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時間という禁断のテーマに挑んだ本格派ノベルゲーム『シュタインズ・ゲート』インプレッション
【プレイ・インプレッション】

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●秋葉原を舞台に、偶然タイムマシンを作ってしまった主人公たちがたどる、数奇な運命。その複雑なストーリーを、膨大なテキスト量で描き出す

 『シュタインズ・ゲート』は、時間をテーマにした想定科学アドベンチャー。携帯電話を使った、メールなどのやり取りによってストーリーが分岐する。Xbox 360で発売される本作を、ファミ通Xbox 360を中心にレビューや攻略記事を担当してきた古株ライター、石井ぜんじがインプレッションする。

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▲電話レンジ(仮)と呼ばれる装置が、偶然にタイムマシンの機能を持っていた。その発明をめぐり、世界は大きく変化していく。


●テキストアドベンチャー本来のおもしろさを持つ『シュタインズ・ゲート』

 本作はテキストを読み進めることによってストーリーが進行し、分岐によって変化していく。ストーリー分岐に携帯電話を使う発想は新しく、雰囲気を壊さずに分岐するのが特徴だ。これはスマートなシステムであるが、だからといってシステムに頼ったタイプのゲームではない。

 本作の魅力とは、物語とキャラクターが持っている根源的な力である。そしてグラフィック、音楽、声優の演技がそれを巧みに演出する。つまり本作は、典型的かつすぐれたテキストアドベンチャーである、と筆者は思う。

 それでは本作ならではの魅力と特徴を、ネタバレに注意しながら紹介していこう。

●ネットスラングが、物語の世界線を“いま”に固定する

 主人公の岡部倫太郎(通称オカリン)は、みずからのことを“鳳凰院凶真”と呼ぶ風変わりな大学生だ。その奇矯な言動は、いわゆる“厨二病”と言われる症状を示す。電源の入っていない携帯に話しかけたり、“機関”に追われているなどと口走ったりするのが日常茶飯事だ。相棒のダルとの会話は、ネットスラングが飛び交うネタ満載の内容。このアクの強い会話に、拒否反応を示す人がいるかもしれない。

 だがオカリンの言動やネットスラングは、ストーリーを進めていく上で、大きな効果を果たしている。それは物語を、“いま”に強く結び付けているという効果だ。本作が扱っているのは、タイムマシンという古典的な題材である。しかもそれは現実にはあり得ないと思われている、空想的な機械だ。このような題材を扱う上で重要なのは、奇矯な話を“ありそうな話”に思わせること。オカリン、ダル、フェイリスらの会話を聞くとさすがに「そんなヤツいねえよ」と突っ込みたくなるが、ふだんネットでの書き込みを見ていればそれほど違和感がないのも事実。テキストを読み進めていくうちに、次第に気にならなくなっていくから不思議だ。

 独特の会話やネタが、物語の中の時間を“いま”にしっかり固定する。私たちに近い時間を生きているからこそ、世界線がずれたとき(過去が改変されたとき)に違和感を覚えることができるのだ。それがネットスラングの、真の効用といえよう。

 また主人公の岡部倫太郎は、心の底から厨二病なのではない。真性というよりは、仮性厨二病というべきか。意図的に演じていると思われるフシがあり、素に戻ればやさしく臆病なひとりの学生である。それが理解できれば、より微笑ましく、楽しく主人公の語りを楽しめることだろう。

 だが登場人物に愛着が湧けば湧くほど、シナリオ後半の急展開には手に汗握ることになる。序盤の主人公とは別の意味で、“痛さ”を感じる展開となる。ネタバレになるのでくわしくは語れないが、本作はとても切ない物語である。

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▲単なるオタクネタに走った話ではない。その中身は時間をテーマにした、世界と人間の関係を深く考えさせられるドラマなのだ。


●紡いだ世界線で織り上げる、ち密なまでの曼荼羅模様

 本作の大きなテーマは“時間”である。時間とはとらえどころのないものなのだが、人間は時間を認識することによって意識を整理し、他者とコミュニケーションをとっていく。世界にとって本当に時間という単位が必要かどうかは謎だが、少なくとも人間の社会生活にとって時間という概念は不可欠なものだ。

 人間にとって時間は流れているように感じられ、過去にさかのぼることはできない。もし過去に戻れたとしたら、因果律が破綻してしまう。因果律を破綻させないためには、それを説明する別の論理が必要だ。

 単純に言えば、タイムマシンで過去にさかのぼるといろいろ問題が起こるということ。この問題を、世界が、そして主人公たちが、どのように解決するか、ということが焦点となる。

 本作が非常にすぐれているのは、シナリオの細部にわたって、伏線が星の数ほど散りばめられているところだ。過去を改変することで、未来の細部に齟齬が発生する。最初のプレイでは見過ごしていたどうでもいいことが、未来からの干渉によるものだということに気づかされる。時を超え、すべてがつなぎ合わされていく感覚に、プレイヤーは戦慄を禁じえないだろう。

 ただしその全貌を理解するには、1回のクリアーでは不可能だ。むしろその真価を発揮するのは、2回目のプレイからかもしれない。すべてのエンディングを見なければ、その全貌を理解したとは言えないと思われる。

 謎めかした、もったいぶったミステリー仕立てのマンガやアニメ。それを見ながら、自分なりに真相を考えるのは楽しいものだ。だが最後まで観てしまうと、つじつまの合わない強引な結末に、がっかりすることも多い。だが本作は、すべてが縒り糸のように捩れ、結びつきながらつながっている。そのようなシナリオを創ることが、どれほど大変なことか。しかもこの膨大なテキスト量である。それだけでも本作には、凡百のミステリーを上回る質の高さがあるといってよいだろう。

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▲その些細な違和感が、どこから来るのか? 平板なストーリー進行と思えても、あとで大きな意味を持ってくるので侮れない。謎解きが好きなユーザーにはオススメだ。

 

Text by 石井ぜんじ 

 

筆者紹介 石井ぜんじ

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ファミ通Xbox 360誌でクロスレビュー、攻略を担当する古株ライター。ゲームの文章を書き始めてから20数年、飽きずに続けております。過去に『NINJA GAIDEN(ニンジャガイデン)』シリーズ、『ドリームクラブ』などの攻略本に参加。10年ROMってる“ねらー”で、なおかつ“ニコ厨”。いつの時代にも通用する普遍性を理解し、いまの最先端に活かしていきたいですね。

 

『シュタインズ・ゲート』

対応機種

Xbox 360

メーカー

5pb.

発売日

2009年10月15日発売

価格

7140円[税込]

テイスト/ジャンル

アドベンチャー/科学・サスペンス

CERO

15歳以上対象

備考

限定版は9240円[税込]、未来ガジェット3号機「もしかしてオラオラですかーッ!?」(ウソ発見器)&設定資料集「VISUAL COLLECTION」同梱、企画原案:志倉千代丸、キャラクターデザイン:huke、ガジェットデザイン:SH@RP、シナリオライター:林 直孝(5pb.)、シナリオ構成協力:下倉バイオ(Nitroplus)、プロデューサー:松原達也(5pb.)、アートディレクター:ぺはら塗装(Nitroplus)、音楽:阿保 剛(5pb.)、磯江俊道(ZIZZ.)、開発:5pb./ニトロプラス


※『シュタインズ・ゲート』の公式サイトはこちら

[石井ぜんじの過去のレビュー記事]
※じっくりと余韻を楽しみたい大人のギャルゲー『ドリームクラブ』インプレッション
※プレイヤーの腕がしっかり反映される『バイオニック コマンドー』インプレッション
※戦略性がほどよくアクションに融け込んだ絶妙のバランス『真・三國無双5 Empires』インプレッション
 

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