JP5270932B2 - エポキシ化合物の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、タングステン化合物、第4級アンモニウム塩及びリン酸類で構成される触媒と、塩基性窒素含有化合物との存在下、少なくとも1つの二重結合を有する不飽和化合物を過酸化水素によりエポキシ化し、高い収率で前記エポキシ化合物を製造する方法に関する。
従来、少なくとも1つの二重結合を有する不飽和化合物を過酸化水素によりエポキシ化する反応において、触媒として、金属化合物(例えば、タングステンなどの周期表第6族元素を含む化合物、レニウムなどの周期表第7族元素を含む化合物、オスミウムなどの周期表第8族元素を含む化合物など)が使用され、工業的には、低コストの点から周期表第6族元素を含む化合物(特に、タングステン化合物)が汎用されている。
例えば、特開2008−7466号公報(特許文献1)では、下記式(1)
Figure 0005270932
(式中、Yは連結基又は単結合を示す。Hはシクロヘキサン環とオキシラン環との接合部位の水素原子を示す。シクロヘキサン環は式中に示される基以外の置換基を有していてもよい)
で表される脂環式多価エポキシ化合物であって、立体異性体の割合が、H−NMRスペクトルにおいてシクロヘキサン環とオキシラン環との接合部位のプロトンの低磁場側で観測されるシグナルの積分値Aと高磁場側で観測されるシグナルの積分値Bとの比A/Bで、1.8以上である脂環式多価エポキシ化合物が開示されている。この文献では、前記脂環式多価エポキシ化合物は、下記式(2)
Figure 0005270932
(式中、Yは連結基又は単結合を示す。シクロヘキセン環は式中に示される基以外の置換基を有していてもよい)
で表されるシクロヘキセン環含有化合物を、過酸化水素により酸化して製造している。また、前記製造方法において使用する触媒として、例えば、タングステン化合物とリン酸類とオニウム塩との組み合わせからなる触媒が記載されている。
しかし、特許文献1の方法では、反応系のpHが低く、生成するエポキシ化合物が、加水分解又は重合しやすい傾向にあるため、高収率で製造するのが困難である。
通常、タングステン化合物を触媒として用いるエポキシ化反応では、反応pHが低いほど、高い反応速度及び反応収率で反応が進行することが知られている。そのため、反応系のpHを低くすることが望まれるが、前記の通り、反応pHが低い条件下(例えば、pHが2以下程度)では、生成するエポキシ化合物が、加水分解又は重合しやすい傾向にある。そのため、タングステン化合物を触媒として用いるエポキシ化反応では、反応pHの調整が重要となる。
例えば、特公平3−57102号公報(特許文献2)には、水性相と液体有機相より成る反応混合物中に水、過酸化水素、水に実質的に不溶性でありシクロヘキセン環をもつC−C12有機化合物、モリブデンとタングステンより成る群から選ばれた化合物の6価イオンの触媒量、有機第4級アンモニウムイオンの触媒量、および硫酸とリン酸より成る群から選ばれた不活性強酸の可溶性塩の十分な量を混合し、前記水相のpHを2乃至6に調整すると共に、前記強酸の可溶性塩を水相中0.5乃至1.5モル濃度とするに十分な量で混合し、前記有機化合物のシクロヘキサンエポキシドを製造する方法が開示されている。
この文献では、反応pHを調整するため、硫酸とリン酸より成る群から選ばれた不活性強酸の可溶性塩を使用し、具体的には、実施例では、リン酸二水素ナトリウム(NaHPO・2HO)を使用している。この文献の方法では、エポキシド選択性とエポキシド収率とを増加させるため、多量の可溶性塩(リン酸二水素ナトリウム)を用いている。しかし、多量の可溶性塩(リン酸二水素ナトリウム)を用いると、種々の塩類が副生成物として生成するため、工業的規模の生産においては、エポキシ化合物の分離がし難くなる。また、多量の可溶性塩(リン酸二水素ナトリウム)を用いると、リン酸二水素ナトリウムを高濃度で含む廃液を処理する必要があるため、設備、コスト面などの点からも実用的ではない。
特開2008−7466号公報(請求項1、請求項3、段落[0031]) 特公平3−57102号公報(特許請求の範囲、第4頁左欄15〜26行、実施例)
従って、本発明の目的は、高い収率で前記エポキシ化合物を製造できる方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、多量の可溶性塩を用いることなく、広汎なpH領域に亘り、高い収率で前記エポキシ化合物を製造できる方法を提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、安価で、工業的規模の生産であっても生産性に優れる前記エポキシ化合物の製造方法を提供することにある。
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、タングステン化合物などの触媒を用いる反応系で、塩基性窒素含有化合物の存在下、少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を有する不飽和化合物を過酸化水素でエポキシ化すると、高い収率で前記不飽和化合物に対応するエポキシ化合物を製造できることを見いだし、本発明を完成した。
すなわち、本発明では、タングステン化合物、第4級アンモニウム塩及びリン酸類で構成される触媒と、塩基性窒素含有化合物との存在下、少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を有する不飽和化合物を過酸化水素でエポキシ化し、前記不飽和化合物に対応するエポキシ化合物を製造する。
前記方法において、pH2〜7程度の条件下でエポキシ化してもよい。また、前記塩基性窒素含有化合物を、前記不飽和化合物1モルに対し、炭素−炭素二重結合基準で0.001〜0.1モル当量程度の割合で用いてもよい。さらに、前記タングステン化合物を、前記不飽和化合物1モルに対し、炭素−炭素二重結合基準で0.0001〜0.3モル当量程度の割合で用いてもよい。さらにまた、前記タングステン化合物1モルに対し、第4級アンモニウム塩を0.01〜5モル当量程度の割合で用いてもよく、前記タングステン化合物1モルに対し、リン酸類を0.1〜10モル当量程度の割合で用いてもよい。
前記不飽和化合物は、炭素数6以上の化合物、例えば、少なくとも1つのC5−10シクロアルケン環を有する化合物であってもよい。また、前記塩基性窒素含有化合物は、第3級アミン類、例えば、窒素原子を環の構成原子として含む複素環式芳香族アミン類であってもよい。
本発明では、タングステン化合物などの触媒を用いるエポキシ化反応において、塩基性窒素含有化合物を用いるため、高い収率で前記エポキシ化合物を製造できる。また、多量の可溶性塩(例えば、リン酸水素ナトリウムなど)を用いることなく、広汎なpH領域に亘り、高い収率で前記エポキシ化合物を製造できる。さらに、前記塩基性窒素含有化合物の添加量が少量であるため、副生成物(例えば、塩類など)の生成が低減されるとともに、工業的規模の生産であっても、安価で、かつ優れた生産性で前記エポキシ化合物を製造できる。
[エポキシ化合物の製造方法]
本発明では、タングステン化合物、第4級アンモニウム塩及びリン酸類で構成される触媒と塩基性窒素含有化合物との存在下、少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を有する不飽和化合物を過酸化水素でエポキシ化し、前記不飽和化合物に対応するエポキシ化合物を製造する。前記エポキシ化反応において、通常、不飽和化合物の二重結合部位がエポキシ化される。
(不飽和化合物)
基質としての不飽和化合物は、少なくとも1つの炭素−炭素二重結合(二重結合、又はエチレン結合)を有している限り、特に制限されない。すなわち、前記不飽和化合物は、1分子中に1又は複数の二重結合を有していてもよい。前記不飽和化合物には、(1)二重結合を有する直鎖又は分岐鎖状脂肪族炭化水素、(2)シクロアルケン環(シクロアルカジエン環などのシクロアルカポリエン環も含む)を含有する化合物などが含まれる。これらの化合物は置換基を有していてもよい。なお、液相でエポキシ化反応を行う場合は、前記不飽和化合物として、通常、反応条件下で液体又は固体の(又は液体と混和性のある)不飽和化合物が選択される場合が多い。
(1)二重結合を有する直鎖又は分岐鎖状脂肪族炭化水素としては、例えば、エチレン、プロペン、1−ブテン、2−ブテン、1−ペンテン、2−ペンテン、1−ヘキセン、2−ヘキセン、2,3−ジメチル−2−ブテン、3−ヘキセン、1−ヘプテン、2−ヘプテン、1−オクテン、2−オクテン、3−オクテン、2−メチル−2−ブテン、1−ノネン、2−ノネン、デセン、ウンデセン、ドデセン、テトラデセン、ヘキサデセン、オクタデセンなどのC2−40アルケン(好ましくはC2−30アルケン、さらに好ましくはC2−20アルケン);ブタジエン、イソプレン、1,5−ヘキサンジエン、1,6−ヘプタジエン、1,7−オクタジエン、2,6−オクタジエン、デカジエン、ウンデカジエン、ドデカジエンなどのC4−40アルカジエン(好ましくはC4−30アルカジエン、さらに好ましくはC4−20アルカジエン);ウンデカトリエン、ドデカトリエンなどのC6−30アルカトリエン(好ましくはC6−20アルカトリエン)などが挙げられる。二重結合を有する直鎖又は分岐鎖状脂肪族炭化水素は、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。
これらの直鎖又は分岐鎖状脂肪族炭化水素は、例えば、芳香族炭化水素基(例えば、フェニル基などのC6−10アリール基など)、ヒドロキシル基、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子など)、メルカプト基、アルコキシ基(例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、t−ブトキシ基などのC1−10アルコキシ基(例えば、C1−6アルコキシ基など)など)、ハロアルコキシ基、アルキルチオ基(例えば、メチルチオ、エチルチオ基などのC1−10アルキルチオ基など)、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル基などのC1−10アルコキシカルボニル基(例えば、C2−10アルコキシカルボニル基など)など)、アシル基(例えば、アセチル、プロピオニル、トリフルオロアセチル基などのC2−10アシル基など)、アシルオキシ基(例えば、アセトキシ、プロピオニルオキシ、トリフルオロアセトキシ基などのC1−10アシルオキシ基など)、アミノ基、置換アミノ基、ニトロ基、シアノ基、複素環基(ピリジル基などの窒素原子含有複素環基など)などの置換基を有していてもよい。なお、置換基の数及び置換位置は特に制限されない。
置換基を有する前記直鎖又は分岐鎖状脂肪族炭化水素としては、例えば、置換基としてアリール基(例えば、フェニル基など)を有する前記直鎖又は分岐鎖状脂肪族炭化水素(例えば、フェニルエチレン(又はスチレン)、1−フェニルプロペン、2−フェニル−1−ブテン、1−フェニル−1,3−ブタジエン、1−フェニル−1,3−ペンタジエンなど)などが挙げられる。なお、置換基としてアリール基(例えば、フェニル基など)を有する前記直鎖又は分岐鎖状脂肪族炭化水素は、アルケニル基(例えば、ビニル、アリル、プロペニル、イソプロペニル、ブテニルなどのC2−10アルケニル基(好ましくはC2−6アルケニル基)など)で置換されている芳香族化合物と称することもでき、このような芳香族化合物は、側鎖に少なくとも1つの二重結合を有している限り、前記アルケニル基及び/又は芳香環に置換基(例えば、前記例示の置換基など)を有していてもよく、前記アルケニル基と芳香環との間に、連結基(後述する連結基など)を有していてもよい。
(2)シクロアルケン環(シクロアルカジエン環などのシクロアルカポリエン環も含む)を含有する化合物としては、例えば、シクロプロペン、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン、シクロノネン、シクロデセン、シクロウンデセン、シクロドデセンなどのC3−20シクロアルケン(好ましくはC4−14シクロアルケン、さらに好ましくはC5−10シクロアルケン);シクロペンタジエン、1,3−シクロヘキサジエン、1,4−シクロヘキサジエン、1,3−シクロヘプタジエン、1,4−シクロヘプタジエン、1,5−シクロオクタジエン、シクロデカジエンなどのC5−20シクロアルカジエン(好ましくはC5−14シクロアルカジエン、さらに好ましくはC5−10シクロアルカジエン);シクロオクタトリエンなどのC7−20シクロアルカトリエンなどが挙げられる。シクロアルケン環を含有する化合物は、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。これらのうち、C3−20シクロアルケンが好ましく、さらに、C5−10シクロアルケン[例えば、C6−8シクロアルケン(例えば、シクロヘキセンなどのC5−6シクロアルケンなど)]などが好適に使用される。
これらの化合物は、シクロアルケン環に、置換基を有していてもよい。置換基の数及び置換位置は特に制限されない。置換基としては、(1)二重結合を有する直鎖又は分岐鎖状脂肪族炭化水素の項で例示の置換基の他、例えば、アルキル基(例えば、メチル、エチル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、t−ブチル基などのC1−10アルキル基(好ましくはC1−6アルキル基)など);ハロアルキル基;アルケニル基(例えば、前記例示のアルケニル基など);アリール基(例えば、フェニル基などのC6−10アリール基)など]などが挙げられる。
前記不飽和化合物は、複数のアルケン単位及び/又はシクロアルケン単位を含む化合物であってもよい。前記複数のアルケン単位及び/又はシクロアルケン単位は同種であってもよく、異種であってもよい。また、前記複数のアルケン単位及び/又はシクロアルケン単位は単結合で結合(直接結合)していてもよく、連結基を介して結合していてもよい。前記連結基は、1種であってもよく、複数種であってもよい。なお、前記「アルケン単位」とは、前記(1)二重結合を有する直鎖又は分岐鎖状脂肪族炭化水素に対応する1価又は多価基であってもよく、アルカジエン単位などのアルカポリエン単位も含む意味で用いる。また、前記「シクロアルケン単位」とは、前記(2)シクロアルケン環を含有する化合物に対応する1価又は多価基であってもよく、シクロアルカジエン単位などのシクロアルカポリエン単位も含む意味で用いる。
前記連結基は、通常、多価基(例えば、二価基など)である。連結基は、例えば、アルキレン基(例えば、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、2−メチルブタン−1,3−ジイル基などのC1−20アルキレン基など)、シクロアルキレン基(例えば、1,4−シクロヘキシレン基などのC4−10シクロアルキレン基など)、アリーレン基(例えば、フェニレン基、ナフタレンジイル基などのC6−10アリーレン基など)、カルボニル結合、エステル結合、アミド結合、エーテル結合及びウレタン結合から選択された少なくとも1種で構成できる。
前記不飽和化合物の炭素数(置換基及び/又は連結基を含む場合には、置換基及び/又は連結基に含まれる炭素数を合算した個数)は、2〜40程度であってもよく、好ましくは6以上(例えば、6〜30)、さらに好ましくは6〜25、特に6〜20(例えば、7〜20)程度であってもよい。
このような不飽和化合物は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。前記不飽和化合物は、(2)シクロアルケン環(例えば、C3−20シクロアルケン環、好ましくはC6−20シクロアルケン環、特にシクロヘキセン環)を含有する化合物であるのが好ましい。前記不飽和化合物は、1又は複数のシクロアルケン環(特にシクロヘキセン環)を有していてもよい。
代表的な前記不飽和化合物には、例えば、下記式(3)
Figure 0005270932
(式中、Rは、水素原子又はアルキル基を示し、Rは、水素原子、アルキル基、アルケニル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基を示す。)
で表される化合物や、下記式(4)
Figure 0005270932
(式中、Rは、直鎖又は分岐鎖状アルキレン基を示し、Rは、前記に同じ。m及びnは同一又は異なって0又は1以上の整数である。)
で表される化合物などが含まれる。
で示される直鎖又は分岐鎖状アルキレン基(アルキリデン基も含む)としては、置換基を有していてもよいアルカン(例えば、エタン、プロパン、イソペンタン、2,2−ジメチルプロパンなどのC1−20アルカンなど)に対応する二価基[具体的には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、2,2−ジメチルプロパン−1,3−ジイル基などの直鎖又は分岐鎖状C2−20アルキレン基(又はアルキリデン基)]などが例示できる。また、前記式(4)において、通常、mは1である。
具体的には、前記不飽和化合物には、例えば、前記式(3)において、R及びRが水素原子であるシクロヘキセン、Rが水素原子であり、Rがメトキシカルボニル基であるシクロヘキサ−3−エンカルボン酸メチル(下記式(3a))、Rが水素原子であり、Rがビニル基である4−ビニルシクロヘキセン(下記式(3b))、Rがメチル基であり、Rがビニル基である2−メチル−4−ビニルシクロヘキセン(下記式(3c))、Rがメチル基であり、Rがイソプロペニル基である2−メチル−4−(2−プロペニル)シクロヘキセン(下記式(3d));前記式(4)において、Rが水素原子であり、Rがメチレン基であり、mが1、nが0であるシクロヘキサ−3−エンカルボン酸シクロヘキセニルメチル(下記式(4a))、Rが水素原子であり、Rが2,2−ジメチルプロパン−1,3−ジイル基であり、m及びnが1であるビス[1,3−(シクロヘキサ−3−エンカルボン酸)]−2,2−ジメチルプロピルエステル(下記式(4b))、Rがメチル基であり、Rが2,2−ジメチルプロパン−1,3−ジイル基であり、m及びnが1であるビス[1,3−(4−メチルシクロヘキサ−3−エンカルボン酸)]−2,2−ジメチルプロピルエステル(下記式(4c))及びビス[1,3−(3−メチルシクロヘキサ−3−エンカルボン酸)]−2,2−ジメチルプロピルエステル(下記式(4d))などが含まれる。
Figure 0005270932
例えば、不飽和化合物として、前記式(4a)で表されるシクロヘキサ−3−エンカルボン酸シクロヘキセニルメチルを用いると、対応するエポキシ化合物(下記式(5)で表される3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート)が得られる。また、不飽和化合物として、前記式(3c)で表される2−メチル−4−ビニルシクロヘキセンを用いると、対応するエポキシ化合物(下記式(6a)で表されるモノエポキシ体及び下記式(6b)で表されるジエポキシ体)が得られる。
Figure 0005270932
(過酸化水素)
前記不飽和化合物をエポキシ化するための過酸化水素(又は過酸化水素水溶液)は、慣用の方法で合成してもよく、市販品を用いてもよい。過酸化水素の濃度は、特に制限されないが、取扱性などの観点から、例えば、20〜70w/v%、好ましくは22〜67w/v%、さらに好ましくは25〜65w/v%程度であってもよい。
(触媒)
本発明のエポキシ化反応工程では、前記不飽和化合物を、触媒の存在下、過酸化水素でエポキシ化する。前記触媒は、タングステン化合物、第4級アンモニウム塩及びリン酸類で構成されている。
(タングステン化合物)
タングステン化合物は、少なくともタングステン原子を有していればよく、例えば、タングステンのハロゲン化物(例えば、塩化タングステンなど);タングステンの無機酸塩(例えば、硫酸塩、硝酸塩など);タングステンの有機酸塩(例えば、酢酸塩など)であってもよく、タングステンを中心金属とする錯体であってもよい。また、タングステン化合物は、タングステン酸で構成されたポリ酸又はその塩であってもよい。前記ポリ酸又はその塩には、例えば、イソポリ酸又はその塩(例えば、タングステン酸;タングステン酸ナトリウム、タングステン酸カリウムなどのタングステン酸のアルカリ金属塩、タングステン酸アンモニウムなど);ヘテロポリ酸又はその塩[例えば、タングストリン酸(又はリンタングステン酸)(例えば、12−タングストリン酸、11−タングストリン酸など)、バナジウムタングステン酸、モリブデンタングステン酸、マンガンタングステン酸、コバルトタングステン酸、ケイタングステン酸、リンバナドタングステン酸、マンガンモリブデンタングステン酸又はこれらの塩(例えば、アルカリ金属塩など)など]などが含まれる。これらのタングステン化合物は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。取扱性、コスト面の観点から、タングステン酸で構成されたポリ酸又はその塩が好ましく、特に、前記イソポリ酸又はその塩(例えば、タングステン酸、タングステン酸ナトリウムなど)などが好適に使用される。
(第4級アンモニウム塩)
第4級アンモニウム塩には、テトラアルキルアンモニウム塩[例えば、塩化テトラブチルアンモニウム、塩化テトラヘキシルアンモニウム、硫酸水素テトラヘキシルアンモニウム、塩化テトラオクチルアンモニウム、硫酸水素テトラオクチルアンモニウムなどのテトラアルキルアンモニウム塩(テトラC1−20アルキルアンモニウム塩);塩化トリオクチルメチルアンモニウム(TOMAC)、硫酸水素トリオクチルメチルアンモニウム、塩化トリオクチルエチルアンモニウム、硫酸水素トリオクチルエチルアンモニウムなどのトリアルキルアルキルアンモニウム塩(トリC1−20アルキル−C1−10アルキルアンモニウム塩);塩化ジラウリルジメチルアンモニウム、臭化ジステアリルジメチルアンモニウムなどのジアルキルジアルキルアンモニウム塩(ジC1−20アルキル−ジC1−10アルキルアンモニウム塩);臭化ラウリルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウムなどのアルキルトリアルキルアンモニウム塩(C1−20アルキル−トリC1−10アルキルアンモニウム塩)など];アリール−アルキル−トリアルキルアンモニウム塩[例えば、塩化ベンジルトリC1−10アルキルアンモニウム(例えば、塩化ベンジルトリメチルアンモニウムなど)などのベンジルトリC1−10アルキルアンモニウム塩;塩化ベンジルジC1−10アルキル−C1−20アルキルアンモニウム(例えば、塩化ベンジルジメチルステアリルアンモニウムなど)などのベンジルジC1−10アルキル−C1−20アルキルアンモニウム塩など];塩化セチルピリジニウム、臭化セチルピリジニウム、ヨウ化セチルピリジニウム、硫酸水素セチルピリジニウムなどのアルキルピリジニウム塩(C1−20アルキルピリジニウム塩)などが含まれる。これらの第4級アンモニウム塩は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの第4級アンモニウム塩のうち、前記タングステン化合物、基質である不飽和化合物などの他の反応成分との親和性の観点などから、側鎖として、炭素数6以上の直鎖状アルキル基を少なくとも1つ有している第4級アンモニウム塩が好ましい。具体的には、例えば、塩化トリオクチルメチルアンモニウム(TOMAC)、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ベンジルジメチルステアリルアンモニウムなどが好適に使用される。
(リン酸類)
リン酸類には、リン酸、ポリリン酸(ピロリン酸、メタリン酸を含む)、(ポリ)リン酸塩{(ポリ)リン酸アンモニウムなどのアンモニウム塩;(ポリ)リン酸の金属塩[例えば、リン酸カリウム、リン酸ナトリウムなどの(ポリ)リン酸アルカリ金属塩;リン酸カルシウムなどの(ポリ)リン酸アルカリ土類金属塩;リン酸水素カリウム、リン酸水素ナトリウムなどの(ポリ)リン酸水素アルカリ金属塩;リン酸水素カルシウムなどの(ポリ)リン酸水素アルカリ土類金属塩;(ポリ)リン酸アルミニウム塩(リン酸ピロリン酸アルミニウム複塩を含む)などの(ポリ)リン酸金属塩]}などが挙げられる。なお、前記リン酸類には、五酸化二リンなどのリン酸類を合成する材料(又は原料)も含まれる。これらのリン酸類は単独で又は二種以上組み合わせてもよい。これらのリン酸類のうち、取扱性、コスト面などの点から、リン酸又はリン酸塩(特に、リン酸)が好ましい。
(触媒における各成分の割合)
前記触媒において、第4級アンモニウム塩は、タングステン化合物1モルに対し、例えば、0.01〜5モル当量、好ましくは0.03〜3モル当量、さらに好ましくは0.05〜1モル当量程度の割合で含まれていてもよい。また、リン酸類は、タングステン化合物1モルに対し、例えば、0.1〜10モル当量、好ましくは0.2〜5モル当量、さらに好ましくは0.3〜3モル当量程度であってもよい。
過酸化水素(実質的に添加する過酸化水素)は、前記不飽和化合物1モルに対し、0.1〜10モル当量、好ましくは0.2〜8モル当量、さらに好ましくは0.3〜5モル当量程度の割合で添加されてもよい。
タングステン化合物は、前記不飽和化合物1モルに対し、炭素−炭素二重結合基準で0.0001〜0.3モル当量(例えば、0.0001〜0.1モル当量)、好ましくは0.0005〜0.25モル当量(例えば、0.0005〜0.05モル当量)、さらに好ましくは0.001〜0.2モル当量、特に0.001〜0.01モル当量(例えば、0.002〜0.008モル当量)程度の割合で用いてもよい。すなわち、タングステン化合物は、前記不飽和化合物に含まれる炭素−炭素二重結合(1モル)に対し、例えば、0.01〜30モル%、好ましくは0.05〜25モル%、さらに好ましくは0.1〜20モル%程度の割合で用いてもよい。ここで、例えば、前記不飽和化合物が、1分子中に2つの炭素−炭素二重結合を有している場合、前記不飽和化合物1モルには、2モルの炭素−炭素二重結合が含まれるとする。
また、第4級アンモニウム塩は、前記不飽和化合物に含まれる炭素−炭素二重結合(1モル)に対し、例えば、0.01〜5モル%、好ましくは0.03〜3モル%、さらに好ましくは0.05〜2モル%程度の割合で用いてもよい。さらに、リン酸類は、前記不飽和化合物に含まれる炭素−炭素二重結合(1モル)に対し、例えば、0.05〜3モル%、好ましくは0.1〜2モル%、さらに好ましくは0.2〜1モル%程度の割合で用いてもよい。
(塩基性窒素含有化合物)
本発明の特色は、タングステン化合物などの触媒を用いる反応系で、塩基性窒素含有化合物の存在下、前記不飽和化合物を過酸化水素でエポキシ化する点にある。前記エポキシ化反応において、塩基性窒素含有化合物を用いることにより、広汎なpH領域で前記不飽和化合物のエポキシ化反応を行うことができる。また、塩基性窒素含有化合物を用いると、タングステン化合物、第4級アンモニウム塩及びリン酸類で構成されている触媒系において、エポキシ化反応に関与する反応活性種が安定して形成されるためか、高い収率でエポキシ化合物を製造することができる。なお、前記塩基性窒素含有化合物は、添加量が少量であっても有効に作用するため、多量の添加に伴う収率の低下(又は生成するエポキシ化合物の不安定化)、副生成物(例えば、塩類など)の生成などが有効に抑制される。そのため、広汎なpH領域に亘り、高い収率で前記エポキシ化合物を製造することができる。
塩基性窒素含有化合物には、例えば、アンモニア、アミン類(モノアミン類、ポリアミン類など)が含まれる。
モノアミン類としては、例えば、第1級アミン類[例えば、第1級脂肪族アミン類(例えば、メチルアミン、エチルアミンなどのC1−20アルキルアミンなど)、第1級脂環族アミン類(例えば、シクロヘキシルアミンなどのC4−10シクロアルキルアミンなど)、第1級芳香族アミン類(例えば、アニリン、トルイジンなどのC6−10アリールアミンなど)など];第2級アミン類[例えば、第2級脂肪族アミン類(例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミンなどのジC1−20アルキルアミンなど)、第2級脂環族アミン類(例えば、ジシクロヘキシルアミンなどのジC4−10シクロアルキルアミンなど)、第2級芳香族アミン類(例えば、ジフェニルアミンなどのジC6−10アリールアミンなど)など];第3級アミン類{例えば、脂肪族第3級アミン類[例えば、トリアルキルアミン類(トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリヘキシルアミン、トリオクチルアミンなどのトリC2−20アルキルアミン(好ましくはトリC2−16アルキルアミンなど))、ジアルキルアルキルアミン類(ジエチルメチルアミンなどのジC1−10アルキルC1−20アルキルアミンなど)など];脂環族第3級アミン類[例えば、トリシクロアルキルアミン類(トリシクロへキシルアミンなどのトリC4−10シクロアルキルアミンなど)、ジシクロアルキルアルキルアミン類(ジシクロヘキシルメチルアミンなどのジC4−10シクロアルキルC1−10アルキルアミンなど)、シクロアルキルジアルキルアミン類(シクロヘキシルジメチルアミンなどのC4−10シクロアルキルジC1−10アルキルアミンなど)など];芳香族第3級アミン類[例えば、トリアリールアミン類(トリフェニルアミンなどのトリC6−10アリールアミンなど)、アリールジアルキルアミン類(N,N−ジメチルアニリンなどのC6−10アリールジC1−10アルキルアミンなど)];複素環式アミン類(例えば、ピリジン、メチルピリジン(又はピコリン)、エチルピリジン、キノリン、イソキノリン、キノキサリン、キナゾリン、フタラジン、1−メチルイミダゾール、N,N−ジメチルアミノピリジンなどの環の構成原子として窒素原子を含む複素環式芳香族アミン類など)などが挙げられる。
ポリアミン類としては、前記モノアミン類に対応するポリアミン類、例えば、鎖状ポリアミン類[例えば、アルカンジアミン類(エチレンジアミン、プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどのC2−20アルカンジアミン)などのジアミン類;ポリアルキレンポリアミン類(又はポリアルキレンイミン、例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタアミンなどのポリC2−4アルキレンポリアミン)などの第1級ポリアミン類]、環状ポリアミン類[例えば、環状第2級ポリアミン(例えば、ピペラジン、1,4,8,11−テトラアザシクロテトラデカンなど)、環状第3級ポリアミン(ピリミジン、ヘキサメチレンテトラミン、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン(トリエチレンジアミン、DABCO)、1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]−5−ノネン(DBN)、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセン(DBU)など)など]などが挙げられる。
前記塩基性窒素含有化合物は、単独で又は二種以上組み合わせてもよい。これらの塩基性窒素含有化合物のうち、前記触媒系で形成される反応活性種の生成を妨げない点、生成するエポキシ化合物の開裂反応を抑制する点などから、第3級アミン類が好ましく、芳香族第3級アミン類、特に、環の構成原子として窒素原子を含む複素環式芳香族アミン類[例えば、ピリジン、メチルピリジン(又はピコリン)、キノリンなど]などが好適に使用される。
前記塩基性窒素含有化合物は、前記不飽和化合物1モルに対し、炭素−炭素二重結合基準で、例えば、0.001〜0.1モル当量、好ましくは0.002〜0.07モル当量、さらに好ましくは0.003〜0.05モル当量程度の割合で用いてもよい。すなわち、前記不飽和化合物に含まれる炭素−炭素二重結合(1モル)に対し、例えば、0.1〜10モル%、好ましくは0.2〜7モル%、さらに好ましくは0.3〜5モル%程度の割合で用いてもよい。また、前記塩基性窒素含有化合物は、前記タングステン化合物1モルに対し、例えば、0.01〜8モル当量、好ましくは0.05〜6モル当量、さらに好ましくは0.1〜5モル当量程度の割合で用いてもよい。
(エポキシ化反応)
エポキシ化反応は、タングステン化合物と第4級アンモニウム塩とリン酸類とで構成される触媒、及び塩基性窒素含有化合物の存在下に行い、前記不飽和化合物を過酸化水素でエポキシ化し、前記不飽和化合物に対応するエポキシ化合物を製造する。
エポキシ化反応では、前記タングステン化合物、第4級アンモニウム塩、リン酸類、塩基性窒素含有化合物、不飽和化合物及び過酸化水素(以下、これらを総括して「原料(又は反応成分)」と称する場合がある)を一括して混合して反応させてもよく、個別に混合して反応させてもよい。例えば、反応効率の観点から、前記原料のうち、過酸化水素を除く原料(具体的には、前記タングステン化合物、第4級アンモニウム塩、リン酸類、塩基性窒素含有化合物及び不飽和化合物)を予め混合し、得られる混合溶液に過酸化水素を添加してエポキシ化反応を開始させてもよい。なお、各原料を添加し混合する場合、各原料において、全量を一気に(又は一回で)添加してもよく、回分して(又は複数回に分けて)添加してもよい。なお、過酸化水素を添加する場合、全量を一気に(又は一回で)添加してもよいが、反応熱による反応溶液の急激な温度上昇、及びそれに伴う過酸化水素の分解を抑制するため、回分して(又は複数回に分けて)添加するのが好ましい。過酸化水素を回分して(又は複数回に分けて)添加する方法は、特に制限されないが、例えば、過酸化水素を反応溶液に滴下する方法を利用すると、容易に反応速度を調整でき、反応溶液の急激な温度上昇を有効に防止することができる。
エポキシ化反応は、溶媒の非存在下で行ってもよいが、通常、溶媒の存在下で行う場合が多い。なお、前記エポキシ化反応では、過酸化水素を用いてエポキシ化するため、前記溶媒には、通常、水性溶媒が含まれる。水性溶媒としては、例えば、水、水溶性有機溶媒[例えば、環状エーテル類(例えば、ジオキサン、テトラヒドロフランなど);セロソルブアセテート類(エチルセロソルブアセテートなどのC1−4アルキルセロソルブアセテート類)など]などが挙げられる。これらの水性溶媒は、単独で又は二種以上組み合わせて用いてもよい。汎用性の点から、通常、水が使用される。
また、前記エポキシ化反応では、前記溶媒は、前記水性溶媒と有機溶媒との混合溶媒であるのが好ましい。有機溶媒は、水性溶媒と分液可能である限り、特に制限されず、前記不飽和化合物の種類などに応じて適宜選択でき、例えば、シクロプロパノール、シクロへキサノールなどのシクロC3−10アルカノール類;ジメチルエーテル、ジエチルエーテルなどの鎖状エーテル類;メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチルなどのエステル(鎖状エステル)類;炭化水素類(例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素類、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの脂環族炭化水素類、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素類、クロロホルム、塩化メチレン、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類、フェノール類など)などが挙げられる。前記有機溶媒は、単独で又は二種以上組合せてもよい。これらの有機溶媒のうち、反応効率の観点から、芳香族炭化水素類(例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなど)、ハロゲン化炭化水素類(例えば、クロロホルム、塩化メチレン、クロロベンゼンなど)が好ましく、特に、芳香族炭化水素類(例えば、トルエンなど)が好適である。
水性溶媒と有機溶媒との割合は、前者/後者(重量比)=90/10〜5/95程度の範囲から選択でき、例えば、85/15〜10/90、好ましくは80/20〜15/85、さらに好ましくは75/25〜20/80程度であってもよい。また、有機溶媒の使用量は、前記反応成分1重量部に対して、例えば、0.01〜20重量部、好ましくは0.05〜15重量部、さらに好ましくは0.1〜10重量部(例えば、0.2〜5重量部)程度であってもよい。
反応温度(又は反応系の温度)は、20〜100℃、好ましくは30〜90℃、さらに好ましくは40〜80℃(例えば、50〜80℃)程度であってもよい。また、前記反応は、常圧下で行ってもよく、減圧下又は加圧下で行うこともできる。さらに、前記反応は、大気中で行ってもよく、不活性ガス(窒素、ヘリウム、アルゴンなど)雰囲気中で行うこともできる。
反応時間は、反応条件(例えば、反応成分の種類及び量、反応温度など)などに応じて適宜選択できるが、例えば、10分〜20時間、好ましくは30分〜15時間、さらに好ましくは1〜10時間(例えば、2〜8時間)程度であってもよい。
また、反応系(水相)のpHは、2〜7、好ましくは3〜7、さらに好ましくは3.5〜6.5程度であってもよい。前記の通り、タングステン化合物を用いるエポキシ化反応では、通常、反応pHが低いほど、高い反応活性及び収率でエポキシ化合物を製造でき、反応pHが中性に近づくにつれ、反応活性及び収率が低下する傾向にある。しかし、本発明では、塩基性窒素含有化合物の存在下、タングステン化合物を用いるエポキシ化反応を行っているため、中性(又は弱酸性)域(例えば、pH6〜7程度)であっても、高い反応活性及び収率を維持でき、広汎なpH領域に亘り、高い収率でエポキシ化合物を製造できる。
前記エポキシ化反応を経て生成するエポキシ化合物の収率は、前記不飽和化合物基準で、80〜100%、好ましくは85〜99%、さらに好ましくは90〜98%(例えば、92〜97%)程度である。
なお、得られるエポキシ化合物は、目的に応じ、慣用の方法、例えば、濾過、濃縮、抽出、晶析、再結晶などの分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により反応生成物から分離精製してもよい。
本発明では、不飽和化合物(例えば、シクロヘキセン環を有する化合物など)に対応するエポキシ化合物を高い収率で製造でき、得られるエポキシ化合物は、医薬、香料、染料、食品、有機合成中間体および高分子樹脂原料の中間化合物として有用である。
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、実施例、比較例における評価方法は以下の通りである。
[評価方法]
(pH測定)
pHは、ポータブルメーター(メトラー・トレド(株)製、「SEVENGO」)を用いて測定した。
[実施例1]
1Lの4つ口フラスコを窒素で置換した後、タングステン酸二ナトリウム4.0g(12ミリモル)、リン酸(純度85%)1.40g(12ミリモル)、ベンジルジメチルステアリルアンモニウムクロリド1.03g(2ミリモル)、ピリジン0.96g(12ミリモル)、シクロヘキセン200g(2.4モル)、トルエン200gを仕込み、撹拌しながら70℃まで昇温した。次いで、得られた混合溶液に、30w/v%過酸化水素水溶液303g(過酸化水素2.7モル)を5時間かけて滴下した。反応開始(滴下開始)後2時間の時点で、反応溶液を採取(サンプリング)し、下層(水相)のpHを測定したところ、4.5であった。過酸化水素水溶液を全量滴下した後、反応溶液を室温まで放冷し、上層と下層とを分液した。上層を、ガスクロマトグラフィーを用いて分析したところ、生成したエポキシ化合物の収率(シクロヘキセン基準)は95%であった。
[実施例2]
ピリジンを2.88g(37ミリモル)使用する以外は実施例1と同様に反応させた。反応開始(滴下開始)後2時間の時点で、反応溶液を採取(サンプリング)し、下層(水相)のpHを測定したところ、6.2であった。過酸化水素水溶液を全量滴下した後、反応溶液を室温まで放冷し、上層と下層とを分液し、上層を、ガスクロマトグラフィーを用いて分析したところ、生成したエポキシ化合物の収率(シクロヘキセン基準)は93%であった。
[比較例1]
ピリジンを用いる代わりに、リン酸水素二ナトリウム3.45g(25ミリモル)使用する以外は実施例1と同様に反応させた。反応開始(滴下開始)後2時間の時点で、反応溶液を採取(サンプリング)し、下層(水相)のpHを測定したところ、6.3であった。過酸化水素水溶液を全量滴下した後、反応溶液を室温まで放冷し、上層と下層とを分液し、上層を、ガスクロマトグラフィーを用いて分析したところ、生成したエポキシ化合物の収率(シクロヘキセン基準)は27%であった。
[実施例3]
1Lの4つ口フラスコを窒素で置換した後、タングステン酸二ナトリウム1.0g(3.1ミリモル)、リン酸(純度85%)0.36g(3.1ミリモル)、ベンジルジメチルステアリルアンモニウムクロリド0.39g(0.93ミリモル)、ピリジン0.24g(3.1ミリモル)、前記式(4b)で表されるビス[1,3−(シクロヘキサ−3−エンカルボン酸)]−2,2−ジメチルプロピルエステル100g(0.31sモル)、トルエン300gを仕込み、撹拌しながら70℃まで昇温した。次いで、得られた混合溶液に、30w/v%過酸化水素水溶液78g(過酸化水素0.68モル)を5時間かけて滴下した。反応開始(滴下開始)後2時間の時点で、反応溶液を採取(サンプリング)し、下層(水相)のpHを測定したところ、4.7であった。過酸化水素水溶液を全量滴下した後、反応溶液を室温まで放冷し、上層と下層とを分液した。上層を、ガスクロマトグラフィーを用いて分析したところ、生成したエポキシ化合物の収率{ビス[1,3−(シクロヘキサ−3−エンカルボン酸)]−2,2−ジメチルプロピルエステル基準}は、ジエポキシ体(下記式(7a))が92%、モノエポキシ体(下記式(7b))が3%であった。
Figure 0005270932
[実施例4]
ビス[1,3−(シクロヘキサ−3−エンカルボン酸)]−2,2−ジメチルプロピルエステルの代わりに、前記式(4c)で表されるビス[1,3−(4−メチルシクロヘキサ−3−エンカルボン酸)]−2,2−ジメチルプロピルエステルを108g(0.31モル)使用する以外は、実施例3と同様に反応させた。反応開始(滴下開始)後2時間の時点で、反応溶液を採取(サンプリング)し、下層(水相)のpHを測定したところ、4.6であった。過酸化水素水溶液を全量滴下した後、反応溶液を室温まで放冷し、上層と下層とを分液し、上層を、ガスクロマトグラフィーを用いて分析したところ、生成したエポキシ化合物の収率{ビス[1,3−(4−メチルシクロヘキサ−3−エンカルボン酸)]−2,2−ジメチルプロピルエステル基準}は、ジエポキシ体(下記式(8a))が93%、モノエポキシ体(下記式(8b))が3%であった。
Figure 0005270932
[実施例5]
ビス[1,3−(シクロヘキサ−3−エンカルボン酸)]−2,2−ジメチルプロピルエステルの代わりに、前記式(3a)で表されるシクロヘキサ−3−エンカルボン酸メチルを87g(0.62モル)使用する以外は、実施例3と同様に反応させた。反応開始(滴下開始)後2時間の時点で、反応溶液を採取(サンプリング)し、下層(水相)のpHを測定したところ、5.4であった。過酸化水素水溶液を全量滴下した後、反応溶液を室温まで放冷し、上層と下層とを分液し、上層を、ガスクロマトグラフィーを用いて分析したところ、生成したエポキシ化合物(下記式(9)で表されるエポキシ化合物)の収率(シクロヘキサ−3−エンカルボン酸メチル基準)は、95%であった。
Figure 0005270932
[実施例6]
ピリジンの代わりに、β−ピコリンを1.13g(12ミリモル)使用する以外は、実施例1と同様に反応させた。反応開始(滴下開始)後2時間の時点で、反応溶液を採取(サンプリング)し、下層(水相)のpHを測定したところ、4.6であった。過酸化水素水溶液を全量滴下した後、反応溶液を室温まで放冷し、上層と下層とを分液し、上層を、ガスクロマトグラフィーを用いて分析したところ、生成したエポキシ化合物の収率(シクロヘキセン基準)は、94%であった。
[実施例7]
ピリジンの代わりに、キノリンを1.57g(12ミリモル)使用する以外は、実施例1と同様に反応させた。反応開始(滴下開始)後2時間の時点で、反応溶液を採取(サンプリング)し、下層(水相)のpHを測定したところ、4.6であった。過酸化水素水溶液を全量滴下した後、反応溶液を室温まで放冷し、上層と下層とを分液し、上層を、ガスクロマトグラフィーを用いて分析したところ、生成したエポキシ化合物の収率(シクロヘキセン基準)は、94%であった。
実施例から明らかなように、タングステン化合物を触媒として用いるエポキシ化反応において、塩基性窒素含有化合物を用いることにより、高い収率で前記不飽和化合物に対応するエポキシ化合物を製造することができた。一方、リン酸水素二ナトリウムの存在下で反応させている比較例1では、前記触媒系で形成され得る反応活性種の生成が阻害(又は抑制)されるためか、実施例と比べて、エポキシ化合物の収率は非常に低かった。なお、実施例では、塩基性窒素含有化合物の存在下、前記エポキシ化反応を行っているため、実施例2と比較例1との比較から明らかなように、中性(又は弱酸性)域(例えば、pH6〜7程度)であっても、高い収率を維持できた。

Claims (6)

  1. タングステン化合物、第4級アンモニウム塩及びリン酸類で構成される触媒と、塩基性窒素含有化合物との存在下、少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を有する不飽和化合物を過酸化水素でエポキシ化し、前記不飽和化合物に対応するエポキシ化合物を製造する方法であって、前記タングステン化合物が、タングステン酸で構成されたポリ酸又はその塩であり、かつ前記塩基性窒素含有化合物が、ピリジン、ピコリン及びキノリンからなる群より選択された少なくとも1種である製造方法
  2. pH2〜7の条件下でエポキシ化する請求項1記載の製造方法。
  3. 塩基性窒素含有化合物を、不飽和化合物1モルに対し、炭素−炭素二重結合基準で0.001〜0.1モル当量の割合で用いる請求項1又は2記載の製造方法。
  4. タングステン化合物を、不飽和化合物1モルに対し、炭素−炭素二重結合基準で0.0001〜0.3モル当量の割合で用いるとともに、前記タングステン化合物1モルに対し、第4級アンモニウム塩を0.01〜5モル当量、及びリン酸類を0.1〜10モル当量の割合で用いる請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
  5. 不飽和化合物が、炭素数6以上の化合物である請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
  6. 不飽和化合物が、少なくとも1つのC5−10シクロアルケン環を有する化合物である請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
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