2020.04
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リッチな甘みのデザート酒!「貴醸酒」の製法と特徴を学ぼう
「貴醸酒」と呼ばれる日本酒をご存知ですか? 最近では、飲食店のメニューやお酒売り場でも見かけることが増えてきました。貴醸酒は、リッチな甘みと上品さを持ち合わせるお酒です。とろりと濃厚で、かつ気品ある味わいには、一般的な日本酒とはまた違う大きな魅力があります。
今回は、そんな「貴醸酒」の定義や歴史、造り方や味わいの特徴を学んでみましょう。おすすめの楽しみ方もご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
「貴醸酒」とはどのようなお酒か
貴醸酒とは、仕込み水の一部または全部に酒を使って造る日本酒のこと です。通常の日本酒に比べてかなり糖度が高く、とろりと甘いリッチなお酒です。
貴醸酒は1973年に、旧国税庁醸造試験所(現独立行政法人 酒類総合研究所)によって開発されました。当時の日本では、国賓をもてなすための晩餐会においては、乾杯酒としてシャンパーニュなどのフランス産ワインが振る舞われていました。 日本の伝統的な酒である清酒(日本酒)が用いられなかったのは、日本酒がワインに比べて「安価なもの」として捉えられていたから です。
この状況を変えたいと思い立ったのが、当時の研究室長であった佐藤信さんでした。 従来のイメージとは異なる「高価な日本酒」をつくるために、水の代わりに酒を利用した酒造りに取り掛かった のです。佐藤さんは所内の研究員たちと共に日夜研究に励み、ついに、濃厚で芳醇な貴醸酒を開発することに成功しました。
貴醸酒の製法について、平安時代の『延喜式』に書かれた「しおり(醞)」という製法(※)の再現だと言われることがありますが、これは厳密には誤りで、上記のような目的を追求した結果としてたまたま似た製法にたどり着いたというのが正しいのだそうです。
(※)米、米麹、水を用いて発酵させたもろみを濾したあと、そこに再度、米と米麹を加える製法。「御酒」と呼ばれる当時の高級酒にこの製法が用いられていたことが『延喜式』に記されている。
「貴醸酒」という名称は「貴醸酒協会」という団体の商標として登録されています。 したがって、この協会に加盟していない蔵が貴醸酒の製法でお酒を造っても、貴醸酒という名前で販売することができません。そこで非加盟の蔵では、貴醸酒造りのお酒を「再醸仕込み」「三累醸酒」「醸醸」などと名付けています。
本稿では、これらの呼称で売られているお酒も含めて「貴醸酒」として解説します。
「貴醸酒」の造り方
貴醸酒造りでは、仕込み水の一部を酒で代用すると述べました。日本酒造りで仕込み水を使う工程は複数ありますが、 ほとんどの貴醸酒では「留添」と呼ばれる工程で水の代わりにお酒を使います(もちろん例外もあります)。 「留添」とは、3段階に分けてもろみを仕込む「三段仕込み」のうち、最後の段階のことです。ここで酒を加えることによって、とろりと甘く濃厚な味わいに仕上がるのです。
各メーカーがさまざまなこだわりを持って貴醸酒を造っており、吟醸酒で仕込んだ貴醸酒、貴醸酒の古酒で仕込んだ貴醸酒、シェリー樽で熟成させた貴醸酒など、そのバラエティーは豊富です。
また、こうして 水の代わりに酒を使う分、貴醸酒はスタンダードな製法の日本酒よりも製造コストが高くつきます。 したがって販売価格も、一般的な日本酒に比べて高めに設定される傾向にあります。
「貴醸酒」の味わい
最後に、貴醸酒の味わいについて解説します。一般的な日本酒と比べてどのような特徴を持っているのか、そしてその特徴はどのようにして生まれるのかを学びましょう。貴醸酒の美味しい味わい方もご紹介します。
味わいの特徴とその背景
貴醸酒はたくさんの糖分を含み、梅酒並みの甘さを持つお酒です。一般的な日本酒よりも、ブランデーやシェリー、紹興酒に近いニュアンスを持っています。 ただ甘いだけでなく、酸味もしっかりと感じられ、口当たり軽快ですっきりした美味しさがあるのが特徴です。たくさんの要素を含んだ、複雑な味わいが魅力です。
このように甘くて爽やかな味わいは、どのようにして生み出されるのでしょうか。
まずは、甘さについて見ていきましょう。日本酒造りでは、米に含まれる糖を酵母が分解してアルコールに変えています。このとき水の代わりに酒で仕込むと、 仕込み酒に含まれるアルコールの影響で酵母の働きが弱まり、本来であれば分解されるはずの糖がそのまま残ります。その結果、貴醸酒は甘い味わいに仕上がる のです。
そして爽やかさの秘密は、貴醸酒の中に含まれる非常に多くの「リンゴ酸」です。日本酒に含まれる酸には、リンゴ酸のほかにコハク酸や乳酸などがあり、これらはそれぞれ異なるニュアンスの酸味を持っています。リンゴ酸はその名の通り、リンゴの果実をかじったときのようなフレッシュでシャープな酸味をもたらす酸です。 日本酒を造る際に、もろみの発酵開始時のアルコール濃度が高いと、リンゴ酸がたくさん発生する ことがわかっています。通常は水を使用する仕込みの場面で、酒、つまりアルコールを含む液体を使用する貴醸酒では、一般的な日本酒に比べてリンゴ酸の割合が高くなり、これが甘さの中に軽やかさをもたらしてくれるのです。
貴醸酒ではこのほか、苦味や渋味を感じさせる成分の含有量も一般的な日本酒に比べて多く、これが芳醇でコクの深い味わいにつながっています。
こんな楽しみ方はいかが?
貴醸酒の中にも「新酒」と「熟成酒」があり、それぞれ異なる美味しさが楽しめます。 新酒はキリッと冷やすかオンザロックで、食前酒や食中酒として 楽しみましょう。いっぽう 熟成酒は、少し冷やすか常温で、食後酒やお休み前の一杯 にどうぞ。チーズと一緒に味わうと、双方が旨味を引き立てあって、とても美味しいですよ。
また、 バニラアイスクリームに貴醸酒をたっぷりかけて味わうのもおすすめです。 甘くてほろ苦い大人のデザートを、ぜひ楽しんでみてください。
まとめ
貴醸酒は、水の代わりに酒を使って仕込んだ贅沢な日本酒です。濃厚な甘さとすっきりとした爽やかさ、そしてほろ苦さを含んだ複雑な味わいは、リッチな気分を味わいたい日にぴったりです。
食前酒、食中酒、食後酒やナイトキャップ、そしてデザートまで、幅広く楽しめる貴醸酒。未経験の方は、これを機に、ぜひ芳醇な味わいを試してみてください。
参考文献:
佐藤 信, 大場 俊輝, 高橋 康次郎, 蓼沼 誠「清酒でつくる清酒いわゆる貴醸酒を開発するまで」(日本釀造協會雜誌, 71巻8号, 1976)
高橋 康次郎「貴醸酒」(食品と容器, 55巻7号, 2014)
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