以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
[検体処理チップの概要]
図1を参照して、本実施形態による検体処理チップの概要について説明する。
検体処理チップ100は、対象成分を含む検体を受け入れ可能に構成されたカートリッジ型の検体処理チップである。カートリッジ型の検体処理チップ100は、送液機構を備える送液装置500に設置される。また、検体処理チップ100は、所望の処理工程を実施するための微細な流路を備えたマイクロ流体チップである。流路は、たとえば、断面寸法(幅、高さ、内径)が0.1μm~1000μmのマイクロ流路である。
図1に示すように、検体処理チップ100には、流路110と、第1注入口121を有する第1ウェル120と、第2注入口131を有する第2ウェル130とが設けられている。
流路110は、検体処理チップ100に設けられ、所定の経路で液体の流れを形成するように構成される。流路110は、液体を流すことができればどのような構造であってもよい。流路110は、その流路内で行う処理に応じた形状を有する。流路110は、その流路内で行う処理に応じた流路幅、流路高さあるいは流路深さ、流路長さ、容積を有するように形成される。流路110は、たとえば細長い管状の通路あるいはチャネルにより構成される。チャネルは、直線状、曲線状、ジグザグ形状などの形状とすることができる。流路110は、たとえば流路幅や高さなどの流路寸法が変化する形状、流路の一部または全部が平面状に拡がる形状、流入する液体を貯留可能なチャンバ形状などであってもよい。
ウェルは、内部に液体を溜めて保持可能に構成された構造である。ウェルは、液体を保持するための所定の容積を有した構造に形成されている。ウェルは、流路110と連通し、内部に保持した液体が流路110へ移動できる。ウェルは、外部から液体を注入するための開口部を有する。ウェルは、突出した形状でも凹んだ形状でもよい。
第1ウェル120は、操作者により第1液体10が注入される第1注入口121と、第1注入口121より径が小さく、第1注入口121から注入された第1液体10を流路110に送液するための第1送液口122とを有する。第1ウェル120は、操作者により第1注入口121から注入される第1液体10を保持する。第1ウェル120は、第1送液口122で検体処理チップ100内の流路110と接続される。第1液体10は、第1送液口122から、第1ウェル120と流路110との接続部分140を介して流路110内に移動できる。第1ウェル120は、検体処理チップ100の表面上に設けられてもよいし、検体処理チップ100の内部に埋め込まれるように設けられてもよい。
第1ウェル120は、外部から液体を注入するための第1注入口121を有する。第1液体10を保持するための第1ウェル120の内部空間が、第1注入口121を介して検体処理チップ100の外部に露出する。第1ウェル120は、第1注入口121から注入される第1液体10を保持するように構成されている。
図2に示すように、送液に先立って、第1注入口121を有する第1ウェル120に、第1液体10が注入器具700によって第1注入口121を介して注入される。注入器具700は、たとえばピペッタ、シリンジ、ディスペンサー装置などである。これにより、一般的なウェルプレートなどへの液体の注入と同じように、作業者が第1液体10を第1ウェル120へ注入することができる。
第1ウェル120に保持された第1液体10は、送液装置500により、第1ウェル120から流路110に送液される。送液方法は、特に限定されない。送液は、たとえば圧力による液体の移動、毛細管現象による液体の移動、遠心力による液体の移動、などによって実現される。
図1の例では、注入器具700(図2参照)によって第1液体10が注入された第1ウェル120に圧力が付与されることによって、第1液体10が第1ウェル120の第1送液口122から流路110に送液される。図1の例では、圧力は、検体処理チップ100の外部の送液装置500から圧力経路512を介して第1ウェル120に供給される。第1液体10を移動させるための圧力は、液圧でもガス圧または空気圧でもよい。
第2ウェル130は、送液装置500から送液された第2液体20が注入される第2注入口131と、第2注入口131より径が小さく、第2注入口131から注入された第2液体20を流路110に送液するための第2送液口132とを有する。
第2注入口131は、送液装置500に設置された貯留部600から送液される第2液体20を受け入れるように構成されている。第2注入口131は、送液装置500側から第2液体20を検体処理チップ100内に注入するためのポートである。第2注入口131は、検体処理チップ100の表面に開口し、第2送液口132を介して流路110に接続されている。第2注入口131は、たとえば第1ウェル120が設けられた表面と同じ表面に設けられる。第2液体20は、検体処理チップ100の外部の送液装置500側から第2注入口131を介して注入され、第2送液口132から接続部分140を介して流路110内に移動できる。第2注入口131は、検体処理チップ100の表面に直接形成された開口として設けることができる。第2注入口131は、図1のように、外部の送液装置500側と接続するのに適した管状構造を検体処理チップ100の表面に設けて、管状構造の先端に開口する形態で形成されていてもよい。
第2液体20は、検体処理チップ100側には保持されず、送液装置500側の貯留部600に貯留される。第2液体20の送液方法は、特に限定されず、たとえば圧力による液体の移動、毛細管現象による液体の移動、遠心力による液体の移動、などがある。図1では、送液装置500側に設置された貯留部600に付与される圧力によって、貯留部600内の第2液体20が検体処理チップ100側に移動され、第2送液口132を介して流路110内に送液される。圧力は、送液装置500から貯留部600に供給される。第2液体20を移動させるための圧力は、液圧でもガス圧または空気圧でもよい。第2液体20は、貯留部600内から押し出され、送液装置500と第2注入口131とを接続する送液管522を介して供給される。
第1ウェル120から送液される第1液体10と、第2ウェル130を介して送液される第2液体20とが、流路110に流入する。第1液体10と第2液体20とは、合流して同じ流路110内を流れる。その結果、流路110内に、第1ウェル120から送液された第1液体10と、第2ウェル130から送液された第2液体20とを含む流体が形成される。第1液体10と第2液体20との送液に伴って、検体処理チップ100における検体処理の一部または全部が実施される。検体処理は、たとえば検体と試薬とを混合する工程、検体と試薬とを反応させる工程、エマルジョン状態の流体を形成する工程、エマルジョンを解乳化する工程、検体に含まれる不要成分を検体から分離して洗浄する工程、などを含む。
このように、検体処理チップ100には、第1液体10を注入するための第1注入口121や、第2液体20が送液される第2注入口131が、外部に露出する形態で設けられる。第1注入口121を有する第1ウェル120は、検体処理チップ100に1または複数設けられる。第2注入口131も、検体処理チップ100に1または複数設けられる。このため、検体処理チップ100には、第1注入口121や第2注入口131などの液体を受け入れる領域が複数形成される。本実施形態では、検体処理チップ100は、図2に示したように、第1注入口121と第2注入口131とを区別するための識別部180を備えている。
第1液体10を注入する際、操作者は、識別部180を手がかりとして、第1液体10を注入すべき第1注入口121を、検体処理チップ100の第2注入口131などの他の構造から識別できる。図1の例では、操作者は、識別部180によって、第2注入口131と、第1液体10を注入すべき第1注入口121とを、区別できる。
以上のように、第1注入口121および第2注入口131が、第1送液口122および第2送液口132よりも大きい場合、操作者により注入場所の入れ間違いが起こりやすい。しかし、本実施形態の検体処理チップ100では、上記の構成によって、第1液体10を注入すべき第1注入口121を識別するための識別部180によって、第1液体10の注入位置を他の第2注入口131から区別して認識することができる。そのため、操作者による液体注入位置の間違いを抑制することができる。以上の結果、検体処理チップへ液体を注入する際に、作業の煩雑化を抑制しつつ、操作者による液体注入位置の間違いを抑制することができる。
(送液方法)
本実施形態の送液方法について説明する。本実施形態の送液方法は、液体が流入する流路110を備える検体処理チップ100に送液を行うための送液方法である。送液方法は、(A)液体が流入する流路110を備える検体処理チップ100に送液を行うための送液方法であって、検体処理チップ100に設けられた、識別部180が付与された第1ウェル120の第1注入口121から注入器具700を用いて第1液体10を注入し(図2参照)、
(B)第1注入口121を介して注入された第1液体10を、第1注入口121より径が小さい第1ウェル120の第1送液口122から送液装置500により流路110に送液し、
(C)検体処理チップ100に設けられた、識別部180が付与されていない第2ウェル130の第2注入口131を介して、送液装置500から第2液体20を送液し、
(D)第2注入口131より径が小さい第2ウェル130の第2送液口132から、第2ウェル130に送液された第2液体20を流路110に送液し、第1送液口122から送液される第1液体10と、第2送液口132を介して送液される第2液体20とを含む流体を、流路110内で形成する。
(A)第1液体10の第1注入口121への注入は、(B)第1液体10の流路110への送液に先だって行われる。(B)第1液体10の流路110への送液と、(C)第2注入口131への第2液体20の送液とは、どちらが先に行われてもよい。送液の順番は、検体処理の内容に応じて設定される。(B)第1液体10の流路110への送液と、(C)第2注入口131への第2液体20の送液との結果、(D)第1液体10と第2液体20とを含む流体の形成が行われる。
第1注入口121および第2注入口131が、第1送液口122および第2送液口132よりも大きい場合、操作者により注入場所の入れ間違いが起こりやすい。しかし、本実施形態による検体処理チップの送液方法では、上記の構成によって、識別部180によって、第1液体10の注入位置を他の第2注入口131から区別して認識することができる。そのため、操作者による液体注入位置の間違いを抑制することができる。以上の結果、検体処理チップへ液体を注入する際に、作業の煩雑化を抑制しつつ、操作者による液体注入位置の間違いを抑制することができる。
(第2の実施形態)
上記実施形態とは異なる第2の実施形態を説明する。検体処理チップ100は、送液装置500に設置される検体処理チップ100であって、第1液体10と、第2液体20とが流入する流路110と、第1ウェル120と、第2ウェル130と、第1注入口121と第2注入口131とを区別するための識別部180と、を備える。第1ウェル120は、操作者により第1液体10が注入される第1注入口121を有する。第2ウェル130は、第1ウェル120と、送液装置500から送液された第2液体20が注入される第2注入口131を有する。第1注入口121と第2注入口131は、径が略同じ(図6、図28参照)である。つまり、第1ウェル120と、第2ウェル130とで、開口径が略等しい。この実施形態では、第1注入口121および第2注入口131が、第1送液口122および第2送液口132と同じか、または小さくてもよい。
第1注入口121と第2注入口131との径が略同じ(図6、図28参照)である場合、操作者により注入場所の入れ間違いが起こりやすい。しかし、第2の実施形態の検体処理チップ100では、上記の構成によって、第1液体10を注入すべき第1注入口121を識別するための識別部180によって、第1液体10の注入位置を他の第2注入口131から区別して認識することができる。そのため、操作者による液体注入位置の間違いを抑制することができる。以上の結果、検体処理チップへ液体を注入する際に、作業の煩雑化を抑制しつつ、操作者による液体注入位置の間違いを抑制することができる。
(第3の実施形態)
上記実施形態とは異なる第3の実施形態を説明する。検体処理チップ100は、送液装置500に設置される検体処理チップ100であって、第1液体10と、第2液体20とが流入する流路110と、第1ウェル120と、第2ウェル130と、第1注入口121と第2注入口131とを区別するための識別部180と、を備える。第1ウェル120は、直径(図28の直径d11参照)が2mm以上15mm以下である第1注入口121を有し、操作者により第1注入口121から第1液体10が注入される。第2ウェル130は、直径(図28の直径d13参照)が2mm以上15mm以下である第2注入口131を有し、送液装置500から送液された第2液体20が注入される。この実施形態では、第1注入口121および第2注入口131が、第1送液口122および第2送液口132と同じか、または小さくてもよい。第1注入口121と第2注入口131との直径が2mm以上15mm以下の範囲内で異なっていてもよい。
第1注入口121の直径と第2注入口131の直径とがいずれも2mm以上15mm以下略同じである場合、操作者により注入場所の入れ間違いが起こりやすい。しかし、第3の実施形態の検体処理チップ100では、上記の構成によって、第1液体10を注入すべき第1注入口121を識別するための識別部180によって、第1液体10の注入位置を他の第2注入口131から区別して認識することができる。そのため、操作者による液体注入位置の間違いを抑制することができる。以上の結果、検体処理チップへ液体を注入する際に、作業の煩雑化を抑制しつつ、操作者による液体注入位置の間違いを抑制することができる。
(第4の実施形態)
上記実施形態とは異なる第4の実施形態を説明する。検体処理チップ100は、送液装置500に設置される検体処理チップ100であって、第1液体10と、第2液体20とが流入する流路110と、第1ウェル120と、第2ウェル130と、第1注入口121と第2注入口131とを区別するための識別部180と、を備える。第1ウェル120は、操作者により第1液体10が注入される第1注入口121を有する。第2ウェル130は、送液装置500から送液された第2液体20が注入される第2注入口131を有する。第1注入口121と第2注入口131は、検体処理チップ100の厚み方向における位置が略一致(図1参照)する。この実施形態では、第1注入口121および第2注入口131が、第1送液口122および第2送液口132と同じか、または小さくてもよい。第1注入口121と第2注入口131との直径が2mm以上15mm以下の範囲外であってもよい。
第1注入口121と第2注入口131との、検体処理チップ100の厚み方向における位置が略一致する場合、操作者により注入場所の入れ間違いが起こりやすい。しかし、第4の実施形態の検体処理チップ100では、上記の構成によって、第1液体10を注入すべき第1注入口121を識別するための識別部180によって、第1液体10の注入位置を他の第2注入口131から区別して認識することができる。そのため、操作者による液体注入位置の間違いを抑制することができる。以上の結果、検体処理チップへ液体を注入する際に、作業の煩雑化を抑制しつつ、操作者による液体注入位置の間違いを抑制することができる。
次に、検体処理チップ100の各部の構成例について詳細に説明する。
(第1液体)
第1ウェル120に保持させる第1液体10は、検体処理チップ100における検体処理に利用される液体であれば特に限定されない。
たとえば図2の例では、第1ウェル120は、生体由来の検体11を含む第1液体10を保持するように構成されている。これにより、生体由来の検体11を、送液装置500の送液管などを介することなく、検体処理チップ100に設けられた第1ウェル120から直接、流路110に送液できる。その結果、異なる複数の検体処理チップ100に対して、同じ送液装置500による送液処理を繰り返し行う場合でも、検体11のコンタミネーションが発生することを防止できる。そして、操作者が第1ウェル120に検体を含む第1液体10を注入する際にも、識別部180によって液体注入位置の間違いを抑制することができるので、検体の注入間違いを効果的に抑制することができる。
生体由来の検体11は、たとえば、患者から採取された体液や血液(全血、血清または血漿)などの液体、または、採取された体液や血液に所定の前処理を施して得られた液体などである。検体は、検体処理の対象成分として、たとえば、DNA(デオキシリボ核酸)などの核酸、細胞および細胞内物質、抗原または抗体、タンパク質、ペプチドなどを含んでいる。たとえば対象成分が核酸である場合、血液などから所定の前処理によって核酸を抽出した抽出液が、生体由来の検体11として用いられる。
検体処理チップ100は、第1ウェル120を複数備えていてもよい。図3の例では、2つの第1ウェル120が設けられている。複数の第1ウェル120が設けられる場合、識別部180は、複数の第1ウェル120の第1注入口121を互いに識別するように設けられている。これにより、第1液体10を注入すべき第1ウェル120が複数ある場合でも、操作者が、識別部180によって第1注入口121を第2注入口131などの他の構造から識別しつつ、各々の第1注入口121を互いに区別することができる。これにより、複数の第1ウェル120があって間違いやすい状況でも、第1注入口121に注入する液体を間違えることを抑制できる。なお、具体的な識別部180の構成例については、後述する。
複数の第1ウェル120が設けられる場合、各々の第1ウェル120は、異なる種類の液体を保持することができる。それぞれの第1ウェル120に保持された液体は、送液により流路110内で混合され、所定の検体処理に供される。図3の例では、複数の第1ウェル120は、第1液体10を保持するための第1ウェル120aと、検体処理チップ100を用いた検体検査の検査項目に応じた成分31を含有する第3液体30を保持するための第1ウェル120bとを含む。これにより、検体検査の検査項目に応じた成分31を、送液装置500の送液管などを介することなく、検体処理チップ100に設けられた第1ウェル120から直接、流路110に送液できる。その結果、異なる検査項目の検体検査を行う複数の検体処理チップ100に対して、同じ送液装置500による送液処理を繰り返し行う場合でも、検査項目に応じた成分31のコンタミネーションが発生することを防止できる。そして、操作者が第1ウェル120に検査項目に応じた成分31を含む第3液体30を注入する際にも、識別部180によって液体注入位置の間違いを抑制することができるので、検査項目に応じた成分31の注入間違いを効果的に抑制することができる。
検体検査の検査項目に応じた成分31は、検体11に含まれる対象成分や、検体処理の内容に応じて決定される。検体検査の検査項目に応じた成分31は、たとえば検体11に含まれる対象成分と特異的に反応する成分を含む。たとえば検体11に含まれる対象成分がDNAである場合、検体検査の検査項目に応じた成分31は、PCR増幅用のポリメラーゼやプライマーなどを含む。また、検体11に含まれる対象成分が抗原または抗体である場合、検体検査の検査項目に応じた成分31は、対象成分である抗原または抗体と特異的に結合する抗体や抗原などを含む。また、検体検査の検査項目に応じた成分31は、たとえば検体11に含まれる対象成分を担持する担体や、担体と対象成分とを結合させる物質などを含んでもよい。
(第2液体)
第2液体20として用いる液体は、検体処理チップ100における検体処理に利用される液体であれば特に限定されない。第1液体10と比較して流路110への供給量が大きい液体であって、複数の検体処理チップ100に対して送液処理を繰り返し実施する際に共通で利用される液体を用いる場合に、貯留部600から第2液体20として供給することが好ましい。
たとえば検体と試薬とを混合する工程や、検体と試薬とを反応させる工程では、検体を含む液体を第1液体10とし、検体を含まない試薬を第2液体20として用いる。エマルジョン状態の流体を形成する工程では、液滴を分散させる液媒体を第2液体20として用いる。エマルジョンを解乳化する工程では、解乳化するための試薬を第2液体20として用いる。検体に含まれる不要成分を検体から分離して洗浄する工程では、洗浄液などを第2液体20として用いる。
複数種類の第2液体20を、検体処理チップ100に供給してもよい。図4に示した例では、第2注入口131は、送液装置500の複数の貯留部600に貯留された複数種類の第2液体20の各々を、受け入れるように構成されている。送液装置500は、複数の貯留部600に貯留された複数種類の第2液体20の各々を、共通の第2注入口131を介して流路110に送液する。これにより、複数種類の第2液体20を送液するための第2注入口131を共通化できるので、複数種類の第2液体20の各々を送液するために、個別に第2注入口131を設けずに済む。その結果、第2注入口131の数が抑制できるので、操作者が第2注入口131を第1注入口121と間違えることを抑制することができる。複数種類の第2液体20は、流路110で混合されてもよいし、それぞれの第2液体20が別々の目的のために別々のタイミングで送液されてもよい。
(回収用保持部)
なお、図3の例では、検体処理チップ100が、流路110を通過した第1液体10および第2液体20を含む流体を保持するための回収用保持部160を備える。流路110内に移動された第1液体10と第2液体20とを含む流体が、流路110から回収用保持部160内に移動される。図3の例では、回収用保持部160が、第1ウェル120と同様の所定の容積を有する。回収用保持部160は、回収した液体を外部へ取り出すための開口161を有する。回収用保持部160が設けられる構成では、識別部180は、第1液体10を注入すべき第1ウェル120と、回収用保持部160とを識別するように設けられる。図3では、識別部180の有無によって、識別部180が付与された第1ウェル120が、識別部180が付与されていない回収用保持部160から識別できる。
これにより、流路110を通過して検体処理チップ100による検体処理が済んだ流体を、回収用保持部160に保持しておき、ピペッタなどの注入器具700により開口161から容易に取り出すことができる。一方、回収用保持部160を備える分、操作者は回収用保持部160と第1ウェル120とを間違えやすくなるが、識別部180を備えることによって、容易に第1注入口121を識別でき、その結果、操作者による液体注入位置の間違いを抑制することができる。
(排出口)
また、図3の例では、検体処理チップ100が、流路110から排液を排出するための排出口150を備える。排出口150からは、検体処理に伴って発生した排液が検体処理チップ100の外部へ排出される。たとえば検体中で処理の対象となる成分を担体に担持させた後、流路110内に洗浄液を送液して不要物質を洗い流す処理を行う場合、排出口150から洗浄液が排出される。排出口150は、たとえば送液装置500に接続され、送液装置500によって排液が回収される。排出口150が設けられる構成では、識別部180は、第1液体10を注入すべき第1ウェル120と、排出口150とを識別するように設けられる。図3では、識別部180の有無によって、識別部180が付与された第1注入口121が、識別部180が付与されていない排出口150から識別できる。
これにより、検体処理に伴って発生した排液を、排出口150を介して外部に排出できる。一方、排出口150を備える分、操作者は排出口150と第1注入口121とを間違えやすくなるが、識別部180を備えることによって、容易に第1注入口121を識別でき、その結果、操作者による液体注入位置の間違いを抑制することができる。
(検体処理チップの各部の構造例)
検体処理チップ100では、たとえば送液装置500との接続部分の構造を統一するなどのため、第1注入口121と第2注入口131などを構成する各部の構成とが、似通った形状になることがある。
たとえば図3の例では、検体処理チップ100は、流路110が形成された本体部105を備える。第1注入口121および第2注入口131は、それぞれ、本体部105の表面から突出するように形成された筒状構造170の上端部に形成されている。
すなわち、第1ウェル120は、本体部105の表面から突出するように形成され、上端に第1注入口121が形成された筒状構造により構成されており、第2ウェル130は、本体部105の表面から突出するように形成され、上端に第2注入口131が形成された筒状構造により構成されている。これにより、第1ウェル120および第2ウェル130を本体部105の表面から突出させることにより、それぞれ送液装置500と容易に接続することができる。また、送液装置500との接続の際に、突出する筒状構造170の上端面とシール部材401とを密着させやすいので、接続部分において高い密閉度を容易に得ることができる。なお、第1ウェル120および第2ウェル130が同じように筒状構造170により構成されると、識別しにくくなるので、識別部180による識別が注入間違いを抑制するために効果的である。
また、図3の例では、第1注入口121と第2注入口131とが、検体処理チップ100の表面に隣り合って並んで設けられている。これにより、第1注入口121と第2注入口131とを互いに近い位置にできるので、第1注入口121および第2注入口131の各々と送液装置500との接続を容易に行える。一方、第1注入口121と第2注入口131とが隣り合うことにより、操作者にとっては区別しにくくなるが、識別部180を備えることによって、容易に第1注入口121を識別でき、その結果、操作者による液体注入位置の間違いを抑制することができる。なお、図3の例では、排出口150が、第2注入口131と同様の筒状構造170に設けられている。また、回収用保持部160が、第1ウェル120と同様の筒状構造170により構成されている。
また、図3の例では、複数の第1ウェル120のそれぞれの第1注入口121は、検体処理チップ100の厚み方向における位置が略一致する。図3の例では、第1ウェル120が筒状構造170により構成されているので、筒状構造170の上端面の、本体部105からの突出高さが等しい。そのため、複数の第1注入口121の厚み方向における位置が略一致している。これにより、複数の第1注入口121の厚み方向における位置が揃うので、送液のための送液装置500と複数の第1注入口121との接続を容易に行える。一方、第1注入口121同士で高さが一致するため、操作者にとっては識別しにくくなるが、識別部180を備えることによって、容易にそれぞれの第1注入口121を区別でき、その結果、操作者による液体注入位置の間違いを抑制することができる。
また、図3の例では、複数の第1ウェル120は、平面視における外形形状が互いに略一致するかまたは相似した形状を有する。図3の例では、それぞれの第1ウェル120が円形の外形形状を有し、外径も略同一に形成されている。そのため、外形形状が互いに略一致する。それぞれの第1ウェル120は、たとえば外径が異なるが、同じ円形形状であってもよく、その場合にはそれぞれの第1ウェル120が相似した形状を有する。
これにより、複数の第1ウェル120の平面形状が略一致または相似するので、送液のための送液装置500と複数の第1ウェル120との接続を容易に行える。すなわち、送液装置500との接続用のコネクタ形状などが統一できる。一方、第1ウェル120同士で平面形状が似るため、操作者にとっては第1注入口121を区別しにくくなる。これに対して、検体処理チップ100が識別部180を備えることによって、容易にそれぞれの第1注入口121を区別でき、その結果、操作者による液体注入位置の間違いを抑制することができる。
図5の例では、検体処理チップ100は、流路110が形成された本体部105を備える。第1ウェル120および第2ウェル130は、それぞれ、本体部105の表面から突出するように形成され、上端に開口部が形成された筒状構造170により構成されている。第1ウェル120は、上端に第1注入口121が形成された筒状構造170により構成されている。第2ウェル130は、上端に第2注入口131が形成された筒状構造170により構成されている。第1注入口121および第2注入口131を送液装置500と接続する際、筒状構造170の上端部を覆うようにコネクタ400(図9参照)を配置し、シール部材401によって筒状構造170の上端部とコネクタ400との間が封止される。第1ウェル120および第2ウェル130は、高さが異なっていてもよい。
図6の例では、第1ウェル120および第2ウェル130は、共に、本体部105の表面に開口部が形成され、本体部105の内側に窪む凹部171により構成されている。第1ウェル120および第2ウェル130は、このような凹部171によって構成されてもよい。第1ウェル120および第2ウェル130が同じように凹部171により構成されると、識別しにくくなるので、識別部180による第1注入口121の識別が、注入間違いを抑制するために特に効果的である。
図7の例では、第2注入口131は、流路110が形成された本体部105の表面に形成されている。
図8~図10は、第1注入口121または第2注入口131と、送液装置500とを接続するための構成の例を示している。第1注入口121または第2注入口131は、コネクタ400を介して、送液装置500と接続される。コネクタ400は、開口部との接続部分を封止するためのシール部材401を有する。シール部材401は、たとえばOリングやガスケットのような部材であり、可撓性を有する材質により構成される。コネクタ400は、シール部材401の内周側の位置に開口するように、送液装置500の圧力経路512や送液管526(図3参照)が設けられる。
図8は、第1ウェル120および/または第2ウェル130が、凹部171により構成された場合のコネクタ400との接続例を示す。図8(A)では、コネクタ400は、凹部171の内周面に嵌るように形成された環状のシール部材401を有する。コネクタ400を接続する際、図8(B)のように、環状のシール部材401の外周面が、凹部171の内周面と密着するように凹部171内に嵌り込む。これにより、第1注入口121または第2注入口131とコネクタ400との接続部分が密閉される。
図9は、第1ウェル120および/または第2ウェル130が、筒状構造170により構成された場合のコネクタ400との接続例を示す。図9(A)では、コネクタ400は、筒状構造170の外周面に嵌るように形成された環状のシール部材401を有する。コネクタ400を接続する際、図9(B)のように、環状のシール部材401の内周面が、筒状構造170の外周面と密着するように筒状構造170がシール部材401の内周側に嵌り込む。これにより、第1注入口121または第2注入口131とコネクタ400との接続部分が密閉される。筒状構造170の外周面がシール部材401に嵌り込むことによって、接続部分の密閉度を向上させることができる。
図10は、第1ウェル120および/または第2ウェル130が筒状構造170により構成された場合の、コネクタ400との他の接続例を示す。図10(A)では、コネクタ400は、筒状構造170の上端面と接触するように形成された環状のシール部材401を有する。シール部材401は、筒状構造170の周壁部分の肉厚と同等かまたは大きい肉厚を有する。コネクタ400を接続する際に筒状構造170に近づけると、環状のシール部材401の下端面が、筒状構造170の上端面と接触する。これにより、筒状構造170の上端面とシール部材401の下端面とが密着して接続部分が密閉される。筒状構造170の上端面の外周縁部に高い圧力がかかるので、接続部分の密閉度を向上させることができる。
図10の例において、好ましくは、シール部材401が弾性体により形成されている。シール部材401が弾性体の場合、コネクタ400を筒状構造170に接近させることで、図10(B)のように、筒状構造170の上端面は、シール部材401の下端面にめり込むようにしてシール部材401を変形させ、密着する。これにより、接続部分の密閉度を向上させることができる。
(注入口)
第1注入口121および第2注入口131について、開口形状や開口面積は、特に限定されないが、少なくとも第1注入口121は、操作者が注入器具700を用いて第1液体10を注入できる形状に形成される。つまり、第1注入口121は、注入器具700の先端部の外形形状よりも大きく形成され、注入器具700の先端部を挿入できる。
第2注入口131については、送液装置500から第2液体20が送液されるので、必ずしも注入器具700を用いて液体を注入できるような大きさでなくてもよい。しかし、識別部180によって第1注入口121と第2注入口131とを区別する本実施形態では、第2注入口131が第1注入口121と類似した大きさを有する場合に特に有効である。
図11では、開口部の大きさの例を示す。第1注入口121は、直径(内径)d11を有し、第2注入口131は、直径(内径)d13を有する。図11の例では、第1注入口121および第2注入口131は、共に、第1ウェル120の容量に対応した分注量を有する注入器具700の先端部を挿入可能な開口形状を有する。これにより、第1注入口121および第2注入口131のいずれにも、注入器具700を用いて液体注入ができてしまうので、注入間違いが発生しやすい。そのため、識別部180による第1注入口121の識別が、注入間違いを抑制するために特に効果的である。
具体的には、図11(A)は、第2注入口131が本体部105の表面に開口する例を示している。第2注入口131は、第1注入口121の内径d11よりも小さい内径d13を有するものの、注入器具700の先端部を挿入可能な大きさを有する。図11(B)は、第2注入口131が、筒状構造170からなる第2ウェル130に形成されている例を示している。第2注入口131は、第1注入口121の内径d11と概ね等しい内径d13を有し、注入器具700の先端部を挿入可能な大きさを有する。図11(C)は、第2注入口131が、凹部171からなる第2ウェル130に形成されている例を示している。第2注入口131は、第1注入口121の内径d11と概ね等しい内径d13を有し、注入器具700の先端部を挿入可能な大きさを有する。
図11の各例では、操作者が誤って第2注入口131に第1液体10を注入するおそれがある。このような検体処理チップ100では、識別部180による第1注入口121の識別によって注入間違いを抑制できるため、特に効果的である。一方、第2注入口131が注入器具700の先端部を挿入し難いような小さい内径を有する場合、操作者は、第2注入口131が第1液体10を注入すべき開口部でないと一見して理解する。したがって、第1注入口121以外に、注入器具700の先端部を挿入できる大きさの開口部が存在しない検体処理チップについては、識別部180を設ける必要性がない。
注入器具700の先端部を挿入可能な大きさの例として、たとえば、第1注入口121および第2注入口131は、共に、直径(d11、d13)が2mm以上15mm以下である。第1ウェル120および第2ウェル130の容量は、たとえば30μL以上2mL以下である。開口径が2mm以上15mm以下の場合に、一般的なピペッタなどの注入器具700を用いて、第1液体10を第1注入口121だけでなく第2注入口131にも注入できるため、操作者が注入位置を間違えるおそれがある。そのため、注入の際、識別部180によって、第1液体10が誤って第2注入口131に注入されるのを効果的に抑制できる。開口径が15mmよりも大きい開口部は、検体処理チップ100の構造としては大きすぎるため好ましくない。好ましくは、第1注入口121および第2注入口131は、共に、直径(内径)が5mm以上10mm以下である。第1ウェル120および第2ウェル130の容量は、好ましくは200μL以上800mL以下である。これにより、微量検体を用いた検体処理を行うマイクロ流体チップに適した液体保持容量が得られる。より好ましくは、第1注入口121および第2注入口131は、共に、直径(内径)が5mm以上8mm以下である。第1ウェル120および第2ウェル130の容量は、好ましくは200μL以上500mL以下である。この場合、後述するように、96ウェルマイクロプレートの標準規格に準拠した9mmピッチの間隔でも、容易に第1注入口121および第2注入口131を配列することができる。また、たとえば、第1注入口121および第2注入口131は、共に、流路110において検体処理を行うチャネル111の断面積よりも大きい開口面積を有する。
(識別部)
識別部180は、注入対象の第1ウェル120を、第2注入口131などから識別できれば、どのようなものでもよい。識別部180は、注入対象の第1ウェル120を、視覚的に識別させるように構成されている。
図12(A)~図12(D)では、識別部180は、検体処理チップ100の表面102に付与された識別標識181を含む。ここで、検体処理チップ100の表面102は、検体処理チップ100を構成する構造すべての表面を含むものとする。つまり、検体処理チップ100の表面102は、本体部105の表面を含む。第1ウェル120が筒状構造170により構成される場合、検体処理チップ100の表面102は、筒状構造170の表面を含む。つまり、検体処理チップ100の表面102は、検体処理チップ100において外部に露出する面を全て含む。
識別部180は、たとえば、本体部105のうち、第1ウェル120が形成された表面と、同じ表面に設けられる。これにより、操作者が外部から識別標識181を視認するだけで、容易に第1注入口121を区別できるようになる。操作者が注入器具700を用いて第1液体10を第1ウェル120に注入する際には、第1ウェル120の第1注入口121側から検体処理チップ100を見下ろすことになるため、表面102に設けられた識別標識181は操作者に視認しやすい。
検体処理チップ100の表面102の識別部180は、たとえば、印刷、刻印、シール貼付などにより設けられる。すなわち、識別標識181は、印刷された標識、刻印された標識およびラベル標識の少なくともいずれかを含む。これにより、検体処理チップ100に識別用の特別な構造を設ける必要がなく、容易に識別部180を設けることができる。識別標識181は、たとえば、文字、記号、図形、ピクトグラムなどの絵、矢印などのマークのいずれかを含みうる。
図12(A)の例では、識別標識181は、検体処理チップ100の表面102に印刷された標識である。図12(A)では、識別標識181が、注入対象の第1注入口121を示すマーク(三角印)である。第1注入口121を有する第1ウェル120が複数設けられる場合、複数の第1注入口121を互いに識別するように、互いに異なる識別部180を設けることができる。図12(A)では、識別標識181の色が異なる。三角形と四角形、円形など、マークの形状が異なっていてもよい。
図12(B)の例では、識別標識181が、検体処理チップ100の表面102に突起状または溝状に刻印された標識である。図12(B)の例では、識別標識181が、注入対象の液体を示す文字である。第1ウェル120が複数設けられる場合、それぞれの第1注入口121に注入すべき第1液体10を示す文字を付与できる。図12(B)の例では、第1ウェル120aに、注入すべき第1液体10が検体を含んだ試料(Sample)であることを示す頭文字「S」の識別標識181を付している。第1ウェル120bに、注入すべき第3液体30が検査項目別の成分を含有する試薬(Reagent)であることを示す頭文字「R」の識別標識181を付している。
図12(C)の例では、識別標識181が、検体処理チップ100の表面102に貼付されたラベル標識である。図12(C)では、識別標識181が、注入対象の液体を示すピクトグラム(絵)である。第1ウェル120が複数設けられる場合、それぞれの第1ウェル120の第1注入口121に注入すべき第1液体10を示す絵を付与できる。図12(C)の例では、第1ウェル120aに、注入すべき第1液体10が検体を含んだサンプルであることを示すピクトグラムの識別標識181を付している。第1ウェル120bに、注入すべき第3液体30が項目別の試薬であることを示すピクトグラム(試薬瓶)の識別標識181を付している。
図12(A)~図12(C)では、第1ウェル120が設けられる本体部105の表面に識別標識181を付与した例を示したが、図12(D)の例では、識別標識181が、第1ウェル120を構成する筒状構造170の表面に付与されている例を示している。識別標識181は筒状構造170の外周面に付与されている。
図13(A)~図13(C)では、第1ウェル120の構造的な相違によって、識別部180が構成される例を示している。すなわち、識別部180は、第1ウェル120を構成する筒状構造170を含み、筒状構造170の外径d1、平面形状および高さh1、の少なくともいずれかに基づいて、第1液体10を注入すべき第1注入口121が識別できるように構成されている。これにより、第1注入口121と第2注入口131などの他の構造との構造上の差異に基づいて、操作者が第1注入口121を識別できるようになる。
図13(A)は、第1ウェル120の筒状構造170の外径d1が、第2ウェル130の外径d2および回収用保持部160の外径d3と異なることにより、第1注入口121を第2注入口131および回収用保持部160から識別する識別部180が構成されている。図13(A)では、d2<d1<d3の関係となっている。
図13(B)は、第1ウェル120の筒状構造170の平面形状が、第2注入口131の平面形状および回収用保持部160の平面形状と異なることにより、第1注入口121を第2注入口131および回収用保持部160から識別する識別部180が構成されている。図13(B)では、第1ウェル120の筒状構造170が矩形形状であるのに対して、第2注入口131および回収用保持部160の平面形状が円形状である。
図13(C)は、第1ウェル120の筒状構造170の高さh1が、第2注入口131の高さh2および回収用保持部160の高さh3と異なることにより、第1注入口121を第2注入口131および回収用保持部160から識別する識別部180が構成されている。筒状構造170の高さとは、本体部105の表面から筒状構造170の上端面までの長さである。図13(C)では、h2<h1<h3の関係となっている。
図14(A)および図14(B)では、識別部180が検体処理チップ100に付された色彩により構成される例を示している。すなわち、識別部180は、検体処理チップ100に設けられた着色部182を含む。これにより、操作者が、検体処理チップ100に付された色彩の相違に基づいて第1注入口121を識別することができる。色彩の相違は、視認しやすく、他の構造と一見して識別できる配色を容易に実現できるので、操作者にとって識別しやすい識別部180を設けることができる。
識別部180を構成する着色部182は、少なくとも第2注入口131を構成する部分や回収用保持部160などの他の構造とは異なる色彩を有する。色の相違は、第1注入口121を有する第1ウェル120を他の構造から区別できる程度に異なっていればよい。たとえば検体処理チップ100のうち、識別部180だけが所定の色に着色された着色部182を含み、識別部180以外の他の部分が無着色であってもよい。着色部182の色は、赤、青、黄、緑など、任意である。検体処理チップ100は透明材料によって形成されていてもよく、透明でも着色部182を視覚的に認識できる。
図14では、着色部182をハッチングにより示している。図14(A)は、第1ウェル120の全体が着色部182となっている例を示している。図14(B)の左側の第1ウェル120bでは、筒状構造170の周壁部分のみが着色部182となっており、筒状構造170の内側の第1ウェル120bの底部に着色がされていない例を示す。図14(B)の右側の第1ウェル120aでは、第1ウェル120aの底部のみが着色部182となっており、筒状構造170の周壁部分に着色がされていない例を示す。
着色部182は、筒状構造170などの表面に色素を塗布することにより形成してもよいし、筒状構造170を構成する材料中に色素を混入して筒状構造170を成形することにより形成してもよい。この他、本体部105における、第1注入口121を有する第1ウェル120を含む範囲に着色部182を設けてもよい。なお、検体処理チップ100のうち、第1ウェル120以外の部分に着色部182を設け、第1ウェル120には着色部182を設けないことにより、第1ウェル120を識別できるようにしてもよい。
図12~図14に示した識別部180は一例であり、図12~図14に示した識別部180のうち複数を組み合わせてもよい。
(検体処理チップの構成例)
図15は、本実施形態の検体処理チップ100の構成例を示す。検体処理チップ100は、複数の流体モジュール200と、基板300とを含む。流体モジュール200には、流路110が形成されている。基板300上には、1または複数の流体モジュール200が設置される。図15の例では、対象成分を含む検体や試薬等が、流体モジュール200a、200b、200cを順次流れることにより、複数種類の流体モジュールの組み合わせに対応したアッセイが実行される。流体モジュール200a、200b、200cは、それぞれ、異なる種類の流体モジュールである。つまり、各々の流体モジュール200a、200b、200cにおいて、送液によって実施される検体処理工程が異なる。基板300に設置する流体モジュール200の組み合わせを変更することにより、組み合わせに応じた様々なアッセイが実施可能である。基板300に設置する流体モジュール200の数に制限はない。流体モジュール200の形状が種類毎に異なっていてもよい。
流体モジュール200と基板300とによって、流路110を有する本体部105が構成されている。内部に流路110を有する本体部105を、単一材料により一体形成してもよい。第1ウェル120を筒状構造170により構成する場合、本体部105の表面に、さらに筒状構造170が設けられる。
図16は、基板300の構成例を示す。基板300は、複数の基板流路310を有する。基板300は、平板形状を有し、主表面である第1面301および第2面302(図15参照)を有する。第2面302は、第1面301とは反対の面である。図15では図中の基板300の上面を第1面301としているが、第1面301が下面であってもよい。
基板300の厚さtは、たとえば、1mm以上5mm以下である。これにより、流体モジュール200に形成される流路110の流路高さ(およそ10μm~500μmのオーダー)と比較して、基板300を十分大きな厚みを有するように形成できる。その結果、容易に、基板300に十分な耐圧力性能を確保できる。
基板流路310は、たとえば、所定のピッチで配置される。図16の例では、各基板流路310は、縦方向のピッチV、横方向のピッチHで配列されている。この場合、流体モジュール200を、基板300上にピッチ単位の任意の位置に配置して、流路110を任意の基板流路310に接続できる。そのため、流体モジュール200の組み合わせを変更する場合でも、基板300上に、流体モジュール200を任意の組み合わせおよび任意の配列を容易に実現できる。
基板流路310は、たとえば、基板300を厚み方向に貫通する貫通孔である。基板流路310は、流体モジュール200の流路110と接続される他、検体処理チップ100内に第1液体10を供給するための第1ウェル120との接続部分や、検体処理チップ100内に第2液体20を供給するための第2注入口131との接続部分として構成される。たとえば、第1面301および第2面302の一方に、流路110を有する流体モジュール200が設置され、第1面301および第2面302の他方に、第1注入口121を有する第1ウェル120や第2注入口131が設けられる。基板流路310は、流体モジュール200の流路110と、第1ウェル120および第2注入口131とを接続するように設けられる。
基板300は、ガラスまたは樹脂材料などにより形成される。流体モジュール200はたとえば樹脂材料により形成される。各流体モジュール200は、たとえば、基板300と固相接合により接続される。固相接合は、たとえば、接合面をプラズマ処理してOH基を形成し、接合面同士を水素結合により接合する方法や、真空圧接などの方法を採用することができる。流体モジュール200は、接着剤等によって基板300と接続されてもよい。
一例として、基板300は、たとえばポリカーボネート(PC)により構成される。流体モジュール200は、たとえばポリジメチルシロキサン(PDMS)により構成される。材料としては、たとえば、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)などを用いてもよい。
図17の構成例では、検体処理チップ100は、基板300の第1面301に配置された流体モジュール200a、200bおよび200cと、第2面302に配置された流体モジュール200dおよび200eとを備える。各流体モジュール200は、基板300の基板流路310を介して接続される。このように、検体処理チップ100は、第1面301および第2面302の各々に流体モジュール200を有していてもよい。
(単位流路構造)
図18に示すように、検体処理チップ100には、所定の処理工程を行う単位構造としての単位流路構造101が、並列的に複数配置されていてもよい。それぞれの単位流路構造101は、少なくとも、第1注入口121を有する第1ウェル120、第2注入口131および流路110を含む。それぞれの単位流路構造101には、第1ウェル120が複数設けられていてもよいし、排出口150や回収用保持部160が設けられていてもよい。
図18(A)では、実質的に同等の単位流路構造101が、検体処理チップ100に並んで形成されている。個々の単位流路構造101は、別々の流体モジュール200により形成されていてもよいし、共通の流体モジュール200に、複数の単位流路構造101が並んで配置されていてもよい。実質的に同等の単位流路構造101は、同一形状または同一の機能を有する流路110を備えている。実質的に同等の単位流路構造101は、第1液体10および第2液体20の送液により、同一種類の検体処理を行う。
図18(B)では、互いに異なる種類の単位流路構造101が、検体処理チップ100に並んで形成されている。個々の単位流路構造101は、別々の流体モジュール200により形成されていてもよいし、共通の流体モジュール200に、複数の単位流路構造101が並んで配置されていてもよい。互いに異なる種類の単位流路構造101は、それぞれ、異なる形状または異なる機能を有する流路110を備えている。互いに異なる種類の単位流路構造101は、第1液体10および第2液体20の送液により、異なる種類の検体処理を行う。
複数の単位流路構造101は、検体処理チップ100において、図18のように直線状に並んで配列されてもよいし、図19に示すように縦横に並んで行列状に配列されてもよい。検体処理チップ100が単位流路構造101を複数備える場合、複数の単位流路構造101によって、1つの検体処理チップ100で複数の検体処理を並行して実施することができる。
ここで、検体処理チップ100が単位流路構造101を複数備える場合、図18や図19に示したように、検体処理チップ100には複数の第2注入口131や複数の第1ウェル120が設けられるため、操作者が注入位置を間違えやすくなる。そこで、検体処理チップ100が単位流路構造101を複数備える場合、識別部180は、複数の単位流路構造101の各々における、第1液体10を注入すべき第1注入口121を識別するように構成されている。これにより、識別部180によってそれぞれの第1注入口121を認識することができるので、液体の注入間違いを抑制することができる。
識別部180は、複数の単位流路構造101に含まれる第1ウェル120の各々について、図12~図14に示したような形態で、個別に設けることができる。この他、図20の例では、識別部180は、複数の単位流路構造101の第1ウェル120を一括して識別するように、複数の単位流路構造101に渡って設けられている。これにより、複数の単位流路構造101が設けられて構造が複雑な検体処理チップ100において、どの位置に第1液体10を注入すればよいかを複数の単位流路構造101についてまとめて把握できる。また、識別部180が複数の単位流路構造101に渡って設けられるため、容易に、識別部180を大きく、識別しやすくすることができる。これにより、液体の注入間違いを効果的に抑制することができる。
図20では、識別部180は、単位流路構造101の配列方向に沿って延びる枠状の識別標識181である。具体的には、識別部180は、直線状に並んだN個の単位流路構造101の各第1ウェル120を取り囲むように、単位流路構造101の配列方向に沿って延びる枠状の識別標識181として構成されている。枠状の識別標識181によって複数の第1ウェル120を囲んで区画することにより、極めて容易に第1ウェル120と他の構造とを識別できる。
図20では、各々の単位流路構造101には、複数の第1ウェル120が設けられている。すなわち、第1ウェル120は、生体由来の検体を含む第1液体10を保持する第1ウェル120aと、検体検査の検査項目に応じた成分を含有する第3液体30を保持する第1ウェル120bとを含んでいる。そのため、識別部180は、第1液体10に含まれる検体を示す「S」の文字を付与した識別部180aと、第3液体30からなる項目別試薬を示す「R」の文字を付した識別部180bと、を含んでいる。これにより、各々の単位流路構造101の第1液体10を保持する第1ウェル120aと、第3液体30を保持する第1ウェル120bとを一括して、互いに識別できる。
図20に示すn個の単位流路構造101を備えた検体処理チップ100は、様々な利用態様が可能である。たとえば、図21(A)では、複数のサンプルに対して、同一の検査項目の検体処理を並行して実施する例を示している。図21(A)では、n個の第1ウェル120aに対して、サンプル番号1~nのそれぞれ異なる検体を含む第1液体10が注入される。たとえばn人の被検者からそれぞれ採取された検体を含む第1液体10が、第1ウェル120aにそれぞれ注入される。そして、n個の第1ウェル120bに対しては、試薬番号1の同じ検査項目の成分を含有する第3液体30がそれぞれ注入される。送液装置500による送液後、n個の回収用保持部160は、検査項目に応じた同一の検体処理がそれぞれ行われたn人分のサンプルをそれぞれ収容することになる。このようにして、n人分の検体に対して、同一の検査項目の検体処理が検体処理チップ100により並行して実施できる。
図21(B)では、同一のサンプルに対して、複数の検査項目の検体処理を並行して実施する例を示している。図21(B)では、n個の第1ウェル120aに対して、それぞれサンプル番号1の同一の検体を含む第1液体10が注入される。そして、n個の第1ウェル120bに対しては、試薬番号1~nのそれぞれ異なる検査項目の成分を含有する第3液体30が、それぞれ注入される。送液装置500による送液後、n個の回収用保持部160は、同一の検体について、n種類の検査項目に応じた検体処理がそれぞれ行われたサンプルをそれぞれ収容することになる。このようにして、1人分の検体に対して、n種類の検査項目の検体処理が単一の検体処理チップ100により並行して実施できる。
(ウェルの配列間隔)
第1ウェル120を複数備える場合、複数の第1ウェル120は、同じピッチPRで配置されることが好ましい。図22では、複数の第1ウェル120が、所定のピッチPRで配置されている。そのため、複数の第1ウェル120の各々の第1注入口121が、所定のピッチPRで配置されている。複数の第1ウェル120の各々は、直線状に並んで配列されており、配列方向におけるピッチPRが、略一定となっている。このように構成すれば、複数の第1ウェル120が規則的に並ぶので、複数の第1ウェル120が不規則な間隔で配列される場合と比べて、操作者による液体の注入作業を容易にすることができる。
図22の例では、複数の第1ウェル120は、マイクロプレートにおけるウェル間のピッチを定めた標準規格に準拠したピッチPRで配置されている。マイクロプレートにおけるウェル間のピッチを定めた標準規格としては、上記の通り、ANSI/SBS 4-2004がある。ANSI/SBS 4-2004によって定められたウェル間ピッチは、96ウェルのマイクロプレートで9mm、384ウェルのマイクロプレートで4.5mm、1536ウェルのマイクロプレートで2.25mm、である。マイクロプレートはウェルが行列状に並ぶので、列同士のピッチ、行同士のピッチがあるが、いずれも上記寸法で共通である。
マイクロプレートのウェル間ピッチに対応して、標準規格に準拠したピッチで構成された多連ピペッタなどの注入器具が広く利用されている。複数の第1ウェル120が規格化されたピッチPRで配列されるので、図23に示すように、標準規格に準拠した多連ピペッタなどの注入器具700を用いて、複数の第1ウェル120にまとめて液体を注入できる。その結果、操作者による液体の注入作業をさらに容易にすることができる。
図24は、標準規格に準拠したピッチPRで複数の第1ウェル120が配列された検体処理チップ100の例を示している。図24の検体処理チップ100では、複数の第1ウェル120は、96ウェルマイクロプレートにおけるウェル間のピッチに対応するピッチPRで配列され、配列方向において8個または12個並んで設けられている。すなわち、各第1注入口121の間のピッチPRは9mmである。96ウェルマイクロプレートおよび、96ウェルマイクロプレートに対応する注入器具700は、特に広く利用されている。操作者は、広く利用されている96ウェルマイクロプレートの標準規格に対応した注入器具700を用いて、液体の注入作業をまとめて実施できるので、注入作業を効率化できる。
なお、図24は、96ウェルマイクロプレートの標準規格に準拠したピッチPRで、第1ウェル120のみならず第2注入口131や回収用保持部160を複数配列した例を示している。図24では、1番~12番の行番号、および、A~Hの列番号で示した、12行×8列の配列例を示している。たとえば、各行のA~D列で、1つの第2注入口131、2つの第1ウェル120および1つの回収用保持部160を有する単位流路構造101が構成され、各行のE~H列で、1つの第2注入口131、2つの第1ウェル120および1つの回収用保持部160を有する単位流路構造101が構成される。検体処理チップ100は、1行あたり2つの単位流路構造101を有し、12行で24個の単位流路構造101を有する。各行、各列の間のピッチPRが共通で、96ウェルマイクロプレートの標準規格に準拠した9mmとなっている。図示は省略するが、第1ウェル120が横方向のA列~H列に8個並んでもよい。
このように、96ウェルマイクロプレートのように第1ウェル120が8個または12個並んで配列される構成では、第1注入口121や第2注入口131が密集して設けられ、外見上も似通ったものになり易く、操作者には識別しにくくなる。そのため、識別部180によって第1注入口121を識別できる本実施形態の検体処理チップ100は、第1注入口121や第2注入口131が多数設けられる構成において特に効果的である。
なお、検体処理チップ100では、複数の単位流路構造101のうち一部について、検体を含む第1液体10に代えて、標準物質を含む液体を第1ウェル120に注入して、コントロール用の単位流路構造101として用いることができる。標準物質を含む液体を注入した単位流路構造101で処理された液体の処理結果により、検体を含む第1液体10を注入した単位流路構造101での処理結果の信頼性を担保することができる。
図25は、コントロール用の単位流路構造101を設けた検体処理チップ100の例を示している。図25では、行番号の1番~9番が、検体を含む第1液体10を注入する検体処理用の単位流路構造101であり、10番~12番が、標準物質を含む液体を注入するコントロール用の単位流路構造101である。この場合、識別部180は、行番号の1番~9番について、検体を含む第1液体10を注入する第1ウェル120aと、検査項目に応じた成分を含有する第3液体30を注入する第1ウェル120bとに、それぞれ設けられている。さらに、検体処理用の単位流路構造101とコントロール用の単位流路構造101とを識別するために、行番号の1番~9番のブロックと、10番~12番のブロックとを区分するように、ライン状の識別部180が設けられている。また、行番号の10番~12番について、標準物質を含む液体が注入される第1ウェル120に、コントロールであることを示す「C」の文字を辞した識別部180が設けられている。これにより、操作者は、それぞれの識別部180を手がかりに、第1液体10、第3液体30、標準物質を含む液体の各々を、間違えずに所定位置の第1ウェル120に注入することができる。
(試薬のプレパック)
図26に示すように、複数の第1ウェル120が、生体由来の検体を含む第1液体10を保持するための第1ウェル120aと、検体処理チップ100を用いた検体検査の検査項目に応じた成分を含有する第3液体30を保持するための第1ウェル120bとを含む場合、識別部180は、少なくとも第1液体10を保持するための第1ウェル120aに設けられる。これにより、識別部180によって、検体を含む第1液体10の注入位置を把握することができ、検体を含む第1液体10の注入位置を操作者が間違えるのを抑制できる。
そして、第3液体30を保持するための第1ウェル120bについては、検体処理チップ100にプレパックしておいてもよい。すなわち、図26では、第3液体30を保持するための第1ウェル120bには、検査項目に応じた成分を含有する第3液体30が予め封入されている。第1ウェル120bは、第3液体30を保持するとともに、第1注入口121がシール性を有するフィルム145や栓部材(図示せず)などによって塞がれ、封止されている。これにより、作業者による第1ウェル120bへの第3液体30の注入を省略することができる。そのため、第3液体30を注入しないで済む分、液体を注入する際の作業の煩雑化を効果的に抑制することができる。また、第1ウェル120bには第3液体30が予め封入されていることから、第1ウェル120aとの識別も容易に行うことができ、操作者による液体注入位置の間違いを抑制することができる。
第1ウェル120bに第3液体30が予め封入される構成では、図27に示すように、送液装置500の蓋580を閉じることによって、第1ウェル120bの封止が解除されて、送液装置500と接続される構成とすることができる。図27では、送液装置500に、検体処理チップ100を覆う蓋580が設けられる。蓋580には、第1ウェル120bを封止するフィルム145を貫通するための穿刺部材585が設けられ、蓋580が閉じられることによって、穿刺部材585がフィルム145を貫通する。フィルム145が破られることにより、第1ウェル120bが蓋580に設けられた圧力経路512と接続され、内部の第3液体30を流路110側へ送液できるようになる。
変形例として、検体処理チップ100に、第2注入口131を塞ぐフィルム145を設けてもよい。この場合、識別部180が、第2注入口131を塞ぐフィルム145を含む。操作者は、第1注入口121が識別部180によって塞がれていないことによって、第1注入口121を識別できる。また、第2注入口131が塞がれることで、第1液体10の誤注入を防止できる。この場合、図27のように、第2注入口131と接続されるコネクタ400に穿刺部材585を設けて、接続時にフィルム145を貫通して送液できるようにすればよい。第2注入口131には第2液体20が送液されるので、第2液体20をプレパックするのではなく第2注入口131の内部は空の状態でよい。
なお、図27の例では、送液装置500のコネクタ400を、第1注入口121および第2注入口131と一括して接続可能なマニホールドとして構成している例を示す。これにより、コネクタ400を検体処理チップ100に接続するだけで、第1注入口121および第2注入口131の各々を送液装置500に接続できる。
図27の例では、第1注入口121および第2注入口131は、検体処理チップ100の厚み方向における位置が略一致する。すなわち、第1ウェル120および第2ウェル130が筒状構造170により構成されているので、筒状構造170の上端面の、本体部105からの突出高さが等しい。そのため、第1注入口121および第2注入口131の厚み方向における位置が略一致している。これにより、第1注入口121と送液装置500との接続、第2注入口131と送液装置500との接続を、検体処理チップ100の厚み方向の同じ位置で行うことができる。そのため、送液装置500に、第1注入口121用のコネクタ400と、第2注入口131用のコネクタ400とを含むマニホールドを設ける場合に、それぞれの接続部分をシールするためのシール部材401をシート状に形成することができ、接続を容易に行える。
図28は、検体処理チップ100の単位流路構造101の1つを示した構成例を示す。図28の構成例では、検体処理チップ100が、2つの第1ウェル120および1つの回収用保持部160と、第2注入口131が形成された1つの第2ウェル130と、排出口150が形成された1つの第2ウェル130とを含む。なお、図28では識別部180の図示を省略している。第1注入口121は、収容する液体の量に応じた所定の容積を有するように、内径d11を有する。第1ウェル120は、上端部に第1注入口121を有し、下端部に流路110との接続部分140を有する。
第2ウェル130には、第1ウェル120の内径d11よりも小さい内径d12の液体通路が設けられている。第2ウェル130の上端部には、第2注入口131または排出口150が設けられ、下端部が流路110に接続されている。図28の例では、第2ウェル130の外径は、第1ウェル120の外径と略等しい。第2ウェル130の上端部の第2注入口131または排出口150では、内径d12よりも大きな内径d13となるように内径が拡大されている。内径d13は、第1ウェル120の第1注入口121の内径d11と略等しい。
図28の例では、第2ウェル130は、検体処理チップ100の表面から突出しており、第2注入口131から第2送液口132までの距離は、第2ウェル130の高さより短い。つまり、第2ウェル130の高さ方向の中間位置(つまり、上端と下端との間のいずれかの位置)に、第2送液口132が設けられている。これにより、送液装置500が第2注入口131を密閉した状態で注入した場合であっても、第2ウェル130に注入された液体を送液する場合、第2ウェル130中の空気を少なくすることができ、精度よく送液することができる。
また、図28の例では、第1注入口121および第2注入口131は、径(内径d11、d13)が略同じであり、第2注入口131から第2送液口132までの距離は、第1注入口121から第1送液口122までの距離より短い。ここで、注入口から送液口までの距離は、ウェルの深さに相当する。したがって、第1ウェル120の方が、第2ウェル130よりも深い。第1注入口121および第2注入口131の径が略同じであるので、第1ウェル120の方が、第2ウェル130よりも容積が大きい。ここで、第1注入口121を密閉せずに操作者が液体を第1ウェル120に注入し、送液装置500が第2注入口131を密閉した状態で注入した場合、第1ウェル120は、液体が注入された分、第1ウェル120内の空気を少なくできる一方、第2ウェル130はそのようにすることが難しい。しかし、このように構成することで、第2ウェル130中の空気を少なくすることができ、精度よく送液することができる。
流路110は、検体処理を行うためのチャネル111と、第1ウェル120および第2ウェル130との接続部分140とを含む。
検体処理を行うためのチャネル111(流路110)の断面積は、たとえば0.01μm2以上10mm2以下である。なお、流路110における断面積とは、流路110における液体の流通方向に直交する断面における断面積である。このように0.01μm2以上10mm2以下の小さい断面積の流路110が設けられる場合、流路110に送液するための第1注入口121や第2注入口131も小口径のものとなるため、相互に間違えやすくなる。そのため、識別部180による第1注入口121の識別が、注入間違いを抑制するために効果的である。好ましくは、チャネル111(流路110)は、断面積が0.01μm2以上1mm2以下である。これにより、断面積が1mm2以下の流路110に送液するのに適した小口径の第1注入口121および第2注入口131を、識別部180によって区別できるので、注入間違いを抑制するために特に効果的である。より好ましくは、チャネル111(流路110)は、断面積が0.01μm2以上0.25mm2以下である。
上記検体処理チップ100内に形成された流路110は、たとえば、高さが1μm以上500μm以下であり、幅が1μm以上500μm以下である。このように高さが1μm以上500μm以下であり、幅が1μm以上500μm以下の小さい流路110では、流路110に送液するための第1注入口121や第2注入口131も小口径のものとなるため、相互に間違えやすくなる。そのため、識別部180による第1注入口121の識別が、注入間違いを抑制するために効果的である。好ましくは、流路110は、高さが1μm以上250μm以下であり、幅が1μm以上250μm以下である。このように構成すれば、高さが250μm以下であり、幅が250μm以下の、より小さい流路110に送液するための第1注入口121や第2注入口131も、より小口径のものとなりやすいため、識別部180による第1注入口121の識別が、注入間違いを抑制するために特に効果的である。より好ましくは、流路110は、高さが1μm以上100μm以下であり、幅が1μm以上100μm以下である。
図29および図30に示すように、検体処理チップ100には、送液装置500に設置する際に利用される保持具またはアダプター、その他の付属品を備えていてもよい。たとえば、検体処理チップ100は、送液装置500との接続用のコネクタ400を、付属品として備えていてもよい。
図29では、検体処理チップ100は、検体処理チップ100を送液装置500に設置するためのチップ保持具350を、付属品として備えている。図29の例では、チップ保持具350は、左右に分割された一対の係合部351を含み、一対の係合部351を互いに近づける方向および離れる方向にスライド移動できるように構成されている。検体処理チップ100は、一対の係合部351を互いに離れさせた状態で、係合部351の中央部に形成された凹状のチップ設置部352に設置される。
図30に示すように、チップ設置部352に検体処理チップ100が設置された状態で、一対の係合部351を互いに近づけると、検体処理チップ100がチップ保持具350に固定される。すなわち、一対の係合部351を互いに近づけると、一対の係合部351の爪部351aが検体処理チップ100の上面側に移動して、検体処理チップ100がチップ設置部352から外れないように検体処理チップ100に係合する。係合状態では、一対の係合部351の間の間隔(すなわち、チップ設置部352の寸法)が検体処理チップ100の寸法にほぼ一致し、チップ保持具350の内部で検体処理チップ100が動かないように保持される。
チップ保持具350を設ける場合、識別部180は、図30のようにチップ保持具350に付与してもよい。ただし、この場合、検体処理チップ100をチップ保持具350に設置していない状態では操作者が識別部180を利用できないので、検体処理チップ100をチップ保持具350に設置した状態で第1液体10の注入を行う必要がある。そのため、検体処理チップ100単独でも識別部180を利用して第1液体10の注入を行えるようにするには、識別部180を検体処理チップ100の本体に直接設けるのが好ましい。
[送液装置の概要]
次に、図31を参照して、本実施形態の送液装置の概要について説明する。
送液装置500は、液体が流入する流路110を備える検体処理チップ100に送液を行う送液装置である。検体処理の内容は、検体処理チップ100の構造により決まる。そのため、送液装置500は、使用する検体処理チップ100の種類によって、異なる種類の検体処理を行うための送液を実施することが可能である。
送液装置500は、第1送液機構510と、第2送液機構520と、検体処理チップ100が設置される設置部550とを備える。第1送液機構510および第2送液機構520は、圧力源となるポンプ、圧力を供給するための配管、送液を制御するためのバルブなどを含んで構成しうる。
第1送液機構510は、検体処理チップ100の第1ウェル120に形成された第1注入口121を介して第1ウェル120に注入された第1液体10を、第1ウェル120に形成された、第1注入口121より小さい第1送液口122から流路110に送液する。第1送液機構510は、空気圧または液圧による圧力、検体処理チップ100を回転させることによる遠心力、または毛細管現象などによって、第1液体10を送液する。たとえば、第1送液機構510は、注入器具700(図2参照)によって第1液体10が注入された第1ウェル120に圧力を付与することによって、第1液体10を流路110に送液する。図31の構成例では、第1ウェル120にコネクタ400が取り付けられ、第1送液機構510と第1ウェル120の内部とが接続される。コネクタ400は、第1ウェル120の第1注入口121を封止する。第1送液機構510は、コネクタ400を介して、第1ウェル120の第1注入口121側から圧力を供給して、第1液体10を流路110側へ押し出す。第1液体10は、圧力によって接続部分140を介して流路110内へ移動する。
第2送液機構520は、検体処理チップ100の第2ウェル130に形成された第2注入口131を介して第2ウェル130に送液し、第2ウェル130に送液された第2液体20を、第2ウェル130に形成された第2注入口131より小さい第2送液口132から流路110に送液する。第2送液機構520は、空気圧または液圧による圧力、検体処理チップ100を回転させることによる遠心力、または毛細管現象などによって、第2液体20を送液する。たとえば、第2送液機構520は、第2液体20を貯留する貯留部600に圧力を付与することによって、貯留部600内の第2液体20を、第2注入口131を介して流路110に送液する。図31の構成例では、第2注入口131にコネクタ400が取り付けられ、第2送液機構520と第2注入口131とが接続される。コネクタ400は、第2注入口131を封止する。また、第2送液機構520は、貯留部600の内部と流体的に接続される。第2送液機構520は、貯留部600の内部に圧力を供給して、貯留部600内の第2液体20を第2注入口131へ移動させる。第2液体20は、圧力によって、貯留部600、第2注入口131を介して、流路110内へ移動する。
設置部550は、検体処理チップ100に対応させた形状に形成され、検体処理チップ100を支持する。設置部550は、検体処理チップ100の流路との接続や、検体処理チップ100内での各種処理工程に用いる処理ユニットを設置するため、検体処理チップ100の上方および下方の少なくとも一方を開放するような構造を有する。設置部550は、たとえば検体処理チップ100の周縁部を支持する凹状あるいは枠状の構造とすることができる。検体処理チップ100がチップ保持具350を備える場合、設置部550は、検体処理チップ100が設置された状態のチップ保持具350を受け入れて支持するように構成される。ただし、チップ保持具350を用いる場合、検体処理チップ100をチップ保持具350に設置する作業が必要になる。図31の例では、設置部550は、検体処理チップ100の本体部105を直接支持するように構成されている。これにより操作者の作業を簡素化することができる。
送液装置500は、第1送液機構510および第2送液機構520による送液によって、流路110内に、第1液体10と第2液体20とを含む流体を形成する。すなわち、第1ウェル120から移動された第1液体10と、第2注入口131を介して移動された第2液体20とは、合流して同じ流路110内を流れる。第1液体10と第2液体20との送液に伴って、検体処理チップ100における検体処理の一部または全部が実施される。
本実施形態の検体処理チップ100の送液装置500は、設置部550に設置された検体処理チップ100における、第1注入口121と第2注入口131とを区別するための識別機構540を備える。識別機構540は、たとえば、発光するインジケーター、画面表示、画像やナビゲーション光の投影、音声、またはこれらの組み合わせにより、設置部550に設置された検体処理チップ100のうち、どの位置に第1液体10を注入すればよいかを操作者に識別させる。識別機構540は、検体処理チップ100中の第1ウェル120の位置を操作者に認識させる。
第1注入口121および第2注入口131が、第1送液口122および第2送液口132よりも大きい場合、操作者により注入場所の入れ間違いが起こりやすい。しかし、本実施形態の送液装置500では、上記の構成によって、第1注入口121と第2注入口131とを区別するための識別機構540によって、第1液体10の注入位置を他の第2注入口131から区別して認識することができる。そのため、操作者による液体注入位置の間違いを抑制することができる。以上の結果、検体処理チップへ液体を注入する際に、作業の煩雑化を抑制しつつ、操作者による液体注入位置の間違いを抑制することができる。
図31の構成例では、第1送液機構510は、第1ウェル120に圧力を付与するための第1圧力源511を含む。第2送液機構520は、貯留部600に圧力を付与するための第2圧力源521を含む。第1送液機構510と第2送液機構520とが別々に圧力源を備え、独立して圧力を付与できる。
第1圧力源511および第2圧力源521としては、たとえばプレッシャーポンプ、シリンジポンプ、ダイアフラムポンプなど、各種のポンプを用いることができる。第1送液機構510と第2送液機構520とが共通の圧力源を有していてもよい。
図31の構成例では、第1送液機構510は、第1圧力源511と第1ウェル120とを接続する圧力経路512を含む。第2送液機構520は、貯留部600と第2注入口131とを接続する送液管522を含む。第1送液機構510は、第1圧力源511の圧力を、圧力経路512を介して第1ウェル120に供給する。第2送液機構520は、第2圧力源521の圧力によって、第2液体20を貯留部600から送液管522を介して第2注入口131へ移動させる。
圧力経路512および送液管522は、配管部材によって構成される。圧力経路512による圧力の伝達は、ガス圧、空気圧、または液圧を媒体として行うことができる。たとえば、第1圧力源511は、不活性ガスや空気などを圧力経路512に送り込み、第1ウェル120内に加圧供給する。第1圧力源511は、第1液体10を加圧するための液媒体を第1ウェル120内に加圧供給してもよい。
図31に示すように、貯留部600には、様々な構成を採用することができる。貯留部600は、送液装置500の内部に配置されてもよいし、外部に配置されてもよい。たとえば、貯留部600aは、第2液体20を収容する液体容器610である。送液装置500は、液体容器610が設置される容器設置部505を備える。つまり、送液装置500は、第2液体20のボトルをそのまま利用して、検体処理チップ100への送液を行う。
また、図31の例では、貯留部600bが、第2液体20を収容する液体容器610であり、送液装置500は、外部の液体容器610と第2送液機構520とを接続するための外部接続部506を備える。
図31において、貯留部600cは、送液装置500内に設けられたチャンバである。第2液体20は、液体容器610からチャンバ内に移し替えられることにより、送液装置500にセットされる。
第1送液機構510は、生体由来の検体11を含む第1液体10を保持する第1ウェル120から、第1液体10を流路110に送液する。これにより、生体由来の検体11を装置内部に取り込むことなく、検体処理チップ100に設けられた第1ウェル120から直接、流路110に送液できる。その結果、異なる複数の検体処理チップ100に対して、同じ送液装置500による送液処理を繰り返し行う場合でも、検体11のコンタミネーションが発生することを防止できる。そして、操作者が第1ウェル120に検体11を含む第1液体10を注入する際にも、識別機構540によって液体注入位置の間違いを抑制することができるので、検体11の注入間違いを効果的に抑制することができる。
また、第1送液機構510は、第1液体10を保持する第1ウェル120aから第1液体10を流路110に送液し、検体処理チップ100を用いた検体検査の検査項目に応じた成分31を含む第3液体30を保持する第1ウェル120bから、第3液体30を流路110に送液する。これにより、検体検査の検査項目に応じた成分31を、送液装置500の送液管などを介することなく、検体処理チップ100に設けられた第1ウェル120から直接、流路110に送液できる。その結果、複数の検体処理チップ100に対して、同じ送液装置500による送液処理を繰り返し行う場合でも、検査項目に応じた成分31のコンタミネーションが発生することを防止できる。そして、操作者が第1ウェル120に検査項目に応じた成分31を含む第3液体30を注入する際にも、識別機構540によって液体注入位置の間違いを抑制することができるので、検査項目に応じた成分31の注入間違いを効果的に抑制することができる。
図31の構成例では、第2送液機構520は、共通の第2注入口131に対して接続された複数の貯留部600から、複数種類の第2液体20の各々を、第2注入口131を介して流路110に送液する。これにより、複数種類の第2液体20を共通の第2注入口131を介して検体処理チップ100の流路110に送液できる。その結果、第2注入口131の数が抑制できるので、操作者が第2注入口131を第1注入口121と間違えることを抑制することができる。
たとえば図32に示すように、第2送液機構520は、共通の第2注入口131に対するそれぞれの貯留部600の接続を切り替えるバルブ507を含み、バルブ507を切り替えることにより、複数種類の第2液体20の各々を、共通の第2注入口131を介して別々に流路110に送液する。
(識別機構)
図33~図35に示す例では、識別機構540は、設置部550に設置された検体処理チップ100における、第1注入口121の位置を示すための発光部541を含む。つまり、識別機構540は、インジケーターの点灯によって、操作者に第1注入口121の位置を識別させる。発光部541は、たとえばLEDなどの発光素子により構成することができる。発光部541は、第1注入口121を他の第2注入口131とは区別して認識できるように、検体処理チップ100における第1注入口121の配置位置に対応して設けられる。これにより、操作者は、設置部550に設置された検体処理チップ100の第1注入口121を、発光部541の光を手がかりに第2注入口131などの他の構造から識別することができる。そのため、操作者が外部から発光部541を視認するだけで、容易に第1注入口121を区別できるようになる。
図33の例では、発光部541は、設置部550の周囲の第1注入口121に対応する位置に配置されている。発光部541は、検体処理チップ100の周縁にそって、縦方向および横方向に並んで複数設けられている。複数の発光部541は、第1ウェル120と縦方向および横方向にそれぞれ並ぶ位置に設けられている。つまり、横方向に並ぶ発光部541が横方向の位置を表し、縦方向に並ぶ発光部541が縦方向の位置を表し、点灯する縦横の発光部541同士の交点位置によって、第1注入口121の位置を識別させることができる。これにより、第1液体10を注入すべき第1注入口121を操作者に分かり易く識別させることができる。各発光部541は、複数の点灯状態で発光できる構成でもよい。図33では、各発光部541は、第1の色による点灯A、第2の色による点灯Bと、消灯とを切り替え可能である。これにより、複数の第1注入口121を相互に識別できる。点灯状態は、発光色のほか、継続点灯と点滅とで区別可能であってもよい。
図34の例では、発光部541は、設置部550に設置された検体処理チップ100の下方で第1注入口121と重なる位置に配置されている。発光部541は、上方の検体処理チップ100の下面に向けて発光する。図34の場合、検体処理チップ100は、透明または透光性を有するものとする。これにより、図35に示すように、第1注入口121や、第2注入口131の直下の位置から、第1注入口121や、第2注入口131を光らせるように光を照射することができる。第1注入口121の直下に位置する発光部541を点灯させることによって、第1注入口121あるいは第1ウェル120を光らせて外部から視認する操作者に識別させることができる。図34の場合、第1液体10を注入すべき第1注入口121を有する第1ウェル120が光るため、容易かつ確実に、操作者に対象となる第1注入口121を認識させることができる。
図33および図35の例では、発光部541が、所定のピッチPRで間隔を隔てて配列されている。そのため、検体処理チップ100の第1注入口121、第2注入口131、回収用保持部160および排出口150が所定のピッチPRで配列される構成では、流路110の形状に応じて第1注入口121を有する第1ウェル120の配置位置が図示した位置とは異なる場合でも、点灯する発光部541を切り替えるだけで、確実に第1注入口121の位置を示すことができる。そのため、様々な種類の検体処理チップ100を同じ送液装置500で扱うことができる。
図36および図37に示す例では、識別機構540は、設置部550に設置された検体処理チップ100における、第1注入口121の配置を表示する表示部542を含む。表示部542は、たとえば設置部550の近傍に設けられる。図36では、表示部542は、設置部550に隣接する位置に設けられている。表示部542は、文字、図形、映像などの表示によって、第1注入口121の配置を操作者に識別させるように構成される。表示部542は、たとえば液晶ディスプレイなどにより構成できる。これにより、操作者が表示部542の表示を見るだけで、容易かつ確実に、第1液体10を注入すべき第1注入口121を操作者に認識させることができる。
図36の例では、検体処理チップ100に行番号(1番~n番)および列番号(A~F)が付されて、第1ウェル120が列方向(縦方向)に並んで配列されている。C列が第1液体10を保持する第1ウェル120a、B列が第3液体30を保持する第1ウェル120bである。表示部542は、列番号A~Fを表示するとともに、第1液体10を示す「S」の画像を列番号Cの上に表示し、第3液体30を示す「R」の画像を列番号Bの上に表示する。これにより、操作者は、C列の第1ウェル120aに第1液体10を注入し、B列の第1ウェル120bに第3液体30を注入すればよいことが一見して認識できる。
図37の例では、検体処理チップ100が複数の単位流路構造101を備えている。表示部542は、1つの単位流路構造101の画像を表示し、第1液体10を注入すべき第1ウェル120a、および第3液体30を注入すべき第1ウェル120bに対して、それぞれメッセージ付きの矢印を表示する。これにより、操作者は、表示部542の表示と設置部550上の検体処理チップ100とを見比べて、それぞれの第1ウェル120の位置を視覚的に認識できる。
この他、設置部550に設置した状態の検体処理チップ100の実物の撮像画像を表示して、操作者に第1ウェル120の位置を識別させてもよい。また、動画像によって、第1ウェル120の位置や、検体処理チップ100を用いた検体処理の手順などを表示してもよい。音声によるナビゲーションをさらに追加してもよい。
図33~図37に示した各構成例では、検体処理チップ100が複数の第1ウェル120を有する。第1送液機構510は、複数の第1ウェル120の各々に貯留された複数種類の第1液体10から、複数種類の第1液体10の各々を流路110に送液する。そして、識別機構540は、図33~図37に示した各構成例のように、複数の第1ウェル120の各々を操作者に互いに識別させるように構成されている。これにより、第1液体10を注入すべき第1注入口121が複数ある場合でも、操作者が、識別機構540によって第1注入口121を第2注入口131などの他の構造から識別しつつ、各々の第1注入口121を互いに区別することができる。これにより、複数の第1注入口121があって間違いやすい状況でも、第1注入口121に注入する液体を間違えることを抑制できる。
(送液装置の構成例)
次に、送液装置500の具体的な装置構成例を示す。図38では、送液装置500は、設置部550と、送液部560と、送液部560を制御する制御部570とを備える。
送液部560は、検体処理チップ100に各種液体を送液する機能を有する。すなわち、送液部560は、第1送液機構510、第2送液機構520を少なくとも含む各送液機構を備えている。
制御部570は、検体処理チップ100の構造に応じた所定の1または複数の処理工程が実施されるように、検体処理チップ100内に検体および試薬などの各種液体を供給し、流路110に順次移送するように送液部560を制御する。
送液部560の制御は、たとえば、液体の供給経路に設けた流量センサや圧力センサなどにより、送液部560の供給圧力を制御することにより行う。図38では、送液部560は、送液する液体のフローレートを計測する流量センサ561を備える。
図38の構成では、流量センサ561は、送液を行う送液機構(第1送液機構510、第2送液機構520など)にフィードバックする。送液機構は、流量センサ561からのフィードバックに応じて、圧力を制御する。
流量センサ561は、制御部570にフィードバックしてもよい。制御部570は、流量センサ561により計測されたフローレートに基づいて、液体を移送するための送液部560の圧力を制御する。
各種処理工程に用いる処理ユニット590が送液装置500に設置される場合、制御部570がそれらの処理ユニット590を制御してもよい。各種処理工程に用いるユニットは、たとえば、液体の温度を制御するヒーターユニットまたは冷却ユニット、液体に磁力を作用させる磁石ユニット、液体の撮像を行うカメラユニット、液体中の検体や標識の検出を行う検出ユニットなどである。これらの処理ユニット590は、検体処理チップ100の流路110において処理工程を実施する際に作動するように構成される。
この他、送液装置500は、表示部571、入力部572、および、読取部573などを備えることができる。表示部571には、制御部570により、送液装置500の動作に応じた所定の表示画面が表示される。表示部571は、識別機構540としての表示部542と共通であってもよく、表示部571に第1注入口121の位置を表示してもよい。液体注入位置の表示用のサブの表示部542と、送液装置500のメインの表示部571とを別々に設けてもよい。送液装置500が外部のコンピュータ(図示せず)と接続され、コンピュータの表示部上に画面表示をしてもよい。入力部572は、たとえばキーボードなどからなり、情報入力を受け付ける機能を有する。読取部573は、たとえばバーコードや2次元コードなどのコードリーダ、RFIDタグなどのタグリーダからなり、検体処理チップ100に付与された情報を読み取る機能を有する。読取部573は、対象成分を含んだ検体を収容する検体容器(図示せず)などの情報も読み取り可能である。
このような装置構成により、制御部570が送液部560を制御して、検体処理チップ100に対象成分を含む検体および試薬を、検体処理チップ100内に送液させる。これにより、検体処理チップ100において、検体処理チップ100の流路構成に応じた1または複数の処理工程が実施される。
図39は、送液装置500の外観を示した模式図である。図39において、送液装置500は、設置部550に対応する蓋580を備える。蓋580は、装置本体501と接続されている。蓋580は、装置本体501から取り外し可能に取り付けられてもよい。箱状の装置本体501の上面に、設置部550が配置されている。蓋580は、閉じられることにより設置部550上の検体処理チップ100を覆うとともに、開かれることにより検体処理チップ100を設置部550上で外部に露出させる。
蓋580は、第1送液機構510および第2送液機構520と、検体処理チップ100上の第1注入口121および第2注入口131の各々と、を流体的に接続するためのコネクタ400を含む。すなわち、コネクタ400は、検体処理チップ100の第1注入口121との接続口や、第2注入口131との接続口を含んでいる。設置部550に設置された検体処理チップ100の第1ウェル120および第2注入口131に対して、それぞれコネクタ400を接続することにより、第1送液機構510による第1ウェル120への圧力供給、および第2送液機構520による第2注入口131への第2液体20の送液が可能となる。
コネクタ400は、蓋580に着脱可能に取り付けられてもよいし、蓋580に固定されていてもよい。コネクタ400は、1つの第1注入口121または第2注入口131と接続されるように、複数設けられていてもよい。
図39では詳細な図示を省略するが、単位流路構造101を複数チャンネル備えた検体処理チップ100が、設置部550にセットされる。コネクタ400は、蓋580の下面に設けられている。コネクタ400は、複数チャンネルの単位流路構造101の各々に設けられた第1注入口121および第2注入口131に一括で接続可能なマニホールドとして構成されている。つまり、コネクタ400は、検体処理チップ100のチャンネル数分の複数の第1注入口121との接続口、および、チャンネル数分の複数の第2注入口131との接続口を、一体で含んでいる。蓋580を閉じることにより、コネクタ400と、複数チャンネルの単位流路構造101の各々に設けられた第1注入口121および第2注入口131とが、一括で接続される。
このように、図39の例では、蓋580は、設置部550に対して開閉可能に構成され、設置部550に対して蓋580が閉じられることにより、コネクタ400が第1注入口121および第2注入口131の各々と接続される。図39の例では、蓋580は、ヒンジ581により装置本体501と接続され、ヒンジ581を中心に回動することにより開閉される。
図40では、識別機構540は、設置部550に設置された検体処理チップ100の第1注入口121を露出するように蓋580の一部に設けられた開口窓部582を含む。つまり、蓋580が検体処理チップ100を覆った状態で、開口窓部582が、第1注入口121の形成位置だけを外部に露出させる。第2注入口131、回収用保持部160および排出口150は、蓋580により覆われたままとなる。操作者は、蓋580を閉じたままで、注入器具700を用いて、開口窓部582を介して第1注入口121に液体を注入することができる。これにより、蓋580によって検体処理チップ100を覆った状態で、開口窓部582から第1注入口121を露出させることにより、第1液体10を注入すべき第1注入口121を操作者に認識させることができる。また、第2注入口131などの他の構造を蓋580によって覆うことにより、操作者が誤って第1注入口121以外に第1液体10を注入してしまうことを防ぐことができる。
図40の例では、識別機構540は、開口窓部582を開閉するための開閉部材583を含む。開閉部材583によって、第1液体10を注入する時だけ開口窓部582を開放することができる。その結果、第1注入口121を露出させる開口窓部582を設ける場合でも、外部から異物などが入り込むのを防ぐことができる。
たとえば図41に示すように、開閉部材583は、一端部が蓋580に対して回動可能に取り付けられ、開閉部材583を回動させることにより開口窓部582を開閉することができる。このほか、開閉部材583は、開口窓部582を開閉するようにスライド移動するシャッタ構造を有していてもよい。開口窓部582に開閉部材583を設けずに、開放されたままにしてもよい。
図42は、流路110、第1注入口121を有する第1ウェル120および第2注入口131を含んだ単位流路構造101を複数チャンネル備えた検体処理チップ100に送液する送液装置500の構成例を示している。図42では、検体処理チップ100が12チャンネル構成となっており、12個の単位流路構造101を備える。
図42の例では、第1送液機構510は、多連のシリンジ511aと、多連のシリンジ511aを一括して駆動するモータ511bとを含むシリンジポンプからなる第1圧力源511を備えている。第1送液機構510は、第1圧力源511の各シリンジ511aと、それぞれ各チャンネルの第1ウェル120とを個別に接続する複数の(12本)の圧力経路512を含む。各々の圧力経路512は、多方弁からなるバルブ507aを介して、チャンネル毎に設けられた複数の第1ウェル120と接続されている。第1送液機構510は、バルブ507aの切り替えと、第1圧力源511の駆動とにより、複数チャンネルの単位流路構造101の各第1ウェル120に圧力を一括で供給する。図42では、第1圧力源511のシリンジ511aはエア経路と接続されており、第1圧力源511は空気圧を供給する。
第2送液機構520は、多連のシリンジ521aと、多連のシリンジ521aを一括して駆動するモータ521bとを含むシリンジポンプからなる第2圧力源521を備えている。第2送液機構520は、第2圧力源521の各シリンジ521aと、それぞれ各チャンネルの第2注入口131とを個別に接続する複数の(12本)の送液管522を含む。第2送液機構520は、バルブ507bを含む外部接続部506を介して各貯留部600と接続されている。第2送液機構520は、バルブ507bの切り替えによって送液する第2液体20を切り替え、第2圧力源521の駆動とバルブ507cの切り替えにより、複数チャンネルの単位流路構造101の各第2注入口131に選択した第2液体20を一括で送液する。
また、図42では、各チャンネルの排出口150から流体を一括して回収容器611へ送液可能な第3送液機構530が設けられている例を示している。
(検体処理チップとの接続構造)
図43は、設置部550に設置された検体処理チップ100と、設置部550に対応する蓋580に設けられたコネクタ400とを示す。図43は、たとえば図42に示した12チャンネルの検体処理チップ100における単位流路構造101の1つを示している。マニホールド型のコネクタ400には、複数の送液管522および圧力経路512が設けられている。蓋580を閉じた状態では、送液管522および各圧力経路512と、検体処理チップ100の第2注入口131および各第1注入口121とが、コネクタ400を介して一括で接続される。
すなわち、図43の例では、送液装置500は、第1注入口121と接続する第1コネクタ400aと、第2注入口131と接続する第2コネクタ400bとを含む蓋580を備える。第1注入口121は、第1コネクタ400aと接続するように構成されており、第2注入口131は、第2コネクタ400bと接続するように構成されている。このように構成することで、ウェルとコネクタを接続する際に、多少の位置ずれを許容することができるため、ウェルとコネクタの位置づけを容易に行うことができる。
コネクタ400は、バルブ507または流量センサ561を備えていてもよい。図43のコネクタ400内には、バルブ507および流量センサ561が設けられている。
コネクタ400と第1ウェル120の上面との間、および、コネクタ400と第2ウェル130の上面との間は、シール部材401によりシールされる。
図43のように、蓋580あるいはコネクタ400には、検体処理に用いる処理ユニット590を設けることができる。また、検体処理チップ100が設置される設置部550にも、処理ユニット590を設けることができる。これらの処理ユニットは、流路110において行われる検体処理の内容に応じて設けられる。コネクタ400および設置部550に処理ユニット590が設けられなくてもよい。
(送液の例)
次に、送液装置500により実施される本実施形態の送液方法の例について説明する。図44では、エマルジョン状態の流体を形成する工程を行う送液の例を示す。つまり、送液により、流路110内で、第2液体20を分散媒とし、第1液体10を分散質とするエマルジョン状態の流体を形成する。また、図44は、エマルジョン形成に用いられる検体処理チップ100を示す。
第1ウェル120に第1液体10が保持される。第2注入口131は、送液装置500側の貯留部600に接続される。貯留部600内に第2液体20が収容されている。
エマルジョン状態の流体を形成する工程を行う場合、第2液体20の流路110への送液を開始した後、第1液体10の流路110への送液を開始し、第2液体20の流れ中に第1液体10を導入することにより、流路110内で、第2液体20を分散媒とし、第1液体10を分散質とするエマルジョン状態の流体を形成する。これにより、第2液体20の流れの中に第1液体10を導入することにより、効率よくエマルジョン状態を形成できる。
送液装置500は、流路110内で、第2液体20を分散媒とし、第1液体10を分散質とするエマルジョン状態の流体を形成するように、第1送液機構510により第1ウェル120から第1液体10を送液し、第2送液機構520により第2ウェル130から第2液体20を送液する。これにより、検体処理チップ100を用いて、第2液体20中に第1液体10の液滴50を分散させたエマルジョン状態を形成することができる。ここで、第1液体10の注入位置を間違えて、たとえば第1液体10と第2液体20との両方が第2注入口131から流入すれば、エマルジョン状態を形成できなくなる可能性がある。そのため、識別機構540によって、第1液体10の注入位置の間違えを容易に予防することができる本実施形態の送液装置500は、エマルジョン状態を形成する処理を行う検体処理チップ100の送液に適している。
図45は、第2液体20中に第1液体10の液滴50を形成するための流路110の例を示している。図44および図45の例では、第1液体10が生体由来の検体11を含み、第2液体20がオイル21である。第1送液機構510は、生体由来の検体11を含む第1液体10を第1ウェル120への圧力付与により流路110に送液し、第2送液機構520は、オイル21である第2液体20を貯留部600への圧力付与により流路110に送液する。送液によって、流路110内で第2液体20中に第1液体10が分散され、液滴50となる。つまり、第2液体20が分散媒となり、第2液体20中に液滴50として存在する第1液体10が分散質となるエマルジョンが形成される。
図45では、流路110は、互いに交差する第1チャネル111aと第2チャネル111bとを備える。第1チャネル111aと第2チャネル111bとを備える場合、流路110に設けられた互いに交差する第1チャネル111aと第2チャネル111bとに第1液体10と第2液体20とをそれぞれ送液することによって、エマルジョン状態の流体を形成する。これにより、第1チャネル111aと第2チャネル111bとの交差部分において第2液体20の流れによるせん断力を第1液体10に対して付与することにより、第2液体20中に第1液体10の液滴50を分散させたエマルジョン状態を効率的に形成することができる。
図45では、検体処理チップ100は、第1チャネル111aに送液された第1液体10と、第2チャネル111bに送液された第2液体20とによって、第2液体20を分散媒とし、第1液体10を分散質とするエマルジョン状態の流体を形成するように構成されている。第1チャネル111aと第2チャネル111bとの交差部分112において、第1液体10の流れに対して横切る方向に第2液体20が流れる。第1液体10は、交差部分112において第2液体20の流れによって生じたせん断力によって、液滴状に分断される。その結果、第2液体20中に第1液体10の液滴50が形成される。
このように、第1チャネル111aと第2チャネル111bとの交差部分112において第2液体20の流れによるせん断力を第1液体10に対して付与することにより、第1液体10の多数の液滴50を連続的に効率よく生成して、エマルジョン状態を形成することができる。これにより、検体中の成分を1単位毎に分割して液滴50中に収容することにより、1単位成分ごとの検体処理を検体処理チップ100で実施できる。ここで、第1液体10の注入位置を間違えて、たとえば第1液体10と第2液体20との両方が第2チャネル111bから流入すれば、交差部分112においてエマルジョン状態を形成できなくなる可能性がある。そのため、識別部180によって、第1液体10の注入位置の間違えを容易に予防することができる本実施形態の検体処理チップ100は、エマルジョン状態を形成する検体処理に適している。
送液装置500は、第1送液機構510および第2送液機構520により、流路110に設けられた互いに交差する第1チャネル111aと第2チャネル111bとに第1液体10と第2液体20とをそれぞれ送液することによって、流路110内で、第2液体20を分散媒とし、第1液体10を分散質とするエマルジョン状態の流体を形成する。これにより、第1チャネル111aと第2チャネル111bとの交差部分112において第2液体20の流れによるせん断力を第1液体10に対して付与することにより、第2液体20中に第1液体10の液滴50を分散させたエマルジョン状態を効率的に形成することができる。
図45では、第1チャネル111aと第2チャネル111bとは、互いに直交している。また、第2チャネル111bが、第1チャネル111aの両側に一対設けられている。一対の第2チャネル111bにおける第2液体20の流れが、第1液体10の流れを挟み込むように交差部分112に流れ込むので、液滴50を形成するためのせん断力が効率的に作用する。第1チャネル111aと第2チャネル111bとの交差角度は、せん断力を大きくするために90度に近いことが好ましく、例えば90度±10度の範囲としてよい。交差角度は、たとえば60度以上120度以下の範囲でもよいし、45度以上135度以下の範囲でもよい。第1液体10の液滴50と第2液体20との混合液は、交差部分112から第1チャネル111aとは反対側に延びる第3チャネル111cへ向けて流れる。
なお、交差部分112としては、図46に示すように、3つのチャネル111によりT字状に形成されていてもよい。図46の場合、第1チャネル111aから第1液体10が流入し、第2チャネル111bから第2液体20が流入する。第2液体20の流れのせん断力により、第1液体10が第2液体20中で液滴となり、エマルジョンが形成される。
流路110内に第1液体10を流す際には、たとえば、第1液体10を、0.1μL/分以上5mL/分以下の流量で検体処理チップ100内の流路110に導入する。流量は、この範囲内で一定でもよいし、変動してもよい。これにより、このように構成すれば、0.1μL/分以上5mL/分以下の高い流量で第1液体10を送液することにより、検体処理チップ100による検体処理を効率的に行うことができる。好ましくは、第1液体10を、0.1μL/分以上1mL/分以下の流量で検体処理チップ100内の流路110に導入する。これにより、0.1μL/分以上1mL/分以下の高い流量で第1液体10を送液することにより、IVDにおける高いスループットを実現することができる。より好ましくは、第1液体10を、0.1μL/分以上200μL/分以下の流量で検体処理チップ100内の流路110に導入する。これにより、エマルジョン形成の際に、安定して液滴を形成することが可能である。
たとえば、エマルジョン状態の形成では、第1液体10の分散質を600個/分以上6億個/分以下の割合で形成する。送液装置500は、第1送液機構510および第2送液機構520により、第1液体10の分散質を600個/分以上6億個/分以下の割合で形成する。これにより、600個/分以上6億個/分以下の高効率で多数の分散質を効率よく形成できる。多数の分散質を形成するには、分散質である第1液体10の流量を高くするのに加えて、分散媒である第2液体20の流量をさらに高くする必要がある。第2送液機構520により貯留部600から第2液体20を直接流路110に送液する本実施形態の送液方法および送液装置500では、検体処理チップ100の構造上の制約を受けにくく、第2液体20の液量を確保しやすい点、および第2液体20の流量を高くしやすい点で好適である。好ましくは、エマルジョン状態の形成では、第1液体10の分散質を3000個/分以上1800万個/分以下の割合で形成する。送液装置500は、好ましくは、第1送液機構510および第2送液機構520により、第1液体10の分散質を3000個/分以上1800万個/分以下の割合で形成する。これにより、3000個/分以上1800万個/分以下の高効率で多数の分散質を効率よく形成できる。さらに好ましくは、エマルジョン状態の形成では、第1液体10を分散質を5000個/分以上900万個/分以下の割合で形成する。
また、エマルジョン状態の形成では、たとえば平均粒径が0.1μm以上500μm以下の分散質を第1液体10により形成する。送液装置500は、第1送液機構510および第2送液機構520により、平均粒径が0.1μm以上500μm以下の分散質を第1液体10により形成する。平均粒子径は、光散乱法により測定された個数平均径を意味する。これにより、平均粒径が0.1μm以上500μm以下の粒径の揃ったエマルジョンを効率よく形成することができる。好ましくは、エマルジョン状態の形成では、平均粒径が0.1μm以上200μm以下の分散質を第1液体10により形成する。このように構成すれば、バイオ測定に適した平均粒径が200μm以下の分散質のエマルジョンを効率よく形成することができる。より好ましくは、エマルジョン状態の形成では、平均粒径が0.1μm以上100μm以下の分散質の液滴を第1液体10により形成する。
図47は、検体を含んだ第1液体10の液滴50に対する検体処理を行う検体処理チップ100の例を示す。図47では、第1液体10として供給される液滴50が、検体中の対象成分としてDNAを含み、かつ、試薬はDNAをPCR(Polymerase Chain Reaction)によって増幅するための試薬を含む。増幅するための試薬は、DNAに応じたプライマーやポリメラーゼなどを含む。
図47の例では、液体中に液滴50が存在するエマルジョン状態の流体である第1液体10を、第1ウェル120へ付与する圧力により流路110に送液する。また、流路110中でエマルジョンである第1液体10を搬送するための第2液体20を、貯留部600に付与する圧力により、第2注入口131から流路110に送液する。PCR工程を行う場合、第1液体10の流路110への送液を行った後、第2液体20の流路110への送液を開始し、第1液体10を第2液体20により押し出すように搬送する。流路110内で、第1液体10が第2液体20により搬送される。これにより、第1液体10の分散質が流路110に滞留したり付着したりして残留するのを抑制できる。
図47の場合、図43に示した処理ユニット590として、流路110でDNAをPCRにより増幅するためのヒーター591が用いられる。ヒーター591は、検体処理チップ100を加温する。流路110は、ヒーター591により形成される複数の温度ゾーンTZ1~TZ3を複数回経由するような構造を有する。温度ゾーンTZは、3つ以外の他の数でもよい。チャネル111が各温度ゾーンTZ1~TZ3を経由する回数は、サーマルサイクル数に対応する。
第1ウェル120から流路110へ導入された第1液体10は、第2注入口131から送液される第2液体20に押されて、流路110中を所定の速度で移動する。第1液体10中で分散する液滴50内のDNAは、流路110を流れる過程で増幅される。増幅されたDNAを含む液滴は、回収用保持部160に回収される。多数のDNA分子に対してまとめてPCR処理を行う場合と異なり、液滴50中で増幅処理を行うことによって、1分子単位で区分された個々のDNAを、個別に増幅することができる。
図48では、エマルジョン状態の第1液体10を解乳化する工程を行う送液の例を示す。たとえばエマルジョン形成の処理の後に、形成されたエマルジョン中の液滴50を破壊する。液滴50の破壊により、第1液体10が解乳化される。図48は、解乳化に用いられる検体処理チップ100を示す。
図48の例では、第1ウェル120は、生体由来の検体を含むエマルジョン状態の第1液体10を保持するための第1ウェル120aを含み、流路110は、第1液体10と、第1液体10を解乳化するための第2液体20とを混合するためのチャネル111aを含む。第1液体10が、オイル中に水相の液滴50が存在するエマルジョンである場合、解乳化するための第2液体20には、アルコールや界面活性剤などを含む1または複数種類のエマルジョン破壊試薬が用いられる。第1液体10と第2液体20とは、チャネル111aにおいて合流し、チャネル111aを通過する過程で攪拌され、十分に混合される。第1液体10と第2液体20との混合によって、液滴50の界面が破壊され、液滴50内に収容されていた成分が流路110中に取り出される。図48の例では、解乳化によって、検体処理チップ100内で第1液体10に含まれる液滴50を破壊する処理を行える。ここで、第1液体10の注入位置を間違えて、たとえば第1液体10と第2液体20とがチャネル111aで十分に混合されない場合、解乳化が阻害される可能性がある。そのため、識別部180によって、第1液体10の注入位置の間違えを容易に予防することができる本実施形態の検体処理チップ100は、解乳化を行う検体処理に適している。
図48の例において、第1送液機構510は、エマルジョン状態の流体である第1液体10を、第1ウェル120から流路110に送液し、第2送液機構520は、第1液体10を解乳化するための第2液体20を、貯留部600から第2注入口131を介して流路110に送液する。第1送液機構510および第2送液機構520による送液によって、流路110内に、第1液体10と第2液体20との混合液が形成される。これにより、解乳化によって、検体処理チップ100内で第1液体10に含まれる液滴50を破壊する処理を行える。ここで、第1液体10の注入位置を間違えて、たとえば第1液体10と第2液体20とがチャネル111で十分に混合されない場合、解乳化が阻害される可能性がある。そのため、識別機構540によって、第1液体10の注入位置の間違えを容易に予防することができる本実施形態の送液装置500は、解乳化処理を行う検体処理チップ100の送液に適している。
図48の例では、第1液体10は、オイル21中に、生体由来の検体11、および検体11と結合する担体を含む分散質が存在するエマルジョン状態の流体である。これにより、1単位成分ごとに検体処理が行われ、担体に担持された成分が液滴50の状態で存在する第1液体10から、解乳化により液滴50内の成分を取り出して、流路110中でまとめて処理することができるようになる。
図48の例では、さらに、解乳化された第1液体10と、標識物質32とを反応させる工程を行う。図48の例では、第1ウェル120は、検体を検出するための標識物質32を含む第3液体30を保持するための第1ウェル120bを含む。流路110は、第2液体20との混合により解乳化された第1液体10と、第3液体30とを混合するためのチャネル111を含む。第2液体20との混合により解乳化された第1液体10と、第1液体10に含まれる検体11を検出するための標識物質32を含む第3液体30とが、チャネル111内で混合される。混合により、検体11中に含まれる対象成分と標識物質32とが結合され、標識物質32に基づく検出が可能となる。
標識物質32は、検体11中の対象成分と特異的に結合し、検出器により測定可能な物質である。標識としては、たとえば、酵素、蛍光物質、放射性同位元素などである。標識物質32は、たとえば、対象成分であるDNAに相補的なDNAからなるプローブに、蛍光物質を結合させたものである。
これにより、1単位成分ごとに検体処理が行われた検体11中の成分を標識物質32により標識する処理を、流路110中で行うことができる。なお、標識物質32は、ターゲットとなる成分によって異なるため、送液装置500側の貯留部600ではなく検体処理チップ100の第1ウェル120bに第3液体30を保持させることによって、複数の検体処理チップ100に対する送液を同じ送液装置500により行う場合の標識物質32のコンタミネーションを防止できる。一方、第1液体10を保持するための第1ウェル120aに加えて第3液体30を保持するための第1ウェル120bを設けることによって、第1液体10および第3液体30の注入位置が間違え易くなるのに対し、本実施形態では、識別部180によって、操作者が注入位置を間違えるのを抑制できる。
また、図48の例において、第1送液機構510は、検体処理チップ100に設けられた複数の第1ウェル120のいずれかに保持された第3液体30を、流路110に送液する。送液装置500は、第1送液機構510および第2送液機構520による送液によって、第2液体20との混合により解乳化された第1液体10と、第1液体10に含まれる検体を検出するための標識物質を含む第3液体30とを、流路110内で混合する。
これにより、1単位成分ごとに検体処理が行われた検体11中の成分を標識物質32により標識する処理を、検体処理チップ100の流路110中で行うことができる。なお、標識物質32は、ターゲットとなる成分によって異なるため、送液装置500側の貯留部600ではなく検体処理チップ100の第1ウェル120に第3液体30を保持させることによって、複数の検体処理チップ100に対する送液を同じ送液装置500により行う場合の標識物質32のコンタミネーションを防止できる。一方、検体処理チップ100が複数の第1ウェル120を備える場合、第1液体10および第3液体30の注入位置が間違え易くなるのに対し、本実施形態では、識別機構540によって、操作者が注入位置を間違えるのを抑制できる。
図48では、接続部分140aおよび接続部分140bから、第1液体10および第3液体30がそれぞれ流路110内に送液され、標識処理を行うための幅広のチャネル111bで互いに混合される。対象成分と標識物質との結合を促進するため、流路110の外部から熱や電界、磁界などを作用させてもよい。第1液体10と第3液体30とは、チャネル111bにおいて混合される。エマルジョン破壊試薬は、接続部分140cから送液される。
[検体処理チップを用いたアッセイの例]
次に、検体処理チップ100を用いた具体的なアッセイの例を説明する。
(エマルジョンPCRアッセイ)
上述の送液装置500と検体処理チップ100とを用いてエマルジョンPCRアッセイを実施する例を説明する。
図49は、エマルジョンPCRアッセイのフローの例を示す。図50は、エマルジョンPCRアッセイにおける反応の進行過程を説明する図である。
ステップS1において、前処理により、血液等の試料からDNAが抽出される(図50(A)参照)。前処理は、専用の核酸抽出装置を用いて行ってもよいし、送液装置500に前処理機構を設けてもよい。
ステップS2において、抽出されたDNAは、Pre-PCR処理によって増幅される(図50(A)参照)。Pre-PCR処理は、前処理後の抽出液に含まれるDNAを、後続するエマルジョン作成処理が可能となる程度に予備増幅する処理である。Pre-PCR処理では、抽出されたDNAと、ポリメラーゼやプライマーを含むPCR増幅用の試薬とが混合され、サーマルサイクラによる温度制御によって、混合液中のDNAが増幅される。サーマルサイクラは、混合液に対して、複数の異なる温度に変化させる1つのサイクルを複数回繰り返すサーマルサイクル処理を行う。
ステップS3は、対象成分である核酸(DNA)と、核酸の増幅反応のための試薬と、核酸の担体との混合液を含む液滴を分散質として分散媒中に形成するエマルジョン形成工程である。核酸の増幅反応のための試薬は、DNAポリメラーゼなどのPCRに必要な物質を含んでいる。ステップS3において、磁性粒子やポリメラーゼ等を含む試薬とDNAとを包含するエマルジョンが形成される(図50(B)参照)。ステップS3では、磁性粒子やポリメラーゼ等を含む試薬とDNAとの混合液を内部に含む液滴が形成され、多数の液滴からなる分散質が分散媒中に分散される。液滴内に閉じ込められる磁性粒子は、表面に核酸増幅用のプライマーが付与されている。液滴は、磁性粒子とターゲットDNA分子とが液滴内にそれぞれ1個程度含まれるように形成される。分散媒は混合液に対して非混和性を有する。この例では、混合液は水系であり、分散媒は油系である。分散媒は、たとえば、オイルである。
ステップS4は、エマルジョン形成工程により形成された液滴中の核酸(DNA)を増幅するエマルジョンPCR工程である。ステップS4において、サーマルサイクラによる温度制御によって、エマルジョンの各液滴内で、DNAが磁性粒子上のプライマーと結合し、増幅される(エマルジョンPCR)(図50(C)参照)。これにより、個々の液滴内で、ターゲットDNA分子が増幅する。すなわち、各液滴内で核酸の増幅産物が形成される。増幅された核酸は、液滴内でプライマーを介して担体に結合する。
ステップS5は、エマルジョンPCR工程による核酸(DNA)の増幅産物を担持した担体(磁性粒子)を含む液滴を破壊するエマルジョンブレーク工程である。言い換えると、ステップS5は、エマルジョンPCR工程後のエマルジョン状態の流体を解乳化する工程である。ステップS4において磁性粒子上でDNAを増幅後、ステップS5において、エマルジョンが破壊され、増幅されたDNAを含む磁性粒子が液滴から取り出される(エマルジョンブレーク)。エマルジョンの破壊には、アルコールや界面活性剤などを含む1または複数種類のエマルジョン破壊試薬が用いられる。
ステップS6は、エマルジョンブレーク工程における破壊により液滴から取り出された担体(磁性粒子)を集める洗浄工程である。ステップS6において、液滴から取り出された磁性粒子は、BF分離工程により洗浄される(1次洗浄)。BF分離工程は、増幅されたDNAを含む磁性粒子を磁力によって集磁した状態で洗浄液中を通過させることにより、磁性粒子に付着した不要な物質を除去する処理工程である。1次洗浄工程では、たとえば、アルコールを含む洗浄液が用いられる。アルコールは、磁性粒子上の油膜を除去し、かつ、増幅された二本鎖DNAを一本鎖に変性させる。
ステップS7は、洗浄工程により集められた担体(磁性粒子)上の増幅産物と標識物質とを反応させるハイブリダイゼーション工程である。洗浄後、ステップS7において、磁性粒子上で一本鎖に変性したDNAが、検出用の標識物質とハイブリダイズされる(ハイブリダイゼーション)(図50(D)参照)。標識物質は、たとえば、蛍光を発する物質を含む。標識物質は、検出対象のDNAに特異的に結合するように設計されている。
ステップS8において、標識物質と結合した磁性粒子は、BF分離工程により洗浄される(2次洗浄)。2次BF分離工程は、1次BF分離工程と同様の処理により行われる。2次洗浄工程では、たとえば、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)が洗浄液として用いられる。PBSは、DNAと結合しなかった未反応の標識物質(磁性粒子に非特異的に吸着している標識物質を含む)を除去する。
ステップS9において、ハイブリダイズされた標識物質を介して、DNAが検出される。DNAは、たとえば、フローサイトメーターで検出される。フローサイトメーターにおいて、標識物質と結合したDNAを含む磁性粒子がフローセルを流れ、磁性粒子にレーザー光が照射される。照射されたレーザー光によって発せられた標識物質の蛍光が検出される。
DNAは、画像処理によって検出されてもよい。たとえば、標識物質と結合したDNAを含む磁性粒子が平板スライド上に分散され、分散された磁性粒子がカメラユニットにより撮像される。撮像された画像に基づいて、蛍光を発している磁性粒子数がカウントされる。
以下では、エマルジョンPCRアッセイを行うための流路110の構成例および送液方法の例を示す。以下に示す各流路110は、図51に示すように単一の検体処理チップ100に形成されていてもよいし、図44、図47および図48などに示したように、別々の検体処理チップ100に形成されていてもよい。異なる処理工程を実施するための流路110が単一の検体処理チップ100に形成されている場合、送液装置500は、単一の検体処理チップ100で複数の処理工程をまとめて実施することができる。異なる処理工程を実施するための流路110が形成された複数の検体処理チップ100を用いる場合、処理工程の順序に沿って、1番目の検体処理チップ100への送液処理を実施し、処理後の試料を2番目の検体処理チップ100の第1ウェル120へ注入し、2番目の検体処理チップ100への送液処理を実施し、3番目以降も同様にする。このように検体処理チップ100を順次交換して別々の検体処理工程を実施することにより、一連のエマルジョンPCRアッセイを実施することができる。
〈Pre-PCR〉
図52は、Pre-PCR処理を行う流路の構成例を示す。流路110Aは、チャネル111と、試薬や検体を注入する接続部分140aおよび140bと、液体を排出する接続部分140cとを有する。チャネル111は、液体の流速制御のため、たとえば菱形に成形されている。
流路110Aは、たとえばポリカーボネートなどの耐熱性の高い材料により形成される。チャネル111の高さは、たとえば、50μm~500μmに形成される。
たとえば、第1送液機構510により、第1ウェル120aに接続する接続部分140aから、前処理で抽出されたDNAが第1液体10として注入され、第1ウェル120bに接続する接続部分140bからPCR増幅用試薬が第1液体10として注入される。DNAと試薬の混合液は、チャネル111を流れる過程で、ヒーター591により温度が制御される。温度制御によって、DNAと試薬が反応し、DNAが増幅される。増幅されたDNAを含む液体は、接続部分140cを介して、隣接する流路110または回収用保持部160に移送される。
〈エマルジョン形成〉
図53は、エマルジョン形成処理を行う流路110Bの構成例を示す。流路110Bは、チャネル111と、検体や試薬等の液体が注入される接続部分140a、140b及び140cと、液体が排出される接続部分140dとを有する。チャネル111は、少なくとも2つのチャネルが交差する交差部分112を有する。交差部分112を形成する各チャネルの幅は、数十μmである。本実施例では、チャネルの幅は20μmである。なお、流路110Bには、接続部分140b又は140cのいずれかのみが設けられてもよい。
流路110Bのチャネル111の高さは、たとえば10μm~20μmである。オイルに対する濡れ性を良くするため、たとえば、チャネル111の壁面は疎水性の材料やフッ素により処理されている。流路110Bの材料は、たとえばPDMSやPMMA等である。
たとえば、第1送液機構510により、Pre-PCRで増幅されたDNAを含む第1液体10が、第1ウェル120aから接続部分140bへ送液される。第1送液機構510により、磁性粒子とPCR増幅用の試薬とを含む第3液体30が、第1ウェル120bから接続部分140cへ送液される。接続部分140bと140cからそれぞれ注入された液体は、チャネル111中で混合され、交差部分112に流入する。磁性粒子の粒径は、たとえば、0.5μm-3μmである。接続部分140bおよび140cに送液するために、第1送液機構510の第1圧力源511は、圧力P(1000mbar≦P≦10000mbar)を付加する。
たとえば、第2送液機構520により、エマルジョン形成用のオイルである第2液体20が、第2注入口131と接続する接続部分140aへ送液される。注入されたオイルは、チャネル111で複数の経路に分岐され、分岐された複数経路から交差部分112に流入する。接続部分140aにオイルを送液するために、第2送液機構520の第2圧力源521は、圧力P(1000mbar≦P≦10000mbar)を付加する。
図45に示したように、第1液体10の混合液は、交差部分112においてオイルによって挟まれることにより生じたせん断力によって、液滴状に分断される。分断された液滴が交差部分112に流入したオイルに包まれることで、エマルジョンが形成される。エマルジョンとなった試料流は、接続部分140dを介して、隣接する流路110または回収用保持部160に移送される。
たとえば、DNAと試薬の混合液は、0.4μL/min~7μL/minのフローレートで交差部分112に流入し、オイルは、1μL/min~50μL/minのフローレートで交差部分112に流入する。フローレートは、第2送液機構520が付加する圧力で制御される。たとえば、DNAと試薬の混合液を2μL/min(約5200mbar)、オイルを14μL/min(約8200mbar)のフローレートでそれぞれ交差部分112に流入させることで、約1千万個/minの液滴が形成される。液滴は、たとえば約60万個/min~約1800万個/min(約1万個/sec~約30万個/sec)の割合で形成される。
〈PCR〉
図54は、エマルジョンPCR処理を行う流路110Cの構成例を示す。流路110Cは、チャネル111と、液体が流入する接続部分140aおよび140bと、液体が排出される接続部分140cとを有する。
流路110Cは、たとえばポリカーボネートのような耐熱性の高い材料で形成される。チャネル111の高さは、たとえば、50μm~500μmに形成される。
チャネル111は、ヒーター591により形成される複数の温度ゾーンTZ1~TZ3を複数回経由するような構造を有する。チャネル111が各温度ゾーンTZ1~TZ3を経由する回数は、サーマルサイクル数に対応する。エマルジョンPCRのサーマルサイクル数は、たとえば、40サイクル程度に設定される。したがって、図54では簡略化して図示しているが、チャネル111は、各温度ゾーンTZ1~TZ3を40回程度横切るように、サイクル数に応じた回数分の往復形状あるいは蛇行形状に形成される。
たとえば、第1送液機構510により、磁性粒子とPCR増幅用の試薬とを含む液滴50と、オイルとのエマルジョンである第1液体10が、第1ウェル120から接続部分140aへ送液される。第2送液機構520により、第1液体10を搬送するための第2液体20が、第2注入口131を介して接続部分140bへ送液される。第1液体10中のそれぞれの液滴50内のDNAは、チャネル111を流れる過程で増幅される。すなわち、図50(C)に示したように、個々の液滴50内で、DNAが増幅され、DNAの増幅産物がプライマーを介して磁性粒子33に結合する。増幅されたDNAを含む液滴50を含んだ流体は、接続部分140cを介して、隣接する流路110または回収用保持部160に移送される。
〈エマルジョンブレーク〉
図55は、エマルジョンのブレーク処理を行う流路110Dの構成例を示す。流路110Dは、複数の液体を混合する機能を有する。流路110Dは、チャネル111と、エマルジョンやエマルジョンブレーク用の解乳化するための試薬が流入する接続部分140a、140bおよび140cと、液体が排出される接続部分140dとを含む。
流路110Dは、たとえば、ポリカーボネートやポリスチレンのように耐薬品性の高い材料により形成される。チャネル111の高さは、たとえば、50μm~500μmで形成される。
たとえば、第1送液機構510により、エマルジョンPCR工程を経たエマルジョンからなる第1液体10が、第1液体10を保持する第1ウェル120から接続部分140bへ送液される。第2送液機構520により、エマルジョンブレーク用の試薬を含む第2液体20が、第2注入口131から接続部分140aおよび140cへ送液される。一例として、たとえばエマルジョンからなる第1液体10は、約2μL/minのフローレートで流路110Dに送液され、エマルジョンブレーク用の試薬は、約30μL/minフローレートで流路110Dに送液される。エマルジョンと、エマルジョンブレーク用の試薬は、チャネル111を流れる過程で混合され、エマルジョン中の液滴が破壊される。チャネル111は、液体の混合が促進されるような形状で構成される。たとえば、チャネル111は、液体が検体処理チップ100の幅方向に複数回往復するように形成される。液滴から取り出された磁性粒子は、接続部分140dを介して、隣接する流路110または回収用保持部160に移送される。
〈洗浄(1次洗浄)〉
図56は、洗浄工程(1次洗浄)で用いられる流路110Eの構成例を示す。流路110Eは、液体が流入する接続部分140a、140bと、液体が排出される接続部分140c、140dと、チャネル111とを含む。
チャネル111は、たとえば、略長方形の形状など、所定方向に直線状に延びる形状を有する。また、チャネル111は、磁性粒子の集磁や分散が十分にできるように幅広形状を有する。流入側の接続部分140a、140bがチャネル111の一端側に配置され、排出側の接続部分140c、140dがチャネル111の他端側に配置される。
流路110Eは、たとえば、ポリカーボネートやポリスチレンのように耐薬品性の高い材料で形成される。チャネル111の高さは、たとえば、50μm~500μmで形成される。
図57は、流路110EによりDNAを担持した磁性粒子33を洗浄・濃縮する動作例を示す。接続部分140aから140cに向けて、磁性粒子33を含む液体が流れる。たとえば、第1送液機構510により、エマルジョンPCR工程を経たエマルジョンからなる第1液体10が、第1液体10を保持する第1ウェル120から接続部分140aへ送液される。図57の場合、図43に示した処理ユニット590として、流路110に磁力を作用させる磁石ユニット592が用いられる。磁石ユニット592は、磁石640により流路110中の磁性粒子33を集磁する。液体中の磁性粒子33は、磁石640の磁力により濃縮される。磁石640は、チャネル111の長手方向に往復移動できる。磁性粒子33は、磁石640の往復運動に追従し、チャネル111内を往復移動しながら凝集される。
第2送液機構520により、アルコールなどの洗浄液からなる第2液体20が、第2注入口131から接続部分140bへ送液される。第2送液機構520は、洗浄液を、接続部分140bから140dに向けて連続的に送液する。接続部分140dは、排出口150に接続しており、洗浄液を排出するためのドレーンとして機能する。洗浄液の流れの中で磁性粒子33が磁石640の動作に追従してチャネル111内を往復移動することにより、洗浄処理が行われる。磁性粒子33が磁石640の動作に追従してチャネル111内を往復移動することにより、磁性粒子33が互いに固着して塊状になることが抑止される。
1次洗浄工程では、アルコールを含む洗浄液が第2液体20として用いられる。洗浄液を用いた1次洗浄により、磁性粒子33上の油膜が除去され、増幅された二本鎖DNAが一本鎖に変性する。
〈ハイブリダイゼーション〉
第1送液機構510により、標識物質32を含む試薬からなる第3液体30が、第3液体30を保持する第1ウェル120から接続部分140aへ送液される。図43に示した処理ユニット590として、流路110でDNAをPCRにより増幅するためのヒーター591が用いられる。ヒーター591は、検体処理チップ100を加温する。1次洗浄工程後の磁性粒子は、チャネル111において、標識物質32を含む試薬と混合され、サーマルサイクルに供される。サーマルサイクルによって、磁性粒子上のDNAと標識物質32が結合する。
〈洗浄(2次洗浄)〉
標識物質とのハイブリダイゼーション(結合)後の2次洗浄工程が、チャネル111において行われる。2次洗浄工程では、PBSが洗浄液として用いられる。第2送液機構520により、PBSからなる第2液体20が、第2注入口131から接続部分140bへ送液される。洗浄液は、磁石640(図57参照)によって磁性粒子33をチャネル111内に集磁した状態で、チャネル111を流れる。洗浄液を用いた2次洗浄により、DNAと結合しなかった未反応の標識物質32(磁性粒子に非特異的に吸着している標識物質を含む)が除去される。2次洗浄後の標識物質32を含む磁性粒子33は、接続部分140cを介して、回収用保持部160に移送される。
〈検出〉
2次洗浄後の標識物質を含む磁性粒子は、たとえばフローサイトメーターや画像解析により検出される。フローサイトメーターで検出するため、標識物質を含む磁性粒子は、たとえば、検体処理チップ100の回収用保持部160から回収され、別個に設けられたフローサイトメーターに移送される。また、送液装置500は、図43に示した処理ユニット590として、流路110中の標識物質を含む磁性粒子の標識に基づく蛍光などを検出する検出部を備えてもよい。また、送液装置500は、処理ユニット590として、標識物質を含む磁性粒子を撮像するカメラユニットを備えていてもよい。送液装置500又は送液装置500に接続されたコンピュータによって、撮像された画像が解析される。
(単一細胞解析〈Single Cell Analysis〉)
上述の検体処理チップ100を用いて単一細胞解析を実施する例を説明する。血液などの試料に含まれる個々の細胞を解析対象として、細胞単位での解析を行う手法である。図58は、単一細胞解析に用いられる検体処理チップ100の構成例を示す。
検体処理チップ100は、たとえば、液体混合用の流路110D、エマルジョン形成用の流路110B、PCR増幅用の流路110Cの組み合わせにより構成される。
単一細胞解析は、対象成分である細胞と、細胞中の核酸の増幅反応のための試薬とを混合する工程(第1工程)、第1工程により混合された液体と、細胞溶解試薬との混合液を含む液滴を分散媒中に形成する工程(第2工程)、第2工程によって液滴中で細胞から溶出した核酸を液滴中で増幅する工程(第3工程)、を含む。
血液等の検体が流路110Dの接続部分140bから注入され、PCR増幅用試薬が接続部分140aおよび140cから注入される。検体に含まれる細胞とPCR増幅用試薬がチャネル111を流れる過程で混合される。混合された液体は、接続部分140dを介して、隣接の流路110Bに移送される。
細胞とPCR増幅用試薬、蛍光色素の混合液が、流路110Bの接続部分140bから注入される。細胞溶解試薬が、接続部分140cから注入される。接続部分140aから、エマルジョン形成用のオイルが注入される。細胞、PCR増幅用試薬および細胞溶解試薬の混合液は、交差部分112においてオイルに包まれた液滴50になり、エマルジョンが形成される。混合液を包み込んだ液滴50は、接続部分140dを介して、隣接する流路110Cに移送される。液滴内の細胞は、エマルジョンが流路110Cに移送される過程で、細胞溶解試薬によって溶解される。溶解された細胞から、細胞内のDNAがPCR増幅用試薬を含む液滴内に溶出する。
流路110Cに移送されたエマルジョンは、流路110Cのチャネル111を流れる過程でサーマルサイクルに供される。サーマルサイクルによって、液滴内で細胞から溶出したDNAが増幅される。液滴内で細胞から溶出されたタンパク質を酵素と変更/基質の反応等によって検出しても良い。
(免疫測定〈Digital ELISA〉)
上述の検体処理チップ100を用いて免疫測定を実施する例を説明する。免疫測定は、血液などに含まれる抗原や抗体などのタンパク質を対象成分とする。図59は、Digital ELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)に用いられる検体処理チップ100の構成例を示す。
検体処理チップ100は、温度制御用の流路110A、BF分離用の流路110E、エマルジョン形成用の流路110B、温度制御用の流路110Aの組み合わせにより構成される。
図60は、Digital ELISAの概要を示す。ELISAは、対象成分となる抗原(抗体でもよい)および標識物質を磁性粒子に担持させることにより免疫複合体を形成し、免疫複合体中の標識に基づいて対象成分の検出を行う手法である。Digital ELISAは、限界希釈(各微小区画に対象成分が1または0となるような希釈)したサンプルを微小区画内に分散させ、標識に基づく信号がポジティブとなる微小区画の数を直接カウントすることにより、サンプル中の対象成分濃度を絶対的に測定する手法である。図60の場合、エマルジョン中の個々の液滴が微小区画となる。検体処理チップ100により、図60の例に示されるアッセイが実行される。
より具体的には、Digital ELISAアッセイは、抗原抗体反応により検体11中の対象成分(抗原または抗体)と担体とを結合させた免疫複合体を形成する工程(第1工程)、第1工程により形成された免疫複合体と、標識物質32とを反応させる工程(第2工程)、第2工程により標識物質32が結合した免疫複合体と、標識物質32の検出のための基質とを含む液滴50を分散媒中に形成する工程(第3工程)、第3工程により形成された液滴50中の標識物質32に対して基質を反応させる工程(第4工程)、を含む。
流路110Aの接続部分140aから抗原を含む検体が注入され、接続部分140bから一次抗体および磁性粒子を含む試薬が注入される。検体と試薬は、チャネル111で混合される。混合液は、チャネル111で温度制御に供され、抗原、一次抗体および磁性粒子を含む免疫複合体が生成される。温度は、約40℃~約50℃、より好ましくは約42℃に制御される。生成された複合体を含む液体は、接続部分140cを介して、隣接する流路110Eに移送される。
流路110Eのチャネル111において、磁性粒子33を含む複合体は磁石640により集磁され、洗浄される(1次BF分離)。1次BF分離後、磁石640による磁力の影響を排除し、免疫複合体を分散させる。分散された免疫複合体を、酵素標識抗体と反応させる。反応後、再度、免疫複合体を磁石640により集磁し、洗浄する(2次BF分離)。洗浄後、免疫複合体は、隣接する流路110Bに移送される。
複合体は、流路110Bの接続部分140bから注入され、蛍光/発光基質を含む試薬が接続部分140cから注入される。エマルジョン形成用のオイルは、接続部分140aから注入される。免疫複合体を含む液体と、蛍光/発光基質を含む試薬とは、交差部分112において、オイルに包み込まれて液滴となることにより、エマルジョンを形成する。エマルジョンは、接続部分140cから、隣接する流路110Aに移送される。
流路110Aに移送されたエマルジョンは、チャネル111において加温され、個々の液滴内で基質と免疫複合体が反応し、蛍光が発生する。送液装置500の処理ユニット590としての検出部は、蛍光を検出する。この結果、個々の液滴に包含された対象成分の一分子単位の検出が可能となる。
(PCRアッセイ)
上述の検体処理チップ100を用いてPCRアッセイを実施する例を説明する。図61は、PCRアッセイに用いられる検体処理チップ100の構成例を示す。
流路110Dにおいて、対象成分である核酸と遺伝子増幅用試薬とが混合される。たとえばクランプPCR法による変位遺伝子の増幅では、選択的に変異型遺伝子に結合するプローブを含む遺伝子増幅用試薬と対象成分とが混合される。混合された試料が、接続部分140dから、隣接する流路110Cに移送される。流路110Cにおいて、連続流体内でヒーター591の温度制御によりPCRが実施される。図61の例では、小型の検体処理チップ100を用いた簡便なリアルタイムPCRが可能となるので、患者の治療現場で検査や診断を行うPoint of care (POC)向けの小型チップが実現可能となる。
検体処理チップ100を用いたアッセイは、上記の例に限られず、流路110の組み合わせにより検体処理チップ100が他のどのようなアッセイ用に構成されてもよい。
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。