JP3929678B2 - チェーンテンショナ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、チェーンの張力、例えばカム軸を駆動するチェーンの張力を一定に保つチェーンテンショナに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
チェーン伝動装置、例えば自動車エンジンにおいてクランクシャフトの回転をカム軸に伝達するチェーン伝動装置においては、一般にチェーンの弛み側にチェーンテンショナを配置してチェーンの張力を一定に保つようにしている。
【0003】
上記チェーンテンショナとして、ハウジング内に、スプリングとプランジャとを組込み、スプリングの弾圧力によってプランジャに外方向への突出性を付与したものが従来から知られている。この種のチェーンテンショナでは、スプリングに弾圧されたプランジャでチェーンを押圧して緊張状態にする一方で、チェーンからプランジャに付与される押し込み力をプランジャの背部に形成された油圧ダンパ室内の油圧によって緩衝することにより、チェーンの張力が一定に保持される。
【0004】
このチェーンテンショナにおいては、エンジン停止時のカムの停止姿勢によってチェーンが緊張状態に保持されると、プランジャがチェーンにより押し込まれて大きく後退する場合がある。この時、エンジンが再始動されると、チェーンに急激な弛みが生じ、プランジャが外方向に大きく移動することになる。この場合、油圧ダンパ室に油圧を供給する油圧ポンプは始動直後であって吐出量が少ないため、油圧ダンパ室に十分に油を供給することができず、油圧ダンパ室に空気が進入してダンピング特性が低下し、異音を発生する場合がある。
【0005】
この種の問題点を解決するため、プランジャの戻り運動を制限できるようにしたチェーンテンショナが特公平3−10819号公報、特表平9−512884号公報等において提案されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上記公報に記載の発明では、何れもケーシング内周面に係止溝を設け、この係止溝に係合させたストッパリングを緩衝ピストンの外周面に係合させることにより緩衝ピストンの戻り運動を規制している。
【0007】
ところで、この種のチェーンテンショナにおいては、エンジン運転中、プランジャの前後動に伴ってレジスタリングが係止溝の表面を前後に摺動する。この時の摺動抵抗や摺動摩耗を防止するため、係止溝の表面は精密に仕上げておく必要があり、従来では、研磨により仕上げるのが一般的であった。
【0008】
しかしながら、係止溝がケーシングの内周面に形成されている関係上、この研磨はいわゆるプランジカット(砥石を軸方向に動かさないで半径方向にのみ押しつける)で行わざるを得ず、係止溝を精度良くかつ低コストに研磨することは難しかった。
【0009】
そこで、本発明は、上記係止溝の加工を低コストにかつ高精度に行うことを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記目的の達成のため、本発明では、有底筒状のハウジングと、ハウジング内周にスライド自在に組込まれたプランジャと、プランジャに外方向への突出性を付与するリターンスプリングと、ハウジング内周とプランジャ外周との間に配置されたレジスタリングと、レジスタリングとそれぞれ係合可能の係合溝および第一ストッパとを具備し、係合溝をレジスタリングを介して第一ストッパと係合させることにより、プランジャの後退を規制するチェーンテンショナにおいて、係合溝をプランジャ外周に設け、かつ係合溝の表面を塑性加工面とし、ハウジング内周に形成した第一ストッパよりも前方側に、レジスタリングと係合可能の第二ストッパを設け、プランジャの外周でかつ最前列の係合溝よりも前方に、レジスタリングを介して第二ストッパと係合するセット壁を形成し、係合溝の最大溝深さをレジスタリングのワイヤ直径の30〜50%に設定した。
【0011】
上記のように係合溝をプランジャの外周に形成することにより、係合溝の加工を研磨ではなく、素材を除去せずに塑性変形させる、いわゆる塑性加工で仕上げることができ、精密な面粗さを有する係合溝が低コストに得られる。
【0012】
塑性加工面は、例えば転造で成形された面とすることができる。転造であれば、係合溝に要求されるRmax=3.2以下の面粗さが低コストに得られ、研磨よりも精密な面粗さを保証することができる。
【0014】
ハウジング底部とプランとの間の空間に作動流体を供給すると共に、その逆流を防止するチェックバルブを具備させることにより、当該空間に作動流体を保持したダンパ室が形成され、チェーンの緊張・弛みにより前後動するプランジャの緩衝が図られる。
【0015】
ハウジング内周の第一ストッパよりも前方側に、レジスタリングと係合可能の第二ストッパを設けることにより、これをレジスタリングと係合させることで、リターンスプリングのバネ力によるプランジャの飛び出しを防止することができる。この第二ストッパを別部材ではなく、ハウジングと一体に形成することにより、部品点数の削減を図ることが可能となる。
【0016】
プランジャの外周でかつ最前列の係合溝よりも前方に、レジスタリングを介して第二ストッパと係合するセット壁を形成することにより、プランジャをハウジングの奥深くに収容した状態(初期セット状態)を安定して保持することができ、輸送時の取扱い性等が向上する。この初期セット状態は、レジスタリングの内径がセット壁外径よりも大きくなるようレジスタリングを拡径させることにより、簡単に解除することができる。
【0017】
プランジャの外周でかつ最後列の係合溝よりも後方に、レジスタリングを介して第二ストッパと係合する安全壁を形成することにより、チェーンを取り外した際に、リターンスプリングのバネ力により、プランジャがハウジング外に飛び出す事態を確実に防止することができる。この場合、レジスタリングの内径が安全壁外径よりも大きくなるようレジスタリングを拡径させれば、プランジャをハウジングから抜き取ることができるので、分解作業が容易となり、メンテナンス性が向上する。
【0018】
各係合溝の後方側をテーパ面とすることにより、テーパ面に案内されたレジスタリングがスムーズに拡径可能となるため、プランジャの前進運動がスムーズに行われ、作動安定性が高まる。
【0019】
各係合溝のテーパ面の後方に円筒面を設けることにより、この円筒面がハウジング内周面に嵌合するので、プランジャが前後動する際の振れを抑制することができる。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図1〜図10に基づいて説明する。
【0021】
図1および図2に示すように、本発明にかかるチェーンテンショナは、ハウジング1と、ハウジング1の内周に組込まれたプランジャ3、リターンスプリング5、およびチェックバルブ6と、プランジャ3の外周に嵌合されたレジスタリング7とを主要部材として組立てられる。なお、以下の説明では、プランジャ3の突出側を「前」とし(図1(A)、図2、図3、図7〜図9の右側)、プランジャ3の戻り側を「後」としている(同図の左側)。
【0022】
ハウジング1は、プランジャ3を収容するための円孔状のシリンダ部11を備えた有底筒状に形成される。シリンダ部11を挟む両側にエンジンブロックに取付けるための取付け部12が形成されている(図1(A)参照)。ハウジング1の底部13には、作動流体としての作動油をタンク14からシリンダ部11に導くための給油路15が形成される。ハウジング内周面1aの開口端には、円周方向の一箇所に軸方向の切欠き部16が形成され、この切欠き部16を通って、後述するレジスタリング7の操作部72がハウジング1の外周側に突出している。ハウジング1の内周面1aの開口端近傍には、切欠き部16の軸方向略中間部を通過する環状のガイド溝18が形成される。ガイド溝18の軸方向両端の対向面に、それぞれレジスタリング7と係合する第一ストッパ21および第二ストッパ22が形成される。本実施形態では、後方側の第一ストッパ21を含む壁面を、前方側が拡径するテーパ状とし、前方側の第二ストッパ21を含む壁面を、略半径方向に延ばした場合を例示している。ガイド溝18の軸方向幅は、レジスタリング7のリング部71の直径よりも大きく、従って、レジスタリング7のリング部71はガイド溝18内を前後方向に移動可能である。
【0023】
プランジャ3は有底筒状をなし、その後部に円筒状の中空部31が一体形成される。この中空部31の内周には、圧縮状態のリターンスプリング5が配置されており、このリターンスプリング5の一端をプランジャ3の底部32で、他端をハウジング1の底部13でそれぞれ支持することにより、プランジャ3に常時前進側への弾性力が作用し、ハウジング外方向への突出性が付与される。ハウジング1の底部13とプランジャ3との間の空間(中空部31の内部空間も含む)で油圧ダンパ室9が形成され、この油圧ダンパ室9に給油路15から供給された作動油が満たされる。
【0024】
プランジャ3の中空部31外周面には、軸方向に等間隔で離間させた複数の環状係合溝33a〜33dが形成される。本実施形態では四つの係合溝33a〜33dを設けた場合を例示しており、以下の説明ではこれらを前方側より順に第一係合溝33a〜第四係合溝33dと称する。図3に拡大して示すように、各係合溝33a〜33dのうち、最深部を挟む軸方向両側の壁面331、332は何れもテーパ状に形成されるが、前方側の壁面331(ロック壁)は後方側の壁面332(テーパ面)よりも傾斜角が大きくなっている。ロック壁331とテーパ面332とは曲面を介して滑らかに連続している。各係合溝33a〜33dの最大溝深さは、レジスタリング7のワイヤ直径の30〜50%に設定するのが望ましい。30%未満では、係合溝33a〜33dからレジスタリング7が外れやすく、50%を超えると後述する初期セット状態の解除が難しくなるからである。
【0025】
各係合溝33a〜33dの後方には、各テーパ面332に隣接してそれぞれ円筒面34が形成されている。
【0026】
上述のように本発明では、リターンスプリング5を中空部31内に収容しているので、その収容分だけユニットの軸方向長さをコンパクトにすることができる。また、複数の係合溝33a〜33dを中空部31の外周に形成し、係合溝33a〜33dの形成領域とリターンスプリング5の配置領域とを軸方向で重ね合わせているので、両領域を軸方向に分離させていた従来に比べて軸方向寸法をコンパクト化することができる。本実施形態では係合溝33a〜33dの全てを中空部31の外周面に形成した場合を例示しているが、各係合溝の一部が中空部31外周に形成されていれば足り、他の係合溝が中空部31以外のプランジャ外周面(例えば底部32の外周面)に形成されている場合にも同様にコンパクト化が達成される。
【0027】
図2に示すように、係合溝33a〜33dのうち、最後列に位置する第四係合溝33dの後方には、環状の安全溝35が形成される。この安全溝35のうち、後方側の壁面は、レジスタリング7と係合可能の安全壁351で、この安全壁351に係合したレジスタリング7をハウジング内周面1aの第二ストッパ22に係合させることにより、プランジャ3の飛び出しを規制することができる(分解規制)。
【0028】
係合溝33a〜33dのうち、最前列に位置する第一係合溝33aの前方には、環状のセット壁36が形成される。このセット壁36は、例えば図3に示すように、第一係合溝33aの前方に形成された環状突出部37の前方側の壁面で形成することができる。このセット壁36に係合させたレジスタリング7をハウジング内周面1aの第二ストッパ22に係合させることにより、チェーンテンショナが初期セット状態(図2に示す状態)に維持される。
【0029】
プランジャ3には、油圧ダンパ室9内に混入したエアをハウジング外に排出するためのエア抜き穴38が形成される。このエア抜き穴38は、中空部31内周に開口するもので、例えばプランジャ3前端の底部32に設けられる。図示例のエア抜き穴38は、底部32に軸方向の雌ねじ孔を形成し、このねじ孔に軸状部材39を圧入することによって構成されたもので、この場合、エア抜き穴38は雌ねじに沿った螺旋状穴となり、穴径に比べてその全長が著しく長くなるため、作動油の排出を抑える一方で混入エアをスムーズにハウジング外に排出することができる。以上のエア抜き穴38の構造は例示であり、同様の機能を有する限り他の構造を採用することもできる。
【0030】
チェックバルブ6は、ハウジング1の底、より詳細にはシリンダ部11の底部13に隣接して配置される。このチェックバルブ6は、例えば弁座61と、弁座61に形成された弁孔62を開閉する弁体63(例えば、ボール)と、弁体63の開閉量を制限するリテーナ64とで構成される。このチェックバルブ6は、給油路15側が油圧ダンパ室9より高圧になると弁孔62を開放して給油路15から作動油を油圧ダンパ室9内に流入させ、油圧ダンパ室9が給油路15側よりも高圧になると、弁孔62を閉じて油圧ダンパ室9内の作動油が給油路15に逆流するのを防止する機能を有する。
【0031】
レジスタリング7は、図4(A)〜(C)に示すように、全周が閉じた環状のリング部71と、リング部71を拡径させるための操作部72とで構成される。本実施形態では、レジスタリング7として、線材を丸めてリング部71を形成すると共に、線材の両端を交差させて操作部72を形成した場合を例示している。このレジスタリング7においては、交差部分よりも外径側の両端部を円周方向で互いに接近させることにより、リング部71を拡径させることができる。この場合、図示のように操作部72の線材両端を軸方向に屈曲させておくことにより、拡径操作がより容易に行える。
【0032】
レジスタリング7は、その自然状態(拡径させていない状態)において、リング部71の内径がハウジング内周面1aの開口端内径(第二ストッパ22の内径)よりも小さく、かつリング部71の外径が当該開口端内径より大きくなるよう形成される。ハウジング1には切欠き部16が形成されているので、このようにハウジング内周の内径よりも大きな外径を持つレジスタリング7であっても、レジスタリング7を傾けることによって容易にハウジング1内に組込むことができる(後述する)。この場合、レジスタリング7の抜けを防止するための要素(本実施形態では第二ストッパ22)をハウジング1と一体化することができ、別部材で抜け止めを行う場合に比べて部品点数や加工工数の削減が達成される。
【0033】
以上説明したチェーンテンショナの組み立ては、以下の手順で行われる。
【0034】
先ず、図6(A)に示すように、ハウジング1のシリンダ部11底にチェックバルブ6を設置した後、レジスタリング7の組付けを行う。具体的には、先ず図5に示すように、リング部71をハウジング1の軸線に対して斜めに傾けながら操作部72を切欠き部16に挿入し、リング部71の一部をガイド溝18に挿入する。次に、リング部71をハウジング1の軸線と同軸に戻し、リング部71の全周をガイド溝18に挿入する。
【0035】
このようにしてレジスタリング7を組付けた後、図6(B)に示すように、シリンダ部11にリターンスプリング5を挿入し、さらにハウジング1外に突出した操作部72をつまんで(人手でも工具でもよい)リング部71を拡径させながらプランジャ3をシリンダ部11に挿入する。リーターンスプリング5の弾性力に抗しながら、プランジャ3を押し込み、セット壁36がレジスタリング7のリング部71よりも後方に達したところで、操作部72を離してレジスタリング7を弾性的に縮径させ、かつプランジャ3の押し込み力を解除すると、セット壁36がレジスタリング7のリング部71と係合し、さらに当該リング部71がハウジング内周の第二ストッパ22に係合して、図2に示す初期セット状態となる。この初期セット状態では、セット壁36、レジスタリング7、および第二ストッパ22間の相互の係合により、リターンスプリング5の弾性力によるプランジャ3の飛び出しが確実に規制されるため、輸送時等における安全性が高まる。
【0036】
この初期セット状態のチェーンテンショナをエンジンブロックに取付けた後、レジスタリング7の操作部72を押し縮めてレジスタリング7のリング部71を拡径させると、セット壁36とレジスタリング7の係合状態が解除される。そのため、プランジャ3はリターンスプリング5の弾性力によって前進し、図示しないチェーンガイドを介してチェーンを押圧する。これにより、チェーンが緊張状態となる。
【0037】
この時、図7に示すように、レジスタリング7のリング部71は、何れかの係合溝33a〜33d(図面では第二係合溝33b)に嵌合する。その後、エンジンの運転中にチェーンの緊張によりプランジャ3に後方への押し込み力が作用し、この押し込み力がリターンスプリング5の弾性力と油圧ダンパ室9内の供給油圧との合力を超えると、その合力と押し込み力とが釣り合う位置までプランジャ3およびレジスタリング7が後退する。この後退動作は、油圧ダンパ室9に満たされた作動油の緩衝機能により、ゆっくり行われる。プランジャ3の後退中、レジスタリング7は、図7の状態から先ずテーパ面332上を滑りながら縮径し、係合溝33bのロック壁331と係合したところで、ロック壁331と係合したままプランジャ5と一体に後退する。プランジャ3の後退に伴い、油圧ダンパ室9内の過剰な作動油はハウジング内周面1aとプランジャ3の外周面との間の微小な隙間を通ってハウジング外にリークする。
【0038】
一方、チェーンに弛みが生じると、リターンスプリング5と供給油圧とに合力による押圧によりプランジャ3が前進する。プランジャ3の前進に伴い、レジスタリング7がプランジャ3と一体に前進し、リング部71が第二ストッパ22と当接した後は、レジスタリング7はテーパ面332上を滑りながら拡径する。チェーンに経時的な伸びがあって、さらにプランジャ3が前進する場合は、レジスタリング7のリング部71は、その後方の係合溝(図面では第三係合溝33c)に嵌合し、以後、上記第二係合溝33bに嵌合させた場合と同様の動作が行われる。
【0039】
エンジンを停止すると、カムの停止位置との関係でプランジャ3が押し込まれる場合がある。例えば上りの坂道において、チェンジレバーを前進ギヤに入れた状態、あるいは下り坂でバックギヤに入れたまま停止すると、チェーンが緊張するため、プランジャ3が大きく押し込まれる。この場合でも、レジスタリング7のリング部71外径が第一ストッパ21の内径よりも小さいため、図8に示すように、係合溝(例えば第二係合溝33b)のロック壁331に係合したレジスタリング7(リング部71)が第一ストッパ21と係合し、これによりプランジャ3のそれ以上の後退運動が規制される(戻り運動規制)。この場合、チェーンはプランジャ3の後退量に相当する分だけ弛みむにすぎず、従って、エンジンを再始動させてもチェーンに大幅な弛みが生じることはなく、スプロケットからチェーンが外れたり、あるいは歯飛びや異音が発生する等の事態が回避される。
【0040】
エンジン回りのメンテナンス等によりチェーンを取り外すと、リターンスプリング5の弾性力により、プランジャ3が飛び出そうとするが、その場合でも図9に示すようにレジスタリング7のリング部71が安全溝35に嵌合し、安全壁351に係合したリング部71が第二ストッパ22と係合してプランジャ3の抜けを規制するため(分解規制)、プランジャ3やリターンスプリング5等の部品がハウジング1から脱落する事態が確実に防止される。プランジャ3をハウジング1から分離させたい場合も、レジスタリング7の操作部72をつまんでリング部71を拡径させ、リング部71と安全壁351との係合を解消させれば、これを簡単に実現することができる。
【0041】
上述のように、レジスタリング7はプランジャ3の前後動に追従して前後に移動するが、後退したレジスタリング7の操作部72が切欠き部の奥部の壁面16a(図3参照)に衝突すると、その衝撃でレジスタリング7の変形を招くおそれがある。従って、後退したレジスタリング7の操作部72が当該壁面16aと非接触となるような対策が望まれる。これは例えば、図3に示すように、切欠き部16の軸方向長さDを、距離X(係合溝のロック壁331がレジスタリング7を介して第一ストッパ21と係合した時点の、ハウジング1の開口端から切欠き部16内のレジスタリング7の後端までの距離)よりも大きくなるよう設定することによって実現することができる(D>X)。
【0042】
本発明にかかるチェーンテンショナによれば、レジスタリング7のみで初期セット状態、戻り運動規制、および分解規制を行うことができ、従来品のように複数のリング部材やクリップを用いてこれらの機能を実現する場合に比べ、部品点数や製作コストを大幅に削減することができる。また、プランジャ3の溝構造も簡略化されており、しかも各溝が加工の容易なプランジャ3外周面に形成されているので、加工コストをさらに抑制することができる。また、簡単な操作でプランジャ3をハウジング1から抜き取ることができ、メンテナンス性も良好である。
【0043】
本発明にかかるチェーンテンショナの基本的構造・機能は以上の通りである。以下では、上記チェーンテンショナの細部構造を説明する。
【0044】
上述のようにレジスタリング7は、プランジャ3の前後動と連動して前後動を行い、この際にリング部71が係合溝のテーパ面332上を摺動する場合がある。この時、テーパ面332のテーパ角θ(図3参照)が大きいと、プランジャ3がレジスタリング7から受ける弾性力が増大し、この弾性力がスライド抵抗として作用するためにプランジャ3のスムーズな前後動(特に前進)が阻害される。また、スライド抵抗の増大は、レジスタリング7の耐久性にも悪影響を及ぼす。スライド抵抗の増大に対しては、リターンスプリング5の弾性力も高めることによっても対処できるが、コストや設計上の都合等からこれにも限度がある。以上から、レジスタリング7がスムーズに拡径できるよう、テーパ面332のテーパ角θはできるだけ小さくするのが望ましい。
【0045】
一方、テーパ角θが小さすぎると、
▲1▼係合溝33a〜33dを転造等により塑性加工する場合に肉の充足が不充分となりやすく、加工精度が低下するおそれがある、
▲2▼係合溝33a〜33dの軸方向長さが長くなるため、エンジン停止時のプランジャ3の後退ストロークが大きくなって再始動時の異音発生の原因となる、
等のデメリットを生じる。
【0046】
以上の観点からテーパ面332のテーパ角θの最適範囲を見出すべく、実験を行ったところ、図10に示す結果が得られた。実験では、テーパ角度θの異なるテーパ面のそれぞれについて塑性加工性、後退ストローク量、スライド抵抗(レジスタリングの耐久性)を◎、○、△、×でそれぞれ評価している(◎が最も良好である)。図10の実験結果から、テーパ面332のテーパ角度θは、8°以上で20°以下がよく、より好ましくは10°以上で15°以下がよい。
【0047】
ロック壁331の傾斜角φ(図3参照)は、第一ストッパ21との間でレジスタリング7を確実に拘束できるよう、第一ストッパ21と平行に近い角度とするのが望ましく、例えばφ=60°に設定される。
【0048】
プランジャ3のスライド抵抗を左右する要因として、テーパ面332の面粗さも考えられるので、スライド抵抗軽減のためにもテーパ面332はできるだけ平滑にするのが望ましい。図11は、プランジャ3の円筒面34と同径で面粗度が異なる金属棒を複数用意し、これらにレジスタリングを嵌合して両者間のスライド抵抗を計測した結果を示すものである。同図からも面粗さRmax(JISB0601)が粗いほどスライド抵抗が大きくなり、6.3μm以下であればスライド抵抗値を最小にできると判断される。従って、テーパ面332の面粗さは、Rmaxが6.3μm以下、望ましくは3.2μm以下となるよう仕上げるのがよい。
【0049】
プランジャ3は鋼材料の鍛造により、中空部31を含む形で成形される。鍛造後にプランジャ3外周面の各種溝(係合溝33a〜33dや安全溝35等)のうち、少なくとも係合溝33a〜33dが塑性加工、例えば転造加工により形成される(もちろん安全溝35等の他の溝を同様の加工法で加工してもよい)。上述のようにエンジン運転中は、レジスタリング7が何れかの係合溝に嵌合してテーパ面332上を摺動するため、摺動抵抗や摺動摩耗を軽減すべく係合溝33a〜33dの面粗さは精密に仕上げる必要がある。円筒状ハウジングの内周面に係合溝を形成する従来品では、係合溝の仕上げを研磨加工により行っているが、この場合の研磨は内周面を加工する関係上、プランジカットで行われる場合が多い。この種の研磨加工は、センタレス研削のように自動化することはできないため、加工コストが高く、また加工後の面粗さにも限界があった。
【0050】
これに対し、本発明では、上述のようにプランジャ3の外周面に係合溝33a〜33dを形成しているので、転造による溝加工が可能となる。転造であればRmax≦3.2(μm)の面粗さも容易に実現することができ、一般的な研磨面の面精度Rmax=3.2〜6.3よりも精密な面粗さを保証することができる。しかも自動化が可能であるから低コストに高精度の溝加工が可能となる。
【0051】
図2に示す本実施形態においては、転造時に転造箇所が剛性の低い中空構造となる点が問題となるが、係合溝33a〜33dの溝深さを上記の通り制限し(各係合溝の最大溝深さをレジスタリング7のワイヤ直径の30〜50%に設定する)、かつ転造時に中空部31に芯金等の治具を挿入しておくことにより、被転造部分の変形を防止しつつ高精度の溝加工を行うことができる。
【0052】
転造による溝加工の終了したプランジャ素材には、浸炭焼入れ等の熱処理を施した後、センタレス研削が施される。このセンタレス研削は、プランジャ3の中空部31外周面や円筒面34を仕上げるもので、作動油のリーク量やプランジャ3のスライド抵抗を左右する、ハウジング内周面1aとのハメアイ面を所定の精度に仕上げるために行われる。センタレス研削の採用により、通常の研削加工と比べて加工コストの増大が最小限に抑えられる。
【0053】
以下に上記各テンショナ構成部材として好ましい素材を列挙する。
【0054】
▲1▼ハウジング
通常、ハウジング1は鋳造により成形される。素材としてはFC250等の鋳鉄の他、アルミニウム合金等の軽合金を使用することもできる。
【0055】
▲2▼プランジャ
プランジャ3の鋼材料としては、機械構造用炭素鋼、クロム鋼、クロムモリブデン鋼、機械構造用マンガン鋼などが考えられるが、これらの中でも加工性や熱処理時の焼入れ性、コスト等を考えると炭素量0.25%以下のものを使用するのが望ましい。これに該当するものとして、
機械構造用炭素鋼:
S10C(炭素量0.08〜0.13%)、
S12C(炭素量0.10〜0.15%)、
S15C(炭素量0.13〜0.18%)、
S17C(炭素量0.15〜0.20%)、
S20C(炭素量0.18〜0.23%)があり、
クロム鋼:
SCr415(炭素量0.13〜0.18%)、
SCr420(炭素量0.18〜0.23%)があり、
クロムモリブデン鋼:
SCM415(炭素量0.13〜0.18%)
SCM418(炭素量0.16〜0.21%)
SCM420(炭素量0.18〜0.23%)
SCM421(炭素量0.17〜0.23%)があり、
機械構造用マンガン鋼:
SMn420(炭素量0.17〜0.23%)がある。これらの中でも転造加工性に優れるSCr420やSCM415が最も好ましい。
【0056】
▲3▼チェックバルブ
チェックバルブ構成部材(弁座61、弁体63、リテーナ64)の素材としては、プランジャ3と同様の鋼材料を使用するのが望ましい。
【0057】
▲4▼レジスタリング
レジスタリング7は、加工性やコストを考えると、SWP−A、SWP−B,SWP−V等のピアノ線を使用するのが望ましい。この他、動作環境の高温化(120℃以上)が予想される場合は、SWOSC−V等の弁ばね用シリコンクロム鋼線を使用することも考えられる。
【0058】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、精密な面粗さを有する係合溝が低コストに得られる。従って、プランジャの前進運動や後退運動を円滑に行うことができ、チェーンテンショナの作動安定性が高まる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(A)図は本発明にかかるチェーンテンショナの平面図、(B)図はその側面図である。
【図2】図1(A)のA−A線断面図である。
【図3】上記チェーンテンショナの拡大断面図である。
【図4】(A)図はレジスタリングの平面図、(B)図はその正面図、(C)図はその側面図である。
【図5】レジスタリングの挿入工程におけるハウジングの平面図である。
【図6】(A)図はプランジャ挿入前の断面図、(B)図はプランジャ挿入後の断面図である。
【図7】チェーンテンショナの作動状態を示す断面図である。
【図8】チェーンテンショナの戻り運動規制時を示す断面図である。
【図9】チェーンテンショナの分解規制時を示す断面図である。
【図10】実験結果(テーパ角と塑性加工性等との関係)を示す図である。
【図11】実験結果(表面粗さとスライド抵抗値との関係)を示す図である。
【符号の説明】
1 ハウジング
3 プランジャ
5 リターンスプリング
6 チェックバルブ
7 レジスタリング
16 切欠き部
21 第一ストッパ
22 第二ストッパ
31 中空部
33a〜d 係合溝
34 円筒面
36 セット壁
38 エア抜き穴
332 テーパ面
351 安全壁
71 リング部
72 操作部
Claims (7)
- 有底筒状のハウジングと、ハウジング内周にスライド自在に組込まれたプランジャと、プランジャに外方向への突出性を付与するリターンスプリングと、ハウジング内周とプランジャ外周との間に配置されたレジスタリングと、レジスタリングとそれぞれ係合可能の係合溝および第一ストッパとを具備し、係合溝をレジスタリングを介して第一ストッパと係合させることにより、プランジャの後退を規制するチェーンテンショナにおいて、
係合溝をプランジャ外周に設け、かつ係合溝の表面を塑性加工面とし、ハウジング内周に形成した第一ストッパよりも前方側に、レジスタリングと係合可能の第二ストッパを設け、プランジャの外周でかつ最前列の係合溝よりも前方に、レジスタリングを介して第二ストッパと係合するセット壁が形成され、係合溝の最大溝深さがレジスタリングのワイヤ直径の30〜50%に設定されていることを特徴とするチェーンテンショナ。 - 塑性加工面が、転造で形成された面である請求項1記載のチェーンテンショナ。
- ハウジング底部とプランジャとの間の空間に作動流体を供給すると共に、その逆流を防止するチェックバルブを備えた請求項1記載のチェーンテンショナ。
- 第二ストッパをハウジングと一体に形成した請求項1載のチェーンテンショナ。
- プランジャの外周でかつ最後列の係合溝よりも後方に、レジスタリングを介して第二ストッパと係合する安全壁を形成した請求項1記載のチェーンテンショナ。
- 各係合溝の後方側をテーパ面とした請求項1〜5何れか記載のチェーンテンショナ。
- 各係合溝のテーパ面の後方に円筒面を設けた請求項6載のチェーンテンショナ。
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