JP2023087922A - アルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤ、及び溶接継手の製造方法 - Google Patents

アルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤ、及び溶接継手の製造方法 Download PDF

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Yujiro Tatsumi
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Abstract

【課題】ホットスタンプ後に引張強度1800MPa以上となる高強度アルミニウムめっき鋼板同士を溶接した際にアルミニウム(Al)が溶接金属に混入したとしても、ホットスタンプ後に高い硬さを有する溶接金属を形成可能なアルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤ及び溶接継手の製造方法を提供する。【解決手段】 本発明のアルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤは、アルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤであって、ワイヤ全質量に対する質量%で、化学組成の含有量が、C:0.25%~0.35%、Si:0.30%未満、Mn:1.8%~2.5%、Mo:0.30%~1.00%、P:0.050%以下、S:0.030%以下、Al:0.10%以下、N:0.010%以下、Cu:0.50%以下、であり、残部がFe及び不純物からなる。【選択図】なし

Description

本発明は、アルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤ、及び溶接継手の製造方法に関する。
鋼板を成形する技術のひとつとして熱間プレス(以下、ホットスタンプと称する場合がある)が注目されている。ホットスタンプでは、鋼板を高温に加熱し、Ar変態温度以上の温度域でプレス成形している。さらに、ホットスタンプでは、プレス成形した鋼板を金型による抜熱で急速に冷却し、プレス圧が掛かった状態で成形と同時にマルテンサイト変態を起こさせる。ホットスタンプは、高強度でかつ形状凍結性の優れた熱間プレス成形品(以下、「ホットスタンプ成形品」と称する場合がある。)を製造することができる技術である。
少なくとも2枚の鋼板の端面を突合せて、レーザー溶接、プラズマ溶接等によって接合したテーラードブランクが、ホットスタンプ用鋼材として用いられている。目的に応じて、複数の鋼板を接合するため、テーラードブランクは、一つの部品の中で板厚及び強度を自由に変化させることができる。そのため、テーラードブランクに対してホットスタンプすることで、板厚、強度等を自由に変化させた高強度の熱間プレス成形品を得ることができる。
テーラードブランクをホットスタンプにより成形する場合、例えば800℃~1000℃の温度域に加熱される。そのため、めっきの融点及び沸点が高いAl-Si等のアルミニウムめっきがなされたアルミニウムめっき鋼板がテーラードブランクに使用されることが多い。
アルミニウムめっき鋼板を突合せ溶接したテーラードブランクにおいて、アルミニウムめっき層又は金属間化合物層の成分であるアルミニウムが溶接金属に混入する場合がある。アルミニウムはフェライト生成元素であるため、アルミニウムの混入によって、ホットスタンプ後の組織に十分な量のマルテンサイトが生成せず溶接金属の硬さが低下する。そのため、アルミニウムが溶接金属に混入した場合、溶接金属で破断が生じ、溶接継手の強度が低下するという課題がある。
この課題に対し、特許文献1には、溶接金属に含有されるアルミニウムの平均濃度や溶接金属のAc点を制御したテーラードブランクが提案されている。また、特許文献2には、溶接金属に含有されるアルミニウムの平均濃度やホットスタンプ後の溶接金属の硬さと溶接金属の最も薄い部分の厚みの積が一定の関係を満足するように制御したテーラードブランクが提案されている。特許文献3には、アルミニウムをほぼ含有せず、オーステナイトの生成を促進する合金元素を少なくとも1種含有するフィラーワイヤを用いたテーラーメイド半完成板金製品の製造方法が開示されている。
特許第5316670号公報 特許第5316664号公報 特許第6430070号公報
しかしながら、アルミニウムめっき鋼板を溶接して形成された溶接金属には、これらの技術で得られる溶接金属の強度(硬さ)よりも更に高い強度(硬さ)が求められている。さらに、ホットスタンプ後に引張強度1800MPa以上の強度が得られる高強度アルミニウムめっき鋼板同士の溶接において、従来の溶接ワイヤでは十分な強度が得られなかった。
本発明の課題は、ホットスタンプ後に引張強度1800MPa以上となる高強度アルミニウムめっき鋼板同士を溶接した際にアルミニウム(Al)が溶接金属に混入したとしても、ホットスタンプ後に高い硬さを有する溶接金属を形成可能なアルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤ及び溶接継手の製造方法を提供することである。
本発明者らが鋭意検討したところ、フェライト生成能を有するが、焼入れ性が高いMoを含有し、フェライト生成能を有し、焼入れ性が低いSiの含有量を低減し、かつ、Cの含有量が所定の範囲であるソリッドワイヤを用いて、ホットスタンプ後に引張強度1800MPa以上となる高強度アルミニウムめっき鋼板同士を溶接することで、アルミニウムが溶接金属に混入したとしても高い硬さを有する溶接金属が形成できることを本発明者らは見出した。本発明の要旨は以下の通りである。
<1> 本発明の一態様に係るアルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤは、ワイヤ全質量に対する質量%で、化学組成の含有量が、
C:0.25%~0.35%、
Si:0.30%未満、
Mn:1.8%~2.5%、
Mo:0.30%~1.00%、
P:0.050%以下、
S:0.030%以下、
Al:0.10%以下、
N:0.010%以下、
Cu:0.50%以下、
であり、残部がFe及び不純物からなる。
<2> 上記<1>に記載のアルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤは、さらに、前記Feの一部に代えて、
Cr:1.5%以下、
Ni:3.0%以下、
B :0.010%以下、
Ti:0.20%以下、
V: 0.50%以下、
Nb:0.20%以下、
のうち1種又は2種以上を含有してもよい。
<3> 上記<1>又は<2>に記載の前記アルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤは、直径が0.6mm~1.2mmであってもよい。
<4> 本発明の一態様に係る溶接継手の製造方法は、板厚0.7mm~3.2mmのアルミニウムめっき鋼板を少なくとも1枚以上溶接し、かつ、前記アルミニウムめっき鋼板を上記<1>~<3>のいずれか1つに記載のアルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤを用いて前記溶接を行う。
<5> 上記<4>に記載の溶接継手の製造方法は、レーザー溶接を用いて前記溶接を行ってもよい。
本発明のアルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤ及び溶接継手の製造方法によれば、ホットスタンプ後に引張強度1800MPa以上となる高強度アルミニウムめっき鋼板同士を溶接した際にアルミニウム(Al)が溶接金属に混入したとしても、ホットスタンプ後に高い硬さを有する溶接金属を形成できる。
ビッカース硬さ試験を説明するための溶接金属の断面の模式図である。
以下、本実施形態に係るアルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤ及び溶接継手の製造方法について説明する。
<ソリッドワイヤ>
溶接金属の硬さを高くするためには、溶接金属中に硬さの低いフェライトやベイナイト等のマルテンサイト以外の組織の割合を減らし、マルテンサイトの割合を増やすことが有効である。ホットスタンプ後に引張強度1800MPa以上となる高強度アルミニウムめっき鋼板同士の溶接において、フェライト生成元素であるアルミニウムが溶接金属に混入した場合でも、高いマルテンサイト比率を有する溶接金属を得るために本発明者らは、鋭意検討した結果、下記の知見を得た。
(A)ソリッドワイヤのMo含有量を適正範囲に制御することで、溶接金属の焼入れ性が改善されるため、溶接金属中のマルテンサイトの割合が増加する。
(B)ソリッドワイヤのSi含有量を低減させることで、溶接金属中のフェライトの生成が抑制され、溶接金属中のフェライトの割合が低下する。
(C)ソリッドワイヤのMo含有量、Si含有量及びC含有量を適正な範囲にすることで、高強度アルミニウムめっき鋼板に対し、適切な溶接金属の硬さを得ることができる。
本開示では、上述の知見に基づいて、アルミニウムめっき鋼板溶接用のソリッドワイヤの成分組成を決定した。本開示のアルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤは、各成分の相乗効果により、本開示の目的とする効果が得られる。以下、成分組成について説明する。
ソリッドワイヤは、所定の成分を有する鋼線、又は表面にCuめっきが施された鋼線である。ワイヤ全質量とはCuめっきを含めたソリッドワイヤの全質量を意味する。また、本明細書において、ソリッドワイヤの化学成分をワイヤの全質量に対する割合である質量%で表すものとし、その質量%に関する記載を単に%と記載して説明する。本明細書中において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。そして、本明細書中において、成分(元素)の含有量について、例えば、C(炭素)の含有量の場合、「C量」と表記することがある。また、他の元素の含有量についても同様に表記することがある。
本明細書において、「溶接金属(weld metal)」とは、溶接部の一部であって、溶接中に溶融凝固した金属を意味する。ここで「溶融凝固した金属」とは、溶融した母材鋼板と溶融したソリッドワイヤの両方を意味する。従って、溶接金属とは、鋼板母材とソリッドワイヤとが溶けて、混ざり合った金属を指す。
本開示のアルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤは、ワイヤ全質量に対する質量%で、化学組成の含有量が、C:0.25%~0.35%、Si:0.30%未満、Mn:1.8%~2.5%、Mo:0.30%~1.00%、P:0.050%以下、S:0.030%以下、Al:0.10%以下、N:0.010%以下、Cu:0.50%以下、であり、残部がFe及び不純物からなる化学組成を有する。以下、各元素について説明する。
(C:0.25%~0.35%)
Cは、溶接金属の焼入れ性を高めるとともに、マルテンサイトの硬さを増加させる上で重要な元素である。C量が0.25%未満であると、焼入れ性が不足しマルテンサイトが生成し難くなる上、ホットスタンプ後に引張強度1800MPa以上となる高強度アルミニウムめっき鋼板に対しマルテンサイトの硬さが十分ではなくなる。そのため、C量は0.25%以上とする。一方、C量が0.35%を超えた場合、高強度アルミニウムめっき鋼板の溶接に用いた際に、溶接割れが発生する場合がある。したがって、C量は0.35%以下とする。C量は0.26%以上、0.27%以上、又は0.28%以上であってもよい。また、C量は0.32%以下、又は0.30%以下であってもよい。
(Si:0.30%未満)
通常のソリッドワイヤでは脱酸元素として、Siを積極的に添加している。しかし、Siは、フェライト生成元素であり、焼入れ性の向上効果が高くない。そのため、Siの含有量は低いことがよい。従って、Si量は0.30%未満とする。また、Si量は、好ましくは0.25%未満、より好ましくは0.20%以下、さらに好ましくは0.15%以下、よりさらに好ましくは0.10%以下である。
なお、Siがソリッドワイヤに含まれる必要はなく、Si量は0%でも良く、0%超、又は0.01%以上としてもよい。
(Mn:1.8%~2.5%)
Mnは、脱酸元素であるとともに、溶接金属の焼入れ性を高めるため、焼入れ後強度を安定して確保するために有効な元素である。Mn量が1.8%未満では、その効果が十分でない場合がある。従って、Mn量は1.8%以上、好ましくは2.0%以上とする。一方、Mn量が2.5%を超えると、その効果が飽和するばかりか、溶接金属の靱性や延性の低下を招く場合がある。したがって、Mn量は2.5%以下、好ましくは2.3%以下とする。
(Mo:0.30%~1.00%)
Moは、フェライト生成能がAlよりも低く、溶接金属の焼入れ性を高めるため、溶接金属中のマルテンサイトの割合を増加させるために有効な元素である。Mo量が0.30%未満では、その効果が十分でない場合がある。従って、Mo量は0.30%以上とする。Mo量は好ましくは0.40%以上である。一方、Mo量が1.00%を超えると、溶接金属中にフェライトが生成し、硬さが低くなる恐れがある。したがって、Mo量は1.00%以下とする。Mo量は、好ましくは0.90%以下、さらに好ましくは0.80%以下である。
(P:0.050%以下)
Pは、一般に鋼中に不純物として混入する元素であって、またソリッドワイヤ中にも不純物として含まれるのが通常である。ここでPは、溶接金属の高温割れを発生させる主要元素の一つであるから、できる限り抑制することが望ましい。P量が0.050%を越えれば、溶接金属の高温割れが顕著になるから、P量は0.050%以下である。
なお、P量は、現実的には0%超であり、脱Pのコスト及び生産性の観点から、0.001%以上であってもよい。
(S:0.030%以下)
Sも、Pと同様に一般に鋼中に不純物として混入する元素であって、また、ソリッドワイヤ中にも不純物として含まれるのが通常である。ここでSは、溶接金属の高温割れを発生させる主要元素の一つであるから、できる限り抑制することが望ましい。S量が0.030%を超えると、溶接金属に凝固割れが発生する。従って、S量は0.030%以下である。S量は、0.020%以下であってもよい。なお、S量は、現実的には0%超であり、脱Sのコスト及び生産性の観点から、0.001%以上であってもよい。
(Al:0.10%以下)
Alは、フェライト生成元素である。Alの含有量が0.10%超である場合、焼入れ後にも溶接金属中にフェライト及びベイナイトが生成し、溶接金属の硬さが低下するおそれがある。従って、Al量は0.10%以下とする。Al量は0.070%以下、0.030%以下であってもよい。なお、Al量は0%でも良いが、脱酸のためにAlが添加されてもよいため、Al量は0.001%以上であってもよい。
(N:0.010%以下)
Nは、アルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤにて不純物として含有される元素である。さらにNは、溶接金属中にて介在物を生成し、熱間プレス成形後の靱性を劣化させる元素である。したがって、N量は0.010%以下とする。N量は、好ましくは0.008%以下、さらに好ましくは0.006%以下である。N量は少ない方が良いが、脱Nのコストの観点からはN量を0.0002%とすることが好ましい。
(Cu:0.50%以下)
ソリッドワイヤには、ワイヤ送給性及び通電性を安定化するため、防錆能を付与するためにCuめっきが施されることがある。従って、Cuめっきを施した場合、ソリッドワイヤにはある程度の量のCuが含有される。一方、Cuの含有量が過剰となると、溶接割れが発生しやすくなるため、Cu量は0.50%以下である。なお、Cuは必須の元素ではないため、Cuを含有させない場合の下限は0%である。
(Cr、Ni、B、Ti、V、Nb)
Cr、Ni、B、Ti、V、Nbは必須の元素ではないが、必要に応じて1種又は2種以上を同時に含有してもよい。各元素を含有することにより得られる効果と上限値について説明する。なお、これらの元素を含有させない場合はこれらの元素の量は0%である。
(Cr:1.5%以下)
Crは、溶接金属の焼入れ性を高めて溶接金属の硬さを向上させることに有用な元素である。そのため、アルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤにCrが含有されていてもよい。上記の効果を得るために、Crを0.1%以上含有させることが好ましい。ただし、Crはフェライト生成元素であるため、ソリッドワイヤ中にCrを1.5%超含有させると溶接金属中のマルテンサイトの割合が低下する。従って、Cr量は1.5%以下とするのがよい。Cr量を1.0%以下としてもよい。
(Ni:3.0%以下)
Niは、溶接金属の引張強度と靭性を向上させるために有効な元素である。そのため、アルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤにNiが含有されていてもよい。上記の効果を得るためにNi量は0.1%以上とすることが好ましい。ただし、ソリッドワイヤ中にNiを3.0%超含有させると、溶接割れが発生しやすくなる。従って、Ni量は3.0%以下とするのがよい。Ni量の上限は2.0%としてもよい。
(B:0.010%以下)
Bは溶接金属の焼入れ性を向上するのに有効な元素である。そのため、アルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤにBが含有されていてもよい。Bをソリッドワイヤ中に0.010%超含有させると、その効果が飽和するばかりか溶接金属の靭性や延性の低下を招くほか、溶接割れが発生しやすくなる。従って、B量は0.010%以下とするのが良い。上述のBの効果を得るためには、B量は0.0005%以上、好ましくは0.001%以上とするのがよい。
(Ti:0.20%以下)
Tiは溶接金属のミクロ組織の微細化に有効な元素である。そのため、アルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤにTiが含有されていてもよい。Tiをソリッドワイヤ中に0.20%超含有させると、溶接金属の靭性が低下し、溶接割れが発生しやすくなる。従って、Ti量は0.20%以下とするのが良い。上述のTiの効果を得るためには、Ti量は0.01%以上、好ましくは0.05%以上とするのがよい。
(V:0.50%以下)
Vは溶接金属のミクロ組織の微細化に有効な元素である。そのため、アルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤにVが含有されていてもよい。Vをソリッドワイヤ中に0.50%超含有させると、その効果が飽和するばかりか溶接金属の靭性や延性の低下を招くほか、溶接割れが発生しやすくなる。従って、V量は0.50%以下とするのが良い。上述のVの効果を得るためには、V量は0.05%以上、好ましくは0.10%以上とするのがよい。
(Nb:0.20%以下)
Nbは溶接金属のミクロ組織の微細化に有効な元素である。そのため、アルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤにNbが含有されていてもよい。Nbをソリッドワイヤ中に0.20%超含有させると、その効果が飽和するばかりか溶接金属の靭性や延性の低下を招くほか、溶接割れが発生しやすくなる。従って、Nb量は0.20%以下とするのが良い。上述のNbの効果を得るためには、Nb量は0.01%以上、好ましくは0.05%以上とするのがよい。
(残部)
アルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤの化学組成の残部は、Fe及び不純物からなる。ここで、不純物とは、鉱石やスクラップ等の原材料に含まれる成分、又は、製造の過程でアルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤに混入する成分が例示される。不純物とは、意図的にアルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤに含有させたものではない成分を意味する。
(直径)
ソリッドワイヤの直径は、溶接性に影響を与える。ソリッドワイヤの直径が1.2mm超の場合、例えばレーザー溶接で溶接する際に、溶融池の大きさに対して直径が太すぎるためワイヤの溶融不足や溶融不安定が生じる可能性がある。その結果、溶融部にソリッドワイヤが完全に溶融しないまま供給されて不均質な溶接金属を生成したり、ソリッドワイヤが溶融部に刺さったまま取り残されたりしてしまうなど欠陥を生じてしまう場合がある。従って、アルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤの直径は、1.2mm以下が好ましい。ソリッドワイヤの直径が0.6mm未満の場合、巻き癖などによりソリッドワイヤを所定の位置に供給することが困難になる傾向がある。また、ワイヤの製造コストも著しく増加する傾向がある。従って、アルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤの直径は0.6mm以上が好ましい。好ましくは0.8mm以上とする。
このようなアルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤは、通常の方法で製造できる。すなわち、所望の化学組成に調整した溶鋼を凝固させ、圧延により原線をつくり、縮径、焼鈍をして素線をつくる。さらに、素線を伸線していくことで、所望の直径のワイヤとする。
<溶接継手の製造方法>
次に本開示の溶接継手の製造方法について説明する。溶接継手は、本開示のアルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤを用いてアルミニウムめっき鋼板を溶接することで得られる。以下、本開示のアルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤと共に用いられるアルミニウムめっき鋼板について説明する。
(アルミニウムめっき鋼板)
アルミニウムめっき鋼板は、アルミニウムめっきを有する鋼板であれば特に限定されない。アルミニウムめっき鋼板は、母材鋼板、金属間化合物層及びアルミニウムめっき層を有する。母材鋼板の表面上に母材鋼板側から、金属間化合物層、アルミニウムめっき層がこの順で形成されている。母材鋼板、アルミニウムめっき層、及び金属間化合物層の成分等の好適な範囲については後述する。
(アルミニウムめっき鋼板の板厚)
アルミニウムめっき鋼板の板厚は、0.7mm~3.2mmである。この範囲であれば、ホットスタンプ工程を経て溶接金属中にマルテンサイトが生成されやすいためである。アルミニウムめっき鋼板の板厚は、好ましくは、0.8mm以上、より好ましくは1.0mm以上である。また、アルミニウムめっき鋼板の板厚は、好ましくは、2.9mm以下である。
アルミニウムめっき鋼板は、その端部にアルミニウムめっき層及び金属間化合物層の少なくとも一部が除去された露出部を有していてもよい。露出部において、アルミニウムめっき層及び金属間化合物層が完全に除去されていてもよく、アルミニウムめっき層の一部が除去されていてもよく、アルミニウムめっき層及び金属間化合物層の一部が除去されていてもよく、アルミニウムめっき層が除去されて金属間化合物層が残されていてもよい。この様な露出部が、本開示のアルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤを用いて溶接されもよい。
アルミニウムめっき鋼板を打ち抜いて打ち抜き部材を得る際に、アルミニウムめっき鋼板の周囲に位置する端部にはシャー等の切断手段によってダレが発生する場合がある。ダレが発生したアルミニウムめっき鋼板の端部における金属間化合物層及びアルミニウムめっき層を、切削、研削等によって除去すると、ダレが発生している部分に金属間化合物層とアルミニウムめっき層とを残しながら、上記露出部を形成することができる。
(母材鋼板)
アルミニウムめっき鋼板の母材鋼板は、熱間圧延工程、冷間圧延工程、焼鈍工程等を含む通常の方法により得られたものであればよく、特に限定されるものではない。母材鋼板は熱延鋼板又は冷延鋼板のいずれでもよい。母材鋼板には、例えば、ホットスタンプ工程後に高い引張強度を有するように調製された鋼板を使用することがよい。具体的には、ホットスタンプ後の引張強度が1300~2500MPaの鋼板が母材鋼板として使用され得る。なお、本開示のアルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤは、ホットスタンプ後の引張強度が1800MPa以上となる鋼板に特に好適である。また、母材鋼板の板厚は0.7mm~3.2mmである。ただし、母材鋼板の上記引張強度及び板厚の範囲は一例である。母材鋼板が適用される部品又は部位に求められる強度、剛性、エネルギー吸収量、変形挙動、破壊挙動等の性能に応じて、適切な引張強度と板厚を有する鋼板が母材鋼板として用いられれば良い。
母材鋼板の好ましい化学組成の一例としては、例えば、以下の化学組成が挙げられる。
なお、以下、成分(元素)の含有量を示す「%」は、「質量%」を意味する。
母材鋼板は、質量%で、C:0.30%~0.50%、Si:0%~2.00%、Mn:0.20%~3.00%、Al:0.005%~0.10%、P:0.03%以下、S:0.010%以下、N:0.010%以下、Ti:0%~0.20%、Nb:0%~0.20%、V:0%~0.50%、W:0%~1.0%、Cr:0%~1.0%、Mo:0%~1.0%、Cu:0%~1.0%、Ni:0%~1.0%、B:0%~0.0100%、Mg:0%~0.05%、Ca:0%~0.05%、REM:0%~0.05%、Sn:0%~0.5%、Bi:0%~0.05%、並びに残部:Fe及び不純物からなる化学組成を有する。
(アルミニウムめっき層)
アルミニウムめっき層は、母材鋼板の表面に形成される。アルミニウムめっき層を形成する方法は、特に限定されるものではない。例えば、アルミニウムめっき層は、溶融めっき法(アルミニウムを主体として含む溶融金属浴中に母材鋼板を浸漬させ、アルミニウムめっき層を形成させる方法)により、母材鋼板の両面に形成してもよい。
ここで、アルミニウムめっき層とは、アルミニウムを主体として含むめっき層であり、アルミニウムを50質量%以上含有していればよい。目的に応じて、アルミニウムめっき層はアルミニウム以外の元素(例えば、Siなど)を含んでいてもよく、製造の過程などで混入してしまう不純物を含んでいてもよい。アルミニウムめっき層は、具体的には、例えば、質量%で、Si(シリコン)を5%~12%含み、残部はアルミニウム及び不純物からなる化学組成を有していてもよい。また、アルミニウムめっき層は質量%で、Si(シリコン)を5%~12%、Fe(鉄)を2%~4%を含み、残部はアルミニウム及び不純物からなる化学組成を有していてもよい。
上記範囲でアルミニウムめっき層にSiを含有させると、加工性及び耐食性の低下が抑制され得る。また、金属間化合物層の厚みを低減し得る。
アルミニウムめっき層の厚みは、特に限定されるものではないが、例えば、平均厚みで8μm(マイクロメートル)以上であることがよく、10μm以上であることが好ましい。また、アルミニウムめっき層の厚みは、例えば、平均厚みで40μm以下であることがよく、30μm以下であることが好ましい。
(金属間化合物層)
金属間化合物層は、母材鋼板上にアルミニウムめっき層を設ける際に、母材鋼板とアルミニウムめっき層との間に形成される層である。具体的には、金属間化合物層は、アルミニウムを主体として含む溶融金属浴中での母材鋼板の鉄(Fe)とアルミニウム(Al)を含む金属との反応によって形成される。金属間化合物層は、主にFeAl(x、yはそれぞれ1以上を表す)で表される化合物の複数種で形成されている。アルミニウムめっき層がSi(シリコン)を含む場合は、金属間化合物層はFeAl及びFeAlSi(x、y、zはそれぞれ1以上を表す)で表される化合物の複数種で形成されている。
金属間化合物層の厚みは、特に限定されるものではないが、例えば平均厚みで1μm以上であることがよく、3μm以上であることがより好ましい。また、金属間化合物層の厚みは、例えば平均厚みで10μm以下であることがよく、8μm以下であることが好ましい。
なお、金属間化合物層の厚みは、アルミニウムを主体として含む溶融金属浴の温度と浸漬時間によって制御され得る。
(アルミニウムめっき層と金属間化合物層の合計厚み)
アルミニウムめっき層と金属間化合物層の合計の厚みは、平均厚みで40μm以下がよく、より好ましくは、30μm以下である。この範囲であれば、ホットスタンプ後に高い硬さを有する溶融金属を形成しやすいため、好ましい。
(母材鋼板、金属間化合物層、及びアルミニウムめっき層の平均厚み)
金属間化合物層及びアルミニウムめっき層の厚みは、アルミニウムめっき鋼板の断面を電界放出型電子線マイクロアナライザ(Field Emission-Electron Probe MicroAnalyser:FE-EPMA)を用いて、アルミニウムめっき鋼板の表面から母材鋼板までを線分析し、アルミニウム濃度とFe濃度を測定することで得られる。測定条件は、加速電圧15kV、ビーム径100nm程度、1点あたりの照射時間1000ms、測定ピッチ60nmである。測定距離は、アルミニウムめっき層及び金属間化合物層の厚みが測定できるようにすればよく、例えば測定距離は、アルミニウムめっき鋼板の表面から厚み方向に30μm~80μm程度とする。
前述の化学組成を有するアルミニウムめっき鋼板を例にして説明すると、アルミニウムめっき鋼板の断面のアルミニウム濃度の測定値として、アルミニウム(Al)濃度が0.06質量%以下である領域を母材鋼板、アルミニウム濃度が0.06質量%超である領域を金属間化合物層又はアルミニウムめっき層と判断する。また、金属間化合物層及びアルミニウムめっき層のうち、鉄(Fe)濃度が4質量%超である領域を金属間化合物層、Fe濃度が4質量%以下である領域をアルミニウムめっき層と判断する。
なお、母材鋼板と金属間化合物層との境界から金属間化合物層とアルミニウムめっき層との境界までの距離を金属間化合物層の厚みとする。また、金属間化合物層とアルミニウムめっき層との境界からアルミニウムめっき層が形成されたアルミニウムめっき鋼板の表面までの距離をアルミニウムめっき層の厚みとする。
アルミニウムめっき層の厚みは次のように求められる。まず、平面視において、測定対象部材のうちアルミニウムめっき層が形成された領域が最も長くなる方向を定める。当該方向におけるアルミニウムめっき層の一方の端から他方の端までを均等な長さとなるように6つの領域に分ける。そして、当該6つの領域の境界を測定箇所とする。すなわち、測定箇所は5箇所である。次に、これら5箇所において、前述の判断基準にしたがって、アルミニウムめっき鋼板の表面から金属間化合物層までの厚みを求める。そして、求めた5つの値の平均値をアルミニウムめっき層の厚みとする。
同様に、金属間化合物層の厚みは次のように求められる。アルミニウムめっき鋼板の平面視において上記のようにアルミニウムめっき層の厚みを求めた5箇所と同じ5箇所で、前述の判断基準にしたがって、金属間化合物層の厚みを求める。そして、求めた5つの値を平均した値を金属間化合物層の厚みとする。
母材鋼板の厚みは、金属間化合物層及びアルミニウムめっき層の厚みに対して十分に大きい。そのため、アルミニウムめっき鋼板の厚みを母材鋼板の厚みと見做してもよい。
以上、アルミニウムめっき鋼板について説明したが、本開示のアルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤと共に用いられるアルミニウムめっき鋼板は、これらに限定されるものではない。
(溶接方法)
本開示の溶接継手の製造方法に用いられる溶接方法としては、アルミニウムめっき鋼板の溶け込み幅が小さく溶接金属中にアルミニウムの混入が少ない溶接方法が好ましい。そのような溶接方法としては、狭い領域を加熱できるレーザー溶接、プラズマ溶接、電子ビーム溶接などが挙げられる。特に本開示のアルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤを用いて溶接する場合、レーザー溶接が好ましい。以下、レーザー溶接の条件について説明する。
レーザー溶接の速度は能率を稼ぐため、大きいほど好ましく、例えば5.0m/min以上とするのがよい。レーザー溶接の速度の上限は特に限定されない。レーザーの出力や発振器の種類、光学系の条件並びに溶接対象の鋼板成分や板厚、組み合わせ等によって、溶接速度が高すぎるとスパッタが多発したり、溶接ビード形状が不安定になったりしてしまうことがある。従って、レーザー溶接の速度は他の溶接条件を勘案してできるだけ大きい速度を選択する。
レーザー出力についても高い方が好ましく、例えば5.0kW以上とする。レーザー出力の上限は特に限定されない。出力が高ければ能率確保のために溶接速度を大きくしても良好な溶け込み深さを確保できる。一方で、出力が高すぎるとスパッタが多発したり、溶接ビード形状が不安定になったりしてしまうことがある。また、高出力な溶接装置は導入コストが高い。従って、レーザー出力の上限は、溶接装置の出力上限や溶接速度と溶接部品質との両立を図る中で自ずと定まる。
レーザー溶接の際に、シールドガスが溶融池及びその周囲に供給されてもよい。その際、空気、アルゴン、窒素、ヘリウム、二酸化炭素、酸素又はこれらの混合物をシールドガスとして用いてもよい。
アルミニウムめっき鋼板を溶接する際の本開示のアルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤの供給量は、母材鋼板の組成、板厚、溶接条件に合わせて適宜調整することができる。すなわち、アンダーフィルの発生が無く、裏側への溶融金属の過大な膨出が無いように、本開示のソリッドワイヤの供給量を調整する。
(溶接金属の硬さ)
本開示の溶接継手の製造方法を用いて製造した溶接継手は、溶接金属中のマルテンサイトの割合が高くなる。マルテンサイト硬さHは、下記式(1)から求められる。
=884C(1-0.3C)+294・・・・・(1)
ここで、Cは、溶接金属の平均C濃度を質量%で表したときの数値を示す。また、溶接金属の平均C濃度は、母材鋼板のC量、ソリッドワイヤのC量及び溶接条件から推定される。
本開示の溶接継手の溶接金属のホットスタンプ後の硬さは、溶接金属の平均C濃度から推定されるマルテンサイト硬さHに対し、90%以上となる。
以上、溶接継手の製造方法を説明したが、本発明の目的を損なわない範囲で適宜変更することができる。
以下、本発明の効果を実施例により具体的に説明する。
アルミニウムめっき鋼板の母材鋼板の化学組成を表1に、ソリッドワイヤの化学組成を表2に示す。本発明の範囲外の数値には下線を付した。なお、表1の1.8GPa級、2.0GPa級、2.3GPa級は、ホットスタンプ後の引張強度を意味する。意図的に添加しない合金成分は表において空白とした。P、S、Nは意図的に添加した合金元素ではないが、成分分析値を記載した。Alは主に脱酸剤としての役割を担う元素であるが、フェライト生成元素であるため、分析値を記載した。なお、表2中のCu量は、Cuめっきを含めた値である。ソリッドワイヤは表2の化学成分を有する原料を融解させた後、鍛造、圧延、伸線、焼鈍し、表3-1および表3-2に記載の最終直径まで伸線した後、表2に示す通りに、一部のソリッドワイヤの表面にCuめっきをして作製した。なお、表3-1及び表3-2中のJ1~J15の鋼板Aの「端部のアルミニウムめっき層及び金属間化合物層の欄」の「上面:完全除去、下面:完全除去」との記載は、溶接予定箇所に以下の処理を施したことを意味する。すなわち、アルミニウムめっき鋼板の端部の上下面それぞれについて、端縁から1.0mmの位置までの範囲のアルミニウムめっき層及び金属間化合物層を除去し、母材鋼板が露出している露出部を形成した。また、表3-1及び表3-2中のJ16~J45の鋼板B並びにJ46~J60の鋼板Aの「端部のアルミニウムめっき層及び金属間化合物層」の欄の「上面:端縁未除去、下面:完全除去」との記載は、溶接予定箇所に以下の処理を施したことを意味する。すなわち、アルミニウムめっき鋼板の端部の上面において、端縁から最大で0.6mmまでの領域のアルミニウムめっき層及び金属間化合物層を残し、アルミニウムめっき層及び金属間化合物層が残された範囲から1.0mmの位置までの範囲のアルミニウムめっき層及び金属間化合物層を除去し、母材鋼板が露出している露出部を形成した。また、アルミニウムめっき鋼板の端部の下面において、端縁から1.0mmの位置までの範囲のアルミニウムめっき層及び金属間化合物層を除去し、母材鋼板が露出している露出部を形成した。表3-1及び表3-2のJ16~J45の鋼板A及びJ46~J60の鋼板Bの「端部のアルミニウムめっき層及び金属間化合物層」の欄の「未実施」との記載は、アルミニウムめっき層及び金属間化合物層の除去処理を行っていないことを意味する。なお、アルミニウムめっき層及び金属間化合物層の除去はエンドミルによる切削にて行った。
Figure 2023087922000001
Figure 2023087922000002
次に、表3-1および表3-2に示す鋼板A及び鋼板Bを用意し、鋼板A及び鋼板Bの端面を突合せて、表3-1および表3-2に記載のソリッドワイヤを供給しながら、レーザー溶接により突合せ溶接を行い、溶接継手を作製した。なお、表3-1および表3-2のめっき厚みはアルミニウムめっき層の平均厚み及び金属間化合物層の平均厚みの合計を示す。表3-1および表3-2に記載の板厚は、アルミニウムめっき鋼板の板厚を示す。レーザー溶接は、レーザー出力3.0kW(キロワット)~10.0kW、溶接速度4.0m/min(メートル毎分)~10.0m/minの条件で貫通溶接するように調整した。ソリッドワイヤはアンダーフィルの発生が無く、裏側への溶融金属の過大な膨出が無いように、供給量を調整した。得られた溶接継手を950℃に加熱した炉で4分間加熱し、その後水冷した金型で成形、焼入れしてホットスタンプ成形品を作製した。
(ビッカース硬さ試験)
得られた溶接継手に対し、JIS Z 2244(2009)に準拠しビッカース硬さを測定した。測定方法について以下に説明する。
図1は、ビッカース硬さ試験を説明するための溶接金属の断面の模式図である。得られた溶接継手を溶接線の半分の位置で、図1に示すように、溶接線に対し垂直な方向に切断する。得られた断面において、溶接金属200の幅中央を通りアルミニウムめっき鋼板100,110の厚み方向に平行な線を、測定を行う測定線Fとする(図1の測定線F)。ここで、溶接金属200の幅中央とは、上記断面においてアルミニウムめっき鋼板100,110の厚み方向に垂直な方向で、アルミニウムめっき鋼板100(鋼板A)側で溶接金属200が最も狭くなる位置(最もアルミニウムめっき鋼板100(鋼板A)が溶接金属200側に入り込んだ位置)とアルミニウムめっき鋼板110(鋼板B)側で溶接金属200が最も狭くなる位置(最もアルミニウムめっき鋼板110(鋼板B)が溶接金属200側に入り込んだ位置)との間の中心をいう。ビッカース硬さは測定線F上にある溶接金属200の中心D(図1の中心D)において、荷重0.5kgfで行う。さらに、測定線F上、且つ中心Dの上2点、下2点で測定し、それらの平均値を溶接金属の硬さとする。各測定後の圧痕の中心間の距離は、圧痕の対角線長さの3倍以上とする。なお、測定範囲は、測定線F上の溶接金属200の長さをLとしたときに、上下にそれぞれ1/4Lの範囲(中心Dを中心とした1/2Lの範囲)とする。
評価の基準とする溶接金属の硬さの推定値Hvは、アルミニウムめっき鋼板100(鋼板A)のC量、アルミニウムめっき鋼板110(鋼板B)のC量及びソリッドワイヤのC量と溶接条件とから導いた溶接金属200の平均C濃度を用い下記式(2)から求めた。
Hv=884C(1-0.3C)+294・・・・・(2)
ここでHvは溶接金属200の推定硬さ(単位:HV0.5)、Cは、溶接金属200の平均C濃度を質量%で表したときの数値を示す。
測定して得られた溶接金属200の硬さ(実測値)が、この計算された推定硬さに対して90%以上の場合を合格とした。
(引張試験)
得られた溶接継手を用い、JIS Z 2241(2011)に準拠して、溶接線が負荷方向に対して垂直に配置したJIS5号試験片を作製した。作製したJIS5号試験片を用い、JIS Z 2241(2011)に基づき引張試験を行った。引張試験速度は10mm/min一定とした。試験後の破断経路が鋼板A又は鋼板B側であればGoodとし、破断経路が溶接金属の場合はBadとした。Goodを合格とした。
(溶接欠陥)
得られた溶接継手に溶接割れが発生していない場合をGoodとした。溶接割れが発生していた場合をBadとした。Goodを合格とした。
これらの試験の結果を表4-1及び表4-2に示す。本発明の範囲外のワイヤNo.には下線を付した。
Figure 2023087922000003
Figure 2023087922000004
Figure 2023087922000005
Figure 2023087922000006
表4-1および表4-2に示すように、本発明例に係る継手No.J1~J10、J16~J25、J31~J40、J46~J55は、ソリッドワイヤの化学組成が適正であるため、硬さに優れた溶接金属を形成することができた。
比較例に係る継手No.J11は、C含有量が適正範囲外であったため、溶接金属の硬さが基準を下回り、破断経路も溶接金属であった。
比較例に係る継手No.J12は、C含有量が適正範囲外であったため、溶接割れが発生し、破断経路も溶接金属であった。
比較例に係る継手No.J13は、Mo含有量が適正範囲外であるため、溶接金属の硬さが基準を下回り、破断経路も溶接金属であった。
比較例に係る継手No.J14は、Mo含有量が適正範囲外であるため、溶接金属の硬さが基準を下回り、破断経路も溶接金属であった。
比較例に係る継手No.J15は、Si含有量が適正範囲外であるため、溶接金属の硬さが基準を下回り、破断経路も溶接金属であった。
比較例に係る継手No.J26は、C含有量が適正範囲外であったため、溶接金属の硬さが基準を下回り、破断経路も溶接金属であった。
比較例に係る継手No.J27は、C含有量が適正範囲外であったため、溶接割れが発生し、破断経路も溶接金属であった。
比較例に係る継手No.J28は、Mo含有量が適正範囲外であるため、溶接金属の硬さが基準を下回り、破断経路も溶接金属であった。
比較例に係る継手No.J29は、Mo含有量が適正範囲外であるため、溶接金属の硬さが基準を下回り、破断経路も溶接金属であった。
比較例に係る継手No.J30は、Si含有量が適正範囲外であるため、溶接金属の硬さが基準を下回り、破断経路も溶接金属であった。
比較例に係る継手No.J41は、C含有量が適正範囲外であったため、溶接金属の硬さが基準を下回り、破断経路も溶接金属であった。
比較例に係る継手No.J42は、C含有量が適正範囲外であったため、溶接割れが発生し、破断経路も溶接金属であった。
比較例に係る継手No.J43は、Mo含有量が適正範囲外であるため、溶接金属の硬さが基準を下回り、破断経路も溶接金属であった。
比較例に係る継手No.J44は、Mo含有量が適正範囲外であるため、溶接金属の硬さが基準を下回り、破断経路も溶接金属であった。
比較例に係る継手No.J45は、Si含有量が適正範囲外であるため、溶接金属の硬さが基準を下回り、破断経路も溶接金属であった。
比較例に係る継手No.J56は、C含有量が適正範囲外であったため、溶接金属の硬さが基準を下回り、破断経路も溶接金属であった。
比較例に係る継手No.J57は、C含有量が適正範囲外であったため、溶接割れが発生し、破断経路も溶接金属であった。
比較例に係る継手No.J58は、Mo含有量が適正範囲外であるため、溶接金属の硬さが基準を下回り、破断経路も溶接金属であった。
比較例に係る継手No.J59は、Mo含有量が適正範囲外であるため、溶接金属の硬さが基準を下回り、破断経路も溶接金属であった。
比較例に係る継手No.J60は、Si含有量が適正範囲外であるため、溶接金属の硬さが基準を下回り、破断経路も溶接金属であった。
本発明のアルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤ及び溶接継手の製造方法によれば、ホットスタンプ後の引張強度1800MPa以上となる高強度アルミニウムめっき鋼板同士の溶接の際にアルミニウムが溶接金属に混入したとしても、高い硬さを有する溶接金属を形成することができるので、産業上の利用可能性が高い。
12 母材鋼板
14 アルミニウムめっき層
16 金属間化合物層
100 アルミニウムめっき鋼板
110 アルミニウムめっき鋼板
200 溶接金属
300 溶接継手

Claims (5)

  1. アルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤであって、ワイヤ全質量に対する質量%で、化学組成の含有量が、
    C:0.25%~0.35%、
    Si:0.30%未満、
    Mn:1.8%~2.5%、
    Mo:0.30%~1.00%、
    P:0.050%以下、
    S:0.030%以下、
    Al:0.10%以下、
    N:0.010%以下、
    Cu:0.50%以下、
    であり、残部がFe及び不純物からなる
    アルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤ。
  2. さらに、前記Feの一部に代えて、
    Cr:1.5%以下、
    Ni:3.0%以下、
    B :0.010%以下、
    Ti: 0.20%以下、
    V : 0.50%以下、
    Nb: 0.20%以下、
    のうち1種又は2種以上を含有する請求項1に記載のアルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤ。
  3. 前記アルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤの直径が0.6mm~1.2mmである請求項1又は2に記載のアルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤ。
  4. 板厚0.7mm~3.2mmのアルミニウムめっき鋼板を少なくとも1枚以上溶接し、かつ、前記アルミニウムめっき鋼板を請求項1から3のうちいずれか1項に記載のアルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤを用いて前記溶接を行う溶接継手の製造方法。
  5. レーザー溶接を用いて前記溶接を行う請求項4に記載の溶接継手の製造方法。
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