JP2004075568A - 新規な味覚物質受容体 - Google Patents
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Abstract
【課題】呈味性物質に応答するセンサー、並びに呈味性物質の同定方法及び検出方法を提供すること。
【解決手段】Gタンパク質共役型受容体14タンパク質、該タンパク質を発現する細胞、及び該細胞の膜画分からなる群より選択されるものを含むことを特徴とする呈味性物質反応性組成物。
【選択図】 なし
【解決手段】Gタンパク質共役型受容体14タンパク質、該タンパク質を発現する細胞、及び該細胞の膜画分からなる群より選択されるものを含むことを特徴とする呈味性物質反応性組成物。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、呈味性物質反応性組成物に関する。また本発明は、呈味性物質の同定方法、及び呈味性物質の検出方法に関する。さらに本発明は、上記組成物を含む、呈味性物質の同定又は検出用キットに関する。
【0002】
【従来の技術】
Gタンパク質共役型受容体14(SENR/GPRE/ウロテンシン−II受容体としても知られている。以下「GPR14」という)は、Talら(Biochem. Biophys. Res. Commun. 209, 752−759, 1995)により最初に報告され、その後、そのリガンド(アゴニスト)がウロテンシン−IIであることが報告されている(Ames, RS, et al., Nature, 401: 282−286, 1999)。ウロテンシン−IIは血圧上昇に関与するポリペプチドであり、GPR14は主に心臓血管組織に存在することが知られている。そのため、GPR14の研究は、大部分が血管収縮作用に焦点が当てられていた。しかし、GPR14に関して、ウロテンシン−II以外のリガンド(アゴニスト)は知られていない。
【0003】
一方、呈味性物質の受容体についての研究が近年進んでおり、現在T1R、T2R、THTRのシリーズが味覚受容体として知られている。しかし、これらの受容体がどのような物質をリガンド(アゴニスト)としているかはほとんど不明である。従って、味覚受容体を解明し、呈味性物質としてのリガンドを探索することが望まれていた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、呈味性物質に応答するセンサー、並びに呈味性物質の同定及び検出方法を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、GPR14遺伝子をクローニングし、それを細胞膜上に発現させた形質転換細胞を用いて、GPR14の各種呈味性物質への応答性を測定したところ、GPR14が呈味性物質への応答性を有し、生体内でこれらの物質のセンサーとして働いていることを見出した。さらに本発明者は、GPR14タンパク質及びGPR14タンパク質を発現する細胞を利用して、呈味性物質の同定及び検出を行うことができるという知見を得て、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、Gタンパク質共役型受容体14タンパク質、該タンパク質を発現する細胞、及び該細胞の膜画分からなる群より選択されるものを含むことを特徴とする呈味性物質反応性組成物である。ここで該組成物としては、Gタンパク質共役型受容体14タンパク質を発現する細胞を含むものであることが好ましい。また該細胞は、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)であることが好ましい。
【0007】
また呈味性物質としては、甘味成分が挙げられる。呈味性物質は、グルコース、フラクトース、スクロース、ラクトース、マルトース、ソルビトール及び食塩からなる群より選択されるものが好ましい。
【0008】
本発明はまた、上記組成物と試験化合物とを接触させたときの結合量又は細胞刺激活性を測定することを特徴とする、呈味性物質の同定方法である。
【0009】
さらに本発明は、上記組成物と被検サンプルとを接触させ、該組成物と被検サンプル中の呈味性物質との結合量又は細胞刺激活性を測定することを特徴とする、被検サンプル中の呈味性物質の検出方法である。
また本発明は、上記組成物を含むことを特徴とする呈味性物質の同定又は検出用キットである。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係る呈味性物質反応性組成物(以下、「本組成物」という)は、Gタンパク質共役型受容体14(以下、「GPR14」という)を含むことを特徴とするものであり、このGPR14が呈味性物質に対して応答する味覚受容体であるという知見に基づくものである。従って、本組成物は、味覚センサー又は呈味性物質反応性センサーとして機能する。また本発明者は、GPR14が、グルコース、フラクトース、スクロース、ラクトース、マルトース、ソルビトール、食塩などの呈味性物質に対し応答することを見出し、さらにはこの応答が濃度依存的であったことから、GPR14を、呈味性物質の検出及び定量に利用可能であると考えた。
【0011】
1.GPR14を含む呈味性物質反応性組成物
本組成物はGPR14を含むことを特徴とし、具体的には、本組成物はGPR14タンパク質又はGPR14タンパク質を発現する細胞若しくは細胞膜画分を含む。以下に、GPR14タンパク質及びGPR14タンパク質を発現する細胞に関して説明する。
【0012】
(1)GPR14タンパク質
GPR14タンパク質は、既にGPR14遺伝子及びタンパク質の塩基配列及びアミノ酸配列が公開されているため、それらの情報を利用して、当技術分野で公知の方法により製造することができる。例えば、GPR14に関する配列情報は、EMBL/GenBank Data Librariesにアクセッション番号U23483として登録されている。本発明において利用可能なGPR14の配列情報を、配列番号1(塩基配列)及び配列番号2(アミノ酸配列)として例示した。
【0013】
GPR14タンパク質は、配列番号2に示すアミノ酸配列を含むタンパク質がGPR14として機能する限り、当該アミノ酸配列において複数個、好ましくは1個若しくは数個のアミノ酸に欠失、置換、付加等の変異が生じているものであってもよい。
【0014】
「GPR14としての機能」としては、例えば、呈味性物質との結合活性、呈味性物質を介したシグナル情報伝達作用などが挙げられる。「GPR14として機能する」とは、例えば配列番号2に示すアミノ酸配列からなるタンパク質とほぼ同等の機能を有することを指す。従って、配列番号2に示すアミノ酸配列において変異が生じたアミノ酸を含むタンパク質の活性が、配列番号2に示すアミノ酸配列からなるタンパク質と同等(0.5〜1.5倍程度)であることが好ましいが、これらの活性の程度やタンパク質の分子量などの量的要素は異なっていてもよい。リガンド結合活性やシグナル情報伝達作用などの活性の測定は、当技術分野で公知の方法に従って行なうことができ、例えば、後述する「2.呈味性物質の同定方法」の項に記載のようにして測定することができる。
【0015】
また、本発明において使用するGPR14タンパク質としては、GPR14タンパク質の部分ペプチドも包含される。そのような部分ペプチドとしては、GPR14タンパク質としての機能を有する部分ペプチドであればいずれのものであってもよいが、例えば、GPR14タンパク質分子のうち、細胞膜の外に露出している部位であって、受容体結合活性を有するものなどが用いられる。具体的には、GPR14タンパク質の部分ペプチドとしては、ヒドロパシープロット解析において細胞外領域(親水性部位)であると分析された部分を含むペプチドである。また、疎水性部位を一部に含むペプチドも同様に用いることができる。個々のドメインを個別に含むペプチドも用い得るが、複数のドメインを同時に含む部分のペプチドでもよい。
GPR14タンパク質の部分ペプチドのアミノ酸の数は、上記GPR14タンパク質の構成アミノ酸配列のうち少なくとも20個以上、好ましくは50個以上、より好ましくは100個以上のアミノ酸配列を有するペプチドなどが好ましい。
【0016】
本組成物に含まれるGPR14タンパク質又はその部分ペプチドは、ヒトやラットなどの細胞又は組織から当技術分野で公知のタンパク質の精製方法によって製造することができる。また、GPR14タンパク質をコードするDNAで形質転換された形質転換体を培養することによっても製造することができる(下記参照)。また、当技術分野で公知の化学的ペプチド合成方法、例えば固相合成法などによって製造することもできる。
【0017】
(2)GPR14タンパク質の製造
GPR14タンパク質を遺伝子組換え手法により製造する場合には、GPR14タンパク質をコードするDNA(GPR14遺伝子)を導入した形質転換体を培養し、この培養物から該タンパク質を回収することができる。
【0018】
(a) GPR14遺伝子のクローニング
GPR14遺伝子は、上述した通り、その塩基配列情報が公開されているため、その情報を利用して作製することができる。本発明において利用可能なGPR14遺伝子の塩基配列として、配列番号1に示す塩基配列を例示する。また、配列番号1に示す塩基配列からなるDNAの全部又は一部の配列に相補的な配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができるDNAであって、GPR14として機能するタンパク質をコードする遺伝子もGPR14遺伝子に含まれる。ストリンジェントな条件とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。例えば、相同性が高い核酸、すなわち60%以上、好ましくは80%以上の相同性を有するDNAの相補鎖がハイブリダイズし、それより相同性が低い核酸の相補鎖がハイブリダイズしない条件が挙げられる。ストリンジェントな条件とは、例えばナトリウム濃度が、10〜300mM、好ましくは20〜100mMであり、温度が25〜70℃、好ましくは42〜55℃における条件をいう。
【0019】
GPR14遺伝子は、上述した塩基配列情報により、化学合成によって、又は塩基配列情報に基づいて設計したプライマーを用いた増幅反応によって、あるいは該塩基配列を有するDNA断片をプローブとしてハイブリダイズさせることによって得ることができる。以下に、プライマーを用いた増幅反応によりGPR14をクローニングする手法を説明する。
【0020】
GPR14遺伝子の塩基配列を基にプライマーを設計する場合には、該配列の5’末端から約20〜30塩基及び3’の終止コドンを含む上流側の約20〜30塩基を選択し、プライマーを設計することが好ましい。例えば、本発明において利用可能なプライマーの例を以下に示す:
フォーワードプライマー:GAT GGC TCT GAG CCT GGA GTC TAC AAC AAG CTT TC(配列番号3)
リバースプライマー:TCA GAG AAG GGC CCC GTT ACG GGA(配列番号4)
【0021】
上述のように設計したプライマーの合成法は、当技術分野で周知である。例えば、ホスホアミダイト法などの一般的なオリゴヌクレオチド合成法を用いることができる。
【0022】
続いて、上記設計したプライマーを用いて、cDNAライブラリー又はmRNAを鋳型として増幅反応を行う。増幅反応としては、限定するものではないが、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、LAMP法(Loop−mediated Isothermal Amplification)などが挙げられる。本発明において増幅反応は、PCRが好ましい。mRNAの抽出及びcDNAライブラリーの作製は常法に従って行うことができる。
【0023】
このようにして得られたmRNAを鋳型として、ランダムプライマーと共に逆転写酵素を用いて一本鎖cDNAを合成した後、該一本鎖cDNAから二本鎖cDNAを合成する。次に、得られた二本鎖cDNAを適当なクローニングベクターに組み込んで組換えベクターを作製する。そしてこの組換えベクターを用いて大腸菌等を形質転換し、テトラサイクリン耐性、アンピシリン耐性等を指標として形質転換体を選択することにより、cDNAのライブラリーを得ることができる。
【0024】
あるいは、上記組織から得られたmRNAを鋳型として、ランダムプライマーと共に逆転写酵素を用いてcDNAを作製することもできる。Poly A+ RNA(mRNA)は市販されており、例えばヒト脳組織としては、Clontech社製Human Brain Poly A+ RNA(カタログ番号6516−1)などが挙げられる。
逆転写酵素としては、例えばGIBCO BRL社製のSuperscript II逆転写酵素を利用可能である。
【0025】
上記のようにして得られる形質転換体又はcDNAライブラリーから目的のDNAを有する株を選択するには、上記プライマー、例えば、配列番号3及び4に示すプライマーを合成し、これを用いて増幅反応を行い、得られた断片をプローブとして、cDNAライブラリーからスクリーニングする方法、あるいはλファージ(λgt11等)を用いた場合は、λgt11インサート増幅用のプライマーを用いて増幅反応を行う方法を採用することができる。但し、本発明においてはこれらのプライマーに限定されるものではない。
【0026】
このようにして得られたDNA増幅断片を、32P、35S又はビオチン等で標識してプローブとし、これを形質転換体のDNAを変性固定したニトロセルロースフィルターとハイブリダイズさせ、得られたポジティブ株を検索することによりスクリーニングすることができる。
【0027】
次に、得られたクローンから全長のcDNAをクローニングする。cDNAのクローニングには、例えばTAクローニング法が用いられる。TAクローニング法は、市販のキット、例えばInvitrogen社製のTAクローニングキットを用いて行うことができる。
上記スクリーニングにおいて得られたcDNAの単離クローンについて、増幅産物をテンプレートにしてcDNAの塩基配列を決定する。
【0028】
塩基配列の決定はマキサム−ギルバートの化学修飾法、又はM13ファージを用いるジデオキシヌクレオチド鎖終結法等の公知手法により行うことができるが、通常は自動塩基配列決定装置(例えばApplied Biosystems社製ABI373シークエンサー等)を用いて配列決定が行われる。
【0029】
(b) 組換えベクター及び形質転換体の作製
宿主を形質転換するための組換えベクターは、上記GPR14遺伝子を適当なベクターに連結することにより得ることができ、形質転換体は、上記組換えベクターを、目的の遺伝子が発現し得るように宿主中に導入することにより得ることができる。
【0030】
ベクターとしては、形質転換用のベクターとして当技術分野で公知のベクターが使用され、例えば、プラスミドDNA、ファージDNA、レトロウイルス又はワクシニアウイルスなどの動物ウイルスベクター、バキュロウイルスなどの昆虫ウイルスベクター、細菌人工染色体(BAC)、酵母人工染色体(YAC)などが挙げられる。
【0031】
ベクターにGPR14遺伝子を挿入するには、まず、精製されたDNAを適当な制限酵素で切断し、適当なベクターDNAの制限酵素部位又はマルチクローニングサイトに挿入してベクターに連結する方法などが採用される。
【0032】
GPR14遺伝子は、その遺伝子の機能が発揮されるようにベクターに組み込まれることが必要である。そこで、組換えベクターには、プロモーター、GPR14遺伝子のほか、所望によりエンハンサーなどのシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、リボソーム結合配列(SD配列)などを連結することができる。なお、選択マーカーとしては、例えばジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。さらに、大腸菌及び酵母などの2種以上の宿主微生物で自律的増殖が可能なベクターのほか、各種のシャトルベクターを使用することもできる。このようなベクターについても、前記制限酵素で切断し、その断片を得ることができる。
【0033】
DNA断片とベクター断片とを連結させるには、公知のDNAリガーゼを用いる。そして、DNA断片とベクター断片とをアニーリングさせた後に連結させ、組換えベクターを作製する。
【0034】
形質転換に使用する宿主としては、GPR14遺伝子を発現できるものであれば特に限定されるものではない。例えば、細菌(大腸菌、枯草菌等)、酵母、動物細胞(COS細胞、CHO細胞等)、昆虫細胞が挙げられる。
【0035】
細菌を宿主とする場合は、本発明の組換えベクターが該細菌中で自律複製可能であると同時に、プロモーター、リボゾーム結合配列、GPR14遺伝子、転写終結配列により構成されていることが好ましい。また、プロモーターを制御する遺伝子が含まれていてもよい。大腸菌としては、例えばエッシェリヒア・コリ(Escherichia coli)DH5αなどが挙げられ、枯草菌としては、例えばバチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)などが挙げられる。プロモーターは、大腸菌等の宿主中で発現できるものであればいずれを用いてもよい。細菌への組換えベクターの導入方法は、細菌にDNAを導入する方法であれば特に限定されるものではない。例えばカルシウムイオンを用いる方法、エレクトロポレーション法等が挙げられる。
【0036】
酵母を宿主とする場合は、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)などが用いられる。この場合、プロモーターは酵母中で発現できるものであれば特に限定されない。酵母への組換えベクターの導入方法は、酵母にDNAを導入する方法であれば特に限定されず、例えばエレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、酢酸リチウム法等が挙げられる。
【0037】
動物細胞を宿主とする場合は、サル細胞COS−7、Vero、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、マウスL細胞、ラットGH3、ヒトFL細胞等が用いられる。プロモーターとしてSRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMVプロモーター等が用いられ、また、ヒトサイトメガロウイルスの初期遺伝子プロモーター等を用いてもよい。動物細胞への組換えベクターの導入方法としては、例えばエレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法等が挙げられる。
【0038】
昆虫細胞を宿主とする場合は、Sf9細胞などが用いられる。昆虫細胞への組換えベクターの導入方法としては、例えばリン酸カルシウム法、リポフェクション法、エレクトロポレーション法などが挙げられる。
【0039】
形質転換体は、導入する遺伝子内に構成されるマーカー遺伝子の性質を利用して選択される。例えば、ネオマイシン耐性遺伝子を用いた場合には、G418薬剤に抵抗性を示す細胞を選択する。
【0040】
(c) GPR14タンパク質の生産
本発明において、GPR14タンパク質は、GPR14遺伝子を保有する前記形質転換体を培養し、その培養物から採取することにより得ることができる。「培養物」とは、培養細胞、培養菌体、又は細胞若しくは菌体の破砕物のいずれをも意味するものである。形質転換体を培地に培養する方法は、宿主の培養に用いられる通常の方法に従って行われる。
【0041】
大腸菌や酵母菌等の微生物を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、微生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体の培養を効率的に行うことができる培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。ここで、培地に添加される炭素源、窒素源、無機物などについては当技術分野で公知である。
【0042】
培養は、通常、振盪培養又は通気攪拌培養などの好気的条件下、約37℃で約5時間〜30日間行う。培養期間中、pHは中性付近に保持する。pHの調整は、無機又は有機酸、アルカリ溶液等を用いて行う。培養中は必要に応じてアンピシリンやテトラサイクリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
【0043】
プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養する場合は、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、Lacプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはイソプロピル−β−D−チオガラクトシド(IPTG)等を、trpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはインドール酢酸(IAA)等を培地に添加してもよい。
【0044】
動物細胞を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、一般に使用されているRPMI1640培地、DMEM培地又はこれらの培地に牛胎児血清等を添加した培地等が用いられる。培養は、通常、5%CO2存在下、37℃で約5時間〜30日間行う。培養中は必要に応じてカナマイシン、ペニシリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
【0045】
培養後、目的のGPR14タンパク質は細胞表面上に生産されるため、菌体又は細胞を破砕することによりタンパク質を抽出する。その後、タンパク質の単離精製に用いられる一般的な生化学的方法、例えば硫酸アンモニウム沈殿、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独で又は適宜組み合わせて用いることにより、前記培養物中から目的のタンパク質を単離精製することができる。
目的のタンパク質が得られたか否かは、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動等により確認することができる。
【0046】
(3)GPR14タンパク質を発現する細胞
GPR14タンパク質を発現する細胞は、上記「1.GPR14を含む呈味性物質反応性組成物」の項の「(b) 組換えベクター及び形質転換体の作製」に記載の方法と同様にして作製することができる。すなわち、GPR14遺伝子を組み込んだ組換えベクターを作製し、それを用いて宿主細胞を形質転換する。
【0047】
組換えベクターは、宿主細胞を形質転換するためのベクターであれば特に限定されるものではない。特に、哺乳動物において高発現するものが好ましく、例えばpEF−BOSベクター(Mizushima, S. and Nagata, S. Nucleic Acids Res. 1990,
18, 17: 5322)が挙げられる。
【0048】
宿主細胞は、GPR14遺伝子を発現できるものであれば特に限定されるものではない。例えば、細菌(大腸菌、枯草菌等)、酵母、動物細胞(チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、COS細胞等)、昆虫細胞が挙げられる。本組成物においては、CHO細胞などの哺乳動物細胞を宿主として用いることが好ましい。
【0049】
上記組換えベクターを、宿主細胞に導入し、組換えベクターが導入された細胞を培養する。宿主として動物細胞を使用した場合には、培地としては、一般に使用されているRPMI1640培地、DMEM培地又はこれらの培地に牛胎児血清等を添加した培地等が用いられる。培養は、通常、5%CO2存在下、37℃で7〜14日行う。CHO細胞を培養する場合には、HamF−12培地を用いて、5%CO2存在下、37℃で10〜14日間培養する。
上記のようにして、GPR14タンパク質を発現する細胞を作製することができる。
【0050】
本組成物において、GPR14タンパク質を発現する細胞を用いる場合には、該細胞をグルタルアルデヒド、ホルマリンなどで固定化してもよい。固定化方法は、当技術分野で公知の方法に従って行なうことができる。また本組成物として使用するGPR14タンパク質は、細胞膜上に発現するGタンパク質共役型受容体であるため、GPR14タンパク質を発現する細胞として、細胞膜画分を用いることも可能である。細胞膜画分としては、細胞を破砕した後、当技術分野で公知の方法で得られる細胞膜が多く含まれる画分のことをいう。細胞の破砕方法としては、Potter−Elvehjem型ホモジナイザーで細胞を押し潰す方法、ワーリングブレンダーやポリトロン(Kinematica社製)による破砕、超音波による破砕、フレンチプレスなどで加圧しながら細胞を細いノズルから噴出させることによる破砕などが挙げられる。細胞膜の分画には、分画遠心分離法や密度勾配遠心分離法などの遠心力による分画法が主として用いられる。例えば、細胞破砕液を低速(500rpm〜3000rpm)で短時間(通常、約1分〜10分)遠心し、上清をさらに高速(15000rpm〜30000rpm)で通常30分〜2時間遠心し、得られる沈澱を膜画分とする。該膜画分中には、発現したGPR14タンパク質と細胞由来のリン脂質や膜タンパク質などの膜成分が多く含まれる。GPR14タンパク質を発現する細胞又はその膜画分中のGPR14タンパク質の量は、1細胞当たり103〜107分子であるのが好ましく、105〜107分子であるのがさらに好適である。
【0051】
(4)呈味性物質反応性組成物(センサー)としての機能
GPR14タンパク質は、以下の実施例2及び3において、呈味性物質に対し濃度依存的に応答することが示された。また、以下の実施例4において、GPR14遺伝子が舌組織で発現することを確認したため、GPR14は味覚受容体として機能していると考えられる。従って、本組成物、すなわちGPR14タンパク質又はGPR14タンパク質を発現する細胞は、呈味性物質のセンサーとして利用可能である。
【0052】
本発明において「呈味性物質」とは、甘味、苦み、うま味、塩味、酸味、辛味、えぐ味などの味覚のシグナルを生ずる成分又は化合物を指す。具体的には、呈味性物質としては、限定するものではないが、グルコース、フラクトース、スクロース、ラクトース、マルトース、ソルビトール及び食塩が挙げられる。本組成物は特に、グルコース、フラクトース、スクロース、ラクトース、マルトース、ソルビトールなどの甘味成分に対し応答する。
【0053】
2.呈味性物質の同定方法
本組成物は、呈味性物質を単離し、同定するための試薬として有用である。すなわち、本発明に係る呈味性物質の同定方法(以下、「本同定方法」という)は、本組成物と試験化合物とを接触させ、それらの結合量又はそれらによる細胞刺激活性を測定することを特徴とするものである。
【0054】
試験化合物としては、呈味性物質であるかどうかを判定することが望まれる候補化合物や、コンビナトリアルケミストリーなどのライブラリーなどが用いられる。例えば、試験化合物としては、ペプチド、タンパク質、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物などが挙げられる。
【0055】
具体的に説明すると、本同定方法は、本組成物を用いることによって、GPR14タンパク質に結合する試験化合物、又はGPR14と結合して細胞刺激活性を有する試験化合物を同定する方法である。細胞刺激活性としては、例えば、アラキドン酸遊離、アセチルコリン遊離、細胞内カルシウム遊離、細胞内cAMP生成、細胞内cGMP生成、イノシトールリン酸産生、細胞膜電位変動、細胞内タンパク質のリン酸化、c−fos活性化、pHの低下などを促進する活性又は抑制する活性などが挙げられる。本同定方法においては、例えば、本組成物と試験化合物とを接触させた場合のGPR14タンパク質に対する試験化合物の結合量や、試験化合物による細胞刺激活性などを測定することを特徴とする。
【0056】
本同定方法において、GPR14タンパク質に対する試験化合物の結合量、又は試験化合物による細胞刺激活性は、限定するものではないが、以下の(1)〜(5)に記載するいずれかの手法により測定することができる。すなわち、
(1) 標識した試験化合物を、本組成物に接触させて、標識した試験化合物とGPR14タンパク質との結合量を測定する。
(2) 標識した試験化合物を、本組成物に含まれるGPR14タンパク質を発現する細胞又は細胞膜画分に接触させて、標識した試験化合物とこの細胞又は膜画分との結合量を測定する。
(3) 標識した試験化合物を、本組成物に含まれるGPR14タンパク質を発現する細胞を培養することによって細胞膜上に発現したGPR14タンパク質に接触させて、標識した試験化合物とGPR14タンパク質との結合量を測定する。
(4) 試験化合物を、本組成物に含まれるGPR14タンパク質を発現する細胞又は細胞膜画分に接触させて、GPR14タンパク質を介した細胞刺激活性を測定する。
(5) 試験化合物を、本組成物に含まれるGPR14タンパク質を発現する細胞を培養することによって細胞膜上に発現したGPR14タンパク質に接触させて、GPR14タンパク質を介する細胞刺激活性を測定する。
【0057】
そして、上記(1)〜(3)の試験のいずれかにより測定した本組成物と試験化合物とを接触させた場合の結合量を、本組成物と呈味性物質ではない物質とを接触させた場合の結合量(ネガティブコントロール)、又は本組成物とウロテンシンIIとを接触させた場合の結合量(ポジティブコントロール)と比較する。それにより、試験化合物と接触させた場合の結合量が、呈味性物質ではない物質と接触させた場合の結合量と比較して有意に上昇した場合に、試験化合物を呈味性物質と決定する。ここで、「呈味性物質ではない物質」としては、純水などが挙げられる。
【0058】
あるいは、上記(4)又は(5)の試験により測定した本組成物と試験化合物とを接触させた場合の細胞刺激活性を、呈味性物質ではない物質と接触させた場合若しくは試験化合物と接触させていない場合の細胞刺激活性(ネガティブコントロールコントロール)、又は、ウロテンシンIIと接触させた場合の細胞刺激活性(ポジティブコントロール)と比較する。それにより、試験化合物と接触させた場合の結合量が、呈味性物質ではない物質と接触させた場合若しくは試験化合物と接触させていない場合の細胞刺激活性と比較して有意に上昇した場合に、試験化合物を呈味性物質と決定する。ここで、試験化合物と接触させない場合の細胞刺激活性は、上記(4)又は(5)の試験において、試験化合物を接触させずに、GPR14タンパク質を発現する細胞又は細胞膜画分の細胞刺激活性を測定することにより、決定することができる。
【0059】
本同定方法に関して上記の(1)〜(5)の手法を実施するためには、本組成物と、標識した試験化合物が必要である。本組成物は、上記「1.GPR14を含む呈味性物質反応性組成物」の項に記載のようにして作製することができる。また標識した試験化合物としては、〔3H〕、〔125I〕、〔14C〕、〔35S〕などの放射性同位体、フルオレセイン、スルホローダミン、テトラメチルローダミンなどの蛍光標識、ルシフェリンなどの化学発光標識、標識用抗体で標識した化合物(例えばペプチド、タンパク質、非ペプチド性化合物)などが好適である。あるいは、本組成物を、上記標識により標識してもよい。
【0060】
呈味性物質を同定するには、本組成物に、一定量の標識で標識した試験化合物を共存させる。非特異的結合量(NSB)を知るために、過剰量の未標識の試験化合物を加えた反応チューブも用意する。反応の温度及び時間は、組成物に含まれるGPR14タンパク質量、試験化合物量などを考慮して適宜決定する。反応後、ガラス繊維濾紙等で濾過し、適量のバッファーなどで洗浄した後、ガラス繊維濾紙に残存する標識量を計測する。放射性同位体で標識した場合には、放射活性を、例えば液体シンチレーションカウンター、γ−カウンターなどにより計測することができる。蛍光標識した場合には、蛍光強度を、例えば蛍光プレートリーダー、蛍光レーザースキャナーなどにより計測することができる。抗体で標識した場合には、抗体結合量を一般的なプレートリーダーを用いて計測することができる。全結合量(B)から非特異的結合量(NSB)を引いたカウント(B−NSB)が0cpmを越える試験化合物を呈味性物質として選択することができる。
【0061】
本同定方法に関して上記の(1)〜(5)の手法を実施するためには、GPR14タンパク質を介する細胞刺激活性を公知の方法又は市販の測定用キットを用いて測定することができる。ここで細胞刺激活性としては、例えば、アラキドン酸遊離、アセチルコリン遊離、細胞内カルシウム遊離、細胞内cAMP生成、細胞内cGMP生成、イノシトールリン酸産生、細胞膜電位変動、細胞内タンパク質のリン酸化、c−fosの活性化、pHの低下などを促進する活性又は抑制する活性などが挙げられる。
具体的には、まず、本組成物のGPR14タンパク質を発現する細胞をマルチウェルプレート等に培養する。本同定方法を行なうにあたっては前もって新鮮な培地又は細胞に毒性を示さない適当なバッファーで交換し、試験化合物などを添加して一定時間インキュベートした後、細胞を抽出又は上清液を回収して、生成した産物をそれぞれの方法に従って定量する。細胞刺激活性の指標とする物質(例えば、アラキドン酸など)の生成が、細胞が含有する分解酵素によって検定困難な場合は、該分解酵素に対する阻害剤を添加してアッセイを行なってもよい。また、cAMP産生抑制などの活性については、フォルスコリンなどで細胞の基礎的産生量を増大させておいた細胞に対する産生抑制作用として検出することができる。
【0062】
以下に、細胞内カルシウム濃度を測定して、細胞刺激活性を測定する方法を記載する。細胞内カルシウム濃度の測定は、当技術分野で公知であり、例えばFura−2を用いた蛍光法などが挙げられる。その他、細胞内カルシウムの上昇に伴って細胞内の産生・放出が変化するプロスタグランジンE2(PGE2)を測定することによって間接的に細胞内カルシウム濃度を測定することができる。この産生が変化したPGE2は、細胞外に放出されるため、リガンド刺激の4時間後の培養上清を回収し、該上清中のPGE2濃度を測定する。PGE2の測定には、例えばCayman社製のProstaglandin E2 EIA測定キットを用いることができる。
【0063】
試験化合物と接触させた、GPR14タンパク質を発現する細胞の細胞内カルシウム濃度が、呈味性物質以外の物質と接触させた場合又は試験化合物を接触させない場合の細胞内カルシウム濃度と比較して増大している場合には、この試験化合物が呈味性物質であるといえる。
【0064】
上述のようにして同定された呈味性物質は、GPR14に結合して味覚として感知されるため、本同定方法は、食品の分野で、調味料、加工食品などにおいて利用するための新規な呈味性物質を同定するのに有用である。
【0065】
3.呈味性物質の検出方法
GPR14は呈味性物質に対し濃度依存的に応答するため、本組成物は、呈味性物質を検出するために使用することができる。本発明において「検出」とは、被検サンプル中に含まれる呈味性物質の有無を判定することを指し、また、被検サンプル中に含まれる呈味性物質量を測定する定量的な検出をも指す。
【0066】
本発明に係る、被検サンプル中の呈味性物質の検出方法(以下、「本検出方法」という)は、本組成物と被検サンプルとを接触させ、本組成物と被検サンプル中の呈味性物質との結合量又は呈味性物質による細胞刺激活性を測定することを特徴とするものである。
【0067】
被検サンプルとしては、含まれる呈味性物質を検出又は定量することが望まれるサンプル、呈味性物質の有無を判定することが望まれるサンプルなどが用いられる。例えば、被検サンプルとしては、液体状、固形状及び気体状の化合物、例えば食品などが挙げられる。
【0068】
具体的に説明すると、本検出方法は、本組成物と被検サンプルとを接触させた場合の、被検サンプル中に含まれる呈味性物質のGPR14タンパク質との結合量、又は呈味性物質による細胞刺激活性を測定し、被検サンプル中の呈味性物質を検出するものである。
【0069】
GPR14タンパク質と呈味性物質との結合量、及び呈味性物質による細胞刺激活性は、上記「2.呈味性物質の同定方法」に記載のようにして測定することができる。従って、上記(1)〜(5)に記載したいずれかの手法において、「試験化合物」を「呈味性物質」に置き換えて行う。本検出方法は、本組成物を標識して実施することが好ましい。
【0070】
本検出方法においては、特に、上記(1)〜(5)の試験を行ない、被検サンプル中に呈味性物質が存在すること、すなわち被検サンプル中の呈味性物質がGPR14タンパク質に結合することを確認(定性的確認)した後に、改めて、(1)〜(5)の試験方法によりその結合活性又は細胞刺激活性の定量的確認を行なうことが好ましい。この定量的確認を行うことによって、被検サンプル中に含まれる呈味性物質量を測定することが可能となる。定量的な検出を行う場合には、既知濃度の呈味性物質を用いて、予め検量線を作成しておくことが好ましい。
【0071】
本検出方法により、被検サンプル中の呈味性物質の存在の検出及び呈味性物質量の測定が可能になる。従って、従来では数値化が困難であった味覚の数値化・定量化に有用である。
【0072】
4.呈味性物質の同定又は検出用キット
本組成物は、呈味性物質を同定又は検出するためのキットとして提供することができる。本発明に係る呈味性物質の同定又は検出用キット(以下、「本キット」という)は、本組成物の他、本同定方法又は検出方法を行うために有用な成分を含むものである。そのような成分としては、例えば、本組成物を懸濁するためのバッファー、標識、非特異的結合を低減させるための界面活性剤又は各種タンパク質、プロテアーゼによるGPR14タンパク質又は呈味性物質の分解を抑制するためのプロテアーゼ阻害剤、細胞刺激活性を測定するための成分などが挙げられる。バッファーは、GPR14タンパク質と呈味性物質との結合を阻害しないものであればいずれでもよい。例えば、pH4〜10(望ましくはpH6〜8)のリン酸バッファー、トリス−塩酸バッファーなどが挙げられる。
【0073】
また、界面活性剤としては、例えばCHAPS、Tween−80TM、ジギトニン、デオキシコレートなどが挙げられ、各種タンパク質としては、例えばウシ血清アルブミン、ゼラチンなどが挙げられる。さらに、プロテアーゼ阻害剤としては、例えばPMSF、ロイペプチン、E−64、ペプスタチンなどが挙げられる。
本キットを利用することにより、本同定方法又は検出方法を簡便に行うことができる。
【0074】
【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明は下記実施例にその技術的範囲が限定されるものではない。
【0075】
〔実施例1〕GPR14のクローニングとCHO細胞への導入
ラットGPR14は、膀胱より得た。すなわち、埼玉実験動物供給所より得たWistar系雄性ラット(体重200g前後)6匹を断頭、脱血したのち膀胱を採取し、滅菌した生理食塩水で洗った。その後、採取した膀胱を氷冷したGIBCO BRL社のTRIzol 10ml中に加え、ポリトロン社のポリトロンホモジナイザーを最高速度で1〜2分間使用して、膀胱組織をホモジナイズした。これからTRIzolに添付されたマニュアルに従って、Total RNAを230μg得た。この230μgのTotal RNA全量に対して、タカラのOligotex−dT30を用いてPoly (A)+ RNAを精製した。その結果11μgのラット膀胱Poly (A)+ RNAを得た。このうち1μgをGIBCO BRL社の逆転写酵素Superscript IIを用いてcDNA溶液20μlを得た。ここから1μlを使用して、プライマー(配列番号3及び4)を用いてタカラのEX Taqを使用して、次のPCR条件でシングルバンドのPCR産物を得た。すなわち、PCR条件は、94℃にて3分の後、94℃1分、55℃1分及び72℃1.5分からなるサイクルを35サイクル行い、その後72℃にて7分とした。
【0076】
このようにして得られたPCR産物は、FMC BioProducts社の低融点アガロースSeaPlaque GTGアガロース(1%)を用いて電気泳動を行い、1161bpのGPR14のバンドの部分のみを剃刀で切り出した。切り出したアガロース小片は、TAEが入ったGIBCO BRL社の透析バックを用いて電気透析を行い、アガロースとPCR産物を分離した。TAEに溶けたPCR産物はエタノール沈殿法によって回収し、15μlのTEに溶かした。このうち1μlをエチジウムブロマイドを含んだアガロースゲルで泳動し、PCR産物のバンドがUV照射のもとで肉眼で観察できるかを確認した。バンドが泳動ゲル上で確認できたため、15μl中の2μlをインビトロゲン社のTA Cloning kitに使用してクローニングを行った。X−galを使用したブルー/ホワイトセレクションによってインサートが存在すると思われるクローンを、アンピシリン含有L/Bプレートより採取した。GPR14クローンは次のプライマーを用いてPCRを施行した(5’−CGC GGA TTC ATG GCT CTG AGC CTG GAG−3’(配列番号5)、下線部はBam HIサイトを表す;5’−ACG CGT CGA CTC AGA GAA GGG CCC GTT AC−3’(配列番号6)下線部はSal Iサイトを表す)。これをpEF−BOSのBam HI / Sal Iサイトに導入した。pEF−BOSは、Nagata, S. and Mizushima, S., Nucleic Acid Research 18:5322 (1990)に記載のものである。
【0077】
このGPR14−pEF−BOSベクター5μlと2μlのpEF−neo(Nagataら)を、プロメガ社のTransFast kitを用いてCHO細胞に導入した。これらの遺伝子を導入されたCHO細胞は、シグマ社のHam’s F−12培養液(JHR Biosciences社の熱不活化ウシ胎児血清を10%含む)にGIBCO BRL社の抗生物質(ペニシリン50U/ml/ストレプトマイシン50μg/ml)と400μg/mlのナカライテスク社のG418を加えて5%の炭酸ガスのもと37℃で2週間培養し、ネオマシン耐性の細胞を得た。この細胞はCHO−S株と名付け、セルバンカー(ダイアヤトロン社製)に懸濁後、−80℃で保存した。
【0078】
〔実施例2〕GPR14の呈味性物質に対する応答
実施例1で取得した細胞(以降CHO−S株と呼ぶ)を、Nutrient Mixture F−12 HAM(SIGMA社製)に10%ウシ血清、並びに50μg/mlペニシリン及びストレプトマイシンを添加した培地(以降F−12培地と呼ぶ)中で24穴培養フラスコを用いて37℃、炭酸ガス濃度5.0%で4日間培養した。培養後、×10リン酸緩衝液(以降PBSと呼ぶ)で3回洗浄した。これをCHO−S株試験細胞とした。
【0079】
このCHO−S株試験細胞に、F−12培地に以下の25種の呈味性物質を溶解した溶液及びF−12培地を0.2mlずつ添加し、37℃、炭酸ガス濃度5.0%で4時間恒温処理した。呈味性物質としては、150mMグルコース、70mMフラクトース、45mMスクロース、60mMラクトース、45mMマルトース、170mMソルビトール、75mMグリシン、35mMアラニン、0.25mMアスパルテーム、0.01mMリゾチーム、0.05mMステビオサイド、0.37mMアセスルファム K、0.01mM塩酸キニーネ、8.0mMカフェイン、45mMフェニルアラニン、22mMトリプトファン、2.9mMアルギニン、8.0mMグルタミン酸ナトリウム、0.45mMグアノシン 5’−モノフォスフェート2ナトリウム塩、1.5mMイノシン 5’−モノフォスフェート2ナトリウム塩、0.65mMクエン酸、45mM食塩、ウロテンシン−II 10−9Mを使用した。
【0080】
処理後培地を回収し、遠心分離によってCHO−S株試験細胞を除去した(PGE試験液)。PGE試験液は、Prostaglandin E2 EIA Kit(Cayman Chemical Company製)を用いてPGE2量を測定した。 CHO−S株は、ウロテンシン IIの他に、グルコース、フラクトース、スクロース、ラクトース、マルトース、ソルビトール及び食塩の添加により、培養液中のPGE2濃度が上昇した(図1)。図1において、1〜24は、1:グルコース、2:フラクトース、3:スクロース、4:ラクトース、5:マルトース、6:ソルビトール、7:アラニン、8:グリシン、9:アスパルテーム、10:リゾチーム、11:ステビオサイド、12:アセスルファム K、13:塩酸キニーネ、14:カフェイン、15:フェニルアラニン、16:トリプトファン、17:アルギニン、18:グルタミン酸ナトリウム、19:グアノシン 5’−モノフォスフェート2ナトリウム塩、20:イノシン 5’−モノフォスフェート2ナトリウム塩、21:クエン酸、22:食塩、23:ウロテンシン−II 10−9M、24:mili−Q、を表す。以上の実験から、GPR14はこれらの呈味性物質に応答することが明らかである。これに対し、その他の呈味性物質を添加した場合には、培養液中のPGE量は上昇せず、応答は起こらなかった。
また同時に実施例1と同様の方法で得られたフラクタルカイン受容体を発現するCX3RCR発現株を用いて、同じ測定を行った。
【0081】
ラットフラクタルカイン受容体(CX3CR;アクセッション番号NM#133534)を発現するCHO細胞は以下のように調製した。ラット脳cDNAライブラリーをEcoRI Linkerを用いてStratagene社のλZAP IIのEcoRIサイトに組み込み、Stratagene社のGigapack III Goldでin vitroパッケージングを行った。ラットフラクタルカイン受容体の5’側の34個の塩基配列をもとにしてプローブを作製し、プラークハイブリダイゼーションを施行した。得られたポジティブプラークに対して、ヘルパーファージを用いたin vivo Excisionによって、フラクタルカイン受容体を含んだベクターpBluescript−CX3CR1を得た。このpBluescript−CX3CR1に対して、2つの制限酵素Sal I及びSpe I処理を行い、CX3CR1フラグメントを得た。このフラグメントは同様の制限酵素で処理したpEF−BOSベクターに組み込んだ。
【0082】
シーケンスによって確認されたフラクタルカイン受容体を含むpEF−BOSベクター3μg、ヒトGα16(ヒトGα16:塩基配列を配列番号7に示す)を組み込んだpEF−BOSを3μg、及び1μgのpEF−BOSにネオマイシン耐性遺伝子を組み込んだpEF−neo(Nagataらより得た)を、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞(ATCCより入手)にプロメガ社のTransFast kitを用いて導入した。これらの遺伝子を導入したCHO細胞は、シグマ社のHam’s F−12培養液(JHR Biosciences社の熱不活化ウシ胎児血清を10%含む)にGIBCO BRL社の抗生物質(ペニシリン50U/ml/ストレプトマイシン50μg/ml)と400μg/mlのナカライテスク社のG418を加えて5%の炭酸ガスのもと37℃で2週間培養し、ネオマシン耐性の細胞を得た。
【0083】
G418存在下で増殖した細胞をクローニングシリンダーを用いて細胞を単離した。単離した細胞よりGIBCO BRL 社のTRIzolを用いてTotal RNA を抽出し、RT−PCRを施行した。その結果、図2に示すようにCX3CRとGα16とを共発現(CX3CR+G16)させた場合には、CX3CRとGα16についてPCRの明瞭なバンドが確認された(図2の右端のレーン)。
【0084】
さらにCX3CR、フラクタルカイン受容体及びGα16を共発現させた細胞に対して同仁社のFura−2をロードし、アゴニストであるフラクタルカインを作用させた時の細胞内カルシウム濃度変化について検討した。結果を図3に示す。細胞内で上昇したcAMP濃度を低下する働きのあるGタンパク質Giに共役するフラクタルカイン受容体CX3CRは、細胞内で一緒に発現したGα16と共役して、図3の1番上のCX3CR−G16及び上から2番目のCX3CR+G16のように、矢印で示した10−7Mのフラクタルカインを作用させた場合に細胞内カルシウム濃度の上昇が認められた。従って、フラクタルカイン受容体は、CHO細胞内でGタンパク質と共役して機能することが明らかになった。
【0085】
しかしながらこの受容体はGPR14のアゴニストであるウロテンシンIIには刺激されないため、今回の実験においてはネガティブコントロールとして使用した。
CHO−S株と同様に、呈味性物質を添加した場合のPGE量を測定した(図1)。CX3RCR発現株においては、全ての呈味性物質の場合にPGE2量の上昇が起こらず、これらの物質に対し応答していないことが明らかであった(図1)。
【0086】
〔実施例3〕GPR14の呈味性物質に対する濃度依存的応答
実施例1で調製したCHO−S株を、F−12培地で24穴培養フラスコを用いて37℃、炭酸ガス濃度5.0%で4日間培養した。培養後、×10 PBSで3回洗浄した。これをCHO−S株試験細胞とした。CHO−S株試験細胞に、F−12培地に以下に記載する種々の濃度の呈味性物質を溶解した溶液及びF−12培地を0.2mlずつ添加し、37℃、炭酸ガス濃度5.0%で4時間恒温処理した。試験に使用した呈味性物質は、300、150、75、37.5、18.8mMグルコース;140、70、35、17.5mMフラクトース;90、45、22.5、11.3mMスクロース;並びに90、45、22.5、11.3mM食塩である。処理後培地を回収し、遠心分離によってCHO−S株試験細胞を除去した(PGE試験液)。PGE試験液を、Prostaglandin E2 EIA Kit(Cayman Chemical Company製)を用いて、PGE2量を測定した。
【0087】
グルコース、フラクトース、スクロース及び食塩を添加したCHO−S株においては、PGE2濃度が呈味性物質の濃度に依存して増加した(図4)。すなわち、GPR14はこれらの呈味性物質に濃度依存的に応答することは明らかであった。
【0088】
〔実施例4〕GPR14の舌組織における発現確認
GPR14の舌組織での発現をin situハイブリダイゼーションにより検討した。
プローブは、ラットGPR14の塩基配列88−147bpの一部の配列を相補的にした配列(rGPR14/AS:5’− CCA CAA GGT CTT TCA GGG AGC TGG GAT CTG TTG GGC CGG ACC AGG AAC TGT TGA GGG ACA C −3’;配列番号8)を使用した。一方、ネガティブコントロールとして、88−147bpの一部の塩基配列(rGPR14/S:5’− GTG TCC CTC AAC AGT TCC TGG TCC GGC CCA ACA GAT CCC AGC TCC CTG AAA GAC CTT GTG G −3’;配列番号9)をプローブとして使用した。なお、この配列は、ヒト、マウス及びラットに共通な塩基配列である。この2つのプローブの3’側にビオチンをラベルし、HPLCによって精製した。
【0089】
マウス舌組織は採取後すぐに冷PBSで洗った後、OTCコンパウンドに包埋し、−20℃で保存した。この組織はクライオスタットで5μmに薄切し、Proteinase K及び過酸化水素水を作用させた後、DAKO社超高感度核酸プローブ検出キットを用いて、GPR14を薄い褐色から濃い褐色として組織中で検出した。組織の対比染色にはメチルグリーンを用いた。
【0090】
図5Aに示すように、マウスの舌組織ではGPR14が薄い褐色として、舌の表層部分に染まることが観察された(図中、矢印)。ネガティブコントロールを示す図5Bでは、褐色に染まる部分はない。従って、褐色に染まる染色部位は非特異的な反応ではなく、特異的な反応であることがわかる。この試験より、GPR14は舌組織において発現していることがわかった。
【0091】
【発明の効果】
本発明によれば、呈味性物質反応性組成物が提供される。本組成物は、呈味性物質の同定及び検出に有用である。従って、本組成物を利用することにより、新規な呈味性物質を同定することが可能となる。
【0092】
【配列表】
【0093】
【配列表フリーテキスト】
配列番号3〜9:合成DNA
【図面の簡単な説明】
【図1】GPR14の呈味性物質に対する応答を示す図である。
【図2】CHO細胞におけるCX3CRとG16αの発現を示す図である。
【図3】CX3CR3アゴニストであるフルクタルカインを作用させた場合の、CX3CR発現CHO細胞、CX3CR及びG16α発現CHO細胞、並びにCX2CR−G16α発現CHO細胞におけるカルシウム濃度の変化を示すグラフである。
【図4】GPR14の呈味性物質に対する濃度依存的な応答を示す図である。
【図5】マウスの舌組織において発現するGPR14を示す図である。AはプローブとしてrGPR14/ASを使用した場合を示し、BはプローブとしてrGPR14/Sを使用したネガティブコントロールを示す。
【発明の属する技術分野】
本発明は、呈味性物質反応性組成物に関する。また本発明は、呈味性物質の同定方法、及び呈味性物質の検出方法に関する。さらに本発明は、上記組成物を含む、呈味性物質の同定又は検出用キットに関する。
【0002】
【従来の技術】
Gタンパク質共役型受容体14(SENR/GPRE/ウロテンシン−II受容体としても知られている。以下「GPR14」という)は、Talら(Biochem. Biophys. Res. Commun. 209, 752−759, 1995)により最初に報告され、その後、そのリガンド(アゴニスト)がウロテンシン−IIであることが報告されている(Ames, RS, et al., Nature, 401: 282−286, 1999)。ウロテンシン−IIは血圧上昇に関与するポリペプチドであり、GPR14は主に心臓血管組織に存在することが知られている。そのため、GPR14の研究は、大部分が血管収縮作用に焦点が当てられていた。しかし、GPR14に関して、ウロテンシン−II以外のリガンド(アゴニスト)は知られていない。
【0003】
一方、呈味性物質の受容体についての研究が近年進んでおり、現在T1R、T2R、THTRのシリーズが味覚受容体として知られている。しかし、これらの受容体がどのような物質をリガンド(アゴニスト)としているかはほとんど不明である。従って、味覚受容体を解明し、呈味性物質としてのリガンドを探索することが望まれていた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、呈味性物質に応答するセンサー、並びに呈味性物質の同定及び検出方法を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、GPR14遺伝子をクローニングし、それを細胞膜上に発現させた形質転換細胞を用いて、GPR14の各種呈味性物質への応答性を測定したところ、GPR14が呈味性物質への応答性を有し、生体内でこれらの物質のセンサーとして働いていることを見出した。さらに本発明者は、GPR14タンパク質及びGPR14タンパク質を発現する細胞を利用して、呈味性物質の同定及び検出を行うことができるという知見を得て、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、Gタンパク質共役型受容体14タンパク質、該タンパク質を発現する細胞、及び該細胞の膜画分からなる群より選択されるものを含むことを特徴とする呈味性物質反応性組成物である。ここで該組成物としては、Gタンパク質共役型受容体14タンパク質を発現する細胞を含むものであることが好ましい。また該細胞は、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)であることが好ましい。
【0007】
また呈味性物質としては、甘味成分が挙げられる。呈味性物質は、グルコース、フラクトース、スクロース、ラクトース、マルトース、ソルビトール及び食塩からなる群より選択されるものが好ましい。
【0008】
本発明はまた、上記組成物と試験化合物とを接触させたときの結合量又は細胞刺激活性を測定することを特徴とする、呈味性物質の同定方法である。
【0009】
さらに本発明は、上記組成物と被検サンプルとを接触させ、該組成物と被検サンプル中の呈味性物質との結合量又は細胞刺激活性を測定することを特徴とする、被検サンプル中の呈味性物質の検出方法である。
また本発明は、上記組成物を含むことを特徴とする呈味性物質の同定又は検出用キットである。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係る呈味性物質反応性組成物(以下、「本組成物」という)は、Gタンパク質共役型受容体14(以下、「GPR14」という)を含むことを特徴とするものであり、このGPR14が呈味性物質に対して応答する味覚受容体であるという知見に基づくものである。従って、本組成物は、味覚センサー又は呈味性物質反応性センサーとして機能する。また本発明者は、GPR14が、グルコース、フラクトース、スクロース、ラクトース、マルトース、ソルビトール、食塩などの呈味性物質に対し応答することを見出し、さらにはこの応答が濃度依存的であったことから、GPR14を、呈味性物質の検出及び定量に利用可能であると考えた。
【0011】
1.GPR14を含む呈味性物質反応性組成物
本組成物はGPR14を含むことを特徴とし、具体的には、本組成物はGPR14タンパク質又はGPR14タンパク質を発現する細胞若しくは細胞膜画分を含む。以下に、GPR14タンパク質及びGPR14タンパク質を発現する細胞に関して説明する。
【0012】
(1)GPR14タンパク質
GPR14タンパク質は、既にGPR14遺伝子及びタンパク質の塩基配列及びアミノ酸配列が公開されているため、それらの情報を利用して、当技術分野で公知の方法により製造することができる。例えば、GPR14に関する配列情報は、EMBL/GenBank Data Librariesにアクセッション番号U23483として登録されている。本発明において利用可能なGPR14の配列情報を、配列番号1(塩基配列)及び配列番号2(アミノ酸配列)として例示した。
【0013】
GPR14タンパク質は、配列番号2に示すアミノ酸配列を含むタンパク質がGPR14として機能する限り、当該アミノ酸配列において複数個、好ましくは1個若しくは数個のアミノ酸に欠失、置換、付加等の変異が生じているものであってもよい。
【0014】
「GPR14としての機能」としては、例えば、呈味性物質との結合活性、呈味性物質を介したシグナル情報伝達作用などが挙げられる。「GPR14として機能する」とは、例えば配列番号2に示すアミノ酸配列からなるタンパク質とほぼ同等の機能を有することを指す。従って、配列番号2に示すアミノ酸配列において変異が生じたアミノ酸を含むタンパク質の活性が、配列番号2に示すアミノ酸配列からなるタンパク質と同等(0.5〜1.5倍程度)であることが好ましいが、これらの活性の程度やタンパク質の分子量などの量的要素は異なっていてもよい。リガンド結合活性やシグナル情報伝達作用などの活性の測定は、当技術分野で公知の方法に従って行なうことができ、例えば、後述する「2.呈味性物質の同定方法」の項に記載のようにして測定することができる。
【0015】
また、本発明において使用するGPR14タンパク質としては、GPR14タンパク質の部分ペプチドも包含される。そのような部分ペプチドとしては、GPR14タンパク質としての機能を有する部分ペプチドであればいずれのものであってもよいが、例えば、GPR14タンパク質分子のうち、細胞膜の外に露出している部位であって、受容体結合活性を有するものなどが用いられる。具体的には、GPR14タンパク質の部分ペプチドとしては、ヒドロパシープロット解析において細胞外領域(親水性部位)であると分析された部分を含むペプチドである。また、疎水性部位を一部に含むペプチドも同様に用いることができる。個々のドメインを個別に含むペプチドも用い得るが、複数のドメインを同時に含む部分のペプチドでもよい。
GPR14タンパク質の部分ペプチドのアミノ酸の数は、上記GPR14タンパク質の構成アミノ酸配列のうち少なくとも20個以上、好ましくは50個以上、より好ましくは100個以上のアミノ酸配列を有するペプチドなどが好ましい。
【0016】
本組成物に含まれるGPR14タンパク質又はその部分ペプチドは、ヒトやラットなどの細胞又は組織から当技術分野で公知のタンパク質の精製方法によって製造することができる。また、GPR14タンパク質をコードするDNAで形質転換された形質転換体を培養することによっても製造することができる(下記参照)。また、当技術分野で公知の化学的ペプチド合成方法、例えば固相合成法などによって製造することもできる。
【0017】
(2)GPR14タンパク質の製造
GPR14タンパク質を遺伝子組換え手法により製造する場合には、GPR14タンパク質をコードするDNA(GPR14遺伝子)を導入した形質転換体を培養し、この培養物から該タンパク質を回収することができる。
【0018】
(a) GPR14遺伝子のクローニング
GPR14遺伝子は、上述した通り、その塩基配列情報が公開されているため、その情報を利用して作製することができる。本発明において利用可能なGPR14遺伝子の塩基配列として、配列番号1に示す塩基配列を例示する。また、配列番号1に示す塩基配列からなるDNAの全部又は一部の配列に相補的な配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができるDNAであって、GPR14として機能するタンパク質をコードする遺伝子もGPR14遺伝子に含まれる。ストリンジェントな条件とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。例えば、相同性が高い核酸、すなわち60%以上、好ましくは80%以上の相同性を有するDNAの相補鎖がハイブリダイズし、それより相同性が低い核酸の相補鎖がハイブリダイズしない条件が挙げられる。ストリンジェントな条件とは、例えばナトリウム濃度が、10〜300mM、好ましくは20〜100mMであり、温度が25〜70℃、好ましくは42〜55℃における条件をいう。
【0019】
GPR14遺伝子は、上述した塩基配列情報により、化学合成によって、又は塩基配列情報に基づいて設計したプライマーを用いた増幅反応によって、あるいは該塩基配列を有するDNA断片をプローブとしてハイブリダイズさせることによって得ることができる。以下に、プライマーを用いた増幅反応によりGPR14をクローニングする手法を説明する。
【0020】
GPR14遺伝子の塩基配列を基にプライマーを設計する場合には、該配列の5’末端から約20〜30塩基及び3’の終止コドンを含む上流側の約20〜30塩基を選択し、プライマーを設計することが好ましい。例えば、本発明において利用可能なプライマーの例を以下に示す:
フォーワードプライマー:GAT GGC TCT GAG CCT GGA GTC TAC AAC AAG CTT TC(配列番号3)
リバースプライマー:TCA GAG AAG GGC CCC GTT ACG GGA(配列番号4)
【0021】
上述のように設計したプライマーの合成法は、当技術分野で周知である。例えば、ホスホアミダイト法などの一般的なオリゴヌクレオチド合成法を用いることができる。
【0022】
続いて、上記設計したプライマーを用いて、cDNAライブラリー又はmRNAを鋳型として増幅反応を行う。増幅反応としては、限定するものではないが、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、LAMP法(Loop−mediated Isothermal Amplification)などが挙げられる。本発明において増幅反応は、PCRが好ましい。mRNAの抽出及びcDNAライブラリーの作製は常法に従って行うことができる。
【0023】
このようにして得られたmRNAを鋳型として、ランダムプライマーと共に逆転写酵素を用いて一本鎖cDNAを合成した後、該一本鎖cDNAから二本鎖cDNAを合成する。次に、得られた二本鎖cDNAを適当なクローニングベクターに組み込んで組換えベクターを作製する。そしてこの組換えベクターを用いて大腸菌等を形質転換し、テトラサイクリン耐性、アンピシリン耐性等を指標として形質転換体を選択することにより、cDNAのライブラリーを得ることができる。
【0024】
あるいは、上記組織から得られたmRNAを鋳型として、ランダムプライマーと共に逆転写酵素を用いてcDNAを作製することもできる。Poly A+ RNA(mRNA)は市販されており、例えばヒト脳組織としては、Clontech社製Human Brain Poly A+ RNA(カタログ番号6516−1)などが挙げられる。
逆転写酵素としては、例えばGIBCO BRL社製のSuperscript II逆転写酵素を利用可能である。
【0025】
上記のようにして得られる形質転換体又はcDNAライブラリーから目的のDNAを有する株を選択するには、上記プライマー、例えば、配列番号3及び4に示すプライマーを合成し、これを用いて増幅反応を行い、得られた断片をプローブとして、cDNAライブラリーからスクリーニングする方法、あるいはλファージ(λgt11等)を用いた場合は、λgt11インサート増幅用のプライマーを用いて増幅反応を行う方法を採用することができる。但し、本発明においてはこれらのプライマーに限定されるものではない。
【0026】
このようにして得られたDNA増幅断片を、32P、35S又はビオチン等で標識してプローブとし、これを形質転換体のDNAを変性固定したニトロセルロースフィルターとハイブリダイズさせ、得られたポジティブ株を検索することによりスクリーニングすることができる。
【0027】
次に、得られたクローンから全長のcDNAをクローニングする。cDNAのクローニングには、例えばTAクローニング法が用いられる。TAクローニング法は、市販のキット、例えばInvitrogen社製のTAクローニングキットを用いて行うことができる。
上記スクリーニングにおいて得られたcDNAの単離クローンについて、増幅産物をテンプレートにしてcDNAの塩基配列を決定する。
【0028】
塩基配列の決定はマキサム−ギルバートの化学修飾法、又はM13ファージを用いるジデオキシヌクレオチド鎖終結法等の公知手法により行うことができるが、通常は自動塩基配列決定装置(例えばApplied Biosystems社製ABI373シークエンサー等)を用いて配列決定が行われる。
【0029】
(b) 組換えベクター及び形質転換体の作製
宿主を形質転換するための組換えベクターは、上記GPR14遺伝子を適当なベクターに連結することにより得ることができ、形質転換体は、上記組換えベクターを、目的の遺伝子が発現し得るように宿主中に導入することにより得ることができる。
【0030】
ベクターとしては、形質転換用のベクターとして当技術分野で公知のベクターが使用され、例えば、プラスミドDNA、ファージDNA、レトロウイルス又はワクシニアウイルスなどの動物ウイルスベクター、バキュロウイルスなどの昆虫ウイルスベクター、細菌人工染色体(BAC)、酵母人工染色体(YAC)などが挙げられる。
【0031】
ベクターにGPR14遺伝子を挿入するには、まず、精製されたDNAを適当な制限酵素で切断し、適当なベクターDNAの制限酵素部位又はマルチクローニングサイトに挿入してベクターに連結する方法などが採用される。
【0032】
GPR14遺伝子は、その遺伝子の機能が発揮されるようにベクターに組み込まれることが必要である。そこで、組換えベクターには、プロモーター、GPR14遺伝子のほか、所望によりエンハンサーなどのシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、リボソーム結合配列(SD配列)などを連結することができる。なお、選択マーカーとしては、例えばジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。さらに、大腸菌及び酵母などの2種以上の宿主微生物で自律的増殖が可能なベクターのほか、各種のシャトルベクターを使用することもできる。このようなベクターについても、前記制限酵素で切断し、その断片を得ることができる。
【0033】
DNA断片とベクター断片とを連結させるには、公知のDNAリガーゼを用いる。そして、DNA断片とベクター断片とをアニーリングさせた後に連結させ、組換えベクターを作製する。
【0034】
形質転換に使用する宿主としては、GPR14遺伝子を発現できるものであれば特に限定されるものではない。例えば、細菌(大腸菌、枯草菌等)、酵母、動物細胞(COS細胞、CHO細胞等)、昆虫細胞が挙げられる。
【0035】
細菌を宿主とする場合は、本発明の組換えベクターが該細菌中で自律複製可能であると同時に、プロモーター、リボゾーム結合配列、GPR14遺伝子、転写終結配列により構成されていることが好ましい。また、プロモーターを制御する遺伝子が含まれていてもよい。大腸菌としては、例えばエッシェリヒア・コリ(Escherichia coli)DH5αなどが挙げられ、枯草菌としては、例えばバチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)などが挙げられる。プロモーターは、大腸菌等の宿主中で発現できるものであればいずれを用いてもよい。細菌への組換えベクターの導入方法は、細菌にDNAを導入する方法であれば特に限定されるものではない。例えばカルシウムイオンを用いる方法、エレクトロポレーション法等が挙げられる。
【0036】
酵母を宿主とする場合は、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)などが用いられる。この場合、プロモーターは酵母中で発現できるものであれば特に限定されない。酵母への組換えベクターの導入方法は、酵母にDNAを導入する方法であれば特に限定されず、例えばエレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、酢酸リチウム法等が挙げられる。
【0037】
動物細胞を宿主とする場合は、サル細胞COS−7、Vero、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、マウスL細胞、ラットGH3、ヒトFL細胞等が用いられる。プロモーターとしてSRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMVプロモーター等が用いられ、また、ヒトサイトメガロウイルスの初期遺伝子プロモーター等を用いてもよい。動物細胞への組換えベクターの導入方法としては、例えばエレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法等が挙げられる。
【0038】
昆虫細胞を宿主とする場合は、Sf9細胞などが用いられる。昆虫細胞への組換えベクターの導入方法としては、例えばリン酸カルシウム法、リポフェクション法、エレクトロポレーション法などが挙げられる。
【0039】
形質転換体は、導入する遺伝子内に構成されるマーカー遺伝子の性質を利用して選択される。例えば、ネオマイシン耐性遺伝子を用いた場合には、G418薬剤に抵抗性を示す細胞を選択する。
【0040】
(c) GPR14タンパク質の生産
本発明において、GPR14タンパク質は、GPR14遺伝子を保有する前記形質転換体を培養し、その培養物から採取することにより得ることができる。「培養物」とは、培養細胞、培養菌体、又は細胞若しくは菌体の破砕物のいずれをも意味するものである。形質転換体を培地に培養する方法は、宿主の培養に用いられる通常の方法に従って行われる。
【0041】
大腸菌や酵母菌等の微生物を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、微生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体の培養を効率的に行うことができる培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。ここで、培地に添加される炭素源、窒素源、無機物などについては当技術分野で公知である。
【0042】
培養は、通常、振盪培養又は通気攪拌培養などの好気的条件下、約37℃で約5時間〜30日間行う。培養期間中、pHは中性付近に保持する。pHの調整は、無機又は有機酸、アルカリ溶液等を用いて行う。培養中は必要に応じてアンピシリンやテトラサイクリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
【0043】
プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養する場合は、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、Lacプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはイソプロピル−β−D−チオガラクトシド(IPTG)等を、trpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはインドール酢酸(IAA)等を培地に添加してもよい。
【0044】
動物細胞を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、一般に使用されているRPMI1640培地、DMEM培地又はこれらの培地に牛胎児血清等を添加した培地等が用いられる。培養は、通常、5%CO2存在下、37℃で約5時間〜30日間行う。培養中は必要に応じてカナマイシン、ペニシリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
【0045】
培養後、目的のGPR14タンパク質は細胞表面上に生産されるため、菌体又は細胞を破砕することによりタンパク質を抽出する。その後、タンパク質の単離精製に用いられる一般的な生化学的方法、例えば硫酸アンモニウム沈殿、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独で又は適宜組み合わせて用いることにより、前記培養物中から目的のタンパク質を単離精製することができる。
目的のタンパク質が得られたか否かは、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動等により確認することができる。
【0046】
(3)GPR14タンパク質を発現する細胞
GPR14タンパク質を発現する細胞は、上記「1.GPR14を含む呈味性物質反応性組成物」の項の「(b) 組換えベクター及び形質転換体の作製」に記載の方法と同様にして作製することができる。すなわち、GPR14遺伝子を組み込んだ組換えベクターを作製し、それを用いて宿主細胞を形質転換する。
【0047】
組換えベクターは、宿主細胞を形質転換するためのベクターであれば特に限定されるものではない。特に、哺乳動物において高発現するものが好ましく、例えばpEF−BOSベクター(Mizushima, S. and Nagata, S. Nucleic Acids Res. 1990,
18, 17: 5322)が挙げられる。
【0048】
宿主細胞は、GPR14遺伝子を発現できるものであれば特に限定されるものではない。例えば、細菌(大腸菌、枯草菌等)、酵母、動物細胞(チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、COS細胞等)、昆虫細胞が挙げられる。本組成物においては、CHO細胞などの哺乳動物細胞を宿主として用いることが好ましい。
【0049】
上記組換えベクターを、宿主細胞に導入し、組換えベクターが導入された細胞を培養する。宿主として動物細胞を使用した場合には、培地としては、一般に使用されているRPMI1640培地、DMEM培地又はこれらの培地に牛胎児血清等を添加した培地等が用いられる。培養は、通常、5%CO2存在下、37℃で7〜14日行う。CHO細胞を培養する場合には、HamF−12培地を用いて、5%CO2存在下、37℃で10〜14日間培養する。
上記のようにして、GPR14タンパク質を発現する細胞を作製することができる。
【0050】
本組成物において、GPR14タンパク質を発現する細胞を用いる場合には、該細胞をグルタルアルデヒド、ホルマリンなどで固定化してもよい。固定化方法は、当技術分野で公知の方法に従って行なうことができる。また本組成物として使用するGPR14タンパク質は、細胞膜上に発現するGタンパク質共役型受容体であるため、GPR14タンパク質を発現する細胞として、細胞膜画分を用いることも可能である。細胞膜画分としては、細胞を破砕した後、当技術分野で公知の方法で得られる細胞膜が多く含まれる画分のことをいう。細胞の破砕方法としては、Potter−Elvehjem型ホモジナイザーで細胞を押し潰す方法、ワーリングブレンダーやポリトロン(Kinematica社製)による破砕、超音波による破砕、フレンチプレスなどで加圧しながら細胞を細いノズルから噴出させることによる破砕などが挙げられる。細胞膜の分画には、分画遠心分離法や密度勾配遠心分離法などの遠心力による分画法が主として用いられる。例えば、細胞破砕液を低速(500rpm〜3000rpm)で短時間(通常、約1分〜10分)遠心し、上清をさらに高速(15000rpm〜30000rpm)で通常30分〜2時間遠心し、得られる沈澱を膜画分とする。該膜画分中には、発現したGPR14タンパク質と細胞由来のリン脂質や膜タンパク質などの膜成分が多く含まれる。GPR14タンパク質を発現する細胞又はその膜画分中のGPR14タンパク質の量は、1細胞当たり103〜107分子であるのが好ましく、105〜107分子であるのがさらに好適である。
【0051】
(4)呈味性物質反応性組成物(センサー)としての機能
GPR14タンパク質は、以下の実施例2及び3において、呈味性物質に対し濃度依存的に応答することが示された。また、以下の実施例4において、GPR14遺伝子が舌組織で発現することを確認したため、GPR14は味覚受容体として機能していると考えられる。従って、本組成物、すなわちGPR14タンパク質又はGPR14タンパク質を発現する細胞は、呈味性物質のセンサーとして利用可能である。
【0052】
本発明において「呈味性物質」とは、甘味、苦み、うま味、塩味、酸味、辛味、えぐ味などの味覚のシグナルを生ずる成分又は化合物を指す。具体的には、呈味性物質としては、限定するものではないが、グルコース、フラクトース、スクロース、ラクトース、マルトース、ソルビトール及び食塩が挙げられる。本組成物は特に、グルコース、フラクトース、スクロース、ラクトース、マルトース、ソルビトールなどの甘味成分に対し応答する。
【0053】
2.呈味性物質の同定方法
本組成物は、呈味性物質を単離し、同定するための試薬として有用である。すなわち、本発明に係る呈味性物質の同定方法(以下、「本同定方法」という)は、本組成物と試験化合物とを接触させ、それらの結合量又はそれらによる細胞刺激活性を測定することを特徴とするものである。
【0054】
試験化合物としては、呈味性物質であるかどうかを判定することが望まれる候補化合物や、コンビナトリアルケミストリーなどのライブラリーなどが用いられる。例えば、試験化合物としては、ペプチド、タンパク質、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物などが挙げられる。
【0055】
具体的に説明すると、本同定方法は、本組成物を用いることによって、GPR14タンパク質に結合する試験化合物、又はGPR14と結合して細胞刺激活性を有する試験化合物を同定する方法である。細胞刺激活性としては、例えば、アラキドン酸遊離、アセチルコリン遊離、細胞内カルシウム遊離、細胞内cAMP生成、細胞内cGMP生成、イノシトールリン酸産生、細胞膜電位変動、細胞内タンパク質のリン酸化、c−fos活性化、pHの低下などを促進する活性又は抑制する活性などが挙げられる。本同定方法においては、例えば、本組成物と試験化合物とを接触させた場合のGPR14タンパク質に対する試験化合物の結合量や、試験化合物による細胞刺激活性などを測定することを特徴とする。
【0056】
本同定方法において、GPR14タンパク質に対する試験化合物の結合量、又は試験化合物による細胞刺激活性は、限定するものではないが、以下の(1)〜(5)に記載するいずれかの手法により測定することができる。すなわち、
(1) 標識した試験化合物を、本組成物に接触させて、標識した試験化合物とGPR14タンパク質との結合量を測定する。
(2) 標識した試験化合物を、本組成物に含まれるGPR14タンパク質を発現する細胞又は細胞膜画分に接触させて、標識した試験化合物とこの細胞又は膜画分との結合量を測定する。
(3) 標識した試験化合物を、本組成物に含まれるGPR14タンパク質を発現する細胞を培養することによって細胞膜上に発現したGPR14タンパク質に接触させて、標識した試験化合物とGPR14タンパク質との結合量を測定する。
(4) 試験化合物を、本組成物に含まれるGPR14タンパク質を発現する細胞又は細胞膜画分に接触させて、GPR14タンパク質を介した細胞刺激活性を測定する。
(5) 試験化合物を、本組成物に含まれるGPR14タンパク質を発現する細胞を培養することによって細胞膜上に発現したGPR14タンパク質に接触させて、GPR14タンパク質を介する細胞刺激活性を測定する。
【0057】
そして、上記(1)〜(3)の試験のいずれかにより測定した本組成物と試験化合物とを接触させた場合の結合量を、本組成物と呈味性物質ではない物質とを接触させた場合の結合量(ネガティブコントロール)、又は本組成物とウロテンシンIIとを接触させた場合の結合量(ポジティブコントロール)と比較する。それにより、試験化合物と接触させた場合の結合量が、呈味性物質ではない物質と接触させた場合の結合量と比較して有意に上昇した場合に、試験化合物を呈味性物質と決定する。ここで、「呈味性物質ではない物質」としては、純水などが挙げられる。
【0058】
あるいは、上記(4)又は(5)の試験により測定した本組成物と試験化合物とを接触させた場合の細胞刺激活性を、呈味性物質ではない物質と接触させた場合若しくは試験化合物と接触させていない場合の細胞刺激活性(ネガティブコントロールコントロール)、又は、ウロテンシンIIと接触させた場合の細胞刺激活性(ポジティブコントロール)と比較する。それにより、試験化合物と接触させた場合の結合量が、呈味性物質ではない物質と接触させた場合若しくは試験化合物と接触させていない場合の細胞刺激活性と比較して有意に上昇した場合に、試験化合物を呈味性物質と決定する。ここで、試験化合物と接触させない場合の細胞刺激活性は、上記(4)又は(5)の試験において、試験化合物を接触させずに、GPR14タンパク質を発現する細胞又は細胞膜画分の細胞刺激活性を測定することにより、決定することができる。
【0059】
本同定方法に関して上記の(1)〜(5)の手法を実施するためには、本組成物と、標識した試験化合物が必要である。本組成物は、上記「1.GPR14を含む呈味性物質反応性組成物」の項に記載のようにして作製することができる。また標識した試験化合物としては、〔3H〕、〔125I〕、〔14C〕、〔35S〕などの放射性同位体、フルオレセイン、スルホローダミン、テトラメチルローダミンなどの蛍光標識、ルシフェリンなどの化学発光標識、標識用抗体で標識した化合物(例えばペプチド、タンパク質、非ペプチド性化合物)などが好適である。あるいは、本組成物を、上記標識により標識してもよい。
【0060】
呈味性物質を同定するには、本組成物に、一定量の標識で標識した試験化合物を共存させる。非特異的結合量(NSB)を知るために、過剰量の未標識の試験化合物を加えた反応チューブも用意する。反応の温度及び時間は、組成物に含まれるGPR14タンパク質量、試験化合物量などを考慮して適宜決定する。反応後、ガラス繊維濾紙等で濾過し、適量のバッファーなどで洗浄した後、ガラス繊維濾紙に残存する標識量を計測する。放射性同位体で標識した場合には、放射活性を、例えば液体シンチレーションカウンター、γ−カウンターなどにより計測することができる。蛍光標識した場合には、蛍光強度を、例えば蛍光プレートリーダー、蛍光レーザースキャナーなどにより計測することができる。抗体で標識した場合には、抗体結合量を一般的なプレートリーダーを用いて計測することができる。全結合量(B)から非特異的結合量(NSB)を引いたカウント(B−NSB)が0cpmを越える試験化合物を呈味性物質として選択することができる。
【0061】
本同定方法に関して上記の(1)〜(5)の手法を実施するためには、GPR14タンパク質を介する細胞刺激活性を公知の方法又は市販の測定用キットを用いて測定することができる。ここで細胞刺激活性としては、例えば、アラキドン酸遊離、アセチルコリン遊離、細胞内カルシウム遊離、細胞内cAMP生成、細胞内cGMP生成、イノシトールリン酸産生、細胞膜電位変動、細胞内タンパク質のリン酸化、c−fosの活性化、pHの低下などを促進する活性又は抑制する活性などが挙げられる。
具体的には、まず、本組成物のGPR14タンパク質を発現する細胞をマルチウェルプレート等に培養する。本同定方法を行なうにあたっては前もって新鮮な培地又は細胞に毒性を示さない適当なバッファーで交換し、試験化合物などを添加して一定時間インキュベートした後、細胞を抽出又は上清液を回収して、生成した産物をそれぞれの方法に従って定量する。細胞刺激活性の指標とする物質(例えば、アラキドン酸など)の生成が、細胞が含有する分解酵素によって検定困難な場合は、該分解酵素に対する阻害剤を添加してアッセイを行なってもよい。また、cAMP産生抑制などの活性については、フォルスコリンなどで細胞の基礎的産生量を増大させておいた細胞に対する産生抑制作用として検出することができる。
【0062】
以下に、細胞内カルシウム濃度を測定して、細胞刺激活性を測定する方法を記載する。細胞内カルシウム濃度の測定は、当技術分野で公知であり、例えばFura−2を用いた蛍光法などが挙げられる。その他、細胞内カルシウムの上昇に伴って細胞内の産生・放出が変化するプロスタグランジンE2(PGE2)を測定することによって間接的に細胞内カルシウム濃度を測定することができる。この産生が変化したPGE2は、細胞外に放出されるため、リガンド刺激の4時間後の培養上清を回収し、該上清中のPGE2濃度を測定する。PGE2の測定には、例えばCayman社製のProstaglandin E2 EIA測定キットを用いることができる。
【0063】
試験化合物と接触させた、GPR14タンパク質を発現する細胞の細胞内カルシウム濃度が、呈味性物質以外の物質と接触させた場合又は試験化合物を接触させない場合の細胞内カルシウム濃度と比較して増大している場合には、この試験化合物が呈味性物質であるといえる。
【0064】
上述のようにして同定された呈味性物質は、GPR14に結合して味覚として感知されるため、本同定方法は、食品の分野で、調味料、加工食品などにおいて利用するための新規な呈味性物質を同定するのに有用である。
【0065】
3.呈味性物質の検出方法
GPR14は呈味性物質に対し濃度依存的に応答するため、本組成物は、呈味性物質を検出するために使用することができる。本発明において「検出」とは、被検サンプル中に含まれる呈味性物質の有無を判定することを指し、また、被検サンプル中に含まれる呈味性物質量を測定する定量的な検出をも指す。
【0066】
本発明に係る、被検サンプル中の呈味性物質の検出方法(以下、「本検出方法」という)は、本組成物と被検サンプルとを接触させ、本組成物と被検サンプル中の呈味性物質との結合量又は呈味性物質による細胞刺激活性を測定することを特徴とするものである。
【0067】
被検サンプルとしては、含まれる呈味性物質を検出又は定量することが望まれるサンプル、呈味性物質の有無を判定することが望まれるサンプルなどが用いられる。例えば、被検サンプルとしては、液体状、固形状及び気体状の化合物、例えば食品などが挙げられる。
【0068】
具体的に説明すると、本検出方法は、本組成物と被検サンプルとを接触させた場合の、被検サンプル中に含まれる呈味性物質のGPR14タンパク質との結合量、又は呈味性物質による細胞刺激活性を測定し、被検サンプル中の呈味性物質を検出するものである。
【0069】
GPR14タンパク質と呈味性物質との結合量、及び呈味性物質による細胞刺激活性は、上記「2.呈味性物質の同定方法」に記載のようにして測定することができる。従って、上記(1)〜(5)に記載したいずれかの手法において、「試験化合物」を「呈味性物質」に置き換えて行う。本検出方法は、本組成物を標識して実施することが好ましい。
【0070】
本検出方法においては、特に、上記(1)〜(5)の試験を行ない、被検サンプル中に呈味性物質が存在すること、すなわち被検サンプル中の呈味性物質がGPR14タンパク質に結合することを確認(定性的確認)した後に、改めて、(1)〜(5)の試験方法によりその結合活性又は細胞刺激活性の定量的確認を行なうことが好ましい。この定量的確認を行うことによって、被検サンプル中に含まれる呈味性物質量を測定することが可能となる。定量的な検出を行う場合には、既知濃度の呈味性物質を用いて、予め検量線を作成しておくことが好ましい。
【0071】
本検出方法により、被検サンプル中の呈味性物質の存在の検出及び呈味性物質量の測定が可能になる。従って、従来では数値化が困難であった味覚の数値化・定量化に有用である。
【0072】
4.呈味性物質の同定又は検出用キット
本組成物は、呈味性物質を同定又は検出するためのキットとして提供することができる。本発明に係る呈味性物質の同定又は検出用キット(以下、「本キット」という)は、本組成物の他、本同定方法又は検出方法を行うために有用な成分を含むものである。そのような成分としては、例えば、本組成物を懸濁するためのバッファー、標識、非特異的結合を低減させるための界面活性剤又は各種タンパク質、プロテアーゼによるGPR14タンパク質又は呈味性物質の分解を抑制するためのプロテアーゼ阻害剤、細胞刺激活性を測定するための成分などが挙げられる。バッファーは、GPR14タンパク質と呈味性物質との結合を阻害しないものであればいずれでもよい。例えば、pH4〜10(望ましくはpH6〜8)のリン酸バッファー、トリス−塩酸バッファーなどが挙げられる。
【0073】
また、界面活性剤としては、例えばCHAPS、Tween−80TM、ジギトニン、デオキシコレートなどが挙げられ、各種タンパク質としては、例えばウシ血清アルブミン、ゼラチンなどが挙げられる。さらに、プロテアーゼ阻害剤としては、例えばPMSF、ロイペプチン、E−64、ペプスタチンなどが挙げられる。
本キットを利用することにより、本同定方法又は検出方法を簡便に行うことができる。
【0074】
【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明は下記実施例にその技術的範囲が限定されるものではない。
【0075】
〔実施例1〕GPR14のクローニングとCHO細胞への導入
ラットGPR14は、膀胱より得た。すなわち、埼玉実験動物供給所より得たWistar系雄性ラット(体重200g前後)6匹を断頭、脱血したのち膀胱を採取し、滅菌した生理食塩水で洗った。その後、採取した膀胱を氷冷したGIBCO BRL社のTRIzol 10ml中に加え、ポリトロン社のポリトロンホモジナイザーを最高速度で1〜2分間使用して、膀胱組織をホモジナイズした。これからTRIzolに添付されたマニュアルに従って、Total RNAを230μg得た。この230μgのTotal RNA全量に対して、タカラのOligotex−dT30を用いてPoly (A)+ RNAを精製した。その結果11μgのラット膀胱Poly (A)+ RNAを得た。このうち1μgをGIBCO BRL社の逆転写酵素Superscript IIを用いてcDNA溶液20μlを得た。ここから1μlを使用して、プライマー(配列番号3及び4)を用いてタカラのEX Taqを使用して、次のPCR条件でシングルバンドのPCR産物を得た。すなわち、PCR条件は、94℃にて3分の後、94℃1分、55℃1分及び72℃1.5分からなるサイクルを35サイクル行い、その後72℃にて7分とした。
【0076】
このようにして得られたPCR産物は、FMC BioProducts社の低融点アガロースSeaPlaque GTGアガロース(1%)を用いて電気泳動を行い、1161bpのGPR14のバンドの部分のみを剃刀で切り出した。切り出したアガロース小片は、TAEが入ったGIBCO BRL社の透析バックを用いて電気透析を行い、アガロースとPCR産物を分離した。TAEに溶けたPCR産物はエタノール沈殿法によって回収し、15μlのTEに溶かした。このうち1μlをエチジウムブロマイドを含んだアガロースゲルで泳動し、PCR産物のバンドがUV照射のもとで肉眼で観察できるかを確認した。バンドが泳動ゲル上で確認できたため、15μl中の2μlをインビトロゲン社のTA Cloning kitに使用してクローニングを行った。X−galを使用したブルー/ホワイトセレクションによってインサートが存在すると思われるクローンを、アンピシリン含有L/Bプレートより採取した。GPR14クローンは次のプライマーを用いてPCRを施行した(5’−CGC GGA TTC ATG GCT CTG AGC CTG GAG−3’(配列番号5)、下線部はBam HIサイトを表す;5’−ACG CGT CGA CTC AGA GAA GGG CCC GTT AC−3’(配列番号6)下線部はSal Iサイトを表す)。これをpEF−BOSのBam HI / Sal Iサイトに導入した。pEF−BOSは、Nagata, S. and Mizushima, S., Nucleic Acid Research 18:5322 (1990)に記載のものである。
【0077】
このGPR14−pEF−BOSベクター5μlと2μlのpEF−neo(Nagataら)を、プロメガ社のTransFast kitを用いてCHO細胞に導入した。これらの遺伝子を導入されたCHO細胞は、シグマ社のHam’s F−12培養液(JHR Biosciences社の熱不活化ウシ胎児血清を10%含む)にGIBCO BRL社の抗生物質(ペニシリン50U/ml/ストレプトマイシン50μg/ml)と400μg/mlのナカライテスク社のG418を加えて5%の炭酸ガスのもと37℃で2週間培養し、ネオマシン耐性の細胞を得た。この細胞はCHO−S株と名付け、セルバンカー(ダイアヤトロン社製)に懸濁後、−80℃で保存した。
【0078】
〔実施例2〕GPR14の呈味性物質に対する応答
実施例1で取得した細胞(以降CHO−S株と呼ぶ)を、Nutrient Mixture F−12 HAM(SIGMA社製)に10%ウシ血清、並びに50μg/mlペニシリン及びストレプトマイシンを添加した培地(以降F−12培地と呼ぶ)中で24穴培養フラスコを用いて37℃、炭酸ガス濃度5.0%で4日間培養した。培養後、×10リン酸緩衝液(以降PBSと呼ぶ)で3回洗浄した。これをCHO−S株試験細胞とした。
【0079】
このCHO−S株試験細胞に、F−12培地に以下の25種の呈味性物質を溶解した溶液及びF−12培地を0.2mlずつ添加し、37℃、炭酸ガス濃度5.0%で4時間恒温処理した。呈味性物質としては、150mMグルコース、70mMフラクトース、45mMスクロース、60mMラクトース、45mMマルトース、170mMソルビトール、75mMグリシン、35mMアラニン、0.25mMアスパルテーム、0.01mMリゾチーム、0.05mMステビオサイド、0.37mMアセスルファム K、0.01mM塩酸キニーネ、8.0mMカフェイン、45mMフェニルアラニン、22mMトリプトファン、2.9mMアルギニン、8.0mMグルタミン酸ナトリウム、0.45mMグアノシン 5’−モノフォスフェート2ナトリウム塩、1.5mMイノシン 5’−モノフォスフェート2ナトリウム塩、0.65mMクエン酸、45mM食塩、ウロテンシン−II 10−9Mを使用した。
【0080】
処理後培地を回収し、遠心分離によってCHO−S株試験細胞を除去した(PGE試験液)。PGE試験液は、Prostaglandin E2 EIA Kit(Cayman Chemical Company製)を用いてPGE2量を測定した。 CHO−S株は、ウロテンシン IIの他に、グルコース、フラクトース、スクロース、ラクトース、マルトース、ソルビトール及び食塩の添加により、培養液中のPGE2濃度が上昇した(図1)。図1において、1〜24は、1:グルコース、2:フラクトース、3:スクロース、4:ラクトース、5:マルトース、6:ソルビトール、7:アラニン、8:グリシン、9:アスパルテーム、10:リゾチーム、11:ステビオサイド、12:アセスルファム K、13:塩酸キニーネ、14:カフェイン、15:フェニルアラニン、16:トリプトファン、17:アルギニン、18:グルタミン酸ナトリウム、19:グアノシン 5’−モノフォスフェート2ナトリウム塩、20:イノシン 5’−モノフォスフェート2ナトリウム塩、21:クエン酸、22:食塩、23:ウロテンシン−II 10−9M、24:mili−Q、を表す。以上の実験から、GPR14はこれらの呈味性物質に応答することが明らかである。これに対し、その他の呈味性物質を添加した場合には、培養液中のPGE量は上昇せず、応答は起こらなかった。
また同時に実施例1と同様の方法で得られたフラクタルカイン受容体を発現するCX3RCR発現株を用いて、同じ測定を行った。
【0081】
ラットフラクタルカイン受容体(CX3CR;アクセッション番号NM#133534)を発現するCHO細胞は以下のように調製した。ラット脳cDNAライブラリーをEcoRI Linkerを用いてStratagene社のλZAP IIのEcoRIサイトに組み込み、Stratagene社のGigapack III Goldでin vitroパッケージングを行った。ラットフラクタルカイン受容体の5’側の34個の塩基配列をもとにしてプローブを作製し、プラークハイブリダイゼーションを施行した。得られたポジティブプラークに対して、ヘルパーファージを用いたin vivo Excisionによって、フラクタルカイン受容体を含んだベクターpBluescript−CX3CR1を得た。このpBluescript−CX3CR1に対して、2つの制限酵素Sal I及びSpe I処理を行い、CX3CR1フラグメントを得た。このフラグメントは同様の制限酵素で処理したpEF−BOSベクターに組み込んだ。
【0082】
シーケンスによって確認されたフラクタルカイン受容体を含むpEF−BOSベクター3μg、ヒトGα16(ヒトGα16:塩基配列を配列番号7に示す)を組み込んだpEF−BOSを3μg、及び1μgのpEF−BOSにネオマイシン耐性遺伝子を組み込んだpEF−neo(Nagataらより得た)を、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞(ATCCより入手)にプロメガ社のTransFast kitを用いて導入した。これらの遺伝子を導入したCHO細胞は、シグマ社のHam’s F−12培養液(JHR Biosciences社の熱不活化ウシ胎児血清を10%含む)にGIBCO BRL社の抗生物質(ペニシリン50U/ml/ストレプトマイシン50μg/ml)と400μg/mlのナカライテスク社のG418を加えて5%の炭酸ガスのもと37℃で2週間培養し、ネオマシン耐性の細胞を得た。
【0083】
G418存在下で増殖した細胞をクローニングシリンダーを用いて細胞を単離した。単離した細胞よりGIBCO BRL 社のTRIzolを用いてTotal RNA を抽出し、RT−PCRを施行した。その結果、図2に示すようにCX3CRとGα16とを共発現(CX3CR+G16)させた場合には、CX3CRとGα16についてPCRの明瞭なバンドが確認された(図2の右端のレーン)。
【0084】
さらにCX3CR、フラクタルカイン受容体及びGα16を共発現させた細胞に対して同仁社のFura−2をロードし、アゴニストであるフラクタルカインを作用させた時の細胞内カルシウム濃度変化について検討した。結果を図3に示す。細胞内で上昇したcAMP濃度を低下する働きのあるGタンパク質Giに共役するフラクタルカイン受容体CX3CRは、細胞内で一緒に発現したGα16と共役して、図3の1番上のCX3CR−G16及び上から2番目のCX3CR+G16のように、矢印で示した10−7Mのフラクタルカインを作用させた場合に細胞内カルシウム濃度の上昇が認められた。従って、フラクタルカイン受容体は、CHO細胞内でGタンパク質と共役して機能することが明らかになった。
【0085】
しかしながらこの受容体はGPR14のアゴニストであるウロテンシンIIには刺激されないため、今回の実験においてはネガティブコントロールとして使用した。
CHO−S株と同様に、呈味性物質を添加した場合のPGE量を測定した(図1)。CX3RCR発現株においては、全ての呈味性物質の場合にPGE2量の上昇が起こらず、これらの物質に対し応答していないことが明らかであった(図1)。
【0086】
〔実施例3〕GPR14の呈味性物質に対する濃度依存的応答
実施例1で調製したCHO−S株を、F−12培地で24穴培養フラスコを用いて37℃、炭酸ガス濃度5.0%で4日間培養した。培養後、×10 PBSで3回洗浄した。これをCHO−S株試験細胞とした。CHO−S株試験細胞に、F−12培地に以下に記載する種々の濃度の呈味性物質を溶解した溶液及びF−12培地を0.2mlずつ添加し、37℃、炭酸ガス濃度5.0%で4時間恒温処理した。試験に使用した呈味性物質は、300、150、75、37.5、18.8mMグルコース;140、70、35、17.5mMフラクトース;90、45、22.5、11.3mMスクロース;並びに90、45、22.5、11.3mM食塩である。処理後培地を回収し、遠心分離によってCHO−S株試験細胞を除去した(PGE試験液)。PGE試験液を、Prostaglandin E2 EIA Kit(Cayman Chemical Company製)を用いて、PGE2量を測定した。
【0087】
グルコース、フラクトース、スクロース及び食塩を添加したCHO−S株においては、PGE2濃度が呈味性物質の濃度に依存して増加した(図4)。すなわち、GPR14はこれらの呈味性物質に濃度依存的に応答することは明らかであった。
【0088】
〔実施例4〕GPR14の舌組織における発現確認
GPR14の舌組織での発現をin situハイブリダイゼーションにより検討した。
プローブは、ラットGPR14の塩基配列88−147bpの一部の配列を相補的にした配列(rGPR14/AS:5’− CCA CAA GGT CTT TCA GGG AGC TGG GAT CTG TTG GGC CGG ACC AGG AAC TGT TGA GGG ACA C −3’;配列番号8)を使用した。一方、ネガティブコントロールとして、88−147bpの一部の塩基配列(rGPR14/S:5’− GTG TCC CTC AAC AGT TCC TGG TCC GGC CCA ACA GAT CCC AGC TCC CTG AAA GAC CTT GTG G −3’;配列番号9)をプローブとして使用した。なお、この配列は、ヒト、マウス及びラットに共通な塩基配列である。この2つのプローブの3’側にビオチンをラベルし、HPLCによって精製した。
【0089】
マウス舌組織は採取後すぐに冷PBSで洗った後、OTCコンパウンドに包埋し、−20℃で保存した。この組織はクライオスタットで5μmに薄切し、Proteinase K及び過酸化水素水を作用させた後、DAKO社超高感度核酸プローブ検出キットを用いて、GPR14を薄い褐色から濃い褐色として組織中で検出した。組織の対比染色にはメチルグリーンを用いた。
【0090】
図5Aに示すように、マウスの舌組織ではGPR14が薄い褐色として、舌の表層部分に染まることが観察された(図中、矢印)。ネガティブコントロールを示す図5Bでは、褐色に染まる部分はない。従って、褐色に染まる染色部位は非特異的な反応ではなく、特異的な反応であることがわかる。この試験より、GPR14は舌組織において発現していることがわかった。
【0091】
【発明の効果】
本発明によれば、呈味性物質反応性組成物が提供される。本組成物は、呈味性物質の同定及び検出に有用である。従って、本組成物を利用することにより、新規な呈味性物質を同定することが可能となる。
【0092】
【配列表】
【0093】
【配列表フリーテキスト】
配列番号3〜9:合成DNA
【図面の簡単な説明】
【図1】GPR14の呈味性物質に対する応答を示す図である。
【図2】CHO細胞におけるCX3CRとG16αの発現を示す図である。
【図3】CX3CR3アゴニストであるフルクタルカインを作用させた場合の、CX3CR発現CHO細胞、CX3CR及びG16α発現CHO細胞、並びにCX2CR−G16α発現CHO細胞におけるカルシウム濃度の変化を示すグラフである。
【図4】GPR14の呈味性物質に対する濃度依存的な応答を示す図である。
【図5】マウスの舌組織において発現するGPR14を示す図である。AはプローブとしてrGPR14/ASを使用した場合を示し、BはプローブとしてrGPR14/Sを使用したネガティブコントロールを示す。
Claims (8)
- Gタンパク質共役型受容体14タンパク質、該タンパク質を発現する細胞、及び該細胞の膜画分からなる群より選択されるものを含むことを特徴とする呈味性物質反応性組成物。
- Gタンパク質共役型受容体14タンパク質を発現する細胞を含むことを特徴とする呈味性物質反応性組成物。
- 細胞がチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)である、請求項1又は2記載の組成物。
- 呈味性物質が甘味成分である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
- 呈味性物質が、グルコース、フラクトース、スクロース、ラクトース、マルトース、ソルビトール及び食塩からなる群より選択されるものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
- 請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物と試験化合物とを接触させたときの結合量又は細胞刺激活性を測定することを特徴とする、呈味性物質の同定方法。
- 請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物と被検サンプルとを接触させ、該組成物と被検サンプル中の呈味性物質との結合量又は細胞刺激活性を測定することを特徴とする、被検サンプル中の呈味性物質の検出方法。
- 請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成物を含むことを特徴とする呈味性物質の同定又は検出用キット。
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JP2009514791A (ja) * | 2005-11-09 | 2009-04-09 | 味の素株式会社 | コク味付与剤 |
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- 2002-08-12 JP JP2002234865A patent/JP2004075568A/ja active Pending
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