JP7562091B2 - 多孔性セルロース粒子及びその製造方法 - Google Patents

多孔性セルロース粒子及びその製造方法 Download PDF

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特許法第30条第2項適用 http://www3.scej.org/meeting/stu22w/prog/room_M1.html(第22回化学工学会学生発表会(岡山大会)講演プログラムにおいてタイトルを公開(講演番号:M22))。掲載日:令和2年1月15日 〔刊行物等〕 http://www3.scej.org/meeting/stu22w/abst/M22.pdf(第22回化学工学会学生発表会(岡山大会)発表要旨において要旨を公開(講演番号:M22))。掲載日:令和2年2月17日 〔刊行物等〕 http://www3.scej.org/meeting/51f/appl/serial_1.html(化学工学会第51回秋季大会の講演申し込み一覧においてタイトルを公開(受理番号89)。掲載日:令和2年6月3日
本発明は、セルロースナノファイバーにより形成された多孔性セルロース粒子、及びその製造方法に関する。
セルロースナノファイバーの生化学分野での研究や応用として、タンパク質などの生理活性物質とTEMPO酸化セルロースナノファイバー(TOCN)との相互作用による吸着の検討事例が報告されている(特許文献1参照)。
特許第6159737号公報
しかしながら、セルロースナノファイバーを吸着剤として用いる場合、微細繊維状のままで水媒体に分散させたものでは、セルロースナノファイバーと被吸着物とを分離しにくいことや微細繊維状セルロースを回収、再利用しにくいことなど、取り扱い性に劣る。セルロースナノファイバーの取り扱い性を向上するために、ナノサイズの微細繊維状の形態をマイクロサイズの粒子に形成することが考えられる。その場合に、セルロースナノファイバーの水分散体を単に静置乾燥するだけでは、セルロースナノファイバーが凝集するため、表面積が低下し、例えば吸着剤としての性能が低下してしまう。
本発明の実施形態は、セルロースナノファイバーからなるセルロース粒子の表面積を増大させることを目的とする。
本発明は以下に示される実施形態を含む。
[1] セルロースナノファイバーにより形成された粒子であって、テンプレート粒子の除去跡である複数の穴を粒子表面に備える多孔性セルロース粒子。
[2] 前記多孔性セルロース粒子の平均粒径が1~30μmであり、前記穴の平均孔径が前記多孔性セルロース粒子の平均粒径の1/200~1/5である、[1]に記載の多孔性セルロース粒子。
[3] 前記セルロースナノファイバーがアニオン性官能基を持つ、[1]又は[2]に記載の多孔性セルロース粒子。
[4] [1]~[3]のいずれか1項の多孔性セルロース粒子を含む吸着剤。
[5] セルロースナノファイバーとテンプレート粒子を含む分散液を噴霧乾燥して、前記セルロースナノファイバーと前記テンプレート粒子が複合化された複合体粒子を得ること、及び、得られた複合体粒子に含まれる前記テンプレート粒子を有機溶剤で溶解させること、を含む、多孔性セルロース粒子の製造方法。
[6] 前記テンプレート粒子の平均粒径が100~1000nmである、[5]に記載の多孔性セルロース粒子の製造方法。
[7] 前記セルロースナノファイバーがアニオン性官能基を持つ、[5]又は[6]に記載の多孔性セルロース粒子の製造方法。
本発明の実施形態であると、セルロースナノファイバーからなるセルロース粒子の粒子表面にテンプレート粒子の除去跡の穴を設けたことにより、セルロース粒子の表面積を増加させることができる。そのため、例えば吸着剤として用いたときの吸着性能を向上することができる。
(A)テンプレート粒子を溶解除去前の複合体粒子の概念図。(B)テンプレート粒子を溶解除去した多孔性セルロース粒子の概念図。 (A)実施例1のPMMA粒子とセルロースナノフィバーとの複合体粒子(PMMA/TOCN=1/1)のSEM画像。(B)実施例1のPMMA粒子溶解除去後の多孔性セルロース粒子のSEM画像。 実施例1の複合体粒子、多孔性セルロース粒子、セルロース粒子及びPMMA粒子についてのFT-IRの測定結果を示すグラフ。 (A)実施例2のPMMA粒子とセルロースナノフィバーとの複合体粒子(PMMA/TOCN=2/1)のSEM画像。(B)実施例2のPMMA粒子溶解除去後の多孔性セルロース粒子のSEM画像。 (A)実施例3のPMMA粒子とセルロースナノフィバーとの複合体粒子(PMMA/TOCN=3/1)のSEM画像。(B)実施例3のPMMA粒子溶解除去後の多孔性セルロース粒子のSEM画像。 (A)実施例4のPMMA粒子とセルロースナノフィバーとの複合体粒子(PMMA/TOCN=4/1)のSEM画像。(B)実施例4のPMMA粒子溶解除去後の多孔性セルロース粒子のSEM画像。 (A)実施例5のPMMA粒子溶解除去後の多孔性セルロース粒子(TOCN/Fe/PMMA=1/1/4)のSEM画像。(B)その一部拡大画像。 (A)実施例6のPMMA粒子溶解除去後の多孔性セルロース粒子(TOCN/Fe/PMMA=1/2/4)のSEM画像。(B)その一部拡大画像。 多孔性セルロース粒子についてのリゾチームの吸着容量を示すグラフ。
本実施形態に係る多孔性セルロース粒子は、セルロースナノファイバーにより形成されたセルロース粒子であって、粒子表面に複数の穴を備えたものである。
セルロースナノファイバーとしては、下記(a)~(c)を満たすものを用いることが好ましい。
(a)数平均繊維径が3nm以上100nm以下であること。
(b)セルロースI型結晶構造を有すること。
(c)平均アスペクト比が2以上5000以下であること。
上記(a)の数平均繊維径は、より好ましくは50nm以下であり、更に好ましくは30nm以下であり、10nm以下でもよい。数平均繊維径は、次のようにして測定することができる。
すなわち、固形分率で0.05~0.1質量%のセルロースナノファイバーの水分散体を調製し、その水分散体を、親水化処理済みのカーボン膜被覆グリッド上にキャストして、透過型電子顕微鏡(TEM)の観察用試料とする。なお、大きな繊維径の繊維を含む場合には、ガラス上へキャストした表面の走査型電子顕微鏡(SEM)像を観察してもよい。また、観察用試料は、例えば2質量%ウラニルアセテートでネガティブ染色してもよい。そして、構成する繊維の大きさに応じて5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。その際に、得られた画像内に縦横任意の画像幅の軸を想定し、その軸に対し、20本以上の繊維が交差するよう、試料および観察条件(倍率等)を調節する。そして、この条件を満たす観察画像を得た後、この画像に対し、1枚の画像当たり縦横2本ずつの無作為な軸を引き、軸に交錯する繊維の繊維径を目視で読み取っていく。このようにして、最低3枚の重複しない表面部分の画像を、電子顕微鏡で撮影し、各々2つの軸に交錯する繊維の繊維径の値を読み取る(したがって、最低20本×2×3=120本の繊維径の情報が得られる)。このようにして得られた繊維径の相加平均を数平均繊維径とする。
上記(b)のセルロースI型結晶構造を有することは、広角X線回折像測定により得られる回折プロファイルにおいて、2θ=14°~17°付近と、2θ=22°~23°付近の2つの位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
上記(c)の平均アスペクト比は、より好ましくは50以上であり、更に好ましくは100以上であり、200以上でもよい。平均アスペクト比は、より好ましくは1000以下であり、500以下でもよい。平均アスペクト比は、次のようにして測定することができる。
すなわち、先に述べた方法に従い数平均繊維径を算出する。また、同様の観察画像からセルロースナノファイバーの数平均繊維長を算出する。詳細には、繊維の始点から終点までの長さ(繊維長)を最低10本目視で読み取る。なお、枝分かれしている繊維については、その繊維の最も長い部分の長さを繊維長とする。このようにして得られた繊維長の相加平均を算出し、数平均繊維長とする。これらの値を用いて平均アスペクト比を下記式に従い算出する。
平均アスペクト比=数平均繊維長(nm)/数平均繊維径(nm)
セルロースナノファイバーとしては、アニオン性官能基を持つものが好ましく用いられる。アニオン性官能基を持つことにより、液中で負の電位を持つため、正の電位を持つ吸着質に対して有利な吸着性能を発揮することができる。
アニオン性官能基としては、例えば、カルボキシ基、リン酸基、スルホン酸基、硝酸基、ホウ酸基、及び硫酸基からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。本明細書において、カルボキシ基は、酸型(-COOH)だけでなく、塩型、即ちカルボン酸塩基(-COOX、ここでXはカルボン酸と塩を形成する陽イオン)も含む概念であり、酸型と塩型が混在してもよい。リン酸基、スルホン酸基、硝酸基、ホウ酸基、及び硫酸基についても、同様に、酸型だけでなく、塩型も含む概念であり、酸型と塩型が混在してもよい。塩としては、特に限定されず、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、ホスホニウム塩等のオニウム塩、1級アミン、2級アミン、3級アミン等のアミン塩等が挙げられる。
セルロースナノファイバーにおけるアニオン性官能基の量は、特に限定されず、例えば、セルロースナノファイバーの乾燥質量あたり、0.5~3.0mmol/gでもよく、1.5~2.0mmol/gでもよい。アニオン性官能基の量は、例えば、カルボキシ基の場合、0.1~1質量%の濃度に調製したセルロースナノファイバー含有スラリーを60mL調製し、0.1mol/Lの塩酸水溶液によってpHを約2.5とした後、0.05mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、電気伝導度測定を行い、pHが約11になるまで続け、電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(V)から、下記式に従い求めることができる。リン酸基についても、同様の電気伝導度測定により測定することができる。その他のアニオン基についても公知の方法で測定すればよい。
アニオン性官能基量(mmol/g)=V(mL)×〔0.05/セルロースナノファイバー質量(g)〕
一実施形態において、セルロースナノファイバーとしては、アニオン性官能基としてカルボキシ基を有することが好ましい。カルボキシ基を含有するセルロースナノファイバーとしては、例えば、セルロース分子中のグルコースユニットの水酸基を酸化してなる酸化セルロースナノファイバーや、セルロース分子中のグルコースユニットの水酸基をカルボキシメチル化してなるカルボキシメチル化セルロースナノファイバーが挙げられる。
酸化セルロースナノファイバーとしては、セルロース分子中のグルコースユニットのC6位の水酸基が選択的に酸化されてカルボキシ基に変性されたものが挙げられる。該酸化セルロースナノファイバーは、木材パルプなどの天然セルロースをN-オキシル化合物の存在下、共酸化剤を用いて酸化させ、解繊(微細化)処理することにより得られる。N-オキシル化合物としては、一般に酸化触媒として用いられるニトロキシラジカルを有する化合物が用いられ、例えばピペリジンニトロキシオキシラジカルであり、特に2,2,6,6-テトラメチルピペリジノオキシラジカル(TEMPO)または4-アセトアミド-TEMPOが好ましい。TEMPOで酸化されたセルロースナノファイバーは、一般にTEMPO酸化セルロースナノファイバー(TOCN)と称されている。なお、酸化セルロースナノファイバーは、カルボキシ基とともに、アルデヒド基又はケトン基を有していてもよい。
セルロースナノファイバーは、解繊処理を行うことにより得てもよい。解繊処理は、アニオン性官能基を導入してから実施してもよく、導入前に実施してもよい。解繊処理は、例えば、高速回転下でのホモミキサー、高圧ホモジナイザー、超音波分散処理機、ビーター、ディスク型レファイナー、コニカル型レファイナー、ダブルディスク型レファイナー、グラインダー等を用いて、セルロース繊維の分散液を処理することにより行うことができ、セルロースナノファイバーの分散液を得ることができる。
実施形態に係る多孔性セルロース粒子は、テンプレート粒子の除去跡である複数の穴を粒子表面に備える。除去跡の穴は、樹脂製のテンプレート粒子を有機溶剤で溶解除去することにより形成される穴であり、セルロースナノファイバーの分散液を単に噴霧乾燥して得られるセルロース粒子における粒子表面の凹凸や隙間などによる穴とは明確に区別可能である。テンプレート粒子を用いることにより、その粒径に応じた孔径を持つ穴を形成することができる。そのため、セルロースナノファイバーからなるセルロース粒子の表面に所望の孔径を持つ穴を形成してポーラス化することができるため、表面積を増大させた多孔性セルロース粒子を容易に得ることができる。
上記除去跡の穴は、例えば吸着剤として用いる場合の吸着効果を高めるために粒子表面に設けられることが好ましく、粒子表面とともに粒子内部に設けられてもよい。
穴の形状はテンプレート粒子の形状に対応した形状となる。テンプレート粒子として球状の粒子を用いる場合、その除去跡である穴は、多孔性セルロース粒子の粒子表面では部分球状、粒子内部では球状となる。そのため、球状のテンプレート粒子を用いる場合、多孔性セルロース粒子はその粒子表面に部分球状の穴を持つ。ここで、部分球状とは、球の一部を欠く形状のことである。但し、テンプレート粒子を溶解除去した後の処理により多孔性セルロース粒子に歪みが生じることで除去跡の穴が変形する場合もあるため、上記の球状や部分球状は必ずしも厳密に球面又は部分球面を有する必要はなく、溶解除去後に歪んだ形状のものも含まれる。
実施形態に係る多孔性セルロース粒子は、取り扱い性の観点からマイクロサイズであることが好ましい。より詳細には、多孔性セルロース粒子の平均粒径は、1~30μmであることが好ましく、より好ましくは2~20μmであり、更に好ましくは3~15μmである。
多孔性セルロース粒子に形成される上記穴の平均孔径は、特に限定されないが、多孔性セルロース粒子の平均粒径の1/200~1/5であることが好ましく、より好ましくは1/100~1/10である。例えば、上記穴の平均孔径は、100~1000nmでもよく、200~700nmでもよい。ここで、上記穴の平均孔径とは、粒子表面での孔径(開口径)の平均値である。
多孔性セルロース粒子の粒子表面に形成される上記穴の面積比率(穴比率)は、特に限定されず、粒子の表面積に対する穴の開口面積の割合として5~75%でもよく、10~60%でもよい。
多孔性セルロース粒子の窒素吸着比表面積(BET法)は、特に限定されないが、5~50m/gであることが好ましく、より好ましくは8~40m/gであり、10~30m/gでもよい。
多孔性セルロース粒子のゼータ(ζ)電位は、特に限定されない。セルロースナノファイバーがアニオン性官能基を持つ場合、多孔性セルロース粒子は負のゼータ電位を持ち、その粒子表面にカチオン性有機化合物を静電的引力により吸着させることができる。ここで、ゼータ電位とは、電気二重層のすべり面での電位のことであり、界面動電位とも称される。多孔性セルロース粒子の純水中におけるゼータ電位は、例えば-100~-10mVでもよく、-70~-30mVでもよい。
本実施形態に係る多孔性セルロース粒子は、セルロースナノファイバーにより形成されるものであり、セルロースナノファイバー単独でもよいが、セルロースナノファイバーとともに他の成分を含有してもよい。例えば、多孔性セルロース粒子を液中から効率的に収集するために、酸化鉄などの磁性体粒子を他の成分として含んでもよい。また、テンプレート粒子が完全に溶解除去されずに残存している場合、テンプレート粒子を構成する樹脂を他の成分として含んでもよい。
本実施形態に係る多孔性セルロース粒子の製造方法は、以下の工程を含む。
(工程1)セルロースナノファイバーとテンプレート粒子を含む分散液を噴霧乾燥する工程、及び、
(工程2)噴霧乾燥により得られた複合体粒子に含まれるテンプレート粒子を有機溶剤で溶解させる工程。
工程1では、セルロースナノファイバーとテンプレート粒子を、例えば溶媒として水を用いて、当該溶媒に均一に混合分散させることにより分散液を調製する。
テンプレート粒子とは、セルロースナノファイバーからなるセルロース粒子に穴を設けて多孔性粒子とするための型となる粒子であり、セルロースナノファイバーとともに複合化された後、有機溶剤や酸やアルカリなどにより溶解除去可能な樹脂粒子であれば、特に限定なく用いることができる。テンプレート粒子としては、有機材料または無機材料ともに用いることができる。有機材料としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸メチルなどのアクリル樹脂、ポリスチレンなどのスチレン樹脂、ポリビニルアルコールなどのビニル樹脂、ポリエステル樹脂などの樹脂粒子が挙げられる。無機材料としては、例えば、酸で溶解する炭酸カルシウムなどを用いることができ、アルカリで溶解するSiOなどを用いることができる。これらはいずれか1種又は2種以上組み合わせて用いてもよい。
テンプレート粒子の平均粒径は、特に限定されないが、100~1000nmであることが好ましく、より好ましくは200~800nmであり、300~700nmでもよい。
工程1で調製する分散液において、セルロースナノファイバーの濃度としては、噴霧乾燥によりセルロース粒子を形成することができれば、特に限定されず、例えば、0.01~20質量%でもよく、0.05~10質量%でもよい。テンプレート粒子の濃度も特に限定されず、例えば、0.01~20質量%でもよく、0.1~10質量%でもよい。
該分散液において、セルロースナノファイバーとテンプレート粒子との比率は、特に限定されないが、テンプレート粒子/セルロースナノファイバーの質量比で0.5~10でもよく、1~6でもよい。工程1により得られる複合体粒子におけるセルロースナノファイバーとテンプレート粒子との質量比についても同様である。
工程1では、該分散液を噴霧乾燥することにより、セルロースナノファイバーとテンプレート粒子が複合化された複合体粒子を得る。噴霧乾燥は、分散液を気体中に噴霧して急速に乾燥させることで、乾燥粉体を作製する方法であり、公知の噴霧乾燥機を用いて行うことができる。噴霧乾燥における乾燥温度は、特に限定されず、例えば150~200℃でもよい。
噴霧乾燥により得られる複合体粒子は、図1(A)にその概念図を示すように、セルロースナノファイバーをマトリックスとして、該マトリックスに複数のテンプレート粒子が分散した状態に複合一体化される。
工程2では、上記で得られた複合体粒子を有機溶剤や酸やアルカリなどで処理し、複合体粒子に含まれるテンプレート粒子を溶解除去する。有機溶剤としては、セルロースナノファイバーを溶解させることなく、テンプレート粒子を溶解可能であれば、特に限定されず、テンプレート粒子を構成する樹脂の種類にもよるが、例えば、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、アルコール、N,N-ジメチルホルムアミドなどが挙げられる。酸としては、例えば、塩酸、硫酸などが挙げられる。アルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液などが挙げられる。
有機溶剤で処理してテンプレート粒子を溶解除去した後、有機溶剤から分離し乾燥してもよく、これにより多孔性セルロース粒子が得られる。図1(B)は多孔性セルロース粒子の概念図であり、セルロースナノファイバーからなる粒子の表面に、テンプレート粒子の除去跡である複数の穴が設けられている。
実施形態に係る多孔性セルロース粒子は、例えば、タンパク質などの生理活性物質用の吸着剤や担体として用いることができる。より詳細には、生理活性物質用吸着剤として、例えばタンパク質などの生理活性物質の精製、分離を行うことができ、また、カラムクロマトグラフィーの充填剤として生理活性物質の精製に利用できる。また、酵素などを担持して反応などを行うための担体として用いてもよい。なお、セルロースナノファイバーとしてアニオン性官能基を持つものを用いた場合には、等電点が7よりも大きい生理活性物質用の吸着剤として好適に用いられる。
生理活性物質としては、特に限定されず、例えば、タンパク質、ホルモン、核酸(DNA、RNA)、糖、糖鎖、ビタミン、ペプチドなどが挙げられる。タンパク質としては、例えば、酵素、抗体、レセプターなどが挙げられる。
以下、実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
[測定方法]
(1)セルロースナノファイバーの数平均繊維径
セルロースナノファイバーの数平均繊維径を、透過型電子顕微鏡(TEM)(日本電子社製、JEM-1400)を用いて観察した。すなわち、試料を親水化処理済みのカーボン膜被覆グリッド上にキャストした後、2質量%ウラニルアセテート水溶液でネガティブ染色したTEM像(倍率:10000倍)から、先に述べた方法に従い、数平均繊維径を算出した。
(2)セルロースナノファイバーの平均アスペクト比
数平均繊維径の測定と同様に調製した観察用試料を用いて、先に述べた方法に従い、セルロースナノファイバーの数平均繊維長を算出した。そして、上記数平均繊維径と数平均繊維長の値を用いて平均アスペクト比を上記式に従い算出した。
(3)セルロースナノファイバーの結晶構造
X線回折装置(リガク社製、RINT-Ultima3)を用いて、試料の回折プロファイルを測定し、2θ=14°~17°付近と、2θ=22°~23°付近の2つの位置に典型的なピークが見られる場合は結晶構造(I型結晶構造)が「あり」と評価し、ピークが見られない場合は「なし」と評価した。
(4)セルロースナノファイバーのカルボキシ基量
試料0.25gを水に分散させた水分散体60mLを調製し、0.1Mの塩酸水溶液によってpHを約2.5とした後、0.05Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、電気伝導度測定を行い、先に述べた方法に従い、カルボキシ基量を求めた。
(5)多孔性セルロース粒子、テンプレート粒子の平均粒径
多孔性セルロース粒子の平均粒径は、SEM(走査型電子顕微鏡:S-5000、日立ハイテクノロジーズ社製、20kVの条件)により、倍率5千~2万倍で写真を撮影して、任意に200個以上の粒子を選定し、それらの直径を測定し、その平均値を求めた。テンプレート粒子についての平均粒径は、DLS(動的光散乱式粒径分布測定装置)から得られる体積粒径の累積分布関数において累積度数が全体の50%になる時の体積粒径(D50)の値であり、Malvern社製の「Zetasizer nano zs」を用いて動的光散乱法により測定した。試料濃度は、0.2mg/mLとし、溶媒として純水を用いた。
(6)テンプレート粒子の除去跡の穴の平均孔径
多孔性セルロース粒子についての平均孔径は、SEM(走査型電子顕微鏡:S-5000、日立ハイテクノロジーズ社製、20kVの条件)により、倍率5千~2万倍で写真を撮影して、その中の粒子から任意に350個の穴を選定し、それらの開口径を測定し、その平均値を求めた。
(7)多孔性セルロース粒子の粒子表面における穴の面積比率(穴比率)
任意の10個以上の多孔性セルロース粒子について、SEM(走査型電子顕微鏡:S-5000、日立ハイテクノロジーズ社製、20kVの条件)により、倍率5千~2万倍で写真を撮影して、写真に表された粒子の面積(粒子の外形線よりも内側の面積)と、外形線内にある全ての除去跡の穴の開口面積(写真から読み取れる開口部での面積)の総和を、画像解析ソフトにより求め、粒子の面積に対する穴の開口面積の比率(百分率)の平均値を穴比率として求めた。
(8)ゼータ電位
Malvern社製の「Zetasizer nano zs」を用いて、pH7.0の純水中で0.2mg/mLとし、温度25℃の条件により測定した。
(9)BET値
各粒子のBET法よる窒素吸着比表面積は、77Kでの窒素吸着等温線を容量測定器(ベル社製、BELSORP28SA)で測定した。
(10)FT-IRの測定
各粒子についての化学組成をFT-IR((株)島津製作所製、FT-IR8700)で分析した。
[実施例1]
(1)原料
・TOCN:TEMPO酸化セルロースナノファイバー(レオクリスタI-2SX、第一工業製薬株式会社製、セルロース濃度:2質量%、セルロースI型結晶構造:「あり」、数平均繊維径:4nm、平均アスペクト比:280、カルボキシ基量:1.9mmol/g)
・PMMA粒子:ポリメタクリル酸メチル粒子(積水化成品工業(株)製、平均粒径:503nm)
(2)操作
TOCNとPMMA粒子を純水とともに混合して、TOCNとPMMAの固形分濃度がそれぞれ0.08質量%の水分散液(PMMA/TOCN(質量比)=1/1)を調製した。その際、超音波分散(IKA社製,T10 ULTRA-TURRAX S0004)を1時間行い、均一に分散させた。得られた水分散液について、噴霧乾燥機(BUCHI(株)製、ミニスプレードライヤー B-290)を用いて、噴霧乾燥を行うことにより、TOCNとPMMA粒子との複合体粒子を得た。噴霧乾燥は、入口温度:180℃、液流量:2.5mL/min、ガス流量:357L/時間とした。
得られた複合体粒子0.12質量部を17.3質量部のトルエンに添加し、100℃で15分間攪拌して、複合体粒子中のPMMA粒子を溶解除去した。その後、トルエン中から粒子を回収し乾燥することにより、多孔性セルロース粒子を得た。多孔性セルロース粒子の収率は49.1質量%であった。
(3)測定結果
トルエン処理前後の粒子のSEM画像を図2に示す。図2(A)に示すトルエン処理前の画像より、セルロースナノファイバーに複数のPMMA粒子が複合一体化された複合体粒子が得られていることがわかる。図2(B)に示すトルエン処理後の画像より、PMMA粒子が溶解除去されて、複数の部分球状の穴が粒子表面に形成され、それにより表面積が増大した多孔性セルロース粒子が得られていることがわかる。
多孔性セルロース粒子について平均粒径と平均孔径を測定したところ、平均粒径は3.2μmであり、平均孔径は440nmであった。多孔性セルロース粒子の穴比率は9.5%であった。
多孔性セルロース粒子と、トルエン処理前の複合体粒子について、ゼータ電位を測定した。また、比較のために、上記実施例における噴霧乾燥までの製法においてPMMA粒子を添加せずに噴霧乾燥することでセルロース粒子を作製し、得られた比較例のセルロース粒子についてゼータ電位を測定した。
ゼータ電位の測定結果は以下のとおりであり、多孔性セルロース粒子では、トルエン処理前の複合体粒子よりもゼータ電位の絶対値がやや小さかった。多孔性セルロース粒子は、PMMA粒子と複合化していない比較例のセルロース粒子とゼータ電位が同等であり、セルロースナノファイバーからなる粒子であることがわかる。
・多孔性セルロース粒子: -54.3mV
・トルエン処理前の複合体粒子:-59.5mV
・比較例のセルロース粒子: -55.3mV
上記の各粒子についてFT-IR測定を行った。結果は図3に示す通りである。図3中、「PMMA/TOCN=1」はトルエン処理前の複合体粒子、「TOCN porous」はトルエン処理後の多孔性セルロース粒子、「TOCN」は比較例のセルロース粒子、「PMMA」はPMMA粒子についての測定結果をそれぞれ示す。波数1700cm-1を超えた付近にPMMA由来の吸収があり、これが多孔性セルロース粒子では小さくなっており、PMMA粒子の溶解除去が確認された。
[実施例2~4]
PMMA粒子とTOCNの固形分の質量比PMMA/TOCNを、実施例2では2/1、実施例3では3/1、実施例4では4/1となるようにPMMA粒子の量を調整し、その他は実施例1と同様にして多孔性セルロース粒子を調製した。多孔性セルロース粒子の収率は、実施例2では57.5質量%、実施例3では51.2質量%、実施例4では48.0質量%であった。
トルエン処理前後の粒子のSEM画像を図4~6に示す。図4(A)、図5(A)及び図6(A)に示すトルエン処理前の複合体粒子の画像に対し、図4(B)、図5(B)及び図6(B)に示すトルエン処理後の画像では、PMMA粒子が溶解除去されて、複数の部分球状の穴が粒子表面に形成され、それにより表面積が増大した多孔性セルロース粒子が得られたことがわかる。
実施例2~4の多孔性セルロース粒子について、平均粒径と平均孔径と窒素吸着比表面積と穴比率を測定した結果を下記表1に示す。表1には、上記比較例のセルロース粒子について平均粒径と窒素吸着比表面積を測定した結果も示す。
Figure 0007562091000001
[実施例5,6]
(1)原料
・TOCN,PMMA粒子:実施例1と同じ。
・Fe粒子:戸田工業株式会社(平均粒径:100nm)
(2)操作
TOCNとPMMA粒子を純水とともに混合し、超音波分散(IKA社製,T10 ULTRA-TURRAX S0004)を20分間行って、TOCNの固形分濃度が0.08質量%、PMMAの濃度が0.32質量%の水分散液を調製した。次いで、該水分散液にFe粒子を濃度が0.08質量%となるように添加し、同様の超音波分散を40分間行うことにより、TOCNとFe粒子とPMMA粒子を含む水分散液(TOCN/Fe/PMMA(質量比)=1/1/4)を調製した。
得られた水分散液について、噴霧乾燥機(BUCHI(株)製、ミニスプレードライヤー B-290)を用いて、噴霧乾燥を行うことにより、TOCNとFe粒子とPMMA粒子との複合体粒子を得た。噴霧乾燥は入口温度:180℃、液流量:2.5mL/min、ガス流量:357L/時間とした。得られた複合体粒子0.12質量部をバイアル瓶内で17.3質量部のトルエンに添加し、100℃で30分間攪拌して、複合体粒子中のPMMA粒子を溶解除去した。
その後、磁石によりトルエン中から粒子を回収し、乾燥することにより、実施例5の多孔性セルロース粒子を得た(収率:62.5質量%)。磁石による回収は、磁束密度が0.5テスラのネオジウム磁石(径2.5cm、高さ15cm)を、バイアル瓶の側面に室温で30~1080分間接触させ、多孔性セルロース粒子を集めた。上澄みが透明であることを確認後、バイアル瓶内のトルエンを除去した。バイアル瓶内の多孔性セルロース粒子はトルエンを用いて洗浄後、エタノール中で再分散し、常圧、60℃、1時間で乾燥を行った。
TOCNとFe粒子とPMMA粒子の質量比TOCN/Fe/PMMAを1/2/4となるようにFe粒子の量を調整し、その他は実施例5と同様にして実施例6の多孔性セルロース粒子を調製した(収率:48.5質量%)。
(3)測定結果
実施例5,6の多孔性セルロース粒子のSEM画像をそれぞれ図7,8に示す。これらのSEM画像から明らかなように、実施例5,6の多孔性セルロース粒子は、表面にPMMA粒子の除去跡である複数の部分球状の穴を有していた。また、図7(B)及び図8(B)に示されるように、多孔性セルロース粒子の粒子表面及び穴の内部に酸化鉄(Fe粒子)が付着しており、酸化鉄が複合化されていることが確認できた。
実施例5,6の多孔性セルロース粒子について、平均粒径と平均孔径と窒素吸着比表面積と穴比率とゼータ電位を測定した結果を下記表2に示す。
Figure 0007562091000002
[タンパク質吸着性能の評価]
(1)原料
・リゾチーム、ニワトリ卵白由来:MPバイオメディカル製(ゼータ電位:7.8mV、大きさ:4.5×3.0×3.0nm、等電点:11)。
・多孔性セルロース粒子:実施例5で作製した多孔性セルロース粒子。
・セルロース粒子1:実施例1において作製した比較例のセルロース粒子。
・セルロース粒子2:JNC株式会社製、セルファインC-500(カルボキシメチル基を導入したセルロース微粒子)
(2)操作
リン酸緩衝液に溶解した0.4g/Lのリゾチーム溶液50mLに、多孔性セルロース粒子またはセルロース粒子1またはセルロース粒子2を10mg加え、振とう機を用いて撹拌し、攪拌時間が5分、10分、20分、30分、60分、90分、120分においてサンプリングを行った。サンプリングした試料から上清を分離した。粒子と上清との分離は、セルロース粒子1とセルロース粒子2については遠心分離(8000rpm,5分間)により行った。一方、多孔性セルロース粒子については、サンプリングした試料をネオジウム磁石を用いて、多孔性セルロース粒子と上清とに分離した。
得られた上清について、紫外可視近赤外分光法(281nm)により、吸光度を測定し、別途作成した検量線との比較により、上清中の遊離のタンパク質量(C)を定量し、その結果から、リゾチームの吸着容量を算出した。リゾチームの吸着容量は、投入したリゾチーム質量(C)から上清中のタンパク質量(C)を差し引くことでリゾチームの吸着量(mg)を求め、投入した吸着剤の単位質量当たりの、リゾチームの吸着量として次式より算出した。
リゾチームの吸着量(mg)=C-C
リゾチームの吸着容量(mg/g)=(C-C)(mg)/投入した吸着剤の質量(g)
(3)測定結果
結果は図9に示すとおりである。実施例5の多孔性セルロース粒子では、リゾチームの吸着容量が852mg/gであった。これは、テンプレート粒子を用いてポーラス化していない比較例のセルロース粒子1および市販品のセルロース粒子2に比べて約1.4倍の吸着容量であり、タンパク質の吸着性能に優れていた。
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその省略、置き換え、変更などは、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。

Claims (7)

  1. セルロースナノファイバーにより形成された粒子であって、テンプレート粒子の除去跡である複数の穴を粒子表面に備える多孔性セルロース粒子。
  2. 前記多孔性セルロース粒子の平均粒径が1~30μmであり、前記穴の平均孔径が前記多孔性セルロース粒子の平均粒径の1/200~1/5である、請求項1に記載の多孔性セルロース粒子。
  3. 前記セルロースナノファイバーがアニオン性官能基を持つ、請求項1又は2に記載の多孔性セルロース粒子。
  4. 請求項1~3のいずれか1項の多孔性セルロース粒子を含む吸着剤。
  5. セルロースナノファイバーとテンプレート粒子を含む分散液を噴霧乾燥して、前記セルロースナノファイバーと前記テンプレート粒子が複合化された複合体粒子を得ること、及び、
    得られた複合体粒子に含まれる前記テンプレート粒子を有機溶剤で溶解させること、
    を含む、多孔性セルロース粒子の製造方法。
  6. 前記テンプレート粒子の平均粒径が100~1000nmである、請求項5に記載の多孔性セルロース粒子の製造方法。
  7. 前記セルロースナノファイバーがアニオン性官能基を持つ、請求項5又は6に記載の多孔性セルロース粒子の製造方法。

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