明細書
新規な細胞増殖促進剤 技術分野
本発明は細胞増殖促進剤に関するものである。 具体的には、 胚性幹細胞や体性幹 細胞の細胞増殖促進剤を提供するものである。 背景技術
胚性幹細胞 (ES細胞) や体性幹細胞 (組織幹細胞) などの幹細胞は神経疾患、 糖 尿病、 白血病などに対する移植療法の資源として期待されている。 ES細胞は受精卵 (胚盤胞) の内部細胞塊に由来し、 分化多能性を有することから特に価値が高い。 マウス ES細胞は白血病阻害因子 (LIF) により分化多能性を維持することができる 。 しかしヒトおよびサルの ES細胞は LIF存在下でも、 分化多能性を完全に維持しつ つ増殖させることが難しい。 一方体性幹細胞は受精卵を利用しないため ES細胞のよ うな倫理的問題が無いという長所を持つ。 しかし体性幹細胞は ES細胞よりも増殖が 悪く、 十分な細胞数を得ることが難しい。 そのため、 これら ES細胞や体性幹細胞の 増殖促進物質が望まれている。
本発明者は、 ES細胞で特異的に発現する遺伝子群 ECAT (ES cell associated transcript) を同定し、 その機能を解析してきた (W0 02/097090 A1) 。 これまで に、 ECAT4 (Nanog) はホメォボックス転写因子であり、 Nanogを ES細胞で過剰に発 現させると LIF非依存的に分化多能性を維持できること (Cell, 113, 631-642 (2003) ) 、 および ECAT5 (ERas) は恒常活性型の Ras 蛋白質であり、 ERasは PI3キナ ーゼの活性化を介して ES細胞の増殖を促進していること (Nature, 423, 541-545 (2003) ) などが明らかとなっている。 ERasは ES細胞だけでなく NIH3T3細胞やマウス 胎児線維芽細胞 (MEF) に対しても強い増殖促進を示す。 発明の開示
本発明は、 可逆的な細胞増殖促進剤、 特に胚性幹細胞 (ES細胞) や体性幹細胞の 可逆的な細胞増殖促進剤を提供することを目的とする。
現在、 多分化能を維持したまま ES細胞や体性幹細胞を大量生産することは極めて 困難であり、 未だ達成されていない。 また遺伝子導入は、 リポフエクシヨン法ゃレ ト口ウィルスベクター法などの公知の方法により達成できるが、 (i)高い導入効率 を得ることが難しい、 (ii)導入された遺伝子は染色体に取り込まれるが染色体のど こに組み込まれるか不明で不可逆的であるため癌化するリスクが高い、 (iii)操作 が煩雑なために多数の細胞を一度に処理しにくい、 などの様々な課題がある。 した がって臨床応用を考えると、 細胞増殖に関与する遺伝子を遺伝子導入して細胞を増 殖させることは現実的ではない。
そのため、 本発明は遺伝子導入によらない臨床応用可能な細胞増殖促進剤を提供 することを目的とする。
本宪明者は、 上記の問題点を解決すべく鋭意検討し、 ERas (ECAT5) タンパク質 に HIV由来の TATぺプチドを組み合わせた融合タンパク質を培地に添加することによ つて、 該融合タンパク質が細胞に取り込まれて細胞増殖が促進されることを見出し た。 なお、 培地から融合蛋白質を除去すると、 細胞内に取り込まれた蛋白質が分解 されるとともに反応は停止するため、 本発明における細胞増殖促進作用は可逆的で ある。
これらの知見から、 本究明者は、 ERasタンパク質を細胞に取り込ませることによ つて細胞増殖を可逆的に促進させることができ、 特に、 多分化能を保ったまま培養 して増殖させるのが困難な胚性幹細胞や体性幹細胞を増殖させるのに有用であると 考え、 本発明を完成するに至った。 ' 即ち本発明の要旨は、 以下のとおりである。
[ 1 3 タンパク質導入ドメインぉよび ERasタンパク質を含んでいることを特徴とす る融合タンパク質、
〔2〕 ERasタンパク質がヒト、 サル、 ゥシまたはマウス由来のものである、 上記 〔 1〕 記載の融合タンパク質、
〔3〕 タンパク質導入ドメインが、 HIV TAT、 アンテナぺディア ·ホメォドメイン (Antonnapedia homeodomain) 、 HSV VP22また fまこれらのうちレヽずれ力のフラグメ ントである、 上記 〔1〕 または 〔2〕 記載の融合タンパク質、
〔4〕 タンパク質導入ドメインが、 HIV Revのフラグメント、 flock house virus
Coat (FHV Coat)のフラグメント、 brome mosaic virus Gag (BMV Gag)のフラグメ ント、 human T cell leukemia virus- Π Rex (HTLV _ Π Rex)のフラグメント、 cowpea chlorotic mottle virus Gag (CCMV Gag)のフラグメント、 P22 Nのフラグメ ント、 え Nのフラグメント、 Φ 21Νのフラグメント、 酵母 PRP6のフラグメント、 また はオリゴアルギニンからなるペプチドである、 上記 〔1〕 または 〔2〕 記載の融合 タンパク質、
〔5〕 タンパク質導入ドメインが、 線維芽細胞増殖因子 (FGF) 、 肝細胞増殖因子 (HGF) またはこれらのうちいずれかのフラグメントである、 上記 〔1〕 または 〔 2〕 記載の融合タンパク質、
〔6〕 上記 〔1〕 〜 〔5〕 いずれ力記載の融合タンパク質をコードする塩基配列を 含有する核酸、
〔7〕 上記 〔6〕 記載の核酸を含有する発現ベクター、
〔8〕 上記 〔7〕 記載の発現ベクターを含有する細胞、
〔9〕 上記 〔8〕 記載の細胞を、 融合タンパク質の発現可能な条件下で培養するこ とを特徴とする、 上記 〔1〕 〜 〔5〕 いずれ力、記載の融合タンパク質の製造方法、 〔1 0〕 ビスフォスフォネート化合物、 グルコース一 6—リン酸、 P糖タンパク質 に結合活性を持つ化合物またはアルギニンを有する分岐型ぺプチドと、 ERasタンパ ク質との化学的結合体、
〔1 1〕 上記 〔1〕 〜 〔5〕 いずれ力記載の融合タンパク質または上記 〔1 0〕 記 載の化学的結合体を有効成分として含有する細胞增殖促進剤、
〔1 2〕 Nanogタンパク質をさらに含有する、 上記 〔1 1〕 記載の細胞増殖促進剤
〔1 3〕 細胞が胚性幹細胞または体性幹細胞である、 上記 〔1 1〕 または 〔1 2〕 記載の細胞増殖促進剤、
〔1 4〕 上記 〔1〕 〜 〔5〕 いずれ力、記載の融合タンパク質または上記 〔1 0〕 記 載の化学的結合体と細胞とを接触させる工程を含む、 細胞増殖促進方法、
〔1 5〕 Nanogタンパク質をさらに接触させる、 上記 〔1 4〕 記載の細胞増殖促進 方法、
〔1 6〕 .細胞が胚性幹細胞または体性幹細胞である、 上記 〔1 4〕 または 〔1 5〕
記載の細胞増殖促進方法、
〔1 7〕 ピノサイト一シスで上記 〔1〕 〜 〔5〕 いずれか記載の融合タンパク質ま たは上記 〔1 0〕 記載の化学的結合体を細胞内に取り込ませる工程を含む、 上記 〔 1 4〕 〜 〔1 6〕 いずれか記載の細胞増殖促進方法、
〔1 8〕 上記 〔1〕 〜 〔5〕 いずれか記載の融合タンパク質または上記 〔1 0〕 の 化学的結合体を含有する細胞。 図面の簡単な説明
図 1は、 融合タンパク質の例で、 ERasタンパク質の N末端に HIV由来の TATぺプ チドを融合させたものを示している。 これらのタンパク質は大腸菌内や Cell Free 合成系で合成、 精製することができる。
図 2は、 TAT-ERasタンパク質による細胞増殖促進作用を示している。 発明を実施するための最良の形態
本 明において 「融合タンパク質」 とは、 タンパク質導入ドメインと ERasタンパ ク質を含んでいる融合タンパク質であり、 細胞に取り込まれることにより細胞增殖 活性の亢進が認められるものであればよい。 この融合タンパク質を細胞に取り込ま せることにより、 細胞、 特に胚性幹細胞や体性幹細胞などの培養の効率性と経済性 の向上が期待できる。
融合タンパク質における 2つのドメィンの融合はいずれの可能な位置でもよく、 タンパク質導入ドメインは ERasタンパク質の N末端または C末端のいずれに融合し てもよいが、 好ましくは ERasタンパク質の N末端に融合する。
タンパク質導入ドメインは、 公知の方法で融合することができ、 例えば、 直接的 な化学結合により、 あるいはリンカ一分子を介して、 ERasタンパク質に融合しても よい。 かかる場合、 リンカ一分子は、 2つのドメインを連結させることのできるい ずれの 2価の化学構造物であってもよい。 本発明の好ましいリンカ一分子は短いぺ プチド、 例えば、 1〜 2 0個のァミノ酸残基、 好ましくは 1〜 1 0個のァミノ酸残 基を有するものである。 融合タンパク質は公知の遺伝子工学的な手法を用いて作製 することもできる。
本明細書において 「タンパク質」 には、 特定のアミノ酸配列 (配列番号: 2 , 4 , 6または 8 ) で示されるタンパク質だけでなく、 これらと生物学的機能が同等で あることを限度として、 その同族体 (ホモログゃスプライスバリアント) 、 変異体 、 誘導体などが包含される。 ここでホモログとしては、 ヒトのタンパク質に対応す るマウスやラットなど他生物種のタンパク質が例示でき、 これらは HomoloGene ( http : //www. ncbi. nlm. nih. gov/HomoloGene/) により同定された遺伝子の塩基配列 力 ら演繹的に同定することができる。 また変異体には、 天然に存在するアレル変異 体、 天然に存在しない変異体、 及び人為的に欠失、 置換、 付加および挿入されるこ とによって改変されたアミノ酸配列を有する変異体が包含される。 なお、 上記変異 体としては、 変異のないタンパク質と、 少なくとも 70%、 好ましくは 80°/0、 より好 ましくは 95%、 さらにより好ましくは 97%相同なものを挙げることができる。 従って、 本明細書において 「ERasタンパク質」 は、 特に言及しない限り、 特定ァ ミノ酸配列 (配列番号 2, 4 , 6または 8 ) で示される ERasタンパク質やその同族 体、 変異体、 誘導体などを包含する趣旨で用いられる。 具体的には、 配列番号: 2 に記載のァミノ酸配列を有するマウス ERasタンパク質、 配列番号: 4に記載のァミ ノ酸配列を有するヒ ト ERasタンパク質、 配列番号: 6に記載のァミノ酸配列を有す るサル ERasタンパク質、 配列番号: 8に記载のァミノ酸配列を有するゥシ ERasタン パク質、 およびラットホモログなどが包含される。 ここで配列番号 2に示すタンパ ク質は、 マウス由来の ERas遺伝子によってコードされるタンパク質である。 配列番 号 4に示すタンパク質は、 ヒ ト由来の ERas遺伝子によってコードされるタンパク質 である。 配列番号 6に示すタンパク質は、 サル由来の ERas遺伝子によってコードさ れるタンパク質である。 配列番号 8に示すタンパク質は、 ゥシ由来の ERas遺伝子に よってコードされるタンパク質である。
ERasタンパク質には、 配列番号 2, 4, 6または 8に示す各アミノ酸配列を有す るタンパク質のみならず、 その相同物も包含される。 該相同物としては、 上記各ァ ミノ酸配列において、 1もしくは複数 (通常数個)のアミノ酸が欠失、 置換または付 カロされたァミノ酸配列からなり、 且つもとのァミノ酸配列の ERasタンパク質と実 質的に同等の活性を有するタンパク質を挙げることができる。
ここで実質的に同等の活性とは、 該タンパク質を発現させた細胞の細胞増殖が促
進される、 あるいは該タンパク質を取り込ませた細胞の細胞増殖が促進されるとい う性質を示す。 このような ERasタンパク質の性質は、 公知の方法 (Nature, 423, 541-545 (2003) ) などにより容易に測定することができる。
なお、 タンパク質におけるアミノ酸の変異数および変異部位は、 その活性が保持 される限り制限はない。 活性を消失することなくアミノ酸残基が、 どのように、 何 個置換、 揷入あるいは欠失されればよいかを決定する指標は、 当業者に周知のコン ピュータプログラム、 例えば DNA Star softwareを用いて見出すことができる。 例 えば変異数は、 典型的には、 全アミノ酸の 10%以内であり、 好ましくは全アミノ酸 の 5%以内であり、 さらに好ましくは全アミノ酸の 1%以内である。 また置換される アミノ酸は、 置換後に得られるタンパク質が ERasタンパク質の活性を保持している 限り、 特に制限されない。 この置換されるアミノ酸は、 タンパク質の構造保持の観 点から、 アミノ酸の極性、 電荷、 可溶性、 疎水性、 親水性、 両親媒性などにおいて 置換前のァミノ酸と似た性質を有するアミノ酸であることが好ましい。 例えば、 Ala、 Val、 Leu、 Ile、 Pro、 Met、 Pheおよび Trpは互いに非極性アミノ酸に分類され るアミノ酸であり、 Gly、 Ser、 Thr、 Cys、 Tyr、 Asnおよび Ginは互いに非荷電性ァ ミノ酸に分類されるアミノ酸であり、 Aspおよび Gluは互いに酸性ァミノ酸に分類さ れるアミノ酸であり、 また Lys、 Argおよび Hisは互いに塩基性アミノ酸に分類され るアミノ酸である。 ゆえに、 これらを指標として同群に属するアミノ酸を適宜選択 することができる。
ERasタンパク質は、 後述する ERasタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含 有する形質転換体を培養することによって製造することができる。
本発明において 「タンパク質導入ドメイン」 とは、 タンパク質を導入することが できる、 またはタンパク質導入を補助することのできるものであればよく、 何ら限 定されない。 例えば、 (i)公知である HIV TAT、 アンテナぺディア ·ホメォドメイン (Antonnapedia homeodomain) 、 HSV VP22またはこれらのうちいずれかのフラグメ ント、 (ii) HIV Revのフラグメント、 flock house virus Coat (FHV Coat)のフラグ メント、 brome mosaic virus Gag (BMV Gag)のフフグメント、 human T cell leukemia- Π Rex (HTLV Π Rex)のフラグメント、 cowpea chlorotic mottle virus Gag (CCMV Gag)のフラグメント、 P22 Nのフラグメント、 λ Νのフラグメント、 φ
21Nのフラグメントまたは酵母 PRP6のフラグメント、 (iii)オリゴアルギニンを有す るペプチド、 (iv) cell penetrating peptides (CPP) 、 線維芽細胞増殖因子 (FGF ) 、 f細胞増殖因子 (HGF) またはこれらのうちいずれかのフラグメント、 などを 挙げることができる。
前記(i)〜(iii)のいずれかのタンパク質導入ドメインを用いることによって、 広 範囲な細胞に ERasを細胞内に取り込ませることができる。 また、 目的細胞において 特異的に発現するレセプターと結合する物質をタンパク質導入ドメインとして用い ることによつて組織あるいは細胞特異的な取り込みが可能となるため、 前記(iv)の タンパク質導入ドメィンを用いれば、 対応するレセプターが発現した組織あるいは 細胞特異的に ERasを細胞内に取り込ませることができる。
前記(i)のタンパク質導入ドメインである HI V TAT、 アンテナぺディア ·ホメォド メイン (Antonnapedia homeodomain) 、 HSV VP22には、 HIV由来の TAT (Green and Loewnstein, Cell, 56 (6), 1179-88 (1988)、 Frankel and Pabo, Cell, 55 (6), 1189-93 (1988) ) 、 ショウジヨウバエ由来のアンテナぺディア蛋白 (Vives et al. , J. Biol. Chem, 272 (25) , 16010-7 (1997) ) 、 HSV由来の VP22 (Elliott and 0' Hare, Cell, 88 (2) , 223-33 (1997) ) のみならず、 その機能が同等であることを 限度として、 その同族体 (ホモログゃスプライスバリアント) 、 変異体などが包含 される。 なお、 変異体としては、 変異のないタンパク質と少なくとも 70%、 好まし くは 80%、 より好ましくは 95%、 さらにより好ましくは 97%相同なものを挙げるこ とができる。
更に前記(i)のタンパク質導入ドメインは、 HIV TATのフラグメント、 アンテナぺ ディア■ホメォドメインのフラグメントまたは HSV VP22のフラグメントであり、 且 つタンパク質導入機能またはタンパク質導入を補助する機能を有するものも包含す る。 該フラグメントの長さは、 タンパク質導入またはタンパク質導入を補助する機 能を有するのであればよく、 何ら限定はされない。
HIV TAT、 アンテナぺディア ·ホメォドメインおよび HSV VP22は、 細胞膜を貫通 する能力を有する蛋白トランスダクシヨンドメイン (以下、 rpTDj という) が同 定されているため、 タンパク質導入ドメインである HIV TATのフラグメント、 アン テナぺディア ·ホメォドメインのフラグメントおよび HSV VP22のフラグメントには
、 これらの PTDからなるフラグメントも包含される。 異種蛋白と PTDを融合すること により、 培養細胞中に導入することができることは公知であり、 その作製方法も知 られている (Fawell et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 91 (2) , 664-8 (1994) 、 Elliott and 0, Hare (1997) , Phelan et al. , Nature Biotech. 16, 440-443 (1998)および Dilber et al. , Gene Ther. , 6 (1), 12-21 (1999)、 特許番号第
2702285号) 。 HIV TATの PTDについては、 HIV TAT蛋白由来の 11アミノ酸の PTDに融 合した ]3—ガラクトシダーゼ蛋白が、 生きたマウスのすべての組織に浸潤してすべ ての単一細胞に到達できることが報告されている (Schwarze et al. , Science, 285 (5433) , 1569-72 (1999) ) 。
HIV TATのフラグメントどしては、 具体的には、 前記の公知文献等に記載されて いるものを挙げることができるが、 好ましくは特許番号第 2702285号に記載の HIV TATフラグメントであり、 更に好ましくは配列番号 13で示される配列を含有するぺ プチドが挙げられる。 配列番号 13で示される配列を含有するペプチドとしては、 例 えば、 配列番号 17に示されるアミノ酸配列を有する HIV TAT- (48- 60)ペプチドが挙 げられる。
アルギニンに富む塩基性ぺプチドは細胞膜透過能を有しており、 HIV TATのフラ グメントは分子中央部を全てアルギニンに置換しても (配列番号 16) 、 該フラグメ ント (ペプチド) は細胞膜透過能を有することが知られているため (
J. Biol. Chem. , 276, 5836-5840 (2001) ) 、 HIV TATのフラグメント、 アンテナぺデ ィァ -ホメォドメインのフラグメントおよび HSV VP22のフラグメントは、 複数個の アミノ酸がアルギニンに置換されていてもよく、 置換後のフラグメントがタンパク 質導入機能またはタンパク質導入を補助する機能を有していれば、 本発明のタンパ ク質導入ドメインに含まれる。
前記(ii)のタンパク質導入ドメインである HIV Revのフラグメント、 flock house virus Coat (FHV Coat)のフラグメント、 brome mosaic virus Gag (BMV Gag)のフ ラグメント、 human T cell leukemia virus- Π Rex (HTLV - Π Rex)のフラグメント 、 cowpea chlorotic mottle virus Gag (CCMV Gag)のフラグメント、 P22 Nのフラグ メント、 Νのフラグメント、 φ 21Νのフラグメントおよび酵母 PRP6のフラグメント は、 タンパク質導入機能またはタンパク質導入を補助する機能を有するものであれ
ばよく、 何ら限定されない。 これらのフラグメントは、 細胞膜透過能を有すること が知られている (J. Biol. Chem. , 276, 5836-5840 (2001) ) 。 例えば、 HIV Revのフ ラグメントとしては HIV Rev- (34-50)ペプチド (配列番号 18) 、 FHV Coatのフラグ メントとしては FHV Coat- (35- 49)ぺプチド (配列番号 19) 、 BMV Gagのフラグメン トとしては BMV Gag- (7 - 25)ペプチド (配列番号 20) 、 HTLV-Π Rexのフラグメント としては HTLV-Π Rex- (4- 16)ペプチド (配列番号 21) 、 CCMV Gagのフラグメントと しては CCMV Gag- (7- 25)ぺプチド (配列番号 22) 、 P22 Nのフラグメントとしては P22 N -(14-30)ぺプチド (配列番号 23) 、 Νのフラグメントとしては N- (1-22)ぺ プチド (配列番号 24) 、 φ 21Nのフラグメントとしては φ 21N -(12 - 29)ぺプチド (配 列番号 25) 、 酵母 PRP6のフラグメントとしては酵母 PRP6- (129- 144)ペプチド (配列 番号 26) の全部または一部を有するフラグメントが挙げられる。 また、 これらのフ ラグメントの配列において複数個のァミノ酸がアルギニンに置換されてもよく、 置 換後のフラグメントがタンパク質導入機能またはタンパク質導入を補助する機能を 有していれば、 本発明のタンパク質導入ドメィンに含まれる。
前記(i ii)のタンパク質導入ドメィンであるオリゴアルギニンからなるぺプチド は、 タンパク質導入機能またはタンパク質導入を補助する機能を有していればよく 、 何ら限定されない。 オリゴアルギニンおよびオリゴアルギェンを有するペプチド が細胞膜透過能を有することは公知であるため (J. Biol. Chem., 276, 5836 - 5840 (2001)、 J. Biol. Chera. , 277 (4) , 2437-2743 (2002) ) 、 例えば、 これらの文献 に挙げられている細胞膜透過能を有するペプチドをタンパク質導入ドメインとして 用いることができる。 オリゴアルギニンを有するペプチドは、 オリゴアルギユン ( n = 5〜9 ) を有するぺプチドが好ましく、 オリゴアルギニン ( n = 6 ~ 8 ) を有 するぺプチドが更に好ましい。
前記(iv)のタンパク質導入ドメインである、 「線維芽細胞増殖因子 (FGF) 、 肝 細胞増殖因子 (HGF) またはこれらのうちいずれかのフラグメント」 とは、 公知の FGFタンパク質、 公知の HGFタンパク質またはこれらのうちレ、ずれかのフラグメント であり、 対応するレセプター発現細胞にタンパク質を導入する機能またはタンパク 質導入を補助する機能を有するものであればよく、 何ら限定されない。 線維芽細胞 増殖因子 (FGF) のフラグメントとの結合体が細胞内に取り込まれることは公知で
ある (Rojas, M. et al. , Nat. Biotechnol. , 16, 370-375 (1998)、 Lin, Y. Z. et al. , J. Biol. Chem. 270, 14255-14258 (1995) ) 。 従って、 これらの文献に報 告されている FGFフラグメントをタンパク質導入ドメインとして用いることができ る。 FGFのフラグメントとしては、 例えば、 配列番号 15に記載のァミノ酸配列を含 有するフラグメントを挙げることができる。
本 明には、 前記の本発明融合タンパク質をコードする塩基配列を含有する核酸 も含まれる。
ここで 「核酸」 とは、 「RNAJ または 「DNA」 が含まれ、 その長さによって特 に制限されるものではない。 「DNA」 とは、 特に言及しない限り、 ヒトゲノム DNAを含む 2本鎖 DNA、 cDNAを含む 1本鎖 DNA (正鎖) 並びに該正鎮と相補的 な配列を有する 1本鎖 DNA (相補鎖) 、 およびこれらの断片のいずれもが含まれ る。 「RNA」 とは、 1本鎮 RNAのみならず、 それに相補的な配列を有する 1本鎖 RNA、 さらにはそれらから構成される 2本鎖 RNAを包含する趣旨で用いられる。 な お、 核酸は機能領域の別を問うものではなく、 例えば発現制御領域、 コード領域、 ェキソン、 またはイントロンを含むことができるため、 上記 DNAには、 cDNA、 ゲ ノム DNA、 及び合成 DNAのいずれもが含まれ、 上記 RNAには、 total RNA、 mRNA, rRNA、 及び合成の RNAのいずれもが含まれる。
本発明の融合タンパク質をコードする塩基配列を含有する核酸は、 前記 ERasタン パク質をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドとタンパク質導入ドメイン をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドを含有する。,
タンパク質導入ドメインが HIV TATフラグメントである場合は、 本発明の融合タ ンパク質をコードする塩基配列を含有する核酸は、 具体的には、 例えば
(a)配列番号: 2記載のァミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドと配列番号: 1 3記載のァミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを含有する核酸、
(b)配列番号: 4記載のァミノ酸配列をコ一ドするポリヌクレオチドと配列番号: 1 3記載のァミノ酸酉己列をコードするポリヌクレオチドを含有する核酸、
(c)配列番号: 6記載のァミノ酸配列をコ一ドするポリヌクレオチドと配列番号: 1 3記載のァミノ酸配列をコ一ドするポリヌクレオチドを含有する核酸、
(d)配列番号: 8記載のァミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドと配列番号:
1 3記載のァミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを含有する核酸、
(e)配列番号: 1記載の塩基配列と配列番号: 1 1または 1 2記載の塩基配列を含 有する核酸、
(f)配列番号: 3記載の塩基配列と配列番号: 1 1または 1 2記載の塩基配列を含 有する核酸、
(g)配列番号: 5記載の塩基配列と配列番号: 1 1または 1 2記載の塩基配列を含 有する核酸、
(h)配列番号: 7記載の塩基配列と配列番号: 1 1または 1 2記載の塩基配列を含 有する核酸、
(i)配列番号: 1記載の塩基配列の第 178番目のヌクレオチドから第 858番目までの ヌクレオチドで示される塩基配列と配列番号: 1 1または 1 2記載の塩基配列を含 有する核酸、
(j)配列番号: 3記載の塩基配列の第 252番目のヌクレオチドから第 950番目までの ヌクレオチドで示される塩基配列と配列番号: 1 1または 1 2記載の塩基配列を含 · 有する核酸、
(k)配列番号: 5記載の塩基配列の第 1番目のヌクレオチドから第 699番目までのヌ クレオチドで示される塩基配列と配列番号: 1 1または 1 2記載の塩基配列を含有 する核酸、
(1)配列番号: 7記載の塩基配列の第 116番目のヌクレオチドから第 817番目までの ヌクレオチドで示される塩基配列と配列番号: 1 1または 1 2記載の塩基配列を含 有する核酸、
(m)配列番号: 1 0記載のアミノ酸配列をコードする核酸、
(n)配列番号: 1 4記載のァミノ酸配列をコードする核酸、
(o)配列番号: 9記載の塩基配列を含有する核酸、
(p)配列番号: 9記載の塩基配列からなる核酸、
またはこれら(a)〜 (p)の核酸と実質的 ^同一の塩基配列を含有する核酸が挙げられ る。
これら配列番号: 1 , 3 , 5または 7に記載の塩基配列を含有するポリヌクレオ チドは、 本明細書の配列表の配列番号: 1 , 3, 5または 7に開示されている塩基
配列の適当な部分をハイブリダィゼーションのプローブあるいは PCRのプライマー に用いて、 例えば ES細胞由来の cDNAライプラリーをスクリーユングすることなどに よりクロー-ングすることができる。 該クローニングは、 例えば Molecular Cloning 2nd Edt. Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)等の基本書に従 い、 当業者ならば容易に行うことができる。
また前記 (a) ~ (p)のいずれかの核酸と実質的に同一の塩基配列を含有する核酸と は、 具体的には、
(q) 前記 (a)〜 (p)のいずれかの核酸の相補鎖に対してストリンジェントな条件下で ハイブリダィズする核酸、
(r) 前記 (a)〜(p)のいずれかの核酸との配列同一性を示す塩基配列を含有する核酸
(s) 前記 (a)〜(P)のいずれかの核酸によりコードされるタンパク質において 1若し くは複数のァミノ酸が欠失、 置換及び Z又は付加されたァミノ酸配列を含有するタ ンパク質をコードする核酸、
などが挙げられる。
ここで前記 (a)〜 (p)のいずれかの核酸の相捕鎖に対してストリンジ ントな条件 下でハイブリダイズする核酸とは、 例えば前記 (a)〜 (p)のいずれかの核酸の塩基配 列と約 4 0 %以上、 好ましくは約 6 0 %以上、 より好ましくは約 7 0 %以上、 より 好ましくは約 8 0 °/0以上、 さらに好ましくは約 9 0 %以上、 最も好ましくは約 9 5 %以上の配列同一性を有する塩基配列を含有する核酸が挙げられる。 具体的には、 前記(a) ~ (p)のいずれかの核酸の部分配列などが挙げられる。
ハイブリダィゼーシヨンは、 自体公知の方法あるいはそれに準じる方法、 例えば Molecular Cloning 2nd Edt. Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)等の 基本書に記載の方法に従って行うことができる。 また市販のライブラリーを使用す る場合、 添付の使用説明書に記載の方法に従って行うことができる。
「ストリンジェントな条件」 とは、 例えば、 6xSSC (20xSSCは、 333mM Sodium citrate, 333mM NaClを示す)、 0. 5%SDSおよび 50%ホルムアミドを含む溶液中で 4 2 °Cにてハイブリダィズさせる条件、 または 6XSSCを含む (50%ホルムアミドは含 まない) 溶液中で 6 5 °Cにてハイプリダイズさせる条件などが挙げられる。 またハ
イブリダィゼーシヨン後の洗浄の条件としては、 0. lxSSC、 0. 5%SDSの溶液中で 68 °Cにて洗浄するような条件が挙げられる。
前記 (a)〜 (p)の 、ずれかの核酸との配列同一性を示す塩基配列を含有する核酸と は、 例えば前記 (a)〜(p)のいずれかの核酸の塩基配列と約 4 0 %以上、 好ましくは 約 6 0 %以上、 より好ましくは約 7 0 %以上、 より好ましくは約 8 0 %以上、 さら に好ましくは約 9 0 %以上、 最も好ましくは約 9 5 %以上の配列同一性を示す塩基 配列を含有する核酸が挙げられる。 具体的には、 前記 (a)〜(p)のいずれかの核酸の 部分配列などが挙げられる。 このような配列同一性を有する核酸は、 前述のハイブ リダィゼーシヨン反応や P C R反応により、 または後述する核酸の改変 (欠失、 付 力 置換) 反応により作製することができる。
前記 (a)〜(p)のいずれかの核酸によりコードされるタンパク質において 1若しく は複数のァミノ酸が欠失、 置換及び/又は付加されたァミノ酸配列を含有するタン パク質をコードする核酸とは、 人為的に作製したいわゆる改変タンパク質や、 生体 内に存在するァレル変異対等のタンパク質をコードする核酸を意味する。
ここでタンパク質におけるアミノ酸の変異数や変異部位は、 本発明の核酸により コードされるタンパク質の活性 (細胞増殖促進活 I"生) が保持される限り制限はない 。 このように活 ¾Ξを喪失することなくアミノ酸残基が、 どのように、 何個欠失、 置 換及び/又は付加されればよいかを決定する指標は、 当業者に周知のコンピュータ プログラム、 例えば DNA Star softwareを用いて見出すことができる。 例えば変異 数は、 典型的には、 全アミノ酸の 1 0 %以内であり、 好ましくは全ァミノ酸の 5 % 以内であり、 さらに好ましくは全アミノ酸の 1 %以内である。 また置換されるアミ ノ酸は、 タンパク質の構造保持の観点から、 残基の極性、 電荷、 可溶性、 疎水性、 親水性並びに両親媒性など、 置換前のアミノ酸と似た性質を有するアミノ酸である ことが好ましい。 例えば、 Ala、 Val、 Leu、 lieヽ Pro, Met、 Phe及び Trpは互いに非 極性アミノ酸に分類されるアミノ酸であり、 Gly、 Ser、 Thr、 Cys、 Tyr、 Asn及ぴ Ginは互いに非荷電性ァミノ酸に分類されるァミノ酸であり、 Asp及ぴ Gluは互いに 酸性ァミノ酸に分類されるアミノ酸であり、 また Lys、 Arg及び Hisは互いに塩基性 アミノ酸に分類されるアミノ酸である。 ゆえに、 これらを指標として同群に属する ァミノ酸を適宜選択することができる。
この改変タンパク質をコードする核酸は、 例えば、 Molecular Cloning 2nd Edt. Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)等の基本書に記載の種々の方法、 例 えば部位特異的変異誘発や P C R法等によって製造することができる。 また市販の キットを用いて、 Gapped duplex法や Kunkel法などの公知の方法に従って製造する こともできる。
以上のような、 前記 (a)〜(p)のいずれかの核酸と実質的に同一の塩基配列を含有 する本発明の核酸は、 当該核酸によりコードされるタンパク質が、 細胞内への導入 が可能であり、 導入された後は配列番号: 2, 4 , 6または 8に記載のアミノ酸配 列からなるタンパク質と実質的に同質の活性を有するタンパク質であることが好ま しい。 ここで実質的に同質の活性とは、 本発明の核酸によりコードされるタンパク 質を発現させた細胞は細胞増殖が促進されるという性質、 あるいは当該タンパク質 を取り込んだ細胞の細胞増殖が促進するという性質を指す。 当該活性およびその測 定については、 公知の方法にて実施することができる。
本発明の核酸が 2本鎖の場合、 前記本発明の核酸を発現ベクターに揷入すること により、 本発明のタンパク質を発現するための組換え発現ベクターを作製すること ができる。
ここで用いる発現ベクターとしては、 用いる宿主や目的等に応じて適宜選択する ことができ、 プラスミド、 ファージベクター、 ウィルスベクター等が挙げられる。 例えば、 宿主が大腸菌の場合、 ベクターとしては、 PUC118、 pUC119、 pBR322、 PCR3等のプラスミ ドベクター、 λΖΑΡΠ、 Xgtllなどのファージベクターが挙げられ る。 宿主が酵母の場合、 ベクターとしては、 pYES2、 pYEUra3などが挙げられる。 宿 主が昆虫細胞の場合には、 pAcSGHisNT- Aなどが挙げられる。 宿主が動物細胞の場合 には、 pCEP4、 pKCR、 pCDM8、 pGL2、 pcDNA3. 1、 pRc/RSV、 pRc/CMVなどのプラスミ ド ベクターや、 レトロウイルスベクター、 アデノウイルスベクター、 アデノ関連ウイ ルスベクターなどのウィルスベクターが挙げられる。
前記ベクターは、 発現誘導可能なプロモーター、 シグナル配列をコードする遺伝 子、 選択用マーカー遺伝子、 ターミネータ一などの因子を適宜有していても良い。 また、 単離精製が容易になるように、 チォレドキシン、 Hisタグ、 あるいは GST ( グルタチオン S -トランスフェラーゼ) 等との融合タンパク質として発現する配列が
付カ卩されていても良い。 この場合、 宿主細胞内で機能する適切なプロモーター ( lac、 tac、 trc、 trp、 CMV、 SV40初期プロモーターなど) を有する GST融合タンパク ベクター (PGEX4Tなど) や、 Myc、 Hisなどのタグ配列を有するベクター ( pcDNA3. 1/Myc - Hisなど) 、 さらにはチォレドキシンおょぴ Hisタグとの融合タンパ ク質を発現するベクター (PET32a) などを用いることができる。
前記で作製された発現ベクターで宿主を形質転換することにより、 当該発現べク ターを含有する形質転換細胞を作製することができる。
ここで用いられる宿主としては、 大腸菌、 酵母、 昆虫細胞、 動物細胞などが挙げ られる。 大腸菌としては、 E. coli K-12系統の HB101株、 C600株、 JM109株、 DH5a株 、 AD494 (DE3)株などが挙げられる。 また酵母としては、 サッカロミセス ■セルビジ ェなどが挙げられる。 動物細胞としては、 L929細胞、 BALB/c3T3細胞、 C127細胞、 CH0細胞、 COS細胞、 Vero細胞、 Hela細胞、 293-EBNA細胞などが挙げられる。 昆虫細 胞としては sf 9などが挙げられる。
宿主細胞への発現ベクターの導入方法としては、 前記宿主細胞に適合した通常の 導入方法を用いれば良い。 具体的にはリン酸カルシウム法、 DEAE-デキストラン法 、 エレク ト口ポレーシヨン法、 遺伝子導入用リピッド (Lipofectamine、
Lipofectin; Gibco- BRL社) を用いる方法などが挙げられる。 導入後、 選択マーカ 一を含む通常の培地にて培養することにより、 前記発現ベクターが宿主細胞中に導 入された形質転換細胞を選択することができる。
以上のようにして得られた形質転換細胞を好適な条件下で培養し続けることによ り、 本発明のタンパク質を製造することができる。 得られたタンパク質は、 一般的 な生化学的精製手段により、 さらに単離 ·精製することができる。 ここで精製手段 としては、 塩析、 イオン交換クロマトグラフィー、 吸着クロマトグラフィー、 ァフ ィニティークロマトグラフィー、 ゲルろ過クロマトグラフィ一等が挙げられる。 ま た本発明のタンパク質を、 前述のチォレドキシンや Hisタグ、 GST等との融合タンパ ク質として発現させた場合は、 これら融合タンパク質やタグの性質を利用した精製 法により単離'精製することができる。
なお、 実施例に示すように、 これらの融合タンパク質は、 試験管内で合成、 精製 することもできる。
本発明の 「化学的結合体」 とは、 ERasタンパク質を、 ビスフォスフォネート化合 物、 グルコース一 6—リン酸、 P糖タンパク質に結合活性を持つ化合物 (たとえば B C R Pインヒビター) またはアルギニンを有する分岐型ぺプチドと化学的に結合 して得られる結合体のことである。 .
「ビスフォスフォネート化合物」 とは、 例えば、 ェチドロネート、 アレンドロネ ート、 リセドロネート、 インカドロネート、 パミドロネート等の公知の化合物を挙 げることができる。 ビスフォスフォネート化合物は骨芽細胞に選択的に取り込まれ るため、 この公知の性質を利用したビスフォスフォネート化合物との結合体が報告 されている (Calcif. Tissue Int. , 59, 168—173 (1996)、 Bioorg. Med. Chem. Lett. , 4, 1375-1380 (1995) ) 。 そのため、 ERasタンパク質にビスフォスフォネー ト化合物を化学的に結合させた化学的結合体は骨芽細胞に将来分化していく間質系 幹細胞特異的に取り込まれる。
「グルコース一 6—リン酸」 は公知の物質であり、 ERasタンパク質とグルコース 一 6—リン酸を化学的に結合させた化学的結合体は肝細胞および膝細胞に将来分化 していく前駆細胞特異的に取り込まれる。
「P糖タンパク質に結合活性を持つ化合物」 とは、 例えば B C R Pインヒビター を挙げることができる。 具体的には、 例えば、 B C R Pインヒビターである GF120918などを挙げることができる。 P糖タンパク質に結合活性を持つ化合物と Nanogタンパク質と化学的に結合させることにより、 化学的結合体は SP細胞と呼ば れる各種体性幹細胞特異的に取り込まれる。
「アルギニンを有する分岐型ペプチド」 とは、 例えば、 文献 Biochemistry, 41, 7925-7930, (2002)に記載されているような細胞膜透過能をもつ 8個程度のアルギ- ンを有する分岐型ペプチドのことであり、 具体的には、 該文献の(R2 ) 4ペプチドや (RG3 R) 4ぺプチドなどが挙げられる。
ERasタンパク質は前記のように作製することができる。 精製された ERasタンパク 質と上記物質の化学的結合体は公知の方法に従って化学的に結合させて作製するこ とができる。 例えば、 アミノ基を持つリンカ一をつけることで酸アミ ド結合など公 知の方法に従って化学的に結合させることによって作製することができる。
本発明の 「細胞増殖促進剤」 とは、 上記の本発明の融合タンパク質あるいは化学
的結合体のうち少なくとも 1つを含有する剤のことであり、 細胞に取り込まれるこ とによって該細胞の増殖を促進する。
ここで細胞は、 特に限定されないが、 哺乳動物細胞を挙げることができる。 哺乳 動物細胞とは、 ヒト、 サル、 ゥシ、 ラットやマウス等の哺乳動物の組織,臓器細胞 またはこれら由来の細胞であって、 個体の細胞、 個体から取り出した初代細胞、 ま たは培養細胞のいずれでもよい。 好ましくは、 市販の培養細胞 (ATCC社など) 、 胚 性幹細胞や体性幹細胞などの幹細胞を挙げることができ、 より好ましくはヒト胚性 幹細胞ゃヒト体性幹細胞である。
また、 マウス E S細胞に Nanogタンパク質を強制発現させると LIFなしでも万能性 を維持したまま継代することができるため (Cell, 113, 631-642 (2003) ) 、 本発 明の細胞増殖促進剤は本発明の融合タンパク質あるいは化学的結合体だけでなく、 Nanog (ECAT4) タンパク質も含有されていてもよい。
本発明の 「Nanogタンパク質」 とは、 Nanogタンパク質のみに限定されず、 本発明 の融合タンパク質や化学的結合体と同様に、 細胞内に取り込まれやすくした態様の ものも包含される。 本発明の Nanogタンパク質は、 そのアミノ酸配列および塩基配 列が公知であるため (W0 02/097090 A1) 、 前記の ERasタンパク質、 融合タンパク 質、 あるいは化学的結合体と同様の方法にて作製することができる。
本発明の細胞増殖促進剤を作用させるには、 当該剤を直接体内に導入する in vivo法、 ヒトからある種の細胞を採取し、 体外で該細胞に添加してその細胞を体内 に戻す ex vivo法、 および培養細胞に添加する in vitro法がある。
投与方法としては、 ex vivo法または in vitro法であれば、 細胞を培養している 培養液中に添加、 あるいは細胞に直接添加すればよい。 添加量は、 細胞の種類、 細 胞数等により適宜調整することができるが、 細胞毒性が認められず細胞増殖促進活 性が認められればよい。 製剤中の本発明の融合タンパク質または結合体の添加量は 通常培地に 0. 0001 μ Μ〜1000 μ M、 好ましくは 0. 0001 /i M〜10 / M、 より好ましくは 0. 0001 μ Μ〜1 μ Μであり、 これを 1〜数日に 1回添加するのが好ましい。
また、 in vivo法の投与方法としては、 皮下投与、 皮内投与、 筋肉内投与、 静脈 内投与などが挙げられる。 製剤中の本発明の融合タンパク質または結合体の投与量 は、 治療目的の疾患、 患者の年齢、 体重などにより適宜調整することができるが、
通常 0. 0001m g〜1000m g、 好ましくは 0. 001m g〜100m g、 より好ましくは 0. 01 m g〜10m gであり、 これを 1〜数日に 1回投与するのが好ましい。
細胞増殖促進剤の有効成分である本発明の融合タンパク質あるいは結合体は、 そ のままもしくは自体公知の薬学的に許容される担体 (賦形剤、 増量剤、 結合剤、 滑 沢剤などが含まれる)、 慣用の添加剤などと混合して試薬あるいは医薬組成物とし て調製することができ、 生理食塩水、 リン酸緩衝生理食塩水 (PBS) または培地等 を含むものであってもよい。 当該医薬組成物は、 錠剤、 丸剤、 カプセル剤、 散剤、 顆粒剤、 シロップ剤、 注射剤、 点滴剤、 外用剤、 坐剤などに調整することができる 本発明の 「細胞増殖促進方法」 とは、 本発明の融合タンパク質あるいは化学的結 合体のいずれかを細胞に接触させることにより、 細胞増殖を促進する方法である。 具体的には、 例えば、 本発明の細胞増殖促進剤を細胞培養培地中に添加して細胞に 接触させ、 細胞に取り込ませることによつて細胞増殖を促進する方法のことである 本発明の細胞増殖促進方法は、 本発明の融合タンパク質あるいは化学的結合体の いずれかを細胞と接触させた後に、 細胞のピノサイト一シス (飲作用) により取り 込まれ、 細胞の増殖が促進される方法であってもよい。 細胞のピノサイト一シスを 利用した取り込み (導入) は、 例えば、 市販のキットである Influx (登録商標) Pinocytic Cell-Loading Reagent (Molecular Probe社)を用レヽることによって:^施 することができる。
本発明の細胞増殖促進方法は、 本発明の融合タンパク質あるいは化学的結合体だ けでなく、 さらに前記 Nanogタンパク質を接触させる工程を加えることもできる。 細胞は、 特に限定されないが、 哺乳動物細胞を挙げることができる。 哺乳動物細 胞とは、 ヒト、 サル、 ゥシ、 ラットやマウス等の哺乳動物の組織'臓器細胞または これら由来の細胞であって、 個体の細胞、 個体から取り出した初代細胞、 または培 養細胞のいずれでもよい。 好ましくは、 市販の培養細胞 (ATCC社など) 、 胚性幹細 胞ゃ体性幹細胞などの幹細胞を挙げることができ、 より好ましくはヒ ト胚性幹細胞 ゃヒト体 ¾Ξ幹細胞である。
前記の細胞増殖促進剤あるいは細胞増殖促進方法により、本発明の融合タンパク
質あるいは化学的結合体を含有する細胞を作製することができる。 実施例
以下、 実施例により本発明を具体的に説明するが、 本発明はこれらの実施例によ り何ら限定されるものではない。
実施例 1
( 1 ) TAT- ERas発現ベクターの構築
オリゴ DNAの TAT- S (配列番号 11) と TAT- AS (配列番号 12) を 94度で 1分間変性の 後、 徐々に室温に戻し 2本鎖 DNAを作製した。 これを pCDNA3. 1の Hindlll/BamHI部位 にライゲーシヨンした (pCDNA3. 1-TAT) 。 この pCDNA3. 1-TATの BaraHI/EcoRV部位に Gateway rfB Casetteを揷入して pCDNA3. l-TAT- GWを作製した。 pCDNA3. 1- TAT - GWと pEnter- mERasで LR組み換え反応 (Invitrogen社) を行い、 pCDNA3. 1- TAT- ERas (図 1 ) を作製した。 TAT_ERasの DNA配列は配列番号 9に、 アミノ酸配列は配列番号 10で 示されている。
( 2 ) TAT- ERasタンパク質の合成と精製
融合タンパク質の合成と精製は、 PureGeneシステムを用いて in vitroにおいて行 つた。
( 3 ) TAT-ERasタンパク質による細胞増殖促進
マウス 12. 5日胚よりマウス胎児線維芽細胞 (MEF) を単離した。 MEFは 10%牛胎児 血清を含む DMEM中で培養した。 ここに TAT_ERasタンパク質を加えると増殖が有意に 促進された (図 2 ) 。 一方、 ERasの C末端の CMXモチーフを欠失し膜局在できなく した TAT- ERas- ACを加えても細胞増殖促進は認められなかった。
実施例 2
( 1 ) TAT- ERas発現ベクターの構築
オリゴ DNAの TAT- S (配列番号 11) と TAT-AS (配列番号 12) を 94度で 1分間変性の 後、 徐々に室温に戻し 2本鎖 DNAを作製する。 これを pCDNA3. 1の Hindlll/BaraHI部位 にライゲーシヨンする (pCDNA3. 1- TAT) 。 この pCDNA3. 1- TATの BaraHI/EcoRV部位に Gateway rfB Casetteを揷入して pCDNA3. l-TAT- GWを作製する。 pCDNA3. 1-TAT - GWと pEnter- mERasで LR組み換え反応 (Invitrogen社) を行い、 実施例 1と同様に、
pCDNA3. l-TAT- ERasを作製する。 TAT_ERasの ERasは、 マウス ERasではなくヒ ト ERas を用いるため、 作製される TAT-ERasのァミノ酸配列は配列番号 14に示されている。 ( 2 ) TAT - ERasタンパク質の合成と精製
融合タンパク質の合成と精製は、 実施例 1と同様に、 PureGeneシステムを用いて in vitroこおレヽて行う。
( 3 ) TAT- ERasタンパク質による細胞増殖促進
ヒト胚性幹細胞 (ES細胞) およびヒ ト体性幹細胞を常法により培養する。 細胞に 、 実施例 1または実施例 2で作製した TAT - ERasタンパク質を加えることにより、 い ずれの細胞についても細胞増殖が有意に促進されることが観察される。 産業上の利用可能性
本発明により、 細胞、 特に胚性幹細胞や体性幹細胞の増殖を促進することができ る融合タンパク質、 または化学的結合体を提供することができる。 本発明の細胞増 殖促進剤は、 多能性を維持させたまま増殖させることが困難な胚性幹細胞や体性幹 細胞にも用いることができる。 また本発明の細胞増殖促進剤は、 多数の細胞を一度 に簡便に処理することができるだけでなく、 可逆的に調整をすることができるため 、 遺伝子導入法に比べてより臨床応用が可能である。 配列表フリーテキスト
配列番号: 11に記載の塩基配列は TAT- Sである。
配列番号: 12に記載の塩基配列は TAT- ASである。
配列番号: 13に記載のァミノ酸配列は HIV TATぺプチドである。
配列番号: 15に記載のァミノ酸配列は FGFフラグメントである。
配列番号: 16に記載のアミノ酸配列は置換後の HIV TATぺプチドである。
配列番号: 17に記载のァミノ酸配列は HIV TATぺプチドである。
配列番号: 18に記載のァミノ酸配列は HIV Rev- (34- 50)ぺプチドである。
配列番号: 19に記載のァミノ酸配列は FHV Coat- (35-49)ぺプチドである。
配列番号: 20に記載のアミノ酸配列は? MV Gag- (7- 25)ぺプチドである。
配列番号: 21に記載のアミノ酸配列は HTLV- Π Rex- (4-16)ぺプチドである
2 配列番号: 22に記載のアミノ酸配列は CCMV Gag- (7 - 25)ぺプチドである。 配列番号: 23に記載のァミノ酸配列は P22 N -(14-30)ぺプチドである。
配列番号: 24に記載のアミノ酸配列は λ Ν- (1-22)ぺプチドである。
配列番号: 25に記載のアミノ酸配列は 21N- (12 - 29)ぺプチドである。
配列番号: 26に記載のァミノ酸配列は酵母 PRP6- (129- 144)ぺプチドである。