JP6488744B2 - R−t−b系焼結磁石 - Google Patents

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Description

本発明は、希土類系永久磁石に関し、さらに詳しくはR−T−B系焼結磁石の微細構造を制御した希土類磁石に関する。
希土類系永久磁石は、高い磁気特性を有することから様々な分野に活用されているが、特にR−T−B系焼結磁石(Rは希土類元素、TはFeを必須元素とした一種以上の鉄族元素、Bはホウ素を示す)は、優れた特性を示し、1982年の発明以来、代表的な高性能永久磁石である。
希土類元素RがNd、Pr、Dy、Ho、TbからなるR−T−B系焼結磁石は、異方性磁界Hが大きく永久磁石材料として好ましい。中でも希土類元素RをNd、遷移金属元素TをFeとしたNd−Fe−B系磁石は、磁気特性のバランスが良く、資源量、耐食性において他の希土類元素Rを用いたR−T−B系焼結磁石よりも優れているために民生、産業、輸送機器などに広く用いられている。
近年、例えば環境に配慮したハイブリッド車(HV)や電気自動車(EV)の普及により、保磁力HcJがより大きい永久磁石が求められるようになっている。R−T−B系焼結磁石では、R14B型結晶からなる主相粒子(以下、主相粒子とする)を微細化することで保磁力HcJが向上することは知られており、盛んに研究されている。しかしながら、主相粒子を微細化すると着磁性が悪化するため、着磁するためにより大きな着磁磁場が必要になる(非特許文献1)。モータ用R−T−B系焼結磁石は、未着磁の状態でモータに組み込んだ後に着磁する、いわゆる組立着磁を採用することが多く、実用上十分に着磁するために必要な強度の磁界を印加することが困難な場合がある。着磁が不十分な磁石は、所望の磁気特性(特に残留磁束密度B)が得られない。
着磁性を改善する試みとして、例えば特許文献1には、R−T−B系焼結磁石の原料微粉に、FeCo粉を混合する方法が開示されている。また、特許文献2には、磁石粒子表面に有機金属化合物を付着、表面処理することで、粒界に金属元素を偏在させたR−T−B系焼結磁石を作製する方法が開示されている。
宇根康弘、佐川眞人、日本金属学会誌、第76巻、第1号、12(2012)
特開2003−217918号公報 特開2011−216678号公報
特許文献1に開示された技術によれば、FeCo相が混在するR−T−B系焼結磁石を構成することで、着磁性が改善される。しかし、この技術では、FeCo相が主相粒子と同程度の大きさを持つことや、粒界相として偏析して存在することから、保磁力HcJの低下が避けられない。
また、特許文献2では、粒界に金属元素を偏在させたR−T−B系焼結磁石によって、着磁性を改善するとしているが、この方法が適用できる主相粒子の平均粒径は3.5μm〜5.0μmと大きく、高い保磁力HcJを得るために主相粒子の平均粒径をさらに微細にした場合には、着磁性を改善できない。
本発明は、このような状況を鑑みてなされたものであり、高い保磁力HcJを維持しつつ、着磁性の良好なR−T−B系焼結磁石を提供することを目的とする。
上述した課題を解決するため、本発明者らは、R−T−B系焼結磁石の主相粒子内に生成させる軟磁性相の生成量及び生成位置を制御することにより、保磁力HcJを低下させることなく、着磁率を制御できることを見出した。
ここで、軟磁性相を形成する軟磁性体は、保磁力HcJが120Oe以下であるものとする。
すなわち本発明は、R−T−B系焼結磁石において、内部に軟磁性相が生成されているR14B型結晶からなる主相粒子を含み、かつ、R14B型結晶からなる主相粒子の断面において、該断面内の最長線分を該粒子の長軸とし、該粒子の長軸の中心点を通り該粒子の長軸と直交する該断面内の線分を該粒子の短軸とし、これら長軸および短軸のそれぞれの全長を1としたとき、長軸および短軸の内側3/5と外側2/5を垂直に区切る線をそれぞれ求め、これら4本の線に接するとともに長軸と短軸とが該粒子の長軸と短軸とにそれぞれ平行となる楕円を描き、該楕円を境界線として、該楕円の外部を主相外周部とし、該楕円の内部を主相内周部として区分したときに、主相外周部における軟磁性相の数密度が、主相中央部における軟磁性相の数密度に比して大きいことを特徴とする。ここでいう数密度とは、R14B型結晶からなる主相粒子の断面における軟磁性相の個数の面密度を意味する。
本発明によれば、主相粒子を含むR−T−B系焼結磁石において、特に着磁性が悪いと考えられる微細な主相粒子の着磁性を改善する。すなわち、主相粒子の内部に生成された軟磁性相が、初磁化過程において容易に磁化され、前記軟磁性相を起点に主相粒子内部に磁区が生成する。そのために、微細な主相粒子の着磁が容易になり、着磁性が改善されると推測する。その一方で、減磁過程においては、軟磁性相が生成されている前記主相粒子は、低磁場で軟磁性相が起点となり磁化反転が進む。しかしながら、軟磁性相が生成されていない主相粒子には磁化反転の起点がない。さらに、粒界相により、それら主相粒子は隔てられているため、粒子間の磁化反転の伝播が抑制され、軟磁性相が生成されていない主相粒子では磁化反転が進まない。その結果として、軟磁性相による保磁力HcJの低下が抑制されると推測する。
この軟磁性相はR−T−B系焼結磁石中に広く分布しており、さらに、微細な主相粒子であるほど、内部に軟磁性相が生成されやすいと推測する。
さらに、主相外周部における前記軟磁性相の数密度が、主相中央部における前記軟磁性相の数密度に比して大きいと、初磁化過程においては、初磁化過程で磁化された前記軟磁性相を起点に、内部に前記軟磁性相が生成されている微細な主相粒子内部に磁区が生成されると同時に、その周囲の主相粒子の磁化反転が進むため、前記主相粒子内部に前記軟磁性相が生成されている微細な主相粒子内部に前記軟磁性相が均一に分散している場合に比べ、より着磁性が改善されると推測する。
好ましくは、前記R−T−B系焼結磁石の磁石内部における、主相外周部における前記軟磁性相の数密度が、主相中央部における前記軟磁性相の数密度に比して大きく、前記主相粒子内部に軟磁性相が生成されているR14B型結晶からなる主相粒子の数が、磁石内部における前記R14B型結晶からなる主相粒子数の4%以下(0は含まない)である。
本発明によれば、前記R−T−B系焼結磁石の磁石内部における、主相外周部における前記軟磁性相の数密度が、主相中央部における前記軟磁性相の数密度に比して大きく、主相粒子内部に前記軟磁性相が生成されているR14B型結晶からなる主相粒子の数が、磁石内部におけるR14B型結晶からなる主相粒子数の4%以下(0は含まない)とすることで、保磁力HcJを低下させることなく、着磁性の良好なR−T−B系焼結磁石が得られる。
好ましくは、前記主相粒子内部に軟磁性相が生成されているR14B型結晶からなる主相粒子において、主相中央部における前記軟磁性相の数密度をA1,主相外周部における前記軟磁性相の数密度をA2としたとき、A2/A1≧4である。
本発明によれば、前記主相粒子内部に軟磁性相が生成されているR14B型結晶からなる主相粒子において、主相中央部における前記軟磁性相の数密度をA1,主相外周部における前記軟磁性相の数密度をA2としたとき、A2/A1≧4とすることで、保磁力HcJを低下させることなく、着磁性の良好なR−T−B系焼結磁石が得られる。
好ましくは、前記R−T−B系焼結磁石の磁石内部において、A2/A1≧4であり、前記主相粒子内部に軟磁性相が生成されているR14B型結晶からなる主相粒子の数が、磁石内部における前記R14B型結晶からなる主相粒子数の2.5%以下(0は含まない)である。
本発明によれば、前記R−T−B系焼結磁石の磁石内部において、A2/A1≧4であり、前記主相粒子内部に軟磁性相が生成されているR14B型結晶からなる主相粒子の数が、磁石内部における前記R14B型結晶からなる主相粒子数の2.5%以下(0は含まない)とすることで、保磁力HcJを低下させることなく、着磁性の良好なR−T−B系焼結磁石が得られる。
好ましくは、前記R14B型結晶からなる主相粒子の平均粒径は0.7〜3.5μmである。
本発明によれば、前記R14B型結晶からなる主相粒子の平均粒径を0.7〜3.5μmとすることで、保磁力HcJを低下させることなく、着磁性のさらに良好なR−T−B系焼結磁石を得ることができる。0.7μm以下であると、R14B型結晶からなる微細な主相粒子の総数が多くなり、微細であっても軟磁性相の生成が確認されない主相粒子の総数が増え、結果として着磁性の改善効果が小さくなる。また、3.5μm以上であると、保磁力HcJが低下してしまう。
前記主相粒子の平均粒径は1.0〜3.5μmであることが、より好ましい。
好ましくは、前記R−T−B系焼結磁石はBを0.75〜1.1wt%含有する。
本発明によれば、前記R−T−B系焼結磁石はBを0.75〜1.1wt%含有することで、保磁力HcJを低下させることなく、着磁性のさらに良好なR−T−B系焼結磁石を得ることができる。Bが0.75wt%未満の場合には、R17相に代表される異相が発生してしまい、高い保磁力HcJを得ることができない。一方で、Bが1.1wt%を超えると、RT相に代表される異相が発生してしまい、やはり高い保磁力HcJを得ることができない。
以上のように、本発明によれば、R−T−B系焼結磁石において、内部に軟磁性相が生成されている主相粒子を含み、かつ、主相外周部における前記軟磁性相の数密度が、主相中央部における前記軟磁性相の数密度に比して大きいことにより、外部磁場によって前記軟磁性相が容易に磁化され、それに伴って前記主相粒子も磁化されるため、保磁力HcJを低下させることなく、着磁性の良好なR−T−B系焼結磁石を得ることができる。
なお、本発明の効果は、R−T−B系焼結磁石において、内部に軟磁性相が生成されている主相粒子を含み、かつ、主相外周部における軟磁性相の数密度が、主相中央部における軟磁性相の数密度に比して大きいことによってなされるものであり、例えば希土類元素Rがいかなる希土類元素Rであったとしても、何ら本発明の効果を妨げるものではない。
図1は、本発明の一実施形態における、R−T−B系焼結磁石において、内部に軟磁性相が生成されている主相粒子を含み、かつ、主相外周部における軟磁性相の数密度が、主相中央部における軟磁性相の数密度に比して大きい組織の写真を示す図である。 図2は、本発明のR−T−B系焼結磁石の、主相粒子の主相外周部と主相中央部を模式的に示した図である。
以下、本発明を、実施の形態に基づいて、詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態及び実施例に記載した内容により限定されるものではない。また、以下に記載した実施形態及び実施例における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、以下に記載した実施形態及び実施例で開示した構成要素は適宜組み合わせても良いし、適宜選択して用いてもよい。
このR−T−B系焼結磁石10は、図1で示すように、軟磁性相が生成されている主相粒子1、軟磁性相が生成されていない主相粒子2、粒界相3を含む。さらに、Rリッチ相等の副相を含んでいても良い。軟磁性相が生成されている主相粒子1の内部には軟磁性相4が生成されている。
また、このR−T−B系焼結磁石10において、主相外周部5における軟磁性相の数密度が主相中央部6における軟磁性相の数密度に比して大きい。本明細書では、図2で示すように、主相粒子の断面において、断面内の最長線分を粒子の長軸Lとし、粒子の長軸の中心点を通り粒子の長軸と直交する断面内の線分を粒子の短軸Lとし、これら長軸および短軸のそれぞれの全長を1としたとき、長軸および短軸の内側3/5と外側2/5を垂直に区切る線をそれぞれ求め、これら4本の線に接するとともに長軸と短軸とが該粒子の長軸と短軸とにそれぞれ平行となる楕円を描き、該楕円を境界線として、該楕円の外部を主相外周部5とし、該楕円の内部を主相内周部6として区分した。
主相粒子1及び2を含むR−T−B系焼結磁石10において、特に着磁性が悪いと考えられるR14B型結晶からなる微細な主相粒子の着磁性を改善する。すなわち、主相粒子1の内部に生成された軟磁性相4が、初磁化過程において容易に磁化され、前記軟磁性相4を起点に主相粒子1内部に磁区が生成する。そのために、微細な主相粒子1の着磁が容易になり、着磁性が改善されると推測する。その一方で、減磁過程においては、軟磁性相が生成されている前記主相粒子1は、低磁場で軟磁性相4が起点となり磁化反転が進む。しかしながら、軟磁性相が生成されていない主相粒子2には磁化反転の起点がない。さらに、粒界相3により、それら主相粒子1及び2は隔てられているため、粒子間の磁化反転の伝播が抑制され、軟磁性相が生成されていない主相粒子2では磁化反転が進まない。その結果として、軟磁性相による保磁力HcJの低下が抑制されると推測する。
この軟磁性相4が生成されている主相粒子1は、R−T−B系焼結磁石10中に広く分布しており、さらに、微細な主相粒子であるほど、前記主相粒子内部に軟磁性相4が生成されやすいと推測する。
このR−T−B系焼結磁石10は、希土類元素Rを25〜35wt%含有する。Rの量が25wt%未満であると、粒界相3を構成するRリッチ相など、保磁力HcJ向上に効果的な相が十分に生成されず、保磁力HcJが低下する。一方、Rの量が35wt%を超えると、R14B型結晶からなる主相であるR14B相の体積比率が低下し、残留磁束密度Bが低下する。
このR−T−B系焼結磁石10は、Bを0.75〜1.1wt%含有する。Bが0.75wt%未満の場合には、高い保磁力HcJを得ることができない。一方で、Bが1.1wt%を超えた場合にも、高い保磁力HcJを得ることができない。
このR−T−B系焼結磁石10は、Coを4.0wt%以下含有することができる。Coは、キュリー温度Tの向上、粒界相3の耐食性向上に効果がある。
このR−T−B系焼結磁石10は、他の元素の含有を許容する。例えば、Zr、Ti、Bi、Sn、Ga、Nb、Ta、Si、V、Ag、Ge、Al、Cu等の元素を、適宜含有させることができる。一方で、O、N、Cなどの不純物元素は、その含有量を極力低減させることが望ましい。特に、磁気特性を低下させるOは、その含有量を5000ppm以下、さらには3000ppm以下とすることが望ましい。Oの含有量が多いと、非磁性成分である希土類酸化物相が増大して、磁気特性を低下させる。
以下、本実施形態におけるR−T−B系焼結磁石の製造方法の好適な例について説明する。
本実施形態のR−T−B系磁石の製造において、まず、所望の組成を有するR−T−B系焼結磁石が得られるような原料合金を準備する。原料合金は、真空又は不活性ガス中、望ましくはAr雰囲気中でストリップキャスト法、その他公知の溶解法により作製することができる。
原料合金は、粉砕工程に供される。粉砕工程には、第一の粉砕工程、第一の粉砕工程後熱処理工程、第二の粉砕工程、第三の粉砕工程がある。第一の粉砕工程では、原料合金を水素化することで不均一にし、その後脱水素することで再結合させるという方法で、原料合金の粉砕を行うことができる。
原料合金の脱水素処理は、希土類焼結磁石として不純物となる水素を減少させることを目的として行われる。この脱水素処理によりNdFe14Bとして再結合することで、粉砕されたNdFe14B組織が得られる。水素化及び脱水素処理の温度は、本実施形態においては500〜600℃とする。保持時間は、保持温度との関係、原料合金の厚さ等によって変わるが、本実施形態においては30分〜4時間とする。この脱水素処理の温度、及び保持時間を適切に制御することにより、軟磁性相の析出を制御することができる。脱水素処理は、真空中又はArガスフローにて行う。これにより、一次粒子の平均粒径0.5μm程度の第一の粉砕粉を得る。
次に、第一の粉砕工程で析出した軟磁性相を主相粒子内に取り込むため、第一の粉砕粉を坩堝に入れ、真空中にて700〜800℃で3〜5時間、熱処理を行う。前記熱処理工程を第一の粉砕工程後熱処理工程と呼ぶ。これにより第一の粉砕工程後熱処理粉を得る。これにより粉砕粉は粒成長し、その際に軟磁性相が主相粒子内に取り込まれる。
次に、得られた第一の粉砕工程後熱処理粉は、第二の粉砕工程に供される。ここでの粉砕は、ボールミル、スタンプミル、ジョークラッシャー、ブラウンミル等を用いた機械的な方法により行われ、不活性ガス雰囲気中にて行うことが望ましい。
第二の粉砕工程後、得られた第二の粉砕粉を、第三の粉砕工程に供し、第三の粉砕粉とする。この粉砕には主にジェットミルが用いられ、平均粒径0.6〜5μm、望ましくは0.7〜3.5μmとなるように粉砕する。ジェットミルは、高圧の不活性ガスを狭いノズルより開放して高速のガス流を発生させ、この高速のガス流により粉砕粉末を加速し、粉砕粉末同士の衝突、ターゲットあるいは容器壁との衝突を発生させて粉砕する方法である。
第三の粉砕工程後、得られた第三の粉砕粉は磁場中成形に供される。
磁場中成形における成形圧力は、0.3〜3ton/cm(30〜300MPa)の範囲とすればよい。成形圧力は、成形開始から終了まで一定であってもよく、漸増または漸減してもよく、あるいは不規則変化してもよい。成形圧力が低いほど微粉の結晶配向性は良好となるが、成形圧力が低過ぎると、成形体の強度が不足してハンドリングに問題が生じるので、この点を考慮して上記範囲から成形圧力を選択する。磁場中成形で得られる成形体の最終的な相対密度は、通常、40〜60%である。
印加する磁場は、10〜20kOe(800〜1600kA/m)程度とすればよい。印加する磁場は、静磁場に限定されず、パルス状の磁場とすることもできる。また、静磁場とパルス状磁場を併用することもできる。
次いで、成形体を真空又は不活性ガス雰囲気中で焼結する。焼結温度及び焼結時間は、組成、粉砕方法、平均粒径と粒度分布の違い等、諸条件により調整する必要があるが、本実施形態では850〜1030℃で4時間〜12時間焼結した。焼結温度が850℃より低いと、緻密化が不十分となり十分な残留磁束密度Bが得られない。また、焼結温度が1030℃より高いと、粒成長が著しく進行し、特に保磁力HcJが低下する。
焼結後、得られた焼結体に時効処理を施すことができる。この工程は、保磁力HcJを制御する重要な工程である。時効処理を2段に分けて行なう場合には、800℃近傍、600℃近傍で、所定時間の保持が有効である。時効処理を1段で行なう場合には、600℃近傍の時効処理を施すとよい。いずれの場合においても、保磁力HcJが増大する効果が得られる。
以上、本発明を好適に実施するための形態を説明したが、これに限定されない。例えば、本発明の構造は、第一の粉砕工程を、原料合金に室温で水素を吸蔵させた後に、500〜700℃でAr+水素ガスフローを行い粗粉砕粉を得て、第一の粉砕工程後熱処理工程は行わず、第二の粉砕工程及び第三の粉砕工程に供じ、第三の粉砕粉とし、これを磁場中成形し、その後焼結及び時効処理を施すことでも得られる。これは、500〜700℃におけるAr+水素ガスフローによって原料合金から水素を放出させ、粗粉砕を行う際に、軟磁性相が析出されるためである。
以下、本発明の内容を実施例及び比較例を用いて詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
実施例1〜8として、組成が32.5wt%Nd−1.00wt%B−0.50wt%Co−0.06wt%Cu−0.20wt%Al−Fe.balとなるように、原料となる金属あるいは合金をそれぞれ配合し、ストリップキャスト法により原料合金薄板を溶解、鋳造した。
得られた原料合金薄板を第一の粉砕工程に供し、500〜600℃、保持時間30分〜4時間で水素化、及び脱水素処理を行うことで、第一の粉砕粉を得た。その後、第一の粉砕粉を坩堝に入れ、真空中にて700〜800℃で3〜5時間熱処理を行った。その後、スタンプミルにより第二の粉砕を行った後、潤滑剤を添加した。次いで、ジェットミルを使用し、高圧窒素ガス雰囲気中で第三の粉砕を行い、第三の粉砕粉を得た。
続いて、作製した第三の粉砕粉を金型に投入し、磁場中成形した。具体的には、15kOeの磁場中で140MPaの圧力で成形を行い、20mm×18mm×13mmの成形体を得た。磁場方向はプレス方向と垂直な方向とした。得られた成形体を850〜1030℃で4〜12時間焼結した。その後、800℃および600℃でそれぞれ1時間の時効処理を行い、焼結体を得た。
本実施例における、第一の粉砕工程、第一の粉砕工程後熱処理工程、焼結の条件を表1に示す。
実施例1〜8に対応する、得られた焼結体の初磁化曲線を、BHトレーサーにて測定した。初磁化曲線において、H=1kOeでの磁化の値M(1kOe)とH=5kOeでの磁化の値M(5kOe)の比、M(1kOe)/M(5kOe)を5kOeでの着磁率と定義し、またH=1kOeでの磁化の値M(1kOe)とH=20kOeでの磁化の値M(20kOe)の比、M(1kOe)/M(20kOe)を20kOeでの着磁率と定義し、その結果を表1に示す。また、保磁力HcJも同じく測定し、その結果を表1に示す。
主相粒子内に存在する軟磁性相は以下の方法で分析することができる。具体的な例として、体心立方構造を持つFeを含む軟磁性体の場合について説明する。
実施例1〜8に対応する、測定後の焼結体を熱消磁した後、エポキシ系樹脂に樹脂埋めし、これらを研磨して、それぞれの焼結体の研磨断面を得た。走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて上記研磨面を観察し、反射電子組成像(COMPO)により、R14B型結晶からなる主相、及び粒界相などのそれ以外の相を確認した。さらにエネルギー分散型X線分光法(EDX)から、それぞれの焼結体の主相粒子内にFe濃度がR14B型結晶からなる主相よりも相対的に高い相(Feリッチ相)が生成されていること確認した。さらに、前記焼結体を薄片加工し、高分解能透過型電子顕微鏡(TEM)にて観察を行ったところ、前記Feリッチ相は体心立方構造を持つFe化合物であることを確認した。さらに、この化合物の電子線ホログラフィーによる磁束分布の解析から、この体心立方構造を持つFe化合物がFeを主成分とする軟磁性相であることを確認した。
走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、それぞれの焼結体の研磨された断面を10視野以上観察し、主相粒子内に存在する、主相外周部及び主相中央部における直径30nm以上のFeを主成分とする軟磁性相の個数を計測した。その後、主相外周部及び主相中央部における、1000μmあたりのFeを主成分とする軟磁性相の数密度をそれぞれ算出した。また、観察視野中の内部に軟磁性相が生成されている主相粒子数、及び、観察視野中の全ての主相粒子数を計測し、主相粒子内部に軟磁性相が生成されている主相粒子数を、全ての主相粒子数で割った値を軟磁性相含有主相粒子数比率として算出した。前記軟磁性相含有主相粒子数比率を、焼結体全体の主相粒子数に対する、主相粒子内部に軟磁性相が生成されている主相粒子数の割合とする。その結果を表1に示す。
さらに、走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、それぞれの焼結体の研磨された断面を5視野以上観察し、画像処理により主相粒子の平均粒径を計測した。その結果を表1に示す。
実施例9として、組成が31.5wt%Nd−0.75wt%B−1.00wt%Co−0.60wt%Cu−0.30wt%Al−1.00wt%Ga−0.30wt%Zr−Fe.balとなるように、原料となる金属あるいは合金をそれぞれ配合し、ストリップキャスト法により原料合金薄板を溶解、鋳造した。
その後、実施例1〜8と同様の方法にて、第一、第二、第三の粉砕粉を得、さらに焼結体を作製した。その後、やはり実施例1〜8と同様の方法で、5kOeでの着磁率、20kOeでの着磁率、保磁力HcJ、主相外周部及び主相中央部における1000μmあたりのFeを主成分とする軟磁性相の数密度、軟磁性相含有主相粒子数比率、及び主相粒子の平均粒径を求めた。その結果を表1に示す。
実施例10として、組成が23.7wt%Nd−7.00wt%Pr−0.10wt%Dy−0.87wt%B−1.50wt%Co−1.00wt%Cu−0.10wt%Al−0.50wt%Ga−0.20wt%Zr−Fe.balとなるように、原料となる金属あるいは合金をそれぞれ配合し、ストリップキャスト法により原料合金薄板を溶解、鋳造した。
その後、実施例1〜8と同様の方法にて、第一、第二、第三の粉砕粉を得、さらに焼結体を作製した。その後、やはり実施例1〜8と同様の方法で、5kOeでの着磁率、20kOeでの着磁率、保磁力HcJ、主相外周部及び主相中央部における1000μmあたりのFeを主成分とする軟磁性相の数密度、軟磁性相含有主相粒子数比率、及び主相粒子の平均粒径を求めた。その結果を表1に示す。
実施例11として、組成が29.3wt%Nd−0.20wt%Dy−0.95wt%B−3.00wt%Co−0.30wt%Cu−0.60wt%Al−0.30wt%Ga−0.60wt%Zr−Fe.balとなるように、原料となる金属あるいは合金をそれぞれ配合し、ストリップキャスト法により原料合金薄板を溶解、鋳造した。
その後、実施例1〜8と同様の方法にて、第一、第二、第三の粉砕粉を得、さらに焼結体を作製した。その後、やはり実施例1〜8と同様の方法で、5kOeでの着磁率、20kOeでの着磁率、保磁力HcJ、主相外周部及び主相中央部における1000μmあたりのFeを主成分とする軟磁性相の数密度、軟磁性相含有主相粒子数比率、及び主相粒子の平均粒径を求めた。その結果を表1に示す。
実施例12として、組成が25.5wt%Nd−8.00wt%Pr−1.10wt%B−0.30wt%Co−0.15wt%Cu−0.40wt%Al−0.15wt%Ga−1.00wt%Zr−Fe.balとなるように、原料となる金属あるいは合金をそれぞれ配合し、ストリップキャスト法により原料合金薄板を溶解、鋳造した。
その後、実施例1〜8と同様の方法にて、第一、第二、第三の粉砕粉を得、さらに焼結体を作製した。その後、やはり実施例1〜8と同様の方法で、5kOeでの着磁率、20kOeでの着磁率、保磁力HcJ、主相外周部及び主相中央部における1000μmあたりのFeを主成分とする軟磁性相の数密度、軟磁性相含有主相粒子数比率、及び主相粒子の平均粒径を求めた。その結果を表1に示す。
実施例13として、実施例1〜8と同様の組成となるように、原料となる金属あるいは合金をそれぞれ配合し、ストリップキャスト法により原料合金薄板を溶解、鋳造した。
得られた原料合金薄板を第一の粉砕工程として室温で水素を吸蔵させた後に650℃のAr+水素ガスフローで脱水素処理を行い、軟磁性相が主相粒子外周部に生成された粗粉砕粉を得た。その後、第一の粉砕工程後熱処理工程は行わず、第二の粉砕工程及び第三の粉砕工程を実施例1〜8と同様の方法で行い、第三の粉砕粉を得た。
その後、実施例1〜8と同様の方法で焼結体を作製した。その後、やはり実施例1〜8と同様の方法で、5kOeでの着磁率、20kOeでの着磁率、保磁力HcJ、主相外周部及び主相中央部における1000μmあたりのFeを主成分とする軟磁性相の数密度、軟磁性相含有主相粒子数比率、及び主相粒子の平均粒径を求めた。その結果を表1に示す。
比較例
比較例1として、実施例1〜8と同様の組成となるように、原料となる金属あるいは合金をそれぞれ配合し、ストリップキャスト法により原料合金薄板を溶解、鋳造した。
得られた原料合金薄板を第一の粉砕工程に供し、600℃、保持時間1時間で水素化、及び脱水素処理を行うことで、第一の粉砕粉を得た。次に、第一の粉砕粉を坩堝に入れ、真空中にて700℃で12時間熱処理を行った。その後は、第二の粉砕工程、第三の粉砕工程を実施例1〜8と同様の方法で行い、第三の粉砕粉を得た。
その後、実施例1〜8と同様の方法で焼結体を作製した。その後、やはり実施例1〜8と同様の方法で、5kOeでの着磁率、20kOeでの着磁率、保磁力HcJ、主相外周部及び主相中央部における1000μmあたりのFeを主成分とする軟磁性相の数密度、軟磁性相含有主相粒子数比率、及び主相粒子の平均粒径を求めた。その結果を表1に示す。
比較例2として、実施例1〜8と同様の組成となるように、原料となる金属あるいは合金をそれぞれ配合し、ストリップキャスト法により原料合金薄板を溶解、鋳造した。
得られた原料合金薄板を、第一の粉砕及び熱処理を行うことなく、スタンプミルにより第二の粉砕を行った。さらに、実施例1〜8と同様の方法で、第三の粉砕粉を得た。
その後、実施例1〜8と同様の方法で焼結体を作製した。その後、やはり実施例1〜8と同様の方法で、5kOeでの着磁率、20kOeでの着磁率、保磁力HcJ、主相外周部及び主相中央部における1000μmあたりのFeを主成分とする軟磁性相の数密度、軟磁性相含有主相粒子数比率、及び主相粒子の平均粒径を求めた。その結果を表1に示す。
比較例3として、実施例1〜8と同様の組成となるように、原料となる金属あるいは合金をそれぞれ配合し、ストリップキャスト法により原料合金薄板を溶解、鋳造した。
得られた原料合金薄板を、第一の粉砕及び熱処理を行うことなく、スタンプミルにより第二の粉砕を行った。
その後、水アトマイズ法により作製したFe微粉を、重量比で第二の粉砕粉:Fe微粉=98:2となるように添加した。その後、実施例と同様の方法で第三の粉砕粉を得た。
その後、実施例1〜8と同様の方法で焼結体を作製した。その後、やはり実施例1〜8と同様の方法で、5kOeでの着磁率、20kOeでの着磁率、保磁力HcJ、主相外周部及び主相中央部における1000μmあたりのFeを主成分とする軟磁性相の数密度、軟磁性相含有主相粒子数比率、及び主相粒子の平均粒径を求めた。その結果を表1に示す。
Figure 0006488744
表1より、いずれの実施例においても、主相粒子内に軟磁性相が存在し、主相外周部の軟磁性相の数密度が、主相中央部の軟磁性相の数密度よりも大きいことにより、保磁力HcJが15.6kOe以上と良好でありながら、5kOeで90%以上の着磁率、20kOeで98.2%以上の着磁率を示し、いずれの着磁率も改善していることがわかる。また軟磁性相含有主相粒子数比率が4%以下である実施例2から12において、保磁力HcJが15.8kOe以上と、保磁力HcJの低下が抑制されることがわかる。
また、主相中央部における軟磁性相の数密度をA1、主相外周部における軟磁性相の数密度をA2としたとき、A2/A1≧4である実施例3から12において、5kOeでの着磁率が92%以上とさらに改善すると同時に、保磁力が16.0kOe以上と、保磁力HcJの低下が抑制されていることがわかる。また、A2/A1≧4であり、軟磁性相含有主相粒子数比率が2.5%以下である実施例4から12において、保磁力HcJが16.2kOe以上と、保磁力HcJの低下がさらに抑制されていることがわかる。
また、実施例5では、主相粒子の平均粒径が0.7μm以下となっている。この場合、保磁力HcJは17.5kOeと他の実施例と同等以上であるが、20kOeでの着磁率が98.2%であり、他の実施例に比べ小さい。
また、実施例8では、主相粒子の平均粒径が3.5μm以上となっている。この場合、20kOeでの着磁率が99.5%と他の実施例と同等以上であるが、保磁力HcJが15.8kOeであり、他の実施例に比べ小さい。
一方、主相外周部における軟磁性相の数密度が、主相中央部における軟磁性相の数密度に比して低い比較例1では、5kOeでの着磁率が89%未満であり、5kOeでの着磁率の改善が十分ではない。また、主相粒子内に軟磁性相が生成されていない比較例2では、20kOeでの着磁率が93%程度であり、20kOeでの着磁率が改善されていない。
また、比較例3では、主相粒子内に軟磁性相は確認されず、走査型電子顕微鏡(SEM)により焼結体の研磨された断面を観察したところ、Feが粒界相に存在していた。このため、20kOeでの着磁率は実施例と同程度であるが、5kOeでの着磁率が88%程度であり、5kOeでの着磁率が改善されていない。また保磁力HcJも13.9kOeと小さい。
本発明によるR−T−B系焼結磁石は高い保磁力HcJを維持しつつ、良好な着磁性を示し、これらは自動車用のモータ等に幅広く利用可能である。
1・・・軟磁性相が生成されている主相粒子
2・・・軟磁性相が生成されていない主相粒子
3・・・粒界相
4・・・軟磁性相
5・・・主相外周部
6・・・主相中央部
10・・・R−T−B系焼結磁石

Claims (5)

  1. R−T−B系焼結磁石において、R 14B型結晶からなる主相粒子を含み、前記R 14 B型結晶からなる主相粒子の少なくとも一部は、前記R 14 B型結晶内部に軟磁性相が生成されており、前記14B型結晶からなる主相粒子の断面において、該断面内の最長線分を該粒子の長軸とし、該粒子の長軸の中心点を通り該粒子の長軸と直交する断面内の線分を該粒子の短軸とし、これら長軸および短軸のそれぞれの全長を1としたとき、長軸および短軸の内側3/5と外側2/5を垂直に区切る線をそれぞれ求め、これら4本の線に接するとともに長軸と短軸とが該粒子の長軸と短軸とにそれぞれ平行となる楕円を描き、該楕円を境界線として、該楕円の外部を主相外周部とし、該楕円の内部を主相中央部として区分したときに、主相外周部における前記軟磁性相の数密度が、主相中央部における前記軟磁性相の数密度に比して大きいことを特徴とするR−T−B系焼結磁石。
  2. 前記R−T−B系焼結磁石内部における、前記R 14 B型結晶内部に軟磁性相が生成されているR14B型結晶からなる主相粒子の数が、前記R−T−B系焼結磁石内部におけるR14B型結晶からなる主相粒子数の4%以下(0は含まない)であることを特徴とする請求項1に記載のR−T−B系焼結磁石。
  3. 前記R 14 B型結晶内部に軟磁性相が生成されているR14B型結晶からなる主相粒子において、主相中央部における前記軟磁性相の数密度をA1,主相外周部における前記軟磁性相の数密度をA2としたとき、A2/A1≧4であることを特徴とする請求項1または2に記載のR−T−B系焼結磁石。
  4. 前記R−T−B系焼結磁石内部における、前記R 14 B型結晶内部に軟磁性相が生成されているR14B型結晶からなる主相粒子の数が、前記R−T−B系焼結磁石内部におけるR14B型結晶からなる主相粒子数の2.5%以下(0は含まない)であることを特徴とする請求項3に記載のR−T−B系焼結磁石。
  5. 前記R14B型結晶からなる主相粒子の平均粒径が0.7〜3.5μmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載のR−T−B系焼結磁石。

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