本稿は, 規制緩和の影響が特に顕著にみられる最寄品消費財流通を主たる対象分野として, 規制緩和の推移と地域経済への影響を検討するとともに, 流通政策が抱える今後の課題と経済地理学が果たしうる役割について若干の言及を試みる. 流通規制の緩和が地域経済に与える直接的な影響として, 自由競争の促進と産業の上位集中化の進行を挙げることができる. これと関連して, 企業戦略における経済合理性の追求が進み, 経済合理性の実現を目的とする企業間提携も一層進行する. その反面, 経済効率が低い業種, 業態ならびに地域がコストセンターと位置づけられ, 流通システムから切り捨てられていくことが予想される. また, 卸の上位集中化や情報化と連動した物流の合理化によって, 周辺地域における調達システムの弱体化が進むと考えられる. 規制緩和後の流通政策においては, 大店立地法や改正都市計画法を通じて, 大型店の立地を空間全体の最適化という枠組みの中で評価しようとしている. また, 中心市街地の活性化を目指す法体系も整備されている. 一方, 規制緩和後の流通政策が地域の最適化という枠組みを重視することによって, 経済地理学が果たすべき役割も拡がると考えられる. とりわけ, 生活行動の視点から商業空間を評価する試み, 都市の階層や都市構造に対応した最適な集積配置の検討, 諸外国における法制度や商業調整事例の分析, そして新しい政策の枠組みに対応した企業行動の研究などの重要性が高まると思われる.
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