JP2010159218A - 融合タンパク質、タンパク質複合体、並びに、目的タンパク質の構造解析方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】結晶化された目的タンパク質の構造解析をより確実かつ容易にする一連の技術を提供する。
【解決手段】2個以上のシャペロニンサブユニットが直列に連結されてなるシャペロニン連結体と目的タンパク質とが連結されてなり、前記シャペロニンサブユニットがリング状に配置されたリング構造体を形成可能な融合タンパク質であって、前記シャペロニン連結体は、複数種のシャペロニンサブユニットからなる融合タンパク質が提供される。シャペロニン連結体におけるシャペロニンサブユニットの連結順序は、隣接するシャペロニンサブユニットを同一円周上に等間隔に配置すると非点対称となる順序であることが好ましい。当該融合タンパク質によれば、結晶化の際に目的タンパク質の配向性が揃いやすく、目的タンパク質のX線回折像を確実に得ることができる。
【選択図】図1
【解決手段】2個以上のシャペロニンサブユニットが直列に連結されてなるシャペロニン連結体と目的タンパク質とが連結されてなり、前記シャペロニンサブユニットがリング状に配置されたリング構造体を形成可能な融合タンパク質であって、前記シャペロニン連結体は、複数種のシャペロニンサブユニットからなる融合タンパク質が提供される。シャペロニン連結体におけるシャペロニンサブユニットの連結順序は、隣接するシャペロニンサブユニットを同一円周上に等間隔に配置すると非点対称となる順序であることが好ましい。当該融合タンパク質によれば、結晶化の際に目的タンパク質の配向性が揃いやすく、目的タンパク質のX線回折像を確実に得ることができる。
【選択図】図1
Description
本発明は、融合タンパク質、タンパク質複合体、並びに、目的タンパク質の構造解析方法に関する。本発明は、目的タンパク質の構造解析を容易かつ確実にするものである。
タンパク質はそれぞれ固有の3次元構造を有するが、近年、タンパク質の3次元構造に関する情報が医薬品開発等に重要になってきた。例えば、タンパク質の3次元構造を知ることができれば、そのタンパク質と相互作用する物質の設計が確実に行えるため、医薬品の製造に重要な貢献をすることできる。また、これらの知見を病気の機構の解明や、食糧の増産や環境の保全等を図るために役立てることも可能である。
従来、タンパク質のX線結晶構造解析を行うには、目的タンパク質ごとに精製条件及び結晶化条件を詳細に検討する必要があった。そのため高純度の目的タンパク質を得るための精製及び結晶化に、多大な労力と時間とが必要とされた。また、目的タンパク質が組み換えタンパク質である場合、発現した目的タンパク質が正しく3次元構造を形成することができず、封入体になったり、宿主に対して毒性を示したり、また、目的タンパク質が可溶性タンパク質であると、宿主プロテアーゼに分解されたりして、その生産性が極めて低い場合も多かった。このため、目的タンパク質の発現、精製、結晶化、構造解析といった一連の工程をスピードアップ化する技術開発が望まれていた。
このような課題を解決するための技術として、シャペロニンを用いる方法が知られている(特許文献1)。この方法では、1個又は2個以上のシャペロニンサブユニットと目的タンパク質とがペプチド結合を介して連結されてなり、且つ、目的タンパク質がシャペロニンリングの内部に格納されている融合タンパク質を作製する。そして、すでに明らかとなっているシャペロニンの結晶化条件に従って当該融合タンパク質の結晶化を行い、構造解析に供する。この方法によれば、目的タンパク質がシャペロニンリング内部に格納された状態で結晶化を行うので、シャペロニンの結晶化条件をそのまま適用することができる。その結果、目的タンパク質の種類を問わずに画一的な条件で結晶化することができ、目的タンパク質の発現から、精製、結晶化までの工程について、大幅なスピードアップが可能となる。
シャペロニンは分子シャペロンの一種であり、分子量約6万のサブユニット(シャペロニンサブユニット)からなる複合タンパク質である。代表的なシャペロニンは、シャペロニンサブユニット7〜9個からなるリング構造体2層がリング面を介して非共有結合的に会合した2層構造を有する、総分子量80万〜100万程度のシリンダー状の巨大な複合体を形成している。シャペロニンはその内部に他のタンパク質を格納し、正しく折り畳むことができる。
シャペロニンは生物種によってサブユニットの種類が異なる。バクテリア由来のシャペロニンはグループI型に属し、一般に1種類のサブユニット7個が一層リング構造を形成する。一方、古細菌由来や真核生物由来のシャペロニンはグループII型に属する。古細菌由来のシャペロニンでは2〜3種類のサブユニットが計8〜9個連なり、リング構造を形成する。また、chaperonin containing t-complex polypeptide 1(CCT)(Kubota, H., Eur J Biochem 230, 3, 1995)に代表される真核生物由来のシャペロニンは、8種類のサブユニット各1個(計8個)により、一層のリングが構成される。
複数のシャペロニンサブユニットを直列に連結させた人工タンパク質(シャペロニン連結体)が知られている(特許文献2)。シャペロニン連結体も天然のシャペロニンと同様のリング構造体を形成することができる。さらに、シャペロニン連結体に目的タンパク質を結合させた融合タンパク質は、目的タンパク質を内部に格納したリング構造体を形成し、目的タンパク質を正しく折り畳むことができる。
特許文献1に記載の方法によって、目的タンパク質の発現から結晶化までの工程について大幅なスピードアップが可能となったが、結晶化後の構造解析についてはなお改善の余地がある。例えば、採用するシャペロニンの種類によっては、結晶格子のシャペロニン内部に格納された目的タンパク質の配向性が定まらないことがある。そのため、X線を照射した際に、シャペロニン自身の回折像は得られたとしても、リング内部に格納された目的タンパク質の回折像が得られず、目的タンパク質の結晶構造が解析できない場合があった。
本発明の目的は、結晶化された目的タンパク質の構造解析をより確実かつ容易にする一連の技術を提供することにある。
上記した課題を解決するための請求項1に記載の発明は、2個以上のシャペロニンサブユニットが直列に連結されてなるシャペロニン連結体と目的タンパク質とが連結されてなり、前記シャペロニンサブユニットがリング状に配置されたリング構造体を形成可能な融合タンパク質であって、
前記シャペロニン連結体は、複数種のシャペロニンサブユニットからなることを特徴とする融合タンパク質である。
前記シャペロニン連結体は、複数種のシャペロニンサブユニットからなることを特徴とする融合タンパク質である。
本発明の融合タンパク質は、2個以上のシャペロニンサブユニットが直列に連結されてなるシャペロニン連結体と目的タンパク質とが連結されてなるものであり、「シャペロニンサブユニットがリング状に配置されたリング構造体」を形成可能なものである。そして、本発明の融合タンパク質では、当該シャペロニン連結体が複数種のシャペロニンサブユニットからなる。ここで、1種類のシャペロニンサブユニットからなるシャペロニン連結体では、各サブユニットがいわば等価であり、サブユニット同士の区別が難しい。そのため、そのようなシャペロニン連結体を用いる従来技術の構造解析方法では、目的タンパク質をリング構造体内に格納した状態で結晶化できても、目的タンパク質の配向性が揃いにくく、X線を照射した場合に目的タンパク質の回折像が得られないことがあった。一方、本発明の融合タンパク質を構成するシャペロニン連結体は複数種のシャペロニンサブユニットからなるので、サブユニット同士の区別が容易である。そのため、目的タンパク質を内部に格納した状態で結晶化すると、目的タンパク質の配向性が揃いやすい。その結果、本発明の融合タンパク質を用いると、目的タンパク質のX線回折像を確実に得ることができる。
請求項2に記載の発明は、シャペロニン連結体におけるシャペロニンサブユニットの連結順序は、隣接するシャペロニンサブユニットを同一円周上に等間隔に配置すると非点対称となる順序であることを特徴とする請求項1に記載の融合タンパク質である。
本発明の融合タンパク質では、シャペロニンサブユニットの連結順序が、隣接するシャペロニンサブユニットを同一円周上に等間隔に配置すると非点対称となる順序である。そのため、目的タンパク質を内部に格納した状態で結晶化すると、目的タンパク質の配向性がさらに揃いやすい。その結果、本発明の融合タンパク質を用いると、目的タンパク質のX線回折像をさらに確実に得ることができる。
複数種のシャペロニンサブユニットが、同一生物種由来の互いに異なるサブユニットである構成が好ましい(請求項3)。
2次元又は3次元結晶化されたものであることが好ましい(請求項4)。
請求項5に記載の発明は、リング状に配置された2個以上のシャペロニンサブユニットと目的タンパク質とのタンパク質複合体であって、
複数種のシャペロニンサブユニットを含み、
目的タンパク質は、前記シャペロニンサブユニットの少なくとも1個に連結されていることを特徴とするタンパク質複合体である。
複数種のシャペロニンサブユニットを含み、
目的タンパク質は、前記シャペロニンサブユニットの少なくとも1個に連結されていることを特徴とするタンパク質複合体である。
本発明はタンパク質複合体に係るものであり、リング状に配置された2個以上のシャペロニンサブユニットと目的タンパク質とで構成されている。そして、当該2個以上のシャペロニンサブユニットは複数種のものからなり、目的タンパク質が当該シャペロニンサブユニットの少なくとも1個に連結されている。本発明のタンパク質複合体は複数種のシャペロニンサブユニットを含んでいるので、シャペロニンサブユニット同士の区別が容易である。そのため、目的タンパク質を内部に格納した状態で結晶化すると、目的タンパク質の配向性が揃いやすい。その結果、本発明のタンパク質複合体を用いると、目的タンパク質のX線回折像を確実に得ることができる。
請求項6に記載の発明は、シャペロニンサブユニットの配置順序は、隣接するシャペロニンサブユニットを同一円周上に等間隔に配置すると非点対称となる順序であることを特徴とする請求項5に記載のタンパク質複合体である。
本発明のタンパク質複合体では、シャペロニンサブユニットの配置順序が、隣接するシャペロニンサブユニットを同一円周上に等間隔に配置すると非点対称となる順序である。そのため、目的タンパク質を内部に格納した状態で結晶化すると、目的タンパク質の配向性がさらに揃いやすい。その結果、本発明のタンパク質複合体を用いると、目的タンパク質のX線回折像をさらに確実に得ることができる。
請求項1〜4のいずれかに記載の融合タンパク質からなる構成が好ましい(請求項7)。
結晶化されている構成が好ましい(請求項8)。
請求項9に記載の発明は、請求項4に記載の融合タンパク質又は請求項8に記載のタンパク質複合体の3次元構造及び/又は全原子空間配置を解析する工程を包含することを特徴とする目的タンパク質の構造解析方法である。
本発明は目的タンパク質の解析方法に係り、結晶化された本発明の融合タンパク質又はタンパク質複合体の3次元構造及び/又は全原子空間配置を解析する工程を包含する。本発明によれば、目的タンパク質の配向性がより揃った結晶を解析対象とするので、構造解析が確実かつ容易である。
請求項10に記載の発明は、請求項4に記載の融合タンパク質又は請求項8に記載のタンパク質複合体の3次元構造及び/又は全原子空間配置と、目的タンパク質が連結されていないシャペロニン連結体又はシャペロニンサブユニットのみからなるタンパク質複合体の3次元構造及び/又は全原子空間配置とを比較することにより、前記目的タンパク質の3次元構造及び/又は全原子空間配置を解析することを特徴とする目的タンパク質の構造解析方法である。
本発明の目的タンパク質の構造解析方法では、「結晶化された本発明の融合タンパク質又はタンパク質複合体の3次元構造及び/又は全原子空間配置」と、「目的タンパク質が連結されていないシャペロニン連結体又はシャペロニンサブユニットのみからなるタンパク質複合体の3次元構造及び/又は全原子空間配置」とを比較する。本発明では両者の差分を指標として解析するので、より正確に目的タンパク質の構造を解析することができる。
本発明の融合タンパク質によれば、結晶化後における目的タンパク質の配向性が揃いやすいので、目的タンパク質のX線回折像を確実に得ることができる。
本発明のタンパク質複合体についても同様であり、結晶化後における目的タンパク質の配向性が揃いやすいので、目的タンパク質のX線回折像を確実に得ることができる。
本発明の目的タンパク質の構造解析方法によれば、目的タンパク質の構造解析を確実かつ容易に行うことができる。
本発明の1つの様相は、2個以上のシャペロニンサブユニットが直列に連結されてなるシャペロニン連結体と目的タンパク質とが連結されてなり、前記シャペロニンサブユニットがリング状に配置されたリング構造体を形成可能な融合タンパク質であって、前記シャペロニン連結体は、複数種のシャペロニンサブユニットからなることを特徴とする融合タンパク質である。また本発明の他の様相は、リング状に配置された2個以上のシャペロニンサブユニットと目的タンパク質とのタンパク質複合体であって、複数種のシャペロニンサブユニットを含み、目的タンパク質は、前記シャペロニンサブユニットの少なくとも1個に連結されていることを特徴とするタンパク質複合体である。
本発明の融合タンパク質とタンパク質複合体は「複数種のシャペロニンサブユニット」を含む。ここで、種類が互いに異なるシャペロニンサブユニットの例を挙げる。1つの例は、II型シャペロニンに由来するサブユニットの場合であり、これは同一生物種由来の互いに異なるサブユニットの例となる。例えば、古細菌由来のシャペロニンは2〜3種類のサブユニット計8〜9個からなるが、当該サブユニットは種類が互いに異なるシャペロニンサブユニットである。サーモコッカス(Thermococcus)属細菌由来のα型、β型の各シャペロニンサブユニットや、スルフォロブス(Sulpholobus)属細菌由来のα型、β型、γ型の各シャペロニンサブユニットが、具体例として挙げられる。またchaperonin containing t-complex polypeptide 1(CCT)に代表される真核生物由来のシャペロニンは8種類のサブユニットからなるが、当該サブユニット同士は、種類が互いに異なる。
I型シャペロニン由来のシャペロニンサブユニットであっても、由来となる生物種が異なる場合には、種類が互いに異なるシャペロニンサブユニットになり得る。例えば、大腸菌由来のGroELのサブユニットとThermus属由来のGroELのサブユニットとは、種類が互いに異なる。
アミノ酸変異を導入することにより、種類が異なるシャペロニンサブユニットを作り出すこともできる。例えば、部位特異的変異導入等の技術を利用して、アミノ酸残基の置換、挿入、欠損等を起こさせることができる。本発明では、アミノ酸残基が少なくとも1個異なれば種類が互いに異なるサブユニットとして取扱い可能であるが、好ましくは5個以上、より好ましくは10個以上、さらに好ましくは20個以上のアミノ酸残基が異なる複数種のサブユニットが採用される。また、アミノ酸配列の相同性が、好ましくは50%〜95%、より好ましくは60〜90%の範囲の複数種のサブユニットが採用される。なお、Thermococcus属由来のα型サブユニットとβ型サブユニットの相同性は約81%、大腸菌GroELとThermus属由来GroELの相同性は約61%である。
好ましい実施形態では、シャペロニンサブユニットの連結順序あるいは配列順序が、隣接するシャペロニンサブユニットを同一円周上に等間隔に配置すると非点対称となる順序である。ここで、複数種のシャペロニンサブユニットを組み合わせることによる、結晶化後の目的タンパク質の配向性について、図面を参照しながら説明する。図中、白丸(○)はα型シャペロニンサブユニット、黒丸(●)はβ型シャペロニンサブユニット、斜線入りの丸はγ型シャペロニンサブユニット、「P」は目的タンパク質、実線はペプチド結合、破線は非共有結合を示す。
図1(a)に示す融合タンパク質は、8個のシャペロニンサブユニットが直列に連結されてなるシャペロニン連結体と、目的タンパク質とが連結されてなる。シャペロニン連結体は2種類のシャペロニンサブユニット(α,β)を含んでおり、N末端側から1,3,4,7番目のサブユニットがα型で、2,5,6,8番目のサブユニットがβ型である。目的タンパク質はC末端のβ型サブユニット(N末端から8番目)に連結されている。図1(b)に示すように、この融合タンパク質は、8個のシャペロニンサブユニットがリング状に配置されたリング構造体を、形成可能である。このとき、リング構造体は非点対称な構造となる。
リング構造体を形成した融合タンパク質を結晶化する場合には、リング構造体が非点対称な構造であるため、図1(c)に示すように目的タンパク質の配向性が揃いやすくなる。すなわち、図8(a)に示すような1種類のシャペロニンサブユニットのみからなるリング構造体の場合には、各サブユニットがいわば等価であり、サブユニット同士の区別が難しい。そのため、図8(b)に示すように、結晶化の際に目的タンパク質の配向性が揃いにくい。しかし、図1(a)〜(c)に示す融合タンパク質では、複数種のシャペロニンサブユニットを含むと共にリング構造体が非点対称な構造となるので、目的タンパク質の配向性が揃いやすくなる。
非点対称なリング構造体の他の例を、図2,3に示す。図2の融合タンパク質は、7個のシャペロニンサブユニットが直列に連結されてなるシャペロニン連結体と、目的タンパク質とが連結されてなる。シャペロニン連結体は2種類のシャペロニンサブユニット(α,β)を含んでおり、N末端側から1番目のサブユニットがβ型で、他のサブユニットがα型である。目的タンパク質はC末端のα型サブユニットに連結されている。一方、図3の融合タンパク質は、8個のシャペロニンサブユニットが直列に連結されてなるシャペロニン連結体と、目的タンパク質とが連結されてなる。シャペロニン連結体は3種類のシャペロニンサブユニット(α,β,γ)を含んでおり、N末端側から1,4,6,7,8番目のサブユニットがα型、2,3番目のサブユニットがβ型、5番目のサブユニットがγ型である。
なお、図2のようなシャペロニンサブユニットの合計数が奇数の場合には、少なくとも1個が別種類のサブユニットであれば非点対称な構造になると考えられる。一方、図1,3のようなシャペロニンサブユニットの合計数が偶数の場合には、目的タンパク質を挟んで対向する一組のサブユニットに着目したときに、異なるサブユニットからなる組が少なくとも1つあれば非点対称な構造になると考えられる。
本発明の融合タンパク質は、複数種のシャペロニンサブユニットを含んでいれば点対称な構造のものでもよい。図4に示す融合タンパク質は、8個のシャペロニンサブユニットが直列に連結されてなるシャペロニン連結体と、目的タンパク質とが連結されてなる。シャペロニン連結体は2種類のシャペロニンサブユニット(α,β)を含んでおり、N末端側から1,5番目のサブユニットがβ型、その他のサブユニットがα型である。本実施形態の融合タンパク質は非点対称構造ではないが、図8に示す従来の融合タンパク質と比べると目的タンパク質の配向性が優れている。
図1〜4では、全てのシャペロニンサブユニットが直列に連結されている例を示したが、シャペロニンサブユニットの全てが連結されていることは必須でない。例えば、リング構造体を形成可能である限り、一部のシャペロニンサブユニットがフリーのモノマー(他のシャペロニンサブユニットや目的タンパク質に連結されていない単独のサブユニット)であってもよい。この場合には、融合タンパク質とモノマーサブユニットとからなる「タンパク質複合体」がリング構造体を形成する。当該タンパク質複合体の例を、図5〜7に示す。
図5に示すタンパク質複合体は、8個のシャペロニンサブユニットと目的タンパク質とからなり、その内の1個がβ型サブユニット、その他がα型サブユニットである。目的タンパク質はβ型サブユニットのN末端又はC末端に連結されており、α型サブユニットは全てフリーのモノマーである。図5に示すタンパク質複合体は、非点対称な構造を有している。
図6に示すタンパク質複合体は、8個のシャペロニンサブユニットと目的タンパク質とからなり、その内の3個がβ型サブユニット、その他がα型サブユニットである。3個のβ型サブユニットは直列に連結されてシャペロニン連結体を構成しており、当該シャペロニン連結体のC末端に目的タンパク質が連結されている。α型サブユニットは全てフリーのモノマーである。図6に示すタンパク質複合体も、非点対称な構造を有している。
図7に示すタンパク質複合体は、8個のシャペロニンサブユニットと目的タンパク質とからなり、その内の2個がβ型サブユニット、その他がα型サブユニットである。2個のα型サブユニットと2個のβ型サブユニットがN末端からαβαβの順に連結されており、C末端のβ型サブユニットに目的タンパク質が連結されている。α型サブユニットは全てフリーのモノマーである。図7に示すタンパク質複合体も、非点対称な構造を有している。
図5〜7に示すタンパク質複合体において、モノマーのサブユニットについては、例えば、宿主自身が本来有しているシャペロニンサブユニットをそのまま適用することができる。例えば、融合タンパク質を宿主内で強制発現させると、宿主に本来存在するサブユニット(モノマー)が加わってタンパク質複合体となり、リング構造体を形成することができる。
本発明の融合タンパク質ならびにタンパク質複合体(以下、両者をまとめて「融合タンパク質等」と略記することがある。)に含める目的タンパク質については特に限定はないが、分子量についてはシャペロニンのリング構造内に格納可能な分子量であることが好ましく、例えば、10万以下、より好ましくは6万以下が好ましい。タンパク質の種類についても特に限定はなく、例えば、ヒト、マウス、線虫等の動物、病原菌、感染性ウィルス等由来の全てのタンパク質を採用することができる。例えば、7回膜貫通型受容体、チャネル型受容体、リン酸化酵素、脱輪酸化酵素、細胞接着因子等の膜貫通型タンパク質;膜結合型タンパク質、タンパク質リン酸化酵素等の情報伝達系関連タンパク質、ウィルス由来プロテアーゼ、核内ホルモン受容体タンパク質、逆転写酵素等が好ましく、膜貫通型タンパク質、膜結合型タンパク質、核内ホルモン受容体タンパク質がより好ましい。
本発明の融合タンパク質等は、例えば、シャペロニン連結体をコードする遺伝子と目的タンパク質をコードする遺伝子を連結させた融合遺伝子を発現させることにより製造することができる。例えば、該融合遺伝子を発現ベクターに組み込み、該組換えベクターを適宜の宿主に導入して形質転換体を作製し、該形質転換体内で融合遺伝子を発現させればよい。このときに用いる宿主としては特に限定はないが、培養コストが安価であり、培養日数が短く、培養操作が簡便な点からバクテリア等の微生物が好ましく、特に、大腸菌が取り扱いの容易さの面でより好ましい。
シャペロニンは宿主生物の細胞質又は体液等の可溶性画分へ発現されるため、シャペロニンリング内に格納された目的タンパク質が膜結合性のタンパク質であっても、膜へ移行し、宿主生物の膜構造を破壊することはなく、宿主生物に対する毒性は発現しない。また、目的タンパク質の種類にかかわらず、シャペロニンリング内に格納されれば、同一の精製条件で融合タンパク質として精製することが可能である。
本発明の融合タンパク質等を精製する方法としては特に限定されず、例えば、塩析、疎水クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過、アフィニティクロマトグラフィー等の方法を適宜用いて精製することができる。また、融合タンパク質のN末端又はC末端に6残基程度のヒスチジン配列を付加させることにより、ニッケルキレート担体を用いるキレートクロマトグラフィーによっても融合タンパク質を精製することが可能である。
本発明の融合タンパク質等においては、目的タンパク質がリング内部に格納されている限り、目的タンパク質の種類によらず表面の性質が同じであるため、画一的な条件で結晶化することができる。融合タンパク質等の結晶化は、例えば、ハンギングドロップ法によって行うことができる。例えば、緩衝液に溶かした10mg/mL程度の融合タンパク質等の溶液10μLに、硫酸アンモニウム、ポリエチレングリコール(PEG)のような沈殿剤を飽和より低い濃度になるように加えて薄いガラス板の上に置き、これを逆さにして小さな容器(リザーバー)の上にのせて密封する。容器中には沈殿剤溶液約1mLを入れておく。蒸気の拡散によって融合タンパク質等の溶液と容器の中がゆっくりと平衡に達する。融合タンパク質等の溶液の塩濃度は、水がリザーバー中に逃げていくので上昇する。飽和点を過ぎると融合タンパク質等がゆっくりと析出してくる。pHや塩濃度条件が適当であると、溶液中に融合タンパク質等の結晶が生じてくる。例えば、融合タンパク質等のシャペロニンサブユニットが大腸菌由来のGroELである場合、2.5mM ADPを含有する10mg/mLの融合タンパク質等の溶液に等容の3.6% PEG6K、200mM MgCl2、50mM KClを含有する100mM Tris−HCl(pH8.0)緩衝液を添加する条件下で結晶化を行うことができる。
本発明の融合タンパク質等の結晶は、X線結晶構造解析により、融合タンパク質の3次元構造及び/又は全原子空間配置を解明し得る品質を有することが好ましい。X線結晶構造解析により、融合タンパク質等の3次元構造及び/又は全原子空間配置を解明し得る品質とは、例えば、融合タンパク質等がSDS−PAGEで単一のバンドとして検出される程度の品質を意味する。
次に、本発明のタンパク質の構造解析方法について説明する。本発明の目的タンパク質の構造解析方法の1つの様相は、結晶化された本発明の融合タンパク質又はタンパク質複合体の3次元構造及び/又は全原子空間配置を解析する工程を包含することを特徴とする。また、別の様相では、結晶化された本発明の融合タンパク質又はタンパク質複合体の3次元構造及び/又は全原子空間配置と、目的タンパク質が連結されていないシャペロニン連結体又はシャペロニンサブユニットのみからなるタンパク質複合体の3次元構造及び/又は全原子空間配置とを比較することにより、前記目的タンパク質の3次元構造及び/又は全原子空間配置を解析することを特徴とする。
本発明のタンパク質の構造解析方法は、シャペロニンを目的タンパク質の構造解析用の分子容器として用いる思想の上に成り立つものであり、目的タンパク質をシャペロニンから遊離させることなく、融合タンパク質あるいはタンパク質複合体のままで結晶化した後、X線等の結晶構造解析に供する。本発明の融合タンパク質等の結晶にX線を照射することにより、融合タンパク質等の3次元構造及び/又は全原子空間配置を解析することができる。X線源としては実験室レベルでは、銅又はモリブデンに電子を衝突させたときに発生する特性X線を使用することができる。特別に強いX線や任意の波長のX線を使用する場合には、シンクロトロン放射光を利用することができる。さらに、第3世代放射光施設であるSPring−8を利用することで従来より鮮明な回折斑点が得られ、誤差の少ない測定が可能である。X線回折の強度測定はX線フィルムやイメージングプレート(IP)等の2次元検出器によって行うことができる。X線を当てながら結晶を回転させることで、多くの回折線が発生する。IPを用いる場合、記録された回折パターンをスキャンして数値化し、コンピューターに蓄積させることができる。
得られた結晶の重原子同型置換体結晶を複数作製し、これらに元の結晶と同じ波長のX線を当て、重原子を組み込むことによる回折強度変化を利用して元の結晶の反射の位相を決定する。反射の位相が決まれば、電子密度を求めることが可能である。ただし、原子位置決定までの解析を行うには少なくとも2.8Å(オングストローム)の分解能が要求される。2〜2.8Åの分解能の電子密度図があれば分子モデルを組み立てることが可能となる。X線結晶構造解析により解析された融合タンパク質等の3次元構造及び/又は全原子空間配置と、目的タンパク質が連結されていないシャペロニン連結体又はシャペロニンサブユニットのみからなるタンパク質複合体の3次元構造及び/又は全原子空間配置とを比較することにより、目的タンパク質の3次元構造及び/又は全原子空間配置を解析することができる。
本発明の融合タンパク質等の結晶に対して、上記のような通常の一連のX線結晶構造解析の手法を用いることで、目的タンパク質を単離する必要なく、シャペロニンサブユニットからなるリングの内部に格納された状態で、直接目的タンパク質を構造解析することが可能となる。
以下に実施例をもって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
1.発現ベクターの作製
超好熱性古細菌Thermococcus KS−1株のゲノムDNAを鋳型とし、配列番号1と配列番号2のオリゴDNAをプライマーセットとしてPCRを行い、シャペロニンαサブユニット(TCPα)遺伝子(配列番号3)を含むDNA断片を得た。同様に、配列番号4と配列番号5のオリゴDNAをプライマーセットとしてPCRを行い、シャペロニンβサブユニット(TCPβ)遺伝子(配列番号6)を含むDNA断片を得た。いずれのDNA断片においても、プライマーに由来して5’側にBglIIサイト、3’側にBamHIサイトが導入された。各DNA断片をpT7blueTベクター(ノバジェン社製)にそれぞれTAクローニングし、塩基配列を確認した。
超好熱性古細菌Thermococcus KS−1株のゲノムDNAを鋳型とし、配列番号1と配列番号2のオリゴDNAをプライマーセットとしてPCRを行い、シャペロニンαサブユニット(TCPα)遺伝子(配列番号3)を含むDNA断片を得た。同様に、配列番号4と配列番号5のオリゴDNAをプライマーセットとしてPCRを行い、シャペロニンβサブユニット(TCPβ)遺伝子(配列番号6)を含むDNA断片を得た。いずれのDNA断片においても、プライマーに由来して5’側にBglIIサイト、3’側にBamHIサイトが導入された。各DNA断片をpT7blueTベクター(ノバジェン社製)にそれぞれTAクローニングし、塩基配列を確認した。
TAクローニングしたTCPα遺伝子をBglII/BamHIでpT7blueTベクターより切り出し、あらかじめBamHI処理しておいたpTrc99Aベクター(アマシャムファルマシア社)に導入した。TCPα遺伝子がプロモーターに対して正しい向きで導入されていることをシークエンサーで確認した。このベクターをpTrc99A(TCPα)1と命名した。次に、TAクローニングしたTCPβ遺伝子をBglII/BamHIでpT7blueTベクターより切り出し、あらかじめBamHIで処理しておいたTrc99A(TCPα)1に導入した。これにより、TCPα遺伝子の下流にTCPβ遺伝子が1個挿入されたベクターpTrc99A(TCPα)1(TCPβ)1が構築された。同様の手順を繰り返し、pTrc99A(TCPα)1(TCPβ)1に対して、さらにTCPα遺伝子とTCPβ遺伝子を「TCPα、TCPα、TCPβ、TCPβ、TCPα、TCPβ」の順に並ぶよう導入した。各TCP遺伝子が正しい向きに導入されていることを随時DNAシークエンサーにて確認した。これにより、TCPαとTCPβとが「αβααββαβ」の順で連結されてなるシャペロニン連結体を発現するベクターpTrc99A(αβααββαβ)−Fが構築された。なお、pTrc99A(αβααββαβ)−Fのマルチクローニングサイトの3’側には、FLAGペプチドを発現する遺伝子配列を設けた。
OriGene社より入手したアクセッションナンバー NM_001957のETAR遺伝子を含むクローンを鋳型とし、配列番号7と配列番号8のオリゴDNAをプライマーセットとしてPCRを行い、ヒトETAR遺伝子(配列番号9)の5’末端にXbaIサイトを、3’側にSalIサイトを導入したDNA断片を取得し、pT7blueTベクターに導入した。導入されたDNA断片の塩基配列を確認した後、XbaI/SalIにてヒトETAR遺伝子を同ベクターから切り出した。切り出したDNA断片を精製後、あらかじめ同制限酵素にて処理しておいたpTrc99A(αβααββαβ)に導入した。これにより、TCP(αβααββαβ)8連結体のC末端にヒトETAR(目的タンパク質)が連結されてなる融合タンパク質(図1参照)を発現させることができる発現ベクターpTrc99A(αβααββαβ)−ETAR−Fが構築された。
2.融合タンパク質の生産
上記1で構築したpTrc99A(αβααββαβ)−ETAR−Fを大腸菌BLR(DE3)株に導入し、その形質転換株3コロニーを2×YT液体培地(バクトトリプトン 16g、酵母エキス 10g、NaCl 5g/L)に接種し、アンピシリン(100μg/mL)の存在下25℃で48時間撹拌培養した。培養終了後、菌体を回収した。
上記1で構築したpTrc99A(αβααββαβ)−ETAR−Fを大腸菌BLR(DE3)株に導入し、その形質転換株3コロニーを2×YT液体培地(バクトトリプトン 16g、酵母エキス 10g、NaCl 5g/L)に接種し、アンピシリン(100μg/mL)の存在下25℃で48時間撹拌培養した。培養終了後、菌体を回収した。
回収した菌体を50mMTris(pH7.4)/150mM NaCl、10mM MgCl2、1mM EDTA(以下、TNME緩衝液)に懸濁し、超音波処理により菌体を破砕した。菌体破砕液を遠心分離して上清を回収した。この上清に対して、抗FLAG抗体固定化ビーズ(シグマ社製)を用いて免疫沈降反応を行った。ビーズ洗浄後FLAGペプチドで溶出される画分を10%硫酸アンモニウム/TNME緩衝液で平衡化したHiTrap Butyl FFカラム 5mL(アマシャムファルマシア社)に供した。次に、TNME緩衝液で溶出し、融合タンパク質を含む画分を回収した。この画分を、TNME緩衝液であらかじめ平衡化したTSKgel G4000SWXLを用いたゲル濾過に供し、目的の融合タンパク質を得た。
Claims (10)
- 2個以上のシャペロニンサブユニットが直列に連結されてなるシャペロニン連結体と目的タンパク質とが連結されてなり、前記シャペロニンサブユニットがリング状に配置されたリング構造体を形成可能な融合タンパク質であって、
前記シャペロニン連結体は、複数種のシャペロニンサブユニットからなることを特徴とする融合タンパク質。 - シャペロニン連結体におけるシャペロニンサブユニットの連結順序は、隣接するシャペロニンサブユニットを同一円周上に等間隔に配置すると非点対称となる順序であることを特徴とする請求項1に記載の融合タンパク質。
- 複数種のシャペロニンサブユニットは、同一生物種由来の互いに異なるサブユニットであることを特徴とする請求項1又は2に記載の融合タンパク質。
- 2次元又は3次元結晶化されたものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の融合タンパク質。
- リング状に配置された2個以上のシャペロニンサブユニットと目的タンパク質とのタンパク質複合体であって、
複数種のシャペロニンサブユニットを含み、
目的タンパク質は、前記シャペロニンサブユニットの少なくとも1個に連結されていることを特徴とするタンパク質複合体。 - シャペロニンサブユニットの配置順序は、隣接するシャペロニンサブユニットを同一円周上に等間隔に配置すると非点対称となる順序であることを特徴とする請求項5に記載のタンパク質複合体。
- 請求項1〜4のいずれかに記載の融合タンパク質からなることを特徴とする請求項5に記載のタンパク質複合体。
- 結晶化されていることを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載のタンパク質複合体。
- 請求項4に記載の融合タンパク質又は請求項8に記載のタンパク質複合体の3次元構造及び/又は全原子空間配置を解析する工程を包含することを特徴とする目的タンパク質の構造解析方法。
- 請求項4に記載の融合タンパク質又は請求項8に記載のタンパク質複合体の3次元構造及び/又は全原子空間配置と、目的タンパク質が連結されていないシャペロニン連結体又はシャペロニンサブユニットのみからなるタンパク質複合体の3次元構造及び/又は全原子空間配置とを比較することにより、前記目的タンパク質の3次元構造及び/又は全原子空間配置を解析することを特徴とする目的タンパク質の構造解析方法。
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