JP4083257B2 - 歯科充填用レジン組成物 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、主に歯牙の充填修復,支台歯築造,小窩裂溝封鎖等に使用される歯科充填用レジン組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、歯牙の微小欠損部の充填修復,根管治療後の支台歯築造等には歯科用コンポジットレジンや歯科用グラスアイオノマーセメントが使用されており、また、歯牙のう蝕予防を目的とした小窩裂溝封鎖用には歯科用コンポジットレジンや歯科用グラスアイオノマーセメントに大きな流動性を付与した歯科用シーラントと呼ばれる材料が使用されている。
歯科用コンポジットレジンは比較的高い機械的特性を有し歯牙に近似した色調を有する特徴があり、特に充填修復や支台歯築造に適している。
一方、歯科用グラスアイオノマーセメントは機械的特性,色調や面性状等の審美性の面では歯科用コンポジットレジンに及ばないもののフッ素イオンを放出するという優れた特徴があり、放出したフッ素イオンは歯質中のアパタイトの水酸基と交換してアパタイトの耐酸性を増加させ、結果としてう蝕予防や修復治療後の2次う蝕に罹患し難くする性能を有しており、特に充填修復や小窩裂溝封鎖用に適している。
【0003】
そして近年、歯科用コンポジットレジンと歯科用グラスアイオノマーセメントとのそれぞれの特徴を併有する材料の開発が行われれるようになって来ている。例えば、レジン強化型グラスアイオノマーセメントは、歯科用グラスアイオノマーセメントに不飽和2重結合を有するモノマーを配合したものであるが、歯科用コンポジットレジンに比較して機械的特性が十分でなく、またコンポマーコンポジットと呼ばれ、歯科用コンポジットレジンにフッ素イオン放出性を与えるためにフッ酸の4級アンモニウム塩を配合した製品もあるが、この材料はフッ酸の4級アンモニウム塩の配合に起因してコンポジットレジンの口腔内での安定性が低下している。従って、歯科用コンポジットレジンと歯科用グラスアイオノマーセメントとのそれぞれの特徴を併有する材料の開発は、未だ十分とは言えず、臨床的に満足できる性能を備えた材料が開発されていないのが現状である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明は歯科用コンポジットレジンと歯科用グラスアイオノマーセメントとのそれぞれの特徴である優れた機械的特性,審美性,フッ素イオンの放出性を兼ね備え、歯牙の充填修復,支台歯築造,小窩裂溝封鎖等の臨床上の幅広い用途に好適に使用できる歯科充填用レジン組成物を創製することを課題とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究の結果、機械的特性と審美性に優れた歯科用コンポジットレジンを基本成分とした歯科充填用レジン組成物中に、少なくともCa,Sr,Raから選ばれる1種以上の元素を含有するフルオロアルミノシリケートガラス粉末と1分子中にカルボン酸基を1個以上含有する飽和有機酸との反応生成物を含有させることによって、効果的なフッ素イオンの放出性を付与でき且つ良好な機械的特性と優れた審美性も維持できることを究明して本発明を完成したのである。
【0006】
【発明の実施の形態】
即ち、本発明に於ける歯科充填用レジン組成物は、
A)少なくともCa,Sr,Raから選ばれる1種以上の元素を含有するフルオロアルミノシリケートガラス粉末と1分子中にカルボン酸基を1個以上含有する飽和有機酸との反応生成物、
B)メタノールに不溶性のポリマー、
C)不飽和2重結合を有し且つ酸基を有さないモノマー、
D)重合開始剤
で構成されるものであり、必要に応じてE)充填材が加えられる場合がある。
【0007】
以下、本発明に係る歯科充填用レジン組成物について、各構成成分に基づき更に詳細に説明する。
少なくともCa,Sr,Raから選ばれる1種以上の元素を含有するフルオロアルミノシリケートガラス粉末と1分子中にカルボン酸基を1個以上含有する飽和有機酸との反応生成物は、本発明の最も特徴とする成分であって、本発明に係る歯科充填用レジン組成物にフッ素放出性を付与する成分である。
【0008】
この反応生成物において、少なくともCa,Sr,Raから選ばれる1種以上の元素を含有するフルオロアルミノシリケートガラス粉末とは、フッ素イオンを放出し得るフルオロアルミノシリケートガラスであり、具体的には特公平7−55882号公報中に記載されている「その成分中に換算量としてSiO2:20〜50重量%,Al2O3:20〜40重量%,SrO:15〜40重量%,F2:1〜20重量%,P2O5:0〜15重量%を含み、実質的にLi,Na,K,Rb,Csなどのアルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素のうちBe,Mg,Baを含まないフルオロアルミノシリケートガラス粉末」が好適に使用される。なお、このガラス粉末は歯科臨床上必要なX線造影性を有意に与えることができるという利点も備えている。またこのフルオロアルミノシリケートガラス粉末には、場合によりLa,Gd,Yb等のランタノイド金属元素が含まれていても良い。このフルオロアルミノシリケートガラス粉末は、1分子中にカルボン酸基を1個以上含有する飽和有機酸と反応させた反応生成物として歯科充填用レジン組成物中に含有されることによってフッ素イオン放出性が発揮されるものであって、単独で含有させた場合にはフッ素放出量は非常に少ないという特徴がある。
【0009】
1分子中にカルボン酸基を1個以上含有する飽和有機酸としては、L−アスパラギン酸、L−アルギニン、クエン酸、グリシン、グリコール酸、DL−グリセリン酸、グルコン酸、グルクロン酸、グルタル酸、アセトンジカルボン酸、酒石酸、シクロペンタンテトラカルボン酸、ジグリコール酸、ジエチルマロン酸、L−システイン酸、シュウ酸、スルホサリチル酸、タルトロン酸、トリカルバリル酸、テトラヒドロフランテトラカルボン酸、meso−ブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸、トリメリット酸、乳酸、ベンゼンペンタカルボン酸、マロン酸、DL−マンデル酸、ベンゼンヘキサカルボン酸、リンゴ酸等が挙げられ、これらの飽和有機酸は単独若しくは2種以上を混合して使用してもよく、反応生成物中に0.1〜45重量%含有されるのが好ましい。0.1重量%未満の場合には、反応生成物からのフッ素イオン放出量が少なくなり、また45重量%を超えると遊離した飽和有機酸が歯科充填用レジン組成物のpHの低下を招いたり反応生成物が調製中に凝集する傾向を生じる。なお、飽和有機酸としてポリアクリル酸等のポリマーを使用することも可能であるが、この場合にはカルボン酸基の残存や硬化物中の水の残存を生じ機械的性質の低下を招く恐れがある。
【0010】
反応生成物の調製は、例えば、少なくともCa,Sr,Raから選ばれる1種以上の元素を含有するフルオロアルミノシリケートガラス粉末をメタノール,エタノール,t−ブタノールなどの揮発性有機溶媒に混合してスラリー状にした後、1分子中にカルボン酸基を1個以上含有する飽和有機酸の水溶液と混合して反応させ、その後室温近傍でエイジングを行った後に120℃程度に加熱して乾燥する方法により調製することができる。
【0011】
なお、フルオロアルミノシリケートガラス粉末の粒度は反応生成物の粒度に影響するため、歯科充填用レジン組成物の用途が歯牙の充填修復に用いられる場合は、硬化物の滑沢性など審美性の観点から最大粒径が10μmより小さく,平均粒径が5μmより小さい細粉を使用するのが好ましく、中でも粒径が0.05〜8μmで平均粒径が0.1〜2.0μmの粉末が好ましい。しかし、支台歯築造,小窩裂溝封鎖に使用される場合には、更に粒度の大きいものであっても好適に使用することができ最大粒径が50μmより小さい粉末が使用できる。
【0012】
このような反応生成物はレジンにフッ素放出性を付与する効果があり、本発明に係る歯科充填用レジン組成物においては5〜85重量%の割合で含有されるのが好ましく、5重量%未満の場合にはフッ素イオンの放出量が僅かとなり、85重量%を超える場合には臨床上の操作性が低下する傾向が現れてくる。
【0013】
なお、少なくともCa,Sr,Raから選ばれる1種以上の元素を含有するフルオロアルミノシリケートガラス粉末と1分子中にカルボン酸基を1個以上含有する飽和有機酸との反応生成物は、予めアルコキシ化合物で修飾された後に本発明に係る歯科充填用レジン組成物中に配合されてもよい。この修飾に使用するアルコキシ化合物としては、不飽和2重結合を有するアルコキシシランとして3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、2−メタクリロキシエトキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2メトキシエトキシ)シランを、グリシドキシ基を有するアルコキシシランとして2−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランを、アミノ基を有するアルコキシシランとしてN−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等を、メルカプト基を有するアルコキシシランとして3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン等を例示できる。不飽和2重結合を有するチタネートカップリング剤として、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルジアクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリメタクリルチタネート、イソプロピルトリアクリルチタネート、オキシアセチルジメタクリルチタネート、オキシアセチルジアクリルチタネート等を例示できる。アミノ基を有するチタネートカップリング剤として、イソプロピルトリ(N−ジエチルアミノ)チタネート、イソプロピルトリ(2−アミノベンゾイル)チタネート、イソプロピルトリ(テトラエチレントリアミン)チタネート、イソプロピル4−アミノベンゼンスルフォニルジ(ドデシルベンゼンスルフォニル)チタネート、イソプロピルジ(4−アミノベンゾイル)イソステアロイルチタネート等を例示できる。これらは複合化するモノマーに依存して選択され、特に不飽和2重結合を有するアルコキシ化合物質が必要に応じて単独であるいは混合して使用される。上記例示の他にメチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン等のアルコキシ基以外の官能基を有しない化合物質等も使用可能である。
【0014】
このようなアルコキシ化合物質は、反応生成物を修飾し、マトリックスレジンと反応生成物との間の屈折率差を緩和し、硬化物に適度な半透明性を与えると共に機械的特性を安定させる効果がある。なお、通常アルコキシ化合物は反応生成物100重量部に対して0.1〜100重量部の割合で使用される。
【0015】
メタノールに不溶性のポリマー,不飽和2重結合を有し且つ酸基を有さないモノマー,重合開始剤や必要に応じて加えられる充填材等は歯科において一般的に使用されているレジン材料を構成する成分であり、メタノールに不溶性のポリマーはレジンに良好な操作性を与える効果があり、具体的には、ポリメチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート・メチルメタクリレートコポリマー、スチレン・マレイン酸無水物コポリマー、アクリル酸ポリマー、アクリル酸・マレイン酸コポリマー等のパール重合粉、塊状重合物の粉砕粉、乳化重合粉等を例示することができ、これらは単独であるいは2種以上を混合して使用することができる。その含有量は歯科充填用レジン組成物中に0.1〜20重量%であることが好ましく、0.1重量%未満の場合には良好な操作性が得られず、20重量%を超えた場合には機械的性質が低下してくる傾向を生じる。
【0016】
不飽和2重結合を有し且つ酸基を有さないモノマーはレジンのマトリックスを形成するものであり、一般に不飽和ポリエステル等の不飽和2重結合を有するモノマーや樹脂が用いられ、具体的には、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、3−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−ヒドロキシ−1,3−ジメタクリロキシプロパン、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、2−メトキシエチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、フェニルメタクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、2,2−ビス(メタクリロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシ−3−メタクリロキシプロポキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ブチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、トリメチロールメタントリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート及びこれらのアクリレート、また分子中にウレタン結合を有するメタクリレート及びアクリレート、特にジ−2−メタクリロキシエチル−2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジカルバメート及びこれのアクリレート等を例示できる。これらのメタクリレート及びアクリレートは単独であるいは2種以上を混合して使用することができる。
【0017】
重合開始剤としては、光照射により重合反応を起こす光重合開始剤又はレドックス反応等により重合反応を起こす化学重合開始剤が使用される。
光重合開始剤としては、増感剤と還元剤との組合わせが用いられ、増感剤としては、カンファーキノン、ベンジル、ジアセチル、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール、ベンジルジ(2−メトキシエチル)ケタール、4,4’−ジメチルベンジル−ジメチルケタール、アントラキノン、1−クロロアントラキノン、2−クロロアントラキノン、1,2−ベンズアントラキノン、1−ヒドロキシアントラキノン、1−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、1−ブロモアントラキノン、チオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−ニトロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン、2−クロロ−7−トリフルオロメチルチオキサントン、チオキサントン−10,10−ジオキシド、チオキサントン−10−オキサイド、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、イソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾフェノン、ビス(4−ジメチルアミノフェニル)ケトン、4,4’−ビスジエチルアミノベンゾフェノン、(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ジフェニルフォスフィンオキサイド等のアシルフォスフィンオキサイド、アジド基を含む化合物等があり、単独若しくは2種以上を混合して使用される。
また還元剤としては、3級アミン等が使用される。3級アミンとしては、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、トリエタノールアミン、4−ジメチルアミノ安息香酸メチル、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸イソアミルが好ましい。また他の還元剤として、ベンゾイルパーオキサイド、スルフィン酸ソーダ誘導体、有機金属化合物等も使用可能である。
【0018】
このような光重合開始剤を配合して得られる光重合型の歯科充填用レジン組成物は、紫外線又は可視光線などの活性光線を照射することにより重合反応が達せられる。光源としては超高圧,高圧,中圧及び低圧の各種水銀灯、ケミカルランプ、カーボンアーク灯、メタルハライドランプ、蛍光ランプ、タングステンランプ、キセノンランプ、アルゴンイオンレーザー等が使用可能である。
【0019】
また化学重合開始剤としては、ベンゾイルパーオキサイドと3級アミン、ベンゾイルパーオキサイドとN−フェニルグリシン、ベンゾイルパーオキサイドとp−トルエンスルフィン酸ソーダ、ベンゾイルパーオキサイドとベンゼンスルフィン酸ソーダ、ベンゾイルパーオキサイドとp−トルエンスルフィン酸ソーダ若しくはベンゼンスルフィン酸ソーダと芳香族3級アミン、パーオキソ硫酸カリと芳香族3級アミン、パーオキソ硫酸ソーダと芳香族3級アミン等の組合わせから成る重合開始剤が使用される。
【0020】
その他必要に応じて充填材が本発明に係る歯科充填用レジン組成物に含有されることがある。充填材としては、コロイダルシリカ、バリウムガラス粉末、少なくともCa,Sr,Raから選ばれる1種以上の元素を含有するフルオロアルミノシリケートガラス粉末等があり、歯科充填用レジン組成物の各用途に適した機械的性質や稠度を付与させる目的で、それらが単独若しくは2種類以上を組合わせて使用される。なお、充填材がバリウムガラス粉末,フルオロアルミノシリケートガラス粉末の場合は、反応生成物の場合と同様に予め前述のようなアルコキシ化合物質により修飾されていてもよい。アルコキシ化合物質は複合化するモノマーに応じて適宜選択されて使用されるが、通常は不飽和2重結合を有するアルコキシ化合物質が好適に使用される。
【0021】
【実施例】
以下に実施例として具体例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。表に示した各実施例,比較例について、曲げ強さ,表面粗さ,フッ素イオン放出量,pHをそれぞれ測定し比較した。
【0022】
フルオロアルミノシリケートガラス粉末の作製》
[G1粉末] 特公平7−55882号公報の実施例2の記載に基づいて、カオリン(Al2O3・2SiO2・2H2O)34.0g、炭酸ストロンチウム(SrCO3)25.8g、リン酸(AlPO4)15.6g、フッ化アルミニウム(AlF3)13.3g、珪砂(SiO2)11.3gを各々秤量して十分混合後、白金るつぼ中で1250℃,3時間保持して溶融させ、急冷後粉砕して最大粒径45μm、平均粒径12.2μmのフルオロアルミノシリケートガラス粉末を作製した。
[G2粉末] 同公報の実施例4の記載に基づいて、カオリン(Al2O3・2SiO2・2H2O)45.4g、珪砂(SiO2)8.1g、炭酸ストロンチウム(SrCO3)20.2g、フッ化カルシウム(CaF2)8.8g、フッ化アルミニウム(AlF3)6.8g、リン酸水素カルシウム(CaHPO4・2H2O)10.7gを各々秤量して十分混合後、磁性るつぼ中で1150℃,5時間保持して溶融させ、急冷後粉砕して最大粒径5μm、平均粒径1.1μmのフルオロアルミノシリケートガラス粉末を作製した。
【0023】
《反応生成物の作製》
上記の各フルオロアルミノシリケートガラス粉末(G1,G2)をエタノールスラリーとした後、表に示したそれぞれの飽和有機酸の水溶液を滴下混合して室温で12時間エイジングし、その後120℃で乾燥することにより反応生成物を作製した。
【0024】
《アルコキシ化合物質による修飾》
反応生成物をそれぞれアルコールスラリーとした後、表に示した各アルコキシ化合物を添加し、その後pH3〜4の酢酸水溶液を添加して数時間保持後、スラリーを加熱管に通して減圧雰囲気中へ噴霧し、表面を修飾した。アルコキシ化合物質がアルコキシ基以外の有機置換基を有さない場合には、得られた粉体を最高400℃まで徐々に熱処理した後、有機官能基を有するアルコキシ化合物質で表面を修飾した。反応生成物をアルコキシ化合物質で修飾する場合の乾燥は150℃以下で行った。なお、充填材として用いたガラス粉末のアルコキシ化合物質による修飾も同様の操作で行った。
【0025】
《歯科充填用レジン組成物の調製》
各実施例と比較例とにおける反応生成物,ポリマー,モノマー,充填材の配合は表に示した通りであるが、これらの成分100重量部に対して光重合開始剤としてのカンファーキノン0.2重量部とN,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート1.0重量部とをそれぞれ添加混合して光重合型の歯科充填用レジン組成物を調整した。
【0026】
各実施例と比較例との歯科充填用レジン組成物についての比較試験は、以下のようにして実施した。なお、試験結果は表に纏めて示した。
〔曲げ強さ〕
実施例,比較例の各組成物を2mm×2mm×25mmの金型に填入しセロファンを介してガラス板にて圧接し、片側上方より可視光線照射器(製品名:ニューライトVL-II、ジーシー社製)で60秒間光照射し硬化させた。得られた試験片を37℃の蒸留水に24時間浸漬し曲げ試験機(製品名:オートグラフ、島津製作所社製)にてスパン20mm、クロスヘッドスピード1mm/minにて3点曲げ試験を行った。
【0027】
〔表面粗さ〕
実施例,比較例の各組成物を5mm×5mm×15mmの金型に填入しセロファンを介してガラス板にて圧接し、片側上方より可視光線照射器(製品名:ニューライトVL-II、ジーシー社製)で60秒間光照射し硬化させた。次いで照射面をエミリーペーパー#600で面出し後、歯科技工用ポリッシングサンド(細)の水ペースト、仕上げ研磨用アルミナ(0.3μm)の水ペーストの順に研磨した。この仕上げ研磨面を表面粗さ試験機(小坂研究所社製)にて10点平均粗さを測定した。
【0028】
〔フッ素イオン放出量〕
アクリル板に直径6mm,高さ1mmのアクリルリングを接着し露出面積を規定した型に実施例,比較例の各組成物を充填し、可視光線照射器(製品名:ニューライトVL-II、ジーシー社製)にて硬化させた試験片を蒸留水(8ml、37℃)に浸漬し、フッ素イオン強度をフッ素イオン測定器(製品名:IM−40S、東亜電波工業社製)で測定した。表には浸漬開始から7日後の値を表示した。
【0029】
〔pH測定〕
アクリル板に直径6mm,高さ1mmのアクリルリングを接着し露出面積を規定した型に実施例,比較例の各組成物を充填し、可視光線照射器(製品名:ニューライトVL-II、ジーシー社製)にて硬化させた試験片を蒸留水(8ml、37℃)に浸漬し、水素イオン強度を水素イオン測定器(製品名:F−23、堀場製作所社製)で測定し酸性度の指標とした。表には浸漬開始より7日後の値を示した。なお、使用した蒸留水のpHは6.3であった。
【0030】
【表1】
Figure 0004083257
【0031】
【表2】
Figure 0004083257
【0032】
【表3】
Figure 0004083257
【0033】
【表4】
Figure 0004083257
【0034】
【表5】
Figure 0004083257
【0035】
なお、表中に略記した各物質名は以下の通りである。
(有機酸)
L-AS :L-アスパラギン酸
L-Ag :L-アルギニン
Citr :クエン酸
GN :グリシン
GOL :グリコール酸
DL-G :DL−グリセリン酸
GLC :グルコン酸
GlcUA :グルクロン酸
GLT :グルタル酸
AdC :アセトンジカルボン酸
Tart :酒石酸
cptC :シクロペンタンテトラカルボン酸
dGL :ジグリコール酸
dEtM :ジエチルマロン酸
L-Cys :L-システイン酸
Ox :シュウ酸
SuSA :スルホサリチル酸
TTR :タルトロン酸
TCAR :トリカルバリル酸
THFTC :テトラヒドロフランテトラカルボン酸
mBTC :meso-ブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸
TMRT :トリメリット酸
Lac :乳酸
MLN :マロン酸
DL-M :DL-マンデル酸
BzC6 :ベンゼンヘキサカルボン酸
Mal :リンゴ酸
(アルコキシ化合物)
TEOS :テトラエトキシシラン
3-MPTMS :3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン
3-APTMS :3-アミノプロピルトリメトキシシラン
(モノマー)
2-HEMA :2-ヒドロキシエチルメタクリレート
3-HPMA :3-ヒドロキシプロピルメタクリレート
2-HPMA :2-ヒドロキシプロピルメタクリレート
GMA :グリシジルメタクリレート
Bis-2OHMPOPP:2,2-ビス〔4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロキシプロポキシ)ロポキシ)フェニル〕プロパン
Bis-MEPP :2,2-ビス(4-メタクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン
TEGDMA :トリエチレングリコールジメタクリレート
BG :1,3-ブタンジオールジメタクリレート
UDMA :ジ-2-メタクリロキシエチル-2,2,4-トリメチルヘキサンジカルバメート
2-OHDMP :2-ヒドロキシ-1,3-ジメタクリロキシプロパン
(ポリマー)
PMMA :ポリメチルメタクリレート
PEMA :ポリエチルメタクリレ−ト
PMEA :メチルメタクリレート・エチルメタクリレート共重合体
PStMA :スチレン・マレイン共重合体
【0036】
【発明の効果】
表に示した結果から明らかなように、本発明に係る歯科充填用レジン組成物は、曲げ強さや表面滑沢性等の機械的特性に優れると共にフッ素イオン放出性を有し、更に操作性,審美性に優れると共にX線造影性も兼ね備えており、歯科用コンポジットレジンと歯科用グラスアイオノマーセメントとの両者の優れた特性を効果的に併有し、歯牙の充填修復,支台歯築造,小窩裂溝封鎖等の臨床上の幅広い用途に好適に使用でき、歯科医療分野で貢献するところ大なるものである。

Claims (9)

  1. A)少なくともCa,Sr,Raから選ばれる1種以上の元素を含有するフルオロアルミノシリケートガラス粉末と1分子中にカルボン酸基を1個以上含有する飽和有機酸との反応生成物、
    B)メタノールに不溶性のポリマー、
    C)不飽和2重結合を有し且つ酸基を有さないモノマー、
    D)重合開始剤
    から成ることを特徴とする歯科充填用レジン組成物。
  2. 少なくともCa,Sr,Raから選ばれる1種以上の元素を含有するフルオロアルミノシリケートガラス粉末が、その成分中に換算量としてSiO2:20〜50重量%,Al2O3:20〜40重量%,SrO:15〜40重量%,F2:1〜20重量%,P2O5:0〜15重量%を含み、実質的にLi,Na,K,Rb,Csなどのアルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素のうちBe,Mg,Baを含まないフルオロアルミノシリケートガラス粉末である請求項1に記載の歯科充填用レジン組成物。
  3. 1分子中にカルボン酸基を1個以上含有する飽和有機酸が、L−アスパラギン酸、L−アルギニン、クエン酸、グリシン、グリコール酸、DL−グリセリン酸、グルコン酸、グルクロン酸、グルタル酸、アセトンジカルボン酸、酒石酸、シクロペンタンテトラカルボン酸、ジグリコール酸、ジエチルマロン酸、L−システイン酸、シュウ酸、スルホサリチル酸、タルトロン酸、トリカルバリル酸、テトラヒドロフランテトラカルボン酸、meso−ブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸、トリメリット酸、乳酸、ベンゼンペンタカルボン酸、マロン酸、DL−マンデル酸、ベンゼンヘキサカルボン酸、リンゴ酸から選ばれる1種又は2種以上であり、反応生成物中に0.1〜45重量%含有されている請求項1又は2に記載の歯科充填用レジン組成物。
  4. メタノールに不溶性のポリマーが、ポリメチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート・メチルメタクリレートコポリマー、スチレン・マレイン酸無水物コポリマー、アクリル酸ポリマー、アクリル酸・マレイン酸コポリマー等のパール重合粉、塊状重合物の粉砕粉、乳化重合粉の単独であるいは2種以上であり、歯科充填用レジン組成物中に0.1〜20重量%の割合で含有されている請求項1から3までのいずれか1項に記載の歯科充填用レジン組成物。
  5. 重合開始剤が、増感剤と還元剤との組合わせから成る光照射により重合反応を起こす光重合開始剤又はレドックス反応等により重合反応を起こす化学重合開始剤である請求項1から4までのいずれか1項に記載の歯科充填用レジン組成物。
  6. 反応生成物が、少なくともCa,Sr,Raから選ばれる1種以上の元素を含有するフルオロアルミノシリケートガラス粉末の有機溶媒スラリー状物と1分子中にカルボン酸基を1個以上含有する飽和有機酸の水溶液との混合物を室温でエイジング後に加熱乾燥することによって作製された反応生成物であり、歯科充填用レジン組成物中に5〜85重量%の割合で含有されている請求項1から5までのいずれか1項に記載の歯科充填用レジン組成物。
  7. 反応生成物が、アルコキシ化合物で修飾されている請求項1から6までのいずれか1項に記載の歯科充填用レジン組成物。
  8. 請求項1から7までのいずれか1項に於いて、更に
    E)コロイダルシリカ、バリウムガラス粉末、少なくともCa,Sr,Raから選ばれる1種以上の元素を含有するフルオロアルミノシリケートガラス粉末の単独若しくは2種類以上から成る充填材を含有することを特徴とする歯科充填用レジン組成物。
  9. 充填材がアルコキシ化合物で修飾されている請求項8に記載の歯科充填用レジン組成物。
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