JP2005026159A - 質量分析装置 - Google Patents

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Sadao Takeuchi
貞夫 竹内
Takahiro Harada
高宏 原田
Fujio Inoue
藤男 井上
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Abstract

【課題】噴霧により形成された試料を含有する液滴から、試料を変質させることなく十分に溶媒を除去して試料のイオン化を促進することが可能な手段を備える、検出感度の高い質量分析装置を提供する。
【解決手段】霧化室中に、試料溶液を噴霧することにより生じた試料のイオンを含有する液滴を、細孔から質量分析部に取り込んで試料の分析を行う質量分析装置において、試料溶液が霧化室中に噴霧された後であって、質量分析部に液滴が取り込まれる前に、液滴に対して赤外光を含む光を照射して溶媒を蒸発させる。
【選択図】 図2

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、液体試料をイオン化して分析を行う、高い検出感度を有する質量分析装置に関する。このような高感度装置は、精密な分析が要求される、ゲノム創薬、薬物動態試験、医薬品の研究開発、環境中の微量成分分析等に使用される。
【0002】
【従来の技術】
このような質量分析装置では、イオン化部において試料のイオン化を行い、イオン化された試料を質量分析部に取り込んだ後、四重極質量フィルタ等の質量分析器により質量数([質量]/[電荷数])に応じて各種イオンを分離・検出することにより試料の分析を行う。
【0003】
試料のイオン化を行う方法として、液体クロマトグラフなどから得られた試料溶液を大気圧下の霧化室内に静電噴霧する方法(エレクトロスプレーイオン化法(ESI法))や、大気圧下の霧化室内に噴霧された液滴とコロナ放電で生じたキャリアガスイオンとを反応させて試料をイオン化する方法(大気圧化学イオン化法(APCI法))などがある。これらの方法により、試料のイオンを多数含む液滴がイオン化部の霧化室中で形成される。
【0004】
この液滴は、霧化室雰囲気ガスとの摩擦による剪断力と溶媒の蒸発によって微粒化された後、真空下にある質量分析部に取り込まれる。溶媒が試料に多く付加した状態では、質量分析器での試料の検出感度が低下するため、質量分析部に液滴が取り込まれるまでにこの液滴から溶媒をできるだけ除くことが望ましい。しかし、霧化室雰囲気ガスとの摩擦による剪断力と溶媒の蒸発だけでは、液滴から溶媒を十分に除くことができない。
【0005】
そこで、液滴から溶媒を十分に除くために、これまでに以下のような方法が提案されている。例えば、図1のように質量分析部入口に設けられた細孔の周囲から加熱ガスを噴出させて液滴の溶媒を蒸発させる方法や、細孔の近傍に、噴霧された液滴群(ミスト)の運動方向とは別の方向から加熱ガスを噴出させることにより、ミストと加熱ガスを交差させて液滴の溶媒を蒸発させる方法がある(特許文献1,特許文献2参照)。
【0006】
【特許文献1】
米国特許第4,531,056号明細書
【特許文献2】
米国特許第5,412,208号明細書
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
上記の方法では、いずれもミストの運動方向と加熱ガスの運動方向が交差するため、ミストの運動方向が変化する。このため、加熱ガスの噴出速度等を考慮した上で、細孔からの液滴の取り込みが効率よく行われるように、試料溶液の噴霧方向を予め設定しなければならないが、その方向の調整は困難である。
【0008】
また、加熱ガスが液滴と交差する短時間の間に加熱を行って溶媒を蒸発させるため、加熱ガスの温度を数百度と非常に高温にする必要がある。そのため、タンパク質のような熱に弱い試料の場合には、この方法を適用するのは困難である。
【0009】
本発明はこのような課題を解決するために成されたものであり、その目的とするところは、試料を変質させることなく液滴から十分に溶媒を除く手段を備える、検出感度の高い質量分析装置を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために成された本発明に係る質量分析装置は、試料溶液を霧化室中に噴霧することにより生じる試料のイオンを含む液滴を、細孔より質量分析部に取り込んで試料の分析を行う質量分析装置において、試料溶液が霧化室中に噴霧された後であって、液滴が質量分析部に取り込まれる前に、液滴に対して赤外光を含む光を照射する手段を備えることを特徴としている。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明に係る質量分析装置では、まず、試料溶液が霧化室中に噴霧されて、試料のイオンを含有する液滴が形成される。イオン化の方法としては、エレクトロスプレーイオン化法や大気圧化学イオン化法等を用いることができる。
【0012】
噴霧された液滴は、その後若干広がりながら直進し、その間に霧化室雰囲気ガスとの摩擦による剪断力と溶媒の蒸発によって微粒化されて、その液滴の一部が、細孔から真空下にある質量分析部に取り込まれる。
【0013】
この際、試料溶液が霧化室中に噴霧された後であって、質量分析部に取り込まれる前に、光照射手段により液滴に対して赤外光を含む光を照射して、光の輻射熱により液滴から溶媒を蒸発させる。このように光照射によって液滴から更に溶媒を除いて微粒化を促進し、溶媒がほとんど付加していない状態の試料のイオンを形成することにより、質量分析の検出感度を向上させる。
【0014】
試料から溶媒を十分蒸発させて微粒化を促すために、光源としては出射光に近赤外域から遠赤外域の光を多く含む、ハロゲンランプやCOレーザ等を使用するのが望ましい。光照射の際、レンズ、集光ミラー等の集光手段を用いて集光点が試料溶液の噴出口と細孔とを結ぶ線上に位置するようにすると、質量分析部に取り込まれる可能性の高い液滴に対して効果的に光照射を行うことができる。また、集光点が細孔の近傍に位置するように調整すると、更に効果的に光照射が行えるようになる。更に、溶媒や試料に応じて集光される光のスポット径の大きさや形状を変化させたり、集光点を連続的又は離散的に複数設けることにより、加熱の程度や範囲を変化させて光照射を行ってもよい。
【0015】
ここで、細孔の近傍に光を集光照射すると、細孔の近傍において溶媒の蒸気圧が局部的に上昇し、更に熱を加えても溶媒が蒸発しにくくなる。このため、細孔の近傍のガスを排気する手段を設け、細孔の近傍における溶媒の蒸気圧の上昇を防ぐのが望ましい。
【0016】
本発明に係る装置のように、光の輻射熱により液滴を加熱して溶媒を蒸発させる場合、特許文献1及び2に記載された加熱ガスを液滴に対して噴出して溶媒を蒸発させる場合と異なり、ミストが乱れることがない。このため、試料溶液の噴霧方向の設定を容易に行うことができる。
【0017】
また、細孔の近傍では、液滴の飛行速度は噴霧された直後と比べて非常に遅くなっている。このため、試料溶液の噴霧口の近傍で加熱を行う場合と比較して、長時間加熱を行うことができる。その結果、マイルドな加熱条件でも、溶媒を十分蒸発させることが可能となる。
【0018】
以上のようにして、試料のイオンを含有する液滴から十分溶媒が除かれるため、質量分析部では高い感度で試料の分析が行われるようになる。なお、イオンの分離方法は、以上のように霧化室中への試料の噴霧により得られるイオンを用いて分析が行える方法であれば、四重極型、飛行時間型等いずれの方法も用いることができる。
【0019】
【発明の効果】
本発明に係る質量分析装置は、試料溶液が噴霧された後であって、液滴が質量分析部に取り込まれる前に、赤外光を中心とした光を試料のイオンを含む液滴に照射する手段を有する。これにより、ミストの流れを乱すことなく、液滴から溶媒を効果的に除くことができる。そのため、本発明に係る質量分析装置は高い検出感度を有し、より精密な分析が要求される、ゲノム創薬、薬物動態試験、医薬品の研究開発、環境中の微量成分分析等に好適に用いることができる。
【実施例】
【0020】
図1は、本発明を実施した四重極型質量分析装置の概略構成図である。本実施例の質量分析装置10は、イオン化部20、質量分析部30、これらの構成要素の動作を制御する制御部40等から成る。イオン化部20は霧化室21から成り、霧化室21にはイオン源22、光照射機構23等が備えられる。質量分析部30は、第1中間室31、第2中間室32、及び検出室33から成る。第1中間室31には第1イオンレンズ34が、第2中間室32には第2イオンレンズ35が、そして、検出室33には四重極フィルタ36と検出器37が備えられる。霧化室21では、液体クロマトグラフ等から供給される試料がイオン源22の試料溶液輸送管から噴霧される際、イオン化電圧によりイオン化される。霧化された試料のイオンは、圧力差により第1中間室31に吸引され、第1イオンレンズ34により収束・加速された後、同様に圧力差により第2中間室32に吸引される。ここでも同様に、試料のイオンは第2イオンレンズ35により収束され、検出室33に送られる。検出室33では、四重極フィルタ36の各ロッドに印加されたRF電圧及び直流電圧により、所定の質量数のイオンのみが通過を許され、検出器37により検出される。
【0021】
図2は、本発明の特徴であるイオン化部20周辺の模式図である。イオン源22の試料溶液輸送管から霧化室21に噴霧されて形成された液滴は、質量分析部30の入口に設置された細孔(オリフィス)38から取り込まれ、上記のようにして試料の分析が行われる。
【0022】
エレクトロスプレーイオン化法(ESI法)により試料のイオン化が行われる場合は、液体クロマトグラフなどから得られた試料溶液は、イオン源22を構成するESIプローブ内の試料溶液輸送管から、通常は、窒素ガスなどのネブライズガスとともに大気圧下の霧化室21に噴霧され、液滴が形成される。噴霧時には、試料溶液輸送管先端部と、対向電極を構成するオリフィス38の間に正又は負の高電圧が印加され、これにより試料がイオン化される。図3は、試料溶液噴霧時の様子を表した図であって、試料溶液輸送管22aの先端部及びオリフィス38はいずれも断面図で表されている。図3に表された通り、試料溶液が試料溶液輸送管22aから噴出するとともに、試料溶液輸送管22aの周囲に設けられたネブライズガス管22bから窒素等のネブライズガスが噴出し、液滴の微粒化が促進される。また、試料溶液輸送管22aの先端部とオリフィス38の間には電圧Vが印加されており、これにより試料がイオン化される。
【0023】
APCI法によりイオン化を行う場合は、液体クロマトグラフなどから得られた試料溶液は、プローブ内の試料溶液輸送管から窒素ガスなどのネブライズガスとともに大気圧下の霧化室21に噴霧され、プローブの前方に設置された針電極からのコロナ放電により生成したキャリアガスイオンと反応することにより、試料のイオンを含有する液滴が形成される。
【0024】
霧化室21の内部には、図2に表されたように、光源24、レンズ25、集光ミラー26等から成る光照射機構23が設けられ、オリフィス38の近傍に光を集光照射できるようになっている。図2においては、光源24から照射された光をレンズ25により平行光とし、集光ミラー26を用いてオリフィス38の近傍に集光照射しているが、オリフィス38の近傍に光を照射可能な機構であれば、光源24とレンズ25のみから成る等、これら以外の機構を用いることができることは言うまでもない。更に言えば、本実施例では光照射機構23を霧化室21の内部に設けたが、オリフィス38の近傍に光を照射することが可能であれば、光源24、レンズ25、集光ミラー26等のうちの一部又はすべてを外部に設置してもよい。
光照射機構23は、制御部40の制御の下、光学系調整部により集光点27の位置、集光点27のスポット径の大きさ及び形状、スポット数などが調整される。これにより液滴への加熱の程度や加熱の範囲が適宜設定可能である(図4)。
【0025】
イオン化部20には、オリフィス38の近傍のガスを排気する排気管28が設置され、液滴から蒸発した溶媒がオリフィス38の近傍から除かれるようになっている。これにより、オリフィス38近傍における溶媒の蒸気圧の上昇が避けられ、光照射加熱により溶媒の蒸発が継続して行われるようになる。なお、通常の質量分析装置では、イオン源22より噴霧された液滴群(ミスト)の流れの下流に、質量分析部30に取り込まれなかった液滴を霧化室21の外に排出するためのドレイン穴が設けられているが、このドレイン内部を霧化室21に対して陰圧にして排気機構としてもよい。
【0026】
オリフィス38から質量分析部30に取り込まれた液滴は、十分溶媒が除かれて微粒化したものであるため、試料は質量分析部30において検出される際には完全にイオン化し、高感度で分析が行われる。
【0027】
なお、試料を変質させない限りにおいては、オリフィス38と同軸の開口部から液滴に対して加熱ガスを噴出する加熱ガス噴出機構29a(図5)及び/又は、ミストの流れと対向する方向若しくは交差する方向から液滴に対して加熱ガスを噴出する加熱ガス噴出機構29b(図6)を光照射機構23と併用して、液滴から更に溶媒が除かれるようにしてもよい。この加熱ガス噴出機構29のガス流量等は、制御部40により制御される。本実施例の装置では、光照射によっても液滴から溶媒が除かれるため、加熱ガスの流量は、従来の装置に比べて小さく設定することが可能である。このため、加熱ガスの噴出によるミストの乱れはほとんどなく、試料溶液の噴霧方向の設定が容易に行える。また、同様の理由で、加熱ガス温度を従来より低く設定することが可能である。
【0028】
以上のように加熱ガス流量を低く設定することにより加熱ガスの消費量が低下することから、従来より低いコストで装置を運転することが可能である。また、低い温度の加熱ガスを使用することから、数百度の加熱ガスを使用する場合と比べて簡単な加熱装置を採用することができ、装置のコストを低下させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る質量分析装置の概略構成図。
【図2】本発明に係る質量分析装置のイオン化部周辺の概略構成図。
【図3】試料溶液噴霧時の様子を表した図。
【図4】集光点のスポット径及びスポット数を調整して、液滴の加熱範囲を変化させた様子を表した図。
【図5】オリフィスと同軸の開口部を有する加熱ガス噴出機構とその周辺部の概略構成図。
【図6】ミストの流れと交差する方向から加熱ガスを噴出する加熱ガス噴出機構とその周辺部の概略構成図。
【符号の説明】
10…質量分析装置
20…イオン化部
21…霧化室
22…イオン源
23…光照射機構
24…光源
25…レンズ
26…集光ミラー
27…集光点
28…排気管
29…加熱ガス噴出機構
30…質量分析部
31…第1中間室
32…第2中間室
33…検出室
34…第1イオンレンズ
35…第2イオンレンズ
36…四重極フィルタ
37…検出器
38…オリフィス
40…制御部

Claims (8)

  1. 試料溶液を霧化室中に噴霧することにより生じる試料のイオンを含む液滴を、細孔より質量分析部に取り込んで試料の分析を行う質量分析装置において、試料溶液が霧化室中に噴霧された後であって、液滴が質量分析部に取り込まれる前に、液滴に対して赤外光を含む光を照射する手段を備えることを特徴とする質量分析装置。
  2. 上記光照射手段が、噴霧の際に試料溶液が噴出する噴出口と上記細孔とを結ぶ線上に光を集光させる手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の質量分析装置。
  3. 上記光照射手段が、上記細孔付近に光を集光させる手段を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の質量分析装置。
  4. 上記光照射手段が、集光点の径の大きさを変化させる手段を備えることを特徴とする請求項2又は3に記載の質量分析装置。
  5. 上記光照射手段が、二以上の集光点を形成する手段を備えることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の質量分析装置。
  6. 上記光照射点の近傍のガスを排気する手段を備えることを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載の質量分析装置。
  7. 試料溶液を噴霧させる噴霧手段が、ネブライズガスを噴出させる手段を更に備えることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の質量分析装置。
  8. 上記細孔と同軸の開口部から、又は噴霧された液滴の流れと対向する方向若しくは交差する方向から、液滴に対して加熱ガスを噴出させる加熱ガス噴出手段を備えることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の質量分析装置。
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