JP2006016676A - 表面処理鋼板及び表面処理薬剤並びに表面処理方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】 (1)ジンケートイオンより強い塩基性を有するか、又は(2)分子量が1000以上であるアニオンと、(3)カチオンとして亜鉛イオンより弱い酸性を有し、水酸化物の解離アニオンがジンケートより強い塩基性を有し、かつ、亜鉛イオンより卑である金属のカチオン、又は(4)分子量が1000以上である1級アミノ基を有するすカチオン、とから構成される塩を少なくとも1種類以上含有する皮膜層を、亜鉛めっき鋼板の表面に設けたことを特徴とする表面処理鋼板であって、塩を構成するカチオンの電荷をnとするとき、皮膜層の付着量が、アニオン又はカチオン換算で、0.1/n mmol/m2以上である表面処理鋼板とする。
【選択図】 図1
Description
酸化皮膜形成型腐食抑制機構を利用した技術は、バナジン酸、タングステン酸、又は、モリブデン酸等、遷移元素の高次酸化状態を利用した皮膜処理技術であり、特許文献1には、モリブデン酸の高次酸化状態を利用した表面処理技術が開示されている。
また、吸着皮膜形成型腐食抑制機構を利用した技術は、水溶性インヒビターにより、腐食環境下の遷移金属の空d軌道に電子を供与することで、強固な化学吸着力を有する防食皮膜を形成させる皮膜処理技術である。
一方で、沈殿形成型腐食抑制機構を利用した技術は、腐食環境下において、めっき表面に、分極や軽微な腐食を生じさせる難溶性塩を形成させることで腐食を抑制技術である。例えば、公知技術であるリン酸亜鉛処理は、本機構を用いて皮膜を形成させる方法であり、リン酸イオンは沈殿型インヒビターとして利用し得る可能性を有している。このほか、特許文献2、特許文献3、及び、特許文献4には、本機構を用いた表面処理技術が開示されている。
Zn2+ + 2H2O ⇔ Zn(OH)2 + 2H+ (式1)
Zn(OH)2 ⇔ HZnO2 − + H+ (式2)
Zn2+ + 2H2O ⇔ HZnO2 − + 3H+ (式3)
式1は、水酸化亜鉛の塩基解離平衡について、亜鉛イオンがプロトン供与体(ブレンステッド酸)となる形で表現した式である。また、式2は、水酸化亜鉛の酸解離平衡について、ジンケートイオンHZnO2 −がプロトン受容体(ブレンステッド塩基)となる形で表現した式である。一方、式3は、「式1+式2」により得られる式である。
第2に、強塩基性アニオン種は、当該アニオン種と亜鉛イオンよりも弱酸性を示すカチオン種とから構成される塩を形成することで、防錆性を発現することを見出した。これは、亜鉛イオンよりも強酸性を示すカチオンとの間で塩を形成した強塩基性アニオン種は、亜鉛との反応性を失うためであると考えられる。
第3に、マグネシウムイオンやカルシウムイオンのようにカチオンとして亜鉛イオンよりも弱酸性である性質と、水酸化物の酸解離アニオンとしてジンケートイオンよりも強塩基性である性質と、を備えるカチオン種(以下において、「両性カチオン種」と記述する。)と、上記強塩基性アニオン種とから構成される塩が、沈殿型インヒビターとして特に有効であることを見出した。このようにして構成される塩は、アニオン成分が亜鉛塩としての沈殿皮膜を形成する一方で、カチオン成分も塩基性塩として沈殿皮膜を形成する性質を有するためであると考えられる。
第4に、上記強塩基性アニオン種及び両性カチオン種により構成される塩に加えて、さらに、分子量が1000以上である高分子アニオン種及び両性カチオン種により構成される塩、強塩基性アニオン種及び分子量が1000以上である高分子カチオン種により構成される塩、並びに、分子量が1000以上である高分子アニオン種及び分子量が1000以上である高分子カチオン種により構成される塩にも、防錆性が発現することを見出した。
以下、本発明について説明する。
(1) ジンケートイオンよりも強い塩基性を有するアニオン
(2) 分子量が1000以上であるアニオン
(3) カチオンとして亜鉛イオンよりも弱い酸性を有するとともに水酸化物の酸解離アニオンがジンケートイオンよりも強い塩基性を有し、かつ、電気化学系列において亜鉛よりも卑である、金属のカチオン
(4) 分子量が1000以上である1級アミノ基を有するカチオン
1.表面処理鋼板
1−1.亜鉛系めっき鋼板
本発明において皮膜層が設けられる亜鉛系めっき鋼板としては、純亜鉛めっき鋼板及び亜鉛合金めっき鋼板を適用することができる。亜鉛合金めっきの場合には、例えば、アルミニウム、マグネシウム、ニッケル、鉄、シリコン等の合金元素を含有した場合であっても、めっき皮膜中において金属亜鉛の質量が40%程度以上を占める亜鉛合金めっき鋼板を、好適に使用することができる。本発明を適用することができる具体的な鋼板としては、電気亜鉛めっき鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板、5%アルミニウム−亜鉛合金溶融めっき鋼板、3〜12%アルミニウム−2〜4%マグネシウム−亜鉛合金溶融めっき鋼板、55%アルミニウム−亜鉛合金溶融めっき鋼板、10%ニッケル−亜鉛合金電気めっき鋼板等を挙げることができる。連続めっきラインで鋼板に付着させることができる実用的なめっき付着量は、通常、片面当たりの付着量で10〜300g/m2程度であると考えられるが、本発明の効果が発現し得るめっき付着量は、上記付着量に限定されるものではない。
1−2−1.塩(沈殿型インヒビター)
本発明で使用する塩(以下において、「沈殿型インヒビター」と記述することがある。)は、皮膜層中で難溶性塩として存在する必要がある。皮膜層中の塩は固体であるため、塩を構成するアニオン及びカチオンは、いわゆるイオン状態で存在していない可能性もある。しかし、皮膜層中の塩は全てイオンに由来するイオン結合性の物質であることから、以下において、電子をひきつけている側の原子団を「アニオン成分」と記述するとともに、電子が引き離されている側の原子団を「カチオン成分」と記述する。
本発明における沈殿型インヒビターを構成するアニオン種は、「(1)ジンケートイオンよりも強塩基性を有するアニオン」であるか、又は、「(2)分子量が1000以上である高分子のアニオン」であることが必要である。
ブレンステッドの定義によれば、
A− + H+ ⇔ HA (式4)
において、アニオンA−は、プロトンH+を受容する塩基であり、塩基としての強弱は、一般に、塩基解離定数Kb(式5)が指標になる。
[HA]/{[A−][H+]}=Kb (式5)
Hn−1MOn − + (n+1)H+ ⇔ Mn+ + nH2O (式6)
{[Mn+]1/n+1[H2O]n/n+1}/{[Hn−1MOn −]1/n+1[H+]}
=(Kspb/Kspa・Kw n)1/n+1 = Kb’ (式7)
但し、Kspa=[Hn−1MOn −][H+]、Kspb=[Mn+][OH−]n、
Kw =[H+][OH−]=10−14
とする。
上記要件(1)を満たすアニオン成分のほか、本発明における皮膜層中の塩を構成するアニオンは、分子量が1000以上である高分子アニオンとすることができる。かかるアニオンの具体例としては、ポリアクリル酸、又は、ポリアクリル酸共重合樹脂、アクリル系樹脂、及び、ウレタン系樹脂等に付随するカーボネートアニオン等を挙げることができる。防錆性を発現し得るという観点から、高分子アニオンの分子量は1000以上であることが好ましい。また、ポリアクリル酸を利用する場合には、鋼板上への塗装を容易に行い得るという観点から、当該分子量は25000以下であることが好ましい。このような高分子アニオンを用いることにより防錆性が改善されるのは、当該高分子の同一分子内における官能基の一部が溶解した状態になったとしても、当該高分子の他の一部における官能基がめっき鋼板の表面への密着を維持することで、耐水性を発現するためであると考えられる。
本発明における沈殿型インヒビターを構成するカチオン種は、「(3)カチオンとして亜鉛イオンよりも弱い酸性を有するとともに水酸化物の酸解離アニオンがジンケートイオンよりも強い塩基性を有し、かつ、電気化学系列において亜鉛よりも卑である、金属のカチオン」であるか、又は、「(4)分子量が1000以上である1級アミノ基を有するカチオン」であることが必要である。
ブレンステッドの定義によれば、
Mn+ + nH2O ⇔ M(OH)n + nH+ (式8)
において、カチオンMn+は、プロトンH+を供与する酸である。そこで、本発明者らは、金属イオンの酸としての強弱を表す指標として、酸解離定数Ka(式9)を提案する。
{[M(OH)n]1/n[H+]}/{[Mn+]1/n[H2O]}
= Kw/Kspb 1/n = Ka (式9)
ここで、Kw=10−14、及び、水酸化亜鉛の溶解度積Kspb=10−15.74より、亜鉛イオンZn2+のpKa(=−logKa)の値は6.13となる。したがって、金属イオンとして亜鉛イオンよりも弱酸性であるカチオンは、pKaの値が6.13を超えればよい。また、a−1)にて示したように、水酸化物の酸解離アニオンとしてジンケートイオンよりも強塩基性であるためには、pKb’の値が−9.2未満となればよい。すなわち、要件(3)を満たすカチオン成分は、pKaの値が6.13を超えるとともに、pKb’の値が−9.2未満であるカチオンである。
このような性質を示し、かつ、電気化学系列において亜鉛よりも卑である金属カチオンの具体例としては、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、V2+、Mn2+、等の金属イオンを挙げることができる。これらのカチオン成分は、上記要件を満たすアニオン成分の反応性を奪うことがなく、かつ、防錆効果を有するため、好ましい。
上記要件(3)を満たすカチオン成分のほか、本発明における皮膜層中の塩を構成するカチオンは、分子量が1000以上である高分子カチオンとすることができる。かかるカチオンの具体例としては、ポリエチレンイミン等を挙げることができる。ポリエチレンイミンは、官能基としてのイミノ基が水中ではカチオンとして存在する水性高分子である。防錆性を発現し得るという観点から、高分子カチオンの分子量は1000以上であることが好ましい。このような高分子カチオンを用いることにより防錆性が改善されるのは、当該高分子の同一分子内における官能基の一部が溶解した状態になったとしても、当該高分子の他の一部における官能基がめっき鋼板の表面への密着を維持することで、耐水性を発現するためであると考えられる。
上記a)の要件を満たすアニオン及び上記b)の要件を満たすカチオンから構成される塩を、皮膜層中に存在させることにより、防錆性を発現させることが可能になる。ここで、皮膜層中に存在させる塩の形態は、一対のアニオン及びカチオンからなる単純な塩に限定されるものではなく、例えば、多価金属カチオンを介して同種分子間及び/又は異種分子間で分子間結合が生じている形態(アイオノマー)であっても良い。このほか、亜鉛系めっき鋼板の表面を処理する表面処理薬剤中では上記要件を満たさないアニオン及び/又はカチオンであっても、例えば、鋼板表面に皮膜層を形成する過程において架橋して高分子化するアニオン及び/又はカチオンのように、形成された皮膜層中において上記要件を満たすアニオン及び/又はカチオンから構成される塩が存在していれば良い。
酸化皮膜形成型インヒビターに分類される高次酸化数状態にある遷移金属と、上記沈殿型インヒビターとを併用することで、防錆性を向上させることができる。かかる酸化皮膜形成型インヒビターの具体例としては、ヴァナデート、モリブデート、タングステネート等を挙げることができる。但し、前述のように、強力な酸化力を有するこれらの物質を使用する事については、環境負荷に対する課題に対しては不利であるため、その使用量は必要最小限とするのがよい。
本発明における皮膜層の付着量は、防錆性を発現させるという観点から、上記要件を満たす塩を構成するカチオンの電荷をnとするとき、当該塩換算で、0.1/n(mmol/m2)以上とする。一方、鋼板の溶接性、外観、及び、製造コスト等の観点から、皮膜層の付着量は、上記塩換算で、10/n(mmol/m2)以下であることが好ましい。なお、後述するバインダー成分や潤滑成分を加えたトータルでの皮膜層の付着量としては、100〜5000(mg/m2)であることが好ましい。
本発明における皮膜層は、バインダー成分を含有することが好ましい。バインダー成分を含有することで、上記要件を満たす塩を皮膜層中に固定させる際の密着力、物質透過を抑制するバリア性の防錆効果を得る際に必要とされる皮膜層の緻密性、耐指紋性、及び、上塗り密着性等を向上させることができる。
バインダー成分として活用し得る技術の具体例としては、シリケート系、チタネート系、ジルコネート系等の塩、若しくは、アルコキシドのゾル−ゲル法で得られるガラス状皮膜、又は、このようにして得られるガラス状皮膜に有機成分を複合して、皮膜物性、上塗り密着性、及び、耐指紋性を改良した皮膜、又は、水性塗料に代表される、アクリル系、ウレタン系、若しくは、エポキシ系の樹脂皮膜等の公知技術を挙げることができる。
バインダー成分としては、上記公知技術の中でも、防錆性、密着性、物質透過抑制、及び、耐水性の観点から、特に、ゾル−ゲル法で得られるガラス状皮膜に有機成分を複合した皮膜(以下において、「有機皮膜」と記述する。)が好ましい。ガラス状皮膜に有機成分を複合させた有機皮膜とすることで、ガラス状皮膜の応力緩和を図ることが可能になり、皮膜の内部応力や、剥離等を低減させることが可能な皮膜にすることができる。有機成分を複合されるガラス状皮膜の成分として例示した上記物質は、いずれも、水酸化物の酸解離アニオンとしては強塩基であるため、これらの物質は、防錆性に優れた皮膜層中の沈殿型インヒビターを構成するアニオンとして活用することもできる。
ここで、ゾルとは、塩やアルコキシドが加水分解して溶媒としての水を取り込んでネットワークを形成した状態を指す一方、ゲルとは、かかるネットワークが脱水縮合によって高分子化した状態を指す。
沈殿型インヒビターのアニオン成分及び/又はカチオン成分が水性高分子から選ばれる場合を除き、上記沈殿型インヒビターは、水に難溶性の固体であることが多い。難溶性の塩を、後述する製造方法のウェットプロセスにて使用する場合には、塩の粒径が皮膜層の設計膜厚の1/10以下となるように粉砕した上で、バインダー成分と混合させることが好ましい。バインダー成分と混合させる塩の量は、バインダー成分と防錆成分とが相互に充填しあうことで、皮膜の緻密性、防錆性、密着性、及び、耐指紋性を効果的に向上させるという観点から、塩とバインダー成分との体積比で、3:7以上7:3以下とすることが好ましい。
本発明にかかる皮膜層は、上記要件を満たすものであれば、特に限定されるものではないが、特に好ましい系として、例えば、ゾル−ゲル法によるシリケート系ガラス状皮膜にポリエチレンイミンを複合させた系を挙げることができる。この系は、沈殿型インヒビターとしての要件、及び、バインダー成分としての要件を共に満たすため、少ない付着量で良好な防錆性、物質透過抑制機能及び密着性を発揮させることが可能であり、かつ、溶接性等、表面処理鋼板に要求される他の性能とのバランスにも優れた皮膜層を形成させることができる。なお、良好な防錆性を発現させるという観点から、当該系に複合されるポリエチレンイミンの分子量は1000以上であることが好ましい。
本発明にかかる皮膜層は、自己潤滑性を有する固体潤滑剤各種を含有させることで、無塗油による塑性加工に適用可能な形態としても良い。かかる固体潤滑剤の具体例としては、ポリエチレン、若しくはポリプロピレン等のオレフィン系樹脂ワックス微粒子、又は、黒鉛微粒子、若しくはステアリン酸亜鉛等の金属石鹸を挙げることができる。
皮膜層に潤滑成分を添加する場合、その添加量は、皮膜層の潤滑性、及び、耐食性の観点から、皮膜層全体に占める重量比率で1〜20%程度が好ましい。より好ましくは、5〜15%である。
亜鉛系めっき鋼板の表面に設けられる皮膜層成分、又は、後述する表面処理鋼板の製造工程の塗布・乾燥過程における反応によって上記皮膜層成分を生成する成分を、水又は有機溶媒に溶解若しくは分散させた液体を、本発明にかかる表面処理薬剤として使用することができる。本発明の表面処理薬剤は、かかる要件を満たす薬剤であれば特に限定されるものではないが、特に好ましい薬剤の具体例としては、ポリエチレンイミンとフルオロ化合物とを含有するシリケート系水溶液からなる表面処理薬剤(以下において、「複合剤」と記述する。)を挙げることができる。
複合剤を塗布することにより形成される皮膜層の皮膜剥離を効果的に防止するとともに、当該皮膜層の防錆性を維持するという観点から、上記複合剤中における、シリケートのSi換算モル濃度Xとポリエチレンイミンのイミノ基換算モル濃度Yとの比X/Yは、0.5以上1.0未満とする。
また、複合材により形成される皮膜層の亜鉛系めっき鋼板表面への耐水密着性を改善するとともに、当該皮膜層の耐食性を維持するという観点から、当該複合剤に含有されているポリエチレンイミンにおけるイミノ基の1mol%以上50mol%以下を、予めシランカップリング剤により処理した上でシリケート系水溶液に含有させる。好ましくは、1mol%以上10mol%以下である。ここで、ポリエチレンイミンのイミノ基を処理するシランカップリング剤の具体例としては、トリエトキシ−グリシドキシシラン等を挙げることができる。
加えて、複合剤を塗布することにより形成される皮膜層中の加水分解−脱水縮合反応を促進させることで当該皮膜層を強固にするとともに、当該皮膜層の耐食性を維持するという観点から、フルオロ化合物のモル濃度ZとシリケートのSi換算モル濃度Xとの比Z/Xは、0.1以下とする。複合材に含まれるフルオロ化合物の具体例としては、フルオロケイ酸、フルオロチタン酸、フルオロジルコン酸等の各種フルオロ化合物を挙げることができる。
本発明にかかる皮膜層は、上記皮膜層成分を含有する溶液や分散液等の液体(表面処理薬剤)を、亜鉛系めっき鋼板の表面に塗布して乾燥させるウェットプロセスにより形成させることが好ましい。このような方法により形成させることで、鋼板コイルをペイオフしながら、引き続き鋼板表面に表面処理を施し、処理を施された鋼板を再びコイルに巻き取る、連続コイル処理を行うことが可能になり、表面処理の生産性を向上させることができる。ここで、上記連続コイル処理における表面処理は、表面処理薬剤塗布工程と、鋼板乾燥工程とを含む。鋼板表面へ薬剤を塗布する方法の具体例としては、ロールコート法やスプレーコート法等を挙げることができる一方、鋼板の乾燥方法としては、オーブンやドライヤにて乾燥させる方法等を挙げることができる。
なお、本発明の表面処理鋼板の表面処理方法は、連続めっきラインの出側に薬剤塗布設備と乾燥設備とが付随している設備を用いて行うことが好ましい。このような設備を用いて表面処理を行うことにより、めっき、薬剤塗布、及び、乾燥を連続処理することが可能になり、表面処理の生産性を向上させることが可能になる。
1−1.試験方法
1)表面処理薬剤の調合
市販試薬、又は、合成により入手した塩を、ジェットミルで粉砕し、粉砕された塩とアクリル系樹脂エマルジョン(バインダー成分)とを混合し、ホモミキサーにて混錬した。そして、上記塩(価数n)の含有量が0.2/n(mol/L)となるように、塩とアクリル系樹脂エマルジョンとを混錬し、トータルの不揮発成分として200(g/L)の表面処理薬剤を調合した。なお、本実施例群において使用したアクリル系樹脂エマルジョンは、アロマテックスE264(三井化学社製)であった。
連続めっきラインで製造された電気亜鉛めっき鋼板(めっき付着量20g/m2)を、アルカリ性脱脂液により洗浄し、その後、水洗及び乾燥処理を施し、表面処理基材とした。そして、上記1)にて調合した薬剤を、バーコーティングにて表面処理基材に塗布し、熱風オーブンにて、基材の最高到達温度が100℃となるように調節して乾燥させることにより、表面処理基材に表面処理を施した。
このような表面処理により、表面処理基材上に、上記塩(価数n)換算で1/n(mmol/m2)の皮膜層を備える表面処理鋼板サンプルを作製した。なお、当該サンプルにおける皮膜層全体の付着量は、1(g/m2)であった。
防錆性評価面が150mm×70mmの大きさとなるように切断した鋼板サンプルの端裏面を、ポリエステルテープでマスクし、テストピースとした。そして、かかる防錆性評価面を有するテストピースに対して、JIS Z2371に規定されている塩水噴霧試験(SST)を行った。本実施例群では、SSTを24時間実施し、SST後におけるテストピース表面の白錆発生外観を目視することにより、防錆性を評価した。防錆性の評価基準は、以下の通りとした。
○(効果あり):白錆発生がブランクよりも明らかに少ない
△(効果なし):白錆発生がブランクと同等
×(悪影響あり):白錆発生がブランクよりも明らかに多い
ここで、ブランクとは、皮膜層非形成面を意味する。
上記評価○、△、及び、×と対応するサンプルの外観を、図1に示す。
試験結果の一覧を、薬剤調合に使用した塩、並びに、当該塩を構成するアニオン成分、及びカチオン成分とあわせて、表1及び表2に示す。
なお、表1及び表2における、アニオン成分の塩基性度指標pKb’、並びに、カチオン成分に関する水酸化物の塩基解離カチオンとしての酸性度指標pKa、及び、カチオン成分に関する水酸化物酸解離アニオンとしての塩基性度指標pKb’、並びに、金属⇔化合物の平衡状態における酸化還元平衡電位E/Vについては、文献値(M.Pourvaix, Atras of Electrochemical Equilibria in Aqueous Solutions, Pergamon, 1966, 第411頁)を用い、E/V以外の値に関しては、さらに上記式5、式7、及び、式9を用いて算出した値を示した。
また、塩を構成するカチオン成分の価数n、及び、アニオン成分又はカチオン成分が高分子である場合には、その分子量Mwを、あわせて示した。
表1及び表2のアニオン成分及びカチオン成分欄における、○×表記の基準を、以下にまとめて示す。
アニオン成分のpKb’:−9.2未満(○) −9.2以上(×)
高分子の分子量Mw :1000以上(○) 1000未満(×)
カチオン成分のpKa:6.13を超える(○) 6.13以下(×)
カチオン成分のpKb’:−9.2未満(○) −9.2以上(×)
カチオン成分のE/V:−0.81未満(○) −0.81以上(×)
(A)ジンケートイオンよりも強い塩基性を有するためpKb’が−9.2未満となるアニオンか、又は、分子量が1000以上であるアニオンを含有する
(B)カチオンとして亜鉛イオンよりも弱い酸性を有するためpKaが6.13を超え、かつ、水酸化物の酸解離アニオンがジンケートイオンよりも強い塩基性を有するためpKb’が−9.2未満となり、かつ、電気化学系列において亜鉛よりも卑な金属であるためE/Vが−0.81未満となる金属カチオンか、又は、分子量が1000以上であり1級アミノ基を有する高分子カチオンであるポリエチレンイミンを含有する
を同時に満たす場合にのみ、防錆性が発現することが確認された。
また、アニオン成分が上記(A)の条件を満たさない場合、及び、カチオン成分が亜鉛よりも貴な金属のイオンである場合には、白錆発生がブランクよりも明らかに多くなり、耐食性が劣化することが確認された。
2−1.試験方法
1)表面処理薬剤の調合
本実施例群における表面処理薬剤の調合に用いた工業材料の型式を、以下に「物質名:商品名(社名)」の順で示す。なお、各物質名の後に、以下において使用する省略表記を、括弧書きにて付記する。
・リチウムシリケート水溶液(LS):リチウムシリケート35、45、75(日産化学工業製)
・テトラメトキシシラン(TMS):KBM04(信越化学工業製)
・ナトリウムシリケート(NS):珪酸ソーダ溶液(日本化学工業製)
・カリウムシリケート(KS):珪酸カリウム溶液(日本化学工業製)
・コロイダルシリカ(SN):スノーテックスN(日産化学工業製)
・ポリエチレンイミン(PEI):エポミン(日本触媒製)
・シランカップリング剤(SC):サイラエースS510(チッソ製)
・フルオロチタン酸(H2TiF6):フッ化チタン酸(ジェムコ製)
・アクリル系樹脂エマルジョン(AE):アルマテックスE264(三井化学製)
・ウレタン系樹脂エマルジョン(UE):オレスターUD600(三井化学製)
本実施例群にかかる表面処理薬剤の原料種類及びその添加量を、薬剤番号、薬剤に含まれるフルオロ化合物のモル濃度とシリケートのSi換算モル濃度との比(F/Si)、及び、シランカップリング剤により処理されているポリエチレンイミンのイミノ基の割合とともに、表3(薬剤No.1〜7)、表4(薬剤No.8〜14)、及び、表5(薬剤No.15〜17)に示す。
表3、表4、及び、表5において、アニオン成分の添加量及びカチオン成分におけるPEIの添加量は、それぞれ、Si換算モル濃度及びポリエチレンイミンのイミノ基換算モル濃度を表している。なお、表3、表4、及び、表5において、原料の種類は全て省略表記で記載した。
薬剤を調合するにあたり、薬剤濃度はイオン交換水で調整し、薬剤No.2以外はトータルの不揮発成分として200(g/L)の表面処理薬剤を調合した。一方、ゾル−ゲル法によるシリケート系ガラス状皮膜とする際に加水分解を必要とする薬剤No.2については、トータルの不揮発成分として100(g/L)の表面処理薬剤を調合した。
i) ポリエチレンイミンエマルジョンの所定量をイオン交換水に添加し、攪拌する
ii) シランカップリング剤を、攪拌下の上記i)の液に滴下し、約1時間に渡って攪拌養生する
iii) シリケート系薬剤の所定量を攪拌下の上記ii)の液に滴下し、混合する
iv) フルオロチタン酸水溶液(H2TiF6)の所定量を攪拌下の上記iii)液に滴下し、混合する
ここで、原料としてポリエチレンイミンを使用しない薬剤を調合する場合には、上記i)の手順を省略して薬剤の調合を行った。また、加水分解を要する薬剤No.2の調合を行う際には、上記手順iii)における攪拌養生時間を、2昼夜とした。
本実施例群において使用した亜鉛系めっき鋼板の種類、板厚(mm)、片面のめっき目付け量(g/m2)、及び、製造区分をあわせて表6に示す。ここで、ライン材とは、連続めっきラインで製造された鋼板であることを意味し、ラボ材とは、実験室にて作製した鋼板であることを意味する。
表6に示す各鋼板をアルカリ性脱脂液により洗浄した後、水洗及び乾燥処理を施し、表面処理基材とした。そして、本実施例群にかかる薬剤をバーコーティングにて表面処理基材に塗布し、熱風オーブンで基材の最高到達温度が100℃となるように調節して乾燥させることにより、表面処理基材に表面処理を施した。
作製した表面処理鋼板サンプルの基材、薬剤番号、皮膜付着量(g/m2)、及び、カチオン量換算の塩の付着量(mmol/m2)をあわせて、表7、表8に示す。
防錆性評価面が150mm×70mmの大きさとなるように切断した鋼板サンプルの端裏面を、ポリエステルテープでマスクし、テストピースとした。そして、かかる防錆性評価面を有するテストピースに対して、JIS Z2371に規定されている塩水噴霧試験(SST)を行った。本実施例群では、24時間毎にテストピースを観察し、「防錆性評価面に占める白錆の面積比率が5%を超えた時間−24」を白錆発生時間とし、以下の基準により、防錆性を評価した。
白錆発生時間>24:合格(○)
白錆発生時間=0 :不合格(×)
各表面処理鋼板サンプルにおけるSST発錆時間(h)の結果を、表7及び表8に示す。
Claims (8)
- (1)又は(2)の条件を満たすアニオンと、(3)又は(4)の条件を満たすカチオンとから構成される少なくとも1種類以上の塩、を含有する皮膜層が、亜鉛めっき鋼板の表面に設けられている表面処理鋼板であって、
前記塩を構成する前記カチオンの電荷をnとするとき、前記塩が、前記カチオン換算で、0.1/n mmol/m2以上含有されていることを特徴とする、表面処理鋼板。
(1) ジンケートイオンよりも強い塩基性を有するアニオン
(2) 分子量が1000以上であるアニオン
(3) カチオンとして亜鉛イオンよりも弱い酸性を有するとともに水酸化物の酸解離アニオンがジンケートイオンよりも強い塩基性を有し、かつ、電気化学系列において亜鉛よりも卑である、金属のカチオン
(4) 分子量が1000以上である1級アミノ基を有するカチオン - 前記塩を構成する前記カチオンが、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、若しくは、ストロンチウムイオン、又は、ポリエチレンイミンから選択される、少なくとも1種類以上であることを特徴とする、請求項1に記載の表面処理鋼板。
- 前記塩を構成する前記アニオンが、ケイ酸イオン、若しくは、リン酸イオン、又は、ポリアクリル酸から選択される、少なくとも1種類以上であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の表面処理鋼板。
- 前記塩が、前記アニオンとしてケイ酸イオンを含有するとともに、前記カチオンとしてポリエチレンイミンを含有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の表面処理鋼板。
- ポリエチレンイミンを含有するシリケート系水溶液からなる表面処理薬剤であって、
前記シリケートのSi換算モル濃度Xと前記ポリエチレンイミンのイミノ基換算モル濃度Yとの比X/Yが、0.5以上1.0未満であることを特徴とする、表面処理薬剤。 - 請求項5に記載の表面処理薬剤において、さらに、フルオロ化合物及びシランカップリング剤を含有する表面処理薬剤であって、
前記シリケートのSi換算モル濃度Xと前記ポリエチレンイミンのイミノ基換算モル濃度Yとの比X/Yが、0.5以上1.0未満であるとともに、
前記フルオロ化合物のモル濃度Zと前記Si換算モル濃度Xとの比Z/Xが、0.1以下であり、
前記ポリエチレンイミンにおけるイミノ基の1mol%以上50mol%以下が、予め前記シランカップリング剤により処理されていることを特徴とする、表面処理薬剤。 - 亜鉛系めっき鋼板の表面が、請求項5又は6に記載の表面処理薬剤により処理されていることを特徴とする、表面処理鋼板。
- 請求項5又は6に記載の表面処理薬剤を亜鉛系めっき鋼板の表面に塗布し、前記表面処理薬剤を塗布された亜鉛系めっき鋼板を水洗することなく乾燥させることを特徴とする、表面処理鋼板の表面処理方法。
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