JP2011092045A - 発酵法による安価な乳酸の製法 - Google Patents

発酵法による安価な乳酸の製法 Download PDF

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Abstract

【課題】高光学純度のD−乳酸を安価な培地を用いて効率よく生産する方法を提供する。
【解決手段】乳酸生産能を有する微生物を、水酸化ナトリウム、又はアンモニアを中和剤として用いて培養する工程と、生産された乳酸を回収する工程とを含む乳酸の製造方法であり、培養工程において、少なくとも、炭素源と、窒素源として魚由来窒素源と、添加剤として炭酸塩及び/又は炭酸水素塩を0.2〜2重量%含む培地を用いて培養することを特徴とする乳酸の製造方法。
【選択図】なし

Description

本発明は代替プラスチックとして注目されている乳酸ポリマーの原料として有用な高純度の乳酸を微生物利用(発酵法)により工業的に製造する方法に関する。
ラセミ体乳酸は化学的な方法で生産されているが、光学活性の乳酸は発酵法により生産される場合がほとんどである。
乳酸を産生する微生物としては、Lactobacillus delbrueckiiなどの乳酸菌が古くから知られている(特許文献1、非特許文献1)。乳酸菌は、比較的高温での発酵が可能であり、グルコースから理論値に近い乳酸を生産することが知られている。しかし、乳酸菌を用いた工業的な乳酸の生産条件については、あまり研究されていない。
乳酸は、プラスチックの代替物となりうる乳酸ポリマーの原料として生産するのであるから、工業的に安価に生産することが求められる。従来、乳酸生産菌を用いて高光学純度の乳酸を生産するためには、乳酸原料としてグルコースのような糖質、酵母エキスやペプトンのような窒素源、Tween80などの脂肪酸、及びビタミン等を含む培養液を用いる必要があった(特許文献1)。また、低コストで乳酸を生産するためには、短い発酵時間で高濃度の乳酸を生成させることが必要となる。ペプトンや酵母エキス、ビタミン等の生育促進因子となる添加物を添加することで、発酵時間の短縮が可能となることが多いが、これら添加物は一般に高価であるため、得られる乳酸は高価なものになってしまう(特許文献2)。そのため、これらの高価な添加物を使用せずに発酵性能を向上させる方法の開発が望まれている。
また、乳酸を産生する微生物の生育には比較的高い栄養価の培地を必要とするため、発酵後の培養液には培地成分が高濃度に含まれる。従って、発酵後の培養液から乳酸を精製するために多段階の化学的手法を要する。特に、乳酸の主原料である糖質が、完全に乳酸に変換されずに培養液に残存すると、乳酸をエステル化に供するときに、乳酸のカルボキシル基と糖質のヒドロキシル基との間で副反応が起こり、目的とする乳酸エステルの収率が低下する。従って、発酵後の培養液から残存した糖質を除去する必要があり、煩雑でコスト高な方法になるため、培地中の残糖濃度は可能な限り低くする必要がある。
特開昭62−44188号公報 特開平11−56345号公報
K. Hofvendahl,Enzyme and Microbial Technology, 26, 87-107 (2000)
本発明は、高光学純度の乳酸を、安価な培地を用いて効率よく生産する方法を提供することを課題とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために研究を重ね、以下の知見を得た。即ち、乳酸生産能を有する微生物を用いて、乳酸発酵を行うにあたり、少なくとも、炭素源と、窒素源として魚由来窒素源と、添加剤として炭酸塩及び/又は炭酸水素塩を0.2〜2重量%含む培地を用いて培養することで、魚由来の安価な窒素源を使用しながら、高光学純度の乳酸を効率的に生産することができる。
本発明は、上記知見に基づき完成されたものであり、以下の乳酸の製造方法を提供することを課題とする。
項1. 乳酸生産能を有する微生物を、水酸化ナトリウム、又はアンモニアを中和剤として用いて培養する工程と、生産された乳酸を回収する工程とを含む乳酸の製造方法であり、培養工程において、少なくとも、炭素源と、窒素源として魚由来窒素源と、添加剤として炭酸塩及び/又は炭酸水素塩を0.2〜2重量%含む培地を用いて培養することを特徴とする乳酸の製造方法。
項2. 炭酸塩が、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、及び炭酸アンモニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種である項1に記載の方法。
項3. 炭酸水素塩が、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、及び炭酸水素アンモニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種である項1または2に記載の方法。
項4. 培養開始時の培地に、添加剤として炭酸カルシウム又は炭酸マグネシウムを含む項1または2に記載の方法。
項5. 培養中の培地に、添加剤として炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、及び炭酸アンモニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を添加することを特徴とする項1、2、または4の何れかに記載の方法。
項6. 魚由来窒素源が、フィッシュミール、又は魚由来ペプトンである項1〜5の何れかに記載の方法。
項7. 培地中の炭素源が、グルコース、フルクトース、スクロース、サトウキビ廃糖蜜、及び粗糖からなる群より選ばれる少なくとも1種である項1〜6の何れかに記載の方法。
項8. 乳酸生産能を有する微生物がLactobacillus属に属する乳酸菌である項1〜7の何れかに記載の方法。
項9. 乳酸生産能を有する微生物がLactobacillus delbrueckiiである項1〜8の何れかに記載の方法。
項10. 乳酸が、D-乳酸である項1〜9の何れかに記載の方法。
本発明方法によれば、炭素源と、窒素源として魚由来窒素源と、添加剤として炭酸塩及び/又は炭酸水素塩を含む培地を用いながら、高光学純度の乳酸を高濃度で、かつ短い発酵時間で製造することができる。また、上記方法を用いることにより、糖質の残存率が極めて低くなるため、培養後の培養液から糖質を除去する手間を省くことができる。さらに、上記方法を用いて培養することにより、乳酸濃度が高い培養液が得られる。即ち、培地中の原料糖質濃度を高くすることができ、その結果、培養後に、高乳酸濃度の培養液を得ることができる。
本発明方法は、特にD−乳酸の製造に適している。
添加剤として炭酸カルシウムを培養開始時に1w/v%添加しておき、水酸化ナトリウムを中和剤として用いて乳酸発酵を行なった場合のD−乳酸濃度、グルコース濃度の推移を示す図である。 添加剤として炭酸カルシウムを培養開始時に0.2w/v%添加しておき、水酸化ナトリウムを中和剤として用いて乳酸発酵を行なった場合のD−乳酸濃度、グルコース濃度の推移を示す図である。 水酸化ナトリウムを中和剤として用いて、添加剤として炭酸ナトリウムを培養中に添加して乳酸発酵を行なった場合のD−乳酸濃度、グルコース濃度の推移を示す図である。 窒素源として魚由来ペプトンと酵母エキスを含む培地を用い、水酸化ナトリウムを中和剤として用いて、添加剤として炭酸ナトリウム、又は炭酸カルシウムを用いて乳酸発酵を行なった場合のD−乳酸濃度、グルコース濃度の推移を示す図である。
以下、本発明を詳細に説明する。
培地中の窒素源
本発明による乳酸生産能を有する微生物の培養において、培地中に窒素源として、少なくとも魚由来の窒素源を含んでいる必要がある。魚由来窒素源を含んでいない場合、十分に本発明の効果が得られない。魚由来窒素源としては、魚肉;魚の骨、皮、目玉、内臓のような「あら」(魚の魚肉以外の部分);及び魚の全体;並びにそれらの乾燥物などが挙げられる。中でも、フィッシュミール(魚粉)が好ましい。フィッシュミールは、魚を丸ごと乾燥し、粉砕したものである。魚の種類は特に限定されないが、大量に入手できるイワシ、カツオ、サメ、タラ、ニシン、メンハーデンなどを使用すればよい。
魚由来窒素源は、例えば粉砕してそのまま培地に添加してもよいが、乳酸生産菌の乳酸発酵性能が高くなる点で、タンパク質分解酵素で処理したものを用いることが好ましい。タンパク質分解酵素処理物は、魚肉、あら、魚の全体、及びそれらの乾燥物などを、プロテアーゼで例えば約30〜80℃で数時間処理することにより得ることができる。
魚由来窒素源としては、中でも、乳酸生産菌の発酵性能が高くなり、また低価格である点で、フィッシュミールのタンパク質分解酵素処理物が好ましい。タンパク質分解酵素は、公知の酵素を制限なく使用できる。また、アルカリ性プロテアーゼ、酸性プロテアーゼ、中性プロテアーゼの何れでもよく、由来生物種も制限されない。D−乳酸を製造する場合は、アルカリ性プロテアーゼが好ましい。アルカリ性プロテアーゼで、魚肉、あら、魚の全体、及びそれらの乾燥物などを処理することにより、混入しているL−乳酸生産菌などの雑菌を殺菌することができ、得られるD−乳酸の光学純度の低下を防止できる。
また、魚由来の窒素源として、魚由来ペプトンを用いることもできる。魚由来ペプトンとしては、バクテリオンKN(株式会社マルハニチロ食品)やポリペプトンNF(日本製薬)等を例示できる。
培地中の魚由来窒素源の濃度は、フィッシュミールを用いる場合で約2〜5w/v%が好ましく、約3〜4w/v%がより好ましい。また、魚由来ペプトンを用いる場合には、約0.2〜2w/v%が好ましく、約0.5%〜1w/v%がより好ましい。上記範囲であれば、高光学純度の乳酸を製造しながら、工業上実用できる程度に培地コストを抑えることができる。
魚由来窒素源を含んでいれば、魚由来以外の窒素源を培地中に添加してもよい。魚由来以外の窒素源としては、微生物の培養に用いられる公知の窒素源を制限無く使用できる。魚由来以外の窒素源としては、例えば、酵母エキス、ペプトン、ポリペプトン、ビール酵母、肉エキス、大豆加水分解物、エンドウ豆加水分解物、麦加水分解物、カゼイン分解物、カザミノ酸、油粕のようなペプチド又はアミノ酸類;アンモニア、硝酸塩のような無機窒素化合物;尿素などが挙げられる。中でも、酵母エキス、大豆加水分解物、エンドウ豆加水分解物が好ましい。魚由来以外の窒素源は1種を単独で、又は2種以上を組合せて使用できる。
培地中に添加する魚由来以外の窒素源の濃度は、約0.2〜1.5w/v%が好ましく、約0.5〜1w/v%がより好ましい。上記範囲であれば、高光学純度の乳酸を製造しながら、工業上実用できる程度に培地コストを抑えることができる。
また、種菌は、どのような培地で培養したものであってもよく、本培地と同じ培地を用いてもよい。
添加剤
本発明では、培地に添加剤として、炭酸塩及び/又は炭酸水素塩を添加することで、乳酸の生産性を向上させ、培養終了時の培地中のグルコースの残存量を低く抑えることができる。添加剤として炭酸塩を用いる場合、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸アンモニウムなどを例示できる。また、炭酸水素塩を用いる場合、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素アンモニウムなどを例示できる。炭酸塩及び/又は炭酸水素塩は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。培地中の炭酸塩及び/又は炭酸水素塩の添加量は、0.2〜2重量%の範囲であれば、十分に効果が得られる。2種以上を組み合わせて用いる場合、添加量の合計が上記範囲であればよく、各々の添加剤の添加量は適宜選択すればよい。
添加剤の添加方法に特に制限はないが、培養に用いる培地中に予め添加しておいてもよく、培養中に菌体の生育に合わせて中和剤と同時に添加してもよい。また、添加剤は、固体の状態のまま培地中に添加してもよく、水に溶解して水溶液の状態で培地に添加してもよい。水溶液として添加する時の濃度は適宜選択すればよい。中でも、培地中に予め添加する場合は、添加剤として、炭酸カルシウム、または炭酸マグネシウムが好ましく、培養中に中和剤と同時に添加する場合は、添加剤として、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、または炭酸アンモニウムが好ましい。なお、水溶液として添加する際の添加速度は、微生物の生育や水溶液の濃度に応じて、適宜選択すればよい。
なお、添加剤の添加量は少量であり、中和剤として用いるには、添加量が不十分であるため、別途中和剤を用いてpH制御を行う必要がある。
本発明方法により、魚由来窒素源を含む安価な培地を用いながら、高光学純度の乳酸を、発酵時間を短縮して製造することができ、さらに、乳酸濃度が高い培養液が得られる。また、上記培地を用いることにより、最終的に培地中の残糖濃度を極めて低くすることができる。
培地中の炭素源
炭素源としては、使用する乳酸生産菌が乳酸発酵できる糖質を用いればよい。糖質としては、グルコース、フルクトースのような単糖類;シュークロース、マルトース、トレハロースのような二糖類;デンプン、セルロース、ヘミセルロース、キシランのような多糖類などが挙げられる。糖質としてデンプン、セルロース、ヘミセルロース、キシランなどの多糖類を用いる場合は、アミラーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、エンドキシラナーゼ、キシロシダーゼのような、当該多糖類を分解する酵素で予め処理したものを用いたり、又は多糖類とともに多糖類分解酵素を培地に添加したりすることにより多糖類の分解と並行して乳酸発酵を行うことが好ましく、これにより、効果的に乳酸を産生させることができる。また、これらの糖類を含有する甘藷糖蜜、サトウキビ廃糖蜜のような廃糖蜜、粗糖なども使用できる。
中でも、乳酸生産菌の発酵性能が高くなる点で、単糖類、二糖類がより好ましく、グルコース、スクロースがさらにより好ましい。また、乳酸の生産性が高くなる点で、サトウキビ廃糖蜜、粗糖も好ましい。
糖質に加えて、酢酸、フマル酸のような有機酸;エタノールのような一価アルコール類;グリセリンのような多価アルコールなども炭素源として用いることができる。
糖質を含む炭素源は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
培養開始時の培地中の糖質濃度は、約5〜15w/v%が好ましく、約8〜14w/v%がより好ましく、約9〜13w/v%がさらにより好ましい。上記範囲であれば、効率よく乳酸を生産できるとともに、残存糖質量が低く抑えられる。
炭素源、及び窒素源は、それぞれ、蒸気殺菌、ろ過殺菌、瞬間殺菌など一般的な殺菌方法で殺菌しておき、培地に添加すればよい。
培地のその他の成分
培地は、乳酸発酵用の培地に通常添加される、リン酸塩、硫酸マグネシウムのようなマグネシウム塩、カルシウム塩、鉄塩、マンガン塩のような無機塩類;ビタミン類;ポリソルベートのような脂肪酸などを含んでいてよい。
乳酸生産菌
乳酸生産菌、特にD-乳酸を生産できる菌としては、Lactobacillus delbrueckii、Lactobacillus plantarum、Leuconostoc mesenteroides、Spololactobacillus属などが知られており、その中で、ホモ発酵を行う乳酸菌株としては、Lactobacillus delbrueckii subsp. lactis IAM 12476、Lactobacillus delbrueckii subsp. Bulgaricus IAM 12472、Lactobacillus delbrueckii subsp. delbrueckii IAM 12474、Lactobacillus delbrueckii IFO 3534、Lactobacillus delbrueckii subsp. delbrueckii NRIC0760、Lactobacillus delbrueckii subsp. delbrueckii NRIC0761等の菌株が挙げられる。中でも、発酵性能が良く、乳酸、特にD−乳酸の工業生産に適している点で、Lactobacillus delbrueckii subsp. delbrueckii NRIC0761が好ましい。その他、ヘテロ発酵を行う乳酸菌株として、Leuconostoc pseudomesenteroides JCM 9696等も用いることができる。
IFO番号が付された微生物は、独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジー本部生物遺伝資源部門(NBRC)から入手できる。IAM番号およびJCM番号の付された微生物は、独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンター微生物材料開発室(RIKEN BRC−JCM)から入手できる。NRIC番号が付された微生物は、東京農業大学菌株保存室から入手できる。
培養条件
乳酸発酵の温度は、使用する乳酸生産菌が生育する温度であればよく、例えば約0〜60℃が好ましく、約30〜50℃がより好ましく、約35〜45℃がさらにより好ましい。
乳酸発酵中は、乳酸の生成に伴って培地pHが低下する。培地pHが下がりすぎると菌の生育を阻害するため、水酸化ナトリウム、又はアンモニアを用いて、pHを調整する。これらを中和剤として用いて乳酸発酵を行なうと、乳酸ナトリウム、又は乳酸アンモニウムが生成するが、乳酸ナトリウムや乳酸アンモニウムは常温で液状であるため、培養後に菌体などの不溶性成分と分離し易いためである。また、水酸化ナトリウムやアンモニアなどの液状の中和剤を用いれば、中和剤の必要添加量と乳酸の生成量が相関することから、中和剤の添加量から発酵の進行度合いを簡単に知ることができる。さらに、水酸化ナトリウムは安価であり、工業生産に有利である。なお、培養液のpHは、使用菌株によって異なるが、約4〜7に調整することが好ましく、約5〜6.5に調整することがより好ましい。なお、中和剤として、水酸化ナトリウムよりも塩基度の弱い炭酸塩や炭酸水素塩等を使用した場合、炭酸塩や炭酸水素塩の水への溶解度の低さから、pH調整には、大量に炭酸塩や炭酸水素塩の水溶液が必要となる。そのため、乳酸水溶液が希薄なものとなり、精製工程が煩雑となってしまう。
培養は、回分培養、半回分培養、連続培養の何れであってもよい。中でも、残存糖質量を低減できる点で回分培養が好ましい。また、糖質のみ培養中に追加する半回分培養、連続培養であってもよい。
培養時間は、使用菌株、培地成分、特に糖質の量などにより異なるが、回分培養の場合、約1〜8日間が好ましく、約1〜6日間がより好ましく、約1〜3日間が特に好ましい。連続培養、半回分培養を行う場合はこれに限定されない。
乳酸の回収
培養後の培養液から菌体を除去することにより、乳酸を、乳酸又は乳酸アルカリ塩の形態で回収することができる。乳酸の培地からの回収方法は特に制限されず、公知の方法が使用できる。例えば、微生物菌体を遠心分離した発酵液をpH1以下にしてからジエチルエーテルや酢酸エチル等で抽出する方法、イオン交換樹脂に吸着、洗浄した後、溶出する方法、硫酸酸性下でメタノールやエタノール等のアルコールと反応させてエステルとし、蒸留する方法、マグネシウム塩等の不溶性の乳酸塩として回収、精製する方法等がある。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
分析方法
(1)乳酸の定量および光学純度の測定
乳酸の定量用試料は、試料希釈液0.2mlにエタノール0.8mlを加え生じる沈殿物を遠心分離(15000rpm、5min)して除去し、上清を水で適宜希釈することにより調製した。この試料をHPLC(キラルカラム)で分析した。HPLC条件は下記の通りである。
カラム:Sumichiral OAキラルカラム(Column, Sumichiral OA-5000 (4.6mm ID×15cm)
温度:室温
移動相:2mM Cooper(II)sulfate-5H2O(249.69)の水-イソプロパノール混液(98:2)溶液
溶出率:1.0ml/min
検出:UV at 254nm
鏡像異性体過剰率ee(Enantiomeric excess)は、以下の式により計算した。
ee (%) =([D体]-[L体])/([D体]+[L体])×100
(2)糖の定量
糖はフェノール硫酸法で定量した。グルコースは、グルコース定量キット(グルコースCIIテストワコー、和光純薬)を用いて定量した。
実施例1(炭酸カルシウム添加による乳酸の生産性の比較)
炭酸カルシウムを添加剤として培地中に1w/v%添加しておき、pH調整の中和剤として24%水酸化ナトリウムを用いて乳酸発酵を行ない、炭酸カルシウムを添加した場合の乳酸の生産性への影響を検討した。
ニシンフィッシュミール(エクアドル)40gとリン酸水素二カリウム2g、オリエンターゼ22BF(エイチビィアイ株式会社)0.4gを2L容のジャーファーメンターへ投入し、水を500ml加えて水酸化ナトリウムでpH10に調整し、60℃で5時間、200rpmで撹拌混合し、酵素処理した。ここに、水を300mlと炭酸カルシウムを10g添加(培地中への添加濃度は、1w/v%)し、121℃で20分間オートクレーブ滅菌を行なった。ここに、別滅菌した50w/v%グルコース水溶液を200ml(最終グルコース濃度は約10w/v%)培養槽に添加し、本培養培地とした。炭酸カルシウムを添加しない培地の調製は、上記の培地調製法に炭酸カルシウムを添加しないこと以外は同様の方法で行なった。
種菌は、魚由来ペプトン(バクテリオンKN、株式会社マルハニチロ食品)と酵母エキス(SK酵母エキスHUAP、日本製紙ケミカル株式会社)を各1w/v%、グルコースを5w/v%、炭酸カルシウムを3w/v%含む培地(pH6.8)100mlに、凍結保存バイアルから乳酸菌(Lactobacillus delbrueckii NRIC0761)を1v/v%量植菌し、37℃で24時間静置培養を行なった。菌体が生育した種培養液10ml(1v/v%)を本培養培地に移植後、37℃、通気は20%vvm量で気相のみに行い、75rpmで穏やかに攪拌しながら培養を行なった。なお、培養中のpHは24%水酸化ナトリウムを用いて、pH5.8に制御した。培養液中のD−乳酸濃度、及びグルコース濃度を経時的に測定した結果を図1、また、培養終了時のD−乳酸濃度、残存グルコース濃度を表1に示す。
Figure 2011092045
表1から、培地中に炭酸カルシウムを添加した場合、添加しない場合と比べて、高濃度の乳酸が得られていることが分かる。また、残存グルコース濃度を極めて低くできることが分かる。また、炭酸カルシウム添加量は微量であるので、乳酸カルシウム析出による影響はない。
実施例2(炭酸カルシウムの添加量による乳酸の生産性への影響)
炭酸カルシウムの添加量の添加量による乳酸生産性への影響について検討した。培地中への添加剤の添加量を0.2w/v%にしたこと以外は、実施例1と同様の方法で行なった。培養液中のD−乳酸濃度、及びグルコース濃度を経時的に測定した結果を図2、及び培養終了時のD−乳酸濃度、残存グルコース濃度を表2に示す。
Figure 2011092045
表2から、炭酸カルシウムを0.2w/v%添加した場合でも、高濃度の乳酸が得られていることが分かる。また、残存グルコース濃度を極めて低くできることが分かる。
実施例3(炭酸ナトリウム添加による乳酸の生産性の比較)
培地中に添加する添加剤を炭酸ナトリウムに変更し、pH調整の中和剤として24%水酸化ナトリウムを用いて乳酸発酵を行ない、炭酸ナトリウムを添加した場合の乳酸の生産性への影響を検討した。
培養中のpH制御に用いる中和剤として24%水酸化ナトリウムを用い、培養を開始し、乳酸発酵が進行するに従って、培地中に水酸化ナトリウムが添加されるのと同時に、25w/v%炭酸ナトリウム水溶液を水酸化ナトリウムと同じ添加速度で添加し、添加量80g(炭酸ナトリウムで約16g;培地中への添加濃度は、1.6w/v%)になるまで添加した以外は、実施例2と同様の方法で行なった。培養液中のD−乳酸濃度、及びグルコース濃度を経時的に測定した結果を図3、及び培養終了時のD−乳酸濃度、残存グルコース濃度を表3に示す。
Figure 2011092045
表3から、乳酸発酵の進行につれて、水酸化ナトリウムと同時に炭酸ナトリウムを添加することで、炭酸ナトリウムを添加しない場合より、高濃度の乳酸が得られていることが分かる。また、残存グルコース濃度を極めて低くできることが分かる。
実施例4(フィッシュミール以外の魚由来窒素源を用いた場合の炭酸塩の添加による乳酸の生産性の比較
窒素源としてフィッシュミールの変わりに、魚由来ペプトンを用い、魚由来窒素源以外の窒素源を添加した培地に炭酸塩を添加した場合の乳酸の生産性への影響を検討した。
培地として、1w/v%魚由来ペプトン(バクテリオンKN)、1w/v%酵母エキス(SK酵母エキスHUAP)、10w/v%グルコースを含む培地を用い、添加剤として、炭酸ナトリウム、又は炭酸カルシウムを、それぞれ添加して培養を行った。培養中のpHは、24%水酸化ナトリウムを用いてpH5.8に制御した。なお、炭酸カルシウムは実施例1、炭酸ナトリウムは実施例3と同様の添加方法で添加した。培養液中のD−乳酸濃度、及びグルコース濃度を経時的に測定した結果を図4、及び培養終了時のD−乳酸濃度、残存グルコース濃度を表4に示す。
Figure 2011092045
表4から、炭酸ナトリウム、または炭酸カルシウムを添加することで、炭酸塩を添加しない場合より、高濃度の乳酸が得られていることが分かる。また、残存グルコース濃度を低濃度にすることができる。この結果より、フィッシュミール以外の魚由来窒素源とそれ以外の窒素源を含んでいる培地を用いて乳酸発酵を行なう場合にも炭酸塩添加による発酵促進効果が得られることが分かる。
比較例1(魚由来窒素源を含まない培地に炭酸塩を添加した場合の乳酸の生産性の比較)
魚由来窒素源を含まない培地として、グルコース濃度を10w/v%に調整したMRS培地(10.0g/lペプトン、8.0g/lラブ‐レムコ末、4.0g/l酵母エキス、100.0g/lグルコース、1ml/lツイン80、2.0g/lリン酸水素二カリウム、5.0g/l酢酸ナトリウム三水和物、2.0g/l、2.0g/lクエン酸トリアンモニウム、0.2g/l硫酸マグネシウム七水和物、0.05g/l硫酸マンガン四水和物、pH6.2;Fluka)を用いた以外は、実施例4と同様の方法で行なった。培養終了時のD−乳酸濃度、残存グルコース濃度を表5に示す。
Figure 2011092045
表5から、窒素源として魚由来の窒素源を含まない培地を用いた場合、炭酸塩の添加によって、特に乳酸の生産性及び残存グルコース濃度に影響は認められなかった。従って、通常、乳酸発酵に用いられる栄養培地に炭酸塩を添加しても効果が得られないことがわかる。
本発明方法によれば、ポリ乳酸原料となるD-乳酸を安価に効率よく生産できるため、乳酸、特にD-乳酸を低コストで工業生産できるようになった。

Claims (10)

  1. 乳酸生産能を有する微生物を、水酸化ナトリウム、又はアンモニアを中和剤として用いて培養する工程と、生産された乳酸を回収する工程とを含む乳酸の製造方法であり、培養工程において、少なくとも、炭素源と、窒素源として魚由来窒素源と、添加剤として炭酸塩及び/又は炭酸水素塩を0.2〜2重量%含む培地を用いて培養することを特徴とする乳酸の製造方法。
  2. 炭酸塩が、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、及び炭酸アンモニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の方法。
  3. 炭酸水素塩が、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、及び炭酸水素アンモニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1または2に記載の方法。
  4. 培養開始時の培地に、添加剤として炭酸カルシウム又は炭酸マグネシウムを含む請求項1または2に記載の方法。
  5. 培養中の培地に、添加剤として炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、及び炭酸アンモニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を添加することを特徴とする請求項1、2、または4の何れかに記載の方法。
  6. 魚由来窒素源が、フィッシュミール、又は魚由来ペプトンである請求項1〜5の何れかに記載の方法。
  7. 培地中の炭素源が、グルコース、フルクトース、スクロース、サトウキビ廃糖蜜、及び粗糖からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1〜6の何れかに記載の方法。
  8. 乳酸生産能を有する微生物がLactobacillus属に属する乳酸菌である請求項1〜7の何れかに記載の方法。
  9. 乳酸生産能を有する微生物がLactobacillus delbrueckiiである請求項1〜8の何れかに記載の方法。
  10. 乳酸が、D-乳酸である請求項1〜9の何れかに記載の方法。
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