JP4521575B2 - 特発性肺線維症の検出マーカー、検出キット及び検出方法 - Google Patents

特発性肺線維症の検出マーカー、検出キット及び検出方法 Download PDF

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Description

本発明は特発性肺線維症の検出マーカー、検出キット及び検出方法等に関する。
特発性肺線維症は原因不明の疾患であるが、肺胞上皮にapotosisが亢進し、肺胞上皮基底膜の破壊に伴って間質の線維芽細胞の異常増殖を伴う疾患である。
現在の特発性肺線維症の診断には開胸/胸腔鏡下肺生検が重要な位置を占めているが、病状が進行した症例では検査による侵襲が大きな問題である。その問題を解決するために気管支肺胞洗浄検査(Bronchoalveolar lavage : 以下「BAL」)が行われている。特発性肺線維症においては、BALで採取したBAL液中に好中球の軽度の増加が確認されたことの報告があり、肺胞腔や間質に浸潤した好中球が病態に重要な役割を果たしているのではないかとの示唆がある(例えば、下記非特許文献1参照)。
ところで、SEREX(Serological analysis of recombinant cDNA expression libraries)法は、約1万個のcDNAの中で数個程度しか存在しない自己抗原発現cDNAに対しても検出が可能であり、微量の自己抗原の検出に適した方法である。このSEREX法により肺癌をはじめとする様々な腫瘍関連抗原が同定されている。同定された抗原には、転写因子、細胞の分化抗原、細胞構成蛋白などに加え、新規遺伝子も含まれている。即ち、SEREX法は自己抗原検索においては強力で有用な手法であり、これを用いた報告として、全身性エリテマトーデス(SLE)や過敏性肺臓炎関連自己抗体の検索に関する報告がある(例えば、下記非特許文献2参照)。
また、PCR(Polimerase Chain Reaction)法によるBAL液中のT細胞Vβ鎖遺伝子再構成の検索では、抗原特異的なT細胞増生がBAL液中に認められ、肺胞局所において疾患特異的な抗原の存在が示唆されている(例えば、下記非特許文献3参照)。
Wellset al.,"Bronchoalveolar lavage cellularity: lone cryptogenic fibrosing alveolitis compared with the fibrosing alveolitis of systemic sclerosis", Am J Respir Crit Care Med, 1998, Vol.157, p.1474-1482 Matsunagaet al.,"A novel protein antigen of Trichosporon asahii, in summer-type hypersensitivity pneumonitis。ノ痔Am J Respir Crit Care Med 2002, Vol.167, p.991-998 Shimizudaniet al.,"Conserved CDR3 region of T cell receptor BV gene in lymphocytes from bronchoalveolar lavage fluid of patients with indiopathic pulmonary fibrosis", Clin Exp Immunol 2002, Vol.129, p.140〜149
確かに、上記非特許文献1において好中球が何らか病態に関与していることを示唆されているが、好中球が増加する機序や肺が線維化する機序は大部分が不明であり、しかも、好中球の増加のみによっては特発性肺線維症の診断を行うことは極めて困難である。また特に、BALによって確かに侵襲の問題を和らげることはできるが、より患者に負担のかからない非侵襲な診断も望まれる。
また、SEREX法については、殆どが腫瘍関連抗原の同定のために用いられているものであって、腫瘍関連抗原以外のものに適用した例は極めて稀である。これを用いた過敏性肺臓炎関連の報告としては上記非特許文献2の例があるが、これ一例に過ぎないだけでなくこの例も夏型過敏性肺臓炎に対する真菌抗原の報告に過ぎず、特発性肺線維症についての報告ではない。
更に、上記非特許文献3に記載の報告では、抗原特異的なT細胞増生が認められているが、PCR法のみでは症例間でHLA抗原が異なること、認識している抗原は抗原提示細胞によって断片化されていること、から認識抗原の決定は極めて困難である。
そこで、本発明は、上記課題を鑑み、より容易に特発性肺線維症を検出するための検出マーカー及び検出キットを提供することを目的とする。
発明者らは、上記課題につき検討したところ、特発性肺線維症において肺胞局所に疾患特異的な抗原が存在し、肺において疾患特異的な抗原/抗体反応が生じているのであれば、B細胞による抗体産生にはCD4陽性T細胞の援助が必要不可欠であり、BAL液中のT細胞は抗原特異的なVα/Vβ鎖を有したT細胞が特異的に増生していると考えられ、特発性肺線維症においても、特定の抗原特異的なVα/Vβ鎖を有したT細胞がoligoclonalに増生しているのではないかと検討を行った。この検討の結果、特定の抗原特異的なVα/Vβ鎖を有したCD4 陽性T 細胞が oligoclonalに増生し疾患特異的な抗原抗体反応が強く生じた特発性肺線維症と、特定の抗原特異的なVα/Vβ鎖の増生がみられず疾患特異的な抗原抗体反応が生じていない特発性肺線維症があることを見出した(図1参照)。
そこで、更に本発明者らが上記について検討を行ったところ、上記の例のうち図1の(B)はoligoclonalにSEREX法による自己抗体解析しやすい症例であり、図1(A)はそうでない症例であると考え、SEREX法による自己抗体の解析をしやすい症例を用いて、特発性肺線維症の主な病変部位である肺胞上皮が発現する蛋白を非常に鋭敏な方法(SEREX法)で解析を行うことで、特発性肺線維症の患者血清中に存在する自己抗体の検出が可能であることを見いだし、本発明を完成した。
即ち、本発明は以下の態様に係るものである。
[態様1]特発性肺線維症の血清中に存在する自己抗体。
[態様2]抗annexin 1抗体、抗phosphoglycerate kinase 1抗体、抗annexin 4抗体、抗bax inhibitor 1抗体、抗cytochrome c oxidase subunit Va抗体、抗aldehyde dehydrogenase 1抗体、抗cytochrome c−1抗体、抗macrophage migration inhibitory factor抗体、抗annexin 2抗体、抗cytochrome c reductase core 1抗体、及び、抗heme oxygenase 1抗体から成る群から選択される、特発性肺線維症の血清中に存在する自己抗体。
[態様3]特発性肺線維症の血清中に存在する自己抗体から成る、特発性肺線維症の検出マーカー。
[態様4]抗annexin 1抗体、抗phosphoglycerate kinase 1抗体、抗annexin 4抗体、抗bax inhibitor 1抗体、抗cytochrome c oxidase subunit Va抗体、抗aldehyde dehydrogenase 1抗体、抗cytochrome c−1抗体、抗macrophage migration inhibitory factor抗体、抗annexin 2抗体、抗cytochrome c reductase core 1抗体、抗heme oxygenase 1抗体、及び、それらの二つ以上の任意の組み合わせから成る群から選択される、特発性肺線維症の血清中に存在する自己抗体から成る特発性肺線維症の検出マーカー。
[態様5]annexin 1、phosphoglycerate kinase 1、annexin 4、bax inhibitor 1、cytochrome c oxidase subunit Va、aldehyde dehydrogenase 1、cytochrome c−1、macrophage migration inhibitory factor、annexin 2、cytochrome c reductase core 1、heme oxygenase 1、及び、それらの二つ以上の任意の組み合わせから成る群から選択される抗原蛋白を構成要素として含む特発性肺線維症の検出キット。
[態様6]抗原蛋白を基材に吸着させて成る、態様5記載の特発性肺線維症の検出キット。
[態様7]前記抗原蛋白に標識が付されていることを特徴とする、態様5又は6記載の特発性肺線維症の検出キット。
[態様8]標識がHis−tag標識である、態様7記載の検出キット。
[態様9]検体中における態様1又は2記載の自己抗体の濃度を測定することを特徴とする、特発性肺線維症の検出方法。
[態様10]態様6記載の検出キットを用いて、固相酵素免疫測定法(ELISA)により測定することを特徴とする、態様9記載の検出方法。
本発明によって、特発性肺線維症に見られる自己抗体、該自己抗体から成る特発性肺線維症の検出マーカー、特発性肺線維症の検出方法及び検出キットが提供される。該自己抗体、特に、以下に示す11種類の具体的な自己抗体は比較的高頻度で特発性肺線維症症例の血清中に存在し、これらを組み合わせることによって、特発性肺線維症の正確な検出、特発性肺線維症の急性増悪の予測等の病勢フォローに、及び血清学的診断が可能となる。
SEREX 法による自己抗体解析に適した症例と適さない症例の典型例を示す電気泳動の写真。 T細胞Vβ鎖サブファミリーに対するPCR法に用いたプライマーを示す図。 SEREX法の概略図を示す図。 特発性肺線維症におけるBAL液中のCD4陽性T細胞Vβ鎖レパートリーの解析結果を示す図。 SEREX法によって検出した11種類の特発性肺線維症特異的自己抗体の認識する自己抗原蛋白とその発現頻度を示す図。 BAL液とBALから3ヶ月後に得られた胸腔鏡下肺生検組織において一部に共通の抗原を認識するT細胞Vβ鎖の増生を示す電気泳動の写真。 特発性肺線維症例(Case2)の BAL液および胸腔鏡下肺生検組織中のT細胞の抗原認識部分であるVβ鎖と特発性肺線維症特異的自己抗原の一部に強い相同性が認められを示す図。 RT−PCR法によって11種類の自己抗原蛋白の発現が、II型肺胞上皮癌培養株(A549)および単球系培養株(THP−1)の双方に確認されたことを示す電気泳動の写真。AG1 はannexin 1、AG2 はphosphoglycerate kinase 1、AG3 はannexin 4、AG4はbax inhibitor 1、AG5はcytochrome c oxidase subunit Va、AG6 はaldehyde dehydrogenase 1、AG7 はcytochrome c−1、AG8はmacrophage migration inhibitory factor、AG9 はannexin 2、 AG10 はcytochrome c reductase core 1、AG11 はheme oxygenase 1の自己抗原蛋白を示す。 11種類の特発性肺線維症特異的自己抗体認識抗原遺伝子を増幅するために用いたPCRプライマーを示す図。 11種類の特発性肺線維症特異的自己抗体認識抗原遺伝子を増幅するために用いたPCRプライマーを示す図。 さまざまな肺疾患における血清中およびBAL 液中の特発性肺線維症特異的自己抗体発現頻度を示す図。n は解析した症例数を示す。AG1 からAG11 は図8で示した自己抗原蛋白を示す。 特発性肺線維症急性増悪症例(Acute exacerbation of IPF) および安定症例 (Stable IPF) における血清中およびBAL 液中の特発性肺線維症特異的自己抗体発現頻度を示す図。AG1 からAG11 は図8で示した自己抗原蛋白を示す。右上に*で示した自己抗体は、安定した肺線維症に比較して特発性肺線維症急性増悪例で頻度および発現強度(405 nmの吸光度)が有意に増加している抗体を示す。
以下、本発明の実施形態について説明する。
「自己抗体」とは、自己の構成成分(自己抗原)に反応する抗体を意味する。本発明の特発性肺線維症の血清中に存在する自己抗体、特に、抗annexin 1抗体、抗phosphoglycerate kinase 1抗体、抗annexin 4抗体、抗bax inhibitor 1抗体、抗cytochrome c oxidase subunit Va抗体、抗aldehyde dehydrogenase 1抗体、抗cytochrome c−1抗体、抗macrophage migration inhibitory factor抗体、抗annexin 2抗体、抗cytochrome c reductase core 1抗体、及び、抗heme oxygenase 1抗体は、これまでに報告されていない新規な物質である。
尚、これらの自己抗体は、例えば、特発性肺線維症患者の血清又はBAL液等を出発原料として、当業者に耕地の適当な方法で調製することが可能である。例えば、以下に記載の自己抗体認識抗原を結合させたアフィニティクロマトグラフィを使用することによって容易に精製することが可能である。
既に記載したように、本発明者は、これらの自己抗体が比較的高頻度で特発性肺線維症症例の血清又はBAL液中に有意に存在することを新たに見出した。従って、これらの濃度を測定することによって、特発性肺線維症の正確な検出、又は、血清学的診断が可能となる。即ち、本発明の自己抗体は、特発性肺線維症の検出マーカーとしての用途を有するものである。特に、上記の11種類の自己抗体は既存には報告されておらず、特発性肺線維症以外の症例ではほとんどの自己抗体は検出されず、診断検査としての利用価値が高い。
従って、本発明の特発性肺線維症の検出キットは、上記の自己抗体が認識する抗原蛋白(自己抗体認識抗原)、例えば、annexin 1、phosphoglycerate kinase 1、annexin 4、bax inhibitor 1、cytochrome c oxidase subunit Va、aldehyde dehydrogenase 1、cytochrome c−1、macrophage migration inhibitory factor、annexin 2、cytochrome c reductase core 1、heme oxygenase 1、及び、それらの二つ以上の任意の組み合わせから成る群から選択される抗原蛋白を構成要素として含むことを特徴とするものである。このような検出キットを用いて、特発性肺線維症の疑いのある患者から採取した、血清又はBAL液等の適当な検体中に抗体が存在しているか否か、又はそれらの濃度を測定し、それに応じて特発性肺線維症の検出、又はその診断をすることができる。
上記の抗原蛋白に代表される自己抗体認識抗原自体は物質としては公知であり、それらの遺伝子には本明細書中の図5に示されるような登録番号(受託番号)が付与されて夫々の寄託機関に保存されており、一般に入手可能である。従って、本発明の検出キットに含まれる自己抗体認識抗原は、当業者に公知の任意の方法で調製することができる。例えば、本明細書の実施例に記載されているように、これら自己抗体認識抗原をコードする遺伝子が発現するように形質転換した、例えば、大腸菌等の各種細胞株を培養し、該形質転換細胞に自己抗体認識抗原を産生させ、それから適宜精製することによって得ることが出来る。
又、自己抗体認識抗原の調製に際して、例えば、産生された自己抗体認識抗原の溶解度の向上、精製効率の向上(アフィニティ精製)等の目的で、自己抗体認識抗原を当業者に公知の各種の標識と融合した融合蛋白質として調製し、そのまま使用しることも出来る。このような標識物質の例として、大腸菌を宿主とした系では、GST(グルタチオン−S−トランスフェラーゼ)、ヒスチジン(His6)標識、MBP(マルトース結合蛋白質)標識、Trx(チオレドキシン)標識、FLAG(DYKDDDDK)標識、及びAviTag標識等を挙げることが出来る。
更に、上記の自己抗体認識抗原は、本発明の自己抗体と特異的な抗原抗体反応を示すことができる限り、元のアミノ酸配列の一部、例えば、1個又は数個が置換、欠失、挿入などにより変異したアミノ酸配列を有する蛋白質であっても良い。尚、このよう蛋白質をコードするDNA配列は、以下に述べるような、当業者に公知の部位特異的突然変異誘発等を利用して容易に作成することが出来る。
又、上記の自己抗体認識抗原をコードする遺伝子は、例えば、II型肺胞上皮癌培養株(A549)及び単球系培養株(THP−1)等の市販されている適当な細胞株を用いるRT−PCR、適当なcDNAライブラリーを鋳型として使用する各種のPCR及びICAN法等の当業者に公知の任意のDNA増幅技術を用いて容易に調製することが可能である。尚、例えば、本明細書の図9に示されるプライマーに代表される、このようなDNA増幅技術に使用するプライマーは、自己抗体認識抗原の公知の塩基配列情報に基づいて当業者であれば適宜設計・選択することが出来る。
又、上記遺伝子は、公知の方法(例えば、Carruthers(1982)Cold Spring Harbor Symp. Quant. Biol. 47:411-418; Adams(1983)J. Am. Chem. Soc. 105:661; Belousov(1997)Nucleic Acid Res. 25:3440-3444; Frenkel(1995)Free Radic. Biol. Med. 19:373-380; Blommers(1994)Biochemistry 33:7886-7896; Narang(1979)Meth. Enzymol. 68:90; Brown(1979)Meth. Enzymol. 68:109; Beaucage(1981)Tetra. Lett. 22:1859; 米国特許第4,458,066号)に記載されているような周知の化学合成技術により、in vitroにおいて合成することもできる。
或いは、上記遺伝子は当業者に周知の方法により上記cDNAライブラリーをスクリーニングすることによって単離することができる。更に、該遺伝子のcDNAに当業者に公知の部位特異的突然変異誘発に基づき、市販のミューテーションシステム等を用いて自己抗体認識抗原をコードする遺伝子に塩基変異を導入して調製することも可能である。
当業者に周知の任意の方法に従い、上記の自己抗体認識抗原をコードする遺伝子及び必要に応じて上記の標識(蛋白質又はペプチド)をコードするDNAを、プラスミドベクター、ファージベクター、及び各種の混成ベクター等の適当な組換え用DNAに挿入し、こうして得られた発現ベクターを用いて各種の細胞を形質転換することができる。この組換え用DNAは、当業者に公知の通常の組換えDNA手法によって取り扱うことが可能な任意のベクターである。これらのベクターは、その導入すべき宿主細胞に依存して適当に選択することが出来る。該ベクターは、宿主細胞の中に導入され、自己抗体認識抗原を一過性で発現したり、或いは、宿主細胞のゲノムの中にその全体あるいはその一部がゲノム中の1箇所以上に組込まれることができる。このようなベクターとして、当業者に公知の各種の市販のベクターを使用することが出来る。
上記の発現ベクターには、典型的には、当業者に公知の、構成的発現プロモーター又は各種の誘導型発現プローター等の各種プロモーター、エンハンサー及びサイレンサー等の各種調節配列、リボソーム結合部位、シグナル配列、および翻訳開始配列等の各種要素ならびにその他の外来性あるいは内在性タンパク質をコードする遺伝子、各種薬剤耐性遺伝子、栄養要求性を相補する遺伝子等を任意に含むことができる。
上記発現ベクターによって形質転換される宿主細胞として、原核微生物、真核微生物、植物細胞、昆虫細胞、鳥類細胞、哺乳類細胞等を用いることができる。たとえば、原核微生物の例としてはエシェリヒア属、バチルス属、又は、ストレプトマイセス・グリセウス若しくはストレプトコッカス・セリカラー等のストレプトマイセス属を宿主とすることができる。真核生物としては、サッカロミセス属及びピヒア属等の酵母、アスペルギルス・オリゼ及びアスペルギルス・ソーエ等のアスペルギルス属、ペニシリウム属、リゾプス属、メタリチウム属、モナスカス属、アクレモニウム属、及びムコール属等の糸状菌、並びに、トリコデルマ属等の担子菌などから選択することができる。昆虫細胞としてはキイロショウジョウバエ、カイコ等の細胞を用いることができる。
これらの発現ベクター(組換え用DNA)は、例えば、塩化カルシウム法、プロトプラスト‐PEG法、エレクトロポレーション法、Tiプラスミド法、パーティクルガン法、バキュロウィルス法などの当業者に公知の任意の方法によって宿主細胞へと導入でき、形質転換体を作成することができる。更に、複数種の組換えDNAを用いるコトランスフェクション法によっても可能である。
上記発現ベクターの代わりに、PCR増幅等により取得される自己抗体認識抗原をコードする遺伝子を含む適当なDNA断片自体を用いて形質転換体を得ることも可能である。そのような場合には、かかるDNA断片に加えてさらに適当な緩衝液及びその他の助剤を任意に含む溶液等の組成物として形質転換に使用することができる。
自己抗体認識抗原を発現する形質転換体を該抗原蛋白の生産に好ましい条件で培養して該抗原蛋白を発現させ、その宿主細胞および/または培地から回収することにより製造することができる。宿主細胞の培養に用いる培地は、当業者に公知である任意の培地の中から、使用する発現ベクターの構成(プロモーターの種類等)及び宿主の種類等に応じて適当なものを適宜選択することができる。
宿主細胞により産生された自己抗体認識抗原は、当業者に公知の任意の手段の適当な組み合わせ、例えば、遠心または濾過による培地と細胞の分離、および硫酸アンモニウムの様な塩による培地のタンパク質成分の沈殿、及びこれに続く疎水クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、各種の標識との親和性を利用するアフィニティークロマトグラフィー、又はその他のクロマトグラフィーの使用により培地から回収することができる。或いは、自己抗体認識抗原は化学合成法により製造することも可能である。
本発明の検出キットには、構成要素として含まれる上記の自己抗体認識抗原に加えて、自己抗体の測定方法及び原理等に応じて、当業者に公知の他の要素又は成分、例えば、標識抗抗体(二次抗体)、各種試薬、基質、酵素、緩衝液、反応プレート(容器)等が適宜含まれいても良い。
既に記載したように、本発明においては、血清又はBAL液等の適当な検体中における本発明の自己抗体の濃度を測定することにより、特発性肺線維症を検出することが出来る。具体的な測定方法としては、当業者に公知の適当な各種の免疫アッセイ方法、例えば、Dot Blot法、ウェスタンブロット法、並びに、固相酵素免疫測定法(ELISA)、競合EIA、及び阻害EIA等の酵素免疫測定法(EIA)を挙げることが出来る。EIAには直接法と間接法があり、間接法では酵素標識抗体(二次抗体)が用いられる。ELISAは抗原又は抗体を固相(基材)に吸着させて固定化して行う酵素免疫測定法である。固相の材料及び形態は当業者に公知の任意にものから測定方法などに応じて適宜選択することが出来る。例えば、アガロース、マイクロタイタープレート、ラテックス粒子、ポリスチレン製、ポリカーボネイト製、ポリプロピレン製或いはポリビニル製のボール、スティック、微粒子、及び試験管などの種々のものを使用することが出来る。
上記の検出方法における二次抗体で使用可能な標識としては、西洋ワサビプルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、ガラクトシダーゼ等の酵素を挙げることができ、各種の酵素標識抗体が市販されている。酵素以外のその他の標識としては、酵素基質、酵素インヒビター、補欠分子類、補酵素、酵素前駆体、アポ酵素、蛍光物質、色素物質、化学ルミネッセンス化合物、発光物質、発色物質、磁気物質、金属粒子、例えば金コロイドなど、放射性物質などを挙げることができる。
これら免疫アッセイ方法の一般的な技術手段の詳細については、総説、成書などを参照することができる〔例えば、入江 寛編,「ラジオイムノアッセイ」,講談社,昭和49年発行;入江 寛編,「続ラジオイムノアッセイ」,講談社,昭和54年発行;石川栄治ら編,「酵素免疫測定法」,医学書院,昭和53年発行;石川栄治ら編,「酵素免疫測定法」(第2版),医学書院,昭和57年発行;石川栄治ら編,「酵素免疫測定法」(第3版),医学書院,昭和62年発行〕。
従って、本発明の一実施形態として、annexin 1、phosphoglycerate kinase 1、annexin 4、bax inhibitor 1、cytochrome c oxidase subunit Va、aldehyde dehydrogenase 1、cytochrome c−1、macrophage migration inhibitory factor、annexin 2、cytochrome c reductase core 1、heme oxygenase 1、の少なくともいずれかの抗原蛋白を基材に吸着させてなる特発性肺線維症の検出キットを挙げることができる。これにより、特発性肺線維症の疑いのある患者から血清又はBAL液を抽出し、この抗原蛋白が抗体と反応しているか否かを調べることにより、特発性肺線維症の疑いがあるか否かを判定することができる。
具体的にはこれら抗原蛋白を基材に吸着させ、BAL液又は血清などを塗布することにより抗原蛋白と反応させ、更に発光又は発色部位を有する二次抗体と反応させることで、発光等が行われるか、又はその量にもとづいて抗体が存在しているか否かを判定し、特発性肺線維症であるか否かを判定することが可能となる。この場合において、抗原蛋白には抗原蛋白を作成する観点から標識が付されていることが望ましい。特に、あらかじめ作成した自己抗原蛋白が吸着したメンブレンやプレートを利用することによって、迅速な検査が可能であり、1時間程度で結果を得ることができる。そのため、病状が刻々と変化する重症例の特発性肺線維症においても迅速な対応が可能である。特発性肺線維症が悪化した場合には、できるだけ早い治療が必要であるが、他の合併症(感染症、悪性腫瘍)の除外に時間がかかり、診断に苦慮する場合が多い。本発明は特発性肺線維症自体が悪化したのか他の合併症が重なったのかを鑑別するうえで非常に重要な情報を提供可能であり、迅速な対応に結びつくことができる。
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例の記載によって何ら限定して解釈されるものではない。又、特に記載のない場合には、以下の実施例は、当該技術分野における常法及び当業者に公知の標準的な方法、例えば、Sambrook and Maniatis, in Molecular Cloning-A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York, 1989; Ausubel, F. M. et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York, N.Y, 1995等に記載されている遺伝子工学及び分子生物学的技術に従い実施した。又、本明細書中に参考文献などとして引用された文献の記載内容は本明細書の開示内容の一部を構成するものである。
T細胞Vβ鎖は25種類のサブファミリーから構成されているため、まずそれぞれのサブファミリーに特異的なプライマーを作成した。作成したプライマーを図2に示す。なお図中、Vβ1、Vβ2…、Vβ25はfowardプライマーとして用い、Cβはreverseプライマーとして共通に用いた。
そして特発性肺線維症20症例に対しBALを行い、そのBALを抽出した。そしてこのBAL液からDyna beadsを用いてCD4陽性T細胞の分離、total RNAの抽出、RT−PCR法によるT細胞のVβ鎖可変部領域の増幅を行い、更にこのPCR産物を2%アガロースで泳動し、ナイロンメンブレンに転写し、Southern blot法によってT細胞Vβ鎖レパートリーについて解析した。その結果、特発性肺線維症はBAL液中のCD4陽性Tリンパ球のT細胞Vβ鎖レパートリーは、25種類すべてのVβ鎖サブグループが均等に発現している症例とごく一部のVβ鎖サブグループのみが発現している症例に分類されることが判明した(図1参照。図1(A)は全体が発現している例であり、図1(B)はごく一部のVβ鎖サブグループのみが発現している例である。)。
そして、特定のVβ鎖のみが発現しVβ鎖の発現に偏りがみられた症例12例をSEREX法による自己抗体の検索に適した症例として考え、このPCR増幅産物をさらに2重濃度勾配ゲルに泳動し、ナイロンメンブレンに転写し、Southern blot法によって oligoclonality の有無について検討した。
次に、上記Vβ鎖の発現に偏りが見られた12例に対し、SEREX法を用いた。SEREX法の概要を図3に示す。II型肺胞上皮癌培養株からmRNAを抽出し、cDNAライブラリーを作成後、得られたcDNAライブラリーを蛋白発現ベクター(ZAP発現ベクター)に組み込み作成したファージを大腸菌に感染させ、cDNAのコードする蛋白を大腸菌に発現させた。そしてcolony hybridization法によって、特発性肺線維症の血清およびBAL液中の免疫グロブリンと結合するプラークを選別し、陽性ファージをファジェミドベクターに変換後、シークエンスによって特異的蛋白の塩基配列を決定した。ホモロジー検索によって蛋白の構造を決定し、特発性肺線維症症例の血清中およびBAL液中に存在する自己抗体が認識する自己抗原の同定を行った。以上の結果、各症例において検出されたVβ鎖サブファミリーを図4に示し、その認識された自己抗体認識抗原の一覧を図5に示す。なお図4中BALFはBAL液を用いて同定した場合を、VATSは胸腔鏡下肺生検によって取り出した組織から同定した場合を示している(Video−Assisted Thoracic Surgery)。また図4の右側列に記載されている数字はVβ鎖のサブファミリーの番号であって、特に数字の右上の *はoligoclonalityが確認されたものを示し、太字となっているものは同一症例において時間経過した後であっても共通に同定できたVβ鎖のサブファミリーを示す。
また図5によると、11種類の抗体のうち、抗annexin 1抗体は、SEREX法によって解析した特発性肺線維症12例中5例(41%)の血清及びBAL液中に存在した。抗phosphoglycerate kinase 1抗体は特発性肺線維症12例中4例(33%)の血清およびBAL 液中に存在が認められた。抗annexin 4抗体、抗bax inhibitor 1抗体及びcytochrome c oxidase subunit Va 抗体は特発性肺線維症12例中3例(25%)の血清及びBAL液中に存在してした。更に、抗aldehyde dehydrogenase 1抗体、抗cytochrome c−1抗体、抗macrophage migration inhibitory factor抗体及び抗annexin 2抗体は特発性肺線維症12例中2例(17%)に、抗cytochrome c reductase core 1抗体及び抗heme oxygenase 1抗体は12例中1例(8.3%)に存在していた。これにより、自己抗体を検出することによって、特発性肺線維症の有無を判定することができることを確かめた。
また、図4における特発性肺線維症例2(Case2)においては、BAL液と、このBAL液採取から3ヶ月後に得られた胸腔鏡下肺生検組織において一部に共通の抗原を認識するT細胞Vβ鎖の増生が認められた(図6参照)。この所見は、肺胞腔に存在する同一抗原に対して反応するTリンパ球が長期間、同一生体の肺に存在することを示す。このようなCD4陽性Tリンパ球のVβ鎖の抗原反応性可変部領域の遺伝子解析を行ったところ、今回検出したannexin 1の一部と強い相同性があり(図7)、本発明の自己抗体反応抗原蛋白のひとつであるannexin 1に対して肺胞局所で強い免疫反応が生じていることを示している。
近年、annexin 1の特定のアミノ酸部分(EYVQTVK)は、好中球が血管内腔から血管外への遊走を阻止する機能を有するという報告がなされている(Walther A et al.,Molecular Cell 5:831−840,2000)。一方、ここで認められたT細胞Vβ鎖可変部領域はこのEYVQTVKのアミノ酸と強い相同性が認められており、特発性肺線維症の肺胞局所においてannexin 1のEYVQTVK部分が重要な役割を果たしていることが読み取れ、特発性肺線維症の病態と密接な関係のある好中球浸潤がこのannexin 1のEYVQTVKを自己抗体がブロックするために増強している可能性が示唆され、矛盾しない結果を得ることができた(図7参照)。
また、今回検出した11種類の自己抗原蛋白について、II型肺胞上皮癌培養株(A549)および単球系培養株(THP−1)の双方に対し、RT−PCR法を用いて確認したところ、発現を確認することができた。特発性肺線維症は肺胞腔内に病変の主座が存在すると考えられており、肺胞腔側の構成細胞の大部分を占めるII型肺胞上皮および肺胞マクロファージの両者から自己抗体認識抗原蛋白が産生されている可能性を確認した。この結果を図8に示す。なお、上記RT−PCR法においては上記に示した自己抗体認識抗原遺伝子全体に対するプライマーを作成した。図9にここで設計したプライマーを示す。
そして更に、発見した自己抗体認識抗原蛋白をHis−tag標識蛋白として人工的に大腸菌に作成させた。以下に行った蛋白作成方法の概要を示す。
上記のRT−PCR法によって得られたPCR産物をHis−tag標識蛋白発現ベクター(Pqe−30UA)にライゲーションし、コンペテントM15細胞にトランスフォーメーションを行った。得られたHis−tag標識蛋白発現コロニー蛋白をニトロセルロースフィルターに転写後、IPTGを含むプレートにフィルターを移し6×His−tag標識蛋白質を発現させた。得られたフィルターをPenta−His HRP Conjugateを用いて免疫染色を行い自己抗体認識抗原蛋白発現コロニーを選別した。得られたコロニーをピックアップし培養液中で増殖させ、6×His−tag標識蛋白質の抽出を行った。Western blot法によって蛋白発現を確認した後、大腸菌大量培養液から、自己抗体認識抗原蛋白(His−tag標識蛋白)の精製を行った。
これにより得られた11種類の特発性肺線維症特異的His−tag標識自己抗原蛋白をThe Convertible(Biometra 社)を用いて、6mm Dotとしてナイロンメンブレン上に吸着させた。これにより、得られた蛋白吸着メンブレンに対し症例の血清又はBAL液でhybridizationを行い、二次抗体として抗ヒトIgG抗体を結合させ化学発光にて自己抗体発現の有無を11種類同時に検出した。Dot blot法およびWestern blot法による検索では、特発性肺線維症例の血清およびBAL液を用いた場合にのみHis−tag標識蛋白に対して陽性バンドを検出することができ、またバンドの発現強度は、病勢が悪化した場合に強く検出される傾向が認められた。
また、上記により得られた11種類の特発性肺線維症特異的His−tag標識自己抗原蛋白をNi−NTA標識ELISAプレートに添加し4度で一晩インキュベートし固定した。これによりHis−tag標識蛋白をNi−NTAに結合させることができ、これにより得られたELISAプレートを用いて症例血清又はBAL液を自己抗原蛋白と結合させ、さらに2次抗体としてアルカリフォスファターゼ標識した抗ひとIgG抗体を反応させ、アルカリフォスファターゼ発色基質にて発色後、405nmの吸光度を測定することによって自己抗体濃度を決定した。ELISAの結果を図10に示す。健常人50例における結果の平均値から標準偏差の3倍以上を陽性とした。今回検出した11種類の自己抗体は30例のサルコイドーシス(sarcoidosis)、10例の好酸球性肺炎(eosinophilic pneumonia)、10例の過敏性肺臓炎(hypersensitivity pneumonitis: HP)では血清中およびBAL 液中いずれにおいても検出されなかった。膠原病性間質性肺炎(collagen vascular disease associated interstitial pneumonia: IP-CVD)では一部の抗体がごく少数にみられたのみで大部分は陰性であった。一方、特発性肺線維症(IPF)においては血清中およびBAL 液中の自己抗体は5%から25%の頻度で陽性であり、これらの抗体を組み合わせることによって約80%の特発性肺線維症の診断が可能であった。このことから、我々の発見した11種類の自己抗体の測定は特発性肺線維症の診断に有用であることが確認された。図10においてPM/DMは多発性筋炎(polymyositis)/皮膚筋炎(dermatomyositis)、シエーグレン症候群(Sjogren)、全身性硬化症(systemic sclerosis: SSc)、関節リュウマチ(rheumatoid arthritis: RA)、全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus: SLE)を示す。さらに、特発性肺線維症急性増悪症例においては、特に annexin 1、phosphoglycerate kinase 1、annexin 4、bax inhibitor 1、cytochrome c reductase core 1 に対する自己抗体が、安定した肺線維症症例よりも有意にその頻度および発現強度(405 nmの吸光度)が高い傾向が認められた(図11)。特に、 annenxin 1、phosphoglycerate kinase 1に対する自己抗体は特発性肺線維症急性増悪例においては、血清中および BAL 液中で50ー60%と高率に陽性であった。1ヶ月以内に呼吸困難が増悪し、胸部X線にて浸潤影が増加した特発性肺線維症症例で感染症や心不全が除外された症例を急性増悪例とした。これら5種類の自己抗体を経時的にフォローすることによって、特発性肺線維症の急性増悪の予測が可能である。本発明のELISA解析は、特発性肺線維症の病勢フォローに有用な指標であった。
本発明によって、特発性肺線維症の治療前後のBAL液または経時的に採取した血清による連続的な疾患特異的自己抗体の解析が可能となる。特に、His−tag標識自己抗原蛋白を用いた自己抗体の測定は、病勢フォローやステロイドなどの治療効果判定に最適な検査法となる。

Claims (5)

  1. 抗annexin 1抗体からなる特発性繊維症の検出マーカー。
  2. annexin 1からなる抗原蛋白を構成要素として含む特発性繊維症検出キット。
  3. 抗原蛋白を基材に吸着させてなる請求項2記載の特発性繊維症検出キット。
  4. 前記抗原蛋白に標識が付されている請求項2記載の特発性繊維症検出キット。
  5. 前記標識がHis−tag標識である請求項4記載の特発性繊維症検出キット。
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