「女性には生理というハンデがある」は完全に嘘
「女性には生理というハンデがある」
という、広く唱えられている主張がある。
これは「主張」というよりも「定説」と表現すべきかもしれない。
内閣府の男女共同参画センターも「月経周期に関連するパフォーマンス低下のインパクトは大きくな」っているとWEB上で主張しているし、労働基準法第68条には「使用者は、生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求したときは、その者を生理日に就業させてはならない」とする一文がある。
このように「月経による女性のパフォーマンス低下」という概念は、既に公に認められ、法にまで定められているのだ。少なくとも日本においては。
ちなみに、生理休暇の概念を法で定めている国は世界でも稀で、日本・韓国・インドネシアにしか存在しない。それ以外の国の場合、「病休」の仕組みの中に包括されていることがほとんどだ。
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さてこのように、本邦には「女性は月経によってパフォーマンスが低下する」とするコンセンサスがあるようだ。
しかし個人的に、この定説は疑わしいと考えている。月経によるパフォーマンスの低下は、実態よりも大幅に誇張されている可能性がある。
もちろん、筆者は無根拠にそのようなことを言っているわけではない。本稿では「月経によるパフォーマンス低下」という定説について、いくつかのデータを用いて反証を試みる。
月経によるパフォーマンス低下の実態
月経によるパフォーマンス低下の一般的な程度について知るには、どのような方法を摂れば良いだろうか。最も確実なのは、生理が始まる前と後でどれくらいパフォーマンスが下がったかを比較することだ。
月経は平均すると12歳程度で始まり、10歳から15歳の間にそのほとんどが初潮を済ますとされている。図表にすると以下のようになる。
(引用:思春期の発現・大山建司)
10歳から15歳にかけて女性は初経が開始する。つまり、もし月経によるパフォーマンス低下が世間で認められている程度にあるのであれば、10歳から15歳にかけて男女のパフォーマンス差は次第に拡大していくはずだ。
この検証を行うにあたって、うってつけのデータがあった。国立教育政策研究所が実施している「教育課程実施状況調査」である。
この調査は小学5年生から中学3年生までの5年間にかけて、主要教科のペーパーテストの成績を男女別に測定している。ご存じの通り、小学5年生は10-11歳、中学3年生は14-15歳であり、女性の初潮年齢の分布と本調査の対象年齢は完全に一致している。
果たして結果をグラフにするとどのような形になるのだろう。平成15年度の 小・中学校教育課程実施状況調査から筆者が作成したグラフが以下である。
ご覧のように、小5から中3にかけて、両者の得点率はほぼ水平に推移している。つまり、月経によるパフォーマンス低下は生じていないのだ。
もし月経が女性のパフォーマンスを大幅に低下させるのであれば、このような結果にならないことは自明だろう。
ほとんどの女子が初潮に至っていない小学5年生の段階と、ほとんどの女子が初潮を済ませている中学3年生の段階では、生理が女子の生活に影響する度合いは大きく違う。
すなわち、もし生理によるパフォーマンス低下が起こっているなら、学年が上がるごとにしだいに男女の成績差が開いていくはずである。
しかし、そうはなっていないのだ。
この結果から、何が読み取れるだろうか。
考えられる可能性はふたつある。
1.月経によるパフォーマンス低下は実態よりも誇張されている
2.精通によるパフォーマンス低下が月経のそれと同程度にある
以下の部分では、このふたつの可能性について検討していく。
精通の影響はどの程度あるのか
「女性は月経によってパフォーマンスの低下が生じる」という「定説」を検証するため、初潮開始年齢である10-15歳の男女の学力スコアを比較したところ、有意な差はほとんど見られなかった。
ここから導き出される可能性はふたつある。
「月経のパフォーマンス低下は誇張されている」という可能性と、「男子も精通によって同程度のパフォーマンス低下を起こしている」という可能性だ。
いわゆる思春期と呼ばれる時期は、男女共に多くの身体の変化と戸惑いが生じるとされている。もし男子が精通によってパフォーマンス低下を生じさせているのであれば、男女の学力スコア差にほとんど傾斜が見られなかったことへの説明がつく。
しかし精通パフォーマンス低下説は、ある理由により棄却される。
それは男子の精通年齢は女子の初潮年齢より1.5歳ほど遅れて生じる傾向があるからだ。
精通年齢と初潮年齢を同時に調査した資料は少ないが、教育心理学者の日野林俊彦が1983年に発表した論文からデータを引用しよう。それによれば、男子の精通と女子の初潮の調査は以下のような結果になっている。
本資料で中央値(Median)を確認できた4中学の数値と、意識調査の際に得た精通の有無をProbit法によって計算した結果(精通率50%年齢)は以下のようである。
Yu中学(3年生)14歳1.5ヵ月(初潮 12歳5.5ヵ月)
To中学(3年生)13歳9月(初潮 12歳 4ヵ月)
Es中学(3年生)13歳10ヵ月(初潮 12歳 4ヵ月)
Yo中学(3年生)14歳1ヵ月(初潮 12歳 9ヵ月)
調査A(小6-中3)14歳3か月(初潮 12歳6.5ヵ月)
調査B(小6-中3)13歳10か月(初潮 12歳 6ヵ月)
(中略)
精通年齢と、同時に調査した初潮年齢との年齢差は、1年4か月から1年8か月の間に分布し、平均的には、約1年半であるとみられる。精通年齢は、成長速度ピーク年齢の男女差約2年を考慮すれば、約半年前傾しているともいえる。
このように、男子の精通は女子の初潮よりも時期が1年半ほど遅い。
つまり、もし精通によるパフォーマンス低下が起こるのであるとしても、その時期は女子の初潮によるパフォーマンス低下よりも1年から2年遅れて生じるということだ。
しかし、グラフにはそのような痕跡は見られない。まず初潮によるパフォーマンス低下が生じ、それを追うようにして精通によるパフォーマンス低下が起こるなら、女子の学力スコアのグラフには1年ほど男子よりパフォーマンス低下が見られる時期があるはずだが、そのような兆候は見られない。
故に、「精通によるパフォーマンス低下が月経のそれと同程度にある」という仮説は棄却されるべきだろう。
つまり残念ながら、データから読み取れるファクトは以下の結論を示唆している。
月経によるパフォーマンス低下は実態よりも誇張されている
この結果から何が言えるのか
巷で大々的に喧伝されている「月経によるパフォーマンス低下」であるが、このように実際のデータを調べてみたところ、ほとんど影響は見られなかった。
はっきり言って、かなり衝撃的な結果である。生理に対する配慮の必要性があれだけ声高に叫ばれていることを鑑みれば尚更だ。
この結果を受けて、我々はどのように考え、行動すれば良いのだろう。以下部分では筆者の私見を論じていく。
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