JP3858456B2 - 耐硫酸露点腐食性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼及びその製造方法 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は、火力発電や産業用ボイラで使用される熱交換器、煙道、煙突などで問題となる硫酸腐食に対して優れた抵抗性を有するオーステナイト系ステンレス鋼及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
火力発電用や産業用のボイラ燃料として使用される石油や石炭といった所謂「化石燃料」には硫黄(S)が含まれている。このため、化石燃料が燃焼すると排ガス中に硫黄酸化物(SOx)が生成する。排ガスの温度が低下すると、SOxはガス中の水分と反応して硫酸となり、露点温度以下にある低温の部材表面で結露し、これによって硫酸露点腐食が生ずる。
【0003】
このため、排ガス系に使用される熱交換器においては、部材表面で硫酸が露を結ばないように排ガス温度を150℃以上の高い温度に保持していた。
【0004】
ところが、近年のエネルギー需要の増大とエネルギー有効利用の観点から、例えば熱交換器からの排ガス温度を低くするというような、熱エネルギーをできるだけ有効に回収しようという動きがあり、硫酸に対して抵抗性を有する材料(耐硫酸腐食性に優れた材料)が求めれるようになってきた。
【0005】
排ガス温度を150℃以上に保持しない場合、一般的な組成の排ガスからは140℃程度の温度域で、80%程度の高濃度の硫酸が部材表面で結露する。このような硫酸に対しては、所謂「低合金鋼」が各種部材用鋼として用いられてきた。これは、前記のような高温高濃度の硫酸に対しては汎用のステンレス鋼よりも低合金鋼の方が耐食性が大きいためである。
【0006】
一方、防食技術(vol.26(1977年)731〜740ページ)などに述べられているように、硫酸の露点よりも20℃〜60℃温度が下がった領域で硫酸による腐食が大きくなる。これは露点付近では結露する硫酸の量が少ないためである。このため、排ガス温度を150℃以上に保持しない場合には、一般に、温度的には100℃近傍が最も耐食性を要求される領域となり、ここでは硫酸の濃度は約70%となる。しかし、この領域では汎用のステンレス鋼はもちろん低合金鋼でも腐食量が大きく使用できない。
【0007】
硫酸環境中にある部材に対しては、特定の耐食材料を用いれば良いことが、例えば特開昭56−93860号公報、特開平2−170946号公報、特開平4−346638号公報や特開平5−156410号公報などで提案されている。
【0008】
特開昭56−93860号公報には、温度が100℃前後で、濃度が95%以上の硫酸環境中で優れた耐食性を有する、Cr:18.0〜29.0%、Ni:20.0〜45%、Mo:4.0〜9.0%、Si:1.5〜5.0%、Cu:0.5〜3.0%、Mn:2.0%以下、C:0.10%以下の化学組成からなる「耐硫酸腐食性合金」が開示されている。しかし、この公報で提案された鋼は、例えば前記した100℃近傍で硫酸の濃度が約70%となる環境下での耐食性が必ずしも充分ではない。
【0009】
特開平2−170946号公報には、C:0.004〜0.05%、Si:5%以下、Mn:2%以下、Cr:18〜25%、Ni:14〜24%、Mo:1〜4.5%、Cu:0.5〜2.0%、Al:0.05%以下、N:0.01〜0.3%を基本にP、S及びOの含有量、耐全面腐食性指数及び耐隙間腐食性指数を規制した、「耐食性の優れた煙突・煙道及び脱硫装置用高合金ステンレス鋼」が提案されている。上記公報に記載のステンレス鋼は、確かに50%濃度の硫酸に1000ppmのFe3+と1000ppmのCl- とを添加した環境下での耐食性には優れている。しかし、例えば、既に述べた100℃近傍で硫酸の濃度が約70%となるような環境下での耐食性は充分なものではない。
【0010】
特開平4−346638号公報には、重量で、C:0.050%以下、Si:1.00%以下、Mn:2.00%以下、P:0.050%以下、S:0.0050%以下、Ni:8.0〜30%、Cr:15〜28%、Mo:2%を超え7%以下、Cu:2%を超え5%以下、N:0.05〜0.35%、B:0.0015%を超え0.010%以下を含有し、Oを60ppm以下とし、しかもCu、Mo、B及びOの含有量を特定した、「熱間加工性に優れた耐硫酸露点腐食ステンレス鋼」が開示されている。この公報に記載のステンレス鋼は0.05重量%以上のNを含有させてオーステナイト組織の安定化と耐食性の確保とを図ろうとするものであるが、Cu含有量が高い場合には、1000℃を下回る温度域での熱間加工性の低下が著しい。
【0011】
特開平5−156410号公報には、重量%で、C:0.04%以下、Si:5〜7%、Mn:2%以下、Cr:15〜25%、Ni:4〜24%、W:0.5〜3%の化学組成からなる「高温、高濃度硫酸用ステンレス鋼」が開示されている。しかし、この公報で提案されたステンレス鋼は、Cuを含有していないので、例えば前記した100℃近傍で硫酸の濃度が約70%となる環境下での耐食性が充分ではない。
【0012】
Cu含有量を高めたオーステナイト系ステンレス鋼としては、例えば、特開平9−176800号公報に、重量%で、C:0.1%以下、Si:2%以下、Mn:5%以下、Cr:10〜30%、Ni:5〜15%、Cu:1.0〜5.0%を含み、必要に応じて、更に、Nb:0.02〜1%、Ti:0.02〜1%、Mo:3%以下、Al:1%以下、Zr:1%以下、V:1%以下、B:0.05%以下、REM(希土類元素):0.05%以下の1種以上をも含む化学組成で、マトリックス中のCuを主体とする第2相の分散量を特定した「抗菌性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼」が開示されている。しかし、この公報で提案されたオーステナイト系ステンレス鋼は、単に「抗菌性」を対象とするものであり、多量のCuを含んでいても、N含有量が高い場合には、前記した100℃近傍で硫酸の濃度が約70%となる環境下での耐食性が充分でない。更に、1000℃を下回る温度域での熱間加工性の低下が著しくなる場合がある。又、Ni含有量が高々15%であるので、前記した100℃近傍で硫酸の濃度が約70%となる環境下での耐食性が充分でない場合もある。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、高濃度の硫酸が凝結する環境(硫酸露点環境)での耐食性に優れ、火力発電用ボイラや産業用ボイラなどの排ガス系部材、例えば、熱交換器、煙道や煙突などの部材に使用可能なオーステナイト系ステンレス鋼とその製造方法を提供することにある。
【0014】
本明細書の以下の記載における「高濃度の硫酸が凝結する環境」とは、「70〜140℃」の温度で「50〜80%」の濃度の硫酸が結露する環境をいう。なお、硫酸による腐食は既に述べたように、硫酸の露点よりも20℃〜60℃低い温度域で最も大きくなる。このため、本発明において耐食性は、特に、上記環境で最も腐食性が高い100℃近傍で濃度が70%程度の硫酸環境中での耐食性を確保することを課題とした。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明は、下記(1)に示す耐硫酸腐食性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼及び(2)に示すその製造方法にある。
【0016】
(1)重量%で、C:0.05%以下、Si:0.05〜1.0%、Mn:0.1〜2.0%、Ni:12〜27%、Cr:16〜26%、Cu:3.0%を超えて8.0%以下、Mo:0.5〜5.0%、Al:0.01〜0.5%、N:0.05%未満、P:0.04%以下及びS:0.005%以下を含み、残部はFe及び不可避不純物からなる化学組成で、更に、鋼中に析出している金属Cuの量が面積割合で0.1%以上であることを特徴とする耐硫酸露点腐食性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼。
【0017】
(2)上記(1)に記載の化学組成を有するオ−ステナイト系ステンレス鋼を固溶化熱処理した後、更に、600〜1000℃で5分以上加熱することを特徴とする耐硫酸露点腐食性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼の製造方法。
【0018】
なお、本発明でいう「金属Cu」とは、ε−Cuのような金属Cu単体をいう。又、鋼中に析出している金属Cuの面積割合とは、透過型電子顕微鏡で観察した場合における、析出したCuの面積割合のことを指す。
【0019】
以下、上記の(1)、(2)に記載のものをそれぞれ(1)、(2)の発明という。
【0020】
本発明者らは、Ni−Crオーステナイト系ステンレス鋼に「高濃度の硫酸が凝結する環境」で耐食性を確保させるために、広範囲の濃度の硫酸に対して耐食性試験を行って合金元素の影響を詳細に検討した。その結果、下記の事項を知見した。
【0021】
(a)前記した「高濃度の硫酸が凝結する環境」、なかでも、硫酸濃度が70%、温度が100℃の環境において、オーステナイト系ステンレス鋼に良好な耐食性を付与するためには、電気化学的にアノード活性溶解を抑えるとともに、カソード反応である水素発生を抑制する作用を有するCuを重量%で3.0%を超えて含有させ、しかも、Cuの一部を「金属Cu」として所定量鋼中に析出させれば良い。
【0022】
(b)Cuの一部を「金属Cu」として所定量鋼中に析出させるためには、固溶化熱処理した後で、適切な熱処理を施せば良い。
【0023】
(c)前記した環境でオーステナイト系ステンレス鋼に良好な耐食性を付与するためには、上記(a)の含有量のCuと、それぞれ適正量のMo、Cr及びNiとを同時に含有させるとともにNの含有量を低く抑えれば良い。
【0024】
(d)Nの含有量を低く抑えれば、Cuの含有量を高めたオーステナイト系ステンレス鋼であっても熱間加工性は良好である。
【0025】
本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものである。
【0026】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の各要件について詳しく説明する。なお、化学成分の含有量の「%」は「重量%」を意味する。
【0027】
(A)ステンレス鋼の化学組成
C:0.05%以下
Cは、強度を高める作用を有するが、Crと結合して粒界にCr炭化物を形成し、耐粒界腐食性を低下させてしまうので0.05%以下とする。強度を高める必要がある場合には0.03%を超えて0.05%までを含有させても良いが、耐食性の確保が優先される場合には、Cの含有量は0.03%以下とすることが望ましい。
【0028】
Si:0.05〜1.0%
Siは、脱酸作用を有する。しかし、その含有量が0.05%未満では添加効果に乏しい。一方、1.0%を超えると熱間加工性の低下を助長し、Cu添加量の増加と相俟って工業的規模での所望製品への加工が難しくなる場合がある。したがって、Siの含有量を0.05〜1.0%とした。
【0029】
Mn:0.1〜2.0%
Mnは、Sを固定して熱間加工性を向上させるとともに、オーステナイトを安定化させる作用がある。しかし、その含有量が0.1%未満では添加効果に乏しい。一方、2.0%を超えて含有させてもその効果は飽和し、コストが嵩むばかりである。したがって、Mnの含有量を0.1〜2.0%とした。
【0030】
Ni:12〜27%
Niは、オーステナイトを安定化させる作用を有するとともに、前記した「高濃度の硫酸が凝結する環境」中での耐食性を高める作用もある。こうした効果を充分確保するためには、12%以上の量のNiを含有させることが必要である。しかし、Niは高価な元素であるため、その含有量が27%を超えるとコストが極めて高くなって経済性に欠ける。したがって、Niの含有量を12〜27%とした。なお、「高濃度の硫酸が凝結する環境」中で充分な耐食性を確保するためには15%を超える量のNiを含有させることが好ましい。
【0031】
Cr:16〜26%
Crはオーステナイト系ステンレス鋼の耐食性を確保するのに有効な元素である。特に、Nを後述の含有量に規制したオーステナイト系ステンレス鋼において、16%以上のCrを後述する量のCu及びMoとともに含有させると、既に述べた「高濃度の硫酸が凝結する環境」で良好な耐食性を確保することができる。しかし、Crを多量に含有させると、N含有量を低くし、CuとMoとを複合添加したオーステナイト系ステンレス鋼の場合であっても、前記の環境中における耐食性が却って劣化するし加工性の低下も生ずる。特に、Cr含有量が26%を超えると前記環境中におけるオーステナイト系ステンレス鋼の耐食性劣化が著しくなる。したがって、Crの含有量を16〜26%とした。なお、熱間加工性の点からはCrの含有量を23%以下にすることが好ましい。
【0032】
Cu:3.0%を超えて8.0%以下
Cuは、硫酸環境中での耐食性を確保するのに必須の元素である。3.0%を超えるCuを前述の量のCr及び後述する量のMoとともに含有させ、その上で、Cuの一部を「金属Cu」として後述の量鋼中に析出させれば、「高濃度の硫酸が凝結する環境」において、Nの含有量を後述の範囲にしたオーステナイト系ステンレス鋼に良好な耐食性を付与することができる。Cr及びMoと複合添加するCuの含有量が多いほど耐食性向上効果が大きいので、Cuの含有量は4.0%以上とすることが好ましく、5.0%を超える量のCuを含有させることがより好ましい。なお、Cuの含有量を増やすことにより前記環境中での耐食性は向上するが熱間加工性が低下し、特に、Cuの含有量が8.0%を超えると、Nを後述の含有量に制限しても熱間加工性の著しい劣化を生ずる。したがって、Cuの含有量を3.0%を超えて8.0%以下とした。
【0033】
Mo:0.5〜5.0%
Moはオーステナイト系ステンレス鋼の硫酸環境中での耐食性を確保するのに有効な元素である。しかし、その含有量が0.5%未満では前記の効果が得られない。一方、Moを多量に含有させると熱間加工性が低下し、特に、Moの含有量が5.0%を超えると、熱間加工性の著しい劣化を生ずる。したがって、Moの含有量を0.5〜5.0%とした。なお、Moの含有量は1.0〜5.0%とすることが好ましい。
【0034】
Al:0.01〜0.5%
Alは、脱酸作用を有する。しかし、その含有量が0.01%未満では添加効果に乏しい。一方、その含有量が0.5%を超えると、Nを後述の含有量に制限したオーステナイト系ステンレス鋼であっても熱間加工性が低下してしまう。したがって、Al含有量を0.01〜0.5%とした。
【0035】
N:0.05%未満
Nは、本発明において重要な意味を持つ元素である。従来、Nはオーステナイト組織の安定化や耐食性向上の目的から積極的に添加されてきた。しかし、本発明が対象とする「高濃度の硫酸が凝結する環境」においては、Nの含有量が0.05%以上になると、前記した量のCu、Mo及びCrを含有させたオーステナイト系ステンレス鋼であっても、耐食性が低下してしまう。更に、CuとMoの含有量の上限をそれぞれ8.0%、5.0%にした場合であっても、Nの含有量が0.05%以上になると熱間加工性が低下してしまう。このため、「高濃度の硫酸が凝結する環境」における耐食性と熱間加工性とをオーステナイト系ステンレス鋼に付与させるために、Nの含有量を0.05%未満とした。なお、N含有量は低ければ低いほど良い。
【0036】
P:0.04%以下
Pは、熱間加工性及び耐食性を劣化させるのでその含有量は低いほど良く、特に、0.04%を超えると「高濃度の硫酸が凝結する環境」における耐食性の劣化が著しい。したがって、Pの含有量を0.04%以下とした。
【0037】
S:0.005%以下
Sは、熱間加工性を劣化させる元素であり、その含有量はできるだけ少ない方が良い。特に、0.005%を超えると熱間加工性の著しい劣化を招く。したがって、Sの含有量を0.005%以下とした。なお、S含有量は0.003%以下とすることが好ましい。
【0038】
(B)鋼中に析出している金属Cuの量(面積割合)
上記の化学組成を有するオーステナイト系ステンレス鋼に対して「高濃度の硫酸が凝結する環境」における耐食性を確保させるためには、鋼中に析出している金属Cuの量(体積割合)を適正化しておくことが重要である。なお、本発明では、金属Cuの体積割合を、直接的に測定することが可能な「面積割合」で表示する。
【0039】
鋼中に析出している金属Cuの量が面積割合で0.1%未満では「高濃度の硫酸が凝結する環境」における耐食性が確保できない。したがって、鋼中に析出している金属Cuの量を面積割合で0.1%以上とした。なお、金属Cuが析出している面積割合の上限は特に規定する必要はなく、8.0%含有させたCuのすべてが金属Cuとして析出した場合の面積割合、例えば4%であっても良い。ここで、既に述べたように、鋼中に析出している金属Cuの面積割合とは、透過型電子顕微鏡で観察した場合における、析出したCuの面積割合のことを指す。
【0040】
なお、「高濃度の硫酸が凝結する環境」における耐食性を充分安定して確保するために、金属Cuは鋼中に微細析出したものであることが好ましい。
【0041】
(C)熱処理
鋼中に金属Cuを析出させるために、600〜1000℃で5分以上加熱する熱処理を行う。加熱温度が600℃未満では、Cu析出の核成長速度が遅くなって析出量が不足する。一方、加熱温度が1000℃を超えると、Cuの析出核が生成しにくくなるため、やはり析出量が不十分となるしたがって、加熱温度を600〜1000℃とした。
【0042】
上記温度域での加熱時間が5分未満の場合には、核の生成、成長が不十分となるため、析出量が不足する。したがって、加熱時間を5分以上とした。この加熱時間の上限は、特に規定する必要はないが、生産性を高める目的から、例えば10時間程度を上限としても良い。なお、10時間程度までの加熱では析出したCuが凝集粗大化することはない。
【0043】
なお、充分な耐食性を付与するために、鋼中に金属Cuを析出させるための熱処理は、900〜1000℃の温度域で少なくとも1時間加熱する処理とすることが望ましい。
【0044】
【実施例】
表1に示す化学組成のオーステナイト系ステンレス鋼を17Kg高周波真空溶解炉を用いて溶製した。表1における鋼1〜16は化学組成が本発明で規定する範囲内にある本発明例の鋼であり、鋼18〜20はその成分のいずれかが本発明で規定する含有量の範囲から外れた比較例の鋼である。
【0045】
【表1】
【0046】
次いで、これらの鋼の鋼塊を通常の方法で熱間鍛造、熱間圧延し、更に、1100℃で固溶化熱処理して、厚さ6mm×幅100mm×長さ700mmの板材を製造した。こうして得られた固溶化熱処理後の板材から機械加工によって厚さ3mm×幅10mm×長さ40mmの腐食試験片を作製し、表2に示す条件で熱処理を施した。
【0047】
【表2】
【0048】
熱処理した試験片の一部を、透過型電子顕微鏡で観察して、鋼中に析出している金属Cuの面積割合を測定した。
【0049】
熱処理した試験片はその表面を#600のエメリー紙で湿式研磨し、更にアセトンで脱脂してから、次に示す硫酸腐食試験にも供した。すなわち、硫酸が結露する環境を模擬する試験としての硫酸噴霧試験に供した。
【0050】
この硫酸噴霧試験においては、噴霧用ガスとして乾燥空気を用い、濃度が70%で温度が100℃の硫酸を、試料面への付着速度が20mg/(cm2 ・h)の条件で100℃の腐食試験片に噴霧した。噴霧時間は5時間とし、試験前後の重量変化を測定して腐食速度を算出した。
【0051】
表2に、鋼中に析出している金属Cuの面積割合と硫酸噴霧試験の結果も併せて示す。
【0052】
表2から、規定の量のCr、Cu、Ni及びMoを含有し、且つ、鋼中に析出している金属Cuの量が面積割合で0.1%以上である試験番号1〜13の本発明例の場合においては、腐食速度は0.40〜0.95g/(m2 ・h)と1.0g/(m2 ・h)を下回り耐硫酸腐食性が優れていることがわかる。
【0053】
これに対して、規定の量のCr、Cu、Ni及びMoを含有するものの、熱処理が本発明で規定する条件から外れ、鋼中に析出している金属Cuの量が本発明で規定する量を下回る試験番号14〜17の比較例の場合においては、腐食速度は1.8〜10.4g/(m2 ・h)と大きく、耐硫酸腐食性が劣っている。
【0054】
試験番号18の場合には鋼中に析出している金属Cuの量は面積割合で0.1%以上あるものの、用いた鋼がMoを含まない比較例の鋼18であるため腐食速度は9.5g/(m2 ・h)と大きく、耐硫酸腐食性が劣っている。
【0055】
試験番号19の場合には用いた鋼がCuを含まない比較例の鋼19であり、本発明で規定する条件で熱処理しても鋼中に金属Cuが析出しない。このため、腐食速度は21.5g/(m2 ・h)であり、耐硫酸腐食性が極めて劣っている。
【0056】
試験番号20の場合には用いた鋼である比較例の鋼20のCu含有量が本発明で規定する量を下回り、しかも、本発明で規定する条件で熱処理しても鋼中に析出している金属Cuの量が本発明で規定する量を下回っている。このため、腐食速度は5.6g/(m2 ・h)で、耐硫酸腐食性が劣っている。
【0057】
【発明の効果】
本発明のオーステナイト系ステンレス鋼は、高濃度の硫酸が凝結する環境での耐食性に優れるので、火力発電用ボイラや産業用ボイラなどの排ガス系部材、例えば、熱交換器、煙道や煙突などの部材に使用することができる。
Claims (2)
- 重量%で、C:0.05%以下、Si:0.05〜1.0%、Mn:0.1〜2.0%、Ni:12〜27%、Cr:16〜26%、Cu:3.0%を超えて8.0%以下、Mo:0.5〜5.0%、Al:0.01〜0.5%、N:0.05%未満、P:0.04%以下及びS:0.005%以下を含み、残部はFe及び不可避不純物からなる化学組成で、更に、鋼中に析出している金属Cuの量が面積割合で0.1%以上であることを特徴とする耐硫酸露点腐食性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼。
- 請求項1に記載の化学組成を有するオ−ステナイト系ステンレス鋼を固溶化熱処理した後、更に、600〜1000℃で5分以上加熱することを特徴とする耐硫酸露点腐食性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼の製造方法。
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