4人組バンド・King Gnuが1stアルバム「Tokyo Rendez-Vous」をリリースした。オルタナティブでありつつ、哀愁漂うメロディと美しいハーモニーが醸し出す歌謡性を併せ持つKing Gnu。オリジナリティにあふれていながらも、しっかりと歌モノに着地させるバランス感覚に、新世代のミクスチャーバンドとしてすでに注目している音楽リスナーも多いだろう。今回音楽ナタリーではメンバー全員へのインタビューを実施。個性派ぞろいの彼らにアルバムへの思いを聞いた。
取材・文 / 上野三樹 撮影 / 草場雄介
ダサい映像に音楽を付けたくない
──前身バンドであるSrv.Vinciのときからアメリカツアーなど精力的な活動を行って注目を集め、今年の春にKing Gnuに改名して新しいスタートを切ったわけですが、そこにはどんな狙いがあったのでしょうか?
常田大希(Vo, G) Srv.Vinciのときはソロプロジェクトのような感じで今よりもっと個人的な音楽を志向してたんですけど、このメンバーが入ってみんなでやってるうちに、ちょっとそのスタンスが変わってきたと言うか。それで俺が「名前も変えよう」と言ったんです。
──改名してすぐの今年の夏には「FUJI ROCK FESTIVAL」をはじめとするフェスに出演したほか、ミュージックビデオでも独自のクリエイティビティを発揮しており、King Gnuに注目しているリスナーも多いと思います。まず“鬼才集団”と称されるメンバーのプロフィールについてお聞きしたいのですが、常田さんは東京藝術大学でチェロを専攻していたんですよね。どのような大学生活を過ごされていたんですか?
常田 大学には1年も通ってなくて、すぐ辞めちゃったんであまり思い出はないですね。とりあえず入っただけと言うか、クラシックへの興味は今でもありますけど、そっちの世界で生きていこうとは思わなかったです。大学で知り合ったミュージシャンとは今でもつながりはありますけど、昔からいろんなシーンに出入りして、いろんな音楽の要素をバンドに還元してきて、俺のスタンスは当時とあまり変わってないですね。
──常田さんはクリエイティブチーム・PERIMETRONとしての活動も行っていますね。演奏だけでなく、MVなども手がけるようになったのはいつ頃からですか?
常田 PERIMETRONは去年立ち上げたチームで。単純にダサい映像に俺らの音楽を付けたくないと思ったんですよ。King Gnuとはまったく別軸の活動なんですけど、自分たちでKing Gnuの映像も作っちゃったほうがいいかなと。
──ほかのアーティストのMVも手がけていますよね。
常田 そうですね。でも予算がないと機材も借りられないし、MVの制作は基本的にやりたくないというスタンスです。友達のアーティストならいいかなって感じで。King GnuのMVに関しては、PERIMETRONのみんなに協力してもらいながら作ってます。でも俺はあまり何もやってなくて、役割としてはふんわりしてます(笑)。
誰にでも届き得る声
──常田さんと幼なじみである井口さんも東京藝術大学出身で、大学では声楽を学ばれていたそうですね。声楽ってかなり厳しい世界なんじゃないですか?
井口理(Vo, Key) そうですね。学生の人数が多いわりに就職口は狭いですし。僕はそんなに声楽がやりたかったわけではなくて、劇団に足を運んだり、ミュージカルや演劇に役者として出演したりしながら、何か面白いことがやれたらいいなと思っていて。大学にはがんばって入ったんですけど、自分にはクラシックや声楽に向いてないのかなとだんだん思い始めたんです。高校時代にはバンドをやっていたこともあるし、とりあえず人前に出れていればいいのかなと。やりたいことは無数にあったからオペラや歌曲だけやるのもしんどくなってきて。
常田 俺は声楽的な歌が嫌いなんですよ(笑)。なので、このバンドにそういう要素はないですね。発声も違うし。俺が大学を辞めたあと、学園祭に出てくれっていう話があって大学に行ったときに、たまたまサトルが学校にいて再会したんです。7、8年ぶりとかだったよね?
井口 そうだね。
常田 だからすごく仲がよかったっていうわけではなくて。小学校も同じだけど、サトルは1個下で、存在は知ってるくらい。大学で再会したあとに俺のライブを観に来てくれたんだよね。
井口 そしたら、「曲をレコーディングするからコーラスをやってくれない?」という誘いを受けて。
──コーラスをお願いするくらいだから、井口さんの声が好きなのでは?
井口 そういうわけじゃないみたいですよ(笑)。
常田 別に好きじゃないっすね(笑)。俺の声はオルタナ的なんですけど、そういう声って届く人と届かない人がいるじゃないですか。サトルの声は誰にでも届き得る声質と言うか。
井口 「嫌われない声」ってよく俺に言うよね(笑)。
常田 そう、嫌われないっていうのはすごいことだと思っていて。俺の声だけの曲だと嫌いな人も多いと思うんです。そこをサトルが広げてくれると言うか、メジャー感のある声だと感じているので。
──ある意味、策略的にバンドに井口さんを入れたんですね。
常田 ちょっと言い方はアレですけど、そうっすね。だから最初の頃はサトルに細かいディレクションをしていました。
1人ひとりのストロングポイントが違う
──新井さんは国立音楽大学の学生ではないのに、国立音大のビッグバンドに所属していたそうですね。
新井和輝(B) はい。国立音大のビッグバンドのサークルでは、ギターとベースのパートが外部から参加するのが通例になっていて。俺の前にやってた先輩と知り合いで、そのツテで入りました。高校時代は軽音部に入ってたんですけど、先輩に誘われてジャズのライブに行ったのがきっかけでジャズにハマッていって。最初はバンドをやろうという考えはなくて、ベーシストになろうとしか思ってなかったんです。でも常田からサポートの話がきたときに、セッションだけをやる音楽に飽きていたのもあって、「このバンドに入りたいんだけど」という話を僕からしました。
井口 俺と和輝はサポートで入って、そのままヌルッと正式加入した感じですね。
常田 サトルもサポートボーカルだったからね(笑)。
勢喜遊(Dr, Sampler) そのときに4人でやった感触がよかったから、「これを固定メンバーにしない?」という話になったんです。
──勢喜さんはご両親が元ミュージシャンで、ストリートダンスもされていたそうですね。
勢喜 そうですね。小さい頃から家にあった電子ドラムを叩いてましたし、音楽をやることを親から反対されなかったし、いい環境だったと思います。徳島でひとりっ子として育てられて、親は「何かやりたいなら早く東京に行けば?」みたいな感じで。小、中学生の頃はダンスばっかりやってたんですけど、高校に入ってからは自然とドラムにシフトしていきました。上京して以降は知り合いからの紹介を頼りに、いろんな人とセッションさせてもらいました。
常田 そうやって遊がセッションしてたときに僕らは出会いました。
──「この4人でバンドをやろう」と思ったときに、どんな可能性を感じました?
常田 1人ひとりのストロングポイントが違うところがいいなと思いました。クラブにも出入りしている俺にはバンドのビートは強くあってほしいという思いがあって、遊にはサンプラーもやってもらってます。
勢喜 俺がサンプラーを持ち込んだわけじゃなく、「どうやってやるの?」ってところから教えてもらったんですけど、今ではドラムとサンプラーの両方をやるスタイルになっています。
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アルバムのテーマは「歌もの」
- King Gnu「Tokyo Rendez-Vous」
- 2017年10月25発売 / PERIMETRON
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[CD]
1800円 / UXCL-128
- 収録曲
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- Tokyo Rendez-Vous
- McDonald Romance
- あなたは蜃気楼
- Vinyl
- 破裂
- ロウラヴ
- NIGHT POOL
- サマーレイン・ダイバー
- King Gnu 1st ONE-MAN LIVE「Tokyo Rendez-Vous」
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2018年1月28日(日)東京都 WWW
- King Gnu(キングヌー)
- 2015年に結成された、東京藝術大学出身のクリエイター・常田大希(Vo, G)が率いるミクスチャーバンド。常田、勢喜遊(Dr, Sampler)、新井和輝(B)、井口理(Vo, Key)の4人体制になったのち、2017年5月にバンド名をSrv.VinciからKing Gnuに改名した。同年10月に1stアルバム「Tokyo Rendez-Vous」をリリース。2018年1月28日には初のワンマンライブ「Tokyo Rendez-Vous」を開催する。