JP2008075079A - 液晶ポリマー組成物の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】本発明は、体積膨張係数が低減されており且つ無機フィラーの凝集が抑制され強度が維持されている液晶ポリマー組成物の製造方法を提供することを目的としている。
【解決手段】本発明に係る液晶ポリマー組成物の製造方法は、無機フィラーの表面に、液晶ポリマー分子を構成するモノマーとの結合能を有する官能基を導入する工程;および官能基が導入された無機フィラーと、液晶ポリマー分子を構成するモノマーを混合し、得られた混合物を重合反応に付す工程;を含むことを特徴とする液晶ポリマー組成物の製造方法。
【選択図】なし
【解決手段】本発明に係る液晶ポリマー組成物の製造方法は、無機フィラーの表面に、液晶ポリマー分子を構成するモノマーとの結合能を有する官能基を導入する工程;および官能基が導入された無機フィラーと、液晶ポリマー分子を構成するモノマーを混合し、得られた混合物を重合反応に付す工程;を含むことを特徴とする液晶ポリマー組成物の製造方法。
【選択図】なし
Description
本発明は、液晶ポリマー組成物を製造する方法に関するものである。
近年、比較的新しい樹脂材料として液晶ポリマーが注目されている。液晶ポリマーは耐熱性や難燃性に優れ高強度で高弾性率を示すことから、スーパーエンジニアリングプラスチックとして有用である。特に、液晶ポリマーは誘電損失が低いなど誘電特性にも優れるので、電子回路基板の絶縁体材料としての利用が期待されている。
ところが液晶ポリマーには、シートやフィルムとした場合、成形方法によっては方向により性質が異なるという異方性の問題がある。即ち、液晶ポリマー分子は剛直な直鎖状分子であり、溶融状態または溶液状態で液晶性を示し、剪断応力を受けた際にその方向に分子配向する。その結果、液晶ポリマー分子の長さ方向とこれに直交する方向とで諸特性に違いがあることから、分子が配向した方向とその他の方向とで異方性が生じる。よって、例えば押出成形によるフィルム成形の場合には、液晶ポリマー分子が押出方向に配向することから、押出方向とその直交方向とで物性に差が生じ、押出方向に裂け易くなるといった問題が生じる。また、熱線膨張係数(以下、「CTE」という)は、液晶ポリマー分子の配向方向では小さく、その直交方向では大きくなるため、液晶ポリマーにおいて方向により大きく値が異なる特性の1つである。
かかる異方性の問題を解決するために、押出成形の後に押出方向と直交する方向へさらに延伸したり、インフレーション成形するといった方法が考案されている。これら方法によれば、フィルム平面内において押出方向だけでなくそれと直交する方向へも分子配向させることが可能となり、結果的に平面方向の分子配向がよりランダムなものとなるので平面方向の異方性を低減することができる。その結果、液晶ポリマーからなるシートの押出方向における「裂け易さ」の問題は改善できる。また、延伸等により液晶ポリマー分子は平面方向に配向することから、平面方向でのCTEは相対的に低く制御することが可能となる。しかしこれら方法によってもなお、依然として問題が残る。
即ち、電子回路基板の絶縁体材料として液晶ポリマーフィルムを用いる場合には、平面方向のCTEを電子基板回路用の導体層のCTEに合わせて小さく制御することが行われている。電子回路基板の導体層は、通常、液晶ポリマーなどの絶縁体フィルム平面上に銅箔をラミネートしたり、銅をスパッタ、蒸着或いはめっきすることにより形成されているが、銅のCTEは16〜17ppm/℃と小さいことから、液晶ポリマーフィルムのCTEを小さくして両者のCTE格差を原因とする反りなどを低減するためである。その上、近年では液晶ポリマーフィルムの厚さ方向のCTEも低減する必要が生じている。しかし、この課題は未だ十分に解決されていない。
近年、電子回路基板の分野では、電子機器の小型化や軽量化の要請から回路基板の軽薄化が求められている。さらに、送受すべき情報の増大や高速化から、回路基板を高密度化する必要がある。そこで回路基板を多層化し、回路基板の平面方向のみでなく厚さ方向でも電気信号を送受することが行われている。
ここで、物質の体積膨張係数は、それぞれの物質に固有の値として一定の値を示す。この体積膨張係数は、下式1の如く、互いに直交する三次元の熱線膨張係数の総和として考えることができる。
式1:体積膨張係数=(熱線膨張係数)A成分+(熱線膨張係数)B成分+(熱線膨張係数)C成分
[上記式中、A、B、Cは互いに直交する三次元の方向軸を示す]
式1:体積膨張係数=(熱線膨張係数)A成分+(熱線膨張係数)B成分+(熱線膨張係数)C成分
[上記式中、A、B、Cは互いに直交する三次元の方向軸を示す]
上記式1に示される関係は、押出成形されたフィルムにおいて、体積膨張係数をCTEvol、フィルムの押出方向(長さ方向)の熱線膨張係数をCTEx、それに直交するフィルム平面の一方向、即ちフィルムの幅方向の熱線膨張係数をCTEy、さらにこれらに直交する方向、即ちフィルムの厚さ方向の熱線膨張係数をCTEzとした時に下式2の通りに表される。
式2:CTEvol=CTEx+CTEy+CTEz
[上記式中、x、y、zは互いに直交する方向を示す]
式2:CTEvol=CTEx+CTEy+CTEz
[上記式中、x、y、zは互いに直交する方向を示す]
上述した通りCTEvolは物質に固有の一定値であることから、CTEx、CTEyおよびCTEzの合計値は常に同じである。従って、延伸などの方法で平面方向のCTEを低減すれば、かえって厚さ方向のCTEが増大してしまうことが容易に理解できる。このことは、多層の電子回路基板において極めて大きな問題となる。
より具体的には、前述した通り、液晶ポリマーのCTEは液晶ポリマー分子の配向方向に小さく、その直交方向には大きくなる。液晶ポリマーを押出成形した場合、液晶ポリマー分子はフィルムの押出方向に強く分子配向しており、フィルム平面内の押出方向と直交する方向、即ちフィルムの幅方向とフィルムの厚さ方向にはほとんど配向していない。上記した延伸法やインフレーション法によれば、分子配向していない二方向のうちフィルムの幅方向にのみ分子配向させることが可能であるので、液晶ポリマー分子の平面方向における配向は押出方向と幅方向とでランダムなものとなり平面方向のCTEを低減することができる。しかしこれら方法では分子を厚さ方向へ配向させることはできず、上記式2に示した関係により厚さ方向のCTEはかえって高くなる。その結果、多層化された電子回路基板においては、回路を形成する銅等と絶縁体である液晶ポリマーフィルムのCTEが厚さ方向で極端に異なることとなり、回路基板の製造時や実際の使用時における温度変化によって、基板の厚さ方向で回路の断線や亀裂が生じてしまう。
液晶ポリマーフィルムの厚さ方向の高いCTEを解消するための技術としては、特許文献1に記載のものがある。当該技術では液晶ポリマーにポリエーテルサルホン等の熱可塑性樹脂をブレンドし、フィルムの厚さ方向のCTEの低減を図っている。しかし、回路の材料として主に用いられる銅のCTEは16〜17ppm/℃であるのに対して、当該技術で達成される厚さ方向のCTEは「270ppmを超えない」とされており、その効果は十分ではない。また、他の熱可塑性樹脂をブレンドすれば液晶ポリマーの特性を十分に活用できないおそれもある。
特許文献2の技術では、平面方向の異方性と強度を改良するために、平均細孔径が10〜500Åの多孔質無機充填剤を添加した液晶ポリマー組成物が開示されている。また、二酸化チタン等の無機粒子の分散安定性等を高めるために、有機物で表面処理された無機粒子を単量体と一緒に懸濁重合して無機/高分子複合粒子とする技術が特許文献3に記載されている。
特開2004−175995号公報(特許請求の範囲)
特開平2−284952号公報(特許請求の範囲、第2頁左上欄、第3頁右下欄)
特開2003−73407号公報(特許請求の範囲、段落0007)
上述した様に、液晶ポリマーフィルム等の平面方向における分子配向の異方性を解消し、それを利用して平面方向のCTEを小さく制御するための技術は実用レベルに達している。また、厚さ方向のCTEを低減するためには、液晶ポリマーより小さいCTEvolを示す無機フィラーを添加することが知られており、当該技術によれば厚さ方向のCTEは実質的に低減できると考えられる。
しかし、液晶ポリマーに無機フィラーを添加すると無機フィラーの液晶ポリマーに対する親和性は低いため、無機フィラーは液晶ポリマーマトリックス中で凝集する傾向にあり、得られる組成物の強度が低下するといった問題がある。また、無機フィラーの添加効果を上げるためには多量のフィラーを加える必要があるが、その場合、特にサーモトロピック液晶ポリマーでは溶融状態での流動性が著しく低下し、押出成形が困難になる。
また、無機フィラーの高分子への分散安定性を高めるために、無機フィラーの存在下にモノマーを重合させ、無機フィラーにポリマーを結合させる技術が特許文献3に記載されている。しかし、特許文献3に記載されているモノマーはアクリレートなどラジカル重合が可能なもののみであり、液晶ポリマーに関しては記載も示唆もされていない。
液晶ポリマー以外の樹脂や無機フィラーなど、液晶ポリマーより小さいCTEを示す成分を混合させる以外に、フィルムの厚さ方向に液晶ポリマー分子を配向させることによりCTEを低減する試みとしては強磁場を用いた方法が検討されている。しかし当該方法では、液晶ポリマーを超電導磁石などによる強磁場中に長時間さらす必要がある。特にサーモトロピック液晶ポリマーでは、液晶ポリマー分子が液晶性を示す高温に保つ必要があることなどから大量処理が困難であり、連続生産性に欠けるために実用的とは言い難い。
そこで本発明が解決すべき課題は、体積膨張係数が低減されており且つ無機フィラーの凝集が抑制され強度が維持されている液晶ポリマー組成物の製造方法を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決すべく、先ず無機フィラーの添加により得られる素材の体積膨張係数(CTEvol)を低減させ、結果として成形方向の直交方向(以下、「厚さ方向」という場合がある)における液晶ポリマー組成物のCTEの低減を図った。そしてさらに無機フィラーの表面に液晶ポリマー分子を結合させることにより、液晶ポリマーマトリックスにおける無機フィラーの分散性を向上させた。その結果、おそらく無機フィラーに結合した液晶ポリマー分子が厚さ方向にも配向することによると考えられるが、厚さ方向におけるCTEがさらに改善できる。また、無機フィラーとして多孔質のものを用いれば、おそらく液晶ポリマーと無機フィラーとの結合力がアンカー効果により高まることによると考えられるが、無機フィラーの分散性や液晶ポリマー組成物自体の強度が向上することを見出して、本発明を完成した。
本発明に係る液晶ポリマー組成物の製造方法は、多孔質無機フィラーの表面に、液晶ポリマー分子を構成するモノマーとの結合能を有する官能基を導入する工程;および、官能基が導入された多孔質無機フィラーと、液晶ポリマー分子を構成するモノマーを混合し、得られた混合物を重合反応に付す工程;を含むことを特徴とする。
多孔質無機フィラーとしては、全孔に占める直径2〜100nmの孔の割合が80%以上であるものが好適である。適度な径の孔を有する多孔質フィラーを用いれば、表面改質剤が孔内に浸入してモノマーとの結合能が生じ、且つそこから液晶ポリマー分子が伸長して無機フィラーと液晶ポリマー分子の結合力が高まり得る。また、孔内表面に結合していない液晶ポリマー分子であっても、孔内空間で分子鎖が成長して見かけ上孔内に液晶ポリマーが入り込んで物理的な“嵌合”状態にもなり、アンカー効果がより効果的に発揮される。その結果、液晶ポリマー組成物の強度がより一層高められる。かかる効果は、特に直径2〜100nmの孔の割合が多いものにおいて発揮される。孔の直径が2nm以上であれば表面改質剤やモノマー分子が孔内に浸入し易くなり得、100nm以下であれば液晶ポリマー分子と無機フィラーとの結合力は維持され得る。
多孔質無機フィラーとしては、直径2〜100nmの孔の体積が0.002cm3/g以上であるものも好適である。孔の直径の分布が適切な多孔質無機フィラーであっても、孔体積が極端に小さい無機フィラーでは上述した効果は十分には期待できない。しかし、直径2〜100nmの孔体積が0.002cm3/g以上であれば、液晶ポリマー分子と多孔質無機フィラーとの結合力の向上効果は十分に発揮され得る。
本発明方法では、官能基が導入された多孔質無機フィラーと、液晶ポリマー分子を構成するモノマーとの混合を、無水酢酸または酢酸の存在下で行うことが好ましい。無水酢酸と酢酸はモノマー等に対して適度な分散または溶解能を有する上に、モノマーの官能基をアシル化により活性化する機能を有し、比較的沸点が低く除去が容易であり、また、着色を生じ難いという利点もある。さらに、モノマーの官能基を活性化して、その反応性を高めるという効果も期待できる。
多孔質無機フィラーの材質としては、シリカ、アルミナ、アルミナシリカ、ゼオライト、ガラス、窒化アルミニウム、炭酸カルシウム、シラス、および珪藻土からなる群より選択される1以上が好適である。
本発明に係る液晶ポリマー組成物では、無機フィラーが配合されているにも関わらず、無機フィラーの凝集が抑制されておりフィラーの凝集を原因とする強度の低下がない。その上、平面方向のみならず厚さ方向のCTEが従来の液晶ポリマー組成物に比して顕著に低減されている。よって、特に多層化された電子回路基板の絶縁体として用いた場合でも、厚さ方向における回路の断線等を防止することができる。従って、本発明に係る方法で製造された液晶ポリマー組成物は、近年、受送信すべき情報の増大から特にCTEに関する要求が厳しくなっている電子回路板の絶縁体等に利用できるものとして、産業上極めて有用である。
本発明に係る液晶ポリマー組成物の製造方法は、多孔質無機フィラーの表面に、液晶ポリマー分子を構成するモノマーとの結合能を有する官能基を導入する工程(以下、「表面改質工程」という);および、官能基が導入された多孔質無機フィラーと、液晶ポリマー分子を構成するモノマーを混合し(以下、「混合工程」という)、得られた混合物を重合反応に付す工程(以下、「重合工程」という);を含むことを特徴とする。以下、実際の実施の順番に従って、本発明方法を説明する。
(1)表面改質工程
本発明方法で用いる多孔質無機フィラーは、熱膨張率が低く、液晶ポリマーからなる成形体の熱膨張率を低減できるものであれば特に制限なく用いることができる。多孔質無機フィラーの材質としては、シリカ、アルミナ、アルミナシリカ、ゼオライト、ガラス、酸化チタン、酸化亜鉛、チタン酸カリウム、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、窒化アルミニウム、ホウ酸アルミニウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、タルク、クレイマイカ、シラス、珪藻土などを挙げることができ、特に利便性の高さから、シリカ、アルミナ、アルミナシリカ、ゼオライト、ガラス、窒化アルミニウム、炭酸カルシウム、シラス、および珪藻土を好適に使用することができる。
本発明方法で用いる多孔質無機フィラーは、熱膨張率が低く、液晶ポリマーからなる成形体の熱膨張率を低減できるものであれば特に制限なく用いることができる。多孔質無機フィラーの材質としては、シリカ、アルミナ、アルミナシリカ、ゼオライト、ガラス、酸化チタン、酸化亜鉛、チタン酸カリウム、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、窒化アルミニウム、ホウ酸アルミニウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、タルク、クレイマイカ、シラス、珪藻土などを挙げることができ、特に利便性の高さから、シリカ、アルミナ、アルミナシリカ、ゼオライト、ガラス、窒化アルミニウム、炭酸カルシウム、シラス、および珪藻土を好適に使用することができる。
多孔質無機フィラーの大きさは、レーザー回折散乱法により測定した平均粒子径で0.1〜500μm程度のものが好適である。平均粒子径が0.1μm以上であればフィラー添加によるCTEの低減効果をより確実に発揮することができ、500μm以下であれば材料の均質性がより高まるからである。なお、本発明における平均粒子径は、島津製作所製の粒度分布計であるSALDシリーズにより多孔質無機フィラーの粒度分布を測定した上で、同装置により求められる平均粒子径をいうものとする。より具体的には、得られた粒度分布の粒子径範囲をn分割し(最大粒子径:x1、最小粒子径:xn+1)、それぞれの粒子径区間[xj、xj+1]での代表粒子径を対数スケールに基づいて以下式により求める。
さらに、qjを粒子径区間[xj、xj+1]に対応する相対粒子量(差分%)とし、全区間の合計を100%とすると、対数スケール上での平均値μは下記式により求められる。
上記平均値μは対数スケール上の数値であるので、平均粒子径は10μとして算出される。
本発明方法で用いる無機フィラーとしては、多孔質のものが好適である。表面に孔が存在しない無機フィラーと異なり、多孔質の無機フィラーであれば表面改質工程において表面改質剤が孔内にも浸入し、且つさらに重合工程において孔内から液晶ポリマー分子が伸長する。その結果、無機フィラーと液晶ポリマー分子との結合力が高まり液晶ポリマー組成物の強度がより一層高められる可能性がある。また、ポリマーが孔内表面へ化学的に結合している場合はもちろん、孔内空間に侵入したモノマーが重合して液晶ポリマー分子鎖が成長し、見かけ上孔内に液晶ポリマーが入り込んだ構造を取り得る。この様に物理的な“嵌合”状態となれば、いわゆるアンカー効果が発揮されることから液晶ポリマー組成物の強度がより一層高められることも期待できる。
一方で、十分に大きな孔サイズを有する多孔質の無機フィラーを直接溶融状態にあるサーモトロピック液晶ポリマーや溶液状態にあるレオトロピック液晶ポリマーに混合することで、ポリマーが孔内に侵入しアンカー効果を発揮すると考えることも不可能ではない。しかし実際は、液晶ポリマーのような直鎖状高分子が多孔質無機フィラーと混合されている環境下においてフィラーの孔に接近する場合、単独の分子鎖として、その断面積が最小となる方向、即ち直鎖がその先端部から孔に侵入するような方向で接近する可能性は極めて低い。よって、単なる混合により液晶ポリマー分子が孔に侵入する可能性は低いといえる。孔サイズが数十μmからサブミリ程度の巨大なものであれば、分子鎖が集合してある体積を持つポリマー塊として孔内に侵入し、アンカー効果を発揮することもあり得る。しかしその場合はフィラーサイズが巨大となり、材料の均質性が損なわれる他、フィラー自体の強度も極端に低下してしまう。
以上の効果をより効果的に発揮するためには、全孔に占める直径2〜100nmの孔の割合が80%以上、或いは直径2〜100nmの孔体積が0.002cm3/g以上であることが好ましい。液晶ポリマーの原料であるモノマーの分子サイズが1nm程度であり、表面改質剤として好適に用いられるシランカップリング剤の活性部位の分子サイズが1nm程度である。従って、直径2nm以上の孔であれば上述した効果が期待できる。一方、孔径が大き過ぎると多孔質無機フィラーの強度が低下するおそれがあるため、孔の直径は100nm以下が好適である。また、適度な径の孔の体積が0.002cm3/g以上であれば、液晶ポリマー分子と多孔質無機フィラーとの結合力の向上効果は十分に発揮され得る。
なお、多孔質無機フィラーにおける孔径と孔の分布、さらに比表面積や孔の体積は、ガス吸着法やHg等の圧入法などにより測定することができる。本発明では、窒素ガス吸着法により得られた孔分布を基にして、孔分布を表すグラフに占める直径2〜100nmの孔の割合が80%以上、或いは直径2〜100nmの孔体積が0.002cm3/g以上である多孔質無機フィラーを好適に用いる。
本発明方法では、多孔質無機フィラーの表面に、液晶ポリマー分子を構成するモノマーとの結合能を有する官能基を導入する。より具体的には、多孔質無機フィラーと親和性を有する化合物であり、且つ液晶ポリマー分子を構成するモノマーとの結合能を有する官能基を有するもので、多孔質無機フィラーの表面を改質処理する。ここで、液晶ポリマーのモノマーは、水酸基、カルボキシル基、アミノ基といった反応性基を有するので、モノマーとの結合能を有する官能基としては、カルボキシル基、イソシアナート基、アミノ基、酸無水物基、水酸基、グリシジル基、エステル基、トリアルコキシシリル基などが挙げられる。
よって、多孔質無機フィラー表面の改質剤としては、上記官能基を有するトリメトキシシランやトリエトキシシランなどのシラン系カップリング剤;上記官能基を有するトリメトキシチタンやトリエトキシチタンなどのチタン系カップリング剤;トリアリルシアヌレートやトリメタアリルシアヌレートなどの反応性架橋剤;トリメリット酸無水物やピロメリット酸無水物などの酸無水物などを挙げることができる。また、液晶ポリマー分子を構成するモノマーを溶解する際の温度、およそ150℃かそれ以上の沸点を有するものが好適であり、例えばγ−アミノプロピルトリエトキシシランやγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランなどを使用することができる。その他、トリアリルシアヌレートやトリメタアリルシアヌレートなどのシアヌレート化合物;トリメリト酸無水物やピロメリット酸無水物などの酸無水物;さらにはアルコキシシランに代表される加水分解性のシリル基を有する重合体とR1 x−Si(OR2)4-xの一般式で示されるアルコキシシランとの混合物または部分縮合体などを挙げることができる。
ここでいう加水分解性のシリル基を有する重合体とアルコキシシランとの混合物または部分縮合体を含む化合物群のうち、本発明においては、耐熱性や耐薬品性の観点から含フッ素系のものが有利である。また、フィラーと液晶ポリマー間の親和性改善のために、含フッ素共重合体に加水分解性シリル基が複数含まれるか、或いは少なくとも1つの加水分解性シリル基と、やはり少なくとも1つ以上の液晶ポリマーの原料モノマーと反応性を有する官能基とを併せ持つものが好ましい。
多孔質無機フィラー表面の改質処理は、多孔質無機フィラーや表面改質剤の種類などに応じた一般的な反応を適用すればよい。例えばシラン系やチタン系のカップリング剤を使用する場合には、カップリング剤を水、メタノール、エタノールやこれらの混合溶媒などで希釈し、或いはさらに酢酸などの酸を加えて加水分解して活性化した後に、多孔質無機フィラーを含浸させる。多孔質無機フィラーの孔内まで改質剤を行き渡らせるために、減圧状態で改質処理を行なってもよい。また、公知方法に準じて室温〜150℃に加温してもよく、0.5〜1時間程度反応を行なえばよい。
次いで、多孔質無機フィラーを濾過などにより溶媒や表面改質剤から分離して乾燥する。この際、乾燥は加熱下や減圧下で行ってもよいし、また、多孔質無機フィラーの二次凝集を防止するためにスプレードライ法や流動層式乾燥法を用いてもよい。ただし、表面改質剤が大過剰に存在することなく、次工程以降で主反応が阻害されるほどに独立した表面改質剤がモノマーと反応するおそれがない場合には、乾燥を行わずにそのまま次工程へ進んでもよい。この場合には、多孔質無機フィラーの二次凝集は起こり難い。
また、得られた多孔質無機フィラーの表面に導入された官能基には、さらに、目的とする液晶ポリマー分子を構成するモノマーの1つを結合させてもよい。例えば、溶媒や触媒の存在下、上記で得られた表面改質無機フィラーとモノマーの1つを混合し、100〜300℃程度で0.5〜5時間反応させることによりモノマーを結合させる。反応終了後は、上記と同様にシリカを分離し乾燥してもよいし、分離することなく反応混合液をそのまま次工程で用いてもよい。
(2)混合工程
次に、官能基が導入された多孔質無機フィラーと、液晶ポリマー分子を構成するモノマーを混合する。ここでのモノマーは、目的物である液晶ポリマーに応じたものを用いる。
次に、官能基が導入された多孔質無機フィラーと、液晶ポリマー分子を構成するモノマーを混合する。ここでのモノマーは、目的物である液晶ポリマーに応じたものを用いる。
液晶ポリマーには、溶融状態で液晶性を示すサーモトロピック液晶ポリマーと、溶液状態で液晶性を示すレオトロピック液晶ポリマーとがある。本発明に係る組成物の液晶ポリマーは何れを用いてもよいが、組成物を押出成形等する場合にはサーモトロピック液晶ポリマーが好適であり、より具体的には、サーモトロピック液晶ポリエステルやサーモトロピック液晶ポリエステルアミドが好ましい。
サーモトロピック液晶ポリエステル(以下、単に「液晶ポリエステル」という)とは、例えば、芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオールや芳香族ヒドロキシカルボン酸などのモノマーを主体として合成される芳香族ポリエステルであって、溶融時に液晶性を示すものである。その代表的なものとしては、パラヒドロキシ安息香酸(PHB)と、テレフタル酸と、4,4’−ビフェノールから合成されるI型[下式(1)]、PHBと2,6−ヒドロキシナフトエ酸から合成されるII型[下式(2)]、PHBと、テレフタル酸と、エチレングリコールから合成されるIII型[下式(3)]が挙げられる。
本発明に係る液晶ポリマーとしては、液晶性(特にサーモトロピック液晶性)を示し且つ本発明の目的を達成し得るものであれば、例えば、上記(1)〜(3)式に示すユニットを主体(例えば、液晶ポリマーの全構成ユニット中、50モル%以上)とし、他のユニットも有する共重合タイプのポリマーであってもよい。他のユニットとしては、例えば、エーテル結合を有するユニット、イミド結合を有するユニット、アミド結合を有するユニットなどが挙げられる。
また、液晶ポリエステルアミドとしては、他のユニットとしてアミド結合を有する上記液晶ポリエステルが該当し、例えば、下式(4)の構造を有するものが挙げられる。例えば、式(4)中、sのユニット、tのユニットおよびuのユニットのモル比が、70/15/15のものが知られている。
本発明で用いる液晶ポリマーは、誘電特性などの特性を過剰に貶めない範囲で液晶ポリマー以外のポリマーを含んでもよい。当該ポリマーは、液晶ポリマーと単に混合されているのみであっても化学結合していてもよい。この様なアロイ用ポリマーとしては、例えば、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルサルホン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアリレートなどが挙げられるが、これらに限定される訳ではない。液晶ポリマーと上記アロイ用ポリマーの混合割合は特に制限されないが、例えば、質量比で50:50〜95:5であることが好ましく、70:30〜90:10であることがより好ましい。液晶ポリマーを含むポリマーアロイも液晶ポリマーによる優れた特性を保有し得る。
本発明では、目的物である液晶ポリマーに応じたモノマーを用いる。例えば、上記で示した液晶ポリマーが所望される場合には、各ユニットを構成する芳香族ジカルボン酸、芳香族ジヒドロキシ化合物、芳香族ヒドロキシカルボン酸などを用いる。また、モノマーの水酸基やアミノ基、カルボキシル基は事前に活性化しておいてもよい。例えば水酸基はアセチル基などのアシル基により活性化することができる。その他、各モノマーはフッ素原子や塩素原子などのハロゲン等の一般的な置換基を有していてもよいし、また、ハロゲン化アルキル基など適当な側鎖を有していても良い。
具体的な混合方法は、主に多孔質無機フィラーとモノマーの状態により適切なものを選択すればよい。例えば、多孔質無機フィラーとモノマーがともに固体状態である場合には、無溶媒でドライブレンドした上で加熱融解してもよい。しかし、この方法では材料の局在化が生じるおそれがあるため好適には分散媒を用いる。ここで用いられる分散媒としては、モノマー等を適度に溶解または分散できるものであれば特に制限はないが、例えばN−メチルピロリドン、無水酢酸、酢酸などを用いることができる。特に、沸点が比較的低く留去し易いことや、得られる液晶ポリマー組成物の着色を抑制でき、さらにモノマーの官能基の活性化作用も有することから無水酢酸または酢酸が好適である。先の表面改質工程において多孔質無機フィラーを分離乾燥しない場合においては、上記分散媒の存在下で表面改質工程の反応液とモノマーを混合してもよい。
多孔質無機フィラーとモノマーの混合割合は特に制限されないが、例えば、モノマー100質量部に対して多孔質無機フィラー1〜300質量部とすることができ、より好ましくは1〜200質量部、さらに好ましくは2〜100質量部とすることができる。また、後の成形加工時の流動性を重視する場合には、モノマー100質量部に対する多孔質無機フィラーの重量部を2〜20重量部にするのがよく、一方で、多孔質無機フィラー添加によるCTE低減効果を重視する場合には、液晶ポリマー100質量部に対する多孔質無機フィラーの重量部を20〜100重量部にするのがよい。
多孔質無機フィラーとモノマーを混合した場合、常温では単純な混合状態であることが多いが、好ましくは懸濁液を攪拌しながら徐々に加熱し、できるだけ均一な状態とする。なお、表面改質された多孔質無機フィラーとモノマーとの混合によって、多孔質無機フィラー表面の官能基の一部がモノマーと結合していることも考えられる。
(3)重合工程
次に、得られた混合物を重合反応に付す。当該工程でモノマーが重合して液晶ポリマーとなるが、その一部は表面改質工程により多孔質無機フィラーの表面に導入された官能基や、さらに当該官能基に結合したモノマーを介して多孔質無機フィラーの表面に結合する。
次に、得られた混合物を重合反応に付す。当該工程でモノマーが重合して液晶ポリマーとなるが、その一部は表面改質工程により多孔質無機フィラーの表面に導入された官能基や、さらに当該官能基に結合したモノマーを介して多孔質無機フィラーの表面に結合する。
重合反応の条件としては一般的なものを採用すればよい。例えば、前工程で得た多孔質無機フィラーとモノマーの混合物を反応容器に導入し、窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガスで反応容器内を置換して反応を進行させる。この際、重合触媒の存在下で反応を行なってもよい。重合触媒としては、マグネシウム、スズ、鉛、ナトリウム、カリウムなどの金属の酢酸塩や、N,N−ジメチルアミノピリジンなどの複素環状有機化合物などを用いることができる。反応時の温度や反応時間は適宜選択すればよく、特に制限されないが、例えば、水や酢酸などの低沸点副生物を留去しつつ150〜350℃程度で0.5〜5時間程度反応させればよい。また、この際の反応温度は多段階に分け、それぞれの温度に達するまでの温度勾配を個別に設定してもよい。
液晶ポリマーの重合反応においては、反応混合物の粘度が急激に上昇し、反応容器からの重合物の取り出しが困難になる場合がある。この様な場合には、反応混合物の粘度が過剰に高まらないうちに反応容器から取り出し、別の反応容器に移し、不活性ガスで当該反応容器内を置換したり、或いは減圧条件下で加熱することにより更に反応を進行させる、いわゆる固相重合工程を採用してもよい。
(4)成形工程
本発明方法で得られた液晶ポリマー組成物は、さらに一般的な方法により成形することにより様々な用途に用いることができる。例えば、フィルム、シート、繊維、不織布、立体成形物などの形状をとることができる。
本発明方法で得られた液晶ポリマー組成物は、さらに一般的な方法により成形することにより様々な用途に用いることができる。例えば、フィルム、シート、繊維、不織布、立体成形物などの形状をとることができる。
従来、成形方向と平行な面における異方性の制御は延伸などで行われてきた。しかし、フィルムやシートの場合、延伸加工は、通常、フィルムのシートの平面における押出方向と直交する方向、即ちフィルムやシートの幅方向のみに成されるものであるため、液晶ポリマー分子はフィルムやシートの平面方向にのみ配向していた。つまり、分子配向によってCTEを低く制御するという効果はフィルムやシートの平面内でのみ期待できる効果であった。一方、延伸等の加工をフィルムやシートの厚さ方向で行うことは実質的には不可能であるため、延伸により厚さ方向へ液晶ポリマー分子が配向することはほとんどなく、成形による分子配向により厚さ方向のCTE(CTEz)を小さくすることはできなかった。
これに対して本発明の組成物では、多孔質無機フィラーの添加により液晶ポリマー組成物材料としてのCTEVOLが低減されているため、その成分であるCTEzを実質的に小さくすることができる。その上、多孔質無機フィラーの表面に任意の方向で結合した液晶ポリマー分子の一部が厚さ方向へ配向しており、また、それにより周辺の液晶ポリマー分子の配向を撹乱して厚さ方向への分子配向成分をさらに加えることによって、CTEzはより一層低減されている。しかも多孔質無機フィラーと液晶ポリマーマトリックスとの親和性が高められているため、多孔質無機フィラーの凝集とそれによる強度の低下も抑制されている。
従って、本発明の液晶ポリマー組成物は、近年、より厳しい精密度や多層化が求められている電子回路基板の絶縁体材料として、特に有効に利用することができる。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
先ず、下記実施例で用いる無機フィラーの粒度と細孔分布を測定した。具体的には、粒度は、粒度分布測定装置(島津製作所製、商品名「SALD−2000J」)を用い、レーザー回折法により測定した。細孔分布は、細孔分布測定装置(島津製作所社製、商品名「ASAP2010」)を用い、窒素ガス吸着法により、解析半径範囲:0.85〜150nmで測定した。結果を表1に示す。また、表1中のフィラーAの微分細孔容積分布を図1に、フィラーDの微分細孔容積分布を図2に、フィラーCの微分細孔容積分布を図3に示す。
実施例1
(1)無機フィラーの表面改質
攪拌装置と還流冷却器を備えたガラス容器(500mL)に、表1のフィラーA(多孔質シリカ、20g)を入れ、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン(8g、信越化学工業製、商品名「KBM−903」)を超純水(152g)に溶解した5重量%溶液を滴下した。次いで、超音波を5分間照射した後、オイルバス浴で110℃に昇温し、1.5時間加熱還流した。反応終了後、無機フィラーを吸引フィルターで濾過し、アセトンで洗浄した後、減圧真空下100℃で2時間、次いで大気下150℃で一晩乾燥した。
(1)無機フィラーの表面改質
攪拌装置と還流冷却器を備えたガラス容器(500mL)に、表1のフィラーA(多孔質シリカ、20g)を入れ、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン(8g、信越化学工業製、商品名「KBM−903」)を超純水(152g)に溶解した5重量%溶液を滴下した。次いで、超音波を5分間照射した後、オイルバス浴で110℃に昇温し、1.5時間加熱還流した。反応終了後、無機フィラーを吸引フィルターで濾過し、アセトンで洗浄した後、減圧真空下100℃で2時間、次いで大気下150℃で一晩乾燥した。
さらに、攪拌装置と還流冷却器を備えたガラス容器(500mL)に、上記無機フィラー(20g)、イソフタル酸(4.0g)、およびN−メチルピロリドン(200mL)を入れて懸濁液とした。当該反応液をオイルバス浴で230〜240℃に昇温し、2時間加熱還流した。反応終了後、無機フィラーを吸引フィルターで濾過し、アセトンで洗浄した後、減圧真空下100℃で2時間、次いで大気下150℃で一晩乾燥した。
(2)表面改質無機フィラーとモノマーとの混合
攪拌装置、トルクメーター、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却器を備えた容器(500mL)に酢酸(20mL)を入れ、上記(1)で得られた表面改質無機フィラー(11.9g)を懸濁させ、さらに4−アセトキシ安息香酸(54g、300mmol)、4,4’−ジアセトキシビフェニル(32.4g、120mmol)、テレフタル酸(12.5g、75mmol)、およびイソフタル酸(7.5g、45mmol)を加えた。反応容器内を窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下(200mL/分)で緩やかに攪拌しつつ、20分間かけて150℃まで昇温した。この際、反応液温度が100℃に達した時点で、無機フィラーとモノマーの混合液は完全に均一な状態であった。反応液温度が150℃に達した後、さらに10分間攪拌した。
攪拌装置、トルクメーター、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却器を備えた容器(500mL)に酢酸(20mL)を入れ、上記(1)で得られた表面改質無機フィラー(11.9g)を懸濁させ、さらに4−アセトキシ安息香酸(54g、300mmol)、4,4’−ジアセトキシビフェニル(32.4g、120mmol)、テレフタル酸(12.5g、75mmol)、およびイソフタル酸(7.5g、45mmol)を加えた。反応容器内を窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下(200mL/分)で緩やかに攪拌しつつ、20分間かけて150℃まで昇温した。この際、反応液温度が100℃に達した時点で、無機フィラーとモノマーの混合液は完全に均一な状態であった。反応液温度が150℃に達した後、さらに10分間攪拌した。
(3)重合反応
上記(2)に引き続き、窒素ガス気流下(200mL/分)で無機フィラーとモノマーの混合液の攪拌を継続し、酢酸を留去しながら2時間かけて320℃まで昇温し、さらに320℃で1時間攪拌して重合反応を進行させた。この過程で反応物の重合が進み、反応物の粘度が上昇した後に10分間かけて減圧し、さらに30分間反応を行った。得られた重合物を粉砕し、150℃で8時間乾燥した。
上記(2)に引き続き、窒素ガス気流下(200mL/分)で無機フィラーとモノマーの混合液の攪拌を継続し、酢酸を留去しながら2時間かけて320℃まで昇温し、さらに320℃で1時間攪拌して重合反応を進行させた。この過程で反応物の重合が進み、反応物の粘度が上昇した後に10分間かけて減圧し、さらに30分間反応を行った。得られた重合物を粉砕し、150℃で8時間乾燥した。
(4)固相重合反応
窒素ガス導入管を備えた固相重合容器(200mL)に上記(3)の重合物(約30g)を入れ、容器内を窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下(200mL/分)、1時間かけて250℃まで昇温し、250℃で3時間保持した。次いで、窒素ガス気流下で室温まで放冷し、液晶ポリマー組成物を得た。
窒素ガス導入管を備えた固相重合容器(200mL)に上記(3)の重合物(約30g)を入れ、容器内を窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下(200mL/分)、1時間かけて250℃まで昇温し、250℃で3時間保持した。次いで、窒素ガス気流下で室温まで放冷し、液晶ポリマー組成物を得た。
実施例2
表1のフィラーAの代わりにフィラーC(多孔質シリカ、20g)を用いた以外は実施例1と同様にして液晶ポリマー組成物を得た。
表1のフィラーAの代わりにフィラーC(多孔質シリカ、20g)を用いた以外は実施例1と同様にして液晶ポリマー組成物を得た。
比較例1
上記実施例1の工程(2)において、工程(1)で得た表面改質無機フィラーを添加することなくモノマーを混合し、続いて工程(3)の重合反応を行った。工程(3)においては、モノマーの混合物を320℃で1時間保持し、重合が進行して反応物の粘度が上昇したことを確認した後に、工程(1)と同様の方法で表面を改質した無機フィラーAを混合した。次いで工程(4)の固相重合反応を経て、液晶ポリマー組成物を得た。
上記実施例1の工程(2)において、工程(1)で得た表面改質無機フィラーを添加することなくモノマーを混合し、続いて工程(3)の重合反応を行った。工程(3)においては、モノマーの混合物を320℃で1時間保持し、重合が進行して反応物の粘度が上昇したことを確認した後に、工程(1)と同様の方法で表面を改質した無機フィラーAを混合した。次いで工程(4)の固相重合反応を経て、液晶ポリマー組成物を得た。
比較例2
上記実施例1において、工程(1)の表面改質を行わないフィラーAを用いた以外は同様にして、液晶ポリマー組成物を得た。
上記実施例1において、工程(1)の表面改質を行わないフィラーAを用いた以外は同様にして、液晶ポリマー組成物を得た。
比較例3
上記比較例1において、工程(1)の表面改質を行わないフィラーAを用いた以外は同様にして、液晶ポリマー組成物を得た。
上記比較例1において、工程(1)の表面改質を行わないフィラーAを用いた以外は同様にして、液晶ポリマー組成物を得た。
比較例4
上記実施例1において、フィラーD(無孔質シリカ)を用いた以外は同様にして、液晶ポリマー組成物を得た。
上記実施例1において、フィラーD(無孔質シリカ)を用いた以外は同様にして、液晶ポリマー組成物を得た。
比較例5
上記比較例2において、フィラーD(無孔質シリカ)を用いた以外は同様にして、液晶ポリマー組成物を得た。
上記比較例2において、フィラーD(無孔質シリカ)を用いた以外は同様にして、液晶ポリマー組成物を得た。
比較例6
無機フィラーを用いることなく上記実施例1の工程(2)〜(4)を行うことによって、液晶ポリマー組成物を得た。
無機フィラーを用いることなく上記実施例1の工程(2)〜(4)を行うことによって、液晶ポリマー組成物を得た。
比較例7
上記実施例2の工程(2)において、工程(1)で得た表面改質無機フィラーを添加することなくモノマーを混合し、続いて工程(3)の重合反応を行った。工程(3)においては、モノマーの混合物を320℃で1時間保持し、重合が進行して反応物の粘度が上昇したことを確認した後に、工程(1)と同様の方法で表面を改質した無機フィラーCを混合した。次いで工程(4)の固相重合反応を経て、液晶ポリマー組成物を得た。
上記実施例2の工程(2)において、工程(1)で得た表面改質無機フィラーを添加することなくモノマーを混合し、続いて工程(3)の重合反応を行った。工程(3)においては、モノマーの混合物を320℃で1時間保持し、重合が進行して反応物の粘度が上昇したことを確認した後に、工程(1)と同様の方法で表面を改質した無機フィラーCを混合した。次いで工程(4)の固相重合反応を経て、液晶ポリマー組成物を得た。
比較例8
上記実施例2において、工程(1)の表面改質を行わないフィラーCを用いた以外は同様にして、液晶ポリマー組成物を得た。
上記実施例2において、工程(1)の表面改質を行わないフィラーCを用いた以外は同様にして、液晶ポリマー組成物を得た。
比較例9
上記比較例7において、工程(1)の表面改質を行わないフィラーCを用いた以外は同様にして、液晶ポリマー組成物を得た。
上記比較例7において、工程(1)の表面改質を行わないフィラーCを用いた以外は同様にして、液晶ポリマー組成物を得た。
試験例1 熱線膨張係数(CTE)の評価
得られた液晶ポリマー組成物の流動性を、JIS K7210に準拠して測定した。詳しくは、フローテスター(島津製作所社製、商品名「CFT500」)において、ダイ径φ:1mm、ダイ長:10mm、荷重:20kgfに設定し、液晶ポリマー組成物をシリンダ内にセットし、先ず270℃で180秒保持した後、昇温速度:4℃/分で昇温し、動粘度:10,000Pを示す際の温度を求めた。
得られた液晶ポリマー組成物の流動性を、JIS K7210に準拠して測定した。詳しくは、フローテスター(島津製作所社製、商品名「CFT500」)において、ダイ径φ:1mm、ダイ長:10mm、荷重:20kgfに設定し、液晶ポリマー組成物をシリンダ内にセットし、先ず270℃で180秒保持した後、昇温速度:4℃/分で昇温し、動粘度:10,000Pを示す際の温度を求めた。
続いて、液晶ポリマー組成物のCTEを、JIS K7197に準拠して測定した。先ず、真空加熱プレス装置によって、液晶ポリマー組成物を縦10cm×横10cm×厚さ100μmのフィルム、および縦10cm×横10cm×厚さ400μmのシートに成形した。この際の温度は、上記で求めた動粘度:10,000Pを示す際の温度より20℃高い温度とした。得られたフィルムを幅5mm×長さ25mmの小片に切り出し、シートは縦10mm×横10mmの小片に切り出し、TMA分析装置(セイコーインスツルメンツ社製、商品名「TMA−100」)にセットし、加熱温度:10℃/分で35℃から260℃まで加熱した後の降温領域において、50〜100℃、100〜150℃、および150〜200℃の範囲において、CTEx、CTEyとCTEzを測定した。ここで、通常、シートは押出成形により製造され、そのCTEは押出方向とそれに直交する方向で測定するが、上記では圧縮成形により厚さ100μmのフィルムを製造し、平面方向の任意の一方向とそれに直交する他の一方向のCTEを引張モードで測定し、これを適宜CTExおよびCTEyとした上で、面内CTE(CTEx-y)を下式によって求めた。
面内CTE:CTEx-y = 1/2(CTEx+CTEy)
面内CTE:CTEx-y = 1/2(CTEx+CTEy)
また、別途製造した厚さ400μmのシートの厚さ方向のCTEを圧縮モードで測定して、厚さ方向CTE(CTEz)とした。さらに、体積膨張係数(CTEvol)を下記式により求めた。結果を表2に示す。
CTEvol = 2 × CTEx-y + CTEz
CTEvol = 2 × CTEx-y + CTEz
試験例2 機械的強度の評価
液晶ポリマー組成物の機械的強度を、JIS K7127に準拠して測定した。詳しくは、上記試験例1と同様にして得たシートを試験片タイプ5形状にカットし、引張試験機(ORIENTEC社製、商品名「TENSIRON RTC−1210A」)にセットし、引張速度:50mm/分で引っ張り、破断する際の最大点応力を求めた。結果を表2に示す。
液晶ポリマー組成物の機械的強度を、JIS K7127に準拠して測定した。詳しくは、上記試験例1と同様にして得たシートを試験片タイプ5形状にカットし、引張試験機(ORIENTEC社製、商品名「TENSIRON RTC−1210A」)にセットし、引張速度:50mm/分で引っ張り、破断する際の最大点応力を求めた。結果を表2に示す。
試験例3 無機フィラー分散性の評価
上記試験例1と同様にして得られたシートの表面を、走査型電子顕微鏡(日立製作所社製、商品名「S−3500N」)によって倍率1,000倍で観察し、得られた表面像の126μm×85μmの領域に含まれる直径5μm以上の凝集塊の個数を求めた。結果を表2に示す。なお、表2中「−」は未測定であることを示す。
上記試験例1と同様にして得られたシートの表面を、走査型電子顕微鏡(日立製作所社製、商品名「S−3500N」)によって倍率1,000倍で観察し、得られた表面像の126μm×85μmの領域に含まれる直径5μm以上の凝集塊の個数を求めた。結果を表2に示す。なお、表2中「−」は未測定であることを示す。
表2の通り、最大点応力により機械的強度を比較した場合、比較例2〜5の液晶ポリマー組成物の強度は、無機フィラーを添加していない比較例6の組成物よりも低い。その原因は、有機化合物である液晶ポリマーマトリックスと無機フィラーとの親和性が低いために無機フィラーが凝集し、本来、強度を高めるためにも添加される無機フィラーの特性が有効に発揮されないことにあると考えられる。
一方、表面積の大きい多孔質無機フィラーをシランカップリング剤により表面改質した比較例1の組成物は、液晶ポリマーマトリックスと無機フィラーとの親和性が改善していることから、無機フィラーが添加されていない比較例6の組成物よりも強度は高い。しかし、その効果は必ずしも十分とはいえない。
以上に対して、表面改質された多孔質フィラーを用い、事前に当該フィラーとモノマーを混合した上で重合させた実施例1の組成物は、十分な機械的強度を有する。その理由としては、無機フィラーの表面へ結合した液晶ポリマー分子により液晶ポリマーマトリックスとの親和性が顕著に改善されている上に、液晶ポリマー分子が適度な径の細孔へ入り込み、アンカー効果が発揮されることによると考えられる。
また、表面改質された多孔質無機フィラーと液晶ポリマーの原料モノマーとを分散媒の存在下で均一に混合する工程を経る実施例1の組成物では、凝集塊の数が低減されており、材料の均一性が顕著に改善されている。無機フィラーを表面改質処理に付さない例でも、かかる混合工程を経た比較例2の組成物でも、凝集塊の数は比較的少ない。
その一方で、無機フィラーの表面改質処理の有無に関わらず、重合反応後に液晶ポリマーと無機フィラーを混合した比較例1と比較例3の組成物では凝集塊の数は多い。
以上より、重合工程前に無機フィラーとモノマーを混合する工程が、凝集塊の低減に重要であることが分かる。
次に、CTEの低減効果につき考察する。
従来、液晶ポリマーより小さいCTEを示す無機フィラーを添加することで、液晶ポリマー組成物のCTEvolは低減することが知られている。しかし、無機フィラー無添加の比較例6と、表面改質処理を施していない多孔質無機フィラーとモノマーを混合した上で重合させた比較例2の結果によれば、100〜150℃および150〜200℃の領域においてはCTEvolの低減が観察されるが、50〜100℃の領域ではフィラー添加によるCTEvol低減効果は見られない。フィラーAの代わりにフィラーCを用いた以外は同様の比較例8では、100〜150℃の領域ではCTEvolの低減が観察されるが、50〜100℃と150〜200℃の領域ではCTEvol低減効果は見られない。
一方、表面改質した多孔質無機フィラーとモノマーを混合した上で重合させた実施例1と実施例2の組成物では、50〜100℃、100〜150℃および150〜200℃の全温度領域において、比較例6に比して、顕著なCTEvolの低減が観察された。
以上の通り、機械的強度と均一性が高く、CTEvol(体積膨張係数)が低減された液晶ポリマー組成物を得るには、
(1)多孔質の無機フィラーを用い、
(2)無機フィラーを、その表面が液晶ポリマーの原料であるモノマーとの反応性を示す様に表面改質し、
(3)表面改質した無機フィラーを事前にモノマーと混合した上で重合させる、ことが重要であることが実証された。
(1)多孔質の無機フィラーを用い、
(2)無機フィラーを、その表面が液晶ポリマーの原料であるモノマーとの反応性を示す様に表面改質し、
(3)表面改質した無機フィラーを事前にモノマーと混合した上で重合させる、ことが重要であることが実証された。
Claims (5)
- 液晶ポリマー組成物の製造方法であって、
多孔質無機フィラーの表面に、液晶ポリマー分子を構成するモノマーとの結合能を有する官能基を導入する工程;および
上記官能基が導入された多孔質無機フィラーと、液晶ポリマー分子を構成するモノマーを混合し、得られた混合物を重合反応に付す工程;
を含むことを特徴とする液晶ポリマー組成物の製造方法。 - 多孔質無機フィラーにおいて、全孔に占める直径2〜100nmの孔の割合が80%以上である請求項1に記載の液晶ポリマー組成物の製造方法。
- 多孔質無機フィラーにおいて、直径2〜100nmの孔体積が0.002cm3/g以上である請求項1または2に記載の液晶ポリマー組成物の製造方法。
- 官能基が導入された多孔質無機フィラーと、液晶ポリマー分子を構成するモノマーとの混合を、無水酢酸または酢酸存在下で行う請求項1〜3の何れかに記載の液晶ポリマー組成物の製造方法。
- 多孔質無機フィラーの材質が、シリカ、アルミナ、アルミナシリカ、ゼオライト、ガラス、窒化アルミニウム、炭酸カルシウム、シラス、および珪藻土からなる群より選択される1以上である請求項1〜4の何れかに記載の液晶ポリマー組成物の製造方法。
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