以下に添付図面を参照して、この発明にかかる窒化ガリウム結晶、13族窒化物結晶、結晶基板、およびそれらの製造方法の一実施の形態を詳細に説明する。
[1]種結晶の結晶製造方法
本実施形態の製造方法は、13族窒化物結晶(例えば、窒化ガリウム結晶)として、13族窒化物(例えば、窒化ガリウム)で主に構成される針状結晶25をフラックス法により製造する方法である。尚、針状結晶25は、[3]で後述する結晶製造方法において種結晶として用いられるため、種結晶25と表記する場合もある。
次に、フラックス法による針状結晶25の製造方法について説明する。図1は、本発明の実施の一形態において、種結晶25を製造する結晶成長装置1の概略断面図である。図1に示すように、結晶成長装置1は、ステンレス製の閉じた形状の耐圧容器11を備えている。耐圧容器11内の設置台26には、反応容器12が設置される。尚、反応容器12は、設置台26に対して脱着可能となっている。
反応容器12は、アルカリ金属と少なくとも13族元素を含む物質との混合融液24を保持して、結晶成長を行うための容器である。反応容器12に原料を投入する作業は、耐圧容器11を例えばアルゴンガスのような不活性ガス雰囲気とされたグローブボックスに入れて行う。
原料であるアルカリ金属としては、ナトリウム、あるいはナトリウム化合物(例えば、アジ化ナトリウム)が用いられるが、その他の例として、リチウムや、カリウム等のその他のアルカリ金属や、当該アルカリ金属の化合物を用いるとしてもよい。尚、複数種類のアルカリ金属を用いるとしてもよい。
原料である13族元素を含む物質としては、例えば13族元素のガリウムが用いられるが、その他の例として、ホウ素、アルミニウム、インジウム等のその他の13族元素や、これらの混合物を用いるとしてもよい。
また、耐圧容器11には、耐圧容器11の内部空間23に、13族窒化物結晶の原料である窒素(N2)ガスおよび希釈ガスを供給するガス供給管14が接続されている。ガス供給管14は、窒素供給管17と希釈ガス供給管20に分岐しており、それぞれバルブ15、18で分離することが可能となっている。
希釈ガスとしては、不活性ガスのアルゴン(Ar)ガスを用いることが望ましいが、これに限定されず、その他の不活性ガスを希釈ガスとして用いてもよい。
窒素ガスは、窒素ガスのガスボンベ等と接続された窒素供給管17から供給されて、圧力制御装置16で圧力を調整された後、バルブ15を介してガス供給管14に供給される。一方、希釈ガス(例えば、アルゴンガス)は、希釈ガスのガスボンベ等と接続された希釈ガス供給管20から供給されて、圧力制御装置19で圧力を調整された後、バルブ18を介してガス供給管14に供給される。このようにして圧力を調整された窒素ガスと希釈ガスは、ガス供給管14にそれぞれ供給されて混合される。
そして、窒素および希釈ガスの混合ガスは、ガス供給管14からバルブ21を経て耐圧容器11内に供給される。耐圧容器11はバルブ21部分で結晶成長装置1から取り外すことが可能となっている。
また、ガス供給管14には、圧力計22が設けられており、圧力計22によって耐圧容器11内の全圧をモニターしながら耐圧容器11内の圧力を調整できるようになっている。
本実施の形態では、このように窒素ガスおよび希釈ガスの圧力をバルブ15、18と圧力制御装置16、19とによって調整することにより、窒素分圧を調整することができる。また、耐圧容器11の全圧を調整できるので、耐圧容器11内の全圧を高くして、反応容器12内のアルカリ金属(例えばナトリウム)の蒸発を抑制することができる。
本実施の形態の結晶製造方法における耐圧容器11内の窒素分圧は、5MPa〜8MPaの範囲内とすることが好ましい。
また、図1に示すように、耐圧容器11の外周にはヒーター13が配置されており、耐圧容器11および反応容器12を加熱して、混合融液24の温度を調整することができる。
本実施の形態の結晶製造方法における混合融液24の結晶成長温度は、860℃〜900℃の範囲内とすることが好ましい。
このように耐圧容器11および反応容器12を結晶成長温度まで加熱することにより、反応容器12内に原料の13族元素およびアルカリ金属(不純物が含まれていてもよい。)が溶融し、混合融液24が形成される。また、この混合融液24に上記分圧の窒素を接触させて混合融液24中に溶解することにより、13族窒化物結晶の原料である窒素を混合融液24中に供給することができる。(混合融液形成工程)
反応容器12の材質は特に限定するものではなく、BN焼結体、P−BN等の窒化物、アルミナ、YAG等の酸化物、SiC等の炭化物等を使用することができる。
反応容器12の内壁面、すなわち、反応容器12が混合融液24と接する部位は、13族窒化物が結晶成長できる材質で構成されていることが望ましい。13族窒化物が結晶成長できる材質の例としては、窒化ホウ素(BN)や、パイロリティックBN(P−BN)や、AlN等の窒化物や、アルミナ、イットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)等の酸化物、ステンレス鋼(SUS)等が挙げられる。さらに望ましくは、反応容器12において上述の混合融液24と接する部位に窒化ホウ素(BN)焼結体を用いるのがよい。
BN焼結体は、BN粉体を焼結したものであり、CVD(Chemical Vapor Deposition)で作製されるパイロリティックBN(P−BN)よりも表面が粗く凹凸が大きい。このため、P−BN表面よりもBN焼結体表面において、13族窒化物(例えば窒化ガリウム)結晶が核生成しやすくなる。
また、BNは13族窒化物(例えばGaN)と同じ六方晶の窒化物であるので、アルミナ等の酸化物よりも表面に13族窒化物(例えば窒化ガリウム)の結晶核が生成されやすい。
このように、反応容器12、特に、反応容器12において混合融液24と接する部分をBN焼結体とするので、P−BNや他の酸化物の反応容器を使用するよりも多くの針状結晶を作製することができる。
尚、上述では反応容器12の混合融液24と接する部分の材質として、BN焼結体を用いたが、その他の例として、ホウ素以外の13族元素(Al、Ga等)の焼結体を用いてもよい。
好適な実施形態としては、反応容器12に投入される混合融液24中の原料に関して、13族元素(例えば、ガリウム)とアルカリ金属(例えば、ナトリウム)との総モル数に対するアルカリ金属のモル数の比率を75%〜90%の範囲内とし、混合融液の結晶成長温度を860℃〜900℃の範囲内とし、窒素分圧を5MPa〜8MPaの範囲内とすることが好ましい。
尚、製造方法を実施する際の条件としては、13族元素:アルカリ金属のモル比が0.25:0.75である混合融液24については、例えば、結晶成長温度を860〜870℃の範囲とし、かつ窒素分圧を5.5〜6MPaの範囲とする(実施例1、2参照)のがより好ましい。また、13族元素:アルカリ金属のモル比が0.2:0.8である混合融液24については、例えば、結晶成長温度を890〜900℃の範囲とし、かつ窒素分圧を6〜8MPaの範囲とする(実施例6、8参照)のがより好ましい。
本実施形態の結晶製造方法によれば、上述した製造条件(温度、窒素分圧、アルカリ金属のモル比)で結晶成長を行うことにより、13族窒化物結晶の自発核成長を促進することができ、六方晶構造を有する13族窒化物結晶の−c軸方向(図2参照)への結晶成長速度を著しく速くすることが可能となる。その結果、無歪でc軸方向が長尺化した13族窒化物(例えば、窒化ガリウム)の針状結晶25(種結晶25)を製造することができる。
[2]種結晶
本実施形態にかかる13族窒化物結晶は、[1]で上述した製造方法で製造される針状結晶25(種結晶25)である。
図2は、13族窒化物の針状結晶25のc軸およびc面を説明する模式図である。[1]で上述した結晶製造方法によれば、図2に示すように、c軸方向に長尺化した13族窒化物の針状結晶25を結晶成長させることができる。
また、図2のc軸と直交するc面について、断面をとった図を図3に示す。図3に示すように、針状結晶25においてc軸と垂直な断面(c面)は六角形あるいは概ね六角形である。また、この六角形の辺に相当する針状結晶25の側面は、六方晶構造のm面で構成される。尚、図示はしないが、針状結晶25の側面としては、m面とc面とをつなぐm面に対して傾斜した面が含まれていてもよい。
ここで、針状結晶25においてc面の最大径を結晶径dと称することとする。すなわち結晶径dは、c面を構成する六角形の最も長い対角線の長さである。
発明者の経験によれば、フラックス法で種結晶として使用される針状結晶の実用的な長さは、種結晶を保持すること等を考慮すると約9mm以上であることが望まれる。また、種結晶の径は、細すぎるとハンドリングし難い上、原料の仕込み段階や、種結晶の設置段階で折れてしまう可能性があるので、100μm以上であることが望ましい。
そこで、本実施形態にかかる針状結晶25は、c軸と垂直な断面の形状が六角形あるいは概ね六角形であり、c軸の長さLが9mm以上であり、c軸と垂直な断面の結晶径dが100μm以上であり、c軸の長さLと、c軸と垂直な断面の結晶径dの比L/dが7以上であることを特徴とする。(実施例1〜9参照)
本実施形態の針状結晶25は上述のようなサイズであるため、実用的なサイズのバルク結晶を製造する際の種結晶として使用することができる。尚、従来、上述のようなサイズの窒化ガリウムの針状結晶を製造したという報告例はない。
[1]で上述した結晶製造方法によれば、製造条件(温度、窒素分圧、アルカリ金属のモル比)を上記好適範囲内に調整することで、結晶を特に長尺方向に極めて効率よく成長させることができる。そして、上述のように従来より長尺である13族窒化物の針状結晶25を得ることができる。また、[1]で上述した製造方法によれば、c軸と垂直な断面の結晶径dが100μm以上である13族窒化物の針状結晶25を得ることができる。このように[1]の製造方法によれば、実用的なサイズのバルク結晶の種結晶となり得る長尺の針状結晶25を製造することができるという効果を奏する。
また、本実施形態にかかる窒化ガリウムの針状結晶25は、電子線あるいは紫外光励起による室温での発光スペクトルが、概ね500nmから800nmの波長領域に発光を有しており、前記発光の強度のピークが600nmから650nmの波長領域にあることを特徴とする(<フォトルミネッセンスの測定結果>を参照のこと)。
即ちこれによれば、電子線や紫外線を照射することによって針状結晶25を橙色に発光させることができる。このような発光スペクトルを有する窒化ガリウム結晶は従来報告されていない。
このように、上述した[1]の製造方法によれば、原料に発光中心となる不純物原料を添加せずとも、反応容器12に原料であるナトリウムとガリウムとを投入し、窒素ガスを混合溶融24に融解させることによって、橙色に発光する窒化ガリウムの針状結晶25を製造することができる。
また、本実施形態にかかる窒化ガリウムの針状結晶25は、600nmから650nm波長領域内にある発光のピーク強度が、窒化ガリウムのバンド端近傍からの発光のピーク強度よりも大きいことを特徴とする(<フォトルミネッセンスの測定結果>を参照のこと)。
また、本実施形態にかかる窒化ガリウムの針状結晶25は、m面表面の転位密度が1×106cm-2よりも少ないことを特徴とする(<転移密度の測定結果>参照)。
これにより、針状結晶25を種結晶としてより大きなサイズの13族窒化物結晶のバルク結晶を結晶成長させる場合に、転位密度の小さい結晶を成長させることができる。
なお、本実施形態の窒化ガリウム結晶には不純物がドープされていても良い。例えば、Ge(ゲルマニウム)、O(酸素)、Si(シリコン)等のドナー性不純物、Mg(マグネシウム)、Li(リチウム)、Sr(ストロンチウム)、Ca(カルシウム)、Zn(亜鉛)等のアクセプター性不純物、Fe(鉄)、Mn(マンガン)、Cr(クロム)等の磁性を発現させる遷移金属、Eu(ユーロピウム)、Er(エルビウム)、Tb(テルビウム)、Tm(ツリウム)等の蛍光あるいは磁性を発現させる希土類元素等、B(ホウ素)、Al(アルミニウム)、In(インジウム)等の同属元素が不純物としてドープされても良い。この他、目的に合わせた不純物を適宜選択してドープしても良い。
[3]種結晶の育成による結晶製造方法
本実施形態にかかる結晶製造方法は、[2]で上述した13族窒化物の針状結晶25を種結晶(種結晶25)として用いて、フラックス法によりこの種結晶25をc軸と垂直方向にさらに結晶成長させ、c面をより大面積化した13族窒化物結晶を得る結晶成長工程を含む。
次に、フラックス法による結晶製造方法について説明する。図4は、種結晶25を成長させるための結晶成長工程に用いられる結晶成長装置1を説明する概略断面図である。結晶成長装置1の構成は、図1を参照して説明した構成と同様であるので同じ符号を付してここでの説明を省略する。
反応容器12には、[2]で上述した13族窒化物の針状結晶25(種結晶25)を設置する。また、反応容器12には、少なくとも13族元素を含む物質(例えば、ガリウム)およびアルカリ金属(例えば、ナトリウム)を投入する。13族元素を含む物質とアルカリ金属とのモル比は、特に限定されるものではないが、13族元素とアルカリ金属との総モル数に対するアルカリ金属のモル比を、40〜95%とすることが好ましい。
耐圧容器11の内部空間23には、窒素ガスおよび希釈ガスが所定のガス分圧で充填される。気体中の窒素ガス分圧は、特に限定されるものではないが、少なくとも0.1MPa以上とすることが好ましい。
結晶成長工程における混合融液24の温度は、特に限定されるものではないが、少なくとも700℃以上とすることが好ましい。
また、結晶成長工程の条件の組合わせとしては、例えば、13族窒化物:アルカリ金属のモル比が0.4:0.6の混合融液24に対して、温度900℃かつ窒素分圧6MPaとすることが好ましい(実施例参照)。
このような条件で種結晶25を径方向に結晶成長させ、図4に示すように、種結晶25の周辺に13族窒化物の結晶27を育成する。即ち、この結晶成長工程においては、種結晶25のm面が結晶成長面となり、混合融液24から供給される13族元素と窒素によって13族窒化物結晶が成長する。このようにして、種結晶25のc面が大面積化された13族窒化物結晶80(図5参照)、81(図6参照)、82(図7−1参照)、83(図9−1参照)を製造することができる。
このように種結晶25のm面を結晶成長面として周囲の結晶27を結晶成長させる場合、結晶27の転位密度はm面の品質に影響を受ける。これに対して本実施形態の製造方法によれば、[2]で上述した種結晶25は転移密度が低く高品質であるため、この種結晶25から13族窒化物の結晶27を成長させる場合には、種結晶25から結晶27に伝播する転位を減少させることができる。これにより、13族窒化物の結晶27の転位密度を低く抑えることができ、より大型でかつ高品質の13族窒化物結晶80〜83を製造することが可能となる。
本実施形態にかかる結晶製造方法では、種結晶25と、種結晶25から成長する13族窒化物の結晶27とを同じ材料(例えば、窒化ガリウム)とすることも可能である。従って、AlNのような異種材料の種結晶を用いる場合と異なり、格子定数や熱膨張係数は一致することとなり、格子不整合や熱膨張係数の違いによる転位の発生を除去することが可能となる。
さらに、種結晶25と13族窒化物の結晶27とは同様の結晶成長方法(フラックス法)で作製されているため、種結晶25と13族窒化物の結晶27とを互いに異なる方法で製造した場合に比べて、格子定数と熱膨張係数の整合性を向上させることが可能となり、転位発生をより抑制することができる。
上述のように、本実施形態にかかる結晶製造方法は、実用的なサイズの13族窒化物結晶を作製することができる。また、異種材料を種結晶として用いた場合と比べて、低転位密度で高品質な13族窒化物単結晶を製造することができる。
尚、上述ではフラックス法による結晶製造方法について説明したが、結晶製造方法は特に限定されるものではなく、HVPE法のような気相成長法や、フラックス法以外の液相法によって結晶成長を行うとしてもよい。
[4]13族窒化物結晶(バルク結晶)
本実施形態にかかる13族窒化物結晶は、[3]で上述した製造方法で製造される13族窒化物結晶である。
図5、図6、図7−1、図9−1は、本実施形態の13族窒化物結晶80、81、82、83の一例を示す模式図である。これらに図示するように、13族窒化物結晶80(図5参照)、81(図6参照)、82(図7−1参照)、83(図9−1参照)には、13族窒化物結晶80〜83の内部に種結晶25が含まれている。
本実施形態にかかる13族窒化物結晶80〜83は、種結晶として用いた13族窒化物の針状結晶25の少なくとも一部を含むことを特徴とする。
尚、13族窒化物結晶80〜83における種結晶25の位置は、13族窒化物結晶80〜83の内部であればよく、図5、図6、図7−1のように13族窒化物結晶80〜83の中央付近(断面の六角形の中心付近)に含まれていてもよいし、図9−1のように13族窒化物結晶80〜83の周辺部(前記中心より六角形の辺に近い領域)に含まれていても良い。
このような結晶は、[3]で上述した結晶製造方法によって種結晶25を結晶成長させることで製造することができる。即ち、種結晶25を中心にして窒化ガリウム結晶27を均等に結晶成長させること、あるいは、種結晶25から特定方向に結晶成長させることにより本実施形態の13族窒化物結晶80〜83を製造することができる。
このように、本実施形態の13族窒化物結晶80〜83は、種結晶25の少なくとも一部を内部に含んでおり、上述したように種結晶25は橙色に発光するので、種結晶25の場所を目視確認することができる。また、結晶80〜83の加工を行う場合に、種結晶25によって結晶方位のおよその方向が分かるので、結晶80〜83を切り出す方向についておよその見当をつけることができる。
尚、例えば図5の例では、m面やc面(図2参照)が形成され、六角柱状の結晶上にその六角柱の上底を底面とする六角錐がのった形状の13族窒化物結晶80が記載されているが、13族窒化物結晶の形状は特に限定されるものではなく、m面が形成されていない六角錐形状であっても良い。また、13族窒化物の結晶27中には不純物がドープされていても良い。
また、本実施形態の結晶製造方法によれば、[2]で上述した長さLが9mm以上の種結晶25を用いるため、長さLが9mm以上であり断面積は種結晶25より大きい13族窒化物結晶80〜83を得ることができる。
[5]結晶基板の製造方法
本実施形態にかかる結晶基板の製造方法は、[4]で上述した13族窒化物結晶80〜83から、複数の結晶基板を製造する方法である。
以下、本実施形態の製造方法の一例について図を参照して説明する。ここで図7−2および図9−2は夫々、13族窒化物結晶82(図7−1参照)、83(図9−1参照)をスライスする方向を示す模式図である。また、図8−1ないし図8−3、図10−1ないし図10−3は、スライス後に得られる結晶基板100(100a〜100f)の一例を示す模式図である。
本実施形態の製造方法は、13族窒化物結晶80〜83をスライスする場合に、種結晶25の少なくとも一部を含むように結晶基板を切り出す工程を含むことを特徴とする。
この場合に、図7−2の1点鎖線P1に示すように種結晶25のc軸に対して垂直にスライスして、図8−1に示す結晶基板100aを得てもよい。また、図7−2の1点鎖線P2に示すように種結晶25のc軸に対して斜めに傾けてスライスして、図8−2に示す結晶基板100bを得てもよい。さらに、図7−2の1点鎖線P3に示すように種結晶25のc軸に対して垂直にスライスして、図8−3に示す結晶基板100cを得てもよい。
尚、結晶基板100(100a〜100f)はスライス後に成形加工、表面加工等の各種加工が施されて、図8−1〜図8−3、図10−1〜図10−3に示すような13族窒化物の結晶基板100(100a〜100f)に加工される。
本実施形態の製造方法によれば、上述のようにc軸方向の長さが9mm以上、結晶径dが100μm以上である13族窒化物結晶82、83から結晶基板100を切り出すので、c面およびc面以外の面を切り出す場合のどちらにおいても基板主面を大面積とすることができ、各種半導体デバイスに用いることができる実用的なサイズの結晶基板100を製造することができる。
また、このようにいずれの方向にも切り出すことができるので、{0001}面(c面)、{10−10}面(m面)、{11−20}面(a面)、{10−11}面、{20−21}面、{11−22}面など、任意の結晶面を主面とする大面積の結晶基板100を製造することができる。
[6]結晶基板
本実施形態にかかる結晶基板は、[5]で上述した製造方法で製造される結晶基板100である。即ち、本実施形態の結晶基板100は、[2]で上述した種結晶25の少なくとも一部を含むことを特徴とする。
図8−1〜図8−3、図10−1〜図10−3に図示するように、本実施形態の結晶基板100(100a〜100f)には、結晶製造工程において用いられた種結晶25が含まれており、その種結晶25の少なくとも一部の表面は、種結晶25から成長した13族窒化物の結晶27によって被覆されている。尚、種結晶25は、13族窒化物の結晶27によってその全表面を被覆されていてもよいし、少なくとも一部の表面が被覆されていてもよい。
また、種結晶25は13族窒化物の結晶27の内部に含まれていれば、その位置は限定されるものではない。例えば図8−1、図8−2に示すように、結晶基板100の基板主面の中央付近に種結晶25が配置されてもよい。またこの場合に、種結晶25のc軸は、図8−1に示すように基板主面に対して垂直となるように配置されてもよいし、図8−2に示すように基板主面に対して傾斜していてもよい。
また、図8−3、図10−3に示すように、種結晶25のc軸が基板主面に対して平行になるように種結晶25が配置されていてもよい。さらに、種結晶25は、結晶基板100の基板主面の中央付近以外に配置されていてもよく、例えば図10−1、図10−2に示すように、種結晶25は結晶基板100の基板主面の周辺部に配置されていてもよい。
本実施形態によれば、[2]で上述したように種結晶25は橙色に発光するため、結晶基板100における種結晶25の位置を容易に判別することができる。従って、例えば、種結晶25の電気的特性がその周辺に成長した結晶27とは異なるような場合には、種結晶25を避けてデバイスを作製することによって、このデバイスの品質を向上させることができる。
[7]積層成長による結晶製造方法
本実施形態の結晶製造方法は、[6]で上述した結晶基板100の少なくとも1つの主面上に、13族窒化物結晶を積層成長させる工程を含むことを特徴とする。
図11−1、図12−1、図13−1は、積層成長させた結晶90の一例を示す図である。図11−1、図12−1、図13−1にそれぞれ示すように、結晶基板100(100a、100b、100c)の主面上に13族窒化物の結晶28を成長(積層成長)させる。このようにして、結晶基板100上に結晶28が積層された13族窒化物の結晶90、91、92を製造する。
尚、結晶28の結晶成長方法は特に限定されるものではなく、HVPE法のような気相成長法(実施例15参照)や、フラックス法のような液相法(実施例16参照)を用いることができる。また、積層成長させる工程においては、結晶28に不純物をドープするとしてもよい。
このように本実施形態の製造方法によれば、13族窒化物の結晶基板100(100a、100b、100c)の基板主面の全面(全域)を結晶成長させることができるので、基板主面とほぼ同面積の主面を有する13族窒化物結晶28を、結晶基板100上に結晶成長させることができる。
また、本実施形態によれば、高品質の結晶基板100上に積層成長させるので、結晶基板100の品質と同等の結晶28を成長させることができる。即ち、結晶28と結晶基板100とにおいて結晶の配向性や転位密度を同等にすることができる。
[8]積層成長させて製造される結晶
本実施形態にかかる13族窒化物結晶は、[6]で上述した製造方法で製造される13族窒化物結晶90、91、92である。
図11−1、図12−1、図13−1に示すように、13族窒化物結晶90、91、92においては、結晶基板100a、100b、100cの少なくとも1つの基板主面上に13族窒化物の結晶28がそれぞれ積層成長されている。
尚、図11−1、図12−1、図13−1に記載の13族窒化物結晶では、図8に示した結晶基板100(100a、100b、100c)上に13族窒化物結晶28が積層成長されているが、図10に示した結晶基板100(100d、100e、100f)上に13族窒化物結晶28が積層成長されているものであってもよい。
[9]積層成長させた結晶を切り出して結晶基板を製造する製造方法
本実施形態にかかる結晶基板の製造方法は、[8]で上述した13族窒化物結晶90、91、92から切り出した結晶を加工して13族窒化物の結晶基板を製造する工程を含むことを特徴とする。
図11−2、図12−2、図13−2および図11−3、図12−3、図13−3は、本実施形態にかかる結晶基板のスライス方法について説明する図である。まず、図11−2、図12−2、図13−2に示すように、13族窒化物結晶90から結晶基板100を含む結晶基板101と、結晶基板100を含まない結晶28bとに切り分ける。そして、図11−3、図12−3、図13−3に示すように、結晶28bを複数の結晶基板28b1〜28b6にスライスする。その後、各結晶基板101、28b1〜28b6を外形加工し、研磨等や表面処理等の加工を施す。
即ち、本実施形態の製造方法は、種結晶25を含めずに13族窒化物結晶90、91、92を切り出す工程を含んでいる。これにより、均質な結晶基板28b1〜28b6を多数製造することができる。
尚、結晶基板100上に積層する結晶28の厚みは特に限定されるものではなく、例えば図11−1において切り離される結晶28bの部分は結晶成長させず、結晶基板101の目標厚さが得られるような厚みの分だけ結晶28aを成長させて、結晶基板101を製造するとしてもよい。
また、図11−3、図12−3、図13−3においては、結晶28bを基板主面に対して平行にスライスしているが、結晶28bのスライス方向は特に限定されるものではなく、任意の方向にスライスすることができる。
本実施形態の製造方法によれば、{0001}面(c面)、{10−10}面(m面)、{11−20}面(a面)、{10−11}面、{20−21}面、{11−22}面など、各結晶面を主面とする13族窒化物の結晶基板(28b1〜28b6)を多数、製造することができる。
また、本実施形態の製造方法によって製造された各結晶面の結晶基板(28b1〜28b6)を新たな種結晶として用いて、上記[7]および[9]の製造方法によってさらに各結晶面の結晶基板を製造することも可能である。
また、本実施形態の製造方法によれば、上述したように転位密度の小さい結晶28から結晶基板(28b1〜28b6)を切り出すため、転移密度が小さく高品質の結晶基板(28b1〜28b6)を製造することができる。
[10]積層成長した結晶から製造される結晶基板
本実施形態にかかる結晶基板は、[8]で上述した製造方法によって製造される結晶基板101である。即ち、本実施形態の結晶基板101は、結晶基板100(100a〜100f)上に結晶28aが積層成長されているものである。
図14−1ないし図14−5は、積層成長を用いて製造した結晶基板101の一例を示す図である。即ち、図14−1は、結晶基板100a上に結晶28を積層成長させて製造した結晶基板101aを示す図である。また、図14−2は、結晶基板100b上に結晶28を積層成長させて製造した結晶基板101bを示す図である。図14−3は、結晶基板100c(100f)上に結晶28を積層成長させて製造した結晶基板101c(101f)を示す図である。図14−4は、結晶基板100d上に結晶28を積層成長させて製造した結晶基板101dを示す図である。図14−5は、結晶基板100e上に結晶28を積層成長させて製造した結晶基板101eを示す図である。
各図に示すように、結晶28の部分には種結晶25が含まれない。従って、結晶基板101(101a〜101f)において結晶28側の表面(基板主面の表面)には種結晶25が露出しないこととなる。従って、結晶28側の表面をデバイス製造に用いる場合には、結晶性や特性が均質である結晶28を用いることができ、デバイスの性能を向上させることができる。
また、[2]で上述したように種結晶25は橙色に発光するが、種結晶25から成長した結晶27および積層成長した結晶28は無色透明であるため、種結晶25の位置を目視確認することができる。
このように本実施形態によれば、種結晶25を表面に露出させずともその位置や方向を目視確認することができるため、デバイスの高性能化とデバイス製造時の効率とを両立することができる。
以下に本発明をさらに詳細に説明するために実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお符号は図1及び図4を参照して説明した結晶成長装置の構成に対応している。
(実施例1)<種結晶の製造例1>
BN焼結体からなる内径55mmの反応容器12に、ガリウムとナトリウムとのモル比を0.25:0.75として投入した。
グローブボックス内で、高純度のArガス雰囲気下、反応容器12を耐圧容器11内に設置し、バルブ21を閉じて反応容器12内部を外部雰囲気と遮断して、Arガスが充填された状態で耐圧容器11を密封した。
その後、耐圧容器11をグローブボックスから出して、結晶成長装置1に組み込んだ。すなわち、耐圧容器11をヒーター13に対して所定の位置に設置して、バルブ21部分で窒素ガスとアルゴンガスとのガス供給管14に接続した。
次に、バルブ21とバルブ18を開け、希釈ガス供給管20からArガスを注入し、圧力制御装置19で圧力を調整して耐圧容器11内の全圧を1MPaにしてバルブ18を閉じた。
そして、窒素ガス供給管17から窒素ガスを入れ、圧力制御装置16で圧力を調整してバルブ15を開け、耐圧容器11内の全圧を3.2MPaとした。すなわち、耐圧容器11の内部空間23の窒素の分圧は、2.2MPaであり、アルゴン分圧:窒素分圧は1:2.2である。また、窒素分圧:全圧=2.2:3.2である。その後、バルブ15を閉じ、圧力制御装置16を8MPaに設定した。
次いで、ヒーター13に通電し、反応容器12を結晶成長温度まで昇温した。実施例1では、結晶成長温度は860℃とした。
結晶成長温度では反応容器12内のガリウムとナトリウムは融解し、混合融液24を形成する。なお、混合融液24の温度は反応容器12の温度と同温になる。また、この温度まで昇温すると本実施例の結晶成長装置1では、耐圧容器11内の気体が熱せられ全圧は8MPaとなる。すなわち、上述のように窒素分圧:全圧=2.2:3.2であるから、このときの窒素分圧は5.5MPaとなる。
次に、バルブ15を開け、窒素ガス圧力を8MPaとして、耐圧容器11内部と窒素供給管17内部とを圧力平衡状態とした。このようにすることで、窒化ガリウムの結晶成長によって耐圧容器11内の窒素が消費された場合に、消費された分の窒素ガスを耐圧容器11内に補給することができ、耐圧容器11内の窒素分圧を5.5MPaに維持することができる。
この状態で反応容器12を250時間保持して窒化ガリウムの結晶成長を行った後、ヒーター13を制御して、耐圧容器11を室温(20℃程度)まで降温した。
耐圧容器11内のガスの圧力を下げた後、耐圧容器11を開けたところ、反応容器12内には、GaNの針状結晶25が多数、結晶成長していた。窒化ガリウムの針状結晶25は、−c軸([000−1])方向に成長していた。
結晶成長したGaNの針状結晶25は無色透明であり、その結晶径dは200〜500μmであり、その長さLは10〜18mm程度であり、長さLと結晶径dとの比率L/dは20〜90程度であった。GaNの針状結晶25は、c軸に概ね平行に成長しており、側面にはm面(図3参照)が形成されていた。
図18は、実施例1で作製されたGaNの針状結晶25の写真である。長さは18mmであった。GaNの針状結晶25は、反応容器12のBN表面から成長を開始し、GaNの針状結晶のC面の窒素極性面側(−c軸方向)を成長方向として結晶成長しており、長さ方向の時間平均成長速度は40〜72μm/h程度と見積もられ、幅方向の成長速度と比較して著しく速かった。
GaNの針状結晶25を酸性溶液でエッチングし、c面とm面を観察したところ、両面ともエッチピットは無いか、あっても数個程度であった。エッチピットは、転位に対応すると考えられることから、GaNの針状結晶25は転位が少なく高品質であることが分かった。
(実施例2)<種結晶の製造例2>
結晶成長温度を870℃とし、窒素分圧を6MPaとした以外は実施例1と同様にして、ガリウムとナトリウムとのモル比を0.25:0.75として結晶成長を行った。その結果、10mmから14mmの長さに成長したGaNの針状結晶25が多数得られた。
また、約20mmの長さの針状結晶25と、先端付近に微結晶が1つ付着した約21mmの長さの針状結晶25もそれぞれ1個ずつ成長していた。これらの針状結晶25の径dは150〜500μm程度であり、結晶のc軸に垂直な断面形状は六角形であった。
なお、GaNの針状結晶は、実施例と同様に、反応容器12のBN表面から成長を開始し、GaNの針状結晶25のC面の窒素極性面側を成長方向として結晶成長しており、すなわち、−c軸([000−1])方向に成長していた。長さ方向の時間平均成長速度は40〜84μm/h程度と見積もられ、幅方向の成長速度と比較して著しく速かった。
(実施例3)<種結晶の製造例3>
結晶成長温度を870℃とし、窒素分圧を6MPaとし、ガリウムとナトリウムとのモル比を0.2:0.8とした以外は実施例1と同様にして結晶成長を行った。その結果、最大で10mm程度の長さに成長したGaNの針状結晶25が得られた。
得られた針状結晶25の径dは100〜400μm程度であり、結晶のc軸に垂直な断面形状は六角形であった。なお、GaNの針状結晶25は、−c軸([000−1])方向に成長していた。
(実施例4)<種結晶の製造例4>
窒素分圧を6MPaとした以外は実施例1と同様にして、結晶成長温度を860℃とし、ガリウムとナトリウムとのモル比を0.25:0.75にして結晶成長を行った。その結果、最大で10mm程度の長さに成長したGaNの針状結晶25が得られた。
得られた針状結晶25の径dは100〜400μm程度であり、結晶のc軸に垂直な断面形状は六角形であった。なお、GaNの針状結晶25は、−c軸([000−1])方向に成長していた。
(実施例5)<種結晶の製造例5>
窒素分圧を5MPaとした以外は実施例1と同様にして、結晶成長温度を860℃とし、ガリウムとナトリウムとのモル比を0.25:0.75として結晶成長を行った。その結果、最大で10mm程度の長さに成長したGaNの針状結晶25が得られた。
得られた針状結晶25の径dは100〜400μm程度であり、結晶のc軸に垂直な断面形状は六角形であった。なお、GaNの針状結晶25は、−c軸([000−1])方向に成長していた。
(実施例6)<種結晶の製造例6>
結晶成長温度を900℃とし、窒素分圧を6MPaとし、ガリウムとナトリウムとのモル比を0.2:0.8とした以外は実施例1と同様にして結晶成長を行った。その結果、最大で15mm程度の長さに成長したGaNの針状結晶25が得られた。
得られた針状結晶25の径dは100〜400μm程度であり、結晶のc軸に垂直な断面形状は六角形であった。なお、GaNの針状結晶25は、−c軸([000−1])方向に成長していた。
(実施例7)<種結晶の製造例7>
結晶成長温度を900℃とし、窒素分圧を8MPaとし、ガリウムとナトリウムとのモル比を0.1:0.9とした以外は実施例1と同様にして結晶成長を行った。その結果、最大で9mm程度の長さに成長したGaNの針状結晶25が得られた。
得られた針状結晶25の径dは100〜400μm程度であり、結晶のc軸に垂直な断面形状は六角形であった。なお、GaNの針状結晶25は、−c軸([000−1])方向に成長していた。
(実施例8)<種結晶の製造例8>
結晶成長温度を890℃とし、窒素分圧を8MPaとし、ガリウムとナトリウムとのモル比を0.2:0.8とした以外は実施例1と同様にして結晶成長を行った。その結果、10〜13mm程度の長さに成長したGaNの針状結晶25が得られた。
得られた針状結晶25の径dは100〜400μm程度であり、結晶のc軸に垂直な断面形状は六角形であった。なお、GaNの針状結晶25は、−c軸([000−1])方向に成長していた。
(実施例9)<種結晶の製造例9>
結晶成長温度を900℃とし、窒素分圧を8MPaとし、ガリウムとナトリウムとのモル比を0.2:0.8とした以外は実施例1と同様にして結晶成長を行った。その結果、10mm程度の長さに成長したGaNの針状結晶25が得られた。
得られた針状結晶25の径dは100〜400μm程度であり、結晶のc軸に垂直な断面形状は六角形であった。なお、GaNの針状結晶25は、−c軸([000−1])方向に成長していた。
(比較例1)
結晶成長温度を910℃とし、窒素分圧を8MPaとし、ガリウムとナトリウムとのモル比を0.2:0.8とした以外は実施例1と同様にして結晶成長を行った。その結果、百ミクロン程度の大きさのGaN微結晶が少量得られたが、長さ9mm以上のGaNの針状結晶25は得られなかった。
(比較例2)
結晶成長温度を890℃とし、窒素分圧を8MPaとし、ガリウムとナトリウムとのモル比を0.05:0.95とした以外は実施例1と同様にして結晶成長を行った。その結果、百ミクロン程度の大きさのGaN微結晶が坩堝内壁に多数成長したが、長さ9mm以上のGaNの針状結晶25は得られなかった。
(比較例3)
結晶成長温度を850℃とし、窒素分圧を8MPaとし、ガリウムとナトリウムとのモル比を0.2:0.8とした以外は実施例1と同様にして結晶成長を行った。その結果、六角形の対角線の長さが数百ミクロン程度のGaN板状結晶が多数と六角形の対角線の長さが1mm程度のGaN板状結晶が数個得られた。しかしながら、長さ9mm以上のGaNの針状結晶25は得られなかった。
(比較例4)
結晶成長温度を870℃とし、窒素分圧を9MPaとし、ガリウムとナトリウムとのモル比を0.2:0.8とした以外は実施例1と同様にして結晶成長を行った。その結果、長さ1mm程度のGaN柱状結晶が数個と六角形の対角線の長さが数百ミクロン程度の板状のGaN微結晶が多数得られた。しかしながら、長さ9mm以上のGaNの針状結晶25は得られなかった。
上述の実施例1〜9及び比較例1〜4から明らかな通り、針状結晶(種結晶)25の製造方法を実施する際の条件は、ガリウムとナトリウムとの総モル数に対するナトリウムのモル数の比率を75%〜90%の範囲内とし、混合融液の結晶成長温度を860℃〜900℃の範囲内とし、窒素分圧を5MPa〜8MPaの範囲内とすることが好ましい。
また、実施例1、2から明らかな通り、針状結晶(種結晶)25の製造方法を実施する際の条件は、13族元素:アルカリ金属のモル比が0.25:0.75である混合融液24については、結晶成長温度を860〜870℃の範囲とし、かつ窒素分圧を5.5〜6MPaの範囲とするのがより好ましい。
さらに、実施例6、8から明らかな通り、針状結晶(種結晶)25の製造方法を実施する際の条件は、13族元素:アルカリ金属のモル比が0.2:0.8である混合融液24については、結晶成長温度を890〜900℃の範囲とし、かつ窒素分圧を6〜8MPaの範囲とするのがより好ましい。
このようなより好ましい条件とすれば、実施例1〜9から明らかなように、例えば、結晶の長さLが10mm以上で、長さL:結晶径dとの比率は7:1程度以上、あるいはL:dが15:1以上である、より長尺な13族窒化物の針状結晶25を得ることができる。
次に、実施例1ないし実施例9で製造したGaNの針状結晶25に対して行った各種測定の結果について記載する。
<転位密度の測定結果>
実施例1から実施例9で製造したGaNの針状結晶25のm面の表面を酸(リン酸と硫酸の混酸、230℃)でエッチングして形成されたエッチピットの密度を算出した。エッチピット密度は101〜104cm-2台であった。エッチピットは、転位に対応すると考えられることから、GaNの針状結晶25の転位密度は、101〜104cm-2以下であることが分かった。
このように本測定結果によれば、[1]で上述した製造方法で製造されたGaN結晶の針状結晶25は、m面表面の転位密度が1×106cm-2よりも少ないことが明らかである。
<不純物濃度の測定結果>
実施例1から実施例9で製造したGaNの針状結晶25内の不純物濃度を2次イオン質量分析(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)により測定した。その結果、結晶中の酸素濃度は、分析装置のバックグランドレベルの5×1017cm-3であった。なお、酸素のバックグランドレベルを2×1017cm-3まで下げた分析装置においては、検出された酸素濃度も、バックグランドレベル(2×1017cm-3)まで下がったので、実際の結晶中の酸素濃度はさらに小さいことが推測できる。
また、炭素、水素、ナトリウム濃度も2次イオン質量分析装置における検出のバックグランドレベルであった(炭素:3×1015cm-3、水素:3×1016cm-3、ナトリウム:4×1013cm-3)。また、結晶によってばらつきがあるが、ボロン(B)が、2×1018〜2×1019cm−2程度の範囲で検出された。
従って、実施例1ないし実施例9で製造されたGaNの針状結晶25は、不純物(酸素、炭素、水素、ナトリウム)が低濃度に抑制されており、高品質のGaN結晶であることが分かった。
<蛍光顕微鏡による観察結果>
実施例1から実施例9で製造したGaNの針状結晶25を蛍光顕微鏡で観察した。蛍光顕微鏡の光源には、波長320〜400nm、ピーク波長は370nmのものを使用した。フィルターを通して、波長≧420nmの蛍光像を観察した。結晶は、橙色の蛍光像が観察された。
図19は、本実施例2で製造したGaNの針状結晶25のm面の蛍光顕微鏡写真である。図19に示すように、橙色の蛍光像が観察された。
<フォトルミネッセンスの測定結果>
実施例1から実施例9で製造したGaNの針状結晶25のフォトルミネッセンス(PL)を室温で測定した。励起光源には、波長325nmのHe−Cdレーザーを使用した。
図20は、本実施例2で製造したGaNの針状結晶25の室温のフォトルミネッセンスのスペクトルである。図20に示すように、フォトルミネッセンスのスペクトルには、窒化ガリウムのバンド端近傍(364nm付近)からの発光と、625nm付近に強度のピークを有する500nm〜800nmにかけてのブロードな発光が観察された。また、500nm〜800nmにかけてのブロードな発光のピーク強度は、バンド端近傍からの発光のピーク強度よりも強くなっていた。
また、図20で例示したように、実施例1ないし実施例9で製造したGaNの針状結晶25においても、フォトルミネッセンスのスペクトルには、窒化ガリウムのバンド端近傍(364nm付近)からの発光と、おおよそ500nm〜800nmにかけてのブロードな発光が観察された。また、500nm〜800nmにかけてのブロードな発光のピーク強度は、バンド端近傍(364nm付近)における発光のピーク強度よりも大きかった。
尚、500nm〜800nmにかけてのブロードな発光の強度のピークは結晶により多少のばらつきがあり、強度のピークは一例として625nmや、640nmであったが、概ね600nm〜650nmに強度のピークを有する結果であった。
従来、GaN結晶に電子線や紫外線を照射して励起発光させたフォトルミネッセンスの発光スペクトルにおいて、バンド端近傍(364nm付近)の発光より長波長側の発光としては、550nm付近にピークを有するイエローバンド(Yellow Band)と呼ばれる発光が報告されている。
しかしながら、実施例1ないし実施例9で製造されたGaNの針状結晶25においては、このイエローバンドより長波長側の600nm〜650nm付近にピークを有する、イエローバンドとは異なる発光が観測された。そして、この600nm〜650nm付近における発光はこれまでに報告されていない波長域における発光である。
また、実施例1ないし実施例9で製造されたGaNの針状結晶25について、カソードルミネッセンス(CL)測定を行ったが、上述と同様の波長域における発光が見られた。
(実施例10)<種結晶の成長例1>
本実施例では、種結晶25として、幅500μm、長さ20mmの針状結晶を用いて窒化ガリウムの結晶成長工程を行い、GaN結晶80を製造した。また、本実施例では、図4に示す結晶成長装置1を用いて結晶成長を行った。
まず、耐圧容器11をバルブ21部分で結晶成長装置1から分離し、Ar雰囲気のグローブボックスに入れた。次いで、BN焼結体からなる内径55mmの反応容器12に、種結晶を設置した。尚、種結晶は、反応容器12の底に深さ4mmの穴をあけて差し込んで保持した。次に、ナトリウム(Na)を加熱して液化させて反応容器12内に入れ、ナトリウムが固化した後、ガリウム(Ga)を入れた。本実施例では、ガリウムとナトリウムとのモル比を0.4:0.6とした。
その後、グローブボックス内で、高純度のArガス雰囲気下、反応容器12を耐圧容器11内に設置した。そして、バルブ21を閉じてArガスが充填された耐圧容器11を密閉し、反応容器12内部を外部雰囲気と遮断した。
次に、耐圧容器11をグローブボックスから出して、結晶成長装置1に組み込んだ。すなわち、耐圧容器11をヒーター13に対して所定の位置に設置し、バルブ21部分でガス供給管14に接続した。
その後、バルブ21とバルブ18を開け、希釈ガス供給管20からArガスを入れ、圧力制御装置19で圧力を調整して耐圧容器11内の全圧を0.75MPaにしてバルブ18を閉じた。
そして、窒素供給管17から窒素ガスを入れ、圧力制御装置16で圧力を調整してバルブ15を開け、耐圧容器11内の全圧を3MPaにした。すなわち、耐圧容器11の内部空間23の窒素分圧は2.25MPaとなる。その後、バルブ15を閉じ、圧力制御装置16を8MPaに設定した。
次に、ヒーター13に通電し、反応容器12を結晶成長温度まで昇温した。結晶成長温度は900℃とした。900℃における耐圧容器11内の全圧は、圧力計22により8MPaと測定されたので、900℃における耐圧容器11内の窒素分圧は6MPaとなる。
そして、実施例1の操作と同様に、バルブ15を開け、窒素ガス圧力を8MPaとし、この状態で反応容器12を1000時間保持して窒化ガリウムを結晶成長させた。
その結果、反応容器12内には、GaNの針状結晶25を種結晶として、c軸と垂直方向に結晶径が増大し、結晶径のより大きなGaN結晶80が結晶成長していた(図4参照)。結晶成長した部分のGaNの結晶27は無色透明であった。また、GaN結晶80の結晶径は20mmであり、長さは47mmであった。GaN結晶80の結晶側面にはm面が形成されていた。
GaN結晶80のc面を切り出し研磨した後、酸性溶液でエッチングしたところ、エッチピットは数個しか観察されなかった。従来のAlN針状結晶を種結晶に用いたGaN結晶よりもはるかに転位が少なく高品質であった。
実施例10から明らかな通り、結晶製造方法を実施する際の条件は、ガリウムとナトリウムとのモル比を0.4:0.6とし、窒素分圧を6MPaとし、結晶成長温度を900℃とするのが好ましい。このような条件とすれば、より大型でかつ高品質なGaN結晶を作製することが可能となる。
(実施例11)<種結晶の成長例2>
本実施例では、種結晶25として、幅300μm、長さ約9mmの針状結晶を用いて窒化ガリウムの結晶成長工程を行い、GaN結晶80を製造した。また、本実施例では、図4に示す結晶成長装置1を用いて結晶成長を行った。反応容器12としては、内径23mm、深さ30mmのBN焼結体製の容器を用いた。
また、ガリウムとナトリウムとのモル比を0.5:0.5とした。結晶成長温度は885℃とし、窒素分圧を6MPa(全圧8MPa)とし、結晶成長時間は200時間とした。(尚、昇温前の室温における耐圧容器11内の全圧は3.1MPa、窒素分圧は2.32MPa、Ar分圧は0.78MPaとした。)
その結果、反応容器12内には、種結晶25の結晶径dがc軸と垂直方向に増大するよう結晶27が結晶成長し、結晶径のより大きなGaN結晶80(図5参照)が結晶成長していた。GaN結晶80の結晶径dは0.6mmであり、長さは反応容器12に差し込んだ種結晶の部分を含めて約9mmであった。また、結晶側面にはm面が形成されていた。
ところで、面方位の異なる複数の結晶面が同時に結晶成長する際には、異なる結晶成長方向によって成長した成長分域(セクター)が複数形成される場合がある。尚、隣接する成長分域同士の境界面は、成長分域境界(セクターバウンダリ)と呼ばれる。このような成長分域においては、それぞれの成長分域同士の光学特性が異なる場合がある。また、成長分域境界においても、何らかの不純物や欠陥が偏析したり結晶構造に歪みが生じたりして、反射率、吸収率、透過率、屈折率等の光学特性が他の結晶部分と異なることとなり、成長分域境界が明瞭に観察される場合がある。
また、結晶成長時に結晶成長速度が変動した場合等には、欠陥の生成量や不純物の固溶量にも変動が生じ、特定の結晶面に沿う面状に成長縞が形成される場合がある。このような成長縞は、結晶中の他の部分との反射、吸収、透過、屈折等の光学特性の違いや、あるいは不純物による着色等により明瞭に観察される場合がある。
しかしながら、本実施例で結晶成長した部分の結晶27は無色透明であり、成長分域境界や、その他の成長縞は観察されなかった。
次に、GaN結晶80の側面(m面)と断面を蛍光顕微鏡で観察した。蛍光顕微鏡の光源には、波長320〜400nm、ピーク波長は370nmのものを使用した。蛍光像は、フィルターを通して、波長≧420nmの蛍光像を観察した。
図21は、実施例11で製造されたGaN結晶80の側面(m面)の顕微鏡像(a)と、(a)と同じ場所における蛍光像(b)である。尚、(a)の光源としては可視光を用いた。図21(a)に示すように、GaN結晶80の側面(m面)においては、平坦な結晶表面が観察された。また、図21(b)に示すように、紫外線(320〜400nm)によって種結晶25の電子状態が励起され、種結晶25が橙色に発光するのが観察された。尚、種結晶25の周りに成長した結晶27からの可視発光は観察されなかった。
図22は、GaN結晶80の断面(c面)の蛍光像である。図22に示すように、GaN結晶80内部にある六角形の種結晶25が、発光して橙色に観察された。また、種結晶25の周りに成長した結晶27においては、結晶27内部に明瞭な成長分域境界や成長縞は観察されず無色透明な結晶中を種結晶25からの光が導波しているのが観察された。
次に、GaN結晶80のc面のフォトルミネッセンスを室温で測定した。励起光源には、波長325nmのHe−Cdレーザーを使用した。種結晶25のフォトルミネッセンスのスペクトルには、窒化ガリウムのバンド端近傍(364nm付近)からの発光と、強度のピークが625nm(600nm〜650nm)にあるおおよそ500nm〜800nmにおける発光が観察された。また、500nm〜800nmにかけてのブロードな発光は、バンド端近傍からの発光よりも強かった。
一方、種結晶25の周りに成長した結晶27のフォトルミネッセンスのスペクトルには、窒化ガリウムのバンド端近傍(364nm付近)からの強い発光が観測されたが、500nm〜800nmにかけてのブロードな発光は観測されなかった。
(実施例12)<種結晶の成長例3>
本実施例では、種結晶25として幅500μm、長さ20mmの針状結晶を用いて窒化ガリウムの結晶成長工程を行い、GaN結晶80を製造した。また、本実施例では、図4に示す結晶成長装置1を用いて結晶成長を行った。反応容器12としては、内径55mm、深さ60mmのBN焼結体製の容器を用いた。
また、ガリウムとナトリウムとのモル比を0.4:0.6とした。結晶成長温度は900℃とし、窒素分圧を6MPa(全圧8MPa)とし、結晶成長時間は1000時間とした。(尚、昇温前の室温における耐圧容器11内の全圧は3MPa、窒素分圧は2.25MPa、Ar分圧は0.75MPaとした。)
その結果、反応容器12内には、種結晶25の結晶径dがc軸と垂直方向に増大するよう結晶27が結晶成長し、結晶径のより大きなGaN結晶80(図5参照)が結晶成長していた。GaN結晶80の結晶径dは20mmであり、長さは47mmであった。また、結晶側面にはm面が形成されていた。結晶成長した部分の結晶27は無色透明であった。
GaN結晶80のc面を切り出して研磨した後、酸性溶液でエッチングして観察したところ、エッチピットは数個しか観察されなかった。従来の結晶製造方法で窒化アルミニウム針状結晶を結晶成長させたGaN結晶に比べると、はるかに転位が少なく高品質であることが分かった。
次に、切り出したGaN結晶80のc面におけるフォトルミネッセンスを室温にて測定した。励起光源には、波長325nmのHe−Cdレーザーを使用した。種結晶25のフォトルミネッセンスのスペクトルには、窒化ガリウムのバンド端近傍(364nm付近)からの発光と強度のピークが625nm(600nm〜650nm)にある、おおよそ500nm〜800nmが観察された。また、500nm〜800nmにかけてのブロードな発光は、バンド端近傍からの発光よりも強かった。
一方、種結晶25の周りに成長した結晶27のフォトルミネッセンスは、窒化ガリウムのバンド端近傍からの強い発光(364nm付近)が観測されたが、500nm〜800nmにかけてのブロードな発光は観測されなかった。
(実施例13)<種結晶の成長例4>
本実施例では、図15に示す結晶成長装置2を用いて種結晶25の結晶成長工程を行い、GaN結晶81を製造した。図15は、実施例13で用いた結晶成長装置2の構成例を示す模式図(断面図)である。本実施例の結晶成長装置2において、ステンレス製の外部耐圧容器50内には内部耐圧容器51が設置され、内部耐圧容器51内にはさらに反応容器52が収容されており、二重構造を成している。
外部耐圧容器50内には、反応容器52内の混合融液24を加熱するためのヒーター53が設置されている。内部耐圧容器51は、ステンレス製の閉じた形状を成し、外部耐圧容器50から取り外すことができる。そして、内部耐圧容器51内には、金属ナトリウムとガリウムを含む混合融液24を保持し、結晶成長を行うための反応容器52が設けられている。
本実施例では、YAG製の内径92mm、深さ60mmの反応容器52を用いた。尚、反応容器52の材質は特に限定するものではなく、BN焼結体、P−BN等の窒化物、アルミナ、YAG等の酸化物、SiC等の炭化物等を使用することができる。
以下にこの結晶成長装置2を使用したGaN結晶の成長方法を説明する。まず、内部耐圧容器51をバルブ61部分ではずして結晶成長装置2から分離し、Ar雰囲気のグローブボックスに入れる。
次に、反応容器52に、種結晶25を設置した。本実施例では、種結晶25として幅500μm、長さ約20mmの針状結晶を種結晶25として用いた。尚、種結晶25は、反応容器52の底に深さ4mmの穴をあけて差し込んで保持した。
次に、金属ナトリウム(Na)を加熱して液体にして反応容器52内に入れた。ナトリウムが固化した後、ガリウムを入れた。本実施例では、ガリウムとナトリウムとのモル比を0.3:0.7とした。
その後、グローブボックス内で、高純度のArガス雰囲気下、反応容器52を内部耐圧容器51内に設置した。そして、バルブ61を閉じてArガスが充填された内部耐圧容器51を密閉し、反応容器52内部を外部雰囲気と遮断した。
次に、内部耐圧容器51をグローブボックスから出して、結晶成長装置2に組み込んだ。すなわち、内部耐圧容器51を外部耐圧容器50の所定の位置に設置し、バルブ61部分でガス供給管54に接続した。内部耐圧容器51を外部耐圧容器50に取り付けることによって、外部耐圧容器50内は外部雰囲気と遮断される。
次いで、バルブ61とバルブ63の間の配管内と外部耐圧容器50内の真空引きと窒素導入をバルブ62を介して10回繰り返した。なお、バルブ63はあらかじめ閉じてある。その後、バルブ62を閉じ、バルブ61とバルブ63とバルブ58を開け、全圧調整用のガス供給管60からArガスを入れ、圧力制御装置59で圧力を調整して外部耐圧容器50内と内部耐圧容器51内の全圧を1.5MPaにしてバルブ58を閉じた。
そして、窒素供給管57から窒素ガスを入れ、圧力制御装置56で圧力を調整してバルブ55を開け、外部耐圧容器50と内部耐圧容器51内の全圧を3.4MPaにした。すなわち、外部耐圧容器50の内部空間67と内部耐圧容器51の内部空間68の窒素分圧は1.9MPaとなる。その後、バルブ55を閉じ、圧力制御装置56を8MPaに設定した。
次に、ヒーター53に通電し、反応容器52を結晶成長温度まで昇温した。結晶成長温度は900℃とした。900℃における外部耐圧容器50と内部耐圧容器51内の全圧は、圧力計64により8MPaと測定されたので、900℃における外部耐圧容器50と内部耐圧容器51内の窒素分圧は4.47MPaとなる。
そして、バルブ55を開け、窒素ガス圧力を8MPaとし、この状態で反応容器52を2000時間保持してGaN結晶27を結晶成長させた。窒素ガス圧力を8MPaかけておくことにより、結晶成長によって消費された窒素が供給され、常に窒素分圧を一定に保持しておくことができる。
その結果、反応容器52内には、種結晶25の結晶径dがc軸と垂直方向に増大するよう結晶27が結晶成長し、結晶径dのより大きなGaN結晶81(図6参照)が結晶成長していた。GaN結晶81の結晶径dは60mmであり、長さは反応容器52に差し込んだ種結晶25の部分を含めて約35mmであった。図6に示すように、GaN結晶81の上面は凹凸が形成されたc面となっており、側面にはm面が形成され、GaN結晶81の上部外周にはc面とm面とをつなぐなだらかな傾斜面が形成されていた。また、種結晶25は、GaN結晶81のほぼ中心に内包されていた。
(実施例14)<結晶基板の製造例>
本実施例では、実施例13において製造したGaN結晶81を切り出す工程を行い、結晶基板100aを製造した。即ち、GaN単結晶81(図6参照)を外形研削し、図7−2のP1に示すようにc面に平行にスライスした。その後、表面研磨およびその他の表面処理を施して、φ2インチ、厚さ400μmのc面を主面とするGaNの結晶基板100a(図8−1参照)を製造した。
基板主面(c面)を酸性溶液(リン酸と硫酸の混酸、230℃)でエッチングし、エッチピットの密度を評価したところ、102cm−2台であった。従来の結晶製造方法によって窒化アルミニウム針状結晶を結晶成長させたGaN結晶に比べて、はるかに転位が少なく高品質であった。
次に、この結晶基板100aのフォトルミネッセンスを室温で測定した。励起光源には、波長325nmのHe−Cdレーザーを使用した。種結晶25のフォトルミネッセンスのスペクトルにおいては、窒化ガリウムのバンド端近傍(364nm付近)からの発光と、強度ピークが625nm(600nm〜650nm)にある、おおよそ500nm〜800nmからの発光が観察された。また、500nm〜800nmにかけてのブロードな発光が、バンド端近傍からの発光よりも強かった。
一方、種結晶25の周りに成長したGaNの結晶27のフォトルミネッセンスについては、窒化ガリウムのバンド端近傍(364nm付近)からの強い発光が観測され、500nm〜800nmにかけてのブロードな発光は観測されなかった。
(実施例15)<HVPE法を用いた結晶製造例および結晶基板の製造例>
本実施例では、HVPE法による積層成長工程を行って、実施例14で製造したGaN結晶基板100a(図8−1参照)上に、GaN結晶28を1mmエピタキシャル成長させて、図11−1に示すようなGaN結晶90を製造した。また、そのGaN結晶90からGaN結晶基板101(図11−2参照)を製造した。
ここで、図16を参照してHVPE法による積層成長工程について説明する。図16は、本実施例で用いた結晶成長装置3の構成例を示す模式図(断面図)である。図16に示すように、結晶成長装置3において反応容器には各種ガスが導入可能となっており、また、装置内を加熱するためのヒーター30が反応容器外周に設置されている。
本実施例のHVPE法による結晶成長では、キャリアガスに水素を使用した。そして、ガリウム40と塩化水素ガスを900℃で反応させて生成した塩化ガリウムガスを、1100℃に加熱したGaN結晶基板100(100a)上に輸送して、アンモニアガスと反応させ、GaN結晶基板100(100a)上にGaN28を結晶成長させ、GaN結晶90(図11−1参照)を得た。
その後、製造されたGaN結晶90を外径加工後、研磨、表面処理等の基板加工を行い、直径2インチのGaN結晶基板101(101a)(図11−2、図14−1参照)を製造した。
(実施例16)<フラックス法を用いた結晶製造例および結晶基板の製造例>
本実施例では、フラックス法による積層成長工程を行って、実施例14で製造したGaN結晶基板100(100a)上に、GaNの結晶28を10mm結晶成長させて、図11−1に示すようなGaN結晶90を製造した。そして、そのGaN結晶90からGaN結晶基板101(101a)(図11−2、図14−1参照)と、GaN結晶基板28b1〜28b6(図11−3参照)を製造した。
ここで、図17を参照してフラックス法による積層成長工程について説明する。図17は、本実施例で用いた結晶成長装置2の構成例を示す模式図(断面図)である。本実施例の結晶成長装置2は、図15に記載したものと同等のものであるので、説明は省略する。
本実施例では、反応容器52に投入するガリウムとナトリウムとのモル比を0.25:0.75とした。結晶成長温度は880℃とし、窒素分圧は4MPa(全圧8MPa)とし、結晶成長時間は1000時間とした。(尚、昇温前の室温における内部空間67、68の全圧は3.6MPa、窒素分圧は1.8MPa、Ar分圧は1.8MPaとした。)
その結果、GaN100上にはc面を主面とするGaN結晶28が結晶成長し、図11−1に示すようなGaN結晶90が得られた。GaN結晶28の厚さは10mmであり、直径はGaN結晶基板100(100a)の直径(φ2インチ)よりも若干大きい程度であった。
次いで、GaN結晶90を外径加工し、図11−2に示すように、c面に平行にスライスして、GaN結晶基板101と、GaN結晶基板100上に成長したGaN結晶28bとを切り分けた。そして、そのGaN結晶28bを図11−3に示すようにさらにスライス加工して直径約2インチのGaN結晶基板28b1〜28b6を得た。スライス後の各結晶基板は、研磨、表面処理等の加工を施した。
このように本実施例では、直径が2インチ程度の大面積のGaN結晶基板101、28b1〜28b6を製造することができ、高品質のGaN結晶90からGaN結晶基板を多数製造することができた。