JP2005069274A - 転がり軸受 - Google Patents
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Abstract
【課題】高温時での寸法安定性を優れたものにできると共に、焼付きを防止でき、しかも、硬さの低下もなく、早期はくりを良好に防止でき、更には、軸受寿命の大幅な延長を低コストで実現できる転がり軸受を提供する。
【解決手段】固定輪2と回転輪3との間に複数の転動体4が配設された転がり軸受1において、転動体4の残留オーステナイト量(γRC )、固定輪2の残留オーステナイト量(γRA )及び回転輪3の残留オーステナイト量(γRB )が、2.5γRC ≦1/2(γRA +γRB )の関係を満足する。
【選択図】 図1
【解決手段】固定輪2と回転輪3との間に複数の転動体4が配設された転がり軸受1において、転動体4の残留オーステナイト量(γRC )、固定輪2の残留オーステナイト量(γRA )及び回転輪3の残留オーステナイト量(γRB )が、2.5γRC ≦1/2(γRA +γRB )の関係を満足する。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、グリース潤滑される転がり軸受に関し、特に、エンジン補機(オルタネータ、電磁クラッチ、中間プーリ、コンプレッサ用プーリ、カーエアコン用プレッサ、水ポンプ等)及びガスヒートポンプ等の回転支持部に好適に用いられる転がり軸受に関する。
【0002】
【従来の技術】
エンジン補機(オルタネータ、電磁クラッチ、中間プーリ、コンプレッサ用プーリ、カーエアコン用プレッサ、水ポンプ等)及びガスヒートポンプに用いられる転がり軸受は繰り返し接触応力を受けるため、これらの転がり軸受を構成する部材には、硬い、負荷に耐える、転がり疲労寿命が長い、すべりに対する摩耗特性が良好である等の性能が要求される。
【0003】
そこで、一般的には、オルタネータを始めとしたエンジン補機及びガスビートポンプに使用される転がり軸受においては、内外輪、転動体の材料として、JIS規格のSUJ2が用いられている。
そして、これらの材料は、転がり疲労寿命等の必要とされる物性を得るために、焼入れ焼戻し処理が施されて、所定の硬さを有したものが使用されている。固定輪及び回転輪については、通常、820〜860°Cで焼入れ、160〜180°Cで焼戻し処理を施し、硬さはビッカース硬度で650〜750、残留オーステナイトは8〜12%である。一方、転動体については、通常、固定輪及び回転輪と同様に820〜860°Cで焼入れが行われるが、加工時の応力緩和のため180〜220°Cで焼戻し処理を施し、硬さはビッカース硬度で800〜900、残留オーステナイトは5〜8%としたものが使用されている。
【0004】
オルタネータを始めとした電装補機用軸受に関しての熱処理を改善した技術については、少なくとも荷重入力側、つまりプーリ側の軸受外輪の残留オーステナイト量を0.05%以上6%以下とすることにより、軌道面下での残留オーステナイトの分解による塑性変形を防止し、振動を低減することにより組織変化を伴った早期はくりを防止する技術が開示されている(例えば特許文献1参照)。
【0005】
また、エンジン補機用軸受については、エンジン補機の小型化による高振動、高負荷及び密封化による軸受の使用雰囲気温度の上昇により、上述した通常の熱処理を施したものでは、内輪、外輪及び転動体の残留オーステナイトの経時変化に伴うすき間の減少により早期で焼付きが生じる。
高振動、高負荷及び密封条件下で使用されるエンジン補機用軸受の寿命向上技術としては、例えば、転動体がセラミックスで内輪、外輪が鋼材で、少なくとも外輪が200〜380°Cの高温で焼戻し施され、硬さがHRC56. 0〜60. 5で、雰囲気による熱影響を低減したものや(例えば特許文献2参照)、軸受軌道輪をSUJ2と比較して、けい素あるいはアルミニウムを1〜2%として、230〜300°Cの高温で焼戻しを行い、残留オーステナイトを8%以下として、寸法安定性に優れ且つ高硬度な転がり軸受に関する技術が開示されている(例えば特許文献3参照)。
【0006】
【特許文献1】
特公平7−72565号公報
【特許文献2】
特許第2992731号公報
【特許文献3】
特許第2013772号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
上記特許文献1では、少なくとも荷重入力側、つまりプーリ側の軸受外輪の残留オーステナイト量を0.05%以上6%以下とすることにより、軌道面下での残留オーステナイトの分解による塑性変形を防止し、振動を低減することにより組織変化を伴った早期はくりを防止するとあるが、高温時の使用時においては、外輪のみに寸法安定化処理を施すと内輪及び転動体の経時変化による膨張によりすき間詰まりが生じ、かえって焼付きが生じ短寿命となる場合がある。
【0008】
上記特許文献2では、転動体を窒化けい素を主体とするセラミックスで形成した場合においては、雰囲気の上昇においても転動体の寸法の経時変化を抑制し、焼付きを防止することは可能であるが、セラミックスは鋼材と比較して弾性変形を起こしにくいために、転動体と内・外輪の接触面圧の増大を引起こし、はくり寿命が低下するという問題がある。
【0009】
上記特許文献3では、軸受の軌道輪を本鋼種で作製し、高温で焼戻しを行えば、寸法安定性に優れたものとすることができるが、転動体に関しては何の記載もなく、仮にSUJ2で転動体のみを作製した場合、転動体が軸受の使用中に寸法膨張を引起こし、かえって短時間で焼付きに至る虞れがある。
本発明はこのような不都合を解消するためになされたものであり、高温時での寸法安定性を優れたものとすることができると共に、焼付きを防止することができ、しかも、硬さの低下もなく、早期はくりを良好に防止することができ、更には、軸受寿命の大幅な延長を低コストで実現することができる転がり軸受を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、固定輪と回転輪との間に複数の転動体が配設された転がり軸受において、
前記転動体の残留オーステナイト量(γRC )、前記固定輪の残留オーステナイト量(γRA )及び前記回転輪の残留オーステナイト量(γRB )が、2.5γRC ≦1/2(γRA +γRB )の関係を満足することを特徴とする。
【0011】
請求項2に係る発明は、請求項1において、前記転動体の表面硬度がビッカース硬度でHv770以上とされ、且つ該転動体の表面硬度(HvC )、前記固定輪の軌道面硬度(HvA )及び前記回転輪の軌道面硬度(HvB )が、HvC ≧1/2(HvA +HvB )+70の関係を満足することを特徴とする。
請求項3に係る発明は、請求項1又は2において、前記転動体の合金成分が、炭素(C):0.50〜1.20重量%、珪素(Si):0.10〜1.50重量%、マンガン(Mn):0.1〜2.0重量%、クロム(Cr):0.5〜2.5重量%、モリブデン(Mo):2.0重量%以下、およびバナジウム(V):1.0重量%以下とされたことを特徴とする。
【0012】
本発明者等は、エンジン補機用軸受、特にオルタネータ用の軸受に関して、詳細に調査したところ次のような結論を得た。
実験方法に関しては、オルタネータ実機にJIS呼び番6303の軸受を組み込んで試験を行った。早期不具合品については、はくり品、焼付き品であった。また、焼付き品の内輪、外輪、転動体、保持器、シール、グリースに関して詳細に調査を行ったところ、転動体に関しては全てに寸法変化、残留オーステナイトの減少、及び硬度の低下が観察された。
【0013】
また、内輪、外輪の寸法変化、残留オーステナイトの減少、及び硬度の低下は転動体と比較して著しく低かったことから、振動環境下で使用されるオルタネータを始めとした電装補機用軸受においては、転動体にすべりが生じるため、転動体は内輪、外輪と比較して著しく温度が上昇し、それにより転動体は固定輪及び回転輪と比較して、急激に残留オーステナイトの分解にともなう寸法変化が起り、すき間づまりを起こして焼付きに至ったという結論を得た。
【0014】
そこで、外径がJIS呼び番6303と同じ径のφ47mmのSUJ2リングを作製して、840°Cで焼入れ、180°Cで焼戻し行い、80〜180°Cの温度で種々の時間保持を行い、寸法変化量、残留オーステナイト分解量、硬度低下を測定し、上記試験後の試料と比較したところ、寸法変化量、残留オーステナイト分解量、硬度低下から、転動体は内輪及び外輪と比較して10°C高いことがわかり、転動体の残留オーステナイトの分解にともなう寸法変化率は内輪、外輪と比較しておよそ2.5倍も速いことがわかった。
【0015】
また、転動体に寸法変形によるすき間づまりによって油膜の切断が生じる、はくりに至ることも考えられるため、転動体、固定輪及び回転輪の残留オーステナイト量を規定し、且つ硬さも規定することは有効な手段であると考える。
次に、本発明に用いられる含有元素の作用及び含有量の臨界的意義等について説明する。
[2.5γRC ≦1/2(γRA +γRB )]
振動環境下で使用される転がり軸受においては、転動体にすべりが生じるため、転動体は内輪、外輪と比較して著しく温度が上昇し、それにより転動体において急激に残留オーステナイトの分解にともなう寸法変化が起るため、すき間づまりを起こし焼付きに至る。そこで、内輪及び外輪の初期平均残留オーステナイト量と比較して、転動体の初期残留オーステナイト量を1/2.5以下にした。なお、係数の2.5は100〜180°Cの温度域において、10°Cの温度差がある場合の残留オーステナイトの分解速度比から算出した。
[HvC ≧1/2(HvA +HvB )+70]
転がり軸受に要求される硬さは、特に転動体に関して高く、そのため転動体の表面硬さHvC は770Hv以上とした。また、固定輪及び固定輪に対しても軸受として要求される硬さは高くなければならない。そこで、固定輪及び回転輪の平均表面硬さ1/2(HvA +HvB )は700Hvとした。
【0016】
(C:0.50〜1.20重量%)
炭素C%は、転がり軸受として要求される硬さを得るためには、0.5重量%が必要である。一方、1.20重量%を越えて含有すると、製鋼時に粗大な共晶炭化物を形成し、転がり寿命の低下を引き起こすため短寿命となる。清浄度を向上させ、共晶炭化物を防止するために、炭素含有量は0.50重量%以上1.20重量%以下であることが好ましい。
(Si:0.10〜1.50重量%)
Siは製鋼時に説酸剤として作用し、焼入れ性を向上させるとともに、素地のマルテンサイトを強化する元素であり、軸受寿命を長くするために有効な元素である。Siの含有率が0. 10重量%未満ではこれらの効果が十分には得られず、所定の高温硬さが維持できない。また、Siの含有率が1.50重量%を超えると、被切削性、鍛造性、および冷間加工性が著しく低下する。
【0017】
(Mn:0.1〜2.0重量%)
Mnは鋼中のフェライトを強化して、焼入れ性を向上させる元素である。Mnの含有率が0.10重量%未満であると、その効果が不十分となる。Mnの含有率が2.0重量%を超えると、焼入れ後の残留オーステナイト量が多くなって硬さが低下するとともに、冷間加工性も低下する。
(Cr:0.5〜2.5重量%)
Crは、焼入れ性、耐摩耗性の向上等の効果を発現する元素である。Crの含有率が0.5重量%未満であると、上記の効果、耐摩耗性の向上等の効果が少ない。また、Crの含有率が2.5重量%を超えると、軸受としての要求される硬さを得るためには焼入れ温度の上昇が必要であり、また、巨大炭化物の発生による一般寿命の低下や、被切削性の劣化等の問題が生じる。
【0018】
(Mo:2.0重量%以下)
Moは、焼き入れ性および焼戻し軟化抵抗性を著しく増加させる効果があり、また、転がり疲労寿命向上に寄与する元素である。しかしながら、過剰に添加すると、じん性ならびに加工性を低下させるので、2.0重量%以下とする。
(V:1.0重量%以下)
Vは微細な炭化物を形成し、耐摩耗性の向上に効果のある元素である。また、炭化物を形成して上記の効果を発現する元素でもある。しかしながら、Vの含有率が1.0重量%を超えると、これらの効果が飽和するばかりでなく、巨大炭化物の発生や材料のコストが高くなる等の問題が生じる。
【0019】
また、上記目的を達成するために、請求項4に係る発明は、固定輪と回転輪との間に複数の転動体が配設された転がり軸受において、
少なくとも前記転動体の合金成分が、炭素(C):0.50〜1.20重量%、珪素(Si):0.10〜1.50重量%、マンガン(Mn):0.1〜2.0重量%、クロム(Cr):2.5〜17.0重量%、モリブデン(Mo):2.0重量%以下、およびバナジウム(V):1.0重量%以下とされ、且つC重量%、Cr重量%、Mo重量%及びV重量%が、C重量%≦−0.05Cr重量%−0.12(Mo重量%+V重量%)+1.41=αの関係を満足することを特徴とする。
【0020】
請求項5に係る発明は、請求項4において、前記合金材料に熱処理を施し、前記固定輪の残留オーステナイト量(γRA )、前記回転輪の残留オーステナイト量(γRB )及び前記転動体の残留オーステナイト量(γRC )と、クロム(Cr)及び珪素(Si)の含有量とが、2.5γRC /{(γRA +γRB )/2}≦0.4Cr重量%+0.7Si重量%の関係を満足することを特徴とする。
【0021】
本発明者等は、エンジン補機用軸受、特にオルタネータ用の軸受の不具合品を市場より回収したものについて詳細に調査を行ったところ、次のような結論を得た。
市場回収品の早期不具合品については、はくりを起こしたものはほとんどなく、焼付き品であった。また、焼付き品の内輪、外輪、転動体、保持器、シール、グリースについて詳細に調査を行ったところ、内輪、外輪に関しては寸法変化と硬度の低下が観察されなかったものが一部存在した。しかし、転動体に関しては全てに寸法変形と硬度の低下が観察された。また、保持器、シールには変形が観察され、グリースの劣化も確認された。
【0022】
本発明者等は更に調査を行ったところ、このオルタネータを始めとしたエンジン補機(オルタネータ、電磁クラッチ、中間プーリ、コンプレッサ用プーリ、カーエアコン用プレッサー、水ポンプ等)に用いられる軸受は、転動体に関しては全てにおいて寸法変形と硬度の低下が観察されたのに対して、内輪、外輪に関して寸法の変化と硬度の低下が観察されなかったものが存在した。
【0023】
そこで、この焼付きの原因は、最初に転動体が膨張することにより、軸受のすき間が減少し、それにより焼付きに至ったものと考えた。事実、市場回収品の軸受をきれいに洗浄してすき間を測定したところ、初期すき間が4〜11μmに対して、すき間の減少あるいはすき間がないものが大部分であった。
また、SUJ2を用いて、熱処理、加工応力等を種々変化させ、内輪、外輪、転動体における残留オーステナイト(5%)、硬度(HRC64)等がすべて同一条件のJIS呼び番6303(内径φ17mm、外径φ47mm、幅14mm)軸受を作製し、回転速度を12000min−1、荷重条件をP(負荷荷重)/C(動定格荷重)=0.10、試験温度を140°C一定にして、実機のオルタネータに組み込みモータで駆動させて試験を行った。なお、試験打切り時間は1500時間とした。
【0024】
上記試験条件においては、はくりは生じなかったが焼付きが生じた。市場での不具合品と同様に転動体の残留オーステナイトの減少(5%)と硬度の低下(HRC2〜4)が観察されたのに対して、内輪、外輪の残留オーステナイト量の減少と硬度の低下が見られなかったことから、電装補機用軸受に見られる高振動、高負荷環境下においては、転動体の方が内輪、外輪もかなり温度が高いことがわかった。
【0025】
そこで、上記軸受の早期不具合、特に焼付きに関しての対策手段としては少なくとも転動体はCrを増加させた鋼を用い、経時変化を防止することが唯一の手段であるということにたどり着いた。高Cr鋼としては、M50等が考えられるが、M50はC濃度が高く素材の段階でCr、Mo、Vの共晶炭化物が存在するため前処理の加工性が悪く、また、共晶炭化物の存在は炭化物の周りにおいて応力集中が起こり、その部分を起点としてフレーキングが生じ、かえって寿命が低下するといった問題がある。
【0026】
次に、本発明に用いられる含有元素の作用及び含有量の臨界的意義等について説明する。
[C重量%≦−0.05Cr重量%−0.12(Mo重量%+V重量%)+1.41=α]
C及びCrの濃度が高い場合、製鋼時に共晶炭化物が生成することが知られている。この共晶炭化物が存在すると前処理の加工性が悪くなる。また、共晶炭化物の存在は炭化物の周りにおいて応力集中が起こり、その部分を起点としてフレーキングが生じ、かえって寿命が低下するといった問題がある。そこで、C重量%、Cr重量%、Mo重量%、V重量%の関係がC重量%≦−0.05Cr重量%−0.12(Mo重量%+V重量%)+1.41=αを満たすことを条件とした。
(C:0.50〜1.20重量%)
炭素Cは、転がり軸受として要求される硬さを得るためには、0.5重量%が必要である。一方、1.20重量%を越えて含有すると、製鋼時に粗大な共晶炭化物を形成し、転がり寿命の低下を引き起こすため短寿命となる。清浄度を向上させ、共晶炭化物を防止するために、炭素含有量は0.50重量%以上1.20重量%以下であることが好ましい、
【0027】
(Si:0.10〜1.50重量%)
Siは製鋼時に脱酸剤として作用し、焼入れ性を向上させるとともに、素地のマルテンサイトを強化する元素であり、軸受寿命を長くするために有効な元素である。Siの含有率が0.10重量%未満ではこれらの効果が十分には得られず、所定の高温硬さが維持できない。また、Siの含有率が1.50重量%を超えると、被切削性、鍛造性、および冷間加工性が著しく低下する。
(Mn:0.1〜2.0重量%)
Mnは鋼中のフェライトを強化して、焼入れ性を向上させる元素である。Mnの含有率が0.10重量%未満であると、その効果が不十分となる。Mnの含有率が2.0重量%を超えると、焼入れ後の残留オーステナイト量が多くなって硬さが低下するとともに、冷間加工性も低下する。
(Cr:2.5〜17.0重量%)
Crは焼入れ性、耐摩耗性の向上等の効果を発現するとともに、残留オーステナイトの分解を遅延し、焼戻し軟化抵抗性の向上を図り高温使用時での硬さの低下を防止する元素である。Crの含有率が2.5重量%未満であると、上記の効果、特に、残留オーステナイトの分解を遅延する効果が少ない。また、Crの含有率が17.0重量%を超えると、高温での硬さの低下を防止する効果が飽和するばかりでなく、巨大炭化物の発生による一般寿命の低下や、被切削性の劣化等の問題が生じる。
【0028】
(Mo:2.0重量%以下)
Moは、焼き入れ性および焼戻し軟化抵抗性を著しく増加させる効果があり、また、転がり疲労寿命向上に寄与する元素である。しかしながら、過剰に添加すると、じん性ならびに加工性を低下させるので、2.0重量%以下とする。
(V:1.0重量%以下)
Vは微細な炭化物を形成し、耐摩耗性の向上に効果のある元素である。また、炭化物を形成して上記の効果を発現する元素でもある。しかしながら、Vの含有率が1.0重量%を超えると、これらの効果が飽和するばかりでなく、巨大炭化物の発生や材料のコストが高くなる等の問題が生じる。
[2.5γRC /{(γRA +γRB )/2}≦0.4Cr%+0.7Si%]振動環境下で使用される転がり軸受においては、転動体にすべりが生じるため、転動体は内外輪と比較して著しく温度が上昇し、それにより転動体において急激に残留オーステナイトの分解に伴う寸法変化が起るため、すきま詰まりを起こし、焼付きに至る。そこで、内外輪の初期平均残留オーステナイト量と転動体の初期残留オーステナイト量の比が、1/2.5(0.4Cr%+0.7Si%)以下となるようにした。
【0029】
なお、γRC の係数の2.5は転動体の方が内外輪の温度より高いため、100〜180°Cの温度域において、転動体の残留オーステナイト分解速度と内外輪の残留オーステナイト量分解速度から算出した。クロム(Cr)、珪素(Si)は残留オーステナイトの分解を抑制させる元素であることが知られている。
そこで、2.5γRC /{(γRA +γRB )/2}と、Cr及びSiの含有量との関係が上式を満たすことにより、転動体の寸法変化を抑制することができるので、2.5γRC /{(γRA +γRB )/2}≦0.4Cr%+0.7Si%とした。
【0030】
このように、固定輪の残留オーステナイト量(γRA )、回転輪の残留オーステナイト量(γRB )、転動体の残留オーステナイト量(γRC )と、クロム(Cr)と珪素(Si)の含有量を最適値に規定することにより、更なるすきま詰まりを防止し、耐焼付き性に優れた転がり軸受を提供することができる。
【0031】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
図1は本発明の第1の態様(請求項1〜3に対応)の実施の形態の一例である転がり軸受を説明するための説明的断面図である。
図1においては符号1は、内輪回転用の深みぞ玉軸受を示したものである。この軸受1は、外輪(固定輪)2がハウジング8に固定され、内輪(回転輪)3はシャフト7に外嵌されている。外輪2と内輪3との間には保持器5により保持された多数の転動体4が配設され、また、保持器5の軸方向の両側位置の外輪2と内輪3との間にはシール部材6が装着されている。シール部材6によって囲まれる空間にはEグリースが封入されている。そして、シャフト7の回転に伴い内輪3も回転し、該回転による振動、荷重はシャフト7から内輪3及び転動体4を介して外輪2の負荷圏に作用する。
【0032】
ここで、この実施の形態では、回転輪、固定輪及び転動体として、表1に示すA〜Dの供試材に対して780〜920°Cにて約40分の保持を施し、その後、80°Cの油中に30分間浸漬して焼入れし、次いで、一部の試料にはサブゼロ処理を施した後、180°Cにて2時間の焼戻し処理を施したものを用いる。なお、表2において、比較例及び実施例で残留オーステナイト量(γR)及び硬さ(Hv)を変化させるのは、上述したサブゼロ処理の有無、加工条件、焼戻し温度を適宜変化させて所定の残留オーステナイト量(γR)及び硬さ(Hv)を付与することによりなされる。
【0033】
次に、本発明例である実施例の軸受と比較例の軸受との剥離試験結果について述べる。
試験機としては、回転速度を所定時間毎(例えば9秒毎)に9000min−1と18000min−1とに切り換えるベンチ急加減速試験機を用いた。また、実施例及び比較例共に、試験軸受にはJIS呼び番6303を用い、荷重条件はP(負荷荷重)/C(動定格荷重)=0.10とし、封入グリースにはEグリースを用い、試験温度は165°Cとした。
【0034】
更に、このときの軸受の計算寿命は1350時間であり、したがって、試験打ち切り時間を1500時間とした。試験打切り条件としては、振動値が初期振動の5倍あるいは、軸受の外輪温度が170°Cとなった時に試験終了とした。試験回数は各条件ごとn=10行った。なお、実施例及び比較例の転動体、固定輪、回転輪はいずれも同一鋼種とした。
【0035】
【表1】
【0036】
表2に、試験結果を示す、
【0037】
【表2】
【0038】
実施例1〜6においては、転動体の残留オーステナイト量(γRC )、固定輪の残留オーステナイト量(γRA )及び回転輪の残留オーステナイト量(γRB )が、2.5γRC ≦1/2(γRA +γRB )の関係を満足し、更に、転動体の表面硬度がビッカース硬度でHv770以上とされ、且つ該転動体の表面硬度(HvC )、固定輪の軌道面硬度(HvA )及び回転輪の軌道面硬度(HvB )が、HvC ≧1/2(HvA +HvB )+70の関係を満足するため、転動体の寸法変形による焼付き及び硬度低下によるはくりを全く起こさなかった。これにより、高温時での寸法安定性を優れたものとすることができると共に、焼付きを防止することができ、しかも、硬さの低下もなく、早期はくりを良好に防止することができ、更には、軸受寿命の大幅な延長を低コストで実現することができる転がり軸受を提供することができる。
【0039】
実施例7、8については、2.5γRC ≦1/2(γRA +γRB )を満たしているため、すき間づまりに伴う焼付きは生じなかったが、HvC ≧1/2(HvA +HvB )+70の関係を満足していないため、転動体にはくりを生じ、L10がそれぞれ1440、1420時間であり、実施例1〜6程の寿命は得られなかったものの、比較例1〜3より長寿命を得ることができた。
【0040】
これに対し、比較例1〜3は、2.5γRC ≦1/2(γRA +γRB )を満たしていないので、試験時において転動体の方が温度が高くなり、この結果、転動体が固定輪及び回転輪と比較して残留オーステナイトの分解に伴う寸法膨張が急激になり、これにより、すき間づまりが生じて焼付きが生じ、それぞれL10で280、510、470時間であった。
【0041】
なお、上記実施の形態では、転動体、固定輪及び回転輪に同一鋼種を用いたが、転動体において残留オーステナイトの分解を遅延する元素、例えばクロム、シリコン等を含めばさらに長寿命化が達成できると考える。
次に、本発明の第2の態様(請求項4及び5に対応)の実施の形態の一例である転がり軸受を説明する。
【0042】
本発明例である実施例の軸受と比較例の軸受との寿命試験に際し、実施例及び比較例の供試材(固定輪、回転輪、転動体)は、表3及び表4に示す化学成分を有する鋼から作製した。なお、表3において下線を施した数値は、本発明の最適成分範囲[炭素(C):0.50〜1.20重量%、珪素(Si):0.10〜1.50重量%、マンガン(Mn):0.1〜2.0重量%、クロム(Cr):2.5〜17.0重量%、モリブデン(Mo):2.0重量%以下、およびバナジウム(V):1.0重量%以下]を外れるものである。各供試材に対しては、熱処理(830〜1050°Cで焼入れ加熱、油冷却後、180〜460°Cにて焼戻し)を施した。なお、内輪、外輪、転動体の表面硬さはHRC58〜64、残留オーステナイト量は0〜20%、転動体の表面粗さは0.003〜0.010μmRa、内輪及び外輪の表面粗さは0.015〜0.020μmRaとした。
【0043】
【表3】
【0044】
【表4】
【0045】
はくり再現試験機及び焼付き試験機としては、回転速度を所定時間毎(例えば9秒毎)に9000min−1と18000min−1とに切替える急加減速試験を用いた。また、実施例及び比較例共に、試験軸受にはJIS呼び番6303(内径φ17mm、外径φ47mm、幅14mm)を用い、軸受すき間を10〜15μmとした。荷重条件は、P(負荷荷重)/C(動定格荷重)=0.10、試験験温度を180°C一定にした。
【0046】
更に、このときの軸受の計算寿命は1350時間であり、従って、試験打ち切り時間を1500時間とした。試験終了条件は、振動値が初期振動の5倍上昇した場合あるいは、軸受外輪温度が190°C以上に上昇した時にとした。試験中断品に関しては、試験終了後のはくりの有無を確認した。なお、試験は各々n=10行った。なお、内輪、外輪、転動体の評価を行う目的で、グリースに関しては表5に示すような性状のフッ素系グリースを用い、グリースの劣化による焼付きを防止した。
【0047】
【表5】
【0048】
試験結果を表6に示す。
【0049】
【表6】
【0050】
表6に示すように、実施例3〜8の転がり軸受は、転動体を供試材B〜Fで作製したもので、熱処理は実施例5に関しては浸炭窒化処理を施し、それ以外はずぶ焼きを施している。転動体のC量が0.5〜0.9重量%、Cr量が3.0〜13.0重量%の範囲であり、且つC重量%≦−0.05Cr重量%−0.12(Mo重量%+V重量%)+1.41=αの関係を満たしている。そのため、寿命試験において、はくり及び焼付きを起こさず、いずれもL10が1500時間となった。また、試験後の転動体の残留オーステナイトと硬度を測定したところ、実施例3〜8は残留オーステナイトの変化量はすべてにおいて、2%未満であり、硬度低下はHRC1未満であった。
【0051】
実施例1は、内輪、外輪、転動体ともに供試材Aから作製したもので、C量が0.9重量%、Cr量が2.5重量%であり、残留オーステナイト量が5%である。上記実施例3〜8と比較して、Cr量が若干と低いために、転動体の温度が上昇した場合に硬度の低下が起こり、1/10個、はくりを生じてしまった。
実施例2は、内輪及び外輪は供試材F、転動体は供試材Aから作製したもので、実施例1に対して熱処理を変化させて残留オーステナイトを8%としたものである。この場合は、転動体に関して上記実施例3〜8と比較して、Cr量が低いために残留オーステナイトの分解に伴う寸法膨張が起こり、1/10焼付きが生じ、L10が1380時間となった。
【0052】
実施例9〜11は、転動体を供試材G、Hから作製したもので、転動体の成分はC量がそれぞれ0.50重量%、0.55重量%、Cr量がそれぞれ15.0重量%、17.0重量%である。Cr量が高いため、残留オーステナイトの分解による寸法膨張による焼付き、及び硬度の低下による寿命の低下は見られなかったが、共晶炭化物が生成したために、共晶炭化物を起点としてはくりを生じ、L10がそれぞれ1320、1410、1140時間となった。
【0053】
比較例1、2は転動体を供試材I(SUJ2)から作製したもので、熱処理を変化させて残留オーステナイト(γR)をそれぞれ5%、0%としたものである。比較例1に関しては、残留オーステナイトが5%であるため、寸法膨張が生じてすき間づまりが起こり、焼付きが発生して短寿命(L10=280時間)であった。比較例2は残留オーステナイトが0%であるため寸法膨張に起因する焼付きは生じなかったが、Cr量が少ないために硬度が低下し、はくりが生じて短寿命(L10=510時間)であった。
【0054】
比較例3は、転動体を供試材Jから作製したのもで、C量が0.8重量%、Cr量が2.0重量%である。この場合においてもCr量が少ないために寸法膨張が起こって8/10個焼付きが生じ、L10が470時間であった。
比較例4,5は、供試材Kから作製し、C量が0.55重量%、Cr量が20.0重量%、残留オーステナイト量γRが2%、18%である。Cr量が高いため、残留オーステナイトの分解に伴う寸法膨張は起こらず、焼付きは生じなかったが、本発明の最適成分量と比較してCrが多すぎるために、共晶炭化物が生成し、共晶炭化物を起点としてはくりを生じ、L10がそれぞれ、440、450時間となった。
【0055】
比較例6、7はC重量%≧α値となっているため、共晶炭化物が生成して共晶炭化物の周りにおいて応力集中が起こり、その部分を起点としてフレーキングが生じ、L10がそれぞれ230、290時間と短寿命であった。
また、上記実施例1〜8及び比較例1〜7(C重量%≦α値を満たす範囲で)に関して、Cr量の最適成分範囲は2.5〜17.0重量%である。Cr量が2.5重量%未満だと、高温での使用に対して、残留オーステナイトの分解によって引起こされる寸法膨張による焼付きや、硬度低下によるはくりが起こるために短寿命となる。また、Cr量が17.0重量%を超えると、共晶炭化物が生成し、はくりを生じるようになるので寿命が低下する。更なる長寿命化のためには、Cr量を3.0〜13.0重量%の範囲にすることが望ましい。適応部材に関しては、電装補機用軸受については軸受部材の中で転動体の温度が一番高いため、少なくとも転動体を高Cr鋼とすればよい。なお、熱処理に関してはずぶ焼、浸炭、浸炭窒化のいずれにおいても同様な効果が得られるものと考える。
【0056】
次に、表7に示す化学成分を有する鋼から転動体を作製し、実施例の転がり軸受と比較例の転がり軸受について寿命試験を行った結果を述べる。
寿命試験に際し、実施例及び比較例の内外輪はSUJ2を用い、840°Cで焼入れ、180〜240°Cで焼戻しを施した。また、一部の試験片においてはサブゼロ処理を施した。なお、表7で下線を引いた数値は、本発明の最適成分範囲[炭素(C):0.50〜1.20重量%、珪素(Si):0.10〜1.50重量%、マンガン(Mn):0.1〜2.0重量%、クロム(Cr):2.5〜17.0重量%、モリブデン(Mo):2.0重量%以下、およびバナジウム(V):1.0重量%以下]を外れるものである。
【0057】
その後、熱処理(830〜1050°Cで焼入れ加熱、油冷却後、180〜460°Cにて焼戻し)を施した。なお、内輪、外輪及び転動体の表面硬さはHRC58〜64、残留オーステナイト量は0〜20%、転動体の表面粗さは0.003〜0.010μmRa、内輪及び外輪の表面粗さは0.015〜0.020μmRaとした。
【0058】
【表7】
【0059】
はくり再現試験機及び焼付き試験機としては、特開平9−89724号公報に開示した、回転速度を所定時間毎(例えば9秒毎)に9000min−1と18000min−1とに切り替える急加減速試験機を用いた。また、本実施例及び比較例共に、試験軸受にはJIS呼び番6303(内径φ17mm、外径φ47mm、幅14mm)を用い、軸受すきまを10〜15μmとした。荷重条件はP(負荷荷重)/C(動定格荷重)=0.10、試験温度は180°C一定とした。
【0060】
更に、このときの軸受の計算寿命は1350時間であり、従って、試験打ち切り時間を1500時間とした。試験終了条件は、振動値が初期振動の5倍上昇したとき、又は軸受外輪温度が190°C以上に上昇したときとした。試験中断品については、試験終了後、はくりの有無を確認した。なお、試験は各々n=10行った。また、内輪、外輪、転動体の評価を行う目的で、グリースに関しては、表5に示すような性状のフッ素系グリースを用い、グリースの劣化による焼付きを防止した。
【0061】
試験結果を表8に示す。
【0062】
【表8】
【0063】
表8に示すように、実施例3〜8の転がり軸受は、転動体を供試材B〜Fで作製したものである。C量が0.5〜0.9重量%、Cr量が3.0〜13.0重量%の範囲であり、且つC量≦α値を満たしている。また、外輪、内輪、転動体とC量及びSi量の関係式、2.5γRC /{(γRA +γRB )/2}≦0.4Cr%+0.7Si%を満たしている。そのため、寿命試験において、硬度低下によるはくり及び残留オーステナイトの経時変化による焼付きを起こさず、L10が1500時間となった。また、試験後の転動体の残留オーステナイトと硬度を測定したところ、実施例3〜8は残留オーステナイトの変化量は全てにおいて2%未満であり、硬度低下はHRC1未満であった。
【0064】
実施例1は、転動体を供試材Aから作製したものであり、C量が0.9重量%、Cr量が2.5重量%であり、残留オーステナイト量が5%である。上記実施例3〜8と比較して、Cr量が若干低いために、転動体の温度が上昇した場合に残留オーステナイトの経時変化によるすきま詰まりが起こり、1/10個焼付きを生じてしまった。
【0065】
実施例2は、転動体を供試材Aから作製したもので、実施例1に対して熱処理を変化させて残留オーステナイト量を1%としたものである。この場合は、転動体に関して上記実施例3〜8と比較して、Cr量が低いために評価試験中に硬度の低下が起こり、1/10個はくりが生じ、L10が1380時間となった。
実施例9〜11は、供試材G,Hから作製したもので、転動体の成分はC量が0.5,0.55重量%、Cr量が15.0,17.0重量%である。Cr量が高いため、残留オーステナイトの分解による寸法膨張による焼付き、及び硬度の低下による寿命の低下は見られなかった。しかし、共晶炭化物が生成したために、共晶炭化物を起点としてはくりを生じ、L10がそれぞれ1480、1310、1240時間であった。
【0066】
実施例12,13は、転動体をC,Fから作製したもので、表7に示すように、C量が0.5〜0.9重量%、Cr量が3.0〜13.0重量%の範囲であり、且つC量≦α値を満たす最適成分範囲である。しかし、外輪、内輪、転動体とC量及びSi量の関係式、2.5γRC /{(γRA +γRB )/2}≦0.4Cr%+0.7Si%を満たしておらず、転動体の残留オーステナイトの経時変化に伴うすきま詰まりのため、2/10個焼付きが生じ、L10がそれぞれ1180、1170時間と他の実施例よりは短寿命であった。
【0067】
比較例1〜3は、転動体を軸受鋼2種(SUJ2)から作製したもので、熱処理を変化させて残留オーステナイト量を6.5%、5%、0.2%としたものである。比較例1、2に関しては、残留オーステナイト量が6.5%、5%であるため、寸法膨張が起こり、すきま詰まりが起こり、焼付きが生じて短寿命であった。比較例3は残留オーステナイト量が0.2%であるため、寸法膨張に起因する焼付きは生じなかったが、Cr量が少ないため硬度の低下が起こり、はくりが生じ短寿命であった。
【0068】
比較例4は、転動体を供試材Jから作製したもので、C量が0.8重量%、Cr量が2.0重量%である。この場合においてもCr量が少ないために硬度の低下が起こり、10/10個はくりを生じ、L10が440時間であった。
比較例5は、転動体を供試材K、即ちSUS440Cから作製したものである。Cr量が高いため、残留オーステナイトの分解に伴う寸法膨張は起こらず、焼付きは生じなかった。しかし、SUS440Cは、表7にも示したように、炭素量が高く、C量≦α値を満たしていないため、20μm以上の共晶炭化物が生じ、共晶炭化物を起点としてはくりが生じたため、L10が250時間となった。
【0069】
比較例6は、転動体を供試材Lから作製したものである。Cr量が高いため、残留オーステナイトの分解に伴う寸法膨張は起こらず、焼付きは生じなかった。しかし、最適成分量と比較してCrが多すぎるために、共晶炭化物が生成し、共晶炭化物を起点としてはくりが生じたため、L10が230時間となった。
また、上記実施例1〜13、比較例1〜6に関して、Cr量の最適成分範囲は2.5〜17.0重量%である。Cr量がこれより少ないと、高温での使用に対して、残留オーステナイトの分解によって引き起こされる寸法膨張による焼付きや、硬度低下によるはくりが起こるために短寿命となる。また、これより多いと、共晶炭化物が生成し、はくりを生じるようになるので寿命が低下する。更なる長寿命化のためには、Cr量を3.0〜13.0重量%にすることが望ましい。
【0070】
適応部材については、電装補機用軸受に関しては軸受部材の中で転動体の温度が一番高いため、転動体を高Cr鋼とすればよい。なお、熱処理については、ずぶ焼、浸炭、浸炭窒化のいずれにおいても同様な効果が得られるものと考えられる。
【0071】
【発明の効果】
上記の説明から明らかなように、本発明によれば、高温時での寸法安定性を優れたものとすることができると共に、焼付きを防止することができ、しかも、硬さの低下もなく、早期はくりを良好に防止することができ、更には、軸受寿命の大幅な延長を低コストで実現することができる転がり軸受を提供することをができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の態様の実施の形態の一例である転がり軸受を説明するための説明的断面図である。
【符号の説明】
1…転がり軸受
2…外輪(固定輪)
3…内輪(回転輪)
4…転動体
【発明の属する技術分野】
本発明は、グリース潤滑される転がり軸受に関し、特に、エンジン補機(オルタネータ、電磁クラッチ、中間プーリ、コンプレッサ用プーリ、カーエアコン用プレッサ、水ポンプ等)及びガスヒートポンプ等の回転支持部に好適に用いられる転がり軸受に関する。
【0002】
【従来の技術】
エンジン補機(オルタネータ、電磁クラッチ、中間プーリ、コンプレッサ用プーリ、カーエアコン用プレッサ、水ポンプ等)及びガスヒートポンプに用いられる転がり軸受は繰り返し接触応力を受けるため、これらの転がり軸受を構成する部材には、硬い、負荷に耐える、転がり疲労寿命が長い、すべりに対する摩耗特性が良好である等の性能が要求される。
【0003】
そこで、一般的には、オルタネータを始めとしたエンジン補機及びガスビートポンプに使用される転がり軸受においては、内外輪、転動体の材料として、JIS規格のSUJ2が用いられている。
そして、これらの材料は、転がり疲労寿命等の必要とされる物性を得るために、焼入れ焼戻し処理が施されて、所定の硬さを有したものが使用されている。固定輪及び回転輪については、通常、820〜860°Cで焼入れ、160〜180°Cで焼戻し処理を施し、硬さはビッカース硬度で650〜750、残留オーステナイトは8〜12%である。一方、転動体については、通常、固定輪及び回転輪と同様に820〜860°Cで焼入れが行われるが、加工時の応力緩和のため180〜220°Cで焼戻し処理を施し、硬さはビッカース硬度で800〜900、残留オーステナイトは5〜8%としたものが使用されている。
【0004】
オルタネータを始めとした電装補機用軸受に関しての熱処理を改善した技術については、少なくとも荷重入力側、つまりプーリ側の軸受外輪の残留オーステナイト量を0.05%以上6%以下とすることにより、軌道面下での残留オーステナイトの分解による塑性変形を防止し、振動を低減することにより組織変化を伴った早期はくりを防止する技術が開示されている(例えば特許文献1参照)。
【0005】
また、エンジン補機用軸受については、エンジン補機の小型化による高振動、高負荷及び密封化による軸受の使用雰囲気温度の上昇により、上述した通常の熱処理を施したものでは、内輪、外輪及び転動体の残留オーステナイトの経時変化に伴うすき間の減少により早期で焼付きが生じる。
高振動、高負荷及び密封条件下で使用されるエンジン補機用軸受の寿命向上技術としては、例えば、転動体がセラミックスで内輪、外輪が鋼材で、少なくとも外輪が200〜380°Cの高温で焼戻し施され、硬さがHRC56. 0〜60. 5で、雰囲気による熱影響を低減したものや(例えば特許文献2参照)、軸受軌道輪をSUJ2と比較して、けい素あるいはアルミニウムを1〜2%として、230〜300°Cの高温で焼戻しを行い、残留オーステナイトを8%以下として、寸法安定性に優れ且つ高硬度な転がり軸受に関する技術が開示されている(例えば特許文献3参照)。
【0006】
【特許文献1】
特公平7−72565号公報
【特許文献2】
特許第2992731号公報
【特許文献3】
特許第2013772号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
上記特許文献1では、少なくとも荷重入力側、つまりプーリ側の軸受外輪の残留オーステナイト量を0.05%以上6%以下とすることにより、軌道面下での残留オーステナイトの分解による塑性変形を防止し、振動を低減することにより組織変化を伴った早期はくりを防止するとあるが、高温時の使用時においては、外輪のみに寸法安定化処理を施すと内輪及び転動体の経時変化による膨張によりすき間詰まりが生じ、かえって焼付きが生じ短寿命となる場合がある。
【0008】
上記特許文献2では、転動体を窒化けい素を主体とするセラミックスで形成した場合においては、雰囲気の上昇においても転動体の寸法の経時変化を抑制し、焼付きを防止することは可能であるが、セラミックスは鋼材と比較して弾性変形を起こしにくいために、転動体と内・外輪の接触面圧の増大を引起こし、はくり寿命が低下するという問題がある。
【0009】
上記特許文献3では、軸受の軌道輪を本鋼種で作製し、高温で焼戻しを行えば、寸法安定性に優れたものとすることができるが、転動体に関しては何の記載もなく、仮にSUJ2で転動体のみを作製した場合、転動体が軸受の使用中に寸法膨張を引起こし、かえって短時間で焼付きに至る虞れがある。
本発明はこのような不都合を解消するためになされたものであり、高温時での寸法安定性を優れたものとすることができると共に、焼付きを防止することができ、しかも、硬さの低下もなく、早期はくりを良好に防止することができ、更には、軸受寿命の大幅な延長を低コストで実現することができる転がり軸受を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、固定輪と回転輪との間に複数の転動体が配設された転がり軸受において、
前記転動体の残留オーステナイト量(γRC )、前記固定輪の残留オーステナイト量(γRA )及び前記回転輪の残留オーステナイト量(γRB )が、2.5γRC ≦1/2(γRA +γRB )の関係を満足することを特徴とする。
【0011】
請求項2に係る発明は、請求項1において、前記転動体の表面硬度がビッカース硬度でHv770以上とされ、且つ該転動体の表面硬度(HvC )、前記固定輪の軌道面硬度(HvA )及び前記回転輪の軌道面硬度(HvB )が、HvC ≧1/2(HvA +HvB )+70の関係を満足することを特徴とする。
請求項3に係る発明は、請求項1又は2において、前記転動体の合金成分が、炭素(C):0.50〜1.20重量%、珪素(Si):0.10〜1.50重量%、マンガン(Mn):0.1〜2.0重量%、クロム(Cr):0.5〜2.5重量%、モリブデン(Mo):2.0重量%以下、およびバナジウム(V):1.0重量%以下とされたことを特徴とする。
【0012】
本発明者等は、エンジン補機用軸受、特にオルタネータ用の軸受に関して、詳細に調査したところ次のような結論を得た。
実験方法に関しては、オルタネータ実機にJIS呼び番6303の軸受を組み込んで試験を行った。早期不具合品については、はくり品、焼付き品であった。また、焼付き品の内輪、外輪、転動体、保持器、シール、グリースに関して詳細に調査を行ったところ、転動体に関しては全てに寸法変化、残留オーステナイトの減少、及び硬度の低下が観察された。
【0013】
また、内輪、外輪の寸法変化、残留オーステナイトの減少、及び硬度の低下は転動体と比較して著しく低かったことから、振動環境下で使用されるオルタネータを始めとした電装補機用軸受においては、転動体にすべりが生じるため、転動体は内輪、外輪と比較して著しく温度が上昇し、それにより転動体は固定輪及び回転輪と比較して、急激に残留オーステナイトの分解にともなう寸法変化が起り、すき間づまりを起こして焼付きに至ったという結論を得た。
【0014】
そこで、外径がJIS呼び番6303と同じ径のφ47mmのSUJ2リングを作製して、840°Cで焼入れ、180°Cで焼戻し行い、80〜180°Cの温度で種々の時間保持を行い、寸法変化量、残留オーステナイト分解量、硬度低下を測定し、上記試験後の試料と比較したところ、寸法変化量、残留オーステナイト分解量、硬度低下から、転動体は内輪及び外輪と比較して10°C高いことがわかり、転動体の残留オーステナイトの分解にともなう寸法変化率は内輪、外輪と比較しておよそ2.5倍も速いことがわかった。
【0015】
また、転動体に寸法変形によるすき間づまりによって油膜の切断が生じる、はくりに至ることも考えられるため、転動体、固定輪及び回転輪の残留オーステナイト量を規定し、且つ硬さも規定することは有効な手段であると考える。
次に、本発明に用いられる含有元素の作用及び含有量の臨界的意義等について説明する。
[2.5γRC ≦1/2(γRA +γRB )]
振動環境下で使用される転がり軸受においては、転動体にすべりが生じるため、転動体は内輪、外輪と比較して著しく温度が上昇し、それにより転動体において急激に残留オーステナイトの分解にともなう寸法変化が起るため、すき間づまりを起こし焼付きに至る。そこで、内輪及び外輪の初期平均残留オーステナイト量と比較して、転動体の初期残留オーステナイト量を1/2.5以下にした。なお、係数の2.5は100〜180°Cの温度域において、10°Cの温度差がある場合の残留オーステナイトの分解速度比から算出した。
[HvC ≧1/2(HvA +HvB )+70]
転がり軸受に要求される硬さは、特に転動体に関して高く、そのため転動体の表面硬さHvC は770Hv以上とした。また、固定輪及び固定輪に対しても軸受として要求される硬さは高くなければならない。そこで、固定輪及び回転輪の平均表面硬さ1/2(HvA +HvB )は700Hvとした。
【0016】
(C:0.50〜1.20重量%)
炭素C%は、転がり軸受として要求される硬さを得るためには、0.5重量%が必要である。一方、1.20重量%を越えて含有すると、製鋼時に粗大な共晶炭化物を形成し、転がり寿命の低下を引き起こすため短寿命となる。清浄度を向上させ、共晶炭化物を防止するために、炭素含有量は0.50重量%以上1.20重量%以下であることが好ましい。
(Si:0.10〜1.50重量%)
Siは製鋼時に説酸剤として作用し、焼入れ性を向上させるとともに、素地のマルテンサイトを強化する元素であり、軸受寿命を長くするために有効な元素である。Siの含有率が0. 10重量%未満ではこれらの効果が十分には得られず、所定の高温硬さが維持できない。また、Siの含有率が1.50重量%を超えると、被切削性、鍛造性、および冷間加工性が著しく低下する。
【0017】
(Mn:0.1〜2.0重量%)
Mnは鋼中のフェライトを強化して、焼入れ性を向上させる元素である。Mnの含有率が0.10重量%未満であると、その効果が不十分となる。Mnの含有率が2.0重量%を超えると、焼入れ後の残留オーステナイト量が多くなって硬さが低下するとともに、冷間加工性も低下する。
(Cr:0.5〜2.5重量%)
Crは、焼入れ性、耐摩耗性の向上等の効果を発現する元素である。Crの含有率が0.5重量%未満であると、上記の効果、耐摩耗性の向上等の効果が少ない。また、Crの含有率が2.5重量%を超えると、軸受としての要求される硬さを得るためには焼入れ温度の上昇が必要であり、また、巨大炭化物の発生による一般寿命の低下や、被切削性の劣化等の問題が生じる。
【0018】
(Mo:2.0重量%以下)
Moは、焼き入れ性および焼戻し軟化抵抗性を著しく増加させる効果があり、また、転がり疲労寿命向上に寄与する元素である。しかしながら、過剰に添加すると、じん性ならびに加工性を低下させるので、2.0重量%以下とする。
(V:1.0重量%以下)
Vは微細な炭化物を形成し、耐摩耗性の向上に効果のある元素である。また、炭化物を形成して上記の効果を発現する元素でもある。しかしながら、Vの含有率が1.0重量%を超えると、これらの効果が飽和するばかりでなく、巨大炭化物の発生や材料のコストが高くなる等の問題が生じる。
【0019】
また、上記目的を達成するために、請求項4に係る発明は、固定輪と回転輪との間に複数の転動体が配設された転がり軸受において、
少なくとも前記転動体の合金成分が、炭素(C):0.50〜1.20重量%、珪素(Si):0.10〜1.50重量%、マンガン(Mn):0.1〜2.0重量%、クロム(Cr):2.5〜17.0重量%、モリブデン(Mo):2.0重量%以下、およびバナジウム(V):1.0重量%以下とされ、且つC重量%、Cr重量%、Mo重量%及びV重量%が、C重量%≦−0.05Cr重量%−0.12(Mo重量%+V重量%)+1.41=αの関係を満足することを特徴とする。
【0020】
請求項5に係る発明は、請求項4において、前記合金材料に熱処理を施し、前記固定輪の残留オーステナイト量(γRA )、前記回転輪の残留オーステナイト量(γRB )及び前記転動体の残留オーステナイト量(γRC )と、クロム(Cr)及び珪素(Si)の含有量とが、2.5γRC /{(γRA +γRB )/2}≦0.4Cr重量%+0.7Si重量%の関係を満足することを特徴とする。
【0021】
本発明者等は、エンジン補機用軸受、特にオルタネータ用の軸受の不具合品を市場より回収したものについて詳細に調査を行ったところ、次のような結論を得た。
市場回収品の早期不具合品については、はくりを起こしたものはほとんどなく、焼付き品であった。また、焼付き品の内輪、外輪、転動体、保持器、シール、グリースについて詳細に調査を行ったところ、内輪、外輪に関しては寸法変化と硬度の低下が観察されなかったものが一部存在した。しかし、転動体に関しては全てに寸法変形と硬度の低下が観察された。また、保持器、シールには変形が観察され、グリースの劣化も確認された。
【0022】
本発明者等は更に調査を行ったところ、このオルタネータを始めとしたエンジン補機(オルタネータ、電磁クラッチ、中間プーリ、コンプレッサ用プーリ、カーエアコン用プレッサー、水ポンプ等)に用いられる軸受は、転動体に関しては全てにおいて寸法変形と硬度の低下が観察されたのに対して、内輪、外輪に関して寸法の変化と硬度の低下が観察されなかったものが存在した。
【0023】
そこで、この焼付きの原因は、最初に転動体が膨張することにより、軸受のすき間が減少し、それにより焼付きに至ったものと考えた。事実、市場回収品の軸受をきれいに洗浄してすき間を測定したところ、初期すき間が4〜11μmに対して、すき間の減少あるいはすき間がないものが大部分であった。
また、SUJ2を用いて、熱処理、加工応力等を種々変化させ、内輪、外輪、転動体における残留オーステナイト(5%)、硬度(HRC64)等がすべて同一条件のJIS呼び番6303(内径φ17mm、外径φ47mm、幅14mm)軸受を作製し、回転速度を12000min−1、荷重条件をP(負荷荷重)/C(動定格荷重)=0.10、試験温度を140°C一定にして、実機のオルタネータに組み込みモータで駆動させて試験を行った。なお、試験打切り時間は1500時間とした。
【0024】
上記試験条件においては、はくりは生じなかったが焼付きが生じた。市場での不具合品と同様に転動体の残留オーステナイトの減少(5%)と硬度の低下(HRC2〜4)が観察されたのに対して、内輪、外輪の残留オーステナイト量の減少と硬度の低下が見られなかったことから、電装補機用軸受に見られる高振動、高負荷環境下においては、転動体の方が内輪、外輪もかなり温度が高いことがわかった。
【0025】
そこで、上記軸受の早期不具合、特に焼付きに関しての対策手段としては少なくとも転動体はCrを増加させた鋼を用い、経時変化を防止することが唯一の手段であるということにたどり着いた。高Cr鋼としては、M50等が考えられるが、M50はC濃度が高く素材の段階でCr、Mo、Vの共晶炭化物が存在するため前処理の加工性が悪く、また、共晶炭化物の存在は炭化物の周りにおいて応力集中が起こり、その部分を起点としてフレーキングが生じ、かえって寿命が低下するといった問題がある。
【0026】
次に、本発明に用いられる含有元素の作用及び含有量の臨界的意義等について説明する。
[C重量%≦−0.05Cr重量%−0.12(Mo重量%+V重量%)+1.41=α]
C及びCrの濃度が高い場合、製鋼時に共晶炭化物が生成することが知られている。この共晶炭化物が存在すると前処理の加工性が悪くなる。また、共晶炭化物の存在は炭化物の周りにおいて応力集中が起こり、その部分を起点としてフレーキングが生じ、かえって寿命が低下するといった問題がある。そこで、C重量%、Cr重量%、Mo重量%、V重量%の関係がC重量%≦−0.05Cr重量%−0.12(Mo重量%+V重量%)+1.41=αを満たすことを条件とした。
(C:0.50〜1.20重量%)
炭素Cは、転がり軸受として要求される硬さを得るためには、0.5重量%が必要である。一方、1.20重量%を越えて含有すると、製鋼時に粗大な共晶炭化物を形成し、転がり寿命の低下を引き起こすため短寿命となる。清浄度を向上させ、共晶炭化物を防止するために、炭素含有量は0.50重量%以上1.20重量%以下であることが好ましい、
【0027】
(Si:0.10〜1.50重量%)
Siは製鋼時に脱酸剤として作用し、焼入れ性を向上させるとともに、素地のマルテンサイトを強化する元素であり、軸受寿命を長くするために有効な元素である。Siの含有率が0.10重量%未満ではこれらの効果が十分には得られず、所定の高温硬さが維持できない。また、Siの含有率が1.50重量%を超えると、被切削性、鍛造性、および冷間加工性が著しく低下する。
(Mn:0.1〜2.0重量%)
Mnは鋼中のフェライトを強化して、焼入れ性を向上させる元素である。Mnの含有率が0.10重量%未満であると、その効果が不十分となる。Mnの含有率が2.0重量%を超えると、焼入れ後の残留オーステナイト量が多くなって硬さが低下するとともに、冷間加工性も低下する。
(Cr:2.5〜17.0重量%)
Crは焼入れ性、耐摩耗性の向上等の効果を発現するとともに、残留オーステナイトの分解を遅延し、焼戻し軟化抵抗性の向上を図り高温使用時での硬さの低下を防止する元素である。Crの含有率が2.5重量%未満であると、上記の効果、特に、残留オーステナイトの分解を遅延する効果が少ない。また、Crの含有率が17.0重量%を超えると、高温での硬さの低下を防止する効果が飽和するばかりでなく、巨大炭化物の発生による一般寿命の低下や、被切削性の劣化等の問題が生じる。
【0028】
(Mo:2.0重量%以下)
Moは、焼き入れ性および焼戻し軟化抵抗性を著しく増加させる効果があり、また、転がり疲労寿命向上に寄与する元素である。しかしながら、過剰に添加すると、じん性ならびに加工性を低下させるので、2.0重量%以下とする。
(V:1.0重量%以下)
Vは微細な炭化物を形成し、耐摩耗性の向上に効果のある元素である。また、炭化物を形成して上記の効果を発現する元素でもある。しかしながら、Vの含有率が1.0重量%を超えると、これらの効果が飽和するばかりでなく、巨大炭化物の発生や材料のコストが高くなる等の問題が生じる。
[2.5γRC /{(γRA +γRB )/2}≦0.4Cr%+0.7Si%]振動環境下で使用される転がり軸受においては、転動体にすべりが生じるため、転動体は内外輪と比較して著しく温度が上昇し、それにより転動体において急激に残留オーステナイトの分解に伴う寸法変化が起るため、すきま詰まりを起こし、焼付きに至る。そこで、内外輪の初期平均残留オーステナイト量と転動体の初期残留オーステナイト量の比が、1/2.5(0.4Cr%+0.7Si%)以下となるようにした。
【0029】
なお、γRC の係数の2.5は転動体の方が内外輪の温度より高いため、100〜180°Cの温度域において、転動体の残留オーステナイト分解速度と内外輪の残留オーステナイト量分解速度から算出した。クロム(Cr)、珪素(Si)は残留オーステナイトの分解を抑制させる元素であることが知られている。
そこで、2.5γRC /{(γRA +γRB )/2}と、Cr及びSiの含有量との関係が上式を満たすことにより、転動体の寸法変化を抑制することができるので、2.5γRC /{(γRA +γRB )/2}≦0.4Cr%+0.7Si%とした。
【0030】
このように、固定輪の残留オーステナイト量(γRA )、回転輪の残留オーステナイト量(γRB )、転動体の残留オーステナイト量(γRC )と、クロム(Cr)と珪素(Si)の含有量を最適値に規定することにより、更なるすきま詰まりを防止し、耐焼付き性に優れた転がり軸受を提供することができる。
【0031】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
図1は本発明の第1の態様(請求項1〜3に対応)の実施の形態の一例である転がり軸受を説明するための説明的断面図である。
図1においては符号1は、内輪回転用の深みぞ玉軸受を示したものである。この軸受1は、外輪(固定輪)2がハウジング8に固定され、内輪(回転輪)3はシャフト7に外嵌されている。外輪2と内輪3との間には保持器5により保持された多数の転動体4が配設され、また、保持器5の軸方向の両側位置の外輪2と内輪3との間にはシール部材6が装着されている。シール部材6によって囲まれる空間にはEグリースが封入されている。そして、シャフト7の回転に伴い内輪3も回転し、該回転による振動、荷重はシャフト7から内輪3及び転動体4を介して外輪2の負荷圏に作用する。
【0032】
ここで、この実施の形態では、回転輪、固定輪及び転動体として、表1に示すA〜Dの供試材に対して780〜920°Cにて約40分の保持を施し、その後、80°Cの油中に30分間浸漬して焼入れし、次いで、一部の試料にはサブゼロ処理を施した後、180°Cにて2時間の焼戻し処理を施したものを用いる。なお、表2において、比較例及び実施例で残留オーステナイト量(γR)及び硬さ(Hv)を変化させるのは、上述したサブゼロ処理の有無、加工条件、焼戻し温度を適宜変化させて所定の残留オーステナイト量(γR)及び硬さ(Hv)を付与することによりなされる。
【0033】
次に、本発明例である実施例の軸受と比較例の軸受との剥離試験結果について述べる。
試験機としては、回転速度を所定時間毎(例えば9秒毎)に9000min−1と18000min−1とに切り換えるベンチ急加減速試験機を用いた。また、実施例及び比較例共に、試験軸受にはJIS呼び番6303を用い、荷重条件はP(負荷荷重)/C(動定格荷重)=0.10とし、封入グリースにはEグリースを用い、試験温度は165°Cとした。
【0034】
更に、このときの軸受の計算寿命は1350時間であり、したがって、試験打ち切り時間を1500時間とした。試験打切り条件としては、振動値が初期振動の5倍あるいは、軸受の外輪温度が170°Cとなった時に試験終了とした。試験回数は各条件ごとn=10行った。なお、実施例及び比較例の転動体、固定輪、回転輪はいずれも同一鋼種とした。
【0035】
【表1】
【0036】
表2に、試験結果を示す、
【0037】
【表2】
【0038】
実施例1〜6においては、転動体の残留オーステナイト量(γRC )、固定輪の残留オーステナイト量(γRA )及び回転輪の残留オーステナイト量(γRB )が、2.5γRC ≦1/2(γRA +γRB )の関係を満足し、更に、転動体の表面硬度がビッカース硬度でHv770以上とされ、且つ該転動体の表面硬度(HvC )、固定輪の軌道面硬度(HvA )及び回転輪の軌道面硬度(HvB )が、HvC ≧1/2(HvA +HvB )+70の関係を満足するため、転動体の寸法変形による焼付き及び硬度低下によるはくりを全く起こさなかった。これにより、高温時での寸法安定性を優れたものとすることができると共に、焼付きを防止することができ、しかも、硬さの低下もなく、早期はくりを良好に防止することができ、更には、軸受寿命の大幅な延長を低コストで実現することができる転がり軸受を提供することができる。
【0039】
実施例7、8については、2.5γRC ≦1/2(γRA +γRB )を満たしているため、すき間づまりに伴う焼付きは生じなかったが、HvC ≧1/2(HvA +HvB )+70の関係を満足していないため、転動体にはくりを生じ、L10がそれぞれ1440、1420時間であり、実施例1〜6程の寿命は得られなかったものの、比較例1〜3より長寿命を得ることができた。
【0040】
これに対し、比較例1〜3は、2.5γRC ≦1/2(γRA +γRB )を満たしていないので、試験時において転動体の方が温度が高くなり、この結果、転動体が固定輪及び回転輪と比較して残留オーステナイトの分解に伴う寸法膨張が急激になり、これにより、すき間づまりが生じて焼付きが生じ、それぞれL10で280、510、470時間であった。
【0041】
なお、上記実施の形態では、転動体、固定輪及び回転輪に同一鋼種を用いたが、転動体において残留オーステナイトの分解を遅延する元素、例えばクロム、シリコン等を含めばさらに長寿命化が達成できると考える。
次に、本発明の第2の態様(請求項4及び5に対応)の実施の形態の一例である転がり軸受を説明する。
【0042】
本発明例である実施例の軸受と比較例の軸受との寿命試験に際し、実施例及び比較例の供試材(固定輪、回転輪、転動体)は、表3及び表4に示す化学成分を有する鋼から作製した。なお、表3において下線を施した数値は、本発明の最適成分範囲[炭素(C):0.50〜1.20重量%、珪素(Si):0.10〜1.50重量%、マンガン(Mn):0.1〜2.0重量%、クロム(Cr):2.5〜17.0重量%、モリブデン(Mo):2.0重量%以下、およびバナジウム(V):1.0重量%以下]を外れるものである。各供試材に対しては、熱処理(830〜1050°Cで焼入れ加熱、油冷却後、180〜460°Cにて焼戻し)を施した。なお、内輪、外輪、転動体の表面硬さはHRC58〜64、残留オーステナイト量は0〜20%、転動体の表面粗さは0.003〜0.010μmRa、内輪及び外輪の表面粗さは0.015〜0.020μmRaとした。
【0043】
【表3】
【0044】
【表4】
【0045】
はくり再現試験機及び焼付き試験機としては、回転速度を所定時間毎(例えば9秒毎)に9000min−1と18000min−1とに切替える急加減速試験を用いた。また、実施例及び比較例共に、試験軸受にはJIS呼び番6303(内径φ17mm、外径φ47mm、幅14mm)を用い、軸受すき間を10〜15μmとした。荷重条件は、P(負荷荷重)/C(動定格荷重)=0.10、試験験温度を180°C一定にした。
【0046】
更に、このときの軸受の計算寿命は1350時間であり、従って、試験打ち切り時間を1500時間とした。試験終了条件は、振動値が初期振動の5倍上昇した場合あるいは、軸受外輪温度が190°C以上に上昇した時にとした。試験中断品に関しては、試験終了後のはくりの有無を確認した。なお、試験は各々n=10行った。なお、内輪、外輪、転動体の評価を行う目的で、グリースに関しては表5に示すような性状のフッ素系グリースを用い、グリースの劣化による焼付きを防止した。
【0047】
【表5】
【0048】
試験結果を表6に示す。
【0049】
【表6】
【0050】
表6に示すように、実施例3〜8の転がり軸受は、転動体を供試材B〜Fで作製したもので、熱処理は実施例5に関しては浸炭窒化処理を施し、それ以外はずぶ焼きを施している。転動体のC量が0.5〜0.9重量%、Cr量が3.0〜13.0重量%の範囲であり、且つC重量%≦−0.05Cr重量%−0.12(Mo重量%+V重量%)+1.41=αの関係を満たしている。そのため、寿命試験において、はくり及び焼付きを起こさず、いずれもL10が1500時間となった。また、試験後の転動体の残留オーステナイトと硬度を測定したところ、実施例3〜8は残留オーステナイトの変化量はすべてにおいて、2%未満であり、硬度低下はHRC1未満であった。
【0051】
実施例1は、内輪、外輪、転動体ともに供試材Aから作製したもので、C量が0.9重量%、Cr量が2.5重量%であり、残留オーステナイト量が5%である。上記実施例3〜8と比較して、Cr量が若干と低いために、転動体の温度が上昇した場合に硬度の低下が起こり、1/10個、はくりを生じてしまった。
実施例2は、内輪及び外輪は供試材F、転動体は供試材Aから作製したもので、実施例1に対して熱処理を変化させて残留オーステナイトを8%としたものである。この場合は、転動体に関して上記実施例3〜8と比較して、Cr量が低いために残留オーステナイトの分解に伴う寸法膨張が起こり、1/10焼付きが生じ、L10が1380時間となった。
【0052】
実施例9〜11は、転動体を供試材G、Hから作製したもので、転動体の成分はC量がそれぞれ0.50重量%、0.55重量%、Cr量がそれぞれ15.0重量%、17.0重量%である。Cr量が高いため、残留オーステナイトの分解による寸法膨張による焼付き、及び硬度の低下による寿命の低下は見られなかったが、共晶炭化物が生成したために、共晶炭化物を起点としてはくりを生じ、L10がそれぞれ1320、1410、1140時間となった。
【0053】
比較例1、2は転動体を供試材I(SUJ2)から作製したもので、熱処理を変化させて残留オーステナイト(γR)をそれぞれ5%、0%としたものである。比較例1に関しては、残留オーステナイトが5%であるため、寸法膨張が生じてすき間づまりが起こり、焼付きが発生して短寿命(L10=280時間)であった。比較例2は残留オーステナイトが0%であるため寸法膨張に起因する焼付きは生じなかったが、Cr量が少ないために硬度が低下し、はくりが生じて短寿命(L10=510時間)であった。
【0054】
比較例3は、転動体を供試材Jから作製したのもで、C量が0.8重量%、Cr量が2.0重量%である。この場合においてもCr量が少ないために寸法膨張が起こって8/10個焼付きが生じ、L10が470時間であった。
比較例4,5は、供試材Kから作製し、C量が0.55重量%、Cr量が20.0重量%、残留オーステナイト量γRが2%、18%である。Cr量が高いため、残留オーステナイトの分解に伴う寸法膨張は起こらず、焼付きは生じなかったが、本発明の最適成分量と比較してCrが多すぎるために、共晶炭化物が生成し、共晶炭化物を起点としてはくりを生じ、L10がそれぞれ、440、450時間となった。
【0055】
比較例6、7はC重量%≧α値となっているため、共晶炭化物が生成して共晶炭化物の周りにおいて応力集中が起こり、その部分を起点としてフレーキングが生じ、L10がそれぞれ230、290時間と短寿命であった。
また、上記実施例1〜8及び比較例1〜7(C重量%≦α値を満たす範囲で)に関して、Cr量の最適成分範囲は2.5〜17.0重量%である。Cr量が2.5重量%未満だと、高温での使用に対して、残留オーステナイトの分解によって引起こされる寸法膨張による焼付きや、硬度低下によるはくりが起こるために短寿命となる。また、Cr量が17.0重量%を超えると、共晶炭化物が生成し、はくりを生じるようになるので寿命が低下する。更なる長寿命化のためには、Cr量を3.0〜13.0重量%の範囲にすることが望ましい。適応部材に関しては、電装補機用軸受については軸受部材の中で転動体の温度が一番高いため、少なくとも転動体を高Cr鋼とすればよい。なお、熱処理に関してはずぶ焼、浸炭、浸炭窒化のいずれにおいても同様な効果が得られるものと考える。
【0056】
次に、表7に示す化学成分を有する鋼から転動体を作製し、実施例の転がり軸受と比較例の転がり軸受について寿命試験を行った結果を述べる。
寿命試験に際し、実施例及び比較例の内外輪はSUJ2を用い、840°Cで焼入れ、180〜240°Cで焼戻しを施した。また、一部の試験片においてはサブゼロ処理を施した。なお、表7で下線を引いた数値は、本発明の最適成分範囲[炭素(C):0.50〜1.20重量%、珪素(Si):0.10〜1.50重量%、マンガン(Mn):0.1〜2.0重量%、クロム(Cr):2.5〜17.0重量%、モリブデン(Mo):2.0重量%以下、およびバナジウム(V):1.0重量%以下]を外れるものである。
【0057】
その後、熱処理(830〜1050°Cで焼入れ加熱、油冷却後、180〜460°Cにて焼戻し)を施した。なお、内輪、外輪及び転動体の表面硬さはHRC58〜64、残留オーステナイト量は0〜20%、転動体の表面粗さは0.003〜0.010μmRa、内輪及び外輪の表面粗さは0.015〜0.020μmRaとした。
【0058】
【表7】
【0059】
はくり再現試験機及び焼付き試験機としては、特開平9−89724号公報に開示した、回転速度を所定時間毎(例えば9秒毎)に9000min−1と18000min−1とに切り替える急加減速試験機を用いた。また、本実施例及び比較例共に、試験軸受にはJIS呼び番6303(内径φ17mm、外径φ47mm、幅14mm)を用い、軸受すきまを10〜15μmとした。荷重条件はP(負荷荷重)/C(動定格荷重)=0.10、試験温度は180°C一定とした。
【0060】
更に、このときの軸受の計算寿命は1350時間であり、従って、試験打ち切り時間を1500時間とした。試験終了条件は、振動値が初期振動の5倍上昇したとき、又は軸受外輪温度が190°C以上に上昇したときとした。試験中断品については、試験終了後、はくりの有無を確認した。なお、試験は各々n=10行った。また、内輪、外輪、転動体の評価を行う目的で、グリースに関しては、表5に示すような性状のフッ素系グリースを用い、グリースの劣化による焼付きを防止した。
【0061】
試験結果を表8に示す。
【0062】
【表8】
【0063】
表8に示すように、実施例3〜8の転がり軸受は、転動体を供試材B〜Fで作製したものである。C量が0.5〜0.9重量%、Cr量が3.0〜13.0重量%の範囲であり、且つC量≦α値を満たしている。また、外輪、内輪、転動体とC量及びSi量の関係式、2.5γRC /{(γRA +γRB )/2}≦0.4Cr%+0.7Si%を満たしている。そのため、寿命試験において、硬度低下によるはくり及び残留オーステナイトの経時変化による焼付きを起こさず、L10が1500時間となった。また、試験後の転動体の残留オーステナイトと硬度を測定したところ、実施例3〜8は残留オーステナイトの変化量は全てにおいて2%未満であり、硬度低下はHRC1未満であった。
【0064】
実施例1は、転動体を供試材Aから作製したものであり、C量が0.9重量%、Cr量が2.5重量%であり、残留オーステナイト量が5%である。上記実施例3〜8と比較して、Cr量が若干低いために、転動体の温度が上昇した場合に残留オーステナイトの経時変化によるすきま詰まりが起こり、1/10個焼付きを生じてしまった。
【0065】
実施例2は、転動体を供試材Aから作製したもので、実施例1に対して熱処理を変化させて残留オーステナイト量を1%としたものである。この場合は、転動体に関して上記実施例3〜8と比較して、Cr量が低いために評価試験中に硬度の低下が起こり、1/10個はくりが生じ、L10が1380時間となった。
実施例9〜11は、供試材G,Hから作製したもので、転動体の成分はC量が0.5,0.55重量%、Cr量が15.0,17.0重量%である。Cr量が高いため、残留オーステナイトの分解による寸法膨張による焼付き、及び硬度の低下による寿命の低下は見られなかった。しかし、共晶炭化物が生成したために、共晶炭化物を起点としてはくりを生じ、L10がそれぞれ1480、1310、1240時間であった。
【0066】
実施例12,13は、転動体をC,Fから作製したもので、表7に示すように、C量が0.5〜0.9重量%、Cr量が3.0〜13.0重量%の範囲であり、且つC量≦α値を満たす最適成分範囲である。しかし、外輪、内輪、転動体とC量及びSi量の関係式、2.5γRC /{(γRA +γRB )/2}≦0.4Cr%+0.7Si%を満たしておらず、転動体の残留オーステナイトの経時変化に伴うすきま詰まりのため、2/10個焼付きが生じ、L10がそれぞれ1180、1170時間と他の実施例よりは短寿命であった。
【0067】
比較例1〜3は、転動体を軸受鋼2種(SUJ2)から作製したもので、熱処理を変化させて残留オーステナイト量を6.5%、5%、0.2%としたものである。比較例1、2に関しては、残留オーステナイト量が6.5%、5%であるため、寸法膨張が起こり、すきま詰まりが起こり、焼付きが生じて短寿命であった。比較例3は残留オーステナイト量が0.2%であるため、寸法膨張に起因する焼付きは生じなかったが、Cr量が少ないため硬度の低下が起こり、はくりが生じ短寿命であった。
【0068】
比較例4は、転動体を供試材Jから作製したもので、C量が0.8重量%、Cr量が2.0重量%である。この場合においてもCr量が少ないために硬度の低下が起こり、10/10個はくりを生じ、L10が440時間であった。
比較例5は、転動体を供試材K、即ちSUS440Cから作製したものである。Cr量が高いため、残留オーステナイトの分解に伴う寸法膨張は起こらず、焼付きは生じなかった。しかし、SUS440Cは、表7にも示したように、炭素量が高く、C量≦α値を満たしていないため、20μm以上の共晶炭化物が生じ、共晶炭化物を起点としてはくりが生じたため、L10が250時間となった。
【0069】
比較例6は、転動体を供試材Lから作製したものである。Cr量が高いため、残留オーステナイトの分解に伴う寸法膨張は起こらず、焼付きは生じなかった。しかし、最適成分量と比較してCrが多すぎるために、共晶炭化物が生成し、共晶炭化物を起点としてはくりが生じたため、L10が230時間となった。
また、上記実施例1〜13、比較例1〜6に関して、Cr量の最適成分範囲は2.5〜17.0重量%である。Cr量がこれより少ないと、高温での使用に対して、残留オーステナイトの分解によって引き起こされる寸法膨張による焼付きや、硬度低下によるはくりが起こるために短寿命となる。また、これより多いと、共晶炭化物が生成し、はくりを生じるようになるので寿命が低下する。更なる長寿命化のためには、Cr量を3.0〜13.0重量%にすることが望ましい。
【0070】
適応部材については、電装補機用軸受に関しては軸受部材の中で転動体の温度が一番高いため、転動体を高Cr鋼とすればよい。なお、熱処理については、ずぶ焼、浸炭、浸炭窒化のいずれにおいても同様な効果が得られるものと考えられる。
【0071】
【発明の効果】
上記の説明から明らかなように、本発明によれば、高温時での寸法安定性を優れたものとすることができると共に、焼付きを防止することができ、しかも、硬さの低下もなく、早期はくりを良好に防止することができ、更には、軸受寿命の大幅な延長を低コストで実現することができる転がり軸受を提供することをができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の態様の実施の形態の一例である転がり軸受を説明するための説明的断面図である。
【符号の説明】
1…転がり軸受
2…外輪(固定輪)
3…内輪(回転輪)
4…転動体
Claims (5)
- 固定輪と回転輪との間に複数の転動体が配設された転がり軸受において、
前記転動体の残留オーステナイト量(γRC )、前記固定輪の残留オーステナイト量(γRA )及び前記回転輪の残留オーステナイト量(γRB )が、2.5γRC ≦1/2(γRA +γRB )の関係を満足することを特徴とする転がり軸受。 - 前記転動体の表面硬度がビッカース硬度でHv770以上とされ、且つ該転動体の表面硬度(HvC )、前記固定輪の軌道面硬度(HvA )及び前記回転輪の軌道面硬度(HvB )が、HvC ≧1/2(HvA +HvB )+70の関係を満足することを特徴とする請求項1記載の転がり軸受。
- 前記転動体の合金成分が、炭素(C):0.50〜1.20重量%、珪素(Si):0.10〜1.50重量%、マンガン(Mn):0.1〜2.0重量%、クロム(Cr):0.5〜2.5重量%、モリブデン(Mo):2.0重量%以下、およびバナジウム(V):1.0重量%以下とされたことを特徴とする請求項1又は2記載の転がり軸受。
- 固定輪と回転輪との間に複数の転動体が配設された転がり軸受において、
少なくとも前記転動体の合金成分が、炭素(C):0.50〜1.20重量%、珪素(Si):0.10〜1.50重量%、マンガン(Mn):0.1〜2.0重量%、クロム(Cr):2.5〜17.0重量%、モリブデン(Mo):2.0重量%以下、およびバナジウム(V):1.0重量%以下とされ、且つC重量%、Cr重量%、Mo重量%及びV重量%が、C重量%≦−0.05Cr重量%−0.12(Mo重量%+V重量%)+1.41=αの関係を満足することを特徴とする転がり軸受。 - 前記合金材料に熱処理を施し、前記固定輪の残留オーステナイト量(γRA )、前記回転輪の残留オーステナイト量(γRB )及び前記転動体の残留オーステナイト量(γRC )と、クロム(Cr)及び珪素(Si)の含有量とが、2.5γRC /{(γRA +γRB )/2}≦0.4Cr重量%+0.7Si重量%の関係を満足することを特徴とする請求項4に記載した転がり軸受。
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