アノマロカリス(Anomalocaris)とは、カンブリア紀中期の海に生息していた海棲生物の一種。
この時代の動物としては最大かつ最強で、カンブリア紀の生態系の頂点に君臨していた。
発見
19世紀末、古生物学者達を悩ますとある化石群があった。それはエビのしっぽを思わせる姿をしていたが、見つかるのはしっぽばかりでどこを探しても頭部が見当たらない、通常エビならあるはずの消化管(いわゆる背わた)も見当たらないなどエビと呼ぶには妙な特徴ばかり。なんて奇妙なエビなんだ! …ということで、この“エビ”にはアノマロカリス(奇妙なエビ)という学名が与えられた。
その後、ロッキー山脈中にあるバージェス頁岩という地層から化石としては残りにくい軟体組織を含んだ質の良い化石が多量に出土され、カンブリア紀の生物に関する研究は急速に進んだ。
古生物学者チャールズ・ウォルコットは出土された化石の中から真ん中に穴の開いた“クラゲ”(通常クラゲは口と消化器が身体の真ん中にあるため、そこが穴になっているというのは妙な特徴である)、ひれのある“ナマコ”を発見する。
その後1970年代になってハリー・ウィッチントンらがそれまで出土された化石を再検討する事になり、その結果、“エビ”、“クラゲ”、“ナマコ”がひとつにくっついた化石が発見され、 それまで別個の生物と思われていた“エビ”、“クラゲ”、“ナマコ”は実はひとつの生物のそれぞれ触手、口、胴体である事が判明する。
そして1985年、この新発見の生物に改めてアノマロカリスの名が与えられた。
特徴
全長は標準的なもので60cm程度、最大では2mに達するものもいた。
身体は大きく頭部と胴体にわかれている。頭部前方にはエビのしっぽに似た2本の触手が下向きに曲がって生えている。これで獲物を捕らえ、頭部下面にある円形の口へと運んだ。口にはアノマロカリス類だけの特徴である放射状に開閉する歯があり、これで獲物を捕食していた。歯は二重構造になっている上に食道の内側にもびっしりと歯が生えていてこれにより食べた獲物を確実に胃に送り込む構造になっていた。
アノマロカリスは三葉虫を捕食しているイメージがよく持たれているが、実は口の構造はそこまで固くなく。現在では硬い殻を持つ三葉虫を噛み砕くなどはもってのほかだったという説が主流。というより三葉虫が硬すぎるのだ・・・
柔らかい小動物(遊泳性の頭足類、節足動物など)を吸い込むように捕食、主食にしていたと思われる。
頭部上面両側には大きな眼が短い柄を介して張り出している。胴体両側には大きなひれが13対ついていてこれを波打たせるようにして動かす事で泳いでいた。胴体最後部には3対の小さなひれが斜め上を向いてついている。
アノマロカリスは何類?
発見当初、アノマロカリスはそのあまりにも異様な姿、特徴から既存のすべての動物に当てはまらない独立した動物門と考えられていた。ところが1990年代に入ってから実は節足動物の一種ではないかという説が上がるようになった。理由は澄江動物群のひとつパラペユトイア(右のイラスト)が発見されたことである。これは一見アノマロカリスに似た姿をしていたが、ひれの根元から節足動物に似た脚が生えていたのだ。つまりパラペユトイアは節足動物の一種がアノマロカリスに進化する中間に当たる生物だというのである。だがこれには異論を唱える学者もいる。学者のなかには円形の口からむしろ有爪動物、あるいは葉足動物ではないかという説を唱えるものもいる。結局のところよくわからないので現在では取りあえずアノマロカリス類(またはラディオドンタ類)というグループに納められている。
アノマロカリスの仲間たち
アノマロカリス類にはアノマロカリス、ペユトイア、アンプレクトベルア、フルディア、シンダーハンネスなどが知られており、新種も続々と見つかっている。さらに近縁とされる種としてパラペユトイア、パンブデルリオン、ケリグマケラ、オパビニアなどが知られている。ここでは正規のアノマロカリス類をイラスト入りで解説する。
ペユトイア(Peytoia)
胴体がラグビーボールに似ていることから、長く「ラガニア(Laggania)」と呼ばれていたが異名(シノニム)とされペユトイアと呼ばれるようになった。ペイトイアとも。実はチャールズ・ウォルコットが“ナマコ”だと勘違いしたのはこれである。現在ではアノマロカリスとはその特徴が多くの点で異なるため、別種として扱われている。その特徴とは、
全長は15cmで、アノマロカリス類としては小型の部類に属する。その大きさと特徴から、ペユトイアは主に海底付近に生息し、プランクトンを主食にしていたものと考えられる。
アンプレクトベルア(Amplectobelua)
澄江動物群のひとつ。全長は5cmとアノマロカリス類としてはもっとも小さいが、胴体が太くひれが大きいので全体的に幅広である。最後尾に2本の尻尾があるのも特徴。
フルディア(Hurdia)
近年になって発見されたアノマロカリス類。この種も体の各パーツごとに発見され、各々別の動物の化石として報告されていて、後に全体化石が発見されたというアノマロカリスと同様の経緯を辿っている。
全長は40cm。最大の特徴は頭部先端から突き出た装甲のような突起であるが、その役目はまだわかっていない。
シンダーハンネス(Schinderhannes)
アノマロカリスが活躍したのはカンブリア紀中期の約5億2500万年前から約5億500万年前までの約2000万年の期間で、その後は絶滅したと思われていた。だが最近になってドイツにあるデボン紀の地層からこのシンダーハンネスの化石が発見されたことでその生息期間はさらに1億年も延長したことになったのである。
全長は10cmと小型ながら先祖のアノマロカリス同様優秀なハンターだった。頭部の両側の大きなひれを羽ばたかせるようにしてかなり俊敏に泳ぎまわっていたと考えられている。
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関連項目
- 動物の一覧
- バージェス動物群
- カンブリアモンスター
- アノマロカリスをモチーフとしたキャラクター
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