「面白いことはいま、地方で起きている」私たちが都市から地方へ移住した理由

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人口減少や過疎化、高齢化など、多くの課題を抱えている日本。特にそれらが顕在化しているのが地方だ。

そんな日本の地方でいま、東京など都市圏で活躍してきたビジネスリーダーたちが、各地域の特性を生かしたサステナブルなビジネスモデルやコミュニティを誕生させている。

地方の課題解決は日本の希望となり、やがて世界の先進モデルにもなり得る──」そう語るのは、ローカル✕ビジネスを展開するSHONAI 代表取締役の山中大介さんとNEWLOCAL 代表取締役の石田遼さんだ。

地方の可能性や面白さ、また地域に根ざしたキャリアのつくり方について、山中さん、石田さん、そして地域おこし協力隊の制度を活用して移住した人たちの話から紐解く。

※1〜3年の期間、地方自治体の委嘱を受け地域で生活し、各種の地域協力活動を行う総務省の制度。

*Business Insider Japan主催のオンラインイベント「いま、ローカルビジネスが面白い。地域×キャリアのつくり方」(2024年11月20日開催)の内容から、一部編集してお届けします。

▼イベント動画はこちら

六本木のバーで行われていたことが、庄内のサウナで起きている

山中大介/SHONAI 代表取締役

山中大介/SHONAI 代表取締役。1985年東京生まれ。三井不動産に新卒で入社後、2014年に山形県・庄内地方に移住。「地方の希望であれ」をVISIONに掲げ、地方から新しい経済を創出し、地域課題を未来への希望に変えることを目指す。ホテル『スイデンテラス』や農業ロボット『アイガモロボ』、地方特化型ダイレクトスカウトサービス『チイキズカン』、教育施設『キッズドームソライ』など、観光、農業、人材、教育の4領域に横断的に取り組んでいる。

「課題先進国」とはいえ、都市部に住んでいると、地方で一体どんなことが起きているのか、解像度高く理解することは難しい。

10年ほど前に、地方に可能性を見いだし山形県庄内市で起業した、SHONAI代表取締役の山中大介さんはこう話す。

「以前はどちらかというと、“地方は都市部での生活に疲れた人が休みに行く場所”、あるいは“都市部で思うようにいかなかった人が行く場所”という印象を持たれがちでした。

いま、地方に興味を持っている人は全然違います。

地方には課題も事業ニーズも山ほどあり、ビジネスチャンスだらけ。都市部の大企業の第一線で活躍しているような人が、地方に目を向けています」(山中さん)

石田遼/NEWLOCAL 代表取締役

石田遼/NEWLOCAL 代表取締役。1986年東京生まれ。東京大学大学院で建築・都市設計を専攻後、マッキンゼー・アンド・カンパニーにて企業・政府の戦略策定・実行支援を行う。2022年 NEWLOCAL創業。「地域からハッピーシナリオを共に」をミッションに日本各地で不動産開発を中心としたまちづくりを行い、人口減少社会における持続可能な地域モデルの実現を目指す。

「5年前であれば六本木のバーで話されていたようなビジネスの面白い話が、いまは庄内のサウナでされている。

日本を変えていくような新しいことは地方で起こっていて、それを東京に持って帰ってみんなでシェアしているような感覚があります」(石田さん)

そう話すのは、2022年にNEWLOCALを創業し、東京と地方を行き来する生活をしている石田遼さん。石田さんは現在、長野県の野沢温泉村と御代田町、秋田県男鹿市、京都府丹後といった4つの地域で、不動産開発を中心としたまちづくりを手がけている。

一方で山中さんは、山形県の庄内地域を拠点に観光・農業・人材領域、そしてフリースクールや学童保育といった教育領域にも注力している。

一つの地域で確立させたモデルを横展開し、日本の各地域で応用するというのが、二人の共通したビジョンでもある。

地域に必要なのは、意志を持ったリーダー

山中大介/SHONAI 代表取締役と石田遼/NEWLOCAL 代表

しかし、ひとくちに地方といっても、それぞれに個性や特徴がある。

新しい取り組みがうまくいく地域とそうでない地域には、どのような違いがあるのだろうか。

「僕の感覚では、強い意思を持ったリーダーがいるところはうまくいきやすいと感じます。

年間で20〜30カ所に行き、地域のキーパーソンと会っていますが、この地域をこう変えたい、次世代にむけてこうしたいという思いを持った人がいると、進み方も広がり方も全然違います」(石田さん)

石田さんの言葉に同意しながら、山中さんも「自主性と当事者意識がない地域は発展が難しい」と話す。

「地方は課題だらけなので、事業に対するニーズがないということはまずないんですよ。

だとしたら、地方で事業がうまくいかない理由は、戦略が間違っているからです。

とはいえ、戦略を考え、変え続けながら前に進むのはとても大変。それだけのモチベーションがあるかどうかが大事だと思います」(山中さん)

地方には、世界とつながるチャンスがある

地方の山々

Getty Images / thanyarat07

この人口減少社会で人類が歩むシナリオを考えたとき、「大都市よりも地方の方がシステムを変えやすいし、可能性がある」と石田さん。

地方には打席に立てるチャンスがたくさんあるほか、成功したときの手応えやインパクトも見えやすいからだ。

また近年では、ローカルの大学発スタートアップなどが、東京ではなくダイレクトに海外とつながったり、海外の投資家から出資されたりということも起きている。

「人口減少社会の中では、国内の需要を取り合うような産業はどこかで限界がきます。日本から飛び出して、新たな市場を作りにいくべきだと思います」(山中さん)

インバウンド需要を考えても、地方には食や歴史、自然、文化など、豊かな資産が多くある。また海外市場に向けては、伝統工芸品や町工場の技術など、ディープな魅力がたくさん眠っている。

“都市部を経由する”というマインドを捨てて直接世界と繋がれば、そこに大きな価値が生まれ、優秀な人材が集まり、大きな経済成長につながると山中さんは考える。

「そうなったとき、外部からの資本や移住者が増えることで、これまで持っていた地域の良さや伝統がなくなるのではないか、という危惧する人もいます。

しかし、歴史的に見ると地方は常に何らかの刺激を受けながら、更新されてきました。

外からの風をガードするのではなく、地域側が意志や戦略を持ってこの先をデザインしていくことが今後より重要になるのではないでしょうか」(石田さん)

資本にしろ、移住者にしろ、入ってきたときの受け皿をどう作るか。地域に求められるのはその明確な戦略で、我が街をどうしたいかというはっきりとした方向性とデザインが必要だと、2人は話した。

地域おこし協力隊に聞く、移住・起業のリアル

さらに、都市部から移住して地域活性化に取り組む、地域おこし協力隊経験者の3名にも、地域づくりの面白さについて話を聞いた。

加藤朝彦

加藤朝彦(一般社団法人HATCH/一般社団法人移住のすゝめ)/札幌市出身。2017年8月に東京から北海道・喜茂別(きもべつ)町へ地域おこし協力隊として移住し、任期後の2019年に、coffee&sharespace tigrisを開業。喜茂別町をフィールドに、主に経済と教育における地域格差をなくすためのプロトタイプを開発している。

村木亜弥香

村木亜弥香/大学卒業後、企業でカスタマーサクセス開発・運用や店舗開発・運営などの経験を積んだ後、生まれ故郷の滋賀県・愛荘(あいしょう)町にUターン。現在は、地元の資源を使用した日本酒『はたしょう』やアップサイクルクラフトビール『リタ』、車社会でもある地元で楽しんでもらえるように開発したノンアルコール『リタオフ』をプロデュースしている。

小宮山剛

小宮山剛/福岡・博多生まれ。慶應義塾大学卒。静岡のガス会社、業界新聞記者等を経て、2019年に宮崎県・椎葉(しいば)村の地域おこし協力隊(クリエイティブ司書)に。2024年から独立し、現在は、椎葉村図書館の事業ディレクションや熊本・南関(なんかん)町での新図書館創生事業、また北九州市門司(もじ)区の老舗企業である岡野バルブ製造の広報・地方創生業務を担務している。

Q1. 地域おこし協力隊として参加する地域を選んだ決め手は?

Q1

「日本には温泉があって食べ物がおいしくて、人がいい地域はたくさんありますが『秘境です!』と謳って本当に秘境な地域はなかなかありません。

でも宮崎県椎葉村は、ずば抜けて田舎だった。東京の世田谷区という都会から、とことん奥地に行ってやろう、という思いに突き動かされて移住を決めました」(小宮山さん)


「きっかけは、亡くなった祖父です。若いころから地域に根ざした活動をしていて、夢を語るだけでなく実行してきた人でした。

その背中を見て、私も生まれ育った地域に何か還元できないかと思い、私らしい形で未来にバトンを繋いでいきたいと思いました」(村木さん)

Q2. 地域で手掛けたことで、一番印象に残っていることは?

Q2

「祖父が作っていた酒米を使った日本酒『はたしょう』を、14年ぶりに復活させたことです。

さらに、愛荘町の特産品である山芋のB級品をアップサイクルしてクラフトビールを作ることも実現でき、販売1カ月で完売というのも感慨深い出来事でした。

山芋は育てるのに3年の手間暇がかかっていますが、多い時には5〜7割ほどが形が良くないB級品になってしまうため、地域の課題に取り組みながら愛荘町を知っていただくきっかけづくりができたと思っています」(村木さん)

Q3. 進める中で、大変だったことは?

Q3

「東京ではIT関連のスタートアップで働いていて、日々スピーディーな意思決定が必要な環境でしたが、移住して感じたのは、“良くも悪くもスローである”ということです。

これをやりたいと行政に企画書を出しても、ゴーサインが出るまでに2週間かかることも……。

当初はそれがもどかしかったのですが、いまとなっては地域のペースにあわせて順を追って進めることのバランスに気がつけたのはよかったなと思います」(加藤さん)

Q4. 都市圏以外で暮らすこと、仕事をすることの良さは?

Q4

「椎葉村の人口密度は、1平方キロメートルあたり4〜5人ほどで、外に出て叫んでも誰にも聞こえないくらいの人しかいません。

必然的に地域での仕事に対する重要度も、影響力も大きい。つまり、一人ひとりにかかる負荷が高い分、見返りも大きいんです。それが地域で仕事をするということだと思います」(小宮山さん)

Q5. 経験もスキルもないけれど地域活性に関わりたい場合、何から始めるといい?

「地域によって課題が違うので一概には言えませんが、好きな地域を見つけて、自分だったらその地域の課題をどう解決できるか。好きだと感じた部分を伸ばすにはどうしたらいいか。そういったところから取り掛かるといいのではないでしょうか」(村木さん)


「『SMOUT(スマウト)』などの移住支援サービスを活用して、自分の気になった地域で面白そうな暮らしをしている人に、コンタクトを取ってみるといいと思います。

あとは実際に現地に行くことです。その街の空気を感じると、暮らしたり活動したりするイメージも湧くと思います」(加藤さん)

Q6.地域おこし協力隊の経験者として、伝えたいことは?

「(学校卒業後などに)いきなり地域おこし協力隊になるのもひとつの方法ですが、その前に企業などで働いて経験を積んで、具体的にやりたいことを見つけたら地域おこし協力隊を活用して挑戦するという方法も良いと思います。

だから焦らなくてもいいし、自分が持っているスキルを活かせる場所がどこかに必ずあるはずです」(小宮山さん)


「地域おこし協力隊として移住した後、勇気を出してやってみたいことを地域の人に話したら、いろいろと動いてくださり、現在の活動につながる素敵な物件と巡り合うことができました。

壮大な夢でも、検討段階の些細なことでもいいので地域の誰かに思いを伝えてみると、背中を押してくれる人がいるものです。

まずは言葉にして、そして行動することが大事なのではないかと思います」(加藤さん)

▼当日のイベント動画(フルver)はこちらから


地域おこし協力隊について、詳しくはこちら

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