JP2004060807A - 転がり軸受 - Google Patents

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Kikuo Maeda
前田 喜久男
Tsutomu Oki
大木 力
Yukio Fujii
藤井 幸生
Kenichi Ichikawa
市川 健一
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Abstract

【課題】外輪外周が相手カムやガイド面と転がり接触しながら回転する軸受において、外輪に衝撃荷重や大きな荷重が作用する場合に、圧痕の形成や割れの発生荷重を高め、高強度、長寿命の製品を提供する。
【解決手段】外輪4と、転動体3と、内輪2とを備え、外輪に囲まれた内側に配置された転走面に加えて外輪の外周面を転走面とし、少なくとも外輪内側の転走面の表層部に圧縮応力が形成されている。
【選択図】    図2

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、転がり軸受に関し、より具体的には、衝撃荷重の作用下や引張応力の作用下で高面圧の繰返し負荷を受けるような用途、たとえばロッカーアームやカムフォロア、ローラフォロアに用いられる転がり軸受に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
最近の転がり軸受の中には、たとえばロッカーアームやカムフォロア、ローラフォロアなどの軸受のように、その外輪に、引張応力の作用下で衝撃荷重または高面圧の負荷を瞬間的に、または繰り返し受けるような用途で使用される場合が少なくない。このような場合、使用条件が厳しいと、転走面にブリネル圧痕が形成され、軸受としての滑らかな回転や静粛性が劣化し、極端な場合には圧痕を起点として外輪の割れが生じることがある。
【0003】
このような場合、従来は軌道輪の硬度を高めるため、焼戻温度を下げて高硬度にしたり、接触応力を下げるため、内部仕様を変更するのが一般的な対応であった。しかしながら、焼戻温度を下げることは割れに対する感受性を高めることにもなるので、かえって割れやすくなる。また、内部仕様の変更などでは、限界がある。
【0004】
これまでの公知技術では、次の対応をとってきた。
(1) 転動疲労寿命向上のため、軸受部品の軌道輪にショットピーニングを適用し、強化層、残留オーステナイト含有層、焼入れ硬化層を表面から内部に順に設けた軸受部品(特開平2−168022号公報)
(2) マルテンサイト組織中の炭化物の大きさ、面積率、残留オーステナイト量および硬さを、ショットピーニングすることにより効率的に調整する技術(特開2001−65576)
(3) 転動疲労寿命向上のため、ショットピーニングによる残留圧縮応力ピーク高さおよび分布を、使用時に作用する最大剪断応力および作用深さに一致させる技術(特開平3−199716号公報)
(4) 浸炭軸受において、長寿命化のためにショットピーニングを施し、最終表面仕上げ加工を施した後の表面において、残留圧縮応力σ(MPa)と残留オーステナイトγ(%)の組合せを、0.001σ+0.3γ≧1.0を満足するようにする制御方法
(5) カムフォロア外輪の外径の硬度を相手カムと同等の硬度とし、かつ外輪の内径の硬度を外径の硬度よりも高くしたカムフォロア装置(実開平3−119508号公報)
(6) 対向する他の部品と転がり接触または転がりすべり接触する部品において、表面から0〜50μmの深さの表層部の最大圧縮応力を50〜110kgf/mmとし、硬度をHV830〜960とし、残留オーステナイトを7%以上とし、表面粗さの平均波長を25μm以下とし、これらをショットピーニングにより達成したもの(特許公報第3125434号)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
今後、転がり軸受、特にロッカーアームやローラフォロア、カムフォロアなどの外輪に回転と大衝撃荷重が作用しながら使用される環境はますます過酷になり、従来の仕様(軸受鋼の標準熱処理仕様)では製品機能を満足できなくなる。圧痕により異音が発生したり、スムーズに回転できなくなることはもちろん、極端な場合には割れという軸受にとって致命的な不具合に至る可能性もある。
【0006】
これらの部品には、衝撃的な負荷と疲労負荷との両者が作用する。このため、静的または衝撃的な負荷に対する強度(耐圧痕強度および耐割れ強度)と、繰返しの曲げ負荷に対する曲げ疲労強度と、転動疲労寿命との三者を満足する必要がある。しかし、特に静的強度と疲労強度とをともに高いレベルで満足する技術は困難であった。さらに、圧痕形成を抑える方策としては、サブゼロ処理や炭化物の析出を多くして高硬度にすることが考えられる。しかし、これらの方策は、逆に割れに対する靭性を低下させたり、転動疲労寿命を損ねることになり、静的強度、動的(疲労)強度、耐圧痕性、転動疲労寿命をすべて高いレベルで満足する技術はなかった。
【0007】
また、上記公知の技術は、いずれもショットピーニングでの高硬度、高圧縮応力により転動疲労寿命を向上させるもの、または相手部材との転動面を改良するものであった。このため、ロッカーアームなどの曲げが作用する外輪の圧痕の形成や割れに着目したものではなかった。すなわち、外輪において、圧痕が形成されず、かつ軸受転走面側を起点とする繰返し割れ疲労寿命を向上させるための最適仕様を考えたものではなかった。
【0008】
本発明は、外輪の外周面が相手カムやガイド面と転がり接触しながら回転する転がり軸受において、外輪に衝撃荷重や大きな荷重が作用する場合に、圧痕の形成や割れの発生を抑制し、高強度、長寿命の製品を得ることを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明の転がり軸受は、外輪と、転動体と、内輪とを備え、その外輪に囲まれた内側に配置された転走面に加えて外輪の外周面を転走面としている。そして、外輪内側の転走面の表層部に圧縮応力を形成している。上記の外輪内側の転走面には、使用中少なくとも引張応力が作用し、上記の圧縮応力は、その引張応力の作用下で外輪内側の転層面の接触相手からの静的または衝撃的な荷重によって外輪内側の転走面に1μm以上の深さの圧痕が生じないように形成されることができる。
【0010】
転がり軸受に大きな力が作用して圧痕が形成されるとき、通常は内輪−ころ間の面圧のほうが、外輪−ころ間の面圧より高い。このため、内輪に圧痕が形成されやすいが、カムフォロアなどのように外輪に曲げ応力(引張応力)が作用しながら高い面圧が作用する場合には、外輪−ころ(転動体)間に圧痕が形成されやすい。しかし、引張応力を打ち消すだけの圧縮応力を外輪内側の転走面に予め生成させておくと、このような圧痕が形成されにくくなる。上記の「使用中少なくとも引張応力が作用する」とは、曲げ応力に起因して引張応力が結果的に作用してもよいし、また単に引張応力が作用してもよいことを意味する。
【0011】
上記の外輪内側の転走面の表層部における圧縮応力が700MPa以上であり、かつ表層部における圧縮応力の生成深さが、外輪内側の転走面の接触相手のころ径の7.5%以上、または使用時のミゼスの相当応力最大値の深さの4倍以上であるのがよい。
【0012】
使用時に形成される圧痕の深さは1μm前後であるが、内部の塑性変形を抑えないと圧痕発生防止には効果が小さい。このため、接触応力の関数として圧縮応力の必要深さを定める必要がある。具体的には、計算される引張応力値を相殺するだけの圧縮応力を転走面表層に形成する。すなわち、圧縮応力が700MPa未満では、圧痕の生成を抑制する程度にまで曲げに起因する引張応力を相殺できない。また、圧縮応力の生成深さが接触相手のころ径の7.5%より浅い場合には、圧痕の生成防止を十分果たすことができない。また、圧縮応力の生成深さが使用時のミゼスの相当応力最大値の深さの4倍未満の場合にも、同様に、圧痕の生成防止が十分ではなくなる。ここで、圧縮応力の生成深さとは、深さの増大に伴ない圧縮応力が低下してゆき、圧縮応力レベルがほぼゼロMPaになる深さをさす。
【0013】
また、外輪内側の転走面の表層部における圧縮応力が、内輪の転走面における圧縮応力よりも大きくしてもよい。
【0014】
上記の構成により、たとえばカムフォロアなどのように外輪に曲げ応力に起因する引張応力の作用下で高面圧負荷が加えられる場合、外輪−ころ(転動体)間で生じやすい圧痕を防止することができる。また、割れを防止することもできる。
【0015】
また、上記外輪内側の転走面における表層硬度を接触相手の表層硬度より高くするのがよい。
【0016】
上記のように、外輪内側の転層面に、圧縮応力に加えて、接触相手の表層硬度より高い硬度を与えることにより、圧痕の形成や割れを防止することができる。
【0017】
本発明の別の転がり軸受は、外輪と、転動体と、内輪とを備え、外輪に囲まれた内側に配置された転走面に加えて外輪の外周面を転走面とする転がり軸受である。この転がり軸受は、少なくとも外輪は、熱処理と加工処理とを組み合わせて調整されており、その外輪内側の転走面の表層部において、圧縮応力が700MPa以上であり、その表層硬度がHV730以上であり、かつその残留オーステナイトが0〜25%の範囲内にある。
【0018】
上記のように、外輪内側の転走面の表層部において圧縮応力が700MPa、かつ表層硬度がHV730以上あるとき、通常の接触相手の部材と高面圧の接触をして、衝撃荷重を受けても圧痕を受けにくくなる。さらに残留オーステナイトを0〜25%の範囲で含むことにより、衝撃や、繰返し引張応力と高い接触応力とが同時に作用する厳しい条件でも、圧痕深さなどが深くなりにくく、割れを防止し、長寿命を得ることができる。
【0019】
なお、上記の熱処理は、たとえば、浸炭処理、浸炭窒化処理、浸炭窒化+サブゼロ処理、浸炭窒化+二次焼入れ+サブゼロ処理などを挙げることができる。また、上記の加工処理として、ショットピーニング、バレル加工、ローリング加工などを挙げることができる。これら熱処理と加工処理とを適宜組み合わせることができる。
【0020】
上記の熱処理として、浸炭処理および浸炭窒化処理のいずれかを行ない、前記残留オーステナイトを10〜25%の範囲内にするのがよい。
【0021】
上記の残留オーステナイト量により、特に高い耐衝撃性や、繰返し引張応力と高い接触応力とが同時に作用する厳しい条件でも、圧痕深さなどが深くなりにくく、割れを防止することが可能になる。
【0022】
また、外輪の少なくとも外輪内側の転走面の表層部のオーステナイト粒度番号を、8番以上とするのがよい。
【0023】
上記圧縮応力、表層硬度、に加えて、ミクロ組織を微細化することにより、さらに耐割れ性を向上させることができる。
【0024】
上記の転がり軸受は、ロッカーアームに用いられ、とくに外輪内側の転走面における優れた特性を生かすことができる。
【0025】
【発明の実施の形態】
次に図面を用いて、本発明の実施の形態について説明する。
【0026】
図1は本発明の一実施形態におけるローラ付きカムフォロアを示す概略正面図であり、図2は図1のII−II線に沿う断面に対応する図である。図1および図2を参照して、カムフォロア本体1は、中央部において軸受メタルなどを介してカムフォロア軸5に回転自在に支持されている。
【0027】
このカムフォロア本体1の一方端部には、アジャストねじ7が螺挿されている。このアジャストねじ7はロックナット8により固定され、その下端において内燃機関の給気弁もしくは排気弁の突起棹9の上端と当接している。この突起棹9はばね10の段発力で付勢されている。
【0028】
カムフォロア本体1は、その他方端部に二股状に形成されたローラ支持部14を一体に有している。この二股状のローラ支持部14に、ローラ軸2の両端が圧入もしくは止め輪により固定されている。このローラ軸2の外周面中央部には、針状ころ3を介して回転自在にローラ4が支持されている。このローラ4の外周面は、ばね10の付勢力によりカム6のカム面に圧接されている。ローラ軸2はローラ支持部14に軸孔15に嵌め入れられている。なお、ローラ軸2は中空形状でなくてもよく、たとえば密実な構成を有し、かつその両端部がローラ支持部14にかしめ固定されていてもよい。このかしめ固定は、ローラ支持部14に設けられた軸孔15にローラ軸2を嵌入した後に、ローラ軸2の端面16にかしめ溝を形成するように打刻することで行なわれる。
【0029】
このような構成により、カム6が回転することにより、ローラ4を介してカムフォロア本体1がカムフォロア軸5を中心として回転し、突起棹9の先端に取付けられた給気弁もしくは排気弁を開閉動作する。すなわち、エンジンのカムと接触しながら回転し、バルブを上下させる機構に用いられる。このため、軸受外輪にはカムの押しつけと衝撃とが作用し、圧痕の形成と繰返し曲げ応力による割れが生じることがある。特に、エンジンの高出力化により、回転速度が大きくなるとこれらの力が増大し、割れや圧痕の危険性はますます大きくなっていく。
【0030】
このような傾向に対処するため、本実施の形態におけるロッカーアーム軸受において転がり軸受の外輪を構成するローラ4は、例えばその外輪内側の転走面に700MPa以上の圧縮応力を生成させ、その表層部硬度は、接触相手のカム6の表層硬度より高くする。とくにローラ内側の転走面の表層硬度HV730以上とすることが望ましい。また、その外輪内側の転走面の残留圧縮応力を、内輪の転走面における残留圧縮応力より大きくしてもよい。
【0031】
また、本実施の形態では、ロッカーアーム軸受を例示したが、ロッカーアーム軸受に限定されず、ローラフォロア、カムフォロアなどのように外輪外径も相手カムやガイド面と転がり接触しながら回転する軸受に適用してもよい。これら転がり軸受において、外輪に衝撃荷重や大きな荷重が作用する場合に、圧痕の形成や割れの発生荷重を高め、高強度、長寿命の製品を得ることができる。
【0032】
(有限要素法(FEM:Finite Element Method)による解析)
曲げに起因する引張応力が作用する条件下では、圧痕が形成されやすいことを有限要素解析により確認した。さらに、上記の引張応力を相殺する圧縮応力を表面下一定深さまで与えることにより、圧痕を形成するのに要する荷重や、割れを発生するのに要する荷重を導出した。
【0033】
図3は、引張応力下の平板と、直径2mmころ(剛体と仮定)との接触において、一定の面圧で両者を押し付けた場合の平板に形成される圧痕深さに及ぼす引張応力の影響をFEM解析した結果を示す図である。同じ面圧でも引張応力が大きくなると圧痕深さは深くなる傾向にある。ロッカーアームやカムフォロアなどに作用する衝撃荷重は、最大時の面圧で4〜5GPa程度であり、この場合に形成される圧痕深さは1〜2μm程度と言われている。図3より、最大の5GPaが作用したときに、深さ1〜2μmの圧痕形成を防ぐには、予め外輪表面層に、700〜1200MPa以上の圧縮応力があればよいことが分る。700〜1200MPa以上の圧縮応力を予め形成しておくと、内輪より圧痕がつきやすい現象や圧痕起点での割れ発生は、起こりにくくなると言える。
【0034】
(実施例)
表1に示す種々の材質の軸受外輪を用意した。すなわち、図1のローラ4に対応するニードル軸受の外輪のサイズは、内径18.64mm、外径24mm、幅6.9mmとした。相手のころは、直径2mm、長さ6.8mmのサイズのものを26本用いた。内輪(軸)は、外径14.64mm、幅17.3mmのサイズとした。この構成の軸受の基本動定格荷重は8.6kN、基本静定格荷重は12.9kNである。相手ころと内輪には、表面硬度HRC61〜62の標準的なものを用いた。
【0035】
【表1】
Figure 2004060807
【0036】
大きな圧縮応力と高硬度とを与えるには種々の方法があり、既に高速度工具鋼のような二次硬化現象(高温焼戻しでも硬度が低下しない)を示す鋼に低温窒化処理(特願平10−277467号公報)やラジカル窒化を施す手法、3%以上のクロム含有鋼に窒化層を形成する処理(特開2001−323932)などが公開されている。しかし、素材が高価であり、また処理にも費用がかかるなどの難点がある。さらに処理条件によっては靭性を損ね、圧痕強度は向上するものの割れ強度が低下する危険がある。また、上記のショットピーニングも効果がある方法であるが、ショットピーニング前の材質がその性能に大きく影響するので、材質との関連性が重要になる。そこで、実施例(本発明例)では、以下のような方法を用いて製作した。
【0037】
(1) 標準的な熱処理後、ショットピーニング、バレル加工またはバニッシング加工(試料No.1〜3)
(2) 浸炭窒化処理後、同上の加工(試料No.4および5)
(3) 浸炭窒化処理後、サブゼロし、同上の加工(試料No.6)
(4) 浸炭窒化+高温焼戻し後、同上の加工(試料No.7および8)
(5) 浸炭窒化処理後、低温で二次焼入れし、同上の処理(試料No.9)(6) 浸炭鋼(SCM420)に浸炭、浸炭窒化後、同上の加工(試料No.10および11)
(7) 1%シリコン(Si)軸受鋼に同上の加工(試料No.12および13)
比較例には以下のものを製作した。
【0038】
(1) 標準的な熱処理(試料No.21および22)
(2) 標準熱処理後、サブゼロ(試料No.22)
(3) 標準熱処理後、高温焼戻し(試料No.23)
(4) 実施例と同様の処理であるが、硬度や残留応力値を変えたもの(試料No.31〜34)
次に、上記の試料に対して行なった試験方法およびその結果について説明する。
【0039】
(圧痕形成試験)
上記の軸受の内輪(軸)両端を2個のVブロックで支えた状態で、外輪外径よりアムスラー試験機による静荷重をかけ、転動体が荷重点真下にある場合(転動体トップ、最も圧痕がつきやすい)の外輪に形成される圧痕深さを測定した。荷重は、上記の衝撃荷重作用を想定した面圧(5GPa)に相当する11.9kNを負荷した。結果を表2に示す。
【0040】
【表2】
Figure 2004060807
【0041】
実施例(本発明例)のものは、総じて圧痕深さが浅い。比較例のものの中にも、たとえばサブゼロ処理で高硬度にしたもの(試料No.22)は圧痕がつきにくい。また加工により適度な圧縮応力を付加したものは、硬度があまり高くなくても圧痕深さが浅い傾向が見られる。たとえば、表面層の最大圧縮応力値700MPa、残留圧縮応力生成深さで0.15mm(相手ころ径2mmの7.5%以上または荷重11.9kNのときのころ−外輪間のミゼスの相当応力最大値の深さ0.03mmの4倍以上)あると圧痕はつきにくくなっている。
【0042】
参考のため、衝撃重荷重によって発生する引張り応力が1.2GPaと仮定した場合における残留圧縮応力生成深さと圧痕深さの関係(残留圧縮応力:700MPa、面圧:5GPaと仮定)を図4に示した。実験結果と同様に、残留圧縮応力が深く存在するほど圧痕深さは小さくなり、残留圧縮応力がミゼスの相当応力最大値の深さの4倍以上存在すれば、圧痕深さは1μm以下になっている。
【0043】
(静的割れ強度試験)
上記の外輪単体にアムスラー試験機で荷重をかけ、静的割れ強度を測定した。
結果を上記表2中に併せて示す。割れ起点はリング内径部(転走面)表面である。表2によれば、静的割れ強度は表面に大きな圧縮応力を形成すると改善されることがわかる。先の圧痕形成試験では好結果であったサブゼロ処理で単純に硬度を上げたもの(試料No.22)は、処理なしのものよりかえって低強度となった。
【0044】
(割れ疲労試験)
割れ疲労寿命を調べるために、上記のリングを表3の条件で転動し、割れ疲労寿命試験を行なった。
【0045】
【表3】
Figure 2004060807
【0046】
試験結果を表2中に示す。比較例の標準熱処理品の割れ疲労寿命に対する比で評価した。実施例(本発明例)のものは、いずれも割れ疲労寿命が大幅に改善されている。
【0047】
割れ疲労強度に関しては、浸炭鋼をベースにしたもの(試料No.10,11)、浸炭窒化と圧縮応力を組合わせたもの(試料No.4,5)が好結果を示すた。さらに、比較的低い温度で2回焼入れしミクロ組織や結晶粒度を細かくしたもの(試料No.9)が良い結果を示した。
【0048】
(転動疲労試験)
外輪のサイズは、内径18.64mm、外径24mm、幅6.9mmとした。
接触相手のころは、直径2mm、長さ6.8mmを26本用いた。内輪(軸)のサイズは、外径14.64mm、幅17.3mmを用いた。これらを組合わせ、荷重2.58kNで転動試験を行なった。試験装置は、外輪を回転させる図5に示す装置を用い、試験条件は表4の条件を採用した。図5において、試験機として、軸52と外輪54との間に複数個の針状ころ53を転動可能に配置した構成のものを用い、この外輪54を回転部材55によりラジアル荷重Pをかけながら所定の速度で回転させることにより寿命試験を行なった。この場合、基本動定格荷重8.6kNの30%の荷重で試験した。相手ころと内輪には表面硬度HRC61〜62の標準的なものを用いた。
【0049】
【表4】
Figure 2004060807
【0050】
結果を表2中に示す。実施例(本発明例)ではいずれも、ころ、または内輪が剥離し、対象となる外輪の剥離はなかった。一方、比較例の標準軸受では、外輪が剥離したものが認められた。
【0051】
上記実施例によれば、外輪内側を転がり面とする外輪回転型転がり軸受において、少なくとも外輪内側の転走面を高硬度とし、適度の残留圧縮応力を生成させることにより、その外輪内側の転走面における圧痕形成を防止し、割れ寿命を向上させることができる。さらに、その外輪内側の転走面を微細な結晶粒と適度の残留オーステナイトを含むミクロ組織にすることにより、繰返し引張応力下での高い接触応力または衝撃荷重などの厳しい条件でも、圧痕が生成しにくく割れ難い、長寿命の転がり軸受を提供することができる。
【0052】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。たとえば、最も広くは、単列のクラウニング付きのころと、表層に所定の高密度炭化物分布を有する軌道輪とを備えるスラストニードル軸受ならば、本発明の対象となる。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0053】
【発明の効果】
本発明の転がり軸受を用いることにより、外輪外周が相手カムやガイド面と転がり接触しながら回転する軸受において、外輪に衝撃荷重や大きな荷重が作用する場合に、圧痕の形成や割れの発生荷重を高め、高強度、長寿命の製品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態におけるローラ付きカムフォロアを示す概略正面図である。
【図2】図1のII−II線に沿う断面に対応する図である。
【図3】引張応力下において接触面圧によって形成される圧痕深さに及ぼす引張応力の影響を示すFEM解析結果を示す図である。
【図4】残留圧縮応力生成深さと、圧痕深さとの関係を示す図である。
【図5】転がり疲労試験機を示す図である。
【符号の説明】
1 カムフォロア本体、2 ローラ軸、3 針状ころ、4 ローラ、5 カムフォロア軸、6 カム、7 アジャストねじ、8 ロックナット、9 突起棹、10 ばね、14 ローラ支持部、15 軸孔、52 軸、53 針状ころ、54 外軸、55 回転部材。

Claims (9)

  1. 外輪と、転動体と、内輪とを備え、
    前記外輪に囲まれた内側に配置された転走面に加えて前記外輪の外周面を転走面とする軸受において、
    少なくとも前記外輪内側の転走面の表層部に圧縮応力を形成した、転がり軸受。
  2. 前記外輪内側の転走面には少なくとも引張応力が作用し、前記圧縮応力は、前記引張応力の作用下で前記外輪内側の転走面の接触相手からの静的または衝撃的な荷重によって、前記外輪内側の転走面に1μm以上の深さの圧痕が生じないように形成されている、請求項1に記載の転がり軸受。
  3. 前記外輪内側の転走面の表層部における圧縮応力が700MPa以上であり、かつ前記表層部における圧縮応力の生成深さが、前記外輪内側の転走面の接触相手のころ径の7.5%以上、または使用時のミゼスの相当応力最大値の深さの4倍以上である、請求項1または2に記載の転がり軸受。
  4. 前記外輪内側の転走面の表層部における圧縮応力が、前記内輪の転走面における圧縮応力よりも大きい、請求項1〜3のいずれかに記載の転がり軸受。
  5. 前記外輪内側の転走面における表層硬度を接触相手の表層硬度より高くした、請求項1〜4のいずれかに記載の転がり軸受。
  6. 外輪と、転動体と、内輪とを備え、前記外輪に囲まれた内側に配置された転走面に加えて前記外輪の外周面を転走面とする転がり軸受であって、
    少なくとも前記外輪は、熱処理と加工処理とを組み合わせて調整されており、その外輪内側の転走面の表層部において、圧縮応力が700MPa以上であり、その表層硬度がHV730以上であり、かつその残留オーステナイトが0〜25%の範囲内にある、転がり軸受。
  7. 前記熱処理が、浸炭処理および浸炭窒化処理のいずれかであり、前記残留オーステナイトが10〜25%の範囲内にある、請求項6に記載の転がり軸受。
  8. 少なくとも前記外輪内側の転走面の表層部のオーステナイト粒度番号が、8番以上である、請求項6または7に記載の転がり軸受。
  9. ロッカーアームとして用いられた、請求項1〜8のいずれかに記載の転がり軸受。
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