進む部活動の多様化 競技力向上はどうなる?

進む部活動の多様化 競技力向上はどうなる?
子どもたちがスポーツに接する「入り口」となるのと同時に、競技力向上という役割も果たしてきた日本の部活動。少子化や教員の働き方改革を背景にいま、その形が大きく変わろうとしています。

球技などのチームスポーツをする中学生の数は2048年までの30年で半減するという予測もあり、休日の部活動は地域のスポーツクラブなどへ移行する動きも本格化します。

学校現場だけでなく、日本のスポーツ界にも大きな影響を与える改革によって部活動はどこに向かうのでしょうか。

(スポーツニュース部記者 本間祥生/福岡放送局記者 福原健)

1試合もせずに全国大会へ?

“花園”の舞台を目指して高校生ラガーマンたちがしのぎを削る、高校ラグビー。

去年、その予選会で予期せぬ事態が起きました。

3校がエントリーしていた鳥取県予選で、2校の選手が規定の人数に足りず、部員数19人の倉吉東高校は1試合も行うことなく花園への切符を手にしたのです。

1チーム15人で戦うラグビーは、少子化の影響を大きく受ける競技の1つです。
鳥取県内の高校ラグビー部の部員数は、2016年度の103人をピークに減少が続き、今年度は去年5月の時点で、ラグビー部がある6校のうち2校の部員数がゼロという事態に陥っています。

こうした状況を受けて、日本ラグビー協会は「各地域内で一定の試合数が担保されることが望ましく、競技者やチーム数の維持確保、それに伴う指導者の育成は、競技力向上の観点でも重要だ。時代の変化に沿いながら、各地の実情に合わせた柔軟な検討が必要だ」として、合同チームの活動に対する支援や、大会参加要件の見直しの検討を進めています。

運動部離れ 30年で半減も?!

運動部の存続や大会の開催が危ぶまれるような事態は、中学校の段階から起こり始めています。
NHKが野球やサッカーなど中学校の主な運動部に入部している生徒の人数を全体の生徒数と比較し「入部率」として算出し調査したところ、全国のおよそ8割にあたる37の道県で今年度、過去最低となりました。
スポーツ庁の調査では球技などのチームスポーツをする中学生の数は2048年までの30年で半減するという結果が出ています。

部活動に詳しい名古屋大学大学院の内田良教授は、少子化に加えて過熱する運動部に対して生徒が距離を置き始めていると言います。
名古屋大学大学院 内田良 教授
「生徒の部活動の強制参加の見直しなど、あり方そのものを見直そうという動きが進んでいて、厳しい練習など過熱する運動部から生徒が距離を置き始め『スポーツは楽しみたい』というニーズも見られ始めている」

新しいあり方“ゆる部活”

過熱化とは違う部活動のあり方を模索する動きも始まっています。

東京・杉並区にある中学校で6年前に創部された「トレーニングスポーツクラブ」です。
取材に訪れた時、生徒たちが取り組んでいたのはハンドボール。

ただ、その1時間後には…。
卓球をしていました。

この部活動が実施されるのは週2回で、生徒たちが取り組む競技を週ごとに替える“ゆる部活”です。

この“ゆる部活”が生まれた背景について、渋谷正宏校長は次のように話します。
杉並区立富士見丘中学校 渋谷正宏 校長
「少子化で子どもの数が減り、野球部、サッカー部、バレー部と人数がそろわない部活動が相次いで廃部になりました。その代わりに、放課後、子どもたちが楽しくのびのび運動できるような部活動を作ろうと思ったのです」

“試合がない”ゆるさが魅力

今ではおよそ20人が所属するこの「トレーニングスポーツクラブ」の大きな特徴は「試合」や「大会」が無いことです。

従来の運動部が“勝つため”に目指す「競技力の向上」は重要視されず、厳しい練習もなく、上下関係も「ゆるい」ということです。

さらに、週2回なので塾や遊びとの両立も十分可能なのが魅力になっています。
生徒
「週2なので塾との両立もできるし、運動もできる。そういう意味では帰宅部と運動部のいいとこ取りができる部活動だなと思う」

変わる部活動 競技力向上はどこへ?

少子化に加え、子どもたちのニーズに応える形で部活動の多様化が広がっています。

さらに、中学校では休日の部活動を地域のスポーツクラブなどで担うという「地域移行」の動きが本格的に始まろうとしています。

そこで大きな曲がり角を迎えているのが、これまで部活動が担ってきた「競技力向上」という側面です。

育成はクラブチームが担う

日本ではサッカーが、競技力向上や、トップ選手の育成という役割を、いち早く部活動から切り離す動きを進めてきました。

1993年のJリーグ開幕とともに各チームにユースチームの設置が義務づけられました。プロの施設と指導者のもとで実力を高め、直接プロ契約につながる可能性もある育成システムによって、トップ選手育成の中心は部活動からクラブチームへと移っていきました。
日本代表も2000年代から徐々にユース出身の選手が増え、去年のワールドカップカタール大会で活躍した三笘薫選手や堂安律選手などは、ユース出身の選手たちです。

さらに、2011年には全国のユースチームと高校の部活動などから上位24チームが、2つのリーグに分かれてホーム・アンド・アウェー方式で競う「高円宮杯プレミアリーグ」が設立されました。

年間を通じてトップレベルの試合を経験することで、ユースと部活動の垣根をなくし、育成年代が一体となって競技力向上につなげようという狙いがあります。

「競技力向上」にリーグ戦を!

こうした競技力向上を目指す模索が、ほかの競技でも始まっています。
今年度、高校生の全国トップクラスの学校が参加する「トップリーグ」を新設したのがバスケットボールです。

高校世代のバスケットボールは、これまで3つの主要な全国大会がすべてトーナメント方式で行われてきました。
▽全国高校総体=「インターハイ」
▽国民体育大会=「国体」
▽高校選手権大会=「ウインターカップ」
新設されたトップリーグは、男女それぞれ全国トップクラスの8校が参加し、レベルが拮抗した相手と試合を重ねることによって、トップ選手の育成につなげようという狙いがあります。
日本バスケットボール協会 浜武恭生 事務総長
「現状では、大きな大会は地方予選からトーナメント方式となっていて、力が拮抗したチーム同士の真剣勝負は実質1試合か2試合になってしまっている。それも一発勝負なので、いろいろな戦術や選手を試すということはできない。一方でリーグであれば試合数も担保できる上、相手によって多様な戦い方ができるので、選手はもちろんコーチの育成にもつながる。育成年代のトップ層をさらに引きあげることができる」

日本の伝統「トーナメント方式」

トーナメント方式の大会として1915年に行われた、部活動初の全国大会といわれるのが「全国中等学校優勝野球大会」です。
のちの甲子園につながるこの大会以来、日本では負けたら終わりのトーナメント方式の大会が、中学校や高校の部活動では各競技で主流となってきました。

トーナメント方式は、多くの名勝負と感動を生み、それに向けて努力するという子どもたちにとっても、かけがえのないものであり続けてきました。

大会のあり方模索も

ただ、部員数の減少で県大会で1試合もできない、冒頭のラグビーのようなケースが起き、そもそも大会出場を目指さない“ゆる部活”のような多様化が進む中で、大会のあり方にも変化が起き始めているのです。

アメリカでプロコーチとしてアイスホッケーの指導にあたりながら、競技大会の効率的な構造や運営の研究を続けている若林弘紀さんは、次のように指摘します。
若林弘紀さん
「全国大会の優勝を目指しているチームと、競技を始めたばかりという選手が多いチームが1回戦で当たれば、お互いにとってほとんど意味のない試合になってしまう。子どもたちの成長や競技を楽しむという意味でもコストパフォーマンスが非常に悪い。大会で毎回1回戦負けとなれば、1年に数回しか試合に出ていないという子どももいて、それでは競技を続ける子が減ってしまうことも仕方ないと思う」

新設リーグに参加した高校は

バスケットボールのトップリーグに参加した8校のうちの1つ、長野県の東海大諏訪高校の男子チームです。
リーグ戦が進む11月、練習を訪ねると「福岡第一のディフェンスを思いだしてみろ!」と選手にげきを飛ばす、入野貴幸監督の姿がありました。

福岡第一高校は、去年のインターハイを制した高校バスケットボールの強豪です。前の週のリーグ戦で福岡第一と対戦したチームは、相手の固いディフェンスを前にオフェンスが機能せず、敗れていました。
東海大諏訪高校 入野貴幸監督
「週末に試合をして、その反省を持ち帰って平日に練習し、週末の試合で試してみるといういい循環が生まれています。自分たちの課題が見えた上で、次の舞台も決まっているので練習の質が上がりましたね」
選手たちにリーグ戦のメリットを聞いてみました。
石口直 主将
「強豪との試合を重ねることで課題が浮き彫りになり、自分たちの現在地を知ることができていると感じています。練習試合にはない真剣勝負の緊張感もあって、チームの経験値がとてもつきました」
これまで主要大会ではトーナメントの序盤で優勝候補のチームと対戦し敗れることが多かった東海大諏訪高校は、今回のリーグ戦での前評判はそこまで高くありませんでしたが、最終的に4勝3敗で4位に入り、全国の強豪と渡り合える力があることを証明しました。

専門家は部活動のあり方とともに、大会のあり方についても変わっていく必要があると指摘します。
若林弘紀さん
「欧米はもちろん、アジアでも育成年代でリーグが主体になっている国が多い。大事なのは試合数が保証されていることで、同じくらいのレベルの相手と勝ったり負けたりを繰り返すことが、一番子どもの成長につながると思う。子どもたちが当たり前に試合をできる環境を整えてあげることが重要で、いきなり全国で大会をリーグ制にしろと言っても難しいと思うので、例えば近隣の学校が集まってリーグを立ち上げるなどの動きがもっと出てきてほしい」

部活動はどこへ向かうのか

「健康的に運動をしながら『ゆるく』部活動を続けたい」

「競技力を向上し全国大会で優勝したい」

部活動の多様化が進み、子どもたちのさまざまなニーズに応えることができる環境が整備できれば、それは歓迎すべき変化です。

ただ、全国どこでも同じようにできるかといえばそれは難しく、地域移行に関しても、特に地方の自治体から、懸念の声が相次いでいます。

進む少子化によって、今後、各競技で競技人口のさらなる減少は避けられず、全国大会がこれまでと同じようにできるという保証はありません。

海外のように地域のスポーツクラブで複数の競技に親しむ中で、才能を発掘して育成するという仕組みがなかった日本は、そうした役割を学校の部活動に依存してきたともいえます。

それが限界を迎え、部活動が大きく変わろうとする今だからこそ、子どもたちのスポーツへの接し方や、選手の強化のあり方を根本から見直す機会にもなると感じました。
スポーツニュース部 記者
本間祥生
平成27年入局
水戸局、新潟局を経て現所属
学生時代はバスケットボールに打ち込みました

福岡放送局 記者
福原健
平成30年入局
警察やスポーツ担当を経て
県政担当
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