〔インクジェット記録装置の全体構成〕
図1は本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置の全体構成図である。同図に示したように、このインクジェット記録装置10は、インクの色ごとに設けられた複数の印字ヘッド12K,12C,12M,12Yを有する印字部12と、各印字ヘッド12K,12C,12M,12Yに供給するインクを貯蔵しておくインク貯蔵/装填部14と、記録紙16を供給する給紙部18と、記録紙16のカールを除去するデカール処理部20と、前記印字部12のノズル面(インク吐出面)に対向して配置され、記録紙16の平面性を保持しながら記録紙16を搬送する吸着ベルト搬送部22と、印字部12による印字結果を読み取る印字検出部24と、印字済みの記録紙16(プリント物)を外部に排紙する排紙部26と、を備えている。
図1では、給紙部18の一例としてロール紙(連続用紙)のマガジンが示されているが、紙幅や紙質等が異なる複数のマガジンを併設してもよい。また、ロール紙のマガジンに代えて、又はこれと併用して、カット紙が積層装填されたカセットによって用紙を供給してもよい。
複数種類の記録紙を利用可能な構成にした場合、紙の種類情報を記録したバーコード或いは無線タグなどの情報記録体をマガジンに取り付け、その情報記録体の情報を所定の読取装置によって読み取ることで、使用される用紙の種類を自動的に判別し、用紙の種類に応じて適切なインク吐出を実現するようにインク吐出制御を行うことが好ましい。
給紙部18から送り出される記録紙16はマガジンに装填されていたことによる巻きクセが残り、カールする。このカールを除去するために、デカール処理部20においてマガジンの巻きクセ方向と逆方向に加熱ドラム30で記録紙16に熱を与える。このとき、多少印字面が外側に弱いカールとなるように加熱温度を制御するとより好ましい。
ロール紙を使用する装置構成の場合、図1のように、裁断用のカッター(第1のカッター)28が設けられており、該カッター28によってロール紙は所望のサイズにカットされる。カッター28は、記録紙16の搬送路幅以上の長さを有する固定刃28Aと、該固定刃28Aに沿って移動する丸刃28Bとから構成されており、印字裏面側に固定刃28Aが設けられ、搬送路を挟んで印字面側に丸刃28Bが配置される。なお、カット紙を使用する場合には、カッター28は不要である。
デカール処理後、カットされた記録紙16は、吸着ベルト搬送部22へと送られる。吸着ベルト搬送部22は、ローラ31、32間に無端状のベルト33が巻き掛けられた構造を有し、少なくとも印字部12のノズル面及び印字検出部24のセンサ面に対向する部分が水平面(フラット面)をなすように構成されている。
ベルト33は、記録紙16の幅よりも広い幅寸法を有しており、ベルト面には多数の吸引孔(不図示)が形成されている。図1に示したとおり、ローラ31、32間に掛け渡されたベルト33の内側において印字部12のノズル面及び印字検出部24のセンサ面に対向する位置には吸着チャンバ34が設けられており、この吸着チャンバ34をファン35で吸引して負圧にすることによってベルト33上の記録紙16が吸着保持される。
ベルト33が巻かれているローラ31、32の少なくとも一方にモータ(図1中不図示,図7中符号88として記載)の動力が伝達されることにより、ベルト33は図1上の時計回り方向に駆動され、ベルト33上に保持された記録紙16は図1の左から右へと搬送される。
縁無しプリント等を印字するとベルト33上にもインクが付着するので、ベルト33の外側の所定位置(印字領域以外の適当な位置)にベルト清掃部36が設けられている。ベルト清掃部36の構成について詳細は図示しないが、例えば、ブラシ・ロール、吸水ロール等をニップする方式、清浄エアーを吹き掛けるエアーブロー方式、或いはこれらの組み合わせなどがある。清掃用ロールをニップする方式の場合、ベルト線速度とローラ線速度を変えると清掃効果が大きい。
なお、吸着ベルト搬送部22に代えて、ローラ・ニップ搬送機構を用いる態様も考えられるが、印字領域をローラ・ニップ搬送すると、印字直後に記録紙16の印字面をローラが接触するので画像が滲み易いという問題がある。したがって、本例のように、印字領域では画像面を接触させない吸着ベルト搬送が好ましい。
吸着ベルト搬送部22により形成される記録紙搬送路上において印字部12の上流側には、加熱ファン40が設けられている。加熱ファン40は、印字前の記録紙16に加熱空気を吹き付け、記録紙16を加熱する。印字直前に記録紙16を加熱しておくことにより、インクが着弾後乾き易くなる。
印字部12は、最大紙幅に対応する長さを有するライン型ヘッドを記録紙搬送方向と直交方向(主走査方向)に配置した、いわゆるフルライン型のヘッドとなっている(図2参照)。詳細な構造例は後述するが(図3乃至図5)、各印字ヘッド12K,12C,12M,12Yは、図2に示したように、本インクジェット記録装置10が対象とする最大サイズの記録紙16の少なくとも一辺を超える長さにわたってインク吐出口(ノズル)が複数配列されたライン型ヘッドで構成されている。
記録紙16の送り方向(以下、記録紙搬送方向という。)に沿って上流側から黒(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の順に各色インクに対応した印字ヘッド12K,12C,12M,12Yが配置されている。記録紙16を搬送しつつ各印字ヘッド12K,12C,12M,12Yからそれぞれ色インクを吐出することにより記録紙16上にカラー画像を形成し得る。
このように、紙幅の全域をカバーするフルラインヘッドがインク色ごとに設けられてなる印字部12によれば、副走査方向について記録紙16と印字部12を相対的に移動させる動作を一回行うだけで(即ち1回の副走査で)、記録紙16の全面に画像を記録することができる。これにより、印字ヘッドが主走査方向に往復動作するシャトル型ヘッドに比べて高速印字が可能であり、生産性を向上させることができる。
なお、本例では、KCMYの標準色(4色)の構成を例示したが、インク色や色数の組み合わせについては本実施形態に限定されず、必要に応じて淡インク、濃インクを追加してもよい。例えば、ライトシアン、ライトマゼンタなどのライト系インクを吐出する印字ヘッドを追加する構成も可能である。
図1に示したように、インク貯蔵/装填部14は、各印字ヘッド12K,12C,12M,12Yに対応する色のインクを貯蔵するタンクを有し、各タンクは不図示の管路を介して各印字ヘッド12K,12C,12M,12Yと連通されている。また、インク貯蔵/装填部14は、インク残量が少なくなるとその旨を報知する報知手段(表示手段、警告音発生手段)を備えるとともに、色間の誤装填を防止するための機構を有している。
印字検出部24は、印字部12の打滴結果を撮像するためのイメージセンサを含み、該イメージセンサによって読み取った打滴画像からノズルの目詰まりその他の吐出不良をチェックする手段として機能する。
本例の印字検出部24は、少なくとも各印字ヘッド12K,12C,12M,12Yによるインク吐出幅(画像記録幅)よりも幅の広い受光素子列を有するラインセンサで構成される。このラインセンサは、赤(R)の色フィルタが設けられた光電変換素子(画素)がライン状に配列されたRセンサ列と、緑(G)の色フィルタが設けられたGセンサ列と、青(B)の色フィルタが設けられたBセンサ列と、からなる色分解ラインCCDセンサで構成されている。なお、ラインセンサに代えて、受光素子が二次元配列されて成るエリアセンサを用いることも可能である。
印字検出部24は、各色の印字ヘッド12K,12C,12M,12Yにより印字されたテストパターンを読み取り、各印字ヘッドの吐出検出を行う。吐出判定は、吐出の有無、ドットサイズの測定、ドット着弾位置の測定などで構成される。
印字検出部24の後段には、後乾燥部42が設けられている。後乾燥部42は、印字された画像面を乾燥させる手段であり、例えば、加熱ファンが用いられる。印字後のインクが乾燥するまでは印字面と接触することは避けたほうが好ましいので、熱風を吹き付ける方式が好ましい。
多孔質のペーパーに染料系インクで印字した場合などでは、加圧によりペーパーの孔を塞ぐことでオゾンなど、染料分子を壊す原因となるものと接触することを防ぐことで画像の耐候性がアップする効果がある。
後乾燥部42の後段には、加熱・加圧部44が設けられている。加熱・加圧部44は、画像表面の光沢度を制御するための手段であり、画像面を加熱しながら所定の表面凹凸形状を有する加圧ローラ45で加圧し、画像面に凹凸形状を転写する。
こうして生成されたプリント物は排紙部26から排出される。本来プリントすべき本画像(目的の画像を印刷したもの)とテスト印字とは分けて排出することが好ましい。このインクジェット記録装置10では、本画像のプリント物と、テスト印字のプリント物とを選別してそれぞれの排出部26A、26Bへと送るために排紙経路を切り替える不図示の選別手段が設けられている。なお、大きめの用紙に本画像とテスト印字とを同時に並列に形成する場合は、カッター(第2のカッター)48によってテスト印字の部分を切り離す。カッター48は、排紙部26の直前に設けられており、画像余白部にテスト印字を行った場合に本画像とテスト印字部を切断するためのものである。カッター48の構造は前述した第1のカッター28と同様であり、固定刃48Aと丸刃48Bとから構成される。
また、図1には示さないが、本画像の排出部26Aには、オーダー別に画像を集積するソーターが設けられる。
次に、印字ヘッドの構造について説明する。インク色ごとに設けられている各印字ヘッド12K,12C,12M,12Yの構造は共通しているので、以下、これらを代表して符号50によって印字ヘッドを示すものとする。
本例では、インクジェット記録装置10によってインク滴を打滴される被吐出媒体に紙類を例示したが、被吐出媒体には紙類以外にも、金属板、樹脂板、木、布、皮など、インクを定着させることができ、印字ヘッド50に対して相対的に搬送可能であると共に、印字ヘッド50とのクリアランスを確保できる様々なメディアを適用することができる。
図3(a) は印字ヘッド50の構造例を示す平面透視図であり、図3(b) はその一部の拡大図である。また、図3(c) は印字ヘッド50の他の構造例を示す平面透視図、図4はインク室ユニットの立体的構成を示す断面図であり、図4(a) は図3(a) 、(b) 中の4a −4a 線に沿う断面図、図4(b) は図3(b) 中の4b −4b 線に沿う断面図である。
記録紙面上に印字されるドットピッチを高密度化するためには、印字ヘッド50におけるノズルピッチを高密度化する必要がある。本例の印字ヘッド50は、図3(a) 〜(c) 及び図4に示したように、インク滴が吐出されるノズル51と、各ノズル51に対応する圧力室52等からなる複数のインク室ユニット53を主走査方向に対して所定の角度を有するライン上に並ぶノズル列を含むようにマトリックス状に配置させた構造を有し、これにより見かけ上のノズルピッチの高密度化を達成している。
即ち、本実施形態における印字ヘッド50は、図3(a) 、(b) に示すように、インクを吐出する複数のノズル51が記録紙搬送方向と略直交する方向に記録紙16の全幅に対応する長さにわたって配列された1列以上のノズル列を有するフルラインヘッドである。
また、各ノズルには記録紙搬送方向に略平行な方向にノズル51から吐出されるインク滴の飛翔方向を偏向させる飛翔方向偏向手段1を備えている。飛翔方向偏向手段1はノズル51を挟んで対向するように記録紙搬送方向に略平行な方向に沿って並べた1対の電極2、3を含んでいる。
更に、図3(c) に示すように、短尺の2次元に配列されたヘッド50’を千鳥状に配列して繋ぎ合わせて、印字媒体の全幅に対応する長さとしてもよい。
各ノズル51に対応して設けられている圧力室52は、その平面形状が概略正方形となっており、対角線上の両隅部にノズル51と供給口54が設けられている。各圧力室52は供給口54を介して共通流路55と連通されている。
圧力室52の天面を構成している加圧板56には個別電極57を備えたアクチュエータ58が接合されており、個別電極57に駆動電圧を印加することによってアクチュエータ58が変形してノズル51からインクが吐出される。インクが吐出されると、共通流路55から供給口54を通って新しいインクが圧力室52に供給される。
図4(a) 、(b) に示した電極2及び電極3の間に電界E(破線で図示)を発生させると、該電界がノズル51から吐出されるインク滴に作用して、該インク滴の飛翔方向が本来の飛翔方向から角度θだけずれた方向に偏向される。図4(b) に示すように、電界Eの方向は電極2から電極3に向かう方向(即ち、記録紙搬送方向と略平行な方向)である。
ノズル51から吐出されるインク滴に電界Eを作用させると、インク滴の本来の飛翔方向から記録紙搬送方向へ角度θだけ飛翔方向が偏向され、飛翔方向が偏向されたインク滴の着弾位置は、本来の着弾位置sから記録紙搬送方向に略平行な方向にyだけずれた位置s’に着弾位置が偏向される。
即ち、印字ヘッド50のノズル形成面から記録紙16までの距離Z、本来のインクの飛翔方向と偏向されたインクの飛翔方向とのなす角(飛翔偏向角度)θ、着弾位置変更量yの関係は、次式〔数1〕で表される。
〔数1〕
y=z×tan θ
かかる構造を有する多数のインク室ユニット53を図5に示す如く、主走査方向に沿う行方向及び主走査方向に対して直交しない一定の角度θを有する斜めの列方向に沿って一定の配列パターンで格子状に配列させた構造になっている。主走査方向に対してある角度θの方向に沿ってインク室ユニット53を一定のピッチdで複数配列する構造により、主走査方向に並ぶように投影されたノズルのピッチPはd× cosθとなる。
即ち、主走査方向については、各ノズル51が一定のピッチPで直線状に配列されたものと等価的に取り扱うことができる。このような構成により、主走査方向に並ぶように投影されるノズル列が1インチ当たり2400個(2400ノズル/インチ)におよぶ高密度のノズル構成を実現することが可能になる。以下、説明の便宜上、ヘッドの長手方向(主走査方向)に沿って各ノズル51が一定の間隔(ピッチP)で直線状に配列されているものとして説明する。
なお、用紙の全幅に対応したノズル列を有するフルラインヘッドで、ノズルを駆動する時には、(1)全ノズルを同時に駆動する、(2)ノズルを片方から他方に向かって順次駆動する、(3)ノズルをブロックに分割して、ブロックごとに片方から他方に向かって順次駆動する等の駆動制御が行われ、記録紙16の幅方向(記録紙搬送方向と直交する方向)に1ライン又は1個の帯状を印字するようなノズルの駆動を主走査と定義する。
特に、図5に示すようなマトリクスに配置されたノズル51を駆動する場合は、上記(3)のような主走査が好ましい。即ち、ノズル51-11 、51-12 、51-13 、51-14 、51-15 、51-16 を1つのブロックとし(他にはノズル51-21 、…、51-26 を1つのブロック、ノズル51-31 、…、51-36 を1つのブロック、…として)記録紙16の搬送速度に応じてノズル51-11 、51-12 、…、51-16 を順次駆動することで記録紙16の幅方向に1ラインを印字する。
一方、上述したフルラインヘッドと用紙とを相対移動することによって、上述した主走査で形成された1ライン又は1個の帯状の印字を繰り返し行うことを副走査と定義する。
なお、本発明の実施に際してノズルの配置構造は図示の例に限定されない。また、本実施形態では、ピエゾ素子(圧電素子)に代表されるアクチュエータ58の変形によってインク滴を飛ばす方式が採用されているが、本発明の実施に際して、インクを吐出させる方式は特に限定されず、ピエゾジェット方式に代えて、ヒータなどの発熱体によってインクを加熱して気泡を発生させ、その圧力でインク滴を飛ばすサーマルジェット方式など、各種方式を適用できる。
図6はインクジェット記録装置10におけるインク供給系の構成を示した概要図である。
インク供給タンク60はインクを供給するための基タンクであり、図1で説明したインク貯蔵/装填部14に設置される。インク供給タンク60の形態には、インク残量が少なくなった場合に、不図示の補充口からインクを補充する方式と、タンクごと交換するカートリッジ方式とがある。使用用途に応じてインク種類を変える場合には、カートリッジ方式が適している。この場合、インクの種類情報をバーコード等で識別して、インク種類に応じた吐出制御を行うことが好ましい。なお、図6のインク供給タンク60は、先に記載した図1のインク貯蔵/装填部14と等価のものである。
図6に示したように、インク供給タンク60と印字ヘッド50の中間には、異物や気泡を除去するためにフィルタ62が設けられている。フィルタ・メッシュサイズは、ノズル径と同等若しくはノズル径以下(一般的には、20μm程度)とすることが好ましい。
なお、図6には示さないが、印字ヘッド50の近傍又は印字ヘッド50と一体にサブタンクを設ける構成も好ましい。サブタンクは、ヘッドの内圧変動を防止するダンパー効果及びリフィルを改善する機能を有する。
また、インクジェット記録装置10には、ノズル51の乾燥防止又はノズル近傍のインク粘度上昇を防止するための手段としてのキャップ64と、ノズル面の清掃手段としてのクリーニングブレード66とが設けられている。
これらキャップ64及びクリーニングブレード66を含むメンテナンスユニットは、不図示の移動機構によって印字ヘッド50に対して相対移動可能であり、必要に応じて所定の退避位置から印字ヘッド50下方のメンテナンス位置に移動される。
キャップ64は、図示せぬ昇降機構によって印字ヘッド50に対して相対的に昇降変位される。電源OFF時や印刷待機時にキャップ64を所定の上昇位置まで上昇させ、印字ヘッド50に密着させることにより、ノズル面をキャップ64で覆う。
印字中又は待機中において、特定のノズル51の使用頻度が低くなり、ある時間以上インクが吐出されない状態が続くと、ノズル近傍のインク溶媒が蒸発してインク粘度が高くなってしまう。このような状態になると、アクチュエータ58が動作してもノズル51からインクを吐出できなくなってしまう。
このような状態になる前に(アクチュエータ58の動作により吐出が可能な粘度の範囲内で)アクチュエータ58を動作させ、その劣化インク(粘度が上昇したノズル近傍のインク)を排出すべくキャップ64(インク受け)に向かって予備吐出(パージ、空吐出、つば吐き、ダミー吐出)が行われる。
また、印字ヘッド50内のインク(圧力室52内)に気泡が混入した場合、アクチュエータ58が動作してもノズルからインクを吐出させることができなくなる。このような場合には印字ヘッド50にキャップ64を当て、吸引ポンプ67で圧力室52内のインク(気泡が混入したインク)を吸引により除去し、吸引除去したインクを回収タンク68へ送液する。
この吸引動作は、初期のインクのヘッドへの装填時、或いは長時間の停止後の使用開始時にも粘度上昇(固化)した劣化インクの吸い出しが行われる。なお、吸引動作は圧力室52内のインク全体に対して行われるので、インク消費量が大きくなる。したがって、インクの粘度上昇が小さい場合には予備吐出を行う態様が好ましい。
クリーニングブレード66は、ゴムなどの弾性部材で構成されており、図示せぬブレード移動機構(ワイパー)により印字ヘッド50のインク吐出面(ノズル板表面)に摺動可能である。ノズル板にインク液滴又は異物が付着した場合、クリーニングブレード66をノズル板に摺動させることでノズル板表面を拭き取り、ノズル板表面を清浄する。なお、該ブレード機構によりインク吐出面の汚れを清掃した際に、該ブレードによってノズル51内に異物が混入することを防止するために予備吐出が行われる。
図7はインクジェット記録装置10のシステム構成を示す要部ブロック図である。インクジェット記録装置10は、通信インターフェース70、システムコントローラ72、メモリ74、モータドライバ76、ヒータドライバ78、プリント制御部80、画像バッファメモリ82、ヘッドドライバ84等を備えている。
通信インターフェース70は、ホストコンピュータ86から送られてくる画像データを受信するインターフェース部である。通信インターフェース70にはUSB(Universal Serial Bus)、IEEE1394、イーサネット(登録商標)、無線ネットワークなどのシリアルインターフェースやセントロニクスなどのパラレルインターフェースを適用することができる。この部分には、通信を高速化するためのバッファメモリ(不図示)を搭載してもよい。ホストコンピュータ86から送出された画像データは通信インターフェース70を介してインクジェット記録装置10に取り込まれ、一旦メモリ74に記憶される。メモリ74は、通信インターフェース70を介して入力された画像を一旦格納する記憶手段であり、システムコントローラ72を通じてデータの読み書きが行われる。メモリ74は、半導体素子からなるメモリに限らず、ハードディスクなど磁気媒体を用いてもよい。
システムコントローラ72は、通信インターフェース70、メモリ74、モータドライバ76、ヒータドライバ78等の各部を制御する制御部である。システムコントローラ72は、中央演算処理装置(CPU)及びその周辺回路等から構成され、ホストコンピュータ86との間の通信制御、メモリ74の読み書き制御等を行うとともに、搬送系のモータ88やヒータ89を制御する制御信号を生成する。
モータドライバ76は、システムコントローラ72からの指示にしたがってモータ88を駆動するドライバ(駆動回路)である。ヒータドライバ78は、システムコントローラ72からの指示にしたがって後乾燥部42等のヒータ89を駆動するドライバである。
プリント制御部80は、システムコントローラ72の制御に従い、メモリ74内の画像データから印字制御用の信号を生成するための各種加工、補正などの処理を行う信号処理機能を有し、生成した印字制御信号(印字データ)をヘッドドライバ84に供給する制御部である。プリント制御部80において所要の信号処理が施され、該画像データに基づいてヘッドドライバ84を介して印字ヘッド50のインク液滴の吐出量や吐出タイミングの制御(打滴制御)が行われる。これにより、所望のドットサイズやドット配置が実現される。
プリント制御部80には画像バッファメモリ82が備えられており、プリント制御部80における画像データ処理時に画像データやパラメータなどのデータが画像バッファメモリ82に一時的に格納される。なお、図7において画像バッファメモリ82はプリント制御部80に付随する態様で示されているが、メモリ74と兼用することも可能である。また、プリント制御部80とシステムコントローラ72とを統合して一つのプロセッサで構成する態様も可能である。
また、プリント制御部80内の偏向制御部85は、電極駆動部4を介して各ノズルに備えられた電極2及び電極3の駆動を制御する。即ち、印字データに基づいて各ノズルから吐出されるインク滴の飛翔方向を偏向させるときには電極駆動部4に指令信号を与えて、電極2及び電極3間に電界を発生させる。
ヘッドドライバ84はプリント制御部80から与えられる印字データに基づいて各色の印字ヘッド12K,12C,12M,12Yのアクチュエータを駆動する。ヘッドドライバ84にはヘッドの駆動条件を一定に保つためのフィードバック制御系を含んでいてもよい。
プログラム格納部(不図示)には各種制御プログラムが格納されており、システムコントローラ72の指令に応じて、制御プログラムが読み出され、実行される。前記プログラム格納部はROMやEEPROMなどの半導体メモリを用いてもよいし、磁気ディスクなどを用いてもよい。外部インターフェースを備え、メモリカードやPCカードを用いてもよい。もちろん、これらの記録媒体のうち、複数の記録媒体を備えてもよい。
なお、前記プログラム格納部は動作パラメータ等の記録手段(不図示)と兼用してもよい。
印字検出部24は、図1で説明したように、ラインセンサを含むブロックであり、記録紙16に印字された画像を読み取り、所要の信号処理などを行って印字状況(吐出の有無、打滴のばらつきなど)を検出し、その検出結果をプリント制御部80に提供する。
プリント制御部80は、必要に応じて印字検出部24から得られる情報に基づいて印字ヘッド50に対する各種補正を行う。
なお、図1に示した例では、印字検出部24が印字面側に設けられており、ラインセンサの近傍に配置された冷陰極管などの光源(不図示)によって印字面を照明し、その反射光をラインセンサで読み取る構成になっているが、本発明の実施に際しては他の構成でもよい。
〔打滴制御〕
次に、本インクジェット記録装置10の打滴制御について詳説する。
本インクジェット記録装置10では、同一吐出孔(ノズル51)から連続的に打滴されるインクによって隣り合うドットが重なるように形成される場合にも、着弾干渉によるドット形状異常の発生を防止する打滴制御が実行される。
先ず、印字ヘッド50から打滴されたインク滴によって記録紙16上に形成されるドットについて説明する。
図8は、印字ヘッド50から打滴されたインク滴によって形成されたドット100、102、104、106を示している。ドット100は主走査方向に隣り合うドット102と一部が重なるように形成され、副走査方向に隣り合うドット104と一部が重なるように形成されている。また、斜め方向に隣り合うドット106とは重ならないように形成されており、ドット100とドット106とは重なりあう部分はない。
言い換えると、主走査方向のドットピッチをPtm、副走査方向のドットピッチをPts(但し、Ptm=Pts=Pt )、形成されるドットの直径(以下、ドット径と記載)をDとすると、図8に示したドット100、102、104、106は、次式〔数2〕に示す関係を有している。
〔数2〕
D=Pt ×2 1/2
また、図9に示す例では、ドット100、は斜め方向に隣り合うドット106とも一部が重なるように形成されており、ドット100、102、104、106は、次式〔数3〕に示す関係を有している。
〔数3〕
D=Pt ×2
本インクジェット記録装置10では、副走査方向のドット列 (同一ノズルから打滴されるインク滴によって形成されるドット列)を形成する際に、副走査方向に連続して行われる打滴では、先の打滴或いは後の打滴のうち少なくとも何れか一方の打滴におけるインク滴の飛翔方向を副走査方向に沿って偏向させ、ドットの着弾位置を副走査方向に所定の量だけシフトさせる打滴制御が行われる。また、該シフト量は副走査方向のドットピッチPtsの整数倍となるように決められる。副走査方向の着弾位置変更量y(本来の着弾位置からの変位量)は、2種類以上の任意の整数Iを用いて、次式〔数4〕で表される。
〔数4〕
y=I×Pt
なお、副走査方向の着弾位置変更量yには長さの単位(mm、μm 等)が適用される。
即ち、同一ノズルを用いて連続的に実行される打滴では、隣り合うドットを形成するインク滴は連続して打滴されず、また、副走査方向に連続する打滴では、インク滴の飛翔方向を副走査方向に沿って偏向させて、ノズル直下である本来の着弾位置から副走査方向へIドット分シフトさせるように打滴制御が行われる。
言い換えると整数Iは副走査方向へ何ドット分シフトさせるかを表す副走査方向のシフト量を表している。
図10は、インクジェット記録装置10によって形成された副走査方向のドット列を時系列順に並べた図である。図10において、縦の系列は副走査方向を示し、横の系列は左から右へ打滴タイミング(時間)を時間 (時刻)経過順に示している。
また、実線で示したドットは既に形成されているドットであり、破線で示したドットは次の打滴タイミング以降に形成されるドット(当該タイミングでは形成されていないドット)である。また、2点破線で示したドットは、当該タイミングで打滴が行われ形成されたドットである。
ドット内に示した数字は打滴順序を示し、該数字の添え字は、符号がシフト方向、数字が副走査方向のシフト量Iを表している。シフト方向の+は記録紙搬送方向(副走査方向)の上流側にインク滴の飛翔方向を偏向させることを示し、−は記録紙搬送方向の下流側にインク滴の飛翔方向を偏向させることを示している。副走査方向のシフト量Iを示す数字はドット数で表されている。
例えば、タイミングt1 で打滴されるドット110には1+0と表示されている。これはタイミングt1 で打滴され、シフト量がゼロの(即ち、シフトさせない)ドットを示している。同様に、タイミングt2 で打滴されるドット112には2+2と表示されており、これはタイミングt2 で打滴され、シフト方向が記録紙搬送方向の上流側方向に2ドット分シフトした位置に飛翔方向が偏向されて打滴が行われる。
ここで、インク滴の飛翔方向は、「記録紙搬送方向の上流側」を単に「正方向」、「下流側」を単に「負方向」と記載することがある。
図10によれば、タイミングt1 では飛翔方向が偏向されないドット110を形成する打滴が行われる。次の吐出タイミングt2 では正方向に2ドット分シフトさせた位置にドット112が形成される。更に、タイミングt3 では負方向に1ドット分シフトさせた位置にドット114が形成され、タイミングt4 では正方向に1ドット分シフトさせた位置にドット116が形成され、タイミングt5 では負方向に2ドット分シフトさせたドット位置にドット118が形成される。タイミングt6 ではタイミングt1 と同様にシフト量がゼロのドット120が形成される。
図10に示した例では、副走査方向のシフト量Iとして0、±1、±2の5種類の整数を適用したが、副走査方向のシフト量Iは3種類以上の整数が含まれていればよい。なお、副走査方向のシフト量Iに2種類の整数を適用する場合には、連続して打滴される液滴によって形成されるドット間の距離が2ドット分以上となるように打滴制御が行われる。
このようにインク滴の打滴を制御すると、タイミングt3 で初めて隣り合うドットを形成するインク滴が打滴される。即ち、タイミングt1 の吐出周期の2周期後のタイミングt3 で、タイミングt1 で打滴されたインクによって形成されるドット110に隣り合うドット114を形成するインクが打滴されるので、2周期の間にドット110のインク滴の浸透または定着が進み、ドット114を形成するインク滴が打滴されても着弾干渉が起こらない。
同様に、タイミングt4 ではタイミングt2 で打滴されたインク滴によって形成されるドット112に隣り合うドット116を形成するインク滴が打滴されるが、2周期の間にドット112を形成するインク滴の浸透または定着が進み、タイミングt4 での副走査方向に隣り合うドット116を形成させるインク滴の打滴を行っても着弾干渉は発生しない。
このように、印字ヘッド50と記録紙16との相対関係を変えずに、一定の打滴周期及び一定の搬送速度を保ちながらシングルパス印字を行っても、着弾干渉が起こらず、所定の印字速度を確保できる。なお、打滴周期(吐出周期)、記録紙16の搬送速度などの打滴制御が変わると、これに合わせて液滴の飛翔方向の偏向条件も変更される。
図11には、飛翔偏向制御パターンを示している。図11では、たて軸には副走査方向のシフト量I、横軸には副走査方向搬送量(単位、μm )を示してある。インクジェット記録装置10は、図11に示した飛翔偏向制御パターンでは、副走査方向に1μm ごとに、各打滴タイミングにおいて所定のシフト量を持って打滴が行われることを示している。このような飛翔偏向制御パターンを繰り返しながら記録紙16上に所望の画像を形成させる。ここでは、便宜上Ptm=Pts=Pt =1μm で説明しているが、解像度1200dpi の場合、Pt ≒10μm となる。
ここで、副走査方向にインク滴の飛翔方向を偏向させる方法には特許文献3 (特開平2000−177115)に記載された、インクを帯電させ(帯電インクを用いてもよい)インク滴の飛翔空間に電界を作用させて、インク滴の飛翔方向を偏向させる方法を用いてもよいし、特許文献4(特開平2000−185403)に記載されたバブル発生ヒータを1ノズルに対して副走査方向に複数備え、これらのヒータを選択的にオンオフさせてインクの飛翔方向を偏向させる方法を用いてもよい。もちろん、インクの飛翔方向を偏向させる方法に上記以外の方法を適用してもよい。
次に、図12を用いて説明した打滴制御の変形例を説明する。
図12には、図10に示した打滴制御の変形例を示している。図12中、図10と同一又は類似する部分には同一の符号を付し、その説明は省略する。
図12では、整数Iには−2及び2が適用されている。即ち、1種類の整数をkとするときに副走査方向のシフト量Iと整数kとの関係は、次式〔数5〕で表される。
〔数5〕
I=±k
但し、kは2以上の正の整数(即ち、2以上の自然数)である。
図12に示す変形例では、タイミングt1 で打滴されるドット110’は正方向に2ドット分シフトさせた位置にドットが形成され、タイミングt2 では負方向に2ドット分シフトさせた位置にドット112’が形成される。更に、タイミングt3 では正方向の2ドット分、タイミングt4 では負方向に2ドット分シフトさせた位置にドット114’及び116’が形成される。タイミングt5 以降も交互に正方向に2ドット分、負方向に2ドット分シフトさせた位置にドット118’、120’、122’、124’、126’、128’を形成するように、インク滴の飛翔方向が制御される。
図12に示した変形例では、タイミングt4 で初めて副走査方向に隣り合うドットを形成する打滴が行われる。即ち、タイミングt1 で打滴されたインク滴によって形成されるドット110’と隣り合うドット116’を形成するインクが打滴されるのはタイミングt4 であり、ドット110’を形成するインク滴は3周期の間に浸透または定着が進行するので、タイミングt4 でドット116’を形成するインク滴を打滴しても着弾干渉が発生しない。
図12に示した例では隣り合うドットを形成するインク滴の打滴は3周期分の時間が経過後に行われるので、図10に示した例に比べて1周期分余裕があり、打滴時間間隔を短くすることができる。
図13には、図12に示したドット形成の飛翔偏向制御パターンを示す。図13に示した飛翔偏向制御パターンを繰り返しながら記録紙16上に所望の画像を形成させる。
なお、図10及び図12はドット内の数字及び添え字を記載するために隣り合うドットが重なるように表されていないが、実際に形成されるドットは図8及び図9に示すように隣同士が重なっている。
図14には、ドット径が異なるドットを副走査方向に連続して形成させる例を示している。ドット200のドット径はD1、ドット202のドット径はD2、ドット204のドット径はD3であり、このようなドットを形成させるために、ドット200を形成する打滴に連続してドット204を形成させる打滴が行われる場合、ドット200とドット204が重ならない条件は、次式〔数6〕に示すとおりである。
〔数6〕
D1 +D3 <2×Pts
前記〔数5〕を満足するようにドット径D1 、D3 及び副走査方向のドットピッチPtsを設定すればよい。
即ち、1つおきのドットが重ならない条件を確保すれば、ドット200とドット204を連続して打滴しても、両ドットの重なる部分がないので、図10の場合ではドット112とドット114を連続して打滴することが可能である。
本例では、副走査方向について着弾干渉を防止する打滴制御について説明したが、図8及び図9に示すように、主走査方向に隣り合うドットも重なり合うように形成されるので、主走査方向に隣り合うドットを形成させるインク滴が同時に記録紙16上へ着弾しないように打滴制御することが好ましい。
図5に示すように、マトリクス状に配列されたノズル列を有する印字ヘッド50では、主走査方向に隣り合うドットを形成するノズルには、例えば、ノズル51-11 と51-12 がある。
ノズル51-11 と51-12 とは、副走査方向に距離d ×sin θだけ離れて配置されており、ノズル51-11 から吐出されるインク滴と51-12 から吐出されるインク滴とは吐出タイミングがずれているので、着弾時間に差が生じることになる。
即ち、主走査方向に隣り合うドットを形成させるインク滴を同時に着弾させないためには、主走査方向に隣り合うドットを形成するインク滴を吐出させるノズルを副走査方向に所定の距離だけシフトさせて配置し、主走査方向に隣り合うドットを形成するインク滴の着弾時間に差を設ける。
着弾時間の差は、記録紙16の搬送速度、インク滴の飛翔速度、ノズル間の距離(シフト量)、記録紙16の種類とインクの種類から決まるインクの浸透時間または定着時間から求められる。即ち、インクの浸透時間に合わせて記録紙16の搬送速度を制御して主走査方向に隣り合うドットを形成するインク滴の好ましい着弾時間の差を実現する。記録紙16の種類やインクの種類ごとに浸透時間と記録紙16の搬送速度やインク滴の飛翔速度関係をデータテーブル化してメモリ手段(例えば、図7の画像メモリ74やシステムコントローラなどのMPUに内蔵されたメモリ等)に記録しておいてもよい。
図15は、図8に示した主走査方向及び副走査方向に隣り合うドット同士は重なり合い、斜め方向に隣り合うドットは重ならないドットを形成 (配置)する条件で記録紙16に形成されるドットを示し、図16は、図9に示した主走査方向、副走査方向及び斜め方向に隣り合うドット同士が重なり合うドットを形成 (配置)する条件で記録紙16に形成されたドットを示している。
図15及び図16中、図10及び図12と同一又は類似する部分には同一の符号を付し、その説明は省略する。
図15では、たて方向の系列は副走査方向を表し、横方向の系列は主走査方向を表している。また副走査方向は図15中上側が上流側、下側が下流側を示している。
図15に示したドット列は、副走査方向には図10に示した打滴制御が適用される。一方、主走査方向に隣り合うドットを形成するノズルは副走査方向に副走査方向のドットピッチPtsだけずれて配置されており、主走査方向に隣り合うドットは副走査方向の打滴サイクル分だけ遅れて打滴が行われる。なお、ドット300、302、304は図15では主走査方向に隣り合っていないが、実際に、これらのドットは主走査方向に隣り合うように形成される。
図15ではドット内に示した数字が同一であるドットは主走査方向に隣り合うドットである。
図16では、主走査方向に隣り合うドットを形成させるノズルは副走査方向に副走査方向のドットピッチの2倍(2×Pts)だけずれて配置されている。
本実施形態では、インク滴の着弾位置を正方向と負方向に交互にシフトさせる態様を例示したが、正方向と負方向を数周期ごとに入れ換える態様を適用してもよい。
〔印字速度〕
次に、印字速度と本発明に係る打滴制御との関係について説明する。
図16には、はがきサイズの記録紙16を1分間に35枚印字する場合に形成されるドット列を示している。
図16に示した例では、記録紙16の搬送速度は1.67mm/secであり、ドット密度を600dpi とするとドットピッチPt は42.2μm になり、打滴周期は25.3msecになる。
使用する媒体(記録紙16)の浸透時間が上述した一般的なインクの浸透時間20msecを適用できれば、本発明に係る打滴制御を適用しなくても、この搬送速度1.67mm/secでも着弾干渉せずに印字が可能である。
しかし、生産能力を上げるために搬送速度を略10mm/sec(上述した例の略6倍)に高めようとすると、打滴周期は略4.2msecとなるので、本発明に係る打滴制御を適用しないとインクの浸透が間に合わず、着弾干渉が発生しドット形状が崩れてしまい所望の画像を形成することができない。
そこで、本発明に係る打滴制御を適用して、図17に示すように、ノズル直下に形成されるドットから4個隣のドット位置に飛翔偏向をシフトさせて記録紙搬送方向の上流側及び下流側交互に飛翔偏向させると、隣り合うドットを形成するインク滴の着弾時間差は7周期分の略25.3msecになり、浸透時間20msecより大きくなるので、着弾干渉を防止できる。
図17は、副走査方向のシフト量(偏向シフト量)Iに±4を適用して形成されたドットを示している。図17では図10及び図12と同様に、横の系列は時間を示し、たての系列は副走査方向(上流側が下方向、下流側が上方向)を示している。また、ドット内に記載されている数字は打滴タイミングを表している。
図17によれば、タイミングt9 ではタイミングt2 で打滴されたインクによって形成されたドット400と副走査方向に隣り合うドット402を形成するインク滴の打滴が行われる。したがって、7周期分の着弾時間の差(略25.3msec)があり、これは一般的なインクの浸透時間20msecより大きいので、ドット400を形成するインク滴が浸透してからドット402が打滴されることになる。
更に、タイミングt11以降の打滴では、ドット400及びドット402以外にも隣り合うドットを形成するインク滴の着弾が行われるが、何れの場合にも7周期分以上の着弾時間差を有しているので、着弾干渉が発生せず、所望の画像をえることができる。
一般に、隣り合うドットが着弾するまでの時間Tは、副走査方向のシフト量I(±k)と打滴周期Tf を用いて、次式〔数7〕で表される。
〔数7〕
T=Tf ×(2k−1)
この時間T が浸透時間To より大きくなる(即ち、T≧To )となるように〔数7〕に示したkを設定すればよい。
言い換えると、前記〔数7〕を満足するような副走査方向のシフト量Iを設定すればよい。これは、次式〔数8〕に示される。
〔数8〕
k≧{(To /Tf )+1}/2
これは、次式〔数9〕をIについて変形させた式である。
〔数9〕
Tf ×(2k−1)≧To
〔飛翔偏向量〕
次に、飛翔偏向量(飛翔角度)について説明する。
図3及び図4に示すように、本インクジェット記録装置10にはインクの飛翔方向を偏向させる飛翔方向偏向手段を備えている。
図4(b) に示すように、印字ヘッド50のノズル形成面と記録紙16との距離z(クリアランス)は略2mmである。副走査方向のシフト量y、印字ヘッド50と記録紙16とのクリアランスzからインク滴の飛翔偏向角度θは、次式〔数10〕で求められる。
〔数10〕
θ=arctan(y/z)
但し、〔数10〕は〔数1〕をθについて変形させた式である。
即ち、ドット密度が600dpi とすると、ドットピッチは42.2μm になり、図17に示した副走査方向のシフト量が4ドット分の場合、副走査方向のシフト量yは0.08となり、飛翔偏向角度θは4.82°(deg) となる。
また、副走査方向のシフト量を11ドット分とすると、飛翔偏向角度θは13.1°になる。
上記の如く構成されたインクジェット記録装置10は、少なくとも副走査方向に隣り合うドットが重なるように形成される副走査方向に沿ったドット列を形成する際に、連続した打滴では先の打滴によるインク滴或いは後の打滴によるインク滴のうち少なくとも何れか一方のインク滴の飛翔方向を副走査方向に沿って偏向させるので、連続した打滴では隣り合うドットが形成されず、着弾干渉が発生しない。
副走査方向にインク滴の飛翔方向を偏向させる際の偏向量は、副走査方向のドットピッチの整数倍(I倍)に設定される。なお、該偏向方向には正方向及び負方向が含まれていてもよい。更に、打滴制御シーケンスを簡略化させるために該偏向量を副走査方向のドットピッチの±k倍(kは2以上の自然数、即ち、I=±k)としてもよい。
隣り合うドットが着弾する時間は副走査方向のシフト量Iと副走査方向の打滴周期TfからTf ×(2k−1)で表される。インクの浸透時間をTo とすると、Tf ×(2k−1)≧To を満たすIを設定するように構成されるので、ドット密度、記録紙16の搬送速度、インクの浸透時間などの種々のパラメータ条件に対して着弾干渉を防止しうる飛翔方向偏向パターンの設定が可能になる。
また、ノズルが2次元状に配列されたマトリクスヘッドを用いて副走査方向だけでなく主走査方向にも重なるドットを形成させる場合には、主走査方向に隣り合うドットを形成するインク滴を吐出させるノズルを副走査方向に所定の距離だけシフトさせて配置させるように構成すると、主走査方向に隣り合うドットを形成するインク滴の着弾時間に差を設けることができ、高密度打滴に適した2次元配列ノズルの配列パターンを有効に活用することができる。
本実施形態では、記録紙の記録幅に対応した長さのノズル列を備えたフルライン型の印字ヘッドを例示したが、本発明の適用範囲は上述したフルライン型の印字ヘッドに限定されず、記録紙の記録幅よりも短い長さのノズル列を有し、記録紙の幅方向の往復運動するシャトル式印字ヘッドにも適用可能である。中でも1回のシャトル走査で印字ヘッドが走査した領域の画像を完全に形成終了する1パスシャトル式(シングルパスシャトル式)では特に有効である。
一方、記録紙の間欠送り量を印字ヘッドの副走査方向の印字長さより小さくして、同じ画像領域を複数回の走査で印字する方式でも本発明の効果を得ることができる。
図18を用いて、シングルパスシャトル式を用いて記録紙16上に印字を行う方法について説明する。
図18には、シャトル式印字ヘッドを用いて印字される記録紙16の印字領域を示している。図18に示すように、該印字ヘッドのシャトル走査幅(主走査方向の走査幅)は主走査方向の印字可能幅より大きく設定されている。
1回目のシャトル走査では印字領域501の印字が行われる。印字領域501の副走査方向の長さは印字ヘッドの印字有効長さと略同一である。
2回目のシャトル走査では印字領域502の印字が行われ、続いて印字領域503の印字が行われる。このようにして主走査方向に印字ヘッドを1回走査させると、該印字ヘッドと記録紙16とを副走査方向へ相対的に移動させて、順次印字が行われる。
i-1 番目のシャトル走査で印字領域504の印字が行われ、i 番目のシャトル走査で印字領域505の印字が行われると記録紙16の全面に印字が行われ、記録紙16には所望の画像が形成される。
なお、1回の主走査への移動では、一方方向に印字ヘッドを移動させて当該印字領域の主走査方向への印字を行ってもよいし、印字ヘッドを往復移動させて当該印字領域の主走査方向への印字を行ってもよい。
即ち、印字領域501の印字を行う際には印字ヘッドを主走査方向の一方の方向(例えば、図18の左から右方向)に移動させ、印字領域502の印字を行う際には主走査方向のもう一方の方向(例えば、図18の右から左の方向)に移動させるように制御してもよい。
シャトル式印字ヘッドでは、該ヘッドと記録紙16とを主走査方向に相対移動させる主走査方向移動手段が備えられている。該主走査方向移動手段は固定された記録紙16に対して印字ヘッドを移動させてもよいし、固定された印字ヘッドに対して記録紙16を移動させてもよい。また、印字ヘッド及び記録紙16の両方を移動させてもよい。
また、隣り合う印字領域(例えば、印字領域501と印字領域502)の境界では、印字領域が重ならないように制御される。
本実施形態では液滴の吐出ヘッドとしてインクジェット記録装置に用いられるインクジェットヘッドを例示したが、本発明は、ウエハやガラス基板、エポキシなどの基板類等の被吐出媒体上に液類(水、薬液、レジスト、処理液)を吐出させて画像、回路配線、加工パターンなどの立体形状を形成させる液吐出装置に用いられる吐出ヘッドに適用可能である。
10…インクジェット記録装置、16…記録紙、22…吸着ベルト搬送部、50…印字ヘッド、72…システムコントローラ、80…プリント制御部、100,102,104,106,110,112,114,116,118,120,200,202,204,300,302,304,400,402…ドット