新型コロナウイルス感染症が拡大している現状を踏まえ、『NieR』のコンサートと舞台は公演が中止されるという、不測の事態から始まった『NieR』10周年。だが、両催しはニコニコ生放送で無観客による有料配信という形で、“【ニーア10周年】オケコン・舞台・トーク無理やり10時間やっちゃう生放送”の中で、ファンに届けられた。
ある意味『NieR』らしい(?)10周年
本稿は、その10周年記念生放送の裏話や、放送で発表されたバージョンアップ版『NieR Replicant ver.1.22474487139...』とスマホアプリ『NieR Re[in]carnation』について、おなじみの開発スタッフの方々に話を訊いた。ちなみに、今回は、社会情勢に鑑みて、ビデオ会議システムを使ってインタビューしています。
※週刊ファミ通2020年5月14・21日合併号(2020年4月30日発売)に掲載したものを、Web用に編集したものです。
齊藤陽介(さいとうようすけ)
『NieR』シリーズ プロデューサー
ヨコオタロウ(よこおたろう)
『NieR』シリーズ ディレクター
岡部啓一(おかべけいいち)
コンポーザー
田浦貴久(たうらたかひさ)
『NieR:Automata』ゲームデザイナー。プラチナゲームズ所属
幸田和磨(こうだかずま)
コンセプトアーティスト
いろいろな意味で噛み合ったコンサートに
――無観客という特殊な状況で行われたコンサート“NieR:Theatrical Orchestra 12020”でしたが、率直な感想はいかがでしたか?
岡部『NieR』のコンサートの中でも、最大のホール(東京国際フォーラム・ホールA)だったんですが、それが無観客ということで、最初は緊張はなかったんです。ですが、実際にステージに立つと、レスポンスがないうえに、誰に向かって話しているのかがイメージしにくくて、逆にいちばん緊張して、びっくりするくらい噛みました(笑)。ただ、演奏やコンサートの内容自体はすごく素敵だったので、これを生で観てもらえなかったのは残念です。
ヨコオ僕は演奏やライティングの調整など、直前までバタバタしていたんですけど、最終的にすばらしい仕上がりになって、自分の中では、ほぼ完璧なコンサートでした。それなのに! 岡部さんの最初の挨拶の噛みっぷりと、最後の挨拶に僕のヘッドを持って出て行かない、という忘れっぷりがショックでしたよ!
――演奏についてはいかがでしたか?
岡部すごくよかったと思います。ヨコオさんの演出もすばらしかったですし、いろいろな方々の力が噛み合っていたように感じました。
――今回は、曲中朗読などもあり、朗読の中身も尺を考えたりと、かなり気を遣ったのでは?
ヨコオ正直、尺の計算はしませんでした。尺の計算がしたいから早く脚本を上げてほしい、とは言われてはいたんですが、ぜんぜん完成せず、ほぼ最後までどのくらいの長さになるかわからないままで。そんな具合に、僕はすごくがんばっていた(?)んですけど、岡部さんは何もやっていない、とコンサートのたびに思います。
岡部やってるから!(笑) 僕は、アレンジの段階で要望を伝えることが多いので、実際に動き出すころにはほとんど何もすることがなくなっているからそう見えるんですよ!
――今回のアレンジのポイントは?
岡部今回は、朗読を差し込む曲は決まっていたので、アレンジャーの方にはそのジャマにならないような“薄いアレンジ”にしてほしい、みたいなことは伝えていました。朗読や演出ありきでアレンジをしてもらったのは、これまでのコンサートとは違うポイントですね。
――ほかに2018年のオーケストラコンサートと違う部分、変えた部分はありましたか?
岡部前回は『NieR』の曲をオーケストラで楽しむとこうなりますよ、という側面が強いコンサートでした。今回は、10周年のお祭りというか、支えてくださった皆さんへの感謝のイベントなので、原曲のイメージをしっかり残しつつオーケストラでスケールアップする、ということを意識してアレンジをしてもらいました。
ヨコオ前回のオーケストラコンサートは、岡部さんの晴れ舞台だと思い、選曲や曲順もほぼすべて岡部さんが決めたんですが、今回は、僕の好きにさせてほしいということで、選曲は僕の希望をかなり取り入れてもらいました。あと、クリックという音楽と映像を合わせる仕組みを導入させていただき、一体感もすごく出せたと思います。
――配信でご覧になった田浦さんは、今回のコンサートはいかがでしたか?
田浦やはり曲がすばらしかったですし、すごく感動もしたんですけど、映像の中には文字が小さくて確認できないものもあったので、何が書かれていたのか気になっています。
ヨコオ映像の中の文字は、演出上、絶対に見せたい大きいものと、雰囲気で書いている小さめのものと2種類があって、小さめの文字は、会場にいたとしても見えないものが多いので、そこはあまり気にしないでいただければ……。
齊藤僕は、あえて控室で配信を見ていたんですけど、レポートが何種類かあったじゃないですか。あれが見えないっていうコメントは確かに多かった。レポートをアーカイブとして見られるようにするとか何か考えましょうか。
田浦あと、幸田くんが描いたコンサートのイラストのカッコよさにも触れたいですね。
――あのイラストの構図などは、ヨコオさんからのオーダーがあったんですか?
幸田自然のある環境にしてほしい、みたいなざっくりとしたオーダーはありました。それをもとにラフを作成して、色は「モノクロがいいね」ということになって、いまの形になりました。この絵は、『NieR:Automata』で最初に描いた、機械生命体と2Bが見合わせているようなイラストのセルフオマージュでもあります。
――幸田さんは『舞台ヨルハ』のアートも手掛けていますし、ヨコオ作品を表現するうえで、もはや欠かせない存在になっていますよね。
幸田いえいえ……(笑)。ヨコオさんとの仕事は、すごくやりやすくて楽しいです。
――どのあたりがやりやすいんですか?
幸田自分の好きなものを提出すると、ほぼオーケーを出してもらえるんですよ。
ヨコオボツにするのはもったいないから、全部オーケーにするんですよ。なので田浦さんも最初はいろんな提案をしてくれていたんですけど、だんだん数が減ってきました。
田浦オーケーを出されまくると、入れるものが多くなってたいへんなんですよ(笑)。
ヨコオそれに途中から気づいて、提案してくれなくなりました。
舞台、コンサート、トーク……結果的にファンフェスっぽく
――『舞台 ヨルハVer1.3aa』はキャストのスケジュールの兼ね合いもあって、事前に収録したものを配信という形になりました。
齊藤収録日は雪が降っていたんですよね。
ヨコオそうなんです。3月14日だったかな? 生放送のコンサート当日も雪が降って、『NieR』って呪われているなと思いました。
――祝福じゃないですか? 逆に。
ヨコオ舞台は再演だったので役者さんもこなれていて、クオリティーが高く、満足していただける内容だったのではないかなと思います。あと、10周年ということで、舞台を知らないお客様にも観ていただけた感もありました。いろいろありましたが、配信という形でオーケストラコンサートや舞台、トークをセットにして、それらを1日でできたのは、結果的にはファンフェスっぽくなってよかったなと感じました。
齊藤『舞台ヨルハ』を初めて観るという方もけっこういらっしゃったみたいだし。
――舞台のアートも幸田さんですが、こちらはどういったコンセプトで?
幸田自分で決めていい、ということになったので「いままで描いたことがなかった飛行ユニットが描きたいです」と提案したらオーケーが出ました。
ヨコオ手前に二号、後ろに四号、十六号、二十一号が立ってます。
幸田出発前をイメージして描きました。
ヨコオ舞台の物語が始まる直前ですね。
――─今回の舞台はいかがでしたか?
幸田個人的には、早口でまくしたてるワカバの方(佐藤智広さん)が好きで、ずっと注目してました。あとは、ギターの後藤さん(後藤貴徳さん)が目立ってたのも印象的でした。
ヨコオ岡部さんは、後藤さんにお願いしすぎじゃない?
岡部そうかもしれないですね(笑)。舞台は、アレンジも含めて生演奏の仕切りを後藤くんにお任せしていたので、ここぞとばかりに早弾きしたりして、「がんばってるなぁ」と微笑ましく見ていました。
――今回は、GEMS COMPANYの赤羽ユキノさんと長谷みことさんのおふたりも歌で参加されていましたよね。
齊藤歌は収録ではなく、生で歌っているんですけど、すごくがんばってましたよ。
ヨコオ舞台裏の部屋に収録ブースみたいなのを作って、そこから生で歌っていたんです。
田浦あれ、生で歌っていたんですね!
岡部でも、上手になればなるほど“生で歌っている感”が薄くなるんですよね(笑)。
齊藤「ちょっと噛めば?」って言っておけばよかったね(笑)。
※下動画は『舞台ヨルハ Ver1.3a』で使用されていた赤羽ユキノさん、長谷みことさんによる『ガダルカナル』
――コンサートもそうですけど、無観客ということでここぞとばかりのカメラアングルなどもいろいろありましたね。
ヨコオそうですね。ドワンゴさんもスクウェア・エニックスさんも「どうせ赤字だから」ということで、カメラ台数を増やしたりと悪ふざけ感もあってすごくよかったです。
齊藤舞台の収録では前のほうの座席を取り外してレールカメラを置いたりしていましたから。
ヨコオなので、映像としてはふだんではできないクオリティーになったと思います。
田浦カメラワークもすごくよかったですね。
ヨコオドワンゴの熊田さんにすごくがんばっていただきました。リアルタイムでスイッチングしていたので、全部上手くいったわけではないと熊田さんはおっしゃっていましたけど。
田浦逆に臨場感があってカッコよく感じました。
幸田演出だと思っていました(笑)。
齊藤カメラさんが追いついていなかったところもあったみたい(笑)。
――トーク部分では、『NieR:Automata』の世界累計出荷・ダウンロード本数が450万本突破という発表もありました。
齊藤そんなに遠くない未来に、つぎの大台を発表できるといいですね。いま、こういう状況だからこそ、遊んでない方がいたら触れてみていただきたいですね。
ヨコオゲーム業界とは無縁のある方に「ゲームは家で遊べるから、こういう状況でも儲かるんでしょ?」なんて言われたんですけど、スクウェア・エニックスさんはいまの状況で儲かっているんですか? 出歩けないと『ドラゴンクエストウォーク』とかたいへんじゃないですか?
齊藤今度、『ニーアウォーク』作ろうか。
ヨコオ絶対赤字になりますよ(笑)。あと、行く先々で大切な何かを捧げる必要があります。
齊藤ヨコオさんの家と岡部さんの家をランドマーク的な場所にしよう。
ヨコオ田浦さん、笑ってますけど、あなたの家も当然ランドマークですよ!
ヨコオワールドの表現に欠かせない幸田氏のアート
――では、ここからは新しく発表された『NieR Replicant ver.1.22474487139...』と『NieR Re[in]carnation』についてうかがいます。まずは『NieR Replicant ver.1.22474487139...』からおうかがいできれば。
ヨコオその前に、今回の舞台もコンサートも新規素材は幸田さんのアートだけで、発表した2タイトルのティザートレーラーも、幸田さんのアートで構成していますから、10周年のメインの4要素を幸田さんのアートだけで乗り越えた『NieR』ってすごいなと思っています。
――たしかに(笑)。その『NieR Replicant ver.1.22474487139...』のキーアートについて。少年ニーアがいる場所は神話の森ということでいいですか?
幸田はい。
――神話の森というオーダーが?
幸田いくつかラフを提出した中にそれがあって「ほかのものと雰囲気が違っていいね」ということで採用されました。
――ティザートレーラーに登場するアートについてもうかがいたいのですが、最初のシーンはロボット山ですよね? 青年ニーアの姿も。
幸田そうですね。基本的に今回のアートは、オリジナル版のスクリーンショットをもとに描いているので、遊んだことがある方は具体的な場所がわかると思います。
――たしかに、東京、砂の神殿、草原もオリジナル版の雰囲気がすごく出ています。
幸田草原はとくに「あぁ、『NieR Replicant』だな」と思っていただける場所だと思いますね。若干ディテールアップじゃないですけど、山の形を少し変えたりはしましたが。
――ちなみに、アートは何点ほど描かれたのですか?
幸田何点くらいでしょうね……。各ロケーションで1枚以上は描いています。
ヨコオ幸田さんは手が早いので、お願いするとバンバン描いてくださるんです。しかも、クオリティーが高いうえにお値段はリーズナブルなんですよ。リーズナブルだけど、手が早いので、すごく儲かっていると思います。これは記事に書いておいてください。あ、作業が早い部分じゃなく、儲かっているという部分を書いておいてください。
ウェポンストーリーも入り、シナリオも追加
――ところで、タイトル名は皆さん、どう略しているんですか?
ヨコオ僕は『Replicant』としか呼んでないですね。
齊藤『Replicant』だとオリジナル版と混同しちゃうので、『Replicant v(バージョン)1.22(イッテンニーニー)』みたいな呼びかたがいいかなと思ってます。
ヨコオ最初、齊藤さんにはサブタイトルみたいなものは付けたくないと言ったんですよね。単純に「PS4版、Xbox One版、Steam版が出ます」でいいじゃん、という話をしたんですけど、齊藤さんが何か付けてほしいとおっしゃったので、嫌々いまのタイトルになりました。
――あの数字には当然、意味があると思うんですが……。
ヨコオ意味はあるんですけど、深い意味はないです。“ver.2”というほどではないということで、最初は●●●●の●●にしていたんですよ。でもそれだとすぐバレちゃうなということで、●●●●●●の●●にしました。ですので、皆さんが期待していそうな深い理由はないんです。でもファンの方が設定を考えてくれて、「たしかにそうだ」と思ったらそれを活かすかもしれません!
――あくまでアップデート版とのことですが、どれくらいのアップデートに?
ヨコオ最初はリマスターくらいの気持ちで作っていたんです。でも、かなり手を入れて、リマスターじゃない感が出たくらいのアップデート具合です。
齊藤ボイスの量も半端ない感じですね。
――今回はフルボイスですよね?
齊藤はい。ウェポンストーリーも入りますし、シナリオも追加されますし。
ヨコオでも、イベントシーンのカメラの動きなどはいっしょなんです。だから、ゲームの体験としてはリマスターという感じなんですけど、いろいろなところに手は加えています。
――オリジナルの『NieR Replicant』の雰囲気も色濃く残していると。
ヨコオいえ違います。お金がないからいっしょでいいや、という感じです。
齊藤(笑)。追加要素は全部新規なので、そちらに力を入れています。
――トイロジックが開発を担当することになった経緯は? 社長の岳さん(岳洋一氏)はナムコやキャビアに在籍していたことがあるということで、ヨコオさんは面識が?
ヨコオ岳さんとはキャビアで初めて会いました。当時、『NieR Gestalt/Replicant』のキャビア側のプロデューサーでもあった岩崎さん(岩崎拓矢氏。※崎は旧字)が連れて来たんですけど……(以下、略)。
齊藤岳さんの話だけではなく、開発ディレクターも変わっているのでそちらのお話もぜひ。
ヨコオはい。田浦さんに負けず劣らずのイケメンなんですけど、田浦さんがいかにまともだったかというのを痛感しています。だって会議に傷だらけの顔でやってきたりするんですよ? 理由を聞いたら……(以下、略)。もう人の力では制御できない!
齊藤書けないですけど、▼※×□らしいです。
ヨコオヤバい(笑)。そのへんの話は、ぜひ彼らがいるところでしましょう。
――いるところならいいんだ(笑)。にわかに不安な感じがしてきましたが……。アクション、バトルについてはどうでしょう?
ヨコオアクションは、田浦さんに見てもらっています。何て肩書でしたっけ。
田浦開発にがっつり関わっているわけではないので肩書はないですが、強いて言うならアドバイザーのようなものです。たまに進捗を見させていただいている感じです。
ヨコオご意見番がいいですね。
齊藤アドバイスレベルじゃないでしょう(笑)。このあいだも、すごい長文でフィードバックをもらいましたからね。
――田浦さんは『NieR Gestalt/Replicant』のファンでしたよね?
田浦はい。だからこそ、『NieR:Automata』が生まれたと言っても過言ではないですよ(笑)。なので、ファン目線で鋭くチェックさせてもらっています。
―― そのファン目線から、『NieR Replicant v1.22』の手触りはオリジナル版と比べていかがですか? かなり変わっている?
田浦まさにいま作業されているところで、齊藤さんとヨコオさんはけっこう変えたほうがいいとおっしゃってますよね。
齊藤田浦くんは、前のままがいいって言っているよね。
田浦僕は、前のままきれいになるのがいいというのをすごく推していたんですけど。
ヨコオ『NieR:Automata』のファンの方が、気持ちよく遊べないとダメだと思うんです。なので、前作の少しモッサリしたものも味わいがあるにはあるんですけど、そこでネガティブな気持ちにさせるなら変えたほうがいい、という思いは、トイロジックさんも持たれていました。
田浦あれでネガティブになる人は、ヨコオファンではないですよ! 『NieR:Automata』だけプレイしてヨコオファンを自称している人は、片っ端からビンタしていきたいですね。
――田浦さん、『NieR Replicant』のことになると愛とこだわりが強い(笑)。
音楽はオリジナルをブラッシュアップ
――『NieR Replicant v1.22』の音楽は、どういう方向性に?
岡部曲に関しては生演奏の部分を増やし、エミさんの歌やコーラスを収録し直してクオリティーを上げる、といった感じでブラッシュアップする方向で進めています。ヨコオさんからは「尺を伸ばしてほしい」と言われているので、それにも対応し、すでにヨコオさんにも聴いてもらっています。多少変わっている曲はあるんですけど、うまくバランスは取れていると思います。
ヨコオ岡部さんは、アニメとかテレビ局に頼まれたときは長い曲を書くくせに、『NieR』の曲は短いんですよ。僕が無理難題を言っているように聞こえますけど、そうではなくて『NieR Gestalt/Replicant』の曲は短かったんですよ!
岡部『NieR Gestalt/Replicant』はひとつの曲でもリズムだけとか、ボーカルだけとか、メロディーだけとか、さまざまなパーツに分けたデータを収録しているんです。これは、『NieR』は演出に合わせて曲をリニアで変えられるようにしたい、と言われていたのでそういう構成になっていて、長い尺の曲が作りにくい構成だったんですよ! でも今回はがんばって伸ばしたので、いい感じになってます。ね、ヨコオさん?
ヨコオまあ、ふつうくらいの尺にはなってますね。
――決して褒めない(笑)。新曲もあるとのことですが?
岡部はい。追加される部分では新しい曲が使われます。
――情勢的にレコーディングなどへの影響は?
岡部それが心配なんですよね。今回、『NieR』シリーズでもいちばん大きい編成で収録をしようとしているんですけど、新型コロナの影響でどうなるかという状況です。ひとりずつ録れるものは問題ないんですけど、ある程度の人数が必要なセクションは難しいんですよね。
――白の書を『NieR:Automata』のポッド042役、『NieR Gestalt/Replicant』では、P-33役や郵便配達員役も務めていた安元洋貴さんが担当されることになりました。朗読で初披露されましたが、好評でしたね。
齊藤安元さんがいちばん心配してましたね。どういうリアクションが来るかわからないから、朗読劇の前に言いたくないと話していたくらい。
――石川由依さんや花江夏樹さんも参加されるということですが、それは2Bや9S役で?
ヨコオそうではないですね。白の書を安元さんに演じていただくというのもあり、『NieR:Automata』のファンに喜んでいただける仕組みとして出ていただくことにしました。どんな役かは楽しみにしていただければ。
あの少女はカイネではなく新キャラ
――『NieR Re[in]carnation』はシリーズ初のスマホ向けの作品になります。キーアートに描かれている少女は、カイネですよね?
ヨコオ違います。ファンの方からもそう言われるんですが、どうしてそうなったんだろう。
齊藤服装と包帯じゃない?
――てっきり少女時代のカイネがテュランに取り憑かれるあたりのエピソードが描かれるのかと思っていました。では、これまで出てきたキャラクター……でもない。
ヨコオはい。新キャラクターです。あくまで『NieR』の新作で、『NieR Gestalt/Replicant』や『NieR:Automata』のスピンアウトではないです。
――『NieR Gestalt/Replicant』と『NieR:Automata』はエミールやデボル&ポポルが登場したりと直接的な時代のつながりが感じられましたが、『NieR Re[in]carnation』はどうなんでしょうか。
ヨコオ表現が難しいですね。世界観の共有はされているんですけど、されていないみたいな。基本的には単体で楽しんでいただけるのが大事だと考えています。コラボガチャみたいなのはあるとは思いますけど。いや、あります!
齊藤いわゆるヨコオワールドのひとつ、と考えていただければ。遊ぶと「なるほど『NieR』だね」という感じにはなると思いますよ。
――なるほど。では、少女についてもう少し。キャラクターデザインコンセプトは?
ヨコオ……よく覚えてないですね(笑)。
――デザインされたのは吉田明彦さんですよね?
ヨコオはい。
齊藤誰かが小さい女の子に首輪をつけたいと言ってなかった?
――首輪……。
ヨコオ『NieR Re[in]carnation』のシナリオは、以前、スクウェア・エニックスさんで募集していただいた『NieR』のシナリオ班といっしょに作っています。今回、僕はみんなが出してくるアイデアをまとめて、うまく着地させることがメインの仕事ですね。だから、誰が何を最初に考えたかというのはよく覚えていないんです。
――『NieR』シナリオ班が本格的に取り組む仕事はこれが初めてですか?
齊藤表に出ているという意味では、『FFXIV』の『ヨルハ:ダークアポカリプス』のシナリオが最初です。
ヨコオ『ヨルハ:ダークアポカリプス』は、シナリオ班の中でもほぼひとりが担当しているんですけど、『NieR Re[in]carnation』は4人くらいで分担して取り組んでいる感じです。
――また少しキーアートに戻って、キャラクターの背後に浮いているオバケみたいなのは?
ヨコオ名前はママといいます。面倒を見てくれるお母さんみたいな。
――『NieR Replicant』の白の書とか『NieR:Automata』のポッドに近しい存在?
ヨコオそうですね。
――“Re[in]carnation”というタイトルですが、“Reincarnation”には転生、再生などの意、incarnationは化身、生まれ変わり、そしてcarnationはカーネーションで母親(ママ)をイメージさせ、花言葉は……など、いろいろな意味を含んでいそうなタイトルだなと。
ヨコオあのタイトルの意味ですが、じつは■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。
――な、なるほど……。作品自体はどういうものになるのでしょうか? 配信では「いままでにない作品」とおっしゃられていましたが。
齊藤「スマホアプリでここまでやるの?」という感じで、コンソール向けに出したくなるくらいです。スマホアプリはある程度の期間、続くコンテンツになるので、テキスト量もいちばん多い『NieR』作品になるかもしれないです。かなり物語性の強い作品だと思います。
ヨコオ物語の作りかたもかなり独特で、いままでの『NieR』とは違いますね。大枠の物語は一本の流れが存在するんですが、細かいディティールを入れるとグシャグシャッとした不思議な構造になっているんです。
――なるほど、わからん(笑)。一本の流れの主人公があの少女ということですか?
ヨコオそこも説明しにくいんですけど、予定としては何人か主人公が出てきます。
齊藤いっぱいいますね。バトルとかも含めると、さらにいっぱいいる感じです。
ヨコオ不思議なゲームですね。3Dの描写であるとか、ガチャの仕組みをいろんなものからコラージュして作っているんですけど、ストーリーは複数の話が入れ子状態になっているような変わったものになっています。『シノアリス』は、おかげさまで好調なようで、いつまでも用意していたエンディングに到達しないという問題を抱えているんですけど、それを反省点として、今回は売上がよくても必ずエンディングが訪れる仕組みにしています。ゴールがくり返される話ですね。
――複数いる主人公の物語にゴールが用意されている、と? ちなみに、このゲームに構造が近い、といった作品はありますか?
ヨコオステージをクリアー(ゴールに到達)してつぎに進むっていう意味では、『パズドラ』に似ています。
齊藤似てないよ(苦笑)。
ヨコオあまり似ているものがないです。
――人と対戦したりするような要素は?
ヨコオないですね。PvPの作品ではないです。
――『NieR:Automata』や『舞台ヨルハ』、コンサートの映像など、ヨコオ作品のイルカの存在感たるや! ティザートレーラーでは『NieR』シリーズと似た雰囲気を持ちつつ、新しい場所が幸田さんのアートでいろいろ描かれていますが、これらはすべて“檻(ケージ)”と呼ばれる場所に?
ヨコオはい。塔やダンジョンは全部“檻”と呼ばれています。
幸田自分も大枠しか知らされていない段階で描いたものなので、詳しくは知らないのですが、アプリボットさんで試作された塔のデータをもとに自分なりにアレンジして描きました。
ヨコオ塔の設計図も、幸田さんが作ってくれた気がします。
幸田はい。今回のイラストでは、ベースのモデリングまで自分がやりました。石造りで、各パーツをユニット化していろんな塔を作れるようデザインしています。
――そんなことまで! しかもゲームが作りやすくなるような配慮まで。ティザー映像では、魚が泳いでいるようなシーンもありましたが、水の中というわけではないんですよね?
ヨコオ違いますね。そのあたりはふんわりしてます。
ヨコオ氏に初めて褒められた? 楽曲
――曲は当然ながら岡部さんが担当されていますが、すべて新曲になるのですか?
岡部はい。すべて『NieR Re[in]carnation』用に書き下ろしました。
ヨコオこの前公開したPVの曲がメインテーマになるんですけど、すごくよくて岡部 さんを初めて褒めました。
岡部気に入っている感じは出してもらえました(笑)。10年越しでようやく褒めてもらえましたね。そのほかの曲は、いままでとの違いは出したいとヨコオさんには言われていたので、『NieR』っぽい雰囲気は残しつつ、ジャンルが違う曲もたくさん用意しています。『NieR』の楽曲はメロディーがしっかりあるボーカル楽曲のような構成が求められるんですけど、今回は違った雰囲気も感じていただけると思います。
ヨコオただ、PVの曲はゲーム内ではしばらく流れる予定がないので、PV詐欺感が強いかもしれませんが……。
――サービスインはどのくらいの時期に?
齊藤ご多分に漏れず、クローズドβテストを実施する予定なんですけど、告知はそう遠くない未来にできると思います。
――楽しみにしています。では、最後に、いろいろあった10周年の始まりでしたが、ひと言ずつ感想やメッセージをいただけると。
幸田まさかこんなに長く関わらせていただけると思っていなかったので、ありがたさを感じつつも、ファンの皆さんには、満足してもらえているのか不安な気持ちもあります。これからも仕事がいただける限り、いっぱい描かせていただければなと思いっています。
田浦『NieR Gestalt/Replicant』がすごく好きで、『ドラッグ オン ドラグーン』もすごく好き……というワケではないんですけど(笑)、ともかく、その好きがきっかけで『NieR:Automata』を作れて、新しい作品も近くで見せてもらえて、しかも現行機で『NieR Replicant』がプレイできるというのは、いちファンとしてすごく幸せに思っています。今後、20周年、30周年とヨコオさんの活躍に期待しています。
岡部「10周年のコンサートをやりましょう」というお話をいただいたときには、まさか世界がこんな状況になるとは思っていなかったので、残念な側面もあるんですけど、ある意味『NieR』らしいとも思っています。そんな状況でも、いろいろな人にアイディアを出していただいて、10周年らしい生放送もできたので、ファンの方にも喜んでもらえたんじゃないかと思っています。僕自身、コンサートも舞台も楽しませていただいて、すごくいい10周年になったと感じています。これからは『NieR Replicant v1.22』や『NieR Re[in]carnation』で新しい曲を聴いていただける日が来るのを楽しみにしています。
ヨコオ『NieR:Automata』が450万本を突破しましたけど、すべて田浦貴久というゲームクリエイターと『アストラルチェイン』を生み出すためにあったと言っても過言ではない10年間でした。そんな感じで僕らも利用されていたんですけど、なんだかんだ言って田浦さんや幸田さんの若いパワーをいいように利用して『NieR:Automata』が大ヒットしたので、僕や岡部さんはユルユルとその利権を食いつなぎながら生きていきたいので、ツイッターとかで変に炎上して、その利権が消えてしまわないように注意しながら生きていこうと思います。つぎは齊藤さんの順番ですが、せっかくなので宣伝担当の高野さんからもひと言。
高野 え!? そうですね……『NieR Gestalt/Replicant』が発売されたのは、僕が入社して半年くらい経ったころで、『NieR』は『NieR:Automata』から本格的に入りました。僕のような方も多いと思うので、『NieR Replicant v1.22』や『NieR Re[in]carnation』で『NieR』シリーズに触れて、いっしょに盛り上げていただけたらうれしいです。
齊藤『NieR Gestalt/Replicant』を立ち上げて10年、『NieR:Automata』からは3年が経ちました。『NieR:Automata』立ち上げのときは、社内にも『NieR Gestalt/Replicant』が好きだという人がたくさんいたんですけど、手伝ってくれる人はほとんどいなくて、奇跡的にいまのメンバーが集まり、500万本という大台も見えてきました。ヨコオさんも言っていましたが、僕もチヤホヤされているうちに引退しようと思っています。新型コロナの影響もあるのでどうなるかはわかりませんが、今回発表したものは、なるべく10周年以内にはローンチ……と考えていますので、楽しみにしていただけたらと思います。