JP5867794B2 - 眼鏡レンズの製造方法および光学物品の製造方法 - Google Patents

眼鏡レンズの製造方法および光学物品の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、眼鏡レンズなどのレンズ、その他の光学材料あるいは製品に用いられる光学
物品およびその製造方法に関するものである。
眼鏡レンズなどの光学物品は、種々の機能を果たすための基材(光学基材)の表面に、
その基材の機能をさらに強化したり、保護したりするために種々の機能を備えた層(膜)
が形成されている。たとえば、レンズ基材の耐久性を確保するためのハードコート層、ゴ
ーストおよびちらつきを防止するための反射防止層などが公知である。反射防止層の典型
的なものは、ハードコート層が積層されたレンズ基材の表面に異なる屈折率を持つ酸化膜
を交互に積層してなるいわゆる多層反射防止層である。
特許文献1には、基板上に形成された複数層からなる無機薄膜を有する光学多層膜フィ
ルタであって、無機薄膜の最表層を構成する酸化ケイ素層の密度が1.9〜2.2g/c
3であることを特徴とする光学多層膜フィルタが記載されている。無機薄膜の最表層を
構成する酸化ケイ素層の密度を1.9〜2.2g/cm3とすることによって、本来高い
絶縁性を示すはずの酸化ケイ素層(主にSiO2膜)の絶縁性が低下する(導電性が高く
なる)。そのため摩擦等による帯電によって表面に発生した電荷が移動しやすくなり、空
気中へのコロナ放電やあるいは適当なアースによって容易に電荷が中和され、光学多層膜
フィルタにゴミ等の付着が生じにくくなることが特許文献1に記載されている。
特開2007−298951号公報(段落番号0006)
基材の表面に形成される反射防止層あるいは多層膜フィルタに、帯電防止、電磁波遮蔽
などを目的とした導電性を付与するために、酸化インジウムスズ(ITO)層、金や銀な
どの金属の層を用いることが知られている。しかしながら、ITO、金、銀などの、光学
的な要求に基づく無機薄膜の構成に関与しない組成を導入することは幾つかの問題の要因
となる可能性がある。たとえば、ITOや銀は、酸やアルカリなどに対する耐久性や腐食
が問題になる可能性がある。金は一般的に密着性が低く、膜の剥れが発生する恐れがある
。またITOは毒性があることから眼鏡レンズ等の日常品への使用が懸念されている。
特許文献1の技術は、無機薄膜の最表層を構成する酸化ケイ素層の密度を低くすること
により導電性を高くするので、上記の問題を回避しやすい。このため、無機薄膜、あるい
は反射防止層などの層(層構造)を有する光学物品において、これらの層構造の光学的な
要求に基づく構成にさらに影響を与えにくい方法により導電性を向上できる方法が常に要
望されている。
本発明の一態様は、光学基材の上に直にまたは他の層を介して、金属酸化物を含む透光
性の第1の層を形成することと、第1の層の表面にイオンを照射することにより、第1の
層の表層域に酸素欠陥を導入することとを有する、光学物品の製造方法である。金属酸化
物の物性は、非化学量論な酸素組成により顕著に変化することが多い。その変化の1つは
、金属原子が化学量論比より多いと酸素空孔が形成され導電性が向上することである。し
たがって、この製造方法においては、イオンを照射することにより第1の層の表面に酸素
欠陥(酸素欠損)を導入し、歪や酸素空孔が形成されるようにする。
一方、歪や酸素空孔の増加により、それらが色中心となり光を吸収して着色が見られた
り、層の屈折率が変化したりする可能性がある。このため、この製造方法においては、第
1の層の表面にイオンを照射することにより、第1の層の表層域に限って酸素欠陥(酸素
欠損)が導入されるようにする。したがって、層構造の光学的な、および/または物理的
な特性に与える影響を抑制しながら、導電性を向上できる。すなわち、この方法により、
無機薄膜、あるいは反射防止層などの層(層構造)を有する光学物品において、これらの
層構造の性能の低下を抑制しながら導電性を向上できる。このため、光学的特性に優れ、
さらに導電性が向上した光学物品を製造し、提供できる。
照射するイオンの典型的なものは、アルゴン、キセノン、ヘリウム、窒素およびネオン
の少なくともいずれかを含む不活性ガスのイオンである。金属酸化物を含む第1の層を蒸
着、スパッタリングなどの製造方法により製造するプロセスにおいて、これらのイオンを
第1の層を成膜した後に照射し、酸素欠陥を導入できる。
金属酸化物の典型的なものは、酸化物半導体を形成する遷移金属酸化物であり、たとえ
ば、酸化チタンである。
イオンの照射対象となる第1の層は、単層でも、多層構造の層の1つまたは複数でも良
く、多層構造の典型的なものは反射防止層である。したがって、本発明の製造方法は、さ
らに、イオンを照射する処理を行った後に、さらに、反射防止層の多層構造の他の層を形
成することを含んでもよい。
本発明の製造方法は、表面がイオン照射処理された第1の層の上に、直にまたは他の層
を介して防汚層を形成してもよい。イオン照射された第1の層を含む反射防止層、または
反射防止層の最上層にイオン照射処理を施し、その上に防汚層を形成しても、光学物品の
シート抵抗の低下が見られる。
本発明の他の態様の1つは、光学基材と、光学基材の上に直にまたは他の層を介して形成された、金属酸化物を含む透光性の第1の層であって、表層域に、イオン照射により酸素欠陥が導入された酸素欠損域を含む第1の層とを有する光学物品である。この光学物品においては、第1の層の表層域に酸素欠損域を含み、この酸素欠損域は、酸素欠陥が導入されただけであり、さらに表層域に限られるので第1の層の透光性に影響を与えにくく、さらに、酸素欠陥による導電性の向上が望まれる。したがって、この光学物品は、光学物品としての性能の低下を抑制しながら、帯電防止、ゴミ着防止などの機能を付与できる。
第1の層は単層でも、多層構造でもよい。多層構造の典型的なものは反射防止層であり
、第1の層は反射防止層に含まれる1つまたは複数の層であってもよい。
酸素欠陥により導電性などの物性が変化しやすい金属酸化物の典型的なものは酸化物半
導体となる遷移金属酸化物であり、典型的なものは酸化チタンである。
光学基材の典型的なものはプラスチックレンズ基材である。光学物品の一形態は眼鏡レ
ンズであり、本発明の他の態様の1つは、眼鏡レンズと、眼鏡レンズが装着されたフレー
ムとを有する眼鏡である。
本発明のさらに異なる他の態様の1つは、上記の光学物品と、光学物品を通して画像を
投影および/または取得する装置とを有するシステムである。投影するための装置を含む
システムの典型的なものはプロジェクターである。光学物品の典型的なものは、投射用の
レンズ、ダイクロイックプリズム、カバーガラスなどである。本発明を、画像形成装置の
1つであるLCD(液晶デバイス)などのライトバルブあるいはそれらに含まれる素子に
適用してもよい。光学物品を通して画像を取得するための装置を含むシステムの典型的な
ものはカメラである。光学物品の典型的なものは、結像用のレンズ、カバーガラスなどで
ある。本発明を、撮像装置の1つであるCCDなどに適用してもよい。
本発明のさらに異なる他の態様の1つは、上記の光学物品と、光学物品を通してアクセ
スする媒体とを有するシステムである。このシステムの典型的なものは、記録媒体を内蔵
し、表面の帯電性が低いことが要望されるDVDなどの情報記録装置、美的表現を発揮す
る媒体を内蔵した装飾品などである。
反射防止層を含むレンズの構造を示す断面図。 反射防止層の製造に用いる蒸着装置を模式的に示す図。 反射防止層の成膜条件を示す図。 反射防止層のシート抵抗および帯電防止性の測定結果を示す図。 反射防止層の反射分光特性の測定結果を示す図。 図6(A)は、シート抵抗を測定する様子を示す断面図、図6(B)は平面図。 製造直後のシート抵抗の測定値を示すグラフ。 製造直後および72時間後のシート抵抗の測定値を示すグラフ。 異なる反射防止層を含むレンズの構造を示す断面図。 図9に示した反射防止層の成膜条件を示す図。 反射防止層のシート抵抗および帯電防止性の測定結果を示す図。 反射防止層の反射分光特性の測定結果を示す図。 製造直後のシート抵抗の測定値を示すグラフ。 製造直後および72時間後のシート抵抗の測定値を示すグラフ。 眼鏡の概要を示す図。 プロジェクターの概要を示す図。 デジタルカメラの概要を示す図。 記録媒体の概要を示す図。
図1に、本発明の実施形態のレンズの構成を、基材を中心とした一方の面の側の断面図
により示している。レンズ10は、レンズ基材1と、レンズ基材1の表面に形成されたハ
ードコート層2と、ハードコート層2の上に形成された透光性の反射防止層3と、反射防
止層3の上に形成された防汚層4とを含む。
1. レンズの概要
1.1 レンズ基材
レンズ基材1は、特に限定されないが、(メタ)アクリル樹脂をはじめとしてスチレン
樹脂、ポリカーボネート樹脂、アリル樹脂、ジエチレングリコールビスアリルカーボネー
ト樹脂(CR−39)等のアリルカーボネート樹脂、ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ポ
リエーテル樹脂、イソシアネート化合物とジエチレングリコールなどのヒドロキシ化合物
との反応で得られたウレタン樹脂、イソシアネート化合物とポリチオール化合物とを反応
させたチオウレタン樹脂、分子内に1つ以上のジスルフィド結合を有する(チオ)エポキ
シ化合物を含有する重合性組成物を硬化して得られる透明樹脂等を例示することができる
。レンズ基材1の屈折率は、たとえば、1.60〜1.75程度である。この実施形態に
おいては、屈折率は上記の範囲でも、上記の範囲から上下に離れていても許容の範囲内で
ある。
1.2 ハードコート層(プライマー層)
レンズ基材1の上に形成されるハードコート層2は、耐擦傷性を向上するものである。
ハードコート層2に使用される材料として、アクリル系樹脂、メラミン系樹脂、ウレタン
系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、アミノ系樹脂、ポリエステル系
樹脂、ポリアミド系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、スチレン系樹脂、シリコン系樹脂お
よびこれらの混合物もしくは共重合体等を挙げることができる。ハードコート層2の一例
は、シリコーン系樹脂であり、金属酸化物微粒子、シラン化合物からなるコーティング組
成物を塗布し硬化させてハードコート層を形成できる。このコーティング組成物にはコロ
イダルシリカ、および多官能性エポキシ化合物等の成分を含めることができる。
金属酸化物微粒子の具体例は、SiO2、Al23、SnO2、Sb25、Ta25、C
eO2、La23、Fe23、ZnO、WO3、ZrO2、In23、TiO2等の金属酸化
物からなる微粒子または2種以上の金属の金属酸化物からなる複合微粒子である。これら
の微粒子を、分散媒たとえば水、アルコール系もしくはその他の有機溶媒にコロイド状に
分散させたものをコーティング組成物に混合できる。
レンズ基材1とハードコート層2との密着性を確保するために、レンズ基材1とハード
コート層2との間にプライマー層を設けることができる。プライマー層は、高屈折率レン
ズ基材の欠点である耐衝撃性を改善するためにも有効である。プライマー層を形成するた
めの樹脂としては、アクリル系樹脂、メラミン系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂
、ポリビニルアセタール系樹脂、アミノ系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂
、ビニルアルコール系樹脂、スチレン系樹脂、シリコン系樹脂およびこれらの混合物もし
くは共重合体等が挙げられる。密着性を持たせるためのプライマー層としてはウレタン系
樹脂およびポリエステル系樹脂が好適である。
ハードコート層2およびプライマー層の製造方法の典型的なものは、ディッピング法、
スピンナー法、スプレー法、フロー法によりコーティング組成物を塗布し、その後、40
〜200℃の温度で数時間加熱乾燥する方法である。
1.3 反射防止層
ハードコート層2の上に形成される反射防止層3の典型的なものは無機系の反射防止層
と有機系の反射防止層である。無機系の反射防止層は多層膜で構成され、例えば、屈折率
が1.3〜1.6である低屈折率層と、屈折率が1.8〜2.6である高屈折率層とを交
互に積層して形成することができる。層数としては、5層あるいは7層程度である。反射
防止層を構成する各層に使用される無機物の例としては、SiO2、SiO、ZrO2、T
iO2、TiO、Ti23、Ti25、Al23、TaO2、Ta25、NdO2、NbO
、Nb23、NbO2、Nb25、CeO2、MgO、SnO2、MgF2、WO3、HfO2
、Y23などが挙げられる。これらの無機物は単独で用いるかもしくは2種以上を混合し
て用いる。
反射防止層3を形成する方法としては、乾式法、例えば、真空蒸着法、イオンプレーテ
ィング法、スパッタリング法などが挙げられる。真空蒸着法においては、蒸着中にイオン
ビームを同時に照射するイオンビームアシスト法を用いることができる。
有機系の反射防止層3の製造方法の1つは湿式法である。例えば、内部空洞を有するシ
リカ系微粒子(以下、「中空シリカ系微粒子」ともいう)と、有機ケイ素化合物とを含ん
だ反射防止層形成用のコーティング組成物を、ハードコート層、プライマー層と同様の方
法でコーティングして形成することもできる。中空シリカ系微粒子を用いるのは、内部空
洞内にシリカよりも屈折率が低い気体または溶媒が包含されることによって、空洞のない
シリカ系微粒子に比べてより屈折率が低減し、結果的に、優れた反射防止効果を付与でき
るからである。中空シリカ系微粒子は、特開2001−233611号公報に記載されて
いる方法などで製造することができるが、平均粒子径が1〜150nmの範囲にあり、か
つ屈折率が1.16〜1.39の範囲にあるものを使用することができる。この有機系の
反射防止層の層厚は、50〜150nmの範囲が好適である。この範囲より厚すぎたり薄
すぎたりすると、十分な反射防止効果が得られないおそれがある。
1.4 イオン照射処理
さらに、本発明の実施形態のレンズ10においては、反射防止層3に含まれる少なくと
も1つの層の表層域33に、イオン照射により酸素欠陥が導入された酸素欠損域が含まれ
ている。図1に示すレンズ10においては、最上層の低屈折率層31の下の高屈折率層3
2、すなわち、最上層の高屈折率層32の表層域33に酸素欠損域が含まれている。なお
、以降においては表層域を酸素欠損域33とみなして説明する。
酸素欠損域33は、金属酸化物層の酸素原子がイオン照射により分離あるいは離脱し、
金属原子と酸素原子との化学量論比が所定の化合物としての比から外れた組成(非化学量
論な組成)になっている領域を示す。照射するイオンは限定されないが、以下において説
明する蒸着装置においては、アルゴン、窒素、ヘリウム、ネオン、キセノン等のイオンを
用いることが好ましい。酸化物半導体の物性が非化学量論な酸素組成により変化すること
が知られている。たとえば、二酸化チタンについては、相中の酸素原子が容易に離脱して
非化学量論な組成の酸化チタン(TiOx)相が生じることが知られている。TiOx相に
おいては、歪や酸素空孔のために二酸化チタンとは異なる電子状態となり、異なる物性を
示す。
TiOx相がTiO2相と異なる物性を示す1つの要因は歪であり、たとえば、結晶構造
が酸素欠陥に起因して局所的にマグネリ相に変化することが考えられる。また、他の要因
は、結晶構造がそのままであれば、チタン原子が化学量論比より大きくなることにより生
じる酸素の空孔が正の電荷があるように振る舞うことである。これらの要因により、酸素
欠損域33では導電性が向上し、シート抵抗が低下することが予定される。
予想される異なる物性の他の1つは、酸素空孔が、電子をトラップする可能性であり、
この場合は、酸素空孔が色中心(Color Center)となり、光を吸収し着色の
原因となる可能性がある。
したがって、金属酸化物の着色が発生しない、あるいは着色が光学物品として実質的に
影響がない程度の範囲で、酸素欠損域33を形成することにより、反射防止層3の基本的
な化学組成を変えずに、シート抵抗を下げることができる。
1.5 防汚層
反射防止層3の上に撥水膜、または親水性の防曇膜(防汚層)4を形成することが多い
。防汚層4は、光学物品(レンズ)10の表面の撥水撥油性能を向上させる目的で、反射
防止層3の上に、フッ素を含有する有機ケイ素化合物からなる層を形成したものである。
フッ素を含有する有機ケイ素化合物としては、例えば、特開2005−301208号公
報や特開2006−126782号公報に記載されている含フッ素シラン化合物を好適に
使用することができる。
含フッ素シラン化合物は、有機溶剤に溶解し、所定濃度に調整した撥水処理液(防汚層
形成用のコーティング組成物)として用いることが好ましい。防汚層は、この撥水処理液
(防汚層形成用のコーティング組成物)を反射防止層上に塗布することにより形成するこ
とができる。塗布方法としては、ディッピング法、スピンコート法などを用いることがで
きる。なお、撥水処理液(防汚層形成用のコーティング組成物)を金属ペレットに充填し
た後、真空蒸着法などの乾式法を用いて、防汚層を形成することも可能である。
防汚層の層厚は、特に限定されないが、0.001〜0.5μmが適している。より好
適なのは0.001〜0.03μmである。防汚層の層厚が薄すぎると撥水撥油効果が乏
しくなり、厚すぎると表面がべたつくので適していない。また、防汚層の厚さが0.03
μmより厚くなると反射防止効果が低下する可能性がある。
2. サンプルの製造
2.1 実施例1(サンプルS1)
2.1.1 レンズ基材の選択およびハードコート層の成膜
基材1としては、屈折率1.67の眼鏡用のプラスチックレンズ基材(セイコーエプソ
ン(株)製、商品名:セイコースーパーソブリン(SSV))を用いた。
ハードコート層2を形成するための塗布液(コーティング液)を次のように調製した。
エポキシ樹脂−シリカハイブリッド(商品名:コンポセラン(登録商標)E102(荒川
化学工業(株)製))20重量部に、酸無水物系硬化剤(商品名:硬化剤液(C2)(荒
川化学工業(株)製))4.46重量部を混合、攪拌して塗布液(コーティング液)を得
た。このコーティング液を所定の厚さになるようにスピンコーターを用いて基材1の上に
塗布してハードコート層2を成膜した。塗布後のレンズ基材を125℃で2時間焼成した
2.1.2 反射防止層の成膜
2.1.2.1 蒸着装置
次に、図2に示す蒸着装置100により無機系の反射防止層3を製造(成膜)した。例
示した蒸着装置100は電子ビーム蒸着装置であり、真空容器110、排気装置120お
よびガス供給装置130を備えている。真空容器110は、ハードコート層2までが形成
されたレンズサンプル10が載置されるサンプル支持台114と、サンプル支持台114
にセットされたレンズサンプル10を加熱するための基材加熱用ヒーター115と、熱電
子を発生するフィラメント116とを備えており、電子銃(不図示)により熱電子を加速
して蒸発源(るつぼ)112および113にセットされた蒸着材料に熱電子を照射し蒸発
させ、レンズサンプル10に材料を蒸着する。
さらに、この蒸着装置100は、イオンアシスト蒸着を可能とするために、イオン源内
部に導入したガスをイオン化して加速し、レンズサンプル10に照射するためのイオン銃
117を備えている。また、真空容器110には、残留した水分を除去するためのコール
ドトラップや、層厚を管理するための装置等をさらに設けることができる。層厚を管理す
る装置としては、例えば、反射型の光学膜厚計や水晶振動子膜厚計などがある。
真空容器110の内部は、排気装置120に含まれるターボ分子ポンプまたはクライオ
ポンプ121および圧力調整バルブ122により高真空、たとえば1×10-4Paに保持
できる。一方、真空容器110の内部は、ガス供給装置130により所定のガス雰囲気す
ることも可能である。たとえば、ガス容器131には、アルゴン(Ar)、窒素(N2
、酸素(O2)などが用意される。ガスの流量は流量制御装置132により制御でき、真
空容器110の内圧は圧力計135により制御できる。
基材加熱用ヒーター115は、例えば赤外線ランプであり、レンズサンプル10を加熱
することによりガス出しあるいは水分とばしを行い、レンズサンプル10の表面に形成さ
れる膜の密着性を確保する。
したがって、この蒸着装置100における主な蒸着条件は、蒸着材料、電子銃の加速電
圧および電流値、イオンアシストの有無である。イオンアシストを利用する場合の条件は
、イオンの種類(真空容器110の雰囲気)と、イオン銃117の電圧値および電流値と
により与えられる。以下において、特に記載しないかぎり、電子銃の加速電圧は5〜10
kVの範囲、電流値は50〜500mAの範囲の中で成膜レートなどをもとに選択される
。また、イオンアシストを利用する場合は、イオン銃117が電圧値200V〜1kVの
範囲、電流値が100〜500mAの範囲で成膜レートなどをもとに選択される。
2.1.2.2 低屈折率層および高屈折率層の成膜
ハードコート層2が形成されたレンズサンプル10をアセトンにて洗浄し、真空容器1
10の内部にて約70℃の加熱処理を行い、レンズサンプル10に付着した水分を蒸発さ
せる。次に、レンズサンプル10の表面にイオンクリーニングを実施した。具体的には、
イオン銃117を用いて酸素イオンビームを数百eVのエネルギーでレンズサンプル10
の表面に照射し、レンズサンプル10の表面に付着した有機物の除去を行った。この方法
により、レンズサンプル10の表面に形成する膜の付着力を強固なものとすることができ
る。なお、酸素イオンの代わりに不活性ガス、例えばAr、キセノン(Xe)、N2を用
いて同様の処理を行うことができるし、酸素ラジカルや酸素プラズマを照射することもで
きる。
真空容器110の内部を十分に真空排気した後、電子ビーム真空蒸着法により、図1に
示すように、低屈折率層31として二酸化ケイ素(SiO2)層、高屈折率層32として
酸化チタン(TiO2)層を交互に積層して反射防止層3を成膜した。
1層目、3層目、5層目および7層目が低屈折率層31であり、二酸化ケイ素をイオン
アシストは行わず真空蒸着することによりSiO2層31を成膜した。
2層目、4層目および第6層目が高屈折率層32であり、酸化チタン(TiO2)を酸
素ガスを導入しながらイオンアシスト蒸着を行い、TiO2層32を成膜した。
図3に、SiO2層31およびTiO2層32の各層の成膜条件および膜厚を示している
。なお、このレンズサンプル10では、ハードコート層2の屈折率が1.65、SiO2
層31の屈折率が1.462、TiO2層32の屈折率が2.43である。
2.1.2.3 イオン照射
この実施例1では、1層目から6層目まで積層した後、イオンガンを用いて6層目32
の表面に以下の条件でイオンを照射した。なお、6層目32の表面にイオン照射処理を施
した後、7層目31を成膜した。
(イオン照射の条件)下側の層(第1の層):TiO2、 イオン:アルゴン
照射電流量:150mA、 照射時間:20sec
イオンエネルギー:300eV
2.1.3 防汚層の成膜
反射防止層3を形成した後、7層目31の表面に酸素プラズマ処理を施し、蒸着装置内
で、分子量の大きなフッ素含有有機ケイ素化合物を含む「KY−130」(商品名、信越
化学工業(株)製)を含有させたペレット材料を蒸着源として、約500℃で加熱し、K
Y−130を蒸発させて、防汚層4を成膜した。蒸着時間は、約3分間程度とした。酸素
プラズマ処理を施すことにより最終のSiO2層の表面にシラノール基を生成できるので
、反射防止層3と防汚層4との化学的密着性(化学結合)を向上できる。蒸着終了後、真
空蒸着装置100からレンズサンプル10を取り出し、反転して再び投入し、上記の工程
を同じ手順で繰り返し、反射防止層3および防汚層4の成膜を行った。その後、レンズサ
ンプル10を真空蒸着装置100から取り出した。
実施例1のサンプルS1は、プラスチックレンズ基材1の両面にハードコート層2、表
面がイオン照射処理された層を含む反射防止層3、および防汚層4を備えている。
2.2 実施例2(サンプルS2)
実施例2として、光学基材1として透明な白板ガラス(B270)を採用し、この光学
基材1の上に、ハードコート層2を成膜せず、光学基材1の上に直に、実施例1と同様の
成膜条件で低屈折率層31として二酸化ケイ素(SiO2)層の1、3、5および7層と
、高屈折率層32として酸化チタン(TiO2)層の2、4および6層とを交互に積層し
て反射防止層3を製造した。その途上で、6層目の表面に実施例1と同じ条件でイオン照
射処理を施した。また、反射防止層3の上に防汚層4を形成した。
2.3 実施例3および4(レンズサンプルS3およびガラスサンプルS4)
プラスチックレンズを基材1として用いたサンプルS3と、白板ガラスを基材1として
用いたサンプルS4とを、それぞれ実施例1および実施例2と同様に製造した。イオン照
射処理については、エネルギーを500eVとし、他の条件は実施例1と同様の条件でお
こなった。
2.4 実施例5および6(レンズサンプルS5およびガラスサンプルS6)
プラスチックレンズを基材1として用いたサンプルS5と、白板ガラスを基材1として
用いたサンプルS6とを、それぞれ実施例1および実施例2と同様に製造した。イオン照
射処理については、エネルギーを800eVとし、他の条件は実施例1と同様の条件でお
こなった。
2.5 比較例1および2(レンズサンプルR1およびガラスサンプルR2)
上記の実施例により得られたサンプルと比較するために、この比較例1および2では、
プラスチックレンズを基材1として用いたサンプルR1と、白板ガラスを基材1として用
いたサンプルR2とを、それぞれ実施例1および実施例2と同様に製造した。ただし、イ
オン照射はおこなわなかった。
3. 上記サンプルS1〜S6およびR1〜R2の評価
上記により製造されたサンプルS1〜S6およびR1〜R2のシート抵抗と、帯電防止
性と、分光特性とについて評価した。
3.1 シート抵抗
図6(A)および(B)に、各サンプルのシート抵抗を測定する様子を示している。こ
の例では、測定対象、たとえば、サンプル10の表面10Aにリングプローブ61を接触
し、サンプル10の表面10Aのシート抵抗を測定した。測定装置60は、三菱化学(株
)製高抵抗抵抗率計ハイレスタUP、MCP−HT450型を使用した。使用したリング
プローブ61は、URSタイプであり、2つの電極を有し、外側のリング電極61aは外
径18mm、内径10mmであり、内側の円形電極61bは直径7mmである。それらの
電極間に1000V〜10Vの電圧を印加し、各サンプルのシート抵抗を計測した。図4
に、各サンプルのシート抵抗を製造直後と、72時間経過後とに測定した値を示している
3.2 帯電防止性
各サンプルの表面の上で、眼鏡レンズ用拭き布を1kgの垂直荷重にて10往復こすり
つけ、このときに発生した静電気によるごみの付着の有無を調べた。ごみの付着がない場
合は帯電効果に優れ、帯電防止性が有りと判断した。ごみの付着がある場合は帯電効果が
劣っており、帯電防止性が無いと判断した。なお、ゴミは粒子径2−3mmに砕いた発泡
スチロールである。図4に、各サンプルの製造直後と、72時間経過後の帯電防止性の評
価結果を示している。
3.3 分光特性
実施例3のサンプルS3と、比較例1のサンプルR1について、分光反射率計(オリン
パス製、レンズ反射率測定器 USPM-RU)で、380〜750nmの範囲で測定し
、その実測した結果を図5に示している。
3.4 評価
まず、図5に示すように、分光反射率計の測定結果では、比較例1により製造されたサ
ンプルR1と、実施例3により製造されたサンプルS3とに有意な差は認められなかった
。したがって、イオン照射処理を行うことによるサンプルへの光学的な影響は認められな
かった。
各サンプルについて測定されたシート抵抗を図7および図8に示している。図7に示す
ように、作製直後に測定されたシート抵抗は、イオン照射処理を行うことにより、ほぼ照
射エネルギーに比例して低下した。したがって、上述したように、イオン照射処理を行う
ことにより、第1の層(下側の層)であるTiO2層32の表層域に酸素欠損域33が生
成され、導電性が向上したものと考えられる。さらに、酸素欠損域33は、TiO2層3
2の表面のごく限られた厚みに形成され、光学的な性質に影響をほとんど与えていないと
考えられる。このため、ある程度のエネルギーでイオン照射を行うことにより、たとえば
、この例では、500eV程度より大きなエネルギーでイオン照射を行うことにより帯電
防止効果が得られる程度の量の酸素欠陥をTiO2層32の表層域33に導入でき、帯電
防止性のある光学物品を製造できると判断される。
図8に、レンズサンプルS1、S3およびS5について、作製直後に測定されたシート
抵抗と、作製から72時間が経過した後に測定されたシート抵抗を示している。72時間
経過後のシート抵抗は、イオン照射エネルギーに対してリニアではなく、ある程度のエネ
ルギー、この例では、800eV程度より大きなエネルギーでイオンを照射することによ
り導電性が向上した性質を長期間にわたり維持させることができる。イオン照射による酸
素原子の移動量が大きかったり、化学量論比からの差が大きかったり、格子欠陥が長範囲
で導入されるなどの要因により、酸素欠陥が安定して存続するためと予想される。
これらの結果より、反射防止層3の1つの層の表面をイオン照射により処理することに
より、レンズ、カバーガラスなどの光学物品のシート抵抗を低減できることが分かる。光
学物品のシート抵抗を低減できることによる典型的な効果は、帯電防止および電磁波遮蔽
である。たとえば、眼鏡用のレンズにおいて帯電防止性の有無の目安は、ごみの付着がみ
られにくくなるシート抵抗が1×1012Ω/□以下であると考えられており、図4に示す
ように、サンプルS3〜S6は、優れた帯電防止性を備えていることが分かる。
さらに、これらのサンプルは、反射防止層3を本来構成する低屈折率層(SiO2)3
1と、高屈折率層(TiO2)32とから構成され、1つの高屈折率層32の表層域に酸
素欠損域33を設けたのみである。したがって、他の組成物により導電性を向上する必要
がなく(もちろん、他の組成物の層を加えることを含めないことではなく)、容易にシー
ト抵抗が低抵抗な反射防止層3を成膜できる。このため、金あるいは銀などの貴金属を用
いて導電層を製造する場合と比較すると、製造上の容易さおよび経済的なメリットは大き
い。さらに、酸およびアルカリに対する安定性や、剥離についても、反射防止層3の本来
の特性が維持されると想定されるので、ITO、銀などのように膨張、腐食、剥れなどの
問題の発生を未然に防止できる。したがって、帯電防止性能に優れ、さらに、耐久性およ
び信頼性の高い光学物品を提供できると考えられる。
4. 他の実施例
4.1 実施例7(サンプルS7)
上記の実施例1と同様にプラスチックレンズを基材1として、ハードコート層2を成膜
した。さらに、低屈折率層および高屈折率層を成膜した。
ただし、図9に示すように、この実施例7においては、二酸化ケイ素(SiO2)層を
低屈折率層31とし、酸化ジルコニウム(ZrO2)層を高屈折率層32として5層構造
の反射防止層3を成膜した。すなわち、1層目、3層目および5層目が低屈折率層(Si
2層)31であり、2層目および4層目が高屈折率層(ZrO2層)32である。
図10に、SiO2層31およびZrO2層32の各層の成膜条件および膜厚を示してい
る。なお、このレンズサンプル10では、ハードコート層2の屈折率が1.65、SiO
2層31の屈折率が1.462、ZrO2層32の屈折率が2.058である。
この実施例7では、1層目から4層目まで積層した後に、イオンガンを用いて4層目3
2の表面に以下の条件でイオンを照射した。なお、4層目32の表面にイオン照射処理を
施した後、5層目31を成膜した。
(イオン照射の条件)下側の層(第1の層):ZrO2、ただし、TiOx(X=1.7
)の層を下地層として、下側の層(第1の層、4層目)の上に形成した後に、イオン照射
処理を行った。
(下地層:蒸着源TiOx、 真空蒸着(イオンアシストなし)、
蒸着レート:0.2nm/sec、 蒸着時間:10秒)
イオン照射: イオン:アルゴン
照射電流量:150mA、 照射時間:20sec
イオンエネルギー:300eV
さらに、実施例1と同様に反射防止層3の上に防汚層4を成膜した。
なお、上記では、下地処理にTiOxを用いた例で説明したが、TiOxに代わりTiO
2を用いてもよい。
4.2 実施例8(サンプルS8)
実施例8として、実施例2と同様に、光学基材1として透明な白板ガラス(B270)
を採用した。この実施例8では、光学基材1の上に、ハードコート層2を成膜せず(光学
基材1の上に直に)、実施例7と同様の成膜条件で低屈折率層31として二酸化ケイ素(
SiO2)層の1、3および5層目と、高屈折率層32として酸化ジルコニウム(ZrO2
)層の2および4層目とを交互に積層して反射防止層3を製造した。その途上で、4層目
の表面に実施例1と同じ条件でイオン照射処理を施した。また、反射防止層3の上に防汚
層4を形成した。
4.3 実施例9および10(レンズサンプルS9およびガラスサンプルS10)
プラスチックレンズを基材1として用いたサンプルS9と、白板ガラスを基材1として
用いたサンプルS10とを、それぞれ実施例7および実施例8と同様に製造した。イオン
照射処理については、エネルギーを500eVとし、他の条件は実施例1と同様の条件で
おこなった。
4.4 実施例11および12(レンズサンプルS11およびガラスサンプルS12)
プラスチックレンズを基材1として用いたサンプルS11と、白板ガラスを基材1とし
て用いたサンプルS12とを、それぞれ実施例7および実施例8と同様に製造した。イオ
ン照射処理については、エネルギーを800eVとし、他の条件は実施例1と同様の条件
でおこなった。
4.5 比較例3および4(レンズサンプルR3およびガラスサンプルR4)
上記の実施例により得られたサンプルと比較するために、この比較例3および4では、
プラスチックレンズを基材1として用いたサンプルR3と、白板ガラスを基材1として用
いたサンプルR4とを、それぞれ実施例7および実施例8とそれぞれ同様に製造した。た
だし、イオン照射はおこなわなかった。
5. 上記サンプルS7〜S12およびR3〜R4の評価
上記により製造されたサンプルS7〜S12およびR3〜R4のシート抵抗と、帯電防
止性と、分光特性とについて評価した。それぞれの測定方法は上述したとおりである。
図11に、各サンプルのシート抵抗を製造直後と、72時間経過後とに測定した値とを
示している。また、図11に、各サンプルの帯電防止性の評価結果を示している。さらに
、図12に、実施例11のサンプルS11と、比較例3のサンプルR3について、分光反
射率計で380〜750nmの範囲で測定した結果を示している。
まず、図12に示すように、分光反射率計の測定結果では、比較例3により製造された
サンプルR3と、実施例11により製造されたサンプルS11とに、ほとんど有意な差は
認められなかった。波長が400nm以下において、サンプルS11の反射率が若干高く
なっているが、視感上の差は認識できない程度である。したがって、この程度のエネルギ
ー範囲のイオン照射処理を行うことによるサンプルへの光学的な影響はほぼ認められなか
った。しかしながら、エネルギーを大きくしすぎると、光吸収の影響で青く着色が認めら
れる可能性があり、酸素空孔が色中心になる可能性を示していると思われる。
各サンプルについて測定されたシート抵抗を図13および図14に示している。図13
に示すように、作製直後に測定されたシート抵抗は、イオン照射処理を行うことにより低
下した。したがって、上記の実施例と同様に、イオン照射処理を行うことにより、第1の
層(下側の層)であるZrO2層32の表層域に酸素欠損域33が生成され、導電性が向
上したものと考えられる。さらに、この例では、酸素欠損域33は、下地層のTiOx
(X=1.7)の表面にイオン照射することにより形成されており、酸素欠損域33のチ
タン原子の化学量論比からのずれは大きい(X=1.7以下)と考えられる。
さらに、この例では、イオンの照射エネルギーが300eVではシート抵抗の変化はほ
とんど見られなかったが、500eV付近から上になるとシート抵抗が顕著に低下し、導
電性が向上した。さらに、図14に示すように、イオンの照射エネルギーが500eV程
度あるいはそれを超えると、導電性が向上した性質を長期間にわたり維持できることが分
かった。
以上のように、反射防止層3に含める層の表面をイオン照射により酸素欠損状態にする
ことにより、ITO、銀あるいは金といった導電膜を設けなくても、シート抵抗を低下さ
せることができることが分かった。このため、反射防止層3の光学的性質の低下、耐薬品
性の低下、剥離の懸念などの問題の要因となる、ITO、銀あるいは金といった異質な膜
を導入することなく、導電性が高く、電磁波遮断機能、帯電防止機能、特に、ごみの付着
を防止するために望ましい帯電防止機能を備えた光学物品を製造できることが確認できた
なお、上記の実施例で示した反射防止層の層構造は幾つかの例にすぎず、本発明がそれ
らの層構造に限定されることはない。たとえば、4層以下、あるいは8層以上の反射防止
層に適用することも可能であり、反射防止層に含まれる導電層は1つに限定されない。ま
た、多層構造の膜は、反射防止層に限定されず、光学多層膜であってもよい。さらに、高
屈折率層と低屈折率層の組み合わせは、TiO2/SiO2、ZrO2/SiO2に限定され
ることはなく、Ta25/SiO2、NdO2/SiO2、HfO2/SiO2、Al23
SiO2などの系であってもよい。これらはいずれも遷移金属酸化物であり、ドープによ
り酸化物半導体を構成できるものである。したがって、酸素欠陥を導入することにより導
電性を向上できる可能性がある。
また、上記にて説明した無機系の反射防止層だけでなく、有機系の反射防止層にも本発
明を適用することが可能である。たとえば、有機系の反射防止層に厚さ数nm程度のTi
x層(或いはTiO2層)を下地層として成膜した後にイオン照射処理を行うことにより
導電性を向上できる。
図15に、イオン照射により帯電防止性が高められた眼鏡レンズ10と、その眼鏡レン
ズ10が装着されたフレーム201とを含む眼鏡200を示している。また、図16に、
イオン照射により帯電防止性が高められたレンズ211と、イオン照射により帯電防止性
が高められたカバーガラス212と、投射レンズ211およびカバーガラス212とを通
して投影する光を生成する画像形成装置、たとえばLCD213とを備えたプロジェクタ
ー210を示している。また、図17に、イオン照射により帯電防止性が高められた撮像
レンズ221と、イオン照射により帯電防止性が高められたカバーガラス222と、撮像
レンズ221およびカバーガラス222を通して画像を取得するための撮像装置、たとえ
ばCCD223とを備えたデジタルカメラ220を示している。また、図18に、イオン
照射により帯電防止性が高められた透過層231と、光学的な方法により記録を読み書き
できる記録層232とを備えた記録媒体、たとえばDVD230を示している。
本発明により、これらのシステムに適用できる光学物品、たとえば、レンズ、ガラス、
プリズム、カバー層であって、ごみの付着を防止できる帯電防止機能を備えた光学物品を
提供できる。また、上記に示したシステムは例示にすぎず、当業者が本発明を利用しうる
光学物品およびシステムは、本発明に含まれるものである。
1 レンズ基材、 2 ハードコート層、 3 反射防止層、 4 防汚層10、 レン
ズサンプル。

Claims (9)

  1. 光学基材に直にまたは他の層を介して、金属酸化物を含む透光性の第1の層を形成することと、
    前記第1の層の表面にイオンを照射することにより、前記第1の層の表層域に限って酸素欠陥を導入することと、を有する、
    眼鏡レンズの製造方法。
  2. 請求項1において、
    前記イオンは、アルゴン、キセノン、ヘリウム、窒素およびネオンの少なくともいずれかを含む不活性ガスのイオンである、
    眼鏡レンズの製造方法。
  3. 請求項1または請求項2において、
    前記金属酸化物は遷移金属酸化物である、
    眼鏡レンズの製造方法。
  4. 請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記第1の層は多層構造の反射防止層に含まれる1つの層である、眼鏡レンズの製造方法。
  5. 請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記第1の層の表面へのイオンの照射を、イオンガンを用い行う、眼鏡レンズの製造方法。
  6. 光学基材に直にまたは他の層を介して、金属酸化物を含む透光性の第1の層を形成することと、
    前記第1の層の表面にイオンを照射することにより、前記第1の層の表層域に限って酸素欠陥を導入することと、を有し、
    前記第1の層は多層構造の反射防止層に含まれる1つの層である、
    光学物品の製造方法。
  7. 請求項6において、
    前記イオンは、アルゴン、キセノン、ヘリウム、窒素およびネオンの少なくともいずれかを含む不活性ガスのイオンである、
    光学物品の製造方法。
  8. 請求項6または請求項7において、
    前記金属酸化物は遷移金属酸化物である、
    光学物品の製造方法。
  9. 請求項6ないし請求項8のいずれか1項において、前記第1の層の表面へのイオンの照射を、イオンガンを用い行う、光学物品の製造方法。
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