JP4475749B2 - スクロール圧縮機 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、空気調和装置や冷凍装置等に具備されるスクロール圧縮機に関する。
【0002】
【従来の技術】
スクロール圧縮機は、固定スクロールと旋回スクロールとを渦巻き状の壁体どうしを組み合わせて配置し、固定スクロールに対し旋回スクロールを公転旋回運動させることで壁体間に形成される圧縮室の容積を漸次減少させて該圧縮室内の流体の圧縮を行うものである。
【0003】
スクロール圧縮機の設計上の圧縮比は、圧縮室の最小容積(壁体どうしのかみ合いが外れて圧縮室が消滅する直前の容積)に対する、圧縮室の最大容積(壁体どうしがかみ合って圧縮室が形成された時点の容積)の比であり、次式(I)で表される。
Vi={A(θsuc)・L}/{A(θtop)・L}=A(θsuc)/A(θtop) …(I)
(I)式において、A(θ)は旋回スクロールの旋回角θに応じて容積を変化させる圧縮室の旋回面に平行な断面積を表す関数、θsucは圧縮室が最大容積となるときの旋回スクロールの旋回角、θtopは圧縮室が最小容積となるときの旋回スクロールの旋回角、Lは壁体どうしのラップ(重なり)長である。
【0004】
従来、スクロール圧縮機の圧縮比Viの向上を図るには、両スクロールの壁体の巻き数を増やして最大容積時の圧縮室の断面積A(θ)を大きくする手法が採られてきた。しかしながら、壁体の巻き数を増やす従来の手法ではスクロールの外形が拡大して圧縮機自体が大型化するため、大きさの制限が厳しい自動車用等の空気調和装置には採用し難いという問題点があった。
【0005】
上記の問題点を解決すべく、特公昭60−17956号には、以下に示す技術が提案されている。
図10(a)に示したものは固定スクロール50であり、端板50aと、端板50aの一側面に立設された渦巻き状の壁体50bとを備えている。また、(b)に示したものは旋回スクロール51である。旋回スクロール51も、固定スクロール50と同様に端板51aと、端板51aの一側面に立設された渦巻き状の壁体51bとを備えている。
【0006】
固定スクロール50および旋回スクロール51の端板50a、51aの側面に、壁体50b、51bの渦巻の外終端からπ(rad)に位置して、中心部側が高く外終端側が低い段差部52,52が形成されている。さらに、この端板50a、51aの段差部52、52に対応して、両スクロール50,51が備える壁体50b,51bの渦巻き状の上縁に中心部側が低く外終端側が高い段差部53、53が形成されている。
【0007】
上記のようなスクロール圧縮機において、固定スクロール50と旋回スクロール51のそれぞれの壁体50b、51bをかみ合わせ、最大容積の圧縮室Pが形成された状態が図11(a)であり、圧縮室Pについて、渦巻方向に沿った断面図が図11(b)である。
図11(b)の左方向が渦巻き中心側となっている。図11(b)からわかるように、段差部52よりも外終端側におけるラップ長L1は内側のラップ長Lsより長く形成されている。このため、ラップ長が一様である場合と比較すると、段差部52より外側のラップ長が長い分だけ圧縮室Pの最大容積が大きくなることがわかる。したがって、壁体の巻き数を増やさなくても、設計上の圧縮比を向上させることが可能である。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来のスクロール圧縮機においては、スクロール50,51の端板50a、51a側面に形成された段差部52,52が、渦巻の外終端からπ(rad)に位置している。このため、図11(b)からわかるように、段差部52から中心部よりのラップ長Lsが、外終端側のラップ長L1より短く、最大容積時であっても十分な大きさの容積を得ることができていなかった。
【0009】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、圧縮室の最大容積を十分に得ることができて圧縮比の向上を可能とするスクロール圧縮機を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
請求項1に記載のスクロール圧縮機は、端板の一側面に立設された渦巻き状の壁体を有し、定位置に固定された固定スクロールと、端板の一側面に立設された渦巻き状の壁体を有し、前記各壁体どうしをかみ合わせて自転を阻止されつつ公転旋回運動可能に支持された旋回スクロールとを備え、前記固定スクロールと旋回スクロールの少なくともいずれか一方の端板は、前記一側面に、その高さが壁体の渦に沿ってその中心部側で高く外終端側で低くなるよう形成された段差部が設けられ、前記固定スクロールと旋回スクロールのいずれか他方の壁体の上縁は、前記端板の段差部に対応し、複数の部位に分割されかつ該部位の高さが渦の中心部側で低く外終端側で高くなる段付き形状とされたスクロール圧縮機において、前記段差部は、前記壁体の渦に沿ってその外終端から中心部に向かって進行角2π±π/4(rad)の範囲内に設けられており、前記端板は、前記段差部より外終端側の高さが低くされている部位の厚さが、前記段差部より中心部側の高さが高くされている部位の厚さより薄くされていることを特徴とする。
【0011】
このスクロール圧縮機においては、端板に設けられた段差部が、渦巻中心を基準として、渦巻の外終端から中心部に向かって2π(rad)近傍の進行角2π±π/4(rad)の範囲内に設けられているとともに、端板の段差部より外終端側の高さが低くされている部位の厚さが、段差部より中心部側の高さが高くされている部位の厚さより薄くされている。すなわち、例えば図11(b)に示す段差部52が、図面左方向に位置するようになるので、最大容積時において圧縮室のラップ長がL1である部位がより多くなり、圧縮室の最大容積を十分に大きくすることができるとともに、端板を軽量化することができる。また、段差部を進行角2π±π/4(rad)の範囲内に設けることによって、段差部より内側の圧縮室内の流体が、段差部を通じて外側の圧縮室に洩れる差圧による流体の漏れを抑えることができる。
【0012】
請求項2に記載のスクロール圧縮機は、請求項1に記載のスクロール圧縮機において、前記段差部は、前記壁体の渦に沿ってその外終端から中心部に向かって進行角2π(rad)の位置に設けられていることを特徴とする。
【0013】
このスクロール圧縮機のように、段差部を進行角2π(rad)の位置に設けることにより、圧縮室の最大容積を最大とすることができると共に、上記差圧を原因とする圧縮室内の流体の漏れも防止することができる。
【0014】
請求項3に記載のスクロール圧縮機は、請求項1または2に記載のスクロール圧縮機において、前記固定スクロールの中心部には、前記端板に吐出ポートが形成され、前記段差部は、前記壁体の渦に沿って前記吐出ポート形成位置から少なくとも2π(rad)より外終端側に設けられていることを特徴とする。
【0015】
このスクロール圧縮機においては、スクロールの巻数が十分にある場合、段差部を吐出ポート形成位置から少なくとも2π(rad)外終端側、すなわち、段差部を含む圧縮室が吐出ポートに面することのない位置に設けることで、段差を含む圧縮室が吐出圧とならない。したがって段差部を挟んで渦の中心部側と外終端側とのシール差圧が小さく抑えられる。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明に係るスクロール圧縮機の実施形態を図1ないし図9に示して説明する。
図1は本発明に係るスクロール圧縮機の全体構成を示す断面図である。
図において符号11はハウジングを示しており、このハウジング11は、カップ状に形成されたハウジング本体11aと、ハウジング本体11aの開口端側に固定された蓋板11bとで構成されている。
【0017】
ハウジング11の内部には、固定スクロール12および旋回スクロール13からなるスクロール圧縮機構が配設されている。固定スクロール12は端板12aの一側面に渦巻き状の壁体12bが立設された構成となっている。旋回スクロール13は、固定スクロール12と同様に端板13aの一側面に渦巻き状の壁体13bが立設された構成となっており、特に壁体13bは固定スクロール12側の壁体12bと実質的に同一形状をなしている。また、壁体12b,13bの上縁には後述する圧縮室Cの気密性を高めるチップシール27,28が配設されている(これらチップシール27,28については後述する)。
【0018】
固定スクロール12はボルト14によってハウジング本体11aに締結されている。また、旋回スクロール13は固定スクロール12に対して相互に公転旋回半径だけ偏心しかつ180゜だけ位相をずらした状態で、壁体12b,13bどうしをかみ合わせて組み付けられており、蓋板11bと端板13aとの間に設けられた自転阻止機構15によって自転を阻止されつつ公転旋回運動可能に支持されている。
【0019】
蓋板11bにはクランク16aを備える回転軸16が貫通され、ベアリング17a,17bを介して蓋板11bに回転自在に支持されている。
【0020】
旋回スクロール13側の端板13aの他端面の中央にはボス18が突設されている。ボス18にはクランク16aの偏心部16bが軸受19およびドライブブッシュ20を介して回動自在に収容されており、旋回スクロール13は回転軸16を回転させることによって公転旋回運動するようになっている。また、回転軸16には、旋回スクロール13に与えられたアンバランス量を打ち消すバランスウェイト21が取り付けられている。
【0021】
また、ハウジング11の内部には、固定スクロール12の周囲に吸入室22が形成され、さらにハウジング本体11aの内底面と端板12aの他側面とに区画されて吐出キャビティ23が形成されている。
【0022】
ハウジング本体11aには吸入室22に向けて低圧の流体を導く吸入ポート24が設けられ、固定スクロール12側の端板12aの中央には容積を漸次減少させながら中心部に移動してきた圧縮室Cから吐出キャビティ23に向けて高圧の流体を導く吐出ポート25が設けられている。また、端板12aの他側面中央には、所定の大きさ以上の圧力が作用した場合にのみ吐出ポート25を開く吐出弁26が設けられている。
【0023】
図2は固定スクロール12、旋回スクロール13それぞれの斜視図である。
固定スクロール12の端板12aには、壁体12bが立設された一側面に、壁体12bの渦方向に沿って中心部側で高く外終端側で低くなるよう形成された段差部42を備えている。
旋回スクロール13側の端板13aも端板12aと同様に、壁体13bが立設された一側面に、壁体13bの渦方向に沿って中心部側で高く外終端側で低くなるよう形成された段差部43を備えている。
各段差部42,43は、それぞれ壁体12b、壁体13bの渦巻中心を基準として、各壁体12b、13bの外終端から2π(rad)進んだ位置に設けられている。なお、詳細な位置については後述する。
【0024】
端板12aの底面は、段差部42が形成されていることにより、中心部よりに設けられた底の浅い底面12fと外終端よりに設けられた底の深い底面12gの2つの部位に分けられている。隣り合う底面12f,12g間には、段差部42を構成し、前記底面12f,12gを繋いで垂直に切り立つ連結壁面12hが存在している。端板13aの底面も端板12aと同様に、段差部43が形成されていることにより、中心部よりに設けられた底の浅い底面13fと外終端よりに設けられた底の深い底面13gの2つの部位に分けられている。隣り合う底面13f,13g間には、段差部43を構成し、前記底面13f,13gを繋いで垂直に切り立つ連結壁面13hが存在している。
【0025】
また、固定スクロール12側の壁体12bは、旋回スクロール13の段差部43に対応し、その渦巻き状の上縁が2つの部位に分割され、かつ渦の中心部側で低く外終端側で高い段付き形状となっている。旋回スクロール13側の壁体13bも壁体12bと同様に、固定スクロール12の段差部42に対応し、渦巻き状の上縁が2つの部位に分割され、かつ渦の中心部側で低く外終端側で高い段付き形状となっている。
【0026】
具体的には、壁体12bの上縁は、中心部寄りに設けられた低位の上縁12cと外終端寄りに設けられた高位の上縁12dの2つの部位に分けられ、隣り合う上縁12c,12d間には、両者を繋いで旋回面に垂直な連結縁12eが存在している。壁体13bの上縁も壁体12bと同様に、中心部寄りに設けられた低位の上縁13cと外終端寄りに設けられた高位の上縁13dの2つの部位に分けられ、隣り合う上縁13c,13d間には、両者を繋いで旋回面に垂直な連結縁13eとが存在している。
【0027】
連結縁12eは、壁体12bを旋回スクロール13の方向から見ると壁体12bの内外両側面に滑らかに連続し壁体12bの肉厚に等しい直径を有する半円形をなしており、連結縁13eも連結縁12eと同様に、壁体13bの内外両側面に滑らかに連続し壁体13bの肉厚に等しい直径を有する半円形をなしている。
【0028】
また、連結壁面12hは、端板12aを旋回軸方向から見ると旋回スクロールの旋回に伴って連結縁13eが描く包絡線に一致する円弧をなしており、連結壁面13hも連結壁面12hと同様に、連結縁12eが描く包絡線に一致する円弧をなしている。
ここで、上記のように、段差部42、43はそれぞれ壁体12b、13bの外終端から2π(rad)の位置に設けられているが、詳細には以下の構成となっている。
図3に示すように、渦巻状の壁体12bは、壁部と壁部との間に渦巻状の流路45を形成しているが、段差部42を構成する連結壁面12hの円弧中心は、壁体12bの渦巻中心を基準とし、流路45を壁体12bの外終端から中心側に2π(rad)進んだ位置であって、流路45の幅方向中心に位置している。ここで、連結壁面12hの円弧中心は、吐出ポート25形成位置から流路45を壁体12bに沿って外終端側に2π(rad)進んだ位置よりも外終端側に位置している。
連結壁面13hの円弧中心も、同様に壁体12bの外終端から中心側に2π(rad)進んだ点であって、壁体13bの壁部間に形成された流路46の幅方向中心に位置しているとともに、吐出ポート25形成位置から外終端側に2π(rad)進んだ位置より外終端側に位置している。
【0029】
図4に示すように、壁体12bにおいて上縁12dと連結縁12eとが突き合う部分には、肉盛りしたようにリブ12iが設けられている。リブ12iは、応力集中を避けるため上縁12dと連結縁12eとに滑らかに連続する凹曲面をなして壁体12bと一体に形成されている。壁体13bにおいて上縁13d,13eが突き合う部分にも、同様の理由で同形状のリブ13iが設けられている。
【0030】
端板12aにおいて底面12gと連結壁面12hとが突き合う部分にも、肉盛りしたようにリブ12jが設けられている。リブ12jは、応力集中を避けるため底面12gと連結壁面12hとに滑らかに連続する凹曲面をなして壁体12bと一体に形成されている。端板13aにおいて底面13gと連結壁面13hとが突き合う部分にも、同様の理由で同形状のリブ13jが設けられている。
【0031】
壁体12bにおいて上縁12cと,12eが突き合う部分、および壁体13bにおいて上縁13c,13eが突き合う部分は、組み付け時にリブ13j,12jとの干渉を避けるためにそれぞれ面取りされている。
【0032】
さらに、図2に示すように、壁体12bの各上縁12c,12d、連結縁12eには、チップシール27c,27d,27eがそれぞれ配設されている。これと同様に壁部13の各上縁13c,13d、連結縁13eにも、チップシール28c,28d,28eがそれぞれ配設されている。
【0033】
固定スクロール12に旋回スクロール13を組み付けると、低位の上縁13dが底の浅い底面12fに当接し、高位の上縁13eが底の深い底面12gに当接する。同時に、低位の上縁12dが底の浅い底面13fに当接し、高位の上縁12eが底の深い底面13gに当接する。これにより、両スクロール間には向かい合う端板12a,13aと壁体12b,13bとに区画されて圧縮室Cが形成される。
【0034】
圧縮室Cは旋回スクロール13の公転旋回運動に伴い外終端から中心部に向けて移動するが、連結縁12eは、壁体12b,13bの当接点が連結縁12eよりも外終端寄りに存在する間は壁体12を挟んで隣接する圧縮室C(一方は密閉状態にない)間で流体の漏れが生じないように連結壁面13hに摺接し、壁体12b,13bの当接点が連結縁12eよりも外終端寄りに存在しない間は壁体12を挟んで隣接する圧縮室C(共に密閉状態にある)間で均圧を図るべく連結壁面13hには摺接しないようになっている。
【0035】
連結縁13eも同様に、壁体12b,13bの当接点が連結縁13eよりも外終端寄りに存在する間は壁体13を挟んで隣接する圧縮室C(一方は密閉状態にない)間で流体の漏れが生じないように連結壁面12hに摺接し、壁体12b,13bの当接点が連結縁13eよりも外終端寄りに存在しない間は壁体13を挟んで隣接する圧縮室C(共に密閉状態にある)間で均圧を図るべく連結壁面12hには摺接しないようになっている。なお、連結縁12eと連結壁面13h、および連結縁13eと連結壁面12hの摺接は、旋回スクロール13が1/2回転する間で同期して起こる。
【0036】
上記のように構成されたスクロール圧縮機の駆動時における流体圧縮の過程を図5ないし図8に示して順に説明する。
【0037】
図5に示す状態では、壁体12bの外終端が壁体13bの外側面に当接するとともに、壁体13bの外終端が壁体12bの外側面に当接し、端板12a,13a、壁体12b,13b間に流体が封入され、スクロール圧縮機構の中心を挟んで正対した位置に、最大容積の圧縮室Cが2つ形成される。この時点では、連結縁12eと連結壁面13h、連結縁13eと連結壁面12hは摺接している。
【0038】
図5の状態から旋回スクロール13がπ/2だけ旋回し図6に示す状態に至る過程では、圧縮室Cが密閉状態を保ちながら中心部に向けて進行し、漸次容積を減少させて流体を圧縮し、圧縮室Cに先行する圧縮室C0も密閉状態を保ちながら中心部に向けて進行し、漸次容積を減少させて引き続き流体を圧縮する。この過程においては、連結縁12eは連結壁面13hに、連結縁13eは連結壁面12hにそれぞれに摺接を開始し、圧縮室Cに先行する圧縮室C0の密閉状態を保っている。
【0039】
図6の状態から旋回スクロール13がπ/2だけ旋回し図7に示す状態に至る過程では、圧縮室Cが密閉状態を保ちながら中心部に向けて進行し、漸次容積を減少させてさらに流体を圧縮し、圧縮室Cに先行する圧縮室C0も密閉状態を保ちながら中心部に向けて進行し、漸次容積を減少させて引き続き流体を圧縮する。この時点では、連結縁12eと連結壁面13h、連結縁13eと連結壁面12hは摺接しているが、直後に解消される。
【0040】
図7に示す状態では、外終端に近い壁体12bの内側面とその内方に位置する壁体13bの外側面との間には後に圧縮室となる開放空間c1が形成され、同じく外終端に近い壁体13bの内側面とその内方に位置する壁体12bの外側面との間にも後に圧縮室となる開放空間C1が形成され、開放空間c1には吸入室22から低圧の流体が流入する。
【0041】
図7の状態から旋回スクロール13がπ/2だけ旋回し図8に示す状態に至る過程では、開放空間C1が大きさを拡大しながらスクロール圧縮機構の中心部に向けて進行し、開放空間C1に先行する圧縮室Cも中心部に向けて進行し、漸次容積を減少させて流体を圧縮する。この過程において、連結縁12eと連結壁面13h、連結縁13eと連結壁面12hそれぞれの摺接が解消され、隣接する二つの圧縮室Cが均圧される。
【0042】
図8の状態から旋回スクロール13がさらにπ/2だけ旋回し再び図5に示す状態に至る過程では、空間C1がさらに大きさを拡大しながらスクロール圧縮機構の中心部に向けて進行し、空間C1に先行する圧縮室Cも密閉状態を保ちながら中心部に向けて進行し、漸次容積を減少させて流体を圧縮する。そして、図5の状態に至ると、図8に示す圧縮室Cが図5に示す圧縮室C0に相当し、図8に示す空間C1が図5に示す圧縮室Cに相当することとなる。その後圧縮を続けることにより、圧縮室Cは最小容積となり、スクロール圧縮機から吐出される。
【0043】
最大容積から最小容積(吐出弁26開放時の容積)に至る圧縮室Cの大きさの変遷は、図5における圧縮室C→図7における圧縮室C→図5における圧縮室C0→図8における圧縮室C0と見なせる。ここで、それぞれの状態における圧縮室を展開した形状を図9に示す。
【0044】
最大容積となる(a)の状態では、圧縮室の幅は底面12gから上縁12dまでの壁体12bの高さ(もしくは底面13gから上縁13dまでの壁体13bの高さ)にほぼ等しいラップ長Llとなる。
【0045】
(b)の状態では、圧縮室は旋回軸方向の幅が途中で狭くなる異形の短冊状をなす。その幅は、スクロール圧縮機構の外終端側ではラップ長Llとなり、中心部側では底面12fから上縁12dまでの高さ(もしくは底面13fから上縁13dまでの壁体13bの高さ)にほぼ等しいラップ長Ls(<Ll)となる。
【0046】
(c)の状態においても、圧縮室は旋回軸方向の幅が途中で狭くなる異形の短冊状をなす。その幅は、スクロール圧縮機構の外終端側ではラップ長Lsとなり、中心部側では底面12fから上縁12cまでの高さ(もしくは底面13fから上縁13cまでの壁体13bの高さ)にほぼ等しいラップ長Lss(<Ls)となる。
【0047】
最小容積となる(d)の状態では、圧縮室は幅が均一(ラップ長Lss)な短冊状をなす。
【0048】
上記スクロール圧縮機においては、圧縮室の容積変化が、従来のように旋回面に平行な断面積の減少のみによって引き起こされるのではなく、図9に示したように旋回軸方向の幅の減少と断面積の減少とによって相乗的に引き起こされる。
【0049】
したがって、壁体12b,13bを段付き形状とし、スクロール圧縮機構の外終端寄りと中心部寄りとで壁体12b,13bのラップ長を変化させ、圧縮室Cの最大容積を大きくしたり最小容積を小さくしたりすることで、壁体どうしのラップ長が一定である従来のスクロール圧縮機に比べて圧縮比を向上させることができる。
【0050】
そして、段差部42,43がそれぞれ壁体12b、13bの渦巻き外終端から2π(rad)に位置しているため、図9(a)に示すように圧縮室が最大容積時において、そのラップ長を渦巻き方向全域にわたって最大にすることができる。
さらに、段差部42,43を渦巻きの中心に近づけすぎると、壁体12b、13bが内外に仕切る圧縮室の差圧が大きくなるため、段差部42,43を通じて内側の圧縮室内の流体が外側の圧縮室に洩れるおそれがある。しかし、本例においては上記のように段差部42,43が壁体12b、13bの渦巻き外終端から2π(rad)に位置しているため、圧縮室の最大容積を最大にすることができると同時に差圧による流体の漏れを抑えることができる。また、段差部42,43が吐出ポート25から外終端側に2π(rad)以上進んだ位置に設けられているため、段差部42,43を含む圧縮室Cが吐出ポート25に面しない。したがって、段差部42,43を含む圧縮室が吐出圧とならず、段差部を挟んで渦の中心部側と外終端側とのシール差圧を小さく抑えられて、冷媒の漏れを抑えることができる。
【0051】
なお、段差部42,43は壁体12b、13bの渦巻き外終端から2π(rad)ではなく、2π(rad)近傍、例えば2π±π/4(rad)の範囲であれば、2π(rad)と容積比で数%しか違わないため、圧縮室の最大容積を十分に大きくとることができると共に、上記差圧を原因とする圧縮室内の流体の漏れも防止することができる。
また、段差部42,43の形成箇所もそれぞれ1箇所でなくてもよく、それぞれ複数箇所に設けられていてよい。
【0052】
さらにまた、上記実施形態においては連結縁12e,13eが旋回スクロール13の旋回面に垂直に形成され、これに対応して連結壁面12h,13hも旋回面に垂直に形成されているが、連結縁12e,13e、連結壁面12h,13hは互いの対応関係を守っていれば旋回面に垂直である必要はなく、例えば旋回面に対して傾斜するように形成しても構わない。
また、連結縁12e,13eは半円形をなしている必要はなく、いかなる形状であってもよい。この場合、連結縁12e,13eが描く包絡線は円弧とはならないので、連結壁面12h、13hも円弧にはならなくなる
【0053】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のスクロール圧縮機においては、以下の効果を有する。
請求項1に記載の発明においては、端板に設けられた段差部が、渦巻中心を基準として、渦巻の外終端から進行角2π±π/4(rad)の範囲内に設けられているとともに、端板の段差部より外終端側の高さが低くされている部位の厚さが、段差部より中心部側の高さが高くされている部位の厚さより薄くされている。したがって、圧縮室の最大容積を十分に大きくし、圧縮効率を上げることができるとともに、端板を軽量化することができる。また、内側の圧縮室の流体が段差部を通じて外側の圧縮室に漏れることを防止することができる。
請求項2に記載の発明においては、段差部が進行角2π(rad)に設けられていることにより、圧縮室の最大容積を最大とすることができると共に、上記差圧を原因とする圧縮室内の流体の漏れも防止することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施形態として示したスクロール圧縮機の全体構成を示す断面図である。
【図2】 同スクロール圧縮機に用いられる固定スクロール及び旋回スクロールの斜視図である。
【図3】 同スクロール圧縮機に用いられる固定スクロールの平面図である。
【図4】 同固定スクロールの断面図である。
【図5】 同スクロール圧縮機の駆動時における流体圧縮の過程を示す図である。
【図6】 同スクロール圧縮機の駆動時における流体圧縮の過程を示す図である。
【図7】 同スクロール圧縮機の駆動時における流体圧縮の過程を示す図である。
【図8】 同スクロール圧縮機の駆動時における流体圧縮の過程を示す図である。
【図9】 同スクロール圧縮機の圧縮室を展開した形状を示す図である。
【図10】 従来のスクロール圧縮機に用いられる固定スクロール及び旋回スクロールの斜視図である。
【図11】 従来のスクロール圧縮機において、最大容積時の圧縮室を示す図である。
【符号の説明】
12 固定スクロール
12a 端板
12b 壁体
13 旋回スクロール
13a 端板
13b 壁体
42 段差部
43 段差部

Claims (3)

  1. 端板の一側面に立設された渦巻き状の壁体を有し、定位置に固定された固定スクロールと、
    端板の一側面に立設された渦巻き状の壁体を有し、前記各壁体どうしをかみ合わせて自転を阻止されつつ公転旋回運動可能に支持された旋回スクロールとを備え、
    前記固定スクロールと旋回スクロールの少なくともいずれか一方の端板は、前記一側面に、その高さが壁体の渦に沿ってその中心部側で高く外終端側で低くなるよう形成された段差部が設けられ、
    前記固定スクロールと旋回スクロールのいずれか他方の壁体の上縁は、前記端板の段差部に対応し、複数の部位に分割されかつ該部位の高さが渦の中心部側で低く外終端側で高くなる段付き形状とされたスクロール圧縮機において、
    前記段差部は、前記壁体の渦に沿ってその外終端から中心部に向かって進行角2π±π/4(rad)の範囲内に設けられており、
    前記端板は、前記段差部より外終端側の高さが低くされている部位の厚さが、前記段差部より中心部側の高さが高くされている部位の厚さより薄くされていることを特徴とするスクロール圧縮機。
  2. 請求項1に記載のスクロール圧縮機において、
    前記段差部は、前記壁体の渦に沿ってその外終端から中心部に向かって進行角2π(rad)の位置に設けられていることを特徴とするスクロール圧縮機。
  3. 請求項1または2に記載のスクロール圧縮機において、
    前記固定スクロールの中心部には、前記端板に吐出ポートが形成され、前記段差部は、前記壁体の渦に沿って前記吐出ポート形成位置から少なくとも2π(rad)より外終端側に設けられていることを特徴とするスクロール圧縮機。
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