JP4357685B2 - 直噴エンジン制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はターボ過給器付きの直噴エンジンの制御に関し特に燃焼性能の向上に関する。
【0002】
【従来の技術】
今日、車両等の動力用のガソリンエンジンの分野でも、ディーゼルエンジンのように燃焼室壁を貫通して設けられたインジェクタから燃焼室内に直接、燃料を噴射する直噴エンジンが実用化されている。直噴エンジンでは、例えば圧縮行程にインジェクタからピストン頂部に設けたキャビティに向けて燃料を噴射することで、その点火時期に点火プラグの周囲に理論空燃比に近い空燃比の混合気を生成している。これにより全体に希薄な空燃比であっても確実な着火が可能となり、COやHCの排出量を減少させ、またアイドル運転時や低負荷走行時における燃費を大幅に向上させることができる。しかも燃料噴射量を増減させる際にも通常のエンジンのような吸気通路における輸送時間に起因する燃料の移送遅れがないので機関速度の加減速応答性を高めることができる。
【0003】
このように、直噴エンジンはいわゆるリーン燃焼に好適な構造を有するものであるが、より燃焼性能を向上すべくターボ過給器を搭載して筒内吸気量を増大し、燃費改善につながるリーン燃焼領域をより高負荷域まで拡大するようにしたものがある。
【0004】
一方、直噴エンジンに付設される直噴エンジン制御装置においては、燃料噴射や吸気制御等、直噴エンジンの各部の制御について種々の試みがなされている。
【0005】
例えば、直噴エンジンでは燃焼室内に燃料を直接噴射するので、要求燃料噴射が増大する高負荷運転時に点火プラグの近傍の空燃比がオーバーリッチとなって失火が生じるおそれがある。このような問題を解決すべく、例えば特開平5−79370号公報や特開平7−102976号公報には、負荷に応じて圧縮行程において燃料噴射を行う圧縮行程噴射モード(後期噴射モード)と吸気行程において燃料噴射を行う吸気行程噴射モード(前期噴射モード)とを切り替えることが提唱されている。
【0006】
具体的には燃料噴射量の少ない低負荷運転時には圧縮行程中に深皿部や凹状溝からなるキャビティ内に燃料を噴射することで点火プラグの周囲に理論空燃比に近い空燃比の混合気を局所的に形成し(後期噴射モード)、燃料噴射量の多い高負荷走行時には吸気行程中にキャビティ外に燃料を噴射することで燃焼室内の全域にわたって均一な空燃比の混合気を形成し吸気管噴射型のエンジンと同様に多量の燃料を燃焼させるようにしている(前期噴射モード)。また、中負荷走行時には全体必要燃料噴射量のうちの一定量を前期噴射モードで噴射し前期噴射モードで着火に不足する分を後期噴射モードで噴射している。
【0007】
また、インジェクタの開弁時期すなわち噴射時期は要求燃料噴射量と燃圧とに基づいて設定されたインジェクタの開弁時間に基づいて吸気行程や圧縮行程中に燃料の噴射が終了する範囲内で決定されるが、特に圧縮行程噴射モードでは時期によっては点火時点におけるキャビティ内の燃料が確実に気化せず不完全燃焼となるおそれがある。このような問題を解決すべく、燃料の気化に要する時間やその噴霧の拡散に要する時間等を考慮した上で上記噴射時期を決定している。例えば、特開平11−141115号公報には、燃料の気化速度や噴霧の拡散速度はその雰囲気温度、具体的には筒内温度の影響を受けて変化し、燃料の層状度は筒内温度の影響をあまり受けないことに着目し、機関温度に応じて噴射時期を算出し、点火時点における燃料の気化状態や噴霧の拡散状態を最適化させることが提唱されている。
【0008】
具体的には、気化率が噴射時期で大きく変化する高温時には、燃料噴射時期を、燃料気化率がある程度確保されかつ層状度があまり低下しない範囲に設定し、気化率があまり噴射時期に依存しない低温時には、燃料噴射時期を遅角することでその分、燃料層状度を上げ燃焼の安定を図っている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上述の筒内雰囲気温度による燃料の気化性、燃料の噴射〜点火までのインターバル時間に応じた噴霧の拡散程度以外にも、筒内雰囲気圧により噴霧の貫通力、筒内ガス流速により噴霧の拡散度合いが変化して混合気形成に影響を及ぼす。例えば、過給圧が上昇すると筒内吸入空気量が増大するため、圧縮行程における所定のクランク角度での筒内圧力を上昇させることとなり、噴霧の貫通力が低下して点火プラグへの混合気到達時間が遅れ、ひいては点火時期に点火プラグ周りに最適な混合気場が形成されないおそれがある。その上、過給圧が上昇すると筒内に流入するガス流速が増大するため、噴霧の拡散が促進して筒内混合気の層状度が低下し、燃焼変動が悪化する。ひいてはリーン燃焼そのものの成立が困難になるおそれがある。
【0010】
ターボ過給器を搭載した直噴エンジンでは、上記筒内雰囲気圧を規定する、筒内に吸入される空気の圧力(以下、吸気圧)が幅広く変化するので、特に一般にターボラグと呼ばれる過給遅れが発生したときに燃焼室における混合気場が最適なものから大きく外れ燃焼状態が悪化するおそれがある。
【0011】
本発明は上記実情に鑑みなされたもので、ターボラグ等があっても適正な混合気形成を行うことができる直噴エンジン制御装置を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
請求項1記載の発明では、ターボ過給器を有し燃焼室内にインジェクタから燃料を直接噴射して点火プラグにより燃料と空気の混合気に着火する直噴エンジンに付設され、圧縮行程に燃料噴射を行う圧縮行程噴射モードを設定可能な直噴エンジン制御装置に次の構成を具備せしめる。燃焼室の直上流位置で吸気通路に設けられ吸気圧を検出する吸気圧センサと、直噴エンジンの加速度を検出する加速度検出手段と、圧縮行程噴射モードによる成層燃焼が選択されている時に上記加速度が予め設定した所定値を上回ると燃料噴射の噴射時期を上記吸気圧に基づいて補正せしめる噴射時期補正手段とを具備せしめる。
【0013】
一定以上の加速状態にあるとターボラグが発生し、そのことに基因して、加速が実質的にないとみなせる運転域に比して筒内圧等の筒内状態が変化する。上記噴射時期の補正により、噴射燃料の状態と上記変化した筒内状態とが整合して燃焼室内に適正な混合気場を形成することができる。
【0014】
しかも、吸気圧を直接検出しているので、ターボ過給器の個体差や経年変化を吸収することができる。
また、圧縮行程噴射による燃料の燃焼は特に筒内雰囲気の影響を受けやすく、圧縮行程に燃料噴射を行う圧縮行程噴射モードを設定可能とした直噴エンジン制御装置に適用すると、特に好適である。
【0015】
請求項2記載の発明では、請求項1の発明の構成において、上記噴射時期補正手段は、上記吸気圧に基づいて算出される筒内吸入空気量が小さいほど上記噴射時期を遅角するように設定する。
【0016】
ターボラグにより、加速が実質的にないとみなせる運転域に比して吸気圧が相対的に低くなり、燃料噴霧のペネトレーションが過剰となる。これにより燃料噴射から混合気の点火プラグ到達までの時間が短くなる。この時間の短縮分が噴射時期の遅角化により相殺され、燃焼室内に適正な混合気場が形成される。
【0017】
請求項3記載の発明では、ターボ過給器を有し燃焼室内にインジェクタから燃料を直接噴射して点火プラグにより燃料と空気の混合気に着火する直噴エンジンに付設され、圧縮行程に燃料噴射を行う圧縮行程噴射モードを設定可能な直噴エンジン制御装置に次の構成を具備せしめる。燃焼室の直上流位置で吸気通路に設けられ吸気圧を検出する吸気圧センサと、直噴エンジンの加速度を検出する加速度検出手段と、圧縮行程噴射モードによる成層燃焼が選択されている時に上記加速度が予め設定した所定値を上回ると燃料噴射の燃圧を上記吸気圧に基づいて補正せしめる燃圧補正手段とを具備せしめる。
【0018】
一定以上の加速状態にあるとターボラグが発生し、そのことに基因して、加速が実質的にないとみなせる運転域に比して筒内圧等の筒内状態が変化する。上記燃圧の補正により、噴射燃料の状態と上記変化した筒内状態とが整合して燃焼室内に適正な混合気場を形成することができる。
【0019】
しかも、吸気圧を直接検出しているので、ターボ過給器の個体差や経年変化を吸収することができる。
【0020】
請求項4記載の発明では、請求項3の発明の構成において、上記燃圧補正手段は、上記吸気圧に基づいて算出される筒内吸入空気量が小さいほど上記燃圧を低圧とするように設定する。
【0021】
ターボラグにより、加速が実質的にないとみなせる運転域に比して吸気圧が相対的に低くなり、これは、燃料噴霧のペネトレーションを強化する方向に作用する。この燃料噴霧ペネトレーションの強化作用が、燃圧の低圧化による燃料噴霧ペネトレーションの弱化作用と相殺され、燃焼室内に適正な混合気場が形成される。
【0026】
請求項5記載の発明では、請求項1ないし4の発明の構成において、上記加速度が予め設定した所定値を上回るとスロットル開度を上記吸気圧に基づいて算出される定常状態値からの過給遅れ量が大きいほど開側に補正せしめるスロットル開度補正手段を具備せしめる。
【0027】
ターボラグに基因した筒内吸入空気量の不足を抑制することができる。
【0031】
【発明の実施の形態】
(第1実施形態)
図1に本発明の直噴エンジン制御装置を付設した直噴エンジンを示す。本直噴エンジンは以下の説明において車両の動力用のエンジンとして説明する。直噴エンジンはシリンダブロック11に形成されたシリンダ111内にピストン13が摺動自在に保持され、ピストン13の上方には、シリンダヘッド12で画成される内側に燃焼室100が形成されている。燃焼室100において燃料と空気との混合気の燃焼が行われ、その爆発力によりピストン13が上下往復動しクランクシャフトを回転駆動せしめる。ピストン13の頂面には図示しない凹所が形成されキャビティとしてある。混合気への点火はシリンダヘッド12を貫通し燃焼室100内に突出して設けられた点火プラグ4により行われる。
【0032】
混合気を構成する空気の供給は、吸気通路21により行われる。また、燃焼室100からの排気は排気通路22により行われる。シリンダヘッド12には、吸気通路21と燃焼室100との間の連通と遮断とを切り換える吸気バルブ201、排気通路22と燃焼室100との間の連通と遮断とを切り換える排気バルブ202が取り付けられている。
【0033】
吸気通路21内にはフラップ状のスロットルバルブ205が設けられ、その開度に応じて吸気通路21内の空気量を調整する。
【0034】
また、本エンジンにはターボ過給器204が設けられ、吸気圧を排気エネルギーに応じた過給圧に高めている。
【0035】
混合気を構成する燃料の供給は、シリンダヘッド12を貫通して設けられたインジェクタ31により行われ、その先端ノズル部から燃焼室100内に直接に燃料が噴射される。
【0036】
インジェクタ31への燃料供給は、燃料タンク34からの燃料が燃料ポンプ33により昇圧しデリバリパイプ32を介してインジェクタ31に供給されることで行われる。デリバリバルブ32内の圧力すなわち燃圧は、燃料ポンプ33の吐出量の制御で調整自在としてある。
【0037】
また、直噴エンジン制御装置は、噴射時期補正手段、燃圧補正手段およびスロットル開度補正手段であるエンジンコンロールコンピュータ5とこれに入力するセンサ類61,62,63,64等で構成され、燃料噴射制御、吸気制御、点火制御等の制御を行う。エンジンコントロールコンピュータ5は、CPU、RAM、ROM等からなる一般的な構成のもので、上記センサ類61〜64からの検出信号等から知られる運転状態に基づいて、上記インジェクタ31、スロットルバルブ205、点火プラグ4、燃料ポンプ33等に制御信号を出力する。
【0038】
上記センサ類61〜64について説明する。加速度検出手段であるアクセルペダル61からは、これを運転者が踏み込むと、その踏み込み量(アクセル開度)が知られる。クランク角センサ62からはクランク角信号が入力しクランク角が知られる。冷却水温センサ63からはエンジンの冷却水の温度が知られる。
【0039】
また、吸気圧センサ64は吸気通路21のサージタンク203に設けられ、サージタンク203内の圧力を吸気圧として検出するようになっている。このように吸気圧センサ64を圧力脈動のないサージタンク203に設けることで正確に筒内に吸入される空気の圧力を検出することができる。また、その他に、エンジンコントロールコンピュータ5には、エンジンの制御用として知られる一般的なセンサ信号が入力している。
【0040】
図2はエンジンコントロールコンピュータ5における制御内容を示し、ここでは燃料噴射時期等の設定手順を示しており、燃料噴射制御および吸気制御を中心に説明する。先ず、電源投入によって処理が開始され、図示しないイニシャル処理によりすべてのメモリ、レジスタ、ポートのイニシャライズが実行される。以後の処理は所定時間ごとに繰り返し実行される時間同期ルーチンである。
【0041】
まずステップS101にて上記センサ類61〜64等からの出力信号に基づいてエンジン回転数NE、アクセル開度VA、吸気圧PM、冷却水温度THW等を取り込む。
【0042】
ステップS102では上記エンジン回転数NE等から運転状態を判定し、運転状態に応じて最適な燃焼方式を決定する。燃焼方式の決定方法としては、図3に示すように、エンジン回転数NEおよびアクセル開度VAを入力とする二次元マップにしたがい圧縮行程において噴射される燃料による成層燃焼または吸気行程において噴射される燃料による均質燃焼のいずれかを選択する。以下、本発明の特徴部分である成層燃焼が選択されたとして説明する。
【0043】
続いて上記運転状態に基づいて燃料噴射量QF 、基本噴射時期TB 、基本噴射圧PB 、基本スロットル開度ThB、を算出する。ここで、基本噴射時期TB 、基本噴射圧PB 、基本スロットル開度ThBは、図4に示すように、エンジン回転数NEおよび燃料噴射量QF を入力とする二次元マップにより設定する。
【0044】
ステップS103では、アクセル開度VAの時間変化量に基づいて現在の運転状態が加速状態か否かを判定する。すなわちVAi をアクセル開度の今回算出値、VAi-1 を前回算出値として(VAi −VAi-1 )が、予め設定した所定値K以上であれば加速状態と判定し、ステップS104に進む。加速が大きいほどターボラグによる混合気形成への影響は大きいので、要求される燃焼状態の質が高いほど所定値Kは小さな値に設定することになる。
【0045】
ステップS104では、エンジン回転数NEと吸気圧PMとに基づいて筒内吸入空気量Qair を算出する。一般に、吸気圧PMが低いほど、筒内吸入空気量Qairは小さくなる。算出は、エンジンの定常運転のもとで計測した筒内吸入空気量から作成したデータマップから補間算出する。
【0046】
続くステップS105は燃料噴射時期補正手段、燃圧補正手段としての作動を示す手順で、上記ステップS104にて吸気圧PMに基づいて算出された筒内吸入空気量Qair 、エンジン回転数NEおよび燃料噴射量QF から筒内吸入空気量ベースにて噴射時期Tair 、噴射圧Pair を算出する。噴射時期Tair 、噴射圧Pair は、図4のデータマップにより説明すると、エンジンが定常状態の場合は、ステップS102にて算出されたアクセル開度ベースにて算出した基本噴射時期TB 、基本噴射圧PB と一致する。一方、加速時には、筒内吸入空気量Qair が小さいほど(吸気圧PMが低いほど)、噴射時期の等燃料噴射量QF 線は全体的に遅角側へ移動するように与えられる。また、筒内吸入空気量Qair が小さいほど(吸気圧PMが低いほど)燃圧の等燃料噴射量QF 線は全体的に低圧側へ移動するように与えられる。
【0047】
続くステップS106はスロットル開度補正手段としての作動を示す手順で、ステップS102にて検出された吸気圧PMと、現在のエンジン回転数NE、スロットル開度Thi-1より算出される定常状態の吸気圧PMs (=f(NE,Thi-1))とより、過給圧の上昇遅れ量である過給遅れ量(PMs −PM)を算出し、過給遅れ量(PMs −PM)に応じてスロットル開度の補正量Thcを算出する。ここで、補正量は過給遅れ量が大きいほど(吸気圧PMが低いほど)開弁側に設定される。これにより吸入空気量が燃料噴射量QF に応じた適正値に補正されることとなる。次いでステップS107に進む。
【0048】
なお、ステップS103で(VAi −VAi-1 )<Kであれば実質的に加速のない定常運転状態と判定しステップS108で噴射時期Tair を基本噴射時期TB 値とし、燃圧Pair を基本燃圧PB とし、スロットル開度補正量Thcを0としてステップS107に進む。
【0049】
ステップS107では最終噴射時期TF 、最終燃圧PF 、最終スロットル開度ThFを算出する。最終噴射時期TF の算出は基本噴射時期TB と筒内吸気量ベース噴射時期Tair のうち遅角側の値をとるもので、加速状態と判定された場合は最終噴射時期TF は筒内吸気量ベース噴射時期Tair 値となり、定常状態と判定された場合は、最終噴射時期TF は基本噴射時期TB 値となる。また、最終燃圧PF の算出は基本燃圧PB と筒内吸気量ベース燃圧Pair のうち低圧側の値をとるもので、加速状態と判定された場合は最終噴射時期PF は筒内吸気量ベース燃圧Pair 値となり、定常状態と判定された場合は、最終燃圧PF は基本燃圧PB 値となる。
【0050】
また、最終スロットル開度ThFの算出は基本スロットル開度ThBに補正量Thcを加算する。したがって、最終スロットル開度ThFは加速状態と判定された場合は基本スロットル開度ThBよりも補正量Thc分開弁した値となり、定常状態と判断された場合は基本スロットル開度ThBとなる。
【0051】
これら最終噴射時期TF 、最終燃圧PF 、最終スロットル開度ThFを算出すると本フローは終了する。
【0052】
さて、加速時においては定常状態に対し過給圧の上昇に遅れが生じる(ターボラグ)ため、吸気圧さらには筒内吸入空気量が定常状態値よりも低下する。これは、燃料噴射時における筒内圧力の低下をまねき、燃料噴霧のペネトレーションを強化する方向に作用するから、筒内圧力を決定する筒内吸入空気量Qair が小さいほど、すなわちターボラグによる筒内吸入空気量Qair の定常状態値からの低下量が大きいほど、上記のごとく噴射時期、燃圧を、遅角側、低圧側に補正することで、次の効果を奏する。すなわち、噴射時期を遅角側に補正し噴射から点火時点までのインターバルを短くすることで、燃料噴霧のペネトレーションの過剰による混合気の点火プラグ4への到達タイミングが早くなり過ぎないようにする。また、燃圧を低圧側に補正することで、その燃料噴霧ペネトレーションの弱化作用と、吸気圧の定常状態値からの相対的な低下による燃料噴霧ペネトレーション強化作用とが相殺される。しかも、筒内吸気量ベース噴射時期Tair ,筒内吸気量ベース燃圧Pair を算出するための筒内吸入空気量Qair は、吸気圧センサ64により検出された吸気圧PMに基づいて算出される(ステップS104)ので、ターボラグ等の影響を受けることなく高精度な値が得られる。しかして、加速時のターボラグ発生時にも混合気の点火プラグ4への到達タイミングが適正化し、適正な混合気場が形成され、ターボラグによる燃焼の悪化を防止することができる。
【0053】
また、定常状態の吸気圧PMsと吸気圧PMとの差である過給遅れ量(PMs −PM)に応じてスロットル開度を開弁補正することで、ターボラグによる筒内吸入空気量の低下を緩和し、燃焼への影響を抑制することができる。
【0054】
なお、上記説明では、圧縮行程噴射における制御について述べたが、吸気行程噴射時においても、燃料噴射、吸気について同様な補正を加えることで、筒内吸入空気量変化の影響を低減することができる。但し、加速時に生じる吸入行程噴射における特有の筒内吸入空気量低下の影響として、噴霧ペネトレーション強化によりピストンキャビティあるいはシリンダライナに噴霧が衝突して付着し、燃焼に有効に提供されない燃料が生じるということがあり、傾向としては噴射時期を進角すればキャビティ内への付着が生じ、噴射時期を遅角させればライナ側への付着が生じることとなる。したがって噴射時期の補正は、基本噴射時期に応じて進角、遅角の補正方向を設定するのがよい。
【0055】
また、本実施形態では噴射時期補正と燃圧補正とは、それぞれが上記のごとく混合気の点火プラグ4への到達タイミングを適正化する作用をするので、噴射時期補正と燃圧補正とのうちいずれか一方のみを行う構成とすることもできる。
【0056】
また、吸気圧センサ64の設置位置はサージタンク203ではなく要求される混合気の点火プラグ4への到達タイミングの精度に応じて、吸気圧を反映した圧力値が得られる場所であれば、吸気通路21のうち燃焼室100の直上流部の任意位置とすることができる。
【0057】
また、燃圧は燃料ポンプ33の吐出量の設定により調整するようになっているが、例えば、デリバリパイプ32内の燃料の一部を開度調整可能な調圧用の弁を介して燃料タンク34にリリーフすることで、上記調圧用弁の開度に応じて所定の圧力に調整するのもよい。
【0058】
(第2実施形態)
次に本発明の第2実施形態になる直噴エンジン制御装置について説明する。第1実施形態においてエンジンコントロールコンピュータにおける制御ソフトウェアを別のものに代えたもので、ハード構成については図1中の番号を付して説明する。
【0059】
図5は本実施形態におけるエンジンコントロールコンピュータ5における燃料噴射制御および吸気制御を示すもので、電源投入により処理が開始され、図示しないイニシャル制御が第1実施形態と同様に実行された後、先ずステップS201でセンサ類61〜64信号等の運転状態検出信号を読み込み、続いてステップS202で第1実施形態と同様に(ステップS103参照)加速判定を行う。
【0060】
ステップS202にて加速状態と判定された場合は強制的に圧縮行程噴射モードによる成層燃焼と決定する(ステップS203)。
【0061】
ステップS204では燃料噴射量Q、噴射時期T、燃圧P、基本スロットル開度ThBを算出する。ここでの算出は、第1実施形態のステップS102における基本燃料噴射量QB 、基本噴射時期TB 、基本燃圧PB 、基本スロットル開度ThBの算出と同様である。
【0062】
ステップS205では、スロットル開度の補正量Thc' を算出する。ここで、スロットル開度補正量Thc' はステップS204にて算出された噴射量Qおよびエンジン回転数NEに対して与えられ、上記燃料噴射量Qが燃焼可能なリーン限界までスロットル開度が開側補正される。後述する膨張行程において追加して噴射される燃料の燃焼に十分な量の空気を供するためである。
【0063】
ステップS206は膨張行程噴射指令手段としての手順で、膨張行程噴射の条件すなわち燃料噴射量Q2 および噴射時期T2 を設定する。膨張行程噴射は、膨張行程において燃料を噴射し、圧縮行程噴射により噴射された燃料による主燃焼の火炎を火種として再度燃焼を発生させるための燃料噴射であり、燃料噴射量Q2 および噴射時期T2 はエンジン回転数NEと圧縮行程噴射量Qを入力とする二次元マップにしたがい算出する。ここで、燃料噴射量Q2 は、補正後のスロットル開度(ステップS205)に対応した増加した筒内吸入空気量を考慮して、排気通路22から排出される排気ガスからスモーク発生を回避し得る上限量となるようにするのが望ましい。また、噴射時期T2 は主燃焼の火炎を火種とすることが可能な上記主燃焼が継続中の時期であってエンジン出力に寄与しない燃焼となるように設定する。
【0064】
ステップS207では、上記スロットル開度に補正量Thc' を加算し最終スロットル開度として出力する。
【0065】
ステップS202にて加速状態でないと判定された場合は、運転状態に応じて圧縮行程噴射モードによる成層燃焼か吸気行程噴射モードによる均質燃焼のいずれかを選択する(ステップS208)。加速状態でない場合の制御は第1実施形態の定常燃焼と同様である。
【0066】
以上の制御により、加速時には成層燃焼としかつ燃焼可能なリーン限界まで筒内吸入空気量を増大することで、圧縮工程の希薄燃焼においてエンジン出力を確保しつつ、十分な量の空気を残存させる。さらに圧縮工程での主燃焼に引き続き、筒内に空気が残存する状態にて、膨張行程噴射による燃料により燃焼を継続することで排気温度を上昇させる。しかして、ターボ過給器204への入力エネルギー上昇によりターボ回転の立ち上がりを向上させ、ターボラグ時間を短縮することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の直噴エンジン制御装置を付設した直噴エンジンの要部の構成を示す図である。
【図2】上記直噴エンジン制御装置における制御内容を示すフローチャートである。
【図3】上記直噴エンジン制御装置における制御内容を示す第1のデータマップである。
【図4】(A),(B),(C)は上記直噴エンジン制御装置における制御内容を示す第2、第3、第4のデータマップである。
【図5】本発明の第2の直噴エンジン制御装置における制御内容を示すフローチャートである。
【符号の説明】
100 燃焼室
21 吸気通路
22 排気通路
201 吸気バルブ
202 排気バルブ
203 サージタンク
204 ターボ過給器
205 スロットルバルブ
31 インジェクタ
5 エンジンコントロールコンピュータ
61 アクセル
62 クランク角センサ
63 冷却水温センサ
64 吸気圧センサ
Claims (5)
- ターボ過給器を有し燃焼室内にインジェクタから燃料を直接噴射して点火プラグにより燃料と空気の混合気に着火する直噴エンジンに付設され該直噴エンジンの運転状態に基づいて燃料噴射制御および吸気制御を含む直噴エンジン各部の制御を行い、圧縮行程に燃料噴射を行う圧縮行程噴射モードを設定可能な直噴エンジン制御装置であって、燃焼室の直上流位置で吸気通路に設けられ吸気圧を検出する吸気圧センサと、直噴エンジンの加速度を検出する加速度検出手段と、圧縮行程噴射モードによる成層燃焼が選択されている時に上記加速度が予め設定した所定値を上回ると燃料噴射の噴射時期を上記吸気圧に基づいて補正せしめる噴射時期補正手段とを具備せしめたことを特徴とする直噴エンジン制御装置。
- 請求項1記載の直噴エンジン制御装置において、上記噴射時期補正手段は、上記吸気圧に基づいて算出される筒内吸入空気量が小さいほど上記噴射時期を遅角するように設定した直噴エンジン制御装置。
- ターボ過給器を有し燃焼室内にインジェクタから燃料を直接噴射して点火プラグにより燃料と空気の混合気に着火する直噴エンジンに付設され該直噴エンジンの運転状態に基づいて燃料噴射制御および吸気制御を含む直噴エンジン各部の制御を行い、圧縮行程に燃料噴射を行う圧縮行程噴射モードを設定可能な直噴エンジン制御装置であって、燃焼室の直上流位置で吸気通路に設けられ吸気圧を検出する吸気圧センサと、直噴エンジンの加速度を検出する加速度検出手段と、圧縮行程噴射モードによる成層燃焼が選択されている時に上記加速度が予め設定した所定値を上回ると燃料噴射の燃圧を上記吸気圧に基づいて補正せしめる燃圧補正手段とを具備せしめたことを特徴とする直噴エンジン制御装置。
- 請求項3記載の直噴エンジン制御装置において、上記燃圧補正手段は、上記吸気圧に基づいて算出される筒内吸入空気量が小さいほど上記燃圧を低圧とするように設定した直噴エンジン制御装置。
- 請求項1ないし4いずれか記載の直噴エンジン制御装置において、上記加速度が予め設定した所定値を上回るとスロットル開度を、上記吸気圧に基づいて算出される定常状態値からの過給遅れ量が大きいほど開側に補正せしめるスロットル開度補正手段を具備せしめた直噴エンジン制御装置。
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