JP6145525B1 - フィラメント及びフィラメントの製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】熱溶解積層法(FDM)の3次元印刷装置に用いられる原料フィラメントであって、搬送中に折れ曲がることのない軟質フィラメント、及び、任意の硬度に成形することができるフィラメントの製造方法を提供する。【解決手段】熱溶解積層法(FDM)を利用した3次元印刷装置によって印刷される印刷物の原料として用いられるフィラメントであって、ポリ乳酸樹脂と熱可塑性エラストマーとを含有する。【選択図】 図1

Description

本発明は、熱溶解積層法(FDM)を利用した3次元印刷装置によって印刷される印刷物の原料として用いられるフィラメント及びフィラメントの製造方法に関する。
従来より、試作品や治具等の立体造形品の作成には3次元印刷装置が利用されている。3次元印刷装置は3Dプリンターとも称され、3次元印刷装置はコンピュータ上に取り込まれた立体図面データに従って樹脂等の原材料によって立体造形品を作成することができる。
立体造形品を形成する方法には種々の方法があり、その1つに熱溶解積層法(FDM)が存在する。熱溶解積層法(FDM)は、熱可塑性樹脂等の原料フィラメントをヘッドに設けられたヒーターにより加熱溶解しながらノズルから吐出し、ノズルを例えば平面方向に稼動させて立体造形品の第一層を形成し、次に第一層の上面に第二層、第三層というように積層させていくことにより立体造形品を得る方法である。
熱溶解積層法(FDM)の3次元印刷装置は、レーザーや粉末焼結による造形法を利用した3次元印刷装置と比べて安価であり広く普及している。
このような従来の熱溶解積層法(FDM)の3次元印刷装置にあっては、例えば、ABS樹脂やポリ乳酸(PLA)樹脂といった、ショアA硬度が大きい硬質樹脂であって、比較的低融点の樹脂からなるフィラメントを用いて立体造形物を印刷していた。
一方で、原料のフィラメントとして硬質フィラメントよりもショアA硬度が小さい軟質フィラメントを用いて印刷することができれば、柔軟性を必要とする部品等の成形品の製作が可能となり、利用範囲はさらに広がることとなる。
しかしながら、一般的な熱溶解積層法(FDM)の3次元印刷装置の原料フィラメントとして軟質フィラメントを用いると、フィラメント自体の剛性がないため、ヘッドまでの搬送過程、又は、ヘッド内においてフィラメントが折れ曲がって搬送不能になる、いわゆるジャミングという現象が発生してしまうという不具合があった。
また従来より、軟質フィラメントを使用することが出来る熱溶解積層法(FDM)の3次元印刷装置も存在したが、軟質フィラメントの専用機となり、汎用性がなく、また高価なものとなるため、手軽に使用するには不向きであった。
以上より、一般的な熱溶解積層法(FDM)の3次元印刷装置の原料フィラメントとしては、ヒーターによって溶解しうる融点と、搬送中に折れ曲がることのない一定以上の硬度との主に2つの条件を満たす必要がある。
しかし、従来の原料フィラメントにあっては、単一成分からなる原料を選択して用いていたに過ぎなかったため、前記2つの条件を満たすようなフィラメントは限定され、任意の硬度の成形品を製作することができなかった。
本件特許出願人はこのような観点から先行技術調査を行ったが、前記不具合を解消するような技術は発見できなかった。
特表第2016−501137号公報
本発明は、以上のような従来からの不具合を解消するためのものであって、その課題は、熱溶解積層法(FDM)の3次元印刷装置に用いられる原料フィラメントであって、搬送中に折れ曲がることのない軟質フィラメント、及び、任意の硬度に成形することができるフィラメントの製造方法を提供することにある。
前記課題を解決するために、請求項1に記載の発明にあっては、熱溶解積層法(FDM)を利用した3次元印刷装置によって印刷される印刷物の原料として用いられるフィラメントであって、ポリ乳酸樹脂と、スチレン系樹脂及び鉱物油系可塑剤を重量混合比が25:75から重量混合比が30:70までの任意の割合で含有する熱可塑性エラストマーとを1重量部:1重量部から10重量部:1重量部までの任意の割合で含有することを特徴とする
「ポリ乳酸(PLA)樹脂」は、乳酸をエステル結合によって重合して生成する合成樹脂である。融点が170℃でショアA硬度が100以上である。
ここで、ショアA硬度とは、JIS K 7215(プラスチック)、又はJIS K 6253(加硫ゴム及び熱可塑性ゴム)に規定された方法においてタイプAデュロメータを用いて測定される硬度である。樹脂やゴムにおける硬質及び軟質の定義は種々のものがあるが、ここではショアA硬度が95以上のものを硬質、ショアA硬度が95以下のものを軟質と呼ぶこととする。
また、「スチレン系樹脂」は、スチレン系エラストマーを含む概念である。
スチレン系エラストマーとは、ポリスチレンとポリエチレン−ポリブチレンとをブロック共重合させた熱可塑性エラストマーであり、ポリスチレンのドメインが物理架橋点となり架橋ゴムの架橋点に相当する役割を果たすため、弾性体としての性質を示す。一方で、140〜230℃の射出または押出成形可能な温度になるとポリスチレン部分もポリエチレン・ポリブチレンの部分も共に溶融され、熱可塑性樹脂としての流動特性を示す。
「可塑剤」は、熱可塑性合成樹脂に加えて柔軟性や対候性を改良するための添加薬品類の総称である。
「鉱物油」は、鉱油とも呼ばれ、石油(原油)、天然ガス、石炭など地下資源由来の炭化水素化合物もしくは不純物をも含んだ混合物の総称である。一般的には、鉱物油は、パラフィン系オイル、ナフテン系オイルまたは高級脂肪酸のいずれかに分類される。
請求項2に記載の発明にあっては、熱溶解積層法(FDM)を利用した3次元印刷装置によって印刷される印刷物の原料として用いられるフィラメントの製造方法であって、ポリ乳酸樹脂と、スチレン系樹脂及び鉱物油系可塑剤を重量混合比が25:75から重量混合比が30:70までの任意の割合で含有する熱可塑性エラストマーとを1重量部:1重量部から10重量部:1重量部までの任意の割合で合計100重量%となるように混合し、加熱して溶解し、押出成形によりフィラメントを製造することを特徴とする。
従って、ポリ乳酸樹脂と、スチレン系樹脂及び鉱物油系可塑剤を重量混合比が25:75から重量混合比が30:70までの任意の割合で含有する熱可塑性エラストマーとが1重量部:1重量部から10重量部:1重量部までの任意の割合で混合されたフィラメントが押出成形により製造される。
請求項1に記載のフィラメントにあっては、硬度の大きいポリ乳酸と硬度の小さい熱可塑性エラストマーとを含有するので、ポリ乳酸と熱可塑性エラストマーとの割合によって、硬度を連続的に変化させることができる。
一方で、請求項1に記載のフィラメントにあっては、ポリ乳酸の融点が熱可塑性エラストマーの融点とほぼ同じであるので、ポリ乳酸と熱可塑性エラストマーとの割合にかかわらず、ほぼ一定の融点を示す。
従って、融点がほぼ一定でありながら、ポリ乳酸の硬度と熱可塑性エラストマーの硬度との間の任意の硬度を有するフィラメントを提供することができる。
その結果、ポリ乳酸と熱可塑性エラストマーとを含有するフィラメントにおいて、硬度の大きいポリ乳酸を一定の割合以上含むものについては、一般的な熱溶解積層法(FDM)の3次元印刷装置の原料フィラメントとして、ヒーターによって溶解しうる融点と、搬送中に折れ曲がることのない一定以上の硬度との2つの条件を満たすフィラメントを提供することができる。
また、請求項2に記載のフィラメントの製造方法にあっては、硬度の大きいポリ乳酸樹脂と硬度の小さい熱可塑性エラストマーとが1重量部:1重量部から10重量部:1重量部までの任意の割合で混合されたフィラメントが押出成形により製造されるので、ポリ乳酸と熱可塑性エラストマーとの割合によって、ポリ乳酸の硬度と熱可塑性エラストマーの硬度との間の任意の硬度を有するフィラメントに成形することができる。
一方で、請求項2に記載のフィラメントの製造方法にあっては、ポリ乳酸の融点が熱可塑性エラストマーの融点とほぼ同じであるので、ポリ乳酸と熱可塑性エラストマーとの割合にかかわらず、ほぼ一定の融点を示すフィラメントに成形することができる。
その結果、融点がほぼ一定でありながら、ポリ乳酸の硬度と熱可塑性エラストマーの硬度との間の任意の硬度を有するフィラメントを成形することができるフィラメントの製造方法を提供することができる。
また、請求項2に記載のフィラメントの製造方法にあっては、フィラメントを押出成形により製造することによって、成形されたフィラメントは押出方向には変形しにくく、押出方向と直交する方向には変形しやすいという異方性を有している。
従って、請求項2に記載のフィラメントの製造方法により成形されたフィラメントを熱溶解積層法(FDM)の3次元印刷装置の原料フィラメントとして用いた場合には、ヘッドまでの搬送方向がフィラメントの押出方向と一致するため、ヘッドまでの搬送方向に対してフィラメントが剛性を有する。
その結果、ヘッドまでの搬送過程、又は、ヘッド内においてフィラメントが折れ曲がって搬送不能になる、いわゆるジャミングという現象が発生してしまうという事態を防止することができる。
また、一般に3次元印刷装置においてフィラメントを搬送する際には、溝部を有するドライブギアとローラーとにより挟持しながら繰り出して搬送する。
この際、請求項2に記載のフィラメントの製造方法により成形されたフィラメントを熱溶解積層法(FDM)の3次元印刷装置の原料フィラメントとして用いた場合には、ドライブギアとローラーとにより挟持された際に、フィラメントがドライブギアの溝部に強く押し付けられるが、押し付けられる方向は、フィラメントの押出方向と直交する方向であるため、前記のようにフィラメントが変形しやすい。
その結果、フィラメントがドライブギアの溝部に合わせて変形し、ドライブギアの溝部に噛み合うことによって、フィラメントの滑りを防止することができる。
従って、ドライブギアによりフィラメントを確実に搬送することができ、長時間に亘って安定して立体造形物を印刷することができる。
図1は、本実施の形態に係るフィラメントにおいて、ポリ乳酸樹脂と熱可塑性エラストマーとを合計100重量%となるように混合させた場合に熱可塑性エラストマーの含有率とショアA硬度との関係を示すグラフである。 図2(a)は、本実施の形態に係るフィラメントと同一の条件にて押出成形したシート試料において、伸びと引張強度との関係を示すグラフ、(b)は、(a)のグラフにおいて、伸びが0%〜200%の範囲を拡大したグラフである。 図3は、図2(a)及び(b)の測定に用いたシート試料の平面図である。 図4(a)は、本実施の形態に係るフィラメントと同一の条件にて押出成形したシート試料の斜視図、(b)は、(a)のシート試料を走査型電子顕微鏡にて観察した垂直方向断面図、(c)は、(b)の模式図、(d)は、(a)のシート試料を走査型電子顕微鏡にて観察した流れ方向断面図、(e)は、(d)の模式図である。
以下、実施の形態及び実施例に基づき本発明を詳細に説明する。
[フィラメントの製造工程]
本実施の形態に係るフィラメントは、一般的な押出成形機により製造される。
具体的には、65φ押出機を用いている。シリンダー温度は、ダイス150〜180℃、計量部160〜200℃、圧縮部160〜200℃、供給部150〜180℃である。
また、限界温度は240℃、冷却水槽内の冷却水の温度は8〜15℃、ダイ・サイザー間距離2〜5cm、引き落とし率0.87〜0.92、サイジング方式はドライバキュームである。
本実施の形態に係るフィラメントにあっては、ポリ乳酸樹脂(A)のペレットと熱可塑性エラストマー(B)のペレットとを合計100重量%となるように混合した後に、押出成形機の注入口に混合したペレットを入れ、加熱しながらスクリューを回転させ樹脂を溶融させながら送り出し、先端の金型より、押し出して冷却水槽にて冷却・固化させて、直径1.75mmのフィラメントとして製造する。
[3次元印刷装置]
本実施の形態に係る3次元印刷装置は、熱溶解積層法(FDM)を利用しており、データ処理部と前記データ処理部より供給される制御信号に基づいて3次元印刷を行う印刷部とから構成されている。
前記印刷部は、ヒーター部とノズル部とを備えたヘッド部を有し、前記ヘッド部は、原料フィラメントを前記ノズル部へ供給するドライブギアと、ローラーとを有している。前記ドライブギアには、溝部が設けられている。
本実施の形態に係る3次元印刷装置にあっては、原料フィラメントを前記ドライブギアと前記ローラーとにより挟持しながら繰り出して前記ヘッド部へと搬送し、前記ヒーター部によって溶解されたフィラメントが前記ノズル部から吐出されて印刷物が形成されるように構成されている。
[原材料]
A:ポリ乳酸樹脂
本発明におけるポリ乳酸樹脂(A)は純度95%以上で、5%以下の添加剤を含んでおり、融点は170℃である。また、本発明におけるポリ乳酸樹脂(A)は、D体含有量が1.0モル%以下であるか、または、D体含有量が99.0モル%以上であることが必要であり、中でも、0.1〜0.6モル%であるか、または、99.4〜99.9モル%であることが好ましい。
D体含有量がこの範囲内であることにより、結晶性能に優れるため、成形性に優れる(成形サイクルが短くなる)とともに、得られる成形体は耐熱性が向上したものとなる。
B:熱可塑性エラストマー
本発明における熱可塑性エラストマー(B)は、スチレン系樹脂(C)と鉱物油系可塑剤(D)とを含有する。具体的には、(C)成分と(D)成分との重量混合比が、(C)成分/(D)成分=25/75〜30/70であり、融点は100〜170℃である。
C:スチレン系樹脂
本発明におけるスチレン系樹脂は、ハードセグメントであるポリスチレンブロックと、ソフトセグメントである共役ジエン重合体ブロックとを有し、低温では加硫ゴム状物性を示し、加熱状態では加熱溶融して流動性を示す。該スチレン系エラストマーとしては、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン/プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)、部分水添スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体(部分水添SEBS)、スチレン・(エチレン−エチレン/プロピレン)−スチレンブロック共重合体(SEEPS)等が例示される。望ましいスチレン系エラストマーはSEBS、SEEPSである。SEBSやSEEPSを使用すると、透明性が向上しかつ優れた滑り止め性が得られる。
本発明におけるスチレン系エラストマーの質量平均分子量は10万以上20万以下の範囲でなければならない。質量平均分子量が10万未満では、引張り強さ、引張り破断伸び等の機械的強度が悪くなり、質量平均分子量が20万を超えると、透明性が悪くなる。
D:鉱物油系可塑剤
本発明においては、熱可塑性エラストマーにおける可塑剤として、鉱物油系可塑剤を用いている。本発明にあっては、公知のパラフィン系オイル、ナフテン系オイル等の鉱物油を用いることができるが、その中でも、スチレン系エラストマーに対する相溶性が良好なパラフィンを主成分とした精製石油パラフィン系炭化水素油である鉱物油を用いるのが好ましい。
本発明に係る製造方法に基づき、ポリ乳酸樹脂(A)と熱可塑性エラストマー(B)との割合を変化させ、熱可塑性エラストマーの含有率の異なるフィラメントを製造した。なお、本実施の形態にかかるフィラメント及びフィラメントの製造方法は、以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加えることができる。
[製造例1]<フィラメント(1)の調製>
本実施の形態に係るフィラメント(1)にあっては、ポリ乳酸樹脂(A)のペレットを10重量部に対して、熱可塑性エラストマー(B)のペレットを1重量部の割合(熱可塑性エラストマー含有率9.1%)で混合した後に、押出成形により製造したフィラメントである。
[製造例2]<フィラメント(2)の製造>
本実施の形態に係るフィラメント(2)にあっては、ポリ乳酸樹脂(A)のペレットを2重量部に対して、熱可塑性エラストマー(B)のペレットを1重量部の割合(熱可塑性エラストマー含有率33.3%)で混合した後に、押出成形により製造したフィラメントである。
[製造例3]<フィラメント(3)の製造>
本実施の形態に係るフィラメント(3)にあっては、ポリ乳酸樹脂(A)のペレットを1重量部に対して、熱可塑性エラストマー(B)のペレットを1重量部の割合(熱可塑性エラストマー含有率50%)で混合した後に、押出成形により製造したフィラメントである。
[製造例4]<フィラメント(4)の製造>
本実施の形態に係るフィラメント(4)にあっては、ポリ乳酸樹脂(A)のペレットを1重量部に対して、熱可塑性エラストマー(B)のペレットを2重量部の割合(熱可塑性エラストマー含有率66.7%)で混合した後に、押出成形により製造したフィラメントである。
[製造例5]<フィラメント(5)の製造>
本実施の形態に係るフィラメント(5)にあっては、ポリ乳酸樹脂(A)のペレットを10重量部に対して、熱可塑性エラストマー(B)のペレットを1重量部の割合(熱可塑性エラストマー含有率90.9%)で混合した後に、押出成形により製造したフィラメントである。
[製造例6〜10]<シート試料(1)〜(5)の製造>
本実施の形態に係るシート試料(1)〜(5)にあっては、ポリ乳酸樹脂(A)と熱可塑性エラストマー(B)との割合が、夫々、前記フィラメント(1)〜(5)と同一であって、押出成形により製造したシート試料である。
[製造例11]<シート試料(6)の製造>
本実施の形態に係るシート試料(6)にあっては、ポリ乳酸樹脂(A)のペレットを3重量部に対して、熱可塑性エラストマー(B)のペレットを7重量部の割合(熱可塑性エラストマー含有率70%)で混合した後に、押出成形により製造したシート試料である。
[比較例1]<フィラメント(6)>
本実施の形態に係るフィラメント(6)にあっては、ポリ乳酸樹脂(A)のペレットのみ(熱可塑性エラストマー含有率0%)を押出成形により製造したフィラメントである。
[比較例2]<フィラメント(7)>
本実施の形態に係るフィラメント(7)にあっては、熱可塑性エラストマー(B)のペレットのみ(熱可塑性エラストマー含有率100%)を押出成形により製造したフィラメントである。
[比較例3]<シート試料(7)>
本実施の形態に係るシート試料(7)にあっては、ポリ乳酸樹脂(A)のペレットのみ(熱可塑性エラストマー含有率0%)を押出成形により製造したシート試料である。
[比較例4]<シート試料(8)>
本実施の形態に係るシート試料(8)にあっては、熱可塑性エラストマー(B)のペレットのみ(熱可塑性エラストマー含有率100%)を押出成形により製造したシート試料である。
<試験>
[試験要領]
A 硬度(シート試料(1)〜(5)、(7)〜(8))
ショアA硬度は、JIS K 7215(プラスチック)に準拠して測定した。具体的には、試験片の厚みは5mmであって、押出成形シートから打ち抜き加工を行って作製した。試験温度は23℃、試験装置は島津製作所(株)製の島津デュロメータAである。
ショアA硬度が20以下の場合には、ショアE硬度をJIS K 6253(加硫ゴム及び熱可塑性ゴム)に準拠して、島津製作所(株)製の島津デュロメータEを用いて測定した。その他の条件はショアA硬度の測定と同じである。
B 引張強度及び伸び(シート試料(6))
JIS K 6251:2010に準拠して測定した。具体的には、試験片の厚みは2mmであって、押出成形シートから打ち抜き加工を行って、ダンベル状3号形の形状に作製した(図3)。
引張速度は500mm/分、試験温度は23℃、使用試験機は、東洋精機社製ストログラフV10−Dである。
C 顕微鏡像(シート試料(6))
走査型電子顕微鏡(SEM)により測定した。
D 融点(フィラメント(1)〜(7))
Du Pont社製 熱示差分析計990型を使用し、昇温20℃/分で測定し、融解ピークをもとめた。融解温度が明確に観測されない場合には、微量融点測定装置(柳本製作所製)を用い、ポリマーが軟化して流動を始めた温度(軟化点)を融点とした。5回測定し、その平均値を求めた。
E 3次元印刷装置による印刷(フィラメント(1)〜(2)、(6))
ヒーター部の設定温度:230℃
加工速度(ヘッド速度):20〜40mm/s
積層高(印刷ピッチ):0.1mm
連続印刷時間:印刷所要時間として30分〜2時間程度かかる立体印刷物を複数回に亘って印刷した。
[試験結果]
A 硬度(シート試料(1)〜(5)、(7)〜(8))
表1は、本実施の形態に係るフィラメントと同じ押出成形によって作成したシート試料(1)〜(5)、(7)〜(8)において、熱可塑性エラストマーの含有率とショアA硬度との関係を示す表である。
また、図1は、本実施の形態に係るフィラメントにおいて、ポリ乳酸樹脂と熱可塑性エラストマーとを合計100重量%となるように混合させた場合に熱可塑性エラストマーの含有率とショアA硬度との関係を示すグラフであり、表1のデータを測定誤差±5としてプロットしたものである。
表1及び図1に示すように、熱可塑性エラストマーの含有率を高くすると、ショアA硬度は低下していくことがわかった。
B 引張強度及び伸び(シート試料(5))
図2(a)は、本実施の形態に係るフィラメントと同一の条件にて押出成形したシート試料において、伸びと引張強度との関係を示すグラフ、(b)は、(a)のグラフにおいて、伸びが0%〜200%の範囲を拡大したグラフである。
図3は、図2(a)及び(b)の測定に用いたシート試料の平面図である。図3に示すように、押出方向と平行な方向を流れ方向(MD:Machine direction)、押出方向に対して垂直な方向を垂直方向(TD:Transverse direction)と定義する。また、伸びと引張強度は、シートの厚さ方向についても参考値として測定した。
図2(a)及び(b)に示すように、本実施の形態に係るシート試料にあっては、流れ方向に対して1.25MPaを加えたところで初めて伸び始め、2.22MPaを超えたところで破断した。
一方、図2(a)及び(b)に示すように、本実施の形態に係るシート試料にあっては、垂直方向に対して0.1MPaを加えたところから伸び始め、1MPaを超えたところで伸びきる結果となった。
以上より、本実施の形態に係るシート試料にあっては、押出方向と平行な方向には伸びにくく(変形しにくく)、押出方向と垂直な方向には伸びやすい(変形しやすい)という異方性を有していることがわかった。
なお、図2(a)に示すように、シートの厚さ方向に対しても、垂直方向と同様の伸び及び引張強度を示すことから、本実験結果は試料の形状に依存するものではないといえる。実際に同様の押出成形によって製造したフィラメントにおいても、同様の異方性を有している。
図4(a)は、本実施の形態に係るフィラメントと同一の条件にて押出成形したシート試料の斜視図、(b)は、(a)のシート試料を走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察した垂直方向断面図(200倍)、(c)は、(b)の模式図、(d)は、(a)のシート試料を走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察した流れ方向断面図(200倍)、(e)は、(d)の模式図である。
図4(a)に示すように、図3と同様、押出方向と平行な方向を流れ方向(MD:Machine direction)、押出方向に対して垂直な方向を垂直方向(TD:Transverse direction)と定義する。
図4(b)及び(c)、(d)及び(e)に示すように、本実施の形態に係るシート試料にあっては、ポリ乳酸(PLA)樹脂の分子鎖が押出方向に平行に配向していることがわかる。
すなわち、図2(a)及び(b)に示す結果と、図4(b)及び(c)、(d)及び(e)に示す結果とにより、ポリ乳酸樹脂の分子鎖が配向する、押出方向と平行な方向には伸びにくく(変形しにくく)、ポリ乳酸樹脂の分子鎖が配向していない、押出方向と垂直な方向には伸びやすい(変形しやすい)という異方性を有していることがわかった。
従って、前記した本実施の形態に係るシート試料の変形に対する異方性は、押出成形によってポリ乳酸樹脂の分子鎖が配向することに起因するものであると判断される。
なお、本実施の形態に係るシート試料の変形に対する異方性がポリ乳酸樹脂の分子鎖配向に起因するものであることから、熱可塑性エラストマーの種類にかかわらず、ポリ乳酸樹脂と熱可塑性エラストマーとを混合し、加熱して溶解し、押出成形して製造したフィラメント、又は、シート試料であれば、同様の異方性を発現するものと推察される。
D 融点(フィラメント(1)〜(7))
表2は、本実施の形態に係るフィラメント(1)〜(7)の融点を測定した結果である。
表2に示すように、ポリ乳酸樹脂のみのフィラメント(6)が170℃である以外は、フィラメント(1)〜(5)、及び(7)は、いずれも100℃で軟化が始まり、170℃で融解した。
本実施の形態に係るフィラメントにあっては、熱可塑性エラストマーの含有率が高くなるにつれて、100℃において軟化する割合は増えていったが、フィラメントが完全に融解するのは170℃であった。
前記のように、ポリ乳酸樹脂の融点が170℃、熱可塑性エラストマーの融点が100〜170℃であることから、本実施の形態に係るフィラメントにあっては、ポリ乳酸樹脂と熱可塑性エラストマーとが十分に分散して存在していると判断される。
E 3次元印刷装置(フィラメント(1)〜(3)、(6))
本実施の形態に係るフィラメント(1)〜(3)、(6)を使用した印刷試験では、印刷所要時間として30分〜2時間程度かかる立体印刷物を100個以上印刷したが、いずれのフィラメントにおいても、ヘッドまでの搬送過程又はヘッド内において、フィラメントが折れ曲がって搬送不能になる、いわゆるジャミングという現象が発生することはなく、これに起因するフィラメントの供給不良や成形不良はなかった。
なお、本実施の形態に係る3次元印刷装置にあっては、ヒーター部を230℃に設定することによって、熱可塑性エラストマーの含有率の異なるフィラメント(1)〜(3)、(6)を用いた場合であっても、ヒーター部の設定を変化させることなく使用することができた。
また、表1に示すように、本実施の形態に係るフィラメント(2)及び(3)は、夫々、ショアA硬度が85〜95及び75〜85相当の軟質フィラメントであるが、これらの軟質フィラメントを用いて印刷ができたことから、柔軟性を必要とする部品等の成形品の製作が可能となった。
また、2種類の材料を同時に使用できるディアルヘッドタイプの3次元印刷装置において、本実施の形態に係るフィラメントを目的物を支持するためのサポート材として使用した場合には、支持物としての十分な強度を有すると共に、目的物からサポート材を簡単に剥離することができることがわかった。
[作用・効果]
以上のように、本実施の形態に係るフィラメントにあっては、硬度の大きいポリ乳酸と硬度の小さい熱可塑性エラストマーとを含有するので、表1及び図1に示すように、ポリ乳酸と熱可塑性エラストマーとの割合によって、硬度を連続的に変化させることができる。
一方で、表2に示すように、本実施の形態に係るフィラメントにあっては、ポリ乳酸の融点が熱可塑性エラストマーの融点とほぼ同じであるので、ポリ乳酸と熱可塑性エラストマーとの割合にかかわらず、ほぼ一定の融点を示す。
従って、融点がほぼ一定でありながら、ポリ乳酸の硬度と熱可塑性エラストマーの硬度との間の任意の硬度を有するフィラメントを提供することができる。
その結果、ポリ乳酸と熱可塑性エラストマーとを含有するフィラメントにおいて、硬度の大きいポリ乳酸を一定の割合以上含むものについては、一般的な熱溶解積層法(FDM)の3次元印刷装置の原料フィラメントとして、ヒーターによって溶解しうる融点と、搬送中に折れ曲がることのない一定以上の硬度との2つの条件を満たすフィラメントを提供することができる。
また、表1及び図1に示すように、本実施の形態に係るフィラメントの製造方法にあっては、硬度の大きいポリ乳酸樹脂と硬度の小さい熱可塑性エラストマーとが任意の割合で混合されたフィラメントが押出成形により製造されるので、ポリ乳酸と熱可塑性エラストマーとの割合によって、ポリ乳酸の硬度と熱可塑性エラストマーの硬度との間の任意の硬度を有するフィラメントに成形することができる。
一方で、表2に示すように、本実施の形態に係るフィラメントの製造方法にあっては、ポリ乳酸の融点が熱可塑性エラストマーの融点とほぼ同じであるので、ポリ乳酸と熱可塑性エラストマーとの割合にかかわらず、ほぼ一定の融点を示すフィラメントに成形することができる。
その結果、融点がほぼ一定でありながら、ポリ乳酸の硬度と熱可塑性エラストマーの硬度との間の任意の硬度を有するフィラメントを成形することができるフィラメントの製造方法を提供することができる。
また、本実施の形態に係るフィラメントの製造方法にあっては、フィラメントを押出成形により製造することによって、図2(a)及び(b)に示すように、成形されたフィラメントは押出方向には変形しにくく、押出方向と直交する方向には変形しやすいという異方性を有している。
従って、本実施の形態に係るフィラメントの製造方法により成形されたフィラメントを熱溶解積層法(FDM)の3次元印刷装置の原料フィラメントとして用いた場合には、ヘッドまでの搬送方向がフィラメントの押出方向と一致するため、ヘッドまでの搬送方向に対してフィラメントが剛性を有する。
その結果、ヘッドまでの搬送過程、又は、ヘッド内においてフィラメントが折れ曲がって搬送不能になる、いわゆるジャミングという現象が発生してしまうという事態を防止することができる。
また、一般に3次元印刷装置においてフィラメントを搬送する際には、溝部を有するドライブギアとローラーとにより挟持しながら繰り出して搬送する。
この際、本実施の形態に係るフィラメントの製造方法により成形されたフィラメントを熱溶解積層法(FDM)の3次元印刷装置の原料フィラメントとして用いた場合には、ドライブギアとローラーとにより挟持された際に、フィラメントがドライブギアの溝部に強く押し付けられるが、押し付けられる方向は、フィラメントの押出方向と直交する方向であるため、前記のようにフィラメントが変形しやすい。
その結果、フィラメントがドライブギアの溝部に合わせて変形し、ドライブギアの溝部に噛み合うことによって、フィラメントの滑りを防止することができる。
従って、熱溶解積層法(FDM)を利用した3次元印刷装置において、本実施の形態に係るフィラメントを用いれば、長時間に亘って安定的に立体造形物を印刷することができる。
その結果、本実施の形態に係るフィラメントによって、柔軟性のある大型の立体造形品や精度の高い立体造形品を得ることができる。
本発明に係るフィラメント及びフィラメントの製造方法は、熱溶解積層法(FDM)を利用した3次元印刷装置によって印刷される印刷物の原料として用いられるフィラメント及びそのフィラメントの製造に広く利用することができるので、産業上利用可能性を有している。

Claims (2)

  1. 熱溶解積層法(FDM)を利用した3次元印刷装置によって印刷される印刷物の原料として用いられるフィラメントであって、
    ポリ乳酸樹脂と、スチレン系樹脂及び鉱物油系可塑剤を重量混合比が25:75から重量混合比が30:70までの任意の割合で含有する熱可塑性エラストマーとを1重量部:1重量部から10重量部:1重量部までの任意の割合で含有することを特徴とするフィラメント。
  2. 熱溶解積層法(FDM)を利用した3次元印刷装置によって印刷される印刷物の原料として用いられるフィラメントの製造方法であって、
    ポリ乳酸樹脂と、スチレン系樹脂及び鉱物油系可塑剤を重量混合比が25:75から重量混合比が30:70までの任意の割合で含有する熱可塑性エラストマーとを1重量部:1重量部から10重量部:1重量部までの任意の割合で合計100重量%となるように混合し、加熱して溶解し、押出成形によりフィラメントを製造することを特徴とするフィラメントの製造方法。
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