断方法では得られなかった炉壁の状態の情報に基づいて、適切な補修方法の選択や補修時期の選択が容易になる。
【0042】
【発明の効果】
発明のコークス炉の診断方法は、炉壁のカーボン付着や欠損というような炉壁表面状態による影響と、炉壁自身が移動・変形することによる炉幅の広狭化する影響とに分離して炉壁の状態について診断することができるので、従来のコークス炉の保守・点検方法より、定量性に優れる。また、炭化室の特定高さにおける炉壁全体の状態を指標する面積の総和という診断基準を用いることによって、炭化室の炉壁全体の状態について定量的に評価することができ、コークス炉に複数設置されている炭化室やコークス製造回数の異なる炭化室の劣化状態について相対的な評価をすることができる。また、これらの定量的な診断結果に基づけば、従来不確定であった補修必要箇所、補修の時期、補修方法等を適切に選択することができるので、最適補修を行なうことにより、保守点検とコークス炉の炉命延長によるコークス製造コストを削減ができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 炉壁間距離測定手段のプッシャービームへの設置例である。
【図2】 炉壁間距離測定原理を示した図である。
【図3】 炉壁間距離測定手段のプッシャービームへの設置例である。
【図4】 炉壁間距離を測定した結果を示したグラフである。
【図5】 炭化室の任意高さにおける断面図である。
【図6】 平準化変位線と実測距離変位線とによって囲まれた部分の面積を概念的に示す炭化室の任意高さにおける断面図である。
【図7】 平準化変位線と設計距離変位線とによって囲まれた部分の面腺を概念的に示す炭化室の任意高さにおける断面図である。
【図8】 コークス製造サイクル別の実測距離変位線を示したグラフである。
【図9】 コークス製造サイクル回数の増加に伴う平準化変位線と実測距離変位線とによって囲まれた部分の面積総和の変化を示したグラフである。
【符号の説明】
1:炉壁間距離測定装置
2:プッシャービーム
3:炭化室炉壁
4:レーザー光線
5:反射レーザー光線
6:生成コークス
8:設計時の炉壁位置
9:実測炉壁間距離
10:平準化変位線
11:実測距離変位線
12:平準化変位線と実測距離変位線とによって囲まれた(マイナスの)面積
13:平準化変位線と実測距離変位線とによって囲まれた(プラスの)面積
14:設計距離変位線
15:平準化変位線と設計距離変位線とによって囲まれた(プラスの)面積
16:平準化変位線と設計距離変位線とによって囲まれた(マイナスの)面積

Claims (7)

  1. 炉壁間距離測定手段を用いて、コークス炉炭化室の任意の高さにおける長さ方向複数位置の炉壁間距離を測定し、得られる実測炉壁間距離変位線に基づいて、前記炉壁間距離の測定とともに、前記炉壁間距離測定手段に備えられた炉壁面観察デバイスを用いて、前記複数位置におけるカーボンの付着および炉壁の欠損による炉壁面の表面変位を観察し、前記実測炉壁間距離変位線のカーボンの付着および炉壁の欠損による炉壁面の表面変位を均すことによって、実測炉壁間距離の平準化変位線を求めて、前記実測炉壁間距離変位線と前記平準化変位線とを比較し、および/または、炭化室長さ方向の設計炉壁間距離変位線と前記平準化変位線とを比較することにより、前記炭化室の炉壁状態を診断することを特徴とするコークス炉炭化室の診断方法。
  2. 炉壁間距離測定手段を用いて、コークス炉炭化室の任意の高さにおける長さ方向複数位置の炉壁間距離を測定し、得られる実測炉壁間距離変位線に基づいて、前記炉壁間距離の測定とともに、前記炉壁間距離測定手段に備えられた炉壁面観察デバイスを用いて、前記複数位置におけるカーボンの付着および炉壁の欠損による炉壁面の表面変位を観察し、前記実測炉壁間距離変位線のカーボンの付着および炉壁の欠損による炉壁面の表面変位を均すことによって、実測炉壁間距離の平準化変位線を求め、さらに、前記平準化変位線と前記実測炉壁間距離変位線とによって囲まれた面積の総和、および/または、炭化室長さ方向の設計炉壁間距離変位線と前記平準化変位線とによって囲まれた面積の総和を求めて、前記面積の総和に基づいて前記炭化室の炉壁状態を診断することを特徴とするコークス炉炭化室の診断方法。
  3. 炉壁間距離測定手段を用いて、コークス炉炭化室の任意の高さにおける長さ方向複数位置の炉壁間距離をコークス製造毎に測定し、
    得られる実測炉壁間距離変位線に基づいて、前記炉壁間距離の測定とともに、前記炉壁間距離測定手段に備えられた炉壁面観察デバイスを用いて、前記複数位置におけるカーボンの付着および炉壁の欠損による炉壁面の表面変位を観察し、前記実測炉壁間距離変位線のカーボンの付着および炉壁の欠損による炉壁面の表面変位を均すことによって、実測炉壁間距離の平準化変位線を求め、さらに、前記平準化変位線と前記実測炉壁間距離変位線とによって囲まれた面積の総和を求めて、コークス製造回数の増加に伴う前記面積の総和の変化に基づいて前記炭化室炉壁状態の変遷を診断することを特徴とするコークス炉炭化室の診断方法。
  4. 前記診断の結果に基づいて、炉壁の補修必要箇所を判定する請求項1〜3のいずれかに記載の診断方法。
  5. 前記診断の結果に基づいて、炉壁の補修方法を判定する請求項1〜3のいずれかに記載の診断方法。
  6. 前記診断の結果に基づいて、炉壁の補修時期を判定する請求項1〜3のいずれかに記載の診断方法。
  7. 前記炉壁間距離測定手段は、プッシャービームに設置され、炉壁に向かってレーザー光線を照射し、炉壁からの反射レーザー光線を採取して、その反射時間差を前記実測炉壁間距離に変換するものである請求項1〜6のいずれかに記載の診断方法。
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