JP2841250B2 - 金属製ガスケット及びその製造方法 - Google Patents

金属製ガスケット及びその製造方法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、内燃機関、特に、多
気筒内燃機関において、シリンダヘッドとシリンダブロ
ックとの対向取付面間をシールするために使用される金
属製ガスケット及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、シリンダヘッドとシリンダブロッ
クとの間のような内燃機関の構造部材の対向取付面間を
シールするために金属材料から製作した金属製ガスケッ
トが使用されている。金属製ガスケットは、一般に前記
構造部材のシリンダボア、水、油の通路に対応する貫通
孔の周囲近傍にビードを有しており、ボルト等によりシ
リンダヘッドとシリンダブロックとを締め付けて固定す
ると、ビードが対向取付面に対して弾性的な環状接触部
を形成し、前記貫通孔の周りにおいて対向取付面間をシ
ールするものである。
【0003】しかしながら、最近の内燃機関は、高出力
化と共に軽量化が求められ、その一環としてシリンダヘ
ッド及びシリンダブロック等を従来の比重の大きい鋼、
鋳物に代えて比重の小さいアルミニウム材料で製作する
傾向にある。アルミニウム材料は軽量である反面、剛性
が低いので金属製ガスケットの締め付け時及び内燃機関
の運転時に不都合が生じる虞がある。即ち、金属製ガス
ケットの締付けボルト位置が金属製ガスケットの外周部
又は比較的に外周部に分散してシリンダボア孔に対して
はその周囲に必ずしも均等に分布していないので、これ
ら剛性が低下した構造材料間の対向取付面を単板の金属
製ガスケットを介して締付け用ボルトによって締め付け
るときに、対向取付面が不整となり易い。その結果、シ
リンダボア孔間の部分のような歪みの大きい個所の対向
取付面間に高温高圧の燃焼ガスが侵入して、対向取付面
間に介装されている金属製ガスケットのビード部を腐
食、汚損してシール効果を低下させる。
【0004】更に、これら構造材料の剛性が低下するた
めに、内燃機関の運転時には燃焼サイクルに応じてシリ
ンダブロックに対するシリンダヘッドの相対変位が大き
くなり、シリンダヘッドとシリンダブロックとの間隔が
増減を繰り返し、また内燃機関の運転と停止と繰り返し
に応じて金属製ガスケットの温度変化が大きく変化する
ので、金属製ガスケットにも繰り返し応力即ちメカニカ
ルストレス及びサーマルストレスが作用する。この負荷
変動応力は、シリンダブロックやシリンダヘッドの剛性
の最も低い部位に大きな値として発生し、その結果、ビ
ードにへたりが生じたり、亀裂が発生してシール性能を
劣化させるという不具合が生じる。
【0005】かかる金属製ガスケットにおいて、本出願
人は、既に、内燃機関のシリンダヘッドとシリンダブロ
ックとの対向取付面間に配置され、締め付けられる単板
の金属製ガスケットとその製造方法に関して出願をして
いる(特願平2−306295号)。この金属製ガスケ
ットについては、弾性金属板に形成したシリンダボア
孔、該シリンダボア孔の周縁から半径方向外側に隔置し
て前記シリンダボア孔に沿って形成したビード、及び前
記シリンダボア孔の周囲において前記ビードの凸面側で
半径方向外側に折り返して形成した折返し部を有し、前
記金属板の前記折返し部は予め設定した厚さに成形され
且つ熱処理されているので、前記対向取付面間で締め付
けて押圧状態にすると、前記ビードが対向取付面に対し
て環状のシール線を形成すると同時に、板厚が約2倍あ
る前記折返し部がシリンダボア孔の周囲において別のシ
ール線を形成し、前記ビードや折返し部が対向取付面の
不整を吸収すと共に、燃焼サイクルの繰り返しで発生す
るシリンダヘッドの歪み量を抑制しそして変動負荷応力
を軽減し、更に前記ビードの全圧縮を防止する働きをす
る。
【0006】かかる金属製ガスケットにおいて、前記シ
リンダボア孔間を除く前記ビードの半径方向外側でかつ
前記ビードが凸面側に前記金属板より薄い金属板を積層
して、折返し部と前記ビードよりも半径方向外側の領域
との段差の調節を行う構造のもの、前記段差が必要な段
差以下になる場合に前記折返し部に軟質金属板を挟んで
折り返したもの、前記折返し部がシリンダボア孔間で厚
く且つ前記シリンダボア孔間以外で薄く形成して高いシ
ール性能が要求されるシリンダボア孔間の領域で強い押
圧力を得るもの、及び、ガスケットの両面に耐熱性及び
耐油性のゴム又は樹脂等の非金属材料を塗布して対向取
付面との金属対金属の直接的な接触を回避し金属表面の
腐食や汚損を防止し且つ対向取付面の凹凸に係わらずシ
ール機能を確保するものをも同時に提案している。
【0007】また、上記金属製ガスケットの製造方法
は、弾性金属板に成形完了後のシリンダボア孔より内径
が小さいボア孔を形成する工程、該ボア孔の周縁から半
径方向外側に隔置して前記周縁に沿ってビードを成形加
工する工程、前記ボア孔の周囲において前記ビードの凸
側で半径方向外側に折り曲げ加工を施して折返し縁部を
シリンダボア孔とする折返し部を形成する工程、該折返
し部に圧縮力を付与して予め設定された厚さに成形する
工程、及び前記折返し部を成形した前記金属板を熱処理
する工程からなる。上記製造方法において、前記折返し
部を成形する工程で軟質金属板を挟み込む工程を付加す
る製造方法も開示している。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、本出願
人が提案した上記の金属製ガスケットについても、次の
ような技術的な未解決の問題点が残されている。即ち、
上記の金属製ガスケットは、基本的に、完成シリンダボ
ア孔よりも内径が小さいボア孔を形成して前記ボア孔の
周囲において半径方向外側に折返して形成した折返し部
を有する弾性金属板を含んでいる。従って、かかる弾性
金属板は、折返し部がシリンダボア孔となる折返し縁部
において180度隙間なく完全に折り返した構造を有し
ており、加工時において厳しい応力変化を受けるので、
折返し部に亀裂や割れ等の損傷を生じたり、或いは熱処
理を施すとはいえ対向取付面間に締め付け後には燃焼サ
イクルに応じた繰り返し応力に長時間晒され、シリンダ
ボア孔を定める折返し縁部に亀裂が生じやすい。
【0009】また、シリンダボア孔の周囲において折返
し部を形成すると、シリンダボア孔の周囲とそれよりも
半径方向外側の領域との間で板厚に相当する段差が形成
されることになる。段差が大きいと、シリンダヘッドと
シリンダブロックと対向取付面間で金属製ガスケットを
締め付けたときに、その段差の内外の領域でガスケット
本体の弾性金属板が無理に変形されることになる。かか
かる変形領域では元来、応力的に不利であり、内燃機関
の燃焼サイクルに応じた負荷変動により更に無理な応力
が作用して亀裂を生じる等の虞がある。更に、折返し部
よりも半径方向外側においてボア孔に沿って輪郭状に形
成したビードを有する弾性金属板である場合には、折返
し部の板厚が大きいと、締め付け時に強いシール線が形
成されてシリンダボア孔から腐食性の高温燃焼ガスが漏
洩するのを防止するが、ビードを形成した部位のシール
の役割がその分軽減されている。従って、シールの分担
が折返し部に偏りすぎることになり、折返し部が長期の
使用中に欠損を生じた場合には、それほど強力でないビ
ード部のシールが燃焼ガスの漏洩を防止する機能を有効
に果たせなくなる。
【0010】上記折返し部による弾性金属板の段差が所
望の高さよりも大きな高さを有する場合に、板厚調整板
を弾性金属板に積層することで折返し部の段差の高さを
減少する方向に調整することもできるが、かかる調整の
仕方では調整板を別途用意しておく必要があるので、金
属製ガスケットの製造コストが上昇すると共に、調整板
を製作するに際しては弾性金属板のビード等の加工形状
と合致する形状を持たせる必要があり、また弾性金属板
との積層工程及びそのための設備を必要とするなどの煩
わしさや経済的な不利がある。
【0011】また、折返し部の折返し先端は特に面取り
等の加工を施さないため該先端縁が弾性金属板の表面に
当接しているので、繰り返し応力が作用する環境に長時
間晒されることにより、弾性金属板の表面に亀裂やすり
痕を生じていた。
【0012】更に、金属製ガスケットの製造方法におい
ても、上記の先願で提案された金属製ガスケットは、使
用する弾性金属板の板厚、硬さ及び伸び特性において制
限があった。即ち、弾性金属板の板厚に関しては、折返
し部は事前に板厚を調整していないから、採用した弾性
金属板の板厚で折り返し加工をしなければならず、加工
に要する力が大きくて折返し端縁において急激な板厚変
化をもたらし、亀裂等の虞があり、また折り返し後にプ
レス等で板厚を調節する所謂予圧縮するものにあって
は、調整量が大きくなると共に板厚調整精度や平坦度が
向上し難いので、採用できる板厚について制約がある。
弾性金属板の硬さに関しては、硬度の高い材料では折り
曲げ加工が困難であるため、折返し加工前でHv200
以下の比較的柔らかくて加工しやすい硬度を維持する弾
性金属板を選んで使用しなければならず、この点でも採
用できる弾性金属板の硬さに制約がある。更に、弾性金
属板の伸び特性については、伸び特性が良くない材料を
使用すると折り曲げ加工の際に折返し部に亀裂、割れ、
歪み等が発生し易く、従って、亀裂、割れ、歪み等の発
生防止のために伸び特性の良い高価な弾性金属板を採用
しなければならないという制約がある。
【0013】そこで、この発明の目的は、上記の課題を
解決することであり、折返し部を形成するのに先立っ
て、弾性金属板の折返し内面側の領域の板厚を薄肉化す
ることにより、前記弾性金属板の折返し部に亀裂、割
れ、歪み等が生じることを防止し、例えば、調整板を別
途用意することによる大きすぎる段差を補償することも
なく、また、折り返し先端が弾性金属板の表面にすり痕
や亀裂を生じさせることのない金属製ガスケットを提供
することである。
【0014】この発明の別の目的は、弾性金属板の板
厚、硬さ及び伸び特性上の材料に関する制約を緩和で
き、折返し工程での製造の際に折返し部に亀裂、割れ、
歪み等を生じることがなく、金属製ガスケットを品質良
く且つ安価に得ることができる金属製ガスケットの製造
方法を提供することである。
【0015】
【課題を解決するための手段】この発明は、上記の目的
を達成するために、次のように構成されている。即ちこ
の発明は、折返し部を備え且つ該折返し部の折返し縁部
でシリンダボア孔を形成する弾性金属板を備えた金属製
ガスケットにおいて、前記折返し縁部の内面側には前記
シリンダボア孔に沿って前記弾性金属板を薄肉にする第
1環状溝部が形成され、前記折返し縁部の内面側に前記
環状溝部で環状中空部を形成して折り返されており、更
に前記折返し部の折返し先端が位置する前記弾性金属板
の表面には薄肉にする第2環状溝部が形成されているこ
とを特徴とする金属製ガスケットに関する。
【0016】また、この金属製ガスケットにおいて、前
記弾性金属板には別の弾性金属板が積層し、該別の弾性
金属板にはシリンダボア孔に沿ってビードが形成され、
該ビードの凸部と前記弾性金属板の前記折返し部とは対
向する側に配置されているものである。
【0017】更に、この金属製ガスケットにおいて、前
記弾性金属板には、前記シリンダボア孔に沿って前記折
返し部側が凸部になるビードが形成されている。
【0018】また、この金属製ガスケットにおいて、前
記弾性金属板には別の弾性金属板が積層し、該別の弾性
金属板にはシリンダボア孔に沿ってビードが形成され、
該ビードの凸部と前記弾性金属板の前記ビードの凹部に
整合状態に嵌合しているものである。
【0019】或いは、この発明は、弾性金属板にシリン
ダボア孔よりも小さい内径を有するボア孔を形成する工
程、前記弾性金属板の折曲げ領域を折り曲げ加工して折
返し縁部をシリンダボア孔とする折返し部を形成する工
程、及び前記折返し部を形成した前記弾性金属板を熱処
理する工程を有する金属製ガスケットの製造方法におい
て、前記折返し部を形成する前記工程に先立って、前記
弾性金属板の折返し側において前記折返し部の前記折返
し縁部内面側となる折曲げ領域と前記折返し部の折返し
先端が位置する領域とを薄肉にする環状溝部を加工する
工程を有する金属製ガスケットの製造方法に関する。
【0020】また、この金属製ガスケットの製造方法に
おいて、前記弾性金属板の前記シリンダボア孔に沿って
前記折返し部側が凸部となるビードを形成する工程を有
するものである。
【0021】また、この金属製ガスケットの製造方法に
おいて、前記弾性金属板にシリンダボア孔に沿ってビー
ドを備えた別の弾性金属板を積層する工程を有するもの
である。
【0022】
【作用】この発明による金属製ガスケット及びその製造
方法は、以上のように構成されており、次のように作用
する。即ち、この金属製ガスケットは、シリンダボア孔
折返し縁部がシリンダボア孔となるように弾性金属板の
ボア孔内周部を折り返した折返し部を備える金属製ガス
ケットにおいて、前記折返し縁部が折曲げ内面側からの
薄肉化により間隙を介して折り返されており、更に前記
折返し部の折返し先端が対向する弾性金属板の表面が部
分的に薄肉化されているので、内燃機関の対向取付面間
に金属製ガスケットを挟んで締め付けたときに、折返し
部は、間隙を有する折返し縁部では折返し対向面で互い
に押圧されず、また、折返し先端の領域でも弾性金属板
本体に対して押圧されない。従って、折返し部が弾性金
属板本体と接触するのは折返し縁部と折返し先端との間
の環状領域であり、かかる領域において締め付け力が分
担支持される。
【0023】また、折返し縁部では、金属製ガスケット
の締め付けで前記間隙が吸収されることはなく締め付け
完了時でも間隙は確保されるので、折返し縁部が潰れた
り応力集中を生じることはない。内燃機関の運転に伴う
負荷変動が折返し縁部に作用するが、折返し縁部に作用
する応力変動が緩和される。更に、折返し先端は弾性金
属板本体に対して当接していないので、金属製ガスケッ
トの締め付け時及び内燃機関の運転時においては、折返
し部先端がそのエッジによって弾性金属板本体の表面に
対して圧痕や擦過痕さらには亀裂を生じさせることはな
い。加えて、折返し部は弾性金属板本体に対して段差と
なるが、折返し先端が位置する弾性金属板の表面は薄肉
化により窪んでいるので、対向取付面間での締め付け時
に薄肉部分は折返し先端と干渉することなく、折返し先
端より半径方向内方位置から屈曲可能であり、段差部に
おいて弾性金属板本体に生じる曲げ応力が軽減される。
【0024】或いは、この発明による金属製ガスケット
の製造方法においては、弾性金属板にボア孔を形成する
工程、前記弾性金属板の折返し側において折返し部の折
返し縁部内側となる折曲げ領域と折返し部の折返し先端
が位置する領域とを薄肉に成形する工程、前記折曲げ領
域の中間位置において折り曲げ加工を施して折返し縁部
をシリンダボア孔とする折返し部を形成する工程、該折
返し部を形成した前記金属板を熱処理する工程を有する
ので、弾性金属板に形成したボア孔の周囲を折り返すと
きに、予め前記弾性金属板の折返し側において折返し部
の折返し縁部内側となる折曲げ予定領域が薄肉に形成さ
れているから、折り返すのに要する力が小さくて済み、
また折り返しは180度急激且つ完全に折り返すのでは
なく金属材料が次第に変形していく加工が施され、従っ
て、折返し縁部の形成に際して金属材料に対する損傷が
少なく、且つ残留する集中応力も緩和される。また、折
返し部の折返し先端が位置する予定の領域も予め薄肉に
成形されるから、折り返し加工の際に折返し先端が弾性
金属板本体の表面を強く圧接して圧痕を残すことはな
い。
【0025】
【実施例】以下、図面を参照して、この発明による金属
製ガスケット及びその製造方法の実施例について説明す
る。図1はこの発明による金属製ガスケットの一実施例
を示す部分平面図である。
【0026】図1に示す金属製ガスケット1は、例え
ば、六気筒エンジン等の多気筒エンジンにおけるシリン
ダヘッドとシリンダブロック(いずれも図示せず)との
対向取付面をシールするために使用されるものである。
金属製ガスケット1は、単板又は複数板の弾性金属板か
ら成り、金属製ガスケットの構造に応じて厚さtは0.
10mm乃至0.30mmの間の値が選択されている。
従来、折返し加工をするためには、焼き入れ前の硬さで
Hv200までの柔らかい金属材料を使用しなければな
らなかったが、この発明によれば、弾性金属板3は、H
v350の硬さまでのものを使用して加工することがで
きる。
【0027】金属製ガスケット1における弾性金属板3
には、多気筒エンジンの気筒数、即ち、シリンダブロッ
クに形成されたシリンダボアに対応する数の孔であるシ
リンダボア孔2A,2B,2C・・が形成されている
(これらのシリンダボア孔を総称する時には符号2を用
いる)。更に、金属製ガスケット1の弾性金属板3に
は、オイルを通すオイル孔やオイル戻り孔16、金属製
ガスケット1を対向取付面間に締め付けるボルトが挿通
するボルト孔17、冷却水を通す水孔18、ノック孔、
リベット孔等が複数個穿設されている。図示しないが、
各孔を通る断面では、これらの孔の周囲において弾性金
属板3は孔を取り囲む円すり鉢状の山形又は谷形となっ
ており、金属製ガスケット1を締め付けたときに、これ
らの孔の周囲をシールするようになっている。これらの
各孔については、金属製ガスケットの技術分野において
それぞれ周知の技術であるので、ここでは詳細な説明を
省略する。
【0028】また、図示していないが、金属製ガスケッ
ト1の表裏両面に対しては、耐熱性及び耐油性のゴム
(例えば、フッ素ゴム)、樹脂等の非金属材料で、例え
ば厚さが10μ乃至50μ程度のコーティングを施すこ
とによって、シリンダヘッド及びシリンダブロックに対
して金属対金属の接触状態を回避し、ガスケットとして
の耐腐食性や耐久性及び強度を確保することができる。
金属製ガスケット1自体及びシリンダヘッドやシリンダ
ブロックの対向取付面等の機械加工面に凹凸が存在して
いても、上記非金属材料が凹凸をカバーして充分なシー
ル機能を果たすことができる。非金属材料の塗布は、ボ
ア孔を形成し弾性金属板の肉厚調整後であって、折り曲
げ加工開始前に完了しておくのが好ましい。
【0029】図2は図1の線A−Aにおける断面図、図
3は図2の一部である折返し部を拡大して示す図及び図
4は折返し部を有する弾性金属板の展開図である。図2
には、弾性金属板1に形成したそれぞれ隣接するシリン
ダボア孔2A,2B,2C・・の境界部分をそのシリン
ダボア孔2A,2Bの中心を結ぶ線A−Aで切断した金
属製ガスケット1の断面、即ち、シリンダボア孔2間で
の断面が示されているが、他の隣接するシリンダボア孔
2の境界部分においても同様の断面構造をしているのは
勿論である。
【0030】これらの図面から理解されるように、金属
製ガスケット1は、単板の弾性金属板3から構成されて
いる。弾性金属板3については、厚さtは約0.10〜
0.30mmの範囲であり、例えば、約0.25mmの
厚さであり、シンダボア孔2の周囲近傍部分をシリンダ
ボア孔2と同心に且つ環状に取り巻く断面山形即ち凹凸
部を有するビード4A,4B,4C・・が形成されてい
る(符号4は、シリンダボア孔2と同様ビードに対する
総称を示す)。ビード4は、シリンダボア孔2A,2B
間のような隣接するシリンダボア孔間の領域では会合し
て一本のビード4となっている。ビード4の会合部では
シリンダボア孔2からの距離が次第に短くなる一方で、
上記のとおりビード4の幅は狭くなっている。しかしな
がら、シリンダボア孔2間の距離が充分取れる時には隣
接するビード4同士を重ねることなく、わずかの間隙を
おいて互いに配置してもよい。図示の例では、ビード4
はシリンダボア孔2の内周縁からの距離L2 (例えば、
約2.0mm)のところから始まり、半径方向で見て所
定の幅L3 はシリンダボア孔間の領域で約2mmであ
り、シリンダボア孔間以外の領域で約2.5mmであ
る。シリンダボア孔間以外の領域でのビード4は、5m
mの幅で凸側の頂部を実質的に平らに形成し、ばね定数
を若干下げるもののビード4と対向取付面との接触を安
定化させている。ビード4の高さHは弾性金属板3の板
厚である0.25mm程度である。シリンダボア孔の直
径は87mmであり、隣接するシリンダボア孔2間の距
離L1 は、例えば、約6.0mmである。
【0031】弾性金属板3は、シリンダボア孔2の周縁
で折返し部5A,5B,5C(以下、折返し部を称する
ときは符号5を用いる)を有する。折返し部5は、ビー
ド4の凸面側で且つビード4の半径方向内側においてビ
ード4と重なることのないように形成されている。弾性
金属板3の折返し部5の半径方向幅、即ち、折り返し幅
4 は、例えば、約1.5mmである。
【0032】図3で折返し部5を拡大して示すように、
折返し部分11の折返し縁部7の領域では、周方向溝部
即ち環状溝部6が形成されて薄肉化され、環状中空部即
ち間隙14を形成して折り返されている。間隙14より
もシリンダボア孔2の半径方向外側の領域で、折返し部
分11の折返し内面12が弾性金属板本体の薄肉化され
ていない面10に当接している。更に、折返し部5の折
返し先端13が対向する弾性金属板本体の部分9は、折
返し表面側から部分的に薄肉化されて周方向溝部即ち環
状溝部8に形成されているので、折返し先端13は弾性
金属板3の表面に当接していない。
【0033】金属製ガスケット1は、シリンダヘッドと
シリンダブロックとの間に介装されて、例えば、ボルト
孔17を通したボルトにより締め付けて押圧状態にする
と、弾性金属板3のビード4と折返し部5とが対向取付
面に対して接触してシリンダボア孔2の周りにおいて二
重の環状シール部を形成する。これらの二段構えの環状
シール部によって、シリンダボア孔2からの高温高圧の
燃焼ガスが両対向取付面に漏れ出るのを阻止する。ま
た、シリンダヘッドとシリンダブロックとの締め付け時
に、シリンダヘッドとシリンダブロックとの対向取付面
に不整が生じても、折返し部5と、ビード4がこれに対
応して変形し、上記のように環状シール部の増加と相ま
って不揃いな間隙を吸収する。折返し部5は、ビード4
と共に締め付け力の分担支持し、そして折返し部5の板
厚分だけビード4の圧縮を防止するので、ビード4のヘ
タリを防止する。また、環状シール部の増加と上記対向
取付面の不整の吸収により、内燃機関の爆発・膨張行程
の燃焼サイクル時の繰り返しで発生するシリンダヘッド
の歪み量が抑制され、シール部の亀裂の発生を防止する
ことができる。かかる金属製ガスケット1の機能は従来
のものと変わるところはない。
【0034】このような金属製ガスケット1を内燃機関
の対向取付面間に挟んで締め付けたときに、折返し部5
では、弾性金属板3即ち弾性金属板本体と接触する表面
10からなる環状領域で締め付け力を分担支持するので
あって、間隙14を有する折返し縁部7及び折返し先端
13の領域では弾性金属板3本体に対して押圧されず、
また、たとえ接触してもその押圧力は充分小さい。従っ
て、折返し縁部7では、金属製ガスケット1の締め付け
で間隙14が吸収されることはなく締め付け完了時でも
間隙14は確保されるので、折返し縁部7が潰れたり応
力集中を生じることはなく、従って金属製ガスケット1
の締め付けに伴って折返し縁部7に亀裂や歪みを生じる
ことはない。また、内燃機関の運転に伴う負荷変動が折
返し縁部7にも作用するが、折返し縁部7に作用する応
力変動は緩和され、長期の使用に際しても折返し縁部7
に亀裂、歪み、割れ等を生じることはない。更に、折返
し先端13は窪み部である周方向溝部8のため弾性金属
板本体に対して当接していないので、金属製ガスケット
1の締め付け時及び内燃機関の運転時においては、折返
し部先端13がそのエッジによって弾性金属板本体の表
面に対して圧痕や擦り痕さらには亀裂を生じさせること
はない。
【0035】折返し部5は弾性金属板本体に対して段差
となるが、折返し先端13が位置する弾性金属板3の表
面は薄肉化により環状溝部8となっている。金属製ガス
ケット1を対向取付面間で締め付けた時に、かかる段差
を解消しようとする変形が弾性金属板3に加えられる
が、弾性金属板3は折返し先端13より半径方向内方に
位置する環状領域の薄肉部分9の開始位置から屈曲可能
であるので、段差部において弾性金属板本体に生じる曲
げ応力が軽減される。
【0036】この発明による金属製ガスケットは、上記
のような構成を有しているが、該金属製ガスケット1は
次の工程を経る製造方法によって製作することができ
る。この製造方法を図4に示す弾性金属板3の折返し前
の状態を示す展開図を参照して説明する。
【0037】先ず、弾性金属板3に所望のシリンダボア
孔2よりも所定の長さだけ小さい半径にボア孔15を形
成する。ボア孔15は、折曲げ完了時に折返し先端13
となる孔である。ここで、シリンダボア孔2とボア孔1
5とは孔中心が同じである。また、シリンダボア孔2以
外のボルト孔17等の種々の孔を穿孔して形成する。次
に、ボア孔15の周縁から半径方向外側に折返し幅L4
の距離の部位を中心として所定の幅L5 (図示の例では
0.6mm)の環状領域7と、折返し先端13が位置す
ることとなる部位(ボア孔15から折返し幅L4 の倍の
距離の位置)を中心として所定の幅L6 (図示の例では
0.6mm)の環状領域9とを薄肉に形成してそれぞれ
環状溝部6,8とする。薄肉化は、弾性金属板3の折返
し側の表面から行う。環状領域の薄肉部分7と環状領域
の薄肉部分9との間には所定の間隔(図示の例では0.
5mm)において薄肉化を施さない領域が形成される。
薄肉化の深さdは、図示の例では0.02mmである。
【0038】また、弾性金属板3に環状溝部6,8を形
成する薄肉化は、プレス成形、エッチング加工、切削加
工等のいずれの加工方法を採用してもよい。プレス成形
のときは、ボア孔15の抜き打ちと同時にプレス成形す
ることもできる。次に、弾性金属板3にシリンダボア孔
2に沿ってビード4を形成すると共に、ボア孔15の周
囲において、環状溝部6の中央線までの折り返し幅L4
を有する折り返し部分11を、薄肉化を施した表面側で
半径方向外側に折り曲げ加工を施こして、折返し部分1
1の表面12を表面10に接触させる。折返し先端13
は、環状溝部8即ち薄肉化された環状領域の中央位置に
もたらされる。折り曲げ加工の工程が終了すると、折り
返した折返し縁部7の内周をシリンダボア孔2とした折
返し部5が形成される。最後に、折返し部5を形成した
弾性金属板3を熱処理して弾性金属板3を硬化し、適正
な弾性を有する金属製ガスケット1を製造することがで
きる。
【0039】また、折返し部5を成形する折り曲げ加工
工程の後であって、金属製ガスケット1を熱処理する前
に、折返し部5に板厚方向に圧縮力を付与して、予め設
定した厚さにまで微小変形する工程を施すことができ
る。即ち、シリンダヘッドはシリンダブロックに比べて
剛性が低く、多気筒エンジンにおいては、隣接するシリ
ンダボア孔2間の部分が内燃機関の爆発行程及び膨張行
程の燃焼サイクルにおける負荷変動により最も大きな歪
みを生じ易いところである。従って、この部分が金属製
ガスケットによるシール機能が最も低下し易いところで
もあるので、折返し部5のシリンダボア孔2間の領域で
のシール性能をシリンダボア孔2間以外の領域でのシー
ル性能よりも強力にするために、シリンダボア孔2間の
領域に位置する折返し部5の板厚をシリンダボア孔2間
以外の領域に位置する折返し部5の板厚よりも厚くする
ことが考えられる。このため、折返し部5の折り曲げ加
工工程の後にシリンダボア孔2間以外の領域に位置する
折返し部5をシリンダボア孔2間に位置する折返し部5
よりも大きな量だけ変形させるための圧縮力を付与する
工程を設けてもよい。
【0040】具体的には、図10及び図11に示されて
いるように、シリンダボア孔2間の領域aにおいては厚
さが最も厚く成形され、領域aの両側に延びる領域bに
おいては厚さが次第に減少していき、更に、その両側に
延びる円弧部分の領域cについては厚さが、最も薄く形
成される。なお、折返し部5を形成した弾性金属板3
は、熱処理して硬化されるが、この時、硬さがビード形
成前でHv350以下であるのを、熱処理後には弾性金
属板3の種類に応じた硬度(例えば、Hv500程度)
を有するように硬化する。
【0041】図5は、この発明による金属製ガスケット
の別の実施例を示すシリンダボア孔間の領域における断
面図である。この実施例の金属製ガスケットは、二枚の
弾性金属板から構成されている。金属製ガスケット20
は、折返し部5を形成した弾性金属板3と、弾性金属板
3よりも板厚が厚くビード24を形成した弾性金属板2
1とからなる。即ち、弾性金属板3には、別の弾性金属
板21が積層し、該弾性金属板21にはシリンダボア孔
22に沿ってビード24が形成され、該ビード24の凸
部と弾性金属板3の折返し部5とは対向する側に位置し
ている。弾性金属板3の厚さは約0.12mmである。
弾性金属板21のシリンダボア孔22,22の位置は弾
性金属板3のシリンダボア孔2,2と完全に一致してい
る。折返し部5において、先の実施例と同じ構成要素に
は同じ符号を付しおり、機能上変わるところはないの
で、重複する説明を省略する。弾性金属板3の折返し部
5は弾性金属板21のビード24側に折返し形成されて
おり、金属製ガスケット20の締め付け時に、折返し部
5はビード24と一緒に締め付け力を分担支持すると共
に、ビード24の完全圧縮を防止し、ビード24のヘタ
リを防止する。
【0042】図6は、この発明による金属製ガスケット
の別の実施例を示すシリンダボア孔間の領域における断
面図である。この金属製ガスケットは、折返し部5を形
成した弾性金属板3と、弾性金属板3よりも板厚が厚い
ビード34を形成した弾性金属板31の二枚の弾性金属
板から構成されている。この金属製ガスケット30は、
弾性金属板3に別の弾性金属板31が積層され、該弾性
金属板31にはシリンダボア孔32,32に沿ってビー
ド34が形成され、該ビード34の凸部は弾性金属板3
のビード4の凹部に整合状態に嵌合している。弾性金属
板31は、図5の弾性金属板21と同様の構造を持つ。
折返し部5を形成する弾性金属板3は、板厚が図5の弾
性金属板3と同じであるが、弾性金属板31のビード形
状に合わせてビード4が形成されている。従って、両弾
性金属板3,31を重ね合わせたときには両弾性金属板
3,31の間には間隙がなく整合状態になる。折返し部
5の折り返し方向はビード4の凸側であり、金属製ガス
ケット30の締め付け力の分担支持、ビードの完全圧縮
及びヘタリの防止、そして対向取付面の不整の吸収、内
燃機関運転時の変動負荷による亀裂の防止等の基本的な
機能は上記のとおりである。
【0043】図7は、この発明による金属製ガスケット
の更に別の実施例を示すシリンダボア孔間の領域におけ
る断面図である。この金属製ガスケット40は、折返し
部5を形成した弾性金属板3と、弾性金属板3よりも板
厚が厚くビード44を形成した弾性金属板41とから成
る二枚の弾性金属板から構成されている。弾性金属板4
1は、図5の弾性金属板21や図6の弾性金属板31と
同様、シリンダボア孔42に沿って形成したビード44
を備えた構造を有している。折返し部5を形成する弾性
金属板3は、板厚が図5の弾性金属板3と同程度、即
ち、弾性金属板41の半分程度であるが、ビード44に
対抗する位置にビード44に向かって凸となるビード4
を形成している。ビード4は、ビード幅がビード44よ
りも広く形成されているが、ビードの頂部は平らに形成
されていて、ビード44との位置ずれを吸収すると共に
ビードの凸接触を安定にしている。折返し部5の構造は
図3と同じである。金属製ガスケット40を対向取付面
間で締め付けると、ビード4,44の裾の領域と折返し
部5の領域とで対向取付面に強くシール接触するが、板
厚が薄い弾性金属板3が先に小さい力で降伏点に達し、
次に板厚が厚い弾性金属板41が撓み始めるため、締め
付け工程に従った好ましいばね特性を示す。折返し部5
はビード4の凸側に折り返されており、金属製ガスケッ
ト40締め付け力の分担支持、ビードの完全圧縮及びヘ
タリの防止、そして対向取付面の不整の吸収、内燃機関
運転時の変動負荷による亀裂の防止等の基本的な機能は
上記のとおりである。
【0044】図8は、この発明による金属製ガスケット
の他の実施例を示すシリンダボア孔間の領域における断
面図である。この金属製ガスケット50は、三枚の弾性
金属板から構成されている。金属製ガスケットの実施例
を、この金属製ガスケット50は、図6の金属製ガスケ
ット30に別の弾性金属板をビード部同志を対向するよ
うに重ねたものに相当する。外側の弾性金属板51,5
5は、図5の弾性金属板21や図6の弾性金属板31と
同様、ビード54,56を有する構造を持つ。ビード5
4,56は互いに凸側が対向する側に配置されている。
折返し部5を形成する弾性金属板3が両弾性金属板5
1,55間に配置されており、弾性金属板51に対して
は、図6に示した金属製ガスケット30と同様にビード
形状を合わせて間隙なく積層されている。弾性金属板5
1,55のシリンダボア孔52,52及び53,53
は、弾性金属板3のシリンダボア孔2,2と一致してい
る。板厚が厚い二枚の外側弾性金属板51,55の強力
なシール機能に加えて、金属製ガスケット50締め付け
力の分担支持、ビードの完全圧縮及びヘタリの防止、そ
して対向取付面の不整の吸収、内燃機関運転時の変動負
荷による亀裂の防止等の基本的な機能は上記の例と変わ
りない。
【0045】図9は、この発明による金属製ガスケット
の更に他の実施例を示すシリンダボア孔間の領域におけ
る断面図である。この金属製ガスケット60は、三枚の
弾性金属板から構成されている。金属製ガスケット60
は、並列するシリンダボア孔62,72に沿ってビード
64,67を形成した弾性金属板61,65から成る二
枚のビード基板の間に、ビード4,69の頂部が対称的
に接する二枚の弾性金属板3,68からなる中間板を積
層した積層形の金属製ガスケットである。第1中間板で
ある弾性金属板68のシリンダボア孔70,70に沿っ
て、第2中間板である弾性金属板3の厚み未満の段差7
1,71を形成し、段差71,71の形成により凸面と
なった外面に弾性金属板3を積層している。弾性金属板
3の折返し部5,5は、第1中間板に形成した段差7
1,71側に折返されて、シリンダボア孔2,70の周
囲に、ビード4,69の頂部が接する部分の二枚の上記
中間板の合計板厚よりも厚い補償部を形成している。こ
の補償部により、対向取付面間での締め付け時に面圧バ
ランスを良好にし、ビード基板の応力変動と補償部にか
かる曲げ応力を軽減し、ビード部や補償部の破損やシー
ル効果の低減を防止して、ディーゼルエンジンのような
金属製ガスケットにとって厳しい条件のもとでも安定し
たシール効果を発揮する。
【0046】
【発明の効果】この発明による金属製ガスケット及びそ
の製造方法は、以上のように構成されているので、次に
記載の効果を有する。即ち、この発明による金属製ガス
ケットは、折返し縁部がシリンダボア孔となるように弾
性金属板のボア孔内周部を折り返した折返し部を備える
金属製ガスケットにおいて、前記折返し縁部が折曲げ内
面側からの薄肉化により間隙を介して折り返されてお
り、更に前記折返し部の折返し先端が対向する弾性金属
板の表面が部分的に薄肉化されているので、金属製ガス
ケット締め付け力の分担支持、ビードを有する弾性金属
板を含む場合においてはビードの完全圧縮及びヘタリの
防止、そして対向取付面、特にシリンダヘッドの不整の
吸収と歪みの抑制、内燃機関運転時の変動負荷の軽減等
の基本的な効果を奏するのに加えて、次のようなこの発
明特有の効果を奏する。
【0047】即ち、内燃機関の対向取付面間に金属製ガ
スケットを挟んで締め付けたときに、折返し部の間隙を
有する折返し縁部では折返し内面同志が押圧されず、ま
た、折返し先端の領域でも弾性金属板本体に対して押圧
されない。従って、折返し部で折返し内面が接触するの
は折返し縁部と折返し先端との間の環状領域であり、か
かる領域において締め付け力が分担支持される。折返し
縁部では、金属製ガスケットの締め付けで前記間隙が吸
収されることはなく、締め付け完了時でも間隙は確保さ
れる。従って、折返し縁部が潰れたり応力集中を生じる
ことはなく、金属製ガスケットの締め付けに伴って折返
し縁部に亀裂や皺を生じることはない。また、内燃機関
の運転に伴う負荷変動も折返し縁部に作用するが、その
応力変動は前記接触する環状領域で吸収緩和され、折返
し縁部は長期の使用に際しても亀裂や皺を生じることは
ない。更に、折返し先端は弾性金属板本体に対して当接
していないので、金属製ガスケットの締め付け時及び内
燃機関の運転時においては、折返し部先端がそのエッジ
によって弾性金属板本体の表面に対して圧痕や擦過痕さ
らには亀裂を生じさせることはない。
【0048】一方、この発明の金属製ガスケットの製造
方法においては、弾性金属板に形成完了時のシリンダボ
ア孔よりも小さい内径を有するボア孔を形成する工程、
前記弾性金属板の折返し側において折返し部の折返し縁
部内側となる折曲げ予定領域と折返し部の折返し先端が
位置する予定の領域とを薄肉に成形する工程、前記折曲
げ予定領域の中間位置において折り曲げ加工を施して折
返し縁部をシリンダボア孔とする折返し部を形成する工
程、該折返し部を形成した前記金属板を熱処理する工程
からなるので、弾性金属板に形成したボア孔の周囲を折
り返すときに、前記弾性金属板の折返し側において折返
し部のための折曲げ予定領域が予め薄肉に形成されてい
るから、折り返すのに要する力が小さくて済み、また折
り返しは180度急激且つ完全に折り返すのではなく金
属材料が次第に変形していく加工である。従って、折返
し縁部の形成に際して金属材料に対する損傷が少なく、
且つ残留する集中応力も緩和される。また、折返し部の
折返し先端が位置する予定の領域も予め薄肉に成形され
るから、折り返し加工の際に折返し先端が弾性金属板本
体の表面を強く圧接して圧痕を残すことはない。
【0049】更に、上記の先願で提案された金属製ガス
ケットは、既に説明したように、使用する弾性金属板の
板厚、硬さ及び伸び特性において制限があったが、この
発明による金属製ガスケットの製造方法によって、かか
る制限を緩和することができる。即ち、弾性金属板の板
厚に関しては、折返し部は折り曲げ加工をする直接の部
分である折返し縁部が加工し易い程度に薄肉化されてい
るから、加工に要する力が小さく、折返し端縁において
折曲げ角度が比較的緩慢であり急激な材料変形とならな
いので、亀裂等の虞がなく、また後でプレス等で板厚を
調節する所謂予圧縮するものにあっては、調整量が大き
くなっても板厚調整精度や平坦度が確保でき易いので、
採用できる板厚についての制約が緩和される。
【0050】弾性金属板の硬さに関しては、折り曲げ加
工が比較的緩慢な材料変形で行い得るので、折返し加工
前でHv350以下であれば硬度の高い材料であっても
折り曲げ加工が可能であり、この点でも採用できる弾性
金属板の硬さに制約が緩和され、使用できる金属材料の
選択の幅が広がる。
【0051】更に、弾性金属板の伸び特性については、
折り曲げ加工の際に要求される伸びの程度が小さいか
ら、伸び特性が良くない材料を使用しても折返し部に亀
裂や皺が発生し難く、従って、亀裂や皺の発生防止のた
めに伸び特性の良い高価な弾性金属板を採用しなくても
よく、安価な弾性金属板を使用可能になり、弾性金属板
の伸び特性における制約が緩和される。そして結局、こ
の発明による金属製ガスケットの製造方法においては、
弾性金属板の板厚、硬さ及び伸び特性上の材料に関する
制約を緩和でき、製造の際に折返し部に亀裂や皺を生じ
ることがなく、金属製ガスケットを品質良く且つ安価に
得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明による金属製ガスケットの一実施例を
示す部分平面図である。
【図2】この金属製ガスケットを示す図1の線A−Aに
おける断面図である。
【図3】図2の一部である折返し部を拡大して示す断面
図である。
【図4】図3で示す折返し部を形成する弾性金属板の部
分展開図である。
【図5】この発明による金属製ガスケットの別の実施例
のシリンダボア孔間を示す部分断面図である。
【図6】この発明による金属製ガスケットの更に別の実
施例のシリンダボア孔間を示す部分断面図である。
【図7】この発明による金属製ガスケットの他の実施例
のシリンダボア孔間を示す部分断面図である。
【図8】この発明による金属製ガスケットの更に他の実
施例のシリンダボア孔間を示す部分断面図である。
【図9】この発明による金属製ガスケットの別の実施例
のシリンダボア孔間を示す部分断面図である。
【図10】金属製ガスケットの両端に位置するシリンダ
ボア孔の周りにおける折返し部の厚さの分布を示す説明
図である。
【図11】金属製ガスケットの両端以外に位置するシリ
ンダボア孔の周りにおける折返し部の厚さの分布を示す
説明図である。
【符号の説明】
1,20,30,40,50,60 金属製ガスケット 2,22,32,42,52,53,62,70,72
シリンダボア孔 3,21,31,41,51,61,65 弾性金属板 4,24,34,44,54,56,64,67 ビー
ド 5 折返し部 6,8 環状溝部 7 折返し縁部の薄肉部分 9 折返し先端が位置する薄肉部分 10 弾性金属板の表面 11 折返し部分 13 折返し先端 14 間隙 15 ボア孔
フロントページの続き (72)発明者 井上 國利 大阪府東大阪市加納248番地 日本ガス ケット株式会社内 (58)調査した分野(Int.Cl.6,DB名) F16J 15/08 F02F 11/00

Claims (7)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 折返し部を備え且つ該折返し部の折返し
    縁部でシリンダボア孔を形成する弾性金属板を備えた金
    属製ガスケットにおいて、前記折返し縁部の内面側には
    前記シリンダボア孔に沿って前記弾性金属板を薄肉にす
    る第1環状溝部が形成され、前記折返し縁部の内面側に
    前記環状溝部で環状中空部を形成して折り返されてお
    り、更に前記折返し部の折返し先端が位置する前記弾性
    金属板の表面には薄肉にする第2環状溝部が形成されて
    いることを特徴とする金属製ガスケット。
  2. 【請求項2】 前記弾性金属板には別の弾性金属板が積
    層し、該別の弾性金属板にはシリンダボア孔に沿ってビ
    ードが形成され、該ビードの凸部と前記弾性金属板の前
    記折返し部とは対向する側に配置されていることを特徴
    とする請求項1に記載の金属製ガスケット。
  3. 【請求項3】 前記弾性金属板には、前記シリンダボア
    孔に沿って前記折返し部側が凸部になるビードが形成さ
    れていることを特徴とする請求項1に記載の金属製ガス
    ケット。
  4. 【請求項4】 前記弾性金属板には別の弾性金属板が積
    層し、該別の弾性金属板にはシリンダボア孔に沿ってビ
    ードが形成され、該ビードの凸部と前記弾性金属板の前
    記ビードの凹部に整合状態に嵌合していることを特徴と
    する請求項3に記載の金属製ガスケット。
  5. 【請求項5】 弾性金属板にシリンダボア孔よりも小さ
    い内径を有するボア孔を形成する工程、前記弾性金属板
    の折曲げ領域を折り曲げ加工して折返し縁部をシリンダ
    ボア孔とする折返し部を形成する工程、及び前記折返し
    部を形成した前記弾性金属板を熱処理する工程を有する
    金属製ガスケットの製造方法において、前記折返し部を
    形成する前記工程に先立って、前記弾性金属板の折返し
    側において前記折返し部の前記折返し縁部内面側となる
    折曲げ領域と前記折返し部の折返し先端が位置する領域
    とを薄肉にする環状溝部を加工する工程を有する金属製
    ガスケットの製造方法。
  6. 【請求項6】 前記弾性金属板の前記シリンダボア孔に
    沿って前記折返し部側が凸部となるビードを形成する工
    程を有することを特徴とする請求項5に記載の金属製ガ
    スケットの製造方法。
  7. 【請求項7】 前記弾性金属板にシリンダボア孔に沿っ
    てビードを備えた別の弾性金属板を積層する工程を有す
    ることを特徴とする請求項5に記載の金属製ガスケット
    の製造方法。
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