JP4935757B2 - 車両用サスペンションシステム - Google Patents
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Description
それら4つの接近離間力発生装置の各々が有する前記電磁モータの作動を制御することで、それら4つの接近離間力発生装置の各々が発生させる接近離間力を制御する制御装置であって、種類が互いに異なる複数の車体振動が合成された振動を減衰するためにそれら複数の車体振動の各々を減衰の対象とする複数の振動減衰制御を同時に実行可能とされ、それら複数の振動減衰制御の各々において発生させるべき接近離間力の成分である振動減衰成分の和に基づいて、前記4つの接近離間力発生装置の各々が発生させる接近離間力を制御する制御装置と
を備えた車両用サスペンションシステムであって、
前記制御装置が、
4つの車輪の各々に対応するばね上部の振動におけるばね上共振周波数の振動成分の強度が設定された程度より低い状況下において、前記複数の振動減衰制御のうち減衰させる必要のない車体振動に対応する振動減衰制御を実行しないように構成された車両用サスペンションシステム。
前記複数の車体振動の1つであるロール振動を減衰するロール減衰制御と、前記複数の車体振動の1つであるピッチ振動を減衰するピッチ減衰制御と、前記複数の車体振動の1つであるバウンス振動を減衰するバウンス減衰制御とを含む(1)項または(2)項に記載の車両用サスペンションシステム。
前記制御装置が、4つの車輪の各々に対応するばね上部の振動におけるばね上共振周波数の振動成分の強度が設定された程度より低い状況下において、ロール振動の強度が設定された程度以下である場合には、前記ロール減衰制御を実行しないように構成された(1)項ないし(3)項のいずれか1つに記載の車両用サスペンションシステム。
前記制御装置が、4つの車輪の各々に対応するばね上部の振動におけるばね上共振周波数の振動成分の強度が設定された程度より低い状況下において、ピッチ振動の強度が設定された程度以下である場合には、前記ピッチ減衰制御を実行しないように構成された(1)項ないし(4)項のいずれか1つに記載の車両用サスペンションシステム。
前記制御装置が、4つの車輪の各々に対応するばね上部の振動におけるばね上共振周波数の振動成分の強度が設定された程度より低い状況下において、バウンス振動の強度が設定された程度以下である場合には、前記バウンス減衰制御を実行しないように構成された(1)項ないし(5)項のいずれか1つに記載の車両用サスペンションシステム。
前記制御装置が、前記位相進み補償器によって位相を進ませた4つの車輪の各々に対応するばね上速度に基づいて、前記複数の振動減衰制御の各々において減衰の対象となる車体振動の速度を推定するように構成された(8)項に記載の車両用サスペンションシステム。
4つの車輪に対応して設けられ、(a)それぞれが、自身に対応するばね上部とばね下部とを弾性的に連結する4つのサスペンションスプリング、および、(b)それぞれが、自身に対応するばね上部とばね下部との接近離間動作に対する減衰力を発生させる4つの液圧式のショックアブソーバを備えた(1)項ないし(9)項のいずれか1つに記載の車両用サスペンションシステム。
前記制御装置が、前記4つのショックアブソーバの各々が有する前記減衰係数変更機構を制御することで、それら4つのショックアブソーバの各々の減衰係数を制御するように構成された(11)項に記載の車両用サスペンションシステム。
ばね上共振周波数ω=(k/m)1/2 ・・・(1)
臨界減衰係数CC=2・(m・k)1/2 ・・・(2)
減衰比ζ=C/CC ・・・(3)
また、1自由度の減衰振動モデルにおいて、前輪あるいは後輪に対応するばね上部の変位量をx(t)とすれば、運動方程式は次式によって表される。
m・d2x(t)/dt2+C・dx(t)/dt+k・x(t)=0 ・・・(4)
その運動方程式の解から、減衰振動周波数ωdが、次式によって表される。
ωd=(1−ζ2)1/2・ω (ζ<1の場合) ・・・(5)
なお、一般的な車両においては、路面の凸所や凹所を車輪が通過する際の振動が、1周期強で収束するように設定される。
前輪側最大変位到達時間が後輪側最大変位到達時間より短い場合に、第1の特定状態が前記ピッチ抑制状態に対応し、第2の特定状態が前記ロール抑制状態に対応するように設定され、
後輪側最大変位到達時間が前輪側最大変位到達時間より短い場合に、第1の特定状態が前記ロール抑制状態に対応し、第2の特定状態が前記ピッチ抑制状態に対応するように設定された(13)項または(14)項に記載の車両用サスペンションシステム。
前記複数の車体振動の1つであるロール振動を減衰するロール減衰制御と、前記複数の車体振動の1つであるピッチ振動を減衰するピッチ減衰制御とを含み、
前記制御装置が、
4つの車輪の各々に対応するばね上部の振動におけるばね上共振周波数の振動成分の強度が設定された程度より低い状況下において、ロール振動とピッチ振動との少なくとも一方を減衰させる必要がある場合に、(i)前記4つのショックアブソーバの各々の減衰係数を制御して前記ロール抑制状態を実現するとともに、前記複数の振動減衰制御のうち前記ロール減衰制御を実行しないように、あるいは、(ii)前記4つのショックアブソーバの各々の減衰係数を制御して前記ピッチ抑制状態を実現するとともに、前記複数の振動減衰制御のうち前記ピッチ減衰制御を実行しないように構成された(13)項ないし(15)項のいずれか1つに記載の車両用サスペンションシステム。
4つの車輪の各々に対応するばね上部の振動におけるばね上共振周波数の振動成分の強度が設定された程度より低い状況下において、(A-1)ロール振動の強度が設定された程度を超え、かつ、ピッチ振動の強度が設定された程度以下である場合に、前記4つのショックアブソーバの各々の減衰係数を制御して前記ロール抑制状態を実現するとともに、前記ロール減衰制御と前記ピッチ減衰制御との両者を実行しないようにされ、(A-2)ロール振動の強度が設定された程度以下で、かつ、ピッチ振動の強度が設定された程度を超える場合に、前記4つのショックアブソーバの各々の減衰係数を制御して前記ピッチ抑制状態を実現するとともに、前記ロール減衰制御と前記ピッチ減衰制御との両者を実行しないように構成された(16)項に記載の車両用サスペンションシステム。
4つの車輪の各々に対応するばね上部の振動におけるばね上共振周波数の振動成分の強度が設定された程度より低い状況下において、ロール振動の強度が設定された程度を超え、かつ、ピッチ振動の強度が設定された程度を超える場合に、(B-1)前記4つのショックアブソーバの各々の減衰係数を制御して前記ロール抑制状態を実現するとともに、前記複数の振動減衰制御のうち前記ロール減衰制御を実行せず、前記ピッチ抑制制御を実行するように、あるいは、(B-2)前記4つのショックアブソーバの各々の減衰係数を制御して前記ピッチ抑制状態を実現するとともに、前記複数の振動減衰制御のうち前記ピッチ減衰制御を実行せず、前記ロール抑制制御を実行するように構成された(16)項または(17)項に記載の車両用サスペンションシステム。
一端部がばね上部とばね下部との一方に連結される弾性体と、
ばね上部とばね下部との他方と前記弾性体の他端部との間に配設されてその他方と前記弾性体とを連結し、前記電磁モータを自身の構成要素としてその電磁モータが発生させるモータ力に依拠して自身が発生させる力を前記弾性体に作用させることで、自身の動作量に応じて前記弾性体の変形量を変化させるとともに、その力を前記弾性体を介してばね上部とばね下部とに接近離間力として作用させる電磁式のアクチュエータと
を有する(1)項ないし(18)項のいずれか1つに記載の車両用サスペンションシステム。
前記アクチュエータが、車体に固定され、自身が発生させる力によって前記シャフト部をそれの軸線まわりに回転させるものである(21)項に記載の車両用サスペンションシステム。
前記アクチュエータが、1/2以下の正逆効率積を有する構造とされた(21)項または(22)項に記載の車両用サスペンションシステム。
i)サスペンションシステムの全体構成
図4に、実施例の車両用サスペンションシステム10を模式的に示す。本システム10においては、前後左右4つの車輪12FR,FL,RR,RLと車体14との間に、それら4つの車輪12の各々に対応して4つのサスペンション装置20FR,FL,RR,RLが設けられている。転舵輪である前輪12FR,FLのサスペンション装置20FR,FLと非転舵輪である後輪12RR,RLのサスペンション装置20RR,RLとは、車輪12を転舵可能とする機構を除き略同様の構成とみなせるため、説明の簡略化に配慮して、図5,6を参照しつつ、左後輪12RLのサスペンション装置20RLを代表して説明する。図5は、サスペンション装置20RLの側面図(車両後方から眺めた図)であり、図6は、それの平面図(車両上方から眺めた図)である。なお、以下の説明において、4つの車輪のいずれに対応するものであるかを明確にする必要のある場合には、図に示すように、車輪位置を示す添え字として、左前輪,右前輪,左後輪,右後輪の各々に対応するものにFL,FR,RL,RRを付す場合がある。また、前輪側と後輪側とを区別する必要がある場合には、Fr,Rrを付す場合がある。
上記ショックアブソーバ52の構造について、図7,8を参照しつつ、詳しく説明する。ショックアブソーバ52は、図7に示すように、作動液を収容するハウジング60と、そのハウジング60に液密かつ摺動可能に嵌合されたピストン62と、そのピストン62に下端部が連結されて上端部がハウジング60の上方から延び出すピストンロッド64とを含んで構成されている。そして、ハウジング60が、第2ロアアーム36に連結され、ピストンロッド64が、マウント部56に連結される。ちなみに、ピストンロッド64は、ハウジング60の上部に設けられた蓋部66を貫通しており、シール68を介してその蓋部66と摺接している。
車体車輪間距離調整装置54は、概してL字形状をなすL字形バー150と、そのバー150を回転させるアクチュエータ152とを備えている。アクチュエータ152は、取付部154において車体14の下部に固定される。L字形バー150は、図5,6に示すように、概ね車幅方向に延びるシャフト部156と、それと連続するとともにそれと交差して概ね車両後方に延びるアーム部158とに区分することができる。L字形バー150は、シャフト部156の端部(アーム部158とは反対側の端部)において、アクチュエータ152に連結されるとともに、シャフト部156の中間部において、車体14に固定された保持具160によってシャフト部156の軸線回りの回転が許容される状態で保持されている。また、アーム部158の端部(シャフト部154とは反対側の端部)は、リンクロッド162を介して、第2ロアアーム36に連結されている。なお、そのリンクロッド162は、一端部において、第2ロアアーム36に設けられたリンクロッド連結部164に揺動可能に連結され、他端部において、L字形バー150のアーム部158の端部に揺動可能に連結されている。
正効率ηP=FaP/FmP
逆効率ηN=FmN/FaN
本サスペンションシステム10は、4つのサスペンション装置20の作動、詳しく言えば、4つのショックアブソーバ52の各々の減衰係数変更機構と、4つの調整装置54の各々のアクチュエータ152との作動を制御する制御装置としてのサスペンション電子制御ユニット200(以下、「ECU200」という場合がある)を備えている(図4参照)。ECU200は、図12に示すように、CPU,ROM,RAM等を備えたコンピュータを主体とするコントローラ202と、各ショックアブソーバ52が有するモータ100に対応する4つのインバータ204と、各アクチュエータ152が有するモータ170に対応する4つのインバータ206とを有している。それらインバータ204およびインバータ206は、コンバータ208を介してバッテリ210に接続されており、各ショックアブソーバ52のモータ100,各アクチュエータ152のモータ170には、そのコンバータ208とバッテリ210とを含んで構成される電源から電力が供給される。
i)サスペンションシステムの基本的な制御の概要
本サスペンションシステム10では、各車輪12ごとにそれらの各々に対応するばね上部の振動を減衰するための制御であるいわゆるスカイフックダンパ理論に基づく制御(以下、「スカイフック制御」という場合がある),車両の旋回に起因する車体のロールを抑制するための制御(以下、「旋回ロール抑制制御」という場合がある),車両の加減速に起因する車体のピッチを抑制するための制御(以下、「加減速ピッチ抑制制御」という場合がある),種類が異なる複数の車体振動に対処するための制御(以下、「複合振動対処制御」という場合がある)が、並行して実行される。基本的には、各調整装置54が発生させる接近離間力が独立して制御されて、それらスカイフック制御,旋回ロール抑制制御,加減速ピッチ抑制制御,複合振動対処制御が総合的に実行される。
スカイフック制御では、ばね上部の振動を減衰するためにその振動の速度に応じた大きさの接近離間力を発生させるべく、各調整装置54の各々のスカイフック減衰力成分FSが決定される。具体的には、車体のマウント部56に設けられたばね上縦加速度センサ224の検出結果に基づいて、車体のマウント部56の上下方向の動作速度、いわゆる、ばね上絶対速度Vufil(後に詳しく説明するが、位相進み補償後のばね上絶対速度である)が求められ、そのばね上絶対速度Vufilに基づき、次式に従って、スカイフック減衰力成分FSが演算される。
FS=K1・Cs・Vufil (K1:ゲイン,Cs:減衰係数)
車両の旋回時においては、その旋回に起因するロールモーメントによって、旋回内輪側のばね上部とばね下部とが離間させられるとともに、旋回外輪側のばね上部とばね下部とが接近させられる。旋回ロール抑制制御では、その旋回内輪側の離間および旋回外輪側の接近を抑制すべく、旋回内輪側の調整装置54にバウンド方向の接近離間力を、旋回外輪側の調整装置54にリバウンド方向の接近離間力を、それぞれ、ロール抑制力として発生させる。具体的に言えば、まず、車体が受けるロールモーメントを指標する横加速度として、ステアリングホイールの操舵角δと車速vとに基づいて推定された推定横加速度Gycと、横加速度センサ220によって実測された実横加速度Gyrとに基づいて、制御に利用される横加速度である制御横加速度Gy*が、次式に従って決定される。
Gy*=K2・Gyc+K3・Gyr (K2,K3:ゲイン)
そのように決定された制御横加速度Gy*に基づいて、ロール抑制力成分FRが、次式に従って決定される。
FR=K4・Gy* (K4:ゲイン)
車両の制動時等の減速時において車体のノーズダイブが生じる場合には、そのノーズダイブを生じさせるピッチモーメントによって、前輪側のばね上部とばね下部とが接近させられるとともに、後輪側のばね上部とばね下部とが離間させられる。また、車両の加速時において車体のスクワットが生じる場合には、そのスクワットを生じさせるピッチモーメントによって、前輪側のばね上部とばね下部とが離間させられるとともに、後輪側のばね上部とばね下部とが接近させられる。加減速ピッチ抑制制御では、それらの場合のばね上ばね下間距離の変動を抑制すべく、接近離間力をピッチ抑制力として発生させる。具体的には、車体が受けるピッチモーメントを指標する前後加速度として、前後加速度センサ222によって実測された実前後加速度Gxが採用され、その実前後加速度Gxに基づいて、ピッチ抑制力成分FPが、次式に従って決定される。
FP=K5・Gx (K5:ゲイン)
なお、ピッチ抑制力制御は、スロットルセンサ230によって検出されるスロットルの開度、あるいは、ブレーキ圧センサ232によって検出されるマスタシリンダ圧が、設定された閾値を超えることをトリガとして実行される。
複合振動対処制御では、4つの調整装置54の各々において、バウンス振動減衰制御,ロール振動減衰制御,ピッチ振動減衰制御ごとの接近離間力の成分であるバウンス減衰力成分,ロール減衰力成分,ピッチ減衰力成分の和である複合振動減衰成分FVが決定される。その複合振動減衰成分FVは、4つの車輪12の各々に対応して設けられた4つのばね上縦加速度センサ224の検出値に基づいて決定されるのであり、その4つのばね上縦加速度センサ224の検出値に対して複合振動減衰成分FVが決定されるまでの流れを、図13に示すブロック図を参照しつつ詳しく説明する。
まず、4つのばね上縦加速度センサ224の検出値が、ノイズ等除去部250に送信される。そのノイズ等除去部250は、ローパスフィルタ[LPF]およびハイパスフィルタ[HPF]を含んで構成されるものであり、HPFによってカットオフ周波数(例えば、0.1Hz)以下の周波数成分を除去するとともに、LPFによって高周波数成分(例えば、24Hz)のノイズを除去する。そして、ノイズ等除去部250によって処理されたばね上縦加速度Guが、積分器を含んで構成されるばね上絶対速度演算部252によって積分されて、ばね上絶対速度Vuが演算される。
Vufil=K・(P・Vu+D・dVu/dt)=K・(P・Vu+D・Gu)
ここで、K,P,Dは、それぞれ、補償ゲイン,比例ゲイン,微分ゲインであり、ばね上共振周波数(1.0Hz)の周波数成分の位相を設定された角度分だけ進ませるとともに、その成分における出力の振幅が入力の振幅と等しくなるように、適切な値に設定されたものである。なお、この位相進み補償器の特性を、図14のボード線図に示す。図14(a)には、周波数に対するゲイン(入力に対する出力の振幅比の常用対数をとり、20倍したもの)の特性を、図14(b)には、周波数に対する位相の特性を、それぞれ示している。
上記の位相補償処理部254から出力された4つの車輪12の各々に対応する位相補償ばね上速度Vufilは、振動速度変換部256に送信される。この振動速度変換部256では、バウンス振動減衰制御,ロール振動減衰制御,ピッチ振動減衰制御において減衰の対象となる車体14の動作速度、つまり、バウンス速度Vb,ロール速度Vr,ピッチ速度Vpの各々が、4つの車輪12の各々に対応する位相補償ばね上速度Vufil(VFR,VFL,VRR,VRL)に基づいて推定される。詳しくは、重心位置から4つの車輪12の各々の距離を考慮して、次式に従って演算される。
Vb=(VFR+VFL+VRR+VRL)/4
Vr=(VFR−VFL+VRR−VRL)/4
Vp=(VFR+VFL−VRR−VRL)/4
なお、上記の式においては、車体の重心位置から4つの車輪12までの距離が等しく、単位距離にあるものとしている。次いで、振動減衰力演算部258において、バウンス振動減衰制御,ロール振動減衰制御,ピッチ振動減衰制御の各々において、車体に発生させるべきバウンス振動減衰力FVb,ロール振動減衰力FVr,ピッチ振動減衰力FVpが、次式に従って決定される。
FVb=Kb・Cb・Vb
FVr=Kr・Cr・Vr
FVp=Kp・Cp・Vp
ここで、Cb,Cr,Cpは、それぞれ、バウンス振動,ロール振動,ピッチ振動に対する減衰係数である。また、Kb,Kr,Kpは、[1]と[0]との間で切り換えられて、それぞれ、バウンス振動減衰制御,ロール振動減衰制御,ピッチ振動減衰制御を実行するか否かを決定するためのゲイン(以下、「実行切換ゲイン」という場合がある)である。それら実行切換ゲインKb,Kr,Kpは、通常時において[1]とされており、後に詳しく説明するが、それぞれ、バウンス振動減衰制御,ロール振動減衰制御,ピッチ振動減衰制御を実行する必要がない場合に[0]とされるようになっている。
FVFR=(FVb+FVr+FVp)/4
FVFL=(FVb−FVr+FVp)/4
FVRR=(FVb+FVr−FVp)/4
FVRL=(FVb−FVr−FVp)/4
したがって、各調整装置54が発生させる接近離間力は、バウンス振動減衰制御,ロール振動減衰制御,ピッチ振動減衰制御において発生させるべき接近離間力の成分であるバウンス振動減衰成分,ロール振動減衰成分,ピッチ振動減衰成分の和に基づいて制御されるのである。
、上述のようにして、接近離間力のスカイフック減衰力成分FS,ロール抑制力成分FR,ピッチ抑制力成分FP,複合振動減衰成分FVが決定されると、それらに基づき、次式に従って目標接近離間力F*が決定される。
F*=FS+FR+FP+FV
前述したように、接近離間力とモータ回転角とは対応関係にあるため、その目標接近離間力F*に基づいて、目標モータ回転角θ*が決定される。そして、実際のモータ回転角である実モータ回転角θが、その目標モータ回転角θ*となるように、モータ170が制御される。このモータ170の制御において、モータ170に供給される電流は、実モータ回転角θの目標モータ回転角θ*に対する偏差であるモータ回転角偏差Δθ(=θ*−θ)に基づいて決定される。つまり、モータ170への供給電流が、モータ回転角偏差Δθに基づくフィードバック制御の手法に従って決定される。具体的には、モータ170が備えるモータ回転角センサ184の検出値に基づいて、上記モータ回転角偏差Δθが認定され、次いで、それをパラメータとして、次式に従って、目標供給電流i*が決定される。
i*=KP・Δθ+KI・Int(Δθ)
この式は、PI制御則に従う式であり、第1項,第2項は、それぞれ、比例項、積分項を、KP,KIは、それぞれ、比例ゲイン,積分ゲインを意味する。また、Int(Δθ)は、モータ回転角偏差Δθの積分値に相当する。
本システム10においては、先に述べたように、正逆効率積ηP・ηNが比較的小さいアクチュエータ152を採用していること等の理由から、調整装置54が、比較的高周波域の振動に対処することが困難となっている。また、各調整装置54の目標接近離間力F*を決定する際に、詳しくは、振動減衰制御における接近離間力の成分を決定する際に、減衰の対象となる振動に関する車体の動作速度(以下、「振動速度」という場合がある)を用いているが、その振動速度が、図14に示した特性の位相進み処理を行ったばね上速度に基づいて推定される。そのため、図14から解るように、ばね上共振周波数より高い周波数の振動の成分に対しては、周波数が高くなるほど、位相のずれが生じるとともに振幅が大きくなってしまう。つまり、調整装置54が発生させる接近離間力では、比較的高い周波数の振動を減衰できず、接近離間力によって乗り心地を悪化させる可能性があるのである。そこで、本システム10では、4つの車輪12に対応するばね上部の振動におけるばね上共振周波数の振動の強度が設定された程度より低い状況下(以下、「低振動強度状況下」という場合がある)において、バウンス振動減衰制御,ロール振動減衰制御,ピッチ振動減衰制御のうち減衰させる必要のない車体振動に対応する制御を実行しないようにされている。簡単に言えば、調整装置54が主に対処することになるばね上共振周波数域の振動が車体に生じていないような場合には、振動減衰制御が制限されることで調整装置54が発生させる接近離間力が制限されるのである。
ωd=(1−ζ2)1/2・ω (ζ<1の場合) ・・・(5)
ここで、ζ=C/CCは減衰比であり、CC=2・(m・k)1/2は臨界減衰係数である。つまり、通常状態においては、前輪側減衰係数CFrと後輪側減衰係数CRrとは、同じ値とされているため、上記のばね上共振周波数ωに依存し、前輪12Frに対応する減衰振動周波数ωdFrに対して、後輪12Rrに対応する減衰振動周波数ωdRrが、比較的高い。ちなみに、本システム10を搭載した車両においては、路面の凸所や凹所を車輪が通過した場合の振動が、1周期強で収束するように設定されている。
前述のようなサスペンションシステムの制御は、図17にフローチャートを示す複合振動対処制御プログラムと、図19にフローチャートを示す接近離間力制御プログラムとが、イグニッションスイッチがON状態とされている間、短い時間間隔Δt(例えば、数msec)をおいてECU200により繰り返し実行されることによって行われる。以下に、その制御のフローを、図に示すフローチャートを参照しつつ、簡単に説明する。なお、接近離間力制御プログラムは、4つの車輪12にそれぞれ設けられた調整装置54の各々に対して実行される。以降の接近離間力制御プログラムの説明においては、説明の簡略化に配慮して、1つの調整装置54に対しての処理について説明する。
複合振動対処制御プログラムによる処理では、まず、ステップ1(以下、「S1」と略す、他のステップも同様である)において、4つの車輪12のすべてに対応する位相補償ばね上速度Vufilが取得される。S2において、それらに基づき、重心位置から4つの車輪12の各々の距離を考慮して、バウンス速度Vb(=(VFR+VFL+VRR+VRL)/4),ロール速度Vr(=(VFR−VFL+VRR−VRL)/4),ピッチ速度Vp(=(VFR+VFL−VRR−VRL)/4)の各々が演算される。
接近離間力制御プログラムによる処理では、S51、52で、スカイフック制御を行うためのスカイフック減衰力成分FSが、S53,54で、旋回ロール抑制制御を行うためのロール抑制力成分FRが、S55,56で、加減速ピッチ抑制制御を行うためのピッチ抑制力成分FPが、それぞれ、先に説明したような方法によって決定される。次いで、S57において、複合振動対処制御プログラムにおいて決定された自身に対応する複合振動減衰成分FVが取得され、S58において、それらの成分FS,FR,FP,FVが合計されて目標接近離間力F*が決定される。そして、目標接近離間力F*が決定されると、S59において、その目標接近離間力F*に基づいて、目標モータ回転角θ*が決定される。さらに、S62において、決定された目標モータ回転角θ*に基づき、前述のPI制御則に従う式に従って、目標供給電流i*が決定され、S63において、決定された目標供給電流i*に基づく制御信号がインバータ206に送信された後、本プログラムの1回の実行が終了する。このような処理により、各調整装置54のモータ170の作動が制御されることで、各調整装置54は、必要とされる接近離間力を発生させることになる。
本サスペンションシステム10の制御装置であるECU200は、複合振動対処制御プログラムおよび接近離間力制御プログラムの実行により、上述したような種々の処理を実行する。この種々の処理の実行によって、ECU200は、図12に示すような機能部を有していると考えることができる。ECU200は、基本的な制御部として、S51,52の処理を実行してスカイフック減衰力成分FSを決定するスカイフック制御部302と、S53,54の処理を実行してロール抑制力成分FRを決定する旋回ロール抑制制御部304と、S55,56の処理を実行してピッチ抑制力成分FPを決定する加減速ピッチ抑制制御部306とを有している。
上記の実施例においては、4つのショックアブソーバ52の各々の減衰係数を制御して、ロール抑制状態とピッチ抑制状態とを選択的に実現可能とされており、低振動強度状況下において、ロール振動あるいはピッチ振動を抑制する必要がある場合に、調整装置54代えて、それらショックアブソーバ52を利用して、ロール振動あるいはピッチ振動を抑制するように構成されていた。本変形例のシステムは、例えば、4つのショックアブソーバの各々が減衰係数変更機構を有していないこと等により、低振動強度状況下において、4つのショックアブソーバを利用しないものである。つまり、本変形例のシステムにおいては、3つの振動減衰制御の各々が、減衰の対象となる振動の強度が設定された程度を越えるか否かによって、実行されるか否かが判断されるようになっている。詳しく言えば、バウンス振動の強度,ロール振動の強度,ピッチ振動の強度が、それぞれ、車体の上下方向の縦加速度,左右傾斜角,前後傾斜角に基づいて推定される。そして、それらの現時点から遡った設定時間t1内における最大値である最大縦加速度Gz,最大左右傾斜角α,最大前後傾斜角βの各々が、それぞれ、設定値Gz0,α0,β0以下である場合に、バウンス振動減衰制御,ロール振動減衰制御,ピッチ振動減衰制御が実行されないようになっている。つまり、本変形例のシステムにおいては、最大縦加速度Gz,最大左右傾斜角α,最大前後傾斜角βに応じて、図20(a)に示すような場合に区分することができ、その区分毎に各振動減衰制御の実行切換ゲインKb,Kr,Kpが、図20(b)に示すように決定されるのである。
Claims (9)
- 前後左右の4つの車輪に対応して設けられ、それぞれが、電磁モータを有してその電磁モータが発生させるモータ力に依拠して自身に対応するばね上部とばね下部とを接近・離間させる方向の力である接近離間力を発生させる4つの接近離間力発生装置と、
それら4つの接近離間力発生装置の各々が有する前記電磁モータの作動を制御することで、それら4つの接近離間力発生装置の各々が発生させる接近離間力を制御する制御装置であって、車体に生じている振動を減衰するために、それぞれがその振動の一成分であって種類が互いに異なる複数の車体振動の各々を減衰の対象とする複数の振動減衰制御を同時に実行可能とされ、それら複数の振動減衰制御の各々において発生させるべき減衰力を前記4つの接近離間力発生装置の各々に分配し、それら4つの接近離間力発生装置の各々に発生させるべき接近離間力の成分である振動減衰成分を決定し、前記4つの接近離間力発生装置の各々ごとに前記複数の振動減衰制御の各々の振動減衰成分を足し合わせてそれら4つの接近離間力発生装置の各々が発生させる接近離間力を制御する制御装置と
を備えた車両用サスペンションシステムであって、
前記複数の振動減衰制御が、
前記複数の車体振動の1つであるロール振動を減衰するロール減衰制御と、前記複数の車体振動の1つであるピッチ振動を減衰するピッチ減衰制御と、前記複数の車体振動の1つであるバウンス振動を減衰するバウンス減衰制御とを含み、
前記制御装置が、
4つの車輪の各々に対応するばね上部の振動におけるばね上共振周波数の振動成分の強度が設定された程度より低い状況下において、前記複数の振動減衰制御のうち減衰させる必要のない車体振動に対応する振動減衰制御を実行しないように構成された車両用サスペンションシステム。 - 前記制御装置が、
前記複数の車体振動の各々において、それらの各々の強度がその各々に対応して設定された強度以下である場合に、減衰させる必要がない車体振動であると判定し、その減衰させる必要がないと判定された車体振動に対応する振動減衰制御を実行しないように構成された請求項1に記載の車両用サスペンションシステム。 - 前記制御装置が、4つの車輪の各々に対応するばね上部の振動におけるばね上共振周波数の振動成分の強度が設定された程度より低い状況下において、ロール振動の強度が設定された程度以下である場合には、前記ロール減衰制御を実行せず、ピッチ振動の強度が設定された程度以下である場合には、前記ピッチ減衰制御を実行せず、バウンス振動の強度が設定された程度以下である場合には、前記バウンス減衰制御を実行しないように構成された請求項2に記載の車両用サスペンションシステム。
- 前記制御装置が、4つの車輪の各々に対応するばね上部の上下方向の動作速度であるばね上速度に基づいて、4つの車輪の各々に対応するばね上部の振動におけるばね上共振周波数の振動成分の強度が設定された程度より低い状況下にあるか否かを推定するように構成された請求項1ないし請求項3のいずれか1つに記載の車両用サスペンションシステム。
- 当該車両用サスペンションシステムが、
4つの車輪に対応して設けられ、(a)それぞれが、自身に対応するばね上部とばね下部とを弾性的に連結する4つのサスペンションスプリング、および、(b)それぞれが、自身に対応するばね上部とばね下部との接近離間動作に対する減衰力を発生させるとともに、減衰力を発生させるための自身の能力であってその減衰力の大きさの基準となる減衰係数を変更する減衰係数変更機構を有する4つの液圧式のショックアブソーバを備え、
前記制御装置が、
前記4つのショックアブソーバの各々が有する前記減衰係数変更機構を制御することで、それら4つのショックアブソーバの各々の減衰係数を制御するように構成されて、それら4つのショックアブソーバの各々の減衰係数を制御して、前記4つのショックアブソーバのうちの前輪に対応する2つのものの減衰係数である前輪側減衰係数が後輪に対応する2つのものの減衰係数である後輪側減衰係数より大きい第1の特定状態と、前記後輪側減衰係数が前記前輪側減衰係数より大きい第2の特定状態とを選択的に実現することで、ピッチ振動の抑制に好適なピッチ抑制状態と、ロール振動の抑制に好適なロール抑制状態とを選択的に実現可能に構成され、
前記複数の振動減衰制御が、ロール振動を減衰するロール減衰制御と、ピッチ振動を減衰するピッチ減衰制御とを含むものとされ、
4つの車輪の各々に対応するばね上部の振動におけるばね上共振周波数の振動成分の強度が設定された程度より低い状況下において、ロール振動とピッチ振動との少なくとも一方を減衰させる必要がある場合に、(i)前記4つのショックアブソーバの各々の減衰係数を制御して前記ロール抑制状態を実現するとともに、前記複数の振動減衰制御のうち前記ロール減衰制御を実行しないように、あるいは、(ii)前記4つのショックアブソーバの各々の減衰係数を制御して前記ピッチ抑制状態を実現するとともに、前記複数の振動減衰制御のうち前記ピッチ減衰制御を実行しないように構成された請求項1ないし請求項4のいずれか1つに記載の車両用サスペンションシステム。 - 前記制御装置が、
4つの車輪の各々に対応するばね上部の振動におけるばね上共振周波数の振動成分の強度が設定された程度より低い状況下において、(A-1)ロール振動の強度が設定された程度を超え、かつ、ピッチ振動の強度が設定された程度以下である場合に、前記4つのショックアブソーバの各々の減衰係数を制御して前記ロール抑制状態を実現するとともに、前記ロール減衰制御と前記ピッチ減衰制御との両者を実行しないようにされ、(A-2)ロール振動の強度が設定された程度以下で、かつ、ピッチ振動の強度が設定された程度を超える場合に、前記4つのショックアブソーバの各々の減衰係数を制御して前記ピッチ抑制状態を実現するとともに、前記ロール減衰制御と前記ピッチ減衰制御との両者を実行しないように構成された請求項5に記載の車両用サスペンションシステム。 - 前記制御装置が、
4つの車輪の各々に対応するばね上部の振動におけるばね上共振周波数の振動成分の強度が設定された程度より低い状況下において、ロール振動の強度が設定された程度を超え、かつ、ピッチ振動の強度が設定された程度を超える場合に、(B-1)前記4つのショックアブソーバの各々の減衰係数を制御して前記ロール抑制状態を実現するとともに、前記複数の振動減衰制御のうち前記ロール減衰制御を実行せず、前記ピッチ抑制制御を実行するように、あるいは、(B-2)前記4つのショックアブソーバの各々の減衰係数を制御して前記ピッチ抑制状態を実現するとともに、前記複数の振動減衰制御のうち前記ピッチ減衰制御を実行せず、前記ロール抑制制御を実行するように構成された請求項5または請求項6に記載の車両用サスペンションシステム。 - 当該サスペンションシステムが、振動の位相を進ませる位相進み補償器を備え、
前記制御装置が、4つの車輪の各々に対応するばね上部の上下方向の動作速度であるばね上速度であって、前記位相進み補償器によって位相を進ませたばね上速度に基づいて、前記複数の振動減衰制御の各々において減衰の対象となる車体振動の速度を推定するように構成され、
前記複数の振動減衰制御の各々が、その推定された減衰の対象となる車体振動の速度に応じた大きさの接近離間力を発生させるべく振動減衰成分を決定するように構成された請求項1ないし請求項7のいずれか1つに記載の車両用サスペンションシステム。 - 前記4つの接近離間力発生装置の各々が、
一端部がばね上部とばね下部との一方に連結される弾性体と、
ばね上部とばね下部との他方と前記弾性体の他端部との間に配設されてその他方と前記弾性体とを連結し、前記電磁モータを自身の構成要素としてその電磁モータが発生させるモータ力に依拠して自身が発生させる力を前記弾性体に作用させることで、自身の動作量に応じて前記弾性体の変形量を変化させるとともに、その力を前記弾性体を介してばね上部とばね下部とに接近離間力として作用させる電磁式のアクチュエータと
を有する請求項1ないし請求項8のいずれか1つに記載の車両用サスペンションシステム。
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