JP4135736B2 - 垂直離着陸飛翔装置 - Google Patents

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Description

本発明は、垂直な離着陸が可能な垂直離着陸飛翔装置に関する。
垂直に離着陸が可能な垂直離着陸飛翔装置としては、たとえば、機体前部と機体後部にそれぞれファンが設けられ、機体中央部には、操縦者が着座するための乗員席が設けられ、乗員席の座面はファンの回転面よりも低い位置に配置させることにより、飛行時には機体の重心を機体前後のファンの推力で上から吊り下げるような姿勢として、飛行中の機体安定性を確保する装置が提案されている(例えば、特許文献1を参照。)。
上記のような装置において機体の姿勢を制御する場合には、設計事項としての機体の慣性モーメントが考慮された上で、各ファンにより発生されるべき推力が決定される。しかし、機体に積載された貨物の量や位置の変化、操縦者の交代による重量の変化、残留燃料量の変化等によって、機体の各回転軸に対する慣性モーメントが変化し、機体の姿勢制御における安定性が低下する場合があった。
特開2005−125976号公報 特公平7−47399号公報
本発明の目的とするところは、垂直離着陸飛翔装置の機体における重量分布が変化した場合でも、機体の姿勢制御の安定性を維持できる技術を提供することである。
上記目的を達成するための本発明は、垂直離着陸飛翔装置の機体の所定軸回りの慣性モーメントを適時に導出し、該機体の姿勢制御において、該機体に複数配置される推力発生機によって発生されるべき推力を、前記姿勢制御時における前記慣性モーメントに基いて調節することを最大の特徴とする。
より詳しくは、略垂直上方に推力を発生する複数の推力発生機を備え、
前記推力発生機の推力によって機体の姿勢を制御する垂直離着陸飛翔装置であって、
前記機体の姿勢制御における目標姿勢を設定する目標姿勢設定手段と、
前記機体における所定軸回りの慣性モーメントを導出する慣性モーメント導出手段と、
前記機体の姿勢制御の際に、前記目標姿勢設定手段により設定された目標姿勢と、前記慣性モーメント導出手段により導出された該姿勢制御時における慣性モーメントと、に基いて前記推力発生機の推力を調節する推力調節手段と、
をさらに備えることを特徴とする。
ここで、垂直離着陸飛翔装置においては、機体が目標の姿勢となるように、複数の推力発生機による推力の大きさを常に調節している。そして、その推力の大きさは、設計事項としての前記機体の慣性モーメントが考慮された上で決定されている。しかし、前記機体に積載された貨物の量や位置の変化、運転者の交代による重量の変化、残留燃料量の変化等によって、機体の各回転軸に対する慣性モーメントは変化する。
そうしたときに、機体の姿勢制御において常に同じ慣性モーメントを用いて推力発生機による推力を調節したのでは、前記機体の姿勢を安定して目標の姿勢に制御することが困難になる場合があった。
そこで、本発明においては、前記機体の各方向の回転軸に対する慣性モーメントを適時に導出し、前記機体の姿勢制御においては、導出された慣性モーメントを用いて、各推力発生機により発生されるべき推力の値を決定することとした。
そうすれば、垂直離着陸飛翔装置において、機体の重量分布が変化することにより各回転軸に対する慣性モーメントが変化しても、変化後の慣性モーメントを用いて各推力発生機の推力の値を決定できるので、機体の姿勢をより確実に目標姿勢となるよう制御することができ、姿勢制御の安定性を向上させることができる。
また、本発明においては、前記機体の姿勢を検出する姿勢検出手段をさらに備え、
前記推力調節手段は、前記目標姿勢と前記姿勢検出手段により検出された前記機体の姿勢との偏差と、前記慣性モーメント導出手段により導出された該姿勢制御時における慣性モーメントと、に基いて前記推力発生機の推力を調節するようにしてもよい。
そうすれば、前記機体の姿勢制御時における姿勢と目標姿勢との偏差から、前記機体の姿勢をフィードバック制御することができ、前記機体の姿勢をさらに確実に目標姿勢となるよう制御することができる。具体的には、前記推力調節手段は、前記目標姿勢と前記姿勢検出手段により検出された前記機体の姿勢との偏差が零になるように、前記推力発生機の推力を調節してもよい。
また、本発明においては、前記機体の姿勢を制御することによって前記機体の水平方向の位置を変更し、
前記機体の水平方向の目標位置を設定する目標位置設定手段と、前記機体の水平方向の位置を検出する位置検出手段と、をさらに備え、
前記目標姿勢設定手段は、前記目標位置設定手段により設定された前記目標位置と前記位置検出手段により検出された前記機体の水平方向の位置との偏差に基いて、前記機体の目標姿勢を設定するようにしてもよい。
ここで、前記機体の水平方向の位置は機体の姿勢を制御することにより変更することができる。すなわち、機体の姿勢を変更して推力発生機の推力の発生方向を変化させ、推力に水平方向の成分を持たせることにより、推力の水平成分の方向に前記機体を移動させることができる。
そこで、本発明においては、前記機体の水平方向の目標位置を設定する目標位置設定手段と、前記機体の水平方向の位置を検出する位置検出手段を備えるようにし、前記目標姿勢設定手段は、前記目標位置設定手段により設定された前記目標位置と前記位置検出手段により検出された前記機体の水平方向の位置との偏差に基いて、前記機体が前記目標位置に移動するように前記機体の目標姿勢を設定する。
具体的には、前記目標姿勢設定手段は、前記目標位置設定手段により設定された前記目標位置と前記位置検出手段により検出された前記機体の水平方向の位置との偏差が零になるように、前記機体の目標姿勢が設定されるようにしてもよい。
そうすれば、機体の姿勢を制御することにより、容易に前記機体を目標位置に移動させることができる。
また、本発明に係る機体の姿勢制御においては、前記推力調節手段は、さらに前記偏差の微分値と、前記偏差の積分値と、に基いて前記推力発生機の推力を調節するようにしてもよい。具体的には、前記偏差、前記偏差の微分値及び前記偏差の積分値が零になるように、前記推力発生機の推力を調節するようにしてもよい。そうすれば、前記目標姿勢と前記姿勢検出手段により検出された前記機体の姿勢との残留偏差を低減できるとともに前記姿勢制御の応答速度を速めることができ、より確実に前記機体の姿勢を目標姿勢に制御することができる。
また、本発明においては、前記複数の推力発生機が、二以上の推力発生機群に分割され、
前記推力調節手段は、一つの前記推力発生機群を構成する推力発生機の推力に対しては同一の調節を行うようにしてもよい。
ここで、前記推力発生機の個数が増えた場合について考える。そのような場合には、得られる推力の合計も増加し、前記機体の姿勢制御をより確実に行うことが可能になる一方、より多くの推力発生機の推力を調節しなければならず、制御が複雑になるおそれがある。
そこで、本発明においては、前記複数の推力発生機を二以上の推力発生機群に分割した。そして、一つの推力発生機群を構成する推力発生機の推力に対しては同一の調節を行うこととした。そうすれば、より多くの推力発生機の推力を、推力発生機群の数と同数の推力発生機の推力を調節する場合と同じ方法で調節することができる。その結果、制御の内容を簡略化することができコストを低減させることが可能となる。
なお、本発明における課題を解決するための手段は、可能な限り組み合わせて使用することができる。
本発明にあっては、垂直離着陸飛翔装置の機体における重量分布が変化した場合でも、機体の姿勢制御の安定性を維持することができる。
以下に図面を参照して、この発明を実施するための最良の形態を例示的に詳しく説明する。
図1は、本発明の実施例1に係る垂直離着陸飛翔装置(以下、「飛翔装置」という。)の外観を示している。同図(A)は飛翔装置を上から見た図、(B)、(C)は2方向から見た側面図である。なお、本明細書において、図1(A)における左側を飛翔装置1の前、右側を飛翔装置1の後、上側を飛翔装置1の右、下側を飛翔装置1の左、紙面に対して手前を飛翔装置1の上、紙面に対して奥側を飛翔装置1の下とする。
飛翔装置1は、機体前側から順に、機体前部1A、機体中央部1B、機体後部1Cの3つのブロックから構成されている。機体前部1Aと機体後部1Cには、それぞれ2つずつ推力発生機たるファン2が設けられている。ファン2は、機体の中心軸に対して左右均等に配置され、機体に強固に固定されている。
機体中央部1Bには、飛翔装置1を操縦する操縦者が着座するとともに荷物を積載するための荷重スペース4が設けられている。荷重スペース4には積載された荷物の重量を検出する重量センサ7が備えられている。
ファン2の駆動方式としては、種々のもの、たとえば高圧ガス、電力、原動機軸出力などを採用可能であり、駆動方式に応じて駆動源および駆動力をファン2に伝達する伝達系の構成も異なる。本実施例においては、上記の駆動方式のうち、ファン2の回転軸を電力で回転させる方式を採用している。また、ファン2は、図示しない駆動源から供給された駆動力により高速に回転し、機体下方への空気流を生み出すことで、機体に対してほぼ垂直上方に推力(図中の白抜矢印)を発生する。このファン2の推力によって、飛翔装置1は、垂直方向に離陸/着陸することができる。
また、飛翔装置1の機体前部1Aの前端及び機体後部1Cの後端には、機体を水平に回転させるガス噴射装置3がそれぞれ2つずつ備えられている。機体の前後に備えられたガス噴射装置3からそれぞれ逆の方向に高圧ガスを噴射することにより、機体に水平方向の偶力を作用させ、機体を水平に回転させることができる。
ここで、機体中央部1Bには、それぞれのファン2の回転数を制御することによって、発生される推力の大きさを調節するCPU6が備えられている。CPU6がそれぞれのファン2により発生される推力の大きさを調節することにより飛翔装置1の姿勢を制御する。また、飛翔装置1の姿勢を制御するために、飛翔装置1の各方向への傾き角を検出するためのジャイロ5が備えられている。また、このジャイロ5は、飛翔装置1の水平方向の位置を検出可能な位置検出センサの機能も有している。
ここで、例えば飛翔装置1が飛翔中に風などの外乱によって傾いた場合には、ジャイロ5によって傾き角が検出され、CPU6によって、傾きを水平に戻すために各ファン2において発生させるべき推力が算出される。そして算出された推力に基いて各ファン2の回転数が制御され、推力が調節される。
また、その場合、飛翔装置1が傾くことにより、鉛直方向への推力が低下して飛翔装置1の高度が下降するおそれがあるので、高度を維持するための推力の調節も行われる。
さらに、各ファン2における回転数が変更されると、各ファン2の回転力の反力によって飛翔装置1にヨー方向の回転力が加わる場合がある。それに対しては、やはりジャイロ5によってヨー方向の傾きが検出され、当該傾きを修正すべく、ガス噴射装置3からのガス噴射を行うことによりヨー方向の傾きが修正される。
その際、飛翔装置1におけるピッチ方向、ロール方向の慣性モーメントが重要な要因となる。すなわち、慣性モーメントが小さい場合には、ファン2において同じ推力を発生し
たとしても飛翔装置1の傾きを比較的早期に修正可能となり、慣性モーメントが大きい場合には修正に時間がかかるからである。
なお、本実施例においてピッチ方向とは、図1(B)の黒矢印で示す方向、すなわち飛翔装置1が前後に傾く方向をいう。ロール方向とは、図1(C)の黒矢印で示す方向、すなわち飛翔装置1が左右に傾く方向をいう。ヨー方向とは、図1(A)の黒矢印で示す方向、すなわち飛翔装置1が機体に対して垂直に伸びた軸回りに回転する方向をいう。また、それぞれの方向においては、矢印が向いた方向を正方向とする。
ここで、従来、各ファン2において発生すべき推力を求める場合には、飛翔装置1におけるピッチ方向、ロール方向の慣性モーメントを設計値から不変の値として求めておき、飛翔装置1の傾きを水平に戻すために必要な推力を求め、その後、飛翔装置1の傾きが円滑に修正されるように、上記慣性モーメントの値を用いて上記推力の値を補正し、各ファン2において実際に発生させる推力を最終的に算出するようにしていた。
しかし、それでは、荷物の積載量が変化した場合などに、各方向の慣性モーメントが変化し、各ファン2において実際に発生すべき推力を正確に算出できないおそれがあった。その結果、飛翔装置1の姿勢を円滑に制御することが困難となる場合があった。
そこで、本実施例においては、飛翔装置1の機体の慣性モーメントを適時に検出し、実際に機体の姿勢を制御する時点の慣性モーメントの値を用いて、各ファン2において実際に発生させる推力を算出することとした。
図2には、本実施例における推力調節ルーチンを示す。本ルーチンはCPU6によって飛翔装置1の稼動中に所定時間毎に実行されるルーチンであり、飛翔装置1の姿勢を風などの外乱に拘らず略水平に維持するためのルーチンである。
本ルーチンが実行されると、まずS101において、ジャイロ5の出力がCPU6に取り込まれる。このジャイロ5は、本実施例における姿勢検出手段を構成する。
次に、S102において、ファン推力操作量が決定される。ここで、ファン2において発生すべき推力は、ホバリングに必要な基本推力と、この基本推力に対して、姿勢を制御するために加減されるファン推力操作量とによって決定される。すなわち、ファン推力操作量とは、基本推力に対して加減されるべき推力の量であり、ピッチ方向及びロール方向それぞれの方向に対して求められる。
図3には、基本推力とファン推力操作量との関係について示す。ここで、ファン推力操作量が選択される範囲は、基本推力の±30%程度の範囲である。そして、例えばピッチ方向ついて、飛翔装置1の機体をマイナス側に傾ける場合には、機体前部1Aに備えられた2つのファン2については、基本推力に対してファン推力操作量がマイナスされ、機体後部1Cに備えられた2つのファン2については、基本推力に対してファン推力操作量がプラスされる。
次に、図4にはS102の処理の詳細について示す。なお、図4においてはピッチ方向のファン推力操作量の決定フローについてのみ示すが、S102の処理において同様のフローによってロール方向のファン推力操作量も決定される。
図4のS1021においては、まずS101において検出されたピッチ方向の傾き角と、目標ピッチ角との差分が取得される。ここで目標ピッチ角は別のフローによって定められる角度の値であり、この場合は水平状態が目標なので0となっている。なお、この目標
ピッチ角を定めるフローもCPU6により実行されており、本実施例における目標姿勢設定手段はCPU6によって構成される。
次にS1022〜S1026の処理によって、S1021で得られた差分、該差分の積分値、該差分の微分値にそれぞれ係数をかけた値の合計値が求められる。そして、S1027においては求められた合計値と、ファン推力操作量との関係が格納されたマップによって、求められた合計値がファン推力量の値に変換される。そして、最終的にS1028によってピッチ方向のファン推力操作量が決定される。なお、上記マップに格納された、S1027においては求められた合計値と、ファン推力操作量との関係は略正比例の関係でもよい。
ここで図2の説明に戻る。図2におけるS103においては、重量センサ7からの重量情報がCPU6に取り込まれる。
そして、S104においては、重量−慣性モーメントマップが参照され、重量の変化に起因する飛翔装置1のピッチ方向及びロール方向の慣性モーメントの変化分が導出される。ここで重量−慣性モーメントマップは、荷重スペース4に積載された荷物の重量と、各方向の慣性モーメントの増加量との関係を予め求めてマップ化したものである。この重量−慣性モーメントマップの例を図5に示す。
S105においてにおいて導出された慣性モーメントの変化分の値より、機体の各方向に対する慣性モーメントが以下のように算出される。
Figure 0004135736
上記の(1)、(2)において、fp(積載重量)及びfr(積載重量)は、図5に示した重量−慣性モーメントマップを用いて導出されたピッチ方向及びロール方向の慣性モーメントの変化分である。なお、このS105の処理を実行するCPU6は本実施例における慣性モーメント導出手段を構成する。
次にS106に進み、ピッチ方向及びロール方向におけるファン推力補正制御量が以下のように計算される。
Figure 0004135736
すなわち、慣性モーメントが大きいほどファン2によってより大きな推力を必要とし、機体の重心からファン2までのアーム長が大きいほど小さい推力で回転可能という観点か
ら、S105で求められた現時点における慣性モーメントを用いて、より円滑に姿勢制御すべく、S102で求められたファン推力操作量を補正する。
次にS107に進む。S107においては、現時点での飛翔装置1のピッチ角が0度より大きいかどうかが判定される。S107において現時点での飛翔装置1のピッチ角が0度より大きいと判定された場合にはS109に進む。一方現時点での飛翔装置1のピッチ角が0度以下であると判定された場合には、S108に進む。
S108においては、さらに現時点での飛翔装置1のピッチ角が0度より小さいかどうかが判定される。S108において現時点での飛翔装置1のピッチ角が0度より小さいと判定された場合にはS110に進む。一方現時点での飛翔装置1のピッチ角が0度より小さくない、すなわち0度であると判定された場合には、飛翔装置1の姿勢のピッチ方向の修正は必要ないと判断されるのでS111に進む。
S109においては、前側のファン2の推力がPだけ減少され、後側のファン2の推力はPだけ増加されることが決定される。
同様に、S110においては、前側のファン2の推力がPだけ増加され、後側のファン2の推力はPだけ減少されことが決定される。
次にS111に進む。S111においては、現時点での飛翔装置1のロール角が0度より大きいかどうかが判定される。S111において現時点での飛翔装置1のロール角が0度より大きいと判定された場合にはS113に進む。一方現時点での飛翔装置1のロール角が0度以下であると判定された場合には、S112に進む。
S112においては、現時点での飛翔装置1のロール角が0度より小さいかどうかが判定される。S112において現時点での飛翔装置1のロール角が0度より小さいと判定された場合にはS114に進む。一方現時点での飛翔装置1のロール角が0度より小さくない、すなわち0度であると判定された場合には、飛翔装置1の姿勢のロール方向の修正は必要ないと判断されるのでS115に進む。
S113においては、左側のファン2の推力がRだけ増加され、右側のファン2の推力はRだけ減少されることが決定される。
同様に、S114においては、左側のファン2の推力がRだけ減少され、右側のファン2の推力はRだけ増加されることが決定される。
そして、S115においては、各ファンの推力が計算される。具体的には右前、左前、右後、左後のそれぞれのファン2に対する推力の値が、S109、S110、S113、S114における決定事項に従って計算される。
S116においては推力の高度補正量がさらに加算される。ここで、飛翔装置1が傾いた場合、ファン2により鉛直方向に発生される推力が低下し、飛翔装置1の高度が降下する場合がある。そこで、本実施例においては、図示しない高度センサを備えるようにし、高度が不用意に降下した場合には、高度センサの出力に応じた高度補正量を算出し、各ファン2の推力にさらに加算することとしている。
図6には、S116の詳細のフローを示す。図6のS1161においては、図示しない高度センサによって取得された飛翔装置1の高度と目標高度との差分が取得される。
次にS1162〜S1166の処理によって、S1161で得られた差分、該差分の積分値、該差分の微分値にそれぞれ係数をかけた値の合計値が求められる。そして、S1167においては求められた合計値と、ファン推力量との関係が格納されたマップによって、求められた合計値がファン推力量の値に変換される。そして、最終的にS1168によってファン推力の高度補正量が決定される。なお、上記マップに格納されたS1167においては求められた合計値と、ファン推力量との関係は略正比例の関係でもよい。
再び図2の説明に戻る。S117においては、機体の推力発生装置に上記において計算された推力を発生させるべくファンの回転数が調節される。具体的には各ファン2に駆動信号を出力する図示しないインバータの出力信号の周波数が調節されて、ファンの回転数が調節される。S117の処理が終了するとS101の処理の前に戻り、以上の処理が繰り返し実行される。ここで、本実施例における推力調節手段は、上記の推力調節ルーチンを実行するCPU6を含んで構成される。
ここで、前述のように、ファン2の回転数が変更された場合には、飛翔装置1にヨー方向の回転力が作用する場合があるので、上記の推力調節ルーチンを実行する際には、並行して飛翔装置1のヨー方向の姿勢を制御するガス噴射制御ルーチンを実行する必要がある。図7には、本実施例におけるガス噴射制御ルーチンを示す。本ルーチンは、推力調節ルーチンと同様、飛翔装置1の稼動中に所定時間毎に実行されるルーチンである。
本ルーチンが実行されるとまずS201において、上述の推力調節ルーチンと同様、ジャイロ5の出力がCPU6に取り込まれる。
次にS202において、ガス噴射装置3によって噴射可能なガス噴射量が決定される。このガス噴射量の決定フローは、図4に示したファン推力操作量の決定フローとほぼ同様のフローである。すなわち、まず、ジャイロ5により検出されたヨー角度と目標ヨー角度との差分を求め、該差分と、該差分の積分値と、該差分の微分値にそれぞれ係数をかけて合計する。得られた合計値を予め準備した、当該合計値とガス噴射量との関係を格納したマップを用いてガス噴射量に変換する。この噴射可能なガス噴射量は、言わば最も早期に機体のヨー方向の姿勢を目標姿勢とするのに必要なガス噴射量であり、それ以上のガス噴射量でガス噴射を行うと機体を安定して目標姿勢に戻すことが困難となる。なお、上記のマップに格納された合計値とガス噴射量との関係は、略正比例の関係でもよい。
次にS203においては、ヨー回転推力補正制御量が計算される。このヨー回転推力補正制御量は、上記で得られた噴射可能なガス噴射量と、機体をヨー方向に回転させる際に望ましい角加速度を実現するガス噴射量とを比較して小さい方のガス噴射量として得ることができる。ここで、例えば飛翔装置1のヨー方向の姿勢の修正時における目標角加速度がA度/sec2の場合、目標ヨートルク及び目標ヨー推力は以下のように計算される。
Figure 0004135736
そして、ガス噴射量とヨー推力との関係が格納されたマップから、(6)で算出された目標ヨー推力に対応したガス噴射量が読み出されることによって、目標ガス噴射量が決定される。そして、得られた目標ガス噴射量と、S202で導出された噴射可能なガス噴射量のうち小さい方のガス噴射量がヨー回転推力補正制御量とされる。
次に、S204に進む。S204においては、現時点における飛翔装置1のヨー角が0より大きいかどうかが判定される。S204において現時点での飛翔装置1のヨー角が0度より大きいと判定された場合にはS206に進む。一方現時点での飛翔装置1のヨー角が0度以下であると判定された場合には、S205に進む。なおここでは、飛翔装置1のヨー方向の目標姿勢を0度と仮定している。
S205においては、現時点での飛翔装置1のヨー角が0度より小さいかどうかが判定される。S205において現時点での飛翔装置1のヨー角が0度より小さいと判定された場合にはS207に進む。一方現時点での飛翔装置1のヨー角が0度より小さくない、すなわち0度であると判定された場合には、飛翔装置1の姿勢のヨー方向の修正は必要ないと判断されるのでスタート直後にもどる。
S206においては、前右のガス噴射装置3と後左のガス噴射装置3とから、S203で導出されたヨー回転推力補正制御量に相当する噴射量のガスが噴射される。これにより飛翔装置1の姿勢が目標姿勢に近づけられる。
同様に、S207においては、前左のガス噴射装置3と後右のガス噴射装置3とから、S203で導出されたヨー回転推力補正制御量に相当する噴射量のガスが噴射される。これにより飛翔装置1の姿勢が目標姿勢に近づけられる。
S206またはS207の処理が終了するとスタート直後に戻り、本ルーチンが繰り返し実行される。
以上、説明したように本実施例においては、風などの外乱によって飛翔装置1が傾いた際に、機体の姿勢を水平に戻すべく各々のファン2の推力を調節する場合には、荷重スペース4からの重量情報を用いて飛翔装置1のピッチ方向及びロール方向の慣性モーメントをリアルタイムで導出する。そして、その慣性モーメントの値を用いて各ファン2において発生させるべき推力を算出する。
従って、荷物の積載量の変化に応じて最適な推力を算出することができ、より安定して飛翔装置1の姿勢を水平に維持することができる。
なお、本実施例においては重量センサ7によって荷物の重量のみを検出する例についてのみ説明したが、重量センサ7によって操縦者の体重や、残留燃料の重量をも検出し、それらの変化を慣性モーメントの導出に反映させるようにしてもよい。そうすればより正確に慣性モーメントの変化をファン2の推力の調節に反映させることができる。さらに複数の重量センサを組み合わせることにより、荷物の位置の変化を検出するようにしてもよい。
また、本実施例においては、ファン2の駆動方式として電力で回転させる方式を採用した場合について説明したが、例えば高圧ガスによってファン2を回転させる場合は、上記のS117においては、圧縮空気バルブの開度を調節することによりファン2の回転数を調節することとなる。
また、上記のガス噴射制御ルーチンにおいては、(5)においてヨー軸慣性モーメントは不変の値を用いているが、ヨー軸慣性モーメントについても推力調節ルーチンと同様に、ガス噴射制御ルーチンの実行毎に重量情報を検出して、その時点の慣性モーメントを毎回導出するようにしてもよいことはもちろんである。
次に、本発明における実施例2について説明する。実施例2においては、風や機体の重量分布の変化などの理由によって飛翔装置1が傾き、それにより水平方向の位置が目標位置からずれてしまった場合に、飛翔装置1の姿勢を最適の目標姿勢とすることにより、機体の水平方向の位置を目標位置に維持する例について説明する。なお、本実施例における飛翔装置1は、図1に示したものと同等であるので、飛翔装置1についての説明は省略する。
図8には、本実施例における推力調節ルーチンを示す。本ルーチンと、実施例1における図2で説明したルーチンとの主な相違点は、S301の処理が加わった点である。図2で説明したルーチンにおいては目標姿勢角は0度すなわち水平状態としていたが、このS301においては、飛翔装置1の水平方向の位置を目標位置に維持するのに必要な姿勢角を求め、これを目標姿勢角として設定している。
以下、この処理について説明する。図9には、S301の処理の詳細についてのフローを示す。本処理が実行されると、まずS3011において飛翔装置1の水平位置と目標位置との差分が取得される。飛翔装置1の水平位置のデータは、ジャイロ5の位置検出センサからの出力がCPU6に取り込まれることによって得られる。目標位置は操縦者によってインプットされるようにしてもよいし、プログラムによって予め定められた値を読み込んでもよい。ここで、ジャイロ5は本実施例における位置検出手段を構成する。また、上記の操縦者によりインプットされた目標位置を記憶し、あるいは上記の目標位置を定めるプログラムを実行するのはCPU6であり、CPU6は本実施例における目標位置設定手段を構成する。
そして、S3012〜S3016の処理においては、ジャイロ5の出力から得られた飛翔装置1の実際の位置の目標位置からの位置ずれ(前記差分)、位置ずれのトータル値(前記差分の積分値)、位置ずれ速度(前記差分の微分値)にそれぞれ係数をかけた値の合計値が求められる。
そして、S3017においては、求められた合計値と目標姿勢角との関係が格納されたマップによって、求められた合計値が飛翔装置1の目標姿勢角に変換される。なお、このマップに格納された、求められた合計値と目標姿勢角との関係は略正比例の関係でもよい。
S3018においては、S3017において変換された目標姿勢角に制限を加える必要があるかどうかが判定される。すなわち、S3017において変換された目標姿勢角があまりに大きい値である場合には、飛翔装置1の安定した飛行を維持できなくなるなどの問題が生じるおそれがあるからである。
S3018において飛翔装置1の目標姿勢角に制限を加える必要があると判断された場合には、S3019に進む。一方、制限を加える必要がないと判断された場合には、S3020に進む。
S3019においては姿勢角に制限が加えられる。具体的には、S3017において変換された目標姿勢角を、飛翔装置1の安定した運転か可能となる限界値に変換する。
S3020においては、S3017で変換された目標姿勢角またはS3019において制限された限界値が、最終的な目標姿勢角として設定される。そして本処理を終了する。S301の処理を実行するCPU6は、本実施例における目標姿勢設定手段を構成する。
ここで図8の説明に戻る。図2で説明した推力調節ルーチンでは、S107、S108、S111、S112の処理において、現状ピッチ角及び現状ロール角が0度より大きいかあるいは0度より小さいかを判定したが、本実施例における推力調節ルーチンでは、S302、S303、S304,S305において現状ピッチ角及び現状ロール角が、S301で導出された目標姿勢角より大きいかあるいは小さいかを判定する。
以上、説明したように、本実施例においては、飛翔装置1の目標姿勢角を、飛翔装置1の水平位置を目標位置まで戻すことができる角度としているので、風などの外乱があった場合や、機体の重量分布が変化した場合にも、飛翔装置1の水平方向の位置を目標位置に維持することができる。
また、その際、目標位置に対する飛翔装置1の実際の水平位置の位置ずれと、該位置ずれの微分値及び積分値とに基いて目標とする姿勢角を導出している。従って、位置ずれの残留偏差をより小さくすることができる。また、より迅速に飛翔装置1の水平位置を目標位置に戻すことができる。
図10には、本実施例における推力調節ルーチンを用いた場合の飛翔装置1の風による姿勢及び水平位置の変化を示した。図に示すように、本実施例によれば、外乱(風)があった場合でも、飛翔装置1の水平位置および姿勢角度を目標値に近い状態で安定して維持することができる。
なお、本実施例においては、飛翔装置1の水平位置のデータを、ジャイロ5の位置検出センサによって検出する例について説明したが、GPSを利用したセンサによって検出するようにしてもよい。
次に本発明の実施例3について説明する。本実施例においては、飛翔装置における推力発生機であるファンの数が増加した場合の制御方法について説明する。図11には本実施例における飛翔装置1の概略構成を示す。本実施例における飛翔装置1では、機体前部1Aと機体後部1Cには、推力発生機たるファン2がそれぞれ4つずつ設けられており、合計8つのファン2を有している。
本実施例においては、ファン2の回転数を制御して推力を調節する場合に、隣り合った2つずつのファン(2aと2b、2cと2d、2eと2f、2gと2h)をペアとすることにより、合計4つのペアを形成させる。そして、同じペアに属する2つのファンについては同様の制御を行う。ここで上記ペアは本実施例における推力発生機群に相当する。
また、本実施例においては図2に示した推力調節ルーチンと略同等のフローによって各ファンの推力の制御を行う。そして、その際の(3)式及び(4)式におけるピッチ、ロールアーム長は、飛翔装置1における重心と、各ペアにおける2つのファンの回転中心の中点とを結んだ線分のピッチ方向、ロール方向の長さとする。
このように、本実施例においては各ペアを1つのファンに見たてて制御を行う。具体的には、各ペアを形成する2つのファンの回転中心の中点を、ペアにより形成された1つのファンの回転中心と仮定する。また、各ペアを形成する2つのファンによる推力の合計を、ペアにより形成された1つのファンの推力と仮定する。そして、飛翔装置1としては4つのファンを備えた場合と同じ制御を行う。
そうすることにより、ファンの数が増加しても、4つのファンを備えた場合と同等の制御方法で推力の調節を行うことができ、制御の簡略化とコストの低減を図ることができる
本発明の実施例1における飛翔装置の概略構成を示す図である。 本発明の実施例1における推力調節ルーチンを示すフローチャートである。 本発明の実施例1における基本推力とファン推力操作量との関係を示す図である。 本発明の実施例1における推力操作量の決定フローを示すフローチャートである。 本発明の実施例1における積載重量−慣性モーメントマップを示すグラフである。 本発明の実施例1における高度補正量の決定フローを示すフローチャートである。 本発明の実施例1におけるガス噴射制御ルーチンを示すフローチャートである。 本発明の実施例2における推力調節ルーチンを示すフローチャートである。 本発明の実施例2における目標姿勢角の設定フローを示すフローチャートである。 本発明の実施例2における推力調節ルーチンの効果を示すグラフである。 本発明の実施例3における飛翔装置の概略構成を示す図である。
符号の説明
1・・・飛翔装置
1A・・・機体前部
1B・・・機体中央部
1C・・・機体後部
2・・・ファン
3・・・ガス噴射装置
4・・・荷重スペース
5・・・ジャイロ
6・・・CPU
7・・・重量センサ

Claims (5)

  1. 略垂直上方に推力を発生する複数の推力発生機を備え、
    前記推力発生機の推力によって機体の姿勢を制御する垂直離着陸飛翔装置であって、
    前記機体の姿勢制御における目標姿勢を設定する目標姿勢設定手段と、
    前記機体における所定軸回りの慣性モーメントを導出する慣性モーメント導出手段と、
    前記機体の姿勢制御の際に、前記目標姿勢設定手段により設定された目標姿勢と、前記慣性モーメント導出手段により導出された該姿勢制御時における慣性モーメントと、に基いて前記推力発生機の推力を調節する推力調節手段と、
    前記機体の姿勢を検出する姿勢検出手段と、をさらに備え
    前記慣性モーメント導出手段は、前記機体の重量分布が変化した際に、該変化に起因する慣性モーメントの変化分と該変化前の慣性モーメントとより、前記機体における所定軸回りの慣性モーメントを導出し、
    前記推力調節手段は、前記目標姿勢と前記姿勢検出手段により検出された前記機体の姿勢との偏差と、前記偏差の微分値と、前記偏差の積分値と、前記慣性モーメント導出手段により導出された該姿勢制御時における慣性モーメントと、に基いて前記推力発生機の推力を調節することを特徴とする垂直離着陸飛翔装置。
  2. 前記機体の姿勢を制御することによって前記機体の水平方向の位置を変更し、
    前記機体の水平方向の目標位置を設定する目標位置設定手段と、前記機体の水平方向の位置を検出する位置検出手段と、をさらに備え、
    前記目標姿勢設定手段は、前記目標位置設定手段により設定された前記目標位置と前記位置検出手段により検出された前記機体の水平方向の位置との偏差に基いて、前記機体の目標姿勢を設定することを特徴とする請求項1に記載の垂直離着陸飛翔装置。
  3. 前記複数の推力発生機が、二以上の推力発生機群に分割され、
    前記推力調節手段は、一つの前記推力発生機群を構成する推力発生機の推力に対しては同一の調節を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の垂直離着陸飛翔装置。
  4. 前記機体における目標姿勢角は、安定した飛行を維持できる限界値以下に制限されることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の垂直離着陸飛翔装置。
  5. 前記推力調節手段による前記推力発生機の推力の調節と並行して、前記機体のヨー角度と目標のヨー角度との差分に基づいて、前記機体のヨー方向の傾きが修正されることを特徴とする請求項1に記載の垂直離着陸飛翔装置。
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