JP6835577B2 - 有価物の回収方法 - Google Patents

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Description

本発明は有価物の回収方法に関する。
銅乾式製錬では銅精鉱を熔解し、転炉、精製炉で99%以上の粗銅とした後に電解精製工程において純度99.99%以上の電気銅を生産する。近年では転炉においてリサイクル原料として電子部品由来の貴金属を含む金属屑が投入されており、銅以外の有価物は電解精製時にスライムとして沈殿する。
このスライムには金、銀、白金、パラジウムのほかにもルテニウムやロジウム、イリジウムといった希少金属、銅精鉱に含まれているセレンやテルルも同時に濃縮される。銅製錬副産物としてこれらの元素は個別に分離−回収される。
このスライムの処理には湿式製錬法が適用される場合が多い。例えば特許文献1においてはスライムを塩酸−過酸化水素により銀を回収し、溶解した金は溶媒抽出により回収した後に、その他の有価物を二酸化硫黄で順次還元回収する方法が開示されている。特許文献2には同様の方法で金銀を回収した後、二酸化硫黄で有価物を還元して沈殿せしめ、セレンのみを蒸留して除去して貴金属類を濃縮する方法が開示されている。
貴金属を回収した後の溶液には希少金属イオン、テルル、セレンが含まれておりさらにこれら有価物を回収することが必要である。回収方法としては還元剤により生じた沈殿を回収する方法、溶液ごと銅精鉱に混合しドライヤーで乾燥させて製錬炉に繰り返す方法が知られる。
とりわけ特許文献1に示されているように二酸化硫黄により生じた沈殿を回収する方法はコストや製造規模の面で利点が多い。加えて各元素が順次沈殿することから分離精製にも効果がある。
特開2001−316735号公報 特開2004−190134号公報
二酸化硫黄を用いて有価物を回収する方法では溶解後に順次有価物を還元して回収するが、最終的に液中に残留する有価物も少なくない。もっとも、長時間にわたり加熱と二酸化硫黄供給を継続すれば全ての有価物を回収できるが、単位時間当たりの生産効率、エネルギーコストの問題がある。
さらに強力な還元剤、例えばヒドラジンや亜鉛粉末を添加すれば大部分の有価物は回収できるが試薬コストや各種ガスの発生といった問題が生じる。また排水処理に要するコストも増加する。
特にセレン、テルル、ルテニウムは最終段階でほとんどすべてを回収することが好ましい。ルテニウムは白金族元素にかかわらず、比較的高濃度のまま排出される。セレンとテルルは排出基準が設定されており、確実に回収しておく必要がある。排水処理工程では共沈法で処理されることが多く、共沈で回収された有価物は共沈剤を含んだスラッジであり、産業廃棄物として処理される。有価物を廃棄することになり好ましくない。
最終液を製錬工程に繰り返すことは希薄な原料液を処理する事と同義であり、処理コストの面から問題がある。またルテニウムなどは徐々に系内に蓄積していくので最終段階で回収してルテニウム回収工程で処理することが望ましい。
本発明はこのような従来の事情を鑑み、セレンと、ルテニウム及びテルルのうちの1種または2種とを含有する塩酸酸性液からセレンと、ルテニウム及び/またはテルルを効率的に沈殿分離させて有価物を回収する方法を提供する。
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、塩酸酸性液に水溶性ケトンを添加し、塩酸酸性液に濁りが生じるまで撹拌した後、塩酸酸性液に還元性硫黄を供給することで、セレンと、ルテニウム及び/またはテルルとを含有する有価物の沈殿を効率的に得ることができることを見出した。本発明はかかる知見により完成されたものである。
上記知見を基礎にして完成した本発明は一側面において、セレンと、ルテニウム及びテルルのうちの1種または2種とを含有する塩酸酸性液に水溶性ケトンを添加する工程と、前記水溶性ケトンを添加した塩酸酸性液に濁りが生じるまで撹拌する工程と、前記濁りが生じた塩酸酸性液に還元性硫黄を供給してセレンと、ルテニウム及びテルルのうちの1種または2種とを含有する有価物の沈殿を得る工程と、前記沈殿した有価物を回収する工程とを備えた有価物の回収方法である。
本発明の有価物の回収方法は一実施形態において、前記水溶性のケトンがアセトンまたは2−ブタノンである。
本発明の有価物の回収方法は別の一実施形態において、前記還元性硫黄の供給は、前記水溶性ケトンを添加することで前記塩酸酸性液中のルテニウム濃度が前記水溶性ケトンを添加する前の初期濃度の95%以下まで低下した時に開始する。
本発明の有価物の回収方法は更に別の一実施形態において、前記水溶性ケトンは前記塩酸酸性液1Lに対して1mL以上になるよう添加する。
本発明の有価物の回収方法は更に別の一実施形態において、前記水溶性ケトンの添加量はルテニウムまたはテルルの2モル倍以上である。
本発明の有価物の回収方法は更に別の一実施形態において、前記還元性硫黄が、二酸化硫黄、亜硫酸、亜硫酸塩、硫化水素及びチオ硫酸のうちの少なくとも1種である。
本発明によれば、セレンと、ルテニウム及びテルルのうちの1種または2種とを含有する塩酸酸性液からセレンと、ルテニウム及び/またはテルルを効率的に沈殿分離させて有価物を回収する方法を提供することができる。
非鉄金属製錬、とりわけ銅製錬の電解精製工程で生じる電解スライムはカルコゲン元素と貴金属を多く含む。一例を示すと金を10〜30kg/t、銀を100〜250kg/t、パラジウムを1〜3kg/t、白金を200〜500g/t、テルルを15〜25kg/t、セレンを5〜15wt%程度含有する。
また希少金属としてイリジウムを100〜250g/t、ルテニウムを800〜3000g/t、ロジウムを30〜100g/t含む。
塩酸と過酸化水素を添加してこの電解スライムを溶解するが、銀は溶解直後に塩化物イオンと不溶性の塩化銀沈殿を形成する。酸化剤と塩素を含む溶液、例えば王水や塩素水であれば貴金属類は溶解して銀を塩化銀として分離できる。塩化物浴であるため浸出貴液(pregnant leached solution、PLS)には貴金属元素、希少金属元素、セレン、ルテニウム、テルルが分配する。
PLSは一度冷却され、鉛やアンチモンといった卑金属類の塩化物を沈殿分離する。然る後に溶媒抽出により金を有機相に分離する。金の抽出剤はジブチルカルビトール(DBC)が広く使用されている。
金を抽出した後のPLSを還元すれば有価物は沈殿して回収できるが、元素により酸化還元電位が異なるために自ずと沈殿の順序が決まっている。初めに貴金属類、次にセレンやテルルといったカルコゲン、さらに不活性貴金属類が沈殿する。
貴金属類を回収した後にセレンを還元回収する。還元剤は還元性硫黄が価格と効率の面から利用され、なかでも二酸化硫黄は転炉ガスや硫化鉱の焙焼により大量にしかも安価に供給できるため最適である。純度の高いセレンを回収する観点からセレンの回収は完全に行われず、セレン回収後液はセレンを2〜4g/L含む。セレン回収後液はそのほかにルテニウムを100〜250mg/L、テルルを200〜800mg/L含有する。
セレン回収後液(塩酸酸性液)に還元性硫黄を吹き込んで液中に残留する有価物を回収する。従来法では80℃以上に加温して二酸化硫黄を吹き込む。本発明においてはこの二酸化硫黄を吹き込む前に(還元性硫黄の供給の前に)、塩酸酸性液に水溶性ケトンを添加しておく。
ケトンはケト−エノール互変性により極一部がエノールとして存在する。瞬間的に生じるエノールのπ電子がセレンもしくはルテニウムに移動することで還元が生じると考えられる。もしくはエノールのπ電子が二酸化硫黄に移動してアニオンラジカルを生じる事で二酸化硫黄の還元能力を高めることも可能である。アニオンラジカルの還元能力によりテルル、その他有価物は還元を受ける。
ケトンではいずれでも効果はあるが、水溶性のケトンでは反応効率が高く、排水中のCOD(化学的酸素要求量)の上昇も高くはないため炭素数の少ない水溶性ケトンが好ましい。具体的にはアセトンと2−ブタノンが挙げられる。
亜テルル酸は4価であり、さらには同じく4価の亜セレン酸もアセトンで還元を受けるのでアセトンのみによる還元では試薬コストが増大する。アセトンを還元のトリッガーとしてのみ作用させるためには還元性硫黄も供給する。還元性硫黄としては二酸化硫黄、亜硫酸、亜硫酸塩、硫化水素、チオ硫酸が挙げられる。いずれの化合物も条件を整えればテルルやセレンを0価まで還元する事が知られている。
還元性硫黄として二酸化硫黄を併用する場合、水溶性ケトンの添加量は塩酸酸性液1Lに対して1mL以上、好ましくは1〜40mLとすることができる。反応液の組成によって異なるがルテニウムまたはテルルの物質量に対して水溶性ケトンは2モル倍以上あれば効果が高い。添加量が多すぎるとコストが増大する、排水処理に負担がかかる、蒸発したケトンが作業環境を悪化させるといった負の効果が高くなる。逆に少なすぎると反応が遅くなる。
ルテニウムは水溶性ケトンにより徐々に還元を受ける。二酸化硫黄単独による還元は反応速度がさらに遅い。水溶性ケトンと二酸化硫黄を併用する事により、この両者が反応してアニオンラジカルを生じるならば還元反応は促進される。
一方、ルテニウムは亜テルル酸が共存する条件下では特に還元され難くなる。この時に見られる現象として、亜テルル酸が還元されて大きく濃度が低下すると同時にルテニウムの濃度も低下する傾向がある。この事から塩化物浴ではルテニウムの第一配位圏にテルルが配位しており、還元を妨げていると仮説が立てられる。テルル還元時にルテニウムに配位した亜テルル酸が還元を受けて空位が出来た瞬間に還元をうける、もしくはエノールと亜テルル酸との配位子交換で還元を受けやすくなると推察される。配位子が全て塩化物イオンになったルテニウム錯体は比較的安定であり徐々に還元を受ける。
ルテニウムを効率よく還元するにはケトンと還元性硫黄を供給する事であるが、ケトンによる配位子交換後に還元性硫黄を供給することが重要である。そのためケトンを添加して十分に撹拌した後に還元性硫黄は供給される。なぜならば還元性硫黄は比較的軟らかい元素の硫黄を含んでおり、エノールのπ電子と相互作用することで効果を減殺するためである。
還元性硫黄の供給タイミングは反応液の変化で察知される。十分に反応した場合は液に微粒子が生成して濁りが生じる。水溶性ケトンを添加した塩酸酸性液に、このような濁りが生じるまで、塩酸酸性液を撹拌することが必要である。この濁りが生じるまでに要する時間は温度や液組成によって異なるが概ね5〜30分程度であり、濁度によって検出するならば可視光で透過率が95%以下になった時である。すなわち、還元性硫黄の供給は、水溶性ケトンを添加することで塩酸酸性液中のルテニウム濃度が水溶性ケトンを添加する前の初期濃度の95%以下まで低下した時に開始することができる。
還元性硫黄の供給量や供給速度は特に制限はない。析出した沈殿はフィルタープレス等により固液分離する。沈殿はルテニウム、セレン、テルルの他、貴金属類が含まれる。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
銅製錬から回収された電解スライムから硫酸により銅を除いた。濃塩酸と60%過酸化水素水を添加して溶解し、固液分離して浸出貴液(PLS)を得た。PLSを6℃まで冷却して卑金属分を沈殿除去した。DBC(ジブチルカルビトール)とPLSを混合して金を抽出した。
金抽出後のPLSを70℃に加温し、銅製錬転炉排ガスを吹き込んで貴金属を還元し固液分離した。分離後の溶液を再度70〜75℃に加温し銅製錬転炉排ガスを吹き込んだ。固液分離して粗セレンを分離回収した。表1にセレン分離後液の各主成分を示す。
セレン分離後液を300mL分取した。70〜75℃に加温しアセトン1mLを添加して15分撹拌(実施例1)、30分撹拌(実施例2)した。アセトン0.5mLを添加して15分撹拌(実施例3)、30分撹拌(実施例4)した。濁りが生じたことを確認し、二酸化硫黄と空気の混合ガス(二酸化硫黄濃度5〜20%)を0.1L/分で吹き込んだ。一定の時間毎に液を採取しスラリーを固液分離した。液は希塩酸で25倍希釈してICP−OES(セイコー社製SPS−3100)により各種成分濃度を測定した。測定はイットリウムを内部標準元素として行った。実験結果を表2に示す。なお、表2において、経過時間によって濃度が増加するのは液蒸発の影響にもよる。
Figure 0006835577
Figure 0006835577
(比較例1)
実施例と同様の操作で表1に示す組成のセレン分離後液を調製した。
比較として実施例と同じ液に対しアセトン添加後即時二酸化硫黄と空気の混合ガスを吹き込んだ。アセトン添加量は1ml(比較例1)、10ml(比較例2)とした。アセトンの代わりに2−ブタノン1ml(比較例3)、無添加(比較例4)、2−プロパノール10ml(比較例5)を添加した。
さらには二酸化硫黄と空気の混合ガスを30分吹き込んだ後にアセトンを1ml(比較例6)、10ml(比較例7)添加し、継続して二酸化硫黄と空気の混合ガスで還元した。実施例と同様の操作で液中の各種濃度を定量した。実験結果を表3に示す。なお、表3において、経過時間によって濃度が増加するのは液蒸発の影響にもよる。
Figure 0006835577
比較例4が無添加で二酸化硫黄還元した系であり、価格の高いルテニウムの濃度が3時間後にどの程度まで低下したかが最も着目すべきポイントである。テルルは二酸化硫黄を長時間吹き込めば、セレン濃度が十分に低下した後に還元を受けるのでテルルへの効果は反応速度に着目しなければならない。
実施例ではいずれもアセトンの添加はルテニウムとテルルの還元に寄与している。対象液300mlに対して0.5mlでも効果を示した。これに対して比較例6や比較例7に見られるように十分にアセトンがセレンに作用する前に二酸化硫黄を供給すると過量のアセトンを添加してもその効果が大きく減殺される。また比較例1と比較例2に見られるようにアセトン添加と同時に二酸化硫黄の供給を開始しても効果は認められるが必要量が増加する。
比較例3と比較例5の結果からはケトンが還元に寄与していることが判る。他のケトンでも同様な効果が見られると考えられるが毒性が少ないことや水に対する溶解度の点でアセトンが最も優れている。
アセトンの添加量に関しては貴液の液量のほかにルテニウムの濃度が影響をあたえる。実施例、比較例ともにルテニウム濃度とテルル濃度は比較的高濃度であった。ルテニウムに対してアセトンは0.5mlで効果を示したわけであるが、これはルテニウム2.9mmolに対してアセトン6.8mmolに相当する。およそ2モル倍以上の添加で効果を示した。

Claims (6)

  1. セレンと、ルテニウム及びテルルのうちの1種または2種とを含有する塩酸酸性液に水溶性ケトンを添加する工程と、
    前記水溶性ケトンを添加した塩酸酸性液に濁りが生じるまで撹拌する工程と、
    前記濁りが生じた塩酸酸性液に還元性硫黄を供給してセレンと、ルテニウム及びテルルのうちの1種または2種とを含有する有価物の沈殿を得る工程と、
    前記沈殿した有価物を回収する工程と、
    を備えた有価物の回収方法。
  2. 前記水溶性ケトンがアセトンまたは2−ブタノンであることを特徴とする請求項1に記載の有価物の回収方法。
  3. 前記還元性硫黄の供給は、前記水溶性ケトンを添加することで前記塩酸酸性液中のルテニウム濃度が前記水溶性ケトンを添加する前の初期濃度の95%以下まで低下した時に開始することを特徴とする請求項1または2に記載の有価物の回収方法。
  4. 前記水溶性ケトンは前記塩酸酸性液1Lに対して1mL以上になるよう添加することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の有価物の回収方法。
  5. 前記水溶性ケトンの添加量はルテニウムまたはテルルの2モル倍以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の有価物の回収方法。
  6. 前記還元性硫黄が、二酸化硫黄、亜硫酸、亜硫酸塩、硫化水素及びチオ硫酸のうちの少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の有価物の回収方法。
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