日本のほぼ裏側、大西洋に浮かぶ火山島のカナリア諸島(スペイン)には、1500年以上島民に食べ継がれるソウルフードがある。
その名はゴフィオ。15世紀、島が大航海時代のスペインに征服されてもなお、先住民の伝統食として今日まで生き延びてきた。主食でもあり、朝食にもなり、お菓子にもなるとか。いったいどんな食べ物で、なにゆえ支持されてきたのか。
まずは味わうことから始めることにした。
カナリア諸島は七つの島からなる。スペイン本土から南西に1300キロ離れた西アフリカ沖にある。
中心地の一つ、グランカナリア島はコロンブスが1492年、アメリカ大陸に向かった際に寄港した島としても知られる。
12月下旬、記者がふだん拠点にしているパリから直行便で4時間飛び、その島に降り立った。
陽光がたっぷりと注ぎ、サボテンが道ばたの至る所に生えていた。
「大西洋のハワイ」と呼ばれる欧州の観光地だけあり、冬でも最低気温は20度ほど。日中は30度近くまで上がる。
チェックインしたホテルの人に相談すると、「カナリア料理ならここがいいですよ」と、1952年創業、島南部の老舗「エルボヤ」を紹介してくれた。
ザザー……。浜辺に打ち寄せる波音が心地よい。海の家のような、開放的な平屋のレストランだ。砂浜に面したテーブルに、大西洋を望む。遠い雲がゆっくりと、海原を右から左へと流れていく。
注文したのは「ゴフィオ・エスカルダード」。
見た目と食感は、粘りけを強くしたポタージュのようだ。どろりとしていて、トウモロコシを焦がしたような香ばしさがある。塩味をベースに、いろいろなだしや香辛料が利いているようだ。
口に含むと、おなかに優しく、温かく注がれる。添えられた生タマネギの辛みでまた、食が進む。
シェフのオリベル・モレノセルパさん(42)は「カナリアの家庭料理ですよ」と説明してくれた。
ゴフィオというのは、煎った大麦やトウモロコシ、あるいは小麦を粉にしたもので、練ったりスープに溶かしたり、あるいは砂糖などと混ぜてお菓子に焼いたりと、いろいろな使い方があるのだという。
いただいた「ゴフィオ・エスカルダード」というのは、島では主に昼に食べるものという。見た目はシンプルながら、ボリュームがあるためだ。
作り方は、水にオリーブオイ…
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