JP2006036746A - 赤潮原因藻駆除剤、及びそれを用いる赤潮防御方法 - Google Patents

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啓寿 村上
Osamu Tamura
理 田村
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Abstract

【課題】赤潮を発生させる原因藻として知られている渦鞭毛藻に対して高い殺藻活性を有し、且つ魚毒性の低い実用的な赤潮原因藻駆除剤を提供する。
【解決手段】下式(1):
【化1】
Figure 2006036746

(式中、R1、R2、R3、R4、及びR5は、同一または異なって、水素原子、ハロゲン原子または低級アルキル基を;R6は酸素原子、窒素原子または硫黄原子を;またR7は水素原子、アシル基、低級アルコキシカルボニル基、低級アルキルカルバモイル基、または低級アルキル基を示す。)
で示される1,4-ナフトキノン誘導体またはその塩を有効成分とする赤潮原因藻駆除剤。
【選択図】なし

Description

本発明は、赤潮原因藻駆除剤に関する。より詳細には、本発明は赤潮を発生させる原因藻として知られている渦鞭毛藻に対して高い殺藻活性を有し、且つ魚毒性の低い、実用的な赤潮原因藻駆除剤に関する。
さらに、本発明は上記赤潮原因藻駆除剤を用いた赤潮防御方法に関する。
プランクトンの異常発生によって引き起こされる赤潮は漁業、養殖業に対して甚大な被害をもたらしている。渦鞭毛藻 Heterocapsa circularisquamaは1995年に新種として記載された海水域に生育する単細胞生物で、本藻の異常発生による赤潮が真珠貝やアサリ、マガキなど貝類に対し大きな被害を与えており、現在非常に深刻な問題となっている。しかしながら、本藻に対する対策は検討されているものの、未だ有効と思われる手段が開発されていないのが現状である。
本藻による赤潮防御方法として、たとえば、特許文献1では、キチンや活性炭を用いて赤潮の原因となる藻類の増殖を抑制する方法が報告されている。しかしながら、当該方法による効果は藻類の増殖抑制効果に止まるものであって殺藻効果までは認められないこと、また藻類増殖抑制効果を得るにも1000〜2000ppmという高濃度のキチンまたは活性炭が必要であるという短所がある。特許文献2では、オキシエチレン構造を有するアルコールの脂肪酸エステルが殺藻物質として提案されているが、いずれの化合物も殺藻活性を発揮するには30ppm以上の濃度が必要とされている。特許文献3では、合成ヒドロキシ脂肪酸が殺藻物質として報告されているが、最も殺藻活性が強い化合物でも0.3ppm以上の濃度が必要であるとされている。特許文献4では、本赤潮原因藻に特異的に感染して溶解除藻するウィルスを用いて赤潮を防御する方法が提案されているものの、自然界にウィルスを散布した後の変異による病原性の発現が大きく危惧される。
特開2002−212015 特開2003−292401 特開2002−348264 特開2001−231550
本発明は、特に赤潮の原因となる藻類、特に渦鞭毛藻類に対して優れた殺藻活性を有する一方で、魚毒性の低く安全性の高い赤潮原因藻駆除剤を提供することを目的とする。さらに本発明は、当該赤潮原因藻駆除剤を用いた赤潮防御方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記目的を達成するために日夜鋭意検討していたところ、クルミ科植物のJuglans regia L.の葉部の抽出画分に、赤潮原因藻である渦鞭毛藻、特にヘテロカプサ・サーキュラリスカーマ(Heterocapsa circularisquama)に対して優れた殺藻活性があることを見いだし、その活性成分がナフトキノン誘導体であることを見いだした。本発明は、かかる知見に基づいて、完成したものである。
すなわち、本発明は下記に掲げる赤潮原因藻駆除剤に関するものである。
項1.下式(1):
Figure 2006036746
(式中、R1、R2、R3、R4、及びR5は、同一または異なって、水素原子、ハロゲン原子または低級アルキル基を;R6は酸素原子、窒素原子または硫黄原子を;またR7は水素原子、アシル基、低級アルコキシカルボニル基、低級アルキルカルバモイル基、または低級アルキル基を示す。)
で示される1,4-ナフトキノン誘導体またはその塩を有効成分とする赤潮原因藻駆除剤。
項2.式(1)で示される1,4-ナフトキノン誘導体が、R6として酸素原子、R7として水素原子を有するものである、請求項1に記載する赤潮原因藻駆除剤。
項3.上記 1,4-ナフトキノン誘導体が、下式(2):
Figure 2006036746
で示される5-ヒドロキシナフトキノンである、項1に記載する赤潮原因藻駆除剤。
項4.赤潮原因藻が渦鞭毛藻類(渦鞭毛藻網)に属する藻である、項1乃至3のいずれかに記載する赤潮原因藻駆除剤。
なお、上記の赤潮原因藻駆除剤は、赤潮の原因となる藻を駆除することによって赤潮の発生を予防・抑制ないしは赤潮の拡大を予防できるものであることから、赤潮防御剤として位置づけることもできる。
さらに本発明は下記に掲げる赤潮防御方法に関するものである。
項4.上記項1乃至3のいずれかに記載する赤潮原因藻駆除剤を、赤潮が発生若しくはその可能性のある海域に供する工程を有する赤潮防御方法。
項5.赤潮原因藻が渦鞭毛藻類に属する藻である、項4に記載する赤潮防御方法。
以下、本発明について説明する。
(1)赤潮原因藻駆除剤
本発明の赤潮原因藻駆除剤は、下式(1)で示される1,4-ナフトキノン誘導体またはその塩を有効成分として含有することを特徴とする。
Figure 2006036746
(式中、R1、R2、R3、R4、及びR5は、同一または異なって、水素原子、ハロゲン原子、または低級アルキル基を;R6は酸素原子、窒素原子または硫黄原子を;またR7は水素原子、アシル基、低級アルコキシカルボニル基、低級アルキルカルバモイル基、または低級アルキル基を示す。)
ここでR1、R2、R3、R4、またはR5で示されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子を挙げることができる。好ましくは、塩素原子、臭素原子である。
またR1、R2、R3、R4、R5またはR7で示される低級アルキル基は、炭素数1〜6の直鎖状または分枝状のアルキル基を意味する。具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、第三級ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、及びn−ヘキシル基を挙げることができる。好ましくは、メチル基、及びエチル基である。
7で示される低級アルコキシカルボニル基または低級アルキルカルバモイル基において用いられる低級アルキル基としても上記のものを挙げることができる。
ここで低級アルキルカルボニル基として、具体的にはメチルカルボニル基、エチルカルボニル基、n−プロピルカルボニル基、イソプロピルカルボニル基、n−ブチルカルボニル基、イソブチルカルボニル基、sec−ブチルカルボニル基、n−ペンチルカルボニル基、イソペンチルカルボニル基、及びn−ヘキシルカルボニル基を挙げることができる。好ましくはメチルカルボニル基、及びエチルカルボニル基である。
低級アルキルカルバモイル基として、具体的にはメチルカルバモイル基、エチルカルバモイル基、n−プロピルカルバモイル基、イソプロピルカルバモイル基、n−ブチルカルバモイル基、イソブチルカルバモイル基、sec−ブチルカルバモイル基、n−ペンチルカルバモイル基、イソペンチルカルバモイル基、及びn−ヘキシルカルバモイル基を挙げることができる。好ましくはメチルカルバモイル基、及びエチルカルバモイル基である。
また、R7で示されるアシル基としては、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基、イソバレリル基、及びヘキサノイル基を挙げることができる。好ましくは、アセチル基及びプロピオニル基を挙げることができる。
1は、好ましくは水素原子または塩素原子であり、より好ましくは水素原子;R2は、好ましくは水素原子またはメチル基であり、より好ましくは水素原子;R3は、好ましくは水素原子またはメチル基であり、より好ましくは水素原子;R4は、好ましくは水素原子または塩素原子、より好ましくは水素原子;R5は、好ましくは水素原子または塩素原子、より好ましくは水素原子;R6は、好ましくは酸素原子または硫黄原子、より好ましくは酸素原子;R7は、好ましくは水素原子またはアセチル基、より好ましくは水素原子である。
一般式(1)で示される1,4-ナフトキノン誘導体のうち好適な化合物は、R6として酸素原子、R7として水素原子を有する化合物である。
上記一般式(1)で示される1,4-ナフトキノン誘導体に含まれる具体的な化合物としては、下式(2)で示される5-ヒドロキシナフトキノン(5-hydroxynaphthoquinone、 5-hydroxy-1,4-naphthalenedione、CAS Registry Number:481-39-0)を挙げることができる。
Figure 2006036746
当該式(2)で示される5-ヒドロキシナフトキノンは、化学的に合成することもできるが、実施例で示すように、植物、具体的にはJuglans regia L.を原料として抽出単離することによって調製することもできる。
Juglans regia L.から5-ヒドロキシナフトキノン(2)を単離調製する場合、原料として使用するJuglans regia L.は、全草であってもまたその一部であってもよい。好ましくは葉または葉を含む部分である。
当該5-ヒドロキシナフトキノン(2)の調製は、制限はされないが、例えば、(1) Juglans regia L.の全草またはその一部(好ましくは葉または葉を含む部分)を、有機溶媒を含む溶媒で抽出処理する工程、及び(2)当該工程で得られる抽出画分を吸着処理する工程を経て行うことができる。
Juglans regia L.の抽出処理は、抽出溶媒中に、生または乾燥処理したJuglans regia L.の全草またはその一部(好ましくは、葉)の粗末又は細切物を、低温、加温または煮沸条件下で浸漬する方法;低温、加温または煮沸条件下で攪拌しながら抽出を行う方法;またはパーコレーション法等によって行うことができる。かかる抽出に用いられる抽出溶媒としては、特に制限されないが、水、低級アルコール、またはこれらの混合物を挙げることができる。好ましくは低級アルコールである。ここで低級アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、及びブタノール等の炭素数1〜4の低級アルコールを例示することができる。
なお、抽出処理は、上記方法によって得られた抽出物について、さらに同一または異なる抽出溶媒を用いて、1回若しくは複数回繰り返し行うこともできる。例えば、上記の抽出処理で得られた抽出画分を、さらに水と非極性有機溶媒との混合液を抽出溶媒として用いて、抽出処理する方法を挙げることができる。ここで非極性有機溶媒としては、n−ヘキサンや酢酸エチル等を挙げることができる。
より具体的な抽出方法としては、実施例で示すように、(a) Juglans regia L.の全草またはその一部(好ましくは、葉)を、低級アルコールで抽出し、(b) 得られたアルコール抽出物を水と酢酸エチルの混合溶媒で抽出した後、層分離し、さらに(c) 得られた水層画分をn-ブタノールで抽出し、次いで層分離し、n-ブタノール抽出画分を分取する方法を挙げることができる。
得られたn-ブタノール抽出画分は、必要に応じて濾過、共沈または遠心分離によって固形物を除去した後、そのまま若しくは濃縮して、次の処理工程に供することができる。
吸着処理は、当業界における常法に従って行うことができる。例えば活性炭、シリカゲルまたは多孔質セラミックなどによる吸着処理;スチレン系のデュオライトS-861(商標「Duolite」, U.S.A.ダイヤモンド・シャムロック社製、以下同じ)、デュオライトS-862、デュオライトS-863又はデュオライトS-866;芳香族系のセパビーズSP70(商標「セパビーズ」、三菱化学(株)製、以下同じ)、セパビーズSP700、セパビーズSP825;ダイアイオンHP10(商標「ダイアイオン」、三菱化学(株)製、以下同じ)、ダイアイオンHP20、ダイアイオンHP21、ダイアイオンHP40、及びダイアイオンHP50;アンバーライトXAD-4(商標「アンバーライト」、オルガノ製、以下同じ)、アンバーライトXAD-7、アンバーライトXAD-2000などの合成吸着樹脂;あるいはCosmosil 75C18-OPN(ナカライテスク社)等のODS系の吸着樹脂を用いた吸着樹脂処理を挙げることができる。
かかる吸着処理において、Juglans regia L.の抽出物またはその処理物を樹脂担体に供して、夾雑物を樹脂に吸着させて、5-ヒドロキシナフトキノン(2)を含む画分を溶出取得するか、または5-ヒドロキシナフトキノン(2)を樹脂に吸着させた後に、樹脂を洗浄して夾雑物を除去し、次いで適当な溶出液で5-ヒドロキシナフトキノン(2)を樹脂から脱離溶出させる方法を採用することができる。また、HPLC等を用いて5-ヒドロキシナフトキノン(2)のピーク画分を取得する方法も採用できる。さらに、必要に応じてイオン交換処理や晶析処理などを行うこともできる。なお、5-ヒドロキシナフトキノン(2)の調製方法の詳細は、後述する実施例の記載が参照できる。
斯くして得られる、5-ヒドロキシナフトキノン(2)は、後述する実施例で示すように、赤潮原因藻に対して優れた殺藻活性を有し、且つ魚毒活性が少ないため、赤潮原因藻駆除剤または赤潮防御剤の有効成分として有効に利用することができる。
なお、赤潮原因藻としては、特に渦鞭毛藻類に属する藻が良く知られている。渦鞭毛藻類に属する藻としては、ヘテロカプサ属(Heterocapsa)に属する藻を好適に挙げることができる。なお、ヘテロカプサ属(Heterocapsa)に属する藻には、例えばヘテロカプサ・サーキュラリスカーマ、ヘテロカプサ・トリケトラ、及びヘテロカプサ・イルデフィナ等が含まれる。中でもヘテロカプサ・サーキュラリスカーマ(Heterocapsa circularisquama)は、これまで赤潮に強いといわれていたカキ、アサリ及びアコヤ貝などの二枚貝類までをも生物群特異的に斃死させる性質を有しており、養殖産業に深刻な被害をもたらす藻である。ゆえに、当該ヘテロカプサ・サーキュラリスカーマの生育に対して優れた阻害活性(殺藻活性)を有する化合物は、赤潮原因藻駆除剤の有効成分として極めて有用である。
なお、一般式(1)で示される各種の1,4-ナフトキノン誘導体は、例えば1,5-ナフタレンジオール(3)または1,5-ジニトロナフタレン(6)を出発原料として、当業界の技術常識に従って調製することができる。
一例として、下式に、1,5-ナフタレンジオール(3)を出発原料として、一般式(1)においてR1,R4及びR7が水素原子、R6が酸素原子、R2、R3及びR5が低級アルキル基(メチル基、エチル基、またはプロピル基)である1,4-ナフトキノン誘導体の合成方法を記載する。
Figure 2006036746
(上記式中、R2、R3及びR5は、低級アルキル基(メチル基、エチル基、またはプロピル基)を示す。)
上記反応式において、A工程及びB工程は、次のようにして実施することができる。
A工程:1,5-ナフタレンジオール(3)をベンゼンに溶解し、三臭化アルミニウムおよび臭化アルキル(臭化メチル、臭化エチル、臭化プロピル)を加えて室温で30分攪拌する。抽出およびカラムクロマトによる精製によってアルキル化体(4)(R2、R3及びR5はアルキル基:メチル基、エチル基、またはプロピル基)を得る。
B工程:上記アルキル化体(4)をアセトニトリル−水に溶解し、ビス(トリフルオロアセトキシ)ヨードベンゼンを加え0℃で2時間攪拌する。抽出およびカラムクロマトによる精製によって、上記5-ヒドロキシナフトキノンのアルキル化体(5)(R2、R3及びR5はアルキル基:メチル基、エチル基、またはプロピル基)を得る。
また、下式に、1,5-ジニトロナフタレン(6)を出発原料として、一般式(1)においてR1、R2、R3、R4、R5、R6及びR7が各種の基を有する1,4-ナフトキノン誘導体の合成方法を記載する。
Figure 2006036746
(上記式中、R1、R2、R3、R4及びR5は低級アルキル基またはハロゲン原子;R6は酸素原子、窒素原子または硫黄原子;R7は水素原子、アシル基、低級アルコキシカルボニル基、低級アルキルカルバモイル基、または低級アルキル基を示す。)。
上記反応式において、C工程〜I工程は、次のようにして実施することができる。
C工程
(1)1,5-ジニトロナフタレン(6)をジクロロメタンに溶解し、N-クロロスクシンイミド、またはN-ブロモスクシンイミド、またはN-ヨードスクシンイミドまたはN-フルオロピリジンを加えて加熱還流下2時間攪拌する。抽出およびカラムクロマトによる精製によってハロゲン化体(7) (R1及びR4はハロゲン原子:フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子)を得る。
(2)1,5-ジニトロナフタレン(6)をベンゼンに溶解し、三臭化アルミニウムおよび臭化アルキル(臭化メチル、臭化エチル、臭化プロピル)を加えて室温で30分攪拌する。抽出およびカラムクロマトによる精製によってアルキル化体(7) (R1及びR4はアルキル基:メチル基、エチル基、またはプロピル基)を得る。
D工程:
上記C工程で得られたハロゲン化体(7)またはアルキル化体(7)を、1N 水酸化ナトリウム水溶液に溶解し、氷冷下、亜硝酸ナトリウムを徐々に添加する。氷冷下で反応液を1時間攪拌し、1N 塩酸を滴下して反応液をpH 3にして、抽出操作を行い1,5-ナフタレンジオールのハロゲン化体またはアルキル化体(8)を得る。
E工程:
1,5-ナフタレンジオールのハロゲン化体またはアルキル化体(8)をアセトニトリル−水に溶解し、ビス(トリフルオロアセトキシ)ヨードベンゼンを加え0℃で2時間攪拌する。抽出およびカラムクロマトによる精製によって、5-ヒドロキシナフトキノンのハロゲン化体(9)(R1及びR4はハロゲン原子)またはアルキル化体(9)(R1及びR4はアルキル基)を得る。
F工程:
(1)1,5-ナフタレンジオールのハロゲン化体(8) (R1及びR4はハロゲン原子)またはアルキル化体(8) (R1及びR4はアルキル基)をジクロロメタンに溶解し、N-クロロスクシンイミドまたはN-ブロモスクシンイミドまたはN-ヨードスクシンイミドを加えて室温で30分攪拌する。あるいはN-フルオロピリジンを加えて加熱還流下1時間攪拌する。抽出およびカラムクロマトによる精製によって1,5-ナフタレンジオールの誘導体(10)(R1、R2、R3、R4、及びR5がハロゲン原子である1,5-ナフタレンジオール誘導体:またはR1及びR4がアルキル基で、R2、R3及びR5がハロゲン原子である1,5-ナフタレンジオール誘導体)を得る。
(2)1,5-ナフタレンジオールのハロゲン化体(8) (R1及びR4はハロゲン原子)またはアルキル化体(8) (R1及びR4はアルキル基)をベンゼンに溶解し、三臭化アルミニウムおよび臭化アルキル(臭化メチル、臭化エチル、臭化プロピル)を加えて室温で30分攪拌する。抽出およびカラムクロマトによる精製によって1,5-ナフタレンジオールの誘導体(10)(R1、R2、R3、R4、及びR5がアルキル基である1,5-ナフタレンジオール誘導体:またはR1及びR4がハロゲン原子で、R2、R3及びR5がアルキル基である1,5-ナフタレンジオール誘導体)を得る。
G工程:
1,5-ナフタレンジオールの誘導体(10)をアセトニトリル-水に溶解し、ビス(トリフルオロアセトキシ)ヨードベンゼンを加え0℃で2時間攪拌する。抽出およびカラムクロマトによる精製によって5-ヒドロキシナフトキノンの誘導体(11)(R1、R2、R3、R4、及びR5がハロゲン原子である5-ヒドロキシナフトキノン誘導体:R1、R2、R3、R4、及びR5がアルキル基である5-ヒドロキシナフトキノン誘導体:R1及びR4がアルキル基で、R2、R3及びR5がハロゲン原子である5-ヒドロキシナフトキノン誘導体:R1及びR4がハロゲン原子で、R2、R3及びR5がアルキル基である5-ヒドロキシナフトキノン誘導体)を得る。
H工程:
(1)無水塩化カルシウムにアンモニアガスを吹き込んで生成する複合体に、5-ヒドロキシナフトキノンの誘導体(11)(R1、R2、R3、R4、及びR5がハロゲン原子である5-ヒドロキシナフトキノン誘導体:R1、R2、R3、R4、及びR5がアルキル基である5-ヒドロキシナフトキノン誘導体:R1及びR4がアルキル基で、R2、R3及びR5がハロゲン原子である5-ヒドロキシナフトキノン誘導体:R1及びR4がハロゲン原子で、R2、R3及びR5がアルキル基である5-ヒドロキシナフトキノン誘導体)を加え、封管中で8時間270℃に加温する。冷却後、分配操作によって5-アミノナフトキノンの誘導体(13)(R1、R2、R3、R4、及びR5がハロゲン原子である5-アミノナフトキノン誘導体:R1、R2、R3、R4、及びR5がアルキル基である5-アミノナフトキノン誘導体:R1及びR4がアルキル基で、R2、R3及びR5がハロゲン原子である5-アミノナフトキノン誘導体:R1及びR4がハロゲン原子で、R2、R3及びR5がアルキル基である5-アミノナフトキノン誘導体)を得る。
(2)5-ヒドロキシナフトキノンの誘導体(11)(R1、R2、R3、R4、及びR5がハロゲン原子である5-ヒドロキシナフトキノン誘導体:R1、R2、R3、R4、及びR5がアルキル基である5-ヒドロキシナフトキノン誘導体:R1及びR4がアルキル基で、R2、R3及びR5がハロゲン原子である5-ヒドロキシナフトキノン誘導体:R1及びR4がハロゲン原子で、R2、R3及びR5がアルキル基である5-ヒドロキシナフトキノン誘導体)をテトラヒドロフラン−水酸化カリウム水溶液に溶解し、ジメチルチオカルバモイルクロリドを氷冷下で加えて、氷冷下で30分攪拌する。反応液から抽出操作によって得られる粗生成物をジグライムに溶解し、230℃に加温して20分攪拌する。冷却後、水を加えて0℃で一晩放置し、生じた沈殿を濾別して得る。次に、この沈殿をメタノールに溶解し10%水酸化ナトリウム水溶液を加えて加熱還流下1時間攪拌する。冷却後、反応液に1 N塩酸を滴下して反応液をpH 3にして、抽出操作を行いチオール体(13)(R1、R2、R3、R4、及びR5がハロゲン原子であるチオール体(13):R1、R2、R3、R4、及びR5がアルキル基であるチオール体(13):R1及びR4がアルキル基で、R2、R3及びR5がハロゲン原子であるチオール体(13):R1及びR4がハロゲン原子で、R2、R3及びR5がアルキル基であるチオール体(13))を得る。
I工程:
(1)5-ヒドロキシナフトキノンのハロゲン化体またはアルキル体(9)(R1及びR4はハロゲン原子:またはR1及びR4はアルキル基)あるいは5-ヒドロキシナフトキノンの誘導体(11)(R1、R2、R3、R4、及びR5がハロゲン原子である5-ヒドロキシナフトキノン誘導体:R1、R2、R3、R4、及びR5がアルキル基である5-ヒドロキシナフトキノン誘導体:R1及びR4がアルキル基で、R2、R3及びR5がハロゲン原子である5-ヒドロキシナフトキノン誘導体:R1及びR4がハロゲン原子で、R2、R3及びR5がアルキル基である5-ヒドロキシナフトキノン誘導体)を、ジクロロメタンに溶解し、トリエチルアミンと塩化アセチルまたは塩化プロピオニル、または塩化ブチリルを加えて室温で2時間攪拌する。抽出操作によってアシル化体(12)あるいは(14)を得る。
(2)5-ヒドロキシナフトキノンのハロゲン化体またはアルキル体(9)(R1及びR4はハロゲン原子:またはR1及びR4はアルキル基)あるいは5-ヒドロキシナフトキノンの誘導体(11)(R1、R2、R3、R4、及びR5がハロゲン原子である5-ヒドロキシナフトキノン誘導体:R1、R2、R3、R4、及びR5がアルキル基である5-ヒドロキシナフトキノン誘導体:R1及びR4がアルキル基で、R2、R3及びR5がハロゲン原子である5-ヒドロキシナフトキノン誘導体:R1及びR4がハロゲン原子で、R2、R3及びR5がアルキル基である5-ヒドロキシナフトキノン誘導体)を、ジクロロメタンに溶解し、トリエチルアミンとアルキル(メチル、エチル、プロピル)クロロホルメートを加えて室温で2時間攪拌する。抽出操作によってカルボネート体(12)あるいは(14)を得る。
(3)5-ヒドロキシナフトキノンのハロゲン化体またはアルキル体(9)(R1及びR4はハロゲン原子:またはR1及びR4はアルキル基)あるいは5-ヒドロキシナフトキノンの誘導体(11)(R1、R2、R3、R4、及びR5がハロゲン原子である5-ヒドロキシナフトキノン誘導体:R1、R2、R3、R4、及びR5がアルキル基である5-ヒドロキシナフトキノン誘導体:R1及びR4がアルキル基で、R2、R3及びR5がハロゲン原子である5-ヒドロキシナフトキノン誘導体:R1及びR4がハロゲン原子で、R2、R3及びR5がアルキル基である5-ヒドロキシナフトキノン誘導体)を、ジクロロメタンに溶解し、トリエチルアミンとアルキル(メチル、エチル、プロピル)イソシアネートを加えて室温で2時間攪拌する。抽出操作によってカルバメート体(12)あるいは(14)を得る。
(4)5-ヒドロキシナフトキノンのハロゲン化体またはアルキル体(9)(R1及びR4はハロゲン原子:またはR1及びR4はアルキル基)あるいは5-ヒドロキシナフトキノンの誘導体(11)(R1、R2、R3、R4、及びR5がハロゲン原子である5-ヒドロキシナフトキノン誘導体:R1、R2、R3、R4、及びR5がアルキル基である5-ヒドロキシナフトキノン誘導体:R1及びR4がアルキル基で、R2、R3及びR5がハロゲン原子である5-ヒドロキシナフトキノン誘導体:R1及びR4がハロゲン原子で、R2、R3及びR5がアルキル基である5-ヒドロキシナフトキノン誘導体)を、ジメチルホルムアミドに溶解し、水素化ナトリウムと臭化アルキル(メチル、エチル、プロピル)を加えて、室温で2時間攪拌する。抽出操作によってアルキル体(12)あるいは(14)を得る。
本発明の赤潮原因藻駆除剤は、上記一般式(1)で示される一連の1,4-ナフトキノン誘導体、特に式(2)で示される5-ヒドロキシナフトキノンの他、これらの塩を有効成分とすることもできる。ここで塩としては、特に制限されないが、ナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩やマグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩、4級アンモニウム塩などのように、フラボン核のフェノール性水酸基との塩を挙げることができる。一般式(1)で示される一連の1,4-ナフトキノン誘導体のR6が窒素原子である場合には、塩として塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、またはリン酸などの無機酸との付加塩;酢酸、乳酸、コハク酸、リンゴ酸、マレイン酸、フマル酸、シュウ酸、クエン酸、酒石酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸などの有機酸との付加塩を挙げることができる。
なお、本発明の赤潮原因藻駆除剤は、本発明の効果を損なわない限り、配合する有効成分(1,4-ナフトキノン誘導体)の精製度を特に問うものではない。従って、上記一般式(1)で示される一連の1,4-ナフトキノン誘導体、特に式(2)で示される5-ヒドロキシナフトキノン、またはこれらの塩を粗精製物として含むものであってもよい。かかる粗精製物としては、前述するJuglans regia L.の全草またはその一部(好ましくは葉または葉を含む部分)から調製される1,4-ナフトキノン誘導体、特に5-ヒドロキシナフトキノンを含む抽出画分(以下、これを「エキス」という)を挙げることができる。
上記1,4-ナフトキノン誘導体は、遊離形態、任意の塩付加物、水和物、または溶媒和物の形態で、本発明の赤潮原因藻駆除剤の有効成分として使用することができる。本発明の赤潮原因藻駆除剤には、本発明の効果を損なわない限り、上記の1,4-ナフトキノン誘導体に加えて、他の公知または将来開発される赤潮原因藻駆除剤またはその有効成分を組み合わせて配合することも特に制限されない。
また本発明の赤潮原因藻駆除剤は、上記有効成分(1,4-ナフトキノン誘導体)に加えて、任意の担体または添加剤が配合されていてもよく、上記有効成分をそのまま又は上記担体若しくは添加剤とともに、錠剤、散剤(粉末剤)、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、エマルジョンまたは液剤等の各種の形態に調製することができる。
1,4-ナフトキノン誘導体として前述するエキスを用いる場合、当該エキスをそのまま本発明の赤潮原因藻駆除剤として用いてもよいし、また使用しやすいように、必要に応じて任意の担体または添加剤を配合して粉末または顆粒状(粉末エキス、顆粒エキス)に調製したり、またアルコールや含水アルコール等の溶媒に溶解希釈して液状(液状エキス)に調製して(以下、これらを「調製エキス」ともいう)、赤潮原因藻駆除剤として用いることもできる。なお、制限されないが、これらのエキスまたは調製エキス(100重量部)は、当該エキスまたは調製エキスを100重量部とした場合に、1,4-ナフトキノン誘導体が0.01重量部以上、好ましくは0.01〜0.1重量部、より好ましくは0.02重量部の割合で含まれるように調製することが好ましい。
本発明の赤潮原因藻駆除剤は、上記1,4-ナフトキノン誘導体を、アルミノ珪酸ナトリウム、カオリン、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウムまたは粘土といった任意の吸着剤に吸着させて用いることもできる。かかる吸着剤に吸着させることで、海に散布した場合でも海面付近でただちに拡散せず、沈降しながら、駆除剤が徐々に海中に拡散させることが可能となり、斯くして海中深くに存在する赤潮原因藻に対しても効果を発揮させることができる。またその他、例えば任意の支持体(例えば、筏などの木材、網、縄、錘、浮き等の漁具、布状物など)に担持させる等、徐放形態に調製することもできる。これを対象水域の水中に浸漬・滞留させておくことにより、赤潮原因藻駆除の有効成分を徐々に海水に放出させることができ、赤潮原因藻の異常増殖を抑制して、赤潮発生を予防することが可能となる。
本発明の赤潮原因藻駆除剤は1,4-ナフトキノン誘導体だけからなるものであってもよいが、1,4-ナフトキノン誘導体を含む組成物である場合、当該赤潮原因藻駆除剤100重量部あたり1,4-ナフトキノン誘導体が0.03〜1重量部、好ましくは0.05〜0.5重量部、より好ましくは0.1重量部の割合で含まれるように調製することが好ましい。
(2)赤潮防御方法
本発明は、上記赤潮原因藻駆除剤を用いることを特徴とする赤潮防御方法を提供する。当該方法は、上記赤潮原因藻駆除剤を、赤潮が発生若しくはその可能性のある海域に供することによって実施することができる。赤潮原因藻駆除剤を海に供する方法としては、特に制限されないが、例えば、上記赤潮原因藻駆除剤を赤潮が発生しているか若しくは発生傾向のある海域(赤潮発生海域)または赤潮が発生する可能性のある海域にそのまま散布する方法を挙げることができる。
また、本発明の赤潮原因藻駆除剤を任意の支持体に担持させたものを、対象水域の水中に浸漬・滞留させておくこともできる。このように赤潮原因藻駆除剤を徐々に海水に放出するように調整することで(徐放化)、赤潮原因藻の異常増殖を抑制して、赤潮発生を予防することが可能である。なお支持体としては、特に制限されない。例えば、筏などの木材、網、縄、錘、浮き等の漁具、布状物などを例示することができる。
なお、本発明の赤潮原因藻駆除剤の海への適用量(散布量)は、海域における赤潮の発生の状況や目的(予防または発生制御)などによっても異なるが、通常、海水10Lに対して1,4-ナフトキノン誘導体が1〜2mg程度となるような割合で、1〜3日に1回程度供することができる。例えば赤潮原因藻駆除剤として、1,4-ナフトキノン誘導体0.1gをエタノール100mLに溶解させた希エタノール溶液を使用する場合、海水10Lに対して当該希エタノール溶液を1〜2mL程度の割合で;エキス(エキス100重量部中に含まれる1,4-ナフトキノン誘導体1重量部)をそのまま使用する場合、海水域10Lに対して当該エキスを100〜200mg程度の割合で;また、当該エキスを溶解した希エタノール溶液(エキス20mg/mL)を使用する場合、海水域10Lに対して当該希エタノール溶液5〜10mL程度の割合で、1日から3日に1回供することができる。
なお、赤潮が発生している場合や発生傾向がある場合は毎日使用することが好ましいが、赤潮の発生を予防する目的においては、2〜3日に1回程度の使用でもよい。
本発明によれば、赤潮原因藻として特にその増殖抑制が切望されている渦鞭毛藻綱に属する藻 Heterocapsa circularisquamaに対して高い殺藻活性(生育阻害活性)を有していながらも魚毒性が低い、実用的な赤潮原因藻駆除剤を提供することができる。さらに本発明によれば、当該赤潮原因藻駆除剤を用いることによって、有効に赤潮の発生を抑制し、また予防することが可能である。
以下に、本発明の構成ならびに効果をより明確にするために、製造例、実施例、比較例及び実験例を記載する。但し本発明は、これらの実施例等に何ら影響されるものではない。
実施例1
A.検体の調製
Juglans regia L. を原料として、渦鞭毛藻 Heterocapsa circularisquamaに対する殺藻活性を指標として、以下のような手順で抽出、単離した。
(1)メタノール抽出
乾燥粉砕したJuglans regia L. 1000gにメタノール3.4Lを加えて、室温で18時間抽出した。その後、これを濾過して濾液を回収した。一方、得られた残渣にメタノール2.4Lを加え加熱還流下で2時間抽出し、その後濾過して濾液を採取した。この加熱還流抽出を、ここで得られた残渣に再度行い、回収した全ての濾液を集めて濃縮し、153.3gの固体(以下「メタノール抽出物」と呼ぶ)を得た。
(2)酢酸エチル/H2O処理
(1)で得られたメタノール抽出物のうち30gを、酢酸エチル/H2Oの800mL/800mL混合液(1600mL)に加え、良く攪拌し、両層に分配溶解させた。層分離により、水層と酢酸エチル層とに分別し、水層と酢酸エチル層を回収した。回収した水層に更に酢酸エチル200mLを加えて層分離を行い、酢酸エチル層を回収し、先に回収しておいた酢酸エチル層と合わせた。斯くして回収した酢酸エチル層を絶乾して9.8gの固体(以下「酢酸エチル抽出物」と呼ぶ)を得た。
(3)n-ブタノールによる抽出
一方、(2)の層分離によって回収した水層に、n-ブタノール800mLを加え、良く振盪後、分配溶解させた。層分離により、水層とn-ブタノール層とに分別回収した。回収した水層に、更にn-ブタノールを750mL加え、再び良く振盪攪拌した後、層分離を行い、得られた水層とn-ブタノール層を、先に回収しておいた水層とn-ブタノール層の画分にそれぞれ合わせた。一緒にしたn-ブタノール層を絶乾して6.4gの固体(以下「n-ブタノール抽出物」と呼ぶ)を得た。また、一緒にした水層を絶乾して15gの固体(以下「水抽出物」と呼ぶ)を得た。
B.各抽出物(検体)の殺藻活性の測定
上記A(1)〜(3)で調製した各抽出物(検体)について、渦鞭毛藻 Heterocapsa circularisquamaに対する生育阻害活性を測定した。
具体的には、顕微鏡視野 (10mm x 40mm) に約1000個体が入るように渦鞭毛藻 Heterocapsa circularisquama培養液(培地:ダイゴIMK-SP培地(和光純薬))を、同培地で希釈し、該希釈溶液を75μLずつ96 well plate の各ウエルに播種した。上記で調製した各抽出物(検体)はそれぞれDMSOに溶解し、同培地で50倍に希釈したもの(最終濃度:5ppm、10ppm、25ppm)を各wellに75μLずつ添加した。添加後、25℃、12h暗明交代条件下で静置培養し、3日後に検鏡した。回転しながら泳ぎ、突然何かにぶつかったかのような前後運動(キツツキ運動)を行っている個体を「生存個体」として、また停止している個体を「死亡個体」として判定して、各抽出物(検体)の殺藻活性を算出した。なお、陽性対照として、殺藻活性として知られている3-(3,4-dichlorophenyl)-1,1-dimethylurea を用いた(特開2003-181997号公報)。
C.各抽出物(検体)の魚毒活性の測定
上記A(1)〜(3)で調製した各抽出物(検体)について、ヒメダカを対象として魚毒活性を測定した。なお、上記各抽出物(検体)は、それぞれDMSOに溶解してDMSO溶液として調製したものを使用した。
具体的には、ヒメダカ3匹を飼育水100 mLに入れ、その中に、上記各抽出物(検体)をDMSOの最終濃度が1%となるように添加した(最終濃度:10ppm、50ppm)。水温を24℃以下に保ち、12時間ごとに通気を行い、3日後に生存しているヒメダカの数を計測した。
各抽出物(検体)の殺藻活性及び魚毒活性をそれぞれ表1に示す。
Figure 2006036746
この結果、特にn-ブタノール抽出物は、魚毒活性が低いにも関わらず、比較的高い殺藻活性を有することがわかった。
なお、陽性対照試験として行った3-(3,4-dichlorophenyl)-1,1-dimethylureaの渦鞭毛藻Heterocapsa circularisquamaに対する殺藻率 (%)は、10ppmで80%、25ppmで99%以上であった。
実施例2
(1)精製画分の取得
実施例1で得られたJuglans regia L. のn-ブタノール抽出物3.3gをシリカゲルカラムクロマトグラフィーを用いて分別精製した。具体的には、n-ブタノール抽出物3.3gを溶媒(CHCl3:MeOH:H2O=30:3:1)に溶解し、これを、SiO2 (60g)を充填して予め溶媒(CHCl3:MeOH:H2O=30:3:1)で平衡化しておいたガラスカラム(内径50mm、長さ10cm)に吸着させた。次いで、溶出溶媒として溶媒(CHCl3:MeOH:H2O=30:3:1)を通導して、画分A (乾固後の重量:25.8 mg)を得た。さらに、トリクロロメタンとメタノールと水の混合比を変えた溶出溶媒をカラムに通導して、画分B (溶出溶媒[CHCl3:MeOH:H2O =15:3:1]、乾固後の重量:15.6mg)、画分C (溶出溶媒[CHCl3:MeOH:H2O =7:3:1] 、乾固後の重量:320mg)、及び画分D (溶出溶媒[MeOH]、乾固後の重量:2.7g)をそれぞれ得た。
(2)画分A〜Dの殺藻活性
画分A〜Dの殺藻活性を、実施例1と同様の方法に従って、渦鞭毛藻 Heterocapsa circularisquamaに対する殺藻率(%)に基づいて評価した。結果を表2に示す。
Figure 2006036746
この結果から、特に画分Aに高い殺藻活性があることがわかった。なお、陽性対照試験として行った3-(3,4-dichlorophenyl)-1,1-dimethylureaの渦鞭毛藻 Heterocapsa circularisquamaに対する殺藻率 (%)は、10ppmで80%、25ppmで99%以上であった。
実施例3 画分A
(1)画分Aの分別
実施例2で得られた画分A (20.1 mg) を、シリカゲルカラムクロマトグラフィーによってさらに分別を行った。具体的には、画分A試料20.1mgを、n-ヘキサンに溶解し、これを、SiO2 (1g)を充填して予め溶媒(n-ヘキサン)で平衡化しておいたガラスカラム(内径10mm、長さ5cm)に吸着させた。次いで、溶出溶媒として溶媒(n-hexane:EtOAc=9:1)を通導して、画分A1 (乾固後の重量:9.4mg)を得た。さらに、n-ヘキサンと酢酸エチルの混合比を変えた溶出溶媒をカラムに通導して、画分A2 (溶出溶媒[n-hexane:EtOAc=6:1]、乾固後の重量:2.3mg)、画分A3(溶出溶媒[n-hexane:EtOAc=1:1] 、乾固後の重量:6.6mg)をそれぞれ得た。
(2)画分A1〜A3の殺藻活性
画分A1〜A3の殺藻活性を、実施例1と同様の方法に従って、渦鞭毛藻 Heterocapsa circularisquamaに対する殺藻率(%)に基づいて評価した。結果を表3に示す。
Figure 2006036746
この結果から、特に画分A2に高い殺藻活性があることがわかった。なお、陽性対照試験として行った3-(3,4-dichlorophenyl)-1,1-dimethylureaの渦鞭毛藻 Heterocapsa circularisquamaに対する殺藻率 (%)は、10ppmで70%、25ppmで99%以上であった。
実施例4 画分A2
(1)画分A2の分別
実施例3で得られた画分A2を、ODSカラムクロマトグラフィーによってさらに分別を行った。具体的には、画分A2試料のうち1.5mgを、アセトニトリルと水の混合溶媒(CH3CN:H2O=50:50)に溶解し、これを、ODSシリカゲル(0.5g)を充填して予め溶媒(CH3CN:H2O=50:50)で平衡化しておいたガラスカラム(内径5mm、長さ4cm)に吸着させた。次いで、溶出溶媒として溶媒(CH3CN:H2O=50:50)を通導して、画分A2a(乾固後の重量:0.4mg)を得た。さらに、カラムに通導する溶媒を変化させて、画分A2b (溶出溶媒[CH3CN]、乾固後の重量:0.1mg)、画分A2c(溶出溶媒[acetone] 、乾固後の重量:0.8mg)をそれぞれ得た。
(2)画分A2a〜A2cの殺藻活性
画分A2a〜A2cの殺藻活性を、実施例1と同様の方法に従って、渦鞭毛藻 Heterocapsa circularisquamaに対する殺藻率(%)に基づいて評価した。結果を表4に示す。
Figure 2006036746
この結果から、特に画分A2aに高い殺藻活性があることがわかった。なお、陽性対照試験として行った3-(3,4-dichlorophenyl)-1,1-dimethylureaの渦鞭毛藻 Heterocapsa circularisquamaに対する殺藻率 (%)は、10ppmで80%、25ppmで99%以上であった。このことから、画分A2aには、3-(3,4-dichlorophenyl)-1,1-dimethylureaよりも高い殺藻活性があることが判明した。
(3)画分A2aの同定
上記で得られた画分A2aについて、1H-NMR、13C-NMRおよびFAB-MSの測定を行い、その結果を文献報告値(J.Magn.Reson.,1969,1,633)と比較して、画分A2aの化合物を同定した。
画分A2aについて得られた1H-NMR、13C-NMRおよびFAB-MSのデータ結果は下記の通りである。
1H NMR (500 MHz, CDCl3) d: 11.91(1H, s), 7.65 (2H,m), 7.29 (1H, dd, J=7.5, 2.0 Hz), 6.96 (2H, s) 13C NMR (125 MHz, acetone-d6) dc: 191.8, 185.0, 162.3, 140.7, 139.6, 137.7, 133.0, 124.9, 119.4, 116.0
FAB-MS: 175 [M+H]+
以上のデータより画分A2a は次の構造を有する化合物(juglone:5-ヒドロキシナフトキノン)(2)と判定した。
Figure 2006036746
(4)5-ヒドロキシナフトキノンの殺藻活性及び魚毒活性
上記で同定された5-ヒドロキシナフトキノンについて、実施例1と同様にして、渦鞭毛藻 Heterocapsa circularisquamaに対する殺藻活性及び魚毒活性を評価した。結果を表5に示す。
Figure 2006036746
この結果から、juglone(5-ヒドロキシナフトキノン)は0.035〜0.17ppm、好ましくは0.035〜0.085ppmといった低濃度で、高い安全性を有しながらも高い殺藻活性を示すことが判明した。なお、陽性対照試験として行った3-(3,4-dichlorophenyl)-1,1-dimethylureaの渦鞭毛藻 Heterocapsa circularisquamaに対する殺藻率 (%)は、10ppmで80%、25ppmで99%以上であった。これらのことから、5-ヒドロキシナフトキノンは、公知の殺藻成分に比べて非常に高い殺藻活性を有しており、しかも魚毒性が低いため、安全で優れた殺藻剤の有効成分となりえることがわかる。
製剤例1
実施例1で調製したn-ブタノール抽出物から溶媒を蒸発除去して、完全に乾固させて粉末化して、本発明の赤潮原因藻駆除剤を調製する。
製剤例2
実施例1で調製したn-ブタノール抽出物から溶媒を蒸発除去して、完全に乾固させて粉末化したもの2gを、エタノール100mLに溶解して希エタノール溶液とし、本発明の赤潮原因藻駆除剤を調製する。

Claims (6)

  1. 下式(1):
    Figure 2006036746
    (式中、R1、R2、R3、R4、及びR5は、同一または異なって、水素原子、ハロゲン原子または低級アルキル基を;R6は酸素原子、窒素原子または硫黄原子を;またR7は水素原子、アシル基、低級アルコキシカルボニル基、低級アルキルカルバモイル基、または低級アルキル基を示す。)
    で示される1,4-ナフトキノン誘導体またはその塩を有効成分とする赤潮原因藻駆除剤。
  2. 式(1)で示される1,4-ナフトキノン誘導体が、R6として酸素原子、R7として水素原子を有するものである、請求項1に記載する赤潮原因藻駆除剤。
  3. 上記1,4-ナフトキノン誘導体が、下式(2):
    Figure 2006036746
    で示される5-ヒドロキシナフトキノンである、請求項1に記載する赤潮原因藻駆除剤。
  4. 赤潮原因藻が渦鞭毛藻類に属する藻である、請求項1乃至3のいずれかに記載する赤潮原因藻駆除剤。
  5. 請求項1乃至4のいずれかに記載する赤潮原因藻駆除剤を、赤潮が発生若しくはその可能性のある海域に供する工程を有する赤潮防御方法。
  6. 赤潮原因藻が渦鞭毛藻類に属する藻である、請求項5に記載する赤潮防御方法。

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