JP4229371B2 - 地中空洞探査方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は高周波CSMT法により地中空洞の位置を高精度に推定する地中空洞探査方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、地表から2m以上の浅部の探査においては地中レーダーが有効とされている。しかし、この探査方法は信号の減衰が大きいので、深度10mを超えると事実上探査ができなくなるものであった。地下の空洞を探査するときにも2m〜10mが限界であった。
【0003】
電気探査方法にはこのような制限がなく、これを使用して探査することも考えられる。しかし、電気探査方法は深度が深くなると水平分解能が低下する傾向がある。例えば、地下の状態を推定する有力な手法として、電気比抵抗を測定してそのコントラストを測定する比抵抗調査法がある。中でも、直流比抵抗法を使用した高密度電気探査法(比抵抗影像法)がもっとも一般的で普及している。この直流比抵抗法は、探査深度を深くするとき電極間隔を広げる必要があり、これによって水平分解能が低下してしまう。しかも、測定時の作業負担が大きく、探査費用も嵩むものであった。
【0004】
また、このような比抵抗調査法の一種である電磁探査法にMT法(地磁気地電流探査)と可聴領域(A)でコントロール(C)された電磁波を発信源(S;ソース)から発信し測定するCSAMT法があるが、これらは周波数を変化させて深部を探査するため電極間隔を狭く保て、測定点が信号源から十分離れている場合に電磁場を平面波とみなして測定するため、条件を満たせば比較的高い精度が期待できる。電磁波を利用するため作業負担、費用に関しても優れている。
【0005】
このうち、MT法は地球磁気圏や雷放電により発生する自然電磁場の10−3Hz〜250Hzの周波数を測定するものであり、自然電磁場を利用して地下の比抵抗構造を分析するため、データが得られなかったり、ノイズに弱く、このような意味で精度が高いとはいえなかった。
【0006】
これに対して、人工信号源からの電磁波を測定するCSAMT法はノイズに強く、測定費用も安価であり、周波数を変化させて探査するので電気探査、直流比抵抗法と比較して深部における水平分解能が高いという利点を有している。しかし、低周波数域ではニアフィールド効果を受け易いという欠点も有している。このニアフィールド効果は、このような低周波域においては平面波の仮定が崩れて見掛比抵抗が増加し、直流電界が強く、測定点直下の正確な比抵抗や位相を得るのが難しくなるものである。
【0007】
このニアフィールド効果を減らす1つの手段として、従来、水平磁気双極子アンテナが採用されてきた。しかし、これによってCSAMT法に伴うニアフィールド効果が根本的に解消されるようなものではない。また、深度10m〜100mの浅部に存在する高比抵抗の空洞を探査するのは、高周波情報を利用していない従来のCSAMT法では事実上困難と考えられてきた。
【0008】
そこでニアフィールドの問題に対しては、CSMT法の特徴を活かしてニアフィールド効果を除く方法が提案された(特許文献1参照)。これは、CSMT法による探査とMT法による探査を重複して行い、CSMT法によって得たデータのうち、ニアフィールド効果が発生する周波数領域を、MT法によるデータによって置き換えて地下構造を解析するものである。しかしながら、この方法ではMT法のノイズに弱いという欠点はそのまま残るものであり、また、数百〜数千mの大深度の調査に適応されるものであるため、深度10m〜100mの浅部の調査にCSAMT法は利用されていなかった。
【0009】
そこで本発明者らは、CSMT法の水平分解能が良いという特徴を活かして深度100mまでの浅部を探査するため、高周波CSMT法による探査装置を提案した(非特許文献1参照)。1kHz〜100kHz(16測点)で測定を行うものである。アンテナは1〜10kHzの低周波と、10kHz〜100kHzの高周波の2帯域で異なったループアンテナを使っている。高周波を用いることにより、従来のCSMT法と比較して、(1)装置、とくに送信部が小型、軽量化され、(2)探査時間が1周波数について10秒、1測点について160秒と、大幅な短縮が可能であり、(3)水平方向の分解能が高く、操作性もよく、地形の制約を受けることが少なく、探査費用が低減できるものであった。そして、非特許文献1で提案した探査装置で分析した比抵抗構造は、高密度電気探査法とほぼ同じになるという結果を得ている。
【0010】
【特許文献1】
特開平5−323038号公報
【非特許文献1】
半田,外3名,「高周波CSMT装置の開発」,物理探査,物理探査学会,55巻,3号,p.199−206
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
以上説明したように、従来のCSMT法は低周波数域ではニアフィールド効果を受け易いという問題を有していた。ニアフィールド領域では、直流電界が強くなり、その結果、見掛比抵抗(以下、比抵抗)が増加し、解析による測定点直下の「真の比抵抗」の算出ができなくなる。このため、従来は如何にニアフィールド効果を低減させるかが、探査性能の向上に重要と考えられていた。
【0012】
図12は従来から、ニアフィールド効果が少ないので多く使用されてきた水平磁気双極子アンテナを使用したCSMT法による比抵抗と位相の測定図である。水平磁気双極子アンテナを使用したCSMT法によって空洞探査した場合の事例を示す。この事例では、同じ発信地点で水平磁気双極子アンテナを使用していることから、ニアフィールド効果は垂直磁場双極子アンテナに比べ少ないと考えてよい。比抵抗に関しては図12に示すように、周波数1.4kHz〜97kHzで10Ω・m以下で変化に乏しく、13kHzで僅かに空洞部で高比抵抗となっているに過ぎない。同様に、位相に関しても図12に示すように、周波数1.4kHz〜45kHzでは変化の乏しい位相60°〜80°を示すだけであり、周波数45kHz〜97kHzの範囲でも空洞を明確に示唆するような情報を含まないものである。このように、比抵抗および位相の地盤応答だけでは、高周波CSMT探査機を用いても空洞を明確に識別できない。
【0013】
また、非特許文献1で説明した本発明者らの高周波CSMT法による探査装置は、深さ100m以下の浅部探査であるためにループアンテナを採用し、PLL回路を使用してフーリエ変換するが、参照信号と送信信号との差で出力が変動してしまい、高周波分解能が悪く、高S/N比を実現するのが難しいものであった。そして高密度電気探査法と同程度の探査が可能になるという比較結果は得られたが、上述の出力変動でS/N比が上がらず、分析した比抵抗構造は粗くて、空洞位置を正確に予測することなど期待できないものであった。
【0014】
空気が充満する空洞においては地盤より際立って比抵抗が大きくなるが、非特許文献1は、こうした空洞の場合について未研究で、空洞の比抵抗が示す挙動、位相が示す挙動のいずれもがまったく未知であった。そして、こうした空洞様反応が得られたとしても、空洞位置をどのように分析し、判定するのか、その手法はまったく未解決であった。
【0016】
そこで本発明は、浅部の空洞の位置を精度よく安価に探査することができる地中空洞探査方法を提供することを目的とする。
【0017】
【課題を解決するための手段】
以上説明した課題を解決するために本発明の地中空洞探査方法は、地中探査のため高周波信号を電磁波として送信するとともに、一対の地電流電極で測線上の測点の電位差を検出するとともに該測線と直交する方向に配設されたインダクションコイルにより該測点の磁場を測定し、該測点における比抵抗と位相を演算する高周波CSMT法による地中空洞探査方法であって、空洞の所在を示す空洞様反応をニアフィールド効果によって増幅するための垂直磁気双極子アンテナを空洞から所定距離おいた位置に配置して高周波信号を送信し、探査領域における周波数と測点に関する等比抵抗データを取得して、該等比抵抗データの中からニアフィールド効果により増幅された空洞様反応領域を抽出し、該空洞様反応領域の測線方向幅の中央を空洞中心として推定することを特徴とする。
【0018】
本発明は、この構成により、ニアフィールド効果を避けるのではなく、これを利用し、ニアフィールド効果による空洞様反応を増幅させて可視化することによって、浅部の空洞の位置を精度よく安価に且つ自動的に探査することができる。
【0019】
【発明の実施の形態】
本発明の第1の発明は、地中探査のため高周波信号を電磁波として送信するとともに、一対の地電流電極で測線上の測点の電位差を検出するとともに該測線と直交する方向に配設されたインダクションコイルにより該測点の磁場を測定し、該測点における比抵抗と位相を演算する高周波CSMT法による地中空洞探査方法であって、空洞の所在を示す空洞様反応をニアフィールド効果によって増幅するための垂直磁気双極子アンテナを空洞から所定距離おいた位置に配置して高周波信号を送信し、探査領域における周波数と測点に関する等比抵抗データを取得して、該等比抵抗データの中からニアフィールド効果により増幅された空洞様反応領域を抽出し、該空洞様反応領域の測線方向幅の中央を空洞中心として推定することを特徴とする地中空洞探査方法であり、高周波の電磁波を送信する高周波CSMT法による探査を基本とし、これまでの探査手法では測定精度が悪かった地下10m以深(10m〜100m)を含む地下1m〜100m程度の浅部から「大深度地下の公共的使用に関する特別措置法」の定める大深度地下の空洞位置を検出でき、垂直磁気双極子アンテナを使用してニアフィールド効果により空洞の所在を示す空洞様反応を増幅することによって比抵抗における空洞様反応を強調でき、高S/N比で、精度よく安価に探査することができる。空洞様反応領域の中から、ニアフィールド効果でコントラストが強調された等比抵抗データの空洞様反応を抽出するから、空洞中心の判別が正確になる。
【0028】
本発明の第の発明は、第1の発明に従属する発明であって、探査領域における周波数と測点に関する等比抵抗データを取得して、該空洞様反応領域の測線方向幅の中央を空洞中心として推定するのに代えて、探査領域における周波数と測点に関する等位相データの中から空洞様反応のピークを含む低位相の空洞様反応領域を抽出し、この空洞様反応領域に対応する等比抵抗データの中から比抵抗のピークを抽出して空洞中心を推定することを特徴とする地中空洞探査方法であり、等位相データからピークを抽出して空洞様反応領域の存在を確認し、さらにニアフィールド効果でコントラストが強調された等比抵抗データの周縁効果と中心反応示す空洞様反応のピークを抽出することにより、空洞中心の判別がさらに正確になる。
【0032】
本発明の第の発明は、第1又は第2の発明に従属する発明であって、測線の両側から電磁波を送信し、該測線の直下にある空洞と測線の直下に無い空洞とをシャドウ効果による空洞様反応に近似した比抵抗または位相異常の有無から判別することを特徴とする地中空洞探査方法であり側線の直下の空洞と、直下にない空洞とを判別できる。
【0037】
(実施の形態1)
以下、本発明の実施の形態1における地中空洞探査方法について説明する。実施の形態1は、空洞上に測線が空洞に対し、ほぼ直交方向に設置されている場合に空洞位置を把握するものである。なお、実施の形態1の地中空洞探査装置は、測点間距離等の測定条件を変更し、また送受信方向を選択して、繰り返し測定を行うことにより、この測定条件を満たす状態を実現し、実際の測定を行うものである。図1は本発明の実施の形態1における地中空洞探査方法を行うための地中空洞探査装置の構成図、図2(a)は本発明の実施の形態1における地中空洞探査方法を行うための地中空洞探査装置の測線と送信部のX−Y平面配置図、図2(b)は(a)の地中空洞探査方法を行うための地中空洞探査装置の測線とセンサと地下空洞のX−Y−Z配置図、図2(c)は(a)の地中空洞探査装置における空洞様反応の出現位置の説明図、図3(a)は比抵抗モデルの説明図、図3(b)は(a)の比抵抗の説明図、図3(c)は(a)の位相の説明図、図4は本発明の実施の形態1における地中空洞探査方法を行うための地中空洞探査装置が空洞位置に対して測定した見掛比抵抗と位相の測定図である。
【0038】
図1において、1は地中空洞探査装置から信号波を送信するために発振を行う発振部、2は発振部1で発振した100Hzの基本周波数が入力されると1kHz〜100kHzの周波数帯を対数的に16分割した周波数を得るため基本周波数の逓倍を行う周波数逓倍部、2aは周波数逓倍部2からの信号で±13Vの電圧で矩形波信号を形成するスイッチング部、3は矩形波信号を増幅するドライバ部、4aはループコイルとコンデンサで共振回路を構成した後述するニアフィールド効果を増幅するための高周波アンテナ、4bは同じく、ループコイルとコンデンサで共振回路を構成したニアフィールド効果を増幅するための低周波アンテナである。高周波アンテナ4aは97kHz,73kHz,55kHz,42kHz,31kHz,24kHz,18kHz,13kHzの8つの周波数を送信し、低周波アンテナ4bは10kHz,7.6kHz,5.8kHz,4.3kHz,3.3kHz,2.5kHz,1.8kHz,1.4kHzの8つの周波数を送信する。そして、この高周波アンテナ4aと低周波アンテナ4bはニアフィールド効果が強く現われる特性をもつ垂直磁気双極子アンテナを構成するものである。なお、周波数がこれらの周波数に限られないのは当然である。
【0039】
5は中央処理装置(以下、CPU)等から構成され、制御プログラムを読み込んで機能実現手段として機能を実現する地中空洞探査装置の送信側制御部である。6は16の周波数の信号波を10秒ごとに切り替えるための計時手段、7は制御プログラム等を記憶した記憶部、8は発振部1が発振した100Hzの基本周波数の信号を地中空洞探査装置の受信側に送って同期をとるための光ファイバ、8aは発振部1の電気信号を光信号に変換する信号変換部、8bは光信号を電気信号に変化する信号変換部、9は発振部1と信号変換部8aから構成される地中空洞探査装置の同期部である。
【0040】
11aは共振周波数97kHzのインダクションコイルHから構成される高周波用磁気センサ、11bは共振周波数9.7kHzのインダクションコイルLから構成される低周波用磁気センサ、12a,12bはステンレス製の地電流電極、13a,13bはプリアンプ、14a,14bは入力インピーダンスを調整するバッファアンプである。15,16はバンドパスフィルタ、17,18は増幅部、19はフーリエ変換部、19aはPLL回路を使って余弦波成分と正弦波成分でフーリエ変換する高周波変換部、19aはPLL回路を使って余弦波成分と正弦波成分でフーリエ変換する低周波変換部、20はA/D変換部である。
【0041】
21はCPU等から構成され、制御プログラムを読み込んで機能実現手段として演算機能,システム制御機能等を実現する地中空洞探査装置の制御部、22はデジタル化された測定値から各演算を行う機能実現手段としての演算手段、23は地中空洞探査装置のシステム制御を行う機能実現手段としてのシステム制御手段である。システム制御手段23は高周波用磁気センサ11a,低周波用磁気センサ11bの切り替え、増幅部17,18のゲインやバンドパスフィルタ15,16の中心周波数の切り替え等を行う。
【0042】
24はフーリエ変換部19からの出力を使って比抵抗を演算する比抵抗算出手段、25はフーリエ変換部19の出力から位相を演算する位相算出手段、26は比抵抗構造を解析するためボスティック法等による1次元解析断面の演算を行う解析手段である。後述するニアフィールド効果を避けて解析するため、高周波側のデータだけで解析するのも好適である。1次元インバージョン解析では深度誤差が大きい場合、空洞上部の地盤の緩みや崩壊、あるいは空洞とは無関係の地質要因による異常値を示す可能性があるが、解析手段26でさらに2次元インバージョンを行うことにより、空洞位置の解析精度を上げることができる。
【0043】
27は位相算出手段25が算出した周波数と測点の等位相図(同一位相の周波数と測点を示すもので、本発明の等位相データ)に基づいて、低位相の空洞様反応領域から中心反応と周縁効果を示す一対の空洞様反応のピークを抽出し、また、比抵抗算出手段24によって作成された比抵抗の等比抵抗図(同一比抵抗の周波数と測点を示すもので、本発明の等比抵抗データ)に基づいて、高比抵抗の空洞様反応領域から中心反応と周縁効果を示す空洞様反応のピークを抽出し、このピークから地下空洞の位置を算出する空洞位置算出手段である。この空洞様反応領域と、それに含まれる中心反応と周縁効果の詳細については後述する。
【0044】
実施の形態1の空洞位置算出手段27は、位相に関する周縁効果のピークをチェックし、さらに高比抵抗の空洞様反応領域から中心反応と周縁効果を示す空洞様反応のピークを抽出して空洞中心を推定する。このとき、等位相図で周縁効果を示す一対のピークからその中央位置を計算し、この中央位置を簡易に空洞の中心位置として推定することも可能である。なお、中心反応と周縁効果を示す空洞様反応のピークは最適な測定条件下において整った形態で出現するが(後述の図2(c)参照)、状況によっては顕著には出現しない場合もある。このため実施の形態1の地中空洞探査装置においては、地電流電極間の距離を大きい間隔から徐々に小さくして測定し、また受信方向、その距離を変更し、あるいはその他の測定条件を変更して、繰り返し測定を行うことにより最適な測定条件を実現している。最適条件を満たしているか否かは、中心反応と周縁効果のピークが整ったパターンで得られたことで判断する。
【0045】
以上説明した実施の形態1の地中空洞探査装置は、基本的に、高周波アンテナ4a、低周波アンテナ4bからそれぞれ送信信号を送信する送信機部と、高周波用磁気センサ11aと低周波用磁気センサ11bで受信する受信機部とから構成される。なお、実施の形態2で説明するように送信機部は受信機部と同期をとって2台、あるいは複数設けることができる。
【0046】
次に、実施の形態1の地中空洞探査装置と地中空洞探査方法で空洞位置を決定できる原理を説明する。まず、実施の形態1の地中空洞探査装置で探査を行うときの測線の設け方、測定の方法について説明する。本発明が探査する典型的な場合は、地下に空洞が存在することが予測される調査地で、どこに空洞があるかを探査する場合等であり、測定条件を変更しての測定はそれほど面倒になることはない。なお、空気が充満した空洞を探査する事例で説明するが、地下水が溜まった空洞や土の陥没で埋まった空洞は、空洞に溜まった地下水や充填土と周辺地質の比抵抗の違いによって探査するため、空洞様反応の感度が低くなる。
【0047】
実施の形態1では、地下空洞に対して図2(a)(b)に示すように測線と送信機A、地電流電極12a,12b、高周波用磁気センサ11a,低周波用磁気センサ11bのインダクションコイルH,Lを配置して測定を行う。想定される地下の空洞に直交すると思われる方向(Y方向)に測線を設置し、測線の側方(X方向)に50m〜100m測線から離した地点に送信機Aを置く。また、受信機の地電流電極12a,12bを測線方向に,インダクションコイルH,Lを測線の直交方向に設置する。地電流電極12a,12bの間隔は、想定される空洞幅の1/2〜3/4程度とする。測定間隔は、地電流電極12a,12bの間隔と同一か、短くする。なお、上述したように、中心反応と周縁効果のピークが整った形で得られたときが最も適切な測定条件のときであるが、この状態は地電流電極12a,12bと空洞間隔を上記の通り調整することで実現できる。1測点に付き送信機Aからの信号を測定する。
【0048】
上述のように測線とインダクションコイルを配置したときは、図2(a)(b)のように空洞は電場方向に対して直交する方向(磁場方向)となる。このような電場方向に対して直交する方向または高角度で斜交する状態(以下、TMモードという)においては、空洞と地盤との境界では比抵抗が不連続となり、この不連続点で比抵抗が極端な変化を示す。なお、これが逆のものがTEモードである。図3(a)に示した比抵抗モデルは、比抵抗ρ1=10Ωmの媒体と比抵抗ρ2=100Ωmの媒体が接しているものである。図3(b)(c)の×点は、比抵抗ρ1=10Ωmの媒体と比抵抗ρ2=100Ωmの媒体が接しているときの、TMモードにおける境界での比抵抗、位相の変化を示している。○点は、空洞を電場方向と平行に向けた場合の比抵抗、位相の変化である。TMモードにおいては2つの媒体の境界面で比抵抗が鋭敏な変化をし、位相は高比抵抗領域に入ると低下している。
【0049】
これを地中の空洞の場合で説明すると、図2(a)(c)に示すように、TMモードの空洞と地盤の境界において比抵抗は地盤側では非常に小さく空洞側で非常に大きくなり、コントラストが際立つものとなる。同様に位相においても、地盤側境界で大きなピーク値をとって空洞では低位相を示すことを示す。
【0050】
しかし、実際の空洞においては少し複雑になる。すなわち、図3の単純な2次元構造の場合と異なり、図2(c)に示すように空洞の直上の測点で比抵抗は高く、位相は低くなるが、空洞側壁を跨がない最も空洞に近い測点でも同様に、比抵抗は高く、位相は低くなる。そして、この高比抵抗および低位相の異常値は空洞から遠ざかるほど小さくなるこの現象は、現場試験と数値解析によるモデル実験で確認することができ、TMモードにおける空洞に対するMT応答の特徴として定義できるものである。そして図2(c)の状態は測線が空洞上を直交して交差した場合の測点、地電流電極間隔および空洞位置に関係する空洞様反応のピークパターンで、これらの位置関係が悪いとピークが隠れてしまうことがある。
【0051】
このMT応答の特徴を挙げると、(1)空洞直上は高比抵抗と低位相のピークとなる。本明細書においてはこれを「中心反応」という。また、(2)空洞側壁跨がない最も空洞に近い測点は高比抵抗と低位相のピークとなる。本明細書においてはこれを「周縁効果」という。(3)周縁効果は空洞から離れるほど小さくなる。本明細書においては「中心反応」「周縁効果」を一括して「空洞様反応」という。とくに、中心反応と空洞両翼に生じる一対の周縁効果が生じている範囲を本明細書においては「空洞様反応域」と定義する。ここで、「様」を付加したのは実際の空洞調査において,この特徴を持ったMT応答が現れたとしても、直ちに空洞と断定できないので、「空洞あるいは空洞に似た反応」のニュアンスを残すためである。
【0052】
そこで、本発明の地中空洞探査装置と地中空洞探査方法の基本となるこの空洞様反応の出現の仕方を、実測した等位相図と等比抵抗図で説明する。図4は、地中空洞Aが測点5、地中空洞Bが測点11に存在するもので、図12と同じ地中空洞A,地中空洞Bを図2(a)(b)(c)に示すような測点で同一の条件で測定したものである。後述の実施例1,2と同一の測定対象で測定したものである。空洞の天井までの深度は13.7m、空洞の高さは2.2mで、この比を意味する土被比は約6.3である。
【0053】
図4において、測点No.3〜No.7が空洞Aに対する空洞様反応領域を示す。測点No.10〜No.13が空洞Bに対する空洞様反応を示している。空洞様反応領域は、一対の低位相のピーク(空洞Aでは測点No.3とNo.7、空洞Bでは測点No.10とNo.13)と、それに挟まれた低位相の測点(空洞Aでは測点No.5、空洞Bでは測点No.11)の領域として現れる。この一対の低位相のピークが図2(c)の周縁効果の位置を示し、周縁効果に挟まれた低位相のピークが中心反応である。なお、空洞による空洞様反応では、中心反応、周縁効果のピークはほぼ等間隔に位置している。No.3、No.5、No.7の3測点間はほぼ等間隔であり、中央部の測点5、測点11に空洞が存在すると推定できる。
【0054】
また、空洞様反応の高位相のピークは比抵抗図では不明瞭で確認し辛いので、空洞別の空洞様反応領域を見定めるためには、これが明瞭に現われる等位相図を利用するのが好適である。
【0055】
次に、空洞A,Bの比抵抗の測定を行うと図4のような高比抵抗域が現れ、これが比抵抗における空洞様領域である。TMモードでは、通常は高比抵抗のピークは空洞A,Bの直上及び空洞A,Bの両側方に帯状に現れる。各ピークが、比抵抗における中心反応と周縁効果を示す。
【0056】
ところで、上述したように位相では低位相、および比抵抗では高比抵抗の中でピークを示す空洞様反応は、地電流電極と空洞の位置関係や、間隔及び幅寸法によって出現しない場合がある。例えば図4の空洞A,Bはいずれも空洞直上の測点No.5とNo.11の高比抵抗のピーク値が欠落している。同様に、空洞両側方の周縁効果である低位相の一対のピークや、高比抵抗域の一対のピークの両者またはその一方が欠落する場合もある。
【0057】
こうした場合、等位相図および等比抵抗図で空洞様反応のピークの出方が不明瞭であり、空洞の位置を正確に把握する必要がある場合には、TMモード実現のため、地電流電極間隔,測点間隔,測点位置,送受信距離,受信方向等の測定条件を適宜調整して、空洞様反応における中心反応と周縁効果を明確にすればよい。両側に周縁効果が現れ、中央に中心反応が現れたときは、側線が空洞の直上で概ね直交して測定している状態であり、周縁効果の内側の低位相領域との境目付近が空洞内表面の位置を示すものと推定される。また、このとき空洞幅は、経験的に地電流電極12a,12bの間隔の1/2〜3/4程度であり、地電流電極12a,12bの間隔に基づいて空洞幅の大きさも推定できる。そして、空洞中心を簡易に判断する場合においては、周縁効果を示す一対のピーク間の中央位置を直ちに空洞中心とすればよい。
【0058】
このように本発明の地中空洞探査装置と地中空洞探査方法は、空洞様反応を利用し、測定条件を繰り返し変えて測定することで図2(c)に示すようなパターンを実現し、この状態で測定をすることにより空洞位置を推定するものである。なお、浅部の地下の空洞探査においては、目的の空洞の大きさ等の情報が別途得られることが多く、この繰り返し調査が面倒になる場合は多くない。
【0059】
ところで実施の形態1においては、空洞中心の位置を精度よく推定するために、等位相図と等比抵抗図の両方を組み合わせて利用する。すなわち、まず、等位相図に現れた周縁効果を示す一対のピーク等を見つけて、これで空洞様反応の存在と位置に対する第1のチェックを行い、これを第2のチェックで確認するため、このピークと対応する測点とその内側領域の比抵抗のピークを抽出し、そのピークが3個であれば周縁効果を示すピークのほかに空洞直上の中心反応のピークが出現しているとして、中心反応のピークの位置を空洞中心と予測する。
【0060】
なお、測定条件を繰り返し変えて測定しているときには、等位相図で1対のピークが得られなかったり、等位相図での一対のピークの内側に属する測点領域に、比抵抗のピーク値が1個しか現れず、図2(c)のパターンを実現できない場合もある。このような場合は適宜地電流電極間隔を調整する等、測定条件を変えて再度測定する。測定条件を変えても図2(c)のような適切な状態が得られない場合、例えばピークが4個以上現れたような場合には測定不能と判断する。
【0061】
以上説明したように、本発明の実施の形態1の地中空洞探査装置と地中空洞探査方法によれば空洞位置を推定できるが、それを支える構成について説明する。高周波CSMT法による地中空洞探査方法は、ニアフィールド効果を受け易いため、従来から水平磁気双極子アンテナを使用することが多かった。その理由は、ニアフィールド効果は電磁波の透過深度と送受信間距離の関数であって、垂直磁気双極子アンテナではニアフィールド効果が、透過深度が送受信間距離の約1/5で現れ、水平磁気双極子アンテナでは透過深度が送受信間距離の約1/3で現れるからである。なお、水平磁気双極子アンテナはループアンテナを地表に垂直に設置し、磁場が地表に対して水平方向に形成されるアンテナであり、垂直磁気双極子アンテナは、ループアンテナを地表に水平に設置し、磁場が地表に対して垂直方向に形成されるアンテナである。
【0062】
しかし、実施の形態1の地中空洞探査装置では、むしろニアフィールド効果を利用するために、敢えてニアフィールド効果が強く現われる垂直磁気双極子アンテナ等のアンテナを採用している。そしてアンテナはニアフィールド効果を発生し易いそれぞれ固有の範囲内に設置される。垂直磁気双極子アンテナであれば、上述したように、空洞の位置からおおむね想定される空洞の深度の3倍以上、5倍未満の距離に設置すればよい。
【0063】
このニアフィールド効果は、低周波域で比抵抗や位相の測定値を増加させるという欠点があるため、従来から測定値を不明確にするものとして忌み嫌われているが、本発明でこれを利用するのは以下の理由による。すなわち、空洞部の比抵抗は無限大であり、空洞が無い所に比べニアフィールド効果が強いため、ニアフィールド領域で測定を行うと、空洞の有無で、ニアフィールド効果の強弱が生じ、その結果、比抵抗コントラストや位相コントラストが増幅すると考えられる。このため、通常とは逆にニアフィールド効果による比抵抗コントラストや位相コントラストの増幅を利用すると、空洞様反応のピークのコントラストを際立たせ、空洞位置の抽出をより明確に行うことが可能になる。また、垂直磁場双極子アンテナは、志向性が無いことや、設置が容易で取り扱い安いという利点があることから、この探査手法のアンテナとして最適である。
【0064】
ところで、垂直磁気双極子アンテナは発信磁場の方向が受信磁場の方向に対し90°のズレがある。このため垂直磁気双極子アンテナは水平磁気双極子アンテナと比較し、電磁波強度が弱く、高S/N比が得られ難い。従って垂直磁気双極子アンテナを採用しただけでは高周波分解能、S/N比が低く、実用性のある地中空洞探査装置は得られない。そこで、本実施の形態1においては、光ファイバ8を使って同期検波を行い、送信機部と受信機部の同期をとって高周波分解能を高め、高S/N比を実現したものである。なお、垂直磁気双極子アンテナのほかにも、垂直磁気双極子アンテナと同様にニアフィールド効果を増幅できるアンテナおよびその配置であれば使用することができる。
【0065】
このように本実施の形態1においては、等比抵抗図でピークをより鋭敏に抽出するために、従来とは逆にニアフィールド効果を積極的に利用できる垂直磁気双極子アンテナを採用し、光ファイバ8を使って同期検波を行って高周波分解能を高め、高精度に空洞位置を決定するものである。
【0066】
続いて、実施の形態1の地中探査方法において、空洞中心を推定して表示する一連の判断手順について説明する。図5は本発明の実施の形態1の地中探査方法で空洞位置を推定する判断手順のフローチャート、図6は本発明の実施の形態1の地中空洞探査装置と地中探査方法で空洞位置を推定して表示する動作のフローチャートである。図5において、図2(a)に示すように測線と送受信機部を配置して各測点の測定を行う。フーリエ変換したデータを入力して、1kHz〜100kHzの複数の周波数で、測点と比抵抗を計算するとともに測点と位相を計算し、これによって所定幅ごとに比抵抗値を分けて等高線を描いた等比抵抗図、所定幅ごとに位相を分けて等高線を描いた等位相図、さらに、1次元解析断面の演算を行い、比抵抗断面図を作成する(step1)。
【0067】
次いで、等位相図に現れる周縁効果を示す一対のピークを抽出できるか否かをチェックする(step2)。一対のピークを抽出できない場合は、等位相図の低位相領域がほぼ対称か否かをチェックする(step3)。step3において低位相領域が対称の場合、おおむね対称軸が空洞の中心位置となり(step4)、対称でない場合、ピークの位置が周縁効果の一方を示している(step5)。step4,5の、step2で一対のピークを抽出した場合とともに、一対のピークと対応した測点間の中心位置を算出すればよい(step7)。step1〜7において、等位相図だけでもデータが揃えば空洞中心を推定できることが分かる。
【0068】
実施の形態1においては、さらに比抵抗図によってより正確な空洞位置を算出するため、位相図における一対のピークを示す測点間の領域で比抵抗のピークを抽出する(step8)。step8において、ピークが存在して、その数が3個以下であるか否かをチェックし(step9)、ピークがないか4個以上のときはstep21へ進み、ピークが2個かどうかをチェックする(step10)。ピーク間の内側の地電流電極の電極間隔が空洞幅より大きいかどうかを判断し(step11)、大きい場合は2個のピークの中間の位置を空洞中心とし(step12)、電極間隔が空洞幅より小さい場合、2個のうち右側のピークが位相図における一対のピークの中央付近に存在するかどうかをチェックする(step13)。
【0069】
すなわち、電極間隔と空洞幅の関係で、2個のピークが出現した場合は、周縁効果を示す一対のピークだけが現れた場合と、比抵抗のピークが1本しか現れない場合の変形で、空洞直上の比抵抗のピークと周縁効果の一方が現れた場合の2つがあり、step12で前者の場合を判定し、step13で後者の場合を判定する。step13において、右側のピークの位置が等位相図の一対のピークの中央付近に存在する場合、右側のピークの位置を空洞中心とし(step14)、右側のピークの位置が等位相図の一対のピークの中央付近に存在しない場合、左側のピークの位置を空洞中心とする(step15)。
【0070】
step10において、2個のピークでない場合、3個のピークが存在するか否かをチェックし(step16)、ピークが1個の場合には、step7の中央位置と一致しているかを確認する(step17)。一致しない場合はstep21へ進み、step7の中央位置を空洞中心とするか、エラーとして終了する。step17において、step7の中央位置と一致している場合は、このピーク位置が中心効果を示すものとして、これを空洞中心とする(step19)。また、step16において、ピークが3個の場合は、中央のピークの位置を空洞中心とする(step18)。
【0071】
step12,14,15,18,19で空洞中心が定まると、この空洞中心が同一位置または大きくずれても隣接する測点にない場合(所定の範囲内の場合)は、1次元解析を行って(step22)、空洞の想定される深度と一致するか否かをチェックする(step23)。空洞の想定深度と一致しているときは空洞との推定が確定でき(step24)、終了する。step23において、深度が一致しない場合は別要因による反応があったものとして(step25)終了する。
【0072】
続いて、図6に基づいて実施の形態1の地中空洞探査装置で空洞位置を推定して表示する動作について説明する。地電流電極間の距離を大きい間隔から徐々に小さくするなどし、測定条件を変えては、以下のstep31〜33を繰返し、等位相図で適切なピークが得られたかをチェックし、等比抵抗図で3個のピークを求める。
【0073】
step31において、フーリエ変換したデータを入力されると、演算手段22の比抵抗算出手段24と位相算出手段25が、1kHz〜100kHzの複数の周波数で、測点と比抵抗を計算するとともに測点と位相を計算し、これによって所定幅ごとに比抵抗値を分けて等高線を描いた等比抵抗図、所定幅ごとに位相を分けて等高線を描いた等位相図を作成する。さらに、解析手段26によって1次元解析断面の演算を行い、比抵抗断面図を作成する(step31)。
【0074】
次いで、空洞位置算出手段27が等位相図のデータに基づき、空洞様反応領域を示す周縁効果の一対のピークが得られたかチェックを行う(step32)。ここで、このピークの位置の計算を容易にするため、例えば各測点ごとにすべての周波数に関する位相の総和を計算し、「測点−位相総和グラフ」を作成し、このグラフにおける低位相のピークを抽出すればよい。
【0075】
測定条件を変えたとき、地電流電極間隔が空洞幅に対して適切な場合(空洞幅が電極間隔の1/2〜3/4の場合)、空洞におけるピークは、図2(c)における左右の図のように2パターンで示され、いずれもピークが出現する。この一対の周縁効果の現れた測点の内側の地電流電極の間が空洞の存在する範囲となり、その中心が空洞の中心となる。このうち、図2(c)の左図の場合空洞中心に整った形で中心反応も現れるので、測定条件を変えてこの状態が得られるまで繰り返せばよい。このときより正確に空洞位置が推定できる。なお、実施の形態1の地中空洞探査装置では等位相図で一対のパターンを得て第1のチェックを行い、ニアフィールド効果で増幅された等比抵抗図のピークを使って第2の確認を行うから、等位相図でのピークは一対のピークを検出することで足りる。
【0076】
そして、本地中空洞探査装置においては、この「測点−位相総和グラフ」による総和とピーク値の手法が自動化に馴染むため、これを採用しているが、これに限られるものではない。なお、ピーク値は土被比と地盤の比抵抗およびニアフィールド効果による増幅率の関数で決まるので、一律に閾値を設定するのは適当とはいえない。
【0077】
さらに、位相の総和の測点に関する分布を対象として、空洞が存在する範囲となる分布形状の左右対称性をチェックしてもよい。これはピーク間の距離で判定できる。なお計算に際して、周波数として周縁効果を十分明確に示す高周波側の10kHz〜100kHzを選び、この周波数だけを対象としてピークの位置を抽出するのも好適である。
【0078】
step32において周縁効果を示す一対のピークが得られた場合、等比抵抗図のデータに基づき、3個の比抵抗のピークが適切な配置で存在するか確認する(step33)。計算を容易にするため、上述の位相と同様に、各測点ごとにすべての周波数における比抵抗の総和を計算し、ピーク値の間隔が図2(c)の2パターンの何れかに対応すればよい。なお計算に際して、ニアフィールド効果により比抵抗コントラストが増幅された低周波領域となり、周縁効果を明確に示す1kHz〜10kHzを選び、この周波数を対象としてピークの位置を抽出するのも好適である。なお、比抵抗におけるピーク値も土被比と地盤の比抵抗およびニアフィールド効果による増幅率の関数で決まるので、一律に閾値を設定するのは適当とはいえない。
【0079】
step33で抽出したピークが3個の場合、中央のピークの位置を空洞中心とし(step34)、終了する。step33において、3個以外の場合、電極間距離等の測定条件を変更し、測定条件の変更がすべて終わったか確認する(step35)。例えば、地電流電極間の距離を大きい間隔から徐々に小さくして測定している場合には、予定された測定条件の変更が終了したかを確認し、終了している場合は、測定不能である旨の表示を行ない(step36)、終了していない場合はstep31に戻って、測定を繰り返す。
【0080】
以上説明したように本発明の実施の形態1の地中空洞探査装置と地中探査方法は、空洞の水平位置を推定するために、従来の電気探査のように数値解析を行って探査するのではなく、位相と比抵抗を相対的に評価することで、簡単な構成で明確に空洞の位置を推定することができる。そして、電気比抵抗が均一な地盤や、電線や電話線等から生じる電磁波ノイズが小さいところ、ノイズとなる地下埋設物が無い測定地においては、とくに顕著な結果を得ることができる。また、空洞位置の捕捉精度、水平分解能は、測点間隔を密にすることで容易に向上させることができる。さらに、比抵抗および位相のピーク値は土被比と地盤の比抵抗およびニアフィールド効果による増幅率の関数で決まるので、深く土被り比が大きい空洞におけるピーク値の低下に対して、送受信間距離を短くすることにより、ニアフィールド効果による増幅率を上げることができる。なお、実施の形態1の地中空洞探査装置と地中探査方法は、空洞そのものを確認しているものではないので、最終確認のためのボーリング等を行うことが望まれる。
【0081】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2の地中空洞探査装置と地中探査方法は、調査地内において空洞位置の推定が困難な場合、闇雲に測線を設けるのではなく、簡便に測線を空洞上に空洞に対し、ほぼ直交方向に設置するまでの形態である。従って、実施の形態1の地中空洞探査装置と地中探査方法のいわば前提となるものである。
【0082】
CSAMT探査には、シャドウ効果という現象が知られている。これは、送受信機間に比抵抗異常がある場合に、その影が受信点の測定に影響を与える現象であり、発信位置を移動させるというシャドウ効果の排除方法が既存の研究で提案されている。本発明の実施の形態2は、シャドウ効果を排除するのでは無くこれを利用し、測線直下の空洞の有無、測線に対する未知の空洞の方向、測線と未知の空洞との距離、未知の空洞の向きを推定することで、測線を空洞上に空洞に対してほぼ直交方向に設置することができるものである。図7は本発明の実施の形態2における地中空洞探査方法を行うための地中空洞探査装置のシャドウ効果の説明図、図8は本発明の実施の形態2における地中空洞探査方法を行うための地中空洞探査装置の測線と送信部のX−Y平面配置図である。
【0083】
図7に示すように空洞調査のときのシャドウ効果は、探査測線の地下に空洞がなくても、空洞の延長上にシャドウ効果により空洞があるときと似た空洞反応が生じる。このシャドウ効果を除くために実施の形態1の地中空洞探査装置では、送信機部を測線の両翼に2箇所設けて両側から送信される電磁波を測定する。
【0084】
実施の形態2の地中空洞探査装置は、測線と2つの送信機部を図8に示すように配置する。送信機部が2箇所になった点を除き、基本的に実施の形態1と同一であるから、図1〜図5を参照し、同一符号の説明は実施の形態1に譲ってここでは省略する。
【0085】
実施の形態2においては、地下空洞に対して図8に示すように(併せて図1、図2も参照)、測線と送信機部A,B、地電流電極、高周波用磁気センサ,低周波用磁気センサのインダクションコイルを配置する。想定される地下の空洞に直交すると思われる方向(Y方向)に測線を設置し、測線の両翼(X方向)に50m〜100m測線から離した地点に送信機部A,Bを置く。また、受信機部の地電流電極を測線方向に,インダクションコイルを測線の直交方向に設置する。地電流電極の間隔は、想定される空洞幅の1/2〜3/4程度とする。測定間隔は、地電流電極の間隔と同じかより短くする。1測点に付き送信機A,Bからの信号を個別に測定する。
【0086】
実施の形態2の地中空洞探査装置は、探査測線上において空洞の延長部に高比抵抗異常が検出されるため、シャドウ効果が出た測点で、図7の周縁効果の幅方向に測定方向を回転させるものである。この回転をさせることで、最大の比抵抗値と最小の位相値が得られた方向、あるいは最小の比抵抗値と最大の位相値が得られた方向の直交方向に空洞が存在することが分かる。この未知の空洞までの距離によってシャドウ効果の広がりが異なるため、この広がりを測定することでこの空洞までの距離を推定することができる。
【0087】
ところで、測線の直下に空洞が存在することが未確定の場合、まず、送信機部A,Bごとに図4に示すような比抵抗と等位相図を作成する。送信機部A,Bの比抵抗と等位相図の両者で、空洞様反応が出た場合は測線の直下に空洞があると判断される。片方の発信機部で空洞様反応が生じた場合、シャドウ効果により空洞様反応が出た送信機と測線の間に空洞が存在する。
【0088】
次に、強いシャドウ効果が現れた測点で、測定方向を少しずつ回転させ、最大の比抵抗値と最小の位相値が得られた方向と最小の比抵抗値と最大の位相値が得られた方向を記録する。理論的に前者の方向および後者の直交方向が未知の空洞がある方向を示す。このシャドウ効果の角度測定が周縁効果に対応するピークの2箇所で行えた場合、未知空洞の横幅を推定することにより、空洞までの距離が作図より求められる。
【0089】
実施の形態2の地中空洞探査装置を使うことによって、送受信機部間の空洞の存在を推定することができ、今後の空洞調査の経費削減に大きく寄与することができる。測線をグリッド状に張り巡らせるのではなく、地中空洞の位置を推定することができる。
【0090】
【実施例】
(実施例1)
鹿児島県鹿屋市周辺のシラス台地を探査地点として選んだ。この探査地においては、防空壕が多数存在する。図9は探査地における測線と測定番号の配置図、図10(a)はNo.1測線の等比抵抗図、図10(b)はNo.1測線の等位相図、図10(c)は実測空洞の位置を表示したNo.1測線の比抵抗2次元解析断面図である。
【0091】
実施例1のNo.1測線において、空洞Aは図10(a)(b)から測点3と推定され、空洞Bは、図10(b)から選んだ測点8〜測点11の範囲のうち、図10(a)の測点9と推定される。空洞Cは、図10(b)において周縁反応のピーク位置は測点13と測点17であり、その中心を取って測点15が空洞の中心と推定されるが、図10(a)を見ると、その対称性から測点15が空洞に関係していると見ることができる。空洞の実測位置は測点14〜15でこの推定と一致する。空洞Dは、図10(b)からも分かるように一対のピーク値の一方しかないため、断定は難しい。
【0092】
しかし、実施例1探査結果はきわめて正確に空洞位置を測定しているのが分かる。
【0093】
(実施例2)
図11(a)はNo.2測線の等比抵抗図、図11(b)はNo.2測線の等位相図、図11(c)は実測空洞の位置を表示したNo.2測線の比抵抗2次元解析断面図である。
【0094】
実施例2のNo.2測線において、空洞Aは、図11(b)から選んだ測点2〜測点5の範囲のうち中央の測点3と推定され、空洞Bは、図11(b)から選んだ測点9〜測点10の範囲のうち、図11(a)の測点10と推定される。空洞Cは、図11(b)から選んだ測点14〜測点16の範囲のうち中央の測点15と推定される。空洞の本坑と測線が低角度で交差しているためか、図11(a)は測点18まで高比抵抗が広がっている。空洞Dは、図11(b)から測点20が周縁効果の一方で、空洞は終点側にあると見ることができる。このとき空洞が他のA,B,C孔とほぼ同じ大きさだと仮定すれば、空洞位置は測点22と推定される。しかし、この測線における測点20〜終点(測点22)の空洞様反応は、空洞の延長部で生じたシャドウ効果である。すなわち、実施例2のように発信が1箇所だけで測定するとシャドウ効果が現れた場合に、殆ど測線直下にある空洞と判別できない。
【0095】
このように、実施例2の探査結果は、空洞A,Bで正確に推定できているが、空洞Cでは斜交部分で等比抵抗図(図11(a))に異常が表れ、空洞Dは直上に測線が設けられていないにも係わらず、シャドウ効果により空洞様反応が現れていることが分かる。
【0096】
【発明の効果】
本発明の地中空洞探査方法によれば、高周波の電磁波を送信する高周波CSMT法による探査を基本とし、これまでの探査手法では測定精度が悪かった地下10m以深(10m〜100m)を含む地下1m〜100m程度の浅部から「大深度地下の公共的使用に関する特別措置法」の定める大深度地下の空洞位置を検出でき、垂直磁気双極子アンテナ等のアンテナを使用してニアフィールド効果により空洞の所在を示す空洞様反応を増幅することによって比抵抗や位相における空洞様反応を強調でき、送信機部と受信機部とで同期検波を行うためS/N比が上がり、精度よく安価に且つ自動的に探査することができる。また、シャドウ効果による比抵抗異常を判別することができ、さらには測線直下の空洞の有無,測線直下に無い空洞がある方向,測線直下に無い空洞の向き,およびその空洞までの距離を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施の形態1における地中空洞探査方法を行うための地中空洞探査装置の構成図
【図2】 (a)本発明の実施の形態1における地中空洞探査方法を行うための地中空洞探査装置の測線と送信部のX−Y平面配置図、
(b)(a)の地中空洞探査装置の測線とセンサと地下空洞のX−Y−Z配置
(c)(a)の地中空洞探査装置の周縁効果の出現位置の説明図
【図3】 (a)比抵抗モデルの説明図
(b)(a)の比抵抗の説明図
(c)(a)の位相の説明図
【図4】 本発明の実施の形態1における地中空洞探査方法を行うための地中空洞探査装置が空洞位置に対して測定した等比抵抗と等位相の測定図
【図5】 本発明の実施の形態1の地中探査方法で空洞位置を推定する判断手順のフローチャート
【図6】 本発明の実施の形態1の地中空洞探査装置と地中探査方法で空洞位置を推定して表示する動作のフローチャート
【図7】 地中空洞探査装置のシャドウ効果の説明図
【図8】 本発明の実施の形態2における地中空洞探査装置の測線と送信部のX−Y平面配置図
【図9】 探査地における測線と測定番号の配置図
【図10】 (a)No.1測線の等比抵抗図
(b)No.1測線の等位相図
(c)実測空洞の位置を表示したNo.1測線の比抵抗2次元解析断面図
【図11】 (a)No.1測線の等比抵抗図
(b)No.2測線の等位相図
(c)実測空洞の位置を表示したNo.2測線の比抵抗2次元解析断面図
【図12】 図4と同測線における水平磁気双極子アンテナによる等比抵抗と等位相の測定図
【符号の説明】
1 発振部
2 周波数逓倍部
2a スイッチング部
3 ドライバ部
4a 高周波アンテナ
4b 低周波アンテナ
5 送信側制御部
6 計時手段
7 記憶部
8 光ファイバ
8a,8b 信号変換部
9 同期部
11a 高周波用磁気センサ
11b 低周波用磁気センサ
12a,12b 地電流電極
13a,13b プリアンプ
14a,14b バッファアンプ
15,16 バンドパスフィルタ
17,18 増幅部
19 フーリエ変換部
19a 高周波変換部

Claims (3)

  1. 地中探査のため高周波信号を電磁波として送信するとともに、一対の地電流電極で測線上の測点の電位差を検出するとともに該測線と直交する方向に配設されたインダクションコイルにより該測点の磁場を測定し、該測点における比抵抗と位相を演算する高周波CSMT法による地中空洞探査方法であって、
    空洞の所在を示す空洞様反応をニアフィールド効果によって増幅するための垂直磁気双極子アンテナを前記空洞から所定距離おいた位置に配置して高周波信号を送信し、探査領域における周波数と測点に関する等比抵抗データを取得して、該等比抵抗データの中からニアフィールド効果により増幅された空洞様反応領域を抽出し、該空洞様反応領域の測線方向幅の中央を空洞中心として推定することを特徴とする地中空洞探査方法。
  2. 請求項の地中空洞探査方法において、探査領域における周波数と測点に関する等比抵抗データを取得して、該空洞様反応領域の測線方向幅の中央を空洞中心として推定するのに代えて、探査領域における周波数と測点に関する等位相データの中から空洞様反応のピークを含む低位相の空洞様反応領域を抽出し、この空洞様反応領域に対応する等比抵抗データの中から比抵抗のピークを抽出して空洞中心を推定することを特徴とする地中空洞探査方法。
  3. 前記測線の両側から電磁波を送信し、該測線の直下にある空洞と測線の直下に無い空洞とをシャドウ効果による空洞様反応に近似した比抵抗または位相異常の有無から判別することを特徴とする請求項1又は2に記載の地中空洞探査方法。
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