【発明の詳細な説明】
腫瘍壊死因子アルファの阻止技術分野
本発明は医薬組成物に関するものであり、より詳細には、ただし非制限的に、
ヒトを含める哺乳動物の血液、組織または器官中の過剰量のTNF−αの病理生
理学的効果を阻止(抑制)する新規な組成物および方法に関するものである。背景技術
通用している証拠によれば、一見して種々異なる免疫性疾患が、類似の病因的
メカニズムに、そしてサイトカインとして知られる重要なエフェクター分子の数
の増加に関係することを示している。病理生理学的事象の生化学的カスケードは
、細胞、組織または器官損傷後に放出または合成されるTNF−αの過度の組織
または血中濃度が引き金(トリガー)となる。TNF−αは免疫および宿主防御
反応において重要な役割を演ずる。TNF−αの異常に高い産生および細胞から
の放出は、疾病開始、およびリウマチ性関節炎、全身性炎症性症候群、糖尿病、
多発性硬化症、および多くのその他の免疫性疾患の進行に寄与することを示す強
力な証拠がある(プロパート(L.Propert)、J.Leukocyte Biol.59巻、518
−525ページ、1996)。
これら疾患のいずれにおいても、開始し、そして持続する病理生理学的作用は
、直接損傷部位のまたはその近辺の数種の細胞から大
量のTNF−αが即時的局所的に放出され合成される結果である。TNF−αの
局所的放出の後には、著しく増加したTNF−α濃度に反応して細胞から局所的
に放出される化学走性(ケモタクティック)サイトカインのカスケードによって
損傷部位に引き寄せられる侵略性マクロファージによるTNF−αの付加的合成
および放出が続く。
TNF−αは、細菌性感染症および悪性腫瘍を含める組織または器官損傷に対
するホスト反応中に種々様々の細胞によって産生される17kDaの多官能価ペ
プチドである。活性化されたマクロファージがTNF−αの主な細胞性ソースで
ある。ただしその他の種類の細胞、例えばT−細胞、マスト細胞、好中球、内皮
細胞、小グロリア細胞、および星状膠細胞も刺激されてTNF−αを分泌する。
TNF−αは、炎症の開始にも、このプロセスから起きる病理生理学的結果にも
重要な役割を演ずる。
単球、マクロファージまたは関連細胞によって産生される過剰なまたは野放図
なTNF−αが疾患の悪化および/または疾患の発生に関係しているという病気
が幾つかある。これらには内毒素血症(敗血症)、中毒性ショック症候群(トラ
セイ(Tracey)ら、Nature 330巻、662−64ページ、1987;バスガ
ー(Basger)ら、Circ.Shock.27巻、51−61ページ、1989、およびヒ
ンショー(Hinshaw)ら、30巻、279−292ページ、1990);悪液質
(デツブ(Dezube)ら、Lancet、335巻[8696]662ページ、1990
);成人呼吸窮迫症候群(ARDS)(この場合ARDS患者からの肺吸引液に
1mlあたり12000pgという過剰のTNF−α濃度が検出されている)(
ミラー(Mi
llar)ら、Lancet[8665]2巻、712−714ページ)が含まれる。組換
えTNF−αの全身性注入はARDSに一般に認められるような変化をおこす(
フェレイ−バリヴィーラ(Ferrai-Baliviera)ら、Arch.Surgery 124巻、1
400−1405ページ、1989。) TNF−αは単球、マクロファージ、
リンパ球、ナチュラルキラー細胞、内皮細胞、マスト細胞、好中球および好酸球
、グリア細胞および星状膠細胞、平滑筋細胞および或る種の腫瘍細胞に広く発現
する。TNF−βは主としてリンパ球、星状膠細胞、リンホカイン活性化キラー
細胞および骨髄腫細胞によって産生される。TNF−αおよび/または−βの過
剰産生は多くの疾患、例えば敗血症性ショック、成人呼吸窮迫症候群、リウマチ
性関節炎、選択的自己免疫疾患、骨髄移植後の移植片−宿主病および悪液質など
の発生に密接に関係している。その他の疾患は出血性ショック、喘息および腎透
析後症候群である。TNF−αおよび−βの作用の多様性は、TNF−αおよび
−β作用が複数のシグナル導入経路、キナーゼ類、転写因子の活性化、並びに細
胞遺伝子の異常に広い配列を活性化することに起因する。(Walajtys-Rode,Eli
zbieta Kosmos(Warsaw)、44巻、451−464ページ、1995、C.A
.124:199735a、1995)。
TNF−αはその他の多くの機能、例えばIL−1の誘導、好中球脱顆粒の促
進、および食作用の増進などをあらわす。インビボおよびインビトロにおいてグ
ラム陰性菌からの内毒素を用いてTNF−αが誘導された。内毒素の他に、幾つ
かの微生物並びにその他の物質、例えばIL−1なども、刺激された腹膜マクロ
ファージからのTNF−α分泌を誘導することができる。(ワネボ(H.J.Wanebo
)、“腫瘍壊死因子”Seminars in Surgical Oncology、1989;5巻:40
2−413ページ)。
こうしてTNF−αは強力な免疫仲介物質であり、多くのヒト疾患の病因に関
係する炎症前サイトカインである。主な組織適合性コンプレックス内のその遺伝
子の位置および生物学的活性から、この座内の多形性が、ゲノムのこの領域と広
範囲の自己免疫および感染性疾患との遺伝的関連性に関与している可能性が明ら
かになった。
TNF−αインヒビターは種々のアレルギー性および外傷性異常、例えば喘息
、慢性気管支炎、多くの皮膚障害(アトピー性皮膚炎および蕁麻疹)、アレルギ
ー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、春季結膜炎、好酸球性肉芽腫、乾せん、心筋ま
たは脳の再灌流異常、嚢胞性線維症、慢性糸球体腎炎、および成人呼吸窮迫症候
群(ARDS)の治療または予防処置に有用である。細胞に損傷によってトリガ
ーとなる複雑なプロセスを仲介する主なサイトカインまたはそれが結合する実質
上すべての種類の細胞の反応。(Jour.Cardiovas.Pharm. 25巻(S1−S8、
1995))。
TNF−α拮抗物質は、細胞、組織または器官損傷後の疾患の治療に非常に有
効であり、コルチコステロイドまたは免疫抑制剤に比べても、これら薬剤に共通
の副作用を起こさずに、同様なまたはより強力な効果をあらわすかも知れない。
TNF−αの特徴づけ
TNF−αは単球、マクロファージ、リンパ球、ナチュラルキラー細胞、内皮
細胞、マスト細胞、好中球および好酸球、グリア細胞および星状膠細胞、平滑筋
細胞および或る種の腫瘍細胞に広くあらわれる。TNF−βは主としてリンパ球
、星状膠細胞、リンホカイ
ン活性化キラー細胞および骨髄腫細胞によって産生される。TNF−αおよびT
NF−βは全く同じ細胞表面受容体に結合し、機能的に同等であり、化学構造も
ほぼ一致する(E.Walajytys-Rode.Kosmos[Warsaw]、44巻451−64ペー
ジ、1995;C.A.124:199735a、1996)。
TNF−αは種々の哺乳動物の器官および組織の大部分の種類の細胞によって
産生し、貯蔵されるサイトカイン中にある。最初に、選択的腫瘍細胞系を溶解す
る活性化マクロファージから放出される生成物として報告されたとはいえ、TN
F−αは今では用途の広い、いたるところにあるサイトカインとして認識されて
いる。細胞に対するTNF−α効果は、組織または器官の部位におけるその濃度
、並びに標的細胞の発生学的系統に依って決まる。
TNF−αは損傷に反応して起きるその炎症前効果を、そのカスケード、およ
び二次的メッセンジャーサイトカインおよび非サイトカインのシグナル化生化学
物質のカスケードおよび区画化放出を調節することによって、調和よく組み合わ
せることが証明された。TNF−αは細胞増殖の調節に限らず、細胞機能にも明
らかな効果を有する。TNF−αの病理生理学的効果は概して、TNF−α濃度
が過度に高い場合(グラム陰性菌感染症、アレルギー反応、熱傷、悪性腫瘍およ
び放射線または外傷性障害中に起きるような)に限られるとはいえ、TNF−α
mRNAおよびタンパク質は、組織損傷、炎症または悪性腫瘍がない場合でも容
易に確認される。他方、細胞または組織損傷がない場合にTNF−αmRNAお
よびタンパク質の非常に低濃度が容易に確認され、TNF−αがその他の調節物
質と協力して、細胞および組織ホメオスタシスの正常メディエータ
ーとして役立つことが示唆される(テラノワ(Terranova)ら、PSEBM、209巻
、325ページ、1995)。
TNF−αは(その薬理学的双児であるTNF−βおよび最初のいとこである
IL−1−βとともに)、ヒト疾患および異常の非常に広いスペクトラムにおい
て不都合な臨床的発現を直接的および間接的にトリガーする一連の病理生物学的
プロセス(生理学的並びに生化学的プロセス両方共)の発現に主要な推進力を保
有している。多種多様の病因の損傷によって起きるこれらの急性および慢性有害
作用は、臨床試験であらわれるのみならず、(1)かなりひどい、生命をおびや
かすことが多い器官異機能、および(2)異機能器官から採取した代表的組織お
よび細胞の適切な病理生理学的試験によっても明らかにされている。
内科学会誌(Annals of Internal Medicine)115巻;464ページ、19
93、に発表されたように、TNF−αは:
(1)インターロイキン−1、インターロイキン−6、インターロイキン−8、
血小板活性化因子、ロイコトリエン類、トロンボキサンA2、プロスタングラン
ジン類の放出を促進し;直接マクロファージを刺激してそのもの自体の放出を促
進することができるらしい。
(2)T細胞には弱い効果しかもたない。
(3)骨髄による多形核細胞の産生を刺激し、それらの食作用活性を高める。
(4)粘着分子の発現を高めることによって内皮細胞、多形核細胞、好酸球、好
塩基性球、単球、および時にはリンパ球の粘着を促進する。
(5)凝固および補体系の共通経路を活性化する。
(6)血管内皮細胞には直接毒性をあらわす;微小血管透過性を高める。
(7)内皮の凝結促進活性を用量依存的に増加させる;内皮細胞表面におけるト
ロンボモジュリン発現を阻止する。
(8)リポプロテインリパーゼ活性を抑制する;脂肪細胞によるアセテート生成
を阻止する;グルコースの細胞内への取り込みを減らす。
(9)コラゲナーゼ放出を促進する;線維芽細胞増殖に対して、他のメディエー
ターの存在に依存して変動する効果を与える。
(10)筋細胞の経膜的ポテンシャルを減らす。筋細胞短縮。
(11)クラスI組織適合性分子を誘導する。
(12)視床下部に直接作用し、発熱させる。
TNF−αの過剰産生および放出を阻止する化合物の発見は、過剰または野放
図なTNF−α組織濃度が関連している病気の治療法を提供し、この分子がどの
ようにして合成、処理、分泌、そして代謝されるかを理解するためにも役立つ。
著者は例えば感染性疾患およびショック、炎症性腹部疾患、およびリウマチ性関
節炎などのTNF−α仲介性病変を説明し、TNF−α遮断における抗TNF−
αモノクローン抗体の使用について述べる(ボドゥナー(M.W.Bodner)とフルケ
ス(R.Foulkes)“治療。調節サイトカイン”、1996、221−236ペー
ジ、B.Henderson 編集;B.Bodmer、CRC:Boca Raton、Fla.)。
TNF−αインヒビターは種々のアレルギー性、外傷性およびその他の損傷疾
患、例えば喘息、慢性気管支炎、アトピー性皮膚炎、
蕁麻疹、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、好酸性肉芽腫、リウマチ性関
節炎、敗血症性ショック、潰瘍性腸炎、クローン病、心筋および脳の再灌流障害
、慢性糸球体腎炎、および先陣呼吸障害症候群(ARDS)の治療に有効である
。
TNF−α、多面作用性サイトカインは、種々の感染性または非感染性疾患に
さらされた時に最初の反応としてマクロファージおよびその他の細胞によって産
生され、貯蔵されまたは放出される。TNF−αは今や免疫学的反応にも関係す
ることが知られている。それに加えて、TNF−αの過度に高い血中または組織
濃度は細胞、組織、器官にも、ホストにも致命的である場合が多い(トラセイと
セラミ、PSEBM 206巻:233−240ページ、1992)。
TNF−αは、リポ多糖体(LPS)、ウィルス、細菌、寄生虫、抗原および
同種移植片拒絶またはその他の損傷による刺激に反応して、単球、マクロファー
ジ、T細胞、ナチュラルキラー細胞、マスト細胞、好中球、線維芽細胞および多
くのその他の種類の細胞によって分泌される。
TNF−αはコラゲナーゼ、コラーゲン、フィブロネクチン、およびグリコサ
ミノグリコシドの産生および分泌速度の変化もおこす(ダンカン(Duncan)とバ
ーマン(Berman)、Jour.Invest.Derm.、92巻、699−706ページ、19
89;チーグラー(E.J.Ziegler)、N.E.Jour.Med.、318巻、1533ページ
、1988;ボンド(R.C.Bond)、Ann.Intern.Med.、115巻、457−46
9ページ、1991;ボイトラー(B.Beutler)HosD.Prac.45−52ページ、
1993年4月15日;Nature(ロンドン)、316巻、552−554ページ
(1985))。
損傷部位におけるTNF−αの産生および放出は直接的または間接的に付加的
マクロファージをその部位に集め、すでにそこにあるマクロファージを活性化す
る。TNF−αは単球に対して化学走性であることも示された。またTNF−α
はインビトロでマクロファージを活性化し、それらの細胞傷害性ポテンシャルを
高める。
TNF−αは多くの反応性病理生理学的状態または疾患の重要なメディエータ
ーであるから、TNF−α産生のインヒビターは異常に高いTNF−α濃度が存
在する病理生理学的状態または疾患に有用であるかも知れない。本発明の化合物
は(1)TNF−αの過剰産生および放出を阻止またはブロックし、(2)高濃
度TNF−αの好ましくない毒性または致死的作用を薬理学的に阻止またはブロ
ックする。
過剰のTNF−α組織濃度は次に示す多数の疾患の仲介または悪化に関連して
いる:リウマチ性関節炎、リウマチ性脊椎炎、骨関節炎、通風性関節炎およびそ
の他の関節炎症状;全身性敗血症、グラム陰性敗血症、敗血症性ショック、内毒
素ショック、中毒性ショック症候群、成人呼吸窮迫症候群(ARDS)、脳性マ
ラリア、慢性肺炎症性疾患、珪肺、石綿症、肺サルコイドーシス、骨吸収性疾患
、移植片対ホスト反応、同種移植拒絶;細菌性またはウィルス感染症、例えばイ
ンフルエンザ、による発熱および筋肉痛;後天性免疫不全症(AIDS)に二次
的におきる悪液質、ケロイド形成、瘢痕組織形成、クローン病、潰瘍性腸炎、ま
たは発熱症;多くの“自己免疫病”、例えば多発性硬化症、自己免疫性糖尿病、
および全身性エリテマトーサス。(トラセイら、Nature 330巻、662−6
64ページ、1987;バジャー(Badger)ら、Circ.Shock.27
巻、51−61ページ、1989およびヒンショーら、Circ.Shock. 30巻、2
79−292ページ、1990;悪液質(デツブら、Lancet 335(8690
:662(1990)))。
用語“TNF−α仲介性疾患または疾患状態”は、TNF−αそのものの過剰
産生または放出により、またはTNF−αがその他の病的生理学的生化学物質ま
たはサイトカインの産生または放出をひきおこすことによって、TNF−αが直
接的役割を演じているすべての疾患状態を意味する。
“サイトカイン”は、細胞機能に影響を与える分泌ポリペプチドを意味し、不
都合な被曝(例えば、アレルギー反応を含める種々のタイプの損傷)に反応した
細胞間の相互作用を調節する分子である。
用語“TNF−αの過剰産生および/または放出を阻止(抑制)する”は次の
ことを意味する:
(a)動物またはヒトそれぞれで、単球またはマクロファージを含める(だがこ
れらに制限されるものではない)数種類の細胞の過剰インビボTNF−α濃度を
正常濃度に低下させる;
(b)ヒト組織の過剰のインビトロまたはインビボTNF−α濃度をそれぞれ正
常濃度に下方調節する(ダウンレギュレーション);
(c)移植後の事象としてのTNF−α濃度の直接合成を阻止することによって
下方調節する。
用語“組織および器官において過度に高いTNF−α濃度の病理生理学的効果
の防止”は過度に高いTNF−α組織濃度の不都合な、毒性または致死的効果を
薬理学的に阻止することを意味する。
中枢神経系の障害(中枢神経系に対する傷害および損傷)
種々のCNS疾患、例えば多発性硬化症、後天性免疫不全症(AIDS)、脳
炎、アルツハイマー病、スクラピー、およびウィルスまたは細菌感染症の脳では
種々のサイトカインまたはそれらの遺伝子の発現が変化する。CNS内のサイト
カインの産生は、T細胞およびマクロファージなどの侵潤性単核細胞を含める多
数のソース、および残留性ナチュラル細胞、特に星状膠細胞および小グリア細胞
に由来するらしい。グリア細胞はIL−1、TNF−α、およびTNF−βを含
める種々のサイトカインをCNSサイトカインネットワークの部分として産生す
る。
CNS中に最も豊富にあるグリア細胞である星状膠細胞は、種々の刺激、例え
ばLPS、サイトカインI1−1BおよびIFN−4、およびニューカッスル病
ウィルス(NDV)に反応してTNF−αを産生する(チャング(Chung,I.Y.)
およびベンヴェニスト(E.N.Benveniste)、J.Immunol.,144巻、2999ペ
ージ、1990、リーベルマン(A.P.Lieberman)ら、Proc.Natl.Acad.Sci.,US
A 66巻634B、1989)。
それらが発現される疾患、例えばAIDS脳炎、アルツハイマー病、または多
発性硬化症などにおいて、サイトカイン類が神経病因性メディエーターであるこ
とが多く、サイトカインは治療的処置の可能性を与える(キャンペル(I.L.Camp
el)ら、Ann.N.Y.Acad.of Sciences、771巻、301ページ、1995)。
中枢神経系細胞に対するTNF−αの影響
ババクアービン(Babak Arvin)ら(Ann.N.Y.Acad.Sciences,765巻、62
−71ページ、1995)はCNSのTNF−α産生、脳障害におけるTNF−
αの関与、脳損傷におけるPMNsの役
割、脳損傷における粘着分子の役割、および脳損傷の防止のための治療的処置に
おけるTNF−αの可能性について証拠を調査した。HIV−1感染患者の脳で
は、若干の小グリア細胞が感染し、一方多くの他の細胞は活性化され、高濃度の
TNF−αを発現する。これらの研究は、活性化されたヒト小グリア細胞から誘
導されるTNF−αが直接関係しており、インビトロでTNF−αが乏突起神経
膠細胞の損傷および死をひきおこしたことを明らかにする。こうしてTNF−α
特異的阻止物質はウィルス複製をスローダウンし、HIV−1脳炎における乏突
起神経膠細胞に対する細胞傷害性を減らすことができた(ウイルト(S.G.Wilt)
ら、Tech.Adv.AIDS Res Hum.Nerv.System1995、151−162ページ)。
TNF−αは細菌性髄膜炎患者の脊髄液(CSF)には検出されるが、ウィルス
性髄膜炎患者のそれには検出されない。脊髄液(CSF)とは対照的に、細菌性
髄膜炎患者の血清はTNF−αを全くまたはほとんど含んでいなかった。異なる
病因(ウィルス、悪性腫瘍)の発熱性髄膜炎患者および無菌性髄膜炎患者の研究
ではTNF−αおよびIL−β濃度と、細菌性病因との間に正の相関性が認めら
れたが、ウィルス性または悪性腫瘍性病因との間には認められなかった。こうし
てこれらのサイトカイン、特にTNF−αは発熱性と非発熱性髄膜炎とを区別す
るためのマーカーとして有用である(感度94.2%;特異性100%)。中程
度に上昇したCSFTNF−α濃度がヒト型結核菌をもつ患者にも認められた;
CSFタンパク質および内毒素濃度、細菌密度および結果が記された。
これらをまとめてみると、細菌性髄膜炎は、髄膜の炎症性反応の進行に密接に
関係するサイトカインの胞膜内産生を伴う。実験髄膜
炎における抗TNF−α抗体による脳浮腫の阻止は、血液脳障壁の破壊にTNF
−αが関係していることを明らかに示す。またTNF−αは好中球の組織内侵潤
をトリガーし、その結果、局部領域に二次的メディエーターを誘発する。脳浮腫
をおこす内皮細胞損傷は、さらに反応性酸素中間体の産生によって仲介され、ス
ーパーオキシドジスムターゼによって阻止される(“サイトカインおよびCNS
”、編集:R.M.Ransohoff およびE.N.Beneviste,CRC Press,193ページ、1
996)。
ショハミ(E.Shohami)ら(J.Cerebral Blood Flow Metab.16巻:378−
384ページ、1996)は最近、ラットにおいて閉鎖頭部傷害(CHI)が打
撲した脳半球にTNF−α産生をトリガーすることを示した。この研究は、TN
F−αの産生または活性の阻止が、脳浮腫の発生、並びにCHI後の神経学的異
機能および海馬の細胞喪失に影響を与えるかどうかを確認できるように設計され
た。2種類の薬剤が傷害24時間目のピーク浮腫形成を軽減し、傷害後14日間
運動機能回復を容易にした。脳中TNF−α濃度は80%減少し、血液脳障壁の
破壊の修復が認められ、海馬細胞は保護された。こうしてTNF−α濃度の低下
またはその活性の阻害は、結果として脳損傷の著しい減少に導いた。
多発性硬化症
多発性硬化症(MS)は免疫仲介性であるとはいえ、免疫抑制剤の治療効果は
これまで失望的である(スミス(R.Smith)、Lancet,347巻1251ページ、
1996年5月4日)。CNS内の多発性硬化症(MS)斑には侵潤し、グラビ
ンスキー(Glabinski)ら(Neurol Scand.,91巻、276−279ページ、1
995)は、
MS再発中にTNF−αが末梢血液単核細胞によって過剰生産される(だがリン
フォトキシンはされない)ことを見いだした。
TNF−αは、乏突起神経膠細胞、星状膠細胞および脳内皮細胞に対する直接
効果をもつため、CNSにおいて広範囲の機能を有する。CNS疾患に最も関係
のある機能は、TNF−αの、インビトロにおけるミエリンおよび乏突起神経膠
細胞損傷を仲介する能力、およびインビトロにおける乏突起神経膠細胞の細胞死
をおこす能力である。TNF−α活性のこの面は、例えば多発性硬化症などの疾
患に認められるミエリン損傷および/または脱ミエリン過程に直接関与する。ヒ
ト乏突起神経膠細胞はTNF受容体の両タイプ(TNF−R1およびTNF−R
2)を発現する;そこでTNF−αおよびTNF−βによって仲介される細胞毒
性がTNF−R1の活性化によっておきるのかも知れない。
TNF−αは脳を含める種々の組織の炎症反応の重要なメディエーターである
ことは知られている、そして炎症の開始およびこのプロセスからおきる病的結果
に重要な役割を演ずるらしい。TNF−αは、乏突起神経膠細胞、小グリア細胞
および星状膠細胞に対する直接効果をもつため、中枢神経系(CNS)に広範囲
の作用を有する。CNS疾患に最も関係のある機能は、TNF−αの、インビト ロ
におけるミエリンおよび乏突起神経膠細胞損傷を仲介する能力である。TNF
−αはまたインビトロで乏突起神経膠細胞の細胞死をおこす能力も有する(ロビ
ンズ(Robbins,D.S.)ら、J.Immunol. 139巻、2593ページ、1987)
。TNF−α活性のこの面は、例えば多発性硬化症(MS)などの疾患に認めら
れるミエリン損傷および/または脱ミエリン過程に直接関与するらしい。TNF
−αは天然では非細胞傷害性である星状膠細胞にも多くの影響を有する。MSに
おける脱髄斑の病的特徴の1つはアストログリア細胞増加であり、この場合星状
膠細胞の増殖およびグリア原線維性酸性タンパク質の生産がおきる(レーン(C.S
.Raine)、Lab.Invest. 50巻、608ページ、1984)。星状膠細胞増殖は
MSと関連した反応性神経膠症をおこし、TNF−αはこのプロセスを促進する
。TNF−αに反応したインビトロにおける星状膠細胞増殖はTNF−αが主要
な役割を有することを示す(セルマジュ(K.W.Selmaj)ら、J.Immunol. 144
巻129ページ、1990)。
TNF−αはMSにおけるCNSの脱髄に中心的役割を演じることが判明した
。TNF−αの血清濃度は活性MS患者では上昇し、TNF−α産生マクロファ
ージ、小グリア細胞および星状膠細胞が活性病巣部位に存在する。インビトロ実
験では、TNF−αは乏突起神経膠細胞損傷を直接仲介し、ミエリン形成を抑制
し、星状膠細胞を刺激し、これはその後MSのCNS瘢痕斑の原因となる(オー
エンス(Owens)とスリラム(Sriram)、Neurological Clinics、13巻、51
ページ、1995)。
脱髄過程で重要な役割を演ずるのはマクロファージと小グリア細胞である。T
NF−αは自己免疫的脱髄において、MS斑に検出されたように、乏突起神経膠
細胞の生きるか死ぬかに重要な役割を演ずる。しかし、インビトロ脱髄における
TNF−αの役割の詳細はまだ確認されてはいない(“サイトカインおよびCN
S”、編集:ランソホフ(R.M.Ransohoff)およびベネビスト(E.N.Beneviste)
、CRC Press、1996、99ページ)。
TNF−αの血清濃度は活性MS患者では上昇する(チョフロン
(M.Chofflon)ら、Eur.Cytokine Net.3巻、523ページ、1991;シャリ
ーフ(Sharief,M.K.)およびヘントゲン(Hentgen,N.E.)N.E.Jour.Med. 32
5巻、467ページ、1991)。TNF−αを産生するマクロファージ/小グ
リア細胞および星状膠細胞が活性病変部位に存在する(セルマジュ(K.Selmaj)
ら、Jour.Clin.Invest.87巻、949ページ、1991)。インビトロ実験で
は、TNF−αは乏突起神経膠細胞損傷を直接仲介し、ミエリン形成を抑制する
(セルマジュら、J.Immunol.147巻、1522ページ、1990;ツマモト(
T.tsumamoto)ら、Acta Neurol.Scand. 91巻、71ページ、1995)、そし
て瘢痕斑の原因である星状膠細胞を刺激する(セルマジュら、Jour.Immunol. 1
44巻、129ページ、1990)。
MSの病的特徴には、血管周囲炎および乏突起神経膠細胞喪失を伴う脱髄があ
る;髄鞘再生の試みは不成功であることが多く、最後は星状膠細胞性瘢痕になる
ことが多い。組織における細胞−仲介性および体液性メカニズム。補体およびT
NF−αを含める諸物質はインビトロでラット乏突起神経膠細胞を殺すことがで
きる;表面補体活性化も乏突起神経膠細胞の細胞内プロセスを開始し、同時に食
作用性相互作用のためのリガンドを提供する(ザジセク(J.Zajicek)ら、Mult. Scler.
1巻、61−72ページ、1995)。
星状膠細胞はTNF−R1のみを発現する(−3000受容体/細胞);そこ
でTNF−αのすべての効果はこの受容体により仲介される。MSの病的特徴の
1つは膠細胞増多症である;この場合星状膠細胞の増殖とグリア原線維酸性タン
パク質の過剰生産がおきる。TNF−αは星状膠細胞増殖を誘起し、それはMS
と関連する膠
細胞増多症をおこすかも知れない。それは特に、これらの疾患ではCNS中のT
NF−α濃度が高いからである。TNF−αは、星状膠細胞によるサイトカイン
産生の効果的な誘導因子である。
レイクマン(Reickmann)らは、MS悪化攻撃に先立つTNF−α発現の増加
を証明した(循環単核細胞を用いて)。(“サイトカインおよびCNS”、編集
:ランソホフおよびベネビスト、CRC Press、1996年、232ページ)。
星状膠細胞増殖の調節におけるTNF−αの役割を、ヒトおよびラット脳から
の種々の星状膠細胞培養物を用いて研究した。ヒト星状膠細胞系列ではTNF−
αは増殖を高め、この効果はTNF−α抗体によって阻止される。星状膠細胞増
殖を調節するTNF−αの役割を、ヒトおよびラット脳からの種々の星状膠細胞
培養物を用いて研究した。ヒト成人星状膠細胞系列ではTNF−αは増殖を促進
し、この効果は抗TNF−α抗体によって阻止される。
ネズミ、ラットおよびヒト脱髄疾患のインビボ研究は、TNF−αがCNS内
にあらわれる炎症性反応に関与することを示している。TNF−α陽性星状膠細
胞およびマクロファージがMS患者の脳内に確認された、特に斑領域では(ホフ
マン(F.M.Hofman)ら、Clin.Invest. 87巻、949ページ、1991)TN
F−αおよびTNF−β両方がMS斑領域に存在し、TNF−αが星状膠細胞内
に局在し、一方TNF− は小グリア細胞およびT−細胞と関連していることが
確認された。MS患者において血清および脳脊髄液のTNF−α濃度の上昇が報
告された(シャリーフ(Sharief,M.K.)、フィル(M.Phil)、ヘントグス(R.He
ntges)、N.Engl.J.Med. 325巻、467ページ、1991)、そして活性M
S患者ではT
NF−αの脳脊髄液濃度、血液脳障壁の破壊、およ高濃度の循環ICAM−1の
間に強い相関性が存在する。
アルツハイマー病
老年期における最も一般的な痴呆症状であるアルツハイマー病(AD)は、老
人の無能力および死の主な原因である。この病気は脳、特に海馬、扁桃、視床お
よび新皮質を含む脳に異常があらわれることによって発現する。これらの領域の
病変はニューロンの異機能/死、および標的の求心路遮断と関連する。ADの主
な病理学的特徴は細胞外実質および脳血管におけるアミロイド−βタンパク質(
Aβ)の沈着と、神経原線維糸球である(シソディア(S.S.Sisodia)ら“アル
ツハイマー病の病理生物学”、Academic Press,Ltd.,183ページ、1995)
。
抗体アッセイおよびバイオアッセイにより測定すると、TNF−αはAD患者
の血清では概して高い。1研究においてはAD症例のほぼ半数が高いTNF−α
を示したが、対照では同様な上昇を示した者はいなかった。血清TNF−α濃度
の高い患者には炎症性疾患はなかった、そこで血清TNF−αの増加はCNS疾
患を反映するものであると想像された。血液−脳障壁は通常はサイトカインを通
過させない。しかし血液−脳障壁はADでは完全無傷ではないことを示唆する証
拠がある。CNSの免疫学的プロセスの主なメディエーターはグリア細胞、特に
星状膠細胞および小グリア細胞である。(“サイトカインおよびCNS”編集:
ランソホフおよびベネビスト、CRC Press、246ページ、1996)。
ADの皮質では星状膠細胞数が広汎に増加し、星状膠細胞は老人性斑とも関連
していることが多い。免疫細胞化学的研究は、apo
−Eが老人性斑および神経原線維糸球と関連することを示した。(“サイトカイ
ンおよびCNS”、編集:ランソホフおよびベネビスト、CRC Press、254ペ
ージ、1996)
アルツハイマー病(AD)患者の脳のアミロイド斑および血管系に沈着してい
るβ−タンパク質(Aβ)は、アミロイド前駆体タンパク質(AβPP)からタ
ンパク分解的に誘導されるアミノ酸39〜43のペプチドである。(J.Conn,Amv loid
,1巻、232−239ページ、1994)。
アミロイド原線維の細胞外沈着は全身性アミロイド症の病理学的事象に関連し
、アルツハイマー病(ハース(Haas,C)とセルコ(Selkoe,D.J.)、(1993
)Cell75巻、1039−1042ページ)およびII型真性糖尿病(ロレンゾ(
Lorenzo,A.)ら、1994 Nature(ロンドン)、368巻、756−760ペ
ージ)のそれらとも関連がある。
アミロイド原線維の脳内沈着はアルツハイマー病(AD)の組織病理学的特徴
であり、−アミロイドはADの神経病発生と関係がある。Ab誘導性神経変性は
小グリア細胞増殖およびTNF−α放出増加を伴う(チャン(C.Chun)、Mol.Ch em.Neuropathol.
、23巻、159−178ページ、1994)。
アルツハイマー病の亢進および関連障害はアミロイドβ−タンパク質(Aβ)
沈着、および実質と脳血管の病的変化を含める。これらの疾患における脳血管A
β沈着は血管壁の変性した平滑筋細胞と関連がある;これらはAβ前駆体(Aβ
PP)およびAβを発現することがわかっている。著者は、Aβの豊富な脳血管
型であるAβ1−42が培養ヒト脳血管平滑筋細胞の細胞変性をおこすことを示
した。この侵襲反応は細胞AβPPおよび、これらの変性細胞に産生される溶解
性Aβペプチドの濃度の著しい増加を伴う。これらのデータは、Aβが脳血管病
変の発生および進行に潜在的に貢献することを示した最初の実験的証拠である(
サポリト- アーウィン(S.Saporito-Irwin)ら、J.Neurochem.65巻、931−
934ページ、1995)。
血管機能の障害がアルツハイマーのような神経変性的疾患の基礎にあるらしい
。トーマス(T.Thomas)らは(Nature、380巻、168−171ページ、19
96)、β−アミロイドが過酸化物ラジカルの産生を刺激することによって、血
管内皮の構造および機能を変えるらしいことを示した。彼らの観察は、老化の遊
離ラジカル理論とアルツハイマー型神経変性との関連性を提供するものである。
β−アミロイド沈着は老人およびアルツハイマー病患者の脳および脳血管に見
られる。脳の微小血管系の異常がアルツハイマー病の早期指標であるから、トー
マスら(同上)は血管に対するβアミロイドの影響を研究した。彼らはβ−アミ
ロイドのミクロモル濃度がラット大動脈の速やかな血管収縮をおこすことを見い
だした。過酸化物ラジカルがこの効果に関係していたかどうかを試験するために
、血管を遊離ラジカル掃去剤である過酸化物ジスムターゼとともにあらかじめイ
ンキュベートした。β−アミロイド誘導性血管収縮は遮断された。電子顕微鏡検
査は、β−アミロイド処理血管内皮に明らかな損傷を示した。(ブラドベリー(
J.Bradbury)、Lancet 347巻、750ページ、1996)。
呼吸器系の異常
(肺機能および灌流(DLCO))
ヴィラニ(Villani)ら(Jour.Chemotherapy、7巻、452−454ページ、
1995)は、皮膚メラノーマからのイントランジット転移(in-transit metast
es)および四肢の軟組織肉腫からの転移をわずらった患者22名で肺機能を研究
した。彼らを軽度の高体温で0.5〜4.0mg/平方メートルの範囲の量のT
HF−αを含む体外循環で分離灌流することによって治療した。17名の患者は
、補助的人工呼吸を必要とする呼吸不全に陥っていた(7名:1日だけ機械的人
工呼吸、8名:2日間機械的人工呼吸、2名:同期化間欠的強制人工呼吸)。治
療後7〜125日間記録した連続測定パラメーターは基礎値からの変化を示さな
かった;対照的に、一酸化炭素の肺運搬因子(DLCO)は用量依存的に有意に
減少した。これらのデータは、分離灌流法によって投与したTHF−αは肺副作
用を引き起こすことを確認するものである(以前のモリス(R.C.Morice)らの報
告、Proc.Soc.Clin.Oncol.、6巻、29ページ、1987;クエイ(Kuei)ら、Chest
96巻、334−338ページ、1989;リナード(Lienard)ら、Worl d Jour.Surg.
、16巻、234−240ページ、1992)。
考えられる一つの治療法は、マクロファージ誘導性サイトカインの作用を選択
的に阻止することである。THF−αの病理生理学的濃度の重要性が証明された
(ヴィルセク(Vilcek J.)ら、Jour. Exp .Med.、163巻 632−643
ページ、1986)。ピゲット(Piguet)らは(Jour.Exp .Med.、170巻、6
55−665ページ、1989;Nature,344巻、245−247ページ、1
990)、過敏性肺炎のネズミモデルにおいて肺線維症を回避するためにTHF
−α抗体をインビボ投与した。拡散能力は“運搬因子
”という呼び方によってより正確に理解される、なぜならばそれ(拡散能力)は
気体拡散障害以外の因子によって影響されるかも知れないからである。通常1回
呼吸法によって測定される肺の一酸化炭素拡散能力(DLCO)が一般的に用い
られるのは、それが比較的簡単な方法だからである。DLCOは通常、肺機能異
常と診断された場合は低下し、肺容量より著しく低下する。DLCOはブレオマ
イシン誘起性ヒト肺炎における病的重症度を追跡するためのすぐれた臨床的手段
である(ヴァンバーンヴェルト(Van Barneveld)ら、Am.Rev.Respir.Dis.,1
35巻、48−51ページ、1987)。
気体(一酸化炭素、二酸化炭素または酸素)の拡散障害は肺胞−毛細管膜の異
常、肺毛細血管容量の減少、肺容量または灌流に対する拡散能力の異常な分布に
よっておきる。
拡散能力の膜成分は肺胞−毛細管膜の厚さの増加、またはガス交換に使用でき
る総表面積の減少、どちらかによって減少する。カッサン(Cassan)ら(Chest,
65巻、275−278ページ、1974)は、肺拡散機能の中程度の異常をも
つ患者9名から採取した肺生検標本の形態計測研究において、肺胞- 毛細管膜の
調和平均厚さが正常対照のそれより70%増加していることを見いだした。
DLCO値は、ガス交換の運動誘起性悪化程度と強く相関している。これは安
静時と運動時との動脈酸素飽和、Pa02の変化として測定され、酸素要求、お
よび酸素拡散効率に直接相関している。
肺機能(異常)患者の経過をモニターするために、測定は一貫してDLCO値
の測定を含めなければならない。このような測定値は広く使用でき、実施が容易
で、費用が安い(ゴットリーブ(Gottli
eb,D.)ら、Pulmonary Fibrosis、80巻、85−87ページ、1995)。6
−12カ月にわたる治療に対する反応から、その後の24カ月の経過を予測でき
るのが普通である(ルッド(Rudd)ら、Am.Rev.Resp.Dis.、124巻4−8ペー
ジ、1981);ワター(Watter)ら、Am.Rev.Resp.Dis.、135巻、696−
4704ページ、1987)。治療の最初の1年間の悪化は長期生存の可能性の
減少を予測する。
TNF−αはブレオマイシンおよびシリカによって誘起される肺線維症に或る
役割を演じることが証明された(ピゲットら、Jour.Exp .Med.、170巻、65
5−663ページ、1989、および Nature、344巻、245−247ペー
ジ、1990;エヴァーソン(Everson)およびチャンドラー(Chandler)、Ame r.Jour.Path.
,140巻、503−512ページ、1992;ファン(Phan)お
よびカンケル(Kunkel)、Exp.Lung Invest.,84巻、1873−1882ペー
ジ、1989;デニス(Denis)ら、Amer.Jour.Cell Mol.Biol.,5巻、477
−483ページ、1991)。
TNF−αは二次的メッセンジャーサイトカインの区画化放出を調節すること
によって、その炎症前効果を調和的に組み合わせることが報告されている。諸研
究は、慢性的インビトロTNF−αにさらされたヌードマウスに肺炎症および線
維症が発生することを示した(ARRD 145巻、A307、1992)。喘息
シレリ(Cirelli)らは、アレルギー性喘息性気道におけるモノカイン産生パ
ターンをより完全に特徴づけることを企て、これらの物質の相対的濃度が疾患の
分類および細胞の補充に関連すると仮定した。アレルギー性喘息患者25名にお
いてブタクサを用いるセグメント抗原攻撃の前(1日目)および24時間後(2
日目)に得た10×濃BAL液のELISAによって、サイトカイン測定を行っ
た。19名は全肺攻撃に対する二重反応、6名は単回初期反応であった。結果:
TNF−α、IL−1bおよびIL−1raの濃度は2日目には全喘息患者で増
加した(TNF−α:2.49±0.75〜12.43±4.78pq/ml、
p=0.03;IL−1b:3.70±0.62〜7.25±0.91pq/m
l、p=0.02;IL−1ra:1531.83±270.34〜3799.
96±440.49pq/ml、p=0.0001)。AA−Sのなかではサイ
トカイン濃度が上昇する傾向があったが、AA−D群ではTNF−α、IL−1
およびIL−1raの2日目の濃度はより高く(3種類ともp<0.05)、2
日目の増加の大部分を占めた。細胞流入もAA−D群で最大であった(マクロフ
ァージ、好酸球および好中球でp<0.05)。研究者らは、TNF−α、IL
−1およびIL−1raの産生が全アレルギー性喘息患者でセグメント抗原攻撃
後24時間目には有意に増加すると結論づけた(シレリら、Amer.Jour.Resp.Cri tical Care Med.
,151巻、345A、1995)。
TNF−αは喘息において重要な役割を演ずると考えられる炎症前サイトカイ
ンである。TNF−α濃度を、健康対照者13名の気
管支肺胞洗浄(BAL)液で測定した(男性4名、女性9名、平均年齢22.5
±SD4.0;アトピー性喘息8名、軽度症候性アトピー性喘息7名、年齢30
.7±13.2)。局所麻酔下で線維光視気管支鏡検査を行い、右上葉の分節気
管支でBALを行った。BAL液を10−30分の1に濃縮し、TNF−α濃度
をELISA法で測定した。TNF−α濃度(未濃縮BAL液1mlについてあ
らわした)は対照者に比べて喘息患者では有意に大きかった(中間値97.5対
54.1fg/ml、p<0.05)。しかし非アトピー性対照とアトピー性対
照との間ではTNF−αの有意差はなかった(54.1対57.4fg/ml、
p>0.05)。これらの研究結果は、喘息患者における組織TNF−α濃度の
増加を示し、これがこの病気の病理生理学に貢献するらしいことを示している(
レディングトン(A.E.Redington)ら、Amer.Jour.Respir.Crit .Care Med.,1
51巻、702A,1995)。慢性閉塞性肺疾患(COPD)
TNF−αが病理生理学に役割を演ずるもう一つの疾患は慢性閉塞性肺疾患で
ある。線維症性反応によっておきる進行性呼吸不全疾患である珪肺症では、TN
F−αに対する抗体がマウスのシリカ誘起性肺線維症を完全にブロックした(ピ
ゲットら、Nature344巻、245−247ページ、1990)。シリカおよび
アスベスト誘起性線維症の動物モデルでは、高濃度のTNF−α産生(血清およ
び分離マクロファージにおいて)が証明された(ビソネット(Bissonnette)ら
、Inflammation、13巻、329−339ページ、1989)。
COPD患者の炎症は現在、内視鏡的気管支生検によって評価さ
れる。内皮および上皮細胞の両方で炎症性細胞の増加と粘着分子の上方調節(ア
ップレギュレーション)が見いだされた。この研究において、著者は安定COP
D患者の血漿中の炎症性メディエーターの測定によって全身炎症レベルを評価し
た(Amer.Jour.Resoir.Crit Care Med.、151巻、841A、1995)。成人呼吸障窮迫症候群(ARDS)
成人呼吸窮迫症候群では、12000pg/ml以上の過剰TNF−α濃度が
ARDS患者の肺吸引物に検出されている(ミラー(Millar)ら、Lancet 2巻
(8665):712−714ページ、1989)。組換えTNF−αの全身注
入はARDSに一般的に見られる変化を起こした(フェレイ−バリヴィーラら、Arch.Surgery
124巻、1400−1405ページ、1989)。肺サルコイドーシス(類肉腫症)
肺サルコイドーシス患者からの肺胞マクロファージは正常ドナーからのマクロ
ファージに比べて多量のTNF−αを自発的に放出することがわかった(ボーグ
マン(Baughman)ら、Jour.Lab.Clin.Med.、115巻、36−42ページ、19
90)。TNF−αはその他の急性疾患状態、例えばその後の再灌流に続く病理
生理学的反応など、にもかかわっている。それは再灌流性損傷に関係し、血流喪
失後の組織損傷の主因である。(ヴェダー(Vedder)ら、Proc.Nat.Acad.Sci.,
87巻、2643−2646ページ、1990)。
敗血症
TNF−αの過剰産生は内毒素誘起性敗血症ショックの病因に関係している(
カルスウエル(Carswell)ら、Proc.Nat.Acad.Sci.,
2巻、3666−3670ページ、1975)。内毒素はグラム陰性菌の細胞壁
のリポ多糖成分であり、TNF−αおよびその他の生物学的活性サイトカイン分
子の合成および分泌増加を誘起するマクロファージ活性物質である。TNF−α
は敗血症、敗血症性ショックおよび多臓器不全の中心的メディエーターとして認
識されている。これらのホスト反応は、高められたTNF−α産生による血中T
NF−α濃度増加と関連する。(スチュバー(F.Stuber)ら、Jour.Inflam. 4
6巻、42−50ページ、1996)。
敗血症では、TNF−α過剰産生が低血圧、血管内皮透過性、および器官損傷
、すなわち内毒素ショックの結果の幾つかをおこす。成人呼吸窮迫症候群(AR
DS)はしばしば敗血症および多臓器不全と関連し、このことからARDSの病
因にTNF−αが或る役割を果たしていることが認識されるに至った。TNF−
αは慢性異化性疾患状態、例えば長期寄生虫およびウィルス感染および悪性腫瘍
などに見られる体重喪失(悪液質)をおこす物質でもある。この体重喪失は回復
にとってハンディキャップであり、致命的でさえある。
肝臓は体内のサイトカイン産生マクロファージの最大のプールを含み、したが
って敗血症ショックの発生および結果に重要な役割を演ずる。アウアーバス(S.
Auer-Bath)らはインシトゥで灌流したマウス肝のTNF−α放出能力を研究し
た。LPSまたはTNF−αのどちらかでマウスを前処理すると、灌流液に用量
依存性のTNF−α放出がおきた(Jour.Pharm.Exper.Therap.、276巻、96
8−976ページ、1996)。
バジャー(A.M.Badger)らは、D−ガラクトサミン感作マウスに
おいてインビトロおよびインビボでLPS誘導性TNF−α産生に対する特異的
作用物質の影響、並びにLPS誘導性死亡からマウスを防御するそれら物質の能
力を研究した。インビボでは、効果的作用物質はTNF−α血清濃度を著しく減
らした。TNF−αはLPSプラスD−ガラクトサミンモデルにおいて病因的中
心的役割を有すると考えられている、なぜならば動物の生存率は血清TNF−α
濃度の減少と直接相関関係にあったからである(Cir.Shok,44巻、188−1
95ページ、1994)。
インビボでは、LPS投与D−ガラクトサミン感作マウスの血清TNF−α濃
度にランク順の効力があった。興味深いことにTNFはLPS/D−ガラクトサ
ミンモデルに中心的病因的役割をもつと考えられる、なぜならば、動物の生存率
は各被検化合物で血清TNF濃度の減少と直接相関していたからである(バジャ
ーら、Cir.Shok,44巻、188−195ページ、1994)。
ネズミTNF−αに向けられる高度に特異的なポリクローン家兎抗血清を作っ
た。BALB/cマウスを抗血清で受動免疫したとき、それらマウスは大腸菌(
E.coli)から誘導されたLPSの致死的効果から防御された。その予防効果は用
量依存的であり、LPS注射前に抗血清を投与した場合に最も効果的であった。
TNF−αに対する抗血清はLPS投与動物の熱性反応は軽減しなかった、そし
て非常に多量のLPSはこの保護効果を克服した。特異的抗血清50マイクロリ
ットルで前処理したマウスにおけるLPSの中間致死量は非免疫血清を投与した
対照の中間致死量の約2.5倍であった。データは、TNF−αがLPSの致死
的効果の主要メディエーターの1つであることを示唆する(ボイトラー(Beutle
r)ら、Sci
ence
、229巻、869ページ、1985)。
肝臓
肝臓は代謝およびホスト防御メカニズムに中心的役割をもつため、敗血症時の
多臓器不全の開始に責任のある主要器官であると考えられている。敗血症の初期
の過度に起動的な段階における肝細胞機能の低下は肝臓灌流の減少によるもので
はないように見え、循環サイトカイン類、例えばTNF−αの濃度増加に関連し
ている。さらに組換えTNF−αを心拍出量または肝臓灌流を減らさない程度の
量投与すると、肝細胞機能異常が生ずる。(ワング(P.Wang)、Amer.Jour.Phys iol.
270巻、5ページ、1996)。
肝臓は体内にサイトカイン産生マクロファージの最大プールを含み、そのため
全身性炎症性反応症候群の発生および結果に重要な役割を演ずるらしい。インシ
トゥ灌流マウス肝のTNF−α放出能力およびメチルキサンチン(十分に確立さ
れた炎症性サイトカイン抑制薬の1つである)によるその調節を研究した。マウ
スにポリ多糖体またはTNFを前投与すると、灌流液に用量依存性TNFの放出
がおきることがわかった。これはマウスにペントキシフィリンまたはA−802
715(i−(5−ヒドロキシ−5−メチル)ヘキシル−3−メチル−7プロプ
リキサンチン)のインビボ前投与によって阻止された。これらのメチル−リポ多
糖体またはTNFの注入も、TNF産生が開始した後でさえ直ちに、そして可逆
的に、TNF産生を阻止した。メチル−キサンチンの阻止効果はアデニレートシ
クラーゼインヒビターであるジデオキシアデノシンの前投与によって防止された
:これはこれらの薬剤の考えられるるメカニズムとしての環状アデノシン−リン
酸系の上方調節を示唆する。肝臓は強力
なサイトカイン生産体であることが証明された、そしてショックおよび炎症性肝
不全のネズミモデルにおいて、それはメチル−キサンチンまたはその他のホスフ
ォジエステラーゼインヒビターの標的器官の一つであることが確認された。(レ
イスト(M.Leist)、J.Pharmacol.Exp.Ther. 276巻、968−979ページ
、1996)。
著者は転写停止下における肝臓アポトーシス、肝臓アポトーシスの誘導下にお
ける55kDa受容体の活性化、TNF誘導性肝臓アポトーシスにおけるグリコ
シル化段階、T細胞−開始性サイトカイン放出による肝損傷誘発、および転写停
止がないときのTa細胞依存性TNF−仲介性肝損傷を論じている(ウェンデル
(A.Wendel)ら、Cell.Biol.Mol.Basis Liver Transp. Int.,Ringberg Conf.Hep
atic Transp.,2版、1995、105−111ページ)。
膵臓
肥満者を心臓病およびII型糖尿病の発生リスクに導く、肥満誘導性インスリン
抵抗のメカニズムが最近確認された(Science 271巻665ページ、1996
)。肥満者の脂肪細胞は、肥満程度並びにインスリン抵抗の程度と相関する濃度
のTNF−αを含むことがわかり、研究者らはインスリン抵抗を促進するTNF
−αの役割に取り組んだ。彼らは、TNF−αが鍵となる基質を、セリン残基の
ところでリン酸化することによって抵抗を誘起することを見いだした。IRSの
この変化した形は、インスリン経路の第1段階であるインスリンが結合した後の
インスリン受容体の自己リン酸化を阻害する。
TNF−αは肥満と関係するインスリン抵抗状態に中心的役割を
演ずる。これまでに、TNF−αがインスリンのシグナル化を妨害する重要な1
つのメカニズムはインスリン受容体基質−1(IRS−1)のセリンリン酸化に
よることが示された。これははインスリン受容体(IR)のチロシンキナーゼ活
性のインヒビターとして機能し得る。データは、TNF−αがp55TNFRに
よるシグナル化、およびスフィンゴミエリナーゼ活性を阻害し、その結果IRS
−1の阻害型を産生することを強く示唆している(ペラルディ(P.Peraldi)ら
、Jour.Biol.Chem.271巻、13018−13022ページ、1996)。
クローン病
研究者らは正常な子供、下痢の乳児、および活性期および不活性期の炎症性腸
疾患の子供の便中のTNF−α濃度を測定した。10名の正常な子供および14
名の下痢の子供において、便中の中間TNF−α濃度はそれぞれ58および45
pg/g便であった。下痢対照児に比較して、活性期クローン病の子供では便中
TNF−α濃度は有意に増加した(n=13、中間値994pg/g)p<0.00
02)。手術またはステロイド治療の結果、不活性期になったクローン病患者では
、便中TNF−α濃度は対照濃度にまで低下した(約50pg/g;ブラッガー
(C.P.Braegger)ら、Lancet 339巻、89−91ページ、1992)。
前子癇
前子癇は内皮の異常であり、TNF−αが幾つかのメカニズム、例えば酸化剤
と抗酸化剤とのバランスの変化、プロスタグランジン産生パターンの変化、数種
の細胞表面成分の発現に対する影響などによって、内皮細胞に基礎的影響を与え
る。患者の結果をみると、
けいれん前患者ではTNF−αmRNA発現が対照群と比較して有意に高くなっ
ていることがわかる。これらの観察はにおけるTNF−αの主な役割と一致する
(Immunol.104巻、154−159ページ、1996)。
皮膚火傷
ラットに全身表面積の37%の熱湯熱傷を与えた後、第1週目に、熱傷領域お
よび離れた領域のひらめ筋のタンパク異化速度およびTNF−α含量を動的に測
定した。骨格筋のTNF−α含量は熱傷領域の方が離れた領域より遥かに多かっ
た。また、TNF−αの増加は、骨格筋のタンパク異化速度と有意な相関関係に
あった(リー(L.Li)ら、Jour.Med.Coll .PLA10巻、262−267ページ、
1995;C.A.125巻:938ページ、1245巻:8156aページ、19
96)。
骨吸収
TNF−αは関節炎などの骨吸収疾患では増加する;この際活性期では白血球
が骨吸収活性をもたらすことが確認された。データは、TNF−αがこの活性を
高めることを示している(バートリニ(Bertolini)ら、Nature 319巻、51
6−518ページ、1986、およびジョンソン(Johnson)ら、Endocrinology
124巻、1424−1427ページ、1989)。TNF−αはインビロおよ
びインビボにおいて破骨細胞形成および活性化の促進と骨芽細胞機能の阻止によ
って、骨吸収を促進し、骨形成を阻害する。TNF−αは関節炎を含める多くの
骨吸収性疾患にかかわっているらしい。
リウマチ性関節炎
ヒトリウマチ性関節炎組織のサイトカインmRNAおよびタンパク質の分析は
、多くの炎症前サイトカイン、例えばTNF−αなど、が治療にもかかわらずす
べての患者に多量にあることを証明した。自発的にIL−1を生産するリウマチ
性関節細胞培養物においては、TNF−αがIL−1の主な優勢調節物質であっ
た。その後、TNF−αを中和すると、その他の炎症前サイトカインも阻止され
た。これは炎症前サイトカイン類はTNF−αをその先端に含むネットワークに
結合しているという概念に導く。これから、TNF−αがリウマチ性関節炎に重
要な役割を演じており、治療の標的であるという概念が生まれる。これを試験し
て成功した。これらの研究は、長期リウマチ性関節炎患者では抗TNF−α治療
の臨床試験の実施が合理的であることを示した。
キメラ抗−TNF−α抗体を用いる幾つかの臨床試験は、明らかな臨床効果を
示し、TNF−αがリウマチ性関節炎に重要な役割を果たしているという考え方
が正しいことを証明した。再発を繰り返す場合にも再投与が有効であることが臨
床試験で示され、この疾患がTNF−αにかかわり続けていることを示唆した(
フェルドマン(M.Feldmann)Annual Rev.Immunol.14巻、397−440ペー
ジ、1996)。
血管
TNF−αは内皮細胞の性質を変え、種々の凝結促進活性、例えば組織因子凝
固原活性の増加および抗凝固タンパク質C経路の抑制並びにトロンボモジュリン
の発現の下方調節などを有する(シェリー(Sherry)ら、Jour.Cell.Biol.10
7巻、1269−1277ページ、1988)。TNF−αは、その早期(外傷
または傷害事
故の初期)産生とともに、幾つかの重要な障害、例えば心筋梗塞、発作および循
環性ショックなど(ただしこれらに制限されるものではない)における組織損傷
に反応するメディエーターとなる活性を有する。特に重要なのは、粘着分子、例
えば細胞間接着分子(ICAM)または血管内皮白血球粘着分子(ELAM)な
どの、内皮細胞におけるTNF−α誘導性発現である。(ムンロ(Munro)ら、A m.Jour.Path.
135巻、121−132ページ、1989)。
心臓
パッカー(Packer)らは、心不全における現在の最も疑われる物質はノルアド
レナリン、アンギオテンシン、バソプレシン、エンドテリン、および腫瘍壊死因
子(TNF−α)であることを示唆している(N.E.J.Med.323巻、236−2
41ページ、1990)。彼らは、ひどい心不全、特にその病気の症状がひどい
場合、例えば心臓悪液質、ではTNF−αの濃度が増加することを報告した;T
NF−αは、慢性炎症性疾患、感染症、癌およびその他の疾患で悪液質を生ずる
。
本研究の主な目的は、低濃度TNF−αの、変力反応(イノトロピック レス
ポンス)に対する、および心筋細胞の高エネルギーリン酸塩の細胞濃度に対する
亜慢性的効果を確認することであった。そこで培養した新生ラット心臓細胞をT
NF−αに24時間さらした後に10−5Mイソプロテレノール−、10−1M
ウーアバイン−、10−5Mフォルスコリン−、および2.4mMカルシウム灌
流液に対する変力反応を研究した。動物およびヒトで行った研究結果から、低濃
度のTNF−αに亜慢性的にさらされると、異なる変力性物質に対する心筋細胞
の反応がほぼ完全に、だが可逆的に阻止
されると結論づけられる;これは変力カスケードの一般的最終段階がTNF−α
によって変化することを示唆する。TNF−αにさらされた細胞のエネルギー代
謝も影響を受けるとはいえ、高エネルギーリン酸濃度の減少だけでは認められた
心筋細胞の変力反応の阻止は説明されない。研究者は、培養ラット心筋細胞に関
するインビトロ研究から、低濃度TNF−αへの亜慢性的被曝は異なる変力作用
物質(イソプロテレノール、ウーアバイン、フォルスコリン)に対する心筋細胞
の反応のほぼ完全なだが可逆的阻止をおこすと結論づけ、変力カスケードの一般
的最終段階がTNF−αによって変わることを示唆している(ボクステジャーズ
(P.Boelstegers)、Mol.Cell.Biochem. 156ページ、135−143ページ
、1996)。
炎症性疾患状態は心筋梗塞にかかりやすくする。著者らはラットにおいて全身
性炎症性反応症候群、(LPS)−誘起性循環性ショックの冠状血管緊張状態に
与える影響を研究した。シクロヘキシミドまたはTNF−α抗体の前投与、また
はインビボおよびインビトロにおける皮ETA受容体選択的拮抗物質、FR13
9317、の連続注入はLPSによって誘起される冠状血管抵抗増加を著しく減
少させた。こうしてTNF−αはエンドテリン−1−(ET−1)の放出を誘起
するらしい、そしてこれは冠状血管収縮の少なくとも一部を仲介する。そのため
、炎症性疾患状態、例えばLPS誘起性敗血症性ショックでは、それに続くTN
F−αおよびエンドテリン−1の放出があり、それは冠状血管緊張の増加をおこ
し、心筋虚血になりやすくする。抗体並びにETによるTNF−αの不活性にも
かかわらず、選択的拮抗物質による受容体ブロックはこの経路を
有効に妨害するかも知れない(ホールフェルド(T.Hohlfeld)ら、Br.J.Pharmac ol.
116巻、3309−3315ページ、1995)。
免疫
移植片対宿主反応においては、上昇した血清TNF−αレベルは、同種の骨髄
移植後の主要な合併症と関連していた(ホーラー(Holler)ら、Blood、75巻、
1011−1016頁、1990)。
サルメテロールおよびその関連試薬は、約0.1μMの同様のIC50Sを用
いたリポ多糖類(LPS)活性THP−1細胞によるTNF−α分泌を抑制した
が、この抑制はB2−拮抗阻害体 B2−アドレナリンレセプタにより有効に逆
転された。著しく異なる反応性プロファイルがT細胞で見られた。サルメテロー
ルは、抗−CD3抗原に応答して増殖とIL−2分泌により測定したところ、マ
ウスとヒトの双方のT細胞の活性化を抑制したが、アルブテロールはこれらの検
定では完全に不活性であった。サルメテロールによるこのT細胞阻止は、TNF
−α生産によるものよりも効力が約10倍低く、B2−拮抗阻害体によっては逆
転されなかったが、これはサルメテロールの影響が異なる機構によることを示し
ている。インビトロの抑制活性TNF−αと同様に、サルメテロールとサルブテ
ロールの経口投与は、約0S1mg/kgのED50sにより、インビボのマウ
ス血清TNF−αレベルのLPS誘導による増加を抑制(阻止)した。この抑制
は、bブロッカプロプラノロールを経口投与することによりなくすことができた
。サルメテロールの持続性薬理プロファイルは、その抗力を3h保持することか
ら明らかになり、一方、サルブテロールは作用の持続時間が著しく短かった。サ
ルメテロールはまた、エンドトキシンショックを呈していたが、これはTNF−
α産生による。サルメテロールは、この検定では、血清TNF−αレベルを94
%まで抑制したが、50%未満の動物を
LPS/ガラクトースアミン混合物の致死作用から保護するものであった。この
観察は、組織において局在するTNF−αの機能レベルが血清レベルにより正確
には反映されないことを示している(セクト(L.Sekut)、Clin.Exp.Immunol.、9
9巻、461−466頁、1995)。
感染症
幾つかのウイルスはTNF−αによる規制に感応性があり、インビボのTNF
−α過剰生産および分泌を誘発する。かかるウイルスには、HIVウイルス、サ
イトメガロウイルス(CMV)、インフルエンザ、アデノウイルスおよびヘルペ
スウイルス群が含まれるが、これらに限定されるものではなく、またはヘルペス
ウイルス群にはヘルペス帯状疱疹およびヘルペス単体が含まれるが、これらに限
定されない。
単球、マクロファージ、並びに、クッパーおよびグリア細胞のような関連する
細胞は、HIV感染症の維持に連係しており、HIVウイルスの複製のターゲッ
トである。TNF−αはまた、単球および/またはマクロファージにおけるHI
V複製を活性にすることがわかった(ポリ(Poli)ら、Proc.Nat.Acad.Sci.、87
巻、782−784頁、1990)。従って、TNF−α過剰生産および活性の
抑制は、HIV進行の抑制を高める。
T細胞およびマクロファージラインにおける潜在HIVのエイズウイルスの複
製は、TNF−αにより誘発させることができる(ホルク(Folk)ら、Proc.Nat.A cad.Sci.
、86巻、2365−2368頁、1989)。ウイルス誘発活性の分
子機構は、細胞の細胞質において見られる、ウイルス規制遺伝子シーケンスへの
結合を介して
HIV複製を促進する遺伝子規制タンパク質を活性化するTNF−αの能力によ
り示される(オズボーン(Osborn)ら、Proc.Nat.Acad.Sci.、86巻、2336−
2340頁、1989)。エイズに関連する悪液質におけるTNF−αレベルの
高まりは、増大した血清TNF−αと、患者からの抹消血単球におけるTNF−
αの高レベルの同時生産とにより示される(ライト(Wright)ら、J.Immunol.、1
41巻、99−104頁、1988)。
ラーデビルタ(Lahdevirta)らは、Amer.Jour.Med.、85巻、289頁、198
8において、TNF−αは、HIVに関連する、悪液質および筋肉の退歩の状態
と関連すると述べている。ライト(Wright)らは、J.Immunol.、141巻、99−
104頁、1988において、かかる患者からの抹消血単球における増大するT
NF−αおよび高レベルのTNF−α生産によるエイズ悪液質におけるTNF−
αの役割の可能性について示唆している。
フォルクス(Folks)ら(Proc.Nat.Acad.Sci.、86巻、2365−2368頁
、1989)は、TNF−αはT細胞およびマクロファージラインにおける潜在
HIVのウイルス複製の刺激を誘起すると指摘している。
細菌性髄膜炎は、髄膜炎症応答の発生と密接に関連する可能性のある細胞質の
髄膣内生産を伴う。実験髄膜炎における抗TNF−α抗体による脳水腫の予防は
、血液脳関門の破損におけるTNF−αの関与の確固たる証拠を提供している。
TNF−αはまた、好中球の組織内への浸潤を誘発し、結果として、副次的メデ
ィエーターの局所領域における誘発を引き起こす。TNF−αはまた、内皮細胞
と白血球とによる血小板活性因子(PAF)およびプロスタグラン
ジンの形成を活性化する。脳水腫を引き起こす内皮細胞の損傷はまた、反応性酸
素中間体の生産により媒介されるが、これは過酸化物ジスムターゼにより阻止す
ることができる(フォンタナ(A.Fontana)ら”Cytokines and the CNS”CRC Pres
s、1996、R.M.Ransohoff およびE.N.Benveniste編集)。
TNF−αはまた、酵母および真菌性感染症とも関連する。特に、カンジダア
ルビカンスは、ヒト単球およびナチュラルキラー細胞においてインビトロTNF
−α過剰生産を誘起することが示されている(リッピ(Riipi)ら、Infection and Immunity
、58巻、2750−54頁、1990、ジャファリ(Jafari)ら、Jou r.Infect.Dis.
、164巻、389−95頁、1991、ワサン(Wasan)ら、Anti microb.Agents and Chemo.
、35巻、2046−48頁、1991、ルーク(Luk
e)ら、Jour.Inf.Dis.、162巻、211−214頁、1990)。
脳マラリアは、マラリア患者に生ずる高血液レベルに関連する致命的な過敏性
神経症候群である。ヒト疾患の幾つかの特徴を再現するある形態の実験脳マラリ
アは、抗TNF抗体の投与によりマウスにおいて阻止された(グラウ(Grau)らIm munol.Rev.
、112巻、49−70頁、1989)。血清TNF−αのレベルは
、急性マラリアに罹患した患者における疾患と予後の厳しさとに直接相関してい
た(グラウら、New Eng.Jour.Med.、320巻、1586−1591頁、198
9)。
従来の投与量では、熱帯熱マラリア原虫の溶解した赤血球の形態により刺激さ
れるヒト抹消血におけるクロロキノンのTNF−α抑制活性は、キニンのそれと
比べて大きかった。脳マラリアの最適処
理は、クロロキンと迅速作用抗TNF−α抗体との組み合わせとすることができ
る(クエートコウスキー(D.kwaitkowski)およびベイト(C.Bate)、Trans.R.Soc.T rop.Med.Hyg.
、89巻、215−216頁、1995)。
(クルーズィ(T.cruzi)により引き起こされる)シャガース症の典型的なもの
の1つに、進行性心筋症がある。この疾患は、心臓の機能を低下させることが知
られているTNF−αの高い血清レベルと関連する。クルーズィトリポマスティ
ゴートに感染させ、15日後に殺した生後1ヶ月の雄のルイスラットの場合には
、感染した動物の履歴検査により、筋細胞内のアマスティゴートによる濃厚な感
染と、心筋における最小の炎症性湿潤液が明らかとなった。機械的損傷のほかに
、クルーズィによる感染は、心筋自体における前炎症性細胞質を誘起するが、こ
れは病気を悪化させるとともに、心筋機能に悪影響を与える(チャンドラセカー
ル(B.Chandrasekar)ら、Biophys.Res.commu.、223巻、365−3671頁、
1996年)。
従って、本発明の主たる目的は、(1)種々の適宜の細胞(元は、間葉、中胚
葉または表皮)からTNF−αの合成、貯蔵(保存)および放出の抑制(阻止)
、及び、(2)過剰に高濃度のTNF−αが細胞、組織および器官に及ぼす病理
生理学的影響を阻止する組成物および方法を提供することにある。
本発明の別の目的は、TNF−αの有利な作用を抑制することのない組成物お
よび方法を提供することにある。
本発明の別の目的並びにその特定の特徴、要素および利点は以下の説明から明
らかになるものである。発明の開示
本発明は、好ましい実施態様においては、種々の細胞からの腫瘍壊死因子の合
成および放出の抑制方法であって、N−置換2(1H)ピリドン、N−置換3(
1H)ピリドンおよびこれらの薬学的に許容することができる塩よりなる群から
選ばれる1つ以上の薬学的物質の有効投与量をヒトその他の哺乳動物に投与する
工程を含んでなる、種々の細胞からの腫瘍壊死因子の合成および放出の抑制方法
を提供することにより、上記目的を達成するものである。図面の簡単な説明
図1−5は、本発明の化合物の1つを用いて行われる種々の実験の結果を示す
。発明を実施するための最良の形態
5−メチル−1−フェニル−2−(1H)−ピリドン、即ち、「ピルフェニド
ン」および関連化合物は、TNF−αの合成および放出を抑制するとともに、損
傷部位におけるTNF−αの幾つかの病理生理学的影響を抑制しまたは阻止する
ことにより、ヒスタミン、プロスタグランジン、ブラジキニンおよびペルオキシ
ダーゼのような、細胞からの他の病理生理学的生化学生成物の放出を抑制するこ
とがわかった。本発明はまた、かかる化合物と、薬学的に許容することができる
希釈剤とを含んでなる薬学的組成物に関する。
TNF−α過剰生産および/または放出を特異的に抑制するこのような化合物
の発見により、過剰のTNF−α生産が関連する疾患に対する治療方法が得られ
るだけでなく、細胞、組織または器官による過剰濃度のTNF−αに対する曝露
の病理生理学的影響を阻止することができる。本発明の化合物は、単球、マクロ
ファージ、神
経細胞、内皮細胞、表皮細胞、間葉細胞(例えば、線維芽細胞、骨格筋細胞、平
滑筋細胞、心筋細胞)並びに他の多くの種類の細胞の過剰生産および放出を抑制
するのに有用である。
本発明はまた、(1)細胞からのTNF−αおよび/またはTNF−βの過剰
生産および/または放出を抑制するとともに、(2)ヒトを含む哺乳動物におけ
るTNF−αの過度に高い組織レベルの有害、有毒または致命作用を阻止する治
療方法に関する。この方法は、上記した化合物の1つ以上の有効TNF−α抑制
量を哺乳動物に投与する工程を含む。この方法はまた、TNF−αにより媒介さ
れ、あるいは再発される疾患の治療または予防に使用することができる。本発明
は、ヒトを含む哺乳動物に所要によりかかる化合物の有効量を安全に投与するこ
とにより、アレルギ、外傷、放射線、化学、微生物その他の損傷疾患を治療する
方法を提供するものである。
かかる化合物は、これらの各環境における過剰レベルのTNF−αの放出、合
成とともに、過剰レベルのTNF−αの病理生理学的作用を抑制しあるいは阻止
することにより、組織または器官の損傷の抑止または解消を直接的に容易にする
とともに、正常な機能の修復を容易にする。同時に、これらの作用は、感染、ア
レルギ、免疫現象、火傷、放射線照射、腫瘍性疾患、有毒化学物質を原因とし、
かつ、心臓血管の損傷、神経損傷、腎損傷、肝臓損傷、膵臓損傷、並びに、腹水
、局所水腫、皮膚損傷および皮膚水泡として表される組織損傷その他の損傷疾患
の治療において新規な用途を提供するものである。
強力な免疫抑制剤であるシクロホスファミド(シトキサン)、ア
ザチオプリン、シクロスポリンまたはプレドニゾンとは異なり、これらの化合物
は、免疫応答を抑制することなく、「自動免疫疾患」として分類される臨床不全
の薬剤治療に寄与することができる。
これらの化合物を系統的にまたは局所的に使用した後の局所水腫の著しい減少
により、水腫が特定の化学剤、アレルギ反応、エンドトキシン、放射線、微生物
感染、火傷あるいは損傷により実験的に誘発されるかどうかが明らかとなってい
る。水腫は、(1)かかる化合物の局所的な適用、または(2)十分に系統的な
(経口または非経口)投与後に容易に消失する。
例えば、かかる化合物、即ち、局所的に適用されあるいは系統的に投与される
TNF−α拮抗阻害体は、局所水腫、圧力損傷により引き起こされる発疱応答(
発疱)(例えば、工具の取り扱いにより引き起こされる手の圧迫打撲あるいは発
疱)、熱傷あるいは火傷を原因とする損傷、並びに、(1)化学物質を原因とす
る損傷、(2)微生物感染により放出される生成物(例えば、LPS)、(3)
外部の生物学的生成物(接触皮膚炎、昆虫刺傷)との接触に対する免疫応答、(
4)古典的なアレルギ応答(慢性鼻炎を引き起こすサワギク枯草熱)、(5)放
射線曝露(日焼け)を劇的になくすことができる。
肺機能障害を持つ患者の場合に、経口ピルフェニドンを使用した予備試験にお
いて、連続DLCO定量により測定したところ、肺の拡散能力に、迅速かつ一貫
した改善が顕著にみられた。
化合物はまた、ウイルス感染の治療にも有効であり、かかるウイルスはTNF
−αによる規制に感応性があり、インビボのTNF−α過剰生産および分泌を誘
発する。本発明の化合物を用いた治療が
行われるウイルスは、感染の結果としてTNF−αを生産するウイルス、あるい
は式(I)のTNF−α抑制剤に対して直接または間接に応答するウイルスであ
る。かかるウイルスには、HIVウイルス、シトメガロウイルス(CMV)、イ
ンフルエンザ、アデノウイルスおよびヘルペスウイルス群が含まれるが、これら
に限定されるものではなく、ヘルペスウイルス群にはヘルペス帯状疱疹およびヘ
ルペス単体が含まれるがこれらに限定されない。
本明細書において説明されている活性化合物は、TNF−αの生産を抑制し、
従って、上記したように、過剰のTNF−α組織または血液レベルに関連する著
しく多くの疾患の治療に使用することができ、かかる疾患には、敗血性ショック
、出血性ショック、慢性リウマチ、インシュリン抵抗性タイプ2糖尿病、炎症性
疾患、成人呼吸窮迫症候群、喘息、後腎臓透析症候群および骨髄移植後の移植片
対宿主疾患が含まれる。
ヒトその他の哺乳動物の治療に、かかる化合物およびその薬学的許容塩を使用
するためには、これらは、通常、標準的な薬学的プラクティスに従って薬学的組
成物として配合される。化合物またはその薬学的許容配合物は、ヒトその他の哺
乳動物における、ぜん息、アレルギ、または炎症性疾患のようなTNF−αの抑
制により媒介される疾患の予防または治療措置の投薬剤の製造において使用する
ことができるが、これらに限定されない。化合物は、ヒトその他の哺乳動物にお
けるかかる疾患を治療するのに十分な量が投与される。
本発明の薬学的組成物は、化合物の少なくとも1つ以上の無毒な有効量と、薬
学的に許容することができるキャリアまたは希釈剤と
を含んでなる。これらの処理には、所望の製剤に適した、成分の混合、粒状化お
よび圧縮または溶解が含まれる。
こうして、固体のキャリアが使用される場合には、製剤は、錠剤とし、粉末ま
たはペレットの形態で硬いゼラチンカプセルに入れ、あるいはトローチまたは甘
味入り錠剤の形態とすることができる。固体キャリアの量は変わるが、約25m
g〜400mgとするのが好ましい。液体のキャリアが使用される場合には、製
剤はシロップ、エマルジョン、軟質のゼラチンカプセル、アンプルまたは非水性
懸濁液のような無菌の注射可能な液体の形態とされる。組成物がカプセルの形態
をなす場合には、例えば、硬質のゼラチンカプセルの殻に入れた上記キャリアを
使用した、通常のカプセル封入が適している。
シロップ配合物は、通常、液体キャリア、例えば、エタノール、グリセリンま
たは水に風味剤または着色剤とともに入れた化合物の懸濁液または溶液からなる
。エーロゾル製剤は、水、エタノールまたはグリセリンのような液体キャリアに
入れた化合物の溶液または懸濁液からなり、一方、粉末乾燥エーロゾルの場合に
は、製剤は湿潤剤を含むことができる。
本発明の配合物は、活性成分を、その1つ以上の許容することができるキャリ
アおよび所要の場合には、他の治療成分とともに含む。キャリアは、配合物の他
の成分と適合するという意味において「許容することができる」とともに、その
受容体に有害であってはならない。
当業者が認識するように、薬学的に許容することができるキャリアまたは希釈
剤の形態および特性は、該キャリアまたは希釈剤が組
み合わされるべき活性成分の量、投与の方法その他周知の可変因子により左右さ
れる。例I
33〜900マイクログラム/ミリリットルの濃度のインビトロのピルフェニ
ドンは、WEHI164細胞からのTNF−αの過剰な病理生理学的量の合成お
よび/または放出を抑制した(表1)。33〜300マイクログラム/ミリリッ
トルの濃度のインビトロのピルフェニドンは、TNF−αによるWEHI腫瘍性
線維芽細胞の死滅を抑制しなかった。
ピルフェニドンの存在下でチオグリコレート誘発マウス腹腔マクロファージを
LPSに曝したところ、著しく低いレベルのTNF−αがこれらの細胞の培地に
分泌された。この減少は培地のピルフェニドンの濃度に直接関係していた。0.
9mg/mlに曝したマクロファージには毒性はなかった。ピルフェニドンの存
在下での著しく低レベルのTNF−αは、TNF−α出力の統計的に有意な(P
<0.01)抑制を示した。
マクロファージ並びに他の細胞からのTNF−αの合成および放出を阻止する
ピルフェニドンおよびその関連する化合物の能力を、マーガン(Morgan)、ミルス
(Mills)、D.レコウィッツ(D.L.Lefkowitz)およびS.レコウィッツ(S.S.Lefko
witz)の方法(新規なマイクロタイタプレートで培養したWEHI154細胞を
使用する腫瘍壊死因子の改良された比色検定"An Improved Colorimetric Assay
for Tumor Necrosis Factor Using WEHI 154 Cells Cultured on Novel Microti
ter Plates"Jour.Immunol.Method.、145巻、259−262頁、1991)
により生物検定した。例II
マウスマクロファージの細胞質内のTNF−αの合成に対する等級を付けた濃
度のピルフェニドンの直接的な影響をみるため、適宜の培地で成長させたマクロ
ファージの細胞培養物を、(1)LPSに曝すことなく(対照)および(2)1
.0pg/mlのLPS(E.coli)に曝露して、各濃度のピルフェニドン
で60分間処理を行った。60分間の曝露後直ちに、(a)マクロファージは遠
心分離により培養地から分離され、(b)マクロファージは溶解された。その後
、マクロファージ細胞からの溶解した内容物(細胞の
細胞質および核)を、TNF−αレベルに関してELISAにより検定を行った
。
対照(LPS、E.coliに対する曝露なし)においては、著しく低い基線
レベルのTNF−αだけが、各ピルフェニドン濃度においてマクロファージの細
胞質内に見受けられた。ピルフェニドンの濃度が0.9mg/mlの場合にも、
基線レベルだけが見出された。TNF−αの生成における測定可能な統計的に有
意な変化は起こらなかった。
LPSで処理したマクロファージにおいては、細胞の細胞質と核により、(1
)ピルフェニドンがない場合にはTNF−αのこれらのマクロファージの細胞質
による合成が高められ(図5)、かつ、(2)培地におけるピルフェニドンの濃
度に直接関係するTNF−α合成のLPS(E.coli、1.0pg/ml)
誘発上昇が抑制されることがわかった(図5)。ピルフェニドンによるマクロフ
ァージの細胞質と核内のTNF−αの合成で高められたLPSの薬理学的抑制は
、統計学的に有意であった(P<0.01)。例III
インビボの動物研究においては、体重1キログラム当たり30〜400ミリグ
ラムのピルフェニドンをi.p.投与したところ、TNF−αの病理生理学的毒
性作用(例えば、エンドトキシン[LPS]ショック)を抑制しあるいは完全に
阻止した(図2)。
インビボのマウスの研究では、体重1キログラム当たり200ミリグラム以上
のピルフェニドンを腹腔内投与したところ、TNF−αの形成および循環器への
放出が完全に阻止され、これが数時間に亘って維持された。このモデルは、循環
TNF−αのインビボ誘導
に関して上記したモデルの修正である(ハラナカ(Haranaka)ら、Cancer Immunol .Immunother
、18巻、87−90頁、1984)。例IV
マウスの予備インビボ研究においてi.v.LPS(E.coli.、50p
g/ml)と600mg/kgのi.p.D−ガラクトースアミンとの組み合わ
せにより引き起こされる致死率(100.0%死亡率)は、300mg/kgの
ピルフェニドンを、LPSとD−ガラクトースアミンとの組み合わせ体の投与前
の30分に亘るi.p.注射により顕著に低下した(10.0%死亡率)。生き
ているマウスのTNF−αの血清レベルは、通常の基線レベルに近づいた。マウ
スは、LPS注射後2日間観察した。例V
ヒトにおいて予備のおよび制御された試験を行ったところ、有効な抗TNF−
αの毎日の経口は、体重1キログラム当たり約10〜30ミリグラム程度、好ま
しくは体重1キログラム当たり約20〜25ミリグラム程度であることがわかっ
た。
ここにおいて示されているデータ(表1、図1、2、3、4および5)は、本
発明の化合物が哺乳動物細胞によるTNF−αの過剰生産および放出を抑制する
ことができることを示している。これは、本発明の化合物が、ヒトの単球、マク
ロファージ又はその他の細胞によるTNF−αの過剰生産を抑制するのに有用で
あることを示している。
TNF−αのこの生物検定は、監視試験において、基本的なサンドイッチEL
ISA法(ウインストン(Winston)ら、「分子生物学における現在のプロトコー
ル」(Current Protocols in Molecular
biology)11.2.1頁アウスベル(Ausubel)ら編集、1987)を使用するこ
とにより確認された。TNFの他の全ての血漿レベルを、基本的なサンドイッチ
ELISA法(ウインストン(Winston)ら、「分子生物学におけるプロトコール
」(Current Protocols in Molecular biology)11.2.1頁アウスベル(Ausub
el)ら編集、1987)の修正法を使用して測定した。
体重1キログラム当たり80マイクログラムの濃度では、対照グループ(グル
ープ当たりマウス7匹)に比較してTNF−α血清レベルの上昇を50%抑制し
た。ピルフェニドンはまた、経口投与を行ったときに同じ投与量で有効である。
LPSを、マウス当たり2.5マイクログラム(ミリグラム当たり100マイ
クログラムの保存溶液から100マイクログラムの容積)の投与量でマウスに静
脈内注射するとともに、ピルフェニドンをその後直ちに投与した。次に、90分
後に心臓穿刺を行ってマウスの出血を行った。その後、血清を、ELISAキッ
ト(エンドジェン(Endogen))によりTNF−αに関して分析を行った。
ピルフェニドンのほかに、他のN−置換2(1H)ピリドンおよびN−置換3
(1H)ピリドンを含んでなる以下の密接に関連する化合物は、TNF−αの合
成および放出を抑制する効力を有することがわかり、あるいは有するものと考え
られている。
5−メチル−1−(3−ニトロフェニル−2)−(1H)ピリドン、
5−メチル−1−(4’−メトキシフェニル)−2−(1H)ピリドン、
5−メチル−1−p−トリル−2−(1H)ピリドン、
5−メチル−1−(3’−トリフルオロメチルフェニル)−2−(1H)ピリ
ドン、
1−(4’クロロフェニル)−5−メチル−2)−(1H)ピリドン、
5−メチル−1−(2’−ナフチル)−2−(1H)ピリドン、
5−メチル−1−(1’ナフチル)−2−(1H)ピリドン、
3−メチル−1−フェニル−2−(1H)ピリドン、
6−メチル−1−フェニル−2−(1H)ピリドン、
3、6−ジメチル−1−フェニル−2−(1H)ピリドン、
5−メチル−1−(2’−チエニル)−2−(1H)ピリドン、
1−(2’−フリル)−5−メチル−2−(1H)ピリドン、
5−メチル−1−(5’−キノリル)−2−(1H)ピリドン、
5−メチル−1−(4’−ピリジル)−2−(1H)ピリドン、
5−メチル−1−(3’−ピリジル)−2−(1H)ピリドン、
5−メチル−1−(2’−ピリジル)−2−(1H)ピリドン、
5−メチル−1−(2’−キノリル)−2−(1H)ピリドン、
5−メチル−1−(4’−キノリル)−2−(1H)ピリドン、
5−メチル−1−(2’−チアゾリル)−2−(1H)ピリドン
、
1−(2’−イミダゾリル)−5−メチル−2−(1H)ピリドン、
5−エチル−1−フェニル−2−(1H)ピリドン、
3−エチル−1−フェニル−2−(1H)ピリドン、
1−フェニル−2−(1H)ピリドン、
1−(4’−ニトロフェニル)−2−(1H)ピリドン、
1、3−ジフェニル−2−(1H)ピリドン、
1−フェニル−3−(4’−クロロフェニル)−2−(1H)ピリドン、
1、3−ジフェニル−5−メチル−2−(1H)ピリドン、
3−(4’クロロフェニル)−5−メチル−1−フェニル−2−(1H)ピリ
ドン、
5−メチル−3−フェニル−1−(2’−チエニル)−2−(1H)ピリドン
、
5−メチル−1−フェニル−3−(1H)ピリドン、
5−メチル−1−(4’−メトキシフェニル)−3−(1H)ピリドン、
5−メチル−1−p−トリル−3−(1H)ピリドン、
1−(4’−クロロフェニル)−5−メチル−3−(1H)ピリドン、
5−メチル−1−(2’−ナフチル)−3−(1H)ピリドン、
4−メチル−1−フェニル−3−(1H)ピリドン、
6−メチル−1−フェニル−3−(1H)ピリドン、
5−メチル−1(2’−チエニル)−3(1H)ピリドン、
1−(2’−フリル)−5−メチル−3−(1H)ピリドン、
5−メチル−1−(5’−キノリル)−3−(1H)ピリドン、
5−メチル−1−(3’−ピリジル)−3−(1H)ピリドン、
5−メチル−1−(2’−ピリジル)−3−(1H)ピリドン、
5−メチル−1−(2’−キノリル)−3−(1H)ピリドン、
5−エチル−1−フェニル−3−(1H)ピリドンおよび
1−フェニル−3−(1H)ピリドン。
2−(1H)ピリドンの一般構造式は、
{式中、R1=アルキル基(CH3、C2H5など)、Aはフェニル、チエニル
など、または他のアリール基である。R3は、アルキル基の置換部位であり、R
1は水素のままであり、R2とR4はどの場合でも水素とすることができる。}
である。
3−(1H)ピリドンの一般構造式は、
{式中、R2またはR3は上記のようにアルキル基または水素であり、Aはフェ
ニル、チエニルなど、または他のアリール基である。R1およびR4は水素であ
る。}
である。
これらの化合物は、ガデカー(Gadekar)に1974年10月1日に付与された
、発明の名称が「N−置換ピリドンおよびピリドンを製造する一般的な方法」の
米国特許第3,839,346号に記載の方法と同様の方法を使用して製造する
ことができる。本明細書に
おいてはこの米国特許を引用して明細書の一部となす。この特許にはまた、これ
らの化合物の幾つかを鎮痛剤、抗炎症および解熱処置において使用することが記
載されている。いずれもガデカーに、1976年8月10日に付与された米国特
許第3、974、281号、1977年8月16日に付与された米国特許第4,
042,699号および1988年10月4日に付与された米国特許第4,05
1,509号には、ヒトその他の動物における血清尿酸およびグルコースレベル
の低下、上気道炎症の治療および炎症性皮膚の治療することが記載されている。
マルゴリン(Morgolin)に1994年5月10日に付与された、発明の名称が「線
維疾患の修復および予防組成物および方法」の米国特許第5,310,452号
およびマルゴリンの発明に係る、発明の名称が「線維疾患の修復および予防組成
物および方法」の同時係属米国特許出願第08/243,058号には、線維疾
患の修復および予防における上記化合物の使用が記載されている。
本発明の組成物は、カプセル、錠剤、粉末、グラニュール、シロップ、注射可
能な流体、ピル、クリーム、軟膏、吸入可能な固体または流体、点眼剤および座
薬からなる形態で投与することができる。
そして、上記した目的が有効に達成されることがわかるとともに、上記組成物
および方法について本発明の範囲から逸脱することなく変更を行うことができる
ので、上記説明に含まれる事項は全て例示としてのみ解釈されるべきであって、
限定的な意味に解されるべきではない。
以下の請求の範囲は、上記した本発明の一般的なおよび特定の構
成の全て並びに言語上の問題として脱落しているかもしれない本発明の範囲の全
ての記述を包含するものである。
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(51)Int.Cl.6 識別記号 FI
A61K 31/00 613 A61K 31/00 613G
617 617C
626 626N
637 637E
643 643D
// C07D 213/64 C07D 213/64
401/04 213 401/04 213
233 233
405/04 213 405/04 213
409/04 213 409/04 213
417/04 213 417/04 213
(81)指定国 EP(AT,BE,CH,DE,
DK,ES,FI,FR,GB,GR,IE,IT,L
U,MC,NL,PT,SE),OA(BF,BJ,CF
,CG,CI,CM,GA,GN,ML,MR,NE,
SN,TD,TG),AP(KE,LS,MW,SD,S
Z,UG),UA(AM,AZ,BY,KG,KZ,MD
,RU,TJ,TM),AL,AU,BB,BG,BR
,CA,CN,CZ,EE,GE,HU,IL,IS,
JP,KP,KR,LK,LR,LT,LV,MG,M
K,MN,MX,NO,NZ,PL,RO,SG,SI
,SK,TR,TT,UA,US,UZ,VN