JP2018177120A - 自動運転システム - Google Patents

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Abstract

【課題】目標走行経路に沿って車両を走行させるように電動パワーステアリング装置を制御する自動運転システムにおいて、システムの不調時に運転者が操舵介入する際の違和感を低減できるようにする。【解決手段】自動運転システムの制御装置は、目標走行経路に対する車両の追従具合に基づいてシステムが好調か不調かを判定する。システムが不調であると判定した場合、制御装置は、電動パワーステアリング装置の制御量に対する運転者の操舵介入の反映度合いを増大させる。具体的には、不調の内容に応じて、システムが好調のときよりも運転者の操舵に対するアシストを強くしたり、自動操舵制御の制御ゲインを小さくしたりする。【選択図】図6

Description

本発明は、目標走行経路に沿って車両を走行させるように電動パワーステアリング装置を制御する自動運転システムに関する。
例えば特開2016−181031号公報に開示されているように、自動運転システムに何らかの異常が生じたときには、車両を停止させるか、或いは、自動運転を解除して運転者に車両の運転を委ねることが提案されている。この公報の他にも、自動運転システムの異常時の対応については様々な提案がなされている。
ところが、自動運転システムでは、異常ではないものの、システムの本来の性能が発揮できていない状態が存在する。このような状態を本明細書ではシステムの不調と呼び、システムの本来の性能が発揮できている状態を本明細書ではシステムの好調と呼ぶ。システムの不調は正常の範疇に入るため、不調であっても異常時のような特別な対応はとられず好調時と同じ内容の制御が行われる。このため、システムの不調時には、目標走行経路に対する車両の追従性が低下するといった自動操舵機能の低下が生じ、運転者に違和感を与える場合がある。
運転者が自動運転システムによる制御に対して違和感を覚えた場合、大抵の運転者は、自ら操舵ハンドルを手にして車両の軌道や挙動を修正しようとする。このような運転者の操舵介入が上手く行われれば、目標走行経路に対する車両の追従性が高まり車両の挙動も安定するようになる。ところが、自動運転システムは不調ながらも自動操舵制御を継続している。このため、自動運転システムから運転者に対して、運転者の操舵介入を妨げるような操舵力が加わり、これに対して運転者がさらなる違和感を覚える場合がある。
自動運転システムの不調時において目標走行経路に対する車両の追従性を担保するためには、自動運転システムの不調が運転者の操舵介入によって補われることが望ましい。このためには、運転者の操舵介入が妨げられないこと、つまり、運転者が操舵介入する際の違和感が低減されることが要求される。
特開2016−181031号公報
本発明は、上述のような課題に鑑みてなされたものであり、目標走行経路に沿って車両を走行させるように電動パワーステアリング装置を制御する自動運転システムにおいて、システムの不調時に運転者が操舵介入する際の違和感を低減できるようにすることを目的とする。
本発明に係る自動運転システムは、電動パワーステアリング装置と制御装置とを備える。制御装置は、運転者の操舵介入を許容し、且つ、目標走行経路に沿って車両を走行させるように電動パワーステアリング装置を制御する自動操舵制御を行うように構成される。さらに、制御装置は、上記目的を達成するため、目標走行経路に対する車両の追従具合に基づいて当該システムが好調か不調かを判定する不調判定と、当該システムが不調である場合には、電動パワーステアリング装置の制御量に対する運転者の操舵介入の反映度合いを増大させる不調対応処理とを実行するように構成される。
電動パワーステアリング装置の制御量に対する運転者の操舵介入の反映度合いが増大すれば、その分、電動パワーステアリング装置の制御量に対する自動操舵制御の反映度合いは減少する。これにより、運転者が操舵介入した場合に自動運転システムから運転者に対して作用する操舵介入を妨げる力は減少する。ゆえに、上記の構成によれば、自動運転システムの不調時に運転者が操舵介入する際の違和感は低減される。
上記の構成において、制御装置による不調判定は、例えば、目標走行経路に対する車両の横偏差の大きさに基づいて行われてもよい。または、横偏差から抽出される定常偏差の大きさに基づいて不調判定が行われてもよい。或いは、横偏差から抽出される過渡偏差の大きさに基づいて不調判定が行われてもよい。
制御装置は、運転者が操舵ハンドルを握っている場合のみ、不調対応処理を行うように構成されてもよい。つまり、運転者が操舵ハンドルを握っていない手放し運転時には、不調対応処理は行わず、電動パワーステアリング装置の制御量に対する自動操舵制御の反映度合いを維持するようにしてもよい。これによれば、手放し運転時における追従性能の低下を防ぐことができる。
制御装置は、不調対応処理では、自動運転システムが好調のときよりも運転者の操舵に対するアシストを強くするように構成されてもよい。これによれば、自動操舵制御に抗して操舵する運転者の負担を軽減することができる。このような不調対応処理は、目標走行経路に対する車両の横偏差に含まれる定常偏差が所定の閾値を超える場合に行われてもよい。定常偏差が大きいときには、自動操舵制御の操舵トルクによって操舵ハンドルは一方向へ修正操舵される。運転者はこの操舵トルクに抗して操舵しなければならないため、運転者の負担が大きい。しかし、運転者の操舵に対するアシストが強くされれば運転者の負担は軽減し、運転者が覚える違和感も低減する。
また、制御装置は、不調対応処理では、自動運転システムが好調のときよりも自動操舵制御の制御ゲインを小さくするように構成されてもよい。これによれば、自動操舵制御の操舵トルクの変動に対して運転者が感じる煩わしさを低減することができる。このような不調対応処理は、目標走行経路に対する車両の横偏差に含まれる過渡偏差が所定の閾値を超える場合に行われてもよい。過渡偏差が大きいときには、自動操舵制御の操舵トルクによって操舵ハンドルは左右へ修正操舵される。運転者はこの操舵トルクに抗して保舵しなければならないため、運転者は煩わしさを感じる。しかし、自動操舵制御の制御ゲインが小さくされれば操舵トルクによる操舵ハンドルの左右への引っ張りは抑えられ、運転者が感じる煩わしさは減少する。
以上述べたように、本発明に係る自動運転システムによれば、システムの不調時に運転者が操舵介入する際の違和感を低減することができる。
本発明の実施の形態に係る自動運転システムの構成を示す図である。 システムの状態の区分について説明する図である。 自動運転システムの不調の判定方法を説明する図である。 不調対応処理の概要を説明する図である。 自動運転システムの自動操舵制御部の構成を示すブロック図である。 不調対応処理がEPS制御量に反映されるまでの処理の流れを示すフローチャートである。 自動運転システムの自動操舵制御部の変形例の構成を示すブロック図である。
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。ただし、以下に示す実施の形態において各要素の個数、数量、量、範囲等の数に言及した場合、特に明示した場合や原理的に明らかにその数に特定される場合を除いて、その言及した数に、この発明が限定されるものではない。また、以下に示す実施の形態において説明する構造は、特に明示した場合や明らかに原理的にそれに特定される場合を除いて、この発明に必ずしも必須のものではない。
1.自動運転システムの構成
本発明の実施の形態に係る自動運転システムは、自動運転車両に搭載される自動運転システムである。図1は、本発明の実施の形態に係る自動運転システムの構成を示す図である。詳しくは、自動運転システムが有する種々の機能のうち、特に自動操舵機能に関係する構成を抽出して示す図である。まず、図1を用いて自動運転システムの構造系について説明する。
自動運転システム100は、電動パワーステアリング装置2を備える。電動パワーステアリング装置2は、運転者による操作のための操舵ハンドル10と、転舵輪である左右の前輪6,6とを連結するステアリング機構4とを備える。ステアリング機構4は、操舵ハンドル10の回転操作が入力されるステアリングコラムシャフト、ステアリングコラムシャフトに入力された回転操作によって生じる操舵力を増大するためのギヤ機構、ギヤ機構から伝達される操舵力を左右の前輪6,6に伝達するリンク機構を備える。ステアリング機構4を構成する各機構の具体的な構成に限定はない。
電動パワーステアリング装置2は、電流の供給を受けてトルクを発生させ、発生させたトルクをステアリング機構4に付与するモータ8を備える。図1では、電動パワーステアリング装置2は、モータ8のトルクをギヤ機構のラックに伝達するラックアシスト型の電動パワーステアリング装置として構成されているが、コラムアシスト型やピニオンアシスト型等、他の形式の電動パワーステアリング装置として構成されてもよい。モータ8はモータドライバ12から電力の供給を受けて駆動される。
次に、自動運転システム100の制御系について説明する。
自動運転システム100は、操舵制御に関連する物理量を計測するための複数のセンサを備える。ステアリング機構4には、運転者の操舵トルクを計測するトルクセンサ14が取り付けられている。トルクセンサ14は、例えば、ステアリングコラムシャフト内のトーションバーのねじれ量を計測し、それをトルクに変換する。トルクセンサ14は、操舵トルクに加えて舵角も計測することができる。
また、自動運転システム100は、トルクセンサ14の他にも、図示は省略するが、車速センサ、加速度センサ、ヨーレートセンサ等、自車両の状態に関する情報、つまり、内部情報を取得するための複数の内部センサを備える。さらに、自動運転システム100は、図示は省略するが、自車両の位置情報を取得するためのGPS装置や、カメラ、レーダー、ライダー等の自車両の外部状況に関する情報を取得するための複数の外部センサを備える。これらのセンサは、操舵制御のための専用のセンサではなく、自動運転を実現するための他の制御にも用いられるセンサである。
自動運転システム100は、制御装置20を備える。上記列挙の各種のセンサは、直接、或いは、車両内に構築された通信ネットワークを介して制御装置20に接続されている。制御装置20は、少なくとも1つのメモリと少なくとも1つのプロセッサとを有するECU(Electronic Control Unit)である。メモリには、操舵制御に用いる各種のプログラムやマップを含む各種のデータが記憶されている。プロセッサがメモリからプログラムを読みだして実行することにより、制御装置20には操舵制御に関係する様々な機能が実現される。なお、制御装置20は、複数のECUから構成されていてもよい。
制御装置20は、モータドライバ12に対して制御量を与えるように構成される。この制御量は、電動パワーステアリング装置2の制御量であり、以下、EPS制御量と称する。EPS制御量は、電流或いはトルクで表される。制御装置20は、モータドライバ12に与えるEPS制御量を調整することにより、モータ8からステアリング機構4に付与される操舵トルクを制御するように構成されている。
制御装置20は、図1中にブロックで描かれているように、車両情報取得部22とEPS制御部24と自動操舵制御部26とを備える。車両情報取得部22、EPS制御部24及び自動操舵制御部26は、制御装置20のメモリに記憶されたプログラム或いはその一部に対応している。プログラムがメモリから読みだされてプロセッサで実行されることによって、車両情報取得部22、EPS制御部24及び自動操舵制御部26の機能が制御装置20にて実現される。
車両情報取得部22は、トルクセンサ14を含む種々のセンサから信号を取り込む。これらの信号より、或いは、これらの信号を処理にすることによって、車両に関する種々の情報が得られる。車両情報取得部22により取得される情報には、例えば、運転者の操舵トルク、操舵速度、舵角、車速、加速度、ヨーレート、カメラ画像、GPSの位置情報等が含まれる。また、目標走行経路に対する車両の横偏差やヨー角偏差等、センサ情報に基づく演算によって得られた情報も、車両情報取得部22により取得される情報に含まれる。車両情報取得部22で取得された情報の少なくとも一部はEPS制御部24と自動操舵制御部26とに送られる。
EPS制御部24は、運転者の操舵ハンドル10の操作を補助するように電動パワーステアリング装置2を動作させるための制御量を算出する。この機能を実現するための手段として、EPS制御部24は、例えば、基本アシスト制御部30と減衰制御部34とを備える。
基本アシスト制御部30は、運転者の操舵操作を補助するアシスト力をモータ8に発生させるための基本アシスト制御量を算出する。基本アシスト制御量の計算には、ブロック内にイメージを示す基本アシスト制御マップが用いられる。基本アシスト制御マップでは、トルクセンサ14を用いて計測された運転者の操舵トルクTから基本アシスト制御量が算出される。ただし、図において例示したマップの特性は、操舵ハンドル10を左に切る場合の特性であり、操舵ハンドル10を右に切る場合にはゼロ点に関して点対称の特性が用いられる
減衰制御部34は、ステアリング機構4の粘性特性を模擬するための減衰力をモータ8に発生させるための減衰制御量を算出する。減衰制御量の計算には、ブロック内にイメージを示す減衰制御マップが用いられる。減衰制御マップでは、トルクセンサ14を用いて計測された運転者の操舵速度ωから減衰制御量が算出される。ただし、図において例示したマップの特性は、操舵ハンドル10を左に切る場合の特性であり、操舵ハンドル10を右に切る場合にはゼロ点に関して点対称の特性が用いられる。
自動操舵制御部26は、目標走行経路に沿って車両が走行するように電動パワーステアリング装置2を動作させるための自動操舵制御量を算出する。自動操舵制御部26の詳細については後述する。自動操舵制御部26で算出された自動操舵制御量は、EPS制御部24で算出された基本アシスト制御量と減衰制御量との和に合算される。そして、その合算で得られた制御量がEPS制御量としてモータドライバ12に与えられる。
2.自動操舵制御部が備える機能の概要
自動操舵制御部26は、目標走行経路に沿って車両を走行させるための自動操舵制御を行う。自動操舵制御を実現するための制御構造については後述するが、自動操舵制御が実行されたときの目標走行経路に対する車両の追従性能は、自動運転システム100の状態に左右される。図2は、ここでいう自動運転システム100の状態の区分について説明する図である。
自動運転システム100の状態は、大きく分けて正常と異常とに区分される。自動運転システム100の異常な状態とは、自動運転システム100による自動運転の開始或いは継続が困難な状態を意味する。自動運転システム100に異常が生じた場合は、生じた異常の内容に応じて、異常に対応するための異常対応処理が自動操舵制御において行われる。ただし、異常対応処理は本出願の要部ではなくその内容に関して特に限定はないため、本明細書では異常対応処理については説明を省略する。
自動運転システム100が異常な状態でないなら、それは正常な状態であることを意味するが、正常な状態はさらに2つの状態に区分される。その1つの状態は、自動運転システム100の本来の性能が発揮できている好調な状態であり、もう1つの状態は、自動運転システム100の本来の性能が発揮できていない不調な状態である。自動運転システム100の不調の原因には、カメラやヨーレートセンサ等の自動操舵制御に関係するセンサの検出能力の低下、タイヤの空気圧等の機械的な条件の変化、天候や路面状況等の外部環境の悪化等、種々の可能性が挙げられる。従来の自動運転システムでは、好調と不調とを区別することなく自動操舵制御が行われていたが、本実施の形態の自動運転システム100では、自動運転システム100が不調な場合には、好調時とは異なる自動運転システム100の不調に対応した処理が行われる。
ここで、自動運転システム100が好調か不調かを判定する不調判定の方法について図3を用いて説明する。図3には、目標走行経路に対する車両の横偏差の時間による変化が実線で描かれている。自動運転システム100が好調である場合には、横偏差の振動の振幅は小さい。しかし、自動運転システム100が不調になると、横偏差の振動の振幅は増大したり、振動の中心が左右どちらかの横方向にずれたりする。不調判定の1つの方法は、横偏差の大きさが所定の閾値を超えた場合には自動運転システム100は不調であると判定することである。
図3において一点鎖線で示す曲線は、横偏差の信号をローパスフィルタで処理して得られる信号を表している。この信号は、横偏差に含まれる定常偏差を表している。破線で示す曲線は、横偏差の信号から定常偏差の信号を引き算することで得られる信号である。この信号は、横偏差に含まれる過渡偏差を表している。大きな定常偏差が現れている状況と、大きな過渡偏差が現れている状況とでは不調の内容としては異なるので、それに対する対応、すなわち、不調対応処理の内容も異ならせることが好ましい。本実施の形態の自動運転システム100では、定常偏差の大きさが所定の閾値を超えたかどうかという不調判定とともに、過渡偏差の大きさが所定の閾値を超えたかどうかという不調判定も併せて行われる。なお、定常偏差に対する閾値と過渡偏差に対する閾値とは、同じ値に設定されていてもよいし、異なる値に設定されていてもよい。
なお、不調判定の方法は上述の方法には限定されない。例えば、横偏差を算出するための情報を取得するセンサの実値と、目標走行経路から推定される推定値との偏差に基づいて不調判定を行なってもよい。また、カメラ等の外部センサによる認識処理の遅れ時間が大きくなった場合には自動運転システム100は不調であると判定してもよい。また、目標走行経路に基づき決定される目標舵角とトルクセンサ14により計測される実舵角との偏差に基づいて不調判定を行なってもよい。何れにしても、目標走行経路に対する車両の追従具合に関係する情報であれば、それに基づいて不調判定を行うことができる。
次に、自動操舵制御部26による不調対応処理の概要について、上述の定常偏差に基づく不調判定と過渡偏差に基づく不調判定とが行われる場合を例にとって説明する。図4は、例示のケースにおける不調対応処理の概要を説明する図である。図4において、定常偏差の“大”とは、定常偏差が閾値よりも大きいことを意味し、定常偏差の“小”とは、定常偏差が閾値以下であることを意味する。同様に、過渡偏差の“大”とは、過渡偏差が閾値よりも大きいことを意味し、過渡偏差の“小”とは、過渡偏差が閾値以下であることを意味する。
定常偏差が大きい場合は、自動操舵制御の操舵トルクによって操舵ハンドル10は一方向へ修正操舵される。自動運転システム100の不調に対して運転者が操舵介入する場合、運転者はこの操舵トルクに抗して操舵しなければならないため、運転者の負担が大きい。そこで、定常偏差が閾値よりも大きい場合、自動操舵制御部26は、自動運転システム100が好調のときよりも運転者の操舵に対するアシストを大きくする。そうすることで、操舵介入した運転者の負担は軽減し、運転者が覚える違和感も低減する。
過渡偏差が大きい場合は、自動操舵制御の操舵トルクによって操舵ハンドル10は左右へ交互に修正操舵される。自動運転システム100の不調に対して運転者が操舵介入する場合、運転者はこの操舵トルクに抗して保舵しなければならないため、運転者は煩わしさを感じる。そこで、過渡偏差が閾値よりも大きい場合、自動操舵制御部26は、自動運転システム100が好調のときよりも自動操舵制御の制御ゲインを小さくする。そうすることで、操舵トルクによる操舵ハンドル10の左右への引っ張りは抑えられ、運転者が感じる煩わしさは減少する。
定常偏差が大きく過渡偏差も大きい場合は、定常偏差が大きい場合の不調対応処理と過渡偏差が大きい場合の不調対応処理の両方が自動操舵制御部26により実施される。一方、過渡偏差が小さく定常偏差も小さい場合、自動運転システム100は正常である。よって、この場合には不調対応処理は行われず、自動操舵制御部26により通常通りの自動操舵制御が行われる。
3.自動操舵制御部の構成の詳細
次に、上述の機能を実現するための自動操舵制御部26の具体的な構成について図5を用いて説明する。図5には、自動操舵制御部26の機能がブロックで描かれている。図5中にブロックで描かれているように、自動操舵制御部26は、横偏差ゲイン乗算部40、ヨー角偏差ゲイン乗算部42、FF制御部44、FB制御部46、システムゲイン乗算部48、アシスト補正量算出部50、ドライバゲイン乗算部52、及び不調判定・不調対応処理部60を備える。自動操舵制御部26が備えるこれらの部40,42,44,46,48,50,52,60は、制御装置20のメモリに記憶されたプログラム或いはその一部に対応している。プログラムがメモリから読みだされてプロセッサで実行されることによって、これらの部40,42,44,46,48,50,52,60の機能が制御装置20にて実現される。以下、各部40,42,44,46,48,50,52,60の機能について順に説明する。
横偏差ゲイン乗算部40は、車両情報取得部22から目標走行経路に対する車両の横偏差を受け取ると、それに所定のゲインを乗じることによって舵角に変換する。目標走行経路に対する車両の横偏差とは、詳しくは、車両から目標走行経路として設定された走行車線の車線中心線までの最短距離を意味する。この最短距離はカメラ情報やGPSの位置情報等を用いて計算される。
ヨー角偏差ゲイン乗算部42は、車両情報取得部22から目標走行経路に対する車両のヨー角偏差を受け取ると、それに所定のゲインを乗じることによって舵角に変換する。目標走行経路に対する車両のヨー角偏差とは、詳しくは、車両から上記車線中心線へ引いた距離が最小の点における接線と車両の進行方向との偏角である。この偏角はカメラ情報、GPSの位置情報、ヨーレート等を用いて計算される。横偏差から変換された舵角とヨー角偏差から変換された舵角との和は、目標舵角として設定される。
FF制御部44は、目標舵角を受け取ると、それに所定のゲインを乗じることによって制御量に変換する。FF制御部44から出力される制御量は、自動操舵制御部26からモータドライバ12に与えられる自動操舵制御量のフィードフォワード項である。以下、これをFF制御量と称する。また、FF制御部44で用いられるゲインをFFゲインと称する。
FB制御部46は、目標舵角と実舵角との差分を受け取ると、その差分に対するPID制御を行う。PID制御によって得られる制御量は、自動操舵制御部26からモータドライバ12に与えられる自動操舵制御量のフィードバック項である。以下、これをFB制御量と称する。また、PID制御におけるP項、I項、D項のそれぞれのゲインをまとめてFBゲインと称する。
FF制御部44から出力されたFF制御量と、FB制御部46から出力されたFB制御量とは合算される。そして、その合算で得られた制御量が基本自動操舵制御量となる。システムゲイン乗算部48は、基本自動操舵制御量を受け取ると、それにシステムゲインGsを乗じる。システムゲインGsは可変ゲインであり、そのデフォルト値は例えば1である。また、FFゲインとFBゲインとシステムゲインGsとをまとめて自動操舵制御の制御ゲインと称する。
アシスト補正量算出部50は、自動操舵制御に抗して運転者の操舵操作を補助するアシスト力をモータ8に発生させるためのアシスト補正量を算出する。アシスト補正量の計算には、ブロック内にイメージを示すアシスト補正量マップが用いられる。アシスト補正量マップでは、トルクセンサ14を用いて計測された運転者の操舵トルクTからアシスト補正量が算出される。ただし、図において例示したマップの特性は、操舵ハンドル10を左に切る場合の特性であり、操舵ハンドル10を右に切る場合にはゼロ点に関して点対称の特性が用いられる
ドライバゲイン乗算部52は、アシスト補正量算出部50からアシスト補正量を受け取ると、それにドライバゲインGdを乗じる。ドライバゲインGdは可変ゲインであり、そのデフォルト値は例えばゼロである。ドライバゲイン乗算部52でドライバゲインGdを乗じられたアシスト補正量は、システムゲイン乗算部48でシステムゲインGsを乗じられた基本自動操舵制御量と合算される。これにより、基本自動操舵制御量はアシスト補正量によって補正されることになり、補正後の基本自動操舵制御量が自動操舵制御部26から最終的に出力される自動操舵制御量となる。
不調判定・不調対応処理部60は、車両情報取得部22から横偏差を受け取ると、横偏差から定常偏差と過渡偏差とを抽出し、定常偏差と過渡偏差をそれぞれ閾値比較することにより、不調の有無と不調の種別を判定する。不調の種別とは、図4に示す表で分類される種別であって、定常偏差が大きいこと、過渡偏差が大きいこと、その両方が大きいことである。
不調判定・不調対応処理部60は、不調の種別に応じた不調対応処理を実施する。定常偏差が大きい場合には、ドライバゲインGdを大きくすることが行われる。ドライバゲインGdを大きくすることで、自動操舵制御量に加えられるアシスト補正量が大きくなり、自動運転システム100が好調のときよりも運転者の操舵に対するアシストは強くなる。過渡偏差が大きい場合には、システムゲインGsを小さくすることが行われる。システムゲインGsを小さくすることで、自動操舵制御の制御ゲインは小さくなり、自動操舵制御の操舵トルクによる操舵ハンドル10の左右への周期的な引っ張りは抑えられる。定常偏差と過渡偏差の両方が大きい場合には、ドライバゲインGdを大きくし、且つ、システムゲインGsを小さくすることが行われる。以下、不調判定・不調対応処理部60による不調対応処理の詳細についてフローチャートを用いて説明する。
4.不調対応処理の詳細
図6は、不調判定・不調対応処理部60による不調対応処理がEPS制御量に反映されるまでの処理の流れを示すフローチャートである。制御装置20は、このフローチャートに基づいて作成されたプログラムをメモリから読み出して所定の制御周期で実行する。
まず、ステップS1では、不調判定のための車両情報が取得される。ステップS1で取得される車両情報には、少なくとも目標走行経路に対する車両の横偏差が含まれている。
ステップS2では、ステップS1で取得した車両情報に基づいて不調判定が行われる。詳しくは、横偏差から定常偏差と過渡偏差とが抽出される。そして、定常偏差が閾値よりも大きいかどうかと、過渡偏差が閾値よりも大きいかどうかが判定される。
ステップS3では、運転者が操舵ハンドル10を保舵しているかどうか判定される。この判定には、例えばトルクセンサ14の信号が用いられる。操舵ハンドル10が保舵されている場合には、トルクセンサ14の信号から運転者の操舵トルクが検出される。ステップS3の判定結果が否定の場合、つまり、運転者が操舵ハンドル10から手を放している場合、ステップS2の不調判定の結果に関わらず不調対応処理は行われない。この場合、ステップS4においてドライバゲインGdはデフォルト値に維持され、ステップS5においてシステムゲインGsもデフォルト値に維持される。運転者が操舵ハンドルを握っていない手放し運転時には、不調対応処理は行わずにEPS制御量に対する自動操舵制御の反映度合いを維持することで、手放し運転時における追従性能の低下を防ぐことができる。
ステップS3の判定結果が肯定の場合、つまり、運転者が操舵ハンドル10を保舵している場合には、自動運転システム100の不調に対する運転者の操舵介入が有ると判断することができる。この場合、ステップS6では、ステップS2の不調判定の結果が読み込まれ、定常偏差が閾値よりも大きいかどうかによって次の処理が選択される。定常偏差が閾値よりも大きい場合、ステップS7においてドライバゲインGdはデフォルト値よりも大きい値に変更される。定常偏差が閾値以下の場合、ステップS8においてドライバゲインGdはデフォルト値に維持される。
ステップS9では、ステップS2の不調判定の結果が読み込まれ、過渡偏差が閾値よりも大きいかどうかによって次の処理が選択される。過渡偏差が閾値よりも大きい場合、ステップS10においてシステムゲインGsはデフォルト値よりも小さい値に変更される。過渡偏差が閾値以下の場合、ステップS11においてシステムゲインGsはデフォルト値に維持される。
以上の処理によってドライバゲインGdの値とシステムゲインGsの値がそれぞれ定まると、次に、ステップS12の処理が行われる。ステップS12では、ドライバゲインGdとシステムゲインGsとを用いて自動操舵制御量が算出される。ドライバゲインGdがデフォルト値よりも大きくされた場合、自動操舵制御量に加えられるアシスト補正量が大きくなる。システムゲインGsがデフォルト値よりも小さくされた場合、自動操舵制御量は小さくなる。
そして、ステップS13では、ステップS12で算出された自動操舵制御量がEPS制御部24で算出された基本アシスト制御量と減衰制御量との和に合算される。そして、その合算で得られた制御量がEPS制御量として算出される。
5.その他実施の形態
図5に示す自動操舵制御部26の構成は、自動操舵制御部26に求められる機能を実現するための一例である。例えば、図7に示すように自動操舵制御部26を構成することもできる。図7には、自動操舵制御部26の変形例の機能がブロックで描かれている。この変形例では、図5に示す構成におけるアシスト補正量算出部50とドライバゲイン乗算部52とに代えて、ドライバゲイン乗算部70とドライバ補正ゲイン設定部72とが設けられる。
ドライバゲイン乗算部70は、車両情報取得部22から操舵トルクを受け取ると、それにドライバゲインGdを乗じる。ドライバゲインGdは可変ゲインであり、そのデフォルト値は例えばゼロである。
ドライバ補正ゲイン設定部72は、ドライバゲイン乗算部70でドライバゲインGdを乗じられた操舵トルクTを受け取り、その絶対値に基づいてドライバ補正ゲインを設定する。ドライバ補正ゲインの設定には、ブロック内にイメージを示すドライバ補正ゲインマップが用いられる。ドライバ補正ゲインマップでは、操舵トルクTの絶対値が所定値になるまでドライバ補正ゲインの値は1に維持される。そして、操舵トルクTの絶対値が所定値を超えたらドライバ補正ゲインの値は1よりも小さい値にされる。
ドライバ補正ゲイン設定部72で設定されたドライバ補正ゲインは、システムゲインGsが乗じられた基本自動操舵制御量にさらに乗じられる。この変形例では、ドライバ補正ゲインによって補正された基本自動操舵制御量が、自動操舵制御部26から最終的に出力される自動操舵制御量となる。
定常偏差が大きい場合は、不調判定・不調対応処理部60によりドライバゲインGdを大きくすることが行われる。ドライバゲインGdを大きくすることで、運転者の操舵トルクが増大したときドライバ補正ゲインは早く低下しやすくなる。ドライバ補正ゲインが低下すれば、ドライバ補正ゲインによる補正後の自動操舵制御量は小さくなる。その結果、自動操舵制御量よりも基本アシスト制御量のほうが相対的に大きくなり、自動運転システム100が好調のときよりも運転者の操舵に対するアシストは強くなる。
過渡偏差が大きい場合は、不調判定・不調対応処理部60によりシステムゲインGsを小さくすることが行われる。システムゲインGsを小さくすることで、自動操舵制御の制御ゲインは小さくなり、自動操舵制御の操舵トルクによる操舵ハンドル10の左右への周期的な引っ張りは抑えられる。定常偏差と過渡偏差の両方が大きい場合には、ドライバゲインGdを大きくし、且つ、システムゲインGsを小さくすることが行われる。
以上の通り、図7に示す変形例の構成によっても、自動運転システムが不調の場合の不調対応処理に関して、図5に示す構成と同等の効果が得られる。
なお、上述の実施の形態及びその変形例において、過渡偏差が大きい場合は、システムゲインGsとともに、或いはシステムゲインGsに代えて、FFゲインとFBゲインの各値を小さくしてもよい。FFゲインとFBゲインの各値を小さくすることで、基本自動操舵制御量を減少させることができる。
2 電動パワーステアリング装置
4 ステアリング機構
6 前輪
8 モータ
10 操舵ハンドル
12 モータドライバ
14 トルクセンサ
20 制御装置
22 車両情報取得部
24 EPS制御部
26 自動操舵制御部
44 FF制御部
46 FB制御部
48 システムゲイン乗算部
50 アシスト補正量算出部
52 ドライバゲイン乗算部
60 不調判定・不調対応処理部
70 ドライバゲイン乗算部
72 ドライバ補正ゲイン設定部
100 自動運転システム

Claims (7)

  1. 電動パワーステアリング装置と、運転者の操舵介入を許容し且つ目標走行経路に沿って車両を走行させるように前記電動パワーステアリング装置を制御する自動操舵制御を行う制御装置と、を備える自動運転システムにおいて、
    前記制御装置は、
    前記目標走行経路に対する前記車両の追従具合に基づいて当該システムが好調か不調かを判定する不調判定と、
    当該システムが不調である場合には、前記電動パワーステアリング装置の制御量に対する前記運転者の操舵介入の反映度合いを増大させる不調対応処理と、
    を実行するように構成されていることを特徴とする自動運転システム。
  2. 前記制御装置は、前記運転者が操舵ハンドルを握っている場合のみ、前記不調対応処理を行うように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の自動運転システム。
  3. 前記制御装置は、前記目標走行経路に対する前記車両の横偏差の大きさ、前記横偏差から抽出される定常偏差の大きさ、及び、前記横偏差から抽出される過渡偏差の大きさのうち、少なくとも1つに基づいて前記不調判定を行うように構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の自動運転システム。
  4. 前記制御装置は、前記不調対応処理では、当該システムが好調のときよりも前記運転者の操舵に対するアシストを強くするように構成されていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の自動運転システム。
  5. 前記制御装置は、前記目標走行経路に対する前記車両の横偏差に含まれる定常偏差が所定の閾値を超える場合、当該システムが好調のときよりも前記運転者の操舵に対するアシストを強くするように構成されていることを特徴とする請求項4に記載の自動運転システム。
  6. 前記制御装置は、前記不調対応処理では、当該システムが好調のときよりも前記自動操舵制御の制御ゲインを小さくするように構成されていることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の自動運転システム。
  7. 前記制御装置は、前記目標走行経路に対する前記車両の横偏差に含まれる過渡偏差が所定の閾値を超える場合、当該システムが好調のときよりも前記自動操舵制御の制御ゲインを小さくするように構成されていることを特徴とする請求項6に記載の自動運転システム。
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