JP2795710B2 - 防錆剤組成物 - Google Patents

防錆剤組成物

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Description

【発明の詳細な説明】 〔産業上の利用分野〕 本発明は、金属材用の防錆剤組成物、及びそれを含む
防食塗料に関する。特に、鋼、亜鉛材等に共用出来る防
錆剤組成物とそれを含有する防食塗料に関する。
〔従来の技術〕
金属材の腐食を防止するためには、金属材表面に安定
な極めて薄い膜、いわゆる不動態化膜を形成させること
が行なわれている。典型的なものとしては、金属材をク
ロム酸イオンに接触させる方法がある。
ところが、このクロム酸イオン(6価クロム)は毒性
が強く、種々の法規によりその使用が規制されている。
従って、無公害もしくは低公害の防錆剤の研究が盛んに
行なわれている。
本発明者等は特開平1−92279号公報、及び同1−131
281号公報において、水の存在する環境下でリン酸イオ
ンを放出するリン酸イオン源、および水または水と酸素
の両者の存在する環境下でバナジン酸イオンを生成する
バナジン酸イオン源とを含有する防錆顔料と、それを配
合した防食塗料が、無公害もしくは低公害の防錆剤及び
防食塗料として適することを見出した。
更に本発明者等は、特願昭63−245735号(特開平2−
92968号)公報に於いて、金属材(特に鋼材及び亜鉛
材)に対する防錆効果は、上記各イオン源からの各溶出
イオン濃度の組合わせに大きく影響され、金属材特有の
最適溶出濃度の組が存在することを見出した。従って上
記イオン源の組合せは、溶出イオン濃度の組が最適値を
示すように金属材に応じて選択されるべきであることを
示摘した。
上記方法は、金属材に応じて適宜2つのイオン源の組
を選択すれば優れた防錆効果を発揮するものであるが、
種々の金属材(特に鋼材、亜鉛材等)に対し共通して優
れた防錆効果を有するイオン源の組を選択することが困
難であった。
即ち、例えば金属材が特に亜鉛材の場合、上記最適溶
出濃度の組の範囲は狭く、この為選択される上記両イオ
ン源の組は限られていた。その結果、亜鉛材に対して選
択されたイオン源の組を適用出来る他の金属材の種類は
限られていた。
〔発明が解決しようとする課題〕
本発明は、種々の金属材(特に鋼材及び亜鉛材)に対
し共に優れた防錆効果を有する防錆剤組成物、及びそれ
を含む防食塗料を提供することを目的とする。
〔課題を解決するための手段〕
上記目的を達成するため、バナジン酸イオン源と特定
の物質を併用すれば優れた功を奏することを見出し、本
発明を成すに至った。
即ち本発明は、防錆剤組成物が、 (A)水と接触してバナジン酸イオンを生成するバナジ
ン酸イオン源、であって、その溶解性が、該バナジン酸
イオン源を水に10g/lの添加量で分散させた分散液中の
該バナジン酸イオンの濃度が、[VO4 3-]に換算して0.0
1〜100mMであるもの、及び (B)下記の群の中から選ばれる物質 有機ホスホン酸化合物、 フィチン酸化合物、 没食子酸系化合物、及び (2−ベンゾチアゾリルチオ)コハク酸またはその
塩、チオウレア、またはベンゾトリアゾールの、イオウ
・窒素含有化合物群から選ばれる化合物 であって、その溶解性が、該物質を水に10g/lの添加量
で分散させた分散液中の該物質の濃度が0.01〜100mMで
あるもの、 を含有し、その組成に於いて、該バナジン酸イオン源
(A)をV2O5に換算した1モルに対し該物質(B)が0.
1〜100モル配合さた防錆剤組成物及びそれを含有する防
食塗料を提供する。
本発明は、上記物質(B)を使用することにより、金
属材、特に亜鉛材と鋼材に於ける各バナジン酸イオンの
最適溶出濃度範囲が、広範囲な共通濃度域を有する。こ
れにより亜鉛材にも鋼材にも優れた防錆効果を示すバナ
ジン酸イオン源を、広範に選択することが出来る。
即ち、亜鉛を例に取ると、亜鉛は鉄よりも腐食活性な
金属であり、特開平1−92279号、同1−131281号の公
報に示したようなバナジン酸イオン源とリン酸イオン源
を含んでなる防錆剤では、場合により、必ずしも腐食を
抑制しなかった。
この代わりに、例えば、本発明の防錆剤を含んだ腐食
環境に亜鉛材を浸漬するか、または本発明の防錆剤を含
んだ被覆を施した亜鉛材を腐食環境に曝したとき、防錆
剤より溶出した物質(B)により亜鉛材表面に沈着性被
膜が形成され、これにより腐食活性な亜鉛においてもバ
ナジン酸イオンの酸化効果が有効に発揮され、溶出バナ
ジン酸イオンの濃度が、上記0.01〜100mMという広い範
囲も亜鉛材の溶解、即ち錆を防ぐことができる。又、本
発明の防錆材を被覆した鋼材を水中に漬けたとき、防錆
剤より溶出したバナジン酸イオンにより鋼の不動態化を
促進し、更に上記沈着性被覆により鋼の酸化・溶解、即
ち錆を防ぐ。
本発明に使用するバナジン酸イオン源(A)は、水と
接触してバナジン酸イオンを生成するものである。その
溶出濃度は、該バナジン酸イオン源を水に10g/lの添加
量で分散させた時、分散液中の該バナジン酸イオンの濃
度が、[VO4 3-]に換算して0.01〜100mMであり、好まし
くは0.5〜50mMである。バナジン酸イオンとしては、オ
ルトバナジン酸イオンの他に、ピロバナジン酸イオン、
メタバナジン酸イオン、トリバナジン酸イオン等の縮合
バナジン酸イオン、及びこれらの混合物等が含まれる。
バナジン酸イオン源(A)としては、例えば五酸化バナ
ジウム、バナジン酸塩、特開平1−131281号公報に開示
されたバナジウム化合物、及び同1−131281号公報に開
示されたバナジン酸イオン/リン酸イオン複合顔料等が
挙げられる(但し本発明に於ける複合顔料は、同号公報
に記載の金属陽イオン(M)の量をMがとる酸化物の形
(MO、M2O3、M3O4、MO2)で表わして、V2O5とP2O5のモ
ル数の和の1〜3倍、好ましくは1.3〜3.0倍添加したも
のが望ましい。添加量をこの範囲にすることにより複合
顔料のpHを5〜10に調整することが出来、高い防錆性が
得られる。)。
上記バナジン酸塩としては、具体的にはオルトバナジ
ン酸及び上記各種縮合バナジン酸等の金属塩が挙げられ
る。金属塩の金属種としては、例えばアルカリ金属、ア
ルカリ土類金属(例えば、マグネシウム、カルシウ
ム)、その他の典型元素の金属種(例えば、アルミニウ
ム、スズ等)および遷移金属(例えば、マンガン、コバ
ルト、鉄、ニッケル)等が挙げられる。本発明の防錆剤
組成物を塗料に使用する場合は、金属は好ましくはアル
カリ土類金属、遷移金属、特に好ましくはカルシウム、
マグネシウム、コバルト、亜鉛、マンガン等である。
本発明に使用する物質(B)は、有機ホスホン酸化合
物、フィチン酸及びその塩、没食子酸系化合物、及び硫
黄・窒素含有化合物(以下、「S・N含有化合物」と言
う。)等が挙げられる。
上記有機ホスホン酸化合物としては、下記化化学式
[I]〜[III] 〔式中、MはH、アルカリ金属、NH4またはC1アル
キルアミンまたはC1アルカノールアミン、R1はOH、
−COOHまたは−PO(OH)で置換されていてもよいC1
54アルキルである。〕 〔式中、xは3〜11の整数、Mは前記と同意義。〕 〔式中、R2およびR3はHまたはC1アルキル、R4
H、−OHで置換されていることもあるC1脂肪族炭化
水素または式: (R5はHまたは式: (Mは前記と同意義。)で示される基、zは1〜3の整
数である。)で示される基、yは0または1である。] で表わされる化合物が挙げられる。
具体的には、下記化学式[I]で表わされる化合物と
しては、ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸
(例えば、城北化学社製「HEDP」、三菱モンサント化成
社製「デイクエスト2010」)及びその塩、2−ホスホノ
−1,2,4−ブタントリカルボン酸及びその塩等が挙げら
れる。上記化学式[II]で表わされる化学物としては、
N−(5−カルボキシペンチル)アミノジ(メチレンホ
スホン酸)及びその塩等が挙げられる。上記化学式[II
I]で表わされる化合物としては、アミノトリ(メチレ
ンホスホン酸)(例えば、三菱モンサント化成社製「デ
ィクエスト2000」)及びその塩、N−ヒドロキシエチル
アミノジ(メチレンホスホン酸)及びその塩、エチレン
ジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)(例えば、三菱
モンサント化成社製「ディクエスト2041」)及びその塩
等が挙げられる。
上記没食子酸系化合物としては、没食子酸、その塩、
又はそのエステル(例えば、エチル、n−ドデシル、n
−プロピル、ラウリルエステル等)、ピロガロール、カ
テコール、タンニン酸又はその塩等が挙げられる。
上記S・N含有化合物としては、チオウレア、(2−
ベンゾチアゾリルチオ)コハク酸及びその塩、ベンゾト
リアゾール等が挙げられる。
上記の塩は、何れの場合も特に限定されず、溶解性等
を考慮してアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アン
モニウム塩等であって良い。
上記物質(B)のうち、フィチン酸又はその塩、没食
子酸又はその塩、タンニン酸又はその塩、(2−ベンゾ
チアゾリルチオ)コハク酸又はその塩が好ましい。
本発明で用いる上記バナジン酸イオン源(A)及び物
質(B)の粒径は、10μm以下、好ましくは2μm以下
が好適である。従って必要に応じて粉砕などの処理が施
される。また必要に応じて分散安定性向上のための処理
を施しても良い。分散安定処理は分散剤を添加剤表面に
吸着処理するなどの方法により行なわれる。
本発明の物質(B)の機能は以下のように発揮される
と考えられる。即ち物質(B)それ自身として又はその
イオンとして、水または上記バナジン酸イオン含有の水
溶液に溶解したとき、この水溶液に金属材、特に亜鉛材
を浸漬すると、その表面に被膜を形成し、種々の酸化剤
による金属材の酸化・溶解を防ぐものと考えられる。
本発明の防錆剤組成物の組成に於いて、上記物質
(B)は、バナジン酸イオン源をV2O5に換算してこの1
モルに対し、0.1〜100モル、好ましくは0.5〜10モルで
ある。0.1モルより少ないと十分な沈着性被膜を形成で
きず、100モルより多いとバナジン酸の酸化効果が発揮
されず好ましくない。更に上記バナジン酸イオン源
(A)及び物質(B)の必要な腐食環境中への添加量
は、上記のモル比を満たせば特に限定的でないが、バナ
ジン酸イオン源においては、溶出したバナジン酸イオン
の濃度が、[VO4 3-]に換算して、0.01〜100mM、好まし
くは0.5〜50mMであれば防錆効果が発揮される。
一方、物質(B)においても、その形態が物質自身ま
たはそのイオンを問わず、0.01〜100mM、好ましくは0.5
〜50mMであれば防錆効果が発揮される。
本発明の防錆剤組成物は、上記バナジン酸イオン源
(A)及び物質(B)を撹拌機やディスパー等で均一に
撹拌混合して調製される。
本発明の防錆剤組成物の使用方法としては、防錆剤組
成物を水に分散若しくは溶解し、これに金属材を浸漬す
れば良い。又は、防錆剤組成物をイオン交換樹脂や無機
イオン交換体(たとえばハイドロタルサイト等)等のイ
オン担持体、または通常の吸着体等に吸着され、これか
ら上記(A)及び(B)の各成分を腐食環境に存在する
水分により放出させ金属材に接触させても良い。或い
は、防錆材組成物を含む水溶液または分散液を直接金属
材表面に吹きつけ乾燥することにより一次的な防錆効果
を得ても良い。更には又、防錆材組成物を後述の塗料、
ワックス、接着剤、ライニング等に添加して、金属材を
それらの膜で覆い、腐食環境に存在する水分によりその
膜から上記(A)及び(B)の各成分を溶解させること
によって属材に接触させても良い。
本発明の上記防錆剤組成物は、塗料ビヒクル等と調製
することにより、防食効果とすることが出来る。
本発明の防食塗料に配合される防錆剤組成物(i)に
於けるバナジン酸イオン源(A)は、その1gを水100ml
に分散したときの分散液のpH(以下、バナジン酸イオン
源のpHという)が5〜10、好ましくは7〜9であり、か
つ同様にした分散液の導電率(κ)が30μS/cm〜2mS/c
m、好ましくは30μS/cm〜1mS/cmであるものが好まし
い。この範囲内において最も防錆性が発揮される。尚、
この範囲を外れるものでも適当な処理によりこの範囲に
入るようにすることもできる。
さらに、特開平1−131281号公報に示されたバナジン
酸イオン/リン酸イオン複合顔料を使用する場合には、
リン酸塩とバナジン酸塩及び/又は網目修飾イオン源の
焼成顔料または混合顔料で、その中の金属(MOまたはM2
O3、M3O4、MO2)のモル和と、その中のP2O5とV2O5のモ
ル和の比(K)が1〜3、好ましくは1.3〜3.0になるよ
うに組合せた顔料が好ましい。この場合用いるリン酸塩
としては第二リン酸カルシウム、第三リン酸カルシウ
ム、第二リン酸マグネシウム、第三リン酸マグネシウム
があげられる。好適なバナジン酸イオン源は五酸化バナ
ジウムである。また、適する網目修飾イオン源の例は酸
化カルシウム、水酸化カルシウム、酸化マグネシウム、
水酸化マグネシウムが挙げられる。尚、この場合の混合
は通常ハンマーミル、乳鉢、通常の摩砕式粉末機があげ
られる。このような混合、即ち衝撃力または剪断力のも
とでの反応をメカノケミカル反応と称することもある。
メカノケミカル反応物は必要に応じて100〜300℃、好ま
しくは150〜250℃の温度で加熱しても良い。
又、本発明の防食塗料に配合される防錆剤組成物
(i)に於ける物質(B)は、タンニン、没食子酸、フ
ィチン酸、(2−ベンゾチアゾリルチオ)コハク酸およ
び/またはそれらのアルカリ土類金属塩が好ましい。特
に(2−ベンゾチアゾリルチオ)コハク酸が好ましく、
このものはチバガイギー社よりlrgacor252として入手で
きる。アルカリ金属塩は水に溶けやすいので塗料に添加
するのは好ましくない。またホスホン酸類も水に溶けや
すいので塗料に添加するのは好ましくない。しかしアン
モニウム塩としたものは水には溶解するが、アンモニウ
ムイオンは塗料の焼き付け硬化時にアンモニアとして飛
散しアニオン部分は元の酸に戻るので使用可能である。
塗料は通常用いられるもので良く、市販の塗料液に本
発明の防錆顔料を添加しても良い。また、常法通り、体
質顔料、着色顔料、ビヒクル、溶剤および各種添加剤と
ともに仕上げても良い。本発明の塗料ビヒクル(ii)は
通常用いられるものならいかなるものでも良く、溶剤は
樹脂と相溶するものならいかなるものでも良い。樹脂ビ
ヒクルの例を挙げると、エポキシ、タール変性エポキ
シ、ウレタン変性エポキシ、メラミン、メラミンアルキ
ド、アルキド、油変性アルキド、フェノール、エポキシ
変性フェノール、塩素系樹脂、ポリエステル、シリコー
ン樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、石油樹脂、
ポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素樹脂、マレイン
化油、アクリル樹脂、尿素樹脂、ブロックイソシアネー
ト樹脂、マレイン化ポリブタジエン樹脂、ポリビニルブ
チラール、ポリビニルアルコール、ケイ酸エステル、ポ
リアクリル酸エステル、等が挙げられる。
好ましい樹脂はエポキシ樹脂、ウレタン変性エポキシ
樹脂、エポキシ変性フェノール樹脂であった。
本発明の防錆塗料には上記塗料の種々の形態に応じ
て、溶剤、着色顔料、体質顔料、その他種々の添加剤
(例えば垂れ防止剤、流れ調整剤、紫外線防止剤等)を
含んでもよい。溶剤は炭化水素類、ケトン類、エステル
類、アルコール類、水等が挙げられる。
本発明の防食塗料の組成に於いて上記防錆剤組成物
(i)は、樹脂固形分100重量部に対して、0.5重量部以
上で、上限は塗料膜の限界顔料容積濃度以下になるよう
に配合する。通常は、樹脂固形分100重量部に対して、1
00重量部までで十分な効果がある。
本発明の防食塗料は、上記防錆剤組成物(i)、塗料
ビヒクル(ii)、及び必要に応じ、添加剤を通常の方
法、例えばディスパー、ボールミル等で混合して調製さ
れる。本発明の防錆塗料は如何なる形態をとってもよ
く、例えば水性塗料、溶剤型塗料、粉体塗料、電着塗
料、スプレー塗料、刷毛塗り塗料、クリアー塗料等が挙
げられる。
塗料は常法により塗装されて、樹脂ビヒクルの特性に
従って、常温乾燥もしくは焼付け硬化される。
本発明を適用する金属材は鋼材、高強度鋼、高張力
鋼、メッキ鋼板、ステンレス鋼等の合金、鋳鉄、亜鉛、
アルミニウムやその合金等が挙げられる。
本発明の防錆剤が対象とする腐食環境とは、一般的に
は水あるいは酸素が存在する環境または塗膜フクレ(ブ
リスター)が発生し易い環境であり、腐食を促進すると
考えられている他のイオン(例えば、塩素イオン)等が
存在してもよい。塗膜フクレ(ブリスター)は塗膜劣化
の一態様で種々の条件下で発生するが、特に温度勾配条
件(塗膜表面と裏面の温度に差がある場合)あるいは電
気防食条件(一般的な鋼材の酸化腐食を電気的還元して
防止する方法であるが、逆に塗膜劣化が大きい。)で発
生し易い。本発明の防食顔料はこの塗膜劣化(広義の腐
食に含まれる)も有効に抑制する。本発明の防錆剤が最
も対象としている防食環境は、pHが2〜10、好ましくは
7〜9の範囲内である。pH2〜5でブリスターの抑制作
用が強く、pH5〜10で一般的な腐食抑制作用が強い。こ
の範囲を超えると、防錆効果が低下する。ところで防錆
剤のpHは塗膜中であるが、その環境のpHを支配するの
で、上記環境条件のpHと防錆顔料のpHはほぼ一致すると
みて良い。(尚、防錆剤のpHとは、防錆剤1gを水100ml
に分散した液のpHと定義した。またバナジン酸イオン源
のpHもこの定義を準用する。)。従って、防錆顔料のpH
が2〜5のとき上記温度勾配条件下のブリスターや、電
気防食下のはがれを防止しやすく、防錆顔料のpH5〜10
時、一般的な腐食抑制作用(カット部からの剥離、発錆
を抑制)を示す。
〔発明の作用及び効果〕
本発明の防錆塗料を施した場合、塗膜中に水、酸素が
浸透して塗膜中の防錆剤からバナジン酸イオンと物質
(B)(又はそのイオン)が適度に溶解する。
バナジン酸イオンは、金属材が例えば鋼材の場合、鋼
材表面に不動態化膜を形成させ、これにより鋼材の酸化
・溶解、即ち所謂「錆」を防ぐ。又溶解した物質(B)
(又はそのイオン)は、金属材表面に強力な沈着性被膜
を形成し、これにより金属材を錆から防ぐ。
本発明の防錆剤組成物は広範な物質から製造すること
が出来、又、無公害・低公害なものであり、且つ種々の
金属材、特に鋼材及び亜鉛材に対し共通して優れた防錆
効果を有する。
〔実施例〕
以下、本発明を実施例により更に詳しく詳細に説明す
るが、本発明はこれら実施例により限定されるものでは
ない。
(実施例1〜8及び比較例1〜9) 表−1に示すバナジン酸イオン源及び物質(B)を、
それぞれ表−1の溶解濃度となるように水に分散した。
この分散液に、冷間圧延鋼板(JIS G−3141SPCC SP)、
及び亜鉛至(JIS H−4321一種一般用、純度98.5%以
上)をそれぞれ25℃にて浸漬した。尚、実施例1〜8に
於いては鋼板は、pHを7.0に、又亜鉛板は、pHを8.5に調
整した分散液に浸漬した。各金属板の重量減少量を測定
し、各腐食速度を計算した。これらの腐食速度より、比
較例9を評価基準として鋼板/亜鉛板同時適用性を評価
した。これらの結果を表−1に示す。表−1の濃度比に
示されるように本発明の防錆剤組成物は、バナジン酸イ
オン源及び沈着性物質の溶出濃度が広い範囲に於いて、
鋼材に対しても亜鉛材に対しても共に優れた防錆効果を
示す。
1):mdd=mg/dm2・day 2):(V2O5として表わしたバナジン酸イオン溶出濃
度)÷(物質(B)又はそのイオンの溶出濃度) 3):○は、比較例9と比較して防錆性が優れており、
△は同程度、×は劣ることを示す。
(実施例9) 本発明の防錆剤組成物の防錆効果に対するpHの影響を
調べた。
バナジン酸イオン源としてNaVO3、沈着性物質として
(2−ベンゾチアゾリルチオ)コハク酸アンモニウム
塩、及び3重量%の塩化ナトリウムを水に加え、バナジ
ン酸イオン(VO4 3-)濃度10mM、沈着性物質濃度10mMの
水分散液を調製した。この水分散液のpHを1N NaOH水溶
液又は1N HCl水溶液で種々に調整し、得られた各pHの水
分散液に上記各実施例で用いた鋼板及び亜鉛板を空気開
放系で30℃で35日間それぞれ浸漬した。浸漬後の各金属
板の腐食による重量損失を測定し、pHの防錆効果に対す
る影響を調べた。これらの結果を第1図に示す。
第1図により、鋼板に対してはpH約5〜約9に於い
て、又亜鉛板に対してはpH約6〜約10に於いて腐食によ
り重量損失が小さい。これらの結果より、本発明の防錆
剤組成物のpHが約7〜9のとき、鋼板も亜鉛板も共に腐
食されにくいことが判る。
バナジン酸イオン源の製造 (製造例1) 2酸化マンガン(βMnO2:パイロルサイト)2モルと
5酸化バナジウム(V2O5)1モル(ともに試薬級)を混
合し800℃で4時間焼成した。焼成物は乳鉢で粉砕さ
れ、平均粒径3μmとした。このものはほとんどMg2V2O
7であることがX線回折により確認された。
(製造例2) V2O51モル、P2O51モル、酸化マグネシウム(MgO)3
モル(試薬級)を混合し、1000℃で2時間焼成した。こ
れを乳鉢で粉砕し、平均粒径4μmとした。
(製造3) MnO2(電解二酸化マンガン)3モル;V2O51モル(試薬
級)を混合し、900℃で3時間焼成した。焼成物を乳鉢
で粉砕し、平均粒径3μmとした。
(製造例4) MgHPO4・3H2O(試薬級)10モル、V2O5(試薬級)1モ
ル、MgO(試薬級)4モルを乳鉢で8時間混合した。こ
れを200℃で4時間乾燥後再度乳鉢で1時間粉砕し、平
均粒径4μmとした。
上記各製造例で得られたバナジン酸イオン源のpH、導
電率、及びk値(即ち、バナジン酸イオン源の中の金属
分をMO又はM2O3、M3O4,MO2で表し、それらの和をmモル
とし、V2O5とP2O5のモル和をnモルとした時の両者のモ
ル比m/nを示す。)を調べ、これらの結果を表−2に示
す。
塗料の製造及び金属板への塗装 (実施例10〜12) 表−2に示す組成でバナジン酸イオン源(A)、沈着
性物質(B)、及び塗料ビヒクル樹脂をディスパーで混
合した。この塗料組成物を鋼板と亜鉛板にそれぞれスプ
レー塗装し、常温で10日間保ち硬化させた。乾燥膜厚は
それぞれ50μmであった。
(実施例13及び14) エポキシウレタンプライマー塗料ビヒクル中の防錆顔
料(クロム系)を本発明の防錆剤組成物に替えて、上記
実施例10〜12と同様にして塗料組成物を得た。これを各
金属板に膜厚7±2μmで190℃で1分間焼付し、更に
トップコートとしてスーパーラックDIFF8011)を膜厚20
μmで焼付けた。
(実施例15) 水性エマルション系のプライマーとして EM1100(日本ペイント(株)製アクリルエマルジョン)
40%(wt)、 アエロジル200(日本アエロジル(株)製フュームド
シリカ 2%(wt)、 本願の防錆顔料組成物(正味固型分で)6%(wt)、 水を配合して水性分散液を得た。これをバーコーターに
て、塗布し、0.2〜0.4g/m2の皮膜量になるようにし、11
0℃で乾燥した。さらにスーパーラックDIF POIプライマ
ーを乾燥膜厚10μmとなるように塗布し、150℃で5分
間焼付けた。トップコートとしてスーパーラックDIF F8
0を20μmに焼付けた(温度は155℃、5分)。
(比較例10) 防錆顔料を含まないエポキシウレタンプライマーを、
各金属板に膜厚7μmで塗装し190℃で1分間焼付け
た。更にトップコートとしてスーパーラックDIFF80を膜
厚20μmで焼付けた。
(比較例11) バナジン酸イオン源を用いなかった以外は実施例13と
同様にして各金属板に塗装した。
(比較例12〜17) 沈着性物質を用いなかった以外は、比較例12〜17はそ
れぞれ実施例10〜15と同様にして各金属板に塗装した。
上記実施例10〜15及び比較例10〜17の塗装金属板をソ
ルトスプレー試験し、防錆効果を調べた。これらの結果
を表−2に示す。
4):塗面にナイフで傷を入れ、ソルトスプレー試験
(JISZ2371)後、鋼板については240時間後のカット部
からの剥離幅の程度を、亜鉛板については500時間後の
カット部からの白錆発生の程度を評価した。
(鋼板の剥離幅)◎:1mm程度。
○:2〜3mm程度。
△:3〜5mm程度。
×:5〜10mm程度。
(亜鉛板の白錆発生量) ◎:非常に僅か。
○:少ない。
△:中程度。
×:多い。
5):JISG3141SPCC(SD)冷間圧延鋼板をリン酸亜鉛処
理したもの。
6):シルバージンク(日本テストパネル社製)亜鉛メ
ッキ鋼板をリン酸亜鉛処理したもの。
7):日本チバガイギー(株)製、イルガコア252。
8):日本ペイント社製、コポンマスチックプライマ
ー。
9):日本ペイント社製、カラートタン用プライマース
ーパーラックDIF POIプライマー。
10):1.22%バナジウム配合ゾル、新興化学(株)製。
11):EM1100(日本ペイント(株)製アクリルエマルジ
ョン)+アエロジル200(日本アエロジル(株)製ヒュ
ームドシリカ)
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明の防錆剤の防錆効果に対するpHの影響を
示す図である。 1……鋼板、2……亜鉛板

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】防錆剤組成物が、 (A) 水と接触してバナジン酸イオンを生成するバナ
    ジン酸イオン源、であって、その溶解性が、該バナジン
    酸イオン源を水に10g/lの添加量で分散させた分散液中
    の該バナジン酸イオンの濃度が [VO4 3-]に換算して0.01〜100mMであるもの、及び (B) 下記の群の中から選ばれる物質 有機ホスホン酸化合物、 フィチン酸化合物、 没食子酸系化合物、及び (2−ベンゾチアゾリルチオ)コハク酸またはその
    塩、チオウレア、またはベンゾトリアゾールの、イオウ
    ・窒素含有化合物群から選ばれる化合物 であって、その溶解性が、該物質を水に10g/lの添加量
    で分散させた分散液中の該物質の濃度が0.01〜100mMで
    あるもの、 を含有し、その組成に於いて、該バナジン酸イオン源
    (A)をV2O5に換算した1モルに対し該物質(B)が0.
    1〜100モル配合さた防錆剤組成物。
  2. 【請求項2】(i)請求項(1)記載の防錆剤組成物、
    及び(ii)塗料ビヒクル を含有する防食塗料に於いて、該防錆剤組成物(i)と
    該塗料ビヒクル(ii)の混合割合が、該防食塗料中に含
    まれる樹脂固形分100重量部に対し0.5〜100重量部であ
    る防食塗料。
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