JP2023058788A - 組織の製造方法 - Google Patents

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Kenichi Morinaga
和正 八巻
Kazumasa YAMAKI
明弘 梅澤
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Abstract

【課題】本明細書では、多能性幹細胞を培養して得た胚様体から軟骨細胞等を含む組織を、単一の培地中での培養により、接着状態を変化させることなく製造できる方法を開示する。【解決手段】本明細書に開示する好ましい実施形態は、胚様体を、動物由来成分不含血清代替物、ヘレグリンβ1及びインスリン様増殖因子1を含む培地中で、細胞接着性の基材上において培養して組織を得ることを含む、組織の製造方法に関する。【選択図】図1

Description

本明細書では、軟骨細胞を含む組織、肝細胞を含む組織等の組織の製造方法を開示する。
胚性幹細胞(ES細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)等の多能性幹細胞は目的細胞に分化誘導することができ、再生医療の分野での応用が期待されている。多能性幹細胞を心筋細胞、網膜色素上皮細胞、軟骨細胞など様々な細胞へ分化誘導する方法が報告されている。
特許文献1、2及び非特許文献1では多能性幹細胞を軟骨細胞に分化する方法について記載されている。
特表2015-515825号公報 WO2015/064754
特許文献1では、所定の表面抗原を発現する沿軸中胚葉細胞集団を特定化するステップ、前記沿軸中胚葉細胞集団を高細胞密度で培養するステップ、前記沿軸中胚葉細胞集団を培養して軟骨細胞前駆集団を製造するステップ、前記軟骨細胞前駆集団を培養して軟骨様組織等を製造するステップ等の多数の工程を経て軟骨様組織等を製造することが記載されている。
特許文献2では、多能性幹細胞を接着培養して中胚葉細胞を誘導する工程、前記工程で得た細胞を所定の成分を含む培地中で接着培養する工程、及び、接着培養後の細胞を所定の成分を含む培地中で浮遊培養する工程を含む、軟骨細胞の製造方法が記載されている。
非特許文献1では、多能性幹細胞を、組成の異なる複数の培地中で継代培養を行い軟骨細胞に分化させることが記載されている。
これらの文献に記載の方法は、段階ごとに組成の異なる複数の培地を用い、細胞の接着状態(接着培養か浮遊培養)及び基材にコーティングするタンパク質の種類も段階ごとに変化させながら多能性幹細胞から軟骨細胞を誘導する方法であり、手順が非常に煩雑である。
培養工程を自動化しようとしたとき、プロセスの煩雑さは大きな壁となるためなるべく単純な分化誘導系が求められている。
そこで本明細書では、多能性幹細胞を培養して得た胚様体から軟骨細胞等を含む組織を、単一の培地中での培養により、接着状態を変化させることなく製造できる方法を開示する。
本開示は、以下の発明を包含する。
(1)胚様体を、動物由来成分不含血清代替物、ヘレグリンβ1及びインスリン様増殖因子1を含む培地中で、細胞接着性の基材上において培養して組織を得ることを含む、組織の製造方法。
(2)前記組織が、軟骨細胞を含む組織又は肝細胞を含む組織である、(1)に記載の方法。
(3)前記培地が、アスコルビン酸又はその塩を更に含む、(1)又は(2)に記載の方法。
(4)前記培地が、塩基性線維芽細胞増殖因子を更に含む、(1)~(3)のいずれかに記載の方法。
(5)多能性幹細胞を、動物由来成分不含血清代替物、ヘレグリンβ1及びインスリン様増殖因子1を含む培地中で培養して前記胚様体を得ることを更に含む、(1)~(4)のいずれかに記載の方法。
(6)前記多能性幹細胞を培養して前記胚様体を得るための培地が、前記胚様体を培養して前記組織を得るための培地にROCK阻害剤を添加した培地である、或いは、前記胚様体を培養して前記組織を得るための培地と同一である、(5)に記載の方法。
本開示に係る組織の製造方法によれば、胚様体から組織を、単一の培地中での培養により、接着状態を変化させることなく製造することが可能である。
図1は、実施例1で得たEdom iPS細胞由来軟骨組織の、コラーゲンタイプ2を免疫染色した観察像を示す。図1上段は1個の組織の全体像、図1下段はコラーゲンタイプ2陽性の密度が高い部分の拡大像である。色の濃い部分がコラーゲンタイプ2を示す。 図2は、実施例4で得たEdom iPS細胞由来肝細胞含有組織の顕微鏡による観察像を示す。 図3は、実施例4で得たEdom iPS細胞由来肝細胞含有組織のマイクロアレイ解析の結果を示す。
<1.胚様体>
胚様体とは、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞等の多能性幹細胞を培養することによって形成される三次元の細胞凝集塊である。
胚様体は、例えば、長軸方向の長さが100~500μmの範囲の粒状の細胞凝集塊である。
胚様体の製造する工程の好ましい実施形態について後述する。
本明細書において胚性幹細胞(ES細胞)は、好ましくは哺乳動物由来のES細胞であり、例えば、マウスなどのげっ歯類又はヒトなどの霊長類由来のES細胞などを使用することができる。特に好ましくは、マウス又はヒト由来のES細胞を使用する。ES細胞は、動物の発生初期段階である胚盤胞期の胚の一部に属する内部細胞塊より作られる幹細胞株を指し、生体外にて、理論上すべての組織に分化する分化多能性を保ちつつ、ほぼ無限に増殖させることができる。ES細胞としては、例えば、その分化の程度の確認を容易とするために、Pdx1遺伝子付近にレポーター遺伝子を導入した細胞を用いることができる。例えば、Pdx1座にLacZ遺伝子を組み込んだ129/Sv由来ES細胞株又はPdx1プロモーター制御下のGFPレポータートランスジーンをもつES細胞SK7株などを使用することができる。あるいは、Hnf3β内胚葉特異的エンハンサー断片制御下のmRFP1レポータートランスジーン及びPdx1プロモーター制御下のGFPレポータートランスジーンを有するES細胞PH3株を使用することもできる。また、国立成育医療研究センターの生殖・細胞医療研究部で樹立し、Akutsu H,et al.Regen Ther.2015;1:18-29に開示したES細胞株である、SEES1、SEES2、SEES3、SEES4、SEES5、SEES6又はSEES7や、これらのES細胞株に更なる遺伝子を導入した細胞株を使用することもできる。
本明細書において人工多能性幹細胞(iPS細胞)は、体細胞を初期化することによって得られる多能性を有する細胞である。人工多能性幹細胞の作製は、京都大学の山中伸弥教授らのグループ、マサチューセッツ工科大学のルドルフ・ヤニッシュ(Rudolf Jaenisch)らのグループ、ウイスコンシン大学のジェームス・トムソン(James Thomson)らのグループ、ハーバード大学のコンラッド・ホッケドリンガー(Konrad Hochedlinger)らのグループなどを含む複数のグループが成功している。例えば、国際公開WO2007/069666号パンフレットには、Octファミリー遺伝子、Klfファミリー遺伝子及びMycファミリー遺伝子の遺伝子産物を含む体細胞の核初期化因子、並びにOctファミリー遺伝子、Klfファミリー遺伝子、Soxファミリー遺伝子及びMycファミリー遺伝子の遺伝子産物を含む体細胞の核初期化因子が記載されており、さらに体細胞に上記核初期化因子を接触させる工程を含む、体細胞の核初期化により誘導多能性幹細胞を製造する方法が記載されている。
iPS細胞の作製に用いる体細胞の種類は特に限定されず、任意の体細胞を用いることができる。体細胞とは、生体を構成する細胞の内生殖細胞以外の全ての細胞を包含し、分化した体細胞でもよいし、未分化の幹細胞でもよい。体細胞の由来は、哺乳動物、鳥類、魚類、爬虫類、両生類の何れでもよく特に限定されないが、好ましくは哺乳動物(例えば、マウスなどのげっ歯類、又はヒトなどの霊長類)であり、特に好ましくはマウス又はヒトである。また、ヒトの体細胞を用いる場合、胎児、新生児又は成人の何れの体細胞を用いてもよい。体細胞の具体例としては、例えば、線維芽細胞(例えば、皮膚線維芽細胞)、上皮細胞(例えば、胃上皮細胞、肝上皮細胞、肺胞上皮細胞)、内皮細胞(例えば血管、リンパ管)、神経細胞(例えば、ニューロン、グリア細胞)、すい臓細胞、血球細胞、骨髄細胞、筋肉細胞(例えば、骨格筋細胞、平滑筋細胞、心筋細胞)、肝実質細胞、非肝実質細胞、脂肪細胞、骨芽細胞、歯周組織を構成する細胞(例えば、歯根膜細胞、セメント芽細胞、歯肉線維芽細胞、骨芽細胞)、腎臓・眼・耳を構成する細胞などが挙げられる。
iPS細胞は、所定の培養条件下(例えば、ES細胞を培養する条件下)において長期にわたって自己複製能を有し、また所定の分化誘導条件下において外胚葉、中胚葉及び内胚葉への多分化能を有する幹細胞のことを言う。また、iPS細胞はマウスなどの試験動物に移植した場合にテラトーマを形成する能力を有する幹細胞でもよい。
体細胞からiPS細胞を製造するためには、まず、少なくとも1種類以上の初期化遺伝子を体細胞に導入する。初期化遺伝子とは、体細胞を初期化してiPS細胞とする作用を有する初期化因子をコードする遺伝子である。初期化遺伝子の組み合わせの具体例としては、以下の組み合わせを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
(i)Oct遺伝子、Klf遺伝子、Sox遺伝子、Myc遺伝子
(ii)Oct遺伝子、Sox遺伝子、NANOG遺伝子、LIN28遺伝子
(iii)Oct遺伝子、Klf遺伝子、Sox遺伝子、Myc遺伝子、hTERT遺伝子、SV40 largeT遺伝子
(iv)Oct遺伝子、Klf遺伝子、Sox遺伝子
<2.胚様体からの組織の製造方法>
本明細書に開示する組織の製造方法は、胚様体を、動物由来成分不含血清代替物、ヘレグリンβ1及びインスリン様増殖因子1を含む培地中で、細胞接着性の基材上において培養して組織を得ることを含むことを特徴とする。
本開示に係る組織の製造方法によれば、1種類の培地中で、細胞接着性の基材での接着培養のみにより、胚様体から組織を製造することができるため操作が簡便である。本開示に係る組織の製造方法によれば、培養中での培地交換の際、同じ培地を交換するだけでよいため、培地交換を自動で行う自動培養装置を用いた場合に、培地交換ごとに装置のラインの洗浄を行う必要がなく、自動化が容易である。
<2.1.組織>
本明細書において「組織」とは、胚様体から分化した多数の細胞を含む細胞構造物を指す。
「組織」の例としては、軟骨細胞を含む組織、及び、肝細胞を含む組織が例示できる。軟骨細胞であることは、コラーゲンタイプ2(Col2A1)を発現していることを指標に特定することができる。肝細胞であることは、α-フェトプロテイン(AFP)を発現していることを指標に特定することができる。肝細胞はまた特徴的な形状を有するため、形状を指標に肝細胞であると特定してもよい。
軟骨細胞を含む組織は、軟骨の再建のための移植の用途や、細胞培養の足場としての用途で有用である。軟骨細胞を含む組織は、培養して得た後に非ヒト動物に移植して更に培養して成熟した軟骨組織としてから、目的とする用途に用いることもできる。
肝細胞を含む組織は、肝細胞を含む肝細胞製剤を製造する用途で利用することができる。肝細胞製剤は、肝臓の機能が低下した患者に、肝臓の機能を代替する目的で投与することができる。肝細胞を含む組織から、肝細胞を分離して用いてもよい。
次に本開示に係る組織の製造方法に用いる培地、基材及び培養条件の好ましい態様について以下に説明する。
<2.2.培地>
本開示に係る組織の製造方法では、胚様体を培養する培地として、動物由来成分不含血清代替物、ヘレグリンβ1及びインスリン様増殖因子(IGF1)を含む培地を用いることが好ましい。本発明者らは驚くべきことにこの組成の培地中で胚様体を培養することにより、他の組成の培地を用いなくとも、軟骨細胞を含む組織、肝細胞を含む組織等の組織を胚様体から誘導することができることを見出した。
前記培地は、基礎培地に、動物由来成分不含血清代替物、ヘレグリンβ1及びIGF1を添加して調製することができる。基礎培地としては、KnockoutDMEM(KDMEM)培地、DMEM培地、EMEM培地、MEM培地、DMEM-F12培地、BME培地、αMEM培地、IMDM培地、ES培地、DM-160培地、Fisher培地、F12培地、WE培地、RPMI1640培地を例示でき、特に、動物由来成分を含まない基礎培地が好適である。
動物由来成分不含血清代替物としては、KnockOutTM serum replacement XenoFree(Life Technologies社製)が例示できる。前記培地中での動物由来成分不含血清代替物の含有量は特に限定されず、例えば動物由来成分不含血清代替物が液体製剤である場合、前記培地の全量に対して5~30%(v/v)であってよい。
ヘレグリンβ1は例えばヒト由来のヘレグリンβ1であってよい。前記培地中でのヘレグリンβ1の含有量は特に限定されず、例えば前記培地の全量に対して5~25ng/mLであってよい。
IGF1は例えばヒト由来のIGF1であってよい。前記培地中でのIGF1の含有量は特に限定されず、例えば前記培地の全量に対して50~500ng/mLであってよい。
前記培地は、アスコルビン酸又はその塩及び塩基性線維芽細胞増殖因子の1以上を含むことが更に好ましく、両方を含むことが特に好ましい。
前記培地中のアスコルビン酸又はその塩の含有量は特に限定されず、例えば前記培地の全量に対して10~200μg/mLであってよい。
塩基性線維芽細胞増殖因子(FGF basic又はbFGF)は例えばヒト由来の塩基性線維芽細胞増殖因子であってよい。前記培地中の塩基性線維芽細胞増殖因子の含有量は特に限定されず、例えば前記培地の全量に対して5~100ng/mLであってよい。
前記培地は更に、アミノ酸、ピルビン酸又はその塩、抗生物質等を含むことが好ましい。アミノ酸としては、非必須アミノ酸、及び、L-グルタミン又はL-グルタミン代替品から選択される1以上が好ましい。L-グルタミン代替品としては、GlutaMAXTM Supplement(Life Technologies)が好適である。ピルビン酸の塩としてはピルビン酸ナトリウムが例示できる。抗生物質としては、ペニシリン及びストレプトマイシンが例示できる。
前記培地中の非必須アミノ酸の含有量は特に限定されず、例えば前記培地の全量に対して非必須アミノ酸の合計量として0.01~1mMであってよい。
前記培地中のL-グルタミン又はL-グルタミン代替品の含有量は特に限定されず、例えば前記培地の全量に対して0.2~10mMであってよい。
前記培地中のピルビン酸又はその塩の含有量は特に限定されず、例えば前記培地の全量に対して0.1~10mMであってよい。
前記培地は、1mM~20mMのROCK阻害剤(例えば、Y27632)を含んでも良い。
<2.3.基材>
本開示に係る組織の製造方法では、前記培地中で胚様体を細胞接着性の基材上で培養することを特徴とする。ここで用いる「細胞接着性の基材」は、実際に培養する胚様体を前記培地中において基材の表面に播種した際に接着する基材と定義できる。「細胞接着性の基材」は、細胞接着性の表面を含む基材であればよい。細胞接着性の基材は、特に限定されるものではないが。例えば、ガラス、金属、セラミック、シリコン等の無機材料、エラストマー、プラスチック(例えば、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ABS樹脂、ナイロン、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、メチルペンテン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂)で代表される有機材料を含む基材を挙げることができる。細胞接着性の基材の好ましい例として、ポリスチレン樹脂を表面に含む基材が例示できる。
基材の形状は限定されず、例えば、平板、平膜、フィルム、多孔質膜等の平坦な形状や、シリンダ、スタンプ、マルチウェルプレート、マイクロ流路等の立体的な形状が挙げられる。基材の細胞接着性の表面は平坦な表面であることが好ましい。
<2.4.培養条件>
本明細書で開示する組織の製造方法は、胚様体を、動物由来成分不含血清代替物、ヘレグリンβ1及びインスリン様増殖因子1を含む培地中で、細胞接着性の基材上において培養して、組織を得ることを含む。
胚様体の前記基材上での播種密度は、例えば9~15個/cmであることができる。培養条件は特に限定されないが、35~38℃で二酸化炭素濃度が5%程度の雰囲気中で、静置状態で接着培養を行うことが好ましい。培養の間、適宜、培地交換を行うことができる。培地交換は自動的に行うことができる。
前記培地中で前記基材上において胚様体を接着培養すると、培養開始から30~40日程度で肝細胞を含む組織が形成される。肝細胞を含む組織を目的とする場合は、この時点で肝細胞を含む組織を回収して利用することができる。培養を更に継続すると、培養開始から70~100日程度で軟骨細胞を含む組織が形成される。軟骨細胞を含む組織を目的とする場合は、この時点で軟骨細胞を含む組織を回収して利用することができる。
前記培地中で前記基材上において胚様体を接着培養するとき、培養開始から30日程度でコンフルエントなシート状組織が形成され、更に培養すると、培養開始から60~80日でECM構造を含み細胞が積層された立体的な組織、或いは浮遊し凝集した立体的な粒状組織が形成される。
<3.胚様体を調製工程>
本明細書に開示する組織の製造方法は、より好ましくは、多能性幹細胞を、動物由来成分不含血清代替物、ヘレグリンβ1及びインスリン様増殖因子1を含む培地中で培養して前記胚様体を得る胚様体調製工程を更に含む。
胚様体調製工程で用いる多能性幹細胞の具体例は既述の通りである。
胚様体調製工程では、多能性肝細胞を浮遊培養して胚様体を得ることが好ましい。浮遊細胞はU字底のウェルを複数有するプレート等の、断面がU字形状の底を有する容器中で行うことが好ましい。胚様体調製工程の時間は特に限定されないが、例えば3~5日間が例示できる。胚様体調製工程の温度条件、二酸化炭素濃度条件は、胚様体を培養して組織を得る工程(組織調製工程)での温度条件、二酸化炭素濃度条件と同じ範囲から選択できる。
胚様体調製工程での「動物由来成分不含血清代替物、ヘレグリンβ1及びインスリン様増殖因子1を含む培地」の好ましい実施形態は、組織調製工程での培地の好ましい実施形態と同じ範囲から選択できる。
胚様体調製工程での「動物由来成分不含血清代替物、ヘレグリンβ1及びインスリン様増殖因子1を含む培地」は、組織調製工程での「動物由来成分不含血清代替物、ヘレグリンβ1及びインスリン様増殖因子1を含む培地」と同一であってもよいし、異なっていてもよいが、好ましくは、胚様体調製工程での培地は、組織調製工程での培地と同一であるか、或いは、組織調製工程での培地にROCK阻害剤を添加した以外は組織調製工程での培地(この場合、組織調製工程での培地はROCK阻害剤を含まない)と同一である。胚様体調製工程での培地がROCK阻害剤(例えば、Y27632)を含む場合、その濃度は、好ましくは、1mM~20mMであることができる。
胚様体調製工程で得られた胚様体は、組織調製工程に用いることができる。
以下、具体的な実験結果を参照して本開示を説明するが、本開示の範囲は実験結果の範囲には限定されない。
<実施例1>
(細胞培養)
国立研究開発法人国立成育医療研究センターは、月経血から取得した細胞に山中4因子をセンダイウイルスベクターによって一過的に発現させて、ヒトiPS細胞株であるEdom iPS細胞を樹立している(PLoS Genet.2011 May;7(5):e1002085.Published online 2011 May 26.doi: 10.1371/journal.pgen.1002085PMCID:PMC3102737)。
Edom iPS細胞を、ビトロネクチンコートした細胞培養用ディッシュ(Corning社)中でStemFit培地(味の素社)を用いてあらかじめ増殖させた。増殖した細胞を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で1/1000に希釈したEDTA(Invitrogen社)を用いて37℃で10分間処理することにより前記ディッシュから剥離し、単細胞として回収した。回収したEdom iPS細胞を、Nuncron Sphera96ウェルU底プレート(Thermo Fisher Scientific)に5.0×10cells/wellの密度で播種した。培地として下記表に示す組成を有する培地(XF32培地と称する)に、10mMのY27632を添加した培地を用いた。Y27632添加XF32培地中での培養4日目に長軸方向の長さが約100~500μmの胚様体(EB)が形成された。EBを回収し、6wellプレートに1.08×10個EB/wellとなるように播種して接着培養に移行した。接着培養では、Y27632を添加していないXF32培地を用いて2~3日に一度培地交換を実施し、同一の培地にて培養を続けた。90日培養後、Edom iPS細胞由来軟骨組織を得た。
Edom iPS細胞由来軟骨組織は、長軸寸法が約30mmの粒状の軟らかい組織であった。
Figure 2023058788000002
(軟骨細胞染色)
Edom iPS細胞由来軟骨組織において軟骨細胞マーカーであるコラーゲンタイプ2の発現を確認するために、抗ヒトコラーゲンタイプ2抗体を用いて前記組織を染色した。Edom iPS細胞由来軟骨組織を、iPGell(GenoStaff社)および4%パラホルムアルデヒド溶液(富士フイルム和光純薬)を用いて製品添付のプロトコールに従い一晩固定した。固定した前記組織をパラフィン包埋した後に厚さ4~6μmの組織切片を作製した。前記切片に1%BSAおよび0.1%Triton含有PBSにより室温で30分間ブロッキング操作を行った後に、前記切片を(Rabbit+IgG、DAB標識)抗ヒトコラーゲンタイプ2抗体(abcam社、希釈率500倍)と室温にて1時間インキュベートした。PBSで3回洗浄した後、封入剤にてカバーガラスで封入した。顕微鏡にて観察したところ、コラーゲンタイプ2陽性の細胞が確認できた。
Edom iPS細胞由来軟骨組織の、コラーゲンタイプ2を免疫染色した観察像を図1に示す。図1上段は1個の組織の全体像、図1下段はコラーゲンタイプ2陽性の密度が高い部分の拡大像である。
<実施例2>
自動培地交換機能付き細胞培養装置CellKeeper(ローツェライフサイエンス社)を用いて培地交換を自動で行ったことを除いて実施例1と同じ操作を行いEdom iPS細胞由来軟骨組織を得た。
得られたEdom iPS細胞由来軟骨組織中のコラーゲンタイプ2を実施例1と同じ手順で染色し観察したところ、コラーゲンタイプ2陽性の細胞が確認できた。
<実施例3>
Edom iPS細胞の代わりに、国立成育医療研究センターの生殖・細胞医療研究部で樹立し、Akutsu H,et al.Regen Ther.2015;1:18-29に開示したヒトES細胞株であるSEES2細胞を用いたことを除いて実施例2と同じ操作を行い90日間の培養によりSEES2細胞由来軟骨組織を得た。
得られたSEES2細胞由来軟骨組織中のコラーゲンタイプ2を実施例1と同じ手順で染色し観察したところ、コラーゲンタイプ2陽性の細胞が確認できた。
<実施例4>
実施例1と同様の分化誘導を行い、実施例1において90日とされている培養期間を35日に変更した。得られた培養皿を顕微鏡下で確認した(図2)。その後、組織をサンプリングしTRIzolに懸濁し-80℃で保存後、(株)DNAチップ研究所、マイクロアレイ受託解析サービスにてAgilent SureScan Microarray Scanner G4900DAによるマイクロアレイ解析を行った(図3)。
図2において、明瞭な細胞核及び二核細胞が確認できる。これは目視による肝細胞の判定基準に合致している。
マイクロアレイ解析では、一色法で得られたシグナル強度から、Agilent社製GeneSpringGX11ソフトウェアを用い、Normalization algorithmに75 Percentile Shiftを使用することでNormalized dataを作成した。これは異なるサンプルであっても実験に用いたTotal RNA量は一定であると仮定し、実験誤差を補正することでRNA発現量を比較する手法である。結果を図3に示す。図3において「Hepato1」は本手法で分化誘導したサンプルのデータであり、「pHAES」は比較対象となるHepato1の原料となったES細胞のデータである。図3に示すように、肝マーカーであるα-フェトプロテイン(AFP)、アルブミン(ALB)の発現が確認できた。

Claims (6)

  1. 胚様体を、動物由来成分不含血清代替物、ヘレグリンβ1及びインスリン様増殖因子1を含む培地中で、細胞接着性の基材上において培養して組織を得ることを含む、組織の製造方法。
  2. 前記組織が、軟骨細胞を含む組織又は肝細胞を含む組織である、請求項1に記載の方法。
  3. 前記培地が、アスコルビン酸又はその塩を更に含む、請求項1又は2に記載の方法。
  4. 前記培地が、塩基性線維芽細胞増殖因子を更に含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
  5. 多能性幹細胞を、動物由来成分不含血清代替物、ヘレグリンβ1及びインスリン様増殖因子1を含む培地中で培養して前記胚様体を得ることを更に含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
  6. 前記多能性幹細胞を培養して前記胚様体を得るための培地が、前記胚様体を培養して前記組織を得るための培地にROCK阻害剤を添加した培地である、或いは、前記胚様体を培養して前記組織を得るための培地と同一である、請求項5に記載の方法。
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