JP4774195B2 - 歯科用部材および歯科用部材の表面改質処理方法 - Google Patents

歯科用部材および歯科用部材の表面改質処理方法 Download PDF

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Description

本発明は、特に歯列矯正部材及び義歯用部材等の口内に装着するための歯科用部材、並びに歯科用部材の表面改質処理方法に関する。
歯科用部材の1つである歯列矯正部材は、不正歯列の矯正治療に用いられ、その多くは患者の歯牙に直接接着させて使用されている。このような歯列矯正部材としては、ブラケット,バンド,バッカルチューブ,リンガルシース,リンガルボタン等が知られている。中でも、ブラケットは最も普通に用いられている部材である。
歯列矯正用ブラケットとしては、従来より、金属製のものが広く知られているが、近年、審美性の向上を目的に、セラミックス製ブラケットやプラスチック製ブラケット等、透明あるいは白色系半透明の材料により形成されているものが用いられるようになってきた。
従来のプラスチック製ブラケットを形成する材料としては、ガラス繊維により強化されたポリカーボネート(例えば、特許文献1及び2参照)が多く用いられている。ポリカーボネート製ブラケットは、透明性が高く、比較的高強度で、一般の歯列矯正用接着剤により矯正治療に必要な接着強度が得られるという利点を有する。
しかしながら、上記のポリカーボネート製ブラケットは、“飲食物の色素成分によって着色して、審美性を損なう”、“口内環境において、加水分解等により樹脂が劣化して、治療中にブラケットの構成部材が破損する”、“治療期間(一般に18〜24ヶ月)の間にブラケットを交換する必要がある”、“内分泌攪乱物質(いわゆる環境ホルモン)の一つであるビスフェノールA(BPA)が溶出する可能性がある”、といった不具合があった。
また、歯科用部材の1つである人工歯、義歯床、義歯裏装材等の義歯用部材においても、同様に、形成される材料として各種プラスチックや金属が一般的に用いられている。
従来の義歯用部材を形成する材料としては、ホウ酸アルミニウムウイスカ、粒子状ホウ酸アルミニウムにより強化されたポリカーボネート(例えば、特許文献3参照)、ポリスルホンまたはポリサルホン樹脂、エラストマーを添加したアクリル樹脂(例えば、特許文献4参照)、ポリエチレンやポリプロピレン(例えば、特許文献5参照)などが知られている。
義歯裏装材とは、適合の悪くなった義歯の再適合をはかったり、咀嚼時に疼痛が生じる症例等に用いられる器具である。義歯裏装材は、硬質裏装材と軟質裏装材とがある。硬質裏装材に用いる材料としては、アクリル系樹脂等が知られており、軟質裏装材に用いる材料としては、軟質アクリル、軟質シリコン等が知られている。
これら義歯用部材においても、上記のポリカーボネート製ブラケットの場合と同様に、ポリカーボネート、ポリサルホンなどの義歯用部材はビスフェノールAの溶出の可能性がある。また、アクリル樹脂製の義歯用部材は成形性が良好であるが、吸水性が高く、樹脂が劣化しやすい等の問題がある。
そこで、歯列矯正部材や義歯用部材を構成する材料として、上記ポリカーボネート樹脂やポリサルホン樹脂等に代わる新しいポリマー材料が望まれている。
例えば、歯列矯正用ブラケットでは、ポリウレタン、ポリアセタール、アクリル系樹脂等から形成されたブラケットが上市された。しかし、これは不透明である、ある種の成分が溶出する等の問題があった。また、透明ナイロン(結晶化ナイロン)を用いたブラケットも提案されているが、透明ナイロンは、吸水性が高いことから、長期間に渡り口内環境にさらされると、変色して劣化し、接着はがれが起きる可能性があった。
また、ポリプロピレン、ポリエチレン等のオレフィン系樹脂は、化学的に極めて安定であり、BPAのような環境ホルモンを溶出しない材料である。これらの材料を表面改質処理して接着性を向上させることにより、歯列矯正用ブラケットに適用できることが提案されている(例えば、特許文献6参照)。
一方、歯科用部材を歯牙と接着する時、または歯科用部材同士を接着する時に、プラスチックプライマーを用いて処理することがある。プラスチックプライマーは、アクリルモノマーやある種の溶剤等の混合物からなるものである。
例えば、プラスチック製ブラケットでプライマーを用いる場合、プラスチックプライマーをブラケットの接着面に塗布することにより、接着面を溶解したり、接着成分を付着させたりして、接着剤が接着面と化学的に結合できるようにしている。しかしながら、近年では、光重合性接着剤の普及や、接着剤が塗布された状態でユーザーに供給されるプレプライムブラケットの進展により、このプライマーを用いた処理は非効率であると考えられつつある。
プラスチックプライマーによる処理を行わずに、ブラケットを歯牙に接着する技術としては、以下のものが知られている。
例えば、接着面にエポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂を塗布し、これらの樹脂がやわらかく湿っている状態でシリカ、アルミナ等の微粒子をまぶし固めてメカニカルロック層を形成する技術(例えば、特許文献7参照)、アクリルモノマーとある種の溶剤との混合物を接着面に塗布・乾燥させて低分子のアクリル層を形成する技術(例えば、特許文献8参照)、重合可能な成分、接着面を溶解する溶剤、及び光重合開始剤の混合物を接着面に塗布・乾燥して薄膜層を形成する技術(例えば、特許文献9参照)等が知られている。
しかしながら、特許文献7に記載の技術は、確実なメカニカルロック層を形成することができず、一方、特許文献8に記載の技術では、低分子のアクリル層であっても、固化した状態になると接着剤と馴染まないという問題がある。また、特許文献9に記載の技術では、経時変化により接着面に形成された薄膜層が固化又は重合するために、安定的な接着強度を得られないという問題がある。
また、義歯床に人工歯を固定する場合や、義歯床の補修等を行う際にもプラスチックプライマーを用いることがある。この場合、プライマーや溶剤成分を適切に選定しないとソルベントクラックを生ずることもある。
特開平9−98988号公報 米国特許5,254,002号明細書 特開2000−344941号公報 特開2001−258908号公報 特開2002−224144号公報 特開2002−201297号公報 米国特許5,267,855号明細書 米国特許5,295,824号明細書 米国特許5,558,516号明細書
ところで、上記背景技術で挙げたポリプロピレン、ポリエチレン等のオレフィン系樹脂を歯列矯正用ブラケットに用いた場合、透明でない、樹脂の強度が低いため変形しやすい、等の問題がある。このオレフィン系樹脂の強度を改善するために、ガラス繊維,金属,炭素繊維等の補強剤を添加すると、透明性がますます失われてしまう。
以上に掲げたプラスチック製ブラケットで起こる問題は、例えばバンド,バッカルチューブ,リンガルシース,リンガルボタン等の歯列矯正部材全般にも生じている。
また、人工歯、義歯床、義歯裏装材等の義歯用部材においても、ポリプロピレン、ポリエチレン等のオレフィン系樹脂を用いると、樹脂の強度が低く変形しやすい等の問題が生じている。
本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、強度が高く、治療期間を通じて口内環境下で劣化・変色することがなく、環境ホルモン等の化学物質を溶出せず、歯列矯正部材として用いる場合には透明性が高く審美性に優れた、歯科用部材を提供することである。
また、本発明の別の目的は、歯科用部材と歯牙との接着性または他の歯科用部材との接着性を向上させることができる歯科用部材の表面改質処理方法を提供することである。
上記課題を解決するための手段として、本発明の歯科用部材は、請求項1に記載したように、少なくともシクロオレフィンを重合したポリマー材料から形成されたことを特徴としている。
本発明において、歯科用部材とは、バンド,バッカルチューブ,リンガルシース,リンガルボタン等の歯列矯正部材、及び人工歯、義歯床、義歯裏装材等の義歯用部材、その他歯科治療に用いられ、口内に装着するための種々の部材をいう。
上記のように構成された歯科用部材は、シクロオレフィンを重合したポリマー材料の強度が高いため、変形しにくい。また、前記ポリマー材料は、透明で化学的に安定であるので、本発明の歯科用部材は、口内環境で変色・劣化することがなく、BPA等の人体に有害な物質を溶出しないものである。
また、本発明の歯科用部材は、請求項2に記載したように、前記ポリマー材料が、実質的に前記シクロオレフィンのみを重合したことが好ましい。
ここで、本発明において『実質的にシクロオレフィンのみ重合したポリマー材料』は、機能を損なわない範囲でシクロオレフィン以外の繰り返し単位を含んでいてもよいポリマーをいう。好ましくは、ポリマー材料に含まれるシクロオレフィンに由来する繰り返し単位が、90〜100質量%の範囲である。
上記のように構成された歯科用部材は、請求項1の作用効果に加えて、さらに耐溶剤性、機械的強度が優れている。
また、本発明の歯科用部材は、請求項3に記載したように、前記ポリマー材料が、シクロオレフィンと鎖状オレフィンとを共重合したことが好ましい。
上記のように構成された歯科用部材は、請求項1の作用効果に加えて、さらに、成形に適する熱可塑性,低吸水率性,有機溶媒に対する高い耐薬品性,高剛性等を有している。
また、本発明の歯科用部材は、請求項4に記載したように、表面改質処理された接着面を有し、少なくともシクロオレフィンを重合したポリマー材料から形成された歯科用部材であって、前記表面改質処理が、前記接着面にグラフト重合開始剤を塗布し、さらに前記塗布面に反応性モノマーを供給して光グラフト重合することにより行われることが好ましい。
ここで、歯科用部材の接着面とは、歯牙との接着面または他の歯科用部材に対する接着面等が挙げられる。
このような表面改質処理を接着面に対して行うことにより、歯科用部材の接着面部分のポリマー材料をグラフト化して、接着剤との親和性を向上させることができる。よって、上記のように構成された歯科用部材は、歯牙と接着させた時もしくは他の歯科用部材と接着させた時に接着面と接着剤とが強く結合できるので、十分な接着強度を発揮できる。
また、本発明の歯科用部材は、請求項5に記載したように、前記接着面に光重合性接着剤が塗布されていることが好ましい。
このような構成によれば、歯牙との接着時もしくは他の歯科用部材との接着時にプライマー処理等の面倒な工程を必要とせず、容易に接着できる歯科用部材を得ることができる。
一方、本発明の表面改質処理方法は、請求項6に記載したように、少なくともシクロオレフィンを重合したポリマー材料から形成された歯科用部材の表面改質処理方法であって、前記歯科用部材の接着面にグラフト重合開始剤を塗布し、該塗布面に反応性モノマーを供給して光グラフト重合することを特徴としている。
このような表面改質処理方法によれば、重合開始剤を予め塗布しておくことによって、必要とする部分だけに確実に歯科用部材の表面をグラフト重合反応させることができる。また、紫外線照射等の容易な方法でグラフト重合反応を行うことができるので、煩雑な工程を経ることがない。よって、より容易かつ確実に歯科用部材の表面を改質して、歯科用部材と歯牙との接着性または他の歯科用部材との接着性を向上させることができる。
本発明の歯科用部材は、透明で強度の高いシクロオレフィンを重合したポリマー材料から形成されているので、変形しにくく、口内環境下において加水分解等の化学変化を受けにくい。よって、本発明によれば、強度が高く、劣化・変色が起きにくく、BPA等の人体に有害な物質を溶出しない歯科用部材を提供することができる。また、歯列矯正部材として用いる場合にはさらに、透明性が高く審美性に優れた歯科用部材を提供できる。
また、本発明の上記歯科用部材の表面改質処理方法は、歯科用部材と歯牙との接着性または他の歯科用部材との接着性を向上させることができる。
以下、本発明の歯科用部材に係る実施形態を図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の歯科用部材である歯列矯正用のブラケットの一実施形態を示す概略図であって、そのうち、(A)はブラケットを示す図であり、(B)は歯牙を示す図である。
図1の(A)および(B)に示すように、ブラケット10は、歯牙11の歯面11aに接着可能な接着面10aを有しており、少なくともシクロオレフィンを重合したポリマー材料から形成されている。
本発明において、ブラケット10等の歯列矯正部材を始めとする歯科用部材を構成するポリマー材料は、少なくともシクロオレフィンを重合したもの(以下、シクロオレフィン系ポリマーともいう。)である。このシクロオレフィン系ポリマーは、強度が高く、化学的にも非常に安定である。
前記シクロオレフィン系ポリマーにおいて、モノマーとして用いられるシクロオレフィンとしては、シクロペンテン,シクロヘキセン,ノルボルネン,テトラシクロドデセン類等が挙げられ、中でもノルボルネン,テトラシクロドデセン類が好ましい。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
本発明に係るポリマー材料はシクロオレフィンとシクロオレフィン以外のモノマーとのコポリマーであってもよい。
本発明において、前記ポリマー材料の好ましい形態としては、実質的に前記シクロオレフィンのみを重合したもの(以下、ポリシクロオレフィンともいう。)、シクロオレフィンと鎖状オレフィンとを共重合したもの等が挙げられる。
ポリシクロオレフィンから形成された歯科用部材は、耐溶剤性、機械的強度に優れているため好ましい。このようなポリマーとしては、Zeonor1020R(日本ゼオン(株)社製)等が挙げられる。
また、シクロオレフィンと鎖状オレフィンとを共重合したポリマー材料からなる歯科用部材は、成形に適する熱可塑性,低吸水率性,有機溶媒に対する高い耐薬品性,高剛性等を有するため好ましい。
鎖状オレフィンとしては、エチレン,プロピレン,4−メチル−1−ペンテン等が挙げられる。このうち、エチレン,プロピレンが好ましく、エチレンが特に好ましい。このようなポリマー材料としては、市販のものがよく知られており、例えば、Topas6013(三井化学(株)社製)等が挙げられる。
シクロオレフィンと鎖状オレフィンとを共重合したポリマー材料において、ポリマー材料全体に占めるシクロオレフィンから誘導された繰り返し単位の含有率としては、5〜99重量%であることが好ましく、30〜99重量%がより好ましい。また、鎖状オレフィンから誘導された繰り返し単位の含有率としては、5〜70重量%が好ましい。
前記ポリマー材料は、熱可塑性であっても熱硬化性であってもよい。歯科用部材を形成するポリマー材料が熱可塑性である場合には、射出成形,押出成形,中空成形等により好適に作製できる。また、熱硬化性である場合にも、射出成形,圧縮成形等により好適に作製できる。
また、前記ポリマー材料は、ガラス繊維,金属,炭素繊維等が含有されていてもよい。このことにより、歯科用部材をより強度の高いものにすることができる。また、前記ポリマー材料は、酸化防止剤,安定剤,造核剤等、高分子材料に通常添加される各種添加剤が含有されていてもよい。
本実施形態に係るブラケット10を歯牙11へ接着するには、ブラケット10の接着面10a全体に通常の歯列矯正に用いられる接着剤を塗布し、この接着面10aを歯牙11の表面11aに圧着させることにより行うことができる。
以上で説明した本実施形態に係るブラケット10は、透明で強度の高いシクロオレフィン系ポリマーから形成されたものである。しかも、シクロオレフィン系ポリマーは、吸水率が低いので、口内環境において加水分解等の化学変化を受けにくく、BPA等の人体に有害な物質を溶出しない物質である。また、強度をより向上させるためにガラス繊維,金属,炭素繊維等の補強剤を含有させても変色しにくい性質をもつ。よって、本実施形態に係るブラケット10は、審美性、耐久性及び安全性に優れ、変形しにくく強度の高いものとなる。
本発明に係るブラケット10の接着面10aは、本発明の光グラフト重合による表面改質処理がなされていることが好ましい。すなわち、接着面10aに、グラフト重合開始剤を塗布し、該塗布面に反応性モノマーを供給して光を照射して、光グラフト重合することにより、表面改質処理がなされることが好ましい。表面改質処理を行う時期としては、特に限定されないが、ブラケット10が作製された直後から、歯牙に接着される直前までの所望の時期に行うことができる。
以下、本発明に係る表面改質処理方法の一実施形態として、ブラケット10の接着面10aの表面改質方法について説明する。
(洗浄処理)
まず、ブラケット10の接着面10aを、例えば、アルコール,アセトン,トルエン等を単独又はこれらを混合したもので洗浄する。一般の高分子材料の表面改質処理において、予め高分子材料の表面を洗浄することは通常行われる処理である。
(グラフト重合開始剤の塗布)
次に、グラフト重合開始剤を溶剤等に溶解して塗布液を作製し、上記洗浄処理がされた接着面10aにこの塗布液を塗布して乾燥する。
ここで用いられるグラフト重合開始剤としては、ベンゾフェノンアントラキノン,ベンゾイルパーオキサイド等の過酸化物、硝酸二セリウムアンモニウム等の過硝酸塩、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩等が挙げられる。また、溶剤としては、アセトン,ベンゼン等の揮発性の高いものが好ましい。塗布液中の重合開始剤の濃度としては、0.5〜10重量%が好ましい。
また、前記塗布液には、ポリビニルアルコールやポリ酢酸ビニル等の親水性ポリマーを含有させることが好ましい。このことにより、酸素により下記の光グラフト重合が阻害されるのを防止することができる。この親水性ポリマーの塗布液中の含有量は、0.5〜30重量%が好ましい。
(光グラフト重合の実施)
次に、上記重合開始剤が塗布されたブラケット10の塗布面に、反応性モノマーを供給して接着面10a上で光グラフト重合を行う。具体的には、ブラケット10を、例えば反応性モノマーを含有する溶液が入った反応容器に投入して、光を照射することにより行うことができる。
照射する光の波長は特に限定されないが、波長が200〜360nmの紫外線を用いることが好ましい。また、光源としては、高圧水銀灯,低圧水銀灯,メタルハライドランプ等を用いることができる。光を照射する際、これらの光源に対してフィルターを使用して、特定波長の光を照射してもよいし、光源から発せられる全波長の光を照射してもよい。
ここで用いられる反応性モノマーとしては、特に限定されないが、C=C(炭素−炭素二重結合)を有する親水性の化合物類が好ましい。具体的には、アクリル酸,メタクリル酸,ビニル酢酸,ヒドロキシアルキルアクリレート,ヒドロキシアルキルメタクリレート,無水ピロメリット酸等が挙げられる。中でも、接着強度と耐薬品性の観点から、アクリル酸,メタクリル酸が好ましい。
上記反応性モノマーは、水,アルコールやこれらの混合物等、光グラフト重合の実施に支障のないものに溶解されることが好ましい。反応性モノマーの溶液中の濃度としては、0.5〜50重量%が好ましい。
(後処理)
上記光グラフト重合反応が終了した後、接着面を溶剤により洗浄する。この操作により、前記親水性ポリマーと、反応性モノマーとが光グラフト重合することにより生じたホモポリマーを溶剤により除去することができる。このとき、50〜80℃に加熱するとより容易に除去できる。
従来、歯科用部材以外の分野で、シクロオレフィン系ポリマーを用いた部材を表面改質処理する方法が知られている。例えば、特開2001−316432号公報又は特開2001−318202号公報には、ポリシクロオレフィンからなる光学材料を、窒素雰囲気下において、反応性モノマー及び重合開始剤を溶解した溶液中で加熱することにより、溶融混練重合又は含浸重合させてグラフト化する方法が記載されている。
これに対し、本発明の表面改質処理方法におけるグラフト重合は、全ての操作を大気中で行うことができ、また、紫外線を照射することによりグラフト化することができるので、容易に実施可能である。また、重合開始剤を予め接着面10aに塗布することにより、接着面10aでの反応を選択的に確実に行うことができる。これらの点により、表面改質処理をより容易かつ確実に実施することができる。
また、以上に説明した表面改質処理により、接着面10aにおいて親水性モノマーが光グラフト重合されるので、接着面10aは親水性の化学物質をよく結合できるようになる。よって、接着剤等を用いて本発明に係るブラケット10を歯牙に接着した場合に、接着面10aと接着剤との親和性を向上できるので、接着剤がより強固に接着面10aに結合することができ、歯牙11とブラケット10との十分な接着強度を得ることができる。
また、本実施形態に係るブラケット10は、接着面上に光重合性接着剤が塗布されていてもよい。上記表面改質処理がなされるブラケットに光重合性接着剤を塗布する場合は、表面改質処理が行われた後に、光重合性接着剤が塗布されることが好ましい。
ここで、光重合性接着剤としては、歯科用アクリル系光重合性接着剤等が挙げられる。このような光重合性接着剤としては、市販のものがよく知られており、例えば、商品名:アイデルライトキュア(米国GAC社販売)、リライアンスLC(米国リライアンス社販売)等が挙げられる。
また、接着面10aに光重合性接着剤を塗布した後、適当な波長の光を照射して重合させることにより、接着面10aに光重合性接着剤を確実に固着させることができる。
光重合性接着剤が塗布されたブラケット10を歯牙11に接着するには、接着面10aを歯牙11の表面11aに圧着させた後に、波長が250〜500nmの光を照射して、光重合性接着剤を重合して、接着面10aに固着させることにより行うことができる。
このように、接着面10aにさらに光重合性接着剤を塗布されたブラケット10は、歯牙との接着時にプライマー処理等の面倒な工程を必要とせず、直前に光を照射するだけで、ブラケット10を接着することができる。
以上、本発明に係る歯科用部材および該部材の表面改質処理方法の一実施形態として、歯列矯正用ブラケットを用いて説明したが、本発明に係る歯科用部材はこれに限定されるものではなく、ブラケット、バンド、バッカルチューブ、リンガルシース、リンガルボタン等、歯列の矯正に用いられるあらゆる歯列矯正部材や、義歯、人工歯、義歯裏装材等の義歯用部材を含む、口内に装着される種々の歯科用部材に適用できる。
以下、図2に示す義歯に用いられる義歯用部材に本発明を適用する場合について説明する。図2(A)は、人工歯を義歯床に取り付けた上顎用義歯21及び下顎用義歯22を示している。また、図2(B)及び(C)は、図2(A)の上顎用義歯21を構成する義歯用部材を示しており、(B)は上顎用義歯21の義歯床23、(C)は人工歯24を示している。
図2(B)及び(C)に示すように、義歯床23は人工歯24との接着面23aを有しており、人工歯24は義歯床23との接着面24aを有している。義歯床23及び人工歯24は、シクロオレフィン系ポリマーにより形成されており、上記ブラケット10(図1)と同様の方法により製造できる。
このような義歯床や人工歯等の義歯用部材においても、少なくともシクロオレフィンを重合したポリマー材料から形成されているので、審美性、耐久性及び安全性に優れ、変形しにくく強度の高いものとなる。義歯用部材においても、ポリマー材料の他に通常用いられる添加剤(着色剤、補強剤、安定剤等)を適宜添加することができる。
また、本実施形態に係る義歯床23と人工歯24とを接着するには、義歯床23の接着面23a及び人工歯24の接着面24aの全体に、義歯床と人工歯との接着に通常用いられる接着剤を塗布し、この接着面23aと接着面24aとを圧着させることにより行うことができる。このように歯科用部材を他の歯科用部材と接着する場合は、少なくともどちらか一方がシクロオレフィン系ポリマーで形成されていればよいが、どちらの部材もシクロオレフィン系ポリマーで形成されていることが好ましい。
この場合においても、上記ブラケット10と同様に、義歯床23の接着面23a及び/または人工歯24の接着面24aに、本発明の光グラフト重合による表面改質処理がなされていることが好ましい。義歯床23の接着面23a及び/または人工歯24の接着面24aに、本発明の表面改質処理方法は、上記ブラケット10の場合と同様に行うことができる。このように接着面23a,24aに本発明の表面改質処理を施すことにより、義歯床23と人工歯24との接着性を向上させることができる。
また、本実施形態に係る義歯床23及び人工歯24は、接着面23a,24a上に光重合性接着剤が塗布されていてもよい。前記表面改質処理がなされる義歯床23及び人工歯24に光重合性接着剤を塗布する場合は、前記表面改質処理が行われた後に、光重合性接着剤が塗布されることが好ましい。また、光重合性接着剤は前述のものを用いることができ、光重合性接着剤を塗布するには、ブラケット10の場合と同様にして行うことができる。
このように、接着面23a,24aに光重合性接着剤を塗布された義歯床23及び人工歯24は、接着時にプライマー処理等の面倒な工程を必要とせず、直前に光を照射するだけで容易に接着することができる。
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、これらは本発明を何ら限定するものではない。
〔実施例1〕
(ブラケットの作製)
ポリシクロオレフィン(商品名:Zeonor 1020R、ガラス転移温度:105℃、日本ゼオン(株)社製)を用いて、通常の射出成形により図1(A)に示すブラケット10を作製した。なお、得られたブラケットは、0.265gであった。
(ブラケットの表面改質処理)
上記で製作したブラケットを、エタノールにて室温で30分間洗浄し、50℃で30分間乾燥した。
次に、親水性ポリマーとしてポリ酢酸ビニルを3重量%含有し、グラフト重合開始剤としてベンゾフェノン2重量%を含有するアセトン溶液をブラケットの接着面に塗布し、50℃で30分間乾燥した。その後、石英ガラス製の反応容器に、反応性モノマーとしてアクリル酸を5重量%含む水溶液100ml入れ、さらにブラケットを投入して、液面から20cmの距離から高圧水銀灯(商品名:トスキュアHC−411A型、400W、(株)東芝製)により60分間紫外線を照射した。照射後の液温は50℃であった。
そして、紫外線照射したブラケットを60〜70℃の温水で30分間洗浄した後、アセトンで5分間洗浄して、さらに80℃で30分間乾燥した。
以上の処理により、歯面との接着面が光グラフト重合された「ブラケットA」を得た。また、以上の処理によるブラケットの重量増加率は0.2%であった。
〔実施例2〕
上記実施例1で使用したポリシクロオレフィンの代わりに、シクロオレフィンとエチレンとのコポリマー(Topas 6013、熱変形温度:1130℃、三井化学(株)社製)を用いてブラケットを作製して、その接着面に実施例1と同様に表面改質処理を施し、「ブラケットB」を得た。
〔実施例3〕
上記実施例1と同様にブラケットを作製して、接着面に実施例1と同様に表面改質処理を行った。さらに、このブラケットの接着面に、Bis−GMA系光重合性接着剤(商品名:アイデアルライトキュア、米国GAC社販売)を塗布して、600nm以下の成分をフィルターでカットした照明下で塗布した。これを黒色密閉容器で7日間保存して「ブラケットC」を得た。
〔実施例4〕
上記実施例1と同様にブラケットを作製して、「ブラケットD」を得た。なお、上記実施例1で行ったブラケットの接着面の表面改質処理は行わなかった。
〔実施例5〕
(義歯床の作製)
ポリシクロオレフィン(商品名:Zeonor1020R、ガラス転移温度105℃、日本ゼオン(株)製)を用いて、通常の射出成形により図2(B)に示す義歯床23を作製した。なお、得られた義歯床は13.25gであった。
(義歯床の表面改質処理)
上記で製作した義歯床を、エタノールにて30分間洗浄した後50℃で30分間乾燥した。
次に、親水性ポリマーとしてポリ酢酸ビニルを3重量%含有し、グラフト重合開始剤としてベンゾフェノン2重量%含有するアセトン溶液を義歯床の人工歯との接着面に塗布し、50℃で30分乾燥した。その後、石英ガラス製の反応容器に、反応性モノマーとしてアクリル酸を5重量%含む水溶液200ml入れ、さらに義歯床を投入して、液面から20cmの距離から高圧水銀灯(商品名:トスキュア HC−411A型、400W、(株)東芝製)により60分間紫外線を照射した。照射後の液温は45℃であった。
そして、紫外線照射したブラケットを60〜70℃の温水で30分間洗浄した後、アセトンで5分間洗浄してさらに80℃で30分間乾燥した。
以上の処理により、人工歯との接着面が光グラフト重合された「義歯床A」を得た。また、以上の処理による義歯床の重量増加率は0.12%であった。
〔実施例6〕
上記実施例5で使用したポリシクロオレフィンの代わりに、シクロオレフィンとエチレンのコポリマー(Topas6013、熱変形温度130℃、三井化学(株)製)を用いて義歯床を作製して、その人工歯との接着面に実施例5と同様に表面改質処理を施し、「義歯床B」を得た。
〔実施例7〕
上記実施例5と同様に義歯床を作製して、人工歯との接着面に実施例5と同様に表面改質処理を行った。さらに義歯床の人工歯との接着面にBis−GMA系光重合性接着剤(商品名:アイデアルライトキュア、米国GAC社販売)を600nm以下の成分をカットした照明下で塗布した。これを黒色密閉容器で7日間保存して「義歯床C」を得た。
〔実施例8〕
上記実施例5と同様に義歯床を作製して、「義歯床D」を得た。なお、上記実施例5で行った人工歯との接着面の表面改質処理は行わなかった。
〔比較例1〕
上記実施例1で用いたポリシクロオレフィンの代わりに、ポリプロピレン(商品名:J−754HP、出光石油化学(株)社製)を用いてブラケットを作製して、実施例1と同様に表面改質処理を施し、「ブラケットE」を得た。
〔比較例2〕
上記比較例1で用いたポリプロピレンを用いて、「ブラケットF」を作製した。なお比較例1で行った表面改質処理は行わなかった。
〔比較例3〕
上記比較例1で用いたポリプロピレンの代わりに、ガラス繊維により強化したポリプロピレン(商品名:L−3040P、ガラス繊維30%、出光石油化学(株)社製)を用いてブラケットを作製して、比較例1と同様に表面改質処理を施し、「ブラケットG」を得た。
〔比較例4〕
上記比較例3で用いたガラス繊維強化ポリプロピレンを用いて、「ブラケットH」を作製した。なお、比較例3で行ったブラケットの接着面の表面改質処理は行わなかった。
〔比較例5〕
上記比較例1で用いたポリプロピレンの代わりにポリカーボネート(商品名:レキサン、GEプラスチック社製)を用いて、「ブラケットI」を作製した。なお、比較例1で行った表面改質処理は行わなかった。
〔比較例6〕
上記実施例5で用いたシクロオレフィンの代わりに、ポリエチレン(商品名:0628G、出光石油化学(株)製)を用いて義歯床を作製して、実施例5と同様に表面改質処理を施し、「義歯床E」を得た。
〔比較例7〕
上記比較例6で用いたポリエチレンを用いて「義歯床F」を作製した。なお、比較例6で行った表面改質処理は行わなかった。
〔比較例8〕
上記比較例6で用いたポリエチレンの代わりに、ポリメチルメタクリレート(商品名:アクリコンAC、三菱レーヨン社製)に過酸化ベンゾイルを0.5重量%添加したものを用いて「義歯床G」を作製した。なお、比較例6で行った表面改質処理は行わなかった。
〔比較例9〕
上記比較例6で用いたポリエチレンの代わりに、ポリカーボネート(商品名:レキサン、GEプラスチック社製)を用いて「ポリカーボネート製義歯床H」を作製した。なお、比較例6で行った表面改質処理は行わなかった。
〔評価〕
(光線透過率)
上記で作製したブラケットA〜Iから、厚さ3mmの試験片を切り出し、ASTM D1003に基づいて、光線透過率の試験を行った。
(引っ張り破壊試験)
上記で作製したブラケットA〜I、及び義歯床A〜Hを、引っ張り試験機(モデル5567、米国インストロン社製)に固定し、引っ張り方向の変形が10%に達したときの引張り強さを測定した。
(着色性試験)
染色剤ダイアニックス・ブルーAC-E、ダイアニックス・イエローAC-E、ダイアニックス・レッドAC-E(いずれもダイスタージャパン(株)社製)をそれぞれ濃度が3重量%となるように水に溶解して、70〜80℃に加熱した。
ここに、上記で作製したブラケットA〜I、及び義歯床A〜Hを投入し、30分間加熱した。その後、中性洗剤を加えた水で煮沸洗浄し、乾燥後着色度合いを比較した。
なお、着色性の評価は以下のようにした。
〇:ほとんど着色しなかった。
×:着色した。
(せん断接着強度試験)
上記で作製したブラケットA,B,D、及び比較用ブラケットE〜Iの接着面に接着剤を塗布し、歯のモデルとした被着体(ブラケットとの接着面がシラン処理されたアルミナセラミック、直径8mm,高さ10mmの円筒形)に接着した。接着剤はBis−GMA系接着剤(商品名:アキュボンド、2ペースト混合タイプ、化学重合型、米国GAC社販売)を用いた。ブラケットが接着された被着体を37℃、24時間大気中に放置した後、引張り試験機(モデル5567、米国インストロン社製)でせん断接着強度を測定した。
上記で作製したブラケットCについては、上記と同じ被着体にブラケットCの接着面を圧着させて固定した後、470nmを中心にした光(600〜750mW/cm2)を40秒間照射し、接着剤を重合させた。その後、ブラケットが接着された被着体を37℃、24時間大気中に放置した後、引張り試験機(モデル5567、米国インストロン社製)でせん断接着強度を測定した。
上記で作製した義歯床A、B、D及び比較用義歯床E〜Hの人工歯との接着面(義歯取り付け面)に接着剤を塗布し、人工歯(商品名:サーパス(前歯)C3、(株)ジーシー製)を接着した。接着剤はBis−GMA系(商品名:アキュボンド、2ペースト混合タイプ、化学重合型、米国GAC社販売)を用いた。
人工歯が接着された義歯床を37℃で24時間大気中に放置した後、引っ張り試験機(モデル5567、米国インストロン社製)で引っ張り試験を行った。
上記で作製した義歯床Cについては、上記と同じように義歯を接着させた後、470nmを中心にした光(600〜750mW/cm)を80秒間照射し、接着剤を重合させた。その後、人工歯が接着された義歯床を37℃で4時間大気中に放置した後、引っ張り試験機(モデル4456、米国インストロン社製)で引っ張り試験を行い、接着強度を測定した。
上記試験の結果を以下の表1に示す。
表1の結果から、本発明のシクロオレフィン系ブラケットA〜Dは、比較例のブラケットE〜Iと比較すると、引っ張り破壊試験、光透過率、着色性において優れていた。また、表2の結果から、本発明の義歯床A〜Dは、比較例の義歯床と比較すると、引っ張り破壊試験、着色性において優れていた。
また、本発明の表面改質処理を行うことにより接着強度が向上するが、特に本発明のブラケット及び義歯床に表面改質処理をした場合に、接着力の向上が顕著であることがわかる。
なお、本発明のブラケットD(表面改質なし)は、ポリカーボネート製のブラケットI(表面改質なし)と比べると接着強度が劣るが、ブラケットIは着色性が極めて劣っているため、歯列矯正部材としては不適当なものであった。同様に、義歯床D(表面改質なし)についても、義歯床G(表面改質なし)及び義歯床H(表面改質なし)と比較すると、接着強度が劣るが、着色性が極めて劣っているため、義歯用部材としては不適当なものであった。
本発明の歯科用部材の一つである歯列矯正部材の一実施形態を示す概略図であって、そのうち、(A)はブラケット(歯列矯正部材)を示す図であり、(B)は歯牙を示す図である。 (A)は、本発明の歯科用部材の一つである義歯の一実施形態を示す概略図である。(B)は義歯床、(C)は人工歯を示す図である。
符号の説明
10 ブラケット(歯科用部材)
10a,23a,24a 接着面
11 歯牙
11a 歯面
21 上顎用義歯
22 下顎用義歯
23 義歯床(歯科用部材)
24 人工歯(歯科用部材)

Claims (4)

  1. 表面改質処理された接着面を有し、シクロオレフィンを重合したポリマー材料から形成された歯科用部材であって、前記表面改質処理が、前記接着面にグラフト重合開始剤を塗布し、さらに前記塗布面に反応性モノマーを供給し光照射して、上記グラフト重合開始剤を塗布した接着面部分のポリマー材料に上記反応性モノマーをグラフト重合させることにより行われることを特徴とする歯科用部材。
  2. 前記接着面に光重合性接着剤が塗布されていることを特徴とする請求項1に記載の歯科用部材。
  3. シクロオレフィンを重合したポリマー材料から形成された歯科用部材の表面改質処理方法であって、前記歯科用部材の表面にグラフト重合開始剤を塗布し、さらに前記塗布面に反応性モノマーを供給し光照射して、上記グラフト重合開始剤を塗布した接着面部分のポリマー材料に上記反応性モノマーをグラフト重合させることを特徴とする歯科用部材の表面改質処理方法。
  4. 上記グラフト重合開始剤含有溶液を塗布および乾燥後に反応性モノマーを供給することを特徴とする請求項3に記載の歯科用部材表面改質処理方法。
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