JP3776171B2 - 磁石回転子 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、冷凍機や空調機の圧縮機駆動用電動機等に代表される永久磁石を装着した内転型回転子に関し、特に回転子の鉄心の内部に磁石を埋め込んで構成するいわゆるインテリアル・パーマネントマグネット・モータ(以下IPMと称す)の回転子に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
IPMの回転子として、図7に示す構成のものが知られており、例えば平成7年電気学会産業応用部門全国大会講演論文集第385頁〜388頁(論文番号306)に開示されている。この回転子は、円柱状の鉄心11に軸孔9と、この軸孔9と平行に複数の収容孔12を設け、この収容孔12に板状の磁石13を挿入して構成されている。
【0003】
磁石13は、極方向に平行に磁気配向させた例えばNd−Fe−B系磁石等の希土類磁石であり、隣接するものが互いに異極となるように着磁されたものであり、図7の場合4極の界磁を形成している。また、図中14は磁束短絡防止部であり、収容孔12に連なる空間によって形成したり、必要に応じてこの空間に非磁性材料を挿入したりすることにより、各磁石13の極間部が磁気的に短絡して磁石による磁束量が減少するのを防止するようになっている。
【0004】
上記回転子は、三相巻線を有する固定子内に配置されて永久磁石型の同期電動機を構成し、インバータを介して固定子巻線を励磁することによって回転を行うようになっている。このようなIPMの場合、逆突極性を特徴としているため、低速域においては、これにより生じるリラクタンストルクと磁石により生じる主磁束トルクの双方の最大トルクポイントで駆動するいわゆる最大トルク制御を行い、一方高速域においては、主磁束トルクをリラクタンストルクにて補ういわゆる進み位相制御を行うのが有効であり、前述の圧縮機等の駆動に用いられている。
【0005】
即ち、一般にIPMのトルクTは、主磁束トルクをT1、リラクタンストルクをT2とすると、
T=T1+T2 ……(1)
であり、磁石による磁束量をΦ、q軸電流をIq、d軸電流をId、q軸インダクタンスをLq、d軸インダクタンスをLdとすれば、
T1=Φ・Iq ……(2)
T2=(Ld−Lq)Id・Iq ……(3)
で表される。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
図7に示すようなIPMの回転子においては、磁石13が鉄心11の中央部寄りに埋め込まれる形となっており、これは、磁石とエアギャップ間に介在する鉄心部分を積極的に活用することにより、リラクタンストルク成分の占める割合を大きく設定した制御を行うためである。従ってこのような回転子を用いたIPMに対しては、前述の(2)式及び(3)式にて説明したq軸電流Iqの成分が少なく、d軸電流Idの成分が多くなるように構成されたインバータ(以下Id成分主体のインバータと称す)が使用される。
【0007】
ところが、このようなインバータを構成するためにはマイクロコンピュータや電流センサ等の部品が高価なものとなるため、コスト的なメリットからIqの成分が多く、Idの成分が少なくなるように構成された低廉なインバータ(以下Iq成分主体のインバータと称す)の需要も多いのが実状である。このようなIq成分主体のインバータによって図7の回転子を駆動することは、IPMの特性悪化あるいは駆動不能の状態をまねくことになる。換言すれば、図7に示すような従来の回転子は非常に汎用性に乏しい構造となっていた。
【0008】
また、IPMの回転子を製作する場合、磁石13を予め着磁しておくと、その強力な磁力のために回転子の組立の作業性が著しく悪化してしまうため、一般に、鉄心11にすべての磁石を装着した後、回転子の外側に配置させた固定子巻線または専用の着磁巻線に着磁電流を通電することにより、すべての磁石を所定の極数に同時着磁するようになっている。
【0009】
この場合、図7に示す回転子について説明すると、図8に示すように、磁石13の磁気配向は実線矢印15で示すように極の方向に平行に形成されているのに対し、着磁磁束は破線矢印16で示すように着磁磁界の極間部近傍に相当する磁石両端部において、磁気配向15に対してかなり傾斜した流れを形成する。この現象は磁石13が鉄心11の中央部寄りに埋め込まれるほど顕著となり、この結果、磁石両端部の着磁が不十分となって完成時の磁石の磁力が低下してIPMの特性が悪化することになる。また、回転子の有する磁力の品質が安定しないため、q軸インダクタンスLq及びd軸インダクタンスLdの値がばらついてインバータとのマッチングが悪くなり、IPMの特性のばらつきが極端に大きくなってしまう欠点がある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、円柱状の鉄心の中央に軸孔を備えるとともに、この軸孔と平行に複数の収容孔を備え、この収容孔は前記鉄心の外周部寄りに設けられ板状の磁石を挿入して構成し、隣接する磁石が互いに異極となるように着磁された磁石回転子に関する。軸方向に垂直な断面において、前記収容孔は前記鉄心の外径を形成する円弧に対して弦状に形成された孔縁を有しており、この収容孔には前記弦状の孔縁の長さに満たない長さに形成された磁石を、前記収容孔の孔幅を狭める方向に段付きに形成した段付き部によって、前記収容孔の中央部に磁石を位置決め挿入した磁石回転子とする。
また、前記磁石回転子において、磁石を磁極の中央に位置するように非磁性のスペーサを介して磁石を位置決め挿入した磁石回転子としても良い。
【0011】
【作用】
磁束短絡防止部を含めた収容孔が各極で直線状に配置されることにより、磁石が鉄心の外周部寄りに埋め込まれる形となり、磁石による磁束量を増加させることができる。また磁石の長さを変更することにより、鉄心形状をそのままにした状態で主磁束トルク成分とリラクタンストルク成分の割合の変更が容易に行い得るようになる。さらに磁石両端部における着磁磁束の傾斜を緩やかなものとすることができる。
【0012】
【実施例】
本発明の回転子を図面に基づいて説明する。図1は、本発明に関連する回転子の軸方向に垂直な断面を表している。この回転子は、軸孔9に嵌入される軸によって支持されて、ケーシング等に固定された電動機固定子の内側に配置され、鉄心1aの外周部が固定子鉄心の内周部との間に所定の空隙を介して対向するように構成される。鉄心1aは所定形状に打ち抜いた0.35mm,0.50mm等の板厚の薄鉄板を多数積層して形成されており、各薄鉄板に設けた打ち出し突起による凹凸部を軸方向に隣接する薄鉄板相互で嵌合させて固定する周知のカシメクランプ手段7によって固定されて構成されている。
【0013】
この鉄心1aには軸孔9と平行に軸方向に貫通する複数の収容孔2aが設けてあり、この収容孔2aには板状の磁石3aがすきまばめあるいは圧入等によって挿入され、しかる後、鉄心1aを軸方向に貫通する複数のカシメピン8によって軸方向両端部に端板を固定して蓋がなされて回転子が構成されるようになっている。磁石3aは、極方向に平行に磁気配向させた例えばNd−Fe−B系磁石等の希土類磁石であり、隣接するものが互いに異極となるように着磁され、実施例の場合4極の界磁を形成している。
【0014】
収容孔2aは、図2に拡大して示すように、鉄心1aの外径を形成する円弧に対して弦状に形成された孔縁6aと6c、及び6bと6dによって形成されている。この直線状の孔縁6aと6cの間、及び6bと6dの間には孔幅を狭める方向に突出した突起部5が設けられており、この突起部5によって位置決めされることによって、孔縁の直線部の長さに満たない長さに形成された磁石3aが収容孔2aの中央部に挿入されている。この結果、収容孔2aの両端部には磁束短絡防止部である空間4が孔縁6c,6dによって形成され、各磁石3aの極間部が磁気的に短絡して磁石による磁束量が減少するのが防止されるようになっている。
【0015】
このように各極の収容孔2aを直線状に設け、この収容孔に孔縁6aと6cまたは6bと6dの長さに満たない長さに形成された磁石3aを収容することにより、各極の極間部に磁束短絡防止部4を設けることができ、同時に磁石3aは鉄心1aの外周部寄りに埋め込まれる形となる。従って前述の(2)式における磁束量Φを増加させ、主磁束トルクT1を増加させることができ、Iq成分主体のインバータによって問題なく駆動可能な構成となっている。勿論、Id成分主体のインバータによっても支障なく駆動可能である。
【0016】
Id成分主体のインバータによって駆動する場合、IPMの効率を一層向上させるためには、(3)式におけるリラクタンストルクT2を大きくする必要があり、最も効果的な構成は(Ld−Lq)の絶対値を大きくするのがよい。従ってこの場合は図5に示すような構成として対処することができる。図5に示す回転子の鉄心1aは、図1及び図2の実施例に示した鉄心と同一のものであり、収容孔2aには図1及び図2の磁石3aより短く形成した磁石3bが収容されている。この場合、磁石3bは磁極の中央に位置するように非磁性のスペーサ10bによって位置決めされている。図5の回転子のように構成することにより、回転子の磁石による磁束量Φが減少するため、鉄心1aを通過する固定子磁束が増加してリラクタンストルク成分を大きくすることができる。この構成における長所は、鉄心1aの型を変更することなく磁石型の変更のみで対処できる点である。
【0017】
また図1に示した回転子は、前述したように磁石3aが鉄心1aの外周部寄りに埋め込まれているため、回転子の外側に配置させた固定子巻線または専用の着磁巻線に着磁電流を通電して着磁する際、図6に示すように、着磁磁束16は着磁磁界の極間部近傍に相当する磁石3aの両端部において、磁石3aの磁気配向の方向に対する傾斜が緩やかとなる。これは磁石3aが図6に破線で示す従来の磁石13の位置より外側に配置されることにより、着磁巻線の磁極に近接するためであり、この結果、磁石3aの両端部においてほぼ配向方向に沿った十分な着磁が達成される。
【0018】
図3は、本発明の実施例の回転子を示している。図3における回転子は、収容孔2bの中央部の孔縁6a,6bに対して両端部の孔縁6e,6fを孔幅を狭める方向に段付きに形成したものであり、段付き部分によって磁石3aの位置決めを行うものである。磁束短絡防止部4の幅が機能上支障のない程度に得られれば、この構成によっても図2に示した回転子同様の作用、効果が得られる。また図5に示したような短い磁石3bを用いる場合についても、図5の回転子同様に構成し得ることは容易に類推できる。
【0019】
図4は、本発明に関連する他の回転子を示しており、図2に示した回転子の収容孔2aにおける突起部5を取り除いた形状の孔縁6g、6hにより収容孔2cを形成したものである。この場合は磁束短絡防止部4に非磁性スペーサ10aを挿入することにより、図2同様の磁石3aを磁極の中央に位置決めして装着することができ、これによる作用、効果も同様のものが得られる。また図5に示したような短い磁石3bを用いる場合については、非磁性スペーサ10aの長さを調節することにより対処し得るものである。
【0020】
【発明の効果】
本発明によれば、Id成分主体のインバータのみならず、Iq成分主体のインバータによっても問題なく駆動可能な汎用性に優れた回転子が得られ、低廉な制御装置が利用可能となるものである。またIPMの効率を追求する場合は、鉄心型を変更することなく磁石型のみの変更によって、各インバータに最も適した構成の回転子を容易に形成できる特長がある。
【0021】
さらに、磁石に対して十分な着磁がなされることから、完成時における磁力不足やばらつきがなくなって品質的に安定し、またq軸インダクタンス及びd軸インダクタンスの値が安定してインバータとのマッチングが良好となり、これらの結果IPMの特性向上及びその品質維持が達成できるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に関連する回転子の平面断面図。
【図2】 図1の要部拡大図。
【図3】 本発明の実施例の回転子の要部拡大平面断面図。
【図4】 本発明に関連する他の回転子の要部拡大平面断面図。
【図5】 本発明の他の実施例の回転子の要部拡大平面断面図。
【図6】 着磁時の磁束流を示す説明図。
【図7】 従来例の回転子の平面断面図。
【図8】 磁石の磁気配向と着磁磁束の関係を示す説明図。
Claims (2)
- 円柱状の鉄心の中央に軸孔を備えるとともに、この軸孔と平行に複数の収容孔を備え、この収容孔は前記鉄心の外周部寄りに設けられ板状の磁石を挿入して構成し、隣接する磁石が互いに異極となるように着磁された磁石回転子において、前記収容孔の軸方向に垂直な断面は前記鉄心の外径を形成する円弧に対して弦状に形成された孔縁を有し、この収容孔には前記弦状の孔縁の長さに満たない長さに形成された磁石を、前記収容孔の孔幅を狭める方向に段付きに形成した段付き部によって、前記収容孔の中央部に位置決め挿入されていることを特徴とする磁石回転子。
- 前記磁石は、磁極の中央に位置するように非磁性のスペーサを介して位置決め挿入されていることを特徴とする請求項1項記載の磁石回転子。
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