JP3620684B2 - 内燃機関用バルブタイミング調整装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、内燃機関(以下、「内燃機関」をエンジンという)の吸気弁および排気弁の少なくともいずれか一方の開閉タイミング(以下、「開閉タイミング」をバルブタイミングという)を運転条件に応じて変更するためのバルブタイミング調整装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、エンジンのクランクシャフトと同期回転するタイミングプーリやチェーンスプロケットを介してカムシャフトを駆動し、タイミングプーリやチェーンスプロケットとカムシャフトとの相対回動による位相差により吸気弁および排気弁の少なくともいずれか一方のバルブタイミングを制御するベーン式のバルブタイミング調整装置として、特開平1−92504号公報に開示されているものが知られている。
【0003】
特開平1−92504号公報に開示されているバルブタイミング調整装置では、ベーンとともに回動するカムシャフト側回転体である内部ロータに穴を設け、この穴に嵌合可能なノックピンをクランクシャフト側回転体であるタイミングプーリに設け、タイミングプーリに対してカムシャフトが最遅角位置または最進角位置にあるときにノックピンが穴に嵌合することにより両回転体の相対回動を拘束している。これにより、タイミングプーリに対してカムシャフトが最遅角位置または最進角位置にあるときに吸気弁または排気弁の駆動に伴いカムシャフトが正負のトルク変動を受けても、タイミングプーリとベーンとの打音発生を防止することができる。
【0004】
ノックピンが穴に嵌合した状態からタイミングプーリに対するカムシャフトの位相を変化させるときには、油路を切り換えることによりノックピンが穴から抜け出し、タイミングプーリとカムシャフトとの相対回動が可能になる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特開平1−92504号公報に開示されているようなベーン式のバルブタイミング調整装置において、例えばタイミングプーリに対して最遅角位置にあるカムシャフトを進角側に回転させる際に進角側にベーンを駆動する油圧で同時にノックピンを抜く方式では、ベーンおよびノックピンへの油圧の加わり方によってはノックピンが抜ける前に内部ロータが回転を開始することもある。この場合、内部ロータの回転力がノックピンに加わることによりノックピンおよびノックピン周囲の部材が損傷する恐れがある。
【0006】
また、油路を切り換えてからノックピンを穴から抜き進角側または遅角側にカムシャフトを回転させるので、タイミングプーリに対するカムシャフトの位相制御の応答性を向上させることが困難であるという問題がある。
本発明の目的は、ハウジング部材とベーン部材との相対回動を拘束する拘束手段の損傷を防止し、応答性に優れるバルブタイミング調整装置を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、加工が容易なバルブタイミング調整装置を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明の請求項1記載のエンジン用バルブタイミング調整装置によると、ベーン部材を収容する収容室の他方の周方向端部側にベーン部材を回転させる第1モードにおける第1流体圧力よりも収容室の一方の周方向端部にベーン部材を保持する端部保持モードにおける第1流体圧力が低く、端部保持モードにおいて第1流体圧力を少なくとも含む圧力により付勢手段の付勢力に抗して拘束手段による拘束状態を解除している。
【0009】
したがって、ベーン部材が一方の周方向端部から他方の周方向端部側に移動する前に当接部と被当接部との拘束状態が解除されているので、当接部と被当接部とが当接したままハウジング部材に対してベーン部材が相対回動し、当接部および被当接部が損傷することを防止できる。
さらに、端部保持モードにおいて当接部と被当接部との拘束状態が解除されていても端部保持モードにおける第1流体圧力は第1モードにおける第1流体圧力よりも低いので、ベーン部材は一方の周方向端部側に押圧されている。したがって、従動軸が正負のトルク変動を受けても一方の周方向端部においてハウジング部材とベーン部材とがばたつくことを抑制することができる。
【0010】
さらに、端部保持モードにおいて当接部と被当接部とによる拘束状態が予め解除されており、かつ第1流体圧力がベーン部材に作用していることにより、流路を切り換えることなく第1流体圧力を上昇させるだけで速やかにベーン部材が他方の周方向端部側に回転する。したがって、端部保持モードから第1モードへの制御モード切り換えの応答性が向上する。
【0011】
本発明の請求項2記載のエンジン用バルブタイミング調整装置によると、第1流体圧力だけで当接部と被当接部との拘束状態を解除することにより、当接部は拘束状態の解除方向に圧力を受ける受圧面を第1流体圧力だけに対して設けるだけでよいので、当接部の構造が簡単になる。したがって、当接部の加工が容易になり製造コストが低下する。さらに、第1流体圧力を受ける受圧面積を大きくできるので、第1流体圧力の低圧時においても当接部と被当接部との拘束状態を確実に解除できる。
【0012】
本発明の請求項3記載のエンジン用バルブタイミング調整装置によると、アイドル運転時のような低圧時においても当接部と被当接部との拘束状態を確実に解除できる。
本発明の請求項4記載のエンジン用バルブタイミング調整装置によると、一方の周方向端部以外の位置においてベーン部材を相対回動させることなく確実に保持できる。
【0013】
本発明の請求項5記載のエンジン用バルブタイミング調整装置によると、一方の周方向端部側に前記ベーン部材を回転させる第2モードを有することにより、ハウジング部材に対するベーン部材の進角側および遅角側への両方向の位相制御を高精度に行うことができる。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を示す複数の実施例を図面に基づいて説明する。
(第1実施例)
本発明の第1実施例によるエンジン用バルブタイミング調整装置を図1、図2および図3に示す。第1実施例のバルブタイミング調整装置は油圧制御式であり、吸気弁のバルブタイミングを制御するものである。
【0015】
図2に示すタイミングプーリ1は、図示しないタイミングベルトにより図示しないエンジンの駆動軸としてのクランクシャフトと結合して駆動力を伝達され、クランクシャフトと同期して回転する。リア部材4はプレート部4aおよび筒部4bからなり、筒部4bの外周にタイミングプーリ1が嵌合している。従動軸としてのカムシャフト2は、タイミングプーリ1から駆動力を伝達され、図示しない吸気弁を開閉駆動する。カムシャフト2は、タイミングプーリ1に対し所定の位相差をおいて相対回動可能である。タイミングプーリ1およびカムシャフト2は図2に示す矢印X方向からみて時計方向に回転する。以下この回転方向を進角方向とする。
【0016】
シューハウジング3およびベーンロータ9の軸方向両端面はリア部材4のプレート部4aおよびフロントプレート5により覆われている。タイミングプーリ1、シューハウジング3、リア部材4およびフロントプレート5は駆動側回転体を構成し、互いにボルト20により同軸上に固定されている。また、シューハウジング3、リア部材4およびフロントプレート5は特許請求の範囲に記載した「ハウジング部材」を構成している。
【0017】
図1に示すように、シューハウジング3は周方向にほぼ等間隔に台形状に形成されたシュー3a、3b、3cを有している。シュー3a、3b、3cの周方向の三箇所の間隙にはそれぞれベーン部材としてのベーン9a、9b、9cを収容する収容室としての扇状空間部40が形成されており、シュー3a、3b、3cの内周面は断面円弧状に形成されている。
【0018】
ベーン部材としてのベーンロータ9は周方向にほぼ等間隔にベーン9a、9b、9cを有し、このベーン9a、9b、9cがシュー3a、3b、3cの周方向の間隙に形成されている扇状空間部40に回動可能に収容されている。図1に示す遅角方向、進角方向を表す矢印は、シューハウジング3に対するベーンロータ9の遅角方向、進角方向を表している。図2に示すように、ベーンロータ9およびブッシュ6は、ボルト21によりカムシャフト2に一体に固定されており、従動側回転体を構成している。
【0019】
カムシャフト2およびブッシュ6はそれぞれリア部材4の筒部4bおよびフロントプレート5の内周壁5aに相対回動可能に嵌合している。リア部材4の筒部4bおよびフロントプレート5の内周壁5aは従動側回転体の軸受け部を構成している。したがって、カムシャフト2およびベーンロータ9はタイミングプーリ1およびシューハウジング3に対して同軸に相対回動可能である。
【0020】
図1に示すように、シール部材16はベーンロータ9の外周壁に嵌合している。ベーンロータ9の外周壁とシューハウジング3の内周壁との間には微小クリアランスが設けられており、このクリアランスを介して油圧室間に作動油が漏れることをシール部材16により防止している。シール部材16はそれぞれ板ばね17の付勢力によりシューハウジング3の内周壁に向けて押されている。
【0021】
図2に示すように、ガイドリング19は収容孔23を形成するベーン9aの内壁に圧入保持され、このガイドリング19に当接部としてのストッパピストン7が挿入されている。ストッパピストン7は有底の円筒部7aと円筒部7aの開口端部に設けられたフランジ部7bとからなる。ストッパピストン7はカムシャフト2の軸方向に摺動可能にガイドリング19に収容され、かつ付勢手段としてのスプリング8によりフロントプレート5側に付勢されている。フロントプレート5に被当接部としてのストッパ穴5bが形成されており、ストッパピストン7はストッパ穴5bに嵌合可能である。ストッパピストン7がストッパ穴5bに嵌合した状態ではシューハウジング3に対するベーンロータ9の相対回動は拘束される。ストッパピストン7、ストッパ穴5bおよびスプリング8は拘束手段を構成している。
【0022】
フランジ部7bの左側の油圧室29は、図示しない油路を介して後述する遅角油圧室10と連通している。また、円筒部7aのフロントプレート側に形成された油圧室30は、図示しない油路を介して後述する進角油圧室13と連通している。油圧室30の油圧を受ける円筒部7aの第1の受圧面の面積は、油圧室29の油圧を受けるフランジ部7bの第2の受圧面の面積よりも大きくなるように設定されている。第1の受圧面および第2の受圧面がそれぞれ油圧室30および油圧室29の作動油から受ける力はストッパ穴5bからストッパピストン7を抜け出させる方向に働く。第1の受圧面の受圧面積は円筒部7aの断面積にほぼ等しく、第2の受圧面の受圧面積はフランジ部7bと円筒部7aの径差に相当する環状部の面積にほぼ等しい。遅角油圧室10または進角油圧室13に所定圧以上の作動油が供給されると、これら作動油の油圧によりスプリング8の付勢力に抗してストッパピストン7はストッパ穴5bから抜け出す。
【0023】
ストッパピストン7の位置とストッパ穴5bの位置とは、シューハウジング3に対してベーンロータ9が最遅角位置にあるとき、つまりクランクシャフトに対してカムシャフト2が最遅角位置にあるときにスプリング8の付勢力によりストッパピストン7がストッパ穴5bに嵌合可能なように設定されている。第1実施例において、最遅角位置とは特許請求の範囲に記載した「収容室の一方の周方向端部」を表し、最進角位置は「収容室の他方の周方向端部」を端部を表している。
【0024】
筒部4bに形成された連通路25はフランジ部7bよりもリア部材側の収容孔23に連通するとともに大気開放されているので、ストッパピストン7の移動が妨げられない。
図1に示すように、シュー3aとベーン9aとの間に遅角油圧室10が形成され、シュー3bとベーン9bとの間に遅角油圧室11が形成され、シュー3cとベーン9cとの間に遅角油圧室12が形成されている。また、シュー3cとベーン9aとの間に進角油圧室13が形成され、シュー3aとベーン9bとの間に進角油圧室14が形成され、シュー3bとベーン9cとの間に進角油圧室15が形成されている。
【0025】
各遅角油圧室に連通する油圧通路101、ならびに各進角油圧室に連通する油圧通路102は、電磁弁50のスプール51の移動により、油圧通路103またはドレイン通路104、105との連通を断続される。油圧通路103は油圧ポンプ60によりドレイン61から汲み上げた作動油を供給する通路であり、ドレイン通路104、105は作動油をドレイン61に排出する通路である。図示しないエンジン制御装置(以下、「エンジン制御装置」をECUという)は、エンジン運転状態に応じて電磁弁50のコイル52に供給する制御電流のデューティ比を調整することによりスプール51の位置を制御している。
【0026】
図2に示すようにベーンロータ9のボス部9dには、カムシャフト2との当接部において油路31が設けられており、ブッシュ6との当接部において油路32が設けられている。油路31および32はそれぞれ円弧状に形成されている。油路31および油路26は図1に示す油路101の一部を構成し、図示しない油路により遅角油圧室10、11、12ならびに油圧室29と連通している。遅角油圧室10、11、12に供給される作動油の油圧は第2流体圧力である。
【0027】
油路32および油路27は図1に示す油路102の一部を構成し、油路33、34、35を介して進角油圧室13、14、15ならびに油圧室30と連通している。進角油圧室13、14、15に供給される作動油の油圧は第1流体圧力である。
次に、電磁弁50に供給する制御電流のデューティ比と、各遅角油圧室および各進角油圧室に加わる油圧との関係を説明する。
【0028】
デューティ比が0%のとき、スプール51は図3に示す位置にあり、図4に示すように各遅角油圧室に供給される作動油の油圧は最大値になり、各進角油圧室には作動油が供給されない。
デューティ比が上昇すると、スプール51は図3に示す位置から左側に移動する。すると各遅角油圧室に供給される作動油の油圧は減少し、各進角油圧室に作動油が供給されるようになる。そして各遅角油圧室と各進角油圧室との差圧から各ベーンが受ける力とカムシャフト2が受ける正負の変動トルクの平均値とが釣り合うと、図4に示すようにベーンロータ9は進角側および遅角側のどちらにも回転しない応答速度が0になる平衡状態に保持される。各遅角油圧室の油圧よりも各進角油圧室の油圧が高くなった状態で平衡状態になるのは、カムシャフト2が受ける正負の変動トルクの平均値が遅角側に働くためである。さらにデューティ比が上昇すると、ベーンロータ9は進角側に回転する。
【0029】
ストッパピストン7は、油圧室29または油圧室30の油圧が所定圧以上であれば、デューティ比に関係なくストッパ穴5bから抜け出た状態にある。
このように、電磁弁50に供給する制御電流のデューティ比を調整することにより、各遅角油圧室および各進角油圧室の油圧を制御し、シューハウジング3に対するベーンロータ9の位相、つまりクランクシャフトに対するカムシャフト2の位相を制御する。
【0030】
次に、具体的な油圧制御について説明する。図5および図6はシューハウジング3に対するベーンロータ9の位相制御を行う制御ルーチンであり、これら制御ルーチンおよびECUにより特許請求の範囲に記載した「制御手段」を構成している。
エンジンが始動されると、電磁弁50に供給される制御電流のデューティ比の初期値は0%に設定される。したがって、電磁弁50は図3に示す油路切り換え状態にあり、油路101は油圧通路103と連通し、油路102はスプール51により閉塞されている。したがって、各遅角油圧室および油圧室29に作動油を供給可能であり、各進角油圧室および油圧室30に作動油は供給されない。
【0031】
ECUは、エンジン始動直後におけるデューティ比0%のときのクランクシャフトとカムシャフト2との位相差をベーンロータ9の最遅角位置として学習し、その位相差を基準値として以後の位相制御を行う。この基準値としての位相差を正しく得るためには、シューハウジング3に対してベーンロータを正しく最遅角位置に保持する必要がある。しかし、エンジン始動直後の油圧ポンプ60からまだ十分に作動油が導入されない状態においてシューハウジング3に対するベーンロータ9の相対位置を油圧により確実に制御することは困難である。
【0032】
ベーンロータ9を最遅角位置に保持しストッパ穴5bにストッパピストン7を嵌合させてからエンジンの運転を終了させる方式では、エンジン始動直後においてエンジン回転数が低くアイドル回転数の範囲内に達しておらず油圧ポンプ60から各遅角油圧室および油圧室29に作動油が十分に導入されていなくてもストッパ穴5bにストッパピストン7が嵌合しているので、ベーンロータ9が確実に最遅角位置に保持されており、ベーンロータ9のばたつきによる各ベーンと各シューとの衝突による打音も発生しない。一方、ストッパ穴5bにストッパピストン7を強制的に嵌合させないでエンジンの運転を終了させる方式では、ストッパ穴5bにストッパピストン7が嵌合していない状態でエンジンが始動されることもある。この場合にも、カムシャフト2が受ける正負の変動トルクの平均値はベーンロータ9を遅角側に付勢する力として働くので、油圧ポンプ60から各遅角油圧室および油圧室29に作動油が十分に導入されていない状態でベーンロータ9が遅角側に回転し最遅角位置でストッパ穴5bにストッパピストン7が嵌合可能である。ベーンロータ9が最遅角位置に回転すればストッパ穴5bにストッパピストン7が嵌合するので、ベーンロータ9が確実に最遅角位置に保持され、打音も発生しない。
【0033】
ECUでは、ストッパ穴5bにストッパピストン7が嵌合しベーンロータ9の最遅角位置が保持されていてもいなくても、エンジン回転数がアイドル回転数の範囲内に上昇し各遅角油圧室に作動油が十分に導入されることにより確実に最遅角位置に油圧制御でベーンロータ9を保持できるまで待機する。図5に示す制御ルーチンはエンジン始動直後に一度だけ実行されるルーチンであり、ステップ100がこの待機処理を表している。各遅角油圧室および油圧室29に作動油が十分に導入され、スプリング8の付勢力に抗してストッパピストン7がストッパ穴5bから抜け出しベーンロータ9とシューハウジング3との拘束が解除された状態においても、デューティ比が0%に設定されているので、各遅角油圧室と各進角油圧室との差圧から受ける力、およびカムシャフト2が受ける正負の変動トルクの平均値とから受ける力により、ベーンロータ9はシューハウジング3に対して最遅角位置に保持される。
【0034】
エンジン回転数がアイドル回転数の範囲内まで上昇すると、目標進角量(以下、「VTT」という)を0°CAに設定する(ステップ101)。VTTを0°CAに設定することは、ベーンロータ9を最遅角位置に保持することを意味する。
次に、実際にベーンロータ9が最遅角位置から変動していないことを確認するために、実進角量(以下、「VT」という)の変化が所定値以下であるかを判定し、カムシャフト2が正負の変動トルクを受けても各遅角油圧室から受ける油圧によりベーンロータ9が最遅角位置に保持されているかを判定する(ステップ102)。例えストッパピストン7がストッパ穴5bに嵌合していても、ストッパピストン7またはストッパ穴5bの摩耗によりベーンロータ9の最遅角位置が変動している場合は、このステップ102における判定を抜けることができない。
【0035】
ベーンロータ9が最遅角位置に保持されていれば、このときのクランクシャフトとカムシャフト2との位相差を最遅角位置として学習し(ステップ103)、この位相差を以後の位相制御の基準値とする。最遅角位置における位相差を設定し終えたら(ステップ104)、図5に示す制御ルーチンを終了する。
図6に示す制御ルーチンは、図5に示す制御ルーチン実行後の通常運転状態において、タイマ割り込みで定期的に実行される制御ルーチンであり、エンジン運転状態に基づいて電磁弁50に供給する制御電流のデューティ比を変化させて各遅角油圧室および各進角油圧室に供給する作動油の油圧を調整し、シューハウジング3に対するベーンロータ9の位相制御を行う。
【0036】
VTを算出し(ステップ111)、エンジン運転状態に基づいてVTTを算出する(ステップ112)。そしてVTT=0°CAを判定し(ステップ113)、VTT=0°CAであれば図4に示すシューハウジング3に対するベーンの相対応答速度が0、つまりベーンロータ9がシューハウジング3に対して平衡状態にあるときのデューティ比から所定値αを減じたデューティ比に設定する(ステップ114)。
【0037】
ステップ114で設定されるデューティ比は、図4に示すように、ベーンロータ9がシューハウジング3に対して進角側にも遅角側にも回動しない平衡状態を保持するデューティ比よりも低く各遅角油圧室と各進角油圧室との油圧が等しくなるデューティ比よりも高くなるように設定されている。このデューティ比によりスプール51は図3に示す位置から左に移動して図1に示す状態になる。すると、油路101に加え油路102も油圧通路103と連通する。このとき、各遅角油圧室と各進角油圧室との差圧から各ベーンが受ける力とカムシャフト2が受ける正負の変動トルクの平均との合力は依然として各ベーンを遅角側に付勢する力として働くので、各ベーンは図1に示す最遅角位置、つまり収容室40の一方の周方向端部側に保持される。
【0038】
▲1▼したがって、カムシャフト2が正負の変動トルクを受けても各ベーンがばたつくことを防止し、各ベーンと各シューとの衝突による打音の発生を抑制できる。▲2▼また、各進角油圧室に予め油圧が加わっているので、油路を切り換えることなく各進角油圧室に供給される作動油の油圧を上昇させるだけで、最遅角位置から進角側にベーンロータ9を回転させることができる。▲3▼さらに、ベーンロータ9が最遅角位置に保持されるステップ114における端部保持モードにおいて、ストッパピストン7は遅角油圧室10および進角油圧室13の両方から油圧を受けストッパ穴5bから抜け出しているので、ベーンロータ9が最遅角位置から進角側に回転するときにストッパピストン7およびストッパ穴5bが損傷することを防止できる。
【0039】
ステップ113においてVTT≠0°CAであれば、VTとVTTとの差の絶対値が所定値以下であるかを判定する(ステップ115)。これは、シューハウジング3に対するベーンロータ9の位相差が、VTTの近傍に到達したか否かを判定するステップである。差の絶対値が所定値以下であれば、電磁弁50に供給されている制御電流のデューティ比を増減することなくそのまま保持学習デューティ比として設定し、制御電流のデューティ比として用いる(ステップ116)。VTとVTTとの差の絶対値が所定値以下であれば、ベーンロータ9が目標進角位置にあることを意味し、この位置を保持するステップ116の処理は保持モードを表している。
【0040】
VTとVTTとの差の絶対値が所定値よりも大きい、つまりシューハウジング3に対するベーンロータ9の位相差がVTTにまだ近づいていないのであればVTTとVTの大小関係を判定し、VTT>VTであれば、ベーンを進角させるためにデューティ比を増加させる(ステップ118)。ステップ118の処理は、第1モードとしての進角モードを表している。
【0041】
VTT<VTであれば、ベーンを遅角させるためにデューティ比を低下させる(ステップ119)。ステップ119の処理は、第2モードとしての遅角モードを表している。
VTTとVTとの大小関係によりベーンロータ9を遅角側または進角側に回転させるステップ115、117、118、119における処理はF/B(フィードバック)モードを表している。
【0042】
第1実施例では、遅角側および進角側の両方の油圧をそれぞれ受ける受圧面をストッパピストン7に設けたことにより、油圧ポンプ60から作動油が導入されている状態において、電磁弁50に供給する制御電流のデューティ比に関係なく確実にストッパ穴5bからストッパピストン7を抜け出させることができる。
(第2実施例)
本発明の第2実施例を図7および図8に示す。第1実施例と実質的に同一構成部分には同一符号を付す。
【0043】
第2実施例のストッパピストン70は、軸方向にほぼ同一外径を有するように形成されており、ガイドリング71に往復移動可能に支持されている。ストッパピストン70は、付勢手段としてのスプリング72の付勢力に抗してストッパ穴5bから抜け出す方向に受ける油圧として油圧室30からの油圧だけを受ける構成である。したがって、油圧室30から油圧を受ける受圧面の面積を第1実施例のストッパピストン7よりも大きくすることができる。
【0044】
第2実施例においてもシューハウジング3に対するベーンロータ9の位相制御は、第1実施例で説明した図5および図6の制御ルーチンにより行う。第2実施例のストッパピストン70は遅角側にベーンロータ9を回転させる油圧から力を受けないので、エンジンが始動後にエンジン回転数がアイドル回転数の範囲内に達しベーンロータ9が最遅角位置に位置すると、端部保持モードが実行される前の状態ではストッパピストン70がストッパ穴5bに嵌合している。そして、端部保持モードが実行されると、油圧室30の油圧によりストッパピストン70はストッパ穴5bから抜け出すので、シューハウジング3に対するベーンロータ9の位相制御が可能になる。
【0045】
第2実施例では、ストッパピストン70をほぼ同一外径に形成しているので、ストッパピストン70の加工が容易になり、製造コストを低減できる。
また、第1実施例のストッパピストン7のように遅角側および進角側の両方の油圧を受ける受圧面を設けるものでは、エンジン回転数が減少し作動油の油圧が低下すると、最遅角位置においてストッパピストンがストッパ穴に嵌合することがある。これを避けるためには、ストッパピストンの径を拡大し受圧面積を大きくすればよいのであるが、バルブタイミング装置が大径化するという問題がある。また、油圧ポンプ60の駆動力を高めることも考えられるが、エンジンの負荷増大を招き燃費が低下するという問題がある。
【0046】
これに対し第2実施例では、進角側の油圧を受ける受圧面を大きくできるので、エンジン回転数が低下し進角側の油圧が低下しても、確実にストッパ穴5bからストッパピストン7を抜け出させることができる。
以上説明した本発明の複数の実施例では、エンジン始動後、ベーンロータ9を最遅角位置から進角側に回転駆動する前に、端部保持モードにおいて予めストッパピストンをストッパ穴5bから抜け出させシューハウジング3とベーンロータ9との拘束状態を解除している。したがって、ストッパピストンがストッパ穴5bに嵌合したままベーンロータ9が進角側に回転し、ストッパピストンおよびストッパ穴5bが損傷することを防止できる。
【0047】
また、ベーンロータ9が最遅角位置にある端部保持モードにおいてシューハウジング3とベーンロータ9との拘束状態が解除されていても、端部保持モードにおける各進角油圧室の油圧はベーンロータ9を進角側に回転させる進角モードにおける各進角油圧室の油圧よりも低いので、ベーンロータ9は遅角側に押圧されている。したがって、カムシャフト2が正負のトルク変動を受けても最遅角位置においてハウジング部材とベーン部材とがばたつくことを抑制することができる。
【0048】
さらに、端部保持モードにおいて電磁弁50に供給する制御電流のデューティ比を、図4に示すように、ベーンロータ9がシューハウジング3に対して進角側にも遅角側にも回動しない平衡状態を保持するデューティ比よりも低く各遅角油圧室と各進角油圧室との油圧が等しくなるデューティ比よりも高くなるように設定している。したがって、最遅角位置から進角側にベーンロータ9を回転させる場合、各進角油圧室の油圧が僅かに上昇するだけでベーンロータ9が進角側に回転するので、最遅角位置から進角側への位相制御の応答性が向上する。
【0049】
また本発明の複数の実施例では、ストッパピストンがベーンロータ9の軸方向に移動してハウジング部材としてのフロントプレート5に設けたストッパ穴5bに嵌合する構成としたが、例えばストッパピストンをシューハウジングに収容し、ストッパピストンがシューハウジングの径方向に移動してベーンロータに設けたストッパ穴に嵌合する構成としてもよい。
【0050】
また本発明の複数の実施例では、タイミンプーリによりクランクシャフトの回転駆動力をカムシャフトに伝達する構成を採用したが、チェーンスプロケットやタイミングギア等を用いる構成にすることも可能である。また、駆動軸としてのクランクシャフトの駆動力をベーン部材で受け、従動軸としてのカムシャフトとハウジング部材とを一体に回転させることも可能である。
【0051】
また本発明の複数の実施例では、吸気弁を駆動するバルブタイミング調整装置について説明したが、本発明のバルブタイミング調整装置により排気弁を駆動することも、吸気弁および排気弁の両方を駆動することも可能である。排気弁を駆動する場合、シューハウジング3に対してベーンロータ9が最進角位置に位置するときにストッパピストンはストッパ穴に嵌合可能であり、端部保持モードが実行される。そしてストッパピストンは、遅角側の油圧からだけ力を受ける受圧面を設ければよい。
【0052】
また本発明の複数の実施例では、エンジンを終了するときにシューハウジング3に対しベーンロータ9を最遅角位置に保持し、スプリング8の付勢力によりストッパ穴5bにストッパピストンを嵌合させた状態でエンジンを終了してもよいし、最遅角位置以外の位置でベーンロータ9が停止した状態でエンジンを終了してもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施例によるバルブタイミング調整装置を示す図2のI−I線断面図である。
【図2】第1実施例によるバルブタイミング調整装置を示す縦断面図である。
【図3】図1と同じ断面位置における、第1実施例によるエンジン始動直後のバルブタイミング調整装置を示す断面図である。
【図4】デュ−ティ比と遅角室圧および進角室圧との関係を示す特性図である。
【図5】第1実施例によるエンジン始動直後に実行される制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図6】第1実施例による定期的に実行される制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図7】本発明の第2実施例によるバルブタイミング調整装置を示す図8のVII −VII 線断面図である。
【図8】第2実施例によるバルブタイミング調整装置を示す縦断面図である。
【符号の説明】
1 タイミングプーリ
2 カムシャフト(従動軸)
3 シューハウジング(ハウジング部材)
3a、3b、3c シュー
4 リア部材(ハウジング部材)
5 フロントプレート(ハウジング部材)
5b ストッパ穴(被当接部)
6 ブッシュ
7 ストッパピストン(当接部)
9 ベーンロータ(ベーン部材)
9a、9b、9c ベーン(ベーン部材)
40 扇状空間部(収容室)
70 ストッパピストン(当接部)

Claims (5)

  1. 内燃機関の駆動軸から内燃機関の吸気弁および排気弁の少なくともいずれか一方を開閉する従動軸に駆動力を伝達する駆動力伝達系に設けられ、前記駆動軸または前記従動軸のいずれか一方とともに回転するハウジング部材と、
    前記駆動軸または前記従動軸の他方とともに回転し、前記ハウジング部材内に形成された収容室に所定角度範囲に限って前記ハウジング部材に対して相対回動可能に収容されるベーン部材と、
    前記ハウジング部材と前記ベーン部材とにそれぞれ設けられる当接部および被当接部であって、前記収容室の一方の周方向端部に前記ベーン部材が位置するときに互いに当接することにより前記ハウジング部材に対する前記ベーン部材の相対回動を拘束する当接部および被当接部、ならびに前記被当接部との当接方向へ前記当接部を付勢する付勢手段を有し、前記当接部の変位により拘束状態を解除可能に構成される拘束手段と、
    前記収容室の他方の周方向端部側に前記ベーン部材を付勢する第1流体圧力、ならびに前記一方の周方向端部側に前記ベーン部材を付勢する第2流体圧力を調整し前記ハウジング部材に対する前記ベーン部材の相対回動を制御する制御手段であって、前記他方の周方向端部側に前記ベーン部材を回転させる第1モードと、前記一方の周方向端部に前記ベーン部材を保持する端部保持モードとを有する制御手段とを備え、
    前記端部保持モードにおける前記第1流体圧力は前記第1モードにおける前記第1流体圧力よりも低く、前記端部保持モードにおいて、前記第1流体圧力を少なくとも含む流体圧力により前記付勢手段の付勢力に抗して前記当接部と前記被当接部との拘束状態を解除することを特徴とする内燃機関用バルブタイミング調整装置。
  2. 前記端部保持モードにおいて、前記第1流体圧力だけで前記当接部と前記被当接部との拘束状態を解除することを特徴とする請求項1記載の内燃機関用バルブタイミング調整装置。
  3. 前記端部保持モードはアイドル運転時に実施されることを特徴とする請求項1または2記載の内燃機関用バルブタイミング調整装置。
  4. 前記一方の周方向端部以外の位置で前記ベーン部材を保持する際の前記第1流体圧力は前記端部保持モードにおける前記第1流体圧力よりも高いことを特徴とする請求項1、2または3記載の内燃機関用バルブタイミング調整装置。
  5. 前記制御手段は前記一方の周方向端部側に前記ベーン部材を回転させる第2モードを有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載の内燃機関用バルブタイミング調整装置。
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